JP4314721B2 - 車両の自動変速装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特にトラクタ等の大型車両に適用される車両の自動変速装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近ではドライバの負担を軽減するため、トラクタやトラック等の大型車両においても自動変速装置を採用する例が多く見られる。このような大型車両では、メインギヤの他に、副変速機としてのスプリッタ及びレンジギヤを有する多段変速機が装備される。この場合、部品数及びコストの低減を図るため、メインギヤから機械的シンクロ機構を省略し、代わりにシンクロ制御なるものを行ってギヤインの際の同期を図ることが考えられる。ここでシンクロ制御とは、主に、シフトアップのときはカウンタシャフトブレーキ制御を行うことであり、シフトダウンのときはダブルクラッチ制御を行うことである。また、シンクロ状態とは、次回変速先の目標メインギヤ段において、ドグギヤ回転とスリーブ回転とが略一致していることをいう。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、かかるシンクロ制御では変速機のカウンタシャフト回転とアウトプットシャフト回転とを検出し、これらの値から目標メインギヤ段のドグギヤ回転とスリーブ回転とを割り出し、シンクロ状態を判断するようになっている。そしてこれらシャフト回転の検出と、これに基づいたシンクロ制御とは、極めて短い時間間隔毎(10〜100ms のオーダー)に行われる。
【0004】
しかし、シャフト回転の検出時期と、シンクロ制御の制御時期とを毎回一致させることができない場合がある。即ち、通常シャフト回転はシャフト外周に設けられた歯付リングに近接センサを臨ませ、歯の通過毎にパルスを発生させて時間毎のパルス数をカウントすることにより求める。しかし、スペース上の制約等から歯数にも限界があり、検出時間を一定以上狭められず、シャフト回転をシンクロ制御時期毎に検出できない場合がある。このようなときにも各シンクロ制御時期毎に最適なシャフト回転を与えるのが望ましいし、広い時間間隔で検出されたシャフト回転をそのまま中間時期のシンクロ制御に用いれば、シンクロ制御の精度が悪化するのは必須である。
【0005】
そこで、本発明の目的は、シンクロ制御に際し毎回最適なシャフト回転を与え、シンクロ制御の精度を向上することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る車両の自動変速装置は、機械的なシンクロ機構を有しないメインギヤを含む変速機と、該変速機とエンジンとの間に位置するクラッチと、上記変速機の変速を制御するコントロールユニットと、該コントロールユニットの信号に基づき変速機の変速を実行するアクチュエータとを備え、上記メインギヤの変速の際に上記クラッチを接にしてシンクロさせるダブルクラッチ制御を実行するものにあって、上記ダブルクラッチ制御は上記クラッチが接になる以前からシャフト回転数に基づいてシンクロ可能な目標エンジン回転数に設定される制御を行い、上記メインギヤの変速の際に一定時間ごとに上記目標エンジン回転数の設定と、上記時間間隔とは異なる時間間隔でシャフト回転数を検出し、最新の検出時期から次の検出時期までの間の中間時期のシャフト回転数を、一定の時間間隔でシャフト回転数を検出する度に更新される最新の検出値と、前記最新の検出値が所定回数更新される以前の検出値とに基づいて補外法により求め、その求められた値を用いて中間時期における上記目標エンジン回転数を決定するようにしたものである。
【0007】
ここで、上記目標エンジン回転数の決定が、上記シャフト回転の検出時期の時間間隔を等分割するような時期に行われ、上記中間時期のシャフト回転が次式により求められるのが好ましい。
【0008】
Nnm=Nn +(ΔNn /n)×m
Nnm:最新の検出時期からm回目の中間時期のシャフト回転
Nn :シャフト回転の最新の検出値
ΔNn :シャフト回転の最新の検出値と1回前の検出値との差
n:シャフト回転の検出時期の時間間隔の分割数
m:1からn−1までの整数
また、上記mの値が、上記中間時期における目標エンジン回転数の決定毎にインクリメントされるタイマ値であるのが好ましい。
【0009】
また、上記目標エンジン回転数の決定時期と上記シャフト回転の検出時期とが一致したときは上記シャフト回転の最新の検出値を直接用いて上記目標エンジン回転数の決定を行うのが好ましい。
【0010】
また、上記シャフト回転数が変速機のアウトプットシャフト回転数であってもよい。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0012】
図1に本実施形態に係る車両の自動変速装置を示す。ここでは車両がトレーラを牽引するトラクタであり、エンジンがディーゼルエンジンである。図示するように、エンジン1にクラッチ2を介して変速機3が取り付けられ、変速機3のアウトプットシャフト4(図2参照)が図示しないプロペラシャフトに連結されて後輪(図示せず)を駆動するようになっている。エンジン1はエンジンコントロールユニット(ECU)6によって電子制御される。即ち、ECU6は、エンジン回転センサ7とアクセル開度センサ8との出力から現在のエンジン回転速度及びエンジン負荷を読取り、主にこれらに基づいて燃料噴射ポンプ1aを制御し、燃料噴射時期及び燃料噴射量を制御する。
【0013】
一方、変速中は、アクセル開度センサ8によって検知される実アクセル開度と無関係にECU6自らが加工した疑似アクセル開度なるものに基づいてエンジン制御を実行する。これは特に後述するダブルクラッチ制御において必要である。
【0014】
図2に示すように、エンジンのクランク軸にフライホイール1bが取り付けられ、フライホイール1bの外周にリングギヤ1cが形成され、リングギヤ1cの歯が通過する度にエンジン回転センサ7がパルスを出力し、ECU6が単位時間当たりのパルス数をカウントしてエンジン回転数を算出する。
【0015】
図1に示すように、ここではクラッチ2と変速機3とがトランスミッションコントロールユニット(TMCU)9の制御信号に基づいて自動制御される。即ちかかる自動変速装置には自動クラッチ装置と自動変速機とが備えられる。ECU6とTMCU9とは互いにバスケーブル等を介して接続され、相互に連絡可能である。
【0016】
図1、図2、図3に示すように、クラッチ2は機械式摩擦クラッチであり、入力側をなすフライホイール1b、出力側をなすドリブンプレート2a、及びドリブンプレート2aをフライホイール1bに摩擦接触或いは離反させるプレッシャプレート2bから構成される。そしてクラッチ2は、クラッチブースタ(クラッチアクチュエータ)10によりプレッシャプレート2bを軸方向に操作し、基本的には自動断接され、ドライバの負担を軽減し得るものとなっている。一方、微低速バックに際しての微妙なクラッチワークや、非常時のクラッチ急断等を可能とするため、ここではクラッチペダル11によるマニュアル断接も可能となっている。所謂セレクティブオートクラッチの構成である。クラッチ位置(即ちプレッシャプレート2bの位置)を検知するためのクラッチストロークセンサ14と、クラッチペダル11の位置を検知するためのクラッチペダルストロークセンサ16とが設けられ、それぞれTMCU9に接続される。
【0017】
図3に分かりやすく示すが、クラッチブースタ10は実線で示す二系統の空圧通路a,bを通じてエアタンク5に接続され、エアタンク5から供給される空圧で作動する。一方の通路aがクラッチ自動断接用、他方の通路bがクラッチマニュアル断接用である。一方の通路aが二股状に分岐され、そのうちの一方に自動断接用の電磁弁MVC1,MVC2が直列に設けられ、他方に非常用の電磁弁MVCEが設けられる。分岐合流部にダブルチェックバルブDCV1が設けられる。他方の通路bに、クラッチブースタ10に付設される油圧作動弁12が設けられる。両通路a,bの合流部にもダブルチェックバルブDCV2が設けられる。ダブルチェックバルブDCV1,DCV2は差圧作動型の三方弁である。
【0018】
上記電磁弁MVC1,MVC2,MVCEはTMCU9によりON/OFF制御され、ONのとき上流側を下流側に連通し、OFF のとき上流側を遮断して下流側を大気開放する。まず自動側を説明すると、電磁弁MVC1は単にイグニッションキーのON/OFFに合わせてON/OFFされるだけである。イグニッションキーOFF 、つまり停車中はOFF となり、エアタンク5からの空圧を遮断する。電磁弁MVC2は比例制御弁で、供給又は排出エア量を自由にコントロールできる。これはクラッチの断接速度制御を行うためである。電磁弁MVC1,MVC2がともにONだとエアタンク5の空圧がダブルチェックバルブDCV1,DCV2をそれぞれ切り換えてクラッチブースタ10に供給される。これによりクラッチが分断される。クラッチを接続するときはMVC2のみがOFF され、これによりクラッチブースタ10の空圧がMVC2から排出されてクラッチが接続される。
【0019】
ところでもし仮にクラッチ分断中に電磁弁MVC1又はMVC2に異常が生じ、いずれかがOFF となると、ドライバの意思に反してクラッチが急接されてしまう。そこでこのような異常がTMCU9の異常診断回路で検知されたら、即座に電磁弁MVCEをONする。すると電磁弁MVCEを通過した空圧がダブルチェックバルブDCV1を逆に切り換えてクラッチブースタ10に供給され、クラッチ分断状態が維持され、クラッチ急接が防止される。
【0020】
次にマニュアル側を説明する。クラッチペダル11の踏込み・戻し操作に応じてマスタシリンダ13から油圧が給排され、この油圧が破線で示す油圧通路13aを介して油圧作動弁12に供給される。これによって油圧作動弁12が開閉され、クラッチブースタ10への空圧の給排が行われ、クラッチ2のマニュアル断接が実行される。油圧作動弁12が開くと、これを通過した空圧がダブルチェックバルブDCV2を切り換えてクラッチブースタ10に至る。
【0021】
図2に詳細に示すように、変速機3は基本的に常時噛み合い式の多段変速機で、前進16段、後進2段に変速可能である。変速機3はメインギヤ18と、その入力側及び出力側にそれぞれ副変速機としてのスプリッタ17及びレンジギヤ19を備える。そして、インプットシャフト15に伝達されてきたエンジン動力をスプリッタ17、メインギヤ18、レンジギヤ19へと順に送ってアウトプットシャフト4に出力する。
【0022】
変速機3を自動変速すべくギヤシフトユニットGSUが設けられ、これはスプリッタ17、メインギヤ18、レンジギヤ19それぞれの変速を担当するスプリッタアクチュエータ20、メインアクチュエータ21及びレンジアクチュエータ22から構成される。これらアクチュエータもクラッチブースタ10同様空圧作動され、TMCU9によって制御される。各ギヤ17,18,19の現在ポジションはギヤポジションスイッチ23(図1参照)で検知される。
【0023】
カウンタシャフト32の回転がカウンタシャフト回転センサ26で検知され、アウトプットシャフト4の回転がアウトプットシャフト回転センサ28で検知される。これらセンサは近接センサで、前者はカウンタギヤCHの歯が通過する度に、後者はアウトプットシャフト4に固設された歯付リングの歯が通過する度に、それぞれ波形信号を出力する。TMCU9はこれら信号を矩形パルスに整形し、単位時間毎のパルス数をカウントしてカウンタシャフト回転及びアウトプットシャフト回転を算出する。なお、かかる回転検出方法ではギヤ又はリングの歯数の制約等があることから検出時期の時間間隔を一定以上狭めることができない。そこで既述のような問題が発生することになる。
【0024】
この自動変速機ではマニュアルモードが設定され、ドライバのシフトチェンジ操作に基づくマニュアル変速が可能である。この場合、図1に示すように、クラッチ2の断接制御及び変速機3の変速制御は運転席に設けられたシフトレバー装置29からの変速指示信号を合図に行われる。即ち、ドライバが、シフトレバー装置29のシフトレバー29aをシフト操作すると、シフトレバー装置29に内蔵されたシフトスイッチが作動(ON)し、変速指示信号がTMCU9に送られ、これを基にTMCU9はクラッチブースタ10、スプリッタアクチュエータ20、メインアクチュエータ21及びレンジアクチュエータ22を適宜作動させ、一連の変速操作(クラッチ断→ギヤ抜き→ギヤ入れ→クラッチ接)を実行する。そしてTMCU9は現在のシフト段をモニター31に表示する。
【0025】
図示するシフトレバー装置29において、Rはリバース、Nはニュートラル、Dはドライブ、UPはシフトアップ、DOWNはシフトダウンをそれぞれ意味する。シフトスイッチはこれら各ポジションに応じた信号を出力する。また運転席に、変速モードを自動とマニュアルに切り換えるモードスイッチ24と、変速を1段ずつ行うか段飛ばしで行うかを切り換えるスキップスイッチ25とが設けられる。
【0026】
自動変速モードのとき、シフトレバー29aをDレンジに入れておけば車速に応じて自動的に変速が行われる。またこの自動変速モードでも、ドライバがシフトレバー29aをUP又はDOWNに操作すれば、マニュアルでのシフトアップ又はシフトダウンが可能である。この自動変速モードにおいて、スキップスイッチ25がOFF (通常モード)なら、シフトレバー29aの1回のUP又はDOWNの操作により、変速は1段ずつ行われる。これはトレーラ牽引時等、積載荷重が比較的大きいときに有効である。またスキップスイッチ25がON(スキップモード)なら変速は1段飛ばしで行われる。これはトレーラを牽引してないときや荷が軽いときなどに有効である。
【0027】
一方、マニュアル変速モードのときは、変速は完全にドライバの意思に従う。シフトレバー29aがDレンジのときは変速は行われず、現在ギヤが保持され、ドライバの積極的な意思でシフトレバー29aをUP又はDOWNに操作したときのみ、シフトアップ又はシフトダウンが可能である。このときも前記同様、スキップスイッチ25がOFF なら1回の操作につき変速は1段ずつ行われ、スキップスイッチ25がONなら変速は1段飛ばしで行われる。このモードではDレンジは現ギヤ段を保持するH(ホールド)レンジとなる。
【0028】
なお、運転席に非常用変速スイッチ27が設けられ、GSUの電磁弁等が故障したときはスイッチ27の手動切換により変速できるようになっている。
【0029】
図2に示すように、変速機3にあっては、インプットシャフト15、メインシャフト33及びアウトプットシャフト4が同軸上に配置され、カウンタシャフト32がそれらの下方に平行配置される。インプットシャフト15がクラッチ2のドリブンプレート2aに接続され、インプットシャフト15とメインシャフト33とが相対回転可能に支持される。
【0030】
まずスプリッタ17とメインギヤ18の構成を説明する。インプットシャフト15にインプットギヤSHが回転可能に取り付けられる。またメインシャフト33にも前方から順にギヤM4,M3,M2,M1,MRが回転可能に取り付けられる。MRを除くギヤSH,M4,M3,M2,M1は、それぞれカウンタシャフト32に固設されたカウンタギヤCH,C4,C3,C2,C1に常時噛合される。ギヤMRはアイドルリバースギヤIRに常時噛合され、アイドルリバースギヤIRはカウンタシャフト32に固設されたカウンタギヤCRに常時噛合される。
【0031】
インプットシャフト15及びメインシャフト33に取り付けられた各ギヤSH,M4…に、当該ギヤを選択し得るようドグギヤ36が一体的に設けられ、これらドグギヤ36に隣接してインプットシャフト15及びメインシャフト33に第1〜第4ハブ37〜40が固設される。第1〜第4ハブ37〜40には第1〜第4スリーブ42〜45が嵌合される。ドグギヤ36及び第1〜第4ハブ37〜40の外周部と、第1〜第4スリーブ42〜45の内周部とにスプラインが形成されており、第1〜第4スリーブ42〜45は第1〜第4ハブ37〜40に常時係合してインプットシャフト15又はメインシャフト33と同時回転すると共に、前後にスライド移動してドグギヤ36に対し選択的に係合・離脱する。この係合・離脱によりギヤイン・ギヤ抜きが行われる。第1スリーブ42の移動をスプリッタアクチュエータ20で行い、第2〜第4スリーブ43〜45の移動をメインアクチュエータ21で行う。
【0032】
このように、スプリッタ17とメインギヤ18とは各アクチュエータ20,21によって自動変速され得る常時噛み合い式の構成とされる。特に、スプリッタ17のスプライン部には通常の機械的なシンクロ機構が存在するものの、メインギヤ18の各スプライン部にはシンクロ機構が存在しない。このため、後述のシンクロ制御なるものを行ってドグギヤ回転とスリーブ回転とを同期させ、シンクロ機構なしで変速できるようにしている。ここではメインギヤ18以外にスプリッタ17にもニュートラルポジションが設けられ、所謂ガラ音対策がなされている(特願平11-319915 号参照)。
【0033】
次にレンジギヤ19の構成を説明する。レンジギヤ19は遊星歯車機構34を採用しており、ハイ・ローいずれかのポジションに切り替えることができる。遊星歯車機構34は、メインシャフト33の最後端に固設されたサンギヤ65と、その外周に噛合される複数のプラネタリギヤ66と、プラネタリギヤ66の外周に噛合される内歯を有したリングギヤ67とからなる。各プラネタリギヤ66は共通のキャリア68に回転可能に支持され、キャリア68はアウトプットシャフト4に連結される。リングギヤ67は管部69を一体的に有し、管部69はアウトプットシャフト4の外周に相対回転可能に嵌め込まれてアウトプットシャフト4とともに二重軸を構成する。
【0034】
第5ハブ41が管部69に一体的に設けられる。また第5ハブ41の後方に隣接して、アウトプットシャフト4にアウトプットシャフトドグギヤ70が一体的に設けられる。第5ハブ41の前方に隣接して、ミッションケース側に固定ドグギヤ71が設けられる。第5ハブ41の外周に第5スリーブ46が嵌合される。これら第5ハブ41、アウトプットシャフトドグギヤ70、固定ドグギヤ71及び第5スリーブ46にも前記同様にスプラインが形成され、第5スリーブ46が第5ハブ41に常時係合すると共に、前後にスライド移動してアウトプットシャフトドグギヤ70又は固定ドグギヤ71に対し選択的に係合・離脱する。第5スリーブ46の移動がレンジアクチュエータ22で行われる。レンジギヤ19のスプライン部には機械的なシンクロ機構が存在する。
【0035】
第5スリーブ46が前方に移動するとこれが固定ドグギヤ71に係合し、第5ハブ41と固定ドグギヤ71とが連結される。これによりリングギヤ67がミッションケース側に固定され、アウトプットシャフト4が1より大きい比較的大きな減速比(ここでは4.5 )で回転駆動されるようになる。これがローのポジションである。
【0036】
一方、第5スリーブ46が後方に移動するとこれがアウトプットシャフトドグギヤ70に係合し、第5ハブ41とアウトプットシャフトドグギヤ70とが連結される。これによりリングギヤ67とキャリア68とが互いに固定され、アウトプットシャフト4が1の減速比で直結駆動されるようになる。これがハイのポジションである。このようにかかるレンジギヤ19ではハイ・ロー間の減速比が比較的大きく異なる。
【0037】
結局、この変速機3では、前進側において、スプリッタ17でハイ・ローの2段、メインギヤ18で4段、レンジギヤ19でハイ・ローの2段に変速可能であり、計2×4×2=16段に変速することができる。また後進側では、スプリッタ17のみでハイ・ローを切り替えて2段に変速することができる。
【0038】
次に、各アクチュエータ20,21,22について説明する。これらアクチュエータはエアタンク5の空圧で作動する空圧シリンダと、空圧シリンダへの空圧の給排を切り替える電磁弁とで構成される。そしてこれら電磁弁がTMCU9で選択的に切り替えられ、空圧シリンダを選択的に作動させるようになっている。
【0039】
スプリッタアクチュエータ20は、ダブルピストンを有した空圧シリンダ47と三つの電磁弁MVH,MVF,MVGとで構成される。スプリッタ17をニュートラルにするときはMVH/ON,MVF/OFF,MVG/ONとされる。スプリッタ17をハイにするときはMVH/OFF,MVF/OFF,MVG/ONとされる。スプリッタ17をローにするときはMVH/OFF,MVF/ON,MVG/OFFとされる。
【0040】
メインアクチュエータ21は、ダブルピストンを有しセレクト側の動作を担当する空圧シリンダ48と、シングルピストンを有しシフト側の動作を担当する空圧シリンダ49とを備える。各空圧シリンダ48及び49に対し複数ずつ電磁弁MVC,MVD,MVE及びMVB,MVAが設けられる。
【0041】
セレクト側空圧シリンダ48は、MVC/OFF,MVD/ON,MVE/OFFのとき図の下方に移動し、メインギヤの3rd、4th又はN3を選択可能とし、MVC/ON,MVD/OFF,MVE/ONのとき中立となり、メインギヤの1st、2nd又はN2を選択可能とし、MVC/ON,MVD/OFF,MVE/OFFのとき図の上方に移動し、メインギヤのRev又はN1を選択可能とする。
【0042】
シフト側空圧シリンダ49は、MVA/ON,MVB/ONのとき中立となり、メインギヤのN1、N2又はN3を選択可能とし、MVA/ON,MVB/OFFのとき図の左側に移動し、メインギヤの2nd,4th又はRevを選択可能とし、MVA/OFF,MVB/ONのとき図の右側に移動し、メインギヤの1st又は3rdを選択可能とする。
【0043】
レンジアクチュエータ22は、シングルピストンを有した空圧シリンダ50と二つの電磁弁MVI,MVJとで構成される。空圧シリンダ50は、MVI/ON,MVJ/OFFのとき図の右側に移動し、レンジギヤをハイとし、MVI/OFF,MVJ/ONのとき図の左側に移動し、レンジギヤをローとする。
【0044】
ところで、後述するシンクロ制御に際してカウンタシャフト32を制動するため、カウンタシャフト32にはカウンタシャフトブレーキ27が設けられる。カウンタシャフトブレーキ27は湿式多板ブレーキであって、エアタンク5の空圧で作動する。この空圧の給排を切り替えるため電磁弁MV BRKが設けられる。電磁弁MV BRKがONのときカウンタシャフトブレーキ27に空圧が供給され、カウンタシャフトブレーキ27が作動状態となる。電磁弁MV BRKがOFFのときにはカウンタシャフトブレーキ27から空圧が排出され、カウンタシャフトブレーキ27が非作動となる。
【0045】
次に、自動変速制御の内容を説明する。TMCU9には図4に示すシフトアップマップと図5に示すシフトダウンマップとがメモリされており、TMCU9は、自動変速モードのとき、これらマップに従って自動変速を実行する。例えば図4のシフトアップマップにおいて、ギヤ段n(nは1から15までの整数)からn+1へのシフトアップ線図がアクセル開度(%)とアウトプットシャフト回転(rpm )との関数で決められている。そしてマップ上では現在のアクセル開度(%)とアウトプットシャフト回転(rpm )とからただ1点が定まる。車両加速中は、車輪に連結されたアウトプットシャフト4の回転が次第に増加していく。そこで通常の自動変速モードでは、現在の1点が各線図を越える度に1段ずつシフトアップを行うこととなる。このときスキップモードであれば線図を交互に1本ずつ飛ばして2段ずつシフトアップを行う。
【0046】
図5のシフトダウンマップにおいても同様に、ギヤ段n+1(nは1から15までの整数)からnへのシフトダウン線図がアクセル開度(%)とアウトプットシャフト回転(rpm )との関数で決められている。そしてマップ上では現在のアクセル開度(%)とアウトプットシャフト回転(rpm )とからただ1点が定まる。車両減速中はアウトプットシャフト4の回転が次第に減少していくので、通常の自動変速モードでは、現在の1点が各線図を越える度に1段ずつシフトダウンを行う。スキップモードであれば線図を交互に1本ずつ飛ばして2段ずつシフトダウンする。
【0047】
一方、マニュアルモードのときは、これらマップと無関係にドライバが自由にシフトアップ・ダウンを行える。通常モードなら1回のシフトチェンジ操作で1段変速でき、スキップモードなら1回のシフトチェンジ操作で2段変速できる。
【0048】
なおTMCU9は、アウトプットシャフト回転センサ28により検知される現在のアウトプットシャフト回転の値から現在の車速を換算し、これをスピードメータに表示する。つまり車速がアウトプットシャフト回転から間接的に検知され、アウトプットシャフト回転と車速とは比例関係にある。
【0049】
次に、シンクロ制御の内容を説明する。
【0050】
図6、図7に示すように、TMCU9には、スプリッタ17及びメインギヤ18における各ギヤの歯数ZSH,Z1 〜Z4 ,ZR ,ZCH,ZC1〜ZC4,ZCRと、レンジギヤ19におけるハイ・ローの減速比とが予め記憶されている。そこでTMCU9は、メインギヤ18のギヤ歯数と、カウンタシャフト回転センサ26によって検知されるカウンタシャフト回転(rpm) とに基づき、次回変速先となるメインギヤ18のギヤ段(目標メインギヤ段)におけるドグギヤ回転(rpm) を算出する。またTMCU9は、次回変速先となるレンジギヤ19のギヤ段(目標レンジギヤ段)の減速比と、アウトプットシャフト回転センサ28によって検知されるアウトプットシャフト回転(rpm) とに基づき、メインギヤ18におけるスリーブ回転(rpm) を算出する。
【0051】
図7の表の左欄において、左端に記載された「1st」、「2nd」…「Rev」の語は目標メインギヤ段を示している。また括弧内の「1st」、「2nd」…の語は各目標メインギヤ段が担当する変速機全体としての目標ギヤ段を示している。例えば、メインギヤ18の「1st」(ギヤM1)が担当する変速機全体のギヤ段は「1st」、「2nd」、「9th」、「10th」である。括弧内の語は最初の二つと後の二つとがレンジギヤ19のロー・ハイで切り分けられる。例えばメインギヤ「1st」だと「1st」、「2nd」がレンジギヤロー、「9th」、「10th」がレンジギヤハイである。そして最初の二つ又は後の二つの中において、先と後とがスプリッタ17のロー・ハイで切り分けられる。例えばメインギヤ「1st」でレンジギヤローだと、スプリッタローで変速機は「1st」、スプリッタハイで変速機は「2nd」となる。またメインギヤ「1st」でレンジギヤハイだと、スプリッタローで変速機は「9th」、スプリッタハイで変速機は「10th」となる。目標メインギヤ段の「2nd」、「3rd」、「4th」についても同様である。
【0052】
目標メインギヤ段「Rev」ではレンジギヤ19による切り分けは行われず、スプリッタ17のみで切り分けがなされる。スプリッタハイでリバース「high」、スプリッタローでリバース「low」となる。
【0053】
図7の表の右欄はドグギヤ回転(rpm) の算出式を示している。例えば目標メインギヤ段「1st」だと、カウンタシャフト回転センサ26による検出値(カウンタシャフト回転(rpm) )に、ギヤ比ZC1/Z1 を乗じた値が、ギヤM1に固設されたドグギヤ36の回転即ちドグギヤ回転(rpm) となる。目標メインギヤ段 「Rev」では、カウンタシャフト回転(rpm) にギヤ比CRev (ここでは0.45)を乗じた値がドグギヤ回転(rpm) となる。
【0054】
一方、図7の下段は、メインギヤ18のスリーブ43、44、45の回転即ちスリーブ回転(rpm) の算出式を示している。次回変速先の目標レンジギヤ段がHighのときは、減速比が1なので、アウトプットシャフト回転センサ28の検出値(アウトプットシャフト回転(rpm) )がそのままスリーブ回転(rpm) となる。また目標レンジギヤ段がLow のときは、減速比がCRG=4.5 なので、アウトプットシャフト回転(rpm) に減速比CRGを乗じた値がスリーブ回転(rpm) となる。
【0055】
シンクロ制御では、これらドグギヤ回転とスリーブ回転とをギヤイン可能な範囲内に近付ける制御を行う。具体的には回転差ΔN=(ドグギヤ回転−スリーブ回転)を計算し、この値をギヤイン可能な範囲に入れる制御を行う。シフトアップでは、通常ギヤイン直前でドグギヤ回転>スリーブ回転となっているので、カウンタシャフトブレーキ(以下CSBという)制御を行い、ドグギヤ回転を下げる。逆に、シフトダウンでは、通常ギヤイン直前でドグギヤ回転<スリーブ回転となっているので、ダブルクラッチ制御を行い、ドグギヤ回転を上げる。
【0056】
ダブルクラッチ制御は以下の如きである。図8に示すように、時刻t1 で変速指示信号があった場合、まずクラッチ断し、ギヤ抜きを行う。ギヤ抜きは、クラッチが切れ始めた直後の位置、言い換えれば半クラッチ領域に入った直後の位置p1 で開始する。エンジン制御は、クラッチ位置がp1 となった時点から、実アクセル開度から離れた疑似アクセル開度に基づく制御に移行する。このときエンジン回転は、カウンタシャフトを加速させるのに十分で、且つ目標メインギヤ段においてドグギヤ回転をスリーブ回転に略一致させることができるような回転(目標エンジン回転)まで上昇され、この回転に達すると回転が一定に保持される。
【0057】
ギヤ抜き後、クラッチが一瞬接続され、これによりドグギヤ回転がギヤイン可能な回転まで上昇する。この直後クラッチが再び断され、ギヤインが実行される。ギヤインは、クラッチ切り終わり直前となる位置、言い換えれば半クラッチ領域から抜け出る直前の位置p2 から開始される。ギヤイン終了後、直ちにクラッチが再接続され、クラッチが完接されるとダブルクラッチ制御が終了し、エンジン及びカウンタシャフト回転が実アクセル開度に従った回転に移行する。
【0058】
ところで、変速機全体のシフトダウンのとき、レンジギヤのシフトダウンとダブルクラッチ制御とを両方実行するときがある。図7の表でいえば9th→7th、9th→8th、10th→8thの場合である。このときこれらの順番を適当に定めないと全体の変速時間を徒に長くしてしまう。
【0059】
即ち、レンジギヤはハイ・ロー間の減速比が比較的大きく異なるので、機械的シンクロ機構を有していてもシフトダウンに時間がかかる。またダブルクラッチ制御も、ギヤ抜き・ギヤイン間で一回クラッチをつなぎ、回転合わせするので、比較的時間がかかる。よってこれらを順番に行っていたのでは全体の変速時間が長くなる。
【0060】
そこで、本装置では、レンジギヤのシフトダウンを伴う変速機全体のシフトダウンのとき、レンジギヤのシフトダウンとダブルクラッチ制御とを同時に行い、全体の変速時間を短縮するようにしている。以下これについて説明する。
【0061】
本装置では、レンジギヤのシフトダウンを伴う変速機全体のシフトダウンのときと、そうでないときとで変速パターンを分けている。図9はこの変速パターン判別のためのプログラムを示す。変速指示があるとTMCU9はまずステップ101でレンジギヤの変速の有無を判断する。レンジギヤ変速無のときはステップ104に進んで変速Aパターンを選択する。変速Aパターンとは図10のチャートに従って変速するパターンのことで、通常の変速パターンである。レンジギヤ変速有のときはステップ102に進んでその変速がシフトダウン(H→L)か否かを判断する。シフトアップならステップ104に進んで変速Aパターンを選択し、シフトダウンならステップ103に進んで変速Bパターンを選択する。変速Bパターンとは図11のチャートに従って変速するパターンのことで、比較的特殊なケースにおいて行われる変速パターンである。
【0062】
図10、図11においては、図の上方から下方に向かう時間軸があり、横並びに示されている項目は同時ないし同時期に行うことを示している。例えば図10でステップ201とステップ202とは同時に行う。
【0063】
レンジギヤのシフトダウンを伴わない変速Aパターンについて。図10に示すように、まず、メインギヤ変速有のときはステップ201に進んでメインギヤ抜きを行う。このときスプリッタの変速も有るときは、ステップ202に進んでスプリッタのギヤ抜き(シフト抜き)を行う。このときの条件はクラッチ位置がp1 より断側にあることである。なおこれを「クラッチ位置>p1 」と表示する。勿論、メインギヤ又はスプリッタの一方しか変速しない場合は両ステップのうち一方が省略される。なおレンジギヤのみの変速の場合は無い。図7の表に示すように、一気に7段飛ばし(ex.2nd→10th)になってしまうからである。
【0064】
次に、ステップ203、204、205を同時に行う。ステップ203では次にギヤインするギヤM1,M2…に合わせてメインギヤのセレクトを行う。条件はメインギヤがニュートラルにあることである。ステップ204では、レンジギヤの変速があるときは、そのギヤ抜きとギヤインとを同時に行う。これは図2に示したようにレンジアクチュエータ22の構造上、抜きとインとが同時に行われてしまうからである。このときの条件はクラッチ位置がp2 より断側にあるか (「クラッチ位置>p2 」と表示する)、又はメインギヤがニュートラルであることである。ステップ205ではスプリッタのギヤイン(シフトイン)を行う。条件はステップ204と同様クラッチ位置>p2 又はメインギヤ=Nである。これによりエンジン動力がカウンタシャフト32まで伝達可能となり、ダブルクラッチ制御可能となる。なお、スプリッタのみの変速の場合はここで変速完了となる。
【0065】
ステップ206ではシンクロ制御を実行する。ここでの条件はメインギヤがNで、且つスプリッタとレンジギヤとがシフト完了していることである。ドグギヤ回転−スリーブ回転>M1 (設定値)のとき、即ちシフトアップのときは、カウンタシャフトブレーキ制御を行い、ドグギヤ回転をスリーブ回転付近まで下げる。一方、ドグギヤ回転−スリーブ回転<M2 (設定値)のときは、ダブルクラッチ制御を行い、ドグギヤ回転をスリーブ回転付近まで上げる。
【0066】
こうしてメインギヤの同期を終えたらステップ207に進んでメインギヤをギヤインする。ここでの条件は、メインギヤがセレクト完了しており(ステップ203)、目標カウンタシャフト回転と現カウンタシャフト回転との差の絶対値がギヤイン可能な値α以下であり、且つクラッチ位置>p2 となっていることである。以上により変速Aパターンを終了する。
【0067】
次に、レンジギヤのシフトダウンを伴う変速Bパターンについて。図11に示すように、ここではメインギヤの変速は必須なので(図7参照)、ステップ302に進んでメインギヤ抜きを行う。条件はステップ201同様クラッチ位置>p1 である。このときスプリッタの変速も有るときは、ステップ302に先立ってステップ301でスプリッタをギヤ抜きし、ステップ302と同時にステップ303でスプリッタをギヤインする。ステップ301、303の実行条件はステップ202、205と同じである。
【0068】
次に、ステップ304、305及び306を同時に行う。ステップ304ではステップ203同様メインギヤをセレクトする。ステップ305ではステップ204同様、レンジギヤのギヤ抜き及びギヤイン即ちシフトダウンを行う。ステップ306ではステップ206同様シンクロ制御を行う。
【0069】
こうしてこれらステップを終えたら、ステップ307でステップ207同様メインギヤをギヤインし、変速Bパターンを終了する。
【0070】
このように、ここでは比較的長時間を要するレンジギヤのシフトダウンとダブルクラッチ制御とを同時に行ってしまうので、全体の変速時間を短縮することができる。
【0071】
ところで、かかるシンクロ制御では変速機のカウンタシャフト回転とアウトプットシャフト回転とを検出し、これらの値から目標メインギヤ段のドグギヤ回転とスリーブ回転とを割り出し、シンクロ状態を判断する。そして回転検出とシンクロ制御とは極めて短い一定の時間間隔毎に行う。
【0072】
ここで特に、アウトプットシャフト回転の検出時期と、シンクロ制御の制御時期とは毎回一致しない。即ち、アウトプットシャフト回転はΔts =128(ms) 毎に検出する一方、シンクロ制御はそれより短い時間間隔Δtc =32(ms)毎に行う。Δts =4Δtcである。アウトプットシャフトに取り付けられた歯付リングの歯数に限界があり、検出時期の時間間隔を短くするのにも限界がある一方、シンクロ制御は精度向上のためできるだけ短い時間間隔で行うのが好ましいからである。
【0073】
従って、4回のシンクロ制御のうち1回はアウトプットシャフト回転の検出時期と一致し、検出値をそのまま使えるが、あとの3回はアウトプットシャフト回転を検出しておらず、直接検出値を使用することができない。そこでこのような回転非検出時期においても最適アウトプットシャフト回転を与え、シンクロ制御の精度を向上できるようにしたのが本装置の特徴である。
【0074】
図12には本発明に係るアウトプットシャフト回転の算出方法を示している。右下がりの実線が実際のアウトプットシャフト回転(rpm) を示し、Δtc (=32(ms))がシンクロ制御の制御時期の時間間隔、Δts (=128(ms) )がアウトプットシャフト回転の検出時期の時間間隔である。これから分かるようにアウトプットシャフト回転検出時期は4回のシンクロ制御時期につき1回しか一致せず、あとの3回は一致しない。なおシンクロ制御はΔts をn=4等分に分割するような時期に行われる。
【0075】
この算出方法ではまず最新の検出時期tn におけるアウトプットシャフト回転Nn と、1回前の検出時期tn-1 におけるアウトプットシャフト回転Nn-1 とから回転差ΔNn =Nn −Nn-1 を求める。回転差ΔNn の値は符号付きで、図示例では減速なので回転差ΔNn は負の値となる。アウトプットシャフト回転検出時期tn では検出値をそのまま用いるが、tn からtn+1 までの間の中間時期tn +Δts /n×m(mは1からn−1までの整数)では、アウトプットシャフト回転を検出してないので検出値をそのまま用いることができない。そこで上記回転差ΔNn に基づき、補外法(外挿法ともいう)により、中間時期のアウトプットシャフト回転Nnmを求め、その値を用いて中間時期におけるシンクロ制御を行うようにしている。この場合のアウトプットシャフト回転算出式は次の通りである。
【0076】
Nnm=Nn +(ΔNn /n)×m
ここでNnmは最新の検出時期tn からm(=1,2,3)回目の中間時期のアウトプットシャフト回転である。
【0077】
このような算出は図13、図14に示すフローチャートに従って行われる。まず図13のフローはNn ,Nn-1 を決定するためのフローで、Δts =128(ms) 毎にTMCU9によって実行される。TMCU9はまずステップ401でアウトプットシャフト回転の最新値の更新を行う。即ち、最新のアウトプットシャフト回転を検出してこれを最新値Nn とし、既に記憶してあった最新値(更新前最新値)と置き換える。そしてステップ402に進み、アウトプットシャフト回転の1回前の値(前回値)の更新を行う。即ち、ステップ401で新たな最新値と置き換えられた更新前最新値を前回値Nn-1 として記憶する。こうして本フローを終える。
【0078】
次に図14のフローについて。このフローは中間時期のアウトプットシャフト回転Nnmを算出するためのフローで、シンクロ制御と同時期にΔtc =32(ms)毎にTMCU9によって実行される。TMCU9はまずステップ501で回転差ΔNn =Nn −Nn-1 を計算する。この値は既述したように符号付きである。次にステップ502に進み、現在アウトプットシャフト回転の最新値の更新時期か否か、つまりアウトプットシャフト回転の検出時期か否かを判断する。更新ないし検出時期なら検出値をそのまま使え、計算の必要がないからである。更新時期のときはステップ505に進み、TMCU9に内蔵されたカウンタをクリアし、本フローを終える。なおこのときは図13のフローも同時に実行されている。更新時期でないとき、即ち中間時期の計算が必要なときは、ステップ503に進み、カウンタをインクリメント(加算)する。ここでのカウンタは本ステップ通過毎に1,2,…といった具合に1ずつ加算されていくもので、上記mに相当する。この後ステップ504に進み、中間時期のアウトプットシャフト回転Nnmを上記式に基づき算出する。以上により本フローを終える。
【0079】
こうして、アウトプットシャフト回転の検出値をそのまま用いることができない中間時期においても、現状に応じた最適なアウトプットシャフト回転を近似計算し、シンクロ制御に用いることができるので、シンクロ制御の精度が向上できる。
【0080】
なお、図14のフローにおいて、3回の中間時期を過ぎてアウトプットシャフト回転更新時期が到来したら(ステップ502でYES )、図13のフローで求められた新たな更新値を用いて直接シンクロ制御を行う。その後の3回の中間時期においては、新たな最新値Nn 及び前回値Nn-1 に基づき、図14のフローに従って中間時期のアウトプットシャフト回転Nnmを求め、シンクロ制御に供する。こうして本フローはシンクロ制御終了まで繰り返し実行する。
【0081】
以上、本発明の実施形態は上述のものに限られない。例えば各数値は必要に応じて変更可能である。本実施形態ではn=4とし、アウトプットシャフト回転検出時期の時間間隔Δts をシンクロ制御時期の時間間隔Δtc の4倍としたが、2倍、8倍等とすることができるし、必ずしも整数倍に限る必要はない。補外法による算出式も上記以外のものが可能である。回転差ΔNn は上記と逆に前回値Nn-1 から最新値Nn を減じて求めてもよい。この場合は上記式ΔNn を−ΔNn と置き換えれば同じ結果となる。回転差ΔNn を求めるのに1回前よりさらに前の回転値を用いることも可能である。シャフト回転もアウトプットシャフト回転に限らずあらゆるシャフト回転とすることができる。
【0082】
【発明の効果】
本発明によれば、シンクロ制御に際し毎回最適なシャフト回転が与えられ、シンクロ制御の精度を向上できるという優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態に係る車両の自動変速装置を示す構成図である。
【図2】自動変速機を示す構成図である。
【図3】自動クラッチ装置を示す構成図である。
【図4】シフトアップマップである。
【図5】シフトダウンマップである。
【図6】変速機内の各ギヤの歯数を示す。
【図7】ドグギヤ回転及びスリーブ回転の算出式を示す。
【図8】ダブルクラッチ制御の内容を示すタイムチャートである。
【図9】変速パターン判別プログラムを示すフローチャートである。
【図10】変速Aパターンの内容を示すフローチャートである。
【図11】変速Bパターンの内容を示すフローチャートである。
【図12】本発明に係るアウトプットシャフト回転の算出方法を示すための図である。
【図13】アウトプットシャフト回転の最新値及び前回値を決定するためのフローチャートである。
【図14】中間時期のアウトプットシャフト回転を算出するためのフローチャートである。
【符号の説明】
2 クラッチ
3 変速機
4 アウトプットシャフト
6 エンジンコントロールユニット
9 トランスミッションコントロールユニット
10 クラッチブースタ
17 スプリッタ
18 メインギヤ
19 レンジギヤ
20 スプリッタアクチュエータ
21 メインアクチュエータ
22 レンジアクチュエータ
26 カウンタシャフト回転センサ
27 カウンタシャフトブレーキ
28 アウトプットシャフト回転センサ
32 カウンタシャフト
36 ドグギヤ
43,44,45 メインギヤのスリーブ
m 1からn−1までの整数
n アウトプットシャフト回転の検出時期の時間間隔の分割数
tn アウトプットシャフト回転の1回前の検出時期
tn アウトプットシャフト回転の最新の検出時期
tn+1 アウトプットシャフト回転の次の検出時期
Nn-1 アウトプットシャフト回転の1回前の検出値
Nn アウトプットシャフト回転の最新の検出値
Nnm アウトプットシャフト回転の最新の検出時期からm回目の中間時期のアウトプットシャフト回転
ΔNn アウトプットシャフト回転の回転差
Δtc シンクロ制御の制御時期の時間間隔
Δts アウトプットシャフト回転の検出時期の時間間隔
Claims (5)
- 機械的なシンクロ機構を有しないメインギヤを含む変速機と、該変速機とエンジンとの間に位置するクラッチと、上記変速機の変速を制御するコントロールユニットと、該コントロールユニットの信号に基づき変速機の変速を実行するアクチュエータとを備え、上記メインギヤの変速の際に上記クラッチを接にしてシンクロさせるダブルクラッチ制御を実行するものにあって、上記ダブルクラッチ制御は上記クラッチが接になる以前からシャフト回転数に基づいてシンクロ可能な目標エンジン回転数に設定される制御を行い、上記メインギヤの変速の際に一定時間ごとに上記目標エンジン回転数の設定と、上記時間間隔とは異なる時間間隔でシャフト回転数を検出し、最新の検出時期から次の検出時期までの間の中間時期のシャフト回転数を、一定の時間間隔でシャフト回転数を検出する度に更新される最新の検出値と、前記最新の検出値が所定回数更新される以前の検出値とに基づいて補外法により求め、その求められた値を用いて中間時期における上記目標エンジン回転数を決定するようにしたことを特徴とする車両の自動変速装置。
- 上記目標エンジン回転数の決定が、上記シャフト回転数の検出時期の時間間隔を等分割するような時期に行われ、上記中間時期のシャフト回転数が次式により求められる請求項1記載の車両の自動変速装置。
Nnm=Nn+(ΔNn/n)×m
Nnm:最新の検出時期からm回目の中間時期のシャフト回転数
Nn :シャフト回転数の最新の検出値
ΔNn :シャフト回転数の最新の検出値とその1回前の検出値との差
n:シャフト回転数の検出時期の時間間隔の分割数
m:1からn−1までの整数 - 上記mの値が、上記中間時期における目標エンジン回転数の決定毎にインクリメントされるタイマ値である請求項2記載の車両の自動変速装置。
- 上記目標エンジン回転数の決定時期と上記シャフト回転数の検出時期とが一致したときは上記シャフト回転数の最新の検出値を直接用いて上記目標エンジン回転数の決定を行う請求項1乃至3いずれかに記載の車両の自動変速装置。
- 上記シャフト回転数が変速機のアウトプットシャフト回転数である1乃至4いずれかに記載の車両の自動変速装置。
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