JP2006130304A - 色覚能力測定装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】混同色軌跡に依拠しないで、様々な色覚異常、色覚能力(特性)を柔軟かつ鋭敏に、しかも簡便に数値化して検出できる色覚能力測定装置。
【解決手段】同様な形状のバーをn個並列に表示し、各バーの明度は同じに設定し、その中のn−m個に白色を、残りのm個に特定の色相を異なる彩度の順にカラーバーとして表示する。この検査画面を用いて、被検者にマウスポインターにより、白色バーと最初に色が付いて見えるカラーバーとの境界を選択させる。その選択により選択されたカラーバーの彩度と白色のバーとの彩度差を算出し、その彩度差から彩度の検出閾値αとその分散σを計算し、その選択を所定回数行わせその都度彩度の検出閾値αとその分散σを計算する。そして、最新の彩度の検出閾値αとその分散σにより色覚を検査する。
【選択図】図1

Description

本発明は、色覚能力測定装置に関し、特に、パーソナルコンピュータを用いた色覚能力測定装置に関するものである。
一般に色覚検査とは、色覚異常者の検出という意味合いで捉えられることが多い。そのため、色覚検査は差別・偏見につながるとの観点から、廃止に向かう動きが年々高まってきている。このことは、これまで小学4年生で眼科学校検診の必須項目であった色覚検査が平成14年3月29日の学校保険法の一部改正で、平成15年度から必須でなくなったことからも明らかである。この流れによって現在色覚検査法の開発は下火になりつつある。
一方、一般に健常者と呼ばれている人の90%は何らかの色覚異常を有しているとの報告がある。このことは、個人間で厳密に等しい色認識は存在せず、何らかの相違が存在することを示している。よって、色覚異常とは一種の個性であると考えることができる。実際、個人間において見やすい色、見難い色の差は存在し、また、個人内でも心理状況や疲労によって色の見え方は変化することが経験的に知られている。しかし、実際にこの微妙な色感覚の相違は、従来の検査法では困難であり、新たな検査法が必要となる。
ところで、ヒトの視覚に関与する細胞、いわゆる視細胞は、杆体、錐体の二種類存在し、杆体は光の感受、錐体は視力と色の感受の役割を担っている。特に錐体は、光の吸収波長の違いによって三種類の細胞(青錐体、緑錐体、赤錐体)に細分化でき、個々の錐体の吸収波長を処理することで色知覚(色覚)を得る。なお、青錐体、緑錐体、赤錐体の吸収波長のピークはそれぞれ455±15nm、530±5nm、625±5nmである。
色覚の処理構造は未だ完全には解明されていないが、錐体で感受した赤・緑・青の三色を網膜内で赤緑情報、青黄情報に変換し、中枢神経系において色知覚を得るというstage theoryが最も信頼されている。
ところで、色覚異常について、先天性色覚異常と後天性色覚異常がある。以下に、簡単に説明する。
(1)先天性色覚異常
先天性の色覚異常は錐体異常を原因とし、両眼に同じ程度の異常を生じる。異常程度の経時変化はない。異常のある錐体によって一般に以下の分類が行われている。
○1色型色覚
・杆体1色型色覚:杆体細胞しか存在しない。
・赤錐体1色型色覚:赤錐体しか存在しない。
・緑錐体1色型色覚:緑錐体しか存在しない。
・青錐体1色型色覚:青錐体しか存在しない。
○2色型色覚(1つの錐体細胞が欠損している)
・第一色盲:赤錐体視物質の欠損。
・第二色盲:緑錐体視物質の欠損。
・第三色盲:青錐体視物質の欠損。
○異常3色型色覚(1つの錐体細胞に異常が存在する)
・第一色弱:赤錐体視物質の異常。
・第二色弱:緑錐体視物質の異常。
・第三色弱:青錐体視物質の異常。
上記分類中の1色型色覚・2色型色覚は異常の程度が大きく、また、障害部位によって特有の症状を呈するため、異常検出は比較的容易である。一方、異常3色型色覚は病態によって様々な症状を示す、異常程度の幅が小さい等の理由から検出は難しい。
(2)後天性色覚異常
後天性の色覚異常は、網膜・中枢神経系の後天的障害を原因とする。左右眼の異常程度に差のある症例も存在する。障害状況によって異常程度が経時的に変化するため、型通りの検査(先天性色覚異常検査)では検出が難しい。
ここで、従来の色覚検査について説明する。ヒトは絶対的な色認識能力を持たないため、ヒトの色覚(色弁別能力)を検査するには相対的な色の弁別能力を測定する必要がある。具体的には、明度・彩度・色相等の異なる複数の色見本を被検者に提示することで、被検者の色弁別能力を測定する。しかし、これらの諸条件の組み合わせは膨大な数に上るため、効率的に異常や個性を検出する色の組み合わせ(特に、彩度・色相の組み合わせ)が必要になる。
従来の色覚異常検査法では、三種類の錐体の1つが欠如したときの色覚状態をシミュレートすることで、色覚異常者が弁別困難な色の組み合わせを作成している。
図19は、任意の明度におけるCIExy色度図である。3基本色(赤・緑・青)の加法混色によって表現できるすべての色を表している。なお、CIExy色度図とは、CIELabの(L,a,b)値をXYZに変換したもので、CIELabのある明度(軸L上の明度値)の平面を切り出し、XY座標に変換したものと言え、中央0に無彩色(白)が、また周辺に広がるにつれ彩度は増していく。そのため、馬蹄形の輪郭が最も彩度の高い色、つまり最も鮮やかな色となる。この図19に示した実線L上の色相は中央から広がる方向に全て等しくなる。この線Lを中央から反対側に延長した線は混同色線(混同色軌跡)と呼ばれ、その軌跡上の色相(この例では赤と緑)は全て等しくなる。
したがって、赤錐体が存在しない被検者は、混同色軌跡上の色である赤と緑が同じ色に見える(区別できなくなる)。これが、いわゆる赤緑異常である。同様に、緑錐体、青錐体欠如もCIExy色度図上でシミュレートすることができ、それぞれに特有の混同色軌跡が存在する。従来のほとんどの色覚検査はこの軌跡を基に構築されているといっても過言ではない。代表的な色覚検査である石原式色盲表はこの混同色軌跡に基づいて作成されている。
しかし、図20に青錐体、緑錐体、赤錐体の吸収色分布に示すように、各錐体はある程度の幅を持って色吸収を行っている。よって、任意の錐体が欠如あるいは高度に障害されている場合(前述の1色型、2色型色覚)はまだしも、軽度の障害(異常3色型色覚)や、複数の錐体細胞が障害される症例(後天性色覚異常)では、混同色軌跡が大きく変化していると考えられる。これが、従来法では軽度の色覚異常者、後天性色覚異常者を検出できない理由である。
ところで、パーソナルコンピュータを用いた色覚検査装置として、特許文献1、特許文献2等のものがある。特許文献1に記載された装置は、コンピュータディスプレイ上に各色相に対して明度が順に下がっていく棒状グラフ状の領域を並列して複数配置し、被検者にどこまで白と見えるかあるいはどこまで黒と見えるかを判定させて、色識別の感度を判定する装置が提案されている。
また、特許文献2には、コンピュータディスプレイに2色型色覚の混同色線(混同色軌跡)上に存在する同明度の2つの色を表示し、これらの2つの色の識別の可否により色覚能力を判定する方法と装置が開示され、表示される2つの色は二分探索法により選択させて詳細な検査を行うようにしている。また、特許文献2には、色度図上で測定対象色付近で予測されるMacAdamの楕円の長径よりもやや大きな直径の円を仮定し、測定対象色の位置を通る複数の直径と円との交点を決定し、同様な色覚能力の判定を行うことが示されている。
特開平6−335452号公報 特開2003−135399号公報 渡辺洋著「ベイズ統計学入門」(第5版第5刷、2003.7.1発行、福村出版(株))
以上のように、パーソナルコンピュータのディスプレイ上に所望の明度・色相・彩度の表示を行って色覚検査を行うことは知られているが、何れも混同色軌跡を基に構築されている。
このような従来の混同色軌跡を基に構築された色覚検査方法は柔軟性に乏しく、軽度な先天性色覚異常あるいは様々な病態を持つ後天性色覚異常の検出力が低い問題点が存在する。さらに、従来の色覚検査方法では、各種色覚能力の定量化を行うことができなかった。
本発明は従来技術のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、混同色軌跡に依拠しないで、様々な色覚異常、色覚能力(特性)を柔軟かつ鋭敏に、しかも簡便に数値化して検出できる色覚能力測定装置を提供することである。
上記目的を達成する本発明の第1の色覚能力測定装置は、同一明度であって、無彩色を表示する単数又は複数の並列した領域と、同じ色相で彩度が無彩色から順に増加して行く複数の有彩色を表示する相互に並列した複数の領域であって、その最も彩度の低い側に前記の無彩色を表示する単数又は複数の領域が並列している複数の領域とを表示する検査画面と、
前記検査画面上で、無彩色側で最初に有彩色と見える領域を被検者に選択可能にする選択手段と、
前記選択手段での選択により選択された領域の彩度と無彩色領域の彩度との彩度差を算出し、その彩度差から彩度の検出閾値αとその分散σを算出する算出手段と、
前記算出手段で算出された分散σに基づいて前記検査画面上に表示する複数の有彩色領域間の彩度差を変更する彩度差変更手段と、
前記彩度差変更手段によって複数の有彩色領域間の彩度差を変更した後に、無彩色側で最初に有彩色と見える領域を被検者に選択可能にする前記選択手段と、
前記選択手段による選択回数が所定回数に達したことを検出する回数検出手段と、を備え、
前記算出手段により算出された最新の彩度の検出閾値αとその分散σにより色覚を検査することを特徴とするものである。
この場合に、前記算出手段での彩度の検出閾値αとその分散σの算出をベイズ推論に基づいて行うようにすることが望ましい。
また、前記検査画面上に表示する色相を変更する色相変更手段を備え、複数の色相についてそれぞれの彩度の検出閾値αとその分散σを算出するようにすることが望ましい。
そして、同一色度図上に、得られた複数の色相それぞれの彩度の検出閾値αとその分散σを描画する描画手段を備えていることが望ましい。
上記目的を達成する本発明の第2の色覚能力測定装置は、同一明度、同一彩度であって、中心領域に参照色の色相を、その周囲の複数の異なる領域に異なる色相であって参照色の色相を含む複数の色相を表示する検査画面と、
前記検査画面上で、中心領域の参照色と同じ色に見える周囲の領域全部を被検者に選択可能にする選択手段と、
前記選択手段での選択に誤りがあると判断された場合に前記検査画面の彩度を上げる第1彩度設定手段と、
前記第1彩度設定手段により彩度が上げられた前記検査画面上で、中心領域の参照色と同じ色に見える周囲の領域全部を被検者に選択可能にする前記選択手段と、
前記選択手段での選択に誤りがないと判断された場合に前記検査画面の彩度を初期彩度にする第2彩度設定手段と、
前記第2彩度設定手段により初期彩度に設定された彩度の前記検査画面上で、中心領域の参照色と同じ色に見える周囲の領域全部を被検者に選択可能にする前記選択手段と、
前記第2彩度設定手段により初期彩度に設定され、前記選択手段により中心領域の参照色と同じ色に見える周囲の領域全部が選択された後に、前記検査画面の彩度を下げる第3彩度設定手段と、
前記第3彩度設定手段によって彩度が下げられた前記検査画面上で、中心領域の参照色と同じ色に見える周囲の領域全部を被検者に選択可能にする前記選択手段と、を備え、
前記選択手段での選択各々において、中心領域の参照色と同じ色に見えると誤って検出された色をその選択の際の彩度と共に検出することを特徴とするものである。
この場合に、前記検査画面上での表示の彩度が0になったか、前記選択手段での選択において、中心領域の参照色と複数の周囲の領域の色の弁別が完全に不能になった場合に、前記検査画面の中心領域に表示する色相を変更する色相変更手段を備え、中心領域の参照色の異なる色相各々について、同じ色に見えると誤って検出された色をその選択の際の彩度と共に検出するようにすることが望ましい。
そして、同一色度図上に、得られた複数の参照色それぞれの彩度において同じ色に見えると誤って検出された色を重ねて描画する描画手段を備えていることが望ましい。
先に述べたように、色覚異常は、先天性と後天性に大別される。先天性色覚異常は主に網膜錐体細胞の遺伝的機能不全によって起こり、色覚異常の程度は変化しない。一方、後天性色覚異常は網膜脈絡膜疾患・糖尿病・化学物質・心理的要因によって起こり、その程度は病態により変化する。先天性色覚異常者が色覚異常の程度を自らが認識し、それに応じた社会生活を送ること、また、後天性色覚異常者の色覚異常程度から疾患の検出・病態を推定することは、QOL(生活の質)の観点及び予防医学の観点からも非常に重要である。
しかし、現在の色覚検査法は、半世紀も昔に考案された手法を画一的に用いているため、色覚異常検出の柔軟性・検出力が低く、非常に典型的な色覚異常しか検出できない問題点が存在する。そのため、軽微な先天性色覚異常の検出、後天性色覚異常の程度判定はほとんど行われていない。さらに、デザイン業界・交通業界・治安防衛分野等における色覚への鋭敏な感覚を持つ作業者のスクリーニング目的の検査としては、現在の色覚検査法では非常に困難である。
以上の本発明の色覚能力測定装置は、色覚の程度判定に主眼をおいており、正常・異常の判別のみではなく、どの程度の色覚能力を有するかの数値化が可能である。そのため、典型的な色覚異常者のみではなく、軽微な異常者、非定型的な色覚異常者及び敏感な色覚感覚を有する被検者の検出も可能である。
また、本発明の色覚能力測定装置は、個人の個性としての色覚能力を測定する新たな測定法を実現するものであり、鋭敏な色覚感性を有する人物の検出への応用も可能である。鋭敏な感性とは、色覚以外では、ソムリエ(味覚)や調律師(聴覚)、香水調合師(嗅覚)等が広く知られており、色覚関連では、色を厳密に扱う職業(デザイン関連)、遭難者救助等に関わる職業(保安関連)、迷彩に鋭敏な認識力を必要とする職業(防衛関連)等が考えられる。実際にこれらの業界では色覚能力を鋭敏に検出する新たな検査法への要望が非常に高いもの事実である。さらに、個人内での色覚変動の検出によって、心理状況・疲労状況の客観的な測定等にも応用でき、日常生活での健康管理、QOLの向上等も考えられる。
したがって、本発明の色覚能力測定装置により、各種色覚異常の詳細な検査が可能となり、医学分野への貢献と共に、予防医学的な観点に基づく産業衛生分野への応用(環境化学物質曝露に伴う後天的色覚異常検査)が期待できる。また、厳密な色覚検査を必要とする交通業界(航空・鉄道等)を始めとする機関・企業では、軽度の先天性・後天性色覚異常を鋭敏に検出し得る新たな色覚検査への期待が非常に高く、その分野への応用も期待できる。
以下に、本発明の色覚能力測定装置を実施例に基づいて詳細に説明する。
ヒトは絶対色なる感覚を持っていないため、相対色によって色覚能を測定する必要がある。本発明の色覚能力測定装置には2つの測定形態がある。それぞれの装置による色覚検査を検査1、検査2とする。検査1は、白色(無彩色)と任意基準色の比較であり、検査2は任意基準色間の比較である。以下に、検査1の色覚能力測定装置、検査2の色覚能力測定装置を順に説明する。
まず、検査1を行う色覚能力測定装置の実施例を説明する。図1に、パーソナルコンピュータのディスプレイ上に表示する検査パターン(検査画面)の例を示す。図1に示すように、同様な形状のバーをn個並列に表示する。各バーの明度は同じに設定する。そして、その中のn−m個(図1では左側の3個)に白色(厳密には、その明度の無彩色)を表示し、残りのm個(図1では右側の5個)に特定の色相、例えば黄色の異なる彩度の順にカラーバーとして表示する。その異なる彩度の順の表示方法としては、白色バーに隣接するバーから離れる方向にバー間の彩度差がdとなるように彩度(飽和度)を順に増加させながら複数のカラーバーとして表示する。
そして、被検者には、白色バー側の着色していると見える最初のカラーバーを図2に例示したようなマウスポインターをその位置のカラーバーへ移動してクリックするように指示する。
以下、図1のような検査パターンと図2のようなマウスポインターを用いての検査手順を図3に示す。このフローはパーソナルコンピュータのソフトウエアとして実行される。
図3のステップST11において、この検査1の各種検査条件を設定する。具体的には、検査パターンの各バーの明度(CIELab明度)を設定し、検査する色の数(色相の数)を決定し、また、検査パターンに提示する色相の順番を設定する。分かりやすくするための例示としては、黄→赤→赤紫→紫→青→青緑→緑→黄緑の8色をこの順に提示するとする。
次に、ステップST12で、ステップST11での検査条件の設定に基づいて、最初の色、例えば黄色の図1のような検査パターンを検査画面として表示する。その検査パターンは、図4(a1)のようになる。この場合は、図1で定義したnは20、mは18とし、分かりやすくするため、各バーには左から右へ順位数字1〜20を付してあるが、検査画面にはこのような数字の表示は行わない。
次のステップST13で、ステップST12で表示した図4(a1)のような検査画面を用いて、被検者に、図2で例示したようなマウスポインターにより、白色バー(無彩色)と最初に黄色に見えるカラーバー(有彩色)との境界を選択させる。
その選択をさせた後、ステップST14で、その選択によって得られたデータから各種パラメータを計算する。具体的には、選択バーと白色バーの彩度差aとカラーバー間の彩度差d(図1参照)を計算する。
そして、次のステップST15で、その計算結果のパラメータaとdをその色相と対応させてメモリに保存する。
次いで、ステップST16で、統計的手法、具体的にはベイズ推論を用いて、彩度差aから被検者がその色(この場合、黄色)を白色(無彩色)とは異なると区別できる彩度の検出閾値αとその分散σを計算する。このベイズ推論については、後で説明する。
次に、ステップST17において、ステップST16の計算で得られた検出閾値αとその分散σをその色相と対応させてメモリに保存する。
次いで、ステップST18で、得られた分散σに応じて新たなカラーバー間の彩度差dを計算する。具体的には、その分散σが前回より小さければdを減少、大きければ増加させる。1回目は、前回の分散σ無限大であるのでdを減少させる。
次いで、ステップST19で、検査回数Nを更新する。最初の場合は、0回から1回に書き直す。
次いで、ステップST20で、検査回数Nが3回になったか否かを確認する。この場合は、まだ1回なので、ステップST12へ戻る。その際、カラーバー間の彩度差dはステップST18の計算結果に基づいて更新すると共に、カラーバーの数mを任意に変化させる。カラーバーの数mを変化させるのは、被検者が白色バー(無彩色)とカラーバー(有彩色)との実際の境界位置を予測できないようにするために行う。
そして、ステップST20での検査回数Nが3回になるまで、上記のステップST12〜ST19の処理をさらに2回繰り返さす。
ステップST20で、検査回数Nが3回になったと判定されると、次のステップST21へ進み、被検者が3回選択した選択バーと白色バーの彩度差aが予め設定したバラツキ内にあるか否かの収束判定が行われる。彩度差aが収束していないと判定されると、ステップST12へ戻る。その際、検査を最初からもう一度行うために、検査回数N=0に更新する。
ステップST21で、被検者が3回選択した選択バーと白色バーの彩度差aが予め設定したバラツキ内にあると判定されると、次のステップST22へ進み、ステップST11で設定(決定)した全ての色について検査が終わったか否かを判定し、この場合は、まだ1色しか終わっていないので、ステップST12へ戻り、ステップST11で予め設定した順に従って次の色、この場合は例えば赤色について、上記のステップST12〜ST21の処理を行う。
同様にして、予め設定した全ての色について検査が終わったとステップST22で判定されると、ステップST23に進み、検査結果の全ての色についての検出閾値αと分散σを読み出して、色度図、例えばCIExy色度図上に各色の検出閾値αと分散σを書き込みそれらを結ぶように描画を行う。この描画の例は後記する。
以上で、検査1の色覚能力測定装置の検査手順が終了する。
ここで、少数回の彩度差aの検査結果から彩度の検出閾値αとその分散σを求めるベイズ推論(ステップST16)について説明する。ベイズ推論については、非特許文献1に詳しい。
ベイズ推論は、未知パラメータ(本発明では、平均(検出閾値)αと分散σ)を確率変数と考え、これを事前分布(色覚検査では正規分布)で表す。そして、観察データ(色覚検査を行った結果)から尤度関数(分布の尤もらしさを表す関数)を求める。そして、上記の事前分布と尤度関数から、事後分布=事前分布×尤度関数となるので、事後分布(平均αと分散σ)はこの関係から推論することができる。最終的な事後分布は、非特許文献1の(5.47)式、(5.48)式で表される。
このベイズ推論の特徴は、検査回数が少なくとも尤もらしい結果が得られること、観察データを加えるに従って精度が上がることである。検査1においては、3回程度(ステップST20)の観察データで十分に尤もらしい結果が得られる。
以下、検査1において、このベイズ推論がどうなるかを分かりやすく説明する。
図4(a1)、(b1)、(c1)に図1と同様の検査パターンを示す。この場合、図1で定義したnは20、mは18とし、分かりやすくするため、各バーには左から右へ順位数字1〜20を付してあるが、検査画面にはこのような数字の表示は行わない。
図4(a1)は、最初の提示画面である。左に無彩色(白)のバーが2個並び、3個目のバーから右のバーは徐々に彩度が上がっている。有彩色に最も近い位置2の無彩色(白)のバーの彩度は0である。図4(a1)の状態では、被検者の選択情報(ステップST13)は未入力なので、識別能力の確率分布は図4(a2)に示すように一様分布である。
図4(b1)は、被検者が最初に選択をした結果を示す画面である。被検者は有彩色の限界のバーとして位置9のバーを選択した。その位置の彩度の選択値をαとする。このとき、選択回数は1(N=1)であるのでバラツキはないが、仮の値として選択色(α)を平均値、また、αと真値(0)間のバーの個数を2σ(分散σの2倍)とする。これらの値から、図4(b2)に示すような正規分布N(α, σ) を事前分布として設定する。
再度同様の検査パターンを被検者に提示し(実際には、彩度差dを変えている。)、図4(c1)のように、被検者に再度選択させる。このときの選択位置の彩度の選択値α’から事後分布をベイズ推論によって算出し、図4(c2)に示すような事後分布の正規分布N(αnew , σnew ) が算出される。この平均αnew と分散σnew は、白と対象色の識別能力(αnew )及びそのバラツキ(σnew )を表現している。このバラツキが小さい程(σnew が小さい程)被検者の識別能は鋭敏であると言える。
さらに、同様にしてもう1回の検査を行うことにより、より精度の良い正規分布N(αnew , σnew ) が算出される。
さて、このようにしてベイズ推論により白と対象色(例えば黄色)の識別能力αnew とそのバラツキσnew が得られる。そのαnew とσnew をCIExy色度図に表した図を図5に示す。図5のαnew の位置がその色の検出閾値の中心であり、その位置を中心に、色度図の白色(無彩色)を表す点0とαnew の位置を結んだ直線(同一色相)上で、αnew の位置の両側にσnew だけとった範囲が検出のバラツキ範囲と言うことができる。
図3の例の場合、ステップST23では、ステップST11で設定した黄、赤、赤紫、紫、青、青緑、緑、黄緑の8色について、同一のCIExy色度図にこのようにαnew とσnew の位置をプロットしてそれらを結ぶと、図6のような識別能範囲を示す図が得られる。この図から、被検者の色識別能の偏りを容易に把握することができる。
この検査1の色覚能力測定装置による色覚検査の特徴は、混同色線(混同色軌跡)を前提にしない検査であるので、既知、未知を問わず様々な色覚異常や色覚能力(特性)を鋭敏に検出できる。また、検査回数が少なくても彩度に依存した色識別のバラツキを検出することができ、色解像度を検出することができる。しかも、サンプリング色は自由に設定できるので、このような検査に柔軟に対応することができる。
次に、検査2を行う色覚能力測定装置の実施例を説明する。検査2は、任意基準色間の比較である。図7に、パーソナルコンピュータのディスプレイ上に表示する検査パターン(検査画面)の例を示す。中心領域に参照色(この図の場合、黄緑色YG)を表示し、その中心領域を取り囲む周辺の複数の領域に参照色を含む複数の選択色(この図の場合、黄色Y、赤色R、赤紫色RP、紫色P、青色B、青緑色BG、緑色G、黄緑色YGの8色)を表示する。何れの色も同じ明度と彩度で表示する。そして、被検者には、中心領域の参照色と同じに見える周辺の選択色を全て選択させる。そのためには、例えば図7の画面右下に示したようなマウスポインターMPをその位置へ移動させてクリックするように指示する。
以下、図7のような検査パターンを用いての検査手順を図8に示すが、その前に色覚異常について、若干説明しておく。図9に、典型的な青黄色異常をCIExy色度図に示す。重度の青黄色異常は青と黄の判別が全くつかないので、図中のハーフトーンの領域中の等彩度(aとa’、bとb’、cとc’)の色の区別ができない。一方、色弱と呼ばれる中〜低程度の色覚異常は、図10に示す外側のハーフトーンの領域(外枠)が混同領域となると考えられる(図10中の中央の濃いハーフトーンの領域は健常者の混同領域)。このような混同領域を高精度で推定するには、検査2の色覚能力測定装置が適している。
図8のフローはパーソナルコンピュータのソフトウエアとして実行されるが、図8のステップST31において、この検査2の各種検査条件を設定する。具体的には、検査パターンの各領域の明度(CIELab明度)を同一に設定し、検査する色の数(色相の数)を決定し、また、検査パターンの中心領域に提示する参照色の順番を設定する。分かりやすくするための例示としては、黄緑色YG→黄色Y→赤色R→赤紫色RP→紫色P→青色B→青緑色BG→緑色Gの8色をこの順に提示するとする。なお、周辺領域に提示する選択色(この場合は、黄色Y、赤色R、赤紫色RP、紫色P、青色B、青緑色BG、緑色G、黄緑色YGの8色)の配置は、被検者が表示位置を予測できないように例えば彩度を変える毎に変化させる。
次に、ステップST32で、ステップST31での検査条件の設定に基づいて、例えば黄緑色YGを図7のような検査パターンの中心領域に表示する最初の参照色を決定する。なお、周辺領域に表示する選択色は参照色に指定される全ての色と、場合によってはそれ以外の単数あるいは複数の色相である。
次に、ステップST33で、図7の検査パターンの中心領域、周辺領域に表示する各色の彩度を同一に設定する。この彩度はどのような設定基準で設定してもよいが、予めメモリ空間に記憶してある情報を呼び出して設定する。なお、上記の検査1と併用するときには、そのときの参照色に対して得られた識別能力の彩度αnew を用いるのが検査効率から望ましい。図11に、CIExy色度図に検査1で得られた彩度αnew と等彩度の8色を模色的に示す。CIExy色度図の特徴として、無彩色を原点とする直線は等色相となり、直線と馬蹄形輪郭の交点に進むにつれ彩度が高くなっている。
そして、ステップST34で、このようにして決められた初期彩度で図7のような検査パターン(検査画面)を表示する。
次のステップST35で、ステップST34で表示した図7のような検査画面を用いて、被検者にマウスポインターMPにより、中心領域の色と同じに見える周辺領域を全部選択させる。
次のステップST36で、このときの彩度と参照色と同じに見えた選択色をメモリに記録する。
そして、次のステップST37で、選択色に誤りがあるか否かを判断する。ここで、選択色の誤りとは、参照色以外の選択色を選択した場合で、その場合は彩度が低すぎるためと判断して、ステップST34へ戻る。その際、ステップST34で表示する彩度を上げる。そして、ステップST37で選択色に誤りがなくなる彩度(完全弁別彩度)まで上記のステップST34〜ST37の処理を繰り返す。
その後、ステップST38へ進み、表示する彩度をステップST33で最初に決めた初期彩度にリセットする。これは、ステップST34〜ST37の繰り返し処理で、初期彩度とステップST37で選択色に誤りがなくなった彩度の間については、彩度と選択色の情報がすでに得られているためである。
ステップST38での初期彩度へのリセット後、ステップST39で、ステップST34と同様の図7のような検査パターン(検査画面)の表示を行う。
そして、ステップST40で、ステップST35と同様に、被検者に中心領域の色と同じに見える周辺領域を全部選択させる。
また、ステップST41で、ステップST36と同様に、このときの彩度と参照色と同じに見えた選択色をメモリに記録する。
次いで、ステップST42において、表示の彩度が0か、中心の参照色と周辺の選択色の弁別が完全に不能(全領域が同じに見える彩度(完全混同彩度))か否かを判断し、表示の彩度が0でもなく、また、中心の参照色と周辺の選択色の弁別が幾分でも可能な場合は、ステップST39へ戻る。その際、今度はステップST39で表示する彩度を下げる。そして、ステップST42で、表示の彩度が0、あるいは、中心の参照色と周辺の選択色の弁別が完全に不能(完全混同彩度)になるまで上記のステップST39〜ST42の処理を繰り返す。
ステップST42において、表示の彩度が0か、中心の参照色と周辺の選択色の弁別が完全に不能なった場合は、ステップST43へ進み、ステップST31で設定(決定)した全ての色について検査が終わったか否かを判定し、この場合は、まだ1色しか終わっていないので、ステップST32へ戻り、ステップST31で予め設定した順に従って次の色、この場合は例えば黄色Yについて、上記のステップST33〜ST43の処理を行う。
同様にして、予め設定した全ての色について検査が終わったとステップST43で判定されると、ステップST44に進み、検査結果の全ての参照色についての彩度とその参照色と同じに見えた選択色のデータを読み出して、色度図、例えばCIExy色度図上に各色の参照色に対して誤りのあった彩度と選択色の関係等を描画する。この描画の例は後記する。
そして、次のステップST45で描画した結果から、各種パラメータ、例えば重心、面積、等高線等を算出する。
以上で、検査2の色覚能力測定装置の検査手順が終了する。
このようにして特定の参照色について、彩度とその参照色と同じに見えた選択色のデータを図示すると、図12(a)〜(c)のようになる。ただし、図12(a)は参照色が黄緑色YGの場合、図12(b)は参照色が青色B場合、図12(c)は参照色が赤紫色RPの場合であり、それぞれ完全混同彩度(最も内側の楕円)と完全弁別彩度の一歩手前の彩度値(最も外側の楕円)を示してある。
仮に、参照色が図12(a)〜(c)の3色の場合、図12(a)〜(c)の結果の和をとると図13のようになる。ただし、サンプリング点の数字は重なりの個数を表している。このサンプリング点の最も外側を結ぶと、図14(a)のようになる。この領域の外側は完全に弁別できているが、内側は何らかの混同(色覚異常)が生じている。この領域を基に混同色軌跡(混同色線)、色覚能(面積)を定義することができる。また、図14(b)のように、重なりを考慮することで、色覚能の楕円を算出し、混同状態を等高線で表すことも可能となる。
この検査2の色覚能力測定装置による色覚検査の特徴は、検査1と同様に、混同色線(混同色軌跡)を前提にしない検査であるので、既知、未知を問わず様々な色覚異常や色覚能力(特性)を鋭敏に検出できる。また、色覚異常領域の重心、面積、等高線から被検者の色識別能の偏り、範囲の定量化、混同色線(混同色軌跡)の検出等が可能になり、しかも、この場合もサンプリング色は自由に設定できるので、以上のような検査に柔軟に対応することが可能となる。
ここで、パーソナルコンピュータのディスプレイ上に所望の明度、色相、彩度の色を表示する点については、特許文献1、特許文献2に記載されたいるが、本発明の実施例で用いている色表示、色校正について簡単に説明しておく。
色の表示には様々な形式があるが、本発明では国際照明委員会(CIE)の設定するCIEXYZ表色系とCIELabとを用いている。CIELabとCIEXYZ表色系は、変換式によって一対一の対応をしている。CIEXYZ表色系は理論上の色表示であるため、CIExy色度図(CIELabの(L,a,b)値をXYZに変換したもの)で示された座標が色を一意に決めることができ、そのため、色の客観的な評価に非常に有用である。そして、CIEXYZ表色系は下記のsRGBへの変換が容易であるので、計算の内部処理に用いており、他方、CIELabは直感的であるので、色指定等のインターフェイス部分に用いている。なお、色は3つの変数、すなわち、明度(明るさ)、色相(色味)、彩度(飽和度)によって表現される。この3つの変数をCIELabでは3つの軸(L,a,b)で表している。Lは明度、aとbが色相と彩度の空間座標である。
ところで、通常、パソコン画面の色管理に使われる表色系は「sRGB(モニターRGB)」と呼ばれている。具体的には、赤緑青(R,G,B)の三原色の組み合わせによって色を表現するため、R,G,Bの組み合わせ数の色をモニター上に表示することができる。現在のパーソナルコンピュータのグラフィック環境は、R,G,B各色8ビットの情報量を持つため、約1677万色(256×256×256)表示することができる。これ以上の色表示も可能だが、、一般に人間が知覚できる色は1677万色以下と考えられているため、これ以上色数を増やすことは無意味であるとされている。
ところが、sRGBとCIEXYZ表色系は別の表色系であるため、変換が必要になる。sRGBからXYZ値への変換、又は、その逆の変換式はいくつか提案されている。以下に、変換方法の1つを紹介する。
XYZ値からsRGBへの変換は、まず、リニアRGBに変換する。
R=3.5064X−1.7400Y−0.5441Z
G=−1.0690X+1.9777Y+0.0352Z
B=0.0563X−0.1970Y+1.0511Z
次に、ガンマ補正を行い、各値に255を乗算すれば、sRGB値(R’,G’,B’)になる。
R’=R2.2 ×255
G’=G2.2 ×255
B’=B2.2 ×255
また、sRGBのXYZ値への変換は、以上と逆の計算によって行う。
XYZ値の最大の利点は、色を定量的に扱える点である。特に、XYZの座標を計算することで、色相、彩度の厳密な指定が行えるため、等彩度・等色相のサンプリングが非常に容易になる。図11は等彩度において等距離の色相をサンプリングした模色図である。このようにサンプリングした等彩度の色相の比較が検査2の基本である。
次に、ディスプレイ上に所望の明度、色相、彩度の色を表示するための色校正について説明しておく。図15に色校正を説明するための図を示す。モニター11に提示する色情報(sRGBデータ)は、パーソナルコンピュータ10のグラフィックユニットによって作成される。色情報はデジタルデータであるため、使用者が補正を行わない限り、同一機種では同一の信号が色情報12としてパーソナルコンピュータ10からモニター11へ出力され続ける。しかし、機種や製造時期等が異なるパーソナルコンピュータ10はグラフィックユニットの初期設定が異なっているため、色情報は変化する。また、色情報を色として変換・表示するモニター11にはかなりの個体差が存在する。そのため、パーソナルコンピュータ間で全く同じ色を表示することは不可能に近いと言える。個人レベルではこの個体差はさほど問題はないが、厳密な色を定義する必要のある現場(デザイン関連等)では非常に大きな問題となる。そこで考え出されたのが色校正装置である。
色校正装置は、校正ソフトウエアとセンサー14から成り立っている。具体例としては、GretagMacbeth社製の“i1 Display”がある。これに基づくと、校正ソフトウェアは、基準となる色情報(プロファイル)12をモニター11に出力するように命令を行う。この情報はパーソナルコンピュータ10のグラフィックユニットによって処理され、モニター11に出力されるが、グラフィックユニット及びモニター11のバラツキにより、校正ソフトウェアが意図する色とは異なる色が表示される可能性がある。この差異は、モニター11にセンサー14を密着させでモニター色情報を検出し、色校正信号15としてパーソナルコンピュータ10へ入力される。ここで、センサー14は、上記“i1 Display”の場合、RGB3枚の色フィルターを用いて色分解してモニター色情報を検出している。検出されたモニター色情報はパーソナルコンピュータ10のグラフィックユニットにフィードバックされ、グラフィックユニット自身の初期設定を修正する。この処理を校正ソフトウェアと実際の表示色との間の差異がなくなるまで行う。そのため、同一のキャリブレータ(色校正装置)を用いて色校正を行えば、パーソナルコンピュータ10間の色の差は非常に小さくなり、また、時間的な色のバラツキも小さくすることができる。
最後に、本発明の色覚能力測定装置を用いた検査結果の具体例を示す。この例は、上記の検査1の色覚能力測定装置を用いた検査結果である。検査結果を図16〜図18に示す。図16〜図18は、検査1において図1に示すよう検査パターンに提示する色相として黄色Y、赤色R、青色B、緑色Gの4色を提示したときの検査結果を描画した簡略の色度図を示したものであり、正方形の中心に無彩色(白)を対応させ、4つの頂点にCIExy色度図に模して最も彩度の高い青色B、緑色G、黄色Y、赤色Rを対応させ、中心から頂点に向かうにつれ彩度は増していくものとした図である。
図16〜図18は120名の被験者の検査結果を示すものである。予め問診及び従来の検査方法(panel D−15等)によって被験者を健常者群(n=102名)、先天性色覚異常者群(n=8名)、後天性色覚異常疑い者群(n=10名)に分け、それぞれの群の弁別について検討を行た。
図16は、健常者102名の色覚能の検査1によって得られた青色B、緑色G、黄色Y、赤色Rの検出域値αの平均値と標準偏差を示しており、B、G、Y、Rの座標を結ぶ太い実線が健常者の検出域値の平均値を表しており、その外側と内側の点線が標準偏差を表している。検出域値が中央の白(無彩色)に近づく程高色覚能を有していると判断できる。
当初の予想では、個人差を原因とする大きなばらつきを有すると考えたが、この図16の結果が示すように、健常者の色覚能は比較的収束する傾向が認められた。この事実は、健常者の検出域値を設定することができる可能性を示している。つまり、健常者集団より統計学的な信頼区間を設定し、色覚異常を検出できる可能性である。
図17に、健常者群と先天性色覚異常者群の同様な分布の比較を、また、図18に健常群と後天性色覚異常疑い者(後天性色覚異常群)群の同様な分布を示す。ただし、先天性色覚異常者群、後天性色覚異常疑い者群の標準偏差は簡略の色度図の軸(対角線)上に太い線分で示した。色覚異常が強く出現すると考えられる先天性色覚異常者群では、健常者群との完全な弁別が行えている。また、後天性色覚異常疑い者群は先天性色覚異常者群程の明確ではないものの、ある程度の弁別が可能であると確認できる。また、先天性色覚異常者群と後天性色覚異常疑い者群もある程度の弁別が可能であると確認できる。
なお、参考として、図16には、健常例におけるのpanel D−15による色票を並べた軌跡を同時に示してあり、また、図17、図18には、健常例のpanel D−15による色票を並べた軌跡と共に、それぞれ先天性色覚異常例、後天性色覚異常例(後天性色覚異常疑い例)の同様の軌跡を示してある。
以上の検査結果の具体例から、今後さらなるデータの蓄積により、より高信頼性の色覚異常弁別が可能になると言える。
以上、本発明の色覚能力測定装置を実施例に基づいて説明してきたが、本発明はこれら実施例に限定されず種々の変形が可能である。
本発明の検査1を行う色覚能力測定装置の1実施例の検査パターン(検査画面)の例を示す図である。 図1の検査パターン上での選択手段として用いられるマウスポインターを示す図である。 本発明の検査1の色覚能力測定装置における検査手順を示すフローチャートである。 本発明の検査1の色覚能力測定装置において用いられるベイズ推論を説明するための図である。 ベイズ推論により得られた対象色の識別能力αnew とそのバラツキσnew をCIExy色度図に表した図である。 本発明の検査1の色覚能力測定装置で得られた識別能範囲を示す図である。 本発明の検査2を行う色覚能力測定装置の1実施例の検査パターン(検査画面)の例を示す図である。 本発明の検査2の色覚能力測定装置における検査手順を示すフローチャートである。 典型的な青黄色異常をCIExy色度図に示す図である。 中〜低程度の色覚異常の混同領域を示す図である。 CIExy色度図に検査1で得られた彩度αnew と等彩度の8色を模色的に示す図である。 本発明の検査2の色覚能力測定装置によって得られた特定の参照色についての彩度とその参照色と同じに見えた選択色のデータを例示する図である。 図12(a)〜(c)の結果の和をとった図である。 図13のサンプリング点の最も外側を結んだ図(a)と等高線で表した図(b)である。 パーソナルコンピュータのディスプレイの色校正を説明するための図である。 本発明の色覚能力測定装置を用いた検査結果の1具体例として、健常者群の色覚能の検査1によって得られた検出域値の平均値と標準偏差を示す簡略の色度図である。 本発明の色覚能力測定装置を用いた検査結果の1具体例として、先天性色覚異常者群の色覚異常色覚能の検査1によって得られた検出域値の平均値と標準偏差を示す簡略の色度図である。 本発明の色覚能力測定装置を用いた検査結果の1具体例として、後天性色覚異常疑い者群の色覚異常色覚能の検査1によって得られた検出域値の平均値と標準偏差を示す簡略の色度図である。 任意の明度におけるCIExy色度図と混同色線(混同色軌跡)を示す図である。 青錐体、緑錐体、赤錐体の吸収色分布に示す図である。
符号の説明
L…混同色線(混同色軌跡)
MP…マウスポインター
10…パーソナルコンピュータ
11…モニター
12…色情報(プロファイル)
14…センサー
15…色校正信号

Claims (7)

  1. 同一明度であって、無彩色を表示する単数又は複数の並列した領域と、同じ色相で彩度が無彩色から順に増加して行く複数の有彩色を表示する相互に並列した複数の領域であって、その最も彩度の低い側に前記の無彩色を表示する単数又は複数の領域が並列している複数の領域とを表示する検査画面と、
    前記検査画面上で、無彩色側で最初に有彩色と見える領域を被検者に選択可能にする選択手段と、
    前記選択手段での選択により選択された領域の彩度と無彩色領域の彩度との彩度差を算出し、その彩度差から彩度の検出閾値αとその分散σを算出する算出手段と、
    前記算出手段で算出された分散σに基づいて前記検査画面上に表示する複数の有彩色領域間の彩度差を変更する彩度差変更手段と、
    前記彩度差変更手段によって複数の有彩色領域間の彩度差を変更した後に、無彩色側で最初に有彩色と見える領域を被検者に選択可能にする前記選択手段と、
    前記選択手段による選択回数が所定回数に達したことを検出する回数検出手段と、を備え、
    前記算出手段により算出された最新の彩度の検出閾値αとその分散σにより色覚を検査することを特徴とする色覚能力測定装置。
  2. 前記算出手段での彩度の検出閾値αとその分散σの算出をベイズ推論に基づいて行うことを特徴とする請求項1記載の色覚能力測定装置。
  3. 前記検査画面上に表示する色相を変更する色相変更手段を備え、複数の色相についてそれぞれの彩度の検出閾値αとその分散σを算出することを特徴とする請求項1又は2記載の色覚能力測定装置。
  4. 同一色度図上に、得られた複数の色相それぞれの彩度の検出閾値αとその分散σを描画する描画手段を備えていることを特徴とする請求項3記載の色覚能力測定装置。
  5. 同一明度、同一彩度であって、中心領域に参照色の色相を、その周囲の複数の異なる領域に異なる色相であって参照色の色相を含む複数の色相を表示する検査画面と、
    前記検査画面上で、中心領域の参照色と同じ色に見える周囲の領域全部を被検者に選択可能にする選択手段と、
    前記選択手段での選択に誤りがあると判断された場合に前記検査画面の彩度を上げる第1彩度設定手段と、
    前記第1彩度設定手段により彩度が上げられた前記検査画面上で、中心領域の参照色と同じ色に見える周囲の領域全部を被検者に選択可能にする前記選択手段と、
    前記選択手段での選択に誤りがないと判断された場合に前記検査画面の彩度を初期彩度にする第2彩度設定手段と、
    前記第2彩度設定手段により初期彩度に設定された彩度の前記検査画面上で、中心領域の参照色と同じ色に見える周囲の領域全部を被検者に選択可能にする前記選択手段と、
    前記第2彩度設定手段により初期彩度に設定され、前記選択手段により中心領域の参照色と同じ色に見える周囲の領域全部が選択された後に、前記検査画面の彩度を下げる第3彩度設定手段と、
    前記第3彩度設定手段によって彩度が下げられた前記検査画面上で、中心領域の参照色と同じ色に見える周囲の領域全部を被検者に選択可能にする前記選択手段と、を備え、
    前記選択手段での選択各々において、中心領域の参照色と同じ色に見えると誤って検出された色をその選択の際の彩度と共に検出することを特徴とする色覚能力測定装置。
  6. 前記検査画面上での表示の彩度が0になったか、前記選択手段での選択において、中心領域の参照色と複数の周囲の領域の色の弁別が完全に不能になった場合に、前記検査画面の中心領域に表示する色相を変更する色相変更手段を備え、中心領域の参照色の異なる色相各々について、同じ色に見えると誤って検出された色をその選択の際の彩度と共に検出することを特徴とする請求項5記載の色覚能力測定装置。
  7. 同一色度図上に、得られた複数の参照色それぞれの彩度において同じ色に見えると誤って検出された色を重ねて描画する描画手段を備えていることを特徴とする請求項6記載の色覚能力測定装置。
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