本発明は溶融金属を貯留する容器から、浸漬ノズルを介して冷却鋳型に注入して金属塊を製造する溶融金属の連続鋳造方法に関し、さらに詳しくは、溶融金属に分散している非金属介在物あるいは金属間化合物などの不溶性物質を形成する原因となる物質を導電性耐火物に集積させて効率良く分離し、除去できる溶融金属の連続鋳造方法に関するものである。
一般に、溶融金属を、その貯留容器から浸漬ノズルを介して冷却鋳型に注入して金属塊を製造する際には、溶融金属中に分散している非金属介在物あるいは金属間化合物などの不溶性物質が溶融金属とともに冷却鋳型に流入することが多い。この時、冷却鋳型に流入した不溶性物質は金属塊に残留し、金属塊を製品に加工する過程において製品欠陥の原因となることが多いので、不溶性物質、あるいは不溶性物質を形成する原因となる物質を貯留容器で除去し、冷却鋳型に流入させない技術が求められている。
例えば、溶融金属を冷却鋳型に注入して金属塊を製造する際には、取鍋に貯留された溶融金属は、取鍋ロングノズルなどを介して溶融金属の貯留容器に供給され、貯留容器内を浸漬ノズルまで流動により移動し、浸漬ノズルを通過して冷却鋳型に注入される。このとき、溶融金属中には、不溶性物質や不溶性物質形成の原因となる物質、貯留容器に吹き込まれる気泡、取鍋スラグなどの異物が含まれる。以下の説明においては、これらの異物を総称して「不溶性物質」と記す場合がある。不溶性物質を含む溶融金属が冷却鋳型内に供給されると、金属塊を製品に加工する過程において、前記の不溶性物質が製品欠陥の原因となることが多い。特に、近年、高品質の製品が求められており、溶融金属中に混在している不溶性物質を除去するための技術向上が要求されている。
従来、不溶性物質を貯留容器で除去し、冷却鋳型に流入させない技術として、ガス吹き込みによる浮上分離方法、フィルターによる捕捉方法、堰を用いた流動制御による浮上分離方法、電磁力を用いた流動制御による浮上分離方法などが提案されている。しかし、いずれも不溶性物質の除去が不充分である。
例えば、貯留容器の底部から多孔質の耐火物を介してArガスなどの不活性ガスを吹き込んで貯留容器内の溶融金属に上昇力と攪拌力を付与し、不溶性物質の肥大化・凝集を図りつつその浮上分離を促進するガス吹き込みによる浮上分離方式としては、電磁力と組み合わせた技術がある。特許文献1には、ガス吹き込みによる浮上分離とガスの気泡径制御とを組み合わせた方法が開示されており、溶融金属へのガスの吹き込み、および、この溶融金属に交流電流を印加して、溶融金属中に発生するガスの気泡径を制御することが記載されている。この方法により、不溶性物質の肥大化・凝集を図りつつその浮上分離を促進できるとされている。
フィルターによる捕捉方式は、貯留容器内の溶融金属の流路の一部に耐火物製のフィルターを設置して不溶性物質を捕捉する方式である。この技術にも、電磁力と組み合わせた方法があり、特許文献2、特許文献3などに開示された方法などが公知である。特許文献3には、貯留容器を溶融金属を受け入れる受湯部と、受湯部内の溶融金属を鋳型へ供給するための給湯部、およびこれらを接続する通流路に静磁場発生装置を備え、この通流路に静磁場を印加して不溶性物質を浮上除去する方法が開示されている。また、この通流路の軸方向に、埋め込んだ導電性耐火物(ZrB2)を介して直流電流を印加し、不溶性物質の浮上除去効果を促進する方法が記載されている。
堰を用いた流動制御による浮上分離では、貯留容器内に溶融金属の自由な流動を制限することを目的として、一般に複数の堰を設けて、上昇流や層流を形成して不溶性物質の浮上分離を促進する。
電磁力を用いた流動制御による浮上分離は、貯留容器の両側に配設した磁石を用いて、溶融金属の流れと直交する方向に静的な磁場を印加して、溶融金属の流れと逆向きの方向の電磁制動力を発生させることにより、流れを均一化および層流化して介在物などの浮上分離を促進するものであり、その基本技術は特許文献4に、また、改良技術は特許文献5に、それぞれ開示されている。また、溶融金属の流路に沿って直流電流を流し、かつ流路に交差する方向に静的な磁場を印加して、溶融金属に作用する重力を実質的に増加させ、不溶性物質を溶融金属の表面に向けて浮上、分離させるなどの方法が特許文献6、特許文献7、特許文献8などに開示されている。
上記の公知の技術には、以下に示す多くの問題が認められており、工業規模においてそれ程有用な技術にはなっていない。
すなわち、ガス吹き込みによる浮上分離技術においては、高価な不活性ガスが多量に必要なこと、気泡が溶融金属から離脱するときに飛沫を生じ、貯留容器に溶融金属が付着固化すること、攪拌力が強い場合には、浮上した不溶性物質が再び溶融金属に巻き込まれること、および、吹き込みガスが微細な気泡となって自ら不溶性物質になるという問題がある。
また、フィルターによる捕捉技術においては、微細な介在物をも除去しようとすれば、フィルターの細孔径を小さくしなければならないため、閉塞しやすくなり、長時間の使用ができなくなること、貯留容器の内部にフィルターを設置することから貯留容器の熱間再使用ができなくなることなどの問題がある。
堰を用いた流動制御による浮上分離技術においても、貯留容器内に堰を設置することから、貯留容器の熱間再使用ができないという問題がある。また、効果的な上昇流を形成するために適切な設置場所を選択する必要があり、その選択が難しいこと、溶鋼の温度差による熱対流の影響を受けやすいことなども問題である。
電磁力を用いた流動制御による浮上分離技術では、貯留容器内に装置などを設置する必要がないため、貯留容器の再使用ができるという利点がある。また、浮上した介在物の再巻き込みが生じ難いという長所もある。しかし、不溶性物質を特定の方向に移動させるために、極めて一様な向きの静磁場や一様な向きの直流電流を印加する必要があり、このことが大規模な装置を必要とする一因となり、設備費用に見合った効果が得られるか否かの問題がある。能力不足または不十分な規模の装置を用いた場合には、一様な電磁力を貯留容器に発生させることができず、その結果、電磁攪拌が顕著となって、不溶性物質が溶融金属とともに流動し、不溶性物質の分離が困難になって冷却鋳型に流入するという問題がある。
特開平5−306418号公報(特許請求の範囲および段落[0008])
特許第3357886号公報(特許請求の範囲および段落[0005])
特開2002−346709号公報(特許請求の範囲および段落[0009]〜段落[0012])
特開昭63−140745(特許請求の範囲および2頁左上欄)
特開平4−71759号公報(特許請求の範囲および2頁左上欄〜右上欄)
特開平6−47506号公報(特許請求の範囲および段落[0010])
特開平8−281392号公報(特許請求の範囲および段落[0015])
特許第2788397号公報(特許請求の範囲および段落[0010])
前述のとおり、溶融金属に混在する不溶性物質の除去技術の向上が求められているが、従来の不溶性物質の除去技術には下記の問題が残されている。すなわち、(1)ガス吹き込みによる浮上分離技術においては、高価な不活性ガスが多量に必要であり、また、攪拌力が強い場合には、浮上した不溶性物質が再び溶融金属に巻き込まれる。(2)フィルターによる捕捉技術の場合においては、フィルターが閉塞しやすく、長時間の使用ができない。(3)堰を用いた浮上分離技術においては、貯留容器の熱間再使用ができず、また、堰の適切な設置場所を決定するのが難しい。(4)電磁力を用いた流動制御による浮上分離技術では、極めて一様な向きの静磁場や一様な向きの直流電流を印加する必要があり、そのための設備費用が嵩む。
本発明は、上述した従来の連続鋳造方法の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、溶融金属を貯留容器から浸漬ノズルを介して冷却鋳型に注入して金属塊を製造するなどの際に、溶融金属中に分散する非金属介在物あるいは金属間化合物などの不溶性物質を形成する原因となる物質を効率的に溶融金属から分離、除去する方法を提供することにある。
特に、本発明は、周期的に変化する電圧を導電性耐火物を介して溶融金属に印加することにより、現行の鋳造方法に適用した場合においても溶融金属の高い品質が確保され、また、安価な設備費と容易な設備調整および保守のもとに、貯留容器内の溶融金属から不溶性物質を高い効率で分離除去し、極めて高い清浄度の溶融金属を冷却鋳型に供給することのできる連続鋳造方法を提供することを目的としている。
本発明者は、上述の課題を解決するために、従来提案されている不溶性物質の除去方法において生じている現象を注意深く観察し、下記の(a)〜(g)に示す知見を得た。
(a)従来の方法の欠点は、不溶性物質の大きさに対して、不溶性物質の除去手段が対象とする物質粒子の大きさが大きく、不溶性物質の粒子サイズに適合していないことにあった。
(b)金属の一例である鉄鋼材料は、一般に転炉または電気炉により溶融および精錬された後、必要に応じて二次精錬工程を経て造塊法または連続鋳造法による凝固操作を経て鋳片となり、さらに熱間圧延を経て圧延鋼材とされる。この一連の過程において、溶鋼中には酸素が溶解することから、この溶解酸素を除去するために、Al、Siなどの酸素との親和力の大きい元素を用いて脱酸される。
(c)上記の脱酸操作により、溶鋼中にAl2O3、SiO2などの脱酸生成物が生成される。また、溶融金属が貯留容器内をノズルに向かって移動する過程で溶融金属の温度が低下することなどに起因して酸素の溶解度が下がるために、酸素がAl、Siなどの不純物元素と結合した形態の不溶性物質が形成される。不溶性物質の大部分は、取鍋、タンディッシュなどの貯留容器において溶融金属から浮上して、分離および除去されるが、一部の不溶性物質は、浮上できずに溶融金属中に残存する。この不溶性物質が鋳造過程において金属塊に取り込まれ、製品欠陥の一因となる。
(d)上記(c)の事実から、従来の流動制御のようなマクロ的な流動制御ではなく、不溶性物質生成の一因となる酸素イオンの移動をミクロな電気化学反応を利用して制御することにより、不溶性物質を、電極機能を有する不溶性物質吸着具に吸着させ、捕集することができる。
(e)すなわち、溶融金属の貯留容器内または溶融金属の貯留容器内および溶融金属の貯留容器の近傍に配置された酸素イオン伝導性耐火材などから成る2つ以上の互いに絶縁された電極に電圧を印加して、該酸素イオン伝導性耐火材を介して溶融金属に通電することにより、酸素イオン伝導性耐火材から溶融金属に向かって酸素の輸送が促進され、溶融金属と酸素イオン伝導性耐火材との界面近傍における酸素イオン伝導性耐火材中の酸素イオン密度が高まり、該界面における耐火材中の酸素ポテンシャルが高まる。このため、該界面での新たな不溶性物質を形成する原因物質の付着が促進され、その結果として、溶融金属中における不溶性物質を形成する原因となる物質は減少するものと推察される。
(f)しかしながら、上記(e)の考え方に基づいて溶融金属中に含まれる不溶性物質を不溶性物質吸着具により捕獲しようとすると、酸素イオン伝導性耐火物自体が溶損し、酸素イオン伝導性耐火物自体が新たな不溶性物質源となり、その結果、溶融金属の汚染が高まるおそれがある。この点を確認するため、酸素イオン伝導性耐火物の分解を防止しつつ、不溶性物質の捕獲を可能とする適正条件を探索することを兼ねて、電流密度条件を変更して不溶性物質の捕獲試験を行った。その結果、不溶性物質吸着具の溶解現象を防止することはできず、しかも、電極機能を有する不溶性物質吸着具への不溶性物質捕獲効果は認められなかった。
(g)そこで、酸素イオン伝導性耐火物の通電機構を再検討した。安定化ジルコニア(ZrO2)などの酸素イオン伝導体内では、主として酸素イオンによって電荷が運ばれるが、電子による伝導も存在し、これらの割合は酸素イオン伝導体の種類、安定化の程度、使用温度などによって変化すると推察される。
従来提案されている方法に対して得られた上記の知見(a)〜(g)に基づいて、溶融金属中に含まれる不溶性物質を不溶性物質吸着具により効率的に捕獲できる電圧の印加方法を検討し、さらに下記の(h)〜(n)の知見を得て本発明を完成させた。
(h)酸素イオン伝導体の性質を有する導電性耐火物において酸素イオンの運動を制御するためには、電子の存在を考慮する必要がある。
(i)荷電粒子である酸素イオン(O2-)と電子(e-)の電気運動に関わる特性の相違の一つは比電荷にある。酸素イオン(O2-)と電子(e-)の比電荷(単位質量当たりの電荷量)はそれぞれ、1.2×107C(クーロン)/kgおよび1.76×1011C/kgであることから、同じ強さの電場を印加した場合には、概略、比電荷の比に相当する割合で、すなわち、電子の方が酸素イオンに比べて1.5×104倍速やかに移動する。 (j)よって、比電荷の違いによる荷電粒子の運動の差異を発現できるように電場を形成することにより、溶融金属と導電性耐火物との境界面近傍の耐火物内に、酸素イオンが取り残されるとともに、酸素イオンと電子とが同符号の電荷を有することに基づくクーロン力による反発作用により、境界面近傍の耐火物内の酸素イオンの密度を高めることが可能となり、酸素イオンの運動を電子の運動と分離して制御することが可能になると推察される。
(k)しかしながら、時間とともに変化しない電場を印加した場合には、酸素イオンと電子とは同じ符合の電荷を有するので、運動領域の同じ境界に集積する。このため、時間とともに変化しない電場を印加しても、酸素イオンの運動を電子の運動から分離して制御することはできない。
(l)上記(h)〜(k)の検討により、酸素イオンの運動を電子の運動から分離して制御するためには、印加する電場の強さを時間とともに変化させる必要のあることが判明した。
(m)この時、電場を形成する電圧の時間変化の波形f(t)が、時間軸についての反転操作および時間軸方向への並進操作の組み合わせにより、前記操作前の波形と全く重なり合う場合、つまり、一致する場合は、酸素イオンの運動を電子の運動から分離して制御することはできない。
すなわち、時間変化する電圧の波形をf(t)としたとき、時間tを(−t+α)に置換しても電圧波形が不変、つまり、時間変化する周期τの電圧波形f(t)に対して、任意の時間0≦t≦τにおいて、下記(1)式の関係を満足する少なくとも1個の定数αが存在するときは、酸素イオンの運動と電子の運動を時間平均すると、両者は、同じ時間平均運動を示し、酸素イオンの運動を電子の運動から分離して制御することができない。
f(t)−f(−t+α)=0 ・・・・(1)
(n)したがって、酸素イオンの運動を電子の運動から分離して制御するためには、電場を形成する電圧の時間変化の波形f(t)が、時間軸についての反転操作および時間軸方向への並進操作の組み合わせにより前記操作前の波形と重なり合わないこと、つまり、一致しないことが必要である。
すなわち、酸素イオンの運動を電子の運動から分離して制御するためには、時間変化する電圧の波形f(t)に対して、時間tを(−t+α)に置換しても波形が一致することのない波形の電圧、つまり、時間変化する周期τの電圧波形f(t)に対して、任意の時間0≦t≦τにおいて、上記(1)式の関係を満足する定数αが存在しない波形の電圧を印加する必要がある。
本発明は、上記の知見および検討結果に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)および(2)に示す溶融金属の連続鋳造方法にある。
(1)溶融金属を貯留する容器から浸漬ノズルを介して冷却鋳型に注入して金属鋳塊を連続鋳造する方法であって、溶融金属の貯留容器内または溶融金属の貯留容器内および溶融金属の貯留容器の近傍に、溶融金属に接しかつ互いに電気的に絶縁された少なくとも2つの導電性耐火物を配置し、溶融金属を介して前記導電性耐火物の間に電圧を印加するに際し、前記導電性耐火物のうちの任意の2つの導電性耐火物間で測定される電圧が時間とともに周期的に変化するとともに、前記周期的に変化する電圧波形が、波形の時間についての反転操作および時間についての並進操作を行うことにより前記操作前の電圧波形と一致することのない波形であり、かつ、前記印加する電圧の時間変化の最大値が10V/s以上および/または電圧の時間変化の最小値が−10V/s以下であり、さらに、電圧の時間変化の周期が0.1ms以上10s以下である波形の電圧を印加することを特徴とする溶融金属の連続鋳造方法。
(2)溶融金属を貯留する容器から浸漬ノズルを介して冷却鋳型に注入して金属鋳塊を連続鋳造する方法であって、溶融金属の貯留容器内または溶融金属の貯留容器の近傍に、溶融金属に接しかつ電気的に絶縁された導電性耐火物を配置するとともに、前記溶融金属にプラズマ発生装置を用いてプラズマを供給し、溶融金属を介して前記導電性耐火物とプラズマとの間に電圧を印加するに際し、前記導電性耐火物と前記プラズマとの間で測定される電圧が時間とともに周期的に変化するとともに、前記周期的に変化する電圧波形が、波形の時間についての反転操作および時間についての並進操作を行うことにより前記操作前の電圧波形と一致することのない波形であり、かつ、前記印加する電圧の時間変化の最大値が10V/s以上および/または電圧の時間変化の最小値が−10V/s以下であり、さらに、電圧の時間変化の周期が0.1ms以上10s以下である波形の電圧を印加することを特徴とする溶融金属の連続鋳造方法。
本発明において、「導電性耐火物」とは、溶融金属を取り扱う温度域において、酸素イオン伝導体および電子伝導体としての性質を有する耐火物を意味し、具体的な耐火物としては、アルミナグラファイト系耐火物、ホウ化ジルコニウム系耐火物、酸化ジルコニウム系耐火物などが該当する。
「溶融金属の貯留容器内または溶融金属の貯留容器内および溶融金属の貯留容器の近傍」とは、電圧を印加する導電性耐火物を全て貯留容器内に設ける場合、または、一方の導電性耐火物を貯留容器内に設け、他方の導電性耐火物を浸漬ノズル、取鍋の浸漬管など、貯留容器の近傍に設ける場合を意味する。
本発明の方法によれば、溶融金属を貯留容器から浸漬ノズルを介して冷却鋳型に注入して金属鋳片を製造するなどの際に、溶融金属中に分散する非金属介在物あるいは金属間化合物などの不溶性物質を形成する原因となる物質を溶融金属から効率的に分離および除去することができる。特に、本発明は、周期的に変化する電圧を導電性耐火物を介して溶融金属に印加することにより、安価な設備を用い、簡単で容易な設備調整および保守のもとに、貯留容器内の溶融金属から不溶性物質を高い効率で分離除去し、清浄度の極めて良好な溶融金属を鋳型内に供給できるので、高い経済性のもとに高清浄度の金属鋳片を連続鋳造できる。
本発明は、前記のとおり、貯留容器内または貯留容器内およびその近傍の溶融金属に導電性耐火物を介して電圧を印加するに際し、電圧が時間とともに周期的に変化するとともに、その電圧波形が、時間についての反転操作および時間についての並進操作を行うことにより操作前の電圧波形と一致することのない波形であり、かつ、印加する電圧の時間変化の最大値が10V/s以上および/または電圧の時間変化の最小値が−10V/s以下であり、さらに、電圧の時間変化の周期が0.1ms以上10s以下である電圧を印加することにより、溶融金属中の不溶性物質を導電性耐火物からなる不溶性物質吸着具に吸着させて除去する溶融金属の連続鋳造方法である。
さらに、本発明は、一方の導電性耐火物の代替としてプラズマ供給装置により発生させたプラズマビームを用いる溶融金属の連続鋳造方法である。
以下に、本発明の方法についてさらに詳細に説明する。
(A)不溶性物質の分離除去機構
図1は、本発明の方法に用いる溶融金属供給部の装置構成を例示する縦断面図である。
同図において、取鍋1に貯留された溶融金属2は、取鍋ロングノズル3を介して適宜、貯留容器4の内部に供給される。貯留容器4の下部には供給孔5が設けられており、溶融金属2は、供給孔5を通り、流量制御機能を持つスライディングゲート6によりその流量を制御された後、浸漬ノズル7を介して、ノズル吐出孔8から冷却鋳型9内に注入される。溶融金属2は、冷却鋳型9からの抜熱作用により鋳型との接触部から凝固殻11を形成し、下方に引き抜かれて金属鋳片20となる。なお、同図中の符号10はモールドパウダーを示す。
貯留容器4内では、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12が溶融金属2と接触するが、取鍋ロングノズル3とは電気的に概略絶縁された状態で配置されている。ここで、電気的に概略絶縁された状態とは、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12と取鍋ロングノズル3との間に電圧を印加した際に流れる電流の大部分が溶融金属2を通過して流れることを意味する。
本発明の方法に用いる図1に示された溶融金属供給部では、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12の対極として取鍋ロングノズル3を用いた例を示しているが、対極は貯留容器4の近傍に配置されていれば良く、必ずしも取鍋ロングノズル3に限定することはない。例えば、取鍋1の浸漬管、浸漬ノズル7などであっても差し支えないし、さらには、貯留容器4の加熱を行うプラズマ供給装置(プラズマトーチ)を対極として用いてもよい。また、対極の数は、1個に限定する必要はなく、2個以上の複数であっても構わない。同様に、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12は、必ずしも貯留容器4内の溶融金属2に浸漬する形式である必要はなく、溶融金属2に接触させて配置されていれば良いのであって、例えば、貯留容器4の壁の一部であっても構わない。電極を兼ねる不溶性物質吸着具12の数は複数であっても構わない。
電源13、電圧制御部14、取鍋ロングノズル3、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12は、電気配線15で結合されており、取鍋ロングノズル3と電極を兼ねる不溶性物質吸着具12との間に時間変化する任意波形の電圧を印加または/および印加しないことが可能である。ここで、「および」とは電圧を印加する時間と印加しない時間が混在していることを意味し、「印加しない」とは「電気配線15を電気的に開放させること」または「0Vの電圧を印加する、すなわち、短絡させること」を意味する。
貯留容器4の底部付近から、不活性ガス16を貯留容器4内の溶融金属2に吹き込み、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12の表面に向かって溶融金属2を流動させ、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12と不溶性物質17との衝突頻度を高めることが望ましい。なお、不活性ガス16の吹き込みは、溶融金属2に対して流動を与える一つの手段であり、その他、電磁攪拌などの流動付与手段を用いても構わない。
電極を兼ねる不溶性物質吸着具12は、溶融金属2が存在する条件において、電気伝導性を有することが必要であり、例えば、アルミナグラファイト系、ホウ化ジルコニウム系、酸化ジルコニウム系などの材質がこれに該当する。電極を兼ねる不溶性物質吸着具12の対極である取鍋ロングノズル3などについても、例えば、アルミナグラファイト系、ホウ化ジルコニウム系、酸化ジルコニウム系などの導電性を有する材料の使用が適切である。また、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12は、貯留容器4の近傍において脱着可能であることが望ましい。
図2は、本発明の対象外となる電圧波形の例を示す図であり、同図(a)は直流定常波形の場合を、同図(b)は正弦波形の場合をそれぞれ示す。本発明の方法において、複数の電極を兼ねる不溶性物質吸着具12または複数の取鍋ロングノズル3などの対極から構成される装置を用いる場合は、そのうちの電極を兼ねる不溶性物質吸着具12と取鍋ロングノズル3などの任意の組み合わせを対象として、時間変化する電圧を印加する。
同図(a)において、電圧とは電極を兼ねる不溶性物質吸着具12と取鍋ロングノズル3との間の電圧を表し、直流とは電流が一方向に流れることを意味し、さらに定常とは電圧が時間とともに変化しないことを意味する。この波形の場合には、f(t)=const(一定)と表記できるので、任意の定数αに対して常に下記(1)式が成立する。
f(t)−f(−t+α)=0 ・・・・(1)
したがって、同図(a)に示される電圧波形は、本発明の対象外の電圧波形である。
上記図2(a)に示す波形の電圧を印加した場合は、電圧を印加後の初期には、電子と酸素イオンの比電荷の差異に起因して電子の方が高い移動度を示すが、やがて、電子と酸素イオンは、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12の概略同じ界面に集積して、酸素イオンの特性が電子の特性の影響を受けることとなる。したがって、不溶性物質17の挙動に関与する酸素イオンのみの運動を制御し、その特性を発現させることができない。その結果、不溶性物質17を、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12に円滑に吸着させることができない。
図2(b)は、正弦波形を有する電圧を印加した場合である。この場合も、電圧とは電極を兼ねる不溶性物質吸着具12と取鍋ロングノズル3との間の電圧を意味する。この波形の場合には、f(t)=sin(t)と表記でき、1周期、すなわち、0≦t≦2πにおいて常に、下記(1)式が成立する定数α=πが存在する。
f(t)−f(−t+α)=0 ・・・・(1)
したがって、同図(b)に示される波形の電圧を印加した場合は、電子と酸素イオンの比電荷の差異に起因して電子の方が高い移動度を示す。しかし、不溶性物質17の付着および除去のような時間平均した現象に対しては、電子と酸素イオンの時間平均した位置は同位置となるので、不溶性物質17の挙動に関与する酸素イオンのみの運動を制御し、その特性を発現させるはできない。その結果、不溶性物質17を、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12に円滑に吸着させることができない。
図3は、電極を兼ねる不溶性物質吸着具と対極の導電性耐火物との間に印加する本発明の対象となる電圧波形の例を示す図であり、同図(a)は交流の電圧波形の例を、同図(b)は正電圧波形の例を、同図(c)は負電圧波形の例を、そして同図(d)は交流の別の電圧波形の例をそれぞれ示す。同図(a)〜同図(d)に示される電圧波形の場合には、前記(1)式の関係が成立する定数αが存在しない。
図4は、前記図3に示された電圧波形に対して、時間軸についての反転操作および時間軸に沿っての並進操作を施した電圧波形を示す図であり、同図(a)は図3(a)に示される交流波形1について時間反転および時間並進操作を施した電圧波形を表し、同図(b)は図3(d)に示された交流波形2について時間反転および時間並進操作を施した電圧波形を表す。
上記の図3(a)に示された交流波形1と図4(a)に示された電圧波形との比較、および、図3(d)に示された交流波形2と図4(b)に示された電圧波形との比較から明らかなとおり、両者の電圧波形は重ならない。すなわち、前記(1)式の関係が成立する定数αが存在しない。同様に、図3(b)に示された正電圧波形および図3(c)に示された負電圧波形も、時間反転および時間並進操作を施した後の電圧波形と重なることはなく、したがって、前記(1)式の関係が成立する定数αは存在しない。
前記図3(a)に示される電圧波形では、電圧変化の最大値および最小値は、それぞれ、例えば、a点およびb点において認められる。この例は、電圧の時間変化の最大値の絶対値が、電圧の時間変化の最小値の絶対値よりも小さい場合を示している。本発明の方法においては、不溶性物質17を、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12に円滑に吸着させるためには、電圧変化の最大値および最小値に数値条件が存在することを見出した。
この数値条件とは、電圧の時間変化の最大値が10V/s以上および/または電圧の時間変化の最小値が−10V/s以下である。電圧変化の最大値および最小値に数値条件が存在することは、電子と酸素イオンの比電荷の差に起因する荷電粒子の運動の差が、この数値条件を満足するときに効果的に発現されることを意味している。
前記図3(b)に示された正電圧波形および同図(c)に示された負電圧波形の場合においても、不溶性物質17を、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12に円滑に吸着させるためにの電圧変化の最大値および最小値について、同図(a)に示された電圧波形の場合と類似の数値条件が存在する。また、図3(d)に示された交流波形2は、電圧の時間変化の最大値の絶対値が電圧の時間変化の最小値の絶対値よりも大きい場合の例を示しており、電圧の時間変化に対して、その最大値が10V/s以上および/または最小値が−10V/s以下の場合に、不溶性物質17を、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12に円滑に吸着させることができる。
さらに、本発明では、不溶性物質17を、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12に円滑に吸着させるためには、電圧波形の周期に対して所定の時間条件が必要であることを見出した。前記図3(a)〜(d)に示す電圧波形f(t)においては、下記(2)式の関係を満足する周期τが存在する。
f(t)=f(t+τ) ・・・・(2)
ここで、上記(2)式における周期τが下記(3)式の関係を満足する場合に、不溶性物質17を、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12に円滑に吸着させることができることを見出した。
0.1ms(ミリセカンド)≦τ≦10s ・・・・(3)
適正周期に下限値が存在する理由は、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12と溶融金属2との界面に酸素イオンが配列するには、最低限の時間が必要だからである。また、適正周期に上限が存在するのは、前述のとおり、直流定常波形の場合に不溶性物質17の吸着効果が認められないことと対応しており、電圧周期が長い場合には、酸素イオンの運動と電子の運動とを分離できないからである。
図5は、不溶性物質吸着具と溶融金属との界面近傍に酸素イオンを集積させ、不溶性物質を吸着させる状況を模式的に説明するための図である。同図は、一例として、導電性耐火物により構成された不溶性物質吸着具12と、対極としての取鍋ロングノズル3との間に電圧を印加する場合について示したものである。電圧制御部14と、不溶性物質吸着具12および取鍋ロングノズル3との間は、それぞれ電気配線15により電気的に接続されており、電圧制御部から両者間に電圧が印加される。
印加される電圧波形が、前記(1)式の関係が成立する定数αの存在しない波形、すなわち、電圧波形が時間についての反転操作および時間についての並進操作を行うことにより操作前の波形と一致することのない、すなわち、完全には重ならない波形であり、かつ、印加する電圧の時間変化の最大値が10V/s以上および/または電圧の時間変化の最小値が−10V/s以下であり、さらに、電圧の時間変化の周期が前記(3)式の関係を満足する電圧波形の場合に、不溶性物質吸着具12と溶融金属2との界面近傍の不溶性物質吸着具12内に酸素イオン(O2-)が集積する。つまり、前述のとおり、周期的に変化する電場により、酸素イオンの運動が電子の運動から分離され、酸素イオンが不溶性物質吸着具12と溶融金属2との界面近傍の不溶性物質吸着具12内に取り残されて、これが集積して酸素ポテンシャルが高くなるのである。
その結果、Al、Si、Mnなどのように溶融金属中に存在し、不溶性物質を形成する原因となる物質の元素イオン(図5では、アルミニウムイオンを例示)が不溶性物質吸着具12の近傍に吸着され、溶融金属中における不溶性原因物質の元素イオン濃度が低下する。したがって、清浄度の高い溶融金属が冷却鋳型内に供給され、不溶性物質濃度の極めて低い金属鋳片を製造することができる。
(B)発明の実施の形態および発明の範囲の限定理由
本発明の連続鋳造方法において規定した構成要件の必要理由、および数値限定の理由などについて以下にさらに説明を加える。
1)電圧波形が具備すべき非対称性に関する特性
本発明を実現するのに有効な電圧波形は、時間変化する元の電圧波形に対して時間についての反転操作および時間についての並進操作を行った後の電圧波形を、元の電圧波形と比較することにより、その波形を限定することができる。
電圧波形は、一般に定電圧と、定電圧に対して時間変動する項との和により表すことができる。定電圧の部分は、酸素イオンと電子をそれぞれ一様に移動させる作用を有する。しかし、溶融金属2と、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12との界面には接触抵抗が存在するので、界面における酸素イオンと電子の密度とを高めたり、または低下させたりする作用は存在するものの、酸素イオンの運動を電子の運動から分離して制御する作用は存在しない。したがって、酸素イオンの運動を電子の運動から分離して制御する作用を検討する場合には、電圧の時間変動部分のみをその対象とすればよい。
前記のとおり、電圧波形が不溶性物質17の分離および除去に対して効果を有するためには、酸素イオンの運動を電子の運動から分離して制御する必要がある。本発明は、上記の効果を発現させるためには、電場を印加することによって、酸素イオンあるいは電子に発生する力の時間微分が、正の加速度域および負の加速度域において、それぞれ異なる絶対値を有する必要があることを見出して、完成されたものである。この条件は、換言すれば、電場を形成する電圧の時間変化の波形が、時間についての反転操作と時間についての並進操作との組み合わせによってできる波形と一致しないことである。
すなわち、酸素イオンの運動を制御するためには、時間変化する周期τの電圧波形f(t)に対して、任意の時間0≦t≦τにおいて、下記(1)式の関係を満足する定数αが存在しない電圧波形の電圧を印加することが必要である。
f(t)−f(−t+α)=0 ・・・・(1)
2)電圧の時間変化の最大値および最小値に関する数値限定
酸素イオンの運動を電子の運動から分離して制御するためには、電場を印加することによって、酸素イオンあるいは電子に発生する力の時間微分の特性が重要であることを上記1)において説明した。上記1)においては、力の時間微分の非対称性について説明したので、さらに、その絶対値について説明する。
本発明は、電場を印加することによって、酸素イオンまたは電子に発生する力の時間微分を所定値以上あるいは所定値以下に調整することが必要であることを見出した。この値は電圧で表すと、電圧の時間変化の最大値が10V/s以上および/または電圧の時間変化の最小値が−10V/s以下であることに相当することが判明した。電子(e-)と酸素イオン(O2-)との比電荷の比は、約1.5×104であり、電圧の時間変化に最大値と最小値が存在することは、比電荷だけでは酸素イオンの運動を電子の運動から分離して制御することが難しく、酸素イオンあるいは電子に作用する力の時間変化をも考慮する必要があることを意味する。
なお、電圧の時間変化の最大値を10V/s以上とするか、または最小値を−10V/s以下とするかのいずれか一方の条件を満足させるようにしてもよい。その理由は、溶融金属2と電極を兼ねる不溶性物質吸着具12との界面に向かって酸素イオンを移動させる場合に、電子を遅らせて移動させる現象を促進してもよいし、あるいは、該界面から酸素イオンと電子とを離反させる場合に、電子を選択的に離反させ、酸素イオンが残留する現象を利用してもよいからである。
3)電圧の時間変化の周期に関する数値限定
時間変化する電圧の周期τには適正な範囲が存在する。その数値範囲は、すでに述べたとおり、下記(3)式により表される。
0.1ms≦τ≦10s ・・・・(3)
適正周期に下限が存在するのは、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12と溶融金属2との界面に酸素イオンが配列するためには一定の時間が必要だからである。また、適正周期に上限が存在するのは、直流定常波形に近い波形の場合に不溶性物質17の吸着効果が認められないことと対応しており、電圧周期が長い場合は、酸素イオンの運動を電子の運動から分離できないからである。
4)本発明を実施するための他の態様
本発明の連続鋳造方法を実施するための他の態様を下記の図6〜図9に示す。
図6は、本発明の方法を実施するための第2の装置構成を模式的に示す縦断面図である。同図の例は、導電性耐火物により構成された不溶性物質吸着具12の対極として、取鍋ロングノズル3に替えてプラズマトーチを用い、不溶性物質吸着具12とプラズマ発生装置18との間に電圧を印加する例である。
同図に示す態様の場合においても、前記図1において説明したのと同様に、本発明で規定した条件を満たす波形を有する電圧を印加することにより、酸素イオンを溶融金属2と不溶性物質吸着具12との界面近傍の不溶性物質吸着具の耐火物内に集積させて、酸素ポテンシャルを高めることができる。その結果、溶融金属中に存在するAl、Si、Mnなどの不溶性物質17を不溶性物質吸着具12に吸着させ、清浄度の高い溶融金属を冷却鋳型中に供給することができる。
図7は、本発明の方法を実施するための第3の装置構成を模式的に示す縦断面図である。
同図の例は、不溶性物質吸着具12の対極として、取鍋浸漬管19を用いた例である。
図8は、本発明の方法を実施するための第4の装置構成を模式的に示す縦断面図である。
同図の例は、溶融金属の貯留容器4の壁の一部を導電性耐火物からなる不溶性物質吸着具12で構成し、その対極としてプラズマトーチを採用した例である。
図9は、本発明の方法を実施するための第5の装置構成を模式的に示す縦断面図である。
同図の例は、不溶性物質吸着具12の対極として、導電性耐火物により構成された浸漬ノズル7の一部または全部を用い、不溶性物質吸着具12と浸漬ノズルに設けた電極21との間に電圧を印加する例である。
本発明の溶融金属の連続鋳造方法による効果を確認するため、以下に示す試験を行い、その結果を評価した。
(実施例1)
〔試験方法〕
試験には、垂直曲げ型連続鋳造機を用い、Alにより脱酸した溶融金属を使用して、厚さ270mm、幅1600mmの鋳片を製造した。試験に用いた溶融金属の成分組成を表1に示す。
垂直曲げ型連続鋳造機に使用する貯留容器4には、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12が配置されており、最大300t(トン)の溶鋼を貯留できる取鍋1から取鍋ロングノズル3を通して、最大200tの溶鋼を貯留できる貯留容器4内に溶融金属2を供給した。電極を兼ねる不溶性物質吸着具12と取鍋ロングノズル3は、主成分がアルミナグラファイトの耐火物で構成されている。両耐火物と電圧制御部14とは電気配線15により接続されており、この電気配線を通じて両耐火物に電圧を印加した。アルミナグラファイトを主成分とする耐火物は、黒鉛:22質量%、SiO2:12質量%を含有し、残部がアルミナおよび不純物からなるものを用いた。なお、取鍋ロングノズルは外径200mmおよび内径100mmのものを用い、溶鋼中の浸漬深さは500mmとした。
また、溶融金属2を攪拌する目的で、貯留容器4の底部から、3〜5NL/minの流量で、Arガスなどの不活性ガス16を貯留容器4内に収容されている溶融金属2中に吹き込んだ。
貯留容器4の底部には、スライディングゲート6が、そして、スライディングゲート6の下部には浸漬ノズル7が設置されており、貯留容器4内の溶融金属2は、スライディングゲート6の開度調整によりその流量を調整された後、浸漬ノズル7内を流下し、吐出孔8から冷却鋳型9内に供給された。浸漬ノズル7は、内径が90mmであり、下向き35度の2つの吐出孔を有するものを用いた。
連続鋳造の際には、1ヒートが約270tの溶融金属2を、6ヒート連続して鋳造した。なお、貯留容器4内の溶融金属2の過熱度は20〜30℃、鋳造速度は1.5〜1.8m/minとした。
取鍋ロングノズル3と電極を兼ねる不溶性物質吸着具12との間には、取鍋ロングノズルまたはプラズマトーチにおける電位を基準として±20Vの範囲内で時間とともに変化する電圧を印加した。この時、電流は±120Aの範囲内で変動した。
鋳造試験においては、図3(a)〜(d)に示す電圧波形に類似した時間変化する電圧波形、ならびに、図2(a)に示した直流定常波形および同図(b)に示した正弦波形の電圧を印加した。表2に、印加した電圧の周期、正電圧および負電圧の印加時間、電圧変化の最大値および最小値、電圧の変化範囲を示した。
試験番号1は、図3(a)に示す電圧波形(交流波形1)に類似した本発明の電圧波形を有する交流電圧を印加した試験である。電圧変化の周期τは100msであり、正電圧となる時間帯と不電圧となる時間帯が混在し、電圧の時間変化の最大値は100V/sであり、最小値は−400V/sである。試験番号1の電圧波形は、電圧の時間変化の最大値の絶対値が電圧の時間変化の最小値の絶対値より小さい特徴を有する。
また、試験番号2は、図3(b)に示す電圧波形に類似した電圧波形、すなわち、常に正電圧の範囲内で時間変化する本発明の波形を有する電圧を印加した試験である。試験番号1の電圧波形と同様に、周期τは100msであり、電圧の時間変化の最大値は100V/sであり、最小値は−400V/sである。
試験番号3は、図3(c)に示す電圧波形に類似した電圧波形、すなわち、常に負電圧の範囲内で時間変化する本発明の波形を有する電圧を印加した試験例である。周期τは100msであり、電圧の時間変化の最大値は100V/sであり、最小値は−400V/sである。
試験番号4は、図3(d)に示す電圧波形(交流波形2)に類似した本発明の電圧波形を有する交流電圧を印加した試験である。電圧変化の周期τは100msであり、正電圧となる時間帯と不電圧となる時間帯が混在し、電圧の時間変化の最大値は400V/sであり、最小値は−100V/sである。試験番号4の電圧波形は、電圧の時間変化の最大値の絶対値が電圧の時間変化の最小値の絶対値より大きいという特徴を有する。
試験番号7は、不溶性物質吸着具の対極をプラズマトーチとして、前記試験番号1と同一の電圧波形を有する電圧を印加した試験である。
一方、試験番号5は、第一の比較例として、図2(a)に示される直流定常波形に類する電圧を印加した試験である。
試験番号6は、第二の比較例として、図2(b)に示される正弦波形に類する通常の交流電圧を印加した試験である。
〔評価方法〕
前記の鋳造試験が終了した後、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12を回収し、単位時間および単位面積当たりの不溶性物質17の付着量を測定した。
本発明の効果は、不溶性物質吸着具の溶融金属との接触界面における不溶性物質吸着速度(付着速度)(g/cm2・h)および製品における表面疵の発生率(%)により評価した。不溶性物質吸着速度は、連続鋳造の間に不溶性物質吸着具に吸着され付着した不溶性物質を、通電停止後に回収し、不溶性物質の質量を不溶性物質吸着具の表面積(cm2)および溶融金属への通電時間(h)により除して求めた。
また、連続鋳造により得られた鋳片を、厚さ4〜6mmの鋼帯に熱間圧延し、さらに、酸洗を経て、厚さ0.8〜1.2mmの鋼帯に冷間圧延し、冷延鋼帯の表面疵発生率を調査した。なお、鋼帯の表面疵発生率は、鋼帯の表面疵の発生有無を目視により調査し、表面疵が発生した部分をその長さだけ切断し、切断した合計の長さを冷間圧延長さにより除して、表面疵発生率(%)とした。
〔試験結果〕
表2に、印加した電圧の波形条件と併せて、試験結果としての不溶性物質付着(吸着)速度および製品における表面疵の発生率を示した。同表の結果から、下記のことがわかる。
試験番号1〜4および7は、本発明で規定する範囲を満足する本発明例についての試験であり、試験番号5および6は、本発明で規定する条件を満足しない比較例についての試験である。
試験番号5は、定電圧を印加して鋳造した比較例についての試験である。電極を兼ねる不溶性物質吸着具12自体が一部溶損し、不溶性物質17の付着速度が遅く、その結果、製品における表面疵の発生率が8.2%と高い値を示し、劣った製品品質となった。
試験番号6は、電圧波形が時間についての反転操作および時間についての並進操作を行っても不変な正弦波電圧を印加した比較例についての試験である。O2-イオンの存在確率の高い位置と電子の存在確率の高い位置とが概略一致するので、不溶性物質17の付着速度が遅く、その結果、製品における表面疵の発生率は9.6%と高く、製品品質は劣ったものとなった。
これらに対して、試験番号1および4は、本発明で規定する範囲を全て満足する本発明例についての試験である。時間についての反転操作および時間についての並進操作に対して不変ではない(すなわち、操作後の電圧波形が操作前の電圧波形と重ならない)正弦波に近い波形を有する電圧を印加したので、O2-イオンの存在確率が高い位置と電子の存在確率が高い位置とが一致せず、したがって、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12と溶融金属2との界面近傍における不溶性物質吸着具の耐火物内において、O2-イオンの存在確率を高め、酸素ポテンシャルを上昇させることが可能である。
その結果、不溶性物質17の付着速度が増大し、製品における表面疵の発生率も、それぞれ、1.4%および0.7%と低い値を示し、良好な製品品質が得られた。
特に、電圧変化の最大値の絶対値が電圧変化の最小値の絶対値よりも大きい波形の電圧を印加した試験番号4の場合に、表面疵の発生率が一層低い値を示した。
試験番号2および3も、本発明で規定する範囲を全て満足する本発明例についての試験である。時間についての反転操作および時間についての並進操作に対して不変ではない正弦波に近い電圧に、定電圧を加算した電圧を印加しているので、O2-イオンの存在確率が高い位置と電子の存在確率が高い位置とが一致せず、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12と溶融金属2との界面近傍における不溶性物質吸着具の耐火物内において、O2-イオンの存在確率を高めることが可能である。
したがって、不溶性物質17の付着速度が速く、その結果、製品における表面疵の発生率は、それぞれ、1.1%および0.8%と低い値を示し、製品品質は良好であった。試験番号2では正の電圧の範囲内で、また、試験番号3は負の電圧の範囲内で電圧を変化させているが、電圧の極性により、表面疵の発生率は若干異なっている。
試験番号7は、対極をプラズマトーチとして、試験番号1と同一の波形の電圧を印加した本発明例についての試験である。試験番号1の場合と同様に、O2-イオンの存在確率が高い位置と電子の存在確率が高い位置とが一致せず、したがって、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12と溶融金属2との界面近傍における不溶性物質吸着具の耐火物内において、O2-イオンの存在確率を高め、酸素ポテンシャルを上昇させることが可能である。しかも、プラズマアークを電極として用いているため、試験番号1のような対極の耐火物電極の溶損がなく、製品における表面疵の発生率は1.3%であって、試験番号1における発生率よりも低く、高い品質の製品が得られた。
(実施例2)
さらに、電圧波形が、前記図3(a)示した波形に類似し、かつ電圧が正になる時間帯と負になる時間帯とが混在している波形の電圧を印加して、試験番号8〜12の5種類の試験を行った。この一連の試験に共通する条件は以下に示したとおりである。
1)電圧の時間変化の周期:100ms
2)1周期における正の電圧の印加時間:50ms
3)1周期における負の電圧の印加時間:50ms
4)電圧変化の最大値:100V/s
5)電圧変化の最小値:−400V/s
6)電圧の変化範囲:−5V〜5V
7)電極を兼ねる不溶性物質吸着具の材質:アルミナグラファイト耐火物。
また、対極の種類を含めて変化させた試験条件を表3に示した。
試験番号8は、対極に取鍋ロングノズル3を、また、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12には脱着可能で貯留容器4内の溶融金属2に浸漬した耐火物を用いた。電極を兼ねる不溶性物質吸着具12と溶融金属2との界面における電流密度の実効値は0.040A/cm2である。なお、電流密度の実効値は、電流密度の二乗平均値を意味し、下記(4)式により定義される値を用いた。
ここで、i、ie、τおよびt は、それぞれ、時間変化する電流密度、電流密度の実効値、周期および時間を表す。ここで、電流密度としては、不溶性物質吸着具が貯留容器を構成する耐火物の一部である場合には、その溶融金属との接触界面積当たりの電流値を用い、また、溶融金属中に浸漬させた耐火物である場合には、浸漬させた耐火物と溶融金属との接触界面積当たりの電流値を採用した。
試験番号9および10は、それぞれ、前記図6および図7に示されたとおり、対極にプラズマトーチ18および取鍋浸漬管19を用いた試験である。界面における電流密度の実効値は、両者ともに、0.030A/cm2である。
試験番号11は、前記図8に示すとおり、対極にプラズマトーチ18を用い、電極を兼ねる不溶性物質吸着具12を貯留容器4の壁の一部とした試験であって、界面における電流密度の実効値は、0.040A/cm2である。
試験番号12は、前記図9に示したとおり、対極に浸漬ノズル7の一部を用いるとともに、貯留容器4における不活性ガス16の吹き込み配置と電極を兼ねる不溶性物質吸着具12の配置を供給孔5に対して左右に入れ替えている。界面における電流密度の実効値は0.020A/cm2である。
なお、表面疵発生率は、前記実施例1にて述べた方法と同様の方法により求めた。すなわち、試験により得られた鋳片を厚さ4〜6mm鋼帯に熱間圧延し、さらに、酸洗を行った後、厚さ0.8〜1.2mmの鋼帯に冷間圧延し、鋼帯の表面疵発生率を調査した。
表面疵発生率および不溶性物質の付着速度を表3に併せて示した。
界面における電流密度の値の値が0.020〜0.040A/cm2の範囲では、表面疵発生率は、対極の種類、界面における電流密度の実効値、不溶性物質吸着具12の配置に顕著には影響されず、0.7〜1.1%の範囲の概ね低い値を示した。
以上に述べたとおり、通常の直流電流や交流電流を印加した場合は、不溶性物質の付着速度は0.03〜0.05g/(cm2・h)程度と低く、また、表面疵発生率は8〜10%と高い値であるのに対して、本発明の方法によれば、不溶性物質の付着速度を0.4〜0.8g/(cm2・h)にまで上昇させ、また、表面疵発生率を0.7〜1.4%にまで低減させることができる。
本発明の溶融金属の連続鋳造方法によれば、溶融金属を介して導電性耐火物の間に、電圧が時間とともに周期的に変化するとともに、周期的に変化する電圧波形が、時間についての反転操作および時間についての並進操作を行うことにより操作前の電圧波形と一致することのない波形であり、かつ、印加する電圧の時間変化の最大値が10V/s以上および/または電圧の時間変化の最小値が−10V/s以下であり、さらに、電圧の時間変化の周期が0.1ms以上10s以下である波形の電圧を印加することにより、不溶性物質吸着具の界面に酸素イオンを集積させ、溶融金属中の不溶性物質を形成する原因物質を効率良く分離および除去できる。さらに、貯留容器内に付設する導電性耐火物からなる不溶性物質吸着具の溶損を抑制でき、また、高価な直流電源装置や電磁場発生装置を用いずに安価な交流電源を用いて容易に調整や保守ができ、設備コストを低減できるので、高い経済性のもとに高清浄度金属鋳片を製造できる連続鋳造方法として広く適用できる。
本発明の方法を実施するために用いる装置構成を模式的に示す縦断面図である。
本発明の対象外となる電圧波形の例を示す図であり、同図(a)は直流定常波形を、同図(b)は正弦波形をそれぞれ示す。
電極を兼ねる不溶性物質吸着具と対極の導電性耐火物との間に印加する本発明の対象となる電圧波形の例を示す図であり、同図(a)は交流の電圧波形の例を、同図(b)は正電圧波形の例を、同図(c)は負電圧波形の例を、そして同図(d)は交流の別の電圧波形の例をそれぞれ示す。
図3に示された電圧波形に対して、時間軸についての反転操作および時間軸に沿っての並進操作を施した電圧波形を示す図であり、同図(a)は図3(a)に示される交流波形1について操作を施した電圧波形を表し、同図(b)は図3(d)に示される交流波形2について操作を施した電圧波形を表す。
不溶性物質吸着具と溶融金属との界面近傍に酸素イオンを集積させ、不溶性物質を吸着させる状況を模式的に説明するための図である。
本発明の方法を実施するために用いる第2の装置構成を模式的に示す縦断面図である。
本発明の方法を実施するために用いる第3の装置構成を模式的に示す縦断面図である。
本発明の方法を実施するために用いる第4の装置構成を模式的に示す縦断面図である。
本発明の方法を実施するために用いる第5の装置構成を模式的に示す縦断面図である。
符号の説明
1:取鍋、 2:溶融金属、 3:取鍋ロングノズル、 4:貯留容器、
5:供給孔、 6:スライディングゲート、 7:浸漬ノズル、 8:吐出孔、
9:冷却鋳型、 10:モールドパウダー、 11:凝固殻、
12:電極を兼ねる不溶性物質吸着具、 13:電源、 14:電圧制御部、
15:電気配線、 16:不活性ガス、 17:不溶性物質、
18:プラズマ発生装置(プラズマトーチ)、 19:取鍋浸漬管、
20:金属塊(金属鋳片)、 21:電極、
a:電圧の時間変化が最大値を示す点、
b:電圧の時間変化が最小値を示す点、 τ:周期。