JP2006120414A - 燃料電池システムの停止保管方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】燃料電池のカーボン酸化劣化を効率良く抑制する燃料電池システムの停止保管方法を提供する。
【解決手段】電解質膜の両側に燃料極及び酸化剤極を配置し、燃料極及び酸化剤極に隣接してガス拡散層をそれぞれ設けてなる膜電極複合体を含む単位燃料電池と、燃料極内のガス濃度を検出する手段とを有する燃料電池システムの停止保管方法であって、燃料電池システムを停止する際、燃料極内における酸素に対する水素の濃度比を測定し、酸素に対する水素の濃度比が酸化剤極が酸化する範囲に含まれるか否かを判断し(S02)、酸素に対する水素の濃度比が酸化剤極が酸化する範囲に含まれる場合に、流体により燃料極内を置換又は希釈する(S03、S04)。
【選択図】図2

Description

本発明は燃料電池システムの停止保管方法に関し、特に、燃料電池のカーボン酸化劣化を抑制する燃料電池システムの停止保管方法に関する。
燃料電池システムは、天然ガス等の燃料を改質して得られる水素と空気中の酸素とを電気化学的に反応させて直接発電する発電システムであり、燃料の持つ化学エネルギーを有効に利用することが出来、環境にもやさしい特性を有しているため、実用化に向けて技術開発が本格化している。
燃料電池の運転停止直後には燃料極に水素ガスが残留することが知られている。この状態のまま放置すると、外部から空気が混入して水素ガスと酸素ガスとが混在する。水素ガスと酸素ガスとが混在すると、空気極側の触媒が劣化してしまう。
従来から、システムの停止保管中における燃料電池内のガス濃度を制御する技術が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。特許文献1では、燃料極のガス排出口からガスを吸引するガス吸引装置を備える燃料電池システムが開示され、燃料電池内のガス濃度を検知して、このガス濃度に基づいて発電のタイミングやガス排出を制御することにより、水素ガスと酸素ガスとの混在を防ぎ、触媒の劣化を防止している。また、特許文献2では、燃料電池システムの停止保管中には、4%以下の水素ガスを入れたままの状態で保持する技術が開示されている。
特開2003−109630号公報 米国特許出願公開第2002/0182456号明細書
しかし、特許文献1に記載された燃料電池システムでは、所定の濃度に達したら次のステートに移行するというだけで、その濃度を選択した理由が空気極側の触媒の劣化に起因する旨は記されていない。
また、特許文献2に記載された燃料電池システムでは、安全面から水素ガスを4%以下に定義してあるだけで、空気極側の触媒の劣化に影響を及ぼす濃度まで言及されていない。
本発明の第1の特徴は、電解質膜の両側に燃料極及び酸化剤極を配置し、燃料極及び酸化剤極に隣接してガス拡散層をそれぞれ設けてなる膜電極複合体を含む単位燃料電池と、燃料極内のガス濃度を検出する手段とを有する燃料電池システムの停止保管方法であって、燃料電池システムを停止する際、燃料極内における酸素に対する水素の濃度比を測定し、酸素に対する水素の濃度比が酸化剤極が酸化する範囲に含まれるか否かを判断し、酸素に対する水素の濃度比が酸化剤極が酸化する範囲に含まれる場合に、流体により燃料極内を置換又は希釈することを要旨とする。
本発明の第2の特徴は、電解質膜の両側に燃料極及び酸化剤極を配置し、燃料極及び酸化剤極に隣接してガス拡散層をそれぞれ設けてなる膜電極複合体を含む単位燃料電池と、単位燃料電池の起電力を測定する手段とを有する燃料電池システムの停止保管方法であって、燃料電池システムを停止する際、単位燃料電池の起電力を測定し、単位燃料電池の起電力が酸化剤極が酸化する範囲に含まれるか否かを判断し、燃料極側に水素と酸素が混在する状況であって、単位燃料電池の起電力が酸化剤極が酸化する範囲に含まれる場合に、流体により燃料極内を置換又は希釈することを要旨とする。
本発明によれば、燃料極内における酸素と水素の濃度比又はガス混合時の起電力に基づいて、燃料電池内の混在状態を置換又は希釈することにより、燃料電池システムの停止保管中における、燃料電池とりわけ酸化剤極のカーボン酸化劣化を効率良く抑制する燃料電池システムの停止保管方法を提供することが出来る。
以下図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図面の記載において同一あるいは類似の部分には同一あるいは類似な符号を付している。
(第1の実施の形態)
[構成]
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係わる燃料電池システムは、燃料ガスとしての水素ガスと酸化剤ガスとしての空気を電気化学的に反応させて発電を行う燃料電池1と、燃料電池1へ供給される水素ガスを貯蔵する水素ボンベ9と、水素ボンベ9と燃料電池1の水素導入口とを繋ぐ水素供給ライン4と、燃料電池1の水素排出口に接続された水素排出ライン5と、水素排出ライン5と水素供給ライン4とを接続する水素循環ライン10と、水素循環ライン10上に配置された水素循環ポンプ11と、空気を圧縮して燃料電池1の空気導入口へ供給するコンプレッサ8と、コンプレッサ8と燃料電池1の空気導入口とを繋ぐ空気供給ライン6と、燃料電池1の空気排出口に接続された空気排出ライン7と、燃料電池1の水素導入口近傍の水素供給ライン4上に配置された第1のガス濃度センサ2aと、燃料電池1の水素排出口近傍の水素排出ライン5上に配置された第2のガス濃度センサ2bと、空気供給ライン6と水素供給ライン4とを接続する第1のバルブ3aと、水素ボンベ9の近傍の水素供給ライン4上に配置された第2のバルブ3bと、水素循環ライン10との接続点より下流の水素排出ライン5上に配置された第3のバルブ3cと、コンプレッサ8、水素循環ポンプ11、第1及び第2のガス濃度センサ2a、2b、第1及び第2のバルブ3a、3bの動作を制御する制御ユニット12とを有する。
燃料電池1は、単位燃料電池(以後、「単位セル」という)の並設積層構造を有する。単位セルは、電解質膜の両側に燃料極(水素極)及び酸化剤極(空気極)を配置し、水素極及び空気極に隣接してガス拡散層をそれぞれ設けてなる膜電極複合体を含む。また、「第1及び第2のガス濃度センサ2a、2b」は、単位セル内の燃料極内のガス濃度を検出する手段の一例である。ここで、「単位セル内の燃料極内のガス濃度を検出する手段」とは、単位セル内の燃料極内のガス濃度を直接検出する手段のみならず、単位セル内の燃料極内のガス濃度に係わる他の物理量を検出し、その物理量から当該ガス濃度を推定する手段をも含む概念である。
水素ボンベ9から導出される水素ガスは、水素供給ライン4を介して燃料電池1へ供給される。このときの水素ガスの圧力は第2のバルブ3bにより調整され、水素循環ライン10からの排水素ガスと混合される。燃料電池1から排出された水素ガスは、水素循環ライン10を介して水素供給ライン4に戻されるか、又は水素排出ライン5を介して排出される。
燃料電池システムの通常発電時や停止時、第3のバルブ3cは閉じている。水素供給ライン4や水素循環ライン10に残留する水素や空気極側からクロスオーバーしてきた窒素を排出する時に第3のバルブ3cを開く。水素供給ライン4上に設けられた第1のガス濃度センサ2a及び水素排出ライン5上に設けられたガス濃度センサ2bは、共に水素濃度、酸素濃度の少なくとも何れかを測定し、酸素に対する水素の濃度比を推定する。一方、コンプレッサ8から供給される空気は、空気供給ライン6を介して燃料電池1の空気極系に供給され、空気排出ライン7より排出される。コンプレッサ8の出口には、第1のバルブ3aを介して水素供給ライン4と空気供給ライン6をつなぐライン(配管)が存在する。制御ユニット12は、第1及び第2のガス濃度センサ2a、2bからの水素又は酸素濃度の測定値信号を受信し、第1のバルブ3a、第2のバルブ3b、水素循環ポンプ11及びコンプレッサ8を制御する。
[第1の制御方法]
図2を参照して、図1の燃料電池システムを停止保管する際の制御方法(その1)を説明する。
(イ)先ず、S01段階において、燃料電池1へ水素及び空気の供給を停止する。具体的には、制御ユニット12が、コンプレッサ8の運転を停止し、第2のバルブ3bを閉じる。
(ロ)S02段階において、第1のガス濃度センサ2a及び第2のガス濃度センサ2bの少なくとも一方が、水素極内における酸素に対する水素の濃度比が70%以上400%以下であることをと検知することを監視する。70〜400%の範囲に入る場合(S02段階においてYES)S03段階に進む。このように、燃料電池システムを停止する際、水素極内における酸素に対する水素の濃度比を測定し、酸素に対する水素の濃度比が空気極が酸化する範囲(70〜400%の範囲)に含まれるか否かを判断する。
(ハ)S03段階において、制御ユニット12は、コンプレッサ8を稼動させて空気の供給を開始する。S04段階において、制御ユニット12は、第1のバルブ3aを開き、コンプレッサ8から供給される空気を水素供給ライン4にも供給する。このように、酸素に対する水素の濃度比が70〜400%の範囲に含まれる場合に、流体(ここでは空気)により水素極内を置換又は希釈する。
(ニ)S05段階において、水素排出ライン5に配置された第2のガス濃度センサ2bが、酸素に対する水素の濃度比が70%未満であることを検知することを監視する。70%未満である場合(S05段階においてYES)S06段階に進む。
(ホ)S06段階において、制御ユニット12は、第1のバルブ3aを閉じる。S07段階において、制御ユニット12は、コンプレッサ8を停止して空気の供給を停止する。
なお、第2のガス濃度センサ2bによる酸素に対する水素の濃度比が70%未満となってから第1のバルブ3aを閉じるまで、即ちS05段階からS06段階まで、所定の時間遅れを持たせても構わない。また、コンプレッサ8と第1のバルブ3aの動作は順不同としても構わない。即ち、S03段階の前にS04段階を実施しても構わないし、S06段階の前にS07段階を実施しても構わない。更に、水素極内を置換又は希釈する空気の流量は、燃料電池システムが制御することができる最大流量であることが望ましい。
[第2の制御方法]
図3を参照して、図1の燃料電池システムを停止保管する際の制御方法(その2)を説明する。
(a)先ず、S11段階において、燃料電池1へ水素及び空気の供給を停止する。具体的には、制御ユニット12が、コンプレッサ8の運転を停止し、第2のバルブ3bを閉じる。
(b)S12段階において、第1のガス濃度センサ2a及び第2のガス濃度センサ2bの少なくとも一方が、水素極内における酸素に対する水素の濃度比が70%以上400%以下であることを検知することを監視する。70〜400%の範囲に入る場合(S12段階においてYES)S13段階に進む。このように、燃料電池システムを停止する際、水素極内における酸素に対する水素の濃度比を測定し、酸素に対する水素の濃度比が空気極が酸化する範囲(70〜400%の範囲)に含まれるか否かを判断する。
(c)S13段階において、制御ユニット12は、第2のバルブ3bを開き、水素ボンベ9から水素供給ライン4へ再び水素ガスを供給する。S14段階において、制御ユニット12は、水素循環ポンプ11を駆動して再び水素循環ライン10へ水素ガスを循環させる。
(d)S15段階において、水素排出ライン5に配置された第2のガス濃度センサ2bが、酸素に対する水素の濃度比が400%を超えていることを検知することを監視する。400%を超えた場合(S15段階においてYES)S16段階に進む。
(e)S16段階において、制御ユニット12は、第2のバルブ3bを閉じて、水素ボンベ9から水素供給ライン4への水素ガスの供給を停止する。S17段階において、制御ユニット12は、水素循環ポンプ11を停止して水素循環ライン10への水素ガスの循環を停止する。
なお、第2のガス濃度センサ2bによる酸素に対する水素の濃度比が400%を超えてから第2のバルブ3bを閉じるまで、即ちS15段階からS16段階まで、所定の時間遅れを持たせても構わない。また、第2のバルブ3bと水素循環ポンプ11の動作は順不同としても構わない。即ち、S13段階の前にS14段階を実施しても構わないし、S16段階の前にS17段階を実施しても構わない。更に、水素極内を置換又は希釈する水素ガスの流量は、燃料電池システムが制御することができる最大流量であることが望ましい。
[実験例]
次に、図2及び図3の制御方法において、酸素に対する水素の濃度比の範囲を定量化するに当たり、発明者らが行った実験のうちの一例を示す。
図4に示すように、実験例に係わる燃料電池システムは、燃料電池1と、燃料電池1へ空気を供給する空気供給ライン6と、燃料電池1から空気が排出される空気排出ライン7と、燃料電池1へ水素ガス及び空気の混合気を供給する水素供給ライン4と、燃料電池1から水素ガスが排出される水素排出ライン5と、空気供給ライン6を流れる空気の流量を制御する空気マスフローコントローラ15aと、水素供給ライン4を流れる水素ガスの流量を制御する水素マスフローコントローラ16と、水素供給ライン4を流れる空気の流量を制御する空気マスフローコントローラ15bと、水素ガスと空気を混合して水素供給ライン4へ供給する混合器19と、空気供給ライン6上に配置された空気側加湿器17と、水素供給ライン4上に配置された水素側加湿器18と、燃料電池1の水素導入口近傍の水素供給ライン4に分析ポート23aを介して接続された水素側質量分析器21と、燃料電池1の空気排出口近傍の空気排出ライン7に分析ポート23bを介して接続された空気側質量分析器20と、燃料電池1の空気極側の温度を測定する熱電対22とを備える。
燃料電池1は、電解質膜25及び電解質膜25の両側に配置された水素極28及び空気極26を備える膜電極複合体と、膜電極複合体を挟持する水素側セパレータ29並びに空気側セパレータ27とを備える。水素供給ライン4及び水素排出ライン5は水素側セパレータ29に接続され、空気供給ライン6及び空気排出ライン7は空気側セパレータ27に接続されている。
燃料ガス系において、水素ガス及び空気は、それぞれマスフローコントローラ16、15bを介して混合器19で混合された後、水素供給ライン4に供給され、水素側加湿器18を通って燃料電池1の水素側セパレータ29に供給される。水素側質量分析器21は、燃料電池1の水素導入口におけるガス組成を測定することができる。一方、酸化剤ガス系において、空気は、空気マスフローコントローラ15aを介して空気供給ライン6に供給され、空気側加湿器17を通って燃料電池1の空気側セパレータ27に供給される。空気側質量分析器20は、燃料電池1の空気排出口におけるガス組成を測定することができる。
図4に示す実験装置を用いて、水素極側並びに空気極側に一定の空気を導入しながら、水素極側に水素マスフローコントローラ16で流量が制御された水素ガスを徐々に加えていき、その時の燃料電池1の発電電圧の変化並びに燃料電池1の空気排出口から排出される二酸化炭素の量を空気側質量分析器20を用いて測定した。水素側セパレータ29に供給される燃料ガスにおける水素と酸素の混合比は、水素マスフローコントローラ16及び空気マスフローコントローラ15bに表示された流量比に加え、水素側質量分析器21による分析結果を合わせて確認した。なお、空気側セパレータ27の中に挿入された熱電対22を用いて燃料電池1の温度を任意に制御する。
図5は、図4の熱電対22による燃料電池1の制御温度を70℃に設定した場合の代表的な実験結果を示す。時間経過に対し、水素濃度を零から徐々に増していったところ、酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)が約9.5%となってから約100秒経過した後に、単位セルの発電電圧が200mV程度まで上昇した。その後、酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)が70%未満の段階までは、単位セルの発電電圧は200mVから緩やかに上昇するが、空気極からの二酸化炭素(CO2)排出は検出されなかった。ところが、濃度比(H2/O2)が70%以上となったところで、発電電圧は300mVから急激に上昇し750mV付近まで到達した。同時に、濃度比(H2/O2)が70%以上となったところで空気極から急激に二酸化炭素(CO2)が排出され始め、そのまま排出され続けた。濃度比(H2/O2)が増すにつれて発電電圧は緩やかに上昇し、濃度比(H2/O2)が400%に到達した時点で、発電電圧は約900mVであった。また、濃度比(H2/O2)が400%に到達した時点で、二酸化炭素の排出割合は急激に低減して検出限界付近にまで下がった。この後、水素極側の空気の供給を停止して(O2濃度=0%)、濃度比(H2/O2)を∞(無限大)としたところ、二酸化炭素の検出割合はほぼ検出限界付近に落ち着いた。
図5に示す実験結果は、酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)を低い方から高い方に推移させた時の結果であるが、逆に低い方から高い方に推移させた時にも上記の濃度比(H2/O2)範囲及び発電電圧範囲にほぼ収まることを発明者らは実験的に確認している。また、燃料電池1の温度等が何れの条件においても、図5の実験結果は再現性を有することも確認している。
更に、単位セルの発電電圧が酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)に応じておよそ2段階に変化することは、実験のみならずシミュレーションによっても確認されており、発明者らは図5に示す実験結果と近いシミュレーション結果を得ている。単位セルの発電電圧は、主に水素並びに酸素の分圧、温度等のパラメータにより、Butler-Volmerの式により決定される。
また、二酸化炭素が空気極の空気排出口から排出される理論は、米国特許出願公開2002/0076582号公報に示されている通りであり、水素と酸素の共存による電解質電位の変化に起因する酸化剤電位の上昇である。
発明者らは図5に示す実験例を燃料電池の温度を40℃から90℃まで10℃間隔でそれぞれ複数回実施した。図6は、このときの空気極からの二酸化炭素排出割合に関する温度依存性の結果を示す。縦軸は二酸化炭素排出割合の対数値を示し、縦軸は空気側セパレータ27の温度(絶対温度)の逆数を示す。二酸化炭素排出量の対数値は、燃料電池1に設けた熱電対22の温度の逆数に対して一次関数となることがわかった。これは、一般に知られる反応速度と温度に関連するアレニウスの理論式に一致する傾向にある。従って、温度が上昇するに従い、二酸化炭素排出量は指数関数的に上昇するといえる。
[作用]
以上の実験結果に基づく図2及び図3に示す燃料電池システムの停止保管方法が奏する作用について説明する。燃料電池1の運転停止直後には水素極に水素ガスが残留することが知られている。この状態のまま放置すると、外部から空気が混入して水素ガスと酸素ガスとが混在する。空気中の酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)が「所定の濃度比範囲」に入る場合、水素極側において水素リッチな領域における電解質電位に対して酸素リッチな領域における電解質電位が低くなるため、酸素リッチな領域の方が水素リッチな領域に比べて電解質電位に対する酸化剤極の電位が高くなる。そのため、酸素リッチな領域における空気極(カーボン担体や白金など)は酸化腐食する。上記の実験例では、質量分析器によりカーボン担体の腐食に関して測定したが、高電位になることからカーボン担体に限らず白金など金属触媒の酸化劣化も発生する。
それに対して図2及び図3に示す燃料電池システムの停止保管方法では、新たに「所定の濃度範囲」を避ける制御を行うことにより、上記のような空気極の酸化腐食を抑制することができる。また、実験結果が示す通り、酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)が70%以上400%以下のとき、空気極の酸化劣化が加速される。したがって、「所定の濃度範囲」として酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)が70%以上400%以下の範囲を避ける制御を行うことで空気極の酸化劣化を抑制することができる。
また、図2及び図3に示すような空気又は水素ガスを使用した燃料電池1内水素ガスの希釈(または濃縮)は、空気及び水素ガスは共に燃料電池システムが有するガスであるため簡素なシステムで実現できる。窒素は不活性ガスであり置換に有効であることが知られているので供給源を有すれば有効である。水蒸気は、加湿器や改質システムなど燃料電池システム内に水蒸気供給可能なシステムが存在するときに、簡素なシステムで実現できる。
更に、燃料電池1本体における水素ガス排出口付近にガス濃度検出または推定手段として第2のガス濃度センサ2bを設けることにより、燃料電池1内部の置換状態を推定する上で、総ての単位セルのガス状況を効果的に把握でき、ガス置換または希釈の終了タイミングを精度よく判断することができる。
[効果]
本発明の第1の実施の形態に係わる燃料電池システムの停止保管方法によれば、必要な濃度条件のときのみガス置換等を行うといった最低限かつ本質的な制御を行うので、従来に比べて省力化や簡素化、効率化を図れ、かつ耐久性に優れた燃料電池システムを得ることができる。
(第2の実施の形態)
[構成]
図7に示すように、本発明の第2の実施の形態に係わる燃料電池システムは、図1に示す燃料電池システムに比べて、以下の点が異なる。即ち、図7に示す燃料電池システムは、図1の水素循環ポンプ11の代わりに、水素循環ライン10が水素供給ライン4と交わる箇所に配置されたイジェクタ30を備える。イジェクタ30は、燃料電池1の水素排出口から排出された水素ガスを水素循環ライン10を介して水素供給ライン4へ循環させる。また、図7に示す燃料電池システムは、図1の第1及び第2のガス濃度センサ2a、2bの代わりに、燃料電池1内の3箇所の電位E1、E2、E3を測定する電圧センサ31を備える。制御ユニット12は、燃料電池1内の電位差の信号を受けて、第1及び第2のバルブ3a、3bの開度、並びにコンプレッサ8の回転数を制御する。
第2の実施の形態では、燃料電池1内の電位差の信号と例して、E2−E1、並びにE3−E2の電位差を用いて制御を行う場合について説明する。E2−E1は燃料電池1全体の発電電圧を示し、E3−E2は燃料電池1の空気排出口及び水素排出口に最も近い1以上の単位セルの発電電圧を示す。E3−E2は、燃料電池1の水素極側に水素ガスや空気等の置換または希釈用の流体を供給する上で最も水素供給ライン4及び空気供給ライン6から離れて発電電圧が変化しにくい場所に存在する1以上の単位セルの発電電圧である。ガス供給の際、燃料電池1の空気排出口及び水素排出口に最も近い1以上の単位セルの発電電圧が変化した場合には、燃料電池1全体における発電電圧はもちろん、他の単位セルの発電電圧も総て変化していることが確認されている。
その他の構成は、図1に示した燃料電池システムと同じであり、説明を省略する。
[第1の制御方法]
図8を参照して、図7の燃料電池システムを停止保管する際の制御方法(その1)を説明する。
(イ)先ず、S31段階において、燃料電池1へ水素及び空気の供給を停止する。具体的には、制御ユニット12が、コンプレッサ8の運転を停止し、第2のバルブ3bを閉じる。
(ロ)S32段階において、電圧センサ31を用いて燃料電池1全体の発電電圧(E2−E1)を検知し、合計単位セル数で割った単位セルの平均発電電圧を推定し、平均単位セル電圧が0.3V/cell以上0.9V/cell以下となることを監視する。平均単位セル電圧が0.3V/cell以上0.9V/cell以下の範囲に入る場合(S32段階においてYES)S33段階に進む。このように、燃料電池システムを停止する際、水素極側に水素と酸素が混在する状況において、燃料電池1の起電力を測定し、起電力が空気極が酸化する範囲(0.3V/cell以上0.9V/cell以下の範囲)に含まれるか否かを判断する。
(ハ)S33段階において、制御ユニット12は、コンプレッサ8を稼動させて空気の供給を開始する。S34段階において、制御ユニット12は、第1のバルブ3aを開き、コンプレッサ8から供給される空気を水素供給ライン4にも供給する。このように、燃料電池1の起電力が1単位セルあたり0.3V以上0.9V以下である範囲に含まれる場合に、流体により水素極内を置換又は希釈する。
(ニ)所定の時間経過後、S35段階において、電圧センサ31を用いて燃料電池1の空気排出口及び水素排出口に最も近い1以上の単位セルの発電電圧(E3−E2)が、1単位セルあたり0.3V未満となることを監視する。1単位セルあたり0.3V未満である場合(S35段階においてYES)S36段階に進む。
(ホ)S36段階において、制御ユニット12は、第1のバルブ3aを閉じる。S37段階において、制御ユニット12は、コンプレッサ8を停止して空気の供給を停止する。
なお、電圧センサ31による発電電圧(E3−E2)が1単位セルあたり0.3V未満となってから第1のバルブ3aを閉じるまで、即ちS35段階からS36段階まで、所定の時間遅れを持たせても構わない。また、コンプレッサ8と第1のバルブ3aの動作は順不同としても構わない。即ち、S33段階の前にS34段階を実施しても構わないし、S36段階の前にS37段階を実施しても構わない。
[第2の制御方法]
図9を参照して、図7の燃料電池システムを停止保管する際の制御方法(その2)を説明する。
(a)先ず、S41段階において、燃料電池1へ水素及び空気の供給を停止する。具体的には、制御ユニット12が、コンプレッサ8の運転を停止し、第2のバルブ3bを閉じる。
(b)S42段階において、電圧センサ31を用いて燃料電池1全体の発電電圧(E2−E1)を検知し、合計単位セル数で割った単位セルの平均発電電圧を推定し、平均単位セル電圧が0.3V/cell以上0.9V/cell以下となることを監視する。平均単位セル電圧が0.3V/cell以上0.9V/cell以下の範囲に入る場合(S42段階においてYES)S43段階に進む。このように、燃料電池システムを停止する際、水素極側に水素と酸素が混在する状況において、燃料電池1の起電力を測定し、起電力が空気極が酸化する範囲(0.3V/cell以上0.9V/cell以下の範囲)に含まれるか否かを判断する。
(c)S43段階において、制御ユニット12は、第2のバルブ3bを開き、水素ボンベ9から水素供給ライン4へ再び水素ガスを供給する。水素ガスは、イジェクタ30により水素循環ライン10を再び循環し、水素供給ライン4へ合流する。
(d)S44段階において、電圧センサ31を用いて燃料電池1の空気排出口及び水素排出口に最も近い1以上の単位セルの発電電圧(E3−E2)が、1単位セルあたり0.9Vを超えることを監視する。1単位セルあたり0.9Vを超える場合(S44段階においてYES)S45段階に進む。1単位セルあたり0.9Vを超えない場合(S44段階においてNO)S42段階に戻る。
(e)S45段階において、制御ユニット12は、第2のバルブ3bを閉じて、水素ボンベ9から水素供給ライン4への水素ガスの供給を停止する。
なお、電圧センサ31による1単位セルあたりの発電電圧が0.9Vを超えてから第2のバルブ3bを閉じるまで、即ちS44段階からS45段階まで、所定の時間遅れを持たせても構わない。
[作用]
図8及び図9に示す燃料電池システムの停止保管方法が奏する作用について説明する。燃料電池1の運転停止直後には水素極に水素ガスが残留することが知られている。この状態のまま放置すると、外部から空気が混入して水素ガスと酸素ガスとが混在する。空気中の酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)が「所定の濃度比範囲」に入る場合、水素と酸素の濃度比により燃料電池1の起電力が変化するので、その起電力を判断手段とすることにより、ガス濃度検出手段を必要とせず、簡素なシステムでガス置換等の制御をすることができる。
また、図5の実験結果が示す通り、単位セルあたりの起電力が0.3V以上0.9V以下の場合、水素極近傍において水素と酸素が混在し、空気極側の電位差が発生している可能性が考えられ、空気極の酸化劣化が加速されるので、それを回避することにより該酸化劣化を抑制することができる。
また、空気又は水素ガスを使用した希釈(または濃縮)は、空気又は水素ガスが燃料電池システムが有するガスであるため簡素なシステムで実現できる。窒素は不活性ガスであり置換に有効であることが知られているので供給源を有すれば有効である。水蒸気は、加湿器や改質システムなど燃料電池システム内に水蒸気供給可能なシステムが存在するときに、簡素なシステムで実現できる。
更に、燃料電池1本体は多数の単位セルを積層して構成されているが、最も反応ガス(水素ガス及び空気)が行き渡りにくい場所の1以上の単位セルの発電電圧を判定手段とすることにより、極めて簡素な構成で、燃料電池1本体における総ての単位セルにおけるガスの置換や希釈の完了を効果的に把握することができる。
[効果]
本発明の第2の実施の形態によれば、燃料電池1本体の起電力に基づいて制御を行うので、第1の実施の形態に比べて省力化や簡素化が図られ、且つ耐久性に優れる燃料電池システムを得ることができる。
(第3の実施の形態)
[構成]
図10に示すように、本発明の第3の実施の形態に係わる燃料電池システムは、図1に示す燃料電池システムに比べて、以下の点が異なる。即ち、図10に示す燃料電池システムは、燃料電池1の端部に配置された熱電対やサーミスタ等の温度センサ32を更に備える。温度センサ32は、燃料電池1の空気排出口及び水素排出口に最も近い単位セルの温度を測定する。
その他の構成は、図1に示した燃料電池システムと同じであり、説明を省略する。
[制御方法]
図11を参照して、図10の燃料電池システムを停止保管する際の制御方法を説明する。
(イ)先ず、S51段階において、燃料電池1へ水素及び空気の供給を停止する。具体的には、制御ユニット12が、コンプレッサ8の運転を停止し、第2のバルブ3bを閉じる。
(ロ)S52段階において、第1のガス濃度センサ2a及び第2のガス濃度センサ2bの少なくとも一方が、水素極内における酸素に対する水素の濃度比が70%以上400%以下であることを検知することを監視する。70〜400%の範囲に入る場合(S52段階においてYES)S53段階に進む。このように、燃料電池システムを停止する際、水素極内における酸素に対する水素の濃度比を測定し、酸素に対する水素の濃度比が空気極が酸化する範囲(70〜400%の範囲)に含まれるか否かを判断する。
(ハ)S53段階において、温度センサ32を用いて燃料電池1の空気排出口及び水素排出口に最も近い単位セルの温度を測定して、当該温度が50℃以上であるか否かを判断する。当該温度が50℃以上である場合(S53段階においてYES)S54段階に進み、当該温度が50℃以上でない場合(S53段階においてNO)S52段階に戻る。
(ニ)S54段階において、制御ユニット12は、コンプレッサ8を稼動させて空気の供給を開始する。S55段階において、制御ユニット12は、第1のバルブ3aを開き、コンプレッサ8から供給される空気を水素供給ライン4にも供給する。このように、酸素に対する水素の濃度比が70〜400%の範囲に含まれる場合であって、燃料電池1の空気排出口及び水素排出口に最も近い単位セルの温度が50℃以上である場合、流体(ここでは空気)により水素極内を置換又は希釈する。
(ホ)S56段階において、第1のバルブ3aを開いてから1分以上経過しているか否かを監視する。第1のバルブ3aを開いてから1分以上経過している場合(S56段階においてYES)S57段階に進む。
(へ)S57段階において、制御ユニット12は、第1のバルブ3aを閉じる。S58段階において、制御ユニット12は、コンプレッサ8を停止して空気の供給を停止する。
なお、温度センサ32が測定した温度が50℃の前後によって制御を場合分けしたが、50℃に限らず、他の温度を基準として制御を場合分けしても構わない。また、第1のバルブ3aを開いてから1分後にコンプレッサ8を制御しているが、ここでの1分は例示に過ぎず、燃料電池システムにおける燃料電池1内のガス通路やガス配管等の容量並びにコンプレッサ8から供給される流量により決定され、1分に限定されるものではない。また、コンプレッサ8と第1のバルブ3aの動作は順不同としても構わない。即ち、S54段階の前にS55段階を実施しても構わないし、S57段階の前にS58段階を実施しても構わない。
[作用]
図11に示す燃料電池システムの停止保管方法が奏する作用について説明する。燃料電池1の運転停止直後には水素極に水素ガスが残留することが知られている。この状態のまま放置すると、外部から空気が混入して水素ガスと酸素ガスとが混在する。空気中の酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)が「所定の濃度比範囲」に入る場合、水素極側において水素リッチな領域における電解質電位に対して酸素リッチな領域における電解質電位が低くなるため、酸素リッチな領域の方が水素リッチな領域に比べて電解質電位に対する酸化剤極の電位が高くなる。そのため、酸素リッチな領域における空気極(カーボン担体や白金など)は酸化腐食する。上記の実験例では、質量分析器によりカーボン担体の腐食に関して測定したが、高電位になることからカーボン担体に限らず白金など金属触媒の酸化劣化も発生する。
それに対して図11に示す燃料電池システムの停止保管方法では、新たに「所定の濃度範囲」を避ける制御を行うことにより、上記のような空気極の酸化腐食を抑制することができる。また、図5の実験結果が示す通り、酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)が70%以上400%以下のとき、空気極の酸化劣化が加速される。したがって、「所定の濃度範囲」として酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)が70%以上400%以下の範囲を避ける制御を行うことで空気極の酸化劣化を抑制することができる。
また、図6の実験結果が示す通り、空気極(この場合はカーボン担体)の酸化腐食には温度依存性があり、高い温度ほど酸化が加速されるので、燃料電池1の温度が50℃など所定の温度以上になった場合にガス置換または希釈といった制御を行うことで、効果的かつ経済的に劣化を抑制することができる。
また、図11に示すような空気を使用した燃料電池1内水素ガスの希釈は、空気及び水素ガスは共に燃料電池システムが有するガスであるため簡素なシステムで実現できる。窒素は不活性ガスであり置換に有効であることが知られているので供給源を有すれば有効である。水蒸気は、加湿器や改質システムなど燃料電池システム内に水蒸気供給可能なシステムが存在するときに、簡素なシステムで実現できる。
[効果]
本発明の第3の実施の形態によれば、必要な濃度条件のときのみガス置換等を行うといった最低限かつ本質的な制御を、より簡潔な制御判断手段を用いて実施するので、省力化や簡素化及び効率化を図れ、かつ耐久性に優れた燃料電池システムを得ることができる。
(第4の実施の形態)
[構成]
図12に示すように、本発明の第4の実施の形態に係わる燃料電池システムは、図1に示す燃料電池システムに比べて、以下の点が異なる。即ち、図12に示す燃料電池システムは、図1の第1及び第2のガス濃度センサ2a、2bの代わりに、燃料電池1の両端の電位E1、E2を測定する電圧センサ31を備える。また、図7に示す燃料電池システムは、図1の第1のバルブ3aの代わりに、水素供給ライン4と空気供給ライン6の間に配置された三方バルブ33を備える。三方バルブ33は、水素ボンベ9から導出された水素ガスを燃料電池1の水素導入口へ供給する<a>方向と、水素ボンベ9から導出された水素ガスを空気供給ライン6を介して燃料電池1の空気導入口へ供給する<b>方向とを切り換える。なお、<b>方向で使用する水素供給ライン4と空気供給ライン6を接続するラインには、空気側から水素側にガスが逆流しないように逆止弁を設けることが望ましい。燃料電池1の直後における空気排出ライン7には、熱電対やサーミスタ等の温度センサ32を設けられている。温度センサ32は、空気排出ライン7中のガス温度を検知または推定でき、該温度信号を制御ユニット12に送信する。
その他の構成は、図1に示した燃料電池システムと同じであり、説明を省略する。
[制御方法]
図13を参照して、図12の燃料電池システムを停止保管する際の制御方法を説明する。
(イ)先ず、S61段階において、燃料電池1へ水素及び空気の供給を停止する。具体的には、制御ユニット12が、コンプレッサ8の運転を停止し、第2のバルブ3bを閉じる。
(ロ)S62段階において、電圧センサ31を用いて燃料電池1全体の発電電圧(E2−E1)を検知し、合計単位セル数で割った単位セルの平均発電電圧を推定し、平均単位セル電圧が0.3V/cell以上0.9V/cell以下となることを監視する。平均単位セル電圧が0.3V/cell以上0.9V/cell以下の範囲に入る場合(S62段階においてYES)S63段階に進む。このように、燃料電池システムを停止する際、燃料電池1の起電力を測定し、起電力が空気極が酸化する範囲(0.3V/cell以上0.9V/cell以下の範囲)に含まれるか否かを判断する。
(ハ)S63段階において、温度センサ32を用いて空気排出ライン7中のガス温度を測定して、当該温度が30℃以上であるか否かを判断する。当該温度が30℃以上である場合(S63段階においてYES)S64段階に進み、当該温度が30℃以上でない場合(S63段階においてNO)S62段階に戻る。
(ニ)S64段階において、制御ユニット12は、三方バルブ33を<a>方向から<b>方向に切り換える。S65段階において、制御ユニット12は、第2のバルブ3bを開き、水素ボンベ9から三方バルブ33を介して空気供給ライン6へ水素ガスを供給する。
(ホ)S66段階において、第2のバルブ3bを開いてから10秒以上経過しているか否かを監視する。第2のバルブ3bを開いてから10秒以上経過している場合(S66段階においてYES)S67段階に進む。
(へ)S67段階において、制御ユニット12は、第2のバルブ3bを閉じる。S68段階において、制御ユニット12は、三方バルブ33を<b>方向から<a>方向に切り換える。
なお、温度センサ32が測定した温度が30℃の前後によって制御を場合分けしたが、30℃に限らず、他の温度を基準として制御を場合分けしても構わない。また、第2のバルブ3bを開いてから10秒後にコンプレッサ8を制御しているが、ここでの10秒は例示に過ぎず、以下の思想に基づいて決定される。燃料電池1の水素極に仮に水素と酸素が混合した場合、第1の実施の形態の[作用]の欄に記載した通り、空気極の電位が上昇して空気極の酸化腐食が生じる。そこで、実験的に酸化腐食量を測定しておき、空気極の酸化腐食に必要な最低流量(モル数)以上の水素を供給することで、空気極ではなく水素ガスが酸化される。従って、水素供給量は、腐食量、時間、供給流量により基本的には決定される。加えて、燃料電池1内のガス通路やガス配管等の容量や過剰供給を抑制することも加味されて決定される場合もある。
また、三方バルブ33と第2のバルブ3bの動作は順不同としても構わない。即ち、S64段階の前にS65段階を実施しても構わないし、S67段階の前にS68段階を実施しても構わない。
更に、第4の実施の形態では空気極に水素を含むガスを導入したが、空気極に他のガスを導入しても構わない。例えば、一酸化炭素や他の還元作用を有する流体を導入することができる。とりわけ、一酸化炭素は改質システムを有する燃料電池システムには有効である。
[作用]
図13に示す燃料電池システムの停止保管方法が奏する作用について説明する。燃料電池1の運転停止直後には水素極に水素ガスが残留することが知られている。この状態のまま放置すると、外部から空気が混入して水素ガスと酸素ガスとが混在する。空気中の酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)が「所定の濃度比範囲」に入る場合、水素と酸素の濃度比により燃料電池1の起電力が変化するので、その起電力を判断手段とすることにより、ガス濃度検出手段を必要とせず、簡素なシステムでガス置換等の制御をすることができる。
また、図5の実験結果が示す通り、単位セルあたりの起電力が0.3V以上0.9V以下の場合、水素極近傍において水素と酸素が混在し、空気極側の電位差が発生している可能性が考えられ、空気極の酸化劣化が加速される。したがって、その際に空気極側に水素や一酸化炭素といった還元剤を導入することにより空気極の酸化劣化を抑制することができる。
また、図6の実験結果が示す通り、空気極(この場合はカーボン担体)の酸化腐食には温度依存性があり、高い温度ほど酸化が加速されるので、空気排出ライン7中のガス温度が30℃など所定の温度以上になった場合にガス置換または希釈といった制御を行うことで、効果的かつ経済的に劣化を抑制することができる。
[効果]
本発明の第4の実施の形態によれば、必要な濃度条件のときのみ実施するといった最低限かつ本質的な制御を、水素極側のガス置換や希釈に代わって、空気極側への還元剤導入とすることにより、簡潔な制御判断手段並びに構成を使用して、省力化や簡素化及び効率化を図れ、かつ耐久性に優れた燃料電池システムを得ることができる。
上記のように、本発明は、第1乃至第4の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。即ち、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ限定されるものである。
本発明の第1の実施の形態に係わる燃料電池システムを示すブロック図である。 図1の燃料電池システムを停止する際の制御方法(その1)を示すフローチャートである。 図1の燃料電池システムを停止する際の制御方法(その2)を示すフローチャートである。 実験例に係わる燃料電池システムを示すブロック図である。 図4の熱電対による燃料電池の制御温度を70℃に設定した場合の酸素に対する水素の濃度比(H2/O2)、単位セルの発電電圧、及び空気極からの二酸化炭素(CO2)排出割合の時間変化を示すグラフである。 図5の実験を燃料電池の温度を40℃から90℃まで10℃間隔でそれぞれ複数回実施したときの空気極からの二酸化炭素排出量に関する温度依存性の結果を示すグラフである。 本発明の第2の実施の形態に係わる燃料電池システムを示すブロック図である。 図7の燃料電池システムを停止する際の制御方法(その1)を示すフローチャートである。 図7の燃料電池システムを停止する際の制御方法(その2)を示すフローチャートである。 本発明の第3の実施の形態に係わる燃料電池システムを示すブロック図である。 図10の燃料電池システムを停止する際の制御方法を示すフローチャートである。 本発明の第4の実施の形態に係わる燃料電池システムを示すブロック図である。 図12の燃料電池システムを停止する際の制御方法を示すフローチャートである。
符号の説明
1…燃料電池
2a…第1のガス濃度センサ
2b…第2のガス濃度センサ
3a…第1のバルブ
3b…第2のバルブ
3c…第3のバルブ
4…水素供給ライン
5…水素排出ライン
6…空気供給ライン
7…空気排出ライン
8…コンプレッサ
9…水素ボンベ
10…水素循環ライン
11…水素循環ポンプ
12…制御ユニット
15a、15b…空気マスフローコントローラ
16…水素マスフローコントローラ
17…空気側加湿器
18…水素側加湿器
19…混合器
20…空気側質量分析器
21…水素側質量分析器
22…熱電対
23a、23b…分析ポート
25…電解質膜
26…空気極
27…空気側セパレータ
28…水素極
29…水素側セパレータ
30…イジェクタ
31…電圧センサ
32…温度センサ
33…三方バルブ

Claims (10)

  1. 電解質膜の両側に燃料極及び酸化剤極を配置し、前記燃料極及び前記酸化剤極に隣接してガス拡散層をそれぞれ設けてなる膜電極複合体を含む単位燃料電池と、前記燃料極内のガス濃度を検出する手段とを有する燃料電池システムの停止保管方法であって、
    前記燃料電池システムを停止する際、前記燃料極内における酸素に対する水素の濃度比を測定し、
    前記濃度比が前記酸化剤極が酸化する範囲に含まれるか否かを判断し、
    前記濃度比が前記範囲に含まれる場合に、流体により前記燃料極内を置換又は希釈する
    ことを特徴とする燃料電池システムの停止保管方法。
  2. 前記酸化剤極が酸化する範囲とは、前記酸素に対する水素の濃度比が70%以上400%以下である範囲であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池システムの停止保管方法。
  3. 電解質膜の両側に燃料極及び酸化剤極を配置し、前記燃料極及び前記酸化剤極に隣接してガス拡散層をそれぞれ設けてなる膜電極複合体を含む単位燃料電池と、前記単位燃料電池の起電力を測定する手段とを有する燃料電池システムの停止保管方法であって、
    前記燃料電池システムを停止する際、前記起電力を測定し、
    前記起電力が前記酸化剤極が酸化する範囲に含まれるか否かを判断し、
    前記燃料極側に水素と酸素が混在する状況であって、前記起電力が前記範囲に含まれる場合に、流体により前記燃料極内を置換又は希釈する
    ことを特徴とする燃料電池システムの停止保管方法。
  4. 前記酸化剤極が酸化する範囲とは、前記起電力が1単位燃料電池あたり0.3V以上0.9V以下である範囲であることを特徴とする請求項3記載の燃料電池システムの停止保管方法。
  5. 前記流体により前記燃料極内を置換又は希釈するか否かは、単位燃料電池の温度又は単位燃料電池中のガス温度の少なくとも何れかを含む関数により決定されることを特徴とする請求項1乃至4何れか1項記載の燃料電池システムの停止保管方法。
  6. 前記燃料極内を置換又は希釈する前記流体は、空気、水素、窒素、水蒸気の何れかであることを特徴とする請求項1乃至5何れか1項記載の燃料電池システムの停止保管方法。
  7. 前記燃料極内を置換又は希釈する前記流体の流量は、燃料電池システムが制御することができる最大流量であることを特徴とする請求項1乃至6何れか1項記載の燃料電池システムの停止保管方法。
  8. 前記燃料電池システムは、前記単位燃料電池を1つ以上積層した燃料電池本体の燃料ガス排出口近傍における水素及び酸素の少なくとも一方のガス濃度を検出する手段を更に有し、
    前記水素及び酸素の少なくとも一方のガス濃度を検出する手段からの信号に応じて、前記流体による前記燃料極内の置換又は希釈を停止することを特徴とする請求項1、2、5、6、7の何れか1項記載の燃料電池システムの停止保管方法。
  9. 前記燃料電池システムは、前記単位燃料電池を1つ以上積層した燃料電池本体における前記燃料極側に供給されるガスが最も行き渡りにくい場所に位置する1つ以上の前記単位燃料電池の起電力を検出する手段を更に有し、
    前記1つ以上の前記単位燃料電池の起電力を検出する手段からの信号に応じて、前記流体による前記燃料極内の置換又は希釈を停止することを特徴とする請求項3乃至7何れか1項記載の燃料電池システムの停止保管方法。
  10. 前記流体により前記燃料極内を置換又は希釈する代わりに、酸化剤極側に還元剤を有する流体を供給することを特徴とする請求項1乃至9何れか1項記載の燃料電池システムの停止保管方法。
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