JP2006159858A - 有機保護膜、有機保護の膜形成方法および有機保護膜付き電気装置部品 - Google Patents

有機保護膜、有機保護の膜形成方法および有機保護膜付き電気装置部品 Download PDF

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Abstract

【課題】成膜装置が大型化および複雑化することなく、さらに消費電力の低減を達成した上で、十分な絶縁性および耐薬品性における信頼性を確保できるデバイスや回路基板等の被着体への有機保護膜を提供すること。
【解決手段】ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンと、ポリパラキシリレンとを含有し、かつ、被着体の表面に成膜される耐薬品性および絶縁性を有する単層膜からなり、この単層膜が、被着体との接触面側の下層領域でポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの組成比率が高く、膜表面側の上層領域でポリパラキシリレンの組成比率が高い有機保護膜、その製造方法および有機保護膜付き被着体を提供する。
【選択図】図2

Description

本発明は、有機保護膜、有機保護膜の形成方法および有機保護膜付き電気装置部品に関し、さらに詳しくは、特にインクジェットヘッドのインク流路に用いる耐薬品性および絶縁性が高い有機材料保護膜の構造とその形成方法に関する。
今日、インクジェットヘッドを有するインクジェットプリンタ等の印刷機器において、印字時のみに必要なインクを吐出させるドロップ・オン・デマンド型が、印字効率の良さ、低コスト化、低ランニングコスト化に有利であるなどの点から注目されており、サーマルジェット方式(例えば、特許文献1参照)や、圧電素子を用いたカイザー方式(例えば、特許文献2参照)が主流となっている。
しかしながら、カイザー方式は、小型化が難しく、高密度化には適さないという欠点を有していた。また、サーマルジェット方式は、高密度には適しているものの、ヒーターを加熱することで、インク内にバブル(泡)を生じさせて、そのバブルのエネルギーを吐出に使用するため、インクの耐久性に対する要求が厳しく、また、ヒーターの寿命を長くすることが困難であり、さらに、消費電力も大きくなるという問題を有していた。
このような欠点を解決するものとして、圧電材料の剪断モードを利用したインクジェット方式が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方式は、圧電材料からなるインクチャンネル壁に形成した電極により、圧電材料の分極方向と直交する方向に電界を加え、チャンネル壁を剪断モードで変形させて、その際に生じる圧力波変動を利用してインクジェットヘッドに形成されたノズルからインク滴を吐出させるものであり、ノズルの高密度化、低消費電力化、高駆動周波数化に適している。このような、剪断モードを利用したインクジェトヘッドの構造を図3を用いて説明する。
インクジェットヘッドは、図の上下方向に分極処理を施した圧電体に複数の溝(インク室2)が形成されたベース部材3と、インク供給口8と共通インク室9が形成されたカバー部材6と、ノズル孔10が開けられたノズル板11を貼り合わされている。チャンネル壁には、電界を印加するための電極5が上方半分に形成されている。インク室2内は、上記電極5およびその他の構成部材とインクとの接触を避けるために、図示しない保護膜がインク室2内に形成されている。インク室2の後端部12は、溝加工時に使用されるダイシングブレードの直径に対応したR形状に加工されており、さらに外部との通電のための電極引き出し部としての平坦部電極13が形成されており、平坦部に形成された電極13は、インクジェットヘッドの駆動用IC14の電極15とワイヤーボンディング技術によってAlワイヤ16で電気的に接続されている。
上記保護膜は、ポリパラキシリレン膜が用いられ、前記ポリパラキシリレン膜は、化学的に安定であって耐薬品性および絶縁性が高く、水性インクや金属粒子を含む導電性を有するインクでは、ヘッド駆動時にチャンネル間での電圧印加によってリーク電流が流れ、正規のチャンネル壁剪断モード変形が達成できずに吐出不良を起こす問題や、電極材料の電解腐食を起こしてインクジェットヘッドを破損する問題を防止する効果があり、また有機溶媒を主成分にするインクでは、インクジェットヘッドを構成する部材や接着剤等を溶解性の高い有機溶媒から隔離保護する効果がある。また、上記ポリパラキシリレンは室温において気相成長によって形成されるため、熱によって特性が劣化する基材や表面形状が複雑に入組んだ基材に、熱的なダメージを与えることなく、ほぼ均一に保護膜を形成することができる。
ところが、上記インクジェットヘッドにポリパラキシリレン膜を用いる場合以下のような問題がある。
上記ポリパラキシリレン膜は上述のように、複雑な形状のインクジェットヘッド内部にほぼ均一に成膜することが可能である。しかし、インクジェットヘッドに用いるPZTなどの圧電体は焼結されたセラミックであり、上記インクジェットヘッドを作成する際に、電極を形成する面が脱粒などによって微細な凹凸を有するいわゆる梨地状になり、カバー部材とベース部材を接着する際にそれぞれが当接しない部分の接着剤は微細な波打ち形状を呈することがある。このような下地にポリパラキシリレン膜を形成すると、巨視的には均一に膜形成されるが、微視的には下地の凹凸を反映して成長したポリパラキシリレン膜には微細な欠陥(ピンホール)が存在することがある。導電性粒子を含むインクや水性インクは絶縁性の高い油性インクと比較して、非常に高い電気伝導性を有するため、上記電極膜5と電気伝導性を有するインクを隔離する絶縁膜に、このような微細なピンホールが存在すると、ピンホールに浸入したインクを介して電極膜5が隣接するチャンネルの電極膜と導通し、電極膜に電解腐食が発生する。これによって、インクジェットヘッド動作中に吐出特性が変動する、あるいは電極膜の断線によってインクジェットヘッドに吐出不良が発生するといった、インクジェットヘッドの信頼性にかかる問題が生じる。
この問題に対し、ポリパラキシリレン膜成膜後ポリイミド樹脂を電着塗装でピンホールに選択的に塗装し、この後80℃で24時間焼成することで、ポリパラキシリレン膜の絶縁特性を改善する技術(例えば、特許文献4参照)が開示されているが、ポリイミド樹脂を電着するための設備が必要であるため製造コストが増加するとともに、長時間の焼成が必要になるため生産リードタイムが長くなり、生産性が低下するという問題があった。
また、構造式の異なるポリパラキシリレンまたはその誘導体の保護膜を2層積層して、また必要に応じて、第1の保護膜成膜後にプラズマ処理を行うことで、保護膜の絶縁特性を改善するという技術(例えば、特許文献5参照)が開示されている。しかし、この方法では、2層積層するため、第一の保護膜形成後に成膜チャンバを大気開放して真空を破り、第二の保護膜を形成する工程を経ることになり、第一の成膜工程と第二の成膜工程の間に水分吸着やダストおよび有機物による汚染にさらされることがあり、2層の保護膜界面での密着性の問題やダストによるピンホール発生などの問題から信頼性の高い2層保護膜を実現するためには、洗浄工程やプラズマ処理を行う必要があり、生産工数が大幅に増加するという問題や、洗浄およびプラズマ処理設備が必要になるため、製造コストが増加するという問題点があった。
また、構造式の異なるポリパラキシリレンまたはその誘導体の保護膜を同一装置で連続的に成膜し、被着体界面側よりも保護膜表面側でポリクロロパラキシリレンの組成比がポリパラキシリレンの組成比よりも高い保護膜を形成して、インクジェットヘッド内部への浸透性(付き回り性)の良いポリパラキシリレンをまず成膜して、インクジェットヘッド内部の膜厚を確保して保護膜のポンヒールを低減させて絶縁特性を改善する技術(例えば、特許文献6参照)が開示されている。
しかし、この方法では、成膜工程においてまずポリパラキシリレンを主に成膜した後に、成膜チャンバの真空を破らずにポリクロロパラキシリレンの成膜を行う必要があり、成膜チャンバには2つの昇華室と2つの熱分解炉が必要であり、さらに成膜工程中は、他方の反応性モノマーガスが拡散して成膜されてしまい、他方のダイマー原材料上で成膜されて他方のダイマーの昇華不備や、他方の熱分解炉表面に成膜された後に熱分解温度以上に昇温させた時に発塵することがあるため、双方の昇華室および熱分解炉は相互の成膜を防止できる一定温度以上に昇温状態に保持しておく必要があり、双方の成膜が完了するまでの長時間に亘り双方のヒーターを通電するため、装置の消費電力が増大してプロセスコストが増大する問題と、装置が大型化して装置コストが増大する問題に加えて、装置が複雑化して装置メンテナンス性が悪化して生産性に問題があった。
また、特許文献6にあるように被着体表面側にポリパラキシリレン組成比が高く、保護膜表面側にポリクロロパラキシリレン組成比が高い保護膜でも未だピンホールは存在し、絶縁性においても十分な信頼性レベルにある保護膜とは言えず、さらに芳香族系およびエーテル系有機溶媒等を含む産業用インクでは保護膜最表面のポリクロロパラキシリレンもしくはポリジクロロパラキシリレンの組成比率が高いため、インクの有機溶媒成分が保護膜中へ早期に浸入し、被着体表面ではポリパラキシリレンの組成比率が高いため、圧電材料基材であるインクジェットヘッドのインク流路のように凹凸のある被着体表面では、保護膜内に基材の凹凸形状に起因して形成されたピンホールが保護膜中に形成されているため、ポリクロロパラキシリレンもしくはポリジクロロパラキシリレンの組成比率が高い保護膜表面から侵入してきた有機溶媒がさらにポリパラキシリレン中のピンホールを伝って浸入し、インクジェットヘッドの接着剤等の構成部材を膨潤や溶解させるため、インクジェットヘッドを破損することがあった。
特公昭61−59914号公報 特公昭62−32112号公報 特開平04−259563号公報 特開2001−96754号公報 特開2000−71451号公報 特開2002−210967号公報
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであって、成膜装置が大型化および複雑化することなく、さらに消費電力の低減を達成した上で、十分な絶縁性および耐薬品性における信頼性を確保するための有機保護膜である。特に、電気装置部品としてのインクジェットヘッドに関しては、電解質溶液インクや導電性インクと電極膜とを隔離する保護膜の絶縁特性を向上すること、および有機溶媒を含むインクとインクジェットヘッド構成部材とを隔離する保護膜の耐薬品特性を向上することを実現した有機保護膜とその形成方法を提供するとともに、このような有機保護膜を用いることによって、吐出特性が安定したインクジェットヘッドを提供することを目的(課題)としている。
かくして、本発明によれば、ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンと、ポリパラキシリレンとを含有し、かつ、被着体の表面に成膜される耐薬品性および絶縁性を有する単層膜からなり、この単層膜が、被着体との接触面側の下層領域でポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの組成比率が高く、膜表面側の上層領域でポリパラキシリレンの組成比率が高い有機保護膜が提供される。
本発明は別の観点によれば、同一成膜装置内において、ジラジカルパラキシリレンとジラジカルモノクロロパラキシリレンおよび/またはジラジカルジクロロパラキシリレンをそれぞれラジカル重合させて、被着体の表面にポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンを含む下層領域を被着体の表面に形成し、かつ、前記下層領域上にポリパラキシリレンを含む上層領域を形成して単層膜からなる有機保護膜を成膜する有機保護膜の形成方法が提供される。
本発明はさらに別の観点によれば、上記の有機保護膜が被着体である電気装置部品における耐薬品性および/または絶縁性を要する所定被着表面に形成された有機保護膜付き電気装置部品が提供される。
被着体の表面に成膜される本発明の有機保護膜(単層膜)は、被着体側にポリモノクロロパラキシリレンもしくはポリジクロロパラキシリレンの組成比率が高い下層領域を有し、その上にポリパラキシリレンの組成比率が高い上層領域を有している。
ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンを主として含有する下層領域は、被着体表面に凹凸があった場合でもピンホールをつくることなく一様になだらかな層であり、ポリパラキシリレンを主として含有する上層領域は、平滑な下地としての下層領域上に形成されたピンホールのない層であって、有機溶剤に対する遮蔽効果が高い層であり、これら下層領域と上層領域を含んでなる単層膜は全体として絶縁性を有している。
つまり、本発明の有機保護膜によれば、被着体の表面にピンホールの無い絶縁性および耐薬品性に優れる保護膜を実現することができる。また、本発明の有機保護膜は、下層領域と上層領域は個別の膜を積層したものではなく、単層膜中におけるポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの組成比率が高い領域とポリパラキシリレンの組成比率が高い領域である。したがって、2つの膜を個別に形成して積層した場合の層間剥離の問題、積層する複数工程間でのダスト付着に起因するピンホール形成の問題、エアー、水分、有機汚染物等の保護膜中への混入による保護膜質のばらつきや信頼性劣化の問題もなく、安定した保護膜を実現することができる。
本発明の有機保護膜の形成方法によれば、下地の凹凸に影響されてピンホールをつくりやすいポリパラキシリレンを主として含有する上層領域の形成の前に、被着体表面に凹凸があった場合でもピンホールをつくることなく一様になだらかな成膜が可能であるポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの成膜を行うことによって、一様になだらかな保護膜下地を形成し、その後にポリパラキシリレンを成膜するため、ポリパラキシリレンにはピンホールが形成されない。よって、ピンホールの無い絶縁性に優れる単層膜(有機保護膜)を実現することができる。また同時に、保護膜最表面はポリパラキシリレンの組成比率が高いため、有機溶剤に対する遮蔽効果が高い保護膜を実現することができる。また、本発明の形成方法により得られた有機保護膜は、ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの組成比率が被着体側で高く、かつ、ポリパラキシリレンの組成比率が保護膜表面側で高い単層膜であり、積層膜ではないため、層間の密着性で問題になる層間剥離や、積層する複数工程間のダスト付着に起因するピンホール形成の問題、エアー、水分、有機汚染物等の保護膜中への混入による保護膜質のばらつきや信頼性劣化の問題も無く、安定した保護膜を形成することができる。
また、同一成膜装置内で有機保護膜の原材料を同時に加熱して有機保護膜を被着体表面に成膜することが可能である。この場合、出発原材料としてジパラキシリレン、モノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレンのようなダイマーを用いることができ、あるいはダイマーの素となるパラキシレン、モノクロロパラキシレンおよび/またはジクロロパラキシレンを用いることができる。本発明の有機保護膜の形成方法によれば、成膜装置において、このような出発原材料の昇華室(気化室)および熱分解炉は1つでよく、ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンが優先的に成膜された後にポリパラキシリレンが成膜された複合機能的な単層膜を形成する成膜装置であるにもかかわらず、成膜装置は大型化および複雑化することなく簡素で済み、装置の低コスト化とメンテナンス性の向上を図ることができる。また、成膜時の消費電力と生産コストも低減することができ、さらに生産リードタイムも短縮することができ、生産性向上が実現できる。
また、本発明の有機保護膜付き電気装置部品によれば、耐薬品性および絶縁性に優れ、膜厚ばらつきの無い安定した上記有機保護膜によって、例えば、インクジェットヘッド、半導体装置、液晶ディスプレイパネル、太陽電池パネル、MEMS(Micro Electro Mechanical System )等のデバイス、フレキシブル回路基板、ガラスエポキシ回路基板等の回路基板のごとき電気装置部品における耐薬品性および/または絶縁性を要する所定被着表面が保護されるため、電気絶縁および外部環境から保護を実現して、高い信頼性を有する有機保護膜付き電気装置部品を提供することができる。特に、インクジェットヘッドのインク流路内面へ有機保護膜を適用すれば、耐薬品性と絶縁性を同時に向上させた保護膜であるため、電気伝導性インクによる駆動電極の電解腐食や、有機溶媒インクによるインクジェットヘッド構成部材(接着剤等)の膨潤や溶解に起因するインクジェットヘッドの破損を効果的に防止することができ、インクジェットヘッドで使用できるインクの種類を拡大することができる。
本発明の有機保護膜は、ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンと、ポリパラキシリレンとを含有し、かつ、被着体の表面に成膜される耐薬品性および絶縁性を有する単層膜からなり、この単層膜が、被着体との接触面側の下層領域でポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの組成比率が高く、膜表面側の上層領域でポリパラキシリレンの組成比率が高いことを特徴とする。さらに詳しく説明すれば、下層領域に主として高い組成比率で存在するのはポリモノクロロパラキシリレンとポリジクロロパラキシリレンの少なくともどちらか一方であればよく、両方が混在していても構わない。
本発明において、有機保護膜にて表面保護する対象である被着体としての電気装置部品は、例えば、インクジェットヘッド、半導体装置、液晶ディスプレイパネル、太陽電池パネル、MEMS等のデバイス、フレキシブル回路基板、ガラスエポキシ回路基板等の回路基板が挙げられ、特に、インクジェットヘッドのインク流路内面への有機保護膜の形成に好適である。また、有機保護膜は、トランジスタやメモリ等を備える半導体装置では半導体装置内あるいは能動面表層での電極再配置を行うための配線引き回し用の絶縁層、ベアチップの能動面保護、パッケージング工程における封止もしくは回路基板への実装後の封止材料として形成され、液晶ディスプレイパネルや太陽電池パネルではパネル内部の絶縁層、パネル外部の保護膜あるいは電子部品実装後の封止材料として形成され、MEMSでは薬液を使用するデバイスの薬液流路あるいはデバイス内部の電気回路もしくは半導体素子部の絶縁層として形成され、フレキシブル回路基板やガラスエポキシ回路基板では電子部品等の実装後の封止材料として全体に形成され、それらの表面を保護することができる。
本発明の有機保護膜において、下層領域の厚さとしては1μm以上で、かつ、単層膜中のポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンが下層領域に組成比率80%以上で含有することが好ましい。特に、下層領域の厚さは1〜10μmで、かつ、単層膜中のポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンが下層領域に組成比率80〜100%で含有することが好ましい。下層領域がこのように構成されることにより、凹凸の激しい被着体表面にも一様になだらかなピンホールの無い下地層を安定に形成することができ、その結果、下地形状に影響されてピンホールをつくりやすいポリパラキシリレンを主に含有する上層領域の成膜において、ピンホールが無い均一な保護膜を形成することができるため、より安定した有機保護膜を実現することができる。また、ピンホールの無いポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの組成比率の高い下地層としては、1μm以上であれば民生用途および産業用途において実用上問題はなく、厚く成膜するほどより信頼性が向上するが、10μmを超える成膜は成膜工程時間の増加および成膜のための原材料コスト上昇により生産性に問題が残る。特に液体流路を有するデバイスへの適用においては、流路内の膜厚増加によって液体流路の断面積減少による大きな流路抵抗が発生してデバイスの特性不良を引き起こす問題(流路抵抗は流路断面積の2乗に効き、数十μm〜数百μmの流路サイズにおいて流路外周で10μmを超えるサイズダウンは流路抵抗への影響が大きい)や、流路抵抗増加を回避するために液体流路断面積を予め大きく設計し、液体流路アレイピッチを大きくせざるを得ないため、10μmを超える必要以上の成膜では、デバイスサイズの小型化が困難である。なお、下層領域は、上記厚さが1μmよりも小さい、あるいは上記組成比率が80%よりも小さいと、下層領域もしくは下層領域と上層領域の両方にピンホールが形成されやすくなり、かつ、十分な絶縁性および耐薬品性が得られない。
また、本発明の有機保護膜において、上層領域の厚さとしては1μm以上で、かつ、単層膜中のポリパラキシリレンが上層領域に組成比率80%以上で含有することが好ましい。特に、上層領域の厚さは1〜10μmで、かつ、単層膜中のポリパラキシリレンが上層領域に組成比率80〜100%で含有することが好ましい。上層領域がこのように構成されることにより、絶縁性および耐薬品性に優れ、膜質ばらつきの無い安定した有機保護膜を実現できる。特に、芳香族系有機溶媒やエーテル系有機溶媒などに対する遮蔽性がより向上し、有機溶媒に曝されるデバイスや回路基板等の被着体の保護をより効果的かつ確実に行い得る。ポリパラキシリレンの組成比率の高い上層領域は1μm以上であれば民生用途および産業用途において実用上問題はなく、厚く成膜するほどより信頼性が向上するが、デバイスサイズの小型化や生産性等の観点から、ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの組成比率の高い下地層と同様に10μm以下が望ましい。なお、上層領域は、上記厚さが1μmよりも小さい、あるいは上記組成比率が80%よりも小さいと、十分な絶縁性および耐薬品性が得られない。
本発明の有機保護膜の形成方法は、同一成膜装置内において、ジラジカルパラキシリレンとジラジカルモノクロロパラキシリレンおよび/またはジラジカルジクロロパラキシリレンを含有するラジカル混合物をラジカル重合させて、被着体の表面にポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンを含む下層領域を被着体の表面に形成し、かつ、前記下層領域上にポリパラキシリレンを含む上層領域を形成して単層膜からなる有機保護膜を成膜することを特徴とするものである。
さらに詳しく説明すれば、本発明の有機保護膜の形成方法は、有機保護膜の原材料の昇華速度差を利用することができ、昇華速度差によってポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンが優先的に成膜されて下層領域を形成し、次に、ポリパラキシリレンが成膜されて上層領域を形成することができる。すなわち、出発原材料として、ジパラキシリレン、モノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレンのようなダイマーを用い、これらを同時に加熱すればモノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレンがジパラキシリレンよりも速く昇華し、また重合に寄与するモノマーの割合(収率)も大きいため、昇華後に熱分解して生成されたジラジカルモノクロロパラキシリレンおよび/またはジラジカルジクロロパラキシリレンがジラジカルパラキシリレンよりも優先的に被着体表面に接触して重合することにより、被着体の表面に接触する下層領域の接触面はほぼ全面的にポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンで占められ、上層領域の表面(外面)はほぼポリパラキシリレンで占められる。この場合、成膜装置において、上記出発原材料としての各ダイマーの昇華室および熱分解炉はそれぞれ1つを共用することができ、装置構造を簡素化できる利点もある。
また、上記ダイマーの素となるパラキシレン、モノクロロパラキシレンおよび/またはジクロロパラキシレンを出発原材料として用いることも可能である。この場合、パラキシレンと、モノクロロパラキシレンおよび/またはジクロロパラキシレンを個別に加熱処理できる加熱室を有する成膜装置を用い、各加熱室でラジカル化し、先にジラジカルモノクロロパラキシリレンおよび/またはジラジカルジクロロパラキシリレンを被着体が設置された成膜室へ導入してポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンが主体の下層領域を形成し、その後、ジラジカルパラキシリレンを成膜室へ導入してポリパラキシリレンが主体の上層領域を形成することができる。しかし、簡素な構造の成膜装置で成膜を行える利点が得られることから、出発原材料としてはジパラキシリレン、モノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレンのようなダイマーが好ましい。
なお、本発明において、上記のような出発原料はパラ位置に塩素基を有するものであるが、オルト位置またはメタ位置に塩素基を有する出発原材料の使用も可能である。
本発明の有機保護膜の形成方法において、上述したように下層領域および上層領域をそれぞれ1μm以上の厚さで形成することが好ましく、特に1〜10μmの厚さでそれぞれ形成するのが好ましい。下層領域および上層領域を1μm以上の厚さで形成することにより、単層膜中のポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンが組成比率80%以上で下層領域に含有し、単層膜中のポリパラキシリレンが組成比率80%以上で上層領域に含有することができ、上述のように下層領域および上層領域にピンホールが形成されず、かつ、十分な絶縁性および耐薬品性が得られる。なお、下層領域および上層領域の厚さがそれぞれ1μmよりも小さいと、単層膜中のポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンが組成比率80%以上で下層領域に含有し難くなり、単層膜中のポリパラキシリレンが組成比率80%以上で上層領域に含有し難くなる。
ここで、本発明の有機保護膜の形成方法における実施の形態で用いられる成膜装置について説明する。図1は本発明の有機保護膜の形成方法における実施の形態で用いられる成膜装置の概略構成図である。この成膜装置は、出発原材料としてジパラキシリレン、モノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレンが用いられる場合の装置であり、図1に示すように、昇華加熱ヒーター17を具備する原材料昇華室18と、熱分解加熱ヒーター19を具備すると共にラジカル混合物を生成する熱分解炉20と、被着体を保持するホルダー(図示省略)を具備した成膜チャンバ21と、未反応のモノマーガスを冷却し捕捉する液体窒素22で冷却されたコールドトラップ23と、装置内を真空排気するロータリーポンプ24とを備え、昇華室18から排気手段まで直列して連通している。
昇華室温度を例えば160〜180℃程度とした場合、モノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレンの昇華速度は、ジパラキシリレンの昇華速度よりも数倍程度も速く、被着体温度やモノマーガス濃度等の成膜条件を一定にすれば、ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの成膜レート(原材料の膜厚重量比(単位厚さの成膜に必要な原材料重量(g/μm))は、ポリパラキシリレンの成膜レートの4倍程度である。このことから、ジパラキシリレンと、モノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレンの混合物原材料を昇華室に設置し、同時に加熱および熱分解して被着体への成膜を行った場合、ジラジカルモノクロロパラキシリレンおよび/またはジラジカルジクロロパラキシリレンの被着体表面への吸着および重合はジラジカルパラキシリレンに比して4倍以上の割合で優先的に行われ、被着体表面ではポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンを組成比率80%以上で含有する下層領域が形成可能である。したがって、表面に微小な凹凸を有する被着体であっても、安定して1μm以上の下層領域を確保できるだけの原材料(モノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレン)を昇華室に投入して成膜することで、ピンホールの無い安定したポリパラキシリレン(上層領域)成膜のための表面が平滑でピンホールの無い下地膜(ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの組成比率が高い下層領域)を形成することができ、しかも被着体との接触面(最下層領域)においてはモノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレンのみからなる(ポリパラキシリレンを含まない)膜が形成される。
また、ポリモノクロロパラキシリレンやポリジクロロパラキシリレンと比較して成膜レートがおよそ1/4であるポリパラキシリレンは成膜に寄与しない原材料が相対的に多いため、上層領域を下層領域とほぼ同じ厚さとするためには、原材料(ジパラキシリレン)の投入量をモノクロロジパラキシリレンもしくはジクロロジパラキシリレンの4倍程度にする必要がある。このことは上層領域の成膜に関して、およそ4倍の時間にさらに昇華速度差である数倍の昇華時間係数を乗じた時間を費やすことを意味し、同時に加熱、熱分解および成膜を実施しても、成膜初期はポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの成膜レート:1に対してポリパラキシリレンは成膜レート:1/4以下の割合で成膜される。したがって、ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの原材料の全てが昇華し尽くし下層領域が成膜された後の時間(総成膜時間の後半)は、主にポリパラキシリレンによる上層領域の成膜がなされるため、保護膜最表面のポリパラキシリレンの組成比率は非常に高く、保護膜最表面は100%に近く、ピンホールが無く、有機溶媒に対して遮蔽効果が高いポリパラキシリレン膜を形成することができる。
また、優先的にポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンを組成比率80%以上で含む1μm以上の下層領域を成膜後に、優先的にポリパラキシリレンを組成比率が80%以上で含む上層領域の成膜を確保するためには、単層膜としてトータル2μm以上の膜厚が必要である。例えば、ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの成膜厚の原材料重量レート:1g/μm(別の成膜実験から得られる1μmの成膜に対する原材料重量)に対して、ポリパラキシリレンの成膜厚の原材料重量レート:4g/μmである場合は、モノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレンを1gとジパラキシリレンを4g以上とを混合して同時昇華および同時熱分解および同時成膜工程を行うことで達成できることになる。また、従来の成膜方法のように成膜工程を複数回行った積層膜形成方法でないため、生産工数を低減できて生産性向上が図れ、成膜装置は大型化および複雑化することなく、生産装置の低コスト化と装置メンテナンス性に優れる。また、成膜時間に関しても同時成膜であるために短時間化を行うことができるため、生産リードタイムの短縮化による生産性向上および成膜装置の加熱時間の短縮化による工程における低消費電力と生産コストの削減が実現できる。
また、ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの優先的成膜と、ポリパラキシリレンの優先的成膜を行うに際して、下層領域中および上層領域中の各成分の組成比率を制御する方法は、それぞれの原材料の混合比を変えることによって制御する方法のほかに、被着体温度をヒーターの熱エネルギーや光エネルギーにより昇温させて成膜する方法、ペルチェ素子等を用いて被着体温度を降温させて成膜する方法、および、原材料への昇華加熱温度を変化させることにより昇華量を制御する方法によって、各成分の組成比率を制御するこができる。例えば、成膜工程前半の被着体温度を昇温することや、昇華加熱温度を低下させることで(例えば140℃での加熱昇華ではポリモノクロロパラキシリレンもしくはポリジクロロパラキシリレンの成膜に寄与するモノマーガス分圧が上昇)、さらにポリモノクロロパラキシリレンもしくはポリジクロロパラキシリレンの組成比率を上げることと同時に成膜工程後半のポリパラキシリレンの組成比率も上げることができ、より信頼性が高いポリパラキシリレン成膜の下地膜およびより耐薬品性、絶縁性の高いポリパラキシリレンを形成することができる。また、ペルチェ素子等を利用して成膜工程後半の被着体温度を下げることで、ポリパラキシリレンの成膜速度を向上させてプロセス時間を短縮させて生産性を向上させることもできる。以上の成膜条件調整および膜厚最大比率(ポリモノクロロパラキシリレンもしくはポリジクロロパラキシリレン層厚:ポリパラキシリレン層厚=1μm:10μm=1:10)を考慮すると、成膜に際して混合された原材料のジパラキシリレンと、モノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレンの混合モル比率は、ジパラキシリレン(モル数):モノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレン(モル数)=1:1〜1:72の範囲で混合して、膜構成を調整することができる。
以下、本発明による実施の形態を図1および図2を用いて詳細に説明する。
図2は、被着体であるインクジェットヘッドのインク室列に対して直交方向の部分断面図であり、インクジェットヘッド構造に関しては従来技術において図3で説明したものと同等である。
図2に示すように、このインクジェットヘッドは、上下方向に分極処理を施した圧電体に複数の溝を加工してインク室2が形成されたベース部材3とカバー部材6とが接着剤7で接着固定されている。また、隣接するインク室2の間のチャンネル壁4には、電界を印加するための電極5が上方半分に形成されている。インクジェットヘッドは、チャンネル壁4を挟んで向かい合う電極5に電界を印加すると、下方のチャンネル壁3が電極5の形成されている部分と形成されていない部分の境界でせん断モード駆動してチャンネル壁4が「く」の字に変形して、インク室2内でインクの圧力波を発生させることで、インクにエネルギーを付与し、図示しないノズル孔からインク液滴を吐出する構成である。
また、インク室2内には電極5、チャンネル壁3、カバー部材6および接着剤7等とインクとの接触を避けるために本発明の有機保護膜1が形成されている。有機保護膜1は、有機保護膜表面側から厚さ方向に約1μmまでの上層領域でポリパラキシリレンの組成比率が80%以上であり、インク室2内の被着体界面側から厚さ方向に約1μmまでの下層領域でポリモノクロロパラキシリレン(もしくはポリジクロロパラキシリレン)の組成比率が80%以上である単層膜であり、全体の膜厚は約2μmに設定している。このように、インク室2の内面にポリモノクロロパラキシリレン(もしくはポリジクロロパラキシリレン)の成膜を行うことによって、一様になだらかでピンホールの無い保護膜下地を形成し、その上にピンホールの無いポリパラキシリレンを成膜した単層膜とするため、表面にピンホールの無い絶縁性に優れる有機保護膜1を成膜することができ、導電粒子を含む電気伝導性を有するインクや電解質溶液である水性インクなどから電極5を絶縁保護することができる。また同時に、有機保護膜1の最表面はポリパラキシリレンの組成比率が高いため(ほぼ100%)、有機溶剤に対する高い遮蔽効果を得ることができ、芳香族系有機溶媒やエーテル系有機溶媒を含む産業用インクであっても有機保護膜1への浸入を防止し、接着剤7等の樹脂部材への有機溶媒の接触を回避することができ、インクジェットヘッドの構成部材の膨潤や溶解に起因するインクジェットヘッドの破損防止およびインクジェットヘッドに使用できるインクの種類を拡大することができる。
また、本発明の有機保護膜1は、上述したような下層領域と上層領域からなる単層膜であり、積層膜ではないため、層間の密着性で問題になる層間剥離や、積層する複数工程間のダスト付着に起因するピンホール形成の問題、またエアー、水分、有機汚染物等の保護膜中への混入による保護膜質のばらつきや信頼性劣化の問題もなく、安定した膜である。
次に、上述した図1の成膜装置を用いて図2のインクジェットヘッドのインク室内面に有機保護膜を成膜する方法を説明する。
まず、得ようとする有機保護膜は、全体の膜厚が2μmであり、有機保護膜表面側から厚さ方向に1μmまでの上層領域でポリパラキシリレンの組成比率が80%以上であり、インク室4内面との接触面から厚さ方向に1μmまでの下層領域でポリモノクロロパラキシリレンの組成比率が80%以上であるように設定するために、それぞれの膜の成膜レートを別の実験で予め求めておく必要がある。なお、本実施例ではポリモノクロロパラキシリレンを用いた場合を例示するが、これに替えてポリジクロロパラキシリレンを用いてもよく、同様の作用効果を得ることができる。
有機保護膜1の出発原材料には、ポリモノクロロパラキシリレンの膜厚1μmの成膜に必要な原材料(別の成膜実験から得られる膜厚1μmの成膜に対する原材料重量)であるモノクロロジパラキシリレン0.00368モル(1.00g)(ジクロロジパラキシリレンの場合は0.00368モル(1.25g))と、ポリパラキシリレンの膜厚1μmの成膜に必要な原材料(別の成膜実験から得られる膜厚1μmの成膜に対する原材料重量)であるジパラキシリレン0.0263モル(4.00g)を混合した混合物が用いられる。なお、モノクロロジパラキシリレンおよびジパラキシリレンは、それぞれ第三化成(株)製(純度99%)が用いられる。
成膜に際しては、先ず上記比率の混合物を成膜装置の昇華室18に設置すると共に、成膜チャンバ21内に被着体であるインクジェットヘッドを設置する。次に、ロータリーポンプ24を稼動させて、成膜装置内を0.1Pa以下の真空度まで排気し、かつ、熱分解ヒーター19を通電して熱分解炉20を約700℃まで昇温させて、成膜の準備を行う。次いで、成膜に寄与しなかったモノマーガスを排気せず捕捉するためと、バックグラウンド真空度を良くするために、コールドトラップ23に液体窒素22を投入する。
その後、昇華加熱ヒーター17を通電して、昇華室18内のモノクロロジパラキシリレンとジパラキシリレンの混合物を加熱し昇華させ、熱分解炉20まで拡散させて熱分解および熱励起されたジラジカルモノクロロパラキシリレンおよびジラジカルパラキシリレンを生成し、さらにこのラジカル混合物を成膜チャンバ21まで拡散させることにより、インクジェットヘッドの表面に接触するポリモノクロロパラキシリレンが主体の下層領域およびその上のポリパラキシリレンが主体の上層領域からなる単層膜としての有機保護膜1を形成する。
この成膜工程において、モノクロロジパラキシリレンの昇華速度はジパラキシリレンの昇華速度よりも数倍程度も速く、またポリモノクロロパラキシリレンの成膜レート(原材料の成膜厚重量比(単位厚さの成膜に必要な原材料重量(g/μm))は、ポリパラキシリレンの4倍程度である。そのため、ジラジカルモノクロロパラキシリレンの被着体表面への吸着および重合がジラジカルパラキシリレンの4倍以上の割合で優先的に行われており、下層領域における被着体表面ではポリモノクロロパラキシリレンの組成比率はほぼ100%であり、被着体表面から厚さ1μm以上の範囲内にはポリモノクロロパラキシリレンの組成比率は80%以上となっている。この結果、凹凸のある被着体であっても、ピンホールの無い安定したポリパラキシリレン成膜のための下地膜、すなわちポリモノクロロパラキシリレン組成比率の高い下層領域を形成することができる。
一方、ポリモノクロロパラキシリレンと比較して成膜効率(収率)がおよそ1/4と低いポリパラキシリレンの成膜においては、ポリモノクロロパラキシリレンと同じ厚さの成膜を行うためには、原材料のジパラキシリレンの混合比率をモノクロロジパラキシリレン(もしくはジクロロジパラキシリレン)のおよそ4倍にする必要がある。このことは成膜におよそ4倍の時間にさらに昇華スピード差である数倍の昇華時間係数を乗じた時間を費やすことを意味する。したがって、同時に加熱、熱分解および成膜を実施しても、成膜初期はポリモノクロロパラキシリレンの成膜レート:1に対してポリパラキシリレンの成膜レート:1/4以下の割合で成膜される。すなわち、ポリモノクロロパラキシリレンの原材料のすべてを昇華し尽くした後(総成膜時間の後半の時間)は、ポリパラキシリレンの組成比率が高い上層領域が形成される。上層領域において、成膜チャンバ内に残留したジラジカルクロロパラキシリレンの重合の影響から、ポリパラキシリレン組成比率は膜厚1μm以上であり被着体温度が常温近傍であれば80%以上を達成することができる。ポリパラキシリレンとポリモノクロロパラキシリレンをそれぞれ同じ膜厚設定ではなく、ポリパラキシリレンの方が厚くなるように原材料を多く投入することで、保護膜最表面のポリパラキシリレン組成比率をコントロールすることができる。ポリパラキシリレンの膜厚をポリモノクロロパラキシリレンのおよそ2倍以上になるように設定(本実施例条件では、モノクロロジパラキシリレン1gに対してジパラキシリレン8g以上を投入する)した場合に、保護膜最表面のポリパラキシリレンの組成比率は99%以上になる。このように、保護膜表面側の組成比率はそれぞれの投入原材料の混合比によってコントロールすることができ、保護最表面のポリパラキシリレンの組成比率が高いほど耐薬品性に優れる。また下地形状の影響を受け易いポリパラキシリレンは、ピンホールが無く平滑なポリモノクロロパラキシリレンの下地膜上にピンホール無しで安定的に成膜され、有機溶媒に対して遮蔽効果が高い有機保護膜を形成することができる。
また、ポリモノクロロパラキシリレンの膜厚1μm以上の優先的成膜後に、膜厚1μm以上で組成比率80%以上のポリパラキシリレンの優先的な成膜を確保するためには、トータル2μm以上の膜厚が必要であり、例えばポリモノクロロパラキシリレンの成膜厚の原材料重量レート:約1g/μmに対して、ポリパラキシリレンの成膜厚の原材料重量レート:約4g/μmである場合は、モノクロロジパラキシリレンを1g以上とジパラキシリレンを4g以上とを混合して同時昇華および同時熱分解および同時成膜工程を行うことで達成でき、有機保護膜表面のポリパラキシリレン比率の高い膜厚が厚いほど耐薬品性が高まり、より信頼性が高い有機保護膜となり、膜厚1μm以上では産業用および民生用インクジェットヘッドの他の要因(例えばインクジェットヘッドを構成する圧電材料自体のヘッド駆動による分極劣化、微小ノズルが形成されたノズルプレートの表面撥液性劣化等)に起因する製品寿命以上の性能を付加することができる。
(試験1)
組成比率が80%未満と80%以上で、かつ、膜厚0.5、1、1.5、2μmである8種類のポリモノクロロパラキシリレン評価用保護膜を、圧電材料基板(高低差数μm〜10μm程度の凹凸を有する表面形状)上に形成されたサイズ5cm×5cm、膜厚0.5μmのCu膜上に形成して8種類のサンプルを2枚づつ作製した。そして、電気伝導度が19.58S/mの水性インク中に5mmの間隔で同じ種類のサンプル同士を対向させて浸漬し、Cu膜を交流電源に配線を介して接続し、実効値で120V、60Hzの交流電圧を印加し、5cm角の面積でポリモノクロロパラキシリレン評価用保護膜のピンホールによるCu膜のエッチング(腐食)発生状況を調べた。
その結果、0.5μm厚さではどのサンプルの保護膜であっても膜厚不足によりピンホールが発生し、早期に電極腐食が発生し、実用レベルになかった。
また、膜厚1μm以上の保護膜に関しては、ポリモノクロロパラキシリレン組成比率が80%未満のものは数十時間〜100時間という早期に多数のピンホールによる電極腐食が発生し、ピンホールの無い平滑で緻密な膜ではなく、本発明におけるポリパラキシリレン成膜のための下地膜としては不適であることがわかった。一方、ポリモノクロロパラキシリレン組成比率が80%以上の保護膜は、長期間の電極保護の末にピンホールによる電極腐食が発生したが、本加速試験で250時間以上の保護時間を確保することができ、民生用および産業用インクジェットヘッドにかかる電極絶縁特性としては、十分なレベルであり、本発明におけるポリパラキシリレン成膜のための下地膜としては好適であることがわかった。
なお、試験1において、ポリモノクロロパラキシリレンに替えてポリジクロロパラキシリレンについても同様に評価用保護膜を形成し、同様の絶縁特性評価試験を行った結果、ポリモノクロロパラキシリレンと同様の結果であった。
(試験2)
ポリパラキシリレン組成比率による耐薬品性の評価を行うために以下のようにサンプルを作製した。
モノクロロジパラキシリレンおよびジパラキシリレンを別々に昇華させて成膜チャンバ内のそれぞれのモノマーガス分圧比率をコントロールできる別の成膜装置を用いて、表面が平滑で鏡面状のポリカーボネイト基板上に、ポリモノクロロパラキシリレンとポリパラキシリレンをそれぞれ膜厚0.5、1、1.5、2μmで形成して評価用保護単層膜のサンプル(膜厚1、2、3、4μmの単層膜のサンプル)を作製した。このとき、膜厚毎にポリパラキシリレンの組成比率が80%未満のものと80%以上のものを作製したので、サンプル数は8枚である。
次に、芳香族系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒およびアルキル系有機溶媒を含む混合溶媒に各サンプルを浸漬(60℃加速試験)し、ポリカーボネイトが混合溶媒に接触した場合に変質して白化する現象を利用して有機溶媒の浸入の有無について調べた。
その結果、単層膜の膜厚が1μmのサンプルでは何れも膜厚不足による有機溶媒の遮蔽効果不足とピンホール発生(ポリカーボネイト表面に斑点状の白化現象を確認)があり、実用レベルになかった。
また、単層膜の膜厚が2μm以上のサンプルに関しては、何れもピンホールによる不良は認められなかったが、ポリパラキシリレン組成比率が80%未満の保護膜はどのサンプルも早期に有機溶剤が保護膜中に浸透し、ポリカーボネイト表面が徐々に白濁して全面が白化する不良モードが発生した。一方、ポリパラキシリレン組成比率が80%以上の保護膜は、どのサンプルも長期間のポリカーボネイト保護の末に全面白化に至ったが、60℃での加速試験で30日以上の保護時間を確保することができ、産業用インクジェットヘッドにかかる耐有機溶剤特性としては、十分なレベルであった。
なお、試験2において、ポリモノクロロパラキシリレンに替えてポリジクロロパラキシリレンについても同様に評価用保護膜を形成し、同様の有機溶媒耐性評価試験を行った結果、ポリモノクロロパラキシリレンを用いた場合と同様の結果であった。
(試験3)
試験1と同様のCu膜上に、表1に示すような膜を形成してサンプル1〜14を作製し、絶縁特性評価を行った。なお、表1において、Cはポリモノクロロパラキシリレンを表し、Nはポリパラキシリレンを表し、括弧内の数字は膜厚(単位μm)を表す。また、サンプル1〜4(比較例)はポリモノクロロパラキシリレンまたはポリパラキシリレンの1層膜であり、サンプル5〜10(比較例)はポリモノクロロパラキシリレンとポリパラキシリレンとを積層した2層膜であり、サンプル11と12(比較例)は下層領域に組成比率80%以上でポリパラキシリレンが成膜され、かつ、上層領域に組成比率80%以上でポリモノクロロパラキシリレンが形成された単層膜であり、サンプル13と14(本発明)は下層領域に組成比率80%以上でポリモノクロロパラキシリレンが成膜され、かつ、上層領域に組成比率80%以上でポリパラキシリレンが成膜された単層膜である。なお、サンプル11と12については、昇華室を2つ備える図示しない成膜装置を用いて作製した。
これらのサンプル1〜14について、試験1と同様の絶縁特性評価方法を行い、24時間後、250時間後および500時間後の腐食数(ピンホールが原因と考えられる点状の欠陥箇所数)を目視により数え、その結果を表1に示した。
Figure 2006159858
(試験4)
試験2と同様のポリカーボネイト基板上に、表2に示すような膜を形成してサンプル15〜28を作製し、有機溶媒耐性評価を行った。なお、表2において、Cはポリモノクロロパラキシリレンを表し、Nはポリパラキシリレンを表し、括弧内の数字は膜厚(単位μm)を表す。また、サンプル15〜18(比較例)はポリモノクロロパラキシリレンまたはポリパラキシリレンの1層膜であり、サンプル19〜24(比較例)はポリモノクロロパラキシリレンとポリパラキシリレンとを積層した2層膜であり、サンプル25と26(比較例)は下層領域に組成比率80%以上でポリパラキシリレンが成膜され、かつ、上層領域に組成比率80%以上でポリモノクロロパラキシリレンが形成された単層膜であり、サンプル27と28(本発明)は下層領域に組成比率80%以上でポリモノクロロパラキシリレンが成膜され、かつ、上層領域に組成比率80%以上でポリパラキシリレンが成膜された単層膜である。なお、サンプル25と26については、昇華室を2つ備える図示しない成膜装置を用いて作製した。
これらのサンプル15〜28について、試験2と同様の有機溶媒耐性評価方法を行い、ポリカーボネイトの白化現象出現時間および不良モードを確認し、その結果を表2に示した。
Figure 2006159858
(試験3の評価結果)
表1に示す絶縁性評価結果から、比較サンプルも含めてサンプル3と4(ポリパラキシリレンのみの保護膜)以外では、良好な結果であると言える。本評価では、加速された通電テストであって250時間以上の絶縁特性が保持できれば、インクジェットヘッドの15〜25V駆動での圧電材料の寿命(インク滴吐出スピードの初期からの変化率が10%未満で10E12ドロップ以上の吐出が可能:表中の○記号)を十分に満足することを別の実験で求めており、民生用および産業用インクジェットヘッドの十分な絶縁特性を有すると判断することができる。また、ポリパラキシリレンのみの電極保護で問題が起こった原因は、圧電材料基板のPZTなどの圧電材料粒界が約5μmであり、脱粒や粉砕されて圧電材料表面には凹凸が存在し、被着体表面形状に影響を受けやすいポリパラキシリレンの成膜過程において多数のピンホールが形成されていることがあげられる。また、サンプル2および10のようにポリモノクロロパラキシリレンを4μm以上成膜することで、非常に優れた絶縁特性を示すことがわかったが、後に述べる耐薬品性の観点からは十分ではなく、特に高い有機物溶解性を示す有機溶媒を含む産業用インクなどを扱うインクジェットヘッドには不適な保護膜であると言える。
なお、試験3において、ポリモノクロロパラキシリレンに替えてポリジクロロパラキシリレンについても同様に評価用保護膜を形成し、同様の試験を行った結果、ポリモノクロロパラキシリレンを用いた場合と同様の結果であった。
(試験4の評価結果)
次に、表2の有機溶媒耐性評価結果からは、試験用基材であるポリカーボネイトの有機溶媒の接触による変質に伴う白化現象を利用して、保護膜による有機溶媒の遮蔽効果と有機溶媒の保護膜中への浸入メカニズムを観察することができるものである。表2において、◎、○、△、×記号は、産業用インクジェットヘッドにおいて消耗品であるインクジェットヘッドの交換頻度と耐久試験の加速係数を鑑みて設定した良否判定した結果であり、本試験において10日未満で白化現象が出現した場合は×記号で表し、10〜20日未満での白化は△記号で表し、20〜30日未満での白化は○記号で表し、30日以上での白化は◎記号で表している。○記号の結果ならばインクジェットヘッドへの影響はないと判断でき、◎記号の結果ならば安全係数を十分確保して良と判断できるレベルである。
サンプル15および16の結果は、早期の不良発生が観察され、ポリモノクロロパラキシリレンはピンホールが無くても有機溶媒の膜中への浸入性が高いと言える。また、不良モードとしてポリカーボネイトの全面が一様に徐々に白濁して白化現象が観察されたため、ポリモノクロロパラキシリレンは芳香族系有機溶媒やエーテル系有機溶媒に接することで膨潤しながら膜中に有機溶媒が浸入し、有機溶媒が最終的に基材に達すると考えられる。そのため、基材が有機溶媒に溶解や膨潤する接着剤などの樹脂材料であれば、不具合を起こす危険性がある。インクジェットヘッドでは、いたるところに接着剤を利用してヘッド製造を行っている。例えば、チャンネル壁とカバー部材との接着に用いる接着剤はアクリル系接着剤やエポキシ系接着剤を採用しており、本来は比較的耐薬品性が高い材料ではあるが、インクジェットヘッドでは圧電材料の劣化を引き起こす高温での接着剤硬化プロセスを採用できないため、低温硬化に起因する接着剤の硬化率低下やTg低下が原因で、有機溶媒にさらされると早期に接着剥離等の不具合を生じ、インクジェットヘッドの破損につながる。よって、有機物溶解性の高い有機溶媒を含む産業用インクを用いるインクジェットヘッドでは、ポリモノクロロパラキシリレンのみの保護膜構成では問題がある。
また、サンプル17および18は、ポリパラキシリレンのみの保護膜構成であるが、この場合は早期にピンホールから有機溶媒が侵入してポリカーボネイトまで浸透し、不良を出している。表1の絶縁特性評価結果でも同様にピンホールが原因の不良が観察されているが、有機溶媒に対する遮蔽性についても、同様に基材の凹凸形状に影響されて膜中にピンホールが形成されていると考えられる。耐薬品性についても、ポリパラキシリレンのみの保護膜では問題があることがわかる。
一方、サンプル19、20、21および27、28では、被着体表面はポリモノクロロパラキシリレンで成膜されて基材表面の凹凸を平滑化した後に、下地形状の影響から発生するピンホールを形成すること無しに保護膜最表面側でポリパラキシリレンを成膜した保護膜であるため、有機溶媒の遮蔽効果が高い結果になった。
また、サンプル22、23、24では、下地のポロパラキシリレンにはピンホールを含み、保護膜最表面のポリモノクロロパラキシリレンは一様に有機溶媒が侵入および膨潤するため、内膜のポリパラキシリレンに有機溶剤が接してピンホールを伝って基材に達した結果、白化現象を生じている。
またサンプル25および26では、被着体表面ではポリパラキシリレン比率が高く、保護膜表面ではポリモノクロロパラキシリレンの比率が高い単層膜であるが、保護膜表面側はポリモノクロロパラキシリレン構造が支配的で有機溶媒が比較的侵入し易い構成であり、被着体表面ではポリパラキシリレン構造が支配的でピンホールを形成し易い構成であるため、耐薬品性については問題があった。
なお、試験4において、ポリモノクロロパラキシリレンに替えてポリジクロロパラキシリレンについても同様に評価用保護膜を形成し、同様の試験を行った結果、ポリモノクロロパラキシリレンを用いた場合と同様の結果であった。
表1および表2の結果を総合して保護膜を判断すると、基材にまずポリモノクロロパラキシリレンを膜厚1μm以上で成膜した後に、ポリパラキシリレンを膜厚1μm以上で成膜した積層膜、および基材界面側の下層領域にポリモノクロロパラキシリレンを1μm以上で成膜し、その後上層領域にポリパラキシリレンを膜厚1μm以上で成膜した単層膜が、絶縁特性および耐有機溶媒特性の双方に優れることがわかった。しかし、2層積層膜の場合は、層間の密着性で問題になる層間剥離や、積層する複数工程間のダスト付着に起因するピンホール形成の問題、またエアー、水分、有機汚染物等の保護膜中への混入による保護膜質のばらつきや信頼性劣化の問題があるため、2度の成膜工程の間に洗浄工程やプラズマ処理工程を必要とし、生産工数の増加により生産性に問題がある。一方、優れた絶縁特性および耐薬品特性を示す本発明の複合機能的な単層保護膜は簡素な工程で製造することができるため、生産性の向上も実現できる。
なお、本発明は実施例によって限定されるものではなく、絶縁特性および耐湿、耐薬品性を望むその他のデバイスや回路基板に適用することもでき、同様の特性を発揮して、デバイスもしくは回路基板の信頼性向上を実現することができる。
本発明の有機保護膜の形成方法における実施の形態で用いられる成膜装置の概略構成図である。 本発明における被着体であるインクジェットヘッドのインク室列に対して直交方向の部分断面図である。 従来の一般的な剪断モードを利用したインクジェトヘッドの構造を示す断面図である。
符号の説明
1 有機保護膜
2 インク室
3 ベース基材
4 チャンネル壁
5 電極
6 カバー部材
7 接着剤
8 インク供給口
9 共通インク室
10 ノズル孔
11 ノズル板
12 インク室後端部
13 平坦部電極
14 駆動用IC
15 IC電極
16 Alワイヤ
17 昇華加熱ヒーター
18 昇華室
19 熱分解加熱ヒーター
20 熱分解炉
21 成膜チャンバ
22 液体窒素
23 コールドトラップ
24 ロータリーポンプ

Claims (10)

  1. ポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンと、ポリパラキシリレンとを含有し、かつ、被着体の表面に成膜される耐薬品性および絶縁性を有する単層膜からなり、
    この単層膜が、被着体との接触面側の下層領域でポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンの組成比率が高く、膜表面側の上層領域でポリパラキシリレンの組成比率が高いことを特徴とする有機保護膜。
  2. 下層領域の厚さが1μm以上であり、単層膜中のポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンが下層領域に組成比率80%以上で含有する請求項1に記載の有機保護膜。
  3. 下層領域の厚さが1μm以上であり、単層膜中のポリパラキシリレンが上層領域に組成比率80%以上で含有する請求項1または2に記載の有機保護膜。
  4. 請求項1〜3の何れか1つに記載の有機保護膜が、被着体である電気装置部品における耐薬品性および/または絶縁性を要する所定被着表面に形成されたことを特徴とする有機保護膜付き電気装置部品。
  5. 電気装置部品が、インクジェットヘッド、半導体装置、液晶ディスプレイパネル、太陽電池パネル、MEMS、フレキシブル回路基板またはガラスエポキシ回路基板である請求項4に記載の有機保護膜付き電気装置部品。
  6. 有機保護膜が、インクジェットヘッドのインク流路内面に形成されている請求項5に記載の有機保護膜付き電気装置部品。
  7. 同一成膜装置内において、ジラジカルパラキシリレンとジラジカルモノクロロパラキシリレンおよび/またはジラジカルジクロロパラキシリレンをそれぞれラジカル重合させて、被着体の表面にポリモノクロロパラキシリレンおよび/またはポリジクロロパラキシリレンを含む下層領域を被着体の表面に形成し、かつ、前記下層領域上にポリパラキシリレンを含む上層領域を形成して単層膜からなる有機保護膜を成膜することを特徴とする有機保護膜の形成方法。
  8. 下層領域および上層領域をそれぞれ1μm以上の厚さで形成する請求項7に記載の有機保護膜の形成方法。
  9. ジパラキシリレンと、モノクロロジパラキシリレンおよび/またはジクロロジパラキシリレンを所定比率で混合した混合物を同一成膜装置内に設置し、該混合物を加熱分解して、ジラジカルパラキシリレンとジラジカルモノクロロパラキシリレンおよび/またはジラジカルジクロロパラキシリレンを含有するラジカル混合物を生成する請求項7〜9の何れか1つに記載の有機保護膜の形成方法。
  10. 混合物は、ジパラキシリレンとモノクロロジパラキシリレンまたはジクロロジパラキシリレンがモル比1〜72:1で混合したものである請求項7〜9の何れか1つに記載の有機保護膜の形成方法。
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