以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
本実施形態は、本出願人が特開2001−263472号公報で開示している自動変速装置に適用したものであり、まず、自動変速装置の概要を説明する。
図1に本実施形態に係る車両の自動変速装置を示す。ここでは車両がトレーラを牽引するトラクタであり、エンジンがディーゼルエンジンである。図示するように、エンジン1にクラッチ2を介して変速機3が取り付けられ、変速機3の出力軸4(図2参照)が図示しないプロペラシャフトに連結されて後輪(図示せず)を駆動するようになっている。エンジン1はエンジンコントロールユニット(ECU)6によって電子制御される。即ち、ECU6は、エンジンの回転数を検出するエンジン回転センサ7とアクセル開度を検出するアクセル開度センサ8との出力から現在のエンジン回転速度及びエンジン負荷を読取り、主にこれらに基づいて燃料噴射ポンプ1aの電子ガバナ1dを制御し、燃料噴射時期及び燃料噴射量を制御する。一方、変速機3の変速中は、アクセル開度センサ8によって検知される実アクセル開度と無関係にECU6自らが加工した疑似アクセル開度なるものに基づいてエンジン制御を実行する。これは特に後述するダブルクラッチ制御において必要である。
さらに、本実施形態では、変速機3の油温を測定するための温度検出手段が設けられる。その温度検出手段は、変速機3に設けられた油温センサ51からなる。
図2に示すように、エンジンのクランク軸にフライホイール1bが取り付けられ、フライホイール1bの外周にリングギヤ1cが形成され、リングギヤ1cの歯が通過する度にエンジン回転センサ7がパルスを出力し、ECU6が単位時間当たりのパルス数をカウントしてエンジン回転数を算出する。
図1に示すように、ここではクラッチ2と変速機3とがトランスミッションコントロールユニット(TMCU)9の制御信号に基づいて自動制御される。即ちかかる自動変速装置には自動クラッチ装置と自動変速機とが備えられる。ECU6とTMCU9とは互いにバスケーブル等を介して接続され、相互に連絡可能である。
図2に示すように、クラッチ2は機械式摩擦クラッチであり、入力側をなすフライホイール1b、出力側をなすドリブンプレート2a、及びドリブンプレート2aをフライホイール1bに摩擦接触或いは離反させるプレッシャプレート2bから構成される。そしてクラッチ2は、クラッチアクチュエータ10(図1参照)によりプレッシャプレート2bを軸方向に操作し、基本的には自動断接され、ドライバの負担を軽減し得るものとなっている。一方、微低速バックに際しての微妙なクラッチワークや、非常時のクラッチ急断等を可能とするため、ここではクラッチペダル11(図1参照)によるマニュアル断接も可能となっている。所謂セレクティブオートクラッチの構成である。図1に示すように、クラッチ位置(即ちプレッシャプレート2bの位置)を検知するクラッチストロークセンサ14と、クラッチペダル11の位置(踏み込み量)を検知するクラッチペダルストロークセンサ16とが設けられ、それぞれTMCU9に接続される。さらに、TMCU9には油温センサ51が接続され、油温センサ51の検出温度がTMCU9に送られる。
図3に分かりやすく示すが、クラッチアクチュエータ(クラッチブースタ)10は実線で示す二系統の空圧通路a,bを通じてエアタンク5に接続され、エアタンク5から供給される空圧で作動する。一方の通路aがクラッチ自動断接用、他方の通路bがクラッチマニュアル断接用である。一方の通路aが二股状に分岐され、そのうちの一方に自動断接用の電磁弁MVC1,MVC2が直列に設けられ、他方に非常用の電磁弁MVCEが設けられる。分岐合流部にダブルチェックバルブDCV1が設けられる。他方の通路bに、クラッチアクチュエータ10に付設される油圧作動弁12が設けられる。両通路a,bの合流部にもダブルチェックバルブDCV2が設けられる。ダブルチェックバルブDCV1,DCV2は差圧作動型の三方弁である。
上記電磁弁MVC1,MVC2,MVCEはTMCU9によりON/OFF制御され、ONのとき上流側を下流側に連通し、OFFのとき上流側を遮断して下流側を大気開放する。まず自動側を説明すると、電磁弁MVC1は単にイグニッションキーのON/OFFに合わせてON/OFFされるだけである。イグニッションキーOFF、つまり停車中はOFFとなり、エアタンク5からの空圧を遮断する。電磁弁MVC2は比例制御弁で、供給又は排出エア量を自由にコントロールできる。これはクラッチの断接速度制御を行うためである。電磁弁MVC1,MVC2がともにONだとエアタンク5の空圧がダブルチェックバルブDCV1,DCV2をそれぞれ切り換えてクラッチアクチュエータ10に供給される。これによりクラッチが分断される。クラッチを接続するときはMVC2のみがOFFされ、これによりクラッチアクチュエータ10の空圧がMVC2から排出されてクラッチが接続される。
ところでもし仮にクラッチ分断中に電磁弁MVC1又はMVC2に異常が生じ、いずれかがOFFとなると、ドライバの意思に反してクラッチが急接されてしまう。そこでこのような異常がTMCU9の異常診断回路で検知されたら、即座に電磁弁MVCEをONする。すると電磁弁MVCEを通過した空圧がダブルチェックバルブDCV1を逆に切り換えてクラッチアクチュエータ10に供給され、クラッチ分断状態が維持され、クラッチ急接が防止される。
次にマニュアル側を説明する。クラッチペダル11の踏込み・戻し操作に応じてマスタシリンダ13から油圧が給排され、この油圧が破線で示す油圧通路13aを介して油圧作動弁12に供給される。これによって油圧作動弁12が開閉され、クラッチアクチュエータ10への空圧の給排が行われ、クラッチ2のマニュアル断接が実行される。油圧作動弁12が開くと、これを通過した空圧がダブルチェックバルブDCV2を切り換えてクラッチアクチュエータ10に至る。なお、クラッチ2の自動断接とマニュアル断接とが干渉した場合はマニュアル断接を優先させるようになっている。
図2に詳細に示すように、変速機3は基本的に主軸(メインシャフト)33及び副軸(カウンタシャフト)32を備えた常時噛み合い式の多段変速機で、前進16段、後進2段に変速可能である。変速機3はメインギヤ18と、その入力側及び出力側にそれぞれ副変速機としてのスプリッタ17及びレンジギヤ19を備える。そして、入力軸15(クラッチ2の出力軸)に伝達されてきたエンジン動力をスプリッタ17、メインギヤ18、レンジギヤ19へと順に送って出力軸4に出力する。
変速機3を自動変速すべくギヤシフトユニットGSUが設けられ、これはスプリッタ17、メインギヤ18、レンジギヤ19それぞれの変速を担当するスプリッタアクチュエータ20、メインアクチュエータ21及びレンジアクチュエータ22から構成される。これらアクチュエータもクラッチブースタ10同様空圧作動され、TMCU9によって制御される。各ギヤ17,18,19の現在ポジションはギヤポジションスイッチ23(図1参照)で検知される。副軸32の回転速度が副軸回転センサ26で検知され、出力軸4の回転速度が出力軸回転センサ28で検知される。これら検知信号はTMCU9に送られる。
また、TMCU9は、出力軸回転センサ28により検知された現在の出力軸回転速度に基づいて現在の車速を算出し、これをスピードメータに表示する。
この自動変速機ではマニュアルモードが設定され、ドライバのシフトチェンジ操作に基づくマニュアル変速が可能である。この場合、図1に示すように、クラッチ2の断接制御及び変速機3の変速制御は運転席に設けられたシフトチェンジ装置29からの変速指示信号を合図に行われる。即ち、ドライバが、シフトチェンジ装置29のシフトレバー29aをシフト操作すると、シフトチェンジ装置29に内蔵されたシフトスイッチが作動(ON)し、変速指示信号がTMCU9に送られ、これを基にTMCU9はクラッチアクチュエータ10、スプリッタアクチュエータ20、メインアクチュエータ21及びレンジアクチュエータ22を適宜作動させ、一連の変速操作(クラッチ断→ギヤ抜き→ギヤ入れ→クラッチ接)を実行する。そしてTMCU9は現在のシフト段をモニター31に表示する。
図1に示すシフトチェンジ装置29において、Rはリバース、Nはニュートラル、Dはドライブ、UPは手動シフトアップ位置、DOWNは手動シフトダウン位置をそれぞれ意味する。シフトスイッチはこれら各ポジションに応じた信号を出力する。また運転席に、変速モードをマニュアル変速モードと自動変速モードとの間で切り換えるモードスイッチ24と、変速を1段ずつ行う通常モードと1段飛ばしで行うスキップモードとを切り換えるスキップスイッチ25とが設けられる。
自動変速モードでシフトレバー29aがDレンジに位置しているときは、基本的に後述するシフトアップマップ及びシフトダウンマップ(以下、両者を総合して単にシフトマップと言うときもある)に従って変速機3の自動変速が行われる。この自動変速モード中に、ドライバがシフトレバー29aをUP又はDOWNに手動操作した場合、シフトマップとは無関係にドライバの手動操作に応じて変速機3がシフトアップ又はシフトダウンされる。このとき、スキップスイッチ25がOFF(通常モード)であれば、シフトレバー29aの1回の操作により、変速は1段ずつ行われる。これはトレーラ牽引時等、積載荷重が比較的大きいときに有効である。またスキップスイッチ25がON(スキップモード)なら変速は1段飛ばしで行われる。これはトレーラを牽引してないときや荷が軽いときなどに有効である。
一方、マニュアル変速モードのときは、変速は完全にドライバの意思に従う。シフトレバー29aがDレンジのときは変速は行われず、現在ギヤが保持され、ドライバの積極的な意思でシフトレバー29aをUP又はDOWNに操作したときのみ、シフトアップ又はシフトダウンが可能である。このときも前記同様、スキップスイッチ25がOFFなら1回の操作につき変速は1段ずつ行われ、スキップスイッチ25がONなら変速は1段飛ばしで行われる。このモードではDレンジは現ギヤ段を保持するH(ホールド)レンジとなる。
なお、運転席に非常用変速スイッチ27が設けられ、GSUの電磁弁等が故障したときはスイッチ27の手動切換により変速できるようになっている。
図2に示すように、変速機3にあっては、変速機入力軸(クラッチ出力軸)15、主軸33及び変速機出力軸4が同軸上に配置され、副軸32がそれらの下方に平行配置される。入力軸15がクラッチ2のドリブンプレート2aに接続され、入力軸15と主軸33とが相対回転可能に支持される。
まずスプリッタ17とメインギヤ18の構成を説明する。入力軸15にインプットギヤSHが回転可能に取り付けられる。また主軸33にも前方から順にギヤM4,M3,M2,M1,MRが回転可能に取り付けられる。MRを除くギヤSH,M4,M3,M2,M1は、それぞれ副軸32に固設されたカウンタギヤCH,C4,C3,C2,C1に常時噛合される。ギヤMRはアイドルリバースギヤIRに常時噛合され、アイドルリバースギヤIRは副軸32に固設されたカウンタギヤCRに常時噛合される。
入力軸15及び主軸33に取り付けられた各ギヤSH,M4…に、当該ギヤを選択し得るようドグギヤ36が一体的に設けられ、これらドグギヤ36に隣接して入力軸15及び主軸33に第1〜第4ハブ37〜40が固設される。第1〜第4ハブ37〜40には第1〜第4スリーブ42〜45が嵌合される。ドグギヤ36及び第1〜第4ハブ37〜40の外周部と、第1〜第4スリーブ42〜45の内周部とにスプラインが形成されており、第1〜第4スリーブ42〜45は第1〜第4ハブ37〜40に常時係合して入力軸15又は主軸33と同時回転すると共に、前後にスライド移動してドグギヤ36に対し選択的に係合・離脱する。即ち、スプリッタ17におけるハブ37とドグ36、およびメインギヤ18における副軸32側のドグ36と主軸33側のハブ37〜40とをスリーブ42〜45により係合・離脱させることによりギヤイン・ギヤ抜きが行われる。第1スリーブ42の移動をスプリッタアクチュエータ20で行い、第2〜第4スリーブ43〜45の移動をメインアクチュエータ21で行う。
このように、スプリッタ17とメインギヤ18とは各アクチュエータ20,21によって自動変速され得る常時噛み合い式の構成とされる。また、スプリッタ17は、そのスプライン部に通常の機械的なシンクロ機構が存在するものであるが、メインギヤ18の各ギヤ段は各スプライン部にシンクロ機構が存在しないノンシンクロギヤ段となっている。このため、メインギヤ18の変速を伴う変速を実行する場合、後述のシンクロ制御なるものを行って副軸32側のドグギヤ回転数と主軸33側のスリーブ回転数とを同期させて変速するようにしている。ここではメインギヤ18以外にスプリッタ17にもニュートラルポジションが設けられ、所謂ガラ音対策がなされている(特願平11−319915号公報参照)。
次にレンジギヤ19の構成を説明する。レンジギヤ19は遊星歯車機構34を採用しており、ハイ・ローいずれかのポジションに切り替えることができる。遊星歯車機構34は、主軸33の最後端に固設されたサンギヤ65と、その外周に噛合される複数のプラネタリギヤ66と、プラネタリギヤ66の外周に噛合される内歯を有したリングギヤ67とからなる。各プラネタリギヤ66は共通のキャリア68に回転可能に支持され、キャリア68は変速機出力軸4に連結される。リングギヤ67は管部69を一体的に有し、管部69は出力軸4の外周に相対回転可能に嵌め込まれて出力軸4とともに二重軸を構成する。
第5ハブ41が管部69に一体的に設けられる。また第5ハブ41の後方に隣接して、出力軸4に出力軸ドグギヤ70が一体的に設けられる。第5ハブ41の前方に隣接して、ミッションケース側に固定ドグギヤ71が設けられる。第5ハブ41の外周に第5スリーブ46が嵌合される。これら第5ハブ41、出力軸ドグギヤ70、固定ドグギヤ71及び第5スリーブ46にも前記同様にスプラインが形成され、第5スリーブ46が第5ハブ41に常時係合すると共に、前後にスライド移動して出力軸ドグギヤ70又は固定ドグギヤ71に対し選択的に係合・離脱する。第5スリーブ46の移動がレンジアクチュエータ22で行われる。レンジギヤ19のスプライン部には機械的なシンクロ機構が存在する。
第5スリーブ46が前方に移動するとこれが固定ドグギヤ71に係合し、第5ハブ41と固定ドグギヤ71とが連結される。これによりリングギヤ67がミッションケース側に固定され、出力軸4が1より大きい比較的大きな減速比(ここでは4.5)で回転駆動されるようになる。これがローのポジションである。
一方、第5スリーブ46が後方に移動するとこれが出力軸ドグギヤ70に係合し、第5ハブ41と出力軸ドグギヤ70とが連結される。これによりリングギヤ67とキャリア68とが互いに固定され、出力軸4が1の減速比で直結駆動されるようになる。これがハイのポジションである。このようにかかるレンジギヤ19ではハイ・ロー間の減速比が比較的大きく異なる。
結局、この変速機3では、前進側において、スプリッタ17でハイ・ローの2段、メインギヤ18で4段、レンジギヤ19でハイ・ローの2段に変速可能であり、計2×4×2=16段に変速することができる。また後進側では、スプリッタ17のみでハイ・ローを切り替えて2段に変速することができる。
次に、各アクチュエータ20,21,22について説明する。これらアクチュエータはエアタンク5の空圧で作動する空圧シリンダと、空圧シリンダへの空圧の給排を切り替える電磁弁とで構成される。そしてこれら電磁弁がTMCU9で選択的に切り替えられ、空圧シリンダを選択的に作動させるようになっている。
スプリッタアクチュエータ20は、ダブルピストンを有した空圧シリンダ47と三つの電磁弁MVH,MVF,MVGとで構成される。スプリッタ17をニュートラルにするときはMVH/ON,MVF/OFF,MVG/ONとされる。スプリッタ17をハイにするときはMVH/OFF,MVF/OFF,MVG/ONとされる。スプリッタ17をローにするときはMVH/OFF,MVF/ON,MVG/OFFとされる。
メインアクチュエータ21は、ダブルピストンを有しセレクト側の動作を担当する空圧シリンダ48と、シングルピストンを有しシフト側の動作を担当する空圧シリンダ49とを備える。空圧シリンダ48には三つの電磁弁MVC,MVD,MVEが設けられ、空圧シリンダ49には二つの電磁弁MVB,MVAが設けられる。
セレクト側空圧シリンダ48は、MVC/OFF,MVD/ON,MVE/OFFのとき図の下方に移動し、メインギヤの3rd、4th又はN3を選択可能とし、MVC/ON,MVD/OFF,MVE/ONのとき中立となり、メインギヤの1st、2nd又はN2を選択可能とし、MVC/ON,MVD/OFF,MVE/OFFのとき図の上方に移動し、メインギヤのRev又はN1を選択可能とする。
シフト側空圧シリンダ49は、MVA/ON,MVB/ONのとき中立となり、メインギヤのN1、N2又はN3を選択可能とし、MVA/ON,MVB/OFFのとき図の左側に移動し、メインギヤの2nd,4th又はRevを選択可能とし、MVA/OFF,MVB/ONのとき図の右側に移動し、メインギヤの1st又は3rdを選択可能とする。
レンジアクチュエータ22は、シングルピストンを有した空圧シリンダ50と二つの電磁弁MVI,MVJとで構成される。空圧シリンダ50は、MVI/ON,MVJ/OFFのとき図の右側に移動し、レンジギヤをハイとし、MVI/OFF,MVJ/ONのとき図の左側に移動し、レンジギヤをローとする。
ところで、後述するシンクロ制御に際して副軸32を減速制動するため、副軸32には副軸ブレーキ手段27が設けられる。副軸ブレーキ手段27は湿式多板ブレーキであって、エアタンク5の空圧で作動する。この空圧の給排を切り替えるため電磁弁MV BRKが設けられる。電磁弁MV BRKがONのとき副軸ブレーキ手段27に空圧が供給され、副軸ブレーキ手段27が作動状態となる。電磁弁MV BRKがOFFのときには副軸ブレーキ手段27から空圧が排出され、副軸ブレーキ手段27が非作動となる。
さて、変速制御装置とは、変速時に変速機3、エンジン1及びクラッチ2を制御するものであり、本実施形態では、ECU6、TMCU9、油温センサ51、クラッチアクチュエータ10、及びギヤシフトユニットGSU等で構成される。以下、この変速制御装置による制御内容を説明する。
TMCU9には図4及び図5にそれぞれ示すように、車両の運転状態に基づく変速機3の各ギヤ段の範囲を予め定めたシフトアップマップ及びシフトダウンマップとがメモリされており、TMCU9は、自動変速モードのとき、基本的にこれらシフトマップに従って変速機3を自動変速する。
例えば図4のシフトアップマップにおいて、ギヤ段n(nは1から15までの整数)からn+1へのシフトアップラインがアクセル開度(%)と変速機出力軸回転数(rpm)との関数で決められている。そしてマップ上ではアクセル開度センサ8により検出された実際のアクセル開度(%)と、出力軸回転センサ28により検出された実際の出力軸回転数(rpm)とからただ1点が定まる。車両加速中は、車輪に連動する出力軸4の回転数が次第に増加していく。そこで通常の自動変速モードでは、現在の1点が各シフトアップラインを越える度に1段ずつシフトアップを行うこととなる。このときスキップモードであればシフトアップラインを交互に1本ずつ飛ばして2段ずつシフトアップを行う。
図5のシフトダウンマップにおいても同様に、ギヤ段n+1(nは1から15までの整数)からnへのシフトダウンラインがアクセル開度(%)と変速機出力軸回転数(rpm)との関数で決められている。そしてマップ上では実際のアクセル開度(%)と変速機出力軸回転数(rpm)とからただ1点が定まる。車両減速中は出力軸4の回転数が次第に減少していくので、通常の自動変速モードでは、現在の1点が各シフトダウンラインを越える度に1段ずつシフトダウンを行う。スキップモードであればシフトダウンラインを交互に1本ずつ飛ばして2段ずつシフトダウンする。
次に、ノンシンクロギヤ段であるメインギヤ18の各ギヤ段へのギヤインを伴う変速を実行する場合におけるシンクロ制御の内容を説明する。
図6、図7に示すように、TMCU9には、スプリッタ17及びメインギヤ18における各ギヤの歯数ZSH,Z1 〜Z4 ,ZR ,ZCH,ZC1〜ZC4,ZCRと、レンジギヤ19におけるハイ・ローの減速比とが予め記憶されている。そこでTMCU9は、メインギヤ18のギヤ歯数と、副軸回転センサ26によって検知される副軸回転数(rpm)とに基づいて、次回変速先となるメインギヤ18のギヤ段(目標メインギヤ段)におけるドグギヤ回転数(rpm)を算出する。また、TMCU9は、次回変速先となるレンジギヤ19のギヤ段(目標レンジギヤ段)の減速比と、出力軸回転センサ28によって検知される出力軸回転数(rpm)とに基づき、メインギヤ18におけるスリーブ回転数(rpm)を算出する。ここで、スリーブは主軸のハブに嵌合されているものであるため、当然スリーブ回転数=ハブ回転数となる。
図7の表の左欄において、左端に記載された「1st」、「2nd」…「Rev」の語は目標メインギヤ段を示している。また括弧内の「1st」、「2nd」…の語は各目標メインギヤ段が担当する変速機全体としての目標ギヤ段を示している。例えば、メインギヤ18の「1st」(ギヤM1)が担当する変速機全体のギヤ段は「1st」、「2nd」、「9th」、「10th」である。括弧内の語は最初の二つと後の二つとがレンジギヤ19のロー・ハイで切り分けられる。例えばメインギヤ「1st」だと「1st」、「2nd」がレンジギヤロー、「9th」、「10th」がレンジギヤハイである。そして最初の二つ又は後の二つの中において、先と後とがスプリッタ17のロー・ハイで切り分けられる。例えばメインギヤ「1st」でレンジギヤローだと、スプリッタローで変速機は「1st」、スプリッタハイで変速機は「2nd」となる。またメインギヤ「1st」でレンジギヤハイだと、スプリッタローで変速機は「9th」、スプリッタハイで変速機は「10th」となる。目標メインギヤ段の「2nd」、「3rd」、「4th」についても同様である。
目標メインギヤ段「Rev」ではレンジギヤ19による切り分けは行われず、スプリッタ17のみで切り分けがなされる。スプリッタハイでリバース「high」、スプリッタローでリバース「low」となる。
図7の表の右欄は副軸32側であるドグギヤ回転数(rpm)の算出式を示している。例えば目標メインギヤ段「1st」だと、副軸回転センサ26による検出値(副軸回転数(rpm))に、ギヤ比ZC1/Z1 を乗じた値が、ギヤM1に固設されたドグギヤ36の回転即ちドグギヤ回転数(rpm)となる。目標メインギヤ段「Rev」では、副軸回転数(rpm)に減速比CRev を乗じた値がドグギヤ回転数(rpm)となる。
一方、図7の下段は、主軸33側であるスリーブ43、44、45の回転即ちスリーブ回転数(rpm)の算出式を示している。次回変速先の目標レンジギヤ段がHighのときは、減速比が1なので、出力軸回転センサ28の検出値(出力軸回転数(rpm))がそのままスリーブ回転数(rpm)となる。また目標レンジギヤ段がLowのときは、減速比がCRG=4.5なので、出力軸回転数(rpm)に減速比CRGを乗じた値がスリーブ回転数(rpm)となる。
シンクロ制御では、これら副軸32側のドグギヤ回転数(回転速度)と主軸33側のスリーブ回転数(回転速度)とをギヤイン可能な範囲内に近付ける制御を行う。具体的には回転差Δ=(ドグギヤ回転数−スリーブ回転数)を計算し、この値をギヤイン可能な範囲に入れる制御を行う。
さらに、本実施形態のシンクロ制御は通常油温時シンクロ制御と低油温時シンクロ制御とからなり、油温センサ51の検出温度に基づいてそれらの制御が切り替えられる。より具体的には、油温センサ51の検出温度が所定温度T1を超える場合には、通常油温時シンクロ制御が行われ、検出温度が所定温度T1以下の場合には、低油温時シンクロ制御が行われる。例えば、寒冷地において車両を始動した直後など変速機3が十分に暖まっていない時には、低油温時シンクロ制御が行われ、車両がしばらく走行して変速機3が十分に暖まった時に、通常油温時シンクロ制御に切り替えられる。所定温度T1は、オイルの粘度や油温センサ51の設置場所などにより適宜設定される。例えば、所定温度T1は30℃である。
以下、このような制御の切り替えを実行するためのプログラムについて、図14のフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップ141において、現在シンクロ制御中であるかどうかを判定する。シンクロ制御中でないと判定された場合、ノンシンクロギヤ段(メインギヤ18)の変速を伴う変速ではないので終了する。
ステップ141でシンクロ制御中であると判定された場合、ステップ142に進み現在の油温センサ51の検出温度が所定温度T1を超えるかどうか判定する。
ステップ142で油温センサ51の検出温度が所定温度T1を超えると判定された場合、ステップ143に進む。ステップ143では、後述する通常油温時シンクロ制御を行う。
一方、ステップ142で変速機3の油温が所定温度T1以下であると判定された場合は、ステップ144に進む。ステップ144では、後述する低油温時シンクロ制御を行う。
ステップ143で通常油温時シンクロ制御を行った後、またはステップ144で低油温時シンクロ制御を行った後は、ステップ145に進み終了する。
以下に、通常油温時シンクロ制御と低油温時シンクロ制御とについて各々説明する。
まず、通常油温時シンクロ制御について説明する。
例えば、シフトアップ時などのように、変速先のギヤ段においてドグギヤ回転数>スリーブ回転数となっている場合には、クラッチ2を断してギヤ抜きする一方で、副軸32側のドグギヤと主軸33側のスリーブとを同期させるのに必要な副軸回転数(目標副軸回転数)を算出し、副軸ブレーキ手段27を作動させて副軸32を目標副軸回転数まで減速制動してドグギヤとスリーブとを同期させる。
他方、シフトダウン時などのように、変速先のギヤ段においてドグギヤ回転数<スリーブ回転数となっている場合、ダブルクラッチ制御を行い、ドグギヤ回転を上げて同期させる。
ダブルクラッチ制御は以下の如きである。図8に示すように、時刻t1で変速指示信号があった場合、まずクラッチ断し、ギヤ抜きを行う。ギヤ抜きは、クラッチが切れ始めた直後の位置、言い換えれば半クラッチ領域に入った直後の位置P1で開始する。エンジン制御は、クラッチ位置がP1となった時点から、実アクセル開度から離れた疑似アクセル開度に基づく制御に移行される。このとき、ECU6は変速先のギヤ段における副軸32側のドグギヤと主軸33側のスリーブとを同期させるために必要な目標副軸回転数xに相当する目標エンジン回転数Eを算出し、実際のエンジン回転数を目標エンジン回転数Eまで上昇させて一定に保持する。
ギヤ抜き後、クラッチが一瞬接続され、これにより副軸32の回転数が目標副軸回転数x付近まで上昇し、ドグギヤ回転数とスリーブ回転数との回転差がギヤイン可能な範囲内となる(同期する)。この直後クラッチが再び断され、ギヤインが実行される。ギヤインは、クラッチが完全に切れる直前の位置、言い換えれば半クラッチ領域から抜け出る直前の位置P2から開始される。ギヤイン終了後、直ちにクラッチが再接続され、クラッチが完接されるとダブルクラッチ制御が終了し、エンジン及び副軸回転数が実アクセル開度に従った回転に移行する。
ところで、この変速制御装置では、特開2001−263472号公報に示されているように二パターンの変速制御を実行する。一つ目は、レンジギヤのシフトダウンを伴わない変速を行うときに実行する変速Aパターンであり、二つ目は、レンジギヤのシフトダウンとダブルクラッチ制御両方を必要とする変速を行うときに実行する変速Bパターンである。レンジギヤのシフトダウンとダブルクラッチ制御両方を必要とする変速とは、図7の表でいえば9th→7th、9th→8th、10th→8thの場合である。この場合、レンジギヤのハイ・ロー間の減速比が比較的大きく異なりシフトダウンに時間がかかると共に、ダブルクラッチ制御にも比較的時間がかかるためこれらを順番に行っていたのでは全体の変速時間が長くなる。そこで、レンジギヤのシフトダウンを伴う変速機全体のシフトダウンのときには、全体の変速時間を短縮できるような変速制御パターンを行うようにしているのである。
以下、二つの変速制御パターンについて説明する。
まず、図9を用いて変速パターン判別のためのプログラムを説明する。
変速指示があるとTMCU9はまずステップ101でレンジギヤの変速の有無を判断する。レンジギヤ変速無のときはステップ104に進んで変速Aパターンを選択する。変速Aパターンとは図10のチャートに従って変速するパターンのことで、通常の変速パターンである。レンジギヤ変速有のときはステップ102に進んでその変速がシフトダウンか(H→L)否かを判断する。シフトアップならステップ104に進んで変速Aパターンを選択し、シフトダウンならステップ103に進んで変速Bパターンを選択する。変速Bパターンとは図11のチャートに従って変速するパターンのことで、比較的特殊なケースにおいて行われる変速パターンである。
図10、図11においては、図の上方から下方に向かう時間軸があり、横並びに示されている項目は同時ないし同時期に行うことを示している。例えば図10でステップ201とステップ202とは同時に行う。
レンジギヤのシフトダウンを伴わない変速Aパターンについて。図10に示すように、まず、メインギヤ変速有のときはステップ201に進んでメインギヤ抜きを行う。このときスプリッタの変速も有るときは、ステップ202に進んでスプリッタのギヤ抜き(シフト抜き)を行う。このときの条件はクラッチ位置がP1より断側にあることである。なおこれを「クラッチ位置>P1」と表示する。勿論、メインギヤ又はスプリッタの一方しか変速しない場合は両ステップのうち一方が省略される。なおレンジギヤのみの変速の場合は無い。図7の表に示すように、一気に7段飛ばし(ex.2nd→10th)になってしまうからである。
次に、ステップ203、204、205を同時に行う。ステップ203では次にギヤインするギヤM1,M2…に合わせてメインギヤのセレクトを行う。条件はメインギヤがニュートラルにあることである。ステップ204では、レンジギヤの変速があるときは、そのギヤ抜きとギヤインとを同時に行う。これは図2に示したようにレンジアクチュエータ22の構造上、抜きとインとが同時に行われてしまうからである。このときの条件はクラッチ位置がP2 より断側にあるか (「クラッチ位置>P2 」と表示する)、又はメインギヤがニュートラルであることである。ステップ205ではスプリッタのギヤイン(シフトイン)を行う。条件はステップ204と同様クラッチ位置>P2 又はメインギヤ=Nである。これによりエンジン動力が副軸32まで伝達可能となり、ダブルクラッチ制御可能となる。なお、スプリッタのみの変速の場合はここで変速完了となる。
ステップ206ではシンクロ制御を実行する。ここでの条件はメインギヤがNで、且つスプリッタとレンジギヤとがシフト完了していることである。ドグギヤ回転数−スリーブ回転数>M1 (M1 は正の設定値)のとき、即ちシフトアップのときは、副軸ブレーキ手段27により副軸32を目標副軸回転数まで減速制動してドグギヤ回転数をスリーブ回転数付近まで下げる。一方、ドグギヤ回転数−スリーブ回転数<−M2 (M2 は正の設定値)のときは、ダブルクラッチ制御を行い、副軸32を目標副軸回転数まで上昇させてドグギヤ回転数をスリーブ回転数付近まで上げる。
こうしてメインギヤの同期を終えたらステップ207に進んでメインギヤをギヤインする。ここでの条件は、メインギヤがセレクト完了しており(ステップ203)、目標副軸回転数と現副軸回転数との差の絶対値がギヤイン可能な値α以下であり、且つクラッチ位置>P2 となっていることである。以上により変速Aパターンを終了する。
次に、レンジギヤのシフトダウンを伴う変速Bパターンについて。図11に示すように、ここではメインギヤの変速は必須なので(図7参照)、ステップ302に進んでメインギヤ抜きを行う。条件はステップ201同様クラッチ位置>P1である。このときスプリッタの変速も有るときは、ステップ302に先立ってステップ301でスプリッタをギヤ抜きし、ステップ302と同時にステップ303でスプリッタをギヤインする。ステップ301、303の実行条件はステップ202、205と同じである。
次に、ステップ304、305及び306を同時に行う。ステップ304ではステップ203同様メインギヤをセレクトする。ステップ305ではステップ204同様、レンジギヤのギヤ抜き及びギヤイン即ちシフトダウンを行う。ステップ306ではステップ206同様シンクロ制御を行う。
こうしてこれらステップを終えたら、ステップ307でステップ207同様メインギヤをギヤインし、変速Bパターンを終了する。
このように変速Bパターンでは、比較的長時間を要するレンジギヤのシフトダウンとダブルクラッチ制御とを同時に行ってしまうので、全体の変速時間を短縮することができる。
ここで、変速Aパターンでレンジギヤの変速後にシンクロ制御を行うのは以下の理由による。即ち、変速Aパターンではレンジギヤがシフトアップであり、このときは変速機全体で必ずシフトアップとなり、シンクロ制御は副軸ブレーキ手段27による副軸32の減速制動となる。副軸ブレーキ手段27による同期は極めて短時間で行えるので、このときレンジギヤのシフトアップを同時又は後に行ってしまうと、副軸ブレーキ手段27による同期が先に終了し、レンジギヤのシフト終了までの間に副軸の回転数が落ち込み、せっかく同期した回転が狂うばかりかダブルクラッチの必要性も生じてくるからである。
また、シンクロ制御及びメインギヤのギヤインを行ってからレンジギヤをシフトアップする考え方もあるが、一般的にこれは行えない。レンジギヤが比較的大きな減速比の差を有するため、この順番で行うとレンジギヤのシンクロ出力側からテーパコーンを介して、シンクロ入力側から変速機入力軸15までのギヤ群全体を急加速しなければならず、レンジギヤのシンクロ機構に過負荷を掛け、レンジギヤを入れられないか又は変速機を壊してしまうからである。
以上の理由から、変速Aパターンでは先にレンジギヤの変速を行い、この後メインギヤのシンクロ、ギヤインを行うようにしている。
ところで、変速先のギヤ段における副軸32側のドグギヤ回転数が主軸33側のスリーブ回転数よりも高い場合(ドグギヤ回転数>スリーブ回転数)は副軸ブレーキ手段27を作動して副軸32を減速制動するのであるが、副軸ブレーキ手段27の制動力が大きすぎる等の理由によって副軸32の回転数が目標副軸回転数よりも下回ってしまう場合がある。その場合、本実施形態の変速制御装置は、クラッチを接続して副軸32の回転数を上昇させてギヤインを図り、そのギヤイン時のギヤ鳴りを防止するようにしている。
図12を用いて本実施形態の変速制御方法を説明する。図の上側はクラッチの断接状態を示しており、下側は副軸32に連動するクラッチ出力軸15(変速機入力軸)の回転数を示している。
まず、時刻t1において変速指示信号があった場合、クラッチを断側に作動する。そして、クラッチが半クラッチ領域に入る位置P1(切れ始め直後)まで断側に移動したら変速機のギヤ抜きを開始する(時刻t2)。
一方、TMCU9は変速先のギヤ段における主軸33側のスリーブと副軸32側のドグギヤとを同期させるために必要な目標副軸回転数を算出し、その目標副軸回転数に相当する目標クラッチ出力軸回転数Xを算出する。具体的には、目標副軸回転数にスプリッタギヤ17のギヤ比を乗じて目標クラッチ出力軸回転数Xを算出する。そして、クラッチが位置P1まで断側に移動したら副軸ブレーキ手段27を作動させて副軸32を減速制動する(CSB制御)。従って、副軸32に連動するクラッチ出力軸15の回転数も当然下降する。
ここで、時刻t3に示すように、副軸ブレーキ手段27による制動が大きすぎた等の理由によってクラッチ出力軸回転数が目標クラッチ出力軸回転数Xを下回ってしまったとする。つまり、副軸回転数が目標副軸回転数(ギヤイン可能な同期範囲の下限)を下回ってしまった場合である。
この場合、直ちにクラッチが接側へと作動され、第二の所定位置まで移動する。本実施形態の第二の所定位置は、クラッチが半クラッチ領域に入る位置P1である。クラッチがつながり始めると、クラッチ出力軸15及び副軸32にエンジン1の駆動力が伝わりその回転数が上昇する。そして、クラッチ出力軸回転数が目標クラッチ出力軸回転数X以上まで上昇した(副軸回転数も目標副軸回転数以上に上昇する)ならば、再度、クラッチを断側に作動する。
一方、このときTMCU9は現在のエンジン回転数Yと目標クラッチ出力軸回転数Xとの差Zを算出する(Y−X=Z)。そして、その差Zが予め設定した値(例えば100rpm)よりも大きい場合、クラッチが所定の断位置まで断側に移動し、その後設定期間Tを経過するまではギヤインを禁止する。ここでは、クラッチの所定の断位置とは半クラッチ領域の断側境界位置P2のことであり、設定期間Tは50msである。よって、クラッチが位置P2まで断側に移動した時刻t5から50msを経過した時刻t6よりも前では、ギヤインは実行されない。
従って、時刻t3でクラッチを接することによってクラッチ出力軸回転数が上昇し、時刻t4において実際のクラッチ出力軸回転数と目標クラッチ出力軸回転数Xとが(同期)一致しても、時刻t6よりも前であるためギヤインは実行されない。
クラッチが位置P2まで断側に移動するとエンジン1の駆動力がクラッチ出力軸15(及び副軸32)に伝わらなくなり、クラッチ出力軸15の回転数が下降する。
そして、設定期間Tが経過するとギヤインの禁止は解除されるので、その後、下降するクラッチ出力軸15の回転数が目標クラッチ出力軸回転速度Xと一致(同期)した時刻t7においてギヤイン指示信号がTMCU9から出力され、ギヤインの実行が開始される(時刻t7)。
なお、クラッチが位置P2まで断側に移動した時刻t5以降、副軸ブレーキ手段27を作動して副軸32及びクラッチ出力軸15を減速制動するようにしても良い。
一方、エンジン回転数Yと目標クラッチ出力軸回転数Xとの差Zが設定値よりも小さい場合には、ギヤインの禁止は行わない。従って、時刻t4でクラッチ出力軸回転数が目標クラッチ出力軸回転数Xと一致(同期)するとギヤインが実行される。
このように、エンジン回転数Yと目標クラッチ出力軸回転数Xとの差が大きいときには、クラッチを接して副軸32の回転数を上昇させた後、クラッチが所定位置よりも断側に移動するまではギヤインを禁止する。従って、その後ギヤインを行うときはクラッチが切れた状態であるためエンジン1の駆動力が変速先のギヤのドグギヤに伝達されることはなく、ギヤ鳴りを防止できる。
また、ギヤインを行うときのクラッチ出力軸15及び副軸32はオイルの粘性等による回転抵抗により回転数が低減している状態であるため、スリーブをドグに入れるときの抵抗が小さく、ギヤ鳴りを引き起こす可能性が小さい。
一方、エンジン回転数Yと目標クラッチ出力軸回転数Xとの差Zが小さいときには、時刻t4でクラッチを接したときのクラッチ出力軸及び副軸の加速度が比較的小さくギヤ鳴りが発生する心配は少ないので、クラッチが所定位置まで断側に移動する前であってもクラッチ出力軸回転数と目標クラッチ出力軸回転数X(副軸回転数と目標副軸回転数)とが一致(同期)したならばギヤインを実行する。これにより、変速期間の短期化を図っている。
以下、このような制御を実行するためのプログラムについて、図13のフローチャートを用いて説明する。このフローチャートはTMCU9によって所定時間(ex.32msec)毎に繰り返し実行される。
まず、ステップS1において、現在シンクロ制御中であるかどうかを判定する。シンクロ制御中でないということはノンシンクロギヤ段(メインギヤ18)の変速を伴う変速ではないので、ステップS8に進みタイマーをクリアして終了する。
ステップS1でシンクロ制御中であると判定された場合、ステップS2に進み現在の変速機出力軸回転数に変速先のギヤ段(目標ギヤ段)のギヤ比を乗じて目標クラッチ出力軸回転数Xを算出する。即ち、ここでは変速機出力軸回転数に変速機3全体としてのギヤ段のギヤ比(スプリッタ17、メインギヤ18、レンジギヤ19全て含んだギヤ比)を乗じて直接目標クラッチ出力軸回転数Xを算出するようにしている。
続いてステップS3に進み、現在のエンジン回転数YとステップS2で算出した目標クラッチ出力軸回転数Xとの差Zを算出する(Z=Y−X)。
次にステップS4に進み、ステップS3で算出した差Zが設定値1よりも大きいかどうかを判定する。設定値1は前述したようにここでは100rpmである。差Zが設定値1以下である場合はステップS8に進みタイマーをクリアして終了する。従って、ギヤインの禁止は行われず、図12においてクラッチを接した後クラッチ出力軸回転数と目標クラッチ出力軸回転数Xとが一致(同期)した時刻t4においてギヤインが行われる。
一方、ステップS4で差Zが設定値1よりも大きいと判定された場合、ステップS5に進み、現在のクラッチが設定値2(図12の位置P2)よりも断側に位置しているかどうかを判定する。クラッチ位置が設定値2よりも接側であると判定された場合、ステップS6に進んでタイマーをクリアした後ステップS7に進んでギヤインを禁止する。従って、このときにクラッチ出力軸回転数が目標クラッチ出力軸回転数Xと一致(同期)してもギヤインは行われない。
一方、ステップS5でクラッチが設定値2よりも断側に移動したと判定された場合、ステップS9に進みタイマーによる時間計測を開始する(タイマーインクリメント)。
次に、ステップS10に進み、タイマーの計測値が設定値3よりも大きいかどうかを判定する。設定値3は前述したようにここでは50msである。タイマーの計測値が設定値3以下であると判定された場合、ステップS7に進みギヤインの禁止を維持したまま終了する。
ステップS10においてタイマーの計測値が設定値3よりも大きいと判定された場合、ステップS11に進みギヤインの禁止を解除して終了する。これが、図12における時刻t6である。その後、クラッチ出力軸回転数が下降して目標クラッチ出力軸回転数Xと一致(同期)したらギヤインが実行される。
なお、設定値1、設定値2及び設定値3は他の値に設定することもできる。また、設定値3は必ずしも設定する必要はなく、クラッチが設定値2まで断側に移動したならばギヤインの禁止を解除するようにしても良い。
さて、以上説明してきたような変速制御装置であるが、本発明では、「発明が解決しようとする課題」の項で説明した問題点を解決すべく改良が加えられている。
即ち、寒冷地などで変速機3の油温が低く、クラッチが断側に作動しかつギヤ抜きしている場合、つまり、副軸32の回転数の下降速度が著しく速い場合、通常油温時シンクロ制御から低油温時シンクロ制御に切り替えて、ギヤが入らない現象やギヤ鳴りを防止することが目的である。
低油温時シンクロ制御の特徴は、副軸32側の回転数と主軸33側の回転数の大小にかかわらず、所定の位置にクラッチを移動させ、副軸32側と主軸33側とが同期(一致)するようにエンジンを制御し、その後、ギヤインが完了するまでクラッチを断側に作動させない点にある。
まず、図15に基づいて、シフトアップ時などのように変速先のギヤ段においてドグギヤ回転数(副軸32側)>スリーブ回転数(主軸33側)となっている場合の低油温時シンクロ制御について説明する。
図15の上側には、クラッチの断接状態(プレッシャプレート2bの位置)が示される。図15の下側には、クラッチ出力軸回転数が実線で、エンジン回転数Yが点線で示される。なお、図15(および図16)のP1は、クラッチが切れ始めた直後の位置であり、同様にP2は、クラッチが完全に切れる直前の位置である。
まず、時刻t1において変速指示信号があった場合、クラッチを断側に作動する。クラッチが半クラッチ領域に入る位置P1まで断側に移動したら変速機3のギヤ抜きをする(時刻t2)。さらに、通常油温時シンクロ制御と同様に、クラッチ位置がP1となった時点から、エンジン制御を疑似アクセル開度に基づく制御に移行させる。
一方、TMCU9は変速先のギヤ段における主軸33側のスリーブと副軸32側のドグギヤとを同期させるために必要な目標副軸回転数を算出し、その目標副軸回転数に相当する目標クラッチ出力軸回転数Xを算出する。
時刻t2では、エンジン回転数Yが目標クラッチ出力軸回転数Xよりも高い。そこで、エンジン回転数Yが目標クラッチ出力軸回転数Xと一致(同期)するようにエンジンを制御してエンジン回転数Yを下降させる。
また、クラッチ出力軸回転数も目標クラッチ出力軸回転数Xよりも高い。そこで、副軸32を減速制動してクラッチ出力軸回転数を下降させる。
副軸32を減速制動する場合、通常油温時シンクロ制御では副軸ブレーキ手段27を作動させたが、低油温時シンクロ制御ではその必要がない。これは、変速機3のオイル粘度が高いことから、クラッチを断側に作動させてギヤ抜きした状態にすると、副軸32に副軸ブレーキ手段27と同等の強いブレーキ効果が作用し、そのブレーキ効果により副軸回転数が十分に速い速度で下降するためである。その副軸回転数の下降により、副軸32に連動するクラッチ出力軸15の回転数も当然下降する。
また、時刻t2では、ギヤインの前に行うべき事前動作を開始する。事前動作として、スプリッタギヤ17の変速、レンジギヤ19の変速及びメインギヤ18のセレクト方向の移動を行う。それらの事前動作は時刻t3で完了する。
ここでは、事前動作の完了時(時刻t3)にクラッチ出力軸回転数が目標クラッチ出力軸回転数Xを下回る場合が多い。一方、エンジン回転数Yは、時刻t3でも依然として目標クラッチ出力軸回転数Xよりも高い場合が多い。
時刻t3において事前動作が完了すると直ちにクラッチを接側に作動させる。クラッチは、第一の所定位置まで移動させる。本実施形態の第一の所定位置は、第二の所定位置P1よりも接側に位置する。具体的には、第一の所定位置はクラッチの接側の限界位置である完接位置P0である。本実施形態では、クラッチを完接位置P0に移動して副軸側と主軸側とを同期させるクラッチ完接制御が実行される。
このように、クラッチを完接位置P0まで移動させるのは、P1よりも断側の半クラッチ領域にクラッチを移動させたのでは、低油温時のブレーキ効果によりクラッチ入力軸(図示せず)とクラッチ出力軸15との間に滑りが生じてしまい、クラッチ出力軸15を同期させるのに時間が掛かってしまうためである。完接位置P0では、低油温時であってもクラッチが滑ることがない。
クラッチがつながり始めると、クラッチ出力軸15および副軸32にエンジンの駆動力が伝わり、それらの回転数が上昇する。クラッチが完接位置P0まで移動すると、クラッチ出力軸回転数はエンジン回転数Yと同期する。
このように、低油温時シンクロ制御の場合、クラッチ出力軸回転数が目標クラッチ出力軸回転数Xを超えても、クラッチを断側に作動させない。
上述したように、エンジン回転数Yは目標クラッチ出力軸回転数Xまで下降するように制御されている。そこで、クラッチ接の状態を保持してクラッチ出力軸回転数をエンジン回転数Yと共に下降させる。
時刻t4では、クラッチ出力軸回転数(エンジン回転数Y)が目標クラッチ出力軸回転数Xに一致する(すなわち、副軸32側の回転数が主軸33側の回転数と同期する)。そこで、クラッチ接のままでギヤインを行う。時刻t4において、TMCU9がギヤイン指示信号を発信すると、タイムラグの後、時刻t5においてギヤインが完了する。このように本実施形態では、副軸側が主軸側と同期したことを検出した時(時刻t4)から、ギヤイン完了を検出する(時刻t5)までの間、クラッチを完接位置P0で保持する。
次に、図16に基づきシフトダウン時などのように、変速先のギヤ段においてドグギヤ回転数<スリーブ回転数となっている場合の低油温時シンクロ制御について説明する。
図16の上側には、クラッチの断接状態(プレッシャプレート2bの位置)が示される。図16の下側には、クラッチ出力軸回転数が実線で、エンジン回転数Yが点線で示される。
まず、時刻t1において変速指示信号があった場合、クラッチを断側に作動させる。クラッチが半クラッチ領域に入る位置P1まで断側に移動したらギヤ抜きを指示する(時刻t2)。さらに、通常油温時シンクロ制御と同様に、クラッチ位置がP1となった時点から、エンジン制御を疑似アクセル開度に基づく制御に移行する。
一方、TMCU9が目標クラッチ出力軸回転数Xを算出する。さらに、実際のエンジン回転数Yを目標クラッチ出力軸回転数Xまで上昇させて一定に保持する。
時刻t2からt3までの間で、ギヤインの前に行うべき事前動作を行う。時刻t3で、クラッチを接側に作動させ第一の所定位置(本実施形態では完接位置P0)まで移動させる。
クラッチがつながり始めると、クラッチ出力軸15および副軸32にエンジンの駆動力が伝わり、それらの回転数が上昇する。時刻t3では、既にエンジン回転数Yが目標クラッチ出力軸回転数Xと同期している。そのため、クラッチが完接位置P0まで移動すると、クラッチ出力軸回転数が目標クラッチ出力軸回転数Xと同期する(時刻t4)。このように、クラッチが第一の所定位置に到達する前に副軸32側の回転数と主軸33側の回転数とが同期している場合には、その同期状態を保持するようにエンジンを制御する。
時刻t4では、クラッチ接のままギヤインを行う。時刻t4において、TMCU9がギヤイン指示信号を発信すると、タイムラグの後、時刻t5においてギヤインが完了する。
以上のように、低油温時シンクロ制御では、ギヤインが完了するまでクラッチ接の状態を保持する。クラッチ接の状態では、クラッチ出力軸や副軸に作用するオイルの回転抵抗がエンジンの駆動力により打ち消されており、クラッチ出力軸回転数はエンジン回転数と同期したものとなる。そこで、エンジン回転数Yを目標クラッチ出力軸回転数で保持することで、ドグギヤ回転数とスリーブ回転数との回転差がギヤイン可能な範囲内に収まるような副軸回転数を保持することができる。
このように、クラッチを接したままでギヤインを行うことで、ギヤイン指示信号が発信されてからギヤインが完了するまでのわずかの時間に、クラッチ出力軸回転数が過度に下降してしまうという問題が解消され、ギヤインを確実に行うことができる。
また、ギヤイン時にエンジン回転数Yとクラッチ出力軸回転数とが同期しているため、クラッチ接ままギヤインを実行してもギヤ鳴りが発生する心配がない。
また、ギヤインを確実に行うことで、ギヤイン時の車両の失速を防止することができる。
また、低温時シンクロ制御では、副軸ブレーキ制御に比べ変速時間が延びる可能性があるが、ある程度走行すれば変速機の油温が設定温度T1を超え、自動的に通常油温時シンクロ制御に移行し、変速時間を短縮する制御を実施することができる。つまり、変速機の油温に基づいて常に最適な変速制御を行うことができる。
なお、本発明はこれまで説明してきた変速制御装置に限定されない。
例えば、本実施形態の第一の所定位置は完接位置P0であるが、これに限定されない。第一の所定位置は、エンジンのトルクをクラッチ出力軸に伝達させる範囲(図15中P2〜P0)内であれば任意に設定することができる。例えば、クラッチ出力軸回転数とエンジン回転数Yとが略同期するような位置が考えられる。第一の所定位置は、設定温度T1、ギヤイン時のタイムラグ、エンジンの駆動力、クラッチの伝達トルクなどを考慮して適切に設定される。
また、温度検出手段は、油温センサ51に限定されない。例えば、変速機の油温はエンジンの水温と相関があることを考慮し、油温をエンジン水温から間接的に推定するようにしてもよい。
また、通常油温時シンクロ制御は、上述したものに限らず、例えば、本出願人が特開2003−175750号公報で開示しているようなもの等でもよい。
また、上記フローチャートは一例として示したものであり、本発明を限定するものではない。
また、本発明は、ノンシンクロギヤ段を備えた変速機の変速を制御するものであれば他の変速制御装置にも当然適用できる。さらには、ノンシンクロギヤ段を備えない変速機の変速を制御する変速制御装置にも適用することが考えられる。