近年、画像処理等の分野において、ハードコピーのカラー化に対するニーズが高まってきている。このニーズに対して、従来、昇華型熱転写方式、溶融熱転写方式、インクジェット方式、電子写真方式及び熱現像銀塩方式等のカラーコピー方式が提案されている。
これらの方式のうちインクジェット方式は、液体吐出ヘッドであるプリンタヘッドに設けられたノズルから記録液(インク)の液滴を飛翔させ、記録対象に付着してドットを形成するものであり、簡易な構成により高画質の画像を出力することができる。このインクジェット方式は、ノズルからインク液滴を飛翔させる方法の相違により、静電引力方式、連続振動発生方式(ピエゾ方式)及びサーマル方式に分類される。
これらの方式のうちサーマル方式は、インクの局所的な加熱により気泡を発生し、この気泡によりインクをノズルから押し出して印刷対象に飛翔させる方式であり、簡易な構成によりカラー画像を印刷することができるようになされている。
このようなサーマル方式によるプリンタヘッドは、インクを加熱する発熱素子が発熱素子を駆動するロジック集積回路による駆動回路と共に一体に半導体基板上に形成される。これによりこの種のプリンタヘッドにおいては、発熱素子を高密度に配置して確実に駆動する。
すなわちこのサーマル方式のプリンタにおいて、高画質の印刷結果を得るためには、発熱素子を高密度で配置する必要がある。具体的に、例えば600〔DPI〕相当の印刷結果を得るためには、発熱素子を42.333〔μm〕間隔で配置することが必要になるが、このように高密度で配置した発熱素子に個別の駆動素子を配置することは極めて困難である。これによりプリンタヘッドでは、半導体基板上にスイッチングトランジスタ等を作成して集積回路技術により対応する発熱素子と接続し、さらには同様に半導体基板上に作成した駆動回路により各スイッチングトランジスタを駆動することにより、簡易かつ確実に各発熱素子を駆動することができる。
すなわち図12は、この種のプリンタヘッドにおけるスイッチングトランジスタ、発熱素子近傍の構成を示す断面図である。このプリンタヘッド1は、シリコン基板2上にMOS(Metal Oxide Semiconductor )型電界効果型トランジスタを絶縁分離する素子分離領域が形成された後、この素子分離領域間にMOSトランジスタ3等が形成され、これにより発熱素子の駆動に供するスイッチングトランジスタ、このスイッチングトランジスタを駆動する駆動回路が半導体製造工程によるMOSトランジスタ3により構成される。
続いてMOSトランジスタ3を絶縁する層間絶縁膜等が積層された後、この層間絶縁膜に開口(コンタクトホール)が形成され、1層目の配線パターン4、1層目の配線パターン4と続く2層目の配線パターンを絶縁する層間絶縁膜5、発熱素子6が順次形成される。ここで発熱素子6は、タンタル(Ta)、窒化タンタル(TaNX )、タンタルアルミ(TaAl)により作成される。プリンタヘッド1は、層間絶縁膜5に開口(ビアホール)を形成して2層目の配線パターン7が形成され、これら2層構造による配線パターン4、7によりMOSトランジスタ3に発熱素子6が接続される。さらに続いて発熱素子6上に窒化シリコン(Si3 N4 )による絶縁保護層8、β−タンタルによる耐キャビテーション層9が順次形成される。
続いてプリンタヘッド1は、このようにして発熱素子6等が形成された基板2上の全面に感光性の樹脂材料が塗布され、露光現像工程により塗布した感光性樹脂の余剰な部位が除去されて樹脂層10が形成される。さらにこの上層にニッケルとコバルトとの合金(Ni−Co)によるノズルシート11が貼り付けられ、これらによりインク液室、このインク液室にインクを導くインク流路及びノズルが作成される。プリンタヘッド1は、MOSトランジスタ3によりパルス状の電圧を発熱素子6に印加して発熱素子6を駆動し、これによりインク液滴を飛び出させるようになされている。
このように構成されるプリンタヘッド1においては、単に構成部材を積層しただけでは、絶縁保護層8の表面に配線パターン4等による段差の発生を避け得ず、これにより絶縁保護層8の上層に形成される樹脂層10の表面にも段差が現れ、この樹脂層10に貼り付けられるノズルシートと樹脂層表面との間に隙間が発生する。プリンタヘッド1は、このような隙間が発生すると、樹脂層10とノズルシート11の密着性が劣化する恐れがある。
これにより従来のプリンタヘッド1では、例えば米国特許第6450622号明細書に開示の手法を適用してSOG(Spin On Glass )膜12により層間絶縁膜5を形成してこの種の段差を無くすように平坦化し、十分に強固にノズルシート11を保持するようになされている。ここでSOG膜12は、アルコール成分を溶媒にしてシラノール(Si−OH)結合を含んだ塗布型の絶縁材料がスピンコート法により十分な厚みで基板表面に塗布され、これにより段差に係る部位を埋めるようにシリコン基板2の全面に成膜された後、エッチバック法により所定膜厚にエッチバックされて形成される。
しかしながら単にSOG膜12により段差を無くすようにすると、プリンタヘッド1にあっては、発熱素子6の駆動により発熱素子6が劣化する問題がある。具体的にインク液室にインクを保持しない状態で発熱素子6を駆動したところ(いわゆる空うちである)、プリンタヘッド1では、発熱素子6の抵抗値が著しく上昇し、また耐キャビテーション層9の表面が黒く変色することが確認された。
この点を詳細に検討したところ、発熱素子6の駆動による熱が直下のSOG膜12に伝搬し、この熱によりSOG膜成分自体が分解されることにより、またSOG膜中に残存している溶媒成分が脱離することにより、発熱素子が酸化して、又は発熱素子が炭化して抵抗値が著しく上昇することが判った。より具体的にSOG膜に供する塗布型絶縁材料に有機SOGを用いる場合、このような抵抗値の上昇が特に著しいことが確認された。なおここで有機SOG膜は、Rn Si(OH)4-n (Rはアルキル基 CH3 、C2 H5 、アルコシキ基 C3 H7 等の有機基、nは1〜4の自然数)により表されるように、有機基を分子内に含むシリコン化合物であり、段差の緩和に係る平坦性に優れ、厚い膜厚により塗布してもクラックが入り難い特徴がある。
この問題を解決する1つの方法として図12との対比により図13に示すように、SOG膜の塗布、エッチバックを複数回繰り返すことにより、配線パターンによる段差をSOG膜12により平坦化しながら発熱素子6の作成領域についてはSOG膜12を除去することが考えられる。
しかしながらこの種のプリンタヘッドは、近年、さらなる高密度化が求められており、このためMOSトランジスタ3が微細化され、配線パターンが、多層化、狭ピッチ化する傾向にある。このように配線パターンを狭ピッチ化して、SOG膜の塗布、エッチバックを繰り返して発熱素子6の下層からSOG膜12を除去すると、配線パターンによる段差を十分に平坦化し得なくなる。これによりSOG膜により段差の発生を十分に防止し、かつ発熱素子の劣化を防止することが望まれる。
米国特許第6450622号明細書
(1)実施例1の構成
図1は、本発明に係るラインプリンタを示す斜視図である。このラインプリンタ21は、フルラインタイプのラインプリンタであり、略長方形形状によりプリンタ本体22が形成される。ラインプリンタ21は、印刷対象である用紙23を収納した用紙トレイ24をこのプリンタ本体22の正面に形成されたトレイ出入口より装着することにより、用紙23を給紙できるようになされている。
ラインプリンタ21は、このようにトレイ出入口よりプリンタ本体22に用紙トレイ24が装着されて、ユーザーにより印刷が指示されると、このプリンタ本体22に設けられた給紙ローラの回転によりプリンタ本体22の背面側に向かって用紙トレイ24から用紙23が送り出され、プリンタ本体22の背面側に設けられた反転ローラによりこの用紙23の送り方向が正面方向に切り換えられる。ラインプリンタ21は、このようにして用紙送り方向が正面方向に切り換えられてなる用紙23が用紙トレイ24上を横切るように搬送され、ラインプリンタ21の正面側に配置された排出口よりトレイ25に排出される。
ラインプリンタ21は、上側端面に上蓋26が設けられ、この上蓋26の内側、正面方向への用紙搬送途中に、矢印Aにより示すように、ヘッドカートリッジ28が交換可能に配置される。
ここでヘッドカートリッジ28は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色によるフルラインタイプのプリンタヘッドであり、上側に各色のインクタンク29Y、29M、29C、29Kが設けられる。ヘッドカートリッジ28は、これらインクタンク29Y、29M、29C、29Kに係るプリンタヘッドのアッセンブリーであるヘッドアッセンブリー30と、このヘッドアッセンブリー30の用紙23側に設けられて、不使用時、ヘッドアッセンブリー30に設けられたノズル列を塞いでインクの乾燥を防止するヘッドキャップ31とにより構成される。これによりラインプリンタ21においては、このヘッドカートリッジ28に設けられたヘッドアッセンブリー30の駆動により、各色のインク液滴を用紙23に付着させて所望の画像等をカラーにより印刷することができる。
図2は、このヘッドアッセンブリー30を用紙23側より見てインク液滴Lの吐出に係る部分を拡大し、一部断面を取って示す斜視図である。ヘッドアッセンブリー30は、液室の隔壁33等を作成したヘッドチップ34を順次ノズルシート35に貼り付けた後、ボンディング端子36を介してヘッドチップ34を配線して形成される。
ここでヘッドチップ34は、複数の発熱素子37、この複数の発熱素子37を駆動する駆動回路、この駆動回路の駆動に供する電源等を入力するボンディング端子36等が形成されたものであり、発熱素子37側より見て全体が長方形形状により形成され、この長方形形状の長辺の一辺に沿って所定ピッチにより発熱素子37が複数個設けられる。
ヘッドチップ34は、この一辺側が開いてなるように、櫛の歯形状によりインク液室の隔壁33、インク流路の隔壁が形成され、この一辺側に沿って流路が設けられる。ヘッドチップ34は、この流路を間に挟んで千鳥にノズルシート35に順次配置され、これによりヘッドアッセンブリー30では、この隔壁33、ヘッドチップ34等により流路を形成して、この流路からそれぞれ対応するインクタンク29Y、29M、29C、29Kのインクを各インク液室に導き得るようになされ、またこのようにして液室に導かれたインクを発熱素子37の駆動により加熱できるようになされている。
これに対してノズルシート35は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのインクにそれぞれ対応する用紙幅によるノズル38の列が並設されたシート状部材であり、電鋳技術によりコバルトを含むニッケル材により形成される。ノズルシート35は、各ノズル38の列を間に挟んで千鳥に、各ヘッドチップ34をそれぞれボンディング端子39にワイヤボンディングする際の作業用の開口40が形成される。
図3は、このヘッドアッセンブリーに配置されるヘッドチップのノズルを含む近傍の構成を示す断面図である。ヘッドチップ34は、半導体製造工程により、複数チップ分がシリコン基板による半導体ウエハ上にまとめて形成された後、各チップにスクライビングされて形成される。ヘッドチップ34は、半導体ウエハの段階で発熱素子37側の面に隔壁33が形成され、この隔壁33の表面が平坦に形成されて隔壁33とノズルシート35の間の密着性が増大される。
すなわち図4(A)に示すように、ヘッドチップ34は、シリコン基板41が洗浄された後、シリコン窒化膜が成膜される。続いてフォトリソグラフィー工程、リアクティブイオンエッチング工程によりシリコン基板41が処理され、これによりトランジスタを形成する所定領域以外の領域よりシリコン窒化膜が取り除かれる。これらによりヘッドチップ34は、シリコン基板41上のトランジスタを作成する領域にシリコン窒化膜が形成される。
続いてヘッドチップ34は、熱酸化工程によりシリコン窒化膜が除去されている領域に熱シリコン酸化膜が膜厚500〔nm〕により形成され、この熱シリコン酸化膜によりトランジスタを分離するための素子分離領域(LOCOS:Local oxidation of silicon)42が形成される。なおこの素子分離領域42は、その後の処理により最終的に膜厚260〔nm〕に形成される。
ヘッドチップ34は、続いてシリコン基板41が洗浄された後、トランジスタ形成領域にゲート用の熱酸化膜が形成される。また続いてシリコン基板41が洗浄され、CVD(Chemical Vapor Deposition )法により膜厚70〔nm〕によるポリシリコン、膜厚70〔nm〕によるタングステンシリサイドが順次堆積される。なおタングステンシリサイドにおいてはスパッタリング法により形成することも可能である。ヘッドチップ34は、さらにリソグラフィー工程によりゲート領域が露光処理された後、ドライエッチング法により、余剰な熱酸化膜、ポリシリコン膜、タングステンシリサイド膜が除去され、これによりゲート酸化膜43、ポリシリコン膜44、タングステンシリサイド膜45によるポリサイド構造によりゲート電極が形成され、この実施例では、ゲート長が2〔μm〕以下により形成される。
続いてイオン注入工程、熱処理工程によりシリコン基板41が処理され、これにより低濃度の拡散層46が形成され、さらにソース及びドレイン領域を形成するためのイオン注入工程、熱処理工程によりシリコン基板41が処理され、これらによりMOS型トランジスタ47、48等が作成される。なおここで低濃度の拡散層46は、ゲート下のチャネル形成領域とドレインとの間の電界を緩和してソース・ドレイン間の耐圧を確保する電界緩和層である。またこれによりドライバートランジスタ47は、18〔V〕程度までの耐圧を有するMOS型トランジスタであり、発熱素子37の駆動に供するものである。これに対してスイッチングトランジスタ48は、ドライバートランジスタ47を制御する駆動回路を構成するトランジスタであり、5〔V〕の電圧により動作するものである。
このようにしてトランジスタ47、48が作成されると、ヘッドチップ34は、続いてCVD法によりシリコン酸化膜であるNSG(Non-doped Silicate Glass)膜、ボロンとリンが添加されたシリコン酸化膜であるBPSG(Boron Phosphorus Silicate Glass)膜が順次膜厚100〔nm〕、900〔nm〕により作成され、これにより全体として膜厚が1000〔nm〕による1層目の層間絶縁膜49が作成される。
続いてフォトリソグラフィー工程の後、C4 F8 /CO/O2 /Ar系ガスを用いたリアクティブイオンエッチング法によりシリコン半導体拡散層(ソース・ドレイン)上にコンタクトホールが作成される。
ヘッドチップ34は、続いて希フッ酸を用いた洗浄により、コンタクトホールにより露出したシリコン半導体拡散層の表面から自然酸化膜が除去される。さらにスパッタリング法により、膜厚50〔nm〕によるチタン、膜厚100〔nm〕による窒化チタンバリアメタルが順次堆積された後、CVD法により膜厚500〔nm〕によるタングステンが堆積され、これらによりコンタクトホールが完全に埋め込まれる。さらに続いてヘッドチップ34は、エッチバック法により、コンタクトホール以外の部位からタングステン膜、窒化チタン膜、チタン膜が除去され、これによりトランジスタ47、48と1層目の配線パターンとを接続するプラグ50が作成される。
ヘッドチップ34は、続いてスパッタリング法により、膜厚20〔nm〕によるチタン、膜厚20〔nm〕による窒化チタンバリアメタル、膜厚5〔nm〕によるチタン、銅が0.5〔at%〕添加されたアルミニュームが膜厚500〔nm〕により順次堆積される。また続いてスパッタリング法により、膜厚5〔nm〕によるチタン、膜厚100〔nm〕による窒化チタンバリアメタル、膜厚5〔nm〕によるチタンが順次堆積され、これらにより配線パターン材料層が成膜される。さらに続いてフォトリソグラフィー工程、ドライエッチング工程により、成膜された配線パターン材料層が選択的に除去され、1層目の配線パターン51が作成される。なおコンタクトホールにおいては、プラグ50の作成を省略してこの配線パターン51により直接埋め込むことも可能である。
ヘッドチップ34は、続いて図4(B)に示すように、TEOS(テトラエトキシシラン:Si(OC2 H5 )4 )を原料ガスとしたCVD法によりシリコン酸化膜(以下、P−TEOS膜と呼ぶ)52が膜厚200〔nm〕により成膜され、さらにTEOSとO3 を原料ガスとした常圧プラズマCVD法により、O3 により酸化されたTEOS膜(以下、O3 −TEOS膜と呼ぶ)53が膜厚500〔nm〕により成膜される。続いてヘッドチップ34は、基板41上の全面にレジストが塗布された後、CHF3 、CF4 を原料ガスとしたエッチバック法によりシリコン基板41が処理され、これにより配線パターン51により生じる段差に係る部分がO3 −TEOS膜53によりほぼ埋め込まれる。
続いてヘッドチップ34は、CVD法によりP−TEOS膜54が膜厚200〔nm〕により成膜された後、基板全面への塗布型絶縁材料の塗布により膜厚700〔nm〕によるSOG膜55が形成される。さらに続いてCHF3 、CF4 を原料ガスとしたエッチバック法によりSOG膜55が膜厚100〔nm〕に減少するまでエッチングされ、これによりシリコン基板41の全面を覆うSOG膜55が形成される。ヘッドチップ34は、このようにして形成されるSOG膜55によりO3 −TEOS膜53によっても残る局所的な段差が平坦化される。
なおこの実施例において、塗布型の絶縁材料には、シリカガラスを主成分とする有機SOG、アルキルシロキサンポリマーを主成分とする有機SOG、アルキルシルセスキオキサンポリマーを主成分とする有機SOG又は水素化シルセスキオキサンポリマーを主成分とする有機SOGを適用し、エッチバックには、CHF3 /CF4 /Arガスを適用する。
かくするにつきこの実施例では、P−TEOS膜を成膜した後に、O3−TEOS膜を成膜、エッチバックする処理と、SOG膜を成膜、エッチバックする処理とを設けることにより、配線パターンを狭ピッチ化する場合でも、さらには配線パターンにより生じる段差が大きい場合でも、SOG膜55の表面においては段差の発生を確実に防止することができる。またこのようなSOG膜55においては、下層の配線パターンによる段差に比して十分に厚い膜厚により形成した後、エッチバックして作成されることにより、SOG膜55の表面を十分に平坦化することができる。
このようにしてSOG膜55が作成されると、ヘッドチップ34は、続いて図5(A)に示すように、SOG膜55の表面を無機化する処理が実施され、この実施例では、酸素を原料ガスに用いた酸素プラズマがシリコン基板41上に照射される。具体的にSOG膜55の表面においては、シリコン基板41上への酸素プラズマの照射により、塗布型絶縁材料の有機基がアルキル基によるものの場合、4 (CH3 -Si(OH))+7 O2 →4 Si(OH)+4 CO2 +6 H2 Oで表される化学反応が進行し、塗布型絶縁材料の有機基がC2 H5によるものの場合、4(C2 H5 -Si(OH))+13O2 →4 Si(OH)+8 CO2 +10H2 Oで表される化学反応が進行して有機基が脱離する。このとき図5(B)に示すように、SOG膜表面のシリコン原子が酸素と結合し、これによりSOG膜55の表面にはシリコン酸化膜56が生成される。ヘッドチップ34は、発熱素子37の駆動時、このようにSOG膜55を無機化して形成されるシリコン酸化膜56によりSOG膜55中に余剰な有機成分、溶媒成分を封じ込めるようにして、これら成分の脱離による発熱素子37の劣化が抑制される。これによりヘッドチップ34では、SOG膜55により段差の発生を十分に防止して、かつ発熱素子37の劣化を防止することができる。
なおこの実施例においては、プラズマ中でのイオンの衝突によりシリコン基板41が過剰にダメージを受けないように、ウエハ処理室の上方にプラズマ生成室を有するダウンフロー型のアッシング装置により酸素プラズマを照射した。
ヘッドチップ34は、続いて図6に示すように、膜厚200〔nm〕によるP−TEOS膜57がCVD法により成膜され、これらにより1層目の配線パターン51と続く2層目の配線パターンとを絶縁する2層目の層間絶縁膜が積層構造により形成される。すなわち発熱素子37の作成領域については、シリコン基板41側からP−TEOS膜52、O3 −TEOS膜53、P−TEOS膜54、SOG膜55、シリコン酸化膜56及びP−TEOS膜57により2層目の層間絶縁膜が形成され、この2層目の層間絶縁膜の表面が平坦に形成される。
ヘッドチップ34は、続いて図7に示すように、フォトレジスト工程、CHF3 /CF4 /Arガスを用いたドライエッチング工程により、2層目の層間絶縁膜に開口を形成してビアホールが作成される。
続いてヘッドチップ34は、アルゴン(Ar)プラズマ処理により、ビアホールにより露出した1層目の配線パターン51の表面から自然酸化膜が除去される。続いてスパッタリング法により、膜厚100〔nm〕による窒化チタンバリアメタルが堆積された後、CVD法により膜厚500〔nm〕によるタングステンが堆積され、これらによりビアホールが完全に埋め込まれる。さらにヘッドチップ34は、エッチバック法により、コンタクトホールを除く部位からタングステン膜、窒化チタン膜が除去され、これにより1層目及び2層目の配線パターンを接続するプラグ58が作成される。
続いてヘッドチップ34は、1層目の配線パターン51と同様にして2層目の配線パターン材料層が成膜され、選択的に除去され、2層目の配線パターン59が作成される。なおビアホールにおいては、プラグ58の作成を省略して配線パターン59により直接埋め込むことも可能である。
さらに続いてヘッドチップ34は、2層目の配線パターン59と続く3層目の配線パターンとを絶縁する3層目の層間絶縁膜が形成される。すなわち2層目の層間絶縁膜について説明したと同様に、P−TEOS膜60の成膜、O3 −TEOS膜61の成膜及びエッチバック、P−TEOS膜62の成膜、SOG膜63の成膜及びエッチバック、このSOG膜63の表面の無機化によるシリコン酸化膜64の形成、P−TEOS膜65の成膜が順次実施され、これらにより表面が平坦化された3層目の層間絶縁膜が形成される。
ヘッドチップ34は、続いて図3に示すように、スパッタリングにより、膜厚50〜100〔nm〕によりβ−タンタルが堆積され、これによりシリコン基板41上に抵抗体膜が成膜される。なおスパッタリングの条件は、ウエハ加熱温度200〜400度、直流印加電力2〜4〔kW〕、アルゴンガス流量25〜40〔sccm〕に設定した。さらに続いてヘッドチップ34は、フォトリソグラフィー工程、BCl3 /Cl2 ガスを用いたドライエッチング工程により抵抗体膜が選択的に除去され、正方形形状により、又は一端を配線パターンにより接続する折り返し形状により、40〜100〔Ω〕の抵抗値を有する発熱素子37が形成される。
ヘッドチップ34は、続いてCVD法により膜厚300〔nm〕によるシリコン窒化膜66が形成される。続いてフォトレジスト工程、CHF3 /CF4 /Arガスを用いたドライエッチング工程により、所定箇所のシリコン窒化膜が除去され、これにより発熱素子37を配線パターンに接続する部位が露出される。さらにCHF3 /CF4 /Arガスを用いたドライエッチング工程により、3層目の層間絶縁膜に開口を形成してビアホールが作成される。
ヘッドチップ34は、続いてアルゴンプラズマ処理により、ビアホールにより露出した2層目の配線パターン59の表面から自然酸化膜が除去される。続いてスパッタリング法により、膜厚100〔nm〕による窒化チタンバリアメタルが堆積された後、CVD法により膜厚500〔nm〕によるタングステンが堆積され、これらによりビアホールが完全に埋め込まれる。さらにヘッドチップ34は、エッチバック法により、ビアホールを除く部位のタングステン膜、窒化チタン膜が除去され、これにより2層目及び3層目の配線パターンを接続するプラグ67が作成される。
続いてヘッドチップ34は、1層目の配線パターン51と同様にして、3層目の配線パターン材料層が成膜され、選択的に除去され、3層目の配線パターン68が作成される。またこのとき発熱素子37上に取り残されたシリコン窒化膜66にあっては、この配線パターン作成の際のエッチング工程において、エッチングに供する塩素ラジカルから発熱素子37を保護する保護層として機能する。またこのシリコン窒化膜66は、このエッチング工程において、塩素ラジカルに曝される部位が膜厚300〔nm〕から膜厚100〔nm〕に減少する。なおビアホールにおいては、プラグ67の作成を省略して配線パターン68により直接埋め込むことも可能である。
ヘッドチップ34は、続いてインク保護層、絶縁層として機能するシリコン窒化膜69がプラズマCVD法により膜厚200〜400〔nm〕により成膜される。さらに続いて耐キャビテーション材料層が膜厚100〜300〔nm〕により成膜された後、BCl3 /Cl2 ガスを用いたパターニングにより耐キャビテーション層70が形成される。この実施例では、タンタルをターゲットに用いたDCマグネトロン・スパッタリング装置によりβ−タンタルによる耐キャビテーション層70が形成される。なおここで耐キャビテーション層70は、発熱素子37の駆動によりインク液室に発生した気泡が消滅する際の物理的ダメージ(キャビテーション)を吸収して発熱素子37を保護し、また発熱素子37の駆動により高温となったインクの化学作用から発熱素子37を保護する保護層である。
続いてヘッドチップ34は、有機系樹脂による露光硬化型のドライフィルムが圧着により配置された後、フォトリソプロセスによってインク液室、インク流路に対応する部位が取り除かれ、その後硬化され、これによりインク液室71の隔壁33、インク流路の隔壁等が作成される。ヘッドチップ34は、このようにしてシリコン基板41上に作成された複数ヘッドチップ分がスクライビングされて作成される。
(2)実施例1の動作
以上の構成において、このラインプリンタ21においては(図1)、印刷に供する画像データ、テキストデータ等によるヘッドカートリッジ28の駆動により、記録対象である用紙23を所定の用紙送り機構により搬送しながら、ヘッドカートリッジ28に設けられたヘッドアッセンブリー30からインク液滴が吐出され、このインク液滴が搬送中の用紙23に付着して画像、テキスト等が印刷される。
これに対応してヘッドカートリッジ28のヘッドアッセンブリー30においては(図1、図2)、インクタンク29Y、29M、29C、29Kのインクがインク流路を介してインク液室71に導かれ、発熱素子37の駆動によるインク液室71に保持したインクの圧力増大により、ノズルシート35に設けられたノズル38からインク液滴Lが吐出される。これらによりこのラインプリンタ21においては、所望の画像等を印刷することができる。
このヘッドアッセンブリー30においては(図3)、発熱素子37、この発熱素子37を駆動するドライバートランジスタ47等を基板上に一体に形成してなるヘッドチップ34と、インク液滴を吐出するノズル38によるノズル列、開口40を電鋳処理により作成してなるシート状の部材であるノズルシート35とを配置して形成される。またこのようなノズル列の長さが記録対象の用紙幅以上に設定され、これによりヘッドアッセンブリー30では、フルラインタイプのラインヘッドが構成され、シリアルヘッドのプリンタヘッドによる場合に比して高速度に所望の画像等を印刷することができる。
このようなヘッドアッセンブリー30においては(図3〜図7)、発熱素子37の基板41側に設けられる2層目及び3層目の層間絶縁膜の一部であって、配線パターン51、59による段差に係る部分にO3 −TEOS膜53、61が形成される。またO3 −TEOS膜53、61の上にシリコン基板全面を覆うSOG膜55、63が配置され、これらSOG膜55、63により局所的な段差が平坦化される。これによりヘッドアッセンブリー30では、隔壁33の表面が平坦に形成され、配線パターンを多層化、狭ピッチ化する場合でも隔壁33とノズルシート35の密着性が増大する。
ヘッドアッセンブリー30は、このようなSOG膜55、63を単に配置しただけでは熱によりSOG膜55、63から有機成分、溶媒成分が脱離し、これらの成分による発熱素子37の酸化又は炭化が心配される。すなわちラインプリンタ21においては、いわゆる空うちによっても発熱素子37が酸化して、又は発熱素子37が炭化して抵抗値が上昇し、インク液滴Lを安定に吐出できなくなる。
このためこの実施例において、塗布型の絶縁膜の表面には、SOG膜55、63を無機化したシリコン酸化膜56、64が形成される。具体的に無機化の処理では、SOG膜55、63の表面に酸素プラズマが照射され、この酸素プラズマとSOG膜表面との間での化学反応によりSOG膜55、63の表面から有機成分が脱離する。このときSOG膜55、63の表面には、酸素プラズマ中の酸素原子等とシリコン原子との結合によりシリコン酸化膜56、64が形成される。これによりヘッドアッセンブリー30では、発熱素子37の駆動時、このようにして無機化したシリコン酸化膜56、64がSOG膜55、63中の余剰な有機成分、溶媒成分を封じ込めるブロック層として機能する。これらによりヘッドアッセンブリー30では、SOG膜55、63からの有機成分、溶媒成分の脱離による発熱素子37の劣化を抑制するようにして、SOG膜により段差の発生を十分に防止して、かつ発熱素子37の劣化を防止することができるようになされている。
またこのようなSOG膜55、63においては、下層の配線パターンによる段差に比して十分に厚い膜厚により形成した後、エッチバックして作成されることにより、SOG膜55、63の表面を十分に平坦化することができる。
(3)実施例1の効果
以上の構成によれば、発熱素子の下層をSOG膜により平坦化し、このSOG膜の表面を無機化することにより、SOG膜により段差の発生を十分に防止して、かつ発熱素子の劣化を防止することができる。
具体的にこの無機化の処理においては、酸素プラズマをSOG膜の表面に照射することにより、塗布型の絶縁膜により段差の発生を十分に防止して、かつ発熱素子の劣化を防止することができる。
図8は、本発明の実施例に係るプリンタのヘッドアッセンブリーに配置されるヘッドチップのノズルを含む近傍の構成を示す断面図である。このヘッドチップにおいては、SOG膜表面の無機化に加えて、事前の処理によりSOG膜中の有機成分、溶媒成分についても脱離し難くする。なおこの実施例においては、事前の処理に関連する構成を除いて実施例1と同一に構成されることにより、対応する符号を付して示し、重複した説明は省略する。
すなわち図9(A)に示すように、ヘッドチップ74は、シリコン基板41上にトランジスタ47及び48、1層目の層間絶縁膜49、1層目の配線パターン51、2層目の層間絶縁膜が順次形成される。ヘッドチップ74では、この2層目の層間絶縁膜中にSOG膜55が配置されて層間絶縁膜の表面が平坦化され、またSOG膜55の表面にはこのSOG膜55を無機化したシリコン酸化膜56が形成される。
続いてヘッドチップ74は、フォトレジスト工程、CHF3 /CF4 /Arガスを用いたドライエッチング工程により、2層目の層間絶縁膜に開口を形成してビアホールが作成される。ここでこの実施例においては、プラグ58用のビアホール75に加えて、SOG膜中の有機成分、溶媒成分の除去に供する脱ガス用のビアホール76が複数個作成され、これらによりシリコン酸化膜56を突き抜けてSOG膜55を露出する凹部が形成される。なおこの実施例において、複数個のビアホール76は、発熱素子37の作成領域におけるSOG膜中から有機成分、溶媒成分を除去し易いように、発熱素子37の作成領域の周囲に配置される。
ヘッドチップ74は、続いて発熱素子37の駆動時と同等の温度による熱処理が実施され、これによりビアホール75、76を介して層間絶縁膜から揮発成分が除去される。このときSOG膜55では、凹部よりSOG膜55中の水分、有機成分が放出され、これによりヘッドチップ74では、発熱素子37の劣化に係る水分、有機成分をヘッドチップ74の作成段階でSOG膜55中から脱離する。なおこの実施例では、熱処理装置により不活性ガス雰囲気中で、又は窒素ガス雰囲気中で、若しくは真空中で300〜400度、10分〜60分間の熱処理を実施した。
続いて図9(B)に示すように、SiH4 ガス、NH3 ガス、N2 Oガスを用いたプラズマCVD法によりシリコン窒化膜が成膜され、さらに続いてCHF3 、CF4 を主成分とした混合プラズマによるドライエッチング法により、ビアホール75、76の底面に下層の配線パターン表面が露出されるまでエッチングされ、これによりビアホール75、76による2層目の層間絶縁膜の側壁面にのみシリコン窒化膜77が形成される。ヘッドチップ74は、SOG膜55の凹部についてもシリコン窒化膜77が表面に形成され、発熱素子37の駆動時には、このシリコン窒化膜77がシリコン酸化膜56と共にSOG膜55中に残留する有機成分、溶媒成分を封じ込めるブロック層として機能する。これによりヘッドチップ74では、ビアホール75、76を介した有機成分、溶媒成分の脱離による発熱素子37の劣化を抑制する。またこのようなシリコン窒化膜77を何ら作成しない場合には、続く工程への搬送時等にSOG膜55が直接大気に曝されて大気中から水分を吸収するのに対し、ヘッドチップ74では、シリコン窒化膜77によりSOG膜55と大気の接触が防止され、これにより脱ガス処理された状態でSOG膜55が保持される。
なおこのように2層目の層間絶縁膜の側壁に形成されるブロック層においては、シリコン窒化膜77に代えて、シリコン酸化窒化膜、シリコン酸化膜を用いるようにしてもよく、さらにはタンタル膜等の微結晶粒構造による金属膜を用いることも可能である。
このようにしてシリコン窒化膜77が作成されると、続いてヘッドチップ74は、図10に示すように、プラグ58が形成されると共に、このプラグ58と同一材料が脱ガス用のビアホール76に埋め込まれてダミープラグ78が形成される。
さらにヘッドチップ74は、2層目の配線パターン59、3層目の層間絶縁膜が順次形成され、この3層目の層間絶縁膜においてもSOG膜63により平坦化され、このSOG膜63を無機化したシリコン酸化膜64が形成される。またこの3層目の層間絶縁膜によりビアホール76を塞ぐダミープラグ78が2層目の層間絶縁膜との間に挟まれて絶縁分離される。
ヘッドチップ74は、続いて図11に示すように、発熱素子37、シリコン窒化膜66が順次形成された後、プラグ用のビアホール79、SOG膜63に係る脱ガス用のビアホール80の作成及び熱処理が実施され、さらに続いてこれらビアホール79、80による層間絶縁膜の側壁にシリコン窒化膜81が形成される。なお発熱素子37を覆うシリコン窒化膜66においては、SOG膜63に係る熱処理工程においてSOG膜63からの脱ガスより発熱素子37を保護する保護層として機能する。
続いて図8に示すように、ヘッドチップ74は、プラグ67の作成時に併せてダミープラグ82が形成された後、フォトレジスト工程、CHF3 /CF4 /Arガスを用いたドライエッチング工程により、基板表面から所定箇所のシリコン窒化膜66が除去され、これにより発熱素子37を配線パターンに接続する部位が露出される。さらに続いて3層目の配線パターン68、絶縁保護層69、耐キャビテーション層70、隔壁33が順次形成される。ヘッドチップ74は、このようにしてシリコン基板41上に作成された複数ヘッドチップ分がスクライビングされて作成される。
この図8に示す構成によれば、平坦化処理及び無機化処理に加えて、この無機化処理によるシリコン酸化膜を突き抜けて塗布型の絶縁膜の一部を露出する凹部を形成する処理と、この凹部より塗布型の絶縁膜の揮発成分を除去する熱処理とを設けることにより、SOG膜により段差の発生を十分に防止して、さらに一段と発熱素子の劣化を防止することができる。
またこの凹部における絶縁膜の表面にシリコン酸化膜を形成することにより、この凹部の側壁を介した有機成分、溶媒成分の脱離を抑制するようにして、さらに一段と発熱素子の劣化を防止することができる。
1……プリンタヘッド、2、41……基板、3、47、48……トランジスタ、4、7、51、59、68……配線パターン、5……層間絶縁膜、6、37……発熱素子、12、55、63……SOG膜、21……ラインプリンタ、30……ヘッドアッセンブリー、34、74……ヘッドチップ、56、64……シリコン酸化膜