従来より、フリットガラスを使用して2枚の基板を封着した表示パネルが開発されている。このような表示パネルには、プラズマディスプレイパネル(PDP)、電界放出表示装置(FED)及び蛍光表示管(VFD)等がある。以下、プラズマディスプレイパネルを例にとって、この表示パネルの製造方法を説明する。
プラズマディスプレイパネルは、ガス放電によって発生した紫外線によって、蛍光体を励起発光させ、表示動作させるディスプレイである。先ず、プラズマディスプレイパネルの基本的な構造と製造方法について、反射型AC面放電型を例にとって説明する。
図11は反射型AC面放電カラープラズマディスプレイパネルの1つの放電セルを示す部分断面図である。図11に示すように、このPDPにおいては、背面基板1及び前面基板17が相互に平行に配置されており、背面基板1と前面基板17とは両者間であってその周辺領域に設けられたフリットガラス(図示せず)により封着されている。そして、封着された空間には放電ガスが封止されている。この封止空間は格子状、ストライプ状又はハニカム状に形成された隔壁2により複数の放電空間14に区画されている。なお、隔壁2が設けられた領域のうち少なくとも一部が、画像を表示する表示領域となっている。
以下、このPDPの詳細な構成を、その製造工程に沿って説明する。図12はこの従来のPDPの製造方法を示すフローチャート図であり、図13はこのPDPの製造方法におけるフリットガラスペーストの塗布工程を示す平面図であり、図14は横軸に時間をとり縦軸に温度をとって、各工程における温度プロファイルを示すグラフ図である。先ず、このPDPの表示面側の基板であり、透明なガラス板からなる前面基板17における背面基板1に対向する面上に、一方向に延びる複数の透明電極15を形成する。図11においてこの透明電極15が延びる方向は、紙面に対して垂直な方向である。
透明電極15は酸化錫(SnO2)又はインジウムチンオキサイド(ITO)等により形成し、低抵抗化を図るために、透明電極15上にバス電極16を形成する。バス電極16は、銀等からなる金属厚膜、(クロム/銅/クロム)若しくは(クロム/アルミニウム)等の多層薄膜、又はアルミニウム薄膜等の金属薄膜等により形成する。バス電極16を銀の厚膜により形成する場合、コントラストを向上させるために若干の黒色顔料を混合することがある。また、銀の厚膜と透明電極との間に、黒色の顔料を多量に含む銀の厚膜を配置して、銀膜を2層構造とすることも多い。
そして、相互に隣り合う2組の透明電極15及びバス電極16により1対の面放電電極対を構成する。また、1つの放電セルを1対の面放電電極対が通過するようになっており、この面放電電極対を構成する2本の透明電極15の間にパルス状のAC電圧を印加して、表示放電を得るようになっている。
次に、この面放電電極、即ち、透明電極15及びバス電極16を、透明誘電体層13により被覆する。通常、透明誘電体層13は低融点鉛ガラスを主成分とする厚膜ペーストを基板上に塗布し、低融点鉛ガラスの軟化温度以上の温度に加熱して焼成することにより形成する。この透明誘電体層13の膜厚は10乃至40μm程度とする。
次に、透明誘電体層13を被覆するように、保護層(図示せず)を形成する。通常、保護層は蒸着法又はスパッタリング法によって形成されるMgOからなる薄膜である。膜厚は0.5乃至2μm程度である。この保護層の役割は放電開始電圧を低減すること及び放電による透明誘電体層13の表面がスパッタされることを防止することである。
一方、背面基板1上に、表示データを書き込むデータ電極10を、複数本相互に平行に形成する。このデータ電極10が延びる方向は、背面基板1を前面基板17に重ね合わせたときに、面放電電極(透明電極15及びバス電極16)が延びる方向と直交する方向とし、データ電極10の配列間隔は、各放電セルを1本のデータ電極10が通過するような間隔とする。データ電極10は、銀等からなる金属厚膜、(クロム/銅/クロム)若しくは(クロム/アルミニウム)等の金属多層薄膜、又はアルミニウム薄膜等の金属薄膜である。
このデータ電極10を覆うように、低融点鉛ガラスと白色の顔料とを混合した厚膜ペーストを塗布して焼成し、データ電極10を被覆する白色誘電体層11を形成する。白色の顔料は白色誘電体層11の反射率を増加させ、輝度及び発光効率を向上させるために混合するものであり、通常、酸化チタン粉末又はアルミナ粉末が使用される。なお、この白色誘電体層11は設けなくてもよい。
次に、この白色誘電体層11上に隔壁2を形成する。隔壁2の材料は低融点鉛ガラスとアルミナ等からなる骨材との混合物である。この隔壁2によって複数の放電空間14が形成される。放電空間14は、夫々の内部で独立して放電を行う放電セルである。隔壁2のディメンジョンの例をあげると、トリオピッチが0.81mmの場合、隔壁の幅が50μm、高さが120μm程度であり、アスペクト比が高い構造物である。表示面側から見た形状は格子状、ストライプ状、ハニカム状等である。隔壁2の形成は通常サンドブラスト法によって行う。
次に、放電空間14毎に、夫々のセルの発光色に対応する蛍光体層12を、白色誘電体層11の上面及び隔壁2の側面にスクリーン印刷法によって塗布する。蛍光体層12を隔壁2の側面にも形成することにより、蛍光体の塗布面積を増やし高輝度を得ることができる。
次に、図12のステップS101及び図13に示すように、前述の前面基板17と背面基板1とを張り合わせて気密封止するために、背面基板1の前面基板17に対向する側の表面における隔壁2を形成した領域の周囲に、フリットガラスペースト7を塗布する。このペースト7の塗布には、通常、ディスペンサー又はスクリーン印刷法が使用される。フリットガラスペースト7は低融点鉛ガラス粉末、バインダー及び溶剤の混合物である。バインダーはアクリル樹脂、エチルセルロース樹脂又はニトロセルロース樹脂が一般に用いられる。なお、このフリットガラスペーストは前面基板17側に塗布してもよく、前面基板1及び背面基板17の双方に塗布される場合もある。
次に、図12のステップS102に示すように、背面基板1を100乃至250℃程度の温度に加熱して、背面基板1の表面に塗布したフリットガラスペースト7を乾燥させる。これにより、フリットガラスペースト7に含まれる低融点鉛ガラス粉末、バインダー及び溶剤のうち、溶剤が気化して除去される。
次に、図12のステップS103及び図14に示すように、乾燥後のフリットガラスペースト7を、フリットガラスがある程度軟化する温度又はそれよりも少し高い温度、例えば380乃至550℃の温度に加熱して、焼成する。これにより、フリットガラスペーストにおけるバインダー成分が燃焼・分解して消失すると共に、ガラス成分が軟化する。
次に、図12のステップS104に示すように、大気中で背面基板1と前面基板17とを張り合わせて気密封止する封着工程を実施する。この封着工程においては、先ず、前面基板17と背面基板1とを、フリットガラスペースト7を挟むように重ね合わせる。そして、この重ね合わせた2枚の基板の周辺部を治具で挟み込み、圧力をかけて固定する。次に、図14に示すように、この固定した2枚の基板をフリットガラスが軟化する温度より少し高い温度に加熱する。この加熱は大気圧中(空気中)で行う。これにより、背面基板1と前面基板17とが相互に張り合わされて、2枚の基板からなるパネルが作製される。
次に、この封着工程の後、パネルに排気管(図示せず)を連結してフリットガラスにより固定する。そして、この排気管を通じてパネル内の空間を真空排気する。その後、この空間の内部に放電可能なガス、例えばNeとXeとの混合ガス又はHeとNeとXeとの混合ガスを50kPaから70kPa程度の圧力で封入する。これにより、図11に示すようなPDPが製造される。
しかしながら、この従来のPDPの製造方法においては、図12のステップS103に示すフリット焼成工程において、フリットガラスペースト中のバインダー成分の燃焼・分解と、ガラス成分の軟化とがほぼ同時に起きる。このため、フリットガラスペーストの焼成後にフリットガラス中にバインダー成分の残渣及び気泡が混入する。この結果、図12のステップS104に示す封着工程において、2枚の基板によりフリットガラスが押し潰されるときに、フリットガラス中に残留したバインダー成分の残渣及び気泡からガスが発生する。これにより、パネル内が汚染され、パネルの特性及びパネル内の均一性を低下させてしまう。また、場合によっては、焼成後のフリットガラス中に残留したバインダー成分の残渣及び気泡が欠陥となり、パネルのリークの原因となる。
また、フリットガラスペーストを塗布する際に突起部を設け、封着工程においてフリットガラスが軟化するまでの間、前面基板17と背面基板1の間に隙間を確保し、基板表面に吸着した水分及び有機成分を除去しやすくする技術が開発されている。図15(a)はこの従来のPDPの製造方法におけるフリットガラスペーストの塗布工程を示す平面図であり、(b)は(a)に示すC−C’線による断面図である。図15(a)及び(b)に示すように、この従来の製造方法においては、背面基板1上にフリットガラスペースト7を塗布し、乾燥させた後、乾燥後のフリットガラスペースト7上の一部に、再度フリットガラスペーストを塗布して乾燥させ、フリット突起部8を設ける。フリット突起部8は、フリットガラスペースト7が延びる方向において所定の間隔、例えば約10cmの間隔で、複数個形成する。このように、フリット突起部8は、フリットガラスペーストの塗布を2回行って塗り重ねることにより形成される。フリットガラスペースト7の焼成後の膜厚は通常100乃至400μm程度であり、フリット突起部8の高さは通常50乃至300μm程度である。
このように、フリットガラスに突起部を設けることにより、封着工程において、基板表面に吸着した水分及び有機成分を除去しやすくなる。しかし、この技術においては、フリットガラスが押し潰される際にフリット突起部8も潰れ、前面基板17と背面基板1との間の隙間も塞がれるため、フリットガラスが押し潰される際にバインダー成分の残渣及び気泡から発生するガスをパネル外に排気することは困難である。
また、この残渣及び気泡から発生するガスを効率よく排気するために、封着を大気圧よりも減圧した真空雰囲気中で行うことも考えられる。しかしこの場合、フリットガラス中のバインダー成分の残渣及び気泡によってフリットが激しく発泡し、フリットガラスの表面に凹凸が形成され、パネルのリークが発生してしまう。
このため、フリットガラスペーストの焼成工程を、真空雰囲気中における加熱工程及び気体雰囲気中における加熱工程の2段階に分けて行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載されている方法においては、フリットガラスペーストを塗布した後、このペーストを真空雰囲気中で400乃至500℃の温度に加熱して、ペーストを溶融させ発泡させて、ペースト中の気泡を除去する。次に、同じ温度範囲に加熱したまま、雰囲気中に乾燥窒素を注入して気体雰囲気とし、ペーストを溶融状態に保ったまま、発泡を停止させる。これにより、ペーストの表面が滑らかになる。そして、ペーストを冷却して固化し、背面基板と前面基板とを仮止めして固定し、検査した後、気体雰囲気中で450℃の温度に加熱して封着する。その後、パネル内に放電ガスを封入してPDPを製造する。
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。以下に示す実施形態においては、いずれも表示パネルとしてプラズマディスプレイパネルを製造する場合を例にとって説明するが、フィールドエミッションディスプレイ及び蛍光表示管等、PDP以外の表示パネルを製造する場合も、以下に示す実施形態と同様である。
先ず、本発明の第1の実施形態について説明する。図1は本実施形態に係るPDPの製造方法を示すフローチャート図であり、図2は、横軸に時間をとり縦軸に温度をとって各工程の温度プロファイルを示すグラフ図である。また、本実施形態に係るPDPの製造方法により製造されるPDPの構成は、図11に示す従来のPDPと同様である。
本実施形態においては、フリットガラスペーストを塗布する工程より前に実施される工程は前述の従来の製造方法と同様である。即ち、図11に示すように、従来と同様な方法により、背面基板1の前面基板17に対向する表面上にデータ電極10、白色誘電体層11、隔壁2及び蛍光体層12を形成し、前面基板17の背面基板1に対向する表面上に透明電極15、バス電極16、透明誘電体層13及び保護層(図示せず)を形成する。
次に、図1のステップS1に示すように、背面基板1の表面における隔壁2を形成した領域の周囲に、フリットガラスペースト7(図13参照)をディスペンサー法又はスクリーン印刷法により塗布する。なお、隔壁2を形成した領域の一部がPDPの表示領域となる。このフリットガラスペースト7の成分は、従来のフリットガラスペーストの成分と同じであり、低融点鉛ガラス粉末、バインダー及び溶剤の混合物であり、例えば、低融点鉛ガラスとして、PbO・B2O3及び/又はPbTiO3を87質量%含有し、バインダーとしてアクリルを3質量%含有し、溶剤としてテルピネオールを10質量%含有している。なお、低融点ガラスとしては、PbO・B2O3及びPbTiO3の他にも種々の組成が考えられるが、軟化温度は通常380乃至480℃程度である。また、バインダーとしては、アクリル以外にもエチルセルロース及びニトロセルロース等が本実施形態において好適である。更に、溶剤もテルピネオールに限定されるものではない。
次に、図1のステップS2に示すように、フリットガラスペースト7を乾燥させる「フリットペースト乾燥」工程を行う。即ち、大気雰囲気中において、フリットガラスペースト7が塗布された背面基板1を、フリットガラスペースト中の溶剤成分が気化する温度、例えば、100乃至250℃程度の温度に加熱し、この温度範囲に数分乃至30分程度保持した後、冷却する。これにより、フリットガラスペーストから溶剤成分が除去され、フリットガラスペースト7はバインダーによって背面基板1上に固着された状態となる。この工程までは従来のPDPの製造方法と同じである。
次に、図1のステップS3に示すように、「脱バインダー焼成」工程を行う。即ち、図2に示すように、乾燥後のフリットガラスペーストを、大気中においてバインダー成分が燃焼・分解して消失する温度以上であり、且つフリットガラスが軟化する温度未満の温度に加熱する。具体的には、バインダーとしてアクリルを用いた場合、アクリルは約300℃で分解するため、フリットガラスの軟化温度を400℃とすると、「脱バインダー焼成」工程における加熱温度範囲は300℃以上400℃未満となる。実際の作業においては、工程マージンを見込んで、320乃至380℃の範囲で行うことが好ましい。そして、フリットガラスペーストをこの温度範囲に一定時間保持する。保持時間(キープ時間)は可及的に長いほうが、脱バインダー効果が大きくなり好ましいが、実用的な工程としては、15分乃至2時間程度が適当である。アクリル以外のバインダー、例えばエチルセルロース又はニトロセルロースを用いる場合においても、アクリルを用いる場合と同様に、「脱バインダー焼成」工程の温度範囲を決定することができる。そして、上述の如く、フリットガラスペーストを加熱保持後、冷却する。なお、脱バインダー焼成工程を行う雰囲気は大気雰囲気には限定されないが、バインダーが燃焼して消失する材料である場合は、酸素を含む雰囲気であることが必要である。
この脱バインダー焼成工程においてはフリットガラスは軟化しないため、燃焼・分解したバインダーはフリットガラス粒子の隙間から容易にフリットガラスペーストの外部へ排出されることができる。この工程においては、バインダー成分は実質的にフリットガラスペーストから除去されるが、フリットガラスの軟化は生じていないため、フリットガラスの粒子が、粒子間に隙間を残したまま接触部において焼結している状態となる。なお、フリットガラスの粒子の直径は、例えば、数μm乃至数十μm程度である。
次に、図1のステップS4に示すように、「減圧焼成」工程を行う。図2に示すように、この減圧焼成工程においては、大気圧よりも減圧した真空雰囲気中で、フリットガラスペースト7を、フリットガラスペースト中のフリットガラスが軟化する温度と同程度又はそれよりも若干高い温度、例えば400℃以上の温度に加熱し、所定の時間保持し、その後冷却する。なお、この減圧焼成工程は、大気圧よりも減圧された雰囲気中で実施すれば一定の効果があるが、圧力が80kPa以下の真空雰囲気中で実施することが好ましく、圧力が20kPa以下の真空雰囲気中で実施することがより好ましい。但し、必ずしも高真空雰囲気中で行う必要はない。なお、図2のステップS3に示す脱バインダー焼成において、フリットガラスペーストを加熱保持後、冷却することなく、そのままステップS4に示す減圧焼成に移行してもよい。
前述の脱バインダー工程終了後においては、隣り合うフリットガラスの粒子間の隙間に空気及びバインダーの燃焼・分解によって発生したガスが若干残っている。このため、前述の脱バインダー工程の後、従来の方法のように大気圧中でフリットガラスを軟化温度以上の温度で焼成すると、前述の粒子間の空気及びガスが、軟化したフリットガラス中に閉じ込められて、気泡となってしまう。これが後の封着工程で問題を発生させる原因となる。即ち、封着を大気圧中で行うとパネル内汚染を引き起こす。また、封着を真空中で行うとフリットが激しく発泡してパネルのリークの原因となる。
これに対して、本実施形態のように、圧力が大気圧よりも低い真空雰囲気中でフリットを焼成すると、気泡の原因となるフリットガラス粒子間の空気及びバインダーの燃焼・分解によって生じたガスがフリットから排出された状態でフリットガラスが軟化する。このため、実質的にフリットガラスの中に気泡が存在しない状態になる。バインダー成分の残渣は既に前工程の「脱バインダー焼成」工程で除去されている。もちろん厳密に残渣が皆無となるわけではないが、後工程の封着工程で、残渣からガスが発生してパネル内を汚染したり、又は発泡によるリークが発生したりすることを防止できる状態になる。この状態を実質的にバインダー成分及び気泡を含まない状態と定義する。これを具体的な数値で示すと、フリット内部に直径が20μmより大きい気泡がほとんどない状態を示す。
次に、図1のステップS5に示すように、「封着」工程を行う。この工程は上述のように大気雰囲気中で行う場合と真空雰囲気中で行う場合の両方がある。本実施形態においては、封着工程を真空雰囲気中で行う。即ち、背面基板1と前面基板17とを重ね合わせ、この重ね合わせた2枚の基板の周辺部を治具等により仮固定してパネルを組み立てる。この状態で、真空雰囲気中にてフリットガラスが軟化する温度と同程度又はそれより少し高い温度に加熱する。この温度は、例えば400乃至480℃とする。これにより、フリットガラスが溶解し、背面基板1と前面基板17とがフリットガラスを介して連結される。そして、図2に示すように、フリットガラスが最高加熱温度、例えば400乃至480℃、に達した後、徐々に冷却する。この冷却工程において、雰囲気中の圧力を真空状態からほぼ大気圧まで復圧すると、フリットの発泡をより確実に抑制することができ、パネルのリークをより確実に防止できる。これは、軟化したフリット中に僅かにできた隙間を復圧によって押し潰し、フリットを均一な状態にすることができるためと考えられる。この復圧は乾燥空気若しくは乾燥窒素、又はアルゴン等の不活性ガスを使用して行う。
その後の工程は、従来のPDPの製造方法と同様である。即ち、パネルに排気管(図示せず)を連結してフリットガラスにより固定する。そして、この排気管を通じてパネル内の空間を真空排気する。その後、この空間の内部に放電可能なガス、例えばNeとXeとの混合ガス又はHeとNeとXeとの混合ガスを50kPaから70kPa程度の圧力で封入する。これにより、図11に示すようなPDPが製造される。
本実施形態においては、図1のステップS3に示す脱バインダー工程において、フリットガラスを軟化させずに、バインダー成分のみを燃焼・分解させている。即ち、フリットガラスの粒子間に隙間が形成された状態で、バインダー成分が燃焼・分解されるため、バインダー成分の残渣及び気泡がフリットガラス内に閉じ込められることがなく、残渣及び気泡をフリットガラスペーストから効率よく除去することができる。なお、図14に示す従来のPDPの製造方法においては、この脱バインダー焼成工程は設けられておらず、フリットガラスペーストを塗布、乾燥後、直ちに大気圧中で「フリット焼成」工程を行い、その後「封着工程」を行うようになっている。
このように、本実施形態においては、脱バインダー工程においてペースト中からバインダー成分を除去しているため、その後、図1のステップS4に示す減圧焼成工程において、フリットガラスの粒子間に存在する空気及びバインダー成分が燃焼・分解して発生したガスを除去しつつ、フリットガラスを軟化させて焼成することができる。この結果、焼成後のフリットガラスを、実質的に気泡及びバインダーの残渣が含まれていない状態にすることができる。これにより、図1のステップS5に示す封着工程において、フリットガラス中の気泡及び残渣から生じるガスがパネル内を汚染して、パネルの特性を低下させることがない。また、フリットの発泡によるリークの発生を防止できる。このため、高品質なPDPを高歩留まり且つ低コストで製造することができる。
また、本実施形態においては、真空雰囲気中での封着が可能となるため、基板表面に吸着されている水分等を効率よく除去することができ、パネル内を極めて高度に清浄化することができる。この結果、パネルの均一性、長時間放置した後のパネル特性、焼き付き等の信頼性が著しく向上する。例えば、42インチVGAクラスのプラズマディスプレイパネルの場合、従来の方法により製造されたPDPにおいては、放電維持電圧のばらつきは20V程度であるが、本実施形態の方法により製造されたPDPにおいては、放電維持電圧のばらつきは5V以下となった。
なお、図2に示す台形状の温度プロフィールは1例であり、このプロファイルに限定されるものではない。図2においては、「減圧焼成」工程と「封着」工程のプロフィールを同一形状で示しているが、同一である必要はなく、むしろ相互に異なるほうが普通である。
次に、本実施形態の変形例について説明する。図3は本変形例に係るPDPの製造方法を示すフローチャート図である。図3のステップS6に示すように、本変形例においては、封着工程を大気雰囲気中で行う。本変形例におけるこれ以外の工程は、前述の第1の実施形態と同様である。本実施形態では、封着工程において、背面基板1と前面基板17とを重ね合わせて仮固定し、大気雰囲気中でフリットガラスが軟化する温度と同程度又はそれより少し高い温度に加熱する。この温度は、例えば400乃至480℃とする。これにより、フリットガラスが溶解し、背面基板1と前面基板17とが相互に連結される。
本変形例においては、大気圧中で封着を行うが、基板上に形成されたフリットガラス中に実質的に気泡及びバインダー成分の残渣が含まれていないため、封着工程においてフリットガラスが軟化しても、フリットガラスからガスが発生することがなく、パネル内が汚染されることがない。また、封着工程を大気雰囲気中で行うことにより、PDPの製造コストを低減することができる。本変形例における上記以外の効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
次に、本発明の参考例について説明する。図4は第1の参考例に係るPDPの製造方法を示すフローチャート図である。本参考例においては、フリットガラスペーストとして、はじめからバインダー成分が含まれていないバインダーフリーペーストを使用する。このバインダーフリーペーストの組成は、前述の第1の実施形態において使用したフリットガラスペーストからバインダー成分を除いたものである。また、本参考例におけるフリットガラスペースト(バインダーフリーペースト)を塗布する工程よりも前の工程は、前述の第1の実施形態と同様である。
前述の第1の実施形態と同様な方法により、背面基板1上に蛍光体層12等を形成した後、図4のステップS11に示すように、背面基板1(図11参照)の表面にバインダーフリーペーストを塗布する。このバインダーフリーペーストはバインダー成分を含まないため、前述の第1の実施形態に示すような脱バインダー工程は不要であり、バインダーフリーフリットペーストを基板に塗布後、ステップS12に示すように「バインダーフリーフリットペースト乾燥」工程を行い、そのまま直ちに図4のステップS13に示す「減圧焼成」工程を行うことが可能である。その後、図4のステップS14に示すように、真空雰囲気中又は大気雰囲気中で封着工程を行う。図4に示す各工程の条件は、前述の第1の実施形態と同様である。また、封着工程より後の工程も、前述の第1の実施形態と同様である。
本参考例においては、フリットガラスペーストとしてバインダーフリーのペーストを使用するため、塗布性が低く、また塗布及び乾燥後にペーストが基板から剥離しやすい。このため、作業時には注意が必要である。但し、本参考例においては、前述の第1の実施形態と比較して、脱バインダー焼成工程を省略できるという大きな利点がある。本参考例における上記以外の効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
なお、前述の第1の実施形態及び参考例においては、フリットガラスをほぼ完全に溶融したままで焼成した後、組立・封着工程を行っているが、フリットガラスの粒子同士が焼結し、粒子同士の間に間隙が残った状態に留めた段階でフリット焼成を完了し、その後組立・封着工程を行うことも可能である。但し、この場合は、粒子間の間隙が相互にほぼ連通し、この間隙がフリットの外部にも連通していることが必要である。間隙がフリットの外部に連通されていれば、粒子間に存在する空気及びガスをこの間隙を介してフリットの外部に排気することができる。これにより、封着を真空雰囲気中で行う場合においても、気泡の発生を大幅に抑えることができる。
次に、本発明の第2の参考例について説明する。図5は本参考例に係るPDPの製造方法を示すフローチャート図であり、図6(a)及び(b)はこのPDPの製造方法を工程順に示す平面図である。本参考例においては、前述の第1の実施形態のように、基板上にペースト状のフリットガラスを塗布して、乾燥、脱バインダー、焼成を行う替わりに、予め棒状又はシート状等の所定の形状に整形されたフリットガラス部材を基板上に配置する。
即ち、図6(a)に示すように、前述の第1の実施形態と同様な方法により、背面基板1上に、データ電極10(図11参照)、白色誘電体層11(図11参照)、隔壁2及び蛍光体層12(図11参照)を形成し、前面基板17(図11参照)上に透明電極15(図11参照)、バス電極16(図11参照)、透明誘電体層13(図11参照)及び保護層(図示せず)を形成する。
一方、図6(b)に示すように、棒状の整形済みフリットガラス部材3を4本作製する。整形済みフリットガラス部材3の作製方法は、一般に知られているガラス棒及びガラス管等の製造方法と同様でよい。
次に、図5のステップS21に示すように、「整形済みフリット配置」工程において、予め棒状に整形された4本の整形済みフリットガラス部材3を、背面基板1の表面における隔壁2が形成された領域の周囲に、矩形の枠状に配置する。この整形済みフリットガラス部材3の組成は、前述の第1の実施形態で説明したフリットガラスペースト中のガラス成分と同様であるが、大きな違いはフリットガラスが粉末状ではなく、棒状又はシート状等に整形されている点である。従って、本参考例においては、基板上にフリットガラスを形成する工程は、ステップS21に示す「整形済みフリット配置」工程だけでよく、「フリットペースト乾燥」工程は不要である。また、整形済みフリットガラス部材3にはバインダー成分は含まれていないので、「脱バインダー焼成」工程も不要である。
次に、図5のステップS22に示すように、「封着」工程を行う。封着工程の条件は、前述の第1の実施形態又はその変形例における封着工程と同様である。即ち、封着工程は大気雰囲気中で行ってもよく、真空雰囲気中で行ってもよい。本実施形態における上記以外の方法は、前述の第1の実施形態と同様である。
本参考例においては、整形済みフリットガラス部材3にバインダー成分及び気泡等が実質的に含まれていないため、封着を真空中で行っても大気中で行っても共に良好な封着が可能であり、パネルの均一性及び信頼性が高いという前述の第1の実施形態と同様な効果が得られる。特に、本参考例の利点は、ペーストの塗布工程及び乾燥工程が不要であり工程が大幅に短縮できること、フリット塗布工程に起因する不良、即ち、フリットペーストの飛散による画素欠陥等が発生せず歩留まりが高いこと、整形済みフリットガラス部材3の製造段階で断面形状を管理しておけばフリットの膜厚が安定し、面倒なフリット塗布時の膜厚管理及びフリットペーストの粘度管理が不要であること等である。このように、本参考例においては、高品質なPDPを高い歩留まりで低コストに製造することができる。
なお、本参考例においては、図6(b)に示すように、4本の棒状の整形済みフリットガラス部材3を、隔壁2の形成領域の周囲に矩形の枠を形成するように配置しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、より短い整形済みフリットガラス部材を5本以上配置してもよい。また、隣り合う整形済みフリットガラス部材3の間には若干の隙間があってもよく、また接していてもよい。更に、整形済みフリットガラス部材の配置方法は枠状に限定されず、L字形状又はコ字形状でも良く、矩形の枠状の整形済みフリットガラス部材を予め一体的に整形して配置してもよい。更にまた、整形済みフリットガラス部材の長さはもっと短くてもよく、例えばブロック状又はボール状でもよい。更にまた、整形済みフリットガラス部材の断面形状は任意でよく、断面形状が円形であるロッド状のガラス部材でもよく、断面形状が四角形である棒状のガラス部材でもよく、断面形状が薄い四角形であるシート状のガラス部材でもよく、断面形状が三角形又は楕円形等であってもよい。
また、前述の第1の参考例において説明したように、整形済みフリットガラス部材を、フリットガラス粒子同士が焼結し、且つ粒子間の間隙が相互にほぼ連通すると共にフリット部材の外部にも連通しているような焼結体としても、同様な効果を得ることができる。
次に、本発明の第3の参考例について説明する。図7(a)及び(b)は本参考例に係るPDPの製造方法を工程順に示す平面図である。本参考例は、前述の第2の参考例と比較して、整形済みフリットガラス部材を背面基板上に配置する前に、背面基板上に整形済みフリットガラス部材の位置決めのためのガイドを形成する点が異なっている。本参考例における上記以外の方法は、前述の第2の参考例と同様である。
即ち、図7(a)に示すように、背面基板1の表面に白色誘電体層11(図11参照)を形成した後に、隔壁2を形成する工程において、後の工程において整形済みフリットガラス部材3を配置する予定の領域を囲むように、枠状のガイド4を2重に形成する。ガイド4は隔壁2と同時に形成する。次に、蛍光体層12(図11参照)を形成する。次に、図7(b)に示すように、2本のガイド4の間の領域に、整形済みフリットガラス部材3を配置する。その後の工程は、前述の第2の参考例と同様である。
本参考例においては、背面基板1上にガイド4を形成することにより、整形済みフリットガラス部材3の位置決めがより容易且つ正確になり、また、封着工程において、背面基板1と前面基板とを重ね合わせてパネルを組み立てる際に、整形済みフリットガラス部材3の位置がずれることを防止できる。また、ガイド4を隔壁2と同一工程で形成することにより、ガイド4を形成するための専用の工程を設ける必要がなく、工程数が増加しない。本参考例における上記以外の効果は、前述の第2の参考例と同様である。
なお、ガイド4は、図7(b)に示すような連続した形状には限定されず、整形済みフリットガラス部材3の位置決めが容易になる形状であればよく、例えば点線状であってもよい。
次に、本発明の第4の参考例について説明する。図8(a)及び(b)は本参考例に係るPDPの製造方法を工程順に示す平面図であり、図9(a)は図8(b)に示す工程を示す部分平面図であり、(b)は(a)に示すA−A’線による断面図である。図15(a)及び(b)に示す従来の技術においても説明したように、封着時に基板表面に吸着した水分等を除去するために、フリットガラスに突起部を形成する方法が知られている。本参考例は、この突起部を、整形済みフリットガラス部材を使用して実現する例である。本参考例は、前述の第3の参考例と比較して、整形済みフリットガラス部材のガイドとして梯子状のガイドを形成する点が異なっている。
本参考例においては、図8(a)に示すように、白色誘電体層11(図11参照)を形成した後の背面基板1上に、隔壁2の形成と同時に梯子状ガイド5を形成する。図8(a)及び図9(a)に示すように、この梯子状ガイド5の形状は、隔壁2の形成領域を囲むように、背面基板1の端縁に沿って延在する2本の枠状の枠状部5aと、この2本の枠状部5a同士を連結する複数本の連結部5bとから構成されている。その後、白色誘電体層11上及び隔壁2の側面に、蛍光体層12を形成する。
次に、図8(b)並びに図9(a)及び(b)に示すように、背面基板1の表面における2本の枠状部5aの間の領域に、連結部5bを跨ぐように、整形済みフリットガラス部材3を配置する。このとき、整形済みフリットガラス部材3における連結部5b上に位置する部分は、連結部5bにより背面基板1から持ち上げられ、背面基板1と整形済みフリットガラス部材3との間に隙間が形成される。本参考例における上記以外の方法は、前述の第3の参考例と同様である。
本参考例においては、整形済みフリットガラス部材3と背面基板1との間に隙間が形成されることにより、封着工程において、基板表面に吸着している水分等を効率よく排気することができる。また、前述の図15(a)及び(b)に示す従来のPDPの製造方法のように、フリットガラスペースト7を塗布する際にフリットペースト突起部8を設ける方法においては、フリットガラスペーストの塗布工程を2回繰り返す必要があり、工程が増加するという欠点がある。これに対して、本実施形態においては、隔壁2を形成する工程において梯子状ガイド5を形成しているため、工程数が増加することがない。本参考例における上記以外の効果は、前述の第3の参考例と同様である。
なお、本参考例においては、ガイドの形状を梯子状としたが、本発明はこれに限定されず、整形済みフリットガラス部材3を基板から持ち上げる部分、即ち、基板上に突起となる構造物が形成されればよい。例えば、突起状構造物は必ずしも梯子状ガイド5の連結部5b上のように、ガイドの機能を果たす部分(枠状部5a)と連結されている必要ななく、ドット状等の独立したパターンでもよい。
次に、本発明の第5の参考例について説明する。図10(a)は本参考例に係るPDPの製造方法を示す平面図であり、(b)は(a)に示すB−B’線による断面図である。図10(a)及び(b)に示すように、本参考例においては、整形済みフリットガラス部材3の長手方向に交差する方向、例えば直交する方向に突出するように、整形済みフリット突起部6を形成する。そして、整形済みフリットガラス部材3を背面基板1上に配置するときに、突起部6が背面基板1の表面に垂直な方向に起立するように配置している。本参考例における上記以外の方法は、前述の第2の参考例と同様である。
本参考例においては、整形済みフリットガラス部材3に整形済みフリット突起部6を形成することにより、封着工程において、この突起部6が整形済みフリットガラス部材3と前面基板との間に隙間を形成する。この結果、封着工程において、基板表面に吸着した水分等を効率よく排気することができる。本参考例における上記以外の効果は、前述の第2の参考例と同様である。
なお、本参考例においても、前述の第3の参考例と同様に、整形済みフリットガラス部材3を位置決めするためのガイドを設けてもよい。この場合、ガイドには、第5の実施形態に示す梯子状ガイドのように、整形済みフリットガラス部材3を持ち上げる突起部を形成する必要はない。また、本参考例においては、整形済みフリット突起部6を、整形済みフリットガラス部材3の長手方向に直交する一方向に突出するように形成し、整形済みフリットガラス部材3を基板上に配置するときに、突起部6が基板表面に垂直な方向に起立するように配置しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、整形済みフリットガラス部材3の幅を部分的に太くしても同様な効果が得られる。
次に、本発明の第6の参考例について説明する。本参考例は、前述の各参考例において、真空雰囲気中で封着を行う際に、パネル内の気体を排気するためにパネルに連結する排気管を固定するためのフリットガラスを整形済みフリットガラス部材により形成する例である。従来、排気管をパネルに固定するためのフリットガラスは、フリットガラスペーストを塗布して形成するか、フリットガラスをバインダーにより固めた整形材を使用する。しかし、このようにして形成されたフリットガラスには、バインダーが含まれているため、真空雰囲気中において封着を行うと、フリットガラスが発泡してパネルにリークが発生する。
これを防ぐためには、バインダー成分が実質的に含まれていない整形済みのフリットガラスを使用すればよい。整形済みのフリットガラスは、例えば以下に示すような方法により整形することができる。即ち、フリットガラスをアクリル等のバインダー及び溶剤と混合させて、この混合物を練り、型に入れて整形する。次に、フリットガラスが焼結する温度まで加熱する。このとき焼結したフリットガラスの粒子間の間隙が相互にほぼ連通され外部とも連通されるように、焼結条件を調整する。この方法以外にも大気圧中でバインダーが燃焼・分解する温度で焼成し、その後、真空雰囲気中で焼成する方法もある。フリットガラスは軟化温度が低いため、整形が容易である。これにより、真空雰囲気中において封着を行っても、パネルにリークが生じることをより確実に防止できる。
なお、前述の各参考例においては、背面基板上にフリットガラスを形成する例を示したが、フリットガラスは前面基板上に形成してもよく、前面基板上と背面基板上の双方に形成してもよい。これらの場合においても、フリットガラスの形成方法は、前述の第1実施形態及び各参考例と同様である。
また、上述の実施形態においては、表示パネルとしてAC面放電型の反射型プラズマディスプレイパネルを製造する例を示したが、本発明はこれに限定されず、他の方式のプラズマディスプレイパネルにも適用可能であることは言うまでもない。もちろん、2枚の基板をフリットガラスによって封着する工程を含む表示パネル、例えば、フィールドエミッションディスプレイ(FED)及び蛍光表示管(VFD)等においても、本発明は適用可能である。