JP2006181486A - 微細凹凸構造の形成方法及びその利用 - Google Patents
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Abstract
【課題】 より実用的なフラクタル構造、例えば、機械的衝撃に強く、有機溶媒耐性や耐熱性が優れたフラクタル表面構造を簡便かつ正確に形成する微細凹凸構造の形成方法及びその利用を提供する。
【解決手段】 表面がフラクタル構造であるAKDの表面に、AKDとは異なるPt−Pd合金からなる薄層を物理的手法により形成することによって、当該Pt−Pd合金からなる薄層に対して、上記AKD表面のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を付与する工程を有する微細凹凸構造の形成方法によれば、機械的衝撃に強く、有機溶媒耐性や耐熱性が優れたフラクタル表面構造を簡便かつ正確に形成することができる。
【選択図】 図1
【解決手段】 表面がフラクタル構造であるAKDの表面に、AKDとは異なるPt−Pd合金からなる薄層を物理的手法により形成することによって、当該Pt−Pd合金からなる薄層に対して、上記AKD表面のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を付与する工程を有する微細凹凸構造の形成方法によれば、機械的衝撃に強く、有機溶媒耐性や耐熱性が優れたフラクタル表面構造を簡便かつ正確に形成することができる。
【選択図】 図1
Description
本発明は、物質表面に微細な凹凸構造を形成する微細凹凸構造の形成方法及びその利用に関し、特に、物質の表面にフラクタル構造を形成する微細凹凸構造の形成方法及びその利用に関するものである。
固体表面を凹凸化するといった構造的処理によって表面の撥水性が変化することは、例えば、非特許文献1などに記述があり、従来から知られている。なぜ表面に微細構造があると撥水性が高くなるのか、という問いに対する説明として、接触角に関するWenzelの理論とCassieの理論がある。
Wenzelの理論は,表面粗さがぬれ性に及ぼす影響を説明する。粗さなどによる微小な凹凸がある面では、平滑面の場合に比べて実質的な表面積が大きいため、ぬれに伴う表面エネルギーの変化が強調される。Wenzelの式では、この効果を用いて、粗さがある表面での接触角を与える。
一方Cassieの理論は、空隙を多く含む固体表面のぬれが対象である。Cassieの式の原型は、ぬれ性の異なる領域が混在する複合表面の接触角を与えるが、空隙に空気がトラップされた表面は、空気と固体の複合表面とみなせるため、同じ式が適用できる。
これらの理論によれば,撥水性を高める構造の条件は、(i)微小な凹凸による表面積増加率が大きいこと、(ii)空気をトラップする空隙の面積割合が大きいこと、のいずれかということになる。
特に、実際に非常に高い撥水性(超撥水性)を示す表面として、フラクタル構造を有する表面を挙げることができる。フラクタル構造による表面積増加率は大きく、上記Wenzelの理論により接触角の増大効果がきわめて高い。例えば、アルキルケテンダイマー(AKD;Alkyl Ketene Dimer)が自己組織的にこのようなフラクタル構造を形成することが報告されている(非特許文献2参照)。AKDは、紙製造工程でインクのにじみ防止剤として使用される物質であって、溶融後固化する際に一種の自己組織化作用でフラクタル的な表面構造を持つため、非常に高い撥水性を示すことが知られている。接触角170度以上という値も報告されている。
このようなフラクタル表面構造を利用して開発された超撥水性複合膜が報告されている(特許文献1参照)。具体的には、上記特許文献1には、フラクタル表面構造とnm〜μm範囲の気孔を有する多孔性無機支持体の表面にグラフティング−フロム表面重合法を用いて機能性高分子が化学的に固定されたスキン層が形成されており優れた分離性能を示す超撥水性有機/無機複合膜について開示されている。
また、フラクタル構造を表面に有する物質は、超撥水性以外にも、超親水性、超撥油性、又は超親油性を示すことが報告されている(非特許文献3参照)。
特開2003−144868号公報(公開:平成15(2003)年5月20日)
A.W.Adamson著、「Physical Chemistry of Surfaces (John Wiley & Sons, New York )」
Tsujii, et al., J. Phys. Chem., 100, 19512 (1996)
Tujiii, et al., Angew. Chem. int. Ed., 36, 1011 (1997)
上述したようなフラクタル表面のユニークな性質を利用して、様々な機能性材料・製品を開発する応用研究が盛んに行われている。
しかしながら、例えば、上記AKDからなるフラクタル表面構造は、機械的衝撃に弱いだけでなく、有機溶媒や熱にも弱いため、そのまま実用化できないという問題点がある。
また、上記特許文献1に開示の超撥水性有機/無機複合膜は、フラクタル表面構造とnm〜μm範囲の気孔を有する多孔性無機支持体の表面に、グラフティング−フロム(grafting-from)表面重合法を用いて、アゾ系塩化シラン開始剤を無機支持体表面と化学的結合させ、これを媒介層とし、その上にフッ素系単量体共重合物のスキン層を形成し、上記開始剤のラジカル地点において上記フッ素系単量体をラジカル重合させる方法によって得られる。かかる超撥水性有機/無機複合膜の形成方法は、フッ素化合物層の形成方法、特に、フラクタル構造を表面に有する無機支持体の表面にフッ素化合物を化学結合で固定化する方法を提案するものであるが、かかる方法では、反応の制御が複雑であり、簡便な方法とはいえず、実用化するにあたって十全とはいえない。
このため、機械的衝撃に強く、有機溶媒耐性や耐熱性が優れた微細凹凸構造、特に、フラクタル表面構造を簡便かつ正確に形成する方法の開発が強く求められていた。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、より実用的なフラクタル構造、例えば、機械的衝撃に強く、有機溶媒耐性や耐熱性が優れたフラクタル表面構造を簡便かつ正確に形成する微細凹凸構造の形成方法及びその利用を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、AKDからなるフラクタル構造を有する物質の表面に対して、白金−パラジウム合金(Pt−Pd)をスパッタリングしたところ、AKDのフラクタル表面構造を鋳型として用いて、当該フラクタル構造を反映させたPt−Pdのフラクタル構造を形成できることを見出し、本願発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
(1)表面がフラクタル構造である第1の物質の当該表面に、上記第1の物質とは異なる第2の物質からなる薄層を形成することによって、当該第2の物質からなる薄層に対して、上記第1の物質表面のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を付与する工程を有する微細凹凸構造の形成方法。
(2)さらに、上記第2の物質からなる薄層のフラクタル構造を備える表面に、上記第1の物質及び第2の物質とは異なる第3の物質からなる薄層を形成することによって、当該第3の物質からなる薄層に対して、上記第2の物質からなる薄層のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を付与する工程を有する(1)に記載の微細凹凸構造の形成方法。
(3)上記第1の物質は、アルキルケテンダイマーである(1)又は(2)に記載の微細凹凸構造の形成方法。
(4)上記第2の物質及び第3の物質は、金属(材料)及び/又は高分子(材料)である(1)〜(3)のいずれかに記載の微細凹凸構造の形成方法。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の微細凹凸構造の形成方法を含む製造方法によって製造された、表面にフラクタル構造を有する表面微細凹凸構造物。
(6)表面にフラクタル構造を有する第1の層と、上記第1の層上に、上記第1の層を構成する物質とは異なる物質からなり、上記第1の層のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を有する第2の層と、を備える表面微細凹凸構造物。
(7)(5)又は(6)に記載の表面微細凹凸構造物を備えるデバイス。
本発明に係る微細凹凸構造の形成方法によれば、機械的衝撃に強く、有機溶媒耐性や耐熱性が優れたフラクタル構造を簡便かつ正確に形成することができる。上述したように、表面にフラクタル構造を有する物体は、その特有の表面構造ゆえに、主として超撥水性、超親水性、超撥油性、又は超親油性を発揮する。このため、かかるユニークな性質を有する様々な製品の技術開発に利用することができる。
本発明は、物質の表面にフラクタル構造を簡便かつ正確に形成する微細凹凸構造の形成方法及びその利用に関するものである。そこで、以下では、まず本発明に係る微細凹凸構造の形成方法について説明し、その後、本発明に係る微細凹凸構造の形成方法の利用法について説明する。なお、本発明は、以下の説明に限定されるものではないことはいうまでもない。
<1.微細凹凸構造の形成方法>
本発明に係る微細凹凸構造の形成方法は、表面がフラクタル構造である第1の物質の当該表面に、上記第1の物質以外の第2の物質からなる薄層を形成することによって、当該第2の物質からなる薄層に対して、上記第1の物質表面のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を付与する工程を有する方法であればよく、その他の具体的な工程、材料、条件、使用装置・機器等については特に限定されるものではない。
本発明に係る微細凹凸構造の形成方法は、表面がフラクタル構造である第1の物質の当該表面に、上記第1の物質以外の第2の物質からなる薄層を形成することによって、当該第2の物質からなる薄層に対して、上記第1の物質表面のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を付与する工程を有する方法であればよく、その他の具体的な工程、材料、条件、使用装置・機器等については特に限定されるものではない。
本明細書中、文言「フラクタル構造」とは、次第に微細となる構造において自己相似形の性質と非整数次元の特徴を有する幾何学的な図形の構造をいい、具体的な形状、大きさ等は特に限定されるものではない。例えば、りん片状、角柱状、円柱状、角錐状、円錐状、針状等のいずれか、及びこれらの形状が複雑に組み合わさってできたフラクタル構造を挙げることができる。
図1に、本発明に係る微細凹凸構造の形成方法の基本概念について模式的に説明した図を示す。図1(a)に示すように、本微細凹凸構造の形成方法では、まず、表面がフラクタル構造である第1の物質Aを準備する。そして、この第1の物質Aの表面上に第2の物質Bをコーティング(塗布)し、第2の物質Bからなる薄層を形成する。
このとき、本微細凹凸構造の形成方法では、第1の物質Aが鋳型として機能するため、第2の物質Bの薄層表面には、第1の物質Aの表面に形成されているフラクタル構造を反映したフラクタル構造が形成されることになる。つまり、第1の物質Aのフラクタル構造が、第2の物質Bからなる薄層表面に反映され、転写されるといえる。
ここで本明細書中、「フラクタル構造を反映したフラクタル構造」とは、前者のフラクタル構造を鋳型として、後者のフラクタル構造が形成されたことを意味し、前者と後者とのフラクタル構造の性質及び/又は形状が略同一であるものをいう。ここで“略同一”とは、完全に同一であることが好ましいが、現実的に完全に一致することは困難であると考えられるため、本発明の趣旨が達成できる合理的な範囲内で若干異なっていても構わないという意味である。なお、特に前者のフラクタル構造が後者のフラクタル構造にそのまま「転写」されることが好ましい。
また、上記「第1の物質」としては、表面にフラクタル構造を有するものであればよく、その他の具体的な構成等については特に限定されるものではない。例えば、アルキルケテンダイマー(AKD)、ジアルキルケトン、陽極酸化されたアルミニウム表面等のように自己組織的にフラクタル構造を形成する物質及びこれらと他の物質との混合物を好適に用いることができる。
なお、AKDやジアルキルケトンを含む物質のように自己組織的にフラクタル構造を形成する物質を用いてもよいが、その他にも、例えば、本発明に係る微細凹凸構造の形成方法によって形成されたフラクタル構造を有する物質も「第1の物質」として好適に用いることができる。
また、「第1の物質」の表面をフラクタル構造化するための手法についても従来公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、施削加工あるいは研削加工により形成することができるし、他の方法としては、集積回路製作に用いられている真空蒸着、リソグラフィー、イオンビーム加工、プラズマ加工などにより形成することが可能でありレーザ加工あるいは印刷技術によってもフラクタル構造を形成することができる。
また、温度や温度勾配、化学物質の濃度や濃度勾配、電磁場などの外部因子を制御することにより自然発生させるものとして、電気分解、化学反応、微生物反応などにより固体表面を溶解あるいは腐食させる方法、電気分解や拡散律速凝集などにより固体表面に物質を析出させる方法、微粒子凝集体を固体表面に付着させる方法、互いに非相溶な2種類の物質を混合し相分離を進行させて2つの相が互いに入り組んだ相分離パターンができたとき、どちらか片方の物質のみを溶出させる方法、あるいは、アルキルケテンダイマーやジアルキルケトンなどのように融液あるいは溶液からの固化時に自然にフラクタル構造化するものを利用する方法などがある。
さらに、大きな周期の凹凸構造を機械加工により形成し、それに腐食などの方法により小さい周期の凹凸構造を形成することでもフラクタル構造を形成でき、前述の各方法で形成した多段凹凸構造のフラクタル構造、あるいは蓮の葉の表面などの自然界にすでに存在している多段凹凸構造のフラクタル構造から金属やエポキシ樹脂などで金型を作成し、金型そのもの、あるいはその金型から作成した凹凸構造表面のレプリカを用いてもフラクタル構造を形成することができる。
上記「第2の物質」は、上記第1の物質以外の物質であればよく、その具体的な構成等は特に限定されるものではない。「第2の物質」として、例えば、金属(材料)を用いることができる。かかる金属としては、例えば、亜鉛、ニッケル、鉄、アルミニウム、白金、鉛、金、銀等の金属単体及びこれらの合金、ステンレス等の薄層形成可能な従来公知の金属材料を用いることができ、特に限定されるものではない。なお、後述する実施例ではPt−Pd合金を用いている。
また、上記「第2の物質」としては、金属材料だけでなく、高分子材料も用いることもできる。用いる高分子材料としては、薄層化が可能な従来公知の高分子材料を好適に用いることができ、具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、フッ素系単量体からなるポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメチルメタアクリレート等を挙げることができる。
また、第2の物質の薄層を形成する場合は、従来公知の薄層形成方法を好適に利用することができ、具体的な手法等は特に限定されるものではない。例えば、「物理的手法」を用いることができる。本明細書中、文言「物理的手法」とは、第1の物質Aからなる層上に第2の物質Bからなる層を、表面重合法等のように第1の物質Aの表面に第2の物質Bを化学的に結合させる方法以外の手法で物理的にコーティングする手法をいう。例えば、単純に塗布する方法の他、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法の他、スピンオフ法、スパッタリング法、スピンコート法、レーザーアブレーション、化学的蒸着法(CVD;Chemical Vapor Deposition)、接触メッキ法、溶融被覆材料を利用する被覆、固相拡散被覆、スプレー法等の従来公知の物理的な薄層形成手法を好適に利用可能である。
また、「物理的手法」以外にも、「化学的手法」を用いることもできる。かかる化学的手法としては、例えば、第1の物質のフラクタル構造を溶解させないモノマーを、当該第1の物質のフラクタル表面に流し込み、その後重合させることにより、第1の物質上に直接高分子からなる薄層を形成することができる。
なお、本発明に係る微細凹凸構造の形成方法では、第1の物質からなるフラクタル構造をいわゆる“鋳型”として用いるため、第2の物質の薄層は、第1の物質のフラクタル構造を破壊しない(例えば、溶解させない)条件で形成する必要があることはいうまでもない。
上述した方法によって形成された第2の物質のフラクタル構造は、第1の物質からなるフラクタル構造を反映した構造である。このため、例えば、第1の物質からなるフラクタル構造が超撥水性、超親水性、超撥油性、又は超親油性を示す場合、第2の物質からなるフラクタル構造も同様の性質を示すことになる。
したがって、第1の物質がアルキルケテンダイマー(AKD)のように機械的衝撃に弱い物質であっても、第2の物質として機械的衝撃に強い物質(例えば、金属材料)を用いることにより、超撥水性、超親水性、超撥油性、又は超親油性等のフラクタル構造特有の性質は維持したまま、機械的衝撃に強いフラクタル構造を簡便かつ正確に形成することができる。また、第2の物質として金属材料を用いる場合、導電性等の新たな性質を付与することもできる。
また、本発明に係る微細凹凸構造の形成方法には、さらに、上記第2の物質からなる薄層のフラクタル構造を備える表面に、上記第1の物質及び第2の物質以外の第3の物質からなる薄層を形成することによって、当該第3の物質からなる薄層に対して、上記第2の物質からなる薄層のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を付与する工程を有する方法も含まれる。
図1(b)を用いて、上記第3の物質からなる薄層を形成する工程を含む微細凹凸構造の形成方法について説明する。まず、第1の物質Aの層上に、第2の物質Bの薄層を形成する。この工程は、上述した通りである。
そして、この第2の物質Bからなる薄層上に、第3の物質Cからなる薄層を形成する。上述したように、第2の物質Bからなる薄層表面には、上記第1の物質Aを反映したフラクタル構造が形成されている。この場合、この第2の物質Bからなる薄層が鋳型となり、第3の物質Cの薄層表面には、第2の物質Bの表面に形成されているフラクタル構造を反映したフラクタル構造が形成されることになる。つまり、第3の物質Cのフラクタル構造が、第2の物質Bからなる薄層表面を反映して転写されるといえ、第1の物質A、第2の物質B、第3の物質Cの表面には、略同じ形状のフラクタル構造が形成されることになる。
このため、上述した方法によって形成された第3の物質Cのフラクタル構造は、第1の物質Aからなるフラクタル構造を反映した構造である。このため、例えば、第1の物質Aからなるフラクタル構造が超撥水性、超親水性、超撥油性、又は超親油性を示す場合、第3の物質Cからなる薄層も同様の性質を示すことになる。
上記「第3の物質」は、第1の物質及び第2の物質と異なる物質であればよく、その他の具体的な構成等は、特に限定されるものではない。上記「第3の物質」としては、上述した「第2の物質」と同様の金属材料、及び/又は、高分子材料を好適に用いることができる。
例えば、第3の物質Cとして高分子材料を用いる場合、第1の物質AとしてAKDのように機械的衝撃に弱い物質を使用しても、第2の物質Bとして機械的衝撃に強い物質(例えば、金属材料)を用い、さらに、この第2の物質Bの表面上に第3の物質C(例えば、高分子材料)からなる薄層を形成することにより、超撥水性、超親水性、超撥油性、又は超親油性等のフラクタル構造特有の性質は維持したまま、2層構造のフラクタル構造に比べて、より一層機械的衝撃に強くすることができる。さらに、有機溶媒耐性、耐熱性等の向上といった高分子材料に特有の性質を付与することができる。
加えて、第3の物質として、もともと単独でも撥水性、親水性、撥油性、又は親油性を示す高分子材料を用いる場合、フラクタル構造の超撥水性、超親水性、超撥油性、又は超親油性等の性質を一層向上させたり、変化させたりすることも可能である。
なお、上記第3の物質の薄層を形成する方法は、上記第2の物質の薄層を形成する際に説明した物理的手法を好適に用いることができる。
以上のように、本発明に係る微細凹凸構造の形成方法を用いることにより、機械的衝撃に強く、有機溶媒耐性や耐熱性が優れたフラクタル構造を簡便かつ正確に形成することができる。表面にフラクタル構造を有する物体は、上述したように、その特有の表面構造ゆえに、主として超撥水性、超親水性、超撥油性、又は超親油性を備える様々な製品の技術開発に利用することができる。
このため、本発明に係る微細凹凸構造の形成方法は、例えば、様々な材料表面の表面処理、特に超撥液性(超撥水性、超撥油性)又は超親液性(超親水性、超親油性)を付与する方法に利用できる。具体的には、例えば、船舶、車両、航空機、電気通信施設、道路交通標識、信号機、掲示板、家屋・ビルの壁材等の建築材料、熱交換器用のフィンや冷却板、流液管(流水管)、じょうご、テーブル、盆、台所の調理台や台所用品、傘、雨合羽、防水性ビニールバッグ等の雨具、衛生品を覆うフィルム、農業用フィルム、光または磁気ディスク、携帯用オーディオ・ビデオ機器等の電気製品、おむつ、ナプキンなどの衛生品を覆うプラスチックフィルム、日用品等の材料の表面処理方法等を挙げることができる。
<2.表面微細凹凸構造物及び当該表面微細凹凸構造物を備えるデバイス>
また、本発明には、上記<1>欄で説明した微細凹凸構造の形成方法を用いて製造される、機械的衝撃に強く、有機溶媒耐性や耐熱性が優れており、非常に実用的な超撥水性、超親水性、超撥油性、又は超親油性の表面微細凹凸構造物、及び当該表面微細凹凸構造物を用いた各種デバイスが含まれる。
また、本発明には、上記<1>欄で説明した微細凹凸構造の形成方法を用いて製造される、機械的衝撃に強く、有機溶媒耐性や耐熱性が優れており、非常に実用的な超撥水性、超親水性、超撥油性、又は超親油性の表面微細凹凸構造物、及び当該表面微細凹凸構造物を用いた各種デバイスが含まれる。
すなわち、本発明に係る表面微細凹凸構造物は、上記<1>欄で説明した微細凹凸構造の形成方法を含む製造方法によって製造された、表面にフラクタル構造を有するものであればよく、その他の材質、大きさ、形状等の具体的な構成については特に限定されるものではない。
また、本発明には、表面にフラクタル構造を有する第1の層と、上記第1の層上に、上記第1の層を構成する物質とは異なる物質からなり、上記第1の層のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を有する第2の層と、を備える表面微細凹凸構造物も含まれる。かかる表面微細凹凸構造物は、上記<1>欄で説明した微細凹凸構造の形成方法を含む製造方法によって製造され得るものである。
さらに、本発明に、上記第2の層上に、上記第1の層及び第2の層を構成する物質とは異なる物質からなり、上記第2の層のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を有する第3の層と、を備える表面微細凹凸構造物も含まれていてもよい。つまり、本発明に係る表面微細凹凸構造物は、略同じ形状のフラクタル構造の層が積層されていると換言できる。
また、例えば、上記第1の層として上述の第1の物質を、上記第2の層として上述の第2の物質を、上記第3の層として上述の第3の物質を用いることができる。また、上記第2の層は第1の層上に、第3の層は第2の層上に、それぞれ物理的手法によって形成されていることが好ましい。
本発明に係る表面微細凹凸構造物は、例えば、船舶、車両、航空機、電気通信施設、道路交通標識、信号機、掲示板、家屋・ビルの壁材等の建築材料、熱交換器用のフィンや冷却板、流液管(流水管)、じょうご、テーブル、盆、台所の調理台や台所用品、傘、雨合羽、防水性ビニールバッグ等の雨具、衛生品を覆うフィルム、農業用フィルム、光または磁気ディスク、携帯用オーディオ・ビデオ機器等の電気製品、おむつ、ナプキンなどの衛生品を覆うプラスチックフィルム、日用品等の材料として好適に利用することができる。
つまり、本発明には、上記表面微細凹凸構造物を備える各種デバイスが含まれる。本明細書でいう文言「デバイス」とは、包括的な装置・製品・機能性材料を含む広範な物の意であって、その具体的な構成、用途、形状、大きさ等の諸条件については特に限定されるものではない。例えば、上記船舶、車両等の各種装置・製品を挙げることができる。
より具体的には、例えば、本発明は対氷雪滑り止め材料・製品等を挙げることができる。寒冷地の凍結した地表面や雪国における積雪面、冷凍用倉庫中の凍結した床面などにおいては、摩擦力が著しく低下しており、わずかな傾きで静置した物体が滑り動いたり、人が歩行の際すべって転倒するなど、危険である。このような危険を防止すべく、接触する表面の間の摩擦力を増加させる必要がある。そこに、本発明を利用した材料・製品を用いれば、氷や雪に対して高い摩擦性を付与でき、滑り止めが必要な部材として広く利用できる。また、材料・製品への着氷や着雪が極めて少なく、更に温度が摂氏零度以上になって氷雪が融解しても水が表面を覆うことがなく、かつ路面や床面を傷つけない。このように、本発明によれば、氷や雪と接触する面に高い摩擦力を付与し、滑り止めに有用な材料・製品に応用できる。
また、同様に、物質表面に撥水性物質をコーティングしてなる超撥水表面を有する耐着雪・耐着氷性材料も開発可能である。寒冷地や雪国あるいは冷凍用倉庫等で使用される製品、建築材料、治具等においては、雪や氷がその表面に付着するため種々の問題が生じている。例えば、アンテナ、ケーブル、鉄塔、土木機械用治具、家屋、屋根、冷凍用倉庫内の棚などにおいては雪や氷が付着することにより、それらの機能を十分発揮しなかったり、付着した雪や氷で破壊されるという問題が生じている。そこで、本発明に係る技術を利用した材料・製品を用いれば、氷や雪の付着が防止できるため、この金属材料は寒冷地や雪国における建築材料や冷凍用倉庫内の棚等などとして広く利用できる。
また、上記例示以外にも、例えば、物体表面の全部又は一部に撥液性物質をコーティングして、流体と接する金属表面で生じる摩擦抵抗を減少させる低流体抵抗金属材料にも適用できる。低流体抵抗金属材料としては、具体的には、パイプラインなどの管中の内壁、潤滑液の挿入された擦りあわせ面、船舶の船底や船側等を挙げることができる。
一般的に、船舶が航行すると、その船体表面に沿って乱流境界層が発達し、船体表面に摩擦抵抗が作用する。この摩擦抵抗は、通常の船舶の場合、船体の全抵抗のおよそ70%を占めるため、船舶において摩擦抵抗の軽減は重要な課題になっている。また、パイプラインにおいても、その管内を流れる流体の受ける抵抗は摩擦抵抗が支配的であり、摩擦抵抗の低減がエネルギーや環境の問題と直結している。そこで、本発明に係る技術を、例えば、船舶の船底や船側、パイプラインなどの管の内壁、潤滑液が挿入された擦りあわせ面などに用いた場合、流体から受ける摩擦抵抗を大幅に軽減することができる。
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明に係る微細凹凸構造の形成方法にしたがって、AKDのフラクタル表面を鋳型として、Pt−Pd合金の表面にフラクタル構造を形成した。具体的には、以下のように行った。
まず、AKD(荒川化学工業(株)製)10gを、40℃のヘキサン100mlに溶かした後、冷蔵庫に入れ、4℃にて再結晶処理を行った。再結晶したAKDをろ過し、冷却したヘキサンで3回洗浄した。
図2(a)の左側に示すように、この再結晶後、洗浄したAKDをスライドガラス基板上の中央部分に載せ、真空乾燥中で熱処理を行った。熱処理の具体的な方法は、加熱前にまず減圧にした後、ゆっくりAKDが溶融状態に達するまで加熱した。次いで、減圧を続けながら加熱を止め、ゆっくり室温まで冷やしてスライドガラス基板上の中央部分にAKDのフラクタル構造を形成した。なお、図2(b)に示すように、フラットなスライドガラス基板の電気特性は“絶縁性”であり、撥水特性は“親水性”であった。また、このフラクタル構造のAKDの電気特性は“絶縁性”であり、撥水特性は“超撥水性”であった。
そして、図2(a)に示すように、スパッタリング処理により、上記スライドガラス基板表面にPt−Pd合金の薄層をコーティングした。スパッタリング処理には、Hitachi製、商品名「Mild Suputler coater Model E-1300」を用い、添付の操作マニュアルに従ってスパッタリング処理を行った。
その結果、図2(a)の右側に示すように、スライドガラス基板上にフラットなPt−Pd合金薄層がコーティングされた領域と、スライドガラス基板のAKDのフラクタル構造上にPt−Pd合金薄層がコーティングされた領域とが形成された。
上記のようにして作製したフラットなPt−Pd合金薄層とAKDのフラクタル構造上に形成されたPt−Pd合金薄層との電気特性及び撥水特性について調べた。その結果、図2(b)に示すように、フラットなPt−Pd合金薄層の電気特性は“導電性”であり、撥水特性は“撥水性”であった。一方、AKDのフラクタル構造上に形成されたPt−Pd合金薄層の電気特性は調査不能であったが、撥水特性は接触角約160度の“超撥水性”を示すことがわかった。このため、AKDのフラクタル構造上に形成されたPt−Pd合金薄層は、フラクタル構造を形成していると考えられた。
そこで、このAKDのフラクタル構造上に形成されたPt−Pd合金薄層について、走査型電子顕微鏡による観察を行った。その結果を図3に示す。スケールバー(scale bar)は5μmである。同図に示すように、AKDのフラクタル構造上に形成されたPt−Pd合金薄層は、AKDのフラクタル構造を反映したフラクタル構造を形成していることがわかった。このことから、AKDのフラクタル構造上にPt−Pd合金の薄層を物理的手法によって形成することにより、AKDのフラクタル構造を鋳型として、Pt−Pd合金の薄層のフラクタル構造を形成できることが明らかとなった。
本発明は、フラクタル構造を用いることができる多種多様な産業に利用可能であり、例えば、超撥水、超撥油、超親水、超親油等の性質が要求される機材、器具、および産業用品について利用可能である。
Claims (7)
- 表面がフラクタル構造である第1の物質の当該表面に、上記第1の物質とは異なる第2の物質からなる薄層を形成することによって、当該第2の物質からなる薄層に対して、上記第1の物質表面のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を付与する工程を有することを特徴とする微細凹凸構造の形成方法。
- さらに、上記第2の物質からなる薄層のフラクタル構造を備える表面に、上記第1の物質及び第2の物質とは異なる第3の物質からなる薄層を形成することによって、当該第3の物質からなる薄層に対して、上記第2の物質からなる薄層のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を付与する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の微細凹凸構造の形成方法。
- 上記第1の物質は、アルキルケテンダイマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の微細凹凸構造の形成方法。
- 上記第2の物質及び第3の物質は、金属及び/又は高分子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の微細凹凸構造の形成方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細凹凸構造の形成方法を含む製造方法によって製造された、表面にフラクタル構造を有することを特徴とする表面微細凹凸構造物。
- 表面にフラクタル構造を有する第1の層と、
上記第1の層上に、上記第1の層を構成する物質とは異なる物質からなり、上記第1の層のフラクタル構造を反映したフラクタル構造を有する第2の層と、を備えることを特徴とする表面微細凹凸構造物。 - 請求項5又は6に記載の表面微細凹凸構造物を備えることを特徴とするデバイス。
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