しかしながら、磁気記録媒体の多層化による記録層中の保磁力の減少という問題は未だ解消されておらず、そのため、上記特許文献1に記載の磁気記録媒体を使用して裏打ち層効果によって微小な磁化情報を記録しようとしても、保磁力が小さいために、上記記録層中に記録した磁化情報を保持することは難しい。
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、信号再生時の裏打ち層からのノイズを低減し、かつ、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができる情報記録媒体及びその製造方法、並びに上記情報記録媒体における情報の再生もしくは記録再生に用いられる情報再生装置及び情報記録再生装置を提供することにある。
本発明に係る情報記録媒体は、上記課題を解決するために、磁気的に情報信号が記録される記録層と、情報信号の記録に用いられる磁界を上記記録層に集中させるための裏打ち層とを備え、該裏打ち層上に上記記録層が積層されてなる情報記録媒体において、上記裏打ち層と記録層との間に非磁性中間層が形成され、上記裏打ち層は、フェリ磁性材料で形成されるとともに、信号再生温度と実質的に同温度である補償温度を有し、信号記録温度にて積層方向に対して垂直な方向の磁化を有し、かつ、上記非磁性中間層は、上記記録層との接触界面に、平均表面粗さが0.6nm以上、1.5nm以下の凹凸形状を有する凹凸部を備えていることを特徴としている。
ここで、信号再生温度と実質的に同温度とは、信号再生温度と等しい温度、及び、信号再生温度と実質的に等しいとみなせる温度を含むものとする。なお、信号再生温度と実質的に等しいと見なせる温度とは、後述するように、情報記録媒体の情報信号の再生に際して、裏打ち層からのスパイクノイズが十分に抑制される程度に、裏打ち層の磁化量がゼロに近づくことをいう。
上記の構成によれば、裏打ち層は、フェリ磁性材料で形成されている。フェリ磁性材料は、磁化量がゼロになる補償温度を有している。そのため、裏打ち層の補償温度が、情報記録媒体の信号再生温度と実質的に同温度となるように、該裏打ち層をなすフェリ磁性材料の磁気特性を調整することにより、信号再生温度にて、裏打ち層の磁化量をゼロ又は実質的にゼロにすることができる。つまり、上記情報記録媒体の記録層に記録された情報信号の再生時には、裏打ち層の磁化量がゼロ又は実質的にゼロとなる。
一般に、磁区と磁区との境界である磁壁から発生する漏洩磁束は、磁化量に依存し、磁化量がゼロである場合、漏洩磁束は発生しない。つまり、上記裏打ち層中の磁化は、補償温度においてはゼロとなり、漏洩磁束を発生させない。そのため、上記情報記録媒体の再生時には、裏打ち層から漏洩磁束が十分に抑制され、スパイクノイズの発生が抑制される。これにより、上記情報記録媒体の情報信号の再生に際して、裏打ち層からのノイズを低減もしくは無くし、再生される情報信号の品質を向上させて、良好な信号再生特性を得ることができる。
さらに、上記の構成によれば、情報記録媒体の信号記録温度にて、上記裏打ち層は、該裏打ち層及び記録層の積層方向に対して垂直な方向に磁化を有している。従って、情報記録媒体の記録層への情報信号の記録に際して、上記記録層を介して、情報再生装置あるいは情報記録再生装置における磁気ヘッドと裏打ち層との間に、磁気閉回路を形成することができる。従って、磁気ヘッドから裏打ち層に誘導される磁界が、記録層に印加されることになる。これにより、記録層に印加される磁界の強度及び勾配を高めることができるので、磁気ヘッドからの磁界を効率よく記録層に集中させて印加することができる。
また、磁気ヘッドからの磁界の強度が大きくなると、磁界がブロードになる傾向がある。しかしながら、上記のように磁気閉回路を形成することにより、記録層に印加される磁界の印加範囲を絞り込むことができる。それゆえ、記録層に高密度に情報信号を書き込むことができる。このため、上記の構成によれば、信号再生時には、スパイクノイズを発生することなく、良好な信号特性を得ることができ、信号記録時には、磁気ヘッドからの磁界を効率よく記録層に印加することができる。
また、上記の構成によれば、上記裏打ち層と記録層との間には非磁性中間層が形成され、上記非磁性中間層は、上記記録層との接触界面に、平均表面粗さが0.6nm以上、1.5nm以下の凹凸形状を有する凹凸部を備えている。
このように上記裏打ち層と記録層との間に非磁性中間層が介在することで、上記裏打ち層と記録層との間で、磁気的な交換相互作用が生じることを防止することができる。これにより、上記記録層への情報信号の記録に際して、裏打ち層が有する磁化の方向の影響を受けることなく、記録層への情報信号の磁気的な記録を安定して行うことができる。
特に、上記非磁性中間層が、上記したように、上記記録層との接触界面に、平均表面粗さが0.6nm以上、1.5nm以下の凹凸形状を有する凹凸部を備えていること、つまり、上記非磁性中間層と上記記録層との接触界面に上記凹凸形状を有する凹凸部が設けられていることで、上記記録層中での磁壁の移動が妨げられる。すなわち、上記非磁性中間層に形成された上記凹凸部は、上記記録層に形成される磁壁の移動を妨げる磁壁束縛部位(ピニングサイト(ピニング))としての役割を果たす。このため、上記非磁性中間層の凹凸部(凹凸形状)によるピニング効果により、上記記録層に形成される磁区が分断され、上記記録層における磁壁の移動は、上記記録層における上記非磁性中間層との接触界面に形成された各凹部及び凸部内、つまり、上記記録層中に形成されたピニング内に制限されることになる。その結果、記録層への情報信号の記録に際して、記録層が凹凸形状を有していない場合、つまり、上記非磁性中間層と記録層との界面に上記凹凸部が設けられていない場合と比較して、磁壁の移動を短い距離に制限することができる。そして、この場合、特に、上記非磁性中間層の凹凸部の平均表面粗さを、0.6nm以上、1.5nm以下とすることで、記録層中での磁壁の移動を効果的に抑制することができる。これにより、記録層に安定して磁界を書き込むことができるとともに、上記情報記録媒体による高密度記録を実現することができる。
また、上記の構成によれば、上記凹凸部によって上記記録層中にピニングを形成することができるので、このように裏打ち層を有する多層化媒体においても、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができ、上記記録層中に記録した磁化情報を安定して保持することが可能となる。
従って、上記の構成によれば、信号再生時の裏打ち層からのノイズが生じず、しかも、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができる情報記録媒体を提供することができるという効果を奏する。
また、上記の構成によれば、上記記録層に記録された信号を再生する場合にも、上記記録層の磁壁の移動が制限されるので、情報記録媒体の再生に際して、良好な信号再生特性を得ることができるという効果を併せて奏する。
また、磁区と磁区との境界である上記磁壁の移動距離は、上記凹凸部における凹部又は凸部の径に依存する。
従って、本発明に係る情報記録媒体は、上記の情報記録媒体において、上記非磁性中間層における上記凹凸部のうち凸部の平均径が50nm未満であることが好ましい。
上記の構成によれば、上記非磁性中間層と記録層との界面にて、微小な凹凸形状を形成することができる。これにより、記録層中での磁壁の移動を効果的に抑制することができる。これにより、記録層に安定に磁界を書き込むことができるとともに、情報記録媒体の再生に際して、良好な信号再生特性を得ることができるという効果を奏する。
また、本発明に係る情報記録媒体は、上記課題を解決するために、磁気的に情報信号が記録される記録層と、情報信号の記録に用いられる磁界を上記記録層に集中させるための裏打ち層とを備え、該裏打ち層上に上記記録層が積層されてなる情報記録媒体において、上記裏打ち層と記録層との間に非磁性中間層が形成され、上記裏打ち層は、フェリ磁性材料で形成されるとともに、信号再生温度と実質的に同温度である補償温度を有し、信号記録温度にて積層方向に対して垂直な方向の磁化を有し、かつ、上記非磁性中間層は、誘電体層と、該誘電体層上に設けられた非磁性金属層とからなることを特徴としている。
本発明においても、信号再生温度と実質的に同温度とは、信号再生温度と等しい温度、及び、信号再生温度と実質的に等しいとみなせる温度を含むものとする。なお、信号再生温度と実質的に等しいと見なせる温度とは、後述するように、情報記録媒体の情報信号の再生に際して、裏打ち層からのスパイクノイズが十分に抑制される程度に、裏打ち層の磁化量がゼロに近づくことをいう。
また、本発明においても、上記裏打ち層は、フェリ磁性材料で形成され、フェリ磁性材料は、磁化量がゼロになる補償温度を有しているため、裏打ち層の補償温度が、情報記録媒体の信号再生温度と実質的に同温度となるように、該裏打ち層をなすフェリ磁性材料の磁気特性を調整することにより、信号再生温度にて、裏打ち層の磁化量をゼロ又は実質的にゼロにすることができる。つまり、上記情報記録媒体の記録層に記録された情報信号の再生時には、裏打ち層の磁化量がゼロ又は実質的にゼロとなる。
前記したように、一般に、磁区と磁区との境界である磁壁から発生する漏洩磁束は、磁化量に依存し、磁化量がゼロである場合、漏洩磁束は発生しない。つまり、上記裏打ち層中の磁化は、補償温度においてはゼロとなり、漏洩磁束を発生させない。そのため、上記情報記録媒体の再生時には、裏打ち層から漏洩磁束が十分に抑制され、スパイクノイズの発生が抑制される。これにより、上記情報記録媒体の情報信号の再生に際して、裏打ち層からのノイズを低減もしくは無くし、再生される情報信号の品質を向上させて、良好な信号再生特性を得ることができる。
さらに、上記の構成においても、情報記録媒体の信号記録温度にて、上記裏打ち層は、該裏打ち層及び記録層の積層方向に対して垂直な方向に磁化を有している。従って、情報記録媒体の記録層への情報信号の記録に際して、上記記録層を介して、情報再生装置あるいは情報記録再生装置における磁気ヘッドと裏打ち層との間に、磁気閉回路を形成することができる。従って、磁気ヘッドから裏打ち層に誘導される磁界が、記録層に印加されることになる。これにより、記録層に印加される磁界の強度及び勾配を高めることができるので、磁気ヘッドからの磁界を効率よく記録層に集中させて印加することができる。
また、磁気ヘッドからの磁界の強度が大きくなると、磁界がブロードになる傾向がある。しかしながら、上記のように磁気閉回路を形成することにより、記録層に印加される磁界の印加範囲を絞り込むことができる。それゆえ、記録層に高密度に情報信号を書き込むことができる。このため、上記の構成によれば、信号再生時には、スパイクノイズを発生することなく、良好な信号特性を得ることができ、信号記録時には、磁気ヘッドからの磁界を効率よく記録層に印加することができる。
また、上記の構成によれば、上記裏打ち層と記録層との間には非磁性中間層が形成され、上記非磁性中間層は、誘電体層と、該誘電体層上に設けられた非磁性金属層とからなる。
このように上記裏打ち層と記録層との間に非磁性中間層が介在することで、上記裏打ち層と記録層との間で、磁気的な交換相互作用が生じることを防止することができる。これにより、上記記録層への情報信号の記録に際して、裏打ち層が有する磁化の方向の影響を受けることなく、記録層への情報信号の磁気的な記録を安定して行うことができる。
また、このように誘電体層表面に非磁性金属層を形成する場合、誘電体層上に、非磁性金属粒子が不均一に拡散し付着する。この結果、誘電体層上の非磁性金属層は、その表面粗さ(平均表面粗さ)が粗くなることによって生じる微細な凹凸構造(凹凸部)を有している。つまり、上記非磁性金属層は、非磁性金属からなる凹凸層として機能する。
本発明によれば、このように誘電体層表面に非磁性金属層を形成することで、上記誘電体層上に、凹凸形状(凹凸層)を誘発することができる。そして、このようにして上記非磁性金属層に形成された上記凹凸部は、上記記録層に形成される磁壁の移動を妨げる磁壁束縛部位(ピニングサイト(ピニング))としての役割を果たす。このため、上記非磁性金属層の凹凸部(凹凸形状)によるピニング効果により、上記記録層に形成される磁区が分断され、上記記録層における磁壁の移動は、上記記録層における上記非磁性金属層(つまり上記非磁性中間層)との接触界面に形成された各凹部及び凸部内、つまり、上記記録層中に形成されたピニング内に制限されることになる。その結果、記録層への情報信号の記録に際して、記録層が凹凸形状を有していない場合、つまり、上記非磁性金属層(非磁性中間層)と記録層との界面に上記凹凸部が設けられていない場合と比較して、磁壁の移動を短い距離に制限することができる。この結果、上記記録層中での磁壁の移動を妨げることができる。
また、上記の構成によれば、上記非磁性金属層、より厳密には、該非磁性金属層表面に形成される凹凸部によって上記記録層中にピニングを形成することができるので、このように裏打ち層を有する多層化媒体においても、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができ、上記記録層中に記録した磁化情報を安定して保持することが可能となる。
従って、上記の構成によれば、信号再生時の裏打ち層からのノイズが生じず、しかも、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができる情報記録媒体を提供することができるという効果を奏する。
また、上記の構成によれば、上記記録層に記録された信号を再生する場合にも、上記記録層の磁壁の移動が制限されるので、情報記録媒体の再生に際して、良好な信号再生特性を得ることができるという効果を併せて奏する。
また、上記非磁性金属層表面の凹凸部の平均表面粗さ、つまり、凹凸層として機能する上記非磁性金属層表面(上記記録層との接触界面)の平均表面粗さは、0.6nm以上、1.5nm以下であることが好ましい。つまり、上記非磁性金属層は、上記記録層との接触界面に、平均表面粗さが0.6nm以上、1.5nm以下の凹凸形状を有する凹凸部を備えていることが好ましい。本発明によれば、上記したように、上記非磁性金属層を、誘電体層表面に形成することで、上記表面粗さ(平均表面粗さ)を有する非磁性金属層を形成することができる。このため、本発明によれば、記録層中での磁壁の移動を効果的に抑制することができる。
また、本発明においても、磁区と磁区との境界である上記磁壁の移動距離は、上記凹凸部における凹部又は凸部の径に依存する。
従って、本発明に係る情報記録媒体は、上記の情報記録媒体において、上記非磁性金属層における上記凹凸部のうち凸部の平均径が50nm未満であることが好ましい。
上記の構成によれば、上記非磁性金属層と記録層との界面(つまり、上記非磁性中間層と記録層との界面)にて、微小な凹凸形状を形成することができる。これにより、記録層中での磁壁の移動を効果的に抑制することができる。これにより、記録層に安定に磁界を書き込むことができるとともに、情報記録媒体の再生に際して、良好な信号再生特性を得ることができるという効果を奏する。
また、上記の情報記録媒体において、上記誘電体層は、窒化物及び酸化物の少なくとも一方で形成されていることが好ましく、上記凹凸層は、アルミニウムで形成されていることが好ましい。
上記誘電体層としては、誘電体からなる層であればよいが、上記誘電体層が、特に、窒化物や酸化物からなる場合、窒化物や酸化物上に形成される金属膜(非磁性金属膜)を構成する非磁性金属粒子は特に拡散が生じ難く、一様に形成されず、凹凸形状が形成され易い。従って、この性質を利用することで、凹凸形状を有する非磁性中間層を簡単に形成することができる。
そして、この場合、上記誘電体層が窒化物及び酸化物の少なくとも一方で形成され、凹凸層がアルミニウムにて形成されている場合、アルミニウムは、誘電体層上にて一様に拡散し難いことから、上記誘電体層上に、凹凸形状を有する凹凸層を容易に形成することができる。また、上記凹凸層を形成するためにアルミニウムを用いることで、細かい凹凸形状を有する凹凸層を形成することができ、上記凹凸層と記録層との界面に凹凸形状を保持しやすい。従って、上記の構成によれば、凹凸形状を有する凹凸層を好適かつ容易に形成することができるとともに、記録層中での磁壁の移動をより一層好適に防止することができるという効果を奏する。
また、本発明に係る情報記録媒体は、上記の情報記録媒体において、上記誘電体層は、平均膜厚が2nm以下であることが好ましい。
また、本発明に係る情報記録媒体は、上記の情報記録媒体において、上記凹凸層は、平均膜厚が3nm以下であることが好ましい。
上記の各構成によれば、非磁性中間層の平均膜厚を5nm以下で形成することができ、情報信号の記録に際して、磁気ヘッドから発生する磁界を、記録層及び非磁性中間層を介して、裏打ち層に誘導しやすい。また、情報記録媒体の総厚が大きくなることを防止することができるという効果を併せて奏する。
また、本発明に係る上記の各情報記録媒体において、上記裏打ち層は、希土類金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む合金であることが好ましい。
なお、本明細書における遷移金属元素とは、希土類金属元素を除く遷移金属元素をいうものとする。ここで、上記希土類金属元素は、Gd及びHoであることが好ましい。また、上記遷移金属元素は、Fe、Co、及び、Niであることが好ましい。
上記の構成によれば、希土類金属元素と遷移金属元素とを含む合金からなるフェリ磁性材料によって裏打ち層が形成されている。そのため、裏打ち層は、温度変化に対して急峻に変化する磁化特性を有するとともに、トータルの磁化量がゼロとなる補償温度を有し、かつ、所定の温度で、情報記録媒体の各層の積層方向に対して垂直な方向に磁化を有する。さらに、希土類金属元素と遷移金属元素との組成比を変えることによって、裏打ち層の補償温度、及び、情報記録媒体の各層の積層方向に対して垂直な方向に磁化を有する温度を、所望する温度に設定することができる。これにより、情報記録媒体や該情報記録媒体の記録再生を行う情報再生装置にて設定される信号再生温度や信号記録温度に応じて、裏打ち層の磁気特性を調整して、所望する磁気特性を有する裏打ち層を容易に形成することができるという効果を奏する。
特に、希土類金属元素として、Gd及び/又はHoを用い、遷移金属元素として、Fe、Co、及び/又は、Niを用いて得られる合金は、150℃以上の高温領域にて、情報記録媒体の各層の積層方向に対して垂直な方向に大きな磁化を有する。従って、上記裏打ち層をなすフェリ磁性材料として好適に用いることができる。
また、本発明に係る上記の各情報記録媒体において、上記非磁性中間層は、平均膜厚が5nm以下であることが好ましい。
上記の構成によれば、非磁性中間層は、平均膜厚が5nm以下と薄く形成されている。そのため、情報信号の記録に際して、磁気ヘッドから発生する磁界を、記録層及び非磁性中間層を介して、裏打ち層に誘導しやすい。従って、上記の構成によれば、情報信号の記録に際して、記録層に十分な磁界を印加することができるので、情報信号の良好な記録が可能な情報記録媒体を提供することができるという効果を奏する。
また、本発明に係る情報記録媒体の製造方法は、上記課題を解決するために、磁気的に情報信号が記録される記録層と、情報信号の記録に用いられる磁界を上記記録層に集中させるための裏打ち層とを備え、該裏打ち層上に上記記録層が積層されてなる情報記録媒体の製造方法において、上記情報記録媒体の信号再生温度と実質的に同温度である補償温度を有し、信号記録温度にて積層方向に対して垂直な方向の磁化を有するように上記裏打ち層をフェリ磁性材料で形成する裏打ち層形成工程と、上記裏打ち層と記録層との間に非磁性中間層が位置するとともに該非磁性中間層における上記記録層との接触界面に、平均表面粗さが0.6nm以上、1.5nm以下の凹凸形状を有する凹凸部を有するように上記裏打ち層上に非磁性中間層を形成する非磁性中間層形成工程と、上記非磁性中間層上に、該非磁性中間層に接して上記記録層を形成する記録層形成工程とを含むことを特徴としている。
また、本発明に係る情報記録媒体の製造方法は、上記課題を解決するために、磁気的に情報信号が記録される記録層と、情報信号の記録に用いられる磁界を上記記録層に集中させるための裏打ち層とを備え、該裏打ち層上に上記記録層が積層されてなる情報記録媒体の製造方法において、上記情報記録媒体の信号再生温度と実質的に同温度である補償温度を有し、信号記録温度にて積層方向に対して垂直な方向の磁化を有するように上記裏打ち層をフェリ磁性材料で形成する裏打ち層形成工程と、上記裏打ち層上に誘電体層を形成する誘電体層形成工程と、上記誘電体層上に、該誘電体層に接して非磁性金属層を形成する非磁性金属層形成工程と、上記非磁性金属層上に、該非磁性金属層に接して上記記録層を形成する記録層形成工程とを含むことを特徴としている。
上記の各方法によれば、裏打ち層は、該裏打ち層の補償温度が、情報記録媒体の信号再生温度と実質的に同温度であり、かつ、該裏打ち層が、信号記録温度にて積層方向に対して垂直な方向の磁化を有するように、フェリ磁性材料にて形成されている。そのため、上記情報記録媒体の再生時には、裏打ち層から漏洩磁束が十分に抑制され、スパイクノイズの発生が抑制される。これにより、上記情報記録媒体の情報信号の再生に際して、ノイズを低減もしくは無くし、再生される情報信号の品質を向上させて、良好な信号再生特性を得ることができる。
しかも、上記の各方法により得られた情報記録媒体は、上記情報記録媒体の記録層への情報信号の記録に際して、上記記録層を介して、情報再生装置あるいは情報記録再生装置における磁気ヘッドと裏打ち層との間に、磁気閉回路を形成することができるので、記録層に印加される磁界の強度及び勾配を高め、磁気ヘッドからの磁界を効率よく記録層に集中させて印加することができるとともに、記録層に印加される磁界の印加範囲を絞り込むことができるので、上記記録層に高密度に情報信号を書き込むことができる。このため、上記情報記録媒体は、信号再生時には、スパイクノイズを発生することなく、良好な信号特性を得ることができ、信号記録時には、磁気ヘッドからの磁界を効率よく記録層に印加することができる。
また、上記の各方法によれば、上記裏打ち層と記録層との間に非磁性中間層が介在することで、上記裏打ち層と記録層との間で、磁気的な交換相互作用が生じることを防止することができ、上記記録層への情報信号の記録に際して、裏打ち層が有する磁化の方向の影響を受けることなく、記録層への情報信号の磁気的な記録を安定して行うことができる情報記録媒体を提供することができる。
また、上記の各方法によれば、上記非磁性中間層及び記録層における互いの接触界面に、前記したように、凹凸部が各々設けられることで、上記非磁性中間層に形成された上記凹凸部が、上記記録層に形成される磁壁の移動を妨げる磁壁束縛部位(ピニングサイト(ピニング))としての役割を果たし、上記記録層中での磁壁の移動が、上記記録層における上記非磁性中間層との接触界面に形成された各凹部及び凸部内、つまり、上記記録層中に形成されたピニング内に制限されることになる。このため、上記記録層への情報信号の記録に際して、記録層に凹凸形状を有していない場合と比較して、磁壁の移動を短い距離に制限することができ、記録層に安定して磁界を書き込むことができるとともに、上記情報記録媒体による高密度記録を実現することができる。
さらに、上記の各方法によれば、上記凹凸部によって上記記録層中にピニングを形成することができるので、このように裏打ち層を有する多層化媒体においても、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができ、上記記録層中に記録した磁化情報を安定して保持することが可能となる。
従って、上記の方法によれば、信号再生時の裏打ち層からのノイズが生じず、しかも、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができる情報記録媒体を得るための製造方法を提供することができるという効果を奏する。
また、上記の方法により得られた情報記録媒体は、上記記録層に記録された信号を再生する場合にも、上記記録層の磁壁の移動が制限されるので、情報記録媒体の再生に際して、良好な信号再生特性を得ることができる。これにより、記録層に安定に磁界を書き込むことができるとともに、再生時に良好な信号再生特性を得ることができる情報記録媒体を提供することができる。
また、本発明に係る情報再生装置は、上記課題を解決するために、本発明に係る上記のいずれかの情報記録媒体を備え、該情報記録媒体を局所的に加熱または冷却して該情報記録媒体の温度を変化させることにより該情報記録媒体の磁気特性を変化させて情報信号の再生を行う情報再生装置であって、さらに、上記情報記録媒体を局所的に加熱または冷却することにより上記情報記録媒体の温度を局所的に変化させる温度差生成部と、上記情報記録媒体の記録層に対し、情報信号の再生を磁気的に行う磁気ヘッドと、上記情報記録媒体の裏打ち層が補償温度となるように上記温度差生成部を制御し、上記裏打ち層が補償温度に達した状態で、上記記録層に記録された情報信号を再生するように磁気ヘッドを制御する制御部とを備えていることを特徴としている。
上記情報再生装置は、上記温度差生成部として、例えば、上記情報記録媒体を局所的に加熱するための光照射を行う光照射部を備え、上記情報記録媒体を局所的に加熱して該情報記録媒体の温度を変化させることにより該情報記録媒体の磁気特性を変化させて情報信号の再生を行う情報再生装置であってもよく、上記制御部は、上記情報記録媒体の裏打ち層が有する補償温度まで、該情報記録媒体を加熱するように上記光照射部を制御し、上記裏打ち層が補償温度に達した状態で、上記記録層に記録された情報信号を再生するように磁気ヘッドを制御する構成を有していてもよい。
上記の各構成によれば、上記情報記録媒体の情報信号の再生に際して、ノイズを低減もしくは無くし、再生される情報信号の品質を向上させて、良好な信号再生特性を得ることができる情報再生装置を提供することができるという効果を奏する。
また、本発明に係る情報記録再生装置は、上記課題を解決するために、本発明に係る上記のいずれかの情報記録媒体を備え、該情報記録媒体を局所的に加熱または冷却して該情報記録媒体の温度を変化させることにより該情報記録媒体の磁気特性を変化させて情報信号の記録再生を行う情報記録再生装置であって、さらに、上記情報記録媒体を局所的に加熱または冷却することにより上記情報記録媒体の温度を局所的に変化させる温度差生成部と、上記情報記録媒体の記録層に対し、情報信号の記録又は再生を磁気的に行う磁気ヘッドと、上記情報記録媒体の裏打ち層が補償温度となるように上記温度差生成部を制御し、かつ、上記裏打ち層が補償温度に達した状態で、上記記録層に記録された情報信号を再生し、上記裏打ち層が情報記録媒体の積層方向に対して垂直な方向の磁化を有する温度に達した状態で、上記記録層に情報信号を書き込むように、上記磁気ヘッドを制御する制御部とを備えていることを特徴としている。
上記情報記録再生装置は、上記温度差生成部として、例えば、上記情報記録媒体を局所的に加熱するための光照射を行う光照射部を備え、上記情報記録媒体を局所的に加熱して該情報記録媒体の温度を変化させることにより該情報記録媒体の磁気特性を変化させて情報信号の記録再生を行う情報記録再生装置であってもよく、上記制御部は、上記情報記録媒体の裏打ち層が有する補償温度まで、該情報記録媒体を加熱するように上記光照射部を制御し、かつ、上記裏打ち層が補償温度に達した状態で、上記記録層に記録された情報信号を再生し、上記裏打ち層が情報記録媒体の積層方向に対して垂直な方向の磁化を有する温度に達した状態で、上記記録層に情報信号を書き込むように、上記磁気ヘッドを制御する構成を有していてもよい。
上記の各構成によれば、情報記録媒体の信号再生時には、スパイクノイズを発生することなく、良好な信号特性(信号再生特性)を得ることができ、情報記録媒体の信号記録時には、磁気ヘッドからの磁界を効率よく記録層に印加することができる情報記録再生装置を提供することができる。
また、本発明に係る情報再生装置及び情報記録再生装置は、上記の情報再生装置及び情報記録再生装置において、さらに、上記情報記録媒体を回転駆動する情報記録媒体駆動部と、上記光照射部及び磁気ヘッドを駆動するヘッド駆動部と、上記情報記録媒体の記録層に記録された情報信号を、当該情報再生装置で再生可能な再生信号に変換する信号処理部とを備えていてもよい。
本発明に係る情報記録媒体は、以上のように、上記裏打ち層と記録層との間に非磁性中間層が形成され、上記裏打ち層は、フェリ磁性材料で形成されるとともに、信号再生温度と実質的に同温度である補償温度を有し、信号記録温度にて積層方向に対して垂直な方向の磁化を有し、かつ、上記非磁性中間層は、上記記録層との接触界面に、平均表面粗さが0.6nm以上、1.5nm以下の凹凸形状を有する凹凸部を備えている構成を有している。
補償温度においては、裏打ち層中の磁化はゼロとなり漏洩磁束を発生させない。それゆえ、上記情報記録媒体の再生時には、裏打ち層から漏洩磁束が十分に抑制され、スパイクノイズの発生が抑制される。これにより、上記情報記録媒体の情報信号の再生に際して、ノイズを低減もしくは無くし、再生される情報信号の品質を向上させて、良好な信号再生特性を得ることができるという効果を奏する。また、上記の構成によれば、上記非磁性中間層における上記記録層との接触界面に、上記凹凸部が形成されていることで、上記記録層中にピニングが形成される。このため、このように裏打ち層を有する多層化媒体においても、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができ、上記記録層中に記録した磁化情報を安定して保持することが可能になるという効果を併せて奏する。
また、本発明に係る情報記録媒体は、以上のように、上記裏打ち層と記録層との間に非磁性中間層が形成され、上記裏打ち層は、フェリ磁性材料で形成されるとともに、信号再生温度と実質的に同温度である補償温度を有し、信号記録温度にて積層方向に対して垂直な方向の磁化を有し、かつ、上記非磁性中間層は、誘電体層と、該誘電体層上に設けられた非磁性金属層とからなる構成を有している。
上記したように、補償温度においては、裏打ち層中の磁化はゼロとなり漏洩磁束を発生させない。それゆえ、上記情報記録媒体の再生時には、裏打ち層から漏洩磁束が十分に抑制され、スパイクノイズの発生が抑制される。これにより、上記情報記録媒体の情報信号の再生に際して、ノイズを低減もしくは無くし、再生される情報信号の品質を向上させて、良好な信号再生特性を得ることができるという効果を奏する。また、上記の構成によれば、上記誘電体層表面に非磁性金属層を形成することで、上記非磁性金属層表面に凹凸形状(凹凸部)を形成することができる。そして、このようにして上記非磁性金属層に形成された上記凹凸部は、上記記録層に形成される磁壁の移動を妨げる磁壁束縛部位(ピニングサイト(ピニング))としての役割を果たす。すなわち、上記の構成によれば、上記非磁性中間層における上記記録層との接触界面に上記凹凸部が形成されていることで、上記記録層中にピニングが形成される。このため、このように裏打ち層を有する多層化媒体においても、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができ、上記記録層中に記録した磁化情報を安定して保持することが可能になるという効果を併せて奏する。
また、本発明に係る情報記録媒体の製造方法は、以上のように、当該情報記録媒体の信号再生温度と実質的に同温度である補償温度を有し、信号記録温度にて積層方向に対して垂直な方向の磁化を有するように上記裏打ち層をフェリ磁性材料で形成する裏打ち層形成工程と、上記裏打ち層と記録層との間に非磁性中間層が位置するとともに該非磁性中間層における上記記録層との接触界面に、平均表面粗さが0.6nm以上、1.5nm以下の凹凸形状を有する凹凸部を有するように上記裏打ち層上に非磁性中間層を形成する非磁性中間層形成工程と、上記非磁性中間層上に、該非磁性金属層に接して上記記録層を形成する記録層形成工程とを含む。
上記の方法により得られる情報記録媒体は、上記情報記録媒体の再生時には、裏打ち層から漏洩磁束が十分に抑制され、スパイクノイズの発生が抑制されるので、上記情報記録媒体の情報信号の再生に際して、ノイズを低減もしくは無くし、再生される情報信号の品質を向上させて、良好な信号再生特性を得ることができる。また、上記の方法によれば、上記凹凸部によって上記記録層中にピニングを形成することができるので、このように裏打ち層を有する多層化媒体においても、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができ、上記記録層中に記録した磁化情報を安定して保持することが可能となる。
従って、上記の方法によれば、信号再生時の裏打ち層からのノイズが生じず、しかも、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができる情報記録媒体を得るための製造方法を提供することができるという効果を奏する。
また、本発明に係る情報記録媒体の製造方法は、以上のように、当該情報記録媒体の信号再生温度と実質的に同温度である補償温度を有し、信号記録温度にて積層方向に対して垂直な方向の磁化を有するように上記裏打ち層をフェリ磁性材料で形成する裏打ち層形成工程と、上記裏打ち層上に誘電体層を形成する誘電体層形成工程と、上記誘電体層上に、該誘電体層に接して非磁性金属層を形成する非磁性金属層形成工程と、上記非磁性金属層上に、該非磁性金属層に接して上記記録層を形成する記録層形成工程とを含む。
上記の方法により得られる情報記録媒体は、上記情報記録媒体の再生時には、裏打ち層から漏洩磁束が十分に抑制され、スパイクノイズの発生が抑制されるので、上記情報記録媒体の情報信号の再生に際して、ノイズを低減もしくは無くし、再生される情報信号の品質を向上させて、良好な信号再生特性を得ることができる。また、上記の方法によれば、上記誘電体層上に、該誘電体層に接して非磁性金属層を形成することで、上記非磁性金属層表面に、凹凸形状(凹凸部)を形成することができる。そして、このようにして上記非磁性金属層に形成された上記凹凸部は、上記記録層に形成される磁壁の移動を妨げる磁壁束縛部位(ピニングサイト(ピニング))としての役割を果たす。すなわち、上記の構成によれば、上記非磁性中間層における上記記録層との接触界面に形成された上記凹凸部によって上記記録層中にピニングを形成することができるので、このように裏打ち層を有する多層化媒体においても、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができ、上記記録層中に記録した磁化情報を安定して保持することが可能となる。
従って、上記の方法によれば、信号再生時の裏打ち層からのノイズが生じず、しかも、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができる情報記録媒体を得るための製造方法を提供することができるという効果を奏する。
さらに、本発明に係る情報再生装置は、以上のように、本発明にかかる上記いずれかの情報記録媒体を備え、該情報記録媒体を局所的に加熱または冷却して該情報記録媒体の温度を変化させることにより該情報記録媒体の磁気特性を変化させて情報信号の再生を行う情報再生装置であって、さらに、上記情報記録媒体を局所的に加熱または冷却することにより上記情報記録媒体の温度を局所的に変化させる温度差生成部と、上記情報記録媒体の記録層に対し、情報信号の再生を磁気的に行う磁気ヘッドと、上記情報記録媒体の裏打ち層が補償温度となるように上記温度差生成部を制御し、上記裏打ち層が補償温度に達した状態で、上記記録層に記録された情報信号を再生するように磁気ヘッドを制御する制御部とを備えている。
また、本発明に係る情報記録再生装置は、以上のように、本発明に係る上記いずれかの情報記録媒体を備え、該情報記録媒体を局所的に加熱または冷却して該情報記録媒体の温度を変化させることにより該情報記録媒体の磁気特性を変化させて情報信号の記録再生を行う情報記録再生装置であって、さらに、上記情報記録媒体を局所的に加熱または冷却することにより上記情報記録媒体の温度を局所的に変化させる温度差生成部と、上記情報記録媒体の記録層に対し、情報信号の記録又は再生を磁気的に行う磁気ヘッドと、上記情報記録媒体の裏打ち層が補償温度となるように上記温度差生成部を制御し、かつ、上記裏打ち層が補償温度に達した状態で、上記記録層に記録された情報信号を再生し、上記裏打ち層が情報記録媒体の積層方向に対して垂直な方向の磁化を有する温度に達した状態で、上記記録層に情報信号を書き込むように、上記磁気ヘッドを制御する制御部とを備えている。
それゆえ、上記の各構成によれば、上記情報記録媒体の情報信号の再生時に良好な信号再生特性を得ることができる情報再生装置及び情報記録再生装置を提供することができるという効果を奏する。また、上記情報記録再生装置によれば、上記効果に加えて、情報記録媒体の信号記録時には、磁気ヘッドからの磁界を効率よく記録層に印加することができるという効果を併せて奏する。
本発明の実施の一形態について図1ないし図10に基づいて説明すれば、以下の通りである。
図1に、本実施の形態の情報記録媒体である磁気ディスク1の断面図を示す。該磁気ディスク1は、図1に示すように、基板2上に、フェリ磁性裏打ち層(裏打ち層)3、誘電体層4及び凹凸層5を含む非磁性中間層9、記録層6、保護層7、潤滑層8が、この順に積層されてなる。
上記基板2は、上記した各層を成膜して積層するための支持体である。そのため、上記基板2は、各層が積層される側の表面が平滑であり、成膜時に各層を変形させることなく保持することができる材料で形成されていればよい。上記基板2としては、特に限定されないが、具体的には、ガラス、アルミニウム、プラスチック、シリコン等の非磁性体材料によって形成されればよい。
また、上記基板2の形状は、特に限定されないが、例えば、平坦な板形状や円盤状、シリンダー形状のものを用いればよい。基板2としてシリンダー形状のものを用いる場合には、シリンダーの外周面に上記の各層を積層すればよい。なお、上記基板2上に各層を形成する前に、逆スパッタリング法等によって、上記基板2の表面をクリーニングすることが好ましい。
上記フェリ磁性裏打ち層3は、磁気ディスク1への信号(情報信号)の記録に際して、後述する記録再生装置の磁気ヘッドによって発生する書き込み磁界を上記記録層6に集中させるために設けられている。
上記フェリ磁性裏打ち層3は、補償温度及びキュリー温度で、磁化量がゼロ(実質的にゼロであればよい)となるフェリ磁性材料によって形成されてなる薄膜である。具体的には、希土類金属元素と遷移金属元素とを含む合金で形成すればよい。希土類金属元素と遷移金属元素とを含む合金からなるフェリ磁性材料は、磁気的な特性が温度変化に対して急峻に変化する。また、希土類金属元素と遷移金属元素との組成比を変化させることにより、フェリ磁性材料の補償温度及びキュリー温度を所望の温度に設定することができる。なお、本発明において、遷移金属元素とは、希土類金属元素を除く全ての遷移金属元素を指すものとする。
ここで、上記希土類金属元素としては、例えば、Ho(ホルミウム)及びGd(ガドリニウム)からなる群より選ばれる1種又は2種の元素を組み合わせて用いればよい。また、上記遷移金属元素としては、例えば、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の元素を組み合わせて用いればよい。従って、上記フェリ磁性材料としては、例えば、HoFeCo合金を用いればよく、Ho、Fe、Coの組成を調整することによって、所望する磁気特性に調整すればよい。
上記希土類金属元素と遷移金属元素とを組み合わせて用いることにより、上記フェリ磁性裏打ち層3は、150℃以上の高温領域にて、軟磁性材料に類似する磁化特性を有することが好ましい。すなわち、上記フェリ磁性裏打ち層3は、外部磁場に追随して磁化状態が変化することが好ましい。具体的には、上記フェリ磁性裏打ち層3は、150℃以上の高温領域にて、上記各層の積層方向に垂直な方向である、磁気ディスク1の面内方向に磁化を有することが好ましい。
これにより、詳細は後述するが、記録再生装置の磁気ヘッドによって書き込み磁界を発生させた場合に、該磁気ヘッドとフェリ磁性裏打ち層3との間に、磁気閉回路が形成されることになる。それゆえ、フェリ磁性材料を用いたフェリ磁性裏打ち層3を形成することにより、信号記録に際して、磁気ヘッドによって発生する書き込み磁界を上記記録層6に集中させて、該記録層6への記録分解能を向上させることができる。
また、上記フェリ磁性裏打ち層3が有する補償温度を、磁気ディスク1の信号再生温度に設定する。ここで、補償温度を信号再生温度に設定するとは、補償温度と信号再生温度とを等しい温度にすること、及び、実質的に等しいとみなせる温度に設定することを含む。このように、上記補償温度を信号再生温度に設定することにより、磁気ディスク1の信号再生時には、フェリ磁性裏打ち層3の全体としての磁化量がゼロ(又は実質的にゼロ)となる。すなわち、本発明において、補償温度と信号再生温度とが実質的に等しいとみなせる温度(実質的に同温度)とは、上記磁気ディスク1の記録層6に記録された情報信号の再生時に、フェリ磁性裏打ち層3の磁化量が実質的にゼロとなる温度を示し、フェリ磁性裏打ち層3の磁化量が実質的にゼロとは、フェリ磁性裏打ち層3全体の磁化量が、該フェリ磁性裏打ち層3からのスパイクノイズが十分に抑制される程度に、該フェリ磁性裏打ち層3の磁化量がゼロに近づくこと、好適には単位体積当たりの上記磁化量が10emu/cc(emu/cm3)以下、望ましくはゼロであることを示す。このように上記補償温度を信号再生温度に設定することにより、磁気ディスク1の信号再生時には上記フェリ磁性裏打ち層3の磁化量が、実質的にゼロ、望ましくはゼロとなるので、上記フェリ磁性裏打ち層3にて漏洩磁束の発生を防止することができる。
すなわち、上記漏洩磁束は、フェリ磁性裏打ち層3における磁区と磁区との境界である磁壁から発生する。この漏洩磁束は、フェリ磁性裏打ち層3中の磁化の大きさに依存し、該漏洩磁束に起因してスパイクノイズが発生する。上記のように、フェリ磁性裏打ち層3における磁化量が全体としてゼロ(又は実質的にゼロ)であれば、上記フェリ磁性裏打ち層3からの漏洩磁束が発生しないため、磁気ディスク1の信号再生に際して、スパイクノイズを十分に低減し、さらには上記スパイクノイズを無くすことができる。
従って、例えば、上記磁気ディスク1の信号再生温度が室温(約30℃)であり、信号記録温度が約150℃以上の所定の温度に設定されている場合、約30℃が、磁化量がゼロとなる補償温度となり、約150℃が、面内方向に磁化を有する温度以上の温度となるように、上記フェリ磁性裏打ち層3の磁気特性を調整すればよい。具体的には、上記フェリ磁性裏打ち層3は、150℃以上の高温領域にて、上記各層の積層方向に垂直な方向である、磁気ディスク1の面内方向に磁化を有することが好ましい。
また、上記フェリ磁性裏打ち層3と記録層6との間には、図1に示すように、非磁性中間層9が配置されている。このように、上記フェリ磁性裏打ち層3と記録層6との間に非磁性中間層9を設けることにより、上記フェリ磁性裏打ち層3と記録層6との間で、磁気的な交換相互作用が生じることを防止することができる。従って、本実施の形態によれば、上記磁気ディスク1への信号記録に際して、記録層6の磁化方向が、フェリ磁性裏打ち層3の磁化方向の影響を受けることを防止して、良好な信号記録を実現することができる。
また、上記非磁性中間層9は、記録層6上での磁壁の移動を妨げるピニング効果を誘発するために、凹凸形状を有するように設けられている。より具体的には、本実施の形態に係る上記非磁性中間層9は、図1に示すように、誘電体層4及び該誘電体層4上に形成された凹凸層5を備えている。すなわち、上記非磁性中間層9は、該非磁性中間層9上に形成される記録層6との界面(接触界面)、具体的には、上記凹凸層5と記録層6との界面(接触界面)に、微小な凹凸形状(凹凸部)を有している。
本実施の形態において、上記非磁性中間層9に形成された上記凹凸部(凹凸形状)は、上記記録層6中の磁壁の移動を妨げる磁壁束縛部位(ピニングサイト、ピニング)としての役割を果たす。このため、上記非磁性中間層9の凹凸部(凹凸形状)によるピニング効果により、上記記録層6に形成される磁区が分断され、上記記録層6における磁壁の移動は、上記記録層6における上記非磁性中間層9との接触界面に形成された各凹部内又は各凸部内、つまり、上記記録層6中に形成されたピニング内に制限されることになる。その結果、記録層6への情報信号の記録に際して、記録層6に凹凸形状を有していない場合、つまり、上記凹凸部が設けられていない場合と比較して、磁壁の移動を短い距離に制限することができる。
従って、本実施の形態によれば、上記記録層6に安定して磁界を書き込むことができ、該記録層6に微小な記録ビットを安定して形成することができるとともに、磁気ディスク1にて高密度記録を実現することができる。
また、本実施の形態によれば、上記凹凸部によって上記記録層6中にピニングを形成することができるので、このように裏打ち層(フェリ磁性裏打ち層3)を有する多層化媒体においても、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができ、上記記録層6中に記録した磁化情報を安定して保持することが可能となる。
従って、本実施の形態によれば、信号再生時に、上記フェリ磁性裏打ち層3からのノイズが生じず、しかも、記録層単層媒体と同程度の記録層保磁力を維持することができる磁気ディスク1を提供することができる。
また、本実施の形態によれば、上記記録層6に記録された信号を再生する場合にも、上記記録層6の磁壁の移動が制限されるので、磁気ディスク1の信号再生に際して、良好な信号再生特性を得ることができる。
ここで、上記非磁性中間層9は、その平均膜厚の上限値が5nm、つまり、上記平均膜厚が5nm以下であり、4nm以下であることが好ましく、3nm以下であることがより好ましい。また、上記平均膜厚の下限値は特に限定されないが、1nmであること、つまり、上記平均膜厚が1nm以上であることが好ましく、1.2nm以上であることがより好ましい。
上記平均膜厚が5nmを超えると、磁気ディスク1の記録層6への信号記録に際して、後述する記録再生装置の磁気ヘッドとフェリ磁性裏打ち層3との距離が大きくなり、磁気ヘッドからの書き込み磁界をフェリ磁性裏打ち層3に誘導し難くなる傾向にある。その結果、記録層6に印加される書き込み磁界の強度及び勾配が低下する傾向にあり、記録分解能を向上することが困難となって好ましくない。また、非磁性中間層9の膜厚が大きくなり、磁気ディスク1の厚さが大きくなる傾向にあるという問題もある。一方、上記平均膜厚が1nm未満となると、上記フェリ磁性裏打ち層3と記録層6との間での磁気的な交換相互作用の発生を防止することが困難になる傾向にあり、好ましくない。
なお、上記平均膜厚は、下記のいずれかの手法によって算出された値とする。すなわち、測定対象の層を構成する材料と同一の材料を、測定対象の層の成膜条件と同じ条件で、層の厚さ(膜厚)に対して層表面の凹凸が無視することができる程度に十分な膜厚で成膜し、この成膜された層の膜厚を測定する。次に、この測定された膜厚及び成膜条件から、単位時間当たりに成膜される膜厚(成膜速度)を算出する。そして、この成膜速度を用いて、測定対象の成膜時間から測定対象の膜の膜厚を求め、これを平均膜厚とする。
また、磁気ディスク1の作製後には、以下の方法で平均膜厚を測定する。すなわち、まず、磁気ディスク1を基板2面に対して垂直方向に切断し、その切断面である各層の積層面を透過型電子顕微鏡(TEM)等で観測する。そして、磁気ディスク1にて、面内方向に1μmの範囲を設定し、該1μmの範囲内における、互いに異なる複数の任意の箇所にて、膜厚を測定したい層について、基板2面に垂直方向の距離を測定する。続いて、上記1μmの範囲内の複数の箇所で測定された上記垂直方向の距離について、平均値を算出し、この平均値を平均膜厚とする。
上記非磁性中間層9のうち、上記誘電体層4は、フェリ磁性裏打ち層3に接するように設けられ、上記非磁性中間層9の凹凸形状を誘発するための上記凹凸層5を形成するために設けられている。上記誘電体層4としては、誘電体からなる層であればよく、窒化物及び酸化物のうち少なくとも一方を用いればよい。一般的に、窒化物や酸化物上に形成される金属膜(非磁性金属膜)を構成する非磁性金属粒子は、拡散が生じ難いため、一様に形成されるのではなく、凹凸形状を有するように形成される。この性質を利用すれば、凹凸形状を有する非磁性中間層9を簡単に形成することができるため、本実施の形態では、窒化物及び酸化物のうち少なくとも一方にて誘電体層4を形成し、該誘電体層4上に、金属膜の凹凸層5を形成している。従って、非磁性中間層9のうち凹凸層5が、記録層6と接するように配置されることになる。
ここで、上記誘電体層4をなす窒化物としては、特に限定されないが、例えば、窒化シリコン(SiN)、窒化アルミニウム、窒化チタン等のうちから選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。また、上記誘電体層4をなす酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化銀、酸化白金等のうちから選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
また、上記誘電体層4は、上記した手法で測定される平均膜厚が2nm以下(つまり上限値が2nm)であり、1.5nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。また、上記平均膜厚の下限値は特に限定されないが、0.4nmであること、つまり、上記平均膜厚が0.4nm以上であることが好ましく、0.6nm以上であることがより好ましい。上記平均膜厚が2nmを超えると、磁気ディスク1の厚さが大きくなるため、好ましくない。一方、上記平均膜厚が0.4nm未満となると、上記フェリ磁性裏打ち層3上に誘電体層4を均質に成膜することが困難となる。そのため、不均質な誘電体層4上に凹凸層5が成膜されると、該凹凸層5と記録層6との界面の凹凸構造にばらつきが生じ、記録層6の特性を制御する上で好ましくない。
なお、フェリ磁性裏打ち層3表面を、プラズマエッチング等により窒化あるいは酸化した場合、窒化又は酸化されたフェリ磁性裏打ち層3表面を、上記誘電体層4として用いてもよい。
また、上記凹凸層5は、非磁性金属からなる層であればよく、例えば、アルミニウム、亜鉛等を用いればよい。このうち、アルミニウムは、後述する平均表面粗さRaが大きい。また、上記アルミニウムは、後述する記録層6をなす金属膜と化合物を形成することによって化学的に結合しやすく、凹凸形状を保持しやすい。そのため、高いピニング効果を期待することができる。それゆえ、上記凹凸層5は、アルミニウムを用いて形成することが好ましい。
また、上記凹凸層5は、上記した手法で測定される平均膜厚が3nm以下(つまり上限値が3nm)であり、2.5nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましい。また、上記平均膜厚の下限値は特に限定されないが、1nmであること、つまり、上記平均膜厚が1nm以上であることが好ましく、1.5nm以上であることがより好ましい。上記平均膜厚が3nmを超えると、磁気ディスク1の厚さが大きくなるため、好ましくない。一方、上記平均膜厚が1nm未満となると、凹凸層5と記録層6との界面における凹凸形状(凹凸構造)の平均表面粗さRaが小さくなり、上記記録層6中の磁壁の移動を妨げる磁壁束縛部位(ピニングサイト、ピニング)としての効果が生じ難くなって好ましくない。
本実施の形態において、上記凹凸層5の平均表面粗さRa、つまり、前記凹凸部の凹凸形状(高さ、高低差)は、フェリ磁性裏打ち層3の平均表面粗さRaよりも大きくなるように形成されている。具体的には、上記凹凸層5の平均表面粗さRaが1.5nm以下(つまり上限値が1.5nm)、好ましくは1.3nm以下、より好ましくは1.1nm以下となっている。また、上記凹凸層5の平均表面粗さRaの下限値は、フェリ磁性裏打ち層3の平均表面粗さRaよりも大きければ、特に限定されないが、0.6nmであること、つまり、上記平均表面粗さRaが0.6nm以上であることが好ましく、0.8nm以上であることがより好ましい。上記凹凸層5の平均表面粗さRaが、1.5nmを超えると、上記凹凸層5に形成された凸部の径が大きくなり、記録層6中に微小な凹凸形状を形成することが困難となる。その結果、磁気ディスク1中に、微小な記録ビットを形成することが困難になるので、十分な信号品質で高密度記録を行うためには、平均表面粗さRaを1.5nm以下とすることが好ましい。一方、平均表面粗さRaが、0.6nm未満となると、凹凸層5と記録層6との界面の凹凸構造の平均表面粗さRa(凹凸差)が小さいために、上記記録層6中の磁壁の移動を妨げる磁壁束縛部位(ピニングサイト、ピニング)としての効果が生じ難くなるので好ましくない。
ここで、平均表面粗さRaは、JIS B 0601−1982の定義に基づいており、微細な凹凸の振幅に関する中心線平均粗さを表している。なお、磁気ディスク1の作製後には、上記平均表面粗さRaは、以下の方法で測定すればよい。すなわち、磁気ディスク1を基板2面に対して垂直な方向に切断し、その切断面である各層の積層面を上記TEM等で観測する。そして、凹凸層5と記録層6との界面における凹凸形状を測定して、平均表面粗さを算出すればよい。
また、磁区と磁区との境界である前記磁壁の移動距離は、前記凹凸部における凹部又は凸部の径に依存する。
従って、上記凹凸層5表面、すなわち、凹凸層5と記録層6との界面における凹凸層5に形成された凸部の径、言い換えれば、上記非磁性中間層9における凹凸部のうち凸部の径は、50nm未満であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることがさらに好ましい。上記凸部の径の下限値は特に限定されないが、該径は、15nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。上記凸部の径が50nm以上になると、記録層6中に微小な凹凸形状を形成することが困難となって、記録層6における磁壁の移動距離を抑制することが困難となる傾向にあるため、好ましくない。
ここで、上記凸部とは、凹部の底部を基準とし、該底部から、磁気ディスク1の各層の積層方向に沿って高くなっている部分をいうものとする。また、上記凸部の径とは、上記非磁性中間層9、具体的には上記凹凸層5に形成された凸部の径の平均値をいうものとする。
なお、上記誘電体層4は、上記フェリ磁性裏打ち層3上に、上記のように膜状に形成されて層をなしていてもよく、あるいは、上記フェリ磁性裏打ち層3上に、誘電体層4をなす化合物が粒子となって点在するように配置されて層をなしていてもよい。すなわち、誘電体層4は、上記した窒化物や酸化物等の化合物が、フェリ磁性裏打ち層3上に、散らばって、島状に分布するように配置された層であってもよい。
また、上記凹凸層5は、膜状に形成されて凹凸形状を有するものであってもよく、あるいは、誘電体層4上に点在するように配置されて凹凸形状をなしていてもよい。すなわち、上記凹凸層5は、該凹凸層5に用いられる非磁性金属が粒子となって、誘電体層4上に散らばって、島状に分布するように配置されてなる層であってもよい。つまり、上記非磁性中間層9及び記録層6は、互いの界面(接触界面)に凹凸部を有してさえいればよく、上記非磁性中間層9及び記録層6における互いの接触界面全面に凹凸形状が設けられていることが好ましいものの、上記接触界面全面に凹凸形状が設けられている必要は必ずしもない。
なお、誘電体層4及び凹凸層5の少なくとも一方を島状に形成した場合、上記平均表面粗さRaの下限値は、凹凸層5の下方に配置される各層の平均表面粗さに依存することになる。そのため、凹凸層5の平均表面粗さRaの下限値を規定することは困難であるが、通常、基板2の平均表面粗さは0.48nm程度であり、HoFeCo合金を用いたフェリ磁性裏打ち層3の平均表面粗さは0.38nm程度であり、凹凸層5としてアルミニウムを用いた場合、アルミニウムの原子半径が1.43Å(0.143nm)であることから、上記凹凸層5の平均表面粗さRaの下限値は、0.6nm程度となる。
上記記録層6は、磁気ディスク1にて記録再生される信号が、磁気的に記録される、あるいは、磁気的に記録されている層である。上記記録層6は、磁気ディスク1の信号記録温度がキュリー温度となるように磁気特性が調整されている。そのため、上記信号記録温度になると保磁力が小さくなり、後述する記録再生装置の磁気ヘッドによる書き込み磁界によって、磁化情報が書き込まれるようになっている。一方、磁気ディスク1の信号再生温度では、上記記録層6の保磁力が大きくなっており、記録磁化を安定に保持することができるようになっている。また、上記信号再生温度では、記録層6に、磁化の向きとして記録された情報を再生するため、記録層6から大きな漏洩磁束が生じるように、磁気特性が調整されている。
上記記録層6の材料は、アモルファス媒体であり、かつ、熱安定性に優れた材料がよい。また、上記記録層6の材料としては、垂直磁気異方性が大きく、基板2面に対して垂直方向に磁化され、記録情報が安定に保持できるものがよい。具体的には、希土類金属元素と遷移金属元素とを含む合金である希土類金属元素−遷移金属元素合金、Pt(白金)と遷移金属元素とを含む合金である白金−遷移金属元素合金、磁気多層膜、グラニュラー磁気薄膜等を用いればよい。
上記希土類金属元素−遷移金属元素合金としては、例えば、Tb(テルビウム)及びDy(ジスプロシウム)等の希土類金属元素から選ばれる1種又は2種の元素と、Fe及びCo等の遷移金属元素から選ばれる1種又は2種の元素と、を含み、所望する磁気特性が得られるように、これらの元素の組成を調整した合金を挙げることができる。より具体的には、TbFeCo合金、DyFeCo合金、TbDyFeCo合金等を挙げることができる。
また、上記白金−遷移金属元素合金としては、例えば、Ptと、Mn、Fe、Co、Ni等の遷移金属元素から選ばれる1種又は2種以上の元素と、を含む合金を挙げることができる。さらに、上記磁気多層膜としては、Pt層及びCo層を含む多層膜、Pd層及びCo層を含む多層膜等を挙げることができる。また、上記グラニュラー磁気薄膜としては、CoCrやCoCrPt−SiO2を挙げることができる。
上記保護層7は、上記記録層6を保護するために設けられている。すなわち、上記保護層7は、後述する記録再生装置の磁気ヘッドが磁気ディスク1に接触した場合に、磁気ディスク1の記録層6が傷付いたり、削れたりすることを防止するために設けられている。上記保護層7としては、記録層6を保護することができる材質で形成されていれば特に限定されないが、例えば、炭素、窒化炭素等の炭素系材料;AlN、SiN等の透明誘電体薄膜等で形成すればよい。このうち、磁気ディスク1の再生に際して、極磁気カー効果を利用する場合には、上記透明誘電体薄膜を用いることが好ましい。
上記潤滑層8は、後述する記録再生装置の磁気ヘッドが磁気ディスク1に接触した場合の摩擦を低減するために設けられている。上記潤滑層8としては、周知の磁気ディスク等に用いられている材料を用いればよく、例えば、フッ素系潤滑剤を用いればよく、このうち、パーフルオロポリエーテル等のパーフルオロポリオキシアルカン系の潤滑剤を用いることが好ましい。なお、磁気ディスク1の再生に際して、極磁気カー効果を利用する場合には、上記潤滑層8は設けなくてもよい。
次に、上記構成の磁気ディスク1における信号の記録・再生方法について以下に説明する。なお、本実施の形態においては、上記磁気ディスク1における信号の再生に用いられる情報再生装置として、上記磁気ディスク1を局所的に加熱して該磁気ディスク1の温度を変化(すなわち昇温)させることにより該磁気ディスク1の磁気特性を変化させて情報、すなわち上記信号(情報信号)の記録又は再生を行う、いわゆる熱アシスト磁気記録再生技術を用いた情報記録再生装置(熱アシスト型情報記録再生装置)、特に、このような熱アシスト型情報記録再生装置の中でも昇温(加熱)手段として光(具体的にはレーザ光)を用いる光アシスト磁気記録再生技術を用いた情報記録再生装置(光アシスト型情報記録再生装置)を例に挙げて説明するものとするが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記情報再生装置として、例えば、本実施の形態にかかる磁気記録媒体、具体的には上記磁気ディスク1に記録された情報信号の再生のみを行う情報再生装置を用いてもよいことは言うまでもない。
図2に、上記磁気ディスク1の記録再生装置(情報再生装置、情報記録再生装置)10の正面図を示し、図3に、該記録再生装置10のブロック図を示す。
上記磁気ディスク1に信号を記録する、あるいは、磁気ディスク1に記録された信号を再生する場合には、例えば、図2及び図3に示す記録再生装置10を用いる。該記録再生装置10は、上記したように、上記磁気ディスク1を局所的に昇温させ、この昇温させた領域において磁気的に情報の記録及び/又は再生を行う光アシスト型情報記録再生装置であり、上記磁気ディスク1が着脱可能に装着され、該磁気ディスク1の記録再生を行うようになっている。上記記録再生装置10は、図2及び図3に示すように、ディスク駆動部(情報記録媒体駆動部)11、磁気ヘッド12と光照射部(温度差生成部)13とを含む記録再生ヘッド14、ヘッド駆動部15、信号処理部16、制御部17を備えている。
上記ディスク駆動部11は、図示しない駆動源からの駆動力により、磁気ディスク1を回転させる。上記記録再生ヘッド14は、図1に示す潤滑層8側から磁気ディスク1に接触した状態、又は、磁気ディスク1上を浮上した状態で、磁気ディスク1の回転に伴って磁気ディスク1を走査する。この走査時に、記録再生ヘッド14から磁界を発生させることにより、磁気ディスク1の記録層6に信号を記録する、あるいは、上記記録層6に記録された信号を再生することができる。
上記記録再生ヘッド14に備えられる磁気ヘッド12は、記録層6への信号の記録に用いられる書き込み磁界を発生させるとともに、記録層6からの漏洩磁界を検出する。一方、上記記録再生ヘッド14に備えられる光照射部13は、記録層6への信号の記録に際して、磁気ディスク1を局所的に加熱するためのレーザ光を照射する。
上記ヘッド駆動部15は、磁気ディスク1の面内方向に、記録再生ヘッド14を駆動する。上記信号処理部16は、磁気ディスク1の記録層6の磁化状態に応じて変化する磁気ヘッド12内での磁束の変化を、記録再生装置10にて再生可能な、アナログの再生信号に変換する処理を行う。
上記制御部17は、記録再生装置10の各部の動作を制御するものであり、ディスク駆動部11やヘッド駆動部15の駆動、磁気ディスク1の記録再生に伴う記録再生ヘッド14の動作制御、信号処理部16での信号処理等の動作を制御する。
ここで、上記制御部17は、記録再生ヘッド14の光照射部13によって行われる、磁気ディスク1の局所的な昇温の温度制御を行う。具体的には、上記したように、磁気ディスク1のフェリ磁性裏打ち層3は、補償温度が信号再生温度となっており、磁気ディスク1の面内方向に磁化を有する温度が信号記録温度となるように、磁気特性が調整されている。従って、上記制御部17は、磁気ディスク1の信号再生に際しては、フェリ磁性裏打ち層3が補償温度となり、また、磁気ディスク1への信号記録に際しては、フェリ磁性裏打ち層3が磁気ディスク1の面内方向に磁化を有する温度以上となるように、光照射部による磁気ディスク1の加熱を制御している。
また、上記制御部17は、磁気ディスク1のフェリ磁性裏打ち層3が補償温度となった状態で信号記録が行われるように、磁気ヘッド12の動作を制御する。さらに、上記制御部17は、磁気ディスク1のフェリ磁性裏打ち層3が磁気ディスク1の面内方向に磁化を有する温度となった状態で信号再生が行われるように、磁気ヘッド12の動作を制御する。
上記構成の記録再生装置10での記録再生動作は、該記録再生装置10に磁気ディスク1が装着された後、以下のように行われる。すなわち、磁気ディスク1への信号の記録に際しては、まず、記録再生ヘッド14の光照射部13から、磁気ディスク1にレーザ光を照射して、磁気ディスク1を局所的に所定の信号記録温度にまで加熱して、磁気ディスク1に熱分布(温度分布)を発生させる。該信号記録温度は、上記したように、記録層6の保磁力が小さくなるキュリー温度以上であり、かつ、磁気ディスク1のフェリ磁性裏打ち層3が、面内方向に磁化を有するようになる温度以上に設定されている。
従って、上記光照射部13からのレーザ光の照射によって、信号記録温度にまで加熱された領域では、記録層6の保磁力が弱められ、磁気ヘッド12から印加される書き込み磁界よりも小さい保磁力となる。また、上記フェリ磁性裏打ち層3は、信号記録温度にまで加熱された領域にて、磁気ディスク1の面内方向に磁化を有するようになる。
これにより、磁気ヘッド12とフェリ磁性裏打ち層3との間には、磁気閉回路が形成されることになる。一般に、磁気ヘッド12から記録層6に印加される書き込み磁界の強度は、記録層6にて、磁気ディスク1表面のうちの、磁気ヘッド12と対向する側(潤滑層8側)から、磁気ヘッド12と対向しない側(基板2側)に向けて、減衰する。そのため、上記のように、磁気閉回路を形成し、磁気ヘッド12からの書き込み磁界がフェリ磁性裏打ち層3へと誘導されるようにしている。
従って、上記光照射部13によるレーザ光の照射によって磁気ディスク1を局所的に加熱した領域に、磁気ヘッド12から書き込み磁界を印加することにより、磁気ヘッド12とフェリ磁性裏打ち層3との間に介在する記録層6に、書き込み磁界を集中させることができる。また、上記磁気閉回路の形成により、記録層6内での書き込み磁界の強度や勾配を向上することができる。これにより、信号の記録に際して、記録層6内で書き込み磁界の強度の減衰を防止して、記録層6への信号記録における記録分解能を向上することができる。
また、磁気ヘッド12から印加される書き込み磁界の強度を大きくすると、該書き込み磁界が、磁気ディスク1の面内方向にブロードになる傾向にある。書き込み磁界がブロードになると、記録層6に、小さなサイズの記録ビットを書き込むことが困難になる。しかしながら、上記のように、磁気ディスク1にフェリ磁性裏打ち層3を設けて、信号記録時に、磁気閉回路を形成することにより、ブロードになろうとする書き込み磁界を絞り込むことができる。これにより、書き込み磁界が印加される記録層6の磁界印加範囲を小さくすることができるので、記録層6に、微小な記録ビットを書き込むことができる。それゆえ、磁気ディスク1への高密度記録を実現することができる。
さらに、前記したように、非磁性中間層9の凹凸層5により、該凹凸層5と記録層6との界面は凹凸形状となっている。そのため、この凹凸形状によって、記録層6に形成される磁壁の移動が制限され、記録層6への微小な記録ビットを記録することができる。
一方、磁気ディスク1に記録された信号の再生に際しては、磁気ヘッド12によって、記録層6からの漏洩磁束を検出する。信号再生温度は、上記したように、例えば室温(約30℃)であり、記録層6の保磁力が大きくなり、かつ、フェリ磁性裏打ち層3の磁化がゼロとなる補償温度に設定されている。従って、上記信号再生温度では、記録層6の、磁区と磁区との境界である磁壁から漏洩磁束が発生する。これに対し、フェリ磁性裏打ち層3では、信号再生温度では磁化量がゼロであるため、該磁化量に依存する磁壁からの漏洩磁束は発生しない。
それゆえ、磁気ディスク1の再生時には、磁気ヘッド12によって、記録層6からの漏洩磁束が十分に検出される一方、フェリ磁性裏打ち層3からの漏洩磁束は検出されない。従って、信号再生時に、フェリ磁性裏打ち層3からの漏洩磁束に起因するスパイクノイズの発生を十分に抑制することができる。
また、凹凸層5と記録層6との界面が凹凸形状となっているので、記録層6に記録された信号を再生する場合、該記録層6に形成された磁壁の移動が制限される。これにより、磁気ディスク1の再生時に、良好な再生信号特性を得ることができる。
なお、磁気ディスク1の再生に際しては、極磁気カー効果を利用してもよい。上記極磁気カー効果を利用する場合、記録再生装置10の記録再生ヘッド14に、例えば、図示しない受光素子を設け、光照射部13から磁気ディスク1にレーザ光を照射し、磁気ディスク1からの反射光を上記受光素子にて検出する。そして、上記受光素子では、磁気ディスク1に照射したレーザ光(以下、入射光)と、反射光との偏光面のずれ(回転)を、レーザ光の光量の差に変換して、記録層6の磁化の向きを読み取ればよい。
以上のように、フェリ磁性裏打ち層3を備えた磁気ディスク1を用いることにより、信号記録に際しては、記録分解能を向上させることができ、信号再生に際しては、スパイクノイズの発生を低減することができる。
なお、上記記録再生装置10では、光照射部13からレーザ光を照射することによって、磁気ディスク1を加熱しているが、磁気ディスク1を局所的に加熱することができれば、レーザ光に限定されず種々の加熱手段を用いればよい。
また、上記記録再生ヘッド14は、磁気ヘッド12と光照射部13とが一体化してなっているが、磁気ヘッド12と光照射部13とが別々に設けられる構成であってもよい。磁気ヘッド12と光照射部13とが別々に設けられる場合には、磁気ヘッド12及び光照射部13のそれぞれにヘッド駆動部を設けてもよく、あるいは、一つのヘッド駆動部で、磁気ヘッド12及び光照射部13を駆動するようにしてもよい。
次に、上記構成を有する磁気ディスク1の製造方法について説明する。
まず、直径2.5インチのガラス製の基板2を、図示しないスパッタ成膜装置のチャンバーに設置し、該チャンバー内を所定の真空度になるまで排気する。ここで、上記基板2の表面のうち、各層が積層される側の表面を、逆スパッタリング法等によって、クリーニングしてもよい。その後、チャンバー内にて、上記基板2上に、マグネトロンスパッタリング法を用いて、フェリ磁性裏打ち層3を形成する。
上記フェリ磁性裏打ち層3を成膜後、反応性スパッタリング法を用いて、誘電体層4を形成し、該誘電体層4上に、マグネトロンスパッタリング法を用いて、凹凸形状を有する凹凸層5を形成する。続いて、凹凸層5上に、マグネトロンスパッタリング法を用いて、記録層6を成膜する。
上記のようにして、各層を形成した後、DCマグネトロンスパッタリング法を用いて、保護層7を形成し、該保護層7上に、ディップコータを用いて潤滑剤を塗布して、潤滑層8を形成する。なお、潤滑層8は、上記保護層7を形成して、テープバニッシュを行った後に、形成してもよい。以上の手順で、磁気ディスク1が製造される。
このように、上記の製造方法によって磁気ディスク1を製造することにより、複雑な製造工程を経ることなく、凹凸層5を形成することができる。従って、産業上の見地から製造の容易である、高密度記録が可能な磁気ディスクを提供することができる。
なお、本実施の形態では、上記したように、フェリ磁性裏打ち層3と記録層6との間に誘電体層4を設けることで、上記誘電体層4上に、上記凹凸層5を誘発する構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記フェリ磁性裏打ち層3上に、上記誘電体層4を介さずに、上記凹凸層5が直接形成されている構成としてもよい。
この場合、例えば、上記フェリ磁性裏打ち層3表面を、窒素雰囲気中で暴露、あるいは、窒素雰囲気中で逆スパッタリングすることにより、表面を窒化させ、この窒化されたフェリ磁性裏打ち層3界面上に、非磁性金属を積層することにより、上記フェリ磁性裏打ち層3と隣接する凹凸層5、つまり、表面に凹凸形状(凹凸部)を有する非磁性中間層9(窒化前のフェリ磁性裏打ち層3)を形成することができる。
また、本実施の形態では、磁気ディスク1の信号再生温度を室温(約30℃)に設定し、信号記録温度を150℃以上の温度に設定する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記信号再生温度及び信号記録温度は、任意に設定可能である。ただし、信号再生温度及び信号記録温度を変更した場合には、上記したように、磁気ディスク1の信号再生温度が、フェリ磁性裏打ち層3の補償温度になり、また、信号記録温度にて、磁気ディスク1の面内方向に磁化を有するように、フェリ磁性裏打ち層3の磁化特性を調整する。また、記録層6についても、信号再生温度にて大きな漏洩磁束を生じ、信号記録温度にて、磁気ヘッドからの書き込み磁界よりも小さい保磁力を有するように、磁化特性を調整する。
また、本実施の形態では、上記磁気ディスク1中、フェリ磁性裏打ち層3を、その磁気特性が均一となるように作製する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記磁気ディスク1は、該磁気ディスク1中の温度分布を考慮し、該温度分布に応じて上記磁気ディスク1の積層方向の磁気特性が変化するようにフェリ磁性体を複数層積層(多層化)してなる、積層型の裏打ち層(フェリ磁性裏打ち層3)が設けられている構成としてもよい。
さらに、本実施の形態においては、上記フェリ磁性裏打ち層3を、その磁気特性が、上記磁気ディスク1のディスク半径方向に対して均一となるように作製する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記フェリ磁性裏打ち層3の磁気特性を、上記磁気ディスク1の内周側(内周部)と外周側(外周部)とで変化させてもよい。
磁気ディスク1の内周側と外周側とでは、線速度が互いに異なる。このため、上記磁気ディスク1に例えばレーザ光を照射する場合、その照射時間が、磁気ディスク1の内周側と外周側とでは異なってくる。一般的に、情報記録媒体中の温度は、レーザ光が当該情報記録媒体に照射されている時間に依存する。つまり、上記磁気ディスク1の内周側と外周側とでレーザ光の照射時間が異なれば、上記磁気ディスク1の内周側と外周側とで、レーザ光によって昇温される温度が異なってくる。したがって、所望の磁気特性が得られるように、磁気ディスク1の内周側と外周側とで、記録/再生時の磁気特性を、記録/再生時における上記磁気ディスク1中の各部における温度、言い換えれば、上記磁気ディスク1の各部における線速度(内周側と外周側との線速度の違い)に応じて変化させることがより望ましい。
本実施の形態において、上記磁気ディスク1(情報記録媒体)は、上記記録再生装置10内部に固定(内蔵)され、情報記録部として使用されるいわゆるハードディスク(固定ディスク)と称される情報記録媒体であってもよく、上記記録再生装置10とは別体に設けられ、上記記録再生装置10に着脱自在に設けられた外部記憶装置であってもよく、上記記録再生装置10は、上記磁気ディスク1の記録及び/又は再生が可能な構成を有していればよい。
なお、本発明において、上記磁気ディスク1(情報記録媒体)および上記記録再生装置10としては、上記磁気ディスク1(情報記録媒体)を上記記録再生装置10から出し入れすることができるものであっても出し入れすることができないものであっても、本発明に関わる主要な構成は同じである。例えば、前記図2および図3は、上記磁気ディスク1が、上記記録再生装置10とは別体として設けられている場合のみならず、光アシスト方式のハードディスク装置、つまり、いわゆるハードディスク装置(ハードディスク)に光アシスト用のレーザ光を照射する光照射部13を搭載した装置にも同様に適用することができる。
また、本実施の形態では、上記磁気ディスク1を局所的に加熱して該磁気ディスク1の温度を変化させることにより該磁気ディスク1の磁気特性を変化させて情報信号の記録及び/又は再生を行う場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記磁気ディスク1の温度を局所的に変化させる方法として、上記磁気ディスク1を局所的に冷却する方法を用いてもよい。この場合、例えば、上記磁気ディスク1の温度を局所的に変化させる温度差生成部として、例えば上記記録再生装置10内部に冷却装置を設け、上記磁気ディスク1を冷却することにより上記フェリ磁性裏打ち層3に磁化を発現させる構成を有していてもよい。すなわち、上記記録再生装置10は、例えば、上記光照射部13に代えて、あるいは、上記光照射部13とは別に、上記磁気ディスク1を局所的に冷却する冷却装置を備えていてもよい。
すなわち、本発明に係る情報再生装置は、例えば、本発明に係る上記情報記録媒体を備え、該情報記録媒体を局所的に加熱または冷却して該情報記録媒体の温度を変化させることにより該情報記録媒体の磁気特性を変化させて情報信号の再生を行う情報再生装置であって、さらに、上記情報記録媒体を局所的に加熱または冷却することにより上記情報記録媒体の温度を局所的に変化させる温度差生成部と、上記情報記録媒体の記録層に対し、情報信号の再生を磁気的に行う磁気ヘッドと、上記情報記録媒体の裏打ち層が補償温度となるように上記温度差生成部を制御し、上記裏打ち層が補償温度に達した状態で、上記記録層に記録された情報信号を再生するように磁気ヘッドを制御する制御部とを備えている構成を有していてもよく、その一例として、上記情報再生装置は、上記温度差生成部として、例えば、上記情報記録媒体を局所的に加熱するための光照射を行う光照射部を備え、上記情報記録媒体を局所的に加熱して該情報記録媒体の温度を変化させることにより該情報記録媒体の磁気特性を変化させて情報信号の再生を行う情報再生装置であってもよく、上記制御部は、上記情報記録媒体の裏打ち層が有する補償温度まで、該情報記録媒体を加熱するように上記光照射部を制御し、上記裏打ち層が補償温度に達した状態で、上記記録層に記録された情報信号を再生するように磁気ヘッドを制御する構成を有していてもよい。
上記情報再生装置によれば、上記情報記録媒体の情報信号の再生に際して、ノイズを低減もしくは無くし、再生される情報信号の品質を向上させて、良好な信号再生特性を得ることができる情報再生装置を提供することができる。
また、本発明に係る情報記録再生装置は、例えば、本発明に係る上記情報記録媒体を備え、該情報記録媒体を局所的に加熱または冷却して該情報記録媒体の温度を変化させることにより該情報記録媒体の磁気特性を変化させて情報信号の記録再生を行う情報記録再生装置であって、さらに、上記情報記録媒体を局所的に加熱または冷却することにより上記情報記録媒体の温度を局所的に変化させる温度差生成部と、上記情報記録媒体の記録層に対し、情報信号の記録又は再生を磁気的に行う磁気ヘッドと、上記情報記録媒体の裏打ち層が補償温度となるように上記温度差生成部を制御し、かつ、上記裏打ち層が補償温度に達した状態で、上記記録層に記録された情報信号を再生し、上記裏打ち層が情報記録媒体の積層方向に対して垂直な方向の磁化を有する温度に達した状態で、上記記録層に情報信号を書き込むように、上記磁気ヘッドを制御する制御部とを備えていてもよく、その一例として、上記情報記録再生装置は、上記温度差生成部として、例えば、上記情報記録媒体を局所的に加熱するための光照射を行う光照射部を備え、上記情報記録媒体を局所的に加熱して該情報記録媒体の温度を変化させることにより該情報記録媒体の磁気特性を変化させて情報信号の記録再生を行う情報記録再生装置であってもよく、上記制御部は、上記情報記録媒体の裏打ち層が有する補償温度まで、該情報記録媒体を加熱するように上記光照射部を制御し、かつ、上記裏打ち層が補償温度に達した状態で、上記記録層に記録された情報信号を再生し、上記裏打ち層が情報記録媒体の積層方向に対して垂直な方向の磁化を有する温度に達した状態で、上記記録層に情報信号を書き込むように、上記磁気ヘッドを制御する構成を有していてもよい。
上記情報記録再生装置によれば、情報記録媒体の信号再生時には、スパイクノイズを発生することなく、良好な信号特性(信号再生特性)を得ることができ、情報記録媒体の信号記録時には、磁気ヘッドからの磁界を効率よく記録層に印加することができる。
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕
図1に示す基板2として、ガラス製基板を用い、図示しないスパッタ成膜装置のチャンバーに設置して、該チャンバー内を3×10−5Pa未満の真空度になるまで脱気した。続いて、マグネトロンスパッタリング法を用いて、Ho、Fe、Coの3つのターゲットを、co−スパッタリングにより、平均膜厚が50nmになるように、HoFeCo合金薄膜を成膜し、フェリ磁性裏打ち層3とした。このときのスパッタリングの条件は、ガス圧を0.2Paとし、投入電力を直流電圧(DC)で、Hoを383W、Feを200W、Coを632Wとし、スパッタリングのガスとしてAr(アルゴン)ガスを用いた。上記フェリ磁性裏打ち層3の組成を、蛍光X線分析装置(XRF)を用いて測定した結果、各元素の組成比は、元素組成(at%)で、Hoが23.4at%、Feが17.3%、Coが59.4at%であった。
上記フェリ磁性裏打ち層3を成膜後、反応性スパッタリング法を用いて、平均膜厚が2nmとなるように、SiN膜を成膜し、誘電体層4とした。このときのスパッタリングの条件は、ガス圧を0.7Paとし、投入電力を高周波電圧(RF)で、1kWとし、スパッタリングのガスとしてArガス及びN2(窒素)ガスを用いた。次いで、上記誘電体層4上に、マグネトロンスパッタリング法を用いて、平均膜厚が3nmとなるように、Al膜を成膜し、凹凸層5とした。
ここで、凹凸層5の表面を観察するために、チャンバー内より、基板2上に、フェリ磁性裏打ち層3、誘電体層4、凹凸層5が形成された試料を取り出した。取り出した試料について、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、凹凸層5表面の形状を観察した。その結果を図4に示す。また、JIS B 0601−1982に従って測定した平均表面粗さRaは、1.0nmであった。図4に示す結果、及び、平均表面粗さRaの値から、凹凸層5の表面は、粗く(表面粗さが大きく)なっていることがわかる。
一方、凹凸層5の表面を観察するために作製した上記試料とは別に、次の手法で、磁気ディスク1を作製した。すなわち、上記スパッタ成膜装置チャンバー内で、上記した手順で、基板2上に、フェリ磁性裏打ち層3、誘電体層4、凹凸層5を形成した後、マグネトロンスパッタリング法を用いて、Tb、Fe、Coの3つのターゲットを、co−スパッタリングにより、平均膜厚が50nmになるように、TbFeCo合金薄膜を成膜し、記録層6とした。このときのスパッタリングの条件は、ガス圧を0.2Paとし、投入電力を直流電圧(DC)で、Tbを72W、Feを200W、Coを39Wとし、スパッタリングのガスとしてArガスを用いた。上記記録層6の組成を、XRFを用いて測定した結果、各元素の組成比は、元素組成(at%)で、Tbが17.0at%、Feが68.9%、Coが14.1at%であった。
上記記録層6を成膜した後、DCマグネトロンスパッタリング法を用いて、平均膜厚が10nmとなるように、非晶質炭素(a−C)膜を成膜し、保護層7とした。このときのスパッタリングの条件は、ガス圧を1.0Paとし、投入電力を直流電圧(DC)で、300Wとし、スパッタリングのガスとしてArガスを用いた。
さらに、該保護層7上に、ディップコータを用いて、パーフルオロポリオキシアルカン系の潤滑剤を塗布し、膜厚が0.8nmの液体状の潤滑層8を形成して、磁気ディスク1を得た。
得られた磁気ディスク1について、試料振動型磁化測定装置(VSM)を用いて、記録層6の残留磁化Mrの温度依存性を測定した。その結果を図5に示す。図5中、縦軸は記録層6の単位体積当たりの残留磁化Mr(emu/cc(emu/cm3))であり、横軸は温度(℃)である。図5に示すように、室温(30℃)〜150℃未満の温度範囲では、記録層6の残留磁化が十分に大きく、保磁力が大きいことがわかる。一方、温度が150℃を超え、200℃以上になると、急激に残留磁化が小さくなり、240℃付近の温度で、記録層6の保磁力が小さくなることがわかる。
従って、本実施例で得られた磁気ディスク1を用いれば、室温付近の温度で、記録層6の信号の再生を良好に行うことができ、240℃近傍の温度で、記録層6への信号の記録を良好に行うことができることがわかる。
また、上記の手順で製造された磁気ディスク1を、該磁気ディスク1の面内方向に1cm×1cmとなるように切り出し、この切り出された試料(以下、切出し試料)について、VSMを用いて磁化測定を行った。その結果を図6及び図7に示す。図6及び図7中、縦軸はVSMによって検出されたトータル磁化量M(emu)であり、横軸は外部から印加した外部磁場Hex(Oe)である。なお、図6は、上記切出し試料の垂直方向である磁気ディスク1の各層の積層方向の磁化量を、室温(30℃)で測定した結果であり、図7は、上記切出し試料の水平方向である磁気ディスク1の面内方向の磁化量を、240℃で測定した結果である。
上記したように、室温では記録層6の残留磁化が大きく(図5)、また、図6に示す結果から、室温では、垂直方向のトータル磁化量Mとして、外部磁場Hexに対して、上記切出し試料の記録層6の磁化量及び保磁力に応じた磁化曲線(履歴曲線)が得られることがわかる。言い換えれば、図6に示されるように、フェリ磁性裏打ち層3からの磁化は検出されておらず、フェリ磁性裏打ち層3の磁化量がゼロであることがわかる。従って、図5及び図6に示す結果から、室温では、記録層6は磁化量及び保磁力が大きく、フェリ磁性裏打ち層3は磁化量がゼロであるので、室温で磁気ディスク1の信号再生を行うことにより、優れた再生感度が得られることがわかる。
一方、240℃では、記録層6はほぼキュリー温度に達し、磁化量はゼロであるため、図7に示す磁化曲線(履歴曲線)は、フェリ磁性裏打ち層3の磁化量及び保磁力に応じて得られる水平方向のトータル磁化量Mであることがわかる。また、図7に示すように、磁化曲線は、軟磁性材料を用いた場合の磁気特性に類似する傾向が見られる。そのため、フェリ磁性裏打ち層3を用いた場合にも、磁気ヘッド12(図2)とフェリ磁性裏打ち層3との間に磁気閉回路が形成されて、記録層6中に書き込み磁界を集中させることができることがわかる。
〔比較例1〕
上記実施例1と同様の手順で、基板2上に、フェリ磁性裏打ち層3を成膜した後、チャンバー内から、基板2上にフェリ磁性裏打ち層3が形成された比較用試料を取り出した。取り出した資料について、AFMを用いて、フェリ磁性裏打ち層3の表面形状を観察した。その結果を図8に示す。また、JIS B 0601−1982に従って測定した平均表面粗さRaは、0.38nmであった。図8に示す結果、平均表面粗さRaの値、及び、実施例1にて観察した凹凸層5の観察結果との比較から、フェリ磁性裏打ち層3の表面は、平坦である(表面粗さが小さい)ことがわかる。
従って、上記実施例1および本比較例1の結果から、フェリ磁性裏打ち層3上に、誘電体層4及び凹凸層5を順に積層することにより、フェリ磁性裏打ち層3よりも表面粗さの大きい凹凸層5を形成することができることがわかる。
〔比較例2〕
上記実施例1と同様の手順で、基板2上に、フェリ磁性裏打ち層3を成膜した後、誘電体層4を形成せずに、上記実施例1と同様にして、平均膜厚5nmのAl膜を成膜した。すなわち、本比較例2では、マグネトロンスパッタリング法を用いて、上記フェリ磁性裏打ち層3上に、直接、平均膜厚が5nmとなるように、Al膜を成膜した。
次いで、上記Al膜の表面を観察するために、チャンバー内より、基板2上に、フェリ磁性裏打ち層3(50nm)及びAl膜(5nm)が形成された比較用試料を取り出した。取り出した試料について、AFMを用いて、上記Al膜表面の形状を観察した。その結果を図9に示す。また、JIS B 0601−1982に従って測定した平均表面粗さRaは、0.43nmであった。図9に示す結果、平均表面粗さRaの値、及び、実施例1にて観察した凹凸層5の観察結果との比較から、フェリ磁性裏打ち層3上に、誘電体層4を介さずに直接Al膜を成膜した場合、得られるAl膜の表面は、フェリ磁性裏打ち層3上に、誘電体層4を設けた場合と比較して平坦(表面粗さが小さい)であり、また、0.6nmよりも小さいことがわかる。
また、上記Al膜の表面を観察するために作製した上記試料とは別に、上記したように誘電体層4を形成せずに、実施例1と同様にして、比較用の磁気ディスク1を作製した。すなわち、スパッタ成膜装置チャンバー内で、上記した手順で、基板2上に、フェリ磁性裏打ち層3、Al膜を、この順に形成した後、該Al膜に、実施例1と同様にして記録層6、保護層7、潤滑層8を形成することにより、比較用の磁気ディスク1を得た。
図10に、実施例1で得られた磁気ディスク1(サンプルA)、並びに、本比較例2で得られた比較用の磁気ディスク1、つまり、実施例1で示した磁気ディスク1において、非磁性中間層9として、誘電体層4(平均膜厚2nm)および凹凸層5(平均膜厚3nm)に代えて、Al層(5nm)を用いた媒体(サンプルB)における、各記録層6の保磁力Hcの温度依存性を測定した結果を示す。
図10中、縦軸は、サンプルA・Bにおける各記録層6の保磁力Hc(Oe)であり、横軸は温度(℃)である。なお、サンプルA・Bにおける各記録層6の保磁力Hcは、試料振動型磁化測定装置(VSM)を用いて測定した。
図10において、サンプルAは、サンプルBに比べて、各温度での保磁力Hcが倍以上大きくなっていることがわかる。保磁力Hcは、記録層6の磁化方向を反転させるために必要な、外部から印加する磁界の大きさであり、この値が大きいほど、記録層6に記録された微小な磁化情報を安定に保持することができる。よって、サンプルAは、サンプルBに比べて記録層6に記録された微小な磁化情報を安定に保持することができることがわかる。
上記2つのサンプルA・Bで保磁力Hcが異なる原因としては、非磁性中間層9表面の表面粗さRaの違いが挙げられる。サンプルAは、サンプルBに比べ、上記非磁性中間層9表面の表面粗さRaが大きく、記録層6中にピニングの効果を生じ易い。記録層6中にピニングサイトが形成されると、前記したように、磁壁の移動が抑制される。また、記録層6中の磁化反転は、磁化が磁壁中を移動しながら回転することで生じる。従って、磁壁の移動が抑制されていると、磁化が反転し難く、磁化反転するためには、より大きな磁界を外部から印加する必要がある。上記測定結果から、非磁性中間層9表面の表面粗さは、記録層6中の保磁力Hcに影響を与えることがわかる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。