以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則として繰返さないものとする。
図1は、本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置であるエンジンECU(Electronic Control Unit)で制御されるエンジンシステムの概略構成図である。なお、図1には、内燃機関としての直列4気筒ガソリンエンジンを示すが、本発明の適用はこのようなエンジンに限定されるものではない。
図1に示すように、内燃機関10は、第1気筒111、第2気筒112、第3気筒113および第4気筒114(以下、各々を単に「気筒」とも称する)を備える。各気筒111〜114はそれぞれ対応するインテークマニホールド20を介して共通のサージタンク30に接続されている。サージタンク30は、吸気ダクト40を介してエアクリーナ50に接続される。吸気ダクト40内にはエアフローメータ42が配置されるとともに、電動モータ60によって駆動されるスロットルバルブ70が配置されている。このスロットルバルブ70は、アクセルペダル100とは独立してエンジンECU300の出力信号に基づいてその開度が制御される。一方、各気筒111〜114は共通のエキゾーストマニホールド80に連結され、このエキゾーストマニホールド80は三元触媒コンバータ90に連結されている。
各気筒111〜114に対しては、筒内に向けて燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ115と、吸気ポートまたは/および吸気通路内に向けて燃料を噴射するための吸気通路噴射用インジェクタ125とがそれぞれ設けられている。これらインジェクタ115、125はエンジンECU300の出力信号に基づいてそれぞれ制御される。さらに、第1気筒111〜114には、点火プラグ121〜124がそれぞれ設けられている。点火プラグ121〜124の点火時期は、エンジンECU300からの点火制御信号PC1〜PC4によって制御される。
なお、本実施の形態においては、2つのインジェクタが別個に設けられた内燃機関について説明するが、本発明はこのような内燃機関に限定されない。たとえば、筒内噴射機能と吸気通路噴射機能とを併せ持つような1個のインジェクタを有する内燃機関であってもよい。
各筒内噴射用インジェクタ115は共通の燃料分配管130に接続されている。この燃料分配管130は、燃料分配管130に向けて流通可能な逆止弁140を介して、機関駆動式の高圧燃料ポンプ150に接続されている。高圧燃料ポンプ150の吐出側は電磁スピル弁152を介して高圧燃料ポンプ150の吸入側に連結されており、この電磁スピル弁152の開度が小さいときほど、高圧燃料ポンプ150から燃料分配管130内に供給される燃料量が増大され、電磁スピル弁152が全開にされると、高圧燃料ポンプ150から燃料分配管130への燃料供給が停止されるように構成されている。なお、電磁スピル弁152はエンジンECU300の出力信号に基づいて制御される。
一方、各吸気通路噴射用インジェクタ125は、共通する低圧側の燃料分配管160に接続されており、燃料分配管160および高圧燃料ポンプ150は共通の燃料圧レギュレータ170を介して、電動モータ駆動式の低圧燃料ポンプ180に接続されている。さらに、低圧燃料ポンプ180は燃料フィルタ190を介して燃料タンク200に接続されている。燃料圧レギュレータ170は低圧燃料ポンプ180から吐出された燃料の燃料圧が予め定められた設定燃料圧よりも高くなると、低圧燃料ポンプ180から吐出された燃料の一部を燃料タンク200に戻すように構成されている。したがって吸気通路噴射用インジェクタ125に供給されている燃料圧および高圧燃料ポンプ150に供給されている燃料圧が上記設定燃料圧よりも高くなるのを阻止している。
エンジンECU300は、デジタルコンピュータから構成され、双方向性バス310を介して相互に接続されたROM(Read Only Memory)320、RAM(Random Access Memory)330、CPU(Central Processing Unit)340、入力ポート350および出力ポート360を備えている。
エアフローメータ42は吸入空気量に比例した出力電圧を発生し、このエアフローメータ42の出力電圧はA/D変換器370を介して入力ポート350に入力される。内燃機関10には機関冷却水温に比例した出力電圧を発生する水温センサ380が取付けられ、この水温センサ380の出力電圧は、A/D変換器390を介して入力ポート350に入力される。
燃料分配管130には燃料分配管130内の燃料圧に比例した出力電圧を発生する燃料圧センサ400が取付けられ、この燃料圧センサ400の出力電圧は、A/D変換器410を介して入力ポート350に入力される。三元触媒コンバータ90上流のエキゾーストマニホールド80には、排気ガス中の酸素濃度に比例した出力電圧を発生する空燃比センサ420が取付けられ、この空燃比センサ420の出力電圧は、A/D変換器430を介して入力ポート350に入力される。
本実施の形態に係るエンジンシステムにおける空燃比センサ420は、内燃機関10で燃焼された混合気の空燃比に比例した出力電圧を発生する全域空燃比センサ(リニア空燃比センサ)である。なお、空燃比センサ420としては、内燃機関10で燃焼された混合気の空燃比が理論空燃比に対してリッチであるかリーンであるかをオン−オフ的に検出するO2センサを用いてもよい。
さらに、内燃機関10のシリンダブロックにはノックセンサ500が取付けられる。ノックセンサ500は、シリンダブロックからの振動を電気信号に検出する圧電セラミック素子を含んで構成される。ノックセンサ500の出力信号は、A/D変換器460を介して入力ポート350に入力される。エンジンECU300は、ノックセンサ500の出力信号に基づき、内燃機関10において特定周波数での振動が一定レベル以上発生したときに、気筒111〜114のうちの少なくとも1つにおけるノッキングの発生を検知する。
内燃機関10には、クランク角センサ510がさらに設けられる。クランク角センサ510は、各気筒のクランク角度を検出するために、特定気筒の上死点および下死点を検出する。クランク角センサ510からの出力信号は、A/D変換器465を介して入力ポート350に入力される。
エンジンECU300は、各センサからの信号をもとに、現在の運転状況に応じた最適な点火時期が得られるように、点火制御信号PC1〜PC4を生成する。具体的には、現在の運転状況に応じて予め作成されたマップより選択される基本点火角に対して、そのときの内燃機関10の状態に応じて適切な進角および遅角補正を行なうことで、点火時期が制御される。特に、ノックセンサ500からの出力信号に基づいて、ノックコントロールシステム(KCS)と呼ばれる点火時期調整を行なうことにより、内燃機関10は、ノッキング限界領域で動作するようにその点火時期が制御される。
アクセルペダル100は、アクセルペダル100の踏込み量に比例した出力電圧を発生するアクセル開度センサ440に接続され、アクセル開度センサ440の出力電圧は、A/D変換器450を介して入力ポート350に入力される。また、入力ポート350には、機関回転数を表わす出力パルスを発生する回転数センサ460が接続されている。エンジンECU300のROM320には、上述のアクセル開度センサ440および回転数センサ460により得られる機関負荷率および機関回転数に基づき、運転状態に対応させて設定されている燃料噴射量の値や機関冷却水温に基づく補正値などが予めマップ化されて記憶されている。
本発明の実施の形態に係る内燃機関10では、各気筒111〜114に筒内噴射用インジェクタ115および吸気通路噴射用インジェクタ125の両方が設けられているため、上記のように算出された必要な全燃料噴射量に対する、筒内噴射用インジェクタ115および吸気通路噴射用インジェクタ125の間での燃料噴射量の分担割合を制御する必要がある。
図2および図3は、図1に示したエンジンシステムにおける、筒内噴射用インジェクタ115と、吸気通路噴射用インジェクタ125との噴き分け比率(以下、DI比率:rとも記載する)の設定マップの第1の例を説明する図である。
図2および図3を参照して、内燃機関10の運転状態に対応させた情報である、筒内噴
射用インジェクタ115と吸気通路噴射用インジェクタ125との噴き分け比率(以下、DI比率(r)とも記載する。)を表わすマップについて説明する。これらのマップは、
エンジンECU300のROM320に記憶される。図2は、内燃機関10の温間用マップであって、図3は、内燃機関10の冷間用マップである。
図2および図3に示すように、これらのマップは、内燃機関(エンジン)10の回転数を横軸にして、負荷率を縦軸にして、筒内噴射用インジェクタ115の分担比率がDI比率rとして百分率で示されている。
図2および図3に示すように、内燃機関10の回転数と負荷率とに定まる運転領域ごとに、DI比率rが設定されている。「DI比率r=100%」とは、筒内噴射用インジェクタ115からのみ燃料噴射が行なわれる領域であることを意味し、「DI比率r=0%」とは、吸気通路噴射用インジェクタ125からのみ燃料噴射が行なわれる領域であることを意味する。「DI比率r≠0%」、「DI比率r≠100%」および「0%<DI比率r<100%」とは、筒内噴射用インジェクタ115と吸気通路噴射用インジェクタ125とで燃料噴射が分担して行なわれる領域であることを意味する。
なお、概略的には、筒内噴射用インジェクタ115は、出力性能の上昇に寄与し、吸気通路噴射用インジェクタ125は、混合気の均一性に寄与する。このような特性の異なる2種類のインジェクタを、内燃機関10の回転数と負荷率とで使い分けることにより、内燃機関10が通常運転状態(たとえば、アイドル時の触媒暖気時が、通常運転状態以外の非通常運転状態の一例であるといえる)である場合には、均質燃焼のみが行なわれるようにしている。
さらに、これらの図2および図3に示すように、温間時のマップと冷間時のマップとに分けて、筒内噴射用インジェクタ115と吸気通路噴射用インジェクタ125のDI分担率rを規定した。内燃機関10の温度が異なると、筒内噴射用インジェクタ115および吸気通路噴射用インジェクタ125の制御領域が異なるように設定されたマップを用いて、内燃機関10の温度を検知して、内燃機関10の温度が予め定められた温度しきい値以上であると図2の温間時のマップを選択して、そうではないと図3に示す冷間時のマップを選択する。それぞれ選択されたマップに基づいて、内燃機関10の回転数と負荷率とに基づいて、筒内噴射用インジェクタ115および/または吸気通路噴射用インジェクタ125を制御する。
図2および図3に設定される内燃機関10の回転数と負荷率について説明する。図2のNE(1)は2500〜2700rpmに設定され、KL(1)は30〜50%、KL(2)は60〜90%に設定されている。また、図3のNE(3)は2900〜3100rpmに設定されている。すなわち、NE(1)<NE(3)である。その他、図2のNE(2)や、図3のKL(3)、KL(4)も適宜設定されている。
図2および図3を比較すると、図2に示す温間用マップのNE(1)よりも図3に示す冷間用マップのNE(3)の方が高い。これは、内燃機関10の温度が低いほど、吸気通路噴射用インジェクタ125の制御領域が高いエンジン回転数の領域まで拡大されるということを示す。すなわち、内燃機関10が冷えている状態であるので、(たとえ、筒内噴射用インジェクタ115から燃料を噴射しなくても)筒内噴射用インジェクタ115の噴口にデポジットが堆積しにくい。このため、吸気通路噴射用インジェクタ125を使って燃料を噴射する領域を拡大するように設定され、均質性を向上させることができる。
図2および図3を比較すると、内燃機関10の回転数が、温間用マップにおいてはNE(1)以上の領域において、冷間用マップにおいてはNE(3)以上の領域において、「
DI比率r=100%」である。また、負荷率が、温間用マップにおいてはKL(2)以上の領域において、冷間用マップにおいてはKL(4)以上の領域において、「DI比率r=100%」である。これは、予め定められた高エンジン回転数領域では筒内噴射用インジェクタ115のみが使用されること、予め定められた高エンジン負荷領域では筒内噴射用インジェクタ115のみが使用されるということを示す。すなわち、高回転領域や高負荷領域においては、筒内噴射用インジェクタ115のみで燃料を噴射しても、内燃機関10の回転数や負荷が高く吸気量が多いので筒内噴射用インジェクタ115のみでも混合気を均質化しやすいためである。このようにすると、筒内噴射用インジェクタ115から噴射された燃料は燃焼室内で気化潜熱を伴い(燃焼室から熱を奪い)気化される。これにより、圧縮端での混合気の温度が下がる。これにより対ノッキング性能が向上する。また、燃焼室の温度が下がるので、吸入効率が向上し高出力が見込める。
図2に示す温間マップでは、負荷率KL(1)以下では、筒内噴射用インジェクタ115のみが用いられる。これは、内燃機関10の温度が高いときであって、予め定められた低負荷領域では筒内噴射用インジェクタ115のみが使用されるということを示す。温間時においては内燃機関10が暖まった状態であるので、筒内噴射用インジェクタ115の噴口にデポジットが堆積しやすい。しかしながら、筒内噴射用インジェクタ115を使って燃料を噴射することにより噴口温度を低下させることができるので、デポジットの堆積を回避することも考えられ、また、筒内噴射用インジェクタの最小燃料噴射量を確保して、筒内噴射用インジェクタ115を閉塞させないことも考えられる。このため、この領域では、筒内噴射用インジェクタ115を用いた燃料噴射を行なっている。
図2および図3を比較すると、図3の冷間用マップにのみ「DI比率r=0%」の領域が存在する。これは、内燃機関10の温度が低いときであって、予め定められた低負荷領域(KL(3)以下)では吸気通路噴射用インジェクタ125のみが使用されるということを示す。これは内燃機関10が冷えていて内燃機関10の負荷が低く吸気量も低いため燃料が霧化しにくい。このような領域においては筒内噴射用インジェクタ115による燃料噴射では良好な燃焼が困難であるため、また、特に低負荷および低回転数の領域では筒内噴射用インジェクタ115を用いた高出力を必要としないため、筒内噴射用インジェクタ115を用いないで、吸気通路噴射用インジェクタ125のみを用いる。
また、通常運転時以外の場合、内燃機関10がアイドル時の触媒暖気時の場合(非通常運転状態であるとき)、成層燃焼を行なうように筒内噴射用インジェクタ115が制御される。このような触媒暖気運転中にのみ成層燃焼させることで、触媒暖気を促進させ、排気エミッションの向上を図る。
図4および図5には、図1に示したエンジンシステムにおけるDI比率rの設定マップの第2の例が示される。
図4(温間時)および図5(冷間時)に示された設定マップは、図2および図3に示された設定マップと比較して、低回転数領域の高負荷領域におけるDI比率設定が異なる。
内燃機関10では、低回転数領域の高負荷領域においては、筒内噴射用インジェクタ115から噴射された燃料により形成される混合気のミキシングが良好ではなく、燃焼室内の混合気が不均質で燃焼が不安定になる傾向を有する。このため、このような問題が発生しない高回転数領域へ移行するに伴い筒内噴射用インジェクタの噴射比率を増大させるようにしている。また、このような問題が発生する高負荷領域へ移行するに伴い筒内噴射用インジェクタ115の噴射比率を減少させるようにしている。これらのDI比率rの変化を図4および図5に十字の矢印で示す。
このようにすると、燃焼が不安定であることに起因するエンジンの出力トルクの変動を抑制することができる。なお、これらのことは、予め定められた低回転数領域へ移行するに伴い筒内噴射用インジェクタ115の噴射比率を減少させることや、予め定められた低負荷領域へ移行するに伴い筒内噴射用インジェクタ115の噴射比率を増大させることと、略等価であることを確認的に記載する。また、このような領域(図4および図5で十字の矢印が記載された領域)以外の領域であって筒内噴射用インジェクタ115のみで燃料を噴射している領域(高回転側、低負荷側)においては、筒内噴射用インジェクタ115のみでも混合気を均質化しやすい。このようにすると、筒内噴射用インジェクタ115から噴射された燃料は燃焼室内で気化潜熱を伴い(燃焼室から熱を奪い)気化される。これにより、圧縮端での混合気の温度が下がる。これにより対ノッキング性能が向上する。また、燃焼室の温度が下がるので、吸入効率が向上し高出力が見込める。
なお、図4および図5に示した設定マップにおける、その他の領域のDI比率設定については、図2(温間時)および図3(冷間時)と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置では、エンジンECU300は、図2〜図5に示したように内燃機関10に要求される条件に基づいて設定された基本的なDI比率rをベースとして、以下に詳細に説明する燃焼室デポジット除去制御のためにDI比率制御を行なう。
図6は、この発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置による燃焼室デポジット除去制御の第1の例を示す図である。図6に示したフローチャートを実行するためのプログラムがエンジンECU300内には予めプログラムされており、当該プログラムの起動により以下に説明する燃焼室デポジット除去制御が実行される。
図6に示す燃焼室デポジット除去制御においては、まず、エンジンECU300によって、デポジットの堆積があるかどうかが判断される(ステップS100)。
一般的に、燃焼室内でのデポジット堆積が多くなるほどノッキングが起こりやすくなる傾向にある。したがって、図7に示すように内燃機関(エンジン)の回転数−負荷率の二次元マップ上において、デポジット堆積がない場合にはノッキングが発生しないと予想される安全領域570を予め定義しておき、内燃機関10が当該安全領域570内で運転されているにもかかわらず、ノックセンサ500からの出力によってノッキングの発生が検知されたときに、デポジット堆積を検出する構成とすることができる。
あるいは、ノックコントロールシステムの作動時には、各気筒の点火時期はノッキング限界領域付近に設定されていることから、ノックコントロールシステムによって設定された点火時期が所定のしきい値よりも遅角側に設定されている場合に、デポジット堆積を検出する構成とすることもできる。なお、デポジット堆積の検出しきい値となる遅角量についても、内燃機関回転数−負荷率の二次元上で選択的に設定する構成とすることにより、より高精密な検出を行なうことができる。
このように、図6のステップS100は、本発明における「堆積物検知手段」に対応する。なお、各センサからの信号等に基づいてデポジット堆積を検出する手法については、当業者に周知の手法を適宜用いることが可能である。
ステップS100においてデポジット堆積が検出されない場合(N判定)には、燃焼室デポジット除去制御は一旦終了される。一方、デポジット堆積が検出された場合(Y判定)には、点火時期の進角化によって強制的にノッキングを発生することが可能な条件が成立しているかどうかが判定される(ステップS110)。
なぜなら、内燃機関10の負荷がある程度高い領域でないと、DI比率を制御しても強制的なノッキング(以下、単に「強制ノッキング」とも称する)を発生させることができないからである。たとえば、図7に示すような内燃機関の回転数−負荷率マップ上において、内燃機関10に一定以上の負荷がかかっている強制ノッキング可能領域575を予め定義しておき、ステップS110では、内燃機関10の運転状況が強制ノッキング可能領域575に入っているかどうかを判定する。
ステップS100でデポジット堆積が検出された場合であっても、内燃機関10の回転数および負荷率が強制ノッキング可能領域575(図7)に入っていない場合には(ステップS110におけるN判定)、DI比率制御による強制ノッキングの発生が不能であるので、燃焼室デポジット除去制御は一旦終了される。
一方、内燃機関10の回転数および負荷率が強制ノッキング可能領域575(図7)に入っている場合には(ステップS110におけるY判定)、強制ノッキングの発生によるデポジットの除去が開始される(ステップS120)。
強制ノッキングによるデポジット除去が開始されると、少なくとも一部の気筒でDI比率を下げることにより、強制ノッキングを発生する制御が実行される。具体的には、図2〜図5に示したマップに従い内燃機関10の運転条件に応じて設定された基本的なDI比率rについて、強制ノッキングを発生するために必要な補正量Δr(Δr<0)が設定され、DI比率はr+Δrに制御される(ステップS130)。
すなわち、エンジンECU300のうちの、図2〜図5に示したマップに従って内燃機関10の運転条件に応じた基本的なDI比率rを設定するための機能部分が、本発明における「燃料噴射制御手段」に相当し、ステップS130が本発明における「ノッキング発生手段」に対応する。
DI比率が高いほど、すなわち筒内噴射用インジェクタ115からの燃料噴射量が多いほど、筒内における燃料蒸発による気化潜熱が増大するので、燃焼室内温度が低下するので、ノッキングが起りにくくなる。反対に、DI比率を下げて筒内噴射用インジェクタ115からの噴射量を相対的に低減させることにより、気化潜熱が減少して筒内温度が上昇するので、ノッキングが発生しやすくなる。
この現象を利用して、本発明の実施の形態による内燃機関10では、点火時期の調整によってではなく、全燃料噴射量に対するDI比率を下げることにより、デポジット除去のための強制ノッキングを発生させることが可能である。
図8に示すように、強制ノッキング発生のためのDI比率補正量Δrは、内燃機関の回転数−負荷率マップ上で選択的に設定すればよい。高回転数−高負荷領域は、ノッキングが発生しやすい領域であるため、DI比率を少し上げるだけで、すなわち|Δr|が小さくても強制ノッキングを起こすことができる。一方で、低回転数−低負荷領域では、DI比率を大きく下げなければ、すなわち|Δr|を大きくしなければ強制的なノッキングを起こすことは困難である。したがって、図8に示すようなマップを用いて、内燃機関10の回転数および負荷率に応じて、ステップS130でのDI比率補正量Δrを適正化することにより、強制ノッキングを確実に発生させ、かつ、過度の衝撃を伴わない適切なノッキングを発生させることができる。
図9に示すように、強制ノッキング発生のためのDI比率制御は、所定の制御期間ΔT実行される。DI比率は、制御期間ΔTの開始および終了時において、図9(a)に示すようにステップ状に変化させるよりも、図9(b)に示すように徐々に変化させる構成とする方が、内燃機関10の出力変動を抑制する観点から好ましい。
また、制御期間ΔTについては、ステップS100におけるデポジット堆積検出時に、その堆積度合を併せて判定した上で、当該堆積度合に応じて設定する制御が好ましい。デポジットの堆積度合の判定手法としては、たとえば、図7に示した安全領域570を細分化して、よりノッキングが発生し難い領域でノッキング発生が検知された場合に、より堆積度合が大きいと判定することができる。あるいは、ノックコントロールシステムによって設定された点火時期について、デポジット堆積の検出しきい値を超えた領域で、遅角量が大きいほど堆積度合が大きいと判定することもできる。
なお、強制ノッキング発生のためのDI比率制御については、上記のようにステップS130でDI比率補正演算(r+Δr)を実行する構成の他に、補正量Δrを加算した強制ノッキング用マップを別途作成しておいた上で、ステップS130では、図2〜図5の基本的なDI比率設定マップ(基本マップ)の代わりに、上記強制ノッキング用マップを参照してDI比率を決定する構成としてもよい。この強制ノッキング用マップは、図2〜図5の基本マップでのDI比率rに、図8に示した分布の補正量Δrを加算したマップとなる。
再び図6を参照して、ステップS130による強制ノッキングの発生は、ノックセンサ500は各気筒に対して共通に設けられているため、各気筒に対して実行する必要がある。このため、制御期間ΔTが経過すると、全気筒について強制ノッキングが完了したかどうかが判定される(ステップS150)。強制ノッキングが未完の気筒が残っている場合には(ステップS150におけるN判定)、気筒選択の切替えを指示(ステップS160)するとともに、ステップS130が再び実行される。全気筒について強制ノッキングが完了すると(ステップS150におけるY判定)、燃焼室デポジット除去制御は終了される。
上記のように、本発明の実施の形態では、筒内噴射用インジェクタ115および吸気通路噴射用インジェクタ125を備えた内燃機関10において、点火時期の調整によってではなくDI比率の設定により、デポジット除去のための強制ノッキングを発生させる。
燃焼室内のデポジットは、ノッキングによって発生した圧力波による振動で除去されるため、点火時期変更(進角化)およびDI比率低減のいずれの手法によってノッキングを発生させても、そのデポジット除去効果は大きく変わらない。しかしながら、点火時期を変化させると内燃機関の発生トルクが変動する一方で、点火時期を変化させずにDI比率を低減させる場合のトルク変動は比較的小さい。このため、本発明の実施の形態による内燃機関の制御装置では、トルク変動を抑制した上で、強制ノッキングを発生させて燃焼室内のデポジットを除去できる。
一方で、強制ノッキングによる発生音については、点火時期変更(進角化)およびDI比率修正(低減)のいずれの手法によっても同様に発生する。このため、運転者へ不快感や違和感を与えないようにするためには、発生音の低減に関して改善の余地がある。
図10は、この点に配慮した、この発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置による燃焼室デポジット除去制御の第2の例を示す図である。図10に示した燃焼室デポジット除去制御についても、エンジンECU300内に予め格納されたプログラムの起動によって実行される。
図10に示した燃焼室デポジット除去制御においても、デポジット堆積の検出(ステップS100)、強制ノッキング可能な条件であるかのチェック(ステップS110)が実行され、さらに、ステップS100およびS110の両方でY判定となった場合に、強制ノッキングによるデポジット除去制御を開始する(ステップS120)点については図6と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
強制ノッキングによるデポジット除去が開始されると、まず、複数の気筒111〜114のうちの一部の気筒が、所定パターンに基づき選択される(ステップS125)。
この選択された一部の気筒すなわち強制ノッキング対象である気筒において、図3のステップS130と同様のDI比率制御により、強制ノッキングが発生される(ステップS130♯)。
さらに、強制ノッキング対象となっていない残りの気筒、すなわち非選択の気筒では、燃焼時の発生音を低減するように内燃機関の運転条件が変更される(ステップS135)。具体的には、非選択の気筒では、DI比率を高めて全燃料噴射量に対する筒内噴射用インジェクタ115の噴射比率を増加させる。たとえば、発生音を低減するための補正量Δr♯(Δr♯>0)が設定され、DI比率は、r+Δr♯に制御される。これにより、気筒内の気化潜熱が相対的に増加して筒内温度が下がることにより、燃焼時の発生音が低減する。
発生音低減のための運転条件の変更としては、点火時期の遅角側補正や、空燃比(A/F)設定のリッチ側(A/F低め側)への修正も可能であるが、これらの手法では、一時的な燃費の悪化を招いてしまう。したがって、上記のように、一部の気筒のみを強制ノッキング対象として選択するとともに、非選択の気筒ではDI比率を上げて発生音を低減することにより、燃費の悪化を招くことなく、強制ノッキング発生時での内燃機関10全体での発生音増大を抑制することができる。
なお、補正量Δr♯(Δr♯>0)についても、図8と同様のマップを作成して、内燃機関10の回転数および負荷率に応じて、内燃機関10の運転に悪影響を与えないような適正量に設定することが好ましい。
ステップS135によるDI比率制御は、ステップS130♯によるDI比率修正と並行して所定の制御期間ΔTの間実行される。補正量Δr♯についても、図9(b)に示したΔrの補正と同様に、制御期間ΔTの開始および終了時において徐々に変化させる構成とする方が好ましい。
また、非選択気筒でのDI比率制御についても、上記のようにステップS135でDI比率補正演算(r+Δr♯)を実行する構成の他に、上記図2〜図5に従う基本的なDI比率rに補正量Δr♯を加算した非選択気筒用マップを別途作成しておいた上で、ステップS135では、図2〜図5の基本的なDI比率設定マップ(基本マップ)の代わりに、上記非選択気筒用マップを参照してDI比率を決定する構成としてもよい。この非選択気筒用マップは、図2〜図5の基本マップでのDI比率に、補正量Δr♯を予め加算したマップ値を有する。
ステップS135以降のステップS150およびS160は図6に示したフローチャートと同様に実行される。すなわち、全気筒について強制ノッキングが完了するまで、ステップS160により強制ノッキング対象気筒を切替えながら、ステップS125,S130♯,S135は繰り返し実行される。全気筒について強制ノッキングが完了するまで、燃焼室デポジット除去制御は実行される。
図10に示したフローチャートでは、ステップS125が本発明における「気筒選択手段」に対応し、ステップS130♯が本発明における「ノッキング発生手段」に対応し、ステップS135が本発明における「発生音低減手段」に対応する。
さらに、気筒の点火順序を考慮して、強制ノッキングに伴う発生音がさらに低減されるように、強制ノッキング対象の選択を行なうことが可能である。
図11(a)〜(c)を参照して、第1気筒111〜第4気筒114は、所定の点火順序に従って順次点火される。各気筒111〜14が11回ずつ点火される4つの点火タイミングによって1つの点火サイクルTが構成される。ここでは、各点火サイクルにおける点火順序を第1気筒111、第3気筒113、第4気筒114、第2気筒112の順とする。
さらに、図中では、白丸は、強制ノッキング対象外の気筒の点火を示す。既に説明したように、ステップS140によるDI比率を高めることで、点火の際の発生音が低減される。一方、網掛け付きの丸は、DI比率を下げた強制ノッキング対象の気筒の点火(ステップS130♯)を示す。すなわち、網掛け付きの丸における点火では、強制ノッキング対象気筒にノッキングが発生している。
図11(a)〜(c)に共通に示されるように、ステップS125において、1つの点火サイクル内で一部の気筒のみを強制ノッキング対象として選択することにより、デポジット除去の際の発生音は、1つの点火サイクル内で全気筒に強制ノッキングを発生させる構成と比較して低減される。
特に、図11(a)に示すように、ステップS125において、第1気筒111および第4気筒114を強制ノッキング対象として選択することにより、点火サイクル(I)および点火サイクル(II)の各々で、連続する点火タイミングについて強制ノッキングの発生は非連続となる。また、制御期間ΔTは、点火サイクル2つ分(2T)に相当する。
このような選択とすることにより、連続的に点火される気筒の各々が強制ノッキング対象に選択されて強制ノッキングが連続発生することがない。これにより、デポジット除去のために強制ノッキングを行なう際に、連続した点火タイミングでの強制ノッキング発生を抑制しない構成と比較して、発生音を低減することが可能となる。
所定時間ΔT=2Tが経過した点火サイクル(II)の終了時点では、第3気筒113および第2気筒112については未だ強制ノッキングが実行されておらずデポジットが除去されていない。したがって、点火サイクル(III)および点火サイクル(IV)では、第3気筒113および第2気筒112が強制ノッキング対象気筒に選択されて、デポジット除去が行なわれる。
点火サイクル(III)および(IV)ならびに、点火サイクル(II)から(III)への移行時においても、各点火において連続的に強制ノッキングが発生しないように、気筒の選択が行なわれる。これにより、デポジット除去のために強制ノッキングを行なう際の発生音を低減することができる。
あるいは、図11(b)に示すように、ノッキングの堆積度合が小さい場合には、点火サイクル(I)〜(IV)の各々において1つずつの気筒を選択して、各気筒に対して1回ずつ強制ノッキングを発生させることで、燃焼室デポジット除去制御を終了させてもよい。
この場合にも、各点火において連続的に強制ノッキングが発生しないように、気筒選択が行なわれるので、強制ノッキングの際の発生音を低減することができる。
なお、図11(a)および(b)では、強制ノッキング対象気筒を固定したままで、制御期間ΔTの間強制ノッキング発生を繰返し実行する構成とした。これに対して、図11(c)に示すように、連続的に点火される気筒の各々が強制ノッキング対象に選択されて強制ノッキングが連続発生することがない範囲であれば、予め定めた所定パターンに従って強制ノッキングを順次発生する構成としてもよい。
この場合には、当該所定パターンの実行によって全気筒について強制ノッキングが完了するように定めておけば、図10のステップS150においては、当該所定パターンによる強制ノッキング発生が完了したかどうかを判定すればよい。さらに、その堆積度合を併せて判定するときには、当該堆積度合に応じて所定パターンを複数回繰返す制御方式とすればよい。
なお、図6に示した燃焼室デポジット除去制御においても、ステップS130の実行に先立って、図10と同様のステップS125を実行すれば、1つの点火サイクル内で一部の気筒のみを強制ノッキング対象として選択することにより、さらには、点火順序を考慮して連続する点火タイミングでノッキングが連続的に発生しないように、強制ノッキング対象を選択することによって、デポジット除去のための強制ノッキング時における発生音の増大を抑制することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
10 内燃機関、20 インテークマニホールド、30 サージタンク、40 吸気ダクト、42 エアフローメータ、50 エアクリーナ、60 電動モータ、70 スロットルバルブ、80 エキゾーストマニホールド、90 三元触媒コンバータ、100 アクセルペダル、111〜114 気筒、115 筒内噴射用インジェクタ、121〜124 点火プラグ、125 吸気通路噴射用インジェクタ、130 燃料分配管、140 逆止弁、150 高圧燃料ポンプ、152 電磁スピル弁、160 燃料分配管、170 燃料圧レギュレータ、180 低圧燃料ポンプ、190 燃料フィルタ、200 燃料タンク、300 エンジンECU、350 入力ポート、360 出力ポート、380 水温センサ、400 燃料圧センサ、420 空燃比センサ、440 アクセル開度センサ、460 回転数センサ、500 ノックセンサ、510 クランク角センサ、PC1〜PC4 点火制御信号、r DI比率(基本値)、T 点火サイクル、Δr DI比率補正量(選択気筒)、Δr♯ DI比率補正量(非選択気筒)、ΔT 制御期間。