JP2006134786A - 多層構造体 - Google Patents
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Abstract
【課題】 従来の限界を超えて仕事関数を低減した電子放出用の多層構造体を提供する。
【解決手段】 本発明の多層構造体1は、金属基板2上に、該基板2の金属の一部を周期律表のIIIb族またはIVb族から選択した1種の元素で置換した合金から成る中間層3と、該中間層3上にあって上記置換した元素と同種の元素の1原子層以上から成る表層4とを備え、仕事関数が1eV以下である。望ましくは、周期律表のIIIb族元素から選択した1種の元素がInであるか、または、周期律表のIVb族元素から選択した1種の元素がSnである。上記金属基板2は、望ましくは周期律表のIb族に属する金属またはその合金から成り、更に望ましくはCuまたはCu合金から成る。望ましくは、CuまたはCu合金から成る金属基板2の(111)面上に上記中間層3が形成される。
【選択図】 図1
【解決手段】 本発明の多層構造体1は、金属基板2上に、該基板2の金属の一部を周期律表のIIIb族またはIVb族から選択した1種の元素で置換した合金から成る中間層3と、該中間層3上にあって上記置換した元素と同種の元素の1原子層以上から成る表層4とを備え、仕事関数が1eV以下である。望ましくは、周期律表のIIIb族元素から選択した1種の元素がInであるか、または、周期律表のIVb族元素から選択した1種の元素がSnである。上記金属基板2は、望ましくは周期律表のIb族に属する金属またはその合金から成り、更に望ましくはCuまたはCu合金から成る。望ましくは、CuまたはCu合金から成る金属基板2の(111)面上に上記中間層3が形成される。
【選択図】 図1
Description
本発明は、仕事関数を低減して電子放出能力を高めた多層構造体に関する。
近年、種々の分野において電子放出現象を利用した装置(素子)の開発が進められている。例えば、熱電子発電装置(Thermionic Energy Converter: TEC)は、金属中の自由電子が仕事関数以上の熱エネルギーを付与されると熱電子として金属の外部へ放出される現象を利用して、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する発電装置である。その際、一次エネルギー(熱エネルギー)を二次エネルギー(電気エネルギー)へ直接変換するため高い発電効率が得られる上、可動部が不要なので静粛性が高くかつ機械的な損耗が発生せず、また小型・軽量で種々の形状を取り得る等の種々の利点がある。
また電子放出現象を利用した装置のもう1つの代表例として、電界放出ディスプレー(Field Emission Display: FED)が注目されている。これは、固体表面に強い電界が印加されたときに、固体表面に閉じ込められていた電子が表面のポテンシャル障壁の低下によりトンネル効果で真空中に飛び出しやすくなる現象を利用したディスプレー装置である。
この現象を生ずるためには固体表面に非常に大きな電圧をかけなくてはならないが、例えば先端を針のように尖らせた電極を用いて電圧印加面積を極小化することによりこれを可能としている。固体表面の極小領域から放出された電子を蛍光体の微小領域毎に衝突させて個々の画素(ピクセル)を発光させ、発光面全体として画像表示する。この点で原理的には電子銃(熱電子放出)を用いた従来のCRTと共通するため、液晶ディスプレーに比べて広視野で発色や応答速度が優れており、同時に、液晶ディスプレーと同等の薄型化が可能である。このようにFEDはCRTと液晶の長所を併せ持つ優れたディスプレーとして注目されている。
現在、電子放出現象を利用した装置は実用化に向けて種々開発が進められているが、最も基本的な要件としては、高い電子放出効率を確保することであり、そのためには電子放出素子の仕事関数を低くすることが必要である。
これまで知られている低仕事関数の材料としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属のような単一元素から成る材料があるが、高温や高電界などの電子放出環境下で外囲雰囲気と反応し易く、電子放出素子には適さない。
また、これまで得られている仕事関数はφ>1.2eVであるが、実用的な電子放出効率を確保するには、仕事関数は1eV以下とすることが望まれる。
更に、材質による仕事関数の低減の限界を材料の針状化により解決しようとすると、カーボンナノチューブのような特殊な材料を用いる必要がある。
本発明は、上記従来の限界を超えて仕事関数を低減した電子放出用の多層構造体を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、図1に示すように、本発明の多層構造体1は、金属基板2上に、該基板2の金属の一部を周期律表のIIIb族またはIVb族から選択した1種の元素で置換した合金から成る中間層3と、該中間層3上にあって上記置換した元素と同種の元素の1原子層以上から成る表層4とを備え、仕事関数が1eV以下であることを特徴とする。
すなわち、本発明の多層構造体1は、基板2/中間層3/表層4の組成構造が、M/MX/Xとなる。ここで、Mは基板の金属であり、単体金属または合金であってよい。Xは周期律表IIIb族またはIVb族の元素である。MXはM−X合金であり、Mが単体金属であれば2元合金、MがN元合金であれば〔N+1〕元合金である。
本発明の多層構造体1は、金属基板2上に、該基板2の金属Mの一部を周期律表のIIIb族またはIVb族から選択した1種の元素Xで置換した合金MXから成る中間層3と、該中間層3上にあって上記置換した元素Xと同種の元素Xの1原子層以上から成る表層4とを備えた構成とすることにより双極子モーメントを最大化することができ、従来得られなかった低仕事関数φ≦1eVを実現できる。
本発明においては、上記作用効果を得るために、望ましくは、周期律表のIIIb族元素から選択した1種の元素がInであるか、または、周期律表のIVb族元素から選択した1種の元素がSnである。上記金属基板は、望ましくは周期律表のIb族に属する金属またはその合金から成り、更に望ましくはCuまたはCu合金から成る。望ましくは、CuまたはCu合金から成る金属基板の(111)面上に上記中間層が形成される。
本発明による種々の多層構造体のサンプルを作成し、仕事関数φと対応する物性値として双極子モーメントμを求めた。これは、仕事関数φと双極子モーメントμとの間には図2に示すようなほぼ直線的な相関関係が存在するという経験的な事実に基づいている。同図から分かるように、仕事関数φが1eV以下であることは、双極子モーメントμが10debye以上であることとほぼ対応している。図中に示したように、従来の材料では仕事関数φが1eVより大、すなわち双極子モーメントμが10debye未満であった。
本発明の規定範囲を満たすサンプルとして作成対象の決定は、図3、図4に示した探索手順および探索システムを用いて行なった。すなわち、基板としてCuを用いる前提で、表層の構成元素と基板との結合状態の組合せとを種々に変えて、双極子モーメントμを計算により求め、双極子モーメントμ≧10debye(≒仕事関数≦1eV)の構造を選出した。
この結果に基づき、実際にサンプルを作成して双極子モーメントを求めた。サンプルの作成は本出願人による特許第3373357号記載の方法により下記の手順で行なった。
〔実施例1〕
本発明により、Cu基板上にCuSn合金層(中間層)とその上のSn層(表層)とを備えた多層構造体を下記の手順で作成した。ただし、CuSn合金層を1原子層、Sn層を2原子層とした。
本発明により、Cu基板上にCuSn合金層(中間層)とその上のSn層(表層)とを備えた多層構造体を下記の手順で作成した。ただし、CuSn合金層を1原子層、Sn層を2原子層とした。
<サンプル作成手順>
まず、Cu基板の(111)面上に、表層前駆体として3原子層の錫(Sn)結晶層を形成した。これは、Arイオン転写法を用い、ガン電圧5kV、ガン電流0.5mA、試料回転数2rpm、Arイオン照射角度10度、照射時間7secで製膜した。これにより基板上に厚さ約1.2nmの結晶構造のSn層が形成された。
まず、Cu基板の(111)面上に、表層前駆体として3原子層の錫(Sn)結晶層を形成した。これは、Arイオン転写法を用い、ガン電圧5kV、ガン電流0.5mA、試料回転数2rpm、Arイオン照射角度10度、照射時間7secで製膜した。これにより基板上に厚さ約1.2nmの結晶構造のSn層が形成された。
次に、走査電子顕微鏡(SEM)内で、上記表層前駆体としてのSn結晶層の表面に電子線照射を行なった。照射条件は、ガン電圧7kV、照射角度90度、照射時間10秒、照射面積2×2mm2とした。この電子線照射により、極めて浅い領域を限定的に活性化することでイオンミキシングが起こり、基板と表層前駆体との界面に、両者の合金層が原子層オーダーの厚さで形成される。すなわち照射領域では、基板(Cu)と表層前駆体(Sn)との界面にCuSn合金層が形成され、Cu基板/CuSn中間層(1原子層)/Sn表層(2原子層)から成る多層構造体が得られた。
得られたサンプルの層構成および特性(μ値)を表1に示し、図5にサンプルの構造を模式的に示す。
得られたサンプルは10debyeを超える99.0debyeという大きな双極子モーメントμ値、すなわち1eV未満の低仕事関数φ値が得られた。
〔実施例2〕
本発明により、Cu基板上にCuSn合金層(中間層)とその上のSn層(表層)とを備えた多層構造体を下記の手順で作成した。ただし本実施例では、CuSn合金層を1原子層、Sn層を1原子層とした。
本発明により、Cu基板上にCuSn合金層(中間層)とその上のSn層(表層)とを備えた多層構造体を下記の手順で作成した。ただし本実施例では、CuSn合金層を1原子層、Sn層を1原子層とした。
<サンプル作成手順>
まず、実施例1とCu基板の(111)面上に、表層前駆体として2原子層のSn結晶層を形成した。これは、Arイオン転写法を用い、ガン電圧5kV、ガン電流0.5mA、試料回転数2rpm、Arイオン照射角度10度、照射時間6secで製膜した。これにより基板上に厚さ約3nmの結晶構造のSn層が形成された。
まず、実施例1とCu基板の(111)面上に、表層前駆体として2原子層のSn結晶層を形成した。これは、Arイオン転写法を用い、ガン電圧5kV、ガン電流0.5mA、試料回転数2rpm、Arイオン照射角度10度、照射時間6secで製膜した。これにより基板上に厚さ約3nmの結晶構造のSn層が形成された。
次に、走査電子顕微鏡(SEM)内で、上記表層前駆体としてのSn結晶層の表面に電子線照射を行なった。照射条件は、ガン電圧7kV、照射角度60度、照射時間5秒、照射面積2×2mm2とした。この電子線照射により、極めて浅い領域を限定的に活性化することでイオンミキシングが起こり、基板と表層前駆体との界面に、両者の合金層が原子層オーダーの厚さで形成される。すなわち照射領域では、基板(Cu)と表層前駆体(Sn)との界面にCuSn合金層が形成され、Cu基板/CuSn中間層(1原子層)/Sn表層(1原子層)から成る多層構造体が得られた。
得られたサンプルの層構成および特性(μ値)を表1に示し、図6にサンプルの構造を模式的に示す。
得られたサンプルは10debyeを超える88.3debyeという大きな双極子モーメントμ値、すなわち1eV未満の低仕事関数φ値が得られた。
〔実施例3〕
本発明により、Cu基板上にCuIn合金層(中間層)とその上のIn層(表層)とを備えた多層構造体を下記の手順で作成した。ただし、CuIn合金層を1原子層、In層を2原子層とした。
本発明により、Cu基板上にCuIn合金層(中間層)とその上のIn層(表層)とを備えた多層構造体を下記の手順で作成した。ただし、CuIn合金層を1原子層、In層を2原子層とした。
<サンプル作成手順>
まず、Cu基板の(111)面上に、表層前駆体として3原子層のIn結晶層を形成した。これは、Arイオン転写法を用い、ガン電圧5kV、ガン電流0.5mA、試料回転数2rpm、Arイオン照射角度10度、照射時間5secで製膜した。これにより基板上に厚さ約1nmの結晶構造のIn層が形成された。
まず、Cu基板の(111)面上に、表層前駆体として3原子層のIn結晶層を形成した。これは、Arイオン転写法を用い、ガン電圧5kV、ガン電流0.5mA、試料回転数2rpm、Arイオン照射角度10度、照射時間5secで製膜した。これにより基板上に厚さ約1nmの結晶構造のIn層が形成された。
次に、走査電子顕微鏡(SEM)内で、上記表層前駆体としてのIn結晶層の表面に電子線照射を行なった。照射条件は、ガン電圧7kV、照射角度90度、照射時間10秒、照射面積2×2mm2とした。この電子線照射により、極めて浅い領域を限定的に活性化することでイオンミキシングが起こり、基板と表層前駆体との界面に、両者の合金層が原子層オーダーの厚さで形成される。すなわち照射領域では、基板(Cu)と表層前駆体(In)との界面にCuIn合金層が形成され、Cu基板/CuIn中間層(1原子層)/In表層(2原子層)から成る多層構造体が得られた。
得られたサンプルの層構成および特性(μ値)を表1に示し、図7にサンプルの構造を模式的に示す。
得られたサンプルは10debyeを超える21.3debyeという大きな双極子モーメントμ値、すなわち1eV未満の低仕事関数φ値が得られた。
〔比較例〕
本発明の規定範囲を満たさないサンプルについても種々実際に作成して特性評価したが、いずれも10debyeを超える大きな双極子モーメント(1eV以下の低仕事関数)は得られなかった。例えば、実施例サンプルと同様のCu基板(111)面上に、実施例2における表層前駆体の形成と同様の条件にて2原子層の鉛(Pb)またはインジウム(In)で形成した。その結果、双極子モーメントμ値は、Pb表層を形成した比較サンプルではμ=−31.5debye、In表層を形成した比較サンプルではμ=−6.2debyeであった。このように負のμ値では、1eV以下の低仕事関数は実現できない。
〔比較例〕
本発明の規定範囲を満たさないサンプルについても種々実際に作成して特性評価したが、いずれも10debyeを超える大きな双極子モーメント(1eV以下の低仕事関数)は得られなかった。例えば、実施例サンプルと同様のCu基板(111)面上に、実施例2における表層前駆体の形成と同様の条件にて2原子層の鉛(Pb)またはインジウム(In)で形成した。その結果、双極子モーメントμ値は、Pb表層を形成した比較サンプルではμ=−31.5debye、In表層を形成した比較サンプルではμ=−6.2debyeであった。このように負のμ値では、1eV以下の低仕事関数は実現できない。
本発明は、従来の限界を超えて1eV以下の低仕事関数を実現できる電子放出用の多層構造体を提供する。
Claims (6)
- 金属基板上に、該基板の金属の一部を周期律表のIIIb族またはIVb族から選択した1種の元素で置換した合金から成る中間層と、該中間層上にあって上記置換した元素と同種の元素の1原子層以上から成る表層とを備え、仕事関数が1ev以下であることを特徴とする多層構造体。
- 請求項1において、周期律表のIIIb族元素から選択した1種の元素がInであることを特徴とする多層構造体。
- 請求項1において、周期律表のIVb族元素から選択した一種の元素がSnであることを特徴とする多層構造体。
- 請求項1から3において、上記金属基板が、周期律表のIb族に属する金属またはその合金から成ることを特徴とする多層構造体。
- 請求項4において、上記周期律表のIb族に属する金属がCuであることを特徴とする多層構造体。
- 請求項5において、上記Cuまたはその合金から成る金属基板の(111)面上に上記表層が形成されていることを特徴とする多層構造体。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2004324577A JP2006134786A (ja) | 2004-11-09 | 2004-11-09 | 多層構造体 |
Applications Claiming Priority (1)
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