JP2006122984A - 脱脂性に優れたシャドウマスク素材 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明が解決しようとする課題は、防錆油が塗布してあっても、表面の油分を容易に除去できるシャドウマスク素材を提供することである。
【解決手段】(200)面X線回折強度構成比率が50%以上からなる集合組織を有し、圧延ロールの表面を形成する凹凸が転写した領域の面積率が60%以上である表面を有することを特徴とする脱脂性に優れたシャドウマスク素材であり、最表面のMn濃度が0.50質量%以下、最表面のSi濃度が0.50質量%以下である。
【選択図】 図1

Description

本発明は、カラーテレビジョン用受像管に用いられ、電子線の透過孔の形状が均一であるために脱脂性に優れたシャドウマスク素材に関する。
カラーブラウン管には、エッチング加工により電子線の透過孔を穿孔したシャドウマスクが用いられているが、機能の点から、シャドウマスクが有する孔の形状は面内で均一でなければならない。
そこで、シャドウマスク素材に透過孔を穿孔する場合、孔形状の面内均一性は、エッチング加工において素材表面性状の均一性に影響を受ける。例えば、脱脂性の悪いシャドウマスク素材をシャドウマスクに加工すると、シャドウマスクが有する孔の形状が面内で均一でなくなる。
以下に、シャドウマスク素材の製造からシャドウマスクの穿孔に至るまでの流れを示す。その中で、シャドウマスク素材の脱脂性等の表面性状の均一性及び孔の均一性を説明するとともに、従来の技術が有する問題点を明らかにする。
はじめに、シャドウマスク素材とその製造工程について述べる。
シャドウマスク素材は、板厚が0.05mm〜0.3mm、板幅が600mm〜950mmの金属板であり、条(帯、コイル)の形態を有する。特にパソコン・ディスプレイ用のシャドウマスクには板厚が0.1〜0.13mmのものが用いられる。
シャドウマスク素材の製造では、まず、所定の組成に配合したを有する合金原料を例えば真空誘導溶解炉(VIM炉)で溶解し、インゴットを作製する。インゴットを鍛造し、皮むきした後、熱間圧延を行いホットコイルとする。ホットコイルを酸洗しスケールを除去し白皮とする。その後は、再結晶焼鈍と冷間圧延を繰り返し、最後に仕上圧延を行い所定の板厚を有する冷間圧延材とする。仕上圧延を終えた後は、例えばレベラにより形状を平坦なものに矯正し、所定の幅にスリットする。そして、表面を洗浄し圧延油及びレベラ矯正の際に用いられる潤滑油を除去して防錆油を塗布し製品とする。
シャドウマスク素材として用いるFe−Ni系合金及びFe−Ni−Co系合金の溶解・鋳造では、必要な特性を得るため、主成分、不可避的不純物もしくは随伴元素を所定の範囲内に管理する。主成分のNi及びCoは、シャドウマスクの熱膨張特性、磁気特性及び機械的強度に影響を及ぼす。また、不可避的不純物もしくは随伴元素、例えばMn、C、Si、Al、S、Pといった元素は、固溶したり、酸化物、硫化物等の介在物を形成して、熱間加工性、エッチング穿孔性、シャドウマスクの熱膨張特性、シャドウマスクの磁気特性に影響を及ぼす。
シャドウマスク素材は、所定の集合組織と結晶粒度を有する。シャドウマスク素材をエッチングにより穿孔する際、集合組織と結晶粒度は、孔の形状に影響を及ぼす。シャドウマスク素材の製造では、再結晶焼鈍と冷間圧延を繰り返し所定の板厚に仕上製品とする。焼鈍条件及び、冷間圧延の加工度の設定により、集合組織、結晶粒度を調整する。
シャドウマスク素材の表面は、最終の仕上圧延により特有のミクロな凹凸を有しており、Ra、Ry、Sk等の指標で表示される。ここで、Ra、Ry、Skは、JIS B 0601:1994「表面粗さ―定義及び表示」及びJIS B 0660:1998「表面粗さ―用語 第1部:表面及び表面粗さパラメータ」の定義による表面粗さの指標である。例えば、Raが0.3〜0.6μm、Ryが2〜4μm、Skが0.2〜0.8といったものをシャドウマスク素材として用いる。シャドウマスク素材の製造における仕上圧延では、シャドウマスク素材特有の凹凸を得るため、一般にダルロールを使用する。ダルロールは、例えばショットホーニング加工により表面をダル肌に仕上げた圧延ロールである。
シャドウマスク素材の表面粗さは、エッチング加工におけるフォトレジスト膜の密着強度、及び、焼鈍におけるシャドウマスク同士の接着に影響を及ぼす。RaやRyが大きく粗い凹凸のもの、また、Skが正の値で尖った凹凸のものが、シャドウマスクに加工するうえで有利である。
RaやRyが大きいシャドウマスク素材は、フォトレジスト膜の密着強度が高い。後で述べるように、シャドウマスクの穿孔はフォトレジストを用いたエッチング加工により行う。その際、表面に形成するフォトレジスト膜は所定の強度でシャドウマスク素材に密着している必要がある。密着強度はアンカー効果及び化学的な親和力により得られる。アンカー効果及び化学的親和力のいずれの点からも、RaやRyが大きいものは、フォトレジストの密着強度が高い。シャドウマスク素材の表面粗さに関してはこれまでに数多くの発明がなされているが、レジスト密着性の向上に関する最近の発明例として、特許文献1がある。特許文献1によると、Raが0.1μmを下回ると素材のレジスト密着性は劣化する。
また、特許文献2によると、Skが正の値であるシャドウマスクは、焼鈍で接着しにくい。シャドウマスクをブラウン管に組み込む前には、焼鈍を行う。この焼鈍は、シャドウマスクのプレス成形性及び磁気特性を得るためのものであり、シャドウマスクを数十枚の単位で重ねて積みあげ、再結晶の生じる温度で、また、還元性の雰囲気で加熱するものである。この焼鈍において、表面が平滑なものは、重ね合わせたシャドウマスク同士が接着してしまい不良になる。Skが正の値で尖った凹凸のものは、接着しにくい。
フォトレジスト密着強度の向上、及び焼鈍における接着防止のいずれからも、シャドウマスク素材の表面は粗いもののほうが好ましい。しかし、表面が粗くなりすぎると、表面の凹凸がシャドウマスクの孔の形状に影響するようになり、孔の形状が面内で均一でなくなる。
シャドウマスク素材には、錆が発生するのを防止するため、防錆油を塗布する。防錆油は、一定の水準、例えば1mあたり100〜200mgを塗布する。
防錆油は、表面に塗布して強固な吸着膜障壁を形成し、発錆の誘因となる諸物質が接近するのを防止し、かつこれらを排除することで防錆効果を発揮する。防錆油の機能として、強力な防錆能力が発揮されること、長期の保管でも油じみ(オイルステイン)が発生しないこと、性能の劣化や酸化といった経時変化が小さいこと、前処理工程から表面に残留している油分やその他の物質と相性が良くスラッジといった反応生成物が発生しないことがあげられる。
防錆油を塗布する方法には、ロールコータ式、ブラシロール式及び静電塗油式がある。ロールコータ式は油を含むフェルト不繊布ロールをシャドウマスク素材の表面に接触させ、ロールの回転により、シャドウマスク素材の表面に油を転写する方法である。ブラシロール式は、ブラシロールを構成する繊維が持つ弾性力の作用により、油をはじき微小の液滴にすると同時に、シャドウマスク素材の表面に油を到達させる方法である。静電塗油式は、霧化装置にて発生させた微小の液滴に電荷を印荷し、電気的な力の作用によりシャドウマスク素材の表面に液滴を付着させる方法である。
次に、シャドウマスクの穿孔プロセスを説明する。
シャドウマスクは、片側面に、例えば直径が100μmの小孔と称される真円開口部を、反対面に、例えば200μmの大孔と称される真円開口部を有する。一対の小孔と大孔は、板厚方向でつながっており、孔の直径は板の内部で変化している。孔の中心と、その隣り合う孔の中心の間隔は、例えば250μmで一定である。
シャドウマスクの大孔と小孔は、エッチング加工により穿孔する。穿孔プロセスでは、まず最初にシャドウマスク素材を脱脂し酸洗する。次に、シャドウマスク素材の両面にフォトレジストを塗布し、小孔と大孔のパターンを焼き付ける。そして、焼き付けたものを現像した後、塩化第二鉄溶液による両面からのスプレーエッチングを行い穿孔する。
穿孔プロセス中、脱脂に関して、以下の問題がある。脱脂では、シャドウマスク素材をアルカリ脱脂液中に浸漬するか、スプレーによりアルカリ脱脂液をシャドウマスク素材の表面に吹き付けるかの方法により、表面に付着している防錆油やその他の残留油分を除去する。その際、残留する油分を最小にするとともに、残留する油分をシャドウマスク素材の面内で均一なものにする。アルカリ脱脂剤の濃度が低い場合、脱脂時間が短い場合、あるいは、シャドウマスク素材の脱脂性が悪い場合、シャドウマスク素材の表面には油分が残留することとなる。
脱脂した後、シャドウマスク素材を酸洗する。酸洗では、表面の酸化膜を除去し新生面を露出させる。新生面を露出させるのは、酸洗後に塗布するフォトレジストの濡れ性を良好にしフォトレジストとシャドウマスク素材との密着性を高めるためである。新生面は面内で均一に露出させる必要がある。新生面の露出が面内で均一でない場合には、フォトレジストの濡れ性が面内で均一でなくなり、フォトレジストの膜厚が面内で均一でなくなる。また、表面に残留する油分が多い場合には、シャドウマスク素材と酸洗液との反応が油分により阻害されることとなり、残留する油分が多くなくても面内で均一でない場合には、酸洗液とシャドウマスク素材との反応も面内で均一でなくなる。
酸洗した後、フォトレジストを塗布し小孔と大孔のパターンを焼き付ける。パターンを焼き付けたものを現像し、塩化第二鉄溶液によるスプレーエッチングを両面からおこない穿孔する。ここで、フォトレジスト膜の膜厚が面内で均一でないと、エッチング性も面内で均一でなくなり、その結果、孔の形状が面内で均一でなくなる。
エッチングによる穿孔を終えたシャドウマスクの表面は、目視による観察において、一定の光沢ないしは明るさを有する面を呈する。その際に、個々の孔を認識することはできない。これは、シャドウマスクの孔が小さいこと、及び隣接する孔と孔の間隔が狭いことによるものである。シャドウマスクの表面は、穿孔する前のシャドウマスク素材が金属の光沢を呈していたのに比べ、くもった光沢である。くもって見えるのは、表面に当たった光が孔の部分で乱反射することによるものである。
さらに、孔の形状が面内で均一でないシャドウマスク、即ち表面の光沢が面内で均一でないシャドウマスクをブラウン管に組み込み、ディスプレイを組み立て画像を映し出すと、画面の明るさが面内で均一でなくなる。ディスプレイの機能上、画面の明るさは面内で均一である必要がある。
したがって、孔の形状は面内で均一でなければならない。孔の形状が面内で均一でなくなる様態はさまざまであるが、シャドウマスク素材の材料特性に関する因子及び穿孔プロセスにおける因子に影響を受ける。
次に、シャドウマスク素材の表面性状の均一性が低下する不良についてその内容をより具体的に説明する。
穿孔プロセスにおける素材の表面性状の均一性の劣化は、フォトレジストを塗布し乾燥する工程で、フォトレジストの塗布ムラとして顕在化する。フォトレジストの塗布ムラは、シャドウマスクが有する孔の形状が面内で均一でなくなる原因の一つである。また、フォトレジストの塗布ムラは、穿孔プロセスにおける品質不良として位置付けることができる。
フォトレジストの塗布ムラは、フォトレジスト膜の厚みが面内で均一でなく、目で見てムラとして確認できるものである。ムラの形態として、現場的で定性的な表現ではあるが、タテムラ、波ムラ、円形ムラ、亀甲ムラと称するものがあげられる。いずれも、目で見て確認できる類いであり、これらの塗布ムラの発生した素材をシャドウマスクに加工すると、シャドウマスクの表面に目で見て確認できる光沢のムラが残る。シャドウマスクの表面に目で見て確認できる光沢のムラがあると、最終的にブラウン管に組み立てた際、画面にも明るさのムラが生じる。
フォトレジストの塗布ムラは、脱脂不良が原因で生じる。先に述べたように、脱脂において残留する油分を最小にするとともに残留する油分をシャドウマスク素材の面内で均一なものにしなければ、その後に行う酸洗において新生面が面内で均一に露出しない。この場合には、その後にフォトレジストを塗布してもフォトレジスト膜の厚みが面内で均一にならない。
さらに、近年シャドウマスクの穿孔プロセスにおいては、フォトレジストの塗布ムラ不良が従来より生じやすくなっている。それは、プロセスの合理化・効率化から、脱脂と酸洗の簡略化が進んでいることによるものである。即ち、脱脂では、脱脂剤の使用量を低減する傾向にあり、また、脱脂後の酸洗は行わないことも主流になってきている。さらに、プロセスにおける連続ラインでは、ライン速度の高速化を志向している。
以上より、シャドウマスク素材としては、脱脂しやすいもの、即ち防錆油を除去しやすく脱脂性が良好であるものが求められるようになってきている。
次に、シャドウマスク素材の脱脂性を改善する方法について従来の技術を説明する。
脱脂しやすいシャドウマスク素材として、防錆油の塗布量を最小限にすることが考えられる。先に述べたように、防錆油を塗布する方法には、ロールコータ式、ブラシロール式及び静電塗油式がある。このうち、防錆油の塗布量を少量のレベルに制御しやすいものは、静電塗油式である。静電塗油式によると、仕様上は、1mあたり数mgの水準での塗布が可能である。防錆油の塗布量を少なくすれば、容易に脱脂できるはずである。しかし、先に述べたように、シャドウマスク素材に塗布した防錆油の機能として必要なことは、強力な防錆能力を発揮すること、油じみが発生しないこと、経時変化が小さいこと、表面に残留している物質と相性が良いことである。防錆油の塗布量はこれらの項目を考慮した上で設定されるものであり、単に脱脂しやすいという理由だけで塗布量を少なくすることはできない。
また、脱脂しやすいシャドウマスク素材として、防錆油を全く塗布しないことも考えられ、特許文献3は、フォトレジスト密着性の良好なシャドウマスク素材として、防錆油をまったく塗布しないものを呈示している。しかし、この場合には輸送中や保管中に錆が発生するリスクをはらんでおり、気温が低く湿度が低い冬季には、もともと錆が発生しにくいので実施が可能であるが、高温で多湿の夏季には、錆が発生しないように、梱包の形態を工夫するとともに、保管中や輸送中においても温度や湿度といった項目について管理する必要がある。したがって、防錆油をまったく塗布しない方法は、制約条件があり限定的にしか実施できない。
さらに、脱脂しやすくする方法として、表面粗さを小さくする方法が挙げられる。表面粗さの小さいものは、表面粗さの大きいものに比べ脱脂が容易である。しかし、シャドウマスク素材の表面は、フォトレジストの密着強度を高くするため、また、焼鈍で接着しないようにするため所定の粗さを有している。したがって、脱脂性を改善するために表面粗さを小さくする方法には限界がある。
特許第3033426号公報 特開平3−193847号公報 特開2003−147490号公報
シャドウマスク素材として、脱脂性が良好なもの、即ち防錆油及びその他の油分を除去しやすいものが必要である。本発明が解決しようとする課題は、防錆油が塗布してあっても、表面の油分を容易に除去できるシャドウマスク素材を提供することである。
本発明者らは、表面に塗布した防錆油が脱脂性に影響を及ぼす主要因ではなく、その他に脱脂性に影響を及ぼす要因があることをつきとめた。即ち、フォトレジストの塗布ムラには残留した防錆油だけではなく圧延油及びレベラ矯正の際に用いる潤滑油も関与し、また、脱脂性にはRa、Ry、Skなどの粗さ以外の表面性状の影響があることを見出したのである。そして、表面性状を適正なものに改質することにより、良好な脱脂性が得られることを見出した。
即ち、本発明は、
(1)(200)面X線回折強度構成比率が50%以上からなる集合組織を有し、表面を形成する圧延ロールの凹凸が転写した領域の面積率が60%以上である表面を有するを特徴とするシャドウマスク素材、
(2)最表面のMn濃度が0.50質量%以下、最表面のSi濃度が0.50質量%以下である上記(1)に記載の脱脂性に優れたシャドウマスク素材、
(3)Ni:34〜38質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物もしくは随伴元素からなる化学成分を有する上記(1)、(2)に記載のシャドウマスク素材、
(4)Ni:28〜34質量%、Co:2〜8質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物もしくは随伴元素からなる化学成分を有する上記(1)、(2)に記載のシャドウマスク素材、
(5)不可避的不純物もしくは随伴元素と含有量が、Mn:0.50質量%以下、C:0.10質量%以下、Si:0.10質量%以下、Al:0.05質量%以下、S:0.005質量%以下、P:0.005質量%以下である上記(3)、(4)に記載のシャドウマスク素材
であり、本発明のシャドウマスク素材は、優れた脱脂性を有する。
本発明により、表面の油分を容易に除去できるシャドウマスク素材を提供することが可能となる。
以下の(1)〜(5)に本発明の限定理由を述べる。
(1)集合組織
後で述べるように、本発明では、シャドウマスク素材において表面を形成する圧延ロールの凹凸が転写した領域の面積率(以下、圧延ロールの凹凸転写率と称する)を高くすることで良好な脱脂性が得られることを特徴としている。圧延ロールの凹凸転写率を高くする方法として、圧延の加工度を高くすることが容易に考えられる。
しかし、従来技術によるシャドウマスク素材の製造では、最終の冷間圧延(仕上げ圧延)の加工度を低くしている。これは、最終の冷間圧延(仕上げ圧延)の加工度を低くすることで、圧延後の(200)面X線回折強度構成比率を高くし、良好なエッチング穿孔性を得るためである。この場合、圧延ロールの凹凸転写率が極めて低い。
そこで、本発明ではエッチング穿孔性の良好なシャドウマスク素材を得るため、(200)面X線回折強度構成比率が50%以上であることを規定した。(200)面X線回折強度構成比率が50%以上としたのは、最終の冷間圧延(仕上げ圧延)の加工度を高くすることで圧延ロールの凹凸転写率を高くし(例えば60%以上)、良好な脱脂性が得られても、(200)面X線回折強度構成比率が50%を下回ると、エッチングによる穿孔において良好な孔の形状が得られにくいからである。
なお、(200)面X線回折強度構成比率は、次の式で求める。
(200)面X線回折強度構成比率=I200/(I111+I200+I220+I311)×100(%)
ここで、Ihklは(hkl)格子面のX線回折強度である。この式は、回折格子面として(111)面、(200)面、(220)面、(311)面を含んでいる。これは、これら4つの回折格子面が、本発明で対象とする合金の主要な回折格子面であることによる。
X線回折強度(cps)は、一般にもちいられているX線ディフラクトメータにて測定する。管球は、Co管球を用いる。X線回折強度(cps)の測定には、ピークの高さを求める方法と、ピークの積分値を求める方法がある。本発明では、ピークの積分値を求める。
集合組織は、冷間圧延と再結晶焼鈍の繰り返しからなる一連の製造工程において、冷間圧延の加工度と、焼鈍条件を調整することにより制御する。即ち、焼鈍で結晶粒径を大きくすると、焼鈍上りの(200)面X線回折強度構成比率は高くなる。また、加工度の高い冷間圧延材を焼鈍すると、焼鈍上りの(200)面X線回折強度構成比率は加工度に応じて高くなる。さらに、焼鈍材を冷間で圧延すると、(200)面X線回折強度構成比率は、冷間圧延の加工度に応じて低くなる。焼鈍上りの結晶粒度は、焼鈍の温度と時間を調整し制御する。
なお、結晶粒度は、JIS G 0551に規定されている方法に準拠し粒度番号を測定する。また、冷間圧延の加工度は次の式で求める。
加工度={(t−t)/t}×100%
ここで、tは冷間圧延後の厚み、tは冷間圧延前の厚みである。
(2)表面を形成する圧延ロールの凹凸が転写した領域の面積率
冷間圧延材の表面は、表面を形成する圧延ロールの凹凸が転写した領域と転写しなかった領域とから構成される。圧延ロールの凹凸が転写した領域と転写しなかった領域が生じるのは、圧延油の作用によるものである。冷間圧延においては、圧延ロールと被圧延材の間には圧延油の膜が存在する。圧延油の膜は、厚みが均一でなく、厚みが厚い部分及び薄い部分から成る。圧延油の膜厚が薄い部分では、圧延ロールが素材に接触し、圧延ロール表面の凹凸が転写する。一方、圧延油の膜厚が厚い部分では、圧延ロールが接触せず、圧延ロール表面の凹凸が転写しない。
本発明は、圧延ロールの凹凸転写率が高いものは脱脂性が良好であることを見出したのである。ここで、圧延ロールの凹凸転写率とは、冷間圧延材の表面の面積(圧延ロールの凹凸が転写した領域の面積と転写しなかった領域の面積の合計)に対する圧延ロールの凹凸が転写した領域が占める面積の割合をいう。
これは、圧延ロール表面の凹凸が転写した領域と転写しなかった領域とで、油の表面に付着する強度が異なることによるものである。即ち、圧延ロール表面の凹凸が転写した領域に付着した油分は、付着強度が低く脱脂で容易に除去できるが、圧延ロールの凹凸が転写しなかった領域に付着した油分は、付着強度が高く脱脂で容易には除去されずに残留しやすい。凹凸が転写しなかった領域については、シャドウマスク素材の製造における圧延油及びレベラ矯正の際に用いる潤滑油、シャドウマスクの穿孔プロセスにおける防錆油と、いずれの油分についても脱脂で除去されずに残留しやすい。
圧延ロールの凹凸が転写した領域と転写しなかった領域における油の付着強度の違いは、シャドウマスク素材の表面に新生面が露出しているのか、冷間圧延前の表面がそのまま残存しているかの違いにより生じると考えられる。圧延ロールの凹凸が転写しなかった領域は、冷間圧延の前工程である焼鈍工程で形成した表面が冷間圧延を経てそのままの状態で残存したものであり、一方、圧延ロールの凹凸が転写した領域は、焼鈍工程で形成された表面が圧延ロールの凹凸が転写したことにより破壊されており、母材金属から成る新生面が露出している。そのため、圧延ロールの凹凸が転写した領域に付着した油分は、付着強度が低く脱脂で容易に除去できる。焼鈍工程で形成した表面の性質については、「(3)最表面のMn濃度、最表面のSi濃度」の項にて説明する。
圧延ロールの凹凸転写率は60%以上必要である。60%を下回ると、圧延ロール表面の凹凸が転写した領域が少なくなるため、表面の脱脂性が劣り、脱脂において油分が残留しやすくなる。その結果、その後に行う酸洗において新生面が面内で均一に露出せず、その後にフォトレジストを塗布してもフォトレジスト膜の厚みが面内で均一にならない等の不具合等の原因となる。
圧延ロールの凹凸転写率は、冷間圧延の加工度、圧延油の粘度、及び圧延速度を調整し制御する。冷間圧延の加工度が高いと圧延ロールの凹凸転写率は高くなる。また、圧延油の粘度が低いと、圧延ロールの凹凸転写率は高くなる。さらに、圧延速度が遅いと圧延ロールの凹凸転写率は高くなる。ここで、冷間圧延の加工度については、上述したようにエッチング穿孔性を良好にするため、制約があり限界がある。
したがって、圧延ロールの凹凸転写率は、圧延速度あるいは圧延油の粘度を適正なものに設定することにより調整する。
なお、従来のシャドウマスク素材の製造においては、Ra、Ry、Sk等の指標で表示される、シャドウマスク素材特有のミクロな凹凸形態を制御することが可能なことから、圧延ロールの凹凸転写率を管理していない。また、先に述べたように最終の冷間圧延(仕上げ圧延)の加工度を低くしているので、圧延ロールの凹凸転写率は極めて低い。
本発明における圧延ロールの凹凸転写率は、シャドウマスク素材を大気中で加熱し、表面の酸化状況を調べ測定することによって得られる。即ち、図1に示すように、大気中で加熱した後光学顕微鏡で観察すると圧延ロールの凹凸が転写した領域は黒色を呈し、圧延ロールの凹凸が転写しなかった領域は白色を呈する。光学顕微鏡の観察で、観察領域(黒色を呈する領域と白色を呈する領域を合せた領域)の面積に対する光学顕微鏡の観察で黒色を呈する領域の面積の割合を、圧延ロールの凹凸転写率とした。
圧延ロールの凹凸が転写した領域は、大気加熱で黒色になりやすい。これは、圧延ロールの凹凸が転写した領域は、大気加熱において酸化する速度が速く、この領域には黒色の厚い酸化膜が生成することによる。一方、圧延ロールの凹凸が転写しなかった領域は、酸化速度が遅く酸化膜が薄いため白色を呈する。
圧延ロールの凹凸転写率を測定する際において大気中で加熱する条件は、例えばNiを30〜40%含有する高ニッケル合金の場合、500〜700℃で10〜60分程度のものである。しかし、圧延ロールの凹凸が転写した領域と転写しなかった領域との差を現出させるための適正な大気加熱の条件は、シャドウマスク素材の加工履歴、主成分の組成、微量成分の濃度に依存し、大気中で加熱する条件を一義的に指定することはできないので、標準試料を作製し、あらかじめ条件を設定するをする必要がある。
また、試料の光学顕微鏡による観察では、再結晶焼鈍上りの領域が白色を、また、研磨で新生面が露出した領域が黒色を呈していることを確認する際、白色と黒色との明暗差(濃淡差、コントラスト)は、光学顕微鏡の設定条件でも変動するので、濃淡差が最大となる条件にあらかじめ設定するしておく必要がある。
上記の大気加熱の条件及び光学顕微鏡の観察条件の設定についての詳細な手順については、後において説明する。
(3)最表面のMn濃度、最表面のSi濃度
本発明の高ニッケル合金は、最表面のMn濃度が0.5質量%以下、最表面のSi濃度が0.5質量%以下である。最表面のMn濃度を0.5質量%以下に、また、最表面のSi濃度を0.5質量%以下にするのは、0.5質量%を上回る成分の表面は、脱脂性が劣り脱脂において油分が残留しやすいからである。
Si及びMnの濃化により脱脂性が劣化するのは、Si濃度及びMn濃度が高いと、再結晶焼鈍においてSi及びMnの酸化膜が生成するとともに、表面に残留している圧延油とSi及びMnが反応し油との親和力が高い非金属化合物から成る膜が生成するためと考えられる。特許第1804743号(特願昭63−106149:特開平1−159364)は、圧延・焼鈍工程において、圧延油と被圧延材の純チタンとが反応し化合物が表面に生成する事例を示している。それによると、活性な金属である純チタンを所定の条件で圧延し焼鈍すると、TiN、TiC、Ti(CN)、TiO、TiOといった複合の化合物が素材の表面に生成する。これらの化合物は、圧延後(焼鈍前)の脱脂で除去されずに残留した圧延油と純チタンとが、非酸化性の雰囲気による焼鈍において反応し生成するものである。シャドウマスク素材を製造する際に行なう冷間圧延・再結晶焼鈍においても、表面に濃化したSiやMnは、残留する圧延油と反応し化合物を生成するものと考えられる。
最表面のSi濃度及びMn濃度は、添加量を適正なものに調整すること、及び、焼鈍での表面への濃化を抑制することにより制御する。Siは脱酸剤として添加する元素であり、Mnは熱間加工性を得るために添加する元素である。また、Si及びMnは、焼鈍で表層に濃化し、Si及びMnの濃化層は冷間圧延で除去されず残存する。
焼鈍において、表面にSiやMnが濃化するのは、焼鈍の雰囲気ガスの作用によるものである。シャドウマスク素材の製造において実施する焼鈍は、還元性の雰囲気、例えば水素あるいは水素と窒素を混合したガス雰囲気による光輝焼鈍である。雰囲気ガスは、不可避的な不純物として酸化力のある水分を含む。また、焼鈍は、高温の再結晶焼鈍であり、各元素は活発に拡散する。Si及びMnは、酸素との親和力が高い元素であり、表面に拡散し表層に濃化する。
焼鈍においては、雰囲気ガスの露点を調整し、最表面のSi濃度及びMn濃度を制御する。雰囲気ガスの露点が低いとSi濃度及びMn濃度は低くなり、雰囲気ガスの露点が高いとSi濃度及びMn濃度は高くなる。したがって、最表面のSi濃度及びMn濃度を、本発明の範囲に収めるには、雰囲気ガスの露点を低くすればよい。
したがって、焼鈍雰囲気の露点を、高ニッケル合金より露点の低いステンレス鋼を焼鈍する際の管理範囲で行なうことにより、最表面のSi濃度及びMn濃度を本発明の範囲に調整することが可能である。
最表面のSi濃度及びMn濃度は、グロー放電発光分光分析法(GDS)により測定する。最表面の濃度とは、深さ0.000μmから深さ0.005μmの層の平均濃度をいう。
(4)Fe、Ni、Co
本発明の高ニッケル合金は、Fe−Ni系合金及びFe−Ni−Co系合金の2種類である。
Fe−Ni系合金は、Niの含有量が34〜38質量%の範囲である。Ni含有量が34質量%を下回ると、あるいは、38質量%を超えると、熱膨張が大きくなりシャドウマスクとしての機能が得られなくなる。なお、Ni原料中にCoが不可避的に混入することがある。例えば、0.2質量%程度のCoを含むことがあるが、これはFe−Ni系合金に含むものとする。
Fe−Ni−Co系合金は、Niの含有量が28〜38質量%の範囲、Coの含有量が2〜8質量%の範囲である。Coは、シャドウマスクの熱膨張を低下させると同時に、シャドウマスクの機械的強度の向上にも寄与する。シャドウマスクとして必要な熱膨張特性及び機械的強度を得るためには2質量%以上の添加が必要であり、添加量が8質量%を超えると磁気特性が悪化するので、2〜8質量%の範囲で添加する。Niは、Coとの相乗効果の点から28〜34質量%の範囲である。
(5)不純物及び随伴元素(添加元素)
不純物及び随伴元素の限定理由を以下のa)〜f)に示す。
a)Mn含有量
Mnは熱間加工性を阻害するSを無害化するために添加する。その含有量が少ないと、十分な効果は得られない。一方、0.5質量%を超えるものは、硬く、加工性が劣る。また、Mnの含有量が高いと、素材の製造における焼鈍でMnが表面に濃化し脱脂性が劣化する。さらに、Mnの含有量が高いとシャドウマスクの熱膨張特性は劣化する。従って、Mn含有量の上限は0.5質量%である。さらに好ましい範囲は、0.05〜0.5質量%の範囲である。
b)C含有量
Cが0.10質量質量%を超えるものは、エッチング穿孔性が劣るのでシャドウマスク素材として適さない。従って、C含有量の上限は0.10質量%である。
c)Si含有量
Siが0.10質量%を超えるものは、シリカ系の介在物を多く含有し、エッチング穿孔性が劣るのでシャドウマスク素材として適さない。また、Siの含有量が高いと、素材の製造における焼鈍でSiが表面に濃化し脱脂性が劣化する。従って、Si含有量の上限は0.10質量%である。
d)Al含有量
Alが0.05質量%を超えるものは、アルミナ系の介在物を多く含有し、エッチング穿孔性が劣るのでシャドウマスク素材として適さない。従って、Al含有量の上限は0.05質量%である。
e)S含有量
Sが0.005質量%を超えるものは、熱間加工性が著しく劣る。また、Sの含有量が高いと、シャドウマスクの磁気特性は劣化する。従って、S含有量の上限は0.005質量%である。
f)P含有量
Pが0.005質量%を超えるものは、エッチング穿孔性が劣るのでシャドウマスク素材として適さない。従って、P含有量の上限は0.005質量%である。
本発明の実施例を説明する。
実施例としてシャドウマスク素材を次の工程で製造した。
溶解→鋳造→鍛造→皮むき→熱間圧延→酸洗→素圧延→中間焼鈍→中間圧延→最終焼鈍→仕上圧延→形状矯正→脱脂→防錆油塗布
各工程における加工・処理条件、あるいは各工程を終えた時点での品質を以下の(1)〜(9)に示す。
(1)溶解、鋳造
所定の組成を有する合金原料を溶解し、溶解チャージから、形状が円柱形であるインゴットに鋳造した。Fe−Ni系溶解チャージの成分は、Ni:36.11質量%、Co:0.02質量%、C:0.0035質量%、Si:0.052質量%、Al:0.001質量%、S:0.0021質量%、P:0.0014質量%、Mn:0.22質量%であった。また、Fe−Ni―Co系溶解チャージの成分は、Ni:32.04質量%、Co:4.96質量%、C:0.0033質量%、Si:0.048質量%、Al:0.001質量%、S:0.0022質量%、P:0.0015質量%、Mn:0.23質量%であった。
(2)鍛造、皮むき、熱間圧延、酸洗
鋳造されたインゴットを、直方体に鍛造し皮むきした後、熱間圧延をおこない板厚が3mmのホットコイルとした。ホットコイルを酸洗しスケールを除去した。
(3)素圧延
板厚が3mmの酸洗材を、冷間で圧延し板厚が0.6mmの冷間圧延材とした。
(4)中間焼鈍
0.6mmの冷間圧延材を還元性雰囲気下で焼鈍し、粒度番号が8.0から10.0の範囲に結晶粒径を調整した。粒度番号はJIS G
0551に規定されている方法に準拠し測定した。雰囲気ガスは75%の水素と25%の窒素との混合ガスを用いた。焼鈍は連続焼鈍炉にて実施し、炉温とライン速度を設定し結晶粒径を調整した。
(5)中間圧延
板厚が0.15mmの焼鈍材を、冷間圧延し所定の板厚の冷間圧延材とした。
(6)最終焼鈍
この中間冷間圧延材を還元性雰囲気下で焼鈍し、粒度番号が8.0から10.0の範囲に結晶粒径を調整した。粒度番号はJIS G
0551に規定されている方法に準拠し測定した。雰囲気ガスは75%の水素と25%の窒素との混合ガスを用いた。焼鈍は連続焼鈍炉にて実施し、炉温とライン速度を設定し結晶粒径を調整した。
(7)仕上圧延
各種の板厚の焼鈍材を、加工度20〜70%で冷間圧延し板厚が0.12mmの冷間圧延材とした。圧延速度は100〜200m/分とした。圧延では、ダルロールにより表面の肌を仕上げた。圧延上りの表面粗さは、Raが0.3〜0.6μm、Ryが2〜4μm、Skが0.2〜0.8の範囲内であった。ダルロールの凹凸はショットホーニング加工により調整し、冷間圧延材の表面粗さを制御した。表面粗さRa、Ryは、JIS B 0601:1994「表面粗さ―定義及び表示」及びJIS B 0660:1998「表面粗さ―用語 第1部:表面及び表面粗さパラメータ」に準拠し測定した。
(8)形状矯正
ローラ・レベラにより形状を平坦なものに矯正した。
(9)脱脂、防錆油塗布
アルカリ脱脂剤をもちい洗浄し、表面に付着している圧延油及びレベラ矯正の際の潤滑油を除去した。その後、1m平方メートルあたり150mgの防錆油を、静電塗油式により塗布した。
得られた製品の(200)面X線回折強度構成比率、圧延ロールの凹凸転写率、表層のSi濃度・Mn濃度、脱脂性を調査した。
以下の(1)〜(4)に評価の内容を示す。
(1)(200)面X線回折強度構成比率
(200)面X線回折強度構成比率は、次式より求めた。
(200)面X線回折強度構成比率=I200/(I111+I200+I220+I311)×100(%)
ここで、Ihklは(hkl)格子面のX線回折強度を示す。回折X線の強度(cps)は、X線ディフラクトメータにて測定した。管球は、Co管球を用いた。回折X線強度(cps)の測定では、ピークの積分値を求めた。測定試料の前処理として表層を化学研磨(エッチング)にて除去した。表層を除去するのは、表面に形成されている変質層の影響をなくすためである。除去量は、板厚内部における、各格子面X線回折強度の分布を確認したうえで設定し、片面あたり板厚の5%とした。
(2)圧延ロールの凹凸転写率
本発明において、大気中で加熱した試料の表面で黒色を呈する領域の面積率を測定し、その値を、圧延ロールの凹凸転写率としている。そこで、本測定は、上述したとおり事前に大気加熱の条件と光学顕微鏡の観察条件を設定する必要があり、以下の手順にて条件を設定した。
まず、実施例に用いるFe―Ni系及びFe−Ni−Co系合金条からそれぞれ代表の一例ずつについて、寸法が20mm×100mmである短冊形の試料を切り出した。切り出した試料を以下のように脱脂し表面の油分を除去した。有機溶剤によるさらし拭き、有機溶剤による超音波洗浄、及びアルカリ脱脂剤による洗浄を順次行うものとした。さらし拭き及び超音波洗浄では、有機溶剤としてアセトンを用いた。アセトンによるさらし拭きでは、表面に付着している防錆油を除去し、目で見て油分が認められない状態にした。アセトンによる超音波洗浄の時間は30秒とした。また、アセトンによる脱脂はいずれも室温で行った。アルカリ脱脂では、脱脂剤として、市販のアルカリ脱脂剤エースクリーン(奥野製薬工業株式会社製)を用いた。エースクリーンの濃度は1Lあたり80gとし、脱脂液の温度は80℃とした。アルカリ脱脂では、試料を脱脂液に30秒間浸漬した。その後、水道水による流水洗浄を30秒間行い、ブロワにて水分を吹き飛ばした。
脱脂した試料を還元性雰囲気下で焼鈍し、粒度番号が8.0から10.0の範囲に結晶粒径を調整した。粒度番号はJIS G
0551に規定されている方法に準拠し測定した。雰囲気ガスは75%の水素と25%の窒素との混合ガスを用いた。焼鈍温度は850℃、焼鈍時間は、昇温時間及び降温時間を除いた均熱時間で15分とした。焼鈍した試料の表面をエメリー紙で研磨した。研磨量はシャドウマスク素材の表面を形成するミクロな凹凸がすべて消滅し、研磨であらたに形成した凹凸が全面を占めるものとした。また、エメリー紙で研磨した領域の表面粗さを測定し、Raが0.3〜0.6μm、Ryが2〜4μmの範囲内であることを確認した。表面粗さRa、Ryは、JIS B 0601:1994「表面粗さ―定義及び表示」及びJIS B 0660:1998「表面粗さ―用語 第1部:表面及び表面粗さパラメータ」に準拠し測定した。エメリー紙で研磨するのは試料の一部分のみとし、再結晶焼鈍上りの領域、及び研磨で新生面が露出した領域からなる1枚の試料とした。標準試料の表面で研磨紙で機械的に研磨した領域は、母材の新生面が露出しており、ロールの凹凸が転写した領域に相当し、研磨紙で研磨しない領域は、焼鈍で再結晶した状態であり、ロールの凹凸が転写しなかった領域に相当する。この標準試料を大気中で加熱した。加熱温度は600℃とし、加熱時間は、昇温時間及び降温時間を除いた均熱時間で15分とした。
得られた試料を光学顕微鏡で観察した。光学顕微鏡の観察では、再結晶焼鈍上りの領域が白色を、また、研磨で新生面が露出した領域が黒色を呈していることを確認した。ここで、光学顕微鏡の設定、例えば光源の強度、絞り、各種フィルタは、試料の表面における再結晶焼鈍上りの領域と研磨で新生面が露出した領域との明暗差(濃淡差、コントラスト)が最大になるものにした。なお、白色と黒色との明暗差(濃淡差、コントラスト)は、測定精度に影響するものであり、測定値の絶対値に影響するものではない。また、本発明における面積率は、光学顕微鏡写真を2階調の画像処理によって算出されるが、その条件も確認した。
大気加熱の条件と光学顕微鏡の観察条件を用いて、実施例のシャドウマスク素材を評価した。
測定では、シャドウマスク素材から20mm×100mmの短冊形の試料を切り出し、切り出した試料を脱脂し表面の油分を除去した。脱脂は、条件設定の際に行なった手順と同様な手順にて行った。水による洗浄及び乾燥も同様である。
脱脂した試料を大気中で加熱した。事前に設定した条件である加熱温度は600℃とし、加熱時間は、昇温時間及び降温時間を除いた均熱時間で15分とした。
大気中で加熱した試料の表面を光学顕微鏡にて観察し、表面の状態を写真に撮影した。倍率は100倍とした。得られた写真より、黒色を呈する領域の面積率を求めた。面積率は、画像解析装置によった。一例として、図1に光学顕微鏡写真、図2にその光学顕微鏡写真を2階調に処理した画像を示す。
(3)最表面のMn濃度及びSi濃度、
最表面のMn濃度及びSi濃度を、グロー放電発光分光分析法(GDS)により測定した。測定条件を表1に示す。スパッタ速度(μm/秒)は、日本鉄鋼標準試料FXS331(Fe―35%Ni合金)の試料を250秒間放電した後の深さ(μm)から求めた。分析で得たすべてのデータのうち、深さが0.000〜0.005μmの範囲であるデータを抽出しその平均値を算出した。
(4)脱脂性
所定の条件で脱脂した後、ぬれ張力を測定し、脱脂性を評価した。ぬれ張力は、「プラスチック―フィルム及びシート―ぬれ張力試験方法:JISK 6768 1999」としてJIS規格に規定されている指標で、もともとはプラスチックを評価するためのものであるが、金属材料であるシャドウマスク素材の評価にも適用することが可能である。
ぬれ張力は、表面に残留している油分量と相関があり、ぬれ張力を測定することによりシャドウマスク素材の表面に残留している油分の多い・少ないを相対的に評価することができる。表面に付着している防錆油等の油分は、脱脂の条件によっては、脱脂した後に油分が残留する。残留している油分量に応じてぬれ張力は変化する。油分量が多いとぬれ張力は低くなり、油分量が少ないとぬれ張力は高くなる。脱脂性の良好なシャドウマスク素材は、脱脂した後に残留する油分量が少なく、脱脂した後のぬれ張力が高い。逆に、脱脂性の劣るシャドウマスク素材は、脱脂した後に残留する油分量が多く、脱脂した後のぬれ張力が低い。
脱脂性の評価における試料の脱脂方法は、圧延ロールの凹凸転写率測定に準ずる。ただし、アルカリ脱脂剤エースクリーン(奥野製薬工業株式会社製)の濃度は1Lあたり10gとした。脱脂した後、ぬれ張力を測定した。
実施例の特性を表2に示す。
発明例No.1〜11は、圧延ロールの凹凸転写率が本発明の範囲内であり、脱脂後のぬれ張力が高く良好な脱脂性を示した。なかでも発明例No.1〜4は、圧延ロールの凹凸転写率が本発明の範囲内であるだけでなくSi濃度及びMn濃度も本発明請求項2の範囲内であり、特に優れた脱脂性を示した。発明例No.5〜8は、Si濃度及びMn濃度も本発明請求項2の範囲外であり、発明例No.1〜4に比べると、脱脂性がやや劣る。発明例No.9〜11は、圧延加工度が高いため、集合度が本発明の範囲内で低い水準になっている。そのため、発明例No.9〜11は、シャドウマスクのエッチング穿孔性が発明例No.1〜4に比べ劣ることが推察される。
比較例No.1〜4及びNo.9は、圧延ロールの凹凸転写率が本発明の範囲外であり、脱脂後のぬれ張力が低く脱脂性が劣っていた。比較例No.5〜8は、圧延ロールの凹凸転写率、Si濃度及びMn濃度のいずれもが本発明の範囲外であり、脱脂後のぬれ張力が特に低い値となった。比較例No.10〜12は加工度が高いため圧延ロールの凹凸転写率が高く、脱脂後のぬれ張力が高く脱脂性が良好であった。しかし、比較例No.10〜12は、集合度の測定において、(200)面X線回折強度構成比率が、本発明の好ましい範囲の下限である50%を下回っており、エッチング穿孔性が悪いためシャドウマスク素材として用いることはできない。
試料を大気中で加熱した後の光学顕微写真である。 試料を大気中で加熱した後の光学顕微写真を2階調処理した画像である。

Claims (5)

  1. (200)面X線回折強度構成比率が50%以上からなる集合組織を有し、圧延ロールの表面を形成する凹凸が転写した領域の面積率が60%以上である表面を有することを特徴とする脱脂性に優れたシャドウマスク素材。
  2. 最表面のMn濃度が0.50質量%以下、最表面のSi濃度が0.50質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の脱脂性に優れたシャドウマスク素材。
  3. Ni:34〜38質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物もしくは随伴元素からなる化学成分を有することを特徴とする請求項1、2に記載の脱脂性に優れたシャドウマスク素材。
  4. Ni:28〜34質量%、Co:2〜8質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物もしくは随伴元素からなる化学成分を有することを特徴とする請求項1、2に記載の脱脂性に優れたシャドウマスク素材。
  5. 不可避的不純物もしくは随伴元素とその含有量が、Mn:0.50質量%以下、C:0.10質量%以下、Si:0.10質量%以下、Al:0.05質量%以下、S:0.005質量%以下、P:0.005質量%以下であることを特徴とする請求項3、4に記載の脱脂性に優れたシャドウマスク素材。

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JP2016135505A (ja) * 2015-01-20 2016-07-28 日立金属株式会社 Fe−Ni系合金薄板の製造方法

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