JP2006239718A - ナノ空孔周期配列体の作製方法及びその装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 ガラス等の無機非晶質材料に対して微細構造を効率的かつ精度よく作製する方法及びその利用を提供する。
【解決手段】 透明材料に対して、フェムト秒レーザパルス等の超短パルスレーザを集光照射して、当該透明材料に周期的な微細構造を作製する微細構造作製方法であって、上記超短パルスレーザを、上記透明材料内部にフィラメントが形成されるように、かつ、上記フィラメントが上記透明材料の底部に到達するように、照射する工程を含む微細構造作製方法によれば、ガラス等の透明材料に対して微細構造を効率的かつ精度よく作製することができる。
【選択図】 なし
【解決手段】 透明材料に対して、フェムト秒レーザパルス等の超短パルスレーザを集光照射して、当該透明材料に周期的な微細構造を作製する微細構造作製方法であって、上記超短パルスレーザを、上記透明材料内部にフィラメントが形成されるように、かつ、上記フィラメントが上記透明材料の底部に到達するように、照射する工程を含む微細構造作製方法によれば、ガラス等の透明材料に対して微細構造を効率的かつ精度よく作製することができる。
【選択図】 なし
Description
本発明は、超短パルスレーザを用いて、ガラス等の透明材料に周期的に並んだ微細構造を作製する方法及びその装置に関するものであり、特に、超短パルスレーザを用いたナノ空孔周期配列体の作製方法及びその装置に関するものである。
ナノ秒レーザ、ピコ秒レーザ、フェムト秒レーザ(それぞれ以下、「nsレーザ」、「psレーザ」、「fsレーザ」とも称する場合がある)などの超短パルスレーザとは、10−15秒〜10−8秒の極短時間に光パルスが閉じ込められたレーザである。超短波パルスレーザ(例えば、fsレーザ)のパルス幅は、材料の電子・格子緩和時間より短いため、短時間内に吸収されたエネルギーが熱拡散の形で散逸することなく、微細加工を行うことができる。このような超短波パルスレーザを用いた微細加工技術は、効率と精度が高い微細加工ツールとして脚光を浴びつつある。
近年、fsレーザに代表される超短パルスレーザを用いた微細加工技術の一つとして、ガラス等の無機非晶質材料を微細加工し、ナノガラスと称される新規機能性材料を作製する技術が数多く研究開発されている。これは、現在の情報通信、建築、輸送機材、医療機器等の多種多様な製品に用いられるガラス材料に、一層の高強度、軽量、高耐熱性など、従来の材料物性からの飛躍的向上(ボトムアップ)、及び量子サイズ効果、フォトニック性等の新規光特性・電子特性の発現に関する新たな基盤技術の開発が強く求められているためである。
例えば、本発明者らの研究グループは、fsレーザを用いてガラス内部に選択的に屈折率変化を誘起したり、金属微粒子を分散させたガラス内部に選択的に金属を析出する技術開発を進めてきており、ガラス内部に連続的にレーザー照射を施すことで直線状の光導波路も作製でき、実際に光が伝播される現象も確認している(非特許文献1〜6参照)。
また、特許文献1には、互いに干渉したfsレーザパルスを、基材に照射することにより、最小平均寸法5〜200nmを有する周期微細構造を基材中に作製することができる周期微細構造の作製方法について記載されている。
特開2003−57422(平成15年(2003)年2月26日公開)
K.M.Davis, et al., OPTICS LETTERS Vol. 21, No. 21, November 1, 1996, p1729-p1731
K. Miura, et al., Appl. Phys. Lett. 71(23), 8 December 1997, p3329-p3331
下間靖彦,他共著,光アライアンス,2004.8.p21−p26
邱建栄、平尾一之共著,マテリアルインテグレーション,Vol.16,No.8(2003)p23−p30
平尾一之著,セラミックス 38(2003),No.5,p323−p330
平尾一之,他共著,現代化学,2002年3月,p45−p50
しかしながら、上記非特許文献1〜6及び特許文献1に開示のfsレーザを用いてガラス等に微細加工を施す技術は、大きく分けて、(a)fsレーザを集光照射して、fsレーザの光軸方向に対して深い空孔を形成する技術、(b)fsレーザを2次元的に走査させて周期的なドット構造を形成する技術である。これらの技術では、fsレーザを集光照射しても、1パルスにつき1つの空孔をガラスに形成できるのみであり、効率的な微細構造の形成方法としては十全とはいえなかった。
例えば、ガラス内部における光集積回路への実現を目指すには、フォトニック結晶の理論を利用した周期構造をガラス内部に作製することが必須である。しかし、フォトニック結晶等の光制御に要求される微小空孔はナノサイズオーダーであり、しかもクラック等を発生させずに多くの空孔を周期的に作製するには、従来の技術では十分に対応できず、技術的に大いに改善の余地があった。
すなわち、従来の技術では、fsレーザ1パルスにつき1つの空孔しか作製できないため、周期構造作製には多くの時間を要し、空孔の周期やサイズも精度よく制御することが困難である等の問題点があった。このため、ガラス等の透明材料を微細加工するための効率的かつ精度のよい方法の開発が強く求められていた。
また、上述したように、fsレーザ以外の超短パルスレーザについても同様の技術的課題があり、その解決が強く望まれていた。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、超短パルスレーザの波長に対して透明な材料に対して微細構造を効率的かつ精度よく作製する方法及びその装置を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ガラス等の透明材料に対して、フィラメントを形成し、かつ、当該フィラメントがガラス底部に達するように、さらにクラックを発生させることなく、超短パルスレーザ(例えば、fsレーザ)の照射条件を設定することにより、ナノオーダーの微細空孔が周期的に形成されるという新事実を見出し、本願発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
(1)超短パルスレーザの波長に対して透明な材料に、超短パルスレーザを集光照射して、当該透明材料に周期的な微細構造を作製する微細構造作製方法であって、上記超短パルスレーザを、上記透明材料内部にフィラメントが形成されるように、かつ、上記フィラメントが上記透明材料の端面に到達するように、照射する工程を含む微細構造作製方法。
(2)さらに、上記照射工程は、超短パルスレーザを、上記透明材料内部にクラックが発生しないように、照射する工程である(1)に記載の微細構造作製方法。
(3)上記周期的な微細構造は、ナノサイズの空孔であって、上記超短パルスレーザの照射によって生じたフィラメントに沿って形成されるものである(1)又は(2)に記載の微細構造作製方法。
(4)上記透明材料は、無機非晶物質である(1)〜(3)のいずれかに記載の微細構造作製方法。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の微細構造作製方法を含む微細構造が形成された透明材料の製造方法。
(6)上記微細構造は、3次元の周期構造である(5)に記載の微細構造が形成された透明材料の製造方法。
(7)超短パルスレーザの波長に対して透明な材料に、超短パルスレーザを集光照射して、当該透明材料に周期的な微細構造を作製する微細構造作製装置であって、超短パルスレーザを照射する照射手段と、上記照射手段の照射条件を制御する制御手段と、を備え、上記制御手段は、上記照射手段から照射される超短パルスレーザが、上記透明材料内部にフィラメントを形成し、かつ、上記フィラメントが上記透明材料の端面に到達するように、レーザの照射条件を制御するものである微細構造作製装置。
なお、上記微細構造作製装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記各手段として動作させることにより上記微細構造作製装置をコンピュータにて実現させる微細構造作製装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
本発明に係る微細構造作製方法によれば、1回のレーザ照射により無機非晶物質に周期的に配列したナノサイズの微細構造を効率的に、かつ精度よく形成することができる。すなわち、本発明によれば、1回のレーザ照射により複数の空孔を周期的に形成することができるため、従来の微細構造作製方法に比べて、格段に効率的に微細構造を形成することができる。このため、時間的な短縮が可能となる。また、レーザの照射条件を変更することにより、簡便に周期や空孔のサイズを制御することができる。
このように微細構造が形成された無機非晶物質は、フォトニック結晶等の新規な光特性・電子特性を有するため、新規光・電子デバイスへと応用が可能である。
本発明は、所定の条件でガラス等の透明材料の内部に対して超短パルスレーザを集光照射すると、1パルスのレーザ集光照射にて、複数個(具体的には数十個程度)のナノサイズの空孔を、レーザの光軸方向に対して平行に、かつ周期的に、形成できる微細構造の形成方法及びその装置に関するものである。このため、まず、微細構造作製方法について説明した後、微細構造作製装置、及びその利用について説明する。
<1.微細構造作製方法>
本発明に係る微細構造作製方法は、超短パルスレーザの波長に対して透明な材料に、超短パルスレーザを集光照射して、当該透明材料に周期的な微細構造を作製(形成)する微細構造作製方法に関するものである。ここで、本発明でいう「透明材料」とは、超短パルスレーザの波長に対して透明な材料のことであり、当該超短パルスレーザの照射によってフィラメントが形成されるものであればよく、その他の具体的な構成については特に限定されるものではない。具体的には、波長300nm〜1μmに対して透明な材料を挙げることができる。かかる透明材料には、無機非晶材料と有機透明材料とが含まれる。なお、「フィラメント」とは、強度の大きいレーザ光が透明材料内部に入射するとき、一定のビーム径を有しながらガラス内部を進行する現象をいう。
本発明に係る微細構造作製方法は、超短パルスレーザの波長に対して透明な材料に、超短パルスレーザを集光照射して、当該透明材料に周期的な微細構造を作製(形成)する微細構造作製方法に関するものである。ここで、本発明でいう「透明材料」とは、超短パルスレーザの波長に対して透明な材料のことであり、当該超短パルスレーザの照射によってフィラメントが形成されるものであればよく、その他の具体的な構成については特に限定されるものではない。具体的には、波長300nm〜1μmに対して透明な材料を挙げることができる。かかる透明材料には、無機非晶材料と有機透明材料とが含まれる。なお、「フィラメント」とは、強度の大きいレーザ光が透明材料内部に入射するとき、一定のビーム径を有しながらガラス内部を進行する現象をいう。
「無機非晶材料」とは、例えば、上記波長の範囲において透明な無機非晶物質であればよく、例えば、さまざまな化学組成を有する各種ガラス、多成分系ガラス、透光性セラミックス(可視光領域で透明なセラミックス)、その他の従来公知の透明誘電体を含む意である。なお、ガラスとしては、後述する実施例で示すホウケイ酸ガラスや石英ガラス等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
また「有機透明材料」とは、上記波長の範囲において透明な有機ポリマーや透明樹脂等であればよく、例えば、アクリル樹脂、PMMA、エポキシ樹脂等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
また本明細書において「超短パルスレーザ」とは、10−15秒〜10−8秒以下の極短時間に光パルスが閉じ込められたレーザであればよく、その他の具体的な条件については特に限定されるものではない。例えば、ナノ秒レーザ、ピコ秒レーザ、フェムト秒レーザ等を挙げることができる。使用する超短パルスレーザ源に関しても、特に限定されるものではなく、従来公知の超短パルスレーザの光源を好適に用いることができる。
超短パルスレーザを集光照射する方法としては、従来公知の方法を挙げることができ、特に限定されるものではないが、例えば、対物レンズ等の集光部材を用いることが一般的である。
また、本実施の形態では「微細構造」として、ナノサイズの空孔を例に挙げて説明するが、この構造に限定されるものではなく、本発明の「微細構造」には様々な形状、大きさの微細構造が含まれることはいうまでもない。
本発明に係る微細構造作製方法では、特に、超短パルスレーザを照射する条件に特徴がある。すなわち、本発明に係る微細構造作製方法では、超短パルスレーザを、上記透明材料内部にフィラメントが形成されるように、かつ、上記フィラメントが上記透明材料の端面(例えば、底部等)に到達するように照射する。このような照射条件で超短パルスレーザを照射することにより、複数の空孔を周期的に形成できる。このメカニズムについて図1,図2を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明では、超短パルスレーザの一例としてfsレーザを用いて説明する。
図1(a),図1(b)に示すように、まず、対物レンズ等の集光部材を通してfsレーザをガラス内部に集光した場合、集光部分からガラスの底部に向って、fsレーザの照射方向に平行にフィラメントが形成される。
次に、図1(c)に示すように、レーザ光(フィラメント)はガラス底部の端面に到達すると、ガラス底部の微小領域ではプラズマ等が発生し、急激な温度上昇が生じる。その結果、ガラス底部に微小な空孔が形成される。
このとき、図2に示すように、形成された空孔周辺部では熱の拡散が生じており、熱拡散領域において光は相互作用を起こしやすい状態になっている。複数のパルス光を照射したとき、フィラメント形成後に入射してくるパルス光は、空孔部に到達する前に熱の拡散領域においてガラスと反応する。すると、最初に形成された空孔よりも少し離れた局所領域においてガラス温度が上昇し、次の空孔が形成される。
つまり、空孔形成、熱拡散、熱拡散領域においてfsレーザ光が反応、新たな空孔形成という一連の流れが繰り返されると、図1(d),図1(e)に示すように、多数の空孔がガラスの底部からfsレーザ集光照射位置に向かって形成される。なお、空孔が一定の間隔を有して並ぶ現象は、fsレーザの照射部から離れたガラス領域において、熱の拡散距離が一定であることを示している。
したがって、(i)fsレーザの集光照射によってフィラメントをガラス等の無機非晶物質内部に形成する、(ii)上記フィラメントがガラス等の無機非晶物質の底部に達している、という現象が同時に生じるような照射条件でfsレーザを照射することが本発明の特徴となる。換言すれば、ガラス等の無機非晶物質の底部まで到達するフィラメントが無機非晶物質内部に形成され、無機非晶物質の底部に空孔が形成されるような強度のパルスエネルギーを有するfsレーザを照射するといえる。
なお、上記説明において「無機非晶物質の底部」とは、fsレーザの光源位置から、物理的な距離が遠い側の端面を底部として説明している。
さらに、上述の超短パルスレーザを照射する工程では、透明材料内部にクラックが発生しないように、超短パルスレーザを照射することが必須である。クラックが発生してしまうと、所望の光特性・電子特性を担保できなくなってしまうためである。
例えば、従来の技術では、レーザの集光部のみでレーザ光とガラスとの反応が誘起され、結果として空孔が形成される。この場合、レーザの集光条件を各ガラスに対して適切に調整しないとクラックが発生し、きれいな空孔が形成できない。
一方、本発明では、一回のレーザー照射によりガラスの内部から表面近傍にかけて周期的に並んだ空孔が自発的に形成される。レーザー照射部は、例えば、2μm×2μmの範囲内に設定できるため、その他のガラス領域にはクラック等の影響をほとんど与えず、きれいな球状の空孔を形成できる。さらに、ガラスの表面付近に周期構造を形成することで、特定領域の波長のみを選択的に透過できるような光フィルターの作製が可能になり、新たな光デバイスとしての応用が期待できる。
上述したように、本発明における超短パルスレーザの照射条件は、上記条件を満たすように照射すればよく、使用する超短パルスレーザの周波数、波長、強度、並びに形成対象の透明材料の種類、大きさ、形状、厚み、超短パルスレーザを集光して照射する位置(集光照射位置)等の諸条件の具体的な数値は特に限定されるものではない。超短パルスレーザの一例としてfsレーザを使用する場合、例えば、後述する実施例に示すように、繰り返し周波数1kHz、波長800nmのfsレーザを光源として使用し、強度は1パルスあたり、10〜40μJとすることができる。また、集光照射位置は、厚さ900μmのホウケイ酸ガラスに対して、表面から700μm程度の位置に設定している。
また、上述したようなメカニズムで微細構造が形成すると考えられるため、透明材料に形成される“周期的な微細構造”は、ナノサイズの空孔であって、上記超短パルスレーザの照射によって生じたフィラメントに沿って形成されることになる。換言すれば、超短パルスレーザの照射方向(レーザの光軸)と平行に、複数の空孔が周期的に形成されるといえる。
上記非特許文献1〜6や特許文献1に記載の従来の微細構造作製方法では、ガラスに対してfsレーザを1回照射すると、集光照射部分に1つの空孔のみが形成される。このため、例えば、50個の空孔を形成するには、ガラスに対して50回fsレーザの照射を繰り返す必要がある。一方、本発明では、ガラス等の透明材料に対して、1回の超短パルスレーザを照射すると、1度に複数個〜数十個(後述する実施例では50個程度)の等間隔に並んだナノ空孔が形成される。本発明者らは、このような超短パルスレーザの照射により形成した透明材料のガラス底部の端面の最初のナノ空孔を起点とし、上述したプロセスを繰り返して次々と“自発的”に空孔が形成する現象を「自己形成的に微細構造が形成される」と表現する。
また、本発明の微細構造作製方法は、上述のように、ガラス等の透明材料の底部の端面まで達するフィラメントが形成され、底部に空孔が形成する程度のパルスエネルギーを有する超短パルスレーザを照射すれば、原理的には他のあらゆる透明材料に対しても適用できる。これは、データは示さないが、透光性セラミックスや透明なポリマー(有機物質)等に対して同様の手順で微細構造作製方法を実行したところ、ガラス同様に、周期的に並ぶナノ空孔の形成が認められた事実からも裏付けられるところである。
また、超短パルスレーザも、fsレーザのみでなく、psレーザやnsレーザを用いても同様に微細構造作製方法を実行できる。
また、透明材料に形成する空孔の個数は、照射する超短パルスレーザのパルスエネルギーを変化させることにより制御できる。具体的には、パルスエネルギーを増大させると形成される空孔数を減少させることができ、パルスエネルギーを減少させると個数を増大させることができる(実施例の図6参照)。
また、隣り合う空孔間の間隔(周期間隔)もパルスエネルギーにより制御することができる。具体的には、パルスエネルギーを増大させると形成される空孔の周期間隔を広くすることができ、パルスエネルギーを減少させると周期間隔を狭くすることができる(実施例の図7参照)。
なお、超短パルスレーザの照射条件の詳細な設定は、用いる透明材料の材質、特性、形状等に応じて適宜設定する必要があり、その具体的な数値等は特に限定されるものではない。しかし、このような照射条件の最適化は、上述の微細構造形成のメカニズムさえわかっていれば、当業者にとってそれほど困難なことではないといえる。
以上のように、本発明に係る微細構造作製方法によれば、複数のナノサイズの空孔を、周期的に作製することができる。すなわち、本発明によれば、超短パルスレーザを用いてナノ空孔周期配列体を、効率的かつ精度よく作製することができる。
このようなナノサイズの空孔が周期的に並ぶ微細構造は、光制御の可能なフォトニック結晶や光フィルタ等の新光デバイス等の作製に利用できる。現在、市場に出ているフォトニック結晶はファイバー形状型(2次元型)に限られているが、本発明を利用することにより、バルクガラス内部に3次元的に微細空孔を形成することができる。このような技術は今までに例がなく、非常に産業上の有用性が高いといえる。
また、本発明に係る微細構造作製方法によれば、周期構造作製に要する時間も従来に比べて大幅に短縮できる。又、周期や空孔サイズはレーザー条件を調整することで制御が可能である。微細空孔の自己形成現象は学術的にも興味深いものであり、社会に与えるインパクトも大きいといえる。
<2.微細構造作製装置>
本発明に係る微細構造作製装置は、超短パルスレーザの波長に対して透明な材料に、超短パルスレーザを集光照射して、当該透明材料に周期的な微細構造を作製する微細構造作製装置である。このような微細構造作製装置の一実施形態について説明すれば、以下のとおりである。
本発明に係る微細構造作製装置は、超短パルスレーザの波長に対して透明な材料に、超短パルスレーザを集光照射して、当該透明材料に周期的な微細構造を作製する微細構造作製装置である。このような微細構造作製装置の一実施形態について説明すれば、以下のとおりである。
図3は、本実施の形態に係る微細構造作製装置の構成について模式的に示した図である。同図に示すように、微細構造作製装置10は、レーザ照射部1、NDフィルタ2、シャッタ3、ダイクロイックミラー4、対物レンズ5、制御部6、試料ステージ7を備えている。また、試料ステージ7上には、微細構造を形成する無機非晶物質のガラス8が載置されている。
レーザ照射部1は、超短パルスレーザを照射する照射手段として機能するものであればよく、従来公知の超短パルスレーザ照射装置を好適に使用でき、その具体的な構成等は特に限定されるものはない。本実施の形態では、超短パルスレーザとしてfsレーザを一例として用いている。なお、具体的なfsレーザ照射装置としては、例えば、チタン:サファイアレーザ(Ti:Sapphire laser)の波長800nm、繰り返し周期1kHzのものを用いている。
NDフィルタ2は、超短パルスレーザの出力、すなわちパルスエネルギーを調整・制御するものである。シャッタ3は、超短パルスレーザのパルス数を制御・調整するものである。ダイクロイックミラー4は、レーザ照射部1から照射されたレーザ光を対物レンズ5に向けて方向を変更するためのものである。
対物レンズ5は、レーザ光を試料ステージ7上に載置された透明材料(本実施の形態ではガラス)8に対して、集光させるものであり、従来公知の集光部材を好適に用いることができる。試料ステージ7は、3次元方向(x−y−z方向)に走査可能に構成されている試料台であり、レーザ光の集光照射位置を調整する機能を有するものである。
制御部6は、レーザ照射部1における超短パルスレーザの照射条件を制御する制御手段として機能するものである。かかる制御部6としては、パーソナルコンピュータ(PC)等の従来公知の演算装置を好適に用いることができる。なお、制御部6は、シャッタ3及び試料ステージ7の動作を制御するように構成されている。
制御部6は、レーザ照射部1から照射される超短パルスレーザが、ガラス8内部にフィラメントを形成し、かつ、上記フィラメントがガラス8の底部(試料ステージ7と接する端面)に到達するように、レーザ照射部1のレーザの照射条件を制御するものである。
制御部6が、上述のようにレーザ照射部1のレーザ照射条件を設定・制御することにより、微細構造作製装置10は、上記<1>欄で説明した微細構造作製方法を実行することができる。それゆえ、微細構造作製装置10によれば、効率的にかつ精度よく、ナノサイズの空孔を周期的に形成することができる。
また、微細構造作製装置10の各ブロック、特に制御部6は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
すなわち、微細構造作製装置10は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである微細構造作製装置10の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記微細構造作製装置10に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
また、微細構造作製装置10を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
<3.微細構造作製方法等の利用>
上述したように、本発明に係る微細構造作製方法によって作製された微細構造を有する無機非晶物質は、非常に産業上の有用性が高い。このため、本発明には、上記<1>欄で説明した微細構造作製方法を1工程として含む微細構造が形成された無機非晶物質の製造方法が含まれる。特に、上記微細構造は3次元の周期構造であることが好ましい。
上述したように、本発明に係る微細構造作製方法によって作製された微細構造を有する無機非晶物質は、非常に産業上の有用性が高い。このため、本発明には、上記<1>欄で説明した微細構造作製方法を1工程として含む微細構造が形成された無機非晶物質の製造方法が含まれる。特に、上記微細構造は3次元の周期構造であることが好ましい。
上記微細構造が形成された無機非晶物質の製造方法によれば、例えば、ガラス内部に微細空孔が周期的に並んだフォトニック結晶を作製できる。すなわち、本発明に係る微細構造作製方法を利用して、ガラス等の無機非晶物質内部に微細周期加工を施すと、周期と同程度の波長を有する光を制御できるフォトニック結晶の作製が実現できる。
つまり、本発明に係る微細構造作製方法は、フォトニック結晶として理想的な3次元型フォトニック結晶の作製にも応用できる。作製方法も非常に簡便なため、全く新規な光機能デバイスとして新たな市場開拓が期待できる。
フォトニック結晶の有用な特性及びその将来性については、上記非特許文献3〜6に記載されているので、これらの文献を参照することにより理解できるため、ここでの詳細な説明は省略するが、本発明を利用して、周期を光の波長程度に設計すると、フォトニック結晶の理論に基づいた応用である波長選択フィルター、低閾値レーザー発振器、光変調器、波長分波器などの光デバイスへ応用できる。また、光フィルターとしての応用を想定した場合、より屈折率の高いガラス系(例えば、テルライト等)、透光性セラミックスを用いることがより好ましい。
なお、上記無機非晶物質の製造方法によって製造され得る、微細構造が形成された無機非晶物質も本発明に含まれることはいうまでもない。
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
図3に記載の微細構造作製装置10を用いて、ホウケイ酸ガラスに対して微細構造を作製した。なお、超短パルスレーザを照射するレーザ照射部1として、fsレーザのTi:Sapphireレーザ(波長800nm、繰り返し周波数1kHz、パルス幅120fs)を用いた。具体的には、再生増幅されたTi:Sapphireレーザを100倍対物レンズ(NA:0.9)を用いてホウケイ酸ガラス内部に集光照射した。fsレーザのパルスエネルギーは、NDフィルターを用いて10μJ〜40μJの間で制御した。fsレーザのパルス数は電磁シャッタを用いて制御した。
図4は、本実施例においてレーザ光を集光照射する部分を模式的に示した図である。この図4に示すように、微細構造を作製する対象のガラスの厚さは約900nmであり、表面から750μmの位置に、レーザ光が集光照射されるように設定した。レーザの照射は、上記<1>欄で説明した照射条件に従い、照射した。fsレーザ照射後のガラスは、2つに切断し、断面を鏡面研磨し、レーザ入射方向に対して垂直方向から光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果を図5に示す。
図5(a)は、fsレーザ照射後のガラス断面部の光学顕微鏡にて観察した結果を示す図であり、図5(b)は(a)の部分拡大図である。同図に示すように、レーザを集光照射した位置からガラス底部にわたって、黒いドット状の微細構造が並んで形成されている様子が確認できた。図5(b)に示すように、黒いドット部分をSEMを用いて観察すると、空孔であることがわかった。このドット(空孔)が並んだ全体の長さは、約130μmである。焦点付近のドットは、1.7μm程度の直径を有しているが、ガラス底部に近づくにつれてレーザの自己集束効果により直径が小さくなり、ガラス底部から約80μmの位置で約380nmとなり、その後一定となることがわかった。なお、本実施例では、この空孔の直径及び隣り合う空孔同士の間隔が略一定の領域を周期構造部と称する。
また、空孔の数は、レーザ光のパルスエネルギーを変化させることにより制御できることがわかった。例えば、図6に示すように、パルスエネルギーを10μJから40μJに増大させると、形成される空孔数は47個から25個まで減少させることができた。
また、隣り合う空孔間の間隔(周期間隔)もパルスエネルギーにより制御することができることがわかった。例えば、図7に示すように、パルスエネルギーを10μJから40μJまで増大させると、周期間隔は1.6μmから3.1μm(250パルス照射時)となり、周期間隔を増大させることができた。
以上の結果をまとめると、ホウケイ酸ガラスにおいて、直径380nm程度の微細空孔が長さ1.6μmの周期を保ちながら周期構造を形成する現象を確認した。周期構造はガラスの表面から約80μmの領域に渡って分布していた。周期や空孔の大きさは、レーザーのパルスエネルギーやパルス数を変化させることで調整可能であり、周期構造の長さはガラス厚さを変化させることで制御が可能であることを確認した。
また、本発明に係る微細構造作製方法を用いると、微細構造が3次元で周期的に形成された構造体(3次元周期構造体)を容易に作製することができる。図8に、3次元周期構造体の作製手法の1例を示す。まず、パルスエネルギー10μJのfsレーザを、ガラス表面から750μmの深さに集光照射した。具体的には、図8(a)に示すように、ガラスに対して、z軸方向に1回fsレーザを照射すると、z軸方向に等間隔に周期的に並んだナノ空孔の列が作製できた。次に、x,y方向にそれぞれ5μmずつガラスを動かし、その都度fsレーザを照射すると、周期的に配列されたナノ空孔からなる3次元周期構造体を作製することができる。
図8(b)に示すように、このようにして作製した3次元周期構造体の側面部を光学顕微鏡で観察したところ、約600nmの大きさの空孔が等間隔に配列していることを確認した。したがって、本発明に係る微細構造作製方法を用いることにより、3次元フォトニック結晶等への新規光デバイスの作製への応用が期待できる。
本発明によれば、微細構造を周期的に形成した無機非晶物質を得ることができる。それゆえ、独自の光特性・電子特性を有する新規な光デバイス・電子デバイスを作製することができ、エレクトロニクス関連産業において、広範な産業上の利用可能性がある。
1 レーザ照射部(照射手段)
2 NDフィルタ
3 シャッタ
5 対物レンズ
6 制御部(制御手段)
7 試料ステージ
8 ガラス
10 微細構造作製装置
2 NDフィルタ
3 シャッタ
5 対物レンズ
6 制御部(制御手段)
7 試料ステージ
8 ガラス
10 微細構造作製装置
Claims (7)
- 超短パルスレーザの波長に対して透明な材料に、超短パルスレーザを集光照射して、当該透明材料に周期的な微細構造を作製する微細構造作製方法であって、
上記超短パルスレーザを、
上記透明材料内部にフィラメントが形成されるように、
かつ、上記フィラメントが上記透明材料の端面に到達するように、照射する工程を含むことを特徴とする微細構造作製方法。 - さらに、上記照射工程は、超短パルスレーザを、上記透明材料内部にクラックが発生しないように、照射する工程であることを特徴とする請求項1に記載の微細構造作製方法。
- 上記周期的な微細構造は、ナノサイズの空孔であって、上記超短パルスレーザの照射によって生じたフィラメントに沿って形成されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の微細構造作製方法。
- 上記透明材料は、無機非晶物質であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の微細構造作製方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細構造作製方法を含むことを特徴とする微細構造が形成された透明材料の製造方法。
- 上記微細構造は、3次元の周期構造であることを特徴とする請求項5に記載の微細構造が形成された透明材料の製造方法。
- 超短パルスレーザの波長に対して透明な材料に、超短パルスレーザを集光照射して、当該透明材料に周期的な微細構造を作製する微細構造作製装置であって、
超短パルスレーザを照射する照射手段と、
上記照射手段の照射条件を制御する制御手段と、を備え、
上記制御手段は、上記照射手段から照射される超短パルスレーザが、上記透明材料内部にフィラメントを形成し、かつ、上記フィラメントが上記透明材料の端面に到達するように、レーザの照射条件を制御するものであることを特徴とする微細構造作製装置。
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