本発明が解決しようとする課題は、吸気バルブのバルブ特性を変更する際に、実際の空燃比が目標とする空燃比からずれることにある。そして、本発明の目的は、吸気バルブのバルブ特性を変更するに際しての実際の空燃比と目標とする空燃比とのずれを抑制することにある。
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
手段1では、前記吸気バルブの全閉タイミングについての下死点に対する遅角量が、前記バルブ特性可変機構による前記バルブ特性の変更により変化するとき、前記下死点に達してから前記吸気バルブが全閉するまでの間の混合気の吹き戻し量の変動による空燃比の変動を見越して燃料噴射量を補正する。
吸気バルブの全閉タイミングが下死点よりも遅角側となると、下死点となってから吸気バルブが全閉するまでの間に混合気が燃焼室から吸気通路に吹き戻される。このため、全閉タイミングについての遅角量が変化すると、吹き戻し量も変化する。一方、燃焼室内に充填されている混合気の空燃比は、必ずしも均質とはならないために、吹き戻された混合気の空燃比と、吹き戻されずに燃焼室に充填されている混合気の空燃比とのは、必ずしも一致しない。このため、吹き戻し量が変化すると、実際の空燃比が変化する。
この点、上記構成では、こうした空燃比の変動を見越して燃料噴射量が補正されるために、吸気バルブのバルブ特性を変更するに際しての実際の空燃比と目標とする空燃比とのずれを抑制することができ、ひいては、バルブ特性の変更時のトルクショックや燃費の悪化を抑制することができる。
なお、「吸気バルブの全閉タイミングについての下死点に対する遅角量」は、吸気バルブの全閉タイミングが下死点よりも遅角側にあるときの量を指し、吸気バルブの全閉タイミングが下死点と一致するか下死点よりも進角側にあるときには「0」とする。
また、「吹き戻し」は、燃焼室内の混合気が吸気通路に逆流することを意味するものとする。このため、例えば当該機関が筒内噴射式ガソリンエンジン等である場合に、燃焼室に吸入される空気と筒内に直接噴射される燃料との混合気が吸気通路に逆流する場合も、吹き戻しに該当する。
更に、「燃料噴射量」は、当該機関の負荷に基づき、実際の空燃比を目標とする空燃比とするために必要な噴射量として算出されるものとしてもよい。
手段2では、手段1において、前記燃料噴射量の補正を、前記遅角量が増加するときに前記燃料噴射量を増量することで行う。
吸気バルブの全閉タイミングについての下死点に対する遅角量が増加すると、下死点となってから吸気バルブが全閉するまでの間に吹き戻される混合気の量が増加する。このため、燃焼室にて燃焼に供される混合気はリーンとなる。
この点、上記構成によれば、遅角量が増加するときに燃料噴射量を増量することで、遅角量の増加に伴う空燃比の変動を抑制することができる。
手段3では、手段1又は2において、前記燃料噴射量の補正を、前記遅角量が減少するときに前記燃料噴射量を減量することで行う。
吸気バルブの全閉タイミングについての下死点に対する遅角量が減少すると、下死点となってから吸気バルブが全閉するまでの間に吹き戻される混合気の量が減少する。このため、燃焼室にて燃焼に供される混合気はリッチとなる。
この点、上記構成によれば、遅角量が減少するときに燃料噴射量を減少することで、遅角量の減少に伴う空燃比の変動を抑制することができる。
手段4では、前記吸気バルブの全閉タイミングについての下死点に対する遅角量が、前記バルブ特性可変機構による前記バルブ特性の変更により増加するとき、燃料噴射量を増量補正する。
吸気バルブの全閉タイミングが下死点よりも遅角側となると、下死点となってから吸気バルブが全閉するまでの間に混合気が燃焼室から吸気通路に吹き戻される。このため、全閉タイミングについての遅角量が変化すると、吹き戻し量も変化する。この吹き戻された混合気は、吹き戻されずに燃焼室に充填されているものよりもリッチとなる傾向にある。このため、吹き戻し量が増加すると、実際の空燃比がリーンとなる。
この点、上記構成では、遅角量が増加するときに燃料噴射量を増量制御することで、吸気バルブのバルブ特性を変更するに際しての実際の空燃比と目標とする空燃比とのずれを抑制することができ、ひいては、バルブ特性の変更時のトルクショックや燃費の悪化を抑制することができる。
なお、「吸気バルブの全閉タイミングについての下死点に対する遅角量」は、吸気バルブの全閉タイミングが下死点よりも遅角側にあるときの量を指し、吸気バルブの全閉タイミングが下死点と一致するか下死点よりも進角側にあるときには「0」とする。
また、「吹き戻し」は、燃焼室内の混合気が吸気通路に逆流することを意味するものとする。このため、例えば当該機関が筒内噴射式ガソリンエンジン等である場合に、燃焼室に吸入される空気と筒内に直接噴射される燃料との混合気が吸気通路に逆流する場合も、吹き戻しに該当する。
更に、「燃料噴射量」は、当該機関の負荷に基づき、実際の空燃比を目標とする空燃比とするために必要な噴射量として算出されるものとしてもよい。
手段5では、手段1〜4のいずれかにおいて、前記燃料噴射量を補正する際の補正量を、前記バルブ特性の変更後に徐々に減少させる制御を行う。
上述したように、吸気バルブのバルブ特性が変更されることに起因して吹き戻し量が変化すると、実際の空燃比も変化する。このときの実際の空燃比の目標とする空燃比からのずれは、吸気バルブのバルブ特性の変更による吸気通路内の吸気の流動状態の変動等があいまってしばらくの間継続する。そして、実際の空燃比の目標とする空燃比からのずれは、吸気バルブのバルブ特性の変更後、徐々に収まっていく。
この点、上記構成では、バルブ特性の変更後に上記補正量を徐々に減少させる制御を行うことで、実際の空燃比と目標とする空燃比とのずれを好適に抑制することができる。
なお、手段5は、手段6によるように、前記燃料噴射量の減少制御は、減少速度が初めよりも後の方が小さくなる態様にて行われるようにしてもよい。
これにより、実際の空燃比と目標とする空燃比とのずれをより好適に抑制することができる。
手段7では、手段5又は6において、前記燃料噴射量を補正する際の補正量を、前記バルブ特性の変更後、減少させるに先立ち所定期間保持する。
吸気バルブのバルブ特性が変更されることに起因した実際の空燃比の目標とする空燃比からのずれは、吸気バルブのバルブ特性の変更による吸気通路内の吸気の流動状態の変動等があいまって、変更から所定期間にわたって特に大きなものとなっている。
この点、上記構成では、バルブ特性の変更後に上記補正量を徐々に減少させる制御に先立って、所定期間減少させずに保持するために、実際の空燃比と目標とする空燃比とのずれをいっそう好適に抑制することができる。
手段8では、手段1〜7のいずれかにおいて、前記燃料噴射量を補正する際の補正量を、当該機関の回転速度に応じて設定する。
吸気バルブの全閉タイミングについての下死点に対する遅角量の変化に起因した吹き戻し量の変化量は、回転速度に依存する。これは、回転速度に応じて吸気圧脈動が変化すること等を理由とする。
この点、上記構成では、補正量を回転速度に応じて設定することで、吹き戻し量に見合った適切な補正を行うことができる。
手段9では、手段1〜8のいずれかにおいて、前記バルブ特性可変機構は、プロフィールの異なる複数種のカムを備えて該複数種のカムのいずれかを選択的に用いることで前記吸気バルブのバルブリフト量を可変とする可変リフト機構を備える。
上記構成では、上記複数種のカムのいずれを用いるかを切り替えるときには、バルブ特性が非連続的に変化する。これにより、吸気バルブの全閉タイミングについての下死点に対する遅角量が非連続的に変化するため、吹き戻し量の変化が顕著となる。
このため、上記構成は、手段1〜8の構成の作用効果を好適に奏することができる構成となっている。
手段10では、手段9において、前記バルブ特性可変機構は、カムシャフトと機関出力軸との相対回転位相の変更に基づいて前記吸気バルブのバルブタイミングを可変とする可変バルブタイミング機構を更に備え、前記複数種のカムの切り替えに伴い前記燃料噴射量を補正する際の補正量を、前記可変バルブタイミング機構によって設定されるバルブタイミングに基づいて設定する。
可変バルブタイミング機構を備える場合、バルブタイミングの制御量によっても、吸気バルブの全閉タイミングについての下死点に対する遅角量が変化する。
この点、上記構成では、複数種のカムの切り替えに伴い燃料噴射量を補正する際の補正量を、可変バルブタイミング機構によって制御されるバルブタイミングに基づいて設定するために、複数種のカムの切り替えに伴う遅角量の変化を正確に把握して適切な補正を行うことができる。
なお、手段1〜10のいずれかにおいては、手段11によるように、前記バルブ特性の変更を、前記変更前のバルブ特性による当該機関の定常的な出力トルクと、前記変更後のバルブ特性による当該機関の定常的な出力トルクとが等しくなる運転条件で行うようにしてもよい。
以下、本発明にかかる内燃機関の制御装置の一実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施形態の制御装置及びその制御対象の構成を示す。
図示されるように、内燃機関2の吸気通路4の上流には、スロットルバルブ6が備えられている。そして、その下流には、サージタンク8が設けられており、このサージタンク8には、吸気通路4の圧力(吸気圧)を検出する吸気圧センサ10が設けられている。更に、吸気通路4のうちサージタンク8の下流(吸気ポート近傍)には、吸気ポートに燃料を噴射供給する燃料噴射弁12が設けられている。
燃料噴射弁12によって噴射供給される燃料と空気との混合気は、吸気バルブ14の開弁によって、シリンダ20及びピストン22等によって区画形成される燃焼室24に吸い込まれる。一方、燃焼室24にて燃焼に供された燃料は、排気バルブ30の開弁によって排気通路32に排出される。排気通路32の下流には、排気を浄化する触媒を内蔵した触媒コンバータ34が設けられており、触媒コンバータ34の上流側には、排気を検出対象として混合気の空燃比を検出する空燃比センサ36が設けられている。
燃焼室24にて混合気が燃焼に供されると、シリンダ20の軸方向にピストン22が変位し、機関出力軸としてのクランク軸26に回転力が付与される。このクランク軸26の近傍には、クランク軸26の回転角度を検出するためのクランク角センサ28が設けられている。
吸気バルブ14や排気バルブ30は、クランク軸26が2回転することで1回転するカムシャフト(図示略)の動きに連動して動作する。ただし、吸気バルブ14には、そのバルブタイミング及びバルブリフト量を可変とするバルブ特性可変機構50が備えられている。
ここで、バルブ特性可変機構50の構成を図2を用いて説明する。
図2に示すように、吸気側のカムシャフト51には、カムプロフィールが各々異なる低リフト用カム52と高リフト用カム53とが一体的に設けられている。低リフト用カム52は、吸気バルブ14のバルブリフト量が比較的小さくなるカムプロフィールとなっている。高リフト用カム53は、低リフト用カム52に比べ、吸気バルブ14のバルブリフト量がより大きくなるカムプロフィールとなっている。カムシャフト51の下方には、当該カムシャフト51に平行に延びるロッカシャフト54が設けられ、ロッカシャフト54を支軸としてロッカアーム55が揺動可能に設けられている。ロッカアーム55の揺動端には吸気バルブ14の上端部が当接しており、ロッカアーム55の揺動に伴い吸気バルブ14が図の上下方向にリフト動作する。
ここで、ロッカアーム55は、低リフト用カム52に摺接して設けられる低リフト用のロッカアームと、これに隣接され、高リフト用カム53に摺接して設けられる高リフト用のロッカアームとからなり(但し図示は省略)、これら両ロッカアームのうち何れか一方の動きに連動して吸気バルブ14がリフト動作する。すなわち、低リフト用カム52による低リフト用ロッカアームの揺動に連動して吸気バルブ14がリフト動作することで、比較的小さなバルブリフトが実現される。これに対し、高リフト用カム53による高リフト用ロッカアームの揺動に連動して吸気バルブ14がリフト動作することで、比較的大きなバルブリフトが実現される。
また、ロッカアーム55には油圧駆動式のカム切替機構56が設けられており、このカム切替機構56によって、低リフト用ロッカアームの揺動により吸気バルブ14がリフト動作する低リフト状態と、高リフト用ロッカアームの揺動により吸気バルブ14がリフト動作する高リフト状態とが切り替えられるようになっている。かかる場合、低リフト状態では、図3に点線で示すように、吸気バルブ14はリフト量が小さく且つ開弁期間が短くなるような態様でリフト動作する。また、高リフト状態では、図3に実線で示すように、吸気バルブ14はリフト量が大きく且つ開弁期間が長くなるような態様でリフト動作する。
すなわち、バルブ特性可変機構50は、吸気バルブ14のバルブリフト量を可変とする可変リフト機構を備えている。
更に、バルブ特性可変機構50は、カムシャフト51とクランク軸26との相対回転位相の変更に基づいて吸気バルブ14のバルブタイミングを可変とする可変バルブタイミング機構57を更に備えている。この可変バルブタイミング機構57は、例えば油圧駆動式のアクチュエータを備え、このアクチュエータにより上記相対回転位相を連続的に変更するものである。このため、図4に示すように、吸気バルブ14の開弁タイミング(ここでは、高リフト用カム53の使用時を例示)は、実線で示すものから点線にて示すものまでの間で連続的に変化する。
なお、クランク軸26とカムシャフト51との相対回転位相を検出すべく、本実施形態では、クランク角センサ28に加えて、カムシャフト51の回転角度を検出するカム角センサ38を備えている。
上述した各種センサの出力は、内燃機関2の出力特性を制御する電子制御装置40に入力される。電子制御装置40は、中央処理装置やメモリ等を有するマイクロコンピュータを備えて構成され、各種センサの出力に基づいて内燃機関2の出力特性を制御する。すなわち、例えば可変バルブタイミング機構57を操作することで、吸気バルブ14の開弁タイミングを調整し、これにより内燃機関2の出力特性を制御する。
また、電子制御装置40は、バルブ特性可変機構50の可変リフト機構の制御モードを、低リフト用カム52によるバルブ特性を実現する低リフトモードと、高リフト用カム53によるバルブ特性を実現する高リフトモードとで切り替える。具体的には、図5に示す関係の制御モード切替マップを用い、内燃機関2の運転状態に基づいてバルブ特性可変機構50の制御モードを低リフトモードと高リフトモードとの間で切り替える構成としている。図5の制御モード切替マップは、バルブ特性可変機構50を低リフトモードで定常的に制御した状態での内燃機関2の出力トルクと、同バルブ特性可変機構50を高リフトモードで定常的に制御した状態での出力トルクとが同一になる回転速度を、制御モードを切り替える切替回転速度として負荷毎に設定したものであり、この負荷毎の切替回転速度を結ぶ線が切替特性線となっている。図5のマップデータは、予め実験データ、設計データ等に基づいて作成され、電子制御装置40のメモリに記憶されている。
更に、電子制御装置40は、空燃比センサ36により検出される実際の空燃比が目標とする空燃比(例えば理論空燃比)に追従するように燃料噴射弁12の操作を通じて燃料噴射量をフィードバック制御(空燃比フィードバック制御)する。
ただし、こうした空燃比フィードバック制御を行っているとはいえ、バルブ特性可変機構50による吸気バルブ14のバルブ特性が変更されるときには、空燃比が目標とする空燃比からずれるおそれがある。特に可変リフト機構により低リフトモードと高リフトモードとの間で切り替えがなされるときには、吸気バルブ14のバルブ特性が非連続的に変化するために、空燃比が目標とする空燃比から大きく変化するおそれがある。以下、これについて図6に基づいて説明する。
図6(a)〜図6(c)は、低リフトモードから高リフトモードへ切り替えられる際の吸気バルブ14のバルブ特性、及び混合気の流出入態様を示す。なお、図6(a)〜図6(c)においては、可変バルブタイミング機構57は、固定されていることを想定している。
図6(a)に示すように、低リフトモード時において、ピストン22が下死点(BDC)となるときには、吸気バルブ14は全閉となっている。換言すれば、上記燃焼室24と上記吸気通路4とが吸気バルブ14により遮断されている。ただし、このとき燃焼室24に充填されている混合気は、燃料と空気との混合状態が均質となっているとは限らず、吸気バルブ14の近傍の空燃比がそれ以外の混合気よりもリッチとなる傾向にある。換言すれば、吸気バルブ14の近傍の混合気の空燃比は、目標とする空燃比よりもリッチとなり、それ以外の混合気の空燃比は、目標とする空燃比よりもリーンとなる傾向にある。そして、燃焼室24内の混合気の平均の空燃比が、空燃比フィードバック制御によって目標とする空燃比に制御されている。
こうした状態で、図6(b)に示すように、低リフトモードから高リフトモードに切り替えられると、吸気バルブ14の全閉タイミングが下死点よりも遅角側となる。このため、ピストン22が下死点から上昇し始めてから吸気バルブ14が全閉となるまでの間に、燃焼室24に一旦吸入された混合気が吹き戻される。図6(b)では、吹き戻しが生じるときの吸気バルブ14のリフト領域を斜線にて示した。ここで、吹き戻される混合気は、目標とする空燃比よりもリッチとなっている。このため、吹き戻しが生じた後燃焼室24に充填されている混合気の平均の空燃比はリーンとなる。
更に、低リフトモードから高リフトモードに切り替えられた後、図6(c)に示す2回目の吸気行程においては、前回吹き戻された混合気が燃焼室24の底側(ピストン22近傍)に充填される。この混合気はリッチである。ただし、吸気バルブ14の全閉後に燃焼室24に充填されている混合気の空燃比はリーンとなる傾向にある。これは、高リフトモードに切り替えられてから吸気通路4を流動する空気の流動状態がしばらく安定しないこと等による。このため、切り替え後の2回目以降においても、吸気バルブ14の全閉後に燃焼室24に充填されている混合気の空燃比は目標とする空燃比よりもリーンとなる傾向にある。
なお、低リフトモードと高リフトモードとの間の切り替えに際しての空燃比の変動は、高リフトモードから低リフトモードへ切り替えたときにも生じる。すなわち、この場合は、吸気バルブ14の全閉タイミングについての下死点に対する遅角量が減少することから、下死点となってから全閉タイミングとなるまでに生じる吹き戻しの量が減少する。一方、切り替え前には、吹き戻しが生じている状態で、空燃比フィードバック制御により、吸気バルブ14の全閉タイミング後に燃焼室24に充填されている混合気の空燃比は、目標とする空燃比に制御されている。このため、高リフトモードから低リフトモードへの切り替えにより、吸気バルブ14の全閉後に燃焼室24に充填されている混合気の空燃比が目標とする空燃比よりもリッチとなる傾向にある。しかも、この場合も、切り替え後しばらくの間は吸気通路4を流動する空気の流動状態が安定しないために、切り替え後の2回目以降の燃焼行程においても吸気バルブ14の全閉後に燃焼室24に充填されている混合気の空燃比は目標とする空燃比よりもリッチとなる傾向にある。
このように、低リフトモードと高リフトモードとの切り替えがなされると、実際の空燃比が目標とする空燃比から離間するおそれがある。そして、このように実際の空燃比が目標とする空燃比から離間すると、燃焼室24の混合気に着火不良が生じること等に起因したトルクショックが生じるおそれがある。また、実際の空燃比が目標とする空燃比から離間することにより、燃焼室24から排気通路32に排出される排気は、触媒コンバータ34内の触媒により浄化がされ難いものとなるおそれがある。
そこで、本実施形態では、吸気バルブ14の全閉タイミングについての下死点に対する遅角量が、低リフトモードと高リフトモードとの間の切り替えにより変化するとき、下死点に達してから吸気バルブ14が全閉するまでの間の混合気の吹き戻し量の変動による空燃比の変動を見越して燃料噴射量を補正する。ここで、「吸気バルブ14の全閉タイミングについての下死点に対する遅角量」は、吸気バルブ14の全閉タイミングが下死点よりも遅角側にあるときの量を指し、吸気バルブ14の全閉タイミングが下死点と一致するか下死点よりも進角側にあるときには「0」とする。
以下、これについて図7〜図9に基づいて説明する。
図7に、低リフトモードから高リフトモードに切り替えられるときに燃料噴射量を補正するための処理の手順を示す。この処理は、電子制御装置40にて例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、ステップS12において、低リフトモードから高リフトモードへの切り替えがなされたと判断すると、ステップS14において、燃料噴射量を補正するモードにある旨を示す補正フラグLHを「1」とする。
また、可変バルブタイミング機構57による吸気バルブ14の開弁タイミングの最遅角側からの進角量であるVVT進角値と内燃機関2の回転速度とに基づき、補正係数Kのベース値B1(「1<B1」)を算出する。このベース値B1は、VVT進角値及び回転速度とベース値B1との間の関係を定めたマップを用いて算出されるようにしてもよい。
ここで、補正係数Kを設定するに際して回転速度を考慮するのは、上記遅角量の変化に起因した吹き戻し量の変化量が、回転速度に依存するためである。この吹き戻し量の変化量の回転速度への依存性は、回転速度に応じて吸気圧脈動が変化するために生じる。また、補正係数Kを設定するに際してVVT進角値を考慮するのは、VVT進角値に応じて吸気バルブ14の全閉タイミングについての下死点に対する遅角量が変化するためである。
こうしてベース値B1が算出されると、ステップS16において燃料噴射量をベース値B1にて補正する。ここで、燃料噴射量は、実際の空燃比を目標とする空燃比とするために必要な要求噴射量が、空燃比フィードバック制御にて補正されたものである。ここで、要求噴射量は、内燃機関2の運転状態(吸気圧センサ10により検出される負荷を含む)や運転環境、更には当該内燃機関2の搭載される車両のユーザの要求等に基づき開ループ制御にて算出される。なお、この燃料噴射量は、実際の空燃比と目標とする空燃比との定常的な乖離傾向を補償するための学習値によって、要求噴射量が更に補正されたものとしてもよい。
このベース値B1による燃料噴射量の補正は、噴射回数が所定回数α(例えば「2〜3」)未満である所定期間継続される。この所定回数αは、低リフトモードから高リフトモードへの切り替えがなされてから実際の空燃比が目標とする空燃比と大きく離間した状態が継続する所定期間を判断するためのものである。この所定回数αは、実験を通じて予め適合値として取得されているものである。
そして、ステップS18、S20、S22に示すように、切り替えがなされてからの噴射回数が所定回数α以上となって且つ所定回数β(例えば「20〜30」)未満である間は、補正係数Kを減少補正する。ここで、所定回数βは、切り替えに伴う実際の空燃比の変動が収まるまでの期間を判断するためのものである。この所定回数βも実験を通じて予め適合値として取得されている。
こうした補正係数Kによる燃料噴射量の補正は、ステップS10、S12、S24に示すように、切り替えがなされてから、噴射回数がβ以上となるまで行われる。
図8に、高リフトモードから低リフトモードに切り替えられるときに燃料噴射量を補正するための処理の手順を示す。この処理は、電子制御装置40にて例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、ステップS32において、高リフトモードから低リフトモードへの切り替えがなされたと判断すると、ステップS34において、燃料噴射量を補正するモードにある旨を示す補正フラグHLを「1」とする。また、進角量であるVVT進角値と内燃機関2の回転速度とに基づき、補正係数Kのベース値B2(「0<B2<1」)を算出する。ここでは、VVT進角値及び回転速度とベース値B2との間の関係を定めたマップを用いてベース値B2を算出するようにしてもよい。
こうしてベース値B2が算出されると、ステップS36において燃料噴射量をベース値B2にて補正する。このベース値B2による燃料噴射量の補正は、噴射回数が所定回数γ(例えば「2〜3」)未満である所定期間継続される。この所定回数γは、高リフトモードから低リフトモードへの切り替えがなされてから実際の空燃比が目標とする空燃比と大きく離間する傾向が継続する所定期間を判断するためのものである。この所定回数γは、実験を通じて予め適合値として取得されているものである。
そして、ステップS38、S40、S42に示すように、切り替えがなされてからの噴射回数が所定回数γ以上となって且つ所定回数ε(例えば「20〜30」)未満である間は、補正係数Kを増大補正する。換言すれば、燃料噴射量の補正量を減少補正する。ここで、所定回数εは、切り替えに伴う実際の空燃比の変動が収まるまでの期間を判断するためのものである。この所定回数εも実験を通じて予め適合値として取得されている。
こうした補正係数Kによる燃料噴射量の補正は、ステップS30、S32、S44に示すように、切り替えがなされてから、噴射回数がε以上となるまで行われる。
図9に、低リフトモードと高リフトモードとの間で切り替えがなされたときの補正係数Kの設定態様について説明する。
図示されるように、時刻t1に低リフトモードから高リフトモードに切り替えられると、燃料噴射量を補正する補正係数Kを「1.0」からベース値B1に増大させる。そして、所定期間が経過した(噴射回数が所定回数α以上となった)時刻t2以降においては、補正係数Kを減少させる。換言すれば、燃料噴射量の補正量を減少させる。この補正量の減少制御は、図示されるように減少速度が初めよりも後の方が小さくなる態様にて行うことが望ましい。そして、噴射回数が所定回数β以上となる時刻t3以降は、補正係数Kを「1.0」とし、切り替えに伴う燃料噴射量の補正を停止する。
時刻t3以降においても、吸気バルブ14の全閉タイミングについての下死点に対する遅角量が「0」より大きいなら、下死点となってから吸気バルブ14の全閉タイミングまでの期間に、混合気の吹き戻しが生じる。ただし、吹き戻しが生じているとはいえ、空燃比フィードバック制御により、実際の空燃比は目標とする空燃比に追従するように制御される。換言すれば、空燃比フィードバック制御の制御量(具体的には空燃比フィードバック係数等)は、吹き戻しによる空燃比の変動を抑制するものに設定されている。
こうした状況下、時刻t4において、高リフトモードから低リフトモードに切り替えられるとき、補正係数Kをベース値B2に設定する。そして、所定期間が経過した(噴射回数が所定回数γ以上となった)時刻t5においては、補正係数を増加させる。換言すれば、燃料噴射量の補正量を減少させる。この補正量の減少制御は、図示されるように減少速度が初めよりも後の方が小さくなる態様にて行うことが望ましい。そして、噴射回数が所定回数ε以上となる時刻t6以降は、補正係数Kを「1.0」とし、切り替えに伴う燃料噴射量の補正を停止する。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)吸気バルブ14の全閉タイミングについての下死点に対する遅角量が、低リフトモードと高リフトモードとの切り替えにより変化するとき、下死点に達してから吸気バルブ14が全閉するまでの間の混合気の吹き戻し量の変動による空燃比の変動を見越して燃料噴射量を補正した。これにより、切り替えに際しての実際の空燃比と目標とする空燃比とのずれを抑制することができ、ひいては、切り替え時のトルクショックや燃費の悪化を抑制することができる。
(2)遅角量が増加するときに燃料噴射量を増量補正することで、遅角量の増加に伴う空燃比の変動を抑制することができる。
(3)遅角量が減少するときに燃料噴射量を減量補正することで、遅角量の減少に伴う空燃比の変動を抑制することができる。
(4)燃料噴射量を補正する際の補正量を、低リフトモードと高リフトモードとの切り替え後に徐々に減少させる制御を行うことで、実際の空燃比と目標とする空燃比とのずれを好適に抑制することができる。
(5)燃料噴射量を補正する際の補正量を、低リフトモードと高リフトモードとの切り替え後、減少させる制御に先立ち所定期間保持することで、実際の空燃比と目標とする空燃比とのずれをいっそう好適に抑制することができる。
(6)燃料噴射量を補正する際の補正量を、当該機関の回転速度に応じて設定することで、吹き戻し量の変化量が回転速度に依存することを考慮することができ、ひいては、吹き戻し量に見合った適切な補正を行うことができる。
(7)低リフトモードと高リフトモードとの切り替えに伴い燃料噴射量を補正する際の補正量を、VVT進角量に基づいて設定するために、切り替えに伴う吸気バルブ14の全閉タイミングについての下死点に対する遅角量の変化を正確に把握して適切な補正を行うことができる。
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・低リフトモードと高リフトモードとの切り替え態様は、先の図5に例示したものに限らない。
・低リフトモードと高リフトモードとの間の切り替え時における燃料噴射量の補正態様としては、先の図7〜図9に例示したものに限らない。例えば、切り替え後、初回(多気筒内燃機関にあっては各気筒の初回)の燃料噴射量のみを補正するようにしても、切り替え直後の吹き戻し量の変化に起因した空燃比の変動を抑制することはできる。また、切り替え時、最大の補正量にて補正をした後、徐々に補正量を減少させる制御を行う代わりに、切り替え時、徐々に補正量を増大させた後、徐々に補正量を減少させる制御を行ってもよい。これは、低リフトモードと高リフトモードとの切り替え時、吹き戻しがなかったとした場合にも出力トルクにギャップが生じる場合に特に有効である。
・燃料噴射量の補正態様としては、上記実施形態で例示したものに限らない。例えば、上記ベース値B1,B2を、空燃比フィードバック係数に対する加算値として算出するようにしてもよい。この場合、燃料噴射量を上述した要求噴射量等とし、これに乗算される補正係数は、空燃比フィードバック制御にかかる制御量と、吸気バルブ14の全閉タイミングに対する遅角量の変化に起因した吹き戻し量の変動による空燃比の変動を見越した補正量とを加味したものとなる。ただし、こうした処理を行なう場合であっても、実際の空燃比を目標とする空燃比とするために必要な噴射量として算出される燃料噴射量を、吸気バルブ14の全閉タイミングに対する遅角量の変化に起因した吹き戻し量の変動による空燃比の変動を見越して補正することにはなる。
・燃料噴射量の算出態様としては、上記実施形態で例示したものに限らない。例えば上記要求噴射量を燃料噴射量としてもよい。
・上記実施形態では、可変バルブタイミング機構57によるバルブ特性の切り替え時には、燃料噴射量の補正を行わなかったが行ってもよい。
・吸気バルブのバルブ特性を可変とするバルブ特性可変機構としては、上記実施形態で例示したものに限らない。この際、プロフィールの異なる複数種のカムを備えて該複数種のカムのいずれかを選択的に用いることで吸気バルブのバルブリフト量を可変とする可変リフト機構を備えるものであるなら、本発明の作用効果を特に好適に奏することができる。これは、可変リフト機構によるバルブ特性の切り替えによる吹き戻し量の変化量が非連続的となるため、空燃比の変動が顕著となるためである。また、吸気バルブ及びバルブ特性可変機構を、電磁駆動弁として構成するようにしてもよい。換言すれば、バルブ特性可変機構を、電磁駆動弁のうちバルブを駆動する部分として構成してもよい。これによっても、バルブ特性の切り替えによる吹き戻し量の変化量が非連続的となり得るため、本発明の作用効果を特に好適に奏することができる。なお、この際、吸気バルブのバルブ特性の変更を、変更前のバルブ特性による当該機関の定常的な出力トルクと、変更後のバルブ特性による当該機関の定常的な出力トルクとが等しくなる運転条件で行うことが望ましい。
・その他、内燃機関2の構成としては、上記実施形態やその変形例にて例示したものに限らない。例えば負荷(吸入空気量又はその相当値)を検出する手段としては、上記吸気圧センサ10に限らない。また、この手段の配置箇所もサージタンク8に限らない。こうした場合であっても、上記手段によって検出される負荷によっては、吹き戻し量が把握されない。このため、この手段によって検出される負荷に基づき算出される燃料噴射量、換言すれば、実際の空燃比を目標とする空燃比とするために必要な噴射量である燃料噴射量を補正することは有効である。
2…内燃機関、14…吸気バルブ、40…電子制御装置、50…バルブ特性可変機構、51…カムシャフト、52…低リフト用カム、53…高リフト用カム、57…可変バルブタイミング機構。