しかしながら、微動アクチュエータとして圧電素子を用いる場合には特に、次のような課題がある。
すなわち、圧電素子は、両側電極に対する印加電圧が大きいときには、素子内の金属成分が電気化学反応を起こし、電極に金属成分が析出する。圧電素子の一つに、鉛、ジルコニア及びチタンの合金からなる薄膜のPZT素子があるが、このPZT素子は、実際には、PZT結晶のみからなるものではなく、製造プロセスにおいて酸化鉛、水等の不純物が混入する。酸化鉛や水が混入することによって電圧印加状態での電気化学反応が活性化され、圧電素子の負電極側に鉛が析出するという現象が起こる。この鉛析出現象は、印加電圧が高いほど発生しやすい。
鉛析出による悪影響は直ちには発現しないが、鉛析出は徐々に進行する。このため、長時間にわたる鉛析出によって腐食現象が進行すれば、圧電素子の変位特性が劣化する。さらに鉛析出が進行することによって、微動アクチュエータは変位できなくなる。最終的には鉛析出によるショートが発生し、圧電素子の破壊に至る。
すなわち、圧電素子への印加電圧を高くすることによって高速応答性が実現する一方で、微動アクチュエータの寿命が短くなる問題がある。従来は、位置決め精度及び高速応答性と、印加電圧とのバランスについての考察が十分ではなく、前記のような問題が生じていた。特に、高速応答性を満たすために制御帯域を高くするにつれて圧電素子への印加電圧が高くなるため、この課題の解決が重要性を増す。
また、特許文献2に開示されたヘッドの位置決め制御では、ヘッドの位置と目標位置との位置ずれが微動アクチュエータの動作範囲を超えているときには、微動アクチュエータを目標位置に追従させずに微動アクチュエータの変位量を一定にしている。しかしながら、微動アクチュエータがその動作範囲の限界値又はその近傍に変位した状態を維持することは圧電素子の寿命の点から好ましくなく、ディスク装置の信頼性が低下する。
さらに、この位置決め制御では、微動アクチュエータの変位が一定に維持されている間は、主アクチュエータによって、その制御帯域でのヘッドの追従制御しかできず、ヘッドの高速高精度な位置決めを行えないという課題を有している。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、微動アクチュエータに印加する電圧値を極力小さくすると共に、微動アクチュエータが一定の変位量で変位した状態を継続する時間を短縮することによって、微動アクチュエータの寿命を延ばし、ディスク装置の信頼性を向上させることにある。
本発明のディスク装置は、少なくともディスクに記憶された情報を再生するヘッドと、前記ヘッドを支持する弾性部材を有しかつ、該ヘッドを前記ディスク上で移動させる微動アクチュエータと、ボイスコイルモータと、該ボイスコイルモータに設けられかつ前記微動アクチュエータが搭載されたアームとを有しかつ、前記ヘッドを前記微動アクチュエータと共に前記ディスク上で移動させる主アクチュエータと、前記ヘッドの再生信号に基づいて前記ヘッドの位置を検出しかつ、その位置信号を出力するヘッド位置検出手段と、モード切替信号を出力することによって、制御モードを、目標トラックへのアクセス動作を行うアクセス動作モード、トラック追従動作を行うトラック追従動作モード、又はアクセス動作からトラック追従動作へ移行するための整定動作を行う整定動作モード、に切り替える制御モード指令手段と、前記ヘッド位置検出手段からの位置信号を基に、前記制御モード指令手段からの前記モード切替信号に応じた主制御信号を生成しかつ、その主制御信号を出力する主制御手段と、前記主制御手段からの主制御信号に応じて、前記主アクチュエータを駆動する主駆動手段と、前記ヘッド位置検出手段からの位置信号に基づいて微動制御信号を生成する微動制御手段と、前記微動制御手段からの微動制御信号に応じた電圧信号を前記微動アクチュエータに印加することによって、該微動アクチュエータを駆動する微動駆動手段と、を備える。
そして、前記微動制御手段は、前記位置信号に対してフィルタリング処理を行う高域通過フィルタと、前記制御モード指令手段からのモード切替信号に基づき、前記制御モードが整定動作モード又はトラック追従動作モードのときに、前記微動制御信号を前記主駆動手段に出力する切替スイッチと、を有する。
ここで、前記微動アクチュエータは、圧電素子を有する、としてもよい。
この構成により、切替スイッチは、制御モードがアクセス動作モードのときには、微動制御信号を微動駆動手段に出力しないため、微動駆動手段は微動アクチュエータを駆動しない。つまり、微動アクチュエータに電圧信号が印加されないため、微動アクチュエータは中立位置となり、前記弾性部材に支持されたヘッドは、その弾性力によって微動アクチュエータの動作範囲の中央位置に位置づけられる。
そうして、主アクチュエータによるアクセス動作によってヘッドが目標位置又はその近傍に移動し、制御モードは、制御モード指令手段からのモード切替信号によって整定動作モードに切り替わる。それに伴い切替スイッチによって、微動制御手段が生成した微動制御信号は、微動駆動手段に出力される。微動駆動手段は、その微動制御信号に応じた電圧信号を微動アクチュエータに印加することによってその微動アクチュエータを駆動する。これによって、主アクチュエータと微動アクチュエータとによる2段アクチュエータ方式のヘッド位置決めが行われる。また、制御モード指令手段からのモード切替信号によって主アクチュエータの制御モードがトラック追従動作モードに切り替わった後も、切替スイッチによって微動制御信号は、微動駆動手段に出力され、主アクチュエータと微動アクチュエータとによる2段アクチュエータ方式のヘッド位置決めが行われる。
ここで、前記微動制御手段は、前記位置信号に対してフィルタリング処理を行う高域通過フィルタを有しているため、位置信号のうち低周波数成分、特に直流成分が減衰し、微動アクチュエータに直流電圧が印加されない。そのため、その直流電圧の分だけ微動アクチュエータに印加される電圧値が低下する。
また、整定動作モード及びトラック追従動作モードにおいては、直流成分を遮断することによって、ヘッドが目標位置に整定した後に、直流成分に起因するヘッドと目標位置との偏差が残存することが防止される。つまり、整定動作モード及びトラック追従動作モードにおいては、微動アクチュエータが一定の変位量で変位した状態を維持することがなくなると共に、前述したように、アクセス動作モードでは、微動アクチュエータに電圧が印加されないため、微動アクチュエータが一定の変位量で変位した状態を継続する時間が短くなる。
そうして、微動アクチュエータに印加される電圧値が極力低減されることと、微動アクチュエータが一定の変位量で変位した状態を継続する時間が短くなることとが相俟って、微動アクチュエータの寿命の低下が防止される。
また、アクセス動作モードにおいては、前述したように、微動アクチュエータに電圧信号が印加されないことで、弾性部材に支持されたヘッドが、その弾性力によって中央位置に位置づけられる一方、整定動作モード及びトラック追従動作モードにおいては、微動アクチュエータに直流成分が印加されないことで、ヘッドは、弾性部材の弾性力によって中央位置に位置づけられると共に、その中央位置から、微動アクチュエータに印加される交流成分に応じて微動することになる。
このように、微動アクチュエータによるヘッドの位置決め制御が開始される直前においては、微動アクチュエータの変位は中立位置となって、ヘッドは弾性部材によって微動アクチュエータの動作範囲における中央位置に位置している。このため、微動アクチュエータによる位置決め制御が開始されるときに、微動アクチュエータはその動作方向に対して何れの動作方向にも略均等に動作することが可能であり、ヘッドを目標位置に柔軟に追従させることが可能になり、微動アクチュエータと主アクチュエータとによる高速かつ高精度なヘッドの位置決めが実現する。
ここで、前記高域通過フィルタは、前記制御モードが整定動作モードのときと、トラック追従動作モードのときとで、遮断周波数を変更することが好ましく、例えば制御モードが整定動作モードのときの遮断周波数を、トラック追従動作モードのときの遮断周波数よりも高く設定することが望ましい。
つまり、高域通過フィルタの遮断周波数によって、主アクチュエータが補正する外乱の周波数帯域と、微動アクチュエータが補正する外乱の周波数帯域との振り分けが行われる。そして、制御モードに応じて高域通過フィルタの遮断周波数を変更することによって、整定動作モードの時間、換言すればヘッドを目標位置に整定する時間が短縮されてヘッドの位置決めの高速化が図られると共に、トラック追従動作モードにおいては、ディスク偏心、モータ振動、及び風乱等に起因するトラックうねりに対して十分なトラック追従性能が確保される。
前記高域通過フィルタは、前記制御モードが整定動作モードであるときの遮断周波数を、前記主アクチュエータがトラック追従動作を行うときの制御帯域よりも高く設定することが望ましい。
こうすることで、主アクチュエータによるヘッドのトラック追従動作が、微動制御系(ヘッド位置検出手段、微動アクチュエータ、微動制御手段及び微動駆動手段を含む)に外乱として入力されず、主アクチュエータによる微動制御系への干渉が防止される。その結果、ヘッドが目標位置に整定する時間が短くなり、ヘッドは高速に位置決めされる。
また、整定時間が短くなることによって、微動アクチュエータを駆動する時間、換言すれば微動アクチュエータに電圧信号を印加する時間が短縮され、微動アクチュエータの長寿命化に有利になる。
前記微動制御手段は、前記位置信号を積分する積分器を含む、としてもよい。
これは特に、微動アクチュエータが圧電素子を有している場合に有効であり、位置信号を積分することによって、微動アクチュエータの機械共振周波数よりも十分に低い周波数の領域で位置決め制御系のゲインを高くすることが可能になり、そのことにより、ヘッドが目標位置に対して高速かつ高精度に位置決めされる。
前記微動制御手段は、前記微動アクチュエータが規定の動作範囲内で動作するように前記微動制御信号の大きさを制限するリミッタを含む、としてもよい。
こうすることで、微動アクチュエータをその動作範囲を超えて動作させることによる微動アクチュエータの破損が防止される。
前記微動制御手段は、前記位置信号の、前記微動アクチュエータの共振周波数と略等しい周波数成分を減衰させるノッチフィルタを含む、としてもよい。
これにより、微動アクチュエータの共振特性によって、位置決め制御系が不安定になることが防止される。
本発明の制御方法は、少なくともディスクに記憶された情報を再生するヘッドと、前記ヘッドを支持する弾性部材を有しかつ、該ヘッドを前記ディスク上で移動させる微動アクチュエータと、ボイスコイルモータと該ボイスコイルモータに設けられかつ前記微動アクチュエータが搭載されたアームとを有しかつ、前記ヘッドを前記微動アクチュエータと共に前記ディスク上で移動させる主アクチュエータと、を備えたディスク装置の制御方法である。
この制御方法は、前記ヘッドの再生信号に基づいて前記ヘッドの位置を検出しかつ、その位置信号を生成する位置信号生成工程と、制御モードを、目標トラックへのアクセス動作を行うアクセス動作モード、トラック追従動作を行うトラック追従動作モード、又はアクセス動作からトラック追従動作へ移行するための整定動作を行う整定動作モード、に切り替える制御モード切替工程と、前記位置信号を基に、前記制御モードに応じた主制御信号を生成すると共に、前記主制御信号に応じて前記主アクチュエータを駆動する主アクチュエータ駆動工程と、前記位置信号に基づいて微動制御信号を生成する微動制御信号生成工程と、前記制御モードが整定動作モード又はトラック追従動作モードのときに、前記微動制御信号に応じた電圧信号を前記微動アクチュエータに印加することによって、該微動アクチュエータを駆動する微動アクチュエータ駆動工程と、を包含し、前記微動制御信号生成工程では、前記位置信号の高域成分を通過させるフィルタリング処理を行う。
前記フィルタリング処理では、前記制御モードが整定動作モードであるときの遮断周波数を、トラック追従動作モードであるときの遮断周波数よりも高く設定する、ことが望ましい。
また、前記フィルタリング処理では、前記制御モードが整定動作モードであるとき前記遮断周波数を、前記主アクチュエータがトラック追従動作を行うときの制御帯域よりも高く設定する、ことが望ましい。
前記微動制御信号生成工程では、前記位置信号を積分して微動制御信号を生成する、としてもよい。
前記微動制御信号生成工程では、前記微動アクチュエータが規定の動作範囲内で動作するように前記微動制御信号の大きさを制限する、としてもよい。
前記微動制御信号生成工程では、前記位置信号の、前記微動アクチュエータの共振周波数と略等しい周波数成分を減衰させる、としてもよい。
本発明のディスク装置及びその制御方法によれば、整定動作及びトラック追従動作のときに、高域通過フィルタを通過した位置信号に基づいて微動アクチュエータの微動制御信号を生成することによって、微動アクチュエータに直流電圧が印加されず、微動アクチュエータに印加される電圧値を極力小さくすることができる。また、アクセス動作のときには微動アクチュエータに電圧信号を印加しないと共に、整定動作及びトラック追従動作のときには微動アクチュエータに直流電圧を印加しないことによって、微動アクチュエータが一定の変位量で変位した状態を持続する時間を短くすることができる。
その結果、微動アクチュエータの寿命を延ばすことができる。
また、整定動作及びトラック追従動作において、微動アクチュエータによるヘッドの位置決め制御が開始される直前に、ヘッドが弾性部材の弾性力によって微動アクチュエータの動作範囲における中央位置に位置づけられることによって、微動アクチュエータと主アクチュエータとによる高速かつ高精度なヘッドの位置決めを実現することができる。
そうして、高精度かつ高速応答で、しかも信頼性に優れたディスク装置が実現される。
以下、本発明に係るディスク装置及びその制御方法について、具体的な実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係るディスク装置の一例である磁気ディスク装置の構成を示すブロック図である。図1において、磁気ディスク1は、スピンドルモータ(図示せず)により回転駆動される。磁気ヘッド2は、磁気ディスク1に対してデータを記録/再生するためのものであり、この磁気ヘッド2(スライダ23、図2参照)は、圧電素子(PZT素子)を含む微動アクチュエータ(マイクロアクチュエータ、MA)3の先端に搭載されている。この微動アクチュエータ3は、筐体10に設けられた軸受5を中心として回動するアーム4の先端に搭載されている。
前記アーム4の基端には駆動コイル61が設けられている。この駆動コイル61は、筐体10に固着されているマグネット(永久磁石)62に対して、空隙を介して対向している。アーム4は、マグネット62が発生する磁束と駆動コイル61に通電される電流が作る磁界との相互作用によって、回転力を受ける。駆動コイル61及びマグネット62はボイスコイルモータ(VCM)6を構成し、このVCM6とアーム4とによって主アクチュエータ8が構成される。
磁気ヘッド2は、微動アクチュエータ3と主アクチュエータ8とからなる2段アクチュエータによって前記ディスク1上を移動し、磁気ヘッド2は、両アクチュエータ3,8の協働により目標トラックにオントラック(追従)するように位置決め制御される。
ここで、前記微動アクチュエータ3の構成について、図2を参照しながら説明する。図2は、微動アクチュエータ3の構成を示す構成図であり、図2(a)〜図2(c)に示すように、ヘッド支持機構21に対してフレクシャ(フレキシブルプリント配線板)22を介してスライダ23が支持されており、微動アクチュエータ3は、フレクシャ22上に設けられることによって、スライダ23を駆動する。
微動アクチュエータ3は、一対のアクチュエータ片3a,3bからなり、それぞれのアクチュエータ片3a,3bは、上側電極24と薄膜圧電素子25と下側電極26とによって構成されている。これら2つの薄膜圧電素子25,25はプッシュプルで駆動され、薄膜圧電素子25のひずみ量が、拡大機構によってスライダ23及びそれに搭載された磁気ヘッド2の変位量に変換される。尚、拡大機構とは、スライダ23がピボット27を中心に回動することによって磁気ヘッド2を揺動させる機構である。つまり、一方のアクチュエータ片3aがAの方向に伸長し、他方のアクチュエータ片3bがBの方向に収縮したときには、スライダ23が矢印Cの方向に回動する。
図3は微動アクチュエータ3の駆動電圧信号(vm)に対する磁気ヘッド2の変位量の応答を示す周波数特性図である。フレクシャ22及び薄膜圧電素子25を含む微動アクチュエータ3は、周波数foの機械共振特性を有している。微動アクチュエータ3の機械共振周波数foは、10kHz以上の値であり、周波数foより十分低い周波数、例えば2〜3kHzの領域では微動アクチュエータ3に入力される駆動電圧信号の大きさに比例した変位量を得ることができる。
次に、前記磁気ディスク装置における磁気ヘッド2の位置決め制御系について説明する。図1に示すように、この磁気ディスク装置は、微動アクチュエータ3を制御するための微動制御系と、主アクチュエータ8を制御するための主制御系と、を含み、微動制御系は、微動アクチュエータ3、ヘッド位置検出器11、微動制御手段20及び微動駆動器17を含み、主制御系は、主アクチュエータ8、ヘッド位置検出器11、主制御器13及び主駆動器19を含む。また、微動制御手段20は、切替スイッチ14、高域通過フィルタ15、及び微動制御器16を含む。
前記磁気ディスク1には、位置情報としてのサーボ信号(トラック番号及びバースト信号)が予め記録されており、磁気ヘッド2はそのサーボ信号を検出し、その検出信号をヘッド位置検出器11に送る。
ヘッド位置検出器11は、受け取った検知信号に基づいて磁気ヘッド2の現在位置を検出し、その検出した現在位置を位置信号peとして切替スイッチ14と主制御器13とに出力する。
同図において符号18は、制御モード指令器であり、この制御モード指令器18は図示省略のホストコンピュータからの指令に応じて、制御モードを、アクセス動作モードとトラック追従動作モード(整定動作モード)とに切り替えるための第1のモード切替信号msを切替スイッチ14と主制御器13とに出力する。
また、制御モード指令器18は、図4に示すように、モード切替信号として、第1のモード切替信号msに対して所定の遅延時間dだけ遅延した第2のモード切替信号mdを、後述する高域通過フィルタ15に出力する。制御モード指令器18が出力する第1及び第2のモード切替信号ms、mdによって、主アクチュエータ8の制御モードがアクセス動作モード、整定動作モード、又はトラック追従動作モードに切り替えられる。つまり、第1のモード切替信号msがLow、第2のモード切替信号mdがLowのときには、アクセス動作モードとなり、第1のモード切替信号msがHigh、第2のモード切替信号mdがLowのときには、整定動作モードとなり、第1のモード切替信号msがHigh、第2のモード切替信号mdがHighのときには、トラック追従動作モードとなる。
先ず、主制御系について説明すると、前記ヘッド位置検出器11からの位置信号pe、及び制御モード指令器18からの第1のモード切替信号msを受ける主制御器13は、その位置信号peを基に、モード切替信号msによって切り替えられる制御モードに応じた主制御信号uvを生成する。主制御器13は、図5に示すように、切替スイッチ46を含み、第1のモード切替信号msはこの切替スイッチ46に入力される。切替スイッチ46は、第1のモード切替信号msに応じて、アクセス動作モードのときには端子a側に接続され、トラック追従動作モード(整定動作モードを含む)のときには端子b側に接続される。
主制御器13はまた、図5に示すように、速度変換器41及び追従制御器45を含み、ヘッド位置検出器11から出力された位置信号peは、速度変換器41及び追従制御器45に入力される。
このうち、速度変換器41は、位置信号peの差分を求め、そのことにより磁気ヘッド2がディスク1上を移動する移動速度を出力する。速度変換器41が出力する移動速度は、比較器42において速度パターン発生器43が発生する磁気ヘッド2のシーク速度指令と比較され、シーク速度指令と磁気ヘッド2の移動速度との偏差がシーク制御器44に入力される。シーク制御器44は、その偏差に応じて、磁気ヘッド2の移動速度が、速度パターン発生器43が発生するシーク速度指令と一致するように主制御信号uvを生成する。シーク制御器44が出力する主制御信号uvは切替スイッチ46の端子a側に入力されており、切替スイッチ46が端子a側に接続されているとき、換言すれば制御モード指令器18がアクセス動作のモード切替信号msを出力しているときには、シーク制御器44が出力する主制御信号uvが、切替スイッチ46を介して主駆動器19に出力される。
主駆動器19は、主制御器13から出力された主制御信号uvに応じて、主アクチュエータ8の駆動コイル61に駆動電流iaを通電する。それによって、アーム4を軸受5を中心に回動させ、アーム4の先端に取り付けられた微動アクチュエータ3及び磁気ヘッド2を目標トラックまで回転移動させる。そうして、磁気ヘッド2は速度パターン発生器43が発生するシーク速度に従って速度制御される。
一方、主制御器13の追従制御器45は、位置信号pe及び目標トラックに応じて、磁気ヘッド2と目標トラックとの位置ずれを抑制するような主制御信号uvを生成する。追従制御器45が出力する主制御信号uvは切替スイッチ46の端子b側に入力されており、切替スイッチ46が端子b側に接続されているとき、換言すれば制御モード指令器18がトラック追従動作のモード切替信号msを出力しているときには、追従制御器45が出力する主制御信号uvが、切替スイッチ46を介して主駆動器19に出力される。
主駆動器19は、主制御器13から入力された主制御信号uvに応じて、主アクチュエータ8の駆動コイル61に駆動電流iaを通電し、それによって磁気ヘッド2の目標トラックへの位置決め制御が行われる。
このように、磁気ヘッド2が目標トラックから離れていて、アクセス動作を行うときには、主アクチュエータ8によって、磁気ヘッド2が目標トラック又はその近傍に素早くかつ正確に移動するように、磁気ヘッド2の移動速度が制御される一方、磁気ヘッド2が目標トラック又はその近傍に位置していて、トラック追従動作(整定動作を含む)を行うときには、磁気ヘッド2が目標トラックに追従するように磁気ヘッド2の位置が制御される。
次に、微動制御系について説明すると、図1に示すように、第1のモード切替信号msが入力される切替スイッチ14は、そのモード切替信号msに応じて、アクセス動作モードであるときには端子a側に接続され、トラック追従動作モードであるときには、端子b側に接続される。端子aは接地されており、端子bには位置信号peが入力される。
制御モードがアクセス動作モードであるときに切替スイッチ14が端子a側に接続されることによって、高域通過フィルタ15に位置信号peが入力されず、それによって微動制御手段20から微動駆動器17に微動制御信号umが出力されない。つまり、微動アクチュエータ3の薄膜圧電素子25に電圧が印加されない。一方、制御モードがトラック追従動作(整定動作モードを含む)であるときには切替スイッチ14が端子b側に接続されるため、切替スイッチ14を介して高域通過フィルタ15に位置信号peが入力される。
高域通過フィルタ15は、位置信号peにおける低域周波数成分(直流成分を含む)を減衰させ、そのフィルタ信号eを微動制御器16に出力する。この高域通過フィルタ15は、第2のモード切替信号mdに応じて遮断周波数を切り替える。具体的には、図6に高域通過フィルタ15の周波数特性を示すように、第2のモード切替信号mdに応じて、制御モードがトラック追従動作モードであるときには、遮断周波数を相対的に低いfcLに設定し、符号15aで示す周波数特性でもって位置信号peのフィルタリング処理を行う。一方、制御モードがアクセス動作モード(主制御系における実際の制御モードは整定動作モード)であるときには、遮断周波数を相対的に高いfcHに設定し、符号15bで示す周波数特性でもって、位置信号peのフィルタリング処理を行う。ここで、遮断周波数fcLは、後述するように、トラックうねりの周波数に応じて適宜設定すればよく、その設定に際してはディスク偏心(ディスク1の回転周波数)を考慮するのがよい。また、遮断周波数fcHは、後述するように、トラック追従動作モード(整定動作モードを含む)における主制御系の制御帯域に応じて設定すればよく、具体的にはその制御帯域と同じかそれよりも高く設定することが望ましい。尚、図6は1次フィルタ特性を示している。
高域通過フィルタ15から出力されたフィルタ信号eは、微動制御器16に入力される。微動制御器16は、フィルタ信号eに対し増幅及び積分補償を行い、微動制御信号umを生成して微動駆動器17へ出力する。
図7は微動制御器16の構成を示すブロック図である。同図において、符号31は積分器であり、この積分器31は、図3に示すような周波数特性を有する微動アクチュエータ3の位相補償を行う。この積分器31の周波数特性は、図8に示すように、周波数の増加に伴って、−20dB/dec(decは10倍を意味する)の減衰比で減衰している。微動アクチュエータ3は、機械共振周波数foよりも十分低い周波数の領域では一定のゲインを有している(図3)。従って、図8に示す周波数特性のように低周波数のゲインが高く、高周波数域のゲインが低下する周波数特性を有する積分器31を、トラック追従動作モードにおける位置決め制御系に挿入することによって、位置決め制御系の低周波数域の開ループゲインを高くすることができ、位置決めの精度と応答速度を向上させることができる。
また、図7において符号32はノッチフィルタであり、このノッチフィルタ32は、微動アクチュエータ3の有する機械共振周波数foにおけるゲインを抑制する。ノッチフィルタ32の周波数特性を図9に示す。つまり、ノッチ周波数は、微動アクチュエータ3の機械共振周波数foに等しくなるように設定する。ノッチフィルタ32を設けることによって、微動アクチュエータ3の共振特性により制御系が不安定になることを防止することができ、磁気ヘッド2の高速高精度な位置決めを行うことができる。
また、図7において符号33はリミッタであり、このリミッタ33は、微動アクチュエータ3に、その動作範囲以上の駆動電圧信号(vm)が印加されないように、微動制御信号umの制限処理を行う。尚、リミッタ33の制限値は微動アクチュエータ3の動作範囲に対応した駆動電圧信号vmとなるように設定してもよいし、薄膜圧電素子25の特性劣化を生じるしきい値の電圧(動作範囲に対応した駆動電圧信号vmよりも小さい電圧)となるように設定してもよい。リミッタ33を設けることによって、微動アクチュエータ3に所定の規定値以上の駆動電圧信号vmが入力されることを防止して、微動アクチュエータ3の特性劣化を防止すると共に、寿命を向上させることができる。その結果、磁気ディスク装置の信頼性を向上させることができる。
微動制御器16から出力された微動制御信号umは微動駆動器17に入力され、微動駆動器17は、微動制御信号umを電圧増幅し、得られた駆動電圧信号vmを微動アクチュエータ3に出力する。そうして微動アクチュエータ3を駆動する。
このように、微動アクチュエータ3は、アクセス動作においては切替スイッチ14によって駆動せず、整定動作及びトラック追従動作において磁気ヘッド2が目標トラックに追従するように駆動制御される。
すなわち、磁気ヘッド2は、微動アクチュエータ3と主アクチュエータ8とからなる2段アクチュエータによってディスク1上を移動され、両アクチュエータ3,8の協働により磁気ヘッド2は目標トラックにトラック追従するように制御される。
次に、前記磁気ディスク装置におけるヘッド位置決め制御系の動作について、図10〜15を参照しながら説明する。
図10は、前記磁気ディスク装置におけるヘッド位置決め制御系において、シミュレーションにより求めた、制御モード指令器18がアクセス動作のモード切替信号msを出力した後の磁気ヘッド2の速度−時間応答波形図であり、図10(a)は、目標トラックまでの移動距離に応じて主制御器13に含まれる速度パターン発生器43が発生する台形波状のシーク速度指令を示し、図10(b)は、そのときの磁気ヘッド2の移動速度を示す。磁気ヘッド2は、ほぼ指令どおりの速度で移動する。時刻taで目標トラックまでのシーク動作を完了し、制御モード指令器18は時刻taで、アクセス動作からトラック追従動作への切替を行うべく、モード切替信号msを出力する(図4参照)。
図11〜図13は、前記磁気ディスク装置におけるヘッド位置決め制御系において、シミュレーションにより求めた、制御モード指令器18がアクセス動作のモード切替信号msを出力した後のアクセス動作から、トラック追従動作のモード切替信号msを出力して整定動作及びトラック追従動作に至るまでの磁気ヘッド2の位置−時間応答波形図である。
各図の(a)は、主アクチュエータ8及び微動アクチュエータ3による磁気ヘッド2の移動距離を示し、縦軸の原点は、アクセス動作前の磁気ヘッド2の移動距離が零のときを、縦軸の値Tはアクセス動作前の磁気ヘッド2から目標トラック位置までの移動距離を示す。各図の(b)は、各図(a)の磁気ヘッド2の移動中における微動アクチュエータ3の変位量を示し、縦軸の原点は、微動アクチュエータ3に何ら信号が入力されていない中立状態を示す。この状態では、磁気ヘッド2はフレクシャ22の弾性力によって、微動アクチュエータ3の動作範囲における中央位置に位置づけられる。尚、理解容易のために、各図(b)の縦軸スケールは、各図(a)の縦軸スケールの1000倍に拡大して表示してある。
また、図11〜図13に示すシミュレーションでは、主アクチュエータ8のアクセス動作モードにおけるヘッド位置検出器11,主制御器13,主駆動器19からなるシーク速度制御系の制御帯域を200Hzに、同じく整定動作モード及びトラック追従動作モードにおける主アクチュエータ8の位置決め制御系の制御帯域を1kHzに設定した。また、整定動作モード及びトラック追従動作モードにおけるヘッド位置検出器11,高域通過フィルタ15,微動制御器16,微動駆動器17からなる微動アクチュエータ3の位置決め制御系の制御帯域は、主アクチュエータ8の位置決め制御系の制御帯域(1kHz)よりも広い2kHzに設定した。
そして、図11は高域通過フィルタ15を含まない場合の位置−時間応答波形を、図12は高域通過フィルタ15の遮断周波数fcを、主アクチュエータ8の整定動作モード及びトラック追従動作モードにおける位置決め制御系の制御帯域よりも低い500Hzに設定した場合の位置−時間応答波形を、図13は高域通過フィルタ15の遮断周波数fcを、主アクチュエータ8の整定動作モード及びトラック追従動作モードにおける位置決め制御系の制御帯域と同じ1kHzに設定した場合の位置−時間応答波形をそれぞれ示す。尚、図11〜図13においては高域通過フィルタ15の遮断周波数fcは、整定動作モードとトラック追従動作モードとで変更せずに、一定にしている。
先ず、図11に示す、高域通過フィルタ15を含まない場合のアクセス動作からトラック追従動作までの磁気ヘッド2の位置時間応答について説明する。前記高域通過フィルタ15を含まない場合は、ヘッド位置検出器11の出力する位置信号peが切替スイッチ14を介して微動制御器16にそのまま入力される。同図(b)に示す時刻taにおいてアクセス動作が完了し、それと同時に主アクチュエータ8及び微動アクチュエータ3による整定動作及びトラック追従動作が開始される。つまり、時刻taまではアクセス動作であるため切替スイッチ14が端子a側に接続されており、これにより、微動アクチュエータ3には何ら信号が入力されない。そのため、微動アクチュエータ3は中立状態となって磁気ヘッド2は、微動アクチュエータ3の動作範囲における中央位置に位置している。そして、アクセス動作が完了して切替スイッチ14が端子b側に接続される時刻taにおいて微動アクチュエータ3による位置決め制御が開始される。このように微動アクチュエータ3は中立状態から位置決め制御を開始するため、何れの動作方向にも略均等に動作可能である。また、アクセス動作においては微動アクチュエータ3の圧電素子25に電圧が印加されないため、圧電素子25が一定の変位量で変位した状態を継続することがない。ただし、高域通過フィルタ15が存在しない場合には、位置整定後も変位出力はゼロにならず、偏差が残る。つまり、高域通過フィルタ15が存在しない場合には、微動アクチュエータ3に直流成分が供給され続けるため、その直流電圧分だけ圧電素子25に印加される電圧が高くなると共に、微動アクチュエータ3が一定の変位量で変位した状態を継続することになる。従って、圧電素子25の寿命の観点から好ましくない。尚、時刻taのアクセス動作完了時に、微動アクチュエータ3の位置に平坦部を生じるのは、微動アクチュエータ3に所定の制限値以上の駆動電圧信号umが印加されないようにリミッタ33によって制限処理を行っているためである。
次に、図12に示す、高域通過フィルタ15の遮断周波数を500Hzに設定した場合のアクセス動作からトラック追従動作までの磁気ヘッド2の位置時間応答について説明する。図12に示すように、時刻taにおいてアクセス動作が完了し、それと同時に主アクチュエータ8及び微動アクチュエータ3による整定動作が開始され、時刻tbで整定動作が完了している。尚、時刻taのアクセス動作完了時に、微動アクチュエータ3の変位の正負側に平坦部を生じるのは、リミッタ33による制限処理を行っているためである。高域通過フィルタ15が設けられている場合は、ヘッド位置検出器11の出力する位置信号peが切替スイッチ14を介して高域通過フィルタ15に入力され、高域通過フィルタ15により低域周波数成分を遮断したフィルタ信号eが微動制御器16に入力されることになる。そのため、微動アクチュエータ3に直流成分及び低周波数成分が供給されることが防止され、磁気ヘッド2の位置整定後は偏差が残らない。そのため、微動アクチュエータ3の圧電素子25に印加される電圧が、直流成分及び低周波数成分の分だけ低下すると共に、前記偏差分の電圧が印加され続けることを防止することができる。つまり、圧電素子25の寿命を延ばすことができる。また、偏差が残らないことで、磁気ヘッド2の位置決めの高精度化が図られると共に、高域通過フィルタ15を設けない場合と比較して、整定時間の短縮が図られる。
次に、図13に示す、高域通過フィルタ15の遮断周波数を1kHzに設定した場合のアクセス動作からトラック追従動作までの磁気ヘッド2の位置時間応答について説明する。図13に示すように、時刻taにおいてアクセス動作が完了し、それと同時に主アクチュエータ8及び微動アクチュエータ3による整定動作が開始され、時刻tcで整定動作が完了している。時刻tcは、図12に示す高域通過フィルタ15の遮断周波数を500Hzに設定した場合の位置整定時刻tbと比較して短縮されている。つまり、図12においては、アクセス動作完了からトラック追従モードに移行する整定動作時に、微動アクチュエータ3の目標トラックからの位置ずれは振動的となり、位置整定時刻tbが長くなる。これは、主アクチュエータ8による磁気ヘッド2の動作を、微動制御系が外乱として認識するためである。そこで、整定動作時に高域通過フィルタ15の遮断周波数fc(図6におけるfcH)をトラック追従動作モード(整定動作モードを含む)における主制御系の制御帯域(ここでは1kHz)以上に設定することによって、トラック追従動作モードにおける主制御系と微動制御系との相互干渉を抑制して、磁気ヘッド2の位置整定時刻tcが短縮される。その結果、高精度かつ高速応答の磁気ディスク装置を構成することができる。さらにこのことは、微動アクチュエータ3を駆動する圧電素子25に電圧が印加される時間を極力短縮することにもなるため、圧電素子25の長寿命化に有利である。
図14、15は、前記磁気ディスク装置におけるヘッド位置決め制御系において、シミュレーションにより求めた、トラック追従動作における磁気ヘッド2の時間応答波形図である。
各図の(a)は、磁気ディスク1上の目標トラックのトラックうねりを示し、シミュレーションではトラックうねりの周波数を500Hzにした。各図の(b)は、ヘッド位置決め制御系により磁気ヘッド2が目標トラックへ追従制御されたときのトラック追従誤差を示す。各図の(c)は、主アクチュエータ8の変位量を示し、各図の(d)は、微動アクチュエータ3の変位量を示す。
また、シミュレーションでは、トラック追従動作モードにおける主アクチュエータ8の位置決め制御系の制御帯域を1kHzに設定すると共に、トラック追従動作モードにおける微動アクチュエータ3の位置決め制御系の制御帯域は2kHzに設定した。
そして、図14は、高域通過フィルタ15の遮断周波数fcを、トラックうねりの周波数よりも高い1kHzに設定した場合のトラック追従時間応答波形を示し、図15は、高域通過フィルタ15の遮断周波数fcをトラックうねりの周波数よりも低い10Hzに設定した場合のトラック追従時間応答波形を示す。
先ず、図14に示すように追従動作モードにおける遮断周波数fcを比較的高くしたときには、図14(a)の目標トラックのトラックうねりに対して、図14(b)に示すようにトラック追従誤差は約40%まで抑制されてはいるが、抑制率としては十分ではない。また、図14(c)と図14(d)を比較すると主アクチュエータ8と微動アクチュエータ3の位置変位量が逆位相の関係にあり、これにより十分なトラック追従抑制特性が得られていない。
次に、図15に示すように追従動作モードにおける遮断周波数fcを比較的低くしたときには、図14(a)の目標トラックのトラックうねりに対して、図14(b)に示すようにトラック追従誤差は約12%まで抑制されている。また、図14(c)と図14(d)を比較すると主アクチュエータ8と微動アクチュエータ3の変位量がほぼ同位相の関係にあり、図13(b)に比べて十分なトラック追従抑制特性が得られている。
すなわち、位置決め制御系が整定動作からトラック追従動作に移行したときには、高域通過フィルタ15の遮断周波数fcをできるだけ低く設定した方がトラック追従誤差の抑制特性を向上させることができる。つまり、主アクチュエータ8が補正する外乱の周波数帯域と、微動アクチュエータ3が補正する外乱の周波数帯域とは、高域通過フィルタ15の遮断周波数fcによって振り分けられるが、主アクチュエータ8は動作範囲は広いものの、質量が大きいため高い周波数まで応答することができない一方、微動アクチュエータ3は動作範囲は狭いものの、高い周波数まで応答することができる。そこで、トラックうねりの原因の一つである、ディスク偏心等の低周波数かつ振幅の大きな変動は、主アクチュエータ8で補正し、その他(例えば風乱、モータ振動等)の高周波数かつ振幅の小さな変動は、微動アクチュエータ3で補正すべく、高域通過フィルタ15の遮断周波数fc(図6におけるfcL)を低くする。そうすることによって、トラック追従誤差の抑制特性が向上する。ここで、トラック追従動作における遮断周波数fcLは、トラックうねりの周波数に応じて設定すればよく、その設定に際してはディスク偏心(ディスク1の回転周波数)を考慮するのがよい。
よって、高域通過フィルタ15が、第2のモード切替信号mdに応じてその遮断周波数fcをfcHからfcLに切り替えることによって、整定動作モードにおいては、比較的高い遮断周波数fcHで位置信号peのフィルタリング処理を行うことになり、整定時間の短縮が図られる(図13参照)。一方、トラック追従動作モードにおいては、比較的低い遮断周波数fcLで位置信号peのフィルタリング処理を行うことになり、トラック追従誤差の抑制が図られる(図15参照)。
従って、前記実施形態に係る磁気ディスク装置によると、制御モード指令器18がアクセス動作のモード切替信号msを出力し、位置決め制御系がアクセス動作を開始したときは切替スイッチ14は端子a側に切り替えられ、位置信号peは高域通過フィルタ15に入力されない。これによって、アクセス動作時には微動アクチュエータ3が駆動されないため、薄膜圧電素子25に電圧が印加されない。その結果、アクセス動作時に微動アクチュエータ3が一定の変位量で変位した状態を維持することがなくなる。
そして、位置決め制御系がアクセス動作を完了したときは、第1のモード切替信号msによって切替スイッチ14が端子b側に切り替えられ、ヘッド位置検出器11の出力する位置信号peが切替スイッチ14を介して高域通過フィルタ15に入力される。そうして、フィルタ信号eに基づいて微動制御信号um及び駆動電圧信号vmが生成され、微動アクチュエータ3が駆動制御される。このように、位置信号peに対しフィルタリング処理を行った上で微動制御信号umを生成するため、位置信号peのうち低周波数成分、特に直流成分が減衰し、それによって、薄膜圧電素子25に印加される電圧値が直流電圧分だけ低下する。また、磁気ヘッド2が目標トラックに整定した後に、低周波成分、特に直流成分に起因する磁気ヘッド2と目標トラックとの偏差が残存して、微動アクチュエータ3が一定の変位量で変位した状態を維持することがなくなる。
このように、薄膜圧電素子25に印加される電圧値が極力低くなると共に、アクセス動作モード、整定動作モード及びトラック追従動作モードにおいて、微動アクチュエータ3が一定の変位量で変位した状態を維持することがなくなり、微動アクチュエータ3(圧電素子25)の寿命を向上させることができる。
また、アクセス動作モードにおいては、微動アクチュエータ3の薄膜圧電素子25に電圧が印加されないことで、磁気ヘッド2は、フレクシャ22の弾性力によって微動アクチュエータ3の動作範囲の中央位置に位置づけられる一方、整定動作モード及びトラック追従動作モードにおいては、薄膜圧電素子25に直流成分が印加されないことで、磁気ヘッド2は、フレクシャ22の弾性力によって微動アクチュエータ3の動作範囲の中央位置に位置づけられると共に、その中央位置から、薄膜圧電素子25に印加される交流成分に応じて微動することになる。そのため、微動アクチュエータ3による位置決め制御が開始されるときに、微動アクチュエータ3はその動作方向に対して何れの動作方向にも略均等に動作することが可能であり、磁気ヘッド2を目標トラックに柔軟に追従させることが可能になる。その結果、微動アクチュエータ3と主アクチュエータ8とによる高速かつ高精度なヘッドの位置決めが実現する。
また、高域通過フィルタ15は、第2のモード切替信号mdに応じて、位置決め制御系が整定動作をしているときには、その遮断周波数fcを主アクチュエータ8の制御帯域と同じかそれよりも高く設定することにより、主アクチュエータ8の位置決め制御系と微動アクチュエータ3の位置決め制御系との干渉が防止され、整定動作モードの期間を短縮することができる。一方、整定動作完了後のトラック追従動作においては、高域通過フィルタ15は、その遮断周波数fcを低く設定することにより、トラックうねりに対して十分な追従特性を得ることができる。その結果、高精度かつ高速応答の磁気ディスク装置が構成される。
尚、前記実施の形態における磁気ディスク装置では、ヘッド位置検出器11が出力する位置信号peを切替スイッチ14を介して高域通過フィルタ15に入力するようにしているが、ヘッド位置検出器11の出力する位置信号peを高域通過フィルタ15に入力し、その高域通過フィルタ15からのフィルタ信号eを切替スイッチ14を介して微動制御器16に入力するようにしてもよい。また、ヘッド位置検出器11が出力する位置信号peを先ず微動制御器16に入力し、その微動制御器16が出力する微動制御信号umを高域通過フィルタ15を介して微動駆動器17に入力するようにしてもよい。
また、本発明のディスク装置及びその制御方法は、前記実施の形態のように圧電素子を利用する微動アクチュエータ3に限定されるものではない。
また、前記実施の形態では、本発明のディスク装置及びその制御方法を、磁気ディスク装置を例に挙げて説明したが、本発明は、本例に限定されるものではなく、光ディスク装置、光磁気ディスク装置等の、他の態様のディスク装置にも適用することが可能である。