本発明に係る光ファイバケーブルの作製方法の一実施形態を図1に示す。コア部とクラッド部との原料であるポリマーなどを用いてプリフォーム作製工程11を行いプリフォーム12を得る。プリフォーム12を延伸工程13により延伸(線引き)を行い、所望の径のプラスチック光ファイバ(POF)14を得る。POF14は、通常、巻取リールにロール状で巻き取られる。延伸工程13を行う際に、プリフォーム12を延伸した後に連続して被覆を施してPOF14を保護しても良い。なお、本発明において、被覆の有無を問わず、いずれもPOF14と称する。POF14は、第1被覆工程15により保護層が形成されてプラスチック光ファイバ心線(光ファイバ心線)16となる。
光ファイバ心線16は、そのままの形態で光伝送体として用いることができる。しかしながら、通常は、引張・圧縮,側圧・曲げ,浸水などを抑制する機能を持たせる。そこで、光ファイバ心線16を単芯又は多芯として束ねる。所望により緩衝材も併せて束ねる。そして、最外層を形成するために第2被覆工程17を行う。以上の工程を経て、プラスチック光ファイバケーブル(光ファイバケーブル)18を得る。
[POFの原料]
(コア部)
コア部の原料の重合性モノマーとしては、塊状重合が容易である原料を選択するのが好ましい。光透過性が高く塊状重合しやすい原料としては例えば、以下のような(メタ)アクリル酸エステル類(フッ素不含(メタ)アクリル酸エステル(a),含フッ素(メタ)アクリル酸エステル(b)),スチレン系化合物(c),ビニルエステル類(d)等を例示することができ、コア部はこれらのホモポリマー、あるいはこれらモノマーの2種以上からなる共重合体、およびホモポリマー及び/または共重合体の混合物から形成することができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル類を重合性モノマーとして含む組成を好ましく用いることができる。
以上に挙げた重合性モノマーとして具体的に、(a)フッ素不含メタクリル酸エステルおよびフッ素不含アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−tert−ブチル、メタクリル酸ベンジル(BzMA)、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルメチル、トリシクロ[5・2・1・02,6 ]デカニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート等が挙げられ、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸フェニル等が挙げられる。また、(b)含フッ素アクリル酸エステルおよび含フッ素メタクリル酸エステルとしては、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレート等が挙げられる。さらに、(c)スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。さらには、(d)ビニルエステル類としては、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテート等が挙げられる。勿論、これらに限定されるものではない。モノマーの単独あるいは共重合体からなるコア部のポリマーの屈折率は、クラッド部のそれに比べて同等かあるいはそれ以上になるように構成モノマーの種類,組成比を選択する。特に好ましいポリマーとしては、透明樹脂であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)が挙げられる。
さらに、作製するPOFを近赤外線用途に用いる場合は、コア部のポリマーを構成するC−H結合に起因した吸収損失が起こるために、特許3332922号公報などに記載されているような重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(P3FMA)、ポリヘキサフルオロイソプロピル−2−フルオロアクリレート(HFIP 2−FA)などを始めとする、C−H結合の水素原子(H)を重水素原子(D)やフッ素(F)などで置換した重合体を用いることで、この伝送損失を生じる波長域を長波長化することができ、伝送信号光の損失を軽減することができる。なお、原料モノマーは重合後の透明性を損なわないためにも、不純物や散乱源となる異物は重合前に十分に低減することが望ましい。
(クラッド部)
クラッド部の素材には、コア部を伝送する光がそれらの界面で全反射するために、コア部の屈折率より低い屈折率を有し、コア部との密着性が良いものを好ましく用いることができる。ただし、素材の選択によってコア部とクラッド部の界面の不整が起こりやすい、もしくは製造適正上好ましくない場合などにおいては、コア部とクラッド部の間にさらに層を設けても良い。例えば、コア部との界面(即ち、中空管の内壁面)に、コア部のマトリックスと同一組成のポリマーからなるアウターコア層を形成することにより、コア部とクラッド部との界面状態を矯正することができる。アウターコア層の詳細については後述する。勿論、アウターコア層を形成せずに、クラッド部そのものを、コア部のマトリックスと同一組成のポリマーから形成することもできる。
クラッド部の素材としては、タフネスに優れ、耐湿熱性にも優れているものが好ましく用いられる。例えば、フッ素含有モノマーの単独重合体または共重合体からなるのが好ましい。フッ素含有モノマーとしてはフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましく、フッ化ビニリデンを10質量%以上含有する1種以上の重合性モノマーを重合させて得られるフッ素樹脂が好ましく用いることができる。
また、後述の溶融押出法により重合体を成形し、クラッド部を作製する場合は、重合体の溶融粘度が適当であることが必要である。この溶融粘度については、相関する物性として分子量が用いられ特に重量平均分子量との相関がある。本発明においては、重量平均分子量が1万〜100万の範囲であることが適当であり、より好ましくは5万〜50万の範囲である。
さらに、できるだけコア部へ水分が浸入することを防ぐことが好ましい。そのためには、吸水率が低いポリマーをクラッド部の素材(材料)として用いる。すなわち飽和吸水率(以下、吸水率と称する)が1.8%未満のポリマーを用いてクラッド部を作製するのが好ましい。より好ましくは1.5%未満のポリマー、さらに好ましくは1.0%未満のポリマーを用いてクラッド部を作製することが好ましい。また、前記アウターコア層を作製する場合にも同様の吸水率のポリマーを用いることが好ましい。吸水率(%)は、ASTM D 570試験法に従い、23℃の水中に試験片を1週間浸漬し、そのときの吸水率を測定することにより算出することができる。
(重合開始剤)
前記コア部及び/又はクラッド部が、重合性モノマーから重合されたポリマーから作製される場合、重合の際に重合開始剤が用いられる。重合開始剤としては、用いるモノマーや重合方法に応じて適宜選択することができ、例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−tert−ブチルパーオキシド(PBD)、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などのパーオキサイド系化合物が挙げられる。また、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2'−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2'−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2'−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3'−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3'−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3'−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3'−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−tert−ブチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は勿論これらに限定されるものではなく、2種類以上を併用してもよい。
(連鎖移動剤)
コア部形成用重合性組成物及びクラッド部形成用重合性組成物は、連鎖移動剤を含有していることが好ましい。前記連鎖移動剤は、主に重合体の分子量を調整するために用いられる。前記クラッド部およびコア部形成用重合性組成物がそれぞれ連鎖移動剤を含有していると、重合性モノマーからポリマーを形成する際に、重合速度および重合度を前記連鎖移動剤によってより制御することができ、重合体の分子量を所望の分子量に調整することができる。例えば、得られたプリフォームを延伸により線引してPOFとする際に、分子量を調整することによって延伸時における機械的特性を所望の範囲とすることができ、生産性の向上にも寄与する。
前記連鎖移動剤については、併用する重合性モノマーの種類に応じて、適宜、種類および添加量を選択できる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、前記連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンなど)、チオフェノール類(例えば、チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオールなど)などを用いることが好ましい。特に、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子(D)やフッ素原子(F)で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。なお、連鎖移動剤は勿論これらに限定されるものではなく、これら連鎖移動剤は2種類以上を併用してもよい。
(屈折率調整剤)
前記コア部用重合性組成物に屈折率調整剤を含有させるのが好ましい。なお、場合によっては、クラッド部重合性組成物に屈折率調整剤を含有させても良い。屈折率調整剤の濃度に分布を持たせることによって、前記濃度の分布に基づいて屈折率分布型のコアを容易に作製することができる。屈折率調整剤を用いなくとも、コア部の形成に2種以上の重合性モノマーを用い、コア部内に共重合比の分布を持たせることによって、屈折率分布構造を導入することもできるが、共重合の組成比制御などと比較して、製造の簡便さなどを鑑みると屈折率調整剤を用いることが好ましい。
屈折率調整剤はドーパントとも称し、併用する前記重合性モノマーの屈折率と異なる化合物である。その屈折率差は0.005以上であるのが好ましい。ドーパントは、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して、屈折率が高くなる性質を有する。これらは、特許3332922号公報や特開平5−173026号公報に記載されているような、モノマーの合成によって生成される重合体との比較において溶解性パラメータとの差が7(cal/cm3)1/2 以内であると共に、屈折率の差が0.001以上であり、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して屈折率が変化する性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧等の重合条件)下において安定であるものを、いずれも用いることができる。
上記性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧等の重合条件)下において安定であるものを、ドーパントとして用いることができる。本実施の形態では、コア部形成用重合性組成物にドーパントを含有させ、コア部を形成する工程において界面ゲル重合法により重合の進行方向を制御し、ドーパントの濃度に傾斜を持たせ、コア部にドーパントの濃度分布に基づく屈折率分布構造を形成する方法を例示する。このように、屈折率の分布を有するコア部を「屈折率分布型コア部」と称する。屈折率分布型コア部を形成することにより、得られる光学部材は広い伝送帯域を有する屈折率分布型プラスチック光ファイバとなる。また、ドーパントは重合性化合物であってもよく、重合性化合物のドーパントを用いた場合は、これを共重合成分として含む共重合体がこれを含まない重合体と比較して、屈折率が上昇する性質を有するものを用いる。なお、このような共重合体には、MMA−BzMA共重合体などが挙げられる。
前記ドーパントとしては、特許3332922号や特開平11−142657号公報に記載されている様な、例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジル−n−ブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ジフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(TCP)、ジフェニルスルホキシド(DPSO)、硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体などが挙げられる。中でも、BEN、DPS、TPP、DPSOおよび硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体が好ましい。なお、これらの化合物中に存在する水素原子を重水素原子に置換した化合物も広い波長域での透明性を向上させる目的で用いることができる。また、重合性化合物として、例えば、トリブロモフェニルメタクリレート等が挙げられる。屈折率調整成分として重合性化合物を用いる場合は、マトリックスを形成する際に、重合性モノマーと重合性屈折率成分とを共重合させるので、種々の特性(特に光学特性)の制御がより困難となるが、耐熱性の面では有利となる可能性がある。
屈折率調整剤の濃度および分布を調整することによって、光学部材の屈折率を所望の値に変化させることができる。その添加量は、用途および組み合わされる部材に応じて適宜選ばれる。屈折率調整剤は、複数種類添加してもよい。
本発明に用いられる重合性組成物にドーパントを2種類以上含有させても良い。但し、いずれもベンゼン環を有し、その置換基のHammett値(但し、置換基が複数ある場合にはそれらのHammett値の加重平均)が0.04以下でかつ、SP値が10.9以下となる化合物を用いることが好ましい。
(その他の添加剤)
その他、コア部、クラッド部もしくはそれらの一部には、光伝送性能を低下させない範囲で、それらを作製する重合性組成物にその他の添加剤を添加することができる。例えば、コア部もしくはその一部に耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。前記誘導放出機能化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部に光ファイバ増幅器として使用することができる。これらの添加剤も、前記原料モノマーに添加した後、重合することによって、コア部、クラッド部もしくはそれらの一部に含有させることができる。
[プリフォームの製造方法]
以下に、本発明の製造方法を、コア部とクラッド部とを有する屈折率分布型プラスチック母材の製造方法に適用した実施の形態について説明する。本実施形態は、主として2種類あるが、以下の実施形態に限定されるわけではない。
まず、第1の実施形態は、クラッド部用重合性組成物を重合して中空管を作製する。または熱可塑性樹脂を溶融押し出し成形してクラッド部となる中空円筒管を作製する(第1工程)。前記中空円筒管の中空部でコア部形成用重合性組成物を界面ゲル重合させることによりコア部となる領域を形成し、コア部およびクラッド部に各々対応する領域からなるプリフォームを作製する(第2工程)。そして得られたプリフォーム12を所望の形態に加工(第3工程;延伸工程13)してPOF14を得る。なお、第2工程においてドーパントを加えた重合性組成物を界面ゲル重合法によって重合させることにより屈折率分布型プラスチック光ファイバが得られる。
次に、第2の実施形態は、第1の実施形態でクラッド部に相当する中空円筒管を形成した後にその内周面にさらにアウターコア部という層を形成する(第1'工程)。なお、このアウターコア層を有する形態においては中心のコア部はインナーコア部とも称される。以下の説明において、態様によって「コア部」という場合は「インナーコア部」の意味も兼ねる。
例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂のような含フッ素樹脂からなる中空円筒管の中空部で、アウターコア用重合性組成物を回転重合法による重合などで、前記中空円筒管の内周面にアウターコア層を形成し、2層からなる中空円筒管を作製する(第1'工程)。前記中空円筒管の中空部にさらにインナーコア部を形成する。インナーコア部は、インナーコア部形成用重合性組成物を界面ゲル重合させて形成する(第2'工程)。そして、得られたプリフォーム12を所望の形態に加工(第3工程;延伸工程13)して光学部材であるPOF14を得る。
第2の実施形態においては、2層からなる同心の中空円筒管を作製する際、上記のように段階的でなく、クラッド部となるフッ素樹脂とアウターコア用重合組成物の重合体とを溶融共押し出しの方法の一段階で作製する方法なども容易に適用できる。
前記第1の実施の形態ではクラッド部/コア部形成用、第2の実施の形態ではアウターコア部/インナーコア部形成用の各々の重合性組成物に用いられる重合性モノマーの組成は、互いに等しいことが好ましい。ただし、その組成比については同一でなくてもよく、また副成分については等しくなくてもよい。等しい種類の重合性モノマーを用いることによって、クラッド部/コア部またはアウターコア部/インナーコア部界面における光透過性および接着性を向上させることができる。また、クラッド部あるいはアウターコア部を形成する樹脂が共重合体からなり、共重合成分の屈折率が異なる場合、共重合成分の比率を制御することでコア部との屈折率差を大きく持たせやすく、その結果、屈折率分布構造を形成し易くする事もできる。
第2の実施形態では、クラッド部とコア部との間にアウターコア部を形成することによって、クラッド部とコア部との材質の違いによる接着性の低下および生産性の低下などを軽減させる。その結果、クラッド部およびコア部に用いる材料の選択の幅を広げることができる。クラッド部に相当する円筒形状の管は、例えば、市販されているフッ素樹脂を溶融押出しや重合性組成物の回転重合により、所望の径と厚みのパイプに成形することで作製することもできる。さらに、得られたパイプの中空部で前記アウターコア部形成用重合性組成物を回転重合させ、その内周面にアウターコア層を形成することができる。また、その他、前記フッ素樹脂と前記重合性組成物からなる重合体を共押し出しすることによっても同様の構造体を作製することもできる。
本発明に用いられるPOF14を作製する際に、屈折率調整成分を用い、その濃度に傾斜を持たせることによっても、屈折率分布型POFを作製することができる。屈折率調整成分の濃度に傾斜を持たせる方法としては、後述する界面ゲル重合法や回転ゲル重合法などを適用することができる。
前記クラッド部、アウターコア部を重合性組成物で作製する場合およびコア部形成用重合性組成物において、各成分の含有割合の好ましい範囲は、その種類に応じて異なり一概に定めることはできないが、一般的には、重合開始剤は、重合性モノマーに対して0.005質量%〜0.5質量%であることが好ましく、0.01質量%〜0.5質量%であることがより好ましい。前記連鎖移動剤は、重合性モノマーに対して0.10質量%〜0.40質量%であることが好ましく、0.15質量%〜0.30質量%であることがより好ましい。また、前記屈折率調整成分は、重合性モノマーに対して1質量%〜30質量%であることが好ましく、1質量%〜25質量%であることがより好ましい。
前記クラッド部、アウターコア部およびコア部形成用重合体組成物を重合することによって得られるポリマーの分子量は、プリフォームを延伸する関係から、重量平均分子量で1万〜100万の範囲であることが好ましく、3万〜50万であることがさらに好ましい。さらに延伸性の観点で分子量分布(MWD:重量平均分子量/数平均分子量)も影響する。MWDが大きくなると、極端に分子量が高い成分がわずかでもあると延伸性が悪くなり、場合によっては延伸できなくなることもある。したがって、好ましい範囲としては、MWDが4以下が好ましく、さらには3以下が好ましい。
次に、前記第1および第2の形態(特に前記第1の実施形態)の各工程について詳細に説明する。
(第1工程)
前記第1工程では、クラッド部に相当する1層の、またはクラッド部およびアウターコア部に相当する2層の中空状(例えば円筒形状)の中空円筒管を作製する。中空円筒管の作製方法としては、例えばモノマーを重合させつつ中空管状に成形して作製する。この方法には、特許3332922号に記載されている様な回転重合による製造方法や樹脂の溶融押し出しなどが挙げられる。
中空円筒管を重合性組成物から製造する場合は、回転重合法で行われる。例えば、前記クラッド部形成用重合性組成物を円筒形状の重合容器に、またはアウターコア部形成用重合性組成物をクラッド部であるフッ素樹脂よりなる中空円筒管に注入する。前記重合容器又は前記中空円筒管を回転(好ましくは、円筒の軸を水平に維持した状態で回転)させつつ、前記重合性モノマーを重合させる。これによりクラッド部又はクラッド部内周面にインナーコア部が形成された中空円筒管を作製できる。
重合容器又は中空円筒管に前記いずれかの重合性組成物を注入する前に、その重合性組成物をフィルタにより濾過して、組成物中に含まれる塵埃を除去するのが好ましい。また、性能劣化や前工程、後工程の煩雑化などを起こさない限りにおいて、特開平10−293215号公報に記載された原料の粘度調整のように取り扱いやすい様に粘度などの調整やプレ重合を行うことによる重合時間の短縮なども行うことができる。重合温度および重合時間は、用いるモノマーや重合開始剤によって異なるが、一般的には、重合温度は60℃〜150℃であることが好ましく、重合時間は5時間〜24時間であることが好ましい。このときに、特開平8−110419号公報に記載されている様に、原料をプレ重合して原料粘度を上昇させてから重合させることで、成形に要する重合時間を短縮しても良い。また、重合に使用する容器が回転によって変形してしまうと、得られる円筒管に歪みを生じさせることから、充分な剛性を持つ金属管・ガラス管を用いることが望ましい。
また、ペレット状や粉末状の樹脂(好ましくはフッ素樹脂)を円筒形状の容器に入れ、両端を塞ぎ、前記容器を回転(好ましくは、円筒の軸を水平に維持した状態で回転)させる。そして、前記樹脂の融点以上に加熱して樹脂を溶融させることにより、重合体からなる中空円筒管を作製することができる。このときに、溶融による樹脂の熱または酸化、および熱酸化分解を防ぐために、前記容器内を窒素や炭酸ガス、アルゴンなどの不活性気体雰囲気下で行うことが好ましい。また、前記樹脂を事前に充分乾燥させておくことが好ましい。
一方、重合体を溶融押出ししてクラッド部を形成する場合は、一旦、重合体を合成した後、押出し成形等の成形技術を利用して、所望の形状(本実施の形態では円筒形状)の構造体を得ることもできる。これらに用いられる溶融押出装置としては、主として、インナーサイジングダイ方式とアウターダイ減圧吸引方式の2つのタイプがある。
図2に、インナーサイジングダイ方式の溶融押出装置の断面図の一例を示して、インナーサイジングダイ方式の成形の概略を説明する。溶融押出装置本体からベント付き1軸スクリュー押出機(図示しない)により、クラッド部の原料ポリマー31がダイ本体32に押出される。ダイ本体32には、原料ポリマー31を円筒状に導くガイド33が設けられている。原料ポリマー31は、ガイド33を経てダイ本体32とインナーロッド34との間の流路34aを通る。ダイの出口32aから原料ポリマー31は押出され、円筒中空管の形状のクラッド35が形成される。クラッド35の押出速度については特に制限されないが、形状を均一に保つとともに、生産性の点から、押出速度は1cm/min〜100cm/minの範囲であることが好ましい。
ダイ本体32には、原料ポリマー31を加熱するための加熱装置(図示しない)が設置されていることが好ましい。例えば、原料ポリマー31の進行方向に沿って、ダイ本体32を覆うように1つまたは2以上の加熱装置(例えば、蒸気,熱媒油,電気ヒータなどを利用した装置)を設置していてもよい。また、ダイ出口32a近傍に温度計36を取り付ける。温度計36によってダイ出口32aでのクラッド35の温度を測定して、ダイ本体32の温度を調節することが好ましい。
また、ダイ本体32に冷却区画を設けても良い。クラッド35の温度の制御は、例えば、温調機(例えば、水,不凍液,オイルなどの液体や、電子冷却などを使用した冷却装置)をダイ本体32に取り付けてもよいし、ダイ本体32の自然空冷により冷却してもよい。ダイ本体32に加熱装置が設置されている場合は、冷却装置は加熱装置の位置よりも下流に取り付けるのが好ましい。
次に、アウターダイ減圧吸引方式について説明する。なお、図3には、溶融押出装置の製造ライン40の一例を示し、図4には成形ダイスの断面図の一例を示す。
図3に示す製造ライン40は、溶融押出装置41と、押出ダイス42と、成形ダイス43と、冷却装置44と、引取装置45とを備える。ペレット投入ホッパ46から投入された原料ポリマーは、溶融押出装置内部41aで溶融され、押出ダイス42から押出され、成形ダイス43に送り込まれる。成形ダイス43には真空ポンプ47が取り付けられている。押出速度Sは、0.1≦S(m/min)≦10の範囲が好ましく、より好ましくは0.3≦S(m/min)≦5.0であり、最も好ましくは0.4≦S(m/min)≦1.0である。しかしながら、押出速度S(m/min)は、前述した範囲に限定されるものではない。
図4の成形ダイス43は、成形管50を備えており、成形管50に原料ポリマー51を通すことにより、原料ポリマー51が成形され円筒中空形状のクラッド52が得られる。成形管50には、多数の吸引孔50aが設けられていて、成形管50の外側に設けられた減圧チャンバ53を真空ポンプ47により減圧することで、クラッド52の外壁面が、成形管50の成形面(内壁面)50bに密着するために、クラッド52の肉厚が一定になって成形される。なお、減圧チャンバ53内の圧力(絶対圧力)は、20kPa〜50kPaの範囲とすることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。また、成形ダイス43の入口に、クラッド52の外径を規定するためのスロート(外径規定部材)54を取り付けることが好ましい。
成形ダイス43により形状が調整されたクラッド52は、冷却装置44に送られる。冷却装置44には、多数のノズル60が備えられている。ノズル60から冷却水61をクラッド52に向けて放水する。これによりクラッド52が冷却されて固化する。冷却水61は、受け器62で回収して、排出口62aから排出される。クラッド52は、冷却装置44から引取装置45により引き出される。引取装置45には、駆動ローラ65と加圧ローラ66とが備えられている。駆動ローラ65には、モータ67が取り付けられており、クラッド52の引取速度の調整が可能になっている。また、クラッド52を挟んで駆動ローラ65と対向して配置されている加圧ローラ66により、クラッド52の微小な位置のずれを修正することが可能となっている。この駆動ローラ65の引取速度と溶融押出装置41の押出速度とを調整したり、加圧ローラ66によるクラッドの移動位置を微調整したりすることにより、クラッド52の形状、特に肉厚を均一にすることが可能となる。なお、必要に応じて、駆動ローラ65と加圧ローラ66はベルト状にすることも出来る。
クラッドは、機械的強度向上や難燃性などの多種の機能性を付与させるために複層からなっていてもよく、内壁の算術平均粗さが特定の範囲の中空管を作製した後、その外壁面をフッ素樹脂等によって被覆することもできる。
得られるクラッド52の外径D'は光学特性や生産性の観点から、D'≦50mmの範囲であることが好ましく、より好ましくは2≦D'(mm)≦30の範囲である。さらに、クラッド部の肉厚t'は、形状を保つことができる限りにおいて薄くすることが可能であるが、2≦t'(mm)≦20の範囲であることが好ましい。しかしながら、本発明において、それらの範囲は、前述したものに限定されるものではない。
アウターコア層の原料となる重合性モノマー等の具体例については、インナーコア部の具体例と同様である。アウターコア層は、主にインナーコア部製造のために設けられるものであり、その厚みはインナーコア部の塊状重合に必要な程度厚みであればよく、塊状重合の進行によって屈折率を有するインナーコア部と合一となり単独の層として存在しない、単なるコア部となっていてもよい。そのため、コア部形成前に設けるアウターコアの厚みとしては、塊状重合を行うためにコア部重合前に0.5mm〜1mm以上あればよく、その上限は充分な屈折率分布が形成できる空間が残る程度まで厚くしても構わないのでプリフォームのサイズに応じて選択することができる。
前記1重または2重円筒形状の重合体からなる構造体は、コア部(インナーコア部)の原料となる重合性組成物を注入できるように、底部を有しているのが好ましい。また、底部を前記円筒管を構成している重合体と密着性および接着性に富む材質であるのが好ましい。また、底部を前記円筒管と同一の重合体で構成することもできる。重合体からなる底部は、例えば、重合容器を回転させて重合する前、もしくは、いずれかの方法による中空管形成後に、重合容器を垂直に静置した状態で、重合容器内に少量の重合性モノマーを注入し、重合することによって形成することができる。
前記回転重合後に、残存するモノマーや重合開始剤を充分に反応させることを目的として、前記回転重合の重合温度より高い温度で得られた中空管に加熱処理を施してもよく、所望の中空管が得られた後、未重合の組成物を取り除いてもよい。
(第2工程)
第2工程では、前記中空管内に充填された重合性組成物中の重合性モノマーを重合させて、コア部(またはインナーコア部)を形成する。界面ゲル重合法では、前記重合性モノマーの重合は、前記中空管の内壁面から断面の中心に向かって進行する。2種以上の重合性モノマーを用いた場合は、前記中空管を構成している重合体に対して親和性の高いモノマーが前記中空管の内壁面に偏在して主に重合し、前記モノマーの比率の高い重合体が形成される。中心に向かうに従って、形成された重合体中の前記親和性の高いモノマーの比率は低下し、他のモノマーの比率が増加する。このようにして、コア部となる領域内にモノマー組成の分布が生じ、その結果、屈折率の分布が導入される。また、重合性モノマーに屈折率調整剤を添加して重合すると、特許3332922号公報に記載されているように、コア液が中空管内壁を溶解し、内壁面を構成している重合体が膨潤してゲルを構成しながら、重合が進む。このとき、前記中空管を構成している重合体に対して親和性の高いモノマーが前記中空管表面に偏在して重合し、外側には屈折率調整剤濃度が低い重合体が形成される。中心に向かうに従って、形成された重合体中の前記屈折率調整剤の比率は増加する。このようにして、コア部となる領域内に屈折率調整剤の濃度分布が生じ、その結果、屈折率の分布が導入される。
また、重合性モノマーの重合速度および重合度を、重合開始剤および所望により添加される連鎖移動剤によって制御し、重合体の分子量を所望の分子量に調整することができる。例えば、得られた重合体を延伸により線引して、POFとする場合は、連鎖移動剤によって製造される重合体の分子量(好ましくは1万〜100万、より好ましくは3万〜50万)を調整すれば、延伸時における機械的特性を所望の範囲とすることができ、生産性の向上にも寄与する。
本工程では、形成されるコア部となる領域に屈折率の分布が導入されるが、屈折率が互いに異なる部分間は熱挙動も互いに異なる。そのため重合を一定温度で行うと、その熱挙動の違いからコア部となる領域には、重合反応に対して発生する体積収縮の応答性が変化し、プリフォーム内部に気泡が混入する。もしくはミクロな空隙が発生し、得られたプリフォームを加熱延伸した際に多数の気泡が発生する現象が生じる可能性がある。重合温度が低過ぎると、重合効率が低下する。また、生産性を著しく損ない、重合が不完全となって光透過性が低下し、作製される光学部材の光伝送性能を損なう。一方、初期の重合温度が高過ぎると、初期の重合速度が著しく上昇し、コア部となる領域の収縮に対して応答緩和できず、気泡発生の傾向が著しくなる。
そこで、初期の重合温度を下記関係式を満たす温度T1(℃)に維持し、重合速度を減少させて初期重合における体積収縮性の応答緩和性を改善することが好ましい。
Tb1(℃)−10℃≦T1(℃)≦Tg(℃)
Tb1(℃)は前記重合性モノマーの沸点を示し、Tg(℃)は前記重合性モノマーの重合体のガラス転移点(ガラス転移温度)を示す。また、温度T1(℃)を初期重合温度と称する。これらは、以下の説明においても同様である。
初期重合時間T1(℃)を維持して重合した後に、下記関係式を満たす重合温度T2(℃)まで昇温して、さらに重合する。
Tg(℃)≦T2(℃)≦Tg(℃)+40(℃)
T1(℃)<T2(℃)
重合温度T2(℃)まで昇温して重合を完結すると、光透過性が低下するのを防止でき、光伝送能の良好なプリフォーム12が得られる。また、プリフォームの熱劣化や解重合の影響を抑制しつつ、内部に存在するポリマー密度の揺らぎを解消し、プリフォームの透明性を向上させることができる。ここで重合温度T2(℃)は、Tg(℃)以上(Tg+30)℃以下であることがより好ましく、(Tg+10)℃程度で行うことが特に好ましい。重合温度T2がTg(℃)未満であると、この効果を得ることはできず、(Tg+40)℃を超えてしまうと、熱劣化や解重合により、プリフォームの透明性が低下する傾向がある。さらに屈折率分布型のコア部を形成する場合は、屈折率分布が崩れてしまい、光ファイバとしての性能が顕著に低下する。
重合温度T2(℃)での重合は、重合開始剤が残留しないように、重合が完結するまで行うことが好ましい。プリフォーム内に未反応の重合開始剤が残っていると、プリフォーム加工時、特に溶融延伸において、加熱された未反応の重合開始剤が分解して気泡などを発生するおそれがあるため、重合開始剤の反応を終了させておくのが好ましい。重合温度T2(℃)の保持時間は、用いる重合開始剤の種類によって好ましい範囲が異なり、重合温度T2(℃)での重合開始剤の半減期時間以上とするのが好ましい。
重合性モノマーの沸点をTb1(℃)とした場合に、重合開始剤として十時間半減期温度が(Tb1−20)℃以上である化合物を用いることが好ましい。また、前記関係式を満たす初期重合温度T1(℃)で該重合開始剤の半減期の10%以上の時間(好ましくは25%の時間)重合することも、同様な観点から好ましい。十時間半減期温度が(Tb1−20)℃以上である化合物を重合開始剤として用い、前記初期重合温度T1(℃)で重合すると、初期の重合速度を減少させることができる。また、前記初期重合温度T1(℃)で、前記重合開始剤の半減期時間の10%以上の時間まで重合することにより、初期重合における体積収縮応答に対し圧力により速やかに追随させることができる。前記条件とすることで、初期重合速度を減少させ、初期重合における体積収縮応答性を向上させることができ、その結果、プリフォーム中の体積収縮による気泡混入を軽減することができ、生産性を向上させることができる。なお、重合開始剤の十時間半減期温度とは、重合開始剤が分解して、十時間でその数が1/2になる温度をいう。
前記条件を満たす重合開始剤を用いて、初期重合温度T1(℃)で前記開始剤の半減期時間の10%以上の時間重合する場合、重合を完結するまで初期重合温度T1(℃)に維持してもよい。しかしながら、光透過性の高い光学部材を得るには、初期重合温度T1(℃)より高い重合温度T2(℃)に昇温して、重合を完結することが好ましい。昇温時の温度は前記関係式を満たす重合温度T2(℃)であることが好ましく、より好ましい温度範囲も前述の通りであり、重合温度T2(℃)の保持時間の好ましい範囲も前述の通りである。
本工程において、重合性モノマーとして、沸点Tb1(℃)が、100℃のメチルメタクリレート(MMA)を用いた場合、十時間半減期温度が(Tb1−20)℃以上の重合開始剤としては、前述の例示した重合開始剤のうち、PBDおよびPHVが該当する。例えば、重合性モノマーとしてMMAを用い、重合開始剤としてPBDを用いた場合は、初期重合温度T1(℃)を100℃〜110℃に48時間〜72時間維持し、その後に重合温度T2(℃)を120℃〜140℃まで昇温して24時間〜48時間重合するのが好ましい。また、重合開始剤としてPHVを用いた場合は、初期重合温度T1(℃)を100℃〜110℃に4時間〜24時間維持し、重合温度T2(℃)を120℃〜140℃まで昇温して24時間〜48時間重合するのが好ましい。なお、昇温は段階的に行っても、連続的に行ってもよいが、昇温にかける時間は短いほうがよい。
本工程においては、特開平9−269424号公報記載のように加圧するもしくは特許3332922号に記載されているように減圧して重合を行っても良く、更には、重合工程で状況に応じて圧力を変化させてもよい。これらの操作により、重合性モノマーの沸点Tb1(℃)近傍の温度である前記関係式を満たす初期重合温度T1(℃)および重合温度T2(℃)での重合の重合効率を向上させることができる。加圧状態で重合を行う(以下、加圧状態で行う重合を「加圧重合」と称する)場合は、前記重合性モノマーを注入した中空管を治具の中空部に挿入して、治具に支持された状態で重合を行うのが好ましい。さらに、重合前の重合性モノマーを減圧雰囲気で脱水・脱気することでさらに気泡の発生を低減させることができる。
前記治具は、前記中空管を挿入可能な中空を有する形状であり、前記中空部は前記中空管と類似の形状を有しているのが好ましい。即ち、前記治具も円筒形状であるのが好ましい。治具は、加圧重合中に前記中空管が変形するのを抑制するとともに、加圧重合が進むに従ってコア部となる領域が収縮するのを緩和可能に支持する。従って、治具の中空部は、前記中空管の外径より大きい径を有し、前記中空管を非密着状態で支持するのが好ましい。前記治具の中空部は、前記中空管の外径に対して0.1%〜40%だけ大きい径を有していることが好ましく、10%〜20%だけ大きい径を有していることがより好ましい。
前記中空管を治具の中空部に挿入した状態で、重合容器内に配置することができる。重合容器内において、前記中空管は、円筒の高さ方向を垂直にして配置されるのが好ましい。前記治具に支持された状態で前記中空管を、重合容器内に配置した後、前記重合容器内を加圧することができる。加圧させる場合は窒素などの不活性ガスで重合容器内を加圧し、不活性ガス雰囲気下で加圧重合を進行させるのが好ましい。重合時の加圧の好ましい範囲については、用いるモノマーによって異なるが、重合時の圧(ゲージ圧)は、一般的には0.05MPa〜1.0MPa程度が好ましい。
本発明において、コア部の作製方法は、前記各方法に限定されるものではない。例えば、インナーコアまたはコアを回転させながら界面ゲル重合を行う回転重合法により形成できる。なお、説明はインナーコアを形成する例で行う。アウターコアが形成されているクラッドパイプの中空内にインナーコア液を注入する。その後に、その一端を密閉し回転重合装置内に水平状態(クラッドパイプの高さ方向が水平になる状態)として回転させながら重合を行う。このときに、インナーコア液の供給は一括でも良いし、逐次や連続して供給しても良い。インナーコア用重合性組成物の供給量,組成,重合度を調整することで、連続して屈折率分布を有するグレーデッドインデックス型(GI型)のほかに、階段状の屈折率分布を有するマルチステップ型光ファイバの製造方法にも適用できる。なお、本発明において、この重合方法をコア部回転重合法(コア部回転ゲル重合法)と称する。
前記コア部回転重合法は、重合を行っている際に、界面ゲル重合法に比べてコア液の表面積を大きく取れるので、コア液から発生する気泡の脱気が容易に行われる。そのため、得られるプリフォーム内に泡の含有が抑制される。また、コア部回転重合法によりコア部を形成すると、その中心部が中空になるプリフォームが得られる場合がある、そのプリフォームをプラスチック光学部材、特にPOFに用いる際には、溶融延伸時にその中空が塞がれつつ延伸されるので特に問題は生じない。また、前記プリフォームを他の光学部材、例えばプラスチックレンズに用いる際には、プリフォームの中空部を塞ぐように溶融延伸を行うことで、中心部の中空が閉塞されたプリフォームを得ることができ、このプリフォームからプラスチックレンズなども作製することが可能となる。
なお、第2工程終了時において、冷却操作を圧力の制御下において一定の冷却速度で行うことによって、重合後に発生する気泡を抑制することができる。コア部重合時に窒素などの不活性ガスで重合容器内を加圧し、不活性ガス雰囲気下で加圧重合を進行させることが、コア部の圧力応答のために好ましい。しかし、基本的にプリフォーム中から気体を完全に抜くことは不可能であり、冷却工程などでポリマーが急激に収縮すると空隙に気体が凝集し気泡核が形成されて気泡の発生を招いてしまう。これを防ぐには冷却工程で冷却速度を0.001℃/分〜3℃/分程度に制御することが好ましく、0.01℃/分〜1℃/分程度に制御することがより好ましい。この冷却操作はポリマーのガラス転移温度Tg(℃)、特にコア領域のガラス転移温度Tg(℃)に近づく過程でのポリマーの体積収縮の進行に応じて、2段以上で行っても良い。この場合、重合直後は冷却速度を速くし、徐々に緩やかにしていくことが好ましい。
以上の操作によって得られたプリフォーム12は、均一な屈折率の分布および充分な光透過性を有するとともに、気泡およびマクロ空隔等の発生は抑制されている。また、光を反射してPOF内部に閉じ込めるクラッド部またはアウターコア部とコア部との界面の平滑性が良好となる。また、1層のアウターコア部を有する円筒形状のプリフォームの作製方法を示したが、アウターコア部は2層以上であってもよい。また、アウターコア部は、界面ゲル重合や延伸等によって光ファイバの形態となった後は、インナーコア部と一体になり、双方が識別できなくなっていてもよい。
得られたプリフォームを種々の形態に加工することによって、種々のプラスチック光学部材を作製することができる。例えば、プリフォームを軸方向に垂直にスライスすれば断面が凹凸を有しない円盤状もしくは円柱状のレンズを作成することができる。また、プリフォームを溶融延伸することによりPOFを作製することができる。このとき、プリフォームのコア部となる領域が屈折率分布を有する場合は、均一な光伝送能を有するPOFを生産性高くしかも安定的に製造することができる。
(第3工程)
第3工程である延伸工程13は、例えば、プリフォーム12を加熱炉(例えば円筒状の加熱炉)等の内部を通過させることによって加熱し、溶融させた後、引き続き連続して延伸紡糸する。加熱温度は、プリフォーム12の材質等に応じて適宜決定することができるが、一般的には、180℃〜250℃が好ましい。延伸条件(延伸温度等)は、プリフォーム12の径、所望のPOF14の径および用いた材料等を考慮して、適宜決定することができる。特に、屈折率分布型POFにおいては、その断面の中心方向から円周に向け屈折率が変化する構造を有するため、この分布を破壊しないように、均一に加熱且つ延伸紡糸する必要がある。従って、プリフォームの加熱には、プリフォームを断面方向において均一に加熱可能である円筒形状の加熱炉等を用いることが好ましい。また、加熱炉は延伸軸方向に温度分布を持つことが好ましい。溶融部分が狭いほど屈折率分布の形状が歪みにくく収率があがるため好ましい。具体的には溶融部分の領域が狭くなるように溶融領域の前後では、予熱と徐冷を行うことが好ましい。さらに、溶融領域に用いる熱源としてはレーザーのような狭い領域に対しても高出力のエネルギーを供給できるものがより好ましい。
延伸は線形とその真円度を維持させるため、中心位置を一定に保つ調芯機構を有する延伸紡糸装置を用いて行うのが好ましい。延伸条件を選択することによりPOFを構成する重合体の配向を制御することができ、線引きで得られるPOFの曲げ性能等の機械特性や熱収縮などを制御することもできる。
図5にPOF14を製造するための製造設備70を示す。プリフォーム12はXY調芯装置72を介してプリフォーム上下用アーム(以下、アームと称する)73に懸架されている。アーム73は、プリフォーム上下用スクリュー(以下、スクリューと称する)74の回転によって鉛直方向に上下に動く。プリフォーム12を延伸する際は、スクリュー74を一定速度で回転させて, アーム73をゆっくり(例えば1mm/minから20mm/min)下降させる。これによりプリフォーム12の先端が中空円筒状の加熱炉75内に挿入される。プリフォーム12は、その先端から少しずつ溶融されてプラスチック光ファイバ(POF)14が得られる。なお、プリフォーム12全体はフレキシブル円筒77でカバーされていることが好ましい。フレキシブル円筒77は、外部からの塵埃の侵入、付着防止及び空気の流れから遮蔽して、加熱される前のプリフォーム12近傍の雰囲気を一定に保つ。また、加熱炉75中の雰囲気気体の加熱による上昇気流の発生を,フレキシブル円筒77の上部を袋小路にすることによって抑制するなどの効果がある。
加熱炉75は、加熱炉外筒78内に収納されている。製造設備70外の雰囲気の影響を受けなくなり、延伸雰囲気が安定する。さらに、加熱炉外筒78内の雰囲気を清浄なものとするためにクリーンガス導入装置79を取り付けることがより好ましい。
POF14を構成する重合体の劣化を防ぐため、加熱炉75内を不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。なお、ガスには、窒素ガス(熱伝導率0.0242W/(m・K))及び希ガスであるヘリウムガス(熱伝導率0.1415W/(m・K)),アルゴンガス(熱伝導率0.0015W/(m・K)),ネオンガスなどが好ましく用いられる。コストの点からは窒素ガスを用いることが好ましく、熱伝導効率の点からは、ヘリウムガスを用いることが好ましい。また、数種類のガスを混合させた混合ガス(例えば、ヘリウムガスとアルゴンガスとの混合ガス)を用いることは、所望の熱伝導率のガスを得る目的やコスト低減を図ることもできるために好ましい。不活性ガスは加熱炉75内を不活性な状態に保ち熱伝導を調整するために用いるので、循環利用しても良い。それによりガスの媒体コストを低減することができる。不活性ガスの好ましい供給量は、加熱条件やガスの種類によって異なるが、例えばヘリウムガスを用いる場合には、1L/min〜10L/min(温度が室温のときの換算値)とすることが好ましい。
加熱炉外筒78の上面及び下面のプリフォーム入口及びPOF出口も出来る限り遮蔽して、外部環境の影響を受けなくするのが良い。そのために、プリフォーム入口及びPOF出口にシャッタ80,81を取り付けることが好ましい。シャッタ80,81の開閉を制御することで、出入口の隙間を限りなく小さくすることが好ましい。または、摺動性能,耐熱性能等に優れている素材により完全にシールしても良い。
POF14は、線径測定装置82で線径が測定される。線径が所定の値になるように、アーム73の下降速度、加熱炉75での加熱温度、POF14の引取り速度などを制御する。その制御は、線径ムラが生じることによる損失を減少させるため応答性が良い制御系を選ぶことが好ましい。図5に示されている製造設備70では、巻取リール83での巻取速度を変化させることで制御している。なお、製造設備によっては他の箇所を調整することで線径変動を抑制する制御を行っても良い。例えば、プリフォームの加熱をレーザー加熱などのレスポンスが良い方法で行う際には、加熱熱量を制御しても良い。
プリフォーム12を延伸してPOF14として巻き取るまでの雰囲気は清浄に保つ必要がある。雰囲気中に塵埃があると、それが付着した際に、プリフォーム12の延伸が均一に出来なくなったり、溶融状態のプリフォーム12に貼りついてコブ状異物になったり、POF14の均一性、ひいては光学性能まで悪影響を及ぼす。このためクリーンボックス84によってPOF14の雰囲気を清浄に保つことが好ましい。クリーンボックス84には、クリーンガス導入装置85が取り付けられている。クリーンガス導入装置85からクリーンガスをクリーンボックス84内に導入することでクリーンボックス84内のクリーン度を所定の値に保つ。クリーン度としてはクラス10000以下が好ましく、3000以下がより好ましい。なお、図5では省略しているが、クリーンガス導入装置85にHEPAフィルタ等に通して塵埃を捕集した清浄空気を供給, 循環させる装置を設けることが好ましい。
POF14は、巻取リール83に巻き取られる。このときにPOF14の張力を張力測定装置86で測定してリール駆動装置87で張力を制御しながら巻取リール83に巻き取ることが好ましい。なお、本発明において得られるPOFの外径D1(μm)は特に限定されるものではない。しかしながら、外径D1(μm)は、200μm以上800μm以下であることが好ましく、より好ましくは250μm以上780μm以下、最も好ましくは300μm以上750μm以下である。
線引時の張力は、特開平7−234322号公報に記載されているように、POF14を配向させるために0.098N以上とすることが好ましい。また、特開平7−234324号公報に記載されているように、溶融延伸後にPOF14に歪みを残さないようにするために0.98N以下とすることが好ましい。但し、これら線引き時の張力は得られるPOFの直径やPOFを構成する材質により異なるため前記条件に限定されるものではない。また、特開平8−106015号公報に記載されているように、溶融延伸の際に予備加熱工程を実施する方法などを採用することもできる。以上の方法によって得られるPOFの破断伸びや硬度については、特開平7−244220号公報に記載の様に規定することでPOFの曲げや側圧特性を改善することができる。また、特開平8−54521号公報のように低屈折率の層を外周に設けて反射層として機能させてさらに伝送性能を向上させることもできる。
[保護層形成用材料]
本発明に用いられる保護層形成用材料には、POFに熱的ダメージ(例えば、変形,変性,熱分解など)を与えないものを選択する。そこで、POFを形成するポリマーのガラス転移温度Tg(℃)以下で、かつ(Tg−50)℃以上で硬化可能なポリマーを用いることが好ましい。また、生産コストの低減のために、成形時間(材料が硬化する時間)が1秒以上10分以下、好ましくは1秒以上5分以下であるものを用いることがより好ましい。なお、POFが複数のポリマーから形成される場合には、それら各ポリマーのガラス転移温度のなかで、最も低い温度のガラス転移温度をTg(℃)とみなす。なお、PVDFなどようにガラス転移温度Tg(℃)が常温以下(例えば、PVDFでは約−40℃)の場合や、ガラス転移温度を有さないポリマーの場合には、他の相転移温度、例えば融点を基準温度とする。
保護層形成用材料としては、ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP)などに代表される一般的なオレフィン系ポリマーや塩化ビニル,ナイロンなどの汎用性の高いポリマーのほかに、具体的に以下の材料を挙げることができる。これらは高い弾性を有しているため、曲げなどの機械的特性付与の観点でも効果がある。まず、ポリマーの一形態であるゴムを挙げることもできる。具体的には、イソプレン系ゴム(例えば、天然ゴム,イソプレンゴムなど),ブタジエン系ゴム(例えば、スチレン−ブタジエン共重合ゴム,ブタジエンゴムなど),ジエン系特殊ゴム(例えば、ニトリルゴム,クロロプレンゴムなど),オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−プロピレンゴム,アクリルゴム,ブチルゴム,ハロゲン化ブチルゴムなど),エーテル系ゴム,ポリスルフィド系ゴム,ウレタン系ゴムなどが挙げられる。
保護層形成用材料としては、室温で流動性を示して加熱することにより、その流動性が消失して硬化する液状ゴムを用いることができる。具体的には、ポリジエン系(例えば、基本構造がポリイソプレン,ポリブタジエン,ブタジエン−アクリロニトリル共重合体,ポリクロロプレンなど),ポリオレフィン系(例えば、基本構造がポリオレフィン,ポリイソブチレンなど),ポリエーテル系(例えば、基本構造がポリ(オキシプロピレン)など),ポリスルフィド系(例えば、基本構造がポリ(オキシアルキレンジスフィド)など),ポリシロキサン系(例えば、基本構造がポリ(ジメチルシロキサン)など)などを挙げることができる。
本発明において用いられる樹脂(マスターバッチのベースレジン含む)としては、エチレン,プロピレンあるいはα−オレフィンの重合体などの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの重合体としては、例えばエチレンの単独重合体、エチレン−α−オレフィンの共重合体、エチレン−プロピレン共重合体である。
これらの熱可塑性樹脂に金属水和物あるいはリン,窒素を含有し、着色剤である難燃性物質を配合したマスターバッチ(master batch)が併せて用いられる。マスターバッチとは、機能性添加剤を高濃度として樹脂に混合し混練したものである。添加剤はバルク樹脂と混練させるため、熱に対して安定な無機化合物を選択することが多く、その機能性としては、帯電防止のための導電性物質、難燃性物質、着色用の染料や顔料などが挙げられ、特に添加剤として着色剤を用いる場合に用いられる事が多い。またマスターバッチを作成する際に高濃度で分散させるため、さらに分散剤や滑剤を添加したり、添加剤を改質して製造されることもある。
本発明において用いられる添加剤としての無機微粒子は粒度の細かなものが好ましい。特にプラスチック光ファイバと接する最内層や最外層は粗い粒子が混入していると、光ファイバを傷つけたり、作業性が悪化するので好ましくない。
添加剤として具体的には限定されるものではないが、例えば導電性物質としては錫や亜鉛合金粉や銀等の貴金属微粒子、難燃性物質としては水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物などが挙げられ、着色の顔料としては、カーボンブラック,酸化チタン, 酸化ジルコニウムなどが好ましく用いられる。カーボンブラックは、低コストであり、光ファイバ用被覆材として用いる場合に、着色以外に制電性も有しているので静電気を帯びにくくなる、近赤外域に吸収を持つので外乱光の遮閉性に富むうえ、曲げなどで光ファイバの外部へ放出された光が再度戻ってくる事を抑制することを抑制するなど有利な点が多く、特に好ましい。
マスターバッチ中に含まれる添加剤の濃度は30.0重量%以下の範囲内であり、好ましくは5重量%以上20.0重量%以下の範囲内であり、更に好ましくは10.0重量%以上、15.0重量%以下の範囲内である。添加剤があまり少ないとマスターバッチとしての効果がなく、30重量%を超えて含有しているとマスターバッチが脆くなったり、分散性が低下する。
マスターバッチとバルク樹脂を混合して得られるポリマー中に含まれる好ましい添加剤の濃度は0.10重量%以上10.0重量%以下であり、より好ましくは0.15重量%以上5.0重量%以下であり、0.20重量%以上、3.0重量%以下であることが更に好ましい。0.10重量%未満であると実質的に添加剤の添加効果が発現しない、10重量を超えると、樹脂の流動性や靭性が損なわれ、被覆中に樹脂切れや外径変動等のトラブルが発生する。
また、本発明に用いられる熱可塑性樹脂及びマスターバッチの分子量(例えば、数平均分子量,重量平均分子量など),分子量分布,融点,メルトフローレートなどは特に限定されるものではない。メルトフローレートは、熱可塑性プラスチックの流れ試験方法(JIS K 7210 1916)により得られるメルトフローレート(MFR)が、樹脂の流動性の指標となる。MFRは、値が近い方が押し出しが均一になる。
バルク樹脂とマスターバッチとの樹脂温度が異なると、押出機内の流動が不均一になる(スクリューで押し出す量が変動する)ため、吐出変動が大きくなり、被覆後の外径も変動してしまう。そのためこれら樹脂の融点、バルク樹脂融点Ta(℃)とマスターバッチ融点Tb(℃)との温度差が小さい方が好ましい。
本発明では、熱可塑性樹脂の融点Ta(℃)とマスターバッチの融点Tb(℃)との差を
|Ta−Tb|℃≦25℃とすることが好ましく、より好ましくは
|Ta−Tb|℃≦10℃であり、最も好ましくは
|Ta−Tb|℃≦5℃である。
Taの方がTbよりも20℃より大きいと、熱可塑性樹脂の溶融は進むが、マスターバッチの溶融が進行しないため保護層の形成が困難となる。また、20℃より差が大きいと、熱可塑性樹脂あるいはマスターバッチを溶解させるために高温とする必要が生じる。この場合に、マスターバッチを構成しているベースレンジ(ベース樹脂)の分解が生じるおそれがある。
また、本発明においては、熱可塑性樹脂のメルトフローレートM1(g/10min)とマスターバッチのメルトフローレートM2(g/10min)との比を
(1/4)≦(M2/M1)≦(4/1)とすることが好ましく、より好ましくは
(1/2)≦(M2/M1)≦(2/1)であり、最も好ましくは
(1/1.5)≦(M2/M1)≦(1.5/1)である。
1/4よりも小さい場合あるいは、4/1よりも比が大きい場合には、熱可塑性樹脂とマスターバッチとの相溶性が劣る被覆材となり、均一な保護層の形成が困難となる。それにより、添加剤の分散に問題が生じたり、保護層の可撓性が失われたりするおそれがある。
本発明において、被覆材中の有色微粒子の含有量x(wt%)を
0.05≦x(wt%)≦20とすることが好ましく、より好ましくは
0.07≦x(wt%)≦10であり、最も好ましくは
0.1≦x(wt%)≦5である。
0.05wt%より少ないと添加剤の機能が十分発現しないおそれがある。また、20wt%を超えると、保護層のポリマーの可撓性が失われるおそれがある。
保護層の材料としてはさらには、熱可塑性エラストマー(TPE)なども用いることもできる。熱可塑性エラストマーは、室温ではゴム弾性を示し、高温で可塑化されて成形が容易である物質群である。具体的には、スチレン系TPE,オレフィン系TPE,塩化ビニル系TPE,ウレタン系TPE,エステル系TPE,アミド系TPEなどが挙げられる。なお、前記列記したポリマーは、POFのポリマー、特にコア部のポリマーのガラス転移温度Tg(℃)以下で成形可能なものであれば、特に上記材料に限定されず、各材料間もしくは上記以外の共重合体や混合ポリマーを用いることもできる。
また、ポリマー前駆体と反応剤などとを混合した液を熱硬化させるものを用いることができる。例えば、特開平10−158353号公報に記載のNCOブロックプレポリマーと微粉体コーティングアミンとから製造される1液型熱硬化性ウレタン組成物を挙げることができる。また、WO95/26374に記載のNCO基含有ウレタンプレポリマーと20μm以下の固形アミンとからなる1液型熱硬化性ウレタン組成物なども用いることもできる。その他に、性能を改善する目的で難燃剤,酸化防止剤,ラジカル捕獲剤,滑剤などの添加剤や、無機化合物及び/または有機化合物からなる各種フィラーを加えることができる。
[保護層の形成方法]
保護層の形成方法について以下に説明する。なお、保護層の形成に用いられる被覆装置は、延伸装置に直結して延伸と同時に(延伸直後に)一括して行っても差し支えない。
被覆ライン100は、従来から知られている電気ケーブルや石英ガラス製光ファイバと同様な被覆ラインを使用することができる。POF14は送出機101により冷却装置102に送り出される。POF14は、冷却装置102により5℃〜35℃の温度まで冷却される。POF14に保護層を形成する前に冷却を行うと、被覆時におけるPOF14の熱ダメージを軽減できるために好ましいが、省略することもできる。その後に被覆装置103によりPOF14に被覆材(熱可塑性樹脂)を被覆してプラスチック光ファイバ心線(光ファイバ心線)16を得る。なお、この被覆については、後に詳細に説明する。
光ファイバ心線16は、第1ないし第3冷却用水槽104,105,106により徐々に冷却されることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂にポリエチレンを用いる場合の具体例を挙げる。溶融温度は120℃〜130℃、搬送速度は20m/min〜50m/min、第1冷却用水槽104は水温を40℃〜80℃、光ファイバ心線16の水槽内通過時間(以下、通過時間と称する)が0.1min〜0.2min、第2冷却用水槽105は水温を20℃〜50℃、通過時間が0.1min〜0.2min、第3冷却用水槽106は水温を5℃〜20℃、通過時間が0.1min〜0.2minとなるようにすることが好ましいが、勿論前記数値範囲に限定されるものではない。また、冷却用水槽の数も3個に限定されるものではない。本発明においては、段階的に冷却する数は、2〜6が好ましく、3〜5がより好ましく、3〜4が最も好ましい。
光ファイバ心線16は、水分除去装置107によりその表面に付着している水分が除去される。そして、ローラ108により搬送されて巻取機109に巻き取られる。なお、図6では、POF14を送出機101から供給する形態を示したが、本発明に用いられる被覆ライン100は図示した形態に限定されるものではない。例えば、POF形成用の製造設備70(図7参照)を一体に組み込んだラインを用いることもできる。この場合には、製造設備70によりプリフォーム12から連続的にPOF14が供給され、そのPOF14に連続的に被覆材を被覆することで、連続して光ファイバ心線16を得ることができる。
図7には、被覆装置103に備えられているダイス120とニップル121とを示す。ダイス120とニップル121とは、その隙間が被覆材の樹脂流路122,123が形成されるようにダイス120内にニップル121が嵌め込められている。ダイス120,ニップル121には、被覆材に流動性を持たせるために温調機124,125が取り付けられている。また、被覆材を供給する押出機126が配管127,128を介して接続している。
ダイス120の光ファイバ心線出口120aの径(以下、ダイス径と称する)をTA(μm)、ニップル先端121aの外径(以下、ニップル外径と称する)をTB1(μm)、POF14が搬送される孔121bの径(以下、ニップル内径と称する)をTB2(μm)とする。ダイス120の先端120bから樹脂流路122,123の出口までの長さ(以下、ランドと称する)をL1とする。また、ダイス120とニップル121とのクリアランスで形成される樹脂流路122,123のPOF14の搬送方向長さ(以下、クリアランスと称する)をL2(μm)とする。
本発明においてダイス120とニップル121との形態は特に限定されるものではない。具体的には、ダイス径TAは1200μm〜1400μm、ランド長さL1は2000μm〜4000μm、ニップル外径TB1は1000μm〜1400μm、ニップル内径TB2は350μm〜600μm、クリアランス長さL2は1500μm〜3000μmである例が挙げられる。
熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレン)129とマスターバッチ(例えば、ベースレジンにポリエチレンを用い、顔料にカーボンブラックを15重量%含有させたもの)130とが押出機126により樹脂流路122,123に送液される。なお、押出機126内で熱可塑性樹脂129とマスターバッチ130とが混合されて被覆材131となる。被覆する際の被覆材131の温度(被覆温度)は、POF14に移動する熱量を低減するためにも可能な程度に低くすることが好ましい。例えば、140℃以下とすることが好ましく、より好ましくは130℃以下とすることである。なお、被覆温度の下限値は、特に限定されるものではないが、被覆材131が流動性を有する温度以上とする必要がある。そこで、例えば、100℃以上が好ましく、より好ましくは120℃以上である。
POF14の搬送速度は、特に限定されるものではないが、10m/min以上100m/min以下の範囲であることが好ましい。10m/min未満であると、生産性が悪化しコスト高の原因となる。さらには、加熱されているニップル121内の空隙を通過する時間が長くなるため、ニップル121からの放射熱によりPOF14に熱ダメージが生じるおそれがある。また、搬送速度を100m/minより速くすると被覆材131とPOF14との密着性が劣り、被覆材131の剥離や樹脂の結晶化による機械的特性の変化などの問題が生じるおそれがある。被覆材131は、POF14の外周面を被覆して保護層132が形成される。保護層132が形成されたPOF14は、光ファイバ心線16となる。
以上説明したダイス120とニップル121とからなる金型を用いることで、POF14へ熱可塑性樹脂122の被覆を容易に行うことが可能となり、POF14への熱ダメージや保護層形成不良などのトラブルの発生を防止できる。また、POF14の直径D1(μm)は、200μm以上1500μm以下であることが好ましく、より好ましくは200μm以上800μm以下のものを用いることである。この場合に、被覆時の保護層129の厚みTC(μm)が100μm以上1000μm以下、より好ましくは200μm以上800μm以下、最も好ましくは300μm以上600μm以下である。
本発明に係るプラスチック光ファイバ心線16の断面を図8に示す。光ファイバ心線16の中心にコア部14aがあり、その周囲をクラッド部14bが覆っている。さらに、クラッド部の外周部に保護層129が形成されている。保護層129の厚みt(μm)は、100μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは200μm以上800μm以下であり、最も好ましくは300μm以上600μm以下である。また、POFのコア部14aとクラッド部14bとの屈折率分布の概略図を図9に示す。コア部14aの屈折率は、その中心が最も屈折率が高く、半径方向に向けて略2乗分布的に低下している。そして、クラッド部14bの屈折率は、コア部14aの屈折率よりも小さいことで、その界面で光が全反射して光がコア部14a内を伝送する。また、コア部14aには、PMMAや重水素化PMMAを用いることが好ましい。また、このような屈折率分布を有するGI型POFは、前記プリフォームの製造方法の第1の形態により製造されたプリフォームから製造することができる。
本発明のプラスチック光ファイバ心線に用いられるPOFの他の屈折率分布を有するものの屈折率分布形状の概略図を図10に示す。コア部140は、中心が最も高屈折率で半径方向に向けて略2乗分布的に屈折率が低下するインナーコア部141とインナーコア部141を形成するための壁面となるアウターコア部142とから形成されている。さらに、その外周方向にコア部140内の光を全反射するためにコア部140より低屈折率のクラッド部143が形成されている。なお、このような屈折率を有するPOFは、前記プリフォームの製造方法の第2の実施形態により製造されるプリフォームから製造することができる。
POFには、コア部の屈折率分布がその中心が最も高くなっており、半径方向に向けて段階的に低くなる形状であるものを用いることもできる。その形態は、マルチステップインデックス型(MSI型)と称されるものである。その他、本発明に用いられるPOFには、ステップインデックス型(SI型)やシングルモード型(SM型)のものを用いることもできる。
[被覆の構造]
POF,プラスチック光ファイバ素線及び光ファイバ心線を被覆することにより、プラスチック光ファイバケーブル(光ファイバケーブル)18が得られる。例えば、光ファイバ心線16を用いて第2被覆工程17を行うことで光ファイバケーブル18が得られる。第2被覆工程17においては、その被覆の形態として、最外層の被覆材とPOFなどとの界面が全周にわたって接して被覆されている密着型の被覆と、最外層の被覆材とPOFなどとの界面に空隙を有するルース型被覆がある。ルース型被覆では、たとえばコネクタとの接続部において被覆層を剥離した場合、その端面の空隙から水分が浸入して長手方向に拡散されるおそれがあるため、通常は密着型が好ましい。
しかし、ルース型の被覆の場合、最外層被覆材とPOFなどとが密着していないので、光ファイバケーブルにかかる応力や熱を始めとするダメージの多くを被覆層で緩和させることができる。そのため、POFにかかるダメージを軽減させることができ、使用目的によっては好ましく用いることができる。水分の伝播については、空隙部に流動性を有するゲル状の半固体や粉粒体を充填することで、端面からの水分伝播を防止でき、かつ、これらの半固体や粉粒体に耐熱や機械的機能の向上などの水分伝播防止と異なる機能をあわせ持つようにすることでより高い性能の被覆を形成できる。なお、ルース型の被覆を製造するには、クロスダイヘッドの押出口ニップルの位置を調整し減圧装置を加減することで空隙層を作ることができる。空隙層の厚みは前述のニップル厚みと空隙層を加圧/減圧することで調整可能である。
最外層には、難燃剤や紫外線吸収剤,酸化防止剤,ラジカル捕獲剤,昇光剤,滑剤などを添加しても良い。また、光学特性に影響を及ぼさない限り1次被覆層などにも添加は可能である。
なお、難燃剤については臭素を始めとするハロゲン含有の樹脂や添加剤やリン含有のものがあるが、毒性ガス低減などの安全性の観点で難燃剤として金属水酸化物を用いることが好ましい。金属水酸化物はその内部に結晶水として水分を有しており、またその製法過程で付着水が完全に除去できないため、金属水酸化物による難燃性被覆は、最外層被覆として設けることが望ましい。
また、複数の機能を付与させるために、様々な機能を有する被覆を積層させても良い。例えば、難燃化以外に、POFの吸湿を抑制するためのバリア層や水分を除去するための吸湿材料、例えば吸湿テープや吸湿ジェルを被覆層内や被覆層間に有することができ、また可撓時の応力緩和のための柔軟性素材層や発泡層などの緩衝材,剛性を挙げるための強化層など、用途に応じて選択して設けることができる。樹脂以外にも構造材として、高い弾性率を有する繊維(いわゆる抗張力繊維)および/または剛性の高い金属線などの線材を熱可塑性樹脂に含有すると、得られる光ファイバケーブルの力学的強度を補強することができることから好ましい。
抗張力繊維としては、例えば、アラミド繊維,ポリエステル繊維,ポリアミド繊維が挙げられる。また、金属線としてはステンレス線,亜鉛合金線,銅線などが挙げられる。いずれのものも前述したものに限定されるものではない。その他に保護のための金属管の外装,架空用の支持線や,配線時の作業性を向上させるものを組み込むことができる。
また、光ファイバケーブルの形状は使用形態によって、POFを同心円上にまとめた集合ケーブルや、1列に並べたテープ心線と言われる態様、さらにそれらを押え巻やラップシースなどでまとめた集合ケーブルなど用途に応じてその形態を選ぶことができる。
また、本発明により製造される光ファイバケーブルは、軸ズレに対して従来の光ファイバケーブルに比べて許容度が高いため突き合わせによる接合でも用いることができるが、端部に接続用光コネクタを用いて接続部を確実に固定することが好ましい。コネクタとしては一般に知られている、PN型,SMA型,SMI型などの市販の各種コネクタを利用することも可能である。
[光伝送体システム]
本発明により製造される光ファイバケーブルを用いて光信号を伝送するシステムは、種々の発光素子や受光素子、光スイッチ、光アイソレータ、光集積回路、光送受信モジュールなどの光部品を含む光信号処理装置等で構成される。また、必要に応じて他の光ファイバなどと組み合わせてもよい。それらに関連する技術としてはいかなる公知の技術も適用でき、例えば、プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などを参考にすることができる。前記文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、コンピュータや各種デジタル機器内の装置内配線、車両や船舶などの内部配線、光端末とデジタル機器、デジタル機器同士の光リンクや一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LAN等をはじめとする、高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途などの短距離に適した光伝送システムに好適に用いることができる。
さらに、IEICE TRANS. ELECTRON., VOL. E84-C, No.3, MARCH 2001, p.339-344 「High-Uniformity Star Coupler Using Diffused Light Transmission」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3, No.6, 2000 476頁〜480頁「光シートバス技術によるインタコネクション」の記載されているものや、特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号等の各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号等の各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号等の公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号等の各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号等に記載の光信号処理装置;特開2001−86537号等に記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号等に記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号等の各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などと組み合わせることで、多重化した送受信などを使用した、より高度な光伝送システムを構築することができる。以上の光伝送用途以外にも照明、エネルギー伝送、イルミネーション、センサ分野にも用いることができる。