JP2006111710A - 無水マレイン酸(共)重合体の製造方法、無水マレイン酸(共)重合体、及びその加水分解物 - Google Patents

無水マレイン酸(共)重合体の製造方法、無水マレイン酸(共)重合体、及びその加水分解物 Download PDF

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丈弘 森下
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Abstract

【課題】 重合率が高く、未反応無水マレイン酸の含有量が少ないために安全性や貯蔵安定性が優れる無水マレイン酸(共)重合体の製造方法、無水マレイン酸(共)重合体、及びその加水分解物を提供する。
【解決手段】 本発明の無水マレイン酸(共)重合体の製造方法は、無水マレイン酸単独、又は無水マレイン酸と他のビニル化合物との混合物を溶剤存在下にラジカル重合させる無水マレイン酸(共)重合体の製造方法において、溶剤中に界面活性剤を添加して重合することを特徴とする
【選択図】 なし

Description

本発明は、重合率が高く、未反応無水マレイン酸の含有量が少ないために安全性や貯蔵安定性が優れる無水マレイン酸(共)重合体の製造方法、無水マレイン酸(共)重合体、及びその加水分解物に関する。
酸無水物を構成単位に含むポリマーとしては、主鎖に酸無水物基を有する線状重合体や側基に酸無水物基を有するポリマーがある。これらのポリマー中の酸無水物基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、イソシアネート基やエポキシ基などの種々の官能性置換基を有する化合物に対して容易に反応させることができるため、これらのポリマーは、他のポリマーの改質剤、或いは架橋システムや硬化システムの構成原料として好適に用いることができるなど、広範囲の用途がある。また、この酸無水物基を有するポリマーは加水分解すればポリカルボン酸として、例えばスケール防止剤などとしても適用でき、工業的に極めて有用なものである。
このような酸無水物基を有するポリマーを製造する際、無水マレイン酸を不飽和酸無水物として使用すると、単独重合性が著しく低く、共重合性においても相手が限定されるため、通常かなりの量が残存してしまうという問題があった。
さらに、得られるポリマーは、含まれる未反応無水マレイン酸(残存モノマー)が毒性を有しているということばかりでなく、二重結合基に帰因する高い反応性のため副反応や経時変化を起こし易いこと、また加水分解した場合には残存モノマーの加水分解物にスケール防止性がないため、有効性能が低いこと等の理由から、使用する場合に更なる精製を加える必要があった。しかしながら、残存モノマーの除去は複雑で、著しく製品のコストを増加させる原因となっていた。
これらを改良する方法として、特許文献1には、ジアルキルパーオキサイドとアミン化合物との併用系からなる重合触媒を使用して無水マレイン酸(共)重合体を高い転化率で製造する方法が提案、開示されている。
また、特許文献2には、無水マレイン酸の代わりに無水イタコン酸を不飽和酸無水物として使用すれば、無水イタコン酸は単独重合性が高い上に、(メタ)アクリルモノマーと容易に共重合することができ、殆どモノマーの残存がない点で重合特性を改善できることが開示されている。
特開平10−259215号公報(第3頁) 特開2000−321773公報(第3頁)
しかしながら、前記特許文献1に開示された方法では、アミン化合物とパーオキサイドによる急激なラジカル分解反応、アミン化合物と無水マレイン酸との間の急激な付加反応、さらに反応後のアミン化合物の除去などの点で重大な問題点があった。
また、前記特許文献2に開示される方法では、無水イタコン酸のコストが高いため、実用的ではないという問題点があった。
そこで、本発明は、上記従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであって、重合率が高く、未反応無水マレイン酸の含有量が少ないために安全性や貯蔵安定性が優れる無水マレイン酸(共)重合体の製造方法を提供することことを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために無水マレイン酸(共)重合体の製造方法を鋭意検討した結果、界面活性剤を存在させることにより、無水マレイン酸(共)重合体中の未反応無水マレイン酸の残存量を顕著に減少できることを見いだし、本発明を完成した。
即ち、本発明の第1の発明は、無水マレイン酸単独、又は無水マレイン酸と他のビニル化合物との混合物を溶剤存在下にラジカル重合させる無水マレイン酸(共)重合体の製造方法において、溶剤中に界面活性剤を添加して重合することを特徴とするものである。
本発明の第2の発明は、前記の第1の発明において、界面活性剤は、モノマー総重量に対して0.001〜15重量%添加することを特徴とする無水マレイン酸(共)重合体の製造方法である。
本発明の第3の発明は、前記の第1又は第2の発明において、溶剤は、SP値が7.0〜11.0(cal/cm31/2であることを特徴とする無水マレイン酸(共)重合体の製造方法である。
本発明の第4の発明は、前記の第1〜第3の発明において、他のビニル化合物は、ビニルエステル、ビニルエーテル、スチレン、置換スチレン、エチレン、イソブチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、無水イタコン酸、イタコン酸エステル、マレイン酸エステル及びフマル酸エステルからなる群から選ばれた1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする無水マレイン酸(共)重合体の製造方法である。
本発明の第5の発明は、前記の第1〜第4の発明(の方法)により得られることを特徴とする無水マレイン酸(共)重合体である。
本発明の第6の発明は、前記第5の発明において、重量平均分子量が600〜50000であることを特徴とする無水マレイン酸(共)重合体である。
本発明の第7の発明は、前記第5又は第6の発明において、重合率が95%以上であることを特徴とする無水マレイン酸(共)重合体である。
本発明の第8の発明は、前記第5〜第7の発明において、未反応無水マレイン酸の含有量が5重量%以下であることを特徴とする無水マレイン酸(共)重合体である。
本発明の第9の発明は、前記の第5〜第8の発明の無水マレイン酸(共)重合体を水乃至アルカリ水溶液で加水分解せしめることにより得られることを特徴とする無水マレイン酸(共)重合体の加水分解物である。
本発明の第1の発明は、界面活性剤を存在させることにより、重合反応の進行と共に生成してくる重合体と溶剤との相溶性を向上させることにより、無水マレイン酸の単独重合体であっても他のビニル化合物との共重合体であっても、重合体中の未反応無水マレイン酸の残存量を著しく低下させることができ、高重合率で無水マレイン酸(共)重合体を製造することができる。したがって、未反応無水マレイン酸に起因する安全性や貯蔵性に関する問題を軽減、解消することができ、得られた重合体の精製工程における手間も軽減、解消することができる。
本発明の第2の発明は、特定範囲の界面活性剤を添加するので、効率的に重合体中における未反応無水マレイン酸の残存量を十分に低下させることができる。
本発明の第3の発明は、反応の進行と共に生成してくる重合体に対して溶解性が低く、且つ酸無水物基に不活性な溶剤を添加するものであって、前述の界面活性剤の作用と相俟って重合体中の未反応無水マレイン酸の残存量を低下でき、高重合率で無水マレイン酸(共)重合体を製造できる。
本発明の第4の発明は、無水マレイン酸と共重合する他のビニル化合物を適宜に選択することにより、用途に応じた分子量及び酸価の調整が可能であり、且つ高重合率で無水マレイン酸共重合体を製造できる。
本発明の第5の発明は、前記製造方法により得られた無水マレイン酸(共)重合体であるため、高重合率で、未反応無水マレイン酸の含有量が少ないため、使用過程やその後の処理工程における安全性や貯蔵安定性が優れたものとなり、酸無水物基を有するポリマーとして、他のポリマーの改質剤、或いは架橋システムや硬化システムの構成原料など、極めて広範囲の用途に適用でき、工業的に極めて有用である。
本発明の第6の発明は、反応条件を調整して特定範囲の重量平均分子量としたものであり、重合条件や重合装置に制限を生じないし、作業性もよく、他の材料との相溶性も低下しない。
本発明の第7の発明は、重合率が95%以上に達するように重合反応をしたものであって、残存する未反応マレイン酸がないか非常に少ないため、刺激臭が少なく、加水分解した水溶液においても重量あたりのスケール防止性が高い。
本発明の第8の発明は、未反応マレイン酸の含有量が5重量%以下であるから、その使用過程やその後の処理工程における安全性や貯蔵安定性が優れたものである。
本発明の第9の発明は、高重合率で、未反応無水マレイン酸の含有量が少ない無水マレイン酸(共)重合体の加水分解物であって、ポリカルボン酸として、例えばスケール防止剤などに好適に利用することができる。
以下に本発明を具体的に説明する。
本発明の第1の発明である無水マレイン酸(共)重合体の製造方法では、無水マレイン酸単独、又は無水マレイン酸と他のビニル化合物との混合物を溶剤存在下にラジカル重合させる際、溶剤中に界面活性剤を添加して重合することを特徴とする。
本発明では、モノマーとして無水マレイン酸のみを単独重合させる場合と、モノマーとして無水マレイン酸と他のビニル化合物との混合物を共重合させる場合とを含むが、後者の場合、全モノマー中の無水マレイン酸の含有量(率)は10重量%以上である。但し、有効な反応基を多く導入する目的や加水分解後のスケール防止性を高める目的においては、無水マレイン酸量は多いほど好ましいため、そのような場合には無水マレイン酸を50重量%以上含有する範囲が好適に選ばれる。
前記他のビニル化合物としては、特に限定するものではないが、代表的な例を記載すると、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-クロロエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸のエステル((メタ)アクリレートと記す)、例えばスチレン、クロルメチルスチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等のオレフィン類、例えば無水イタコン酸、イタコン酸ジエチルエステル、イタコン酸ジブチルエステル等のイタコン酸誘導体、例えばマレイン酸ジエチルエステル、マレイン酸ジブチルエステル等のマレイン酸誘導体、例えばフマル酸ジブチルエステル等のフマル酸誘導体、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類、例えばエチルビニルエーテル及びブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類などからなる群から選ばれる1種以上の化合物(モノマー)を使用することができる。
これらの他のビニル化合物の中でより好ましい化合物としては、無水マレイン酸との共重合性、コスト、及び得られる無水マレイン酸共重合体の加水分解物からなる水処理剤のスケール抑制能の観点から、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、スチレン、置換スチレン、エチレン、イソブチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、無水イタコン酸、イタコン酸エステル、マレイン酸エステル、及びフマル酸エステルを挙げることができ、これらの群から選ばれた1種又は2種以上の混合物を好適に用いることができる。
本発明で用いられる溶剤は、反応の進行と共に生成してくる無水マレイン酸(共)重合体に対して溶解性の低い溶剤であり、しかも無水マレイン酸(共)重合体中の酸無水物基に不活性な溶剤であり、Fedros推算法によるSP値が7〜11(cal/cm31/2である溶剤を用いることが好ましい。SP値が7(cal/cm31/2未満である溶剤は沸点が低すぎ、一方、SP値が11(cal/cm31/2を越える溶剤は無水マレイン酸との反応性があるため好ましくない。
上記の溶剤の代表的な例としては、例えばオクタン、デカン等の脂肪族炭化水素、例えばメチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン等の芳香族炭化水素、例えばメチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、例えば酢酸ブチル、ベンジルアセテート、安息香酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチロラクトン等のエステル類、例えばエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類、例えばメチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、メトキシプロピルアセテート等のグリコールエーテルエステル類などを挙げることができる。
これらの溶剤は単独でも、混合物の形態でも使用することができる。モノマー総重量に対する溶剤量は、重合体中に残存する未反応マレイン酸の量やコスト面の影響を考慮して通常50〜500重量%、好ましくは60〜300重量%である。
そして、本発明で用いられる界面活性剤は、重合反応の進行と共に生成してくる無水マレイン酸(共)重合体と溶剤との相溶性を向上させることにより、重合率を95%以上に高めると共に残存する未反応無水マレイン酸(残存モノマー)の量を5重量%以下に低減させる目的で使用される。
使用される界面活性剤の種類は、用いられる溶剤の種類やモノマーの種類(組成)によって適宜に選択されるものであって、アニオン系、カチオン系、非イオン系のものが何れも使用可能である。
アニオン系界面活性剤の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、アシルメチルタウリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル2ナトリウム、ラウロイルザルコシネート、スチレン/無水マレイン酸共重合体、ジイソブチレン・無水マレイン酸共重合体等を挙げることができる。
カチオン系界面活性剤の具体例としては、オクタデシルアミン酢酸塩、オクタデシルトリメチルアニモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。
非イオン系界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、グリセロールモノステアレート、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオクタデシルアミン、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンジステアレート等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を混合して用いても良い。
これらの界面活性剤の中で好ましいのは、重合率向上効果が高い、着色が少ない等の理由により、非イオン系界面活性剤であり、これらの群から選ばれた1種又は2種以上を混合して用いることが好ましい。
また、界面活性剤の使用量は、溶剤の種類や使用量により異なるが、使用するモノマー総重量に対し、通常0.001〜15重量%、好ましくは0.01〜12重量%である。界面活性剤の使用量が0.001重量%未満では重合体中の未反応無水マレイン酸(残存モノマー)の低下が不十分であり、15重量%を超える場合には重合転換率がほぼ飽和となるのでコスト面から好ましくない。
本発明において、重合反応は、残存する未反応無水マレイン酸(残存モノマー)の量を(好ましくは5重量%以下に)低減させると共に重合率を(好ましくは95%以上に)高めるという前述の効果を達成するものであれば、従来公知のどのような重合方法でもよく、公知の装置、設備をそのまま用いることができる。例えば無水マレイン酸、共重合する場合は他のモノマー(ビニル化合物)、溶媒、及びラジカル重合開始剤を反応容器に全量仕込み、加熱重合反応させる方法や、無水マレイン酸、他のモノマー(ビニル化合物)、及び溶媒を反応容器に仕込んで所定温度まで昇温した後、ラジカル重合開始剤を滴下して加熱重合反応させる方法などを適宜に採用することができる。
本発明で用いられるラジカル重合開始剤としては、特に限定するものではないが、例えばアゾビスイソブチロニトリル、1,1-アゾビス-1-シクロヘキサノンニトリル、又は2,2-アゾビスイソ酪酸アルキルエステル等の脂肪族アゾ化合物、例えばアセチルペルオキシド、ブチリルペルオキシド、又はベンゾイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド、例えばt-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド、例えばジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド、例えばジエチルペルオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート又はジベンゾイルペルオキシジカーボネート等のペルオキソジカーボネート、例えばt-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート等のペルオキシエステルなどを用いることができる。
これらのラジカル重合開始剤の使用量は、溶媒の使用量により異なるが、重合体中に残存する未反応マレイン酸の量やコスト面の影響を考慮してモノマー総重量に対して好ましくは15〜60重量%、より好ましくは20〜50重量%である。
また、ラジカル重合開始剤は、重合反応の開始前に反応系に一括で全量を仕込んでもよいが、安全性の観点から、重合開始後に滴下により徐々に反応系に添加するほうが好ましい。
さらに、ポリマーの分子量を希望する範囲の値に調整する目的で分子量調整剤を使用することもできる。使用できる分子量調節剤は、酸無水物基に対して不活性なものが好ましい。この分子量調節剤としては、特に限定するものではないが、代表的な例としては、ドデシルメルカプタン、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドなどを挙げることができる。
また、重合温度は、使用するラジカル重合開始剤や溶剤の種類によっても異なるが、通常80〜200℃、好ましくは、90〜180℃の範囲である。
さらに、重合反応に費やす時間は、設定温度にもよるが、十分な転化率を得るため、生成ポリマーの分解(脱炭酸)を防止する目的で2〜24時間とすることが好ましい。
無水マレイン酸(共)重合体からの溶剤の除去方法は、従来公知の方法を採用することができる。例えば重合時に高分子保護コロイドなどを添加して懸濁重合を行い、引き続いて沈澱を濾過、乾燥する方法や、蒸発押出機中で減圧下に約80〜150℃で除去する方法、或いは噴霧乾燥器により溶剤を蒸発させる方法などを挙げることができる。
溶剤を除去した無水マレイン酸(共)重合体は、酸無水物基を有するため、ヒドロキシル基、カルボキシル基、イソシアネート基やエポキシ基などの種々の官能性置換基を有する化合物に対して容易に反応させることができ、他のポリマーの改質剤、或いは架橋システムや硬化システムの構成原料など、広範囲の用途がある。例えばヒドロキシル官能性アクリルポリマー、又は低分子量の多官能アミン等の反応剤と共に、塗料、接着剤、コーティング剤などの架橋剤として使用することができる。
また、前述のように、重合反応は、重合率が95%以上に達するまで行うことが好ましく、より好ましくは97%以上に達するまで行う。重合率が95%未満となった無水マレイン酸(共)重合体では、未反無水マレイン酸の量が多くなり、加水分解した水溶液のスケール防止能が低下することに加え、加温下での着色が著しくなるため好ましくない。
これに対し、重合率が95%以上に達するように重合反応させて得られた無水マレイン酸(共)重合体は、残存する未反応無水マレイン酸がないかその量が非常に少ないため、刺激臭が少なく、加水分解した水溶液においても重量あたりのスケール防止性が高いという特徴がある。
さらに、得られる本発明の無水マレイン酸(共)重合体の重量平均分子量は、前述のように反応条件を設定することにより調整できるが、600〜50000の範囲とすることが好ましい。重量平均分子量が600未満では重合条件や重合装置に制限が出てきたり、加水分解物のスケール防止能が低下し易くなる。一方、50000を超える場合には、重合反応時において生成ポリマーの粘度が上昇して作業性が低下することに加え、残存モノマーが増え易くなる。さらに、他の材料との相溶性が低下するため好ましくない。
重合反応後、製造した無水マレイン酸(共)重合体を加水分解する方法としては、例えば前述のように溶剤を除去した後に加水分解処理する方法、或いは溶剤を除去しない混合状態のままで加水分解処理する方法の何れを採用しても良い。
溶剤を除去した後に無水マレイン酸(共)重合体を加水分解処理する方法は、例えば重合反応終了後に、反応溶液中から大気圧下での蒸留法や、減圧蒸留法などにより溶剤を除去した後、その中に水、又は苛性ソーダや苛性カリ等を含むアルカリ水溶液を加えて反応させることにより、加水分解物を製造することができる。その際、加水分解は室温〜100℃の温度で行う。加水分解に使用する水は、イオン交換水、水道水のいずれもを使用することができる。またその水の使用量は、水溶液の粘度及び作業性を考慮して、重合して得たポリマー100重量部に対して、30重量部以上であることが好ましく、50〜200重量部がより好ましい。
一方、溶剤を除去しない混合状態のままで加水分解処理する方法は、重合反応後の溶液中に、水又はアルカリ金属水酸化物の水溶液を加え、加水分解反応終了後に静置して、混合溶液から溶剤層を除去分離させて、無水マレイン酸(共)重合体の加水分解物をカルボン酸水溶液又は該アルカリ金属塩の形態で得ることができる。
何れの方法で得られた無水マレイン酸(共)重合体の加水分解物も、スケール防止剤として有用に使用することができる。
また、スケール防止剤として使用する場合は、単独もしくは他の薬剤と配合して用いることができる。使用量としてはボイラー用水や冷却用水に、原体又は水溶液で、10〜1000ppmの濃度となるように添加する方法が一般的である。
次に、実施例及び比較例を挙げて、この発明をさらに具体的に説明する。尚、各例中の部、%は特に断らない限り重量部、重量%を示す。
また、表1中における各例中の略号は以下の化合物を示す。
MAn:無水マレイン酸、DIB:ジイソブチレン、AAc:アクリル酸、BGA:ブチルグリコールアセテート、DOP:ジオクチルフタレート、XY:オルトキシレン、OT−221:ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、O−4:ポリオキシエチレンモノオレエート、RS:ノルマルドデシルベンゼンスルホン酸。
さらに、物性評価は次の方法で行った。
(1)重量平均分子量(Mw):
無水マレイン酸(共)重合体の加水分解物を真空乾燥器を用いて40℃で3時間減圧乾燥を行った。得られた乾燥物を0.05g/25mlとなるようにテトラヒドロフラン溶媒で希釈して分析サンプルとし、GPC分析(GPC装置:LC−6A(島津製)、カラム:TSKgel G2000H8(東ソー製)×2及びTSKgel G1000H8(東ソー製)×1、溶離液:テトラヒドロフラン、検出:RI)により重量平均分子量を求めた。
(2)残存モノマー量:
前記GPC装置を用い、モノマー濃度とGPC面積の関係から検量線を作成した後、分析サンプル中の残存モノマー量を求めた。
(3)スケール抑制率:
容量300mlのガラス瓶にイオン交換水177g、1.56%塩化カルシウム2水塩溶液10g、水処理用ポリマーの0.02%水溶液3g及び3%重炭酸ナトリウム水溶液10gからなる混合液を調整した。
次に、ガラス瓶を密栓して、加熱処理(65℃、3時間)を行った後、室温まで冷却し、処理液を0.2μメンブランフィルターで濾過した。そして、濾液中のカルシウム濃度(C、単位:mg/L)を測定(JIS K0101に従う。)してから下記式によりスケール抑制率(%)を求めた。
スケール抑制率(%)=(C−B)/(A−B)×100
A:試験前の水溶液に溶解していたカルシウム濃度
B:水処理用ポリカルボン酸を添加せずに行った濾液中のカルシウム濃度
C:水処理用ポリカルボン酸を添加して行った濾液中のカルシウム濃度
尚、イオン交換水180g、1.56%塩化カルシウム2水塩溶液10g及び3%重炭酸ナトリウム水溶液10gからなる混合液を同様に加熱処理した後、カルシウム濃度(B)をブランクとして測定した。
実施例1
窒素雰囲気中で、無水マレイン酸100重量部に、溶剤としてオルトキシレン100重量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(非イオン系)3重量部を添加したものを反応器中で135℃に加熱した。次いでこの原料混合物に、ラジカル重合開始剤としてジ-t-ブチルペルオキサイド35重量部を1.5時間かけて添加した。その後、さらに120〜130℃で2.5時間反応させ、無水マレイン酸重合体を得た。
重合後、110℃でポリマー層をオルトキシレンと分離し、得られたポリマー層を100℃まで冷却してから、水150重量部を添加した後、重合反応液を90〜100℃に昇温させ、0.5時間リフラックスして無水マレイン酸重合体の加水分解を行った。その後、反応液からオルトキシレン層を分離し、下層部より無水マレイン酸重合体の加水分解物を水溶液として回収した。
これに水150重量部を加え、脱溶媒するため、大気圧下、温度100℃で水蒸気蒸留を行った。水蒸気蒸留は、留出液が150重量部に達するまで続けた。脱溶媒処理終了後、無水マレイン酸重合体の加水分解物を51重量%含有し、淡黄色を呈する水溶液275重量部を得た。
得られた無水マレイン酸重合体の加水分解物の重量平均分子量は1.4×1000、残存無水マレイン酸量は5重量%であった。さらに、スケール防止剤としてのスケール抑制率(%)を求めた。その結果、96%という高い値を示した。
実施例2
前記実施例1において、界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートを15重量部用いた以外は実施例1と同様にして反応操作を行ない、無水マレイン酸重合体の加水分解物を52重量%含有し、淡黄色を呈する水溶液288重量部を得た。
得られた無水マレイン酸重合体の加水分解物の重量平均分子量は1.5×1000、残存無水マレイン酸量は0重量%であった。さらに、スケール抑制率(%)は99%という高い値を示した。
実施例3
窒素雰囲気中で無水マレイン酸80重量部とジイソブチレン20重量部をモノマーとして、溶剤としてブチルグリコールアセテート100重量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンモノオレエート(非イオン系)0.5重量部を加えた混合物に、t-ブチルペルオキシベンゾエート10重量部をブチルグリコールアセテート10重量部に溶解したラジカル重合開始剤溶液を撹拌しながら、3時間かけて反応器に導入し、反応混合物の温度を145℃に保った。次いで反応混合物を同じ温度で1時間撹拌し、同量のラジカル重合開始剤溶液を約30分かけて、熱反応混合物中に導入し、さらに145℃で2時間撹拌しながら反応を続けた。
得られた無水マレイン酸・ジイソブチレン共重合体溶液を100℃まで冷却してから、水150重量部を添加した後、重合反応液を90〜100℃に昇温させ、0.5時間リフラックス下に加水分解を行った。その後、反応液を40〜50℃に冷却後、静置分離した。これにより無水マレイン酸・ジイソブチレン共重合体の加水分解物を水溶液として回収した。
これに水150重量部を加え、脱溶媒するため、大気圧下、温度100℃で水蒸気蒸留を行った。水蒸気蒸留は、留出液が150重量部に達するまで続けた。脱溶媒処理終了後、無水マレイン酸・ジイソブチレン共重合体の加水分解物を54重量%含有し、淡黄色を呈する水溶液297重量部を得た。
得られた無水マレイン酸・ジイソブチレン共重合体の加水分解物の重量平均分子量は1.8×1000、残存モノマー量は2重量%であった。さらに、スケール抑制率(%)は90%という高い値を示した。
実施例4
前記実施例3において、界面活性剤としてポリオキシエチレンモノオレエート0.1重量部を加えた以外は実施例3と同様にして反応操作を行ない、無水マレイン酸・ジイソブチレン共重合体の加水分解物を53重量%含有し、淡黄色を呈する水溶液290重量部を得た。
得られた無水マレイン酸・ジイソブチレン共重合体の加水分解物の重量平均分子量は1.7×1000、残存モノマー量は4重量%であった。さらに、スケール抑制率(%)は89%という高い値を示した。
実施例5
窒素雰囲気中でモノマーとして無水マレイン酸95重量部とアクリル酸5重量部に、溶剤としてジオクチルフタレート50重量部及びオルトキシレン50重量部、界面活性剤としてノルマルドデシルベンゼンスルホン酸(陰イオン系)1重量部を添加したものを反応器中で135℃に加熱した。次いでこの原料混合物に、ラジカル重合開始剤としてジ-t-ブチルペルオキサイド35重量部を1.5時間かけて添加した。その後、さらに135℃で2.5時間反応させ、無水マレイン酸・アクリル酸共重合体を得た。
その重合反応液を100℃まで冷却してから、水150重量部を添加した後、90〜100℃に昇温させ、0.5時間リフラックス下加水分解を行った。その後、反応液からジオクチルフタレートを分離し、無水マレイン酸・アクリル酸共重合体の加水分解物の水溶液を回収した。
これに水150重量部を加え、脱溶媒するため、大気圧下、温度100℃で水蒸気蒸留を行った。水蒸気蒸留は、留出液が150重量部に達するまで続けた。脱溶媒処理終了後、無水マレイン酸・アクリル酸共重合体の加水分解物を52重量%含有し、淡黄色を呈する水溶液284重量部を得た。
得られた無水マレイン酸・アクリル酸共重合体の加水分解物の重量平均分子量は1.5×1000、残存モノマー量は4重量%であった。さらに、スケール抑制率(%)は92%という高い値を示した。
比較例1
前記実施例1においてポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(非イオン系界面活性剤)を用いないこと以外は実施例1と同様にして反応操作を行ない、無水マレイン酸重合体の加水分解物を49重量%含有し、淡黄色を呈する水溶液273重量部を得た。
得られた無水マレイン酸重合体の加水分解物の重量平均分子量は1.5×1000、残存無水マレイン酸量は18重量%であった。さらに、スケール抑制率(%)は74%という実施例1に比べ低い値を示した。
比較例2
前記実施例3においてポリオキシエチレンモノオレエート(非イオン系界面活性剤)を用いないこと以外は実施例3と同様にして反応操作を行ない、無水マレイン酸・ジイソブチレン共重合体の加水分解物を52重量%含有し、淡黄色を呈する水溶液288重量部を得た。
得られた無水マレイン酸・ジイソブチレン共重合体の加水分解物の重量平均分子量は2.0×1000、残存モノマー量は8重量%であった。さらに、スケール抑制率(%)は82%という実施例3に比べ低い値を示した。
比較例3
前記実施例5においてノルマルドデシルベンゼンスルホン酸(陰イオン系界面活性剤)を用いないこと以外は実施例5と同様にして操作を行って、無水マレイン酸・アクリル酸共重合体の加水分解物を50重量%含有し、淡黄色を呈する水溶液284重量部を得た。
得られた無水マレイン酸・アクリル酸共重合体の加水分解物の重量平均分子量は1.6×1000、残存モノマー量は8重量%であった。さらに、スケール抑制率(%)は83%という実施例5に比べ低い値を示した。
以上の結果を表1にまとめて示した。
表1より次のことが明らかとなった。
実施例1,2と比較例1との比較、実施例3,4と比較例2との比較、さらに実施例5と比較例5との比較から、界面活性剤を使用することにより、残存モノマー量が低減しており、その結果、スケール抑制能が改善している。
Figure 2006111710
他のポリマーの改質剤、或いは架橋システムや硬化システムの構成原料として好適に用いることができ、その加水分解物をスケール防止剤などとしても適用できる等の広範囲の用途がある無水マレイン酸(共)重合体を、高重合率で製造することができる。

Claims (9)

  1. 無水マレイン酸単独、又は無水マレイン酸と他のビニル化合物との混合物を溶剤存在下にラジカル重合させる無水マレイン酸(共)重合体の製造方法において、溶剤中に界面活性剤を添加して重合することを特徴とする無水マレイン酸(共)重合体の製造方法。
  2. 界面活性剤は、モノマー総重量に対して0.001〜15重量%添加することを特徴とする請求項1に記載の無水マレイン酸(共)重合体の製造方法。
  3. 溶剤は、SP値が7.0〜11.0(cal/cm31/2であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無水マレイン酸(共)重合体の製造方法。
  4. 他のビニル化合物は、ビニルエステル、ビニルエーテル、スチレン、置換スチレン、エチレン、イソブチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、無水イタコン酸、イタコン酸エステル、マレイン酸エステル及びフマル酸エステルからなる群から選ばれた1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の無水マレイン酸(共)重合体の製造方法。
  5. 請求項1〜4の何れか一項に記載の無水マレイン酸(共)重合体の製造方法により得られることを特徴とする無水マレイン酸(共)重合体。
  6. 重量平均分子量が600〜50000であることを特徴とする請求項5に記載の無水マレイン酸(共)重合体。
  7. 重合率が95%以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の無水マレイン酸(共)重合体。
  8. 未反応無水マレイン酸の含有量が5重量%以下であることを特徴とする請求項5〜7の何れか一項に記載の無水マレイン酸(共)重合体。
  9. 請求項5〜8の何れか一項に記載の無水マレイン酸(共)重合体を、水乃至アルカリ水溶液で加水分解せしめることにより得られることを特徴とする無水マレイン酸(共)重合体の加水分解物。
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