JP2006249619A - 低光沢マルチフィラメント糸及びその織編物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】実質的に無機微粒子を含まず、かつ、光沢値が15以下であることを特徴とした低光沢マルチフィラメント糸。トリアセテートの間にジアセテートが挟まれた三層接合構造からなり、ジアセテートの少なくとも一部が繊維表面に露出した複合紡糸繊維であることが好ましい。
【選択図】図1
Description
キラついた光沢感を抑えるためには、艶消し剤を添加することが一般的である。艶消し剤としては、例えば酸化チタンで代表される高屈折率微小無機物質であるが、これを繊維中に添加する事によって繊維中を通過する光の散乱を生じ、色の沈んだいわゆるマット感の色調となり、鮮明な発色が得られにくい。
また、特許文献2にはジアセテート成分を中間層に、トリアセテート成分を該中間層の外側に配置した三層接合型の複合紡糸繊維が開示されているが、通常のアセテート繊維に発現するいわゆる菊型断面の花弁にたとえられる繊維軸方向への凹凸状のヒダが、トリアセテート表面に殆ど発現せず、繊維表面が滑らかであることから、光沢感が高いものとなる。
本発明の光沢値は、繊維軸に対する直角方向からの入射に対して、3つの入射角度20度、45度、70度において受光角度を0度から80度まで変角させ測定した値であり、得られた光沢値のなかの最大値を示す。これは入射角度や受光角度が変化しても、光沢値の最大値が15以下であることを意味するものであり、これにより表面反射光が抑制され、キラ付いた光沢ではなくマイルドな光沢感となる。
一般的に低光沢の物質の光沢を判定するには、浅い角度の入射光で判定することが視感と光沢の相関が高いとされている。そこで繊維軸に直角方向に対する入射角を70度と固定した場合について、受光する角度と光沢の変化について鋭意検討を行った結果、パール調の光沢を得るためには受光角0度の散乱光である光沢値と、最も光沢の高い光沢値の比である光沢対比指数が1.3以上必要であることがわかった。
光沢対比指数が1.3未満の場合、繊維の角度が変化したり、視点を移動させた状態の光沢感の変化が少ないため、平板で単調な光沢感となることから好ましくない。更に、光沢対比指数が1.3以上を示す受光角度の範囲が、30度以上あることが好ましい。光沢対比指数が1.3以上の受光角度の範囲が広いということは、比較的高い光沢感を視覚される範囲が広いということであり、例えば、皺やドレープ状態の屈曲した織編物において、光沢感を感じる面積が多く、マイルドな光沢感を視覚(視認)できることとなる。
また、光沢対比指数は、正反射角度の70度近傍を最大とし、徐々に光沢は変化しており、これら拡散光沢が複雑に関係することで、パール調の優美な見え方を発現するものである。
該受光角度の範囲が30度未満の場合、光沢の最大部からの変化がシャープであるため、パール調の光沢が得られにくい。
該繊維では、トリアセテート成分に挟まれたジアセテート成分の少なくとも一部が繊維表面に露出し、繊維側面及び繊維内部にこれらの界面を有していることが重要である。これにより界面での散乱光の増加と、低温染色特性に優れるジアセテートに多くの染料が染着されることとなる。
さらに本発明では、繊維軸と略直角方向の微細なヒダを繊維表面に付与することが重要である。従来三層接合型の複合紡糸法で得られたトリアセテート成分の側面が比較的滑らかとなりやすいことから表面反射が強まる傾向があるが、この繊維表面の微細なヒダによって鏡面反射光沢を抑え表面拡散性を向上することに寄与するものである。
(1)0.15<Vf/Vj<0.60
(2)1000<Vj<2000
(式中、Vfは紡出糸の引き取り速度(m/分)、Vjは紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)。また、Vjは(紡糸原液の吐出量/紡糸口金の総孔面積)を示す。)
すなわち、アセテートの乾式紡糸法において乾燥固化過程における収縮挙動が繊維軸方向に、より大きく発生するような条件を採用することが重要であり、紡糸ノズルの吐出直下で形成されるスキン層は配向が小さく、更なる乾燥収縮過程においては繊維軸方向への収縮が進むにつれてスキン層が皺寄せされながら固化することにより、繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを発生させることが可能となる。
紡糸条件として上記(1)式でVf/Vj≧0.60及び(2)式でVj≦1000では、得られる複合繊維の軸方向への収縮挙動が得られず繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを発生させることができず、また、(1)式でVf/Vj≦0.15、(2)式でVj≧2000では安定した乾燥固化挙動が得られずに糸切れが発生する。
撚係数K=撚数(T/m)×√(糸条繊度dtex/1.11)
複合の手法としては、エア混繊、合撚、カバーリング等限定しないが、フィラメント間の糸の乱れを生じさせない手法が好ましい。
織物の場合、本発明のマルチフィラメント糸は経糸及び/又は緯糸に用いられ、経糸方向に多く配され、かつ、経糸が緯糸に対して多く織物表面に浮いている織物が望ましい。これは一般の染色整理加工において経糸の張力が緯糸に対する張力よりも掛かるため、経糸の屈曲が少なく伸びた状態となりやすいことから、本発明の光沢に関する効果が得やすいものとなる。
織物の繊維充填率としてカバーファクターCF値で定義する値において、経糸CF値が1800以上3000以下であり、経糸と緯糸のCF値の比が1.6以上3.5以下であることが本発明の特徴を発揮するのに適している。特に経糸CF値が2300以上3000以下、経糸と緯糸のCF値の比が2.3以上3.0以下である事が好ましい。
ここでカバーファクターCF値は以下の式で表されるものである。
経又は緯糸カバーファクターCF値=経又は緯糸密度(本/2.54cm)×√(経又は緯糸繊度(糸条繊度dtex/1.11))
織物組織としては、織物組織の経糸の緯糸に対する飛び本数が1本以上7本以下の組織が適しており、好ましく経糸が緯糸に対して3本以上の飛び本数のサテンやトリコット等の組織が更に好ましい。7本を超える飛び本数の組織の場合、経糸のスナッギングが劣るため、実用に供した際問題が発生しやすく好ましいものではない。ここで述べる飛び本数とは、経糸が何本の緯糸を越えて緯糸と交差するかを組織上での飛び本数をいうものである。
本発明の低光沢マルチフィラメント糸を、巾4cmのアクリル樹脂板にカード巻きし、サンプルとした。
光沢度は、デジタル変角光沢計(スガ試験機(株)社製)を使用し、カード巻きしたサンプルの繊維軸に対して直角方向からの入射角について測定し、入射角20,45,70度とした場合の受光角0度から80度までの光沢度を測定し、得られた光沢値の最大値を示す。
デジタル変角光沢計(スガ試験機(株)社製)を用い、繊維軸に直角方向に対する入射角を70度とし、受光部の角度を変え(0〜80度)測定した光沢度を受光角0度の散乱光である光沢度を基準とした比率を示すものである。
測定結果は図1に示した。
光沢対比指数=受光部を変角させ測定した光沢度/受光角0度の散乱光である光沢度
実施例に記載の条件で染色を行った本発明の織編物を、測色計((株)島津製作所社製 UV−3000PC)を用いて、D65光源、視野角2度の条件で380〜780nmの波長領域について3刺激値XYZの測色を行い、色の鮮やかさを示す尺度である刺激純度値Pe値を測定した。
刺激純度値Pe値は、大きい値であるほど色の濃さが強い、つまり鮮やかであることをしめす尺度として用いられているものである。
電子顕微鏡で3000倍に繊維側面を拡大し観察を行い、三層複合形態の観察には以下に示す条件でアルカリ処理し、ジアセテート成分のみをセルロース化させることで、トリアセテート成分との光透過性に差を持たせ、繊維断面を光学顕微鏡にてセルロース成分、すなわち、ジアセテート成分が占める断面形状及び繊維表面への露出状態の観察をおこなった。
・アルカリ処理液:水酸化ナトリウム1質量%水溶液
・処理液浴比:1:100
・処理温度:60℃
・処理時間:15分
外側層成分として平均置換度2.91のセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合(質量混合比91/9)溶剤に溶解し、固形分濃度が22.0質量%の紡糸原液aを調製した。また、中間層成分として平均置換度2.41のセルロースジアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合(質量混合比88/12)溶剤に溶解し、固形分濃度が22.1質量%の紡糸原液bを調製した。これらの紡糸原液には酸化チタン等の無機微粒子を添加しない原液である。
繊維表面には、繊維軸方向に存在するアセテート繊維特有のヒダが少なく、さらに繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有していた。また、三層複合形態をアルカリ処理によって確認すると繊維断面にはジアセテートの一部が繊維表面に露出していた。
経糸:得られた低光沢マルチフィラメント糸 84dtex/20フィラメントを300T/mS方向に撚糸し、75℃、40分のスチームセットをした後、経密度233本/2.54cmの密度で用いた。
緯糸:平均置換度2.91のセルローストリアセテートマルチフィラメント(三菱レイヨン(株)社製、商品名:ソアロン、ブライト84dtex/20フィラメント)と熱収縮率が異なる2種類のポリエステルをサイドバイサイド型に複合紡糸して得たポリエステルコンジュゲートマルチフィラメント(三菱レイヨン(株)社製、商品名:ラシーナ、セミダル33dtex/12フィラメント)を1200T/mS、Z方向に合撚し、80℃、40分のスチームセットした後、SZ1本交互で緯密度87本/2.54cmの密度で用いた。
得られた織物を精練した後、分散染料(Dianix Red−PAL(ダイスタージャパン(株)社製)2質量%対繊維質量)にて染色温度120℃、染色時間45分の条件で染色し、フラット表面に整理仕上げを行った。仕上げた織物の経糸CF値は2600、緯糸CF値は950であった。
本実施例の織物は、従来の光沢感が抑えられており、織物の動きに伴う皺やドレープ状態の屈曲した部位において光沢感を感じる面積が多く、マイルドな光沢感を視覚できるパール調の優美で上品な光沢感を有しながら、刺激純度Pe値が65.8と彩度が高く発色性に優れたものであった。
実施例1において、平均置換度2.91のセルローストリアセテートマルチフィラメント(三菱レイヨン(株)社製、商品名:ソアロン、ブライト84dtex/20フィラメント)を経糸に用いる以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
この平均置換度2.91のセルローストリアセテートマルチフィラメントの光沢値は31(入射角20度/受光角10度)と光沢感を強く有するものであり、更に光沢対比指数の最大値は1.2であり、受光角度範囲が変化しても光沢の変化が乏しいものであった。
得られた織物の刺激純度Pe値は66.0と彩度が高く発色性に優れたものであるが、光沢が比較的強く、本発明の目的とするマイルドな光沢感を有するものではなかった。
実施例1において、艶消し剤である酸化チタンを0.4%含有した平均置換度2.91のセルローストリアセテート(三菱レイヨン(株)社製、商品名:ソアロン、ダル84dtex/20フィラメント)を経糸に用いる以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
この艶消し剤である酸化チタンを0.4%含有した平均置換度2.91のセルローストリアセテートマルチフィラメントの光沢値は10(入射角20度/受光角10度)であり、繊維軸に直角方向の光沢対比指数1.3以上の光沢を有する受光角度範囲が15度と狭い範囲であった。
得られた織物は、光沢感が低くマイルドな光沢感であるが、光沢を比較的強く感じる面積が少なく、また刺激純度Pe値は62.5と彩度が低くマットな発色性となり、鮮明性に劣ることから、本発明の目的とするマイルドな光沢感を有するものではなかった。
実施例1において、ノズル孔形状が円形、ノズル孔径が0.038mm、ノズル孔数20の複合紡糸ノズルにて、中間層の占める割合を20容量%とし、かつ、中間層がセルロースジアセテート、外側層がセルローストリアセテートになるように配し、紡糸速度600m/分で乾式複合紡糸し、Vf/Vj=0.75、Vj=800m/分とし、84dtex/20フィラメントの中間層がセルロースジアセテート、両外側層がセルローストリアセテートの三層接合型のセルロースアセテート複合繊維を得る以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
このセルロースアセテート複合繊維は、通常のアセテート繊維に発現するいわゆる菊型断面の花弁にたとえられる繊維軸方向への凹凸状のヒダが殆ど発現せず、また、繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向の微小なヒダが存在せず滑らかな繊維表面を有していた。この光沢値は35(入射角20度/受光角10度)と光沢感を強く有するものであり、更にこの複合繊維は、繊維軸に直角方向の光沢対比指数1.3以上の光沢を有する受光角度の範囲が10度以下と狭い範囲であった。
得られた織物の刺激純度Pe値は65.5と彩度が高く発色性に優れたものであるが、光沢が比較的強く、シャープであり、本発明の目的とするマイルドな光沢感を有するものではなかった。
Claims (4)
- 実質的に無機微粒子を含まず、かつ、光沢値が15以下であることを特徴とした低光沢マルチフィラメント糸。
- 光沢対比指数が1.3以上の光沢を示す受光角度の範囲が30度以上ある請求項1記載の低光沢マルチフィラメント糸。
- 繊維断面がトリアセテートの間にジアセテートが挟まれた三層接合構造からなり、ジアセテートの少なくとも一部が繊維表面に露出した複合紡糸繊維であって、繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有する請求項1または2に記載の低光沢マルチフィラメント糸。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の低光沢マルチフィラメント糸を含む織編物。
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