本発明は、スタビライザバーを備えて車体のロールを抑制するためのスタビライザシステムに関し、詳しくは、スタビライザバーの剛性を変化させることが可能なスタビライザシステムに関する。
スタビライザシステムは、スタビライザバーの剛性を利用して、例えば車両旋回時における車体のロールを抑制するシステムである。近年では、いわゆるアクティブスタビライザと呼ばれるシステム、詳しくは、アクチュエータによってスタビライザバーの剛性を車両の旋回状態に応じて変化させることで、効果的にロールを抑制するシステムが検討されている。検討されているアクティブスタビライザとして、例えば、下記特許文献に記載されたシステムを挙げることができる。ちなみに、下記特許文献に記載されているシステムは、駆動源としてのモータと減速機とを有するアクチュエータを備えたシステムである。
特表2002−518245号公報
上記特許文献に記載のスタビライザシステムのように、電動モータと減速機とを備えたアクチュエータを採用したスタビライザシステムを構築する場合、モータの出力によって、車体が受けるロールモーメントに対抗するロール抑制モーメントをスタビライザバーに発揮させるように構成する。つまり、アクチュエータは、上記ロールモーメントに起因する負荷が加わった状態で作動させられることになる。そのようなシステムの場合、上記負荷に抗してアクチュエータを動作させるのに必要なモータの出力(平たく言えば、アクチュエータを推し進めるのに必要な出力)と、上記負荷によってもアクチュエータを動作させられないために必要なモータ出力(平たく言えば、アクチュエータが推し戻されないための出力)とが、互いに異なるものとなる。典型的な車両の旋回を例にとって具体的に言えば、例えば、旋回初期(車体が受けるロールモーメントが増加している段階)でのモータ出力と、旋回中期(ロールモーメントが変化しない段階)および旋回終期(ロールモーメントが減少している段階)でのモータ出力とは、車体が同じ大きさのロールモーメントを受けている場合であっても、必要とされるモータ出力は異なるものとなるのである。つまり、アクチュエータは、互いに異なる正効率と逆効率とを有しており、システム設計においてその相違を考慮することが重要となる。詳しく言えば、搭載させるべきモータの決定、ロール制御のアルゴリズムの決定等において、アクチュエータの逆効率を参酌することで、実用的なアクティブスタビライザが実現されるのである。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、スタビライザシステムの実用性の向上を図ることを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明に従う第1のスタビライザシステムは、アクチュエータが備えるモータの最大出力が、逆効率依拠最大出力(アクチュエータの逆効率に基づいて定まるところの、通常の旋回状態において車両が受ける最大のロールモーメントとして設定された設定最大ロールモーメントに対抗可能なロール抑制モーメントを発生させることが可能な出力)に基づいて設定されたことを特徴とする。
また、上記課題を解決するために、本発明に従う第2のスタビライザシステムは、アクチュエータの動作量に基づくフィードバック制御によってモータへの供給電力を決定することでアクチュエータの作動制御が実行されており、そのフィードバック制御が、PI制御則とPDI制御則との一方に従う制御とされるとともに、積分項によって規定されるモータへの供給電力成分が、アクチュエータの逆効率に基づいて定まるモータの出力を実現する大きさの供給電力に基づいて決定される制御とされたことを特徴とする。
上記第1のスタビライザシステムは、設定最大出力が、アクチュエータの逆効率を参酌して設定されている。したがって、そのスタビライザシステムによれば、上記設定最大モーメントに対抗するためのロール抑制モーメントを発揮させる場合に過分なモータ出力とならないようなモータを採用することが可能であり、モータの小型化,ひいては,アクチュエータの小型化が図れることになる。そのような利点により、上記第1のスタビライザシステムは、実用性に優れたアクティブスタビライザシステムとなる。
また、上記第2のスタビライザシステムでは、アクチュエータの動作量に応じて、常時、アクチュエータの逆効率を参酌して決定された供給電流がモータに供給されることになる。そのため、そのスタビライザシステムによれば、ロールモーメントによってアクチュエータが過度に推し戻されることがないような供給電流が常時供給され、好適なアクティブロール制御が、簡単な制御手法によって実現されることになる。そような利点により、上記第2のスタビライザシステムは、実用性に優れたアクティブスタビライザシステムとなる。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。本願発明を含む概念である。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、下記(1)項は、請求可能発明の態様ではなく、(1)項に(2)項以下の各項が組み合わされることによって構成される請求可能発明の態様において、それの前提項としての機能を果たすものである。請求項と以下の各項との関係を説明すれば、(1)項と(2)項と組み合わせたものが請求項1に相当し、請求項1に(3)項を組み合わせたものが請求項2に、請求項1または請求項2に(7)項および(9)項を組み合わせたものが請求項3に、それぞれ相当し、また、(1)項,(7)項,(9)項を組み合わせたものが、請求項4に相当する。
(1)両端の各々が左右の車輪の各々に接続されるスタビライザバーと、モータと減速機とを備えてそのモータの出力によって動作するアクチュエータとを含んで構成され、旋回によって車体が受けるロールモーメントに対抗するロール抑制モーメントを発生させるとともに、前記アクチュエータの動作によって前記スタビライザバーの剛性を変化させることが可能な車両用スタビライザシステム。
本項は、先に説明したように、請求可能発明の態様の前提となる構成要素によって構成されたスタビライザシステムの態様を表した項である。本項の態様のスタビライザシステムは、いわゆるアクティブスタビライザと呼ぶことのできるスタビライザシステムである。本項のスタビライザシステムによれば、車体が受けるロールモーメントに応じてスタビライザバーの剛性を変化させる制御、言い換えれば、スタビライザバーの剛性を変化させることで、車両の旋回状態に応じた適切なロール角度を実現する制御、すなわち、いわゆるアクティブロール制御が可能となる。
本項に記載のスタビライザシステムが備える「スタビライザバー」は、形状,構造等が特に限定されるものではない。例えば、捩じられることによってロール抑制モーメントを発生させるような構造のものとすることが可能である。具体的には、アクチュエータを備えていない一般的なスタビライザシステム(以下、「コンベンショナルなスタビライザシステム」、あるいは、「コンベンショナルシステム」という場合がある)が備えるスタビライザバーに類似する構造のものを採用することが可能であり、また、後に説明するように、そのコンベンショナルシステムが備えるスタビライザバーを1対のスタビライザバー部材に分割し、その分割された1対の部材によって1つのスタビライザバーが構成されているような構造のスタビライザバーを採用することも可能である。
本項のシステムが備える「アクチュエータ」は、動作することによって、スタビライザバーを変位,変形させ、あるいは、何らかの力を作用させることで、スタビライザバーの剛性を変化させる構造のものとすることが可能である。ここでいう、「剛性」とは、例えば、捩り剛性を意味する(スタビライザバーが有する弾性力と考えることもできる)。また、「剛性を変化させる」とは、スタビライザバー自体の物性値としての剛性を変化させることを意味するのではなく、いわゆる見かけ上の剛性を変化させることを意味する。具体的に言えば、例えば、左右の車輪の各々に連結される(厳密には、サスペンションアーム等の車輪保持部材に連結される)両端部の各々の相対変位量と、発生させるロール抑制モーメントとの関係を変更することを意味する。詳しくは、車体のロール角がある角度となる場合においてスタビライザバーによって発生させられるロール抑制モーメントの大きさを変化させること、換言すれば、ある大きさのロール抑制モーメントが発生する場合における車体のロール角の大きさを変化させることを意味する。
上記アクチュエータの配設箇所も特に限定されない。例えば、スタビライザバーが、先に説明したコンベンショナルシステムが備えるスタビライザバーに類似するものであれば、それの一方の端部と一方の車輪との間に配設し、その端部とその車輪との間隔を変化させるようにすることが可能である。また、スタビライザバーが、先に説明した1対のスタビライザバー部材を有するものである場合には、後に説明するように、それら1対のスタビライザバー部材の間に配設し、それらの相対回転角度を変化させるようにすることが可能である。
アクチュエータが備える「モータ」は、いわゆる電動モータ(電磁式モータ)であり、その形式等が特に限定されるものではなく、DCブラシレスモータ,誘導モータ,同期モータ,ステッピングモータ,リラクタンスモータ等、種々の形式のモータを採用することが可能である。なお、それらの中でも、DCブラシレスモータは、制御性が良好であるため、アクティブスタビライザが備えるアクチュエータの駆動源として好適である。なお、動作に関して言えば、アクチュエータが備えるモータは、回転モータであってもリニアモータであってもよい。なお、本項にいう「モータの出力」とは、例えば、モータが発揮する力を意味する。また、モータの出力は、一般的には、モータへの供給電力(駆動電力と呼ぶこともできる)に応じたものとなる。
アクチュエータが備える「減速機」は、モータの出力を増減させてアクチュエータの出力として伝達する装置であり、その機構が特に限定されるものではない。減速機がモータの回転速度を減速して伝達するものである場合、例えば、ハーモニックギヤ機構(ハーモニックドライブ機構(登録商標),ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構とも呼ばれる)、サイクロイド減速機構,複数段構成のプラネタリギヤ機構等を採用する変速比の大きな(例えば、入力回転速度に対する出力回転速度が小さいの意味である)減速機とすることができる。このような変速比の大きな減速機を採用すれば、モータの小型化、ひいては、アクチュエータの小型化が可能となる。なお、後に説明するように、アクチュエータの正効率,逆効率は、減速機の機構に依存するものとなることから、逆効率に鑑みてそれを有効的に利用するシステムを構築する場合には、比較的変速比の大きな減速機を採用することが望ましい。その点において、上記例示した機構の中でも、ハーモニックギヤ機構は好適であり、ハーモニックギヤ機構を採用する場合、具体的には、変速比(入力回転速度に対する出力回転速度の比)が1/100〜1/300程度のものを採用することが望ましい。
本項の態様におけるアクチュエータ、詳しくは、アクチュエータが有するモータは、例えば、コンピュータを主体として構成される制御装置によって制御することが可能である。そのような制御装置によれば、アクティブロール制御を、詳しくは、アクティブロール制御のためのアクチュエータの制御を容易に実行することが可能となる。ここでいう「旋回状態」とは、例えば、どのようなロールモーメントを車体が受けているかといったようなことを意味する。旋回状態は、それを指標する旋回状態量(例えば、横加速度,ヨーレート等)によって、定量的に把握することが可能である。アクティブロール制御は、例えば、横加速度センサ,ヨーレートセンサ等を用いて旋回状態量を検出し、あるいは、車速センサ等によって検出された車両走行速度(車輪回転速度であってもよい)と操舵量センサによって検出された操舵量(中立位置からの偏差を意味し、ステアリング操作部材の操作量であってもよく、車輪の転舵量であってもよい)とに基づいて旋回状態量を推定し、その検出された旋回状態量と推定された旋回状態量との少なくとも一方に基づいて、車体が適切なロール角となるようにアクチュエータの動作量,出力等を決定し、その決定された動作量等に基づいてモータの駆動を制御することよって実行可能である。
(2)前記モータの設定最大出力が、通常の旋回状態において車体が受ける最大のロールモーメントとして設定された設定最大ロールモーメントに対抗可能なロール抑制モーメントを発生させる出力であって前記アクチュエータの逆効率に基づいて定まる逆効率依拠最大出力に基づいて設定された(1)項に記載の車両用スタビライザシステム。
本項に記載の態様は、平たく言えば、アクチユエータが備えるモータとして、それの設定最大出力がアクチュエータの逆効率に基づいて設定されたモータを採用する態様である。ここでいう「設定最大出力」とは、アクチュエータの有する特性値の1つと考えることができ、モータの仕様,モータの駆動電源の仕様等を決定付けるパラメータとなり得る。設定最大出力を小さくすれば、モータの小型化ひいてはアクチュエータの小型化、駆動電源の小型化等が可能となる。
また、本項にいう「設定最大ロールモーメント」とは、上述のように、通常の旋回状態において車体が受ける最大のロールモーメントであり、車両の構成によって異なるものとなる。なお、ここでいう「通常の旋回状態」とは、例えば、旋回内輪が浮き上がる、スピン等の過度の横すべりが生じるといった、過度な旋回状態ではなく、比較的良好な路面を普通に車両が走行する速度範囲において、普通に考えられる範囲の操舵操作の下、車両が旋回している状態を意味する。設定最大ロールモーメントは、通常の旋回状態において最大の旋回状態量となる旋回において車体に作用するロールモーメントであり、例えば、旋回状態量として横加速度を用いて表現すれば、設定最大ロールモーメントは、0.7〜1.5G程度の横加速度が生じている状態におけるロールモーメントをもって設定すればよい。
本項にいう、アクチュエータの「逆効率」とは、あるアクチュエータへの負荷によってもアクチュエータが動作させられないために必要なモータの出力のそのアクチュエータへの負荷に対する比を意味する。平たく言えば、いわゆる逆入力におけるアクチュエータの負荷に対するモータの出力の比を意味する。したがって、アクチュエータの逆効率に従ったモータの出力であれば、ロールモーメントによってもアクチュエータが推し戻されない状態を作り出すことができ、車体のロール角の増加変動を積極的に抑制することはできないものの、当該システムに要求されるロール抑制モーメント(詳しく言えば、例えば、サスペンションスプリング等による分担分を除いたロール抑制モーメントである)をスタビライザバーに発揮させることができることになる。逆効率に相対する概念を正効率とすれば、アクチュエータの「正効率」とは、あるアクチュエータへの負荷に抗してアクチュエータを動作させるのに必要なモータの出力に対するそのアクチュエータへの負荷の比と考えることができる。したがって、アクチュエータの正効率に従ったモータの出力であれば、ロールモーメントに抗ってアクチュエータを推し進めることが可能な状態を作り出すことができ、当該システムに要求されるロール抑制モーメントをスタビライザバーに発揮させつつ、車体のロール角の増加変動を積極的に抑制することができることになる。このように、逆効率に従うアクチュエータの特性(以下、「逆効率特性」という場合がある)と、正効率に従うアクチュエータの特性(以下、「正効率特性」という場合がある)とは、互いに相違しているのである。
そこで、本項の態様では、正効率特性と逆効率特性との違いに鑑み、設定最大出力が逆効率に基づいて設定されている。詳しく言えば、上記設定最大ロールモーメントに対して当該システムに要求されるロール抑制モーメントを発生させることのできるモータ出力であって上記逆効率に従って定まるモータの出力を、「逆効率依拠最大出力」として定め、その逆効率依拠最大出力に基づいて、設定最大出力が設定されているのである。したがって、本項の態様によれば、モータの出力が過分な出力とならないようなシステム設計が可能となり、実用的な範囲において充分なロール抑制効果が得られるとともに、モータの小型化、ひいては、アクチュエータの小型化等が可能となるのである。なお、設定最大出力を逆効率依拠最大出力に近い値とすれば、相当に大きなロールモーメントに対しては、車体のロール角の増加変動を積極的に抑制することができないものの、通常の車両の旋回状態において当該システムに最大要求されるロール抑制モーメントに近いロール抑制モーメントを発生させることができることになる。その点に鑑みれば、本項に記載の態様では、設定最大出力は、上記逆効率依拠最大出力の20%以上とすることが望ましく、さらには、40%以上とすることが望ましい。
(3)前記モータの設定最大出力が、前記逆効率依拠最大出力以上に設定された(2)項に記載の車両用スタビライザシステム。
本項に記載の態様によれば、上述したような理由により、通常の車両の旋回状態において当該システムに要求されるロール抑制モーメントの発生が、充分に担保されることになる。
(4)前記モータの設定最大出力が、前記最大ロールモーメントに対抗するためのロール抑制モーメントを発生させる出力であって前記アクチュエータの正効率に基づいて定まる正効率依拠最大出力以上に設定された(3)項に記載の車両用スタビライザシステム。
先に説明したように、アクチュエータの正効率に基づけば、車体のロール角の増加変動を積極的に抑制することができる。本項にいう「正効率依拠最大出力」とは、上記設定最大ロールモーメントに対して当該システムに要求されるロール抑制モーメントを発生させることのできるモータ出力であって上記正効率に従って定まるモータの出力を意味する。したがって、本項に記載の態様によれば、通常の車両の旋回状態において当該システムに要求されるロール抑制モーメントを常時発生させることができることに加え、通常の車両の旋回状態において、常時、車体のロール角の増加変動を積極的に抑制することが可能となる。なお、本項の態様では、モータの小型化,アクチュエータの小型化等の観点からすれば、正効率依拠最大出力を設定最大出力として設定することがより望ましい。
(5)前記モータの設定最大出力が、前記最大ロールモーメントに対抗するためのロール抑制モーメントを発生させる出力であって前記アクチュエータの正効率に基づいて定まる正効率依拠最大出力を超えないように設定された(3)項に記載の車両用スタビライザシステム。
本項に記載の態様では、設定最大出力が、上記逆効率依拠最大出力以上かつ上記正効率依拠最大出力以下に設定されている。そのため、本項の態様によれば、通常の車両の旋回状態において当該システムに要求されるロール抑制モーメントを常時発生させつつ、実用的な範囲において、ロール角の増加変動を積極的に抑制することが可能となる。つまり、本項の態様によれば、モータの小型化,アクチェータの小型化等による効果と、ロール抑制効果とのバランスのとれたスタビライザシステムが実現する。
(6)前記モータの設定最大出力が、前記モータへの供給電力の上限を定めることによって設定された(2)項ないし(5)項のいずれかに記載の車両用スタビライザシステム。
モータの出力は、モータに供給される電力(モータの「駆動電力」と呼ぶこともできる)に依存し、一般的には、モータへの供給電力に比例するものとなる。本項の態様は、そのことに基づく態様であり、例えば、モータへの最大供給電力を設定することで、モータの設定最大出力を設定する態様である。なお、モータが定電圧で駆動ようにされている場合には、最大供給電流(最大駆動電流)を設定することによって、設定最大出力を設定することができる。
(7)当該車両用スタビライザシステムが、前記スタビライザバーの剛性を車両の旋回状態を指標する旋回状態量に応じるものとすべく前記モータへの供給電力を決定して前記アクチュエータを制御する制御装置を含んで構成された(1)項ないし(6)項のいずれかに記載の車両用スタビライザシステム。
本項に記載の態様は、車両の旋回状態に応じてスタビライザバーの剛性を変化させる制御、いわゆるアクティブロール制御を実行可能とする一態様である。本項にいう「旋回状態量」は、例えば、車両に発生している横加速度、車両のヨーレートといったものを含む概念である。それらは、実測されるものに限定されず、例えば、車両走行速度,車輪回転速度等と操舵量,旋回半径等とに基づいて推定されるものであってもよい。つまり、本項の態様は、旋回状態量に直接的に基づく制御が行われる態様であってもよく、また。車両走行速度等と操舵量等に基づくことで、間接的に旋回状態量に基づく制御が行われる態様であってもよく、さらには、それらが複合された態様であってもよい。
(8)前記制御装置が、旋回状態量が増加する場合において、前記アクチュエータの正効率に依拠する前記モータの出力に基づいて前記モータへの供給電力を決定するとともに、旋回状態量が維持される場合および減少する場合において、前記アクチュエータの逆効率に依拠する前記モータの出力に基づいて前記モータへの供給電力を決定するように構成された(7)項に記載の車両用スタビライザシステム。
本項に記載の態様は、前述したアクチュエータの逆効率を参酌してアクティブロール制御を行う一態様であり、旋回状態量の変動状態に依拠する制御を行う一態様である。車両の典型的な一旋回動作を例にとれば、その一旋回動作は、概して言えば、旋回初期、旋回中期、旋回後期に区分することができる。車両の走行速度が殆ど変化しないことを前提とすれば、旋回初期においては、例えば、操舵量が増加しそれにつれて横加速度が増加する段階であり、その段階においては、時間の経過につれてロールモーメントも増加する。旋回中期は、操舵量が一定とされて横加速度が一定となる段階であり、その段階においては、ロールモーメントは一定の値を呈する。旋回後期は、操舵量が減少しそれにつれて横加速度が減少する段階であり、その段階においては、時間の経過につれてロールモーメントが減少することになる。一旋回動作をこのように区分すれば、旋回初期においては、ロールモーメントの増加に抗してアクチュエータを動作させることによって、ロール角の増加変動を積極的に抑制することができる。そのため、旋回初期では、アクチュエータの正効率に基づいてモータの出力を決定することが望ましいのである。それに対し、旋回中期においては、ロールモーメントが一定であるため、ロールモーメントによってアクチュエータが動作させられない状態、いわゆる、逆入力に対して抵抗できる状態とすればよいことから、省電力という観点からすれば、逆効率に基づいてモータの出力を決定することが望ましい。さらに、旋回後期においては、旋回中期と同様の理由から、逆効率に基づいてモータの出力を決定することが望ましく、また、ロールモーメントの減少に伴ってロール抑制モーメントを減少させる必要があることから、制御の追従性という観点からも、逆効率に基づいてモータの出力を決定することが望ましいのである。
本項に記載の態様は、前述のように、アクチュエータの作動が、車両の旋回状態量の増減によって、正効率特性に基づく作動と逆効率特性に基づく作動との間で選択されるような態様と考えることもできる。したがって、本項の態様によれば、先に説明したような理由から、アクティブロール制御を、効果的に行うことが可能である。なお、本項の態様における制御は、例えば、旋回状態量の変化状態を認識し、その認識の結果に基づいて、アクチュエータの作動モードを、正効率特性に基づく作動モードと、逆効率特性に基づく作動モードとの間で切り換えるようにして行うことが可能である。なお、ここでいう「モータへの供給電力を決定する」ことは、例えば、モータが定電圧で駆動されるものである場合には、モータへの供給電流を決定することによって可能となる。
(9)前記制御装置が、前記アクチュエータの動作量に基づくフィードバック制御を実行するものであり、そのフィードバック制御が、PI制御則とPDI制御則との一方に従う制御とされるとともに、積分項によって規定される前記モータへの供給電力成分が前記アクチュエータの逆効率に基づいて定まる前記モータの出力を実現する大きさの供給電力に基づいて決定される制御とされた(7)項または(8)項に記載の車両用スタビライザシステム。
本項に記載の態様は、アクティブロール制御を実行するための具体的な制御手法を限定した態様である。PI制御とPDI制御といったフードバック制御は、例えば、いわゆる積分項(I項)の存在によって、定常偏差を解消する制御と考えることができる。アクティブロール制御では、アクチュエータが旋回状態量に応じたロールモーメントへの対抗力を発生する状態とされることで、アクチュエータの動作量の定常偏差を解消することが可能となる。この定常偏差を解消するための対抗力は、すなわち、逆効率特性に従って発生させるべきロール抑制モーメントに相当するものとなることから、PI制御とPDI制御との一方を採用し、積分項によって規定されるモータの供給電力の成分を、逆効率特性に基づいて、詳しく言えば、逆効率特性下でそのロール抑制モーメントを発生させるのに要するモータ出力に相当する大きさに基づいて決定すれば、旋回状態量に対応するある程度の定常的なロール抑制モーメントを発生させることができることになる。言い換えれば、例えば、アクチュエータが過度に推し戻されることがないような供給電流が常時供給されるようにすることも可能となるのである。
本項に記載の態様は、簡便な制御手法によって効果的なアクティブロール制御が実行できることから、その点において、当該スタビライザシステムの実用性を向上させることができる。ちなみに、本項にいう「積分項」は、アクチュエータの実際の動作量と目標動作量との偏差の積分値に基づく項と考えることができ、この積分値は、例えば中立位置を基準とした動作量に相当するものとなることから、積分項によって規定される供給電力成分は、アクチュエータの中立位置からの動作量によって定まる供給電力成分と考えることもできる。また、本項の態様においては、積分項によって規定されるモータへの供給電力成分は、アクチュエータの逆効率に基づいて定まるモータの出力を実現する大きさの供給電力の、少なくとも10%以上とすることが望ましく、さらには、20%以上とすることが望ましい。
なお、先に説明したように、旋回状態量が増加している状態においては、正効率特性に基づいて、モータの出力、つまり、モータへの供給電力が決定されることが望ましい。このようなことに鑑み、例えば、正効率によって定まる供給電力と逆効率によって定まる供給電力との差分が、比例項(P項)あるいは比例項および微分項(D項)によって規定される供給電力成分となるように、各項のゲインを調整することも可能である。そのような制御によれば、先に説明したような作動モードの切換え、つまり、旋回状態量の変動状態の認識結果に基づくアクチュエータの作動モードの切換えを行うことなく、簡便な制御手法によって、先に説明したところの、旋回状態量の変動状態に依拠する制御を実行できることになる。
本項にいうアクチュエータの「動作量」は、アクチュエータに関する何らかの変化量であって、アクチュエータの構造に応じた任意の変化量とすることが可能である。例えば、先に説明したように、アクチュエータが1対のスタビライザバー部材を相対回転させるものである場合には、それら1対のスタビライザバー部材の相対回転角度をもって動作量とすることができ、また、スタビライザバーの一方の端部と一方の車輪との間に配設されてそれらの間隔を変化させるものである場合には、その間隔をもって動作量とすることが可能である。
(10)前記フィードバック制御が、積分項によって規定される前記モータへの供給電力成分が前記アクチュエータの逆効率に基づいて定まる前記モータの出力を実現する大きさとなるような制御とされた(9)項に記載の車両用スタビライザシステム。
本項の態様は、PI制御あるいはPDI制御を行う場合に、積分項によって規定される供給電力成分が逆効率特性によって定まる電力となるような制御が実行される態様である。本項の態様によれば、簡便な制御手法によって、例えば、旋回状態量が維持される状態において、ロールモーメントによってアクチュエータが推し戻されず、かつ、その状態から旋回状態量が増加あるいは減少する場合において、ロールモーメントの変化に対するロール抑制モーメントの変化の追従性を良好なものとすることが可能となる。
(11)前記スタビライザバーが、
それぞれが、車幅方向に延びて配設されたトーションバー部と、そのトーションバー部の端部からトーションバー部と交差して延びて先端部が左右の車輪の一方に接続されるアーム部とを有する1対のスタビライザバー部材を含んで構成され、
前記アクチュエータが、動作することによってそれら1対のスタビライザバー部材のトーションバー部の相対回転角度を変更することで、前記スタビライザバーの剛性を変更するように構成された(1)項ないし(10)項のいずれかに記載の車両用スタビライザシステム。
本項に記載の態様は、スタビライザバーの構造を具体的に限定し、また、そのスタビライザバーとアクチュエータとの関係を具体的に限定した態様である。本項に記載の態様によれば、アクディブロール制御を効果的に実行可能なスタビライザシステムが実現する。
(12)前記アクチュエータが、前記モータおよび前記減速機を保持するハウジングを備え、前記1対のスタビライザバー部材の一方の前記トーションバー部の端部が前記ハウジングと相対回転不能に連結されるとともに前記1対のスタビライザバー部材の他方の前記トーションバー部の端部が前記減速機の出力軸に相対回転不能に連結される構造とされることで、前記1対のスタビライザバー部材のトーションバー部の相対回転角度を変更するものとされた(11) 項に記載の車両用スタビライザシステム。
本項に記載の態様は、スタビライザバーの構造およびスタビライザバーとアクチュエータとの関係を限定した態様において、さらにアクチュエータの構造を限定した態様である。本項に記載の態様によれば、アクディブロール制御をさらに効果的に実行可能なスタビライザシステムが実現する。
以下、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
<スタビライザシステムの全体構成>
図1に、本発明の一実施例である車両用スタビライザシステム10を概念的に示す。本スタビライザシステム10は、車両の前輪側、後輪側の各々に配設された2つのスタビライザ装置14を含んで構成されている。スタビライザ装置14はそれぞれ、両端部において左右の車輪16を保持する車輪保持部材(図2参照)に連結されたスタビライザバー20を備えている。そのスタビライザバー20は、中央部で分割されており、一対のスタビライザバー部材、すなわち右スタビライザバー部材22と左スタビライザバー部材24とを含む構成のものとされている。それら一対のスタビライザバー部材22,24がアクチュエータ30を介して相対回転可能に接続されており、大まかに言えば、スタビライザ装置14は、アクチュエータ30が、左右のスタビライザバー部材22,24を相対回転させることによって(図の矢印,点線矢印を参照のこと)、スタビライザバー20全体の見かけ上の剛性を変化させて車体のロール抑制を行う。
図2には、一方のスタビライザ装置14の車幅方向の中央から一方側の車輪16にかけての部分が概略的に示されている。本スタビライザシステム10が装備される車両は、それぞれが4つの車輪16の各々に対して設けられた4つの独立懸架式のサスペンション装置38を含んで構成されている。このサスペンション装置38は、一般によく知られたダブルウィシュボーン式のものであり、一端部が車体に回動可能に連結され、他端部が車輪16に連結された車輪保持部材としてのアッパアーム42およびロアアーム44を備えている。それらアッパアーム42およびロアアーム44は、車輪16と車体との接近離間(相対的な上下動の意味)に伴い、上記一端部(車体側)を中心に回動させられ、上記他端部(車輪側)が車体に対して上下させられる。また、サスペンション装置38は、ショックアブソーバ46と、サスペンションスプリング48(本装置では「エアばね」である)とを備えている。それらショックアブソーバ46およびスプリング48は、それぞれ、それらの一端部が車体側のマウント部に、他端部がロアアーム44に連結されている。このような構造から、サスペンション装置38は、車輪16と車体とを弾性的に相互支持するとともに、それらの接近離間に伴う振動に対する減衰力を発生させる機能を果たすものとなっている。
スタビライザ装置14は、先に説明した一対のスタビライザバーである右スタビライザバー部材22と左スタビライザバー部材24とを備える(図2には、右スタビライザバー部材22および左スタビライザバー部材24の一方が示されている)。各スタビライザバー部材22,24は、それぞれ、略車幅方向に延びるトーションバー部60と、トーションバー部60と一体化されてそれと交差して概ね車両前方あるいは後方に延びるアーム部62とに区分することができる。各スタビライザバー部材22,24のトーションバー部60は、アーム部62に近い箇所において、車体の一部であるスタビライザ装置配設部64に固定的に設けられた支持部材66によって回転可能に支持され、互いに同軸に配置されている。それらトーションバー部60の端部(車幅方向における中央側の端部)の間には、上述のアクチュエータ30が配設されており、後に詳しく説明するが、各トーションバー部60の端部は、それぞれ、そのアクチュエータ30に接続されている。一方、アーム部62の端部(トーションバー部60側とは反対側の端部)は、上述のロアアーム44に設けられたスタビライザバー連結部68に、それと相対回転可能に連結されている。
アクチュエータ30は、図3に模式的に示すように、電動モータ70と、電動モータ70の回転を減速する減速機72とを含んで構成されている。これら電動モータ70および減速機72は、アクチュエータ30の外殻部材であるハウジング74内に設けられている。ハウジング74は、ハウジング保持部材76によって、回転可能かつ軸方向(略車幅方向)に移動不能に、車体に設けられたスタビライザ装置配設部64に保持されている。図2から解るように、ハウジング74の両端部の各々には、2つの出力軸80,82の各々が延び出すように配設されている。それら出力軸80,82のハウジング74から延び出した側の端部が、それぞれ、各スタビライザバー部材22,24の端部と、セレーション嵌合によって相対回転不能に接続されている。また、図3から解るように、一方の出力軸80は、ハウジング74の端部に固定して接続されおり、また、他方の出力軸82は、ハウジング74内に延び入る状態で配設されるとともに、ハウジング74に対して回転可能かつ軸方向に移動不能に支持されている。その出力軸82のハウジング74内に存在する一方の端部が、後に詳しく説明するように、減速機72に接続され、その出力軸82は、減速機72の出力軸を兼ねるものとなっている。
電動モータ70は、ハウジング74の周壁の内面に沿って一円周上に固定して配置された複数のステータコイル84と、ハウジング74に回転可能に保持された中空状のモータ軸86と、モータ軸86の外周においてステータコイル84と向きあうようにして一円周上に固定して配設された永久磁石88とを含んで構成されている。電動モータ70は、ステータコイル84がステータとして機能し、永久磁石88がロータとして機能するモータであり、3相のDCブラシレスモータとされている。
減速機72は、波動発生器(ウェーブジェネレータ)90,フレキシブルギヤ(フレクスプライン)92およびリングギヤ(サーキュラスプライン)94を備え、ハーモニックギヤ機構(ハーモニックドライブ機構(登録商標),ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構等とも呼ばれる)として構成されている。波動発生器90は、楕円状カムと、それの外周に嵌められたボール・ベアリングとを含んで構成されるものであり、モータ軸86の一端部に固定されている。フレキシブルギヤ92は、周壁部が弾性変形可能なカップ形状をなすものとされており、周壁部の開口側の外周に複数の歯が形成されている。このフレキシブルギヤ92は、先に説明した出力軸82に接続され、それによって支持されている。詳しく言えば、出力軸82は、モータ軸86を貫通しており、それから延び出す端部にフレキシブルギヤ92の底部が固着されることで、フレキシブルギヤ92と出力軸82とが接続されているのである。リングギヤ94は、概してリング状をなして内周に複数(フレキシブルギヤの歯数よりやや多い数、例えば2つ多い数)の歯が形成されたものであり、ハウジング74に固定されている。フレキシブルギヤ92は、その周壁部が波動発生器90に外嵌して楕円状に弾性変形させられ、楕円の長軸方向に位置する2箇所においてリングギヤ94と噛合し、他の箇所では噛合しない状態とされている。波動発生器90が1回転(360度)すると、つまり、電動モータ70のモータ軸86が1回転すると、フレキシブルギヤ92とリングギヤ94とが、それらの歯数の差分だけ相対回転させられる。ハーモニックギヤ機構はその構成が公知のものであることから、本減速機72の詳細な図示は省略し、説明はこの程度の簡単なものに留める。なお、本減速機72は、変速比(モータ軸86の回転速度に対する出力軸82の回転速度の比)が、1/200に設定されている。
以上の構成から、電動モータ70が回転させられる場合、つまり、アクチュエータ30が作動する場合に、右スタビライザバー部材22と左スタビライザバー部材24とが相対回転させられ(詳しくは、それらの各トーションバー部60が相対回転させられ)、右スタビライザバー部材22と左スタビライザバー部材24とによって構成された1つのスタビライザバー20が、捩じられることになるのである。この捩りにより生じる力は、左右の各々の車輪16と車体とを接近あるいは離間させる力として作用することになる。つまり、本スタビライザ装置14では、アクチュエータ30の作動によって、スタビライザバー20の弾性力,すなわち,剛性を変化させるような構成の装置とされているのである。
なお、アクチュエータ30には、ハウジング74内に、モータ軸86の回転角度、すなわち、電動モータ70の回転角度を検出するためのモータ回転角センサ100が設けられている。モータ回転角センサ100は、本アクチュエータ30ではエンコーダを主体とするものであり、それによる検出値は、電動モータ70の通電相の切換に利用されるとともに、左右のスタビライザバー部材22,24の相対回転角度(相対回転位置)を指標するものとして、言い換えれば、アクチュエータ30の動作量を指標するものとして、アクチュエータ30の制御、つまり、スタビライザ装置14によるアクティブロール制御に利用される。
アクチュエータ30が備える電動モータ70には、制御電源から電力が供給される。本スタビライザシステム10には、図1に示すように、バッテリ102と、そのバッテリ102に接続された2つのインバータ104とが設けられている。インバータ104は駆動回路として機能するものであり、2つのスタビライザ装置14の各々が有する電動モータ70には、2つのインバータ104の各々から電力が供給される。つまり、バッテリ102と、1つのインバータ104とによって、各電動モータ70の制御電源が構成されているのである。なお、電動モータ70は定電圧駆動され、電動モータ70の出力は、それに供給される電流を変更することによって行われる。ちなみに、供給電流は、インバータ104が、PWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(Duty比)を変更することによって行われる。
本スタビライザシステム10は、図1に示すように、スタビライザ装置14、詳しくは、アクチュエータ30の作動を制御する制御装置であるスタビライザ電子制御ユニット(スタビライザECU)110(以下、単に「ECU110」という場合がある)を備えている。そのECU110は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されており、ECU110には、上記モータ回転角センサ100とともに、操舵量としてのステアリング操作部材の操作量であるステアリングホイールの操作角を検出するための操作角センサ120,車両走行速度(以下、「車速」と略す場合がある)を検出するための車速センサ122,および,車体に実際に発生する横加速度である実横加速度を検出する横加速度センサ124が接続されている。(図1では、それぞれ「θ」,「δ」,「v」,「Gy」と表されている)。また、ECU110は、インバータ104にも接続され、ECU110は、インバータ104を制御することで、アクチュエータ30の作動を制御するものとされている。ECU110のコンピュータが備えるROMには、後に説明するロール抑制制御プログラム等のプログラム、スタビライザ装置14の制御に関する各種のデータ等が記憶されている。
なお、本スタビライザシステム10は、前輪側,後輪側の2つのスタビライザ装置14を備えており、それら2つのスタビライザ装置14は、設定されたロール剛性配分に従ってそれぞれが個別に制御され、その個々の制御下において、それぞれが所定のロール抑制モーメントを発生させることになるが、ここからの説明では、特に断わりのない限り、説明の単純化に配慮して、2つのスタビライザ装置14を同一構成のものとして扱い、また、それらを一元化して扱うこととする。
<アクチュエータの正効率および逆効率>
上述したような構成から、本スタビライザ装置14は、旋回時等において車体に作用するロールモーメントに対抗するロール抑制モーメントを発生させることが可能とされており、さらに、アクチュエータ30の作動によって、スタビライザバー20の剛性を変化させて、車体のロール角を制御することが可能されている。車体がロールモーメントを受けている状態においては、アクチュエータ30は、そのロールモーメントによって回転させられる(厳密には、出力軸80,82を相対回転させることを意味する)力を受けており、スタビライザ装置14が、所定のロール抑制モーメントを発生させるには、上記回転させられる力、つまり、アクチュエータ30の負荷によってもアクチュエータ30が回転させられないことが前提となる。つまり、アクチュエータ30に対する負荷によっても、アクチュエータ30が回転させられないような電動モータ70の出力が要求されるのである。また、車体のロール角の増加変動を積極的に抑制させる場合には、上記負荷に打ち勝ってアクチュエータ30を回転させるための出力が、電動モータ70に要求される。
上記負荷によってもアクチュエータ30が回転させられないために必要な電動モータ70の出力のその負荷に対する比を、逆効率ηNと定義し、また、上記負荷に抗してアクチュエータ30を回転させるために必要な電動モータ70の出力に対するその負荷の比を、正効率ηPと定義すれば、本アクチュエータ30の正効率ηP,逆効率ηNは、図4に示すようになっている。なお、本図では、電動モータ70の出力には、出力トルクTq(供給電流iに比例すると考えることができる)を採用し、負荷には、スタビライザ装置14が発生させるロール抑制モーメントIs(作用,反作用の関係から、車体が受けるロールモーメントのうちのスタビライザ装置14の分担分と解釈することもできる)を採用しており、それらは同次元化されたものとなっている。正効率ηP,逆効率ηNは、下式のように表現できるものである。
正効率ηP=Is/Tq
逆効率ηN=Tq/Is
図の正効率ηPを示す線(以下、「正効率特性線」という場合がある)の傾きが、正効率ηP値を表し、逆効率ηNを示す線(以下、「逆効率特性線」という場合がある)の傾きの逆数が、逆効率ηNの値を表すものとなっている。図から解るように、同じ大きさのロール抑制モーメントIsを発生させる場合であっても、正効率特性下において必要な電動モータ70の出力トルクTqPと、逆効率特性下において必要な出力トルクTqNとでは、その値が異なり(TqP>TqN)、同じ大きさのモータ出力トルクTqであっても、正効率特性下において発生するロール抑制モーメントIsPと、逆効率特性下において発生するロール抑制モーメントIsNとでは、その値が異なるものとなっている(IsN>IsP)。
<車体が受けるロールモーメントと車体のロール角との関係>
そこで、上述したような正効率ηPと逆効率ηNとを考慮し、電動モータ70の出力トルクの上限を最大出力トルクTqmax(設定最大出力の一種である)として定めてアクチュエータ30の作動を制御した場合において(例えば、最大供給電流imaxを規定することによって可能となる)、車体が受けるロールモーメントと車体のロール角との関係を考える。この関係は、例えば、図5のようになる。この関係は、ロールモーメントIが増加する状態において、そのロールモーメントIに可及的に応じるロール抑制モーメントIsをスタビライザ装置14に発生させるようにアクチュエータ30を制御した場合における関係である。
図に示すように、ロールモーメントIがI1となるまでの範囲(以下、「積極的抑制範囲」という場合がある)R1においては、ロールモーメントIの増加によっても、車体のロール角φがあまり変化しない状態が実現可能となっている。この範囲R1は、スタビライザ装置14によるロール抑制モーメントIsが、正効率最大ロール抑制モーメントIsP・max(最大出力トルクTqmaxの状態において正効率特性下で発生させ得るロール抑制モーメント、図4参照)となるまでの範囲であり、アクチュエータ30がロールモーメントIに抗して回転することが可能とされ、ロール角φの増加変動を積極的に抑制することが可能となっている。
また、ロールモーメントIがI1〜I2となる範囲(以下、「消極的抑制範囲」という場合がある)R2においては、上記積極的抑制範囲R1と異なり、ロールモーメントIの増加に応じてある傾きを有してロール角φが増加する。この範囲R2は、ロール抑制モーメントIsが、上記正効率最大ロール抑制モーメントIsP・maxと逆効率最大ロール抑制モーメントIsN・max(最大出力トルクTqmaxの状態において逆効率特性下で発生させ得るロール抑制モーメント、図4参照)との間の値となる範囲であり、アクチュエータ30がロールモーメントIに抗して回転することができないものの、ロールモーメントIによって回転させられる(推し戻される)ことのない状態となる。この範囲R2では、アクチュエータ30の回転角度が固定されたまま、スタビライザバー部材22,24自体の捩り剛性と、サスペンションスプリング等の剛性(バウンドストッパ,リバウンドストッパによる剛性が加わる場合もある)とに依存するロール抑制モーメントが発生することになる。したがって、ロール角φの増加変動を積極的に抑制することができないものの、それらの剛性によってロール角φの増加変動が相当量抑制されることになる。
さらに、ロールモーメントIが、I2を超える範囲(以下、「非抑制範囲」という場合がある)R3では、先の消極的抑制範囲R2と比較して、ロール角φの変動勾配が大きくなっている。この範囲R3は、ロール抑制モーメントIsが、上記逆効率最大ロール抑制モーメントIsN・maxを超える範囲であり、この範囲R3では、アクチュエータ30がロールモーメントIによって回転させられるため、スタビライザ装置14は、逆効率最大ロール抑制モーメントIsN・max以上のロール抑制モーメントIsを発生させることができない。そのため、この範囲では、スタビライザ装置14によるロール角φの増加変動の抑制が期待できないことになり、サスペンションスプリング等の剛性のみによって、それに相応する程度にしかロール角φの増加変動の抑制が行われない状態となる。
<最大出力トルクの設定>
上述したように、アクチュエータ30は正効率ηPに加え、逆効率ηNを有しているため、電動モータ70の設定最大出力としての最大出力トルクTqmaxの大きさ如何によって、スタビライザ装置14によるロール抑制の特性(以下、「ロール抑制特性」という場合がある)が異なるものとなる。したがって、アクチュエータ30の正効率ηP,逆効率ηN、特に、逆効率ηNに基づいて最大出力トルクTqmaxを設定することが望ましいのである。以下に、本スタビライザシステム10において採用し得る最大出力トルクTqmaxとその設定の方法について説明する。
まず、通常の旋回状態において車体が受ける最大のロールモーメントとして、設定最大ロールモーメントI0・max(例えば、1Gの横加速度が発生している場合に受けるロールモーメント)を設定する。次いで、その設定最大ロールモーメントI0・maxを受けている際に、スタビライザ装置14によって分担すべきロール抑制モーメントIs(例えば、サスペンションスプリング等によって分担するロール抑制モーメントを除いたロール抑制モーメント)を、最大ロール抑制モーメントIs0・maxとして設定する。次いで、図6に示すように、最大ロール抑制モーメントIs0・maxを発生させるために必要な電動モータ70の出力トルクTqとして、正効率ηPに従う正効率依拠最大出力トルクTq0・P・max(正効率依拠最大出力の一種である)と、逆効率ηNに従う逆効率依拠最大出力トルクTq0・N・max(逆効率依拠最大出力の一種である)との、両者を決定する。その逆効率依拠最大出力トルクTq0・N・maxと、必要に応じて、正効率依拠最大出力トルクTq0・P・maxとを基準にして、最大出力トルクTqmaxを設定するのである。
最大出力トルクTqmaxを図6におけるTq1(<Tq0・N・max)に決定すれば、ロール抑制特性は、図7(a)のようになる。この場合には、最大出力トルクTqmaxが比較的小さいため、電動モータ70の小型化,アクチュエータ30の小型化が図れることになる。上述した積極的抑制範囲R1,消極的抑制範囲R2のほかに、非抑制範囲R3が存在し、ロール抑制の効果は比較的小さいものとなる。この場合においては、最大出力トルクTqmaxをできるだけ逆効率依拠最大出力トルクTq0・N・maxに近づけることにより、非抑制範囲R3を小さくすることが可能となる。
最大出力トルクTqmaxを図6におけるTq2 (≧Tq0・N・maxかつ<Tq0・P・max)に決定すれば、ロール抑制特性は、図7(b)のようになる。この場合には、上記非抑制範囲R3は存在しないことになるため、比較的効果的なロール抑制が可能となる。可及的に電動モータ70の小型化等を図るためには、最大出力トルクTqmaxを、逆効率依拠最大出力トルクTq0・N・maxに設定すればよい。また、逆に、より大きなロール抑制の効果を望むのであれば、最大出力トルクTqmaxをできるだけ正効率依拠最大出力トルクTq0・P・maxに近づければよい。
最大出力トルクTqmaxを図6におけるTq3 (≧Tq0・P・max)に決定すれば、ロール抑制特性は、図7(c)のようになる。この場合は、すべての範囲が、積極的抑制範囲R1となり、通常の旋回状態において、ロール角φの増加変動を、常に、積極的に抑制することが可能となる。したがって、電動モータ70の小型化等の利点は小さくなるものの、ロール抑制効果の高いスタビライザ装置14となる。なお、電動モータ70の小型化等の利点を可及的に大きなものとするためには、最大出力トルクTqmaxを、正効率依拠最大出力トルクTq0・P・maxに設定すればよい。
上述したように、本スタビライザシステム10では、アクチュエータ30の逆効率ηNを参酌して電動モータ70の最大出力トルクTqmaxを設定することにより、目的に応じた適切なスタビライザシステムの実現が可能となるのである。言い換えれば、電動モータ70の小型化,アクチュエータ30の小型化等と、ロール抑制効果等とのバランスを考慮して、適切な特性のスタビライザシステムを実現させるためには、逆効率ηNを参酌して電動モータの最大出力を設定することが望ましいといえるのである。
<車両の旋回動作におけるモータ出力トルクの変化>
車速が殆ど変化しない状態での車両の典型的な一旋回動作において、車両が受ける横加速度Gy,ロールモーメントIは、概して、図8(a),(b)に示すように変化する。この図から解るように、旋回状態量である横加速度GyおよびロールモーメントIは、旋回初期P1においては増加し、旋回中期P2においては概ね一定に維持され、旋回終期P3においては減少するように変化する。このような旋回動作において、車体のロールを効果的に抑制する場合には、スタビライザ装置14には、図8(c)に示すように変化するロール抑制モーメントIsが要求される。そのようなロール抑制モーメントIsを発生させるためには、電動モータ70の出力トルクTqを変化させる必要がある。図8(d)には、その出力トルクTqの変化を示すものであり、詳しく言えば、破線,一点鎖線の各々で示される出力トルクTqの変化は上記正効率特性,逆効率特性の各々に基づく変化であり、実線で示される出力トルクTqの変化は、それらを勘案した望ましい変化である。
旋回初期P1においては、ロールモーメントIの増加により車体のロール角φが増加していく過程にあるため、その増加を抑制するためには、アクチュエータ30をそれに加わる負荷に抗して回転させる必要があることから、上述したように、電動モータ70には正効率特性に基づく出力トルクTqPに沿った変化が要求される。また、旋回中期P2においては、ロールモーメントIが維持されているためロール角φが変動する力が作用しないことから、省電力化に鑑みれば、電動モータ70は、上述したように逆効率特性に基づく出力トルクTqNを発揮すればよいことになる。また、続く旋回終期P3においてロールモーメントIが減少することに鑑みれば、旋回中期P2から旋回終期P3への移行時の制御遅れを回避するという観点から、旋回中期P2においては、逆効率特性に基づく出力トルクTqNとすることが望まれるのである。同様に、旋回終期P3においては、ロールモーメントIの減少により車体のロール角φが減少していく過程にあるため、逆効率特性に基づく出力トルクTqNに沿って変化させることが望まれる。このように、電動モータ70の出力トルクTqは、旋回状態量の変化状態に基づいて決定されることが望ましいのである。
なお、上記説明は、車両の左旋回と右旋回との一方についてのものであるが、他方についても同様であるため、他方についての説明は省略する。また、以下の説明は、説明の簡素化に配慮し、左旋回,右旋回を区別せず、それらを一元化して扱うものとする。
<アクチュエータの制御>
i)第1の制御態様
電動モータ70の出力トルクTqは、上述のように旋回状態量の変化状態に基づいて決定されることが望ましいことから、本ステアリングシステム10におけるアクチュエータ30の制御、つまりアクティブロール制御は、以下のように行なうことが可能である。
本制御(以下、「第1制御」という場合がある)は、図9にフローチャートで示す第1ロール抑制制御プログラムが、ECU110において、短い時間間隔(例えば、十〜数十msec)をおいて実行されることによって行われる。
本制御プログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、「S1」と略す、以下のステップも同様とする)において、車速センサ122の検出値に基づいて車速vが取得される。次に、S2において、操舵量として、操作角センサ120の検出値に基づいてステアリングホイールの操作角δが取得される。続くS3において、それら車速vおよび操作角δに基づいて推定横加速度GyCが推定される。推定横加速度GyCに関しては、車両特性に基づいて車速vと操作角δとをパラメータとするマップが予め作成されており、ECU110には、そのマップデータが格納されている。S3では、そのマップデータを参照することによって、推定横加速度GyCが推定される。
次に、S4において、車体に発生する実際の横加速度である実横加速度GyRが、横加速度センサ124の検出値に基づいて取得される。次に、S5において、アクティブロール制御のための指標となる制御横加速度Gy*が、推定されている推定横加速度GyCと取得された実横加速度GyRとに基づいて決定される。具体的には、次式、
Gy*=K1・GyC+K2・GyR
に従って決定される。ここで、K1,K2はゲインであり、車速,操舵速度等をパラメータとする変数とされている。
車体に作用するロールモーメントIは横加速度Gをパラメータとする関数と考えることができるため、横加速度Gyに基づく制御を行うことは、ロールモーメントIに基づく制御を行うことと等価なものと考えることができる。また、実横加速度GyRのみならず、推定横加速度GyCに基づいて制御指標である制御横加速度Gy*を決定するのは、実横加速度GyRのみに基づく制御におけるロール抑制の遅れを防止するためである。
続いて、S6において、決定された制御横加速度Gy*と、先回の本プログラム実行時に決定された制御横加速度Gy*・prとが比較され、制御横加速度が増加している段階にあるか否かが判定される。S6で制御横加速度が増加していると判定された場合は、S7において、アクチュエータ30の正効率ηPに基づいて、制御横加速度Gy*に対応する電動モータ70の目標出力トルクTq*が決定される。制御横加速度Gy*と正効率特性によって定まる出力トルクTqPとの関係は、ECU110に、マップデータの形式で格納されており、S7の決定は、そのマップデータを参照することによって行われる。S6で制御横加速度が増加していないと判定された場合、つまり、制御横加速度が維持されているあるいは減少していると判定された場合は、S8において、S7における場合と同様に、ECU110に格納されているところのアクチュエータ30の逆効率ηNに基づマップデータを参照して、制御横加速度Gy*に対応する電動モータ70の目標出力トルクTq*が決定される。
次に、S9において、決定された目標出力トルクTq*に対応する電動モータ70への目標供給電流i*が決定される。電動モータ70の出力トルクTqは、供給される電流に概して比例するものであることから、目標供給電流i*は、目標出力トルクTq*をパラメータとする所定の演算式に基づいて算出される。続くS10において、決定された目標供給電流i*が、制御電源を構成するインバータ104に、それへの指令値として送信され、本制御プログラムの1回の実行が終了する。
上記のような処理が行われることにより、本第1制御では、旋回状態量の変化を認識し、その認識結果に基づいて、アクチュエータ30の作動が、正効率特性下での作動と、逆効率特性下での作動との間で切換えられることになる。また、本第1制御は、電動モータ70の出力トルクTqを直接的に制御する態様において、正効率ηPおよび逆効率ηNに基づくアクチュエータ30の制御を実行するものとされている。さらに、上記第1制御によれば、車体が受けるロールモーメントIに対抗する適切なロール抑制モーメントIsを、スタビライザ装置14に発揮させることができ、その結果として、アクチュエータ30が有する出力軸80,82の相対回転角度(スタビライザバー部材22,24のトーションバー部60の相対回転角度)、すなわち、アクチュエータ30の動作量が、旋回状態量である横加速度Gyに応じた適切な動作量となる。つまり、この第1制御では、スタビライザバー20の剛性を車両の旋回状態量に応じるものとすべく、電動モータ70への供給電流i、すなわち、供給電力を決定してアクチュエータ30が制御されるのである。
本第1制御が実行される場合のECU110の機能構成は、図10のように表すことができる。この機能構成によれば、ECU110は、上記S3の処理を実行する機能部として推定横加速度推定部130を、S5の処理を実行する機能部として制御横加速度決定部132を、S6の処理を実行する機能部として横加速度変化状態判定部134(旋回状態量変化状態判定部の一種である)を、それぞれ備えている。また、制御横加速度決定部132によって決定された旋回状態量である制御横加速度Gy*と横加速度変化状態判定部134による判定結果とに基づいて電動モータ70の目標出力トルクTq*を決定する機能部として、目標出力トルク決定部136を備えており、その目標出力トルク決定部136は、アクチュエータ30の正効率ηPに基づくS7の処理を実行する部分として正効率依拠決定部138を、また、逆効率ηNに基づくS8の処理を実行する部分として逆効率依拠決定部140を、それぞれ有している。さらに、目標出力トルク決定部136によって決定された目標出力トルクTq*に基づいて電動モータの目標供給電流i*を決定する処理、すなわち、S9の処理を実行する機能部として、目標供給電流決定部142を備えているのである。
ii)第2の制御態様
上記第1制御では、電動モータ70の制御目標値の決定を、旋回状態量の変化状態に応じて、正効率特性に基づく決定と逆効率特性に基づく決定とから選択して、言い換えれば、それら2つの決定を切換えるようにして行われている。本態様の制御(以下、「第2制御」という場合がある)では、そのような切換処理を行わずに実行されるアクティブロール制御である。第2制御は、図11にフローチャートで示す第2ロール抑制制御プログラムが、ECU110において、短い時間間隔(例えば、十〜数十msec)をおいて実行されることによって行われる。
本制御プログラムに従う処理では、S11,S12において車速v,操作角δがそれぞれ取得され、S13において推定横加速度GyCが推定され、続くS14において実横加速度GyRが取得され、その後のS15において制御横加速度Gy*が決定される。これらA11〜S15の処理は、前述のS1〜S5の処理と同様であるため、説明は省略する。
本制御プログラムでは、次のS16において、アクチュエータ30の実際の動作量である実アクチュエータ回転角ΨRが取得される。アクチュエータ回転角Ψは、アクチュエータ30が有する2つの出力軸80,82の相対回転角(スタビライザバー部材22,24のトーションバー部の相対回転角度)であって、アクチュエータ30の中立状態(概して言えば、車体がロールモーメントIを受けていない状態)を基準とする相対回転角である。実アクチュエータ回転角ΨRは、モータ回転角センサ100によって検出された電動モータ70のモータ回転角θとアクチュエータ30が有する減速機72の変速比とに基づく算出によって、取得される。次に、S17において、S15で決定された制御横加速度Gy*に基づいて、アクチュエータ30の制御目標値である目標アクチュエータ回転角Ψ*が決定される。車体にある横加速度Gyが生じている場合、その場合に車体に作用するロールモーメントに対抗するために必要なロール抑制モーメントIs、および、その場合において実現されるべき車体のロール角φは、車両設計仕様によって定められている。そのため、その横加速度Gyが生じている場合において適切とされるアクチュエータ回転角Ψも定まることとなる。横加速度Gyとアクチュエータ回転角Ψとの関係は、ECU110に、マップデータの形式で格納されており、S17においては、そのマップデータを参照することで、上記制御横加速度Gy*に対応するアクチュエータ回転角Ψが、目標アクチュエータ回転角Ψ*として決定される。
次いで、S18において、アクチュエータ回転角Ψに基づくフィードバック制御手法によって、電動モータ70への目標供給電流i*が決定される。詳しく説明すれば、まず、決定された目標アクチュエータ回転角Ψ*に対する実アクチュエータ回転角ΨRの偏差であるアクチュエータ回転角偏差ΔΨ(Ψ*−ΨR)が認定される。そしてそのアクチュエータ回転角偏差ΔΨをパラメータとして、次式に従って、目標供給電流i*が決定される。
i*=KA・ΔΨ+KB・ΔΨ’+KC・Int(ΔΨ)
この式は、PDI制御則に従う式であり、第1項,第2項,第3項は、それぞれ、比例項,微分項、積分項である。ΔΨ’は、アクチュエータ回転角偏差ΔΨの微分値に相当し(本制御プログラムの前回の実行におけるアクチュエータ回転角偏差ΔΨ・prとの差分と考えることもできる)、Int(ΔΨ)は、アクチュエータ回転角偏差ΔΨの積分値に相当する。KA,KB,KCは、それぞれの項におけるゲインである。なお、Int(ΔΨ)は、現時点でのアクチュエータ回転角Ψ(例えば、目標アクチュエータ回転角Ψ*)に近似されるものであることから、上記式は、
i*=KA・ΔΨ+KB・ΔΨ’+KC・Ψ*
と考えることもできる。
上述のようにして目標供給電流i*が決定された後、続くS19において、その目標供給電流i*の値が、インバータ104に、それへの指令値として送信され、本制御プログラムの1回の実行が終了する。
第2制御が実行された場合において発揮される電動モータ70の出力トルクTqは、図12のようになる。図12は、図8(d)と同様の図であり、車両の典型的な一旋回動作における出力トルクTqの変化を示している。第2制御では、上記目標供給電流i*を決定するための演算式における3つの項の各々は、電動モータ70への供給電流成分(電動モータ70が定電圧駆動であるため、供給電力成分を指標するものである)となる。
上記第3項によって規定される供給電流成分は、アクチュエータ30の逆効率ηNに基づいて定まる出力トルクTqNを実現する供給電流とおなじ大きさの供給電流成分とされている。詳しく言えば、そのような供給電流成分となるように、第3項のゲインKCが設定されている。そのため、図から解るように、車体に作用している横加速度Gyが概ね一定の値に維持される旋回中期P2において、横加速度Gyに応じた出力トルクTqであって、アクチュエータ30の逆効率ηNに基づいて定まる電動モータ70の出力トルクTqNが、概ね定常成分として発揮させられている。
また、横加速度Gyが増加する旋回初期P1における出力トルクTqは、概して、アクチュエータ30の正効率ηPに基づいて定まる出力トルクTqPに沿って変化するものとなっている。これは、出力トルクTqがそのような変化となるように、上記演算式における第1項および第2項のゲインKA,KBが設定されていることによるものである。詳しく言えば、第1項および第2項によって規定される供給電流成分の和が、正効率ηPに基づいて定まる出力トルクTqPと逆効率ηNに基づいて定まる出力トルクTqNとの差分を補償するように(図における斜線部)、ゲインKA,KBが設定されているのである。なお、横加速度Gyが減少する旋回終期P3における出力トルクTqは、ゲインKA,KBの設定によって、逆効率ηNに基づいて定まる出力トルクTqNの変化に対して、若干先行するように変化している。
つまり、本第2制御によれば、上記演算式の第3項のゲインKCを上述のように設定した上で、第1項および第2項のゲインKA,KBを任意に変更することにより、上記のような定常成分としての逆効率ηNに基づいて定まる出力トルクTqを発揮させつつ、旋回状態量に応じた出力トルクTqの変化を任意の態様とすることが可能となるのである。なお、本第2制御では、PDI制御則に基づく制御とされているが、PD制御則に基づく制御、つまり、上記第2項を省略したような演算式に基づいて目標供給電流i*を決定するような制御を行うことも可能である。
この第2制御は、前述の第1制御と異なり、旋回状態量の変化状態に応じて制御の態様を切り換えることなく、一元化された制御の下、アクチュエータ30の作動が制御される。その点において、本第2制御は、簡便な制御であるといえる。また、本第2制御は、電動モータ70の出力トルクTqを直接的に制御するものではなく、アクチュエータ回転角度Ψ、すなわち、アクチュエータ30の動作量に基づくフィードバック制御によって、その動作量が車両の旋回状態量である横加速度Gyに応じた適切な動作量となるようにアクチュエータ30を制御することで、スタビライザバー20の剛性を旋回状態量に応じるように変化させる制御とされ、間接的に、電動モータ70の出力トルクTqが車両の旋回状態量に応じた適切な値になるような制御とされている。また、その出力トルクTqの制御は、電動モータ70への目標供給電流i*を決定する演算式の積分項によって規定される供給電流成分が、アクチュエータ30の逆効率ηNに基づいて定まる出力トルクTqNを実現する大きさとされていることで、逆効率ηNに基づくアクチュエータ30の制御を実行するものとされているのである。
本第2制御が実行される場合のECU110の機能構成は、図13のように表すことができる。この機能構成によれば、ECU110は、前述の第1制御を実行するための機能構成と同様、上記S13の処理を実行する機能部として推定横加速度推定部130を、S15の処理を実行する機能部として制御横加速度決定部132を、それぞれ備えている。また、制御横加速度Gy*に基づいて、アクチュエータ30の制御目標値である目標アクチュエータ回転角Ψ*を決定する処理、つまり、S17の処理を実行する機能部として、目標アクチュエータ回転角決定部150を備えており、さらに、決定された目標アクチュエータ回転角Ψ*に基づいて、フィードバック制御の手法によって、電動モータ70への目標供給電流i*を決定する処理、すなわち、S18の処理を実行する機能部として、目標供給電流決定部152を備えているのである。
実施例のスタビライザシステムの全体構成を示す模式図である。
図1のスタビライザシステムが備えるスタビライザ装置を示す概略図である。
図1のスタビライザ装置を構成するアクチュエータを示す概略断面図である。
アクチュエータの正効率および逆効率を概念的に示すグラフである。
電動モータの出力トルクの上限を定めてアクチュエータを制御した場合において、車体が受けるロールモーメントと車体のロール角との関係を示すグラフである。
設定最大ロールモーメントに対抗するための最大出力トルクと、正効率依拠最大出力トルクおよび逆効率依拠最大出力トルクとの関係を模式的に示すグラフである。
設定された最大出力トルクの違いによるロール抑制特性の違いを模式的に示すグラフである。
車両の旋回動作において生じるロールモーメントと、そのロールモーメントに対抗するためのロール抑制モーメントを発生させるための電動モータの出力トルクの変化とを示すチャートである。
アクティブロール制御を実行するための第1ロール抑制制御プログラムを示すフローチャートである。
第1ロール抑制制御プログラムが実行される場合におけるスタビライザ電子制御装置の機能を示すブロック図である。
アクティブロール制御を実行するためのもう1つのプログラムである第2ロール抑制制御プログラムを示すフローチャートである。
第2ロール抑制制御プログラムが実行された場合における電動モータの出力トルクの変化を示すチャートである。
第2ロール抑制制御プログラムが実行される場合におけるスタビライザ電子制御装置の機能を示すブロック図である。
符号の説明
10:スタビライザシステム 14:スタビライザ装置 20:スタビライザバー 22:右スタビライザバー部材 24:左スタビライザバー部材 30:アクチュエータ 60:トーションバー部 62:アーム部 70:電動モータ 72:減速機 74:ハウジング 110:スタビライザ電子制御ユニット(ECU)(制御装置) ηP:アクチュエータの正効率 ηN:アクチュエータの逆効率 Tq:出力トルク(モータの出力) Tqmax:最大出力トルク(設定最大出力) Tq0・P・max:正効率依拠最大出力トルク(正効率依拠最大出力) Tq0・N・max:逆効率依拠最大出力トルク(逆効率依拠最大出力) i:供給電流(モータへの供給電力) I:ロールモーメント I0・max:設定最大ロールモーメント Is:ロール抑制モーメント Gy:横加速度(車両の旋回状態量) Ψ:アクチュエータ回転角(アクチュエータの動作量)