JP2006090394A - ロッカーアーム用転がり軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】 長寿命化を図ったロッカーアーム用転がり軸受を提供する。
【解決手段】 本発明のロッカーアーム用転がり軸受50は、エンジンのカム6と転がり接触するローラ4と、ローラ4の内側に位置し、ロッカーアーム1に固定されたローラ軸2と、ローラ4とローラ軸2との間に介在する複数のころ3とを備えたロッカーアーム用転がり軸受において、ローラ4、ローラ軸2、およびころ3のうち少なくとも1つの部材が窒素富化層を有し、窒素富化層を有する部材のオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超える範囲にあり、かつ前記窒素富化層を有する部材の球状化炭化物の面積率が10%以上である。
【選択図】 図1

Description

本発明は、自動車用エンジンのインテイクバルブやエグゾーストバルブの開閉に用いられるロッカーアーム用転がり軸受に関し、より特定的には、長寿命化を図ったロッカーアーム用転がり軸受に関するものである。
最近の転がり軸受の中には、たとえばエンジンのインテイクバルブやエグゾーストバルブの開閉に用いられるロッカーアームに使用する軸受のように、総ころタイプでありながら、高速、高荷重用途で使用される軸受が多い。特に保持器のない総ころタイプの軸受では、ころ同士の干渉が生じたり、スムーズにころ位置が制御されなかったりすることで、ころのスキューが起こりやすい。また、潤滑油が軸受内部にうまく供給されないと、潤滑条件が悪い事態が生じやすい。この結果、滑り発熱や局部的な面圧上昇が起こり、計算上は大きな負荷容量を持つにもかかわらず、表面損傷(ピーリング、スミアリング、表面起点型剥離)や内部起点型剥離が生じやすかった。
エンジンのインテイクバルブやエグゾーストバルブの開閉に用いられるロッカーアームに使用する軸受のように、その外輪の外径がカムと転がり接触する用途では、従来は、主に外輪の外径の改良を目的とした改良が多かった。たとえばショットピーニングなどの加工による圧縮の残留応力、高濃度浸炭窒化による高硬度(加工効果)による長寿命化などは主に相手カムと転動接触する外輪外径の改良のために行なわれてきた。
これまでの公知技術では、次の対応をとってきた。
(1)転動疲労寿命向上のため、軸受部品の軌道輪にショットピーニングを適用し、強化層、残留オーステナイト含有層、焼入れ硬化層を表面から内部に順に設けた軸受部品(特許文献1)。
(2)マルテンサイト組織中の炭化物の大きさ、面積率、残留オーステナイト量および硬さを、ショットピーニングすることにより効率的に調整する技術(特許文献2)。
(3)転動疲労寿命向上のため、ショットピーニングによる残留圧縮応力ピーク高さおよび分布を、使用時に作用する最大剪断応力および作用深さに一致させる技術(特許文献3)。
(4)浸炭軸受において、長寿命化のためにショットピーニングを施し、最終表面仕上げ加工を施した後の表面において、残留圧縮応力σ(MPa)と残留オーステナイトγ(%)の組合せを、0.001σ+0.3γ≧1.0を満足するようにする制御方法。
(5)カムフォロア外輪の外径の硬度を相手カムと同等の硬度とし、かつ外輪の内径の硬度を外径の硬度よりも高くしたカムフォロア装置(特許文献4)。
(6)対向する他の部品と転がり接触または転がりすべり接触する部品において、表面から0〜50μmの深さの表層部の最大圧縮応力を50〜110kgf/mm2とし、硬度をHV830〜960とし、残留オーステナイトを7%以上とし、表面粗さの平均波長を25μm以下とし、これらをショットピーニングにより達成したもの(特許文献5)。
内輪に相当するローラ軸、ころ、また軸受全体の転がり寿命を延ばすための改良は少ないものの、次に示すように材質面からは浸炭窒化による耐熱性やミクロ組織安定性の付与、高硬度化などによって軸受の長寿命化を図った例がある。
(d1)エンジンの動弁機構用カムフォロワ装置用軸受において、エンジンの定格回転数での軸受の計算寿命を1000時間以上とするもの(特許文献6)。
(d2)炭化物の比率:10〜25%、残留オーステナイトの初期値に対する分解率:1/10〜3/10、端面硬度:HV830〜960、表面粗さの平均波長:25μm以下としたカムフォロワ装置用軸受軸を実現するために軸受鋼に浸炭窒化とハードショットピーニングを施したもの(特許文献7)。
(d3)軸の耐摩耗性向上のため、軸に高分子化合物などの固体潤滑膜を形成したカムフォロワ軸(特許文献8)。
(d4)工具鋼などにより形成し、焼戻し温度よりも低い温度でイオン窒化やイオンプレーティングで高硬度にしたカムフォロワ軸(特許文献9)。
(d5)軸に対する曲げ応力を150MPa以下にしたエンジンの動弁機構用カムフォロワ装置用軸受(特許文献10)。
(d6)軸受構成部品の転走面に潤滑油保持性に優れたリン酸塩皮膜を付けたエンジンの動弁機構用カムフォロワ(特許文献11)。
(d7)軸のころ転動領域にクラウニングを付けたエンジンの動弁機構用カムフォロワ(特許文献12)。
(d8)軸の転走面表層の炭素濃度を1.2%〜1.7%Cにした高濃度浸炭処理、または浸炭窒化処理を行ない、内部硬度はHV300にした浸炭軸(特許文献13)。
ロッカーアームに付随する別の問題として、ローラ軸両端部にかしめ成形を施してローラ支持部材にかしめる場合がある。この場合、ローラ軸の転走面は高硬度を必要とするが、端部はかしめ成形が可能となるように軟質である必要がある。また、かしめ固定した後、使用中に緩みを生じないほどの強度(硬度)が必要である。ローラロッカーのローラ軸両端部に対してかしめ成形を可能にするものでは、次の開示がなされている。
(d9)ローラ軸の外周面を均一に高周波焼入れし、焼戻しをした後、両端部のみ高周波焼なましをして、両端部を軟化する方法(特許文献14)。
特開平2−168022号公報 特開2001−65576号公報 特開平3−199716号公報 実開平3−119508号公報 特許第3125434号公報 特開2000−38907号公報 特開平10−47334号公報 特開平10−103339号公報 特開平10−110720号公報 特開2000−38906号公報 特開2002−31212号公報 実開昭63−185917号公報 特開2002−194438号公報 特開平5−179350号公報
今後、エンジンのインテイクバルブやエグゾーストバルブの開閉に用いられるロッカーアーム用転がり軸受においても、通常の軸受同様、使用時の高速化と大荷重化、潤滑油の低粘度化が進むと予想される。このような条件で使用される軸受の寿命を支配する要因は、通常の荷重依存型の転動疲れ寿命の他に、滑りや油膜切れが原因で生じる金属接触による表面損傷寿命がある。ロッカーアーム用転がり軸受の長寿命化のためにはこれらの寿命を長寿命化する必要があるが、両方の寿命をともに大幅に延長させる技術はこれまでに確立されていなかった。また、総ころ軸受特有のころの干渉やスキューによる短寿命も発生する問題がある。
これまでの公知の技術は、高硬度、高い圧縮応力により転動寿命を向上させるものや、相手部材との転動面を改良するものが主体であった。これらを実際に軸受として評価すると、外輪のような曲げが作用する用途の疲労強度や外輪外径面の耐摩耗性については効果があり、良好な結果が得られるものの、軸受の内輪に相当する軸やころの転動疲労寿命の長寿命化には、この技術だけでは必ずしも大きな効果を得ることができなかった。
したがって、本発明の目的は、長寿命化を図ったロッカーアーム用転がり軸受を提供することである。
本発明のロッカーアーム用転がり軸受は、エンジンのカム軸と転がり接触する外輪と、外輪の内側に位置し、ロッカーアームに固定された内輪と、外輪と内輪との間に介在する複数の転動体とを備えたロッカーアーム用転がり軸受において、外輪、内輪、および転動体のうち少なくとも1つの部材が窒素富化層を有し、窒素富化層を有する部材のオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超える範囲にあり、かつ窒素富化層を有する部材の球状化炭化物の面積率が10%以上である。
粒度番号が10番を超えるほど上記の部材のオーステナイト粒を微細化することにより、転動疲労寿命を大幅に改良することができる。オーステナイト粒径の粒度番号が10番以下では、転動疲労寿命は大きく改善されないので、10番を超える範囲とする。通常、11番以上とするのがよい。また、平均結晶粒径を6μm以下としてもよい。オーステナイト粒径は細かいほど望ましいが、通常、13番を超える粒度番号を得ることは難しい。
上記のオーステナイト結晶粒度は、JISに規定されている通常の方法で求めてもよいし、上記結晶粒度番号に対応する平均粒径を切片法などにより求めて換算してもよい。上記のオーステナイト結晶粒度番号は、浸炭窒化層において満たされればよい。しかし、通常の場合、浸炭窒化層より内側の鋼材本体においても、上記のオーステナイト結晶粒微細化の基準は満たされる。
なお、オーステナイト結晶粒とは、焼入加熱中に相変態したオーステナイトの結晶粒のことであり、これは、冷却によりマルテンサイトに変態した後も、過去の履歴として残存しているものをいう。また、本明細書中において「内輪」とは、中実の軸および中空の軸を含む意味である。
また、窒素富化層を有する部材の球状化炭化物の面積率を10%以上とすることにより、転動疲労寿命を大幅に改良することができる。球状化炭化物の面積率が10%未満では転動疲労寿命は大きく改善されないので、10%以上の範囲とする。球状化炭化物の面積率は大きいほど望ましいが、通常、面積率が25%を超えると炭化物の租大化・凝集により材料の靭性が劣化するので、望ましくは10%以上25%以下の範囲とする。
球状化炭化物の面積率は、研削後の転動面の表層50μmにおける値である。ピクリン酸アルコール溶液(ピクラル)を用いて腐食した後、光学顕微鏡でたとえば400倍の倍率で観察することができる。ここで、簡易的に「球状化炭化物」と表わしているが、「球状化炭化物」とは、炭化物と窒化物とを合わせたものである。
(c1)上記のロッカーアームはその一方の端部と他方の端部との間に位置する回転軸に回転自在に取り付けられ、一方の端部にエンジンの開閉用バルブの端部が当接し、ロッカーアームは他方の端部に二股状の内輪支持部を有し、その二股状の内輪支持部に本発明のロッカーアーム用転がり軸受の内輪が固定されていてもよい。
また、(c2)ロッカーアームの一方の端部と他方の端部との間にロッカーアーム用転がり軸受が設けられ、ロッカーアームの2つの側壁の間にわたる内輪孔に内輪が固定され、ロッカーアームの一方の端部にエンジンの開閉用バルブの端部が当接し、ロッカーアームの他方の端部にピボットが当接していてもよい。
さらに、(c3)上記のロッカーアームは、ロッカーアーム本体と、カム軸からの応力を伝達する連動棒とを有し、ロッカーアーム本体はロッカーアーム本体の一方の端部と他方の端部との間に位置する回転軸に回転自在に取り付けられ、ロッカーアーム本体の一方の端部にエンジンの開閉用バルブの端部が当接し、ロッカーアーム本体の一方の端部に連動棒の一方の端部が当接し、連動棒の他方の端部に本発明の転がり軸受の内輪が固定されていてもよい。
上記の(c1)、(c2)、(c3)のロッカーアームは、カムからの駆動力をエンジンのバルブに伝える点で共通するが、その構造が異なっており、異なるエンジンの型式にそれぞれ対応できるようになっている。
また、ロッカーアーム用転がり軸受が総ころ形式のニードル軸受であってもよい。
本発明のロッカーアーム用転がり軸受は、粒度番号で10番を超えるようにオーステナイト粒を微細化し、かつ、球状化炭化物の面積率が10%以上であるため、転動疲労寿命が大きく改善され、優れた耐割れ強度や耐経年寸法変化を得ることができる。
以下、本発明の一実施の形態について、図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施の形態におけるロッカーアーム用転がり軸受の使用状態を示す概略正面図であり、図2は図1のII−II線に沿う断面図である。図1および図2を参照して、ロッカーアーム1は、中央部において軸受メタルなどを介してロッカーアーム軸5に回転自在に支持されている。
このロッカーアーム1の一方の端部1bには、アジャストねじ7が螺挿されている。このアジャストねじ7はロックナット8により固定され、その下端において内燃機関の給気弁もしくは排気弁のバルブ9の上端部9aと当接している。このバルブ9はばね10の弾発力で付勢されている。
ロッカーアーム1は、他方の端部1aに二股状に形成された内輪支持部14を一体に有している。この二股状の内輪支持部14に、内輪に相当するローラ軸2の両端が圧入もしくは止め輪により固定されている。このローラ軸2の外周面中央部には、転動体としてのころ3を複数個介して回転自在に、外輪を構成するローラ4が支持されている。すなわち、ローラ軸2とローラ4との間に複数のころ3が介在している。ころ3の軸線方向は、ローラ軸2の軸線に平行に配置されている。このローラ4の外周面は、ばね10の付勢力によりカム軸に設けられたカム6のカム面に当接されている。言い換えれば、カム6とローラ4とは転がり接触している。
カム6が回転すると、カム6に押されてロッカーアーム1が上下方向に振動し、この振動がロッカーアーム軸5を支点としてバルブ9に伝わり、バルブ9が開閉動作を行なう。本実施の形態のロッカーアーム用転がり軸受50は、保持器が用いられない総ころ軸受であり、ローラ軸2と、複数のころ3と、ローラ4とにより構成されている。ロッカーアーム用転がり軸受50は、ロッカーアーム1とカム6との間の摩擦を低減し、耐磨耗性を向上させる役割を果たしている。ロッカーアーム用転がり軸受50は、カム6と接触しながら回転するものであるため、ローラ4にはカム6の押付け力と衝撃力とが作用する。
図3は、本発明の他の実施の形態におけるロッカーアーム用転がり軸受の使用状態を示す概略正面図である。図3を参照して、ロッカーアーム1の一方の端部1bと他方の端部1aとの間にロッカーアーム用転がり軸受50が設けられている。また、ロッカーアーム1の2つの側壁1cの間にわたって、内輪孔としてのローラ孔(図示せず)が形成されている。そして、このローラ孔にローラ軸2が固定されている。さらに、ロッカーアーム1の一方の端部1bにはエンジンの開閉用バルブ9の上端部9aが当接しており、ロッカーアーム1の他方の端部1aにはピボット孔15が設けられている。ピボット孔15は、図示しないピボットと当接する。ピボット孔15を設けたロッカーアーム1は、ピボットの周り所定の向きにばね10によって付勢されている。カム6から伝達される駆動力をローラ4で受けて、ばね10の付勢力に抗してバルブ9を動かす。
図4は、本発明のさらに別の実施の形態におけるロッカーアーム用転がり軸受の使用状態を示す概略正面図である。図5は、図4のロッカーアーム用転がり軸受を含む部分を拡大した図である。
図4および図5を参照して、ロッカーアーム1は、ロッカーアーム本体11と、カム6からの応力を伝達する連動棒16とを有している。ロッカーアーム本体11の一方の端部11bと他方の端部11aとの間、すなわちロッカーアーム本体11の中央部にロッカーアーム軸5が配置されており、その周りにロッカーアーム本体11が回動する。ロッカーアーム本体11の一方の端部11bにバルブ9の上端部9aが当接しており、バルブ9はばね10の弾発力で付勢されている。また、ロッカーアーム本体11の他方の端部11aに連動棒16の上端部16bが当接している。アジャストねじ7はロッカーアーム本体11と連動棒16との当接位置を調節する機能を有する。連動棒16の下端部に位置する中空の軸受取付部16aに、取付部材17によりロッカーアーム用転がり軸受50のローラ軸2が取り付けられている。カム6はこのロッカーアーム用転がり軸受50のローラ4に当接して駆動力を連動棒16に伝達する。
なお、図1〜図5において、一方と他方との間には特に区別はなく、説明の順序で早く説明する端部を一方の端部とする意味しかない。
上記ロッカーアーム用転がり軸受50を構成する部材のうち、ころ3、ローラ軸2および外輪のローラ4のうち少なくとも1つの部材は、これから説明する低温2次焼入れ法の熱処理を施されることにより、オーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超える範囲とされ、かつ球状化炭化物の面積率が10%以上とされている。
次に、これら転がり軸受の外輪(ローラ)、内輪(ローラ軸)および転動体の少なくとも1つの軸受部品に行なう浸炭窒化処理を含む熱処理について説明する。図6は、本発明の一実施の形態における熱処理方法を説明する図である。また、図7は、本発明の一実施の形態における熱処理方法の変形例を説明する図である。図6は1次焼入れおよび2次焼入れを行なう方法を示す熱処理パターンであり、図7は焼入れ途中で材料をA1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンである。どちらも本発明の実施の態様例である。これらの図において、処理T1では鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T2において、処理T1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。
上記の熱処理を普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上述したように、上記の熱処理方法によれば、オーステナイト結晶粒の粒径を従来の2分の1以下となるミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労特性が長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
図8は軸受部品のミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。図8(a)は本発明例の軸受部品であり、図8(b)は従来の軸受部品である。すなわち、上記図6に示す熱処理パターンを適用した軸受鋼のオーステナイト結晶粒度を図8(a)に示す。また、比較のため、従来の熱処理方法による軸受鋼のオーステナイト結晶粒度を図8(b)に示す。また、図9(a)および図9(b)は、上記図8(a)および図8(b)を図解したオーステナイト結晶粒界を示す図である。これらオーステナイト結晶粒度を示す組織より、従来のオーステナイト粒径はJIS規格の粒度番号で10番以下の番号であり、また本発明による熱処理方法によれば12番の細粒を得ることができる。また、図8(a)の平均粒径は、切片法で測定した結果、5.6μmであった。
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
JIS規格SUJ2を用いて、転動疲労試験用のロッカーアーム用転がり軸受を製作した。軸受はロッカーアームに使用する総ころタイプのニードル軸受である。内輪は、外径φ14.64mm×幅L17.3mmであり、外輪は内径φ18.64mm×外径φ24mm×幅L6.9mmである。ころは外径φ2mm×長さL6.8mmであり、26本のころを用いた。また、保持器を用いない総ころタイプの構成とした。この軸受の基本動定格荷重は8.6kN、基本静定格荷重は12.9kNである。
各試験軸受の製造履歴は次の通りである。
試験軸受No.1〜No.3(本発明実施例):浸炭窒化処理温度850℃、保持時間150分間の条件で浸炭窒化処理を行なった。浸炭窒化処理中は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスの雰囲気とした。その際、試験軸受No.1〜No.3の各々で、RXガスとアンモニアガスとの混合比を変更して浸炭窒化処理を行った。その後、図6に示す熱処理パターンに従って、浸炭窒化処理温度850℃から一次焼入れを行ない、次いで浸炭窒化処理温度より低い温度800℃で20分間加熱して二次焼入を行ない、次いで、180℃で90分間焼戻を行なった。
試験軸受No.4:標準熱処理を行なった。すなわち、RXガス雰囲気中で、加熱温度840℃、保持時間20分で加熱した後、焼入れを行ない、次いで180℃で90分間焼戻を行なった。
試験軸受No.5,6:浸炭窒化処理温度850℃、保持時間150分間の条件で浸炭窒化処理を行なった。浸炭窒化処理中は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスの雰囲気とした。その際、試験軸受No.5,No.6の各々で、RXガスとアンモニアガスとの混合比を変更して浸炭窒化処理を行なった。その後、850℃から焼入れを行ない、次いで180℃で90分間焼戻を行なった。
以上の製造方法で製作した試験軸受No1〜No.6の内輪の材質調査結果および機能評価試験結果を表1に示す。
Figure 2006090394
次に材質調査方法及び、機能評価試験方法について説明する。
(1)オーステナイト結晶粒度:オーステナイト結晶粒度の測定は、JIS G 0551の鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法に基づいて行った。
(2)残留オーステナイト量:残留オーステナイト量の測定は、X線回折によるマルテンサイトα(211)と残留オーステナイトγ(220)の回折強度の比較で行った。残留オーステナイト量としては、研削後の転動面の表層50μmにおける値を採用した。
(3)窒素含有量:窒素含有量の測定は、EPMAを用いて行った。窒素含有量は研削後の転動面の表層50μmにおける値を採用した。
(4)表面硬さ:表面硬さの測定は、ビッカース硬度計(1kgf)を用いて行った。
(5)球状化炭化物の面積率:球状化炭化物の面積率は、ピクリン酸アルコール溶液(ピクラル)を用い腐食した後、光学顕微鏡(400倍)で観察することにより測定した。球状化炭化物の面積率は、研削後の転動面の表層50μmにおける値を採用した。
(6)転動疲労寿命試験:転動疲労寿命試験装置を図10に、試験条件を表2に示す。この試験装置は外輪回転の試験装置である。図10を参照して、試験機に組み込まれたローラ軸52とローラ54との間に複数個の針状ころ53を転動可能に配置した構成のものを用い、このローラ54を部材55,56によりラジアル荷重をかけながら所定の速度で回転させることにより転動疲労試験を行った。
Figure 2006090394
(7)静的割れ強度試験:試験軸受の外輪を用いて、単体にてアムスラー試験機で荷重をかけ静的割れ強度試験を行った。
(8)割れ疲労強度試験:試験軸受の外輪を用いて、表3に示す試験条件で割れ疲労強度試験を行った。
Figure 2006090394
なお、(6)転動疲労寿命試験、(7)静的割れ強度試験、および(8)割れ疲労強度試験結果は、標準熱処理品No.4を1として、各試験軸受の結果を比率で表した。
次に、表1に示した試験結果を説明する。
(1)オーステナイト結晶粒度:本発明品No.1〜No.3は結晶粒度番号が11〜12と顕著に微細化されている。標準熱処理品及び従来の浸炭窒化処理品No.4〜No.6は、結晶粒度番号が8〜9と本発明品より粗大なオーステナイト結晶粒となっている。
(2)残留オーステナイト量:本発明品No.1〜No.3は12〜24%であり、適度なオーステナイトが存在する。標準熱処理品No.4は8%であり、発明品より少ない。また、従来の浸炭窒化処理品No.5,No.6は29〜36%であり、発明品より多い。発明品のオーステナイト量は標準熱処理品と従来の浸炭窒化処理品の間の残留オーステナイト量である。
(3)窒素含有量:本発明品No.1〜No.3は0.12〜0.62%である。標準熱処理品No.4は浸炭窒化処理を行っていないため窒素含有量は0%であった。また、従来の浸炭窒化処理品No.5,No.6は0.31〜0.70%であった。発明品の窒素含有量は、従来の浸炭窒化処理品と比べ、若干低い傾向であった。これは、発明品が従来の浸炭窒化処理後に浸炭窒化処理温度より低い温度800℃で2次焼入れを行うためだと考える。
(4)表面硬さ:本発明品No.1〜No.3はHV730〜780である。標準熱処理品No.4はHV740である。また、従来の浸炭窒化処理品No.5,No.6はHV760,HV650であり、No.6に関しては、残留オーステナイト量が多くなりすぎて硬度が出なくなっている。
(5)球状化炭化物の面積率:本発明品No.1〜No.3は、11.4〜13.6%である。標準熱処理品及び従来の浸炭窒化処理品No.4〜No.6は7.9〜9.6%である。発明品は標準熱処理品及び従来の浸炭窒化処理品と比べると、球状化炭化物の面積率が多く、微細化されており、量も多い。これは、発明品が従来の浸炭窒化処理後に浸炭窒化処理温度より低い温度800℃で2次焼入れを行なうためだと考える。
(6)転動疲労寿命試験:本発明品No.1〜No.3は、標準熱処理品No.4と比べ、3倍以上の転動疲労寿命を有しており、浸炭窒化処理品No.5,No.6と比べても1.5倍以上の転動疲労寿命を有している。また、浸炭窒化処理品No.5,No.6は標準熱処理品No.4と比べ2倍弱の転動疲労寿命を有している。
(7)静的割れ強度試験:本発明品No.1〜No.3は、標準熱処理品No.4と比べ、同等もしくはやや改善している。また、浸炭窒化処理品No.5,No.6は標準熱処理品No.4と比べ静的割れ強度が低下している。これは、表層部の窒素富化層とオーステナイト結晶粒の粗大化に原因であると考える。
(8)割れ疲労強度試験:本発明品No.1〜No.3は、標準熱処理品No.4と比べ、20%以上改善している。また、浸炭窒化処理品No.5,No.6も標準熱処理品No.4と比べ20%以上改善している。これは、表面への窒素の浸入により、表層部に圧縮残留応力が形成したことが原因であると考える。
上記をまとめると、本発明品本発明品No.1〜No.3は、表層部に窒素富化層を有し、オーステナイト結晶が粒度番号で11番以上に微細化され、残留オーステナイト量が適度に有り、適正な表面硬さを有し、球状化炭化物の面積率が多いため、通常の荷重依存型の転動疲労寿命、割れ疲労強度が改善する。
(実施例2)
JIS規格SUJ2を用いて、ピーリング、スミアリング試験片を製作した。試験片は外径φ40mm×幅L12の寸法である。各試験軸受の製造履歴は次の通りである。
試験軸受No.1(本発明実施例):浸炭窒化処理温度850℃、保持時間150分間の条件で浸炭窒化処理を行なった。浸炭窒化処理中は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスの雰囲気とした。その後、図6に示す熱処理パターンに従って、浸炭窒化処理温度850℃から一次焼入れを行ない、次いで浸炭窒化処理温度より低い温度800℃で20分間加熱して二次焼入を行ない、次いで、180℃で90分間焼戻を行なった。
試験軸受No.2:標準熱処理を行った。すなわち、RXガス雰囲気中で、加熱温度840℃、保持時間20分で加熱した後、焼入れを行ない、次いで180℃で90分間焼戻を行なった。
試験軸受No.3:浸炭窒化処理温度850℃、保持時間150分間の条件で浸炭窒化処理を行なった。浸炭窒化処理中は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスの雰囲気とした。その後、850℃から焼入れを行ない、次いで180℃で90分間焼戻を行なった。
以上の製造方法で製作した試験片No.1〜No.3の材質調査結果、ピーリング試験、およびスミアリング試験結果を表4に示す。
Figure 2006090394
次に、ピーリング試験方法、およびスミアリング試験方法について説明する。なお、材質調査結果については実施例1と同様の方法で行なった。
(1)ピーリング試験:表5に示す試験条件で、面粗さの粗いJIS規格SUJ2の標準熱処理品を相手試験片として、試験片と相手試験片を転動接触させた場合に試験片上に発生するピーリング(微細な剥離の集合体)の面積率を測定し、ピーリング強度とした。ピーリング強度比は標準熱処理品No.2を1として各試験軸受の結果を比率の逆数で表した。
Figure 2006090394
(2)スミアリング試験:表6に示す試験条件で、試験片も相手試験片も同一材質の組合せで、試験片同士を転動接触させ、試験片のみ回転数を一定の割合で増速させた場合に、発生する音がある値より大きくなった瞬間の試験片同士の相対回転速度をスミアリング強度とした。スミアリング強度比は標準熱処理品No.2を1として各試験軸受の結果を比率で表した。
Figure 2006090394
次に、表4に示した試験結果を説明する。
(1)ピーリング試験:本発明品No.1は、標準熱処理品No.2と比べ、1.5倍以上のピーリング強度を有しており、浸炭窒化処理品No.3と比べて同じかやや改善している。これは、表層部に窒素富化層を有し、オーステナイト結晶が粒度番号で11番以上に微細化され、残留オーステナイト量が適度に有り、適正な表面硬さを有し、球状化炭化物の面積率が多いことが、靭性を高め、亀裂の発生および進展に対する抵抗力を高めたと考える。
(2)スミアリング試験:本発明品No.1は、標準熱処理品No.2と比べ、1.5倍以上のピーリング強度を有しており、浸炭窒化処理品No.3と比べて同じかやや改善している。これは、表層部に窒素富化層を有し、オーステナイト結晶が粒度番号で11番以上に微細化され、残留オーステナイト量が適度に有り、適正な表面硬さを有し、球状化炭化物の面積率が多いことが、大きなすべり条件での表層の塑性流動を抑え、耐焼き付き性を高めたと考える。
上記をまとめると、本発明品No.1はピーリング試験,スミアリング試験ともに従来の軸受材質よりも良好である。また、潤滑条件が悪く、ころ同士の干渉が生じたり、スムーズにころ位置が制御されず、ころのスキューが発生することによる表面損傷寿命も改善する。
本発明品は、表層部に窒素富化層を有し、オーステナイト結晶が粒度番号で11番以上に微細化され、残留オーステナイト量が適度に有り、適正な表面硬さを有し、球状化炭化物の面積率が多いため、亀裂の発生、進展に対する抵抗力が非常に大きく、すべりによる表面発熱や接線力による表面亀裂の発生を抑えることができる。
(実施例3)
JIS規格SUJ2材(1.0重量%C−0.25重量%Si−0.4重量%Mn−1.5重量%Cr)を用いて、(1)水素量の測定、(2)結晶粒度の測定、(3)シャルピー衝撃試験、(4)破壊応力値の測定、(5)転動疲労試験、の各試験を行なった。表7にその結果を示す。
Figure 2006090394
各試料の製造履歴は次のとおりである。
試料A〜D(本発明例):浸炭窒化処理850℃、保持時間150分間。雰囲気は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスとした。図6に示す熱処理パターンにおいて、浸炭窒化処理温度850℃ から一次焼入れをおこない、次いで浸炭窒化処理温度より低い温度域780℃〜830℃に加熱して二次焼入れを行なった。ただし、二次焼入れ温度780℃の試料Aは焼入れ不足のため試験の対象から外した。
試料E,F(比較例):浸炭窒化処理は、本発明例A〜Dと同じ履歴で行ない、二次焼入れ温度を浸炭窒化処理温度850℃以上の850℃〜870℃で行なった。
従来浸炭窒化処理品(比較例):浸炭窒化処理850℃、保持時間150分間。雰囲気は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスとした。浸炭窒化処理温度からそのまま焼入れを行ない、二次焼入れは行なわなかった。
普通焼入れ品(比較例):浸炭窒化処理を行なわずに、850℃に加熱して焼入れした。二次焼入れは行なわなかった。
次に、試験方法について説明する。
(1)水素量の測定
水素量は、LECO社製DH−103型水素分析装置により、鋼中の非拡散性水素量を分析した。拡散性水素量は測定してない。このLECO社製DH−103型水素分析装置の仕様を下記に示す。
分析範囲:0.01〜50.00ppm
分析精度:±0.1ppmまたは±3%H(いずれか大なるほう)
分析感度:0.01ppm
検出方式:熱伝導度法
試料重量サイズ:10mg〜35mg(最大:直径12mm×長さ100mm)
加熱炉温度範囲:50℃〜1100℃
試薬:アンハイドロン Mg(ClO42、アスカライト NaOH
キャリアガス:窒素ガス、ガスドージングガス:水素ガス、いずれのガスも純度99.99%以上、圧力40psi(2.8kgf/cm2)である。
測定手順の概要は以下のとおりである。専用のサンプラーで採取した試料をサンプラーごと上記の水素分析装置に挿入する。内部の拡散性水素は窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導かれる。この拡散性水素は本実施例では測定しない。次に、サンプラーから試料を取り出し、抵抗加熱炉内で加熱し、非拡散性水素を窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導く。熱伝導度検出器において熱伝導度を測定することによって非拡散性水素量を知ることができる。
(2)結晶粒度の測定
結晶粒度の測定は、JIS G 0551の鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法に基づいて行なった。
(3)シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験は、JIS Z 2242の金属材料のシャルピー衝撃試験方法に基づいて行なった。試験片は、JIS Z 2202に示されたUノッチ試験片(JIS3号試験片)を用いた。
(4)破壊応力値の測定
図11は、静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)の試験片を示す図である。図中のP方向に荷重を負荷して破壊されるまでの荷重を測定する。その後、得られた破壊荷重を、下記に示す曲がり梁の応力計算式により応力値に換算する。なお、試験片は図11に示す試験片に限られず、他の形状の試験片を用いてもよい。
図11の試験片の凸表面における繊維応力をσ1、凹表面における繊維応力をσ2とすると、σ1およびσ2は下記の式によって求められる(機械工学便覧A4編材料力学A4−40)。ここで、Nは円環状試験片の軸を含む断面の軸力、Aは横断面積、e1は外半径、e2は内半径を表す。また、κは曲がり梁の断面係数である。
σ1=(N/A)+{M/(Aρo)}[1+e1/{κ(ρo+e1)}]
σ2=(N/A)+{M/(Aρo)}[1−e2/{κ(ρo−e2)}]
κ=−(1/A)∫A{η/(ρo+η)}dA
(5)転動疲労寿命
転動疲労寿命試験の試験条件を表8に示す。また、図12は、転動疲労寿命試験機の概略図である。図12(a)は正面図であり、図12(b)は側面図である。図12(a)および(b)を参照して、転動疲労寿命試験片121は、駆動ロール111によって駆動され、ボール113と接触して回転している。ボール113は、3/4インチのボールであり、案内ロール112にガイドされて、転動疲労寿命試験片121との間で高い面圧を及ぼし合いながら転動する。
表7に示した試験結果を説明するならば次のとおりである。
(1)水素量
浸炭窒化処理したままの従来浸炭窒化処理品は、0.72ppmと非常に高い値となっている。これは、浸炭窒化処理の雰囲気に含まれるアンモニア(NH3)が分解して水素が鋼中に侵入したためと考えられる。これに対して、試料B〜Dは、水素量は0.37〜0.40ppmと半分近くにまで減少している。この水素量は普通焼入れ品と同じレベルである。
上記の水素量の低減により、水素の固溶に起因する鋼の脆化を軽減することができる。すなわち、水素量の低減により、本発明例の試料B〜Dのシャルピー衝撃値は大きく改善されている。
(2)結晶粒度
結晶粒度は2次焼入れ温度が、浸炭窒化処理時の焼入れ(1次焼入れ)の温度より低い場合、すなわち試料B〜Dの場合、オーステナイト粒は、結晶粒度番号11〜12と顕著に微細化されている。試料EおよびFならびに従来浸炭窒化処理品および普通焼入品のオーステナイト粒は、結晶粒度番号10であり、本発明例の試料B〜Dより粗大な結晶粒となっている。
(3)シャルピー衝撃試験
表7によれば、従来浸炭窒化処理品のシャルピー衝撃値は5.33J/cm2であるのに比して、本発明例の試料B〜Dのシャルピー衝撃値は6.30〜6.65J/cm2と高い値が得られている。この中でも、2次焼入れ温度が低いほうがシャルピー衝撃値が高くなる傾向を示す。普通焼入品のシャルピー衝撃値は6.70J/cm2と高い。
(4)破壊応力値の測定
上記破壊応力値は、耐割れ強度に相当する。表7によれば、従来浸炭窒化処理品は2330MPaの破壊応力値となっている。これに比して、試料B〜Dの破壊応力値は2650〜2840MPaと改善された値が得られる。普通焼入品の破壊応力値は2770MPaであり、試料B〜Dの改良された耐割れ強度は、オーステナイト結晶粒の微細化と並んで、水素含有率の低減による効果が大きいと推定される。
(5)転動疲労試験
表7によれば、普通焼入品は窒素富化層を表層部に有しないことを反映して、転動疲労寿命L10は最も低い。これに比して従来浸炭窒化処理品の転動疲労寿命は3.1倍となる。試料B〜Dの転動疲労寿命は従来浸炭窒化処理品より大幅に向上する。本発明の試料E,Fは、従来浸炭窒化処理品とほぼ同等である。
上記をまとめると、本発明例の試料B〜Dは、水素含有率が低下し、オーステナイト結晶粒度が11番以上に微細化され、シャルピー衝撃値、耐割れ強度および転動疲労寿命も改善される。
(実施例4)
次に実施例4について説明する。下記のX材、Y材およびZ材について、一連の試験を行なった。熱処理用素材には、JIS規格SUJ2材(1.0重量%C−0.25重量%Si−0.4重量%Mn−1.5重量%Cr)を用い、X材〜Z材に共通とした。X材〜Z材の製造履歴は次のとおりである。
(X材:比較例):普通焼入れのみ(浸炭窒化処理せず)。
(Y材:比較例):浸炭窒化処理後にそのまま焼き入れる(従来の浸炭窒化焼入れ)。浸炭窒化処理温度845℃、保持時間150分間。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。
(Z材:本発明例):図6の熱処理パターンを施した軸受鋼。浸炭窒化処理温度845℃、保持時間150分間。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。
(1)転動疲労寿命
転動疲労寿命試験の試験条件および試験装置は、上述したように、表8および図12に示すとおりである。この転動疲労寿命試験結果を表9に示す。
Figure 2006090394
Figure 2006090394
表9によれば、比較例のY材は、同じく比較例で普通焼入れのみを施したX材のL10寿命(試験片10個中1個が破損する寿命)の3.1倍を示し、浸炭窒化処理による長寿命化の効果が認められる。これに対して、本発明例のZ材は、Y材の1.74倍、またX材の5.4倍の長寿命を示している。この改良の主因はミクロ組織の微細化によるものと考えられる。
(2)シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験は、Uノッチ試験片を用いて、上述のJISZ2242に準じた方法により行なった。試験結果を表10に示す。
Figure 2006090394
浸炭窒化処理を行なったY材(比較例)のシャルピー衝撃値は、普通焼入れのX材(比較例)より高くないが、Z材はX材と同等の値が得られた。
(3)静的破壊靭性値の試験
図13は、静的破壊靭性試験の試験片を示す図である。この試験片のノッチ部に、予き裂を約1mm導入した後に、3点曲げによる静的荷重を加え、破壊荷重Pを求めた。破壊靭性値(KIc値)の算出には次に示す(I)式を用いた。また、試験結果を表11に示す。
Ic=(PL√a/BW2){5.8−9.2(a/W)+43.6(a/W)2−75.3(a/W)3+77.5(a/W)4}…(I)
Figure 2006090394
予め導入した亀裂深さが窒素富化層深さよりも大きくなったため、比較例のX材とY材とに違いはない。しかし、本発明例のZ材は比較例に対して約1.2倍の値を得ることができた。
(4)静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)
静圧壊強度試験片は、上述のように図11に示す形状のものを用いた。図中、P方向に荷重を負荷して、静圧壊強度試験を行なった。試験結果を表12に示す。
Figure 2006090394
浸炭窒化処理を行なっているY材は普通焼入れのX材よりもやや低い値である。しかしながら、本発明のZ材は、Y材よりも静圧壊強度が向上し、X材と遜色ないレベルが得られている。
(5)経年寸法変化率
保持温度130℃、保持時間500時間における経年寸法変化率の測定結果を、表面硬度、残留オーステナイト量(0.1mm深さ)と併せて表13に示す。
Figure 2006090394
残留オーステナイト量の多いY材の寸法変化率に比べて、本発明例のZ材は2分の1以下に抑制されていることがわかる。
(6)異物混入潤滑下における寿命試験
玉軸受6206を用い、標準異物を所定量混入させた異物混入潤滑下での転動疲労寿命を評価した。試験条件を表14に、また試験結果を表15に示す。
Figure 2006090394
Figure 2006090394
X材に比べ、従来の浸炭窒化処理を施したY材は約2.5倍になり、また、本発明例のZ材は約2.3倍の長寿命が得られた。本発明例のZ材は、比較例のY材に比べて残留オーステナイトが少ないものの、窒素の侵入と微細化されたミクロ組織の影響でY材以上の長寿命が得られている。
上記の結果より、本発明例のZ材、すなわち本発明の熱処理方法によって製造された軸受部品は、従来の浸炭窒化処理では困難であった転動疲労寿命の長寿命化、割れ強度の向上、経年寸法変化率の低減の3項目を同時に満足することができることがわかった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の一実施の形態におけるロッカーアーム用転がり軸受の使用状態を示す概略正面図である。 図1におけるII−II線に沿う断面図である。 本発明の他の実施の形態におけるロッカーアーム用転がり軸受の使用状態を示す概略正面図である。 本発明のさらに別の実施の形態におけるロッカーアーム用転がり軸受の使用状態を示す概略正面図である。 図4のロッカーアーム用転がり軸受を含む部分を拡大した図である。 本発明の一実施の形態における熱処理方法を説明する図である。 本発明の一実施の形態における熱処理方法の変形例を説明する図である。 軸受部品のミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。(a)は本発明例の軸受部品であり、(b)は従来の軸受部品である。 (a)は図8(a)を図解したオーステナイト粒界を示し、(b)は図8(b)を図解したオーステナイト粒界を示す。 外輪回転の転動疲労試験機を示す図である。 静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)の試験片を示す図である。 転動疲労寿命試験機の概略図である。(a)は正面図であり、(b)は側面図である。 静的破壊靭性試験の試験片を示す図である。
符号の説明
1 ロッカーアーム、1a,1b ロッカーアーム端部、1c 側壁、2 ローラ軸、3 ころ、4 ローラ、5 ロッカーアーム軸、6 カム、7 アジャストねじ、8 ロックナット、9 バルブ、9a バルブ上端部、10 ばね、11 ロッカーアーム本体、11a,11b ロッカーアーム本体端部、14 内輪支持部、15 ピボット孔、16 連動棒、16a 軸受取付部、16b 連動棒上端部、17 取付部材、50 ロッカーアーム用転がり軸受、52 ローラ軸、54 ローラ、55,56 部材、111 駆動ロール、112 案内ロール、113 ボール、121 転動疲労寿命試験片。

Claims (6)

  1. エンジンのカム軸と転がり接触する外輪と、
    前記外輪の内側に位置し、ロッカーアームに固定された内輪と、
    前記外輪と前記内輪との間に介在する複数の転動体とを備えたロッカーアーム用転がり軸受において、
    前記外輪、前記内輪、および前記転動体のうち少なくとも1つの部材が窒素富化層を有し、前記窒素富化層を有する部材のオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超える範囲にあり、かつ前記窒素富化層を有する部材の球状化炭化物の面積率が10%以上である、ロッカーアーム用転がり軸受。
  2. 前記窒素富化層を有する部材の球状化炭化物の面積率が10%以上25%以下である、請求項1に記載のロッカーアーム用転がり軸受。
  3. 前記ロッカーアームは前記一方の端部と前記他方の端部との間に位置する回転軸に回転自在に取り付けられ、前記一方の端部に前記エンジンの開閉用バルブの端部が当接し、前記ロッカーアームは前記他方の端部に二股状の内輪支持部を有し、その二股状の内輪支持部に前記内輪が固定されている、請求項1または2に記載のロッカーアーム用転がり軸受。
  4. 前記ロッカーアームの一方の端部と他方の端部との間に設けられ、
    前記ロッカーアームの2つの側壁の間にわたる内輪孔に前記内輪が固定され、前記ロッカーアームの一方の端部に前記エンジンの開閉用バルブの端部が当接し、前記ロッカーアームの他方の端部にピボットが当接する、請求項1または2に記載のロッカーアーム用転がり軸受。
  5. 前記ロッカーアームは、ロッカーアーム本体と、前記カム軸からの応力を伝達する連動棒とを有し、前記ロッカーアーム本体は前記ロッカーアーム本体の一方の端部と他方の端部との間に位置する回転軸に回動自在に取り付けられ、前記ロッカーアーム本体の前記一方の端部に前記エンジンの開閉用バルブの端部が当接し、前記ロッカーアーム本体の前記他方の端部に前記連動棒の一方の端部が当接し、前記連動棒の他方の端部に前記内輪が固定されている、請求項1または2に記載のロッカーアーム用転がり軸受。
  6. 総ころ形式のニードル軸受である、請求項1〜5のいずれかに記載のロッカーアーム用転がり軸受。
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