JP2006057507A - ピストンリング及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 耐摩耗性及び耐スカッフ性に優れているとともに、相手攻撃性の低いピストンリング及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 金属マトリックス中に平均粒径2μm以下の等軸状炭化物粒子が分散した複合組織からなる溶射皮膜を、少なくとも外周摺動面に設けたピストンリング。
【選択図】 図2

Description

本発明は、溶射皮膜を被覆したピストンリング及びその製造方法に関し、詳しくは高出力ディーゼルエンジン用途に有用なピストンリング及びその製造方法に関する。
地球環境保護の一環として、自動車の燃費向上や排気ガス浄化が強く求められている。中でもディーゼルエンジンについては、排出ガス規制の強化により、燃料噴射システムが変更され、クールドEGR(Exhaust Gas Re-circulation)方式が採用されるようになってきている。クールドEGR方式では、一度排出したガスを燃焼室に戻す際、燃焼によって高温化した排出ガスをクーラーで冷却してから吸気側に送り込み、再び吸入空気と混合するので、通常のEGR方式より燃焼温度が低下し、優れたNOx低減効果が得られる。
しかしクールドEGR方式では、最大燃焼圧力が増大するとともに、高圧になる期間が長くなるので、リングの温度上昇が大きい。さらにクールドEGR方式では、高腐食性の排出ガスが冷却されるので、排出ガス中の腐食成分と水分と燃焼生成物とが、結合又は混合した状態でシリンダ内に入り込んでくる。そのためリング外周摺動面及び下側面の潤滑性能が悪化し、スカッフの発生や摩耗が増大する。
これまでディーゼルエンジン用トップリングには、サーメット系の溶射皮膜が使用されてきた。特にCr2C3-NiCr系サーメットからなる溶射皮膜の形成方法については、混合粉末のプラズマ溶射[特開平3-172681号(特許文献1)]から、焼結粉末の高速フレーム溶射[特開2003-336742号(特許文献2)]、さらに急速凝固により微粒化された粉末(アトマイズ粉末)の高速フレーム溶射[特開平10-110206号(特許文献3)及び特開平11-350102号(特許文献4)]へと改良されてきている。これらはCr2C3-NiCr系サーメット粒子を微細化する技術の改良と、構成粒子の粗大化防止技術の改良に基づいている。
特許文献3及び4のCr2C3-NiCr系アトマイズ粉末を高速フレーム溶射したピストンリングは、特許文献1の混合粉末をプラズマ溶射したピストンリングや、特許文献2の焼結粉末を高速フレーム溶射したピストンリングに比べれば遙かに性能が向上したが、クールドEGR方式の高出力ディーゼルエンジンに使用した場合、厳しい摩擦潤滑条件となるため、まだ十分な寿命を有するまでに至っていないのが実情である。よって高温、高圧及び腐食環境下で、且つ厳しい摩擦潤滑条件下において、耐摩耗性及び耐スカッフ性をさらに向上し、相手攻撃性をさらに低下させることが望まれる。これらの性能を向上するには、皮膜に含まれる硬質粒子を微細化する必要があるが、特許文献3及び4の方法による溶射皮膜中のCr2C3粒子の平均粒径は2〜4μmであったので、硬質粒子をさらに微細化し、また被膜を緻密化することが必要と考えられる。
溶射又は肉盛用粉末としては、Cr2C3-NiCr系サーメット粉末の他に、Fe-Mo-S系粉末[特開2001-172756号(特許文献5)]、(Fe, Co, Ni)-VC系粉末[特開平6-200339号(特許文献6)]、(Co, Ni, Cr, Mo)-VC系粉末[屋代利明,「肉盛・溶射用粉末」,電気製鋼,電気製鋼研究会,2001年4月,第72巻,第2号,pp. 123-126(非特許文献1)]等も知られている。
特許文献5の溶射粉末は、Feを主成分とし、Sを1〜5重量%、Moを18〜35質量%含有するので、従来のFe-Mo-S系粉末に比べて耐磨耗性が改善されている。しかし特許文献5のFe-Mo-S系アトマイズ粉末は、皮膜強度向上のために炭素を添加すると、溶射時に脆弱なM6C型の化合物が析出する場合があった。
特許文献6の肉盛用粉末はFe基合金、Co基合金及びNi基合金からなる群から選ばれた少なくとも一種のマトリックス金属相中に、5μm以下の粒径を有するVC粒子相がほぼ均一に析出した組織からなる。特許文献6の肉盛用粉末を用いた皮膜は、VC微粒子が比較的安定に析出するため、バナジウムを含まない組成の粉末を用いた皮膜に比べて耐食性及び耐摩耗性が改善されている。非特許文献1には、(Co, Ni, Cr, Mo)-VC系の合金粉を用いて高速フレーム溶射して得られた皮膜はVCが微細分散しており、同組成の混合粉を高速フレーム溶射して得られた皮膜に比べて耐食性及び耐摩耗性が向上したことが記載されている。
しかし特許文献6及び非特許文献1の溶射又は肉盛用粉末は、バナジウム及び炭素の含有率を最適化していないため、バナジウム炭化物の微細化が不十分な場合があり、これらの粉末を高速フレーム溶射したピストンリングをクールドEGR方式の高出力ディーゼルエンジンに使用しても、必ずしも耐摩耗性及び耐スカッフ性に優れておらず、相手攻撃性も十分低くない場合があった。
特開平3-172681号公報 特開2003-336742号公報 特開平10-110206号公報 特開平11-350102号公報 特開2001-172756号公報 特開平6-200339号公報 屋代利明,「肉盛・溶射用粉末」,電気製鋼,電気製鋼研究会,2001年4月,第72巻,第2号,pp. 123-126
従って、本発明の目的は、耐摩耗性及び耐スカッフ性に優れているとともに、相手攻撃性の低いピストンリング及びその製造方法を提供することである。
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、金属マトリックス中に平均粒径2μm以下の等軸状炭化物粒子が分散した溶射皮膜を設けることにより、耐摩耗性及び耐スカッフ性に優れているとともに、相手攻撃性の低いピストンリングが得られることを見出し、本発明に想到した。
すなわち、本発明のピストンリングは、少なくとも外周摺動面に溶射皮膜が被覆されており、前記溶射皮膜は金属マトリックス中に平均粒径2μm以下の等軸状炭化物粒子が分散した複合組織からなることを特徴とする。
前記等軸状炭化物粒子はバナジウム炭化物からなるのが好ましい。前記金属マトリックスはコバルト系金属からなるのが好ましい。前記コバルト系金属マトリックスはコバルト金属からなるか、Ni、Cr及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種を含むコバルト合金からなるのが好ましい。
本発明のピストンリングは、特にディーゼルエンジン用途に好適である。
本発明のピストンリングの製造方法は、コバルト系金属、バナジウム及び炭素からなるCo-V-C系アトマイズ粉末を、ピストンリングの少なくとも外周摺動面に高速フレーム溶射するものであって、前記Co-V-C系アトマイズ粉末中の炭素含有率が3〜5質量%であり、バナジウム含有率が12〜25質量%であることを特徴とする。
本発明のピストンリングは、金属マトリックス中に平均粒径2μm以下の等軸状炭化物粒子が分散した溶射皮膜を有するので、耐摩耗性及び耐スカッフ性に優れているとともに、相手攻撃性が低く、しかも長寿命である。このため本発明のピストンリングは、特にクールドEGR方式の高出力ディーゼルエンジン用ピストンリングとして有用であり、中でもトップリング用途に好適である。
[1] ピストンリング
(1) 構造
本発明のピストンリングは少なくとも外周摺動面に溶射皮膜が形成されている。溶射皮膜は、基材の外周に溝を削設して溶射材を埋設することにより形成されるインレイド型でもよいし、外周面全面に溶射材を堆積することにより形成されるフルフェイス型でもよい。ピストンリングの外周形状は特に制限されず、外周研磨等で作製可能な形状であればバレルフェース形状、偏心バレルフェース形状、テーパ形状等のいかなる形状であってもよい。外周面を除いた少なくとも側面に無電解メッキ皮膜を形成してもよい。
(2) 基材
基材は金属系の材料であれば特に制限はなく、ピストンリングに用いる通常の材料であってよい。好ましい例としては、鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、高級鋳鉄、チタン合金等が挙げられる。マルテンサイト系ステンレス鋼としては、SUS440A、SUS440B、SUS440C、SUS440F等が挙げられる。
(3) 溶射被膜
溶射皮膜は、金属マトリックス中に平均粒径2μm以下の等軸状炭化物粒子が均一に分散した複合組織からなる。ここで平均粒径とは、顕微鏡観察により50個以上の炭化物粒子について測定した粒径を平均することにより求めたものである。金属マトリックスとしてはコバルト系金属が好ましい。コバルト系金属としてはコバルト金属又はコバルト合金が使用できる。コバルト合金が含む他の金属としてはNi、Cr、Mo、W、Fe、Si等が挙げらるが、Ni、Cr及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。コバルト合金のコバルト含有率は合金全体を100質量%として40質量%以上であるのが好ましい。マトリックスとしてコバルト系金属を用いることにより、ニッケル系合金を用いる場合に比べて耐熱性及び耐食性に優れた溶射被膜が得られる。
炭化物が等軸状粒子であり、かつその平均粒径が2μm以下であることにより、ピストンリングの耐摩耗性及び耐スカッフ性が向上する。また相手攻撃性も著しく低下するのでシリンダライナの摩耗も少なくなる。等軸状炭化物粒子の平均粒径は1.5μm以下であるのが好ましく、1.2μm以下であるのがより好ましい。炭化物は等軸状粒子であり、かつその平均粒径が2μm以下である限り特に制限はない。但し炭化物粒子の形状はその結晶型によって決定されるので、等軸状粒子を形成できる組成の炭化物を選択する。等軸状炭化物粒子はバナジウム炭化物(VC、V2C)からなるのが好ましい。
[2] ピストンリングの製造方法
(1) 前処理
溶射皮膜を形成する前にピストンリングを専用治具にセットし、外周を粗面化するための下地処理を施す。下地処理としてはブラスト処理(ショットブラスト等)、研磨処理等の公知の方法を用いてよく、ブラスト処理を用いるのが好ましい。下地処理後の表面粗さ(Rz)は10点平均粗さで5μm以上が好ましく、10〜30μmがより好ましい。表面粗さ(Rz)が5μmより小さいと溶射皮膜の密着性が低下する。下地処理を施すことにより、溶融粒子が母材の凸部に衝突した際に、凸部が局部溶融を起こして合金化しやすくなり、また機械的にも溶融粒子の凝固収縮応力によるアンカー効果が生じて皮膜の接着が強固となる。さらに、溶射直前にピストンリングを約100℃に予熱した後、フレームによりピストンリングの表面をクリーニングするのが好ましい。これによりピストンリングの表面が活性化し、溶射後に母材と皮膜との間に相互拡散層が形成され、母材と皮膜が強固に接合する。
(2) 溶射皮膜形成
(a) 溶射粉末
溶射粉末としては、3〜5質量%の含有率の炭素及び12〜25質量%の含有率のバナジウムが、上記コバルト系金属中に分散した粉末(Co-V-C系粉末)が好ましい。このような組成のCo-V-C系粉末を使用することにより、溶射皮膜中のバナジウム炭化物の平均粒径を2μm以下に微細化できる。さらに上記組成のCo-V-C系粉末から析出するバナジウム炭化物は等軸状粒子であるので、Cr2C3-NiCr系アトマイズ粉末から析出したクロム炭化物からなる樹枝状や非等軸状の粒子と異なり、溶射皮膜の耐摩耗性及び耐スカッフ性を向上させるとともに、相手攻撃性を低下させることができる。
一般的に、初晶が晶出する組成の共晶合金では、まず比較的粗大な初晶が晶出し、残りの部分を共晶組織が埋めていく。炭化物が初晶として晶出する場合、比較的粗大な炭化物と微細な共晶炭化物が形成される。よって耐摩耗性の観点からは、組織全体を共晶組織とするのが好ましい。V-C状態図によれば、炭素量が約4質量%の位置にVとV2Cの共晶点があり、Co-C状態図によれば、炭素量が約3質量%の位置にCoとCo3Cの共晶点がある。よって炭素含有率の上限の目安として約5質量%以下であれば、V2CやCo3C等の炭化物の粗大な初晶は晶出しないことが確認できた。またバナジウム炭化物の生成自由エネルギーは極めて低いので、Co3C等のコバルト炭化物が生成しても最終的にはCo-VC系の材料及び/又はCo-V2C系の材料となる。但し炭素含有率が3質量%未満であると、バナジウム炭化物の生成量が少ないため、耐摩耗性及び耐スカッフ性が十分でない。炭素含有率は3.5〜4.5質量%であるのがより好ましい。
バナジウムの含有率が12質量%未満であるとバナジウム炭化物の生成量が少なく、耐摩耗性及び耐スカッフ性に劣り、一方25質量%を超えるとバナジウム炭化物の生成量が多くなりすぎて溶射皮膜を脆化させるので好ましくない。バナジウム含有率は14〜23質量%であるのがより好ましい。
Co-V-C系固溶体粉末から析出したバナジウム炭化物は特に微細となるので、Co-V-C系粉末は、コバルト系金属とバナジウム炭化物源との固溶体の割合が多いほど好ましい。
Co-V-C系粉末の製造方法について説明する。まず炭素及びバナジウムが上記組成範囲となるように、コバルト系金属源及びバナジウム炭化物源からなる原料混合物を調製する。バナジウム炭化物源としては、バナジウム炭化物(VC、V2C)だけでなく、バナジウム及びカーボンを適宜使用してよい。粉末化には公知の方法を用いてよいが、急速凝固微粒化法によって溶融物からバナジウム炭化物の微粒子を析出させる方法が好ましい。急速凝固微粒化法を用いることにより、コバルト系金属からなるマトリックス中に平均粒子径が2μm以下のバナジウム炭化物の微粒子が分散した粉末(Co-V-C系アトマイズ粉末)が得られる。Co-V-C系アトマイズ粉末の平均粒径は38〜150μmが好ましく、45〜75μmがより好ましい。Co-V-C系アトマイズ粉末は必要に応じて分級してもよい。
急速凝固微粒化法は特に限定されず、ガス微粒化法、水微粒化法、プラズマアトマイズ法、回転円盤法等の公知の方法を用いることができるが、バナジウム炭化物の粒子径を制御でき、凝固過程でバナジウム炭化物の微粒子をマトリックス中に均一に分散させることが可能な方法が好ましい。Co-V-C系固溶体の割合を増加させる観点から、凝固速度が比較的速い水微粒化法、回転円盤法が好ましい。
(b) 溶射方法
溶射は高速フレーム溶射法によるのが好ましい。高速フレーム溶射法は溶射粉末を高速で溶射できるので、溶射粉末中の微細なバナジウム炭化物が粗大化することなく当初のサイズをほぼ維持できる。プラズマ溶射のように原料を溶融させる方法は、溶射粉末中の微細なバナジウム炭化物が粗大化するので好ましくない。高速フレーム溶射法としては、高速酸素火炎(HVOF:High Velocity Oxygen Fuel)溶射法又は高速空気火炎(HVAF:High Velocity Air Fuel)溶射法がより好ましい。フレーム速度は高速であるほどよく、例えば、1200 m/秒以上が好ましい。溶射粉末の粒子速度は500 m/秒以上が好ましい。高速フレーム溶射により溶射皮膜を通常50〜700μmの厚さに形成し、好ましくは100〜600μmの厚さに形成する。50μm未満では耐摩耗性が不足し、700μmを超えると剥離しやすくなる。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
実施例1〜6
(i) 溶射用アトマイズ粉末の調製
コバルト金属又はコバルト合金、並びにバナジウム又はバナジウム炭化物及びカーボン粉末を用いて、表1に示す組成の原料混合物を調製した。各原料混合物を、溶解、脱酸したのち、ガスアトマイズ法により粉末を作製した。得られた粉末を分級して200メッシュ以下の溶射用アトマイズ粉末を調製した。
(ii) テストピースの作製
5 mm×5 mm×20 mmのマルテンサイト系ステンレス鋼材の先端部を10 Rに加工し、溶射被膜の密着性をよくするために粒径#20のアルミナ粒子によるグリッドブラスト処理を行って粗面化した。上記各溶射用アトマイズ粉末を用いて、酸素を燃焼ガスとするHVOF溶射機[ダイヤモンドジェットガン(SULZER METCO社製)]により、鋼材の粗面に溶射皮膜を形成した。溶射条件はフレーム速度を1400 m/秒とし、粒子速度を600 m/秒とした。皮膜の厚さは300μmとした。溶射後の被膜を研磨し、ラッピング仕上げを行って表面粗さ(10点平均粗さ)を0.3μmに調節することにより摩耗試験用テストピースを作製した。炭化物の平均粒径は、溶射皮膜の走査電子顕微鏡写真中の50個の炭化物粒子について測定した粒径を平均することにより求めた。
(iii) 摩耗試験
溶射皮膜を形成したテストピースの耐摩耗性と相手攻撃性を評価した。摩耗試験は、FC250の鋳鉄からなるφ80 mm×300 mmのドラム型のシリンダライナ材を相手材として、図1に示すピン−ドラム式の摩耗試験機を用いて行った。試験機は、回転可能なドラム型シリンダライナ材7と、シリンダライナ材7の外周面に摺接するテストピース4を押圧するアーム2と、アーム2の一端に取り付けられた重錘3と、アーム2の他端に取り付けられたバランサ5と、テストピース4とバランサ5との間でアーム2を支えている支点1とからなる。シリンダライナ材7は駆動装置(図示せず)によって所定の速度で回転すると共に、ヒータ6を内蔵して所望の温度に調節し、テストピース4の湾曲面と摺接する。その際、シリンダライナ材7とテストピース4とが摺接する部位に潤滑油8を注油する。アーム2がテストピース4をシリンダライナ材7方向へ押圧する力(テストピース4とシリンダライナ材7との接触面圧となる)は、重錘3の質量を変えることにより変化させることができる。
試験条件は、シリンダライナ材7の温度を80℃に設定し、腐食環境を作るため潤滑油8の代わりにpH2のH2SO4を1.5 cm3/分で滴下し、重錘3を50 kgとし、速度を0.5 m/秒とし、時間を240分とした。結果を表1に示す。
比較例1〜3
表1に示す組成の各原料混合物を用いた以外は実施例1と同様にして、摩耗試験用テストピースを作製した。得られたテストピースを用いて実施例1と同様にして、摩耗試験を行った。結果を表1に示す。
表1から実施例1〜6では、極めて良好な耐摩耗性を示し、かつ相手材の摩耗量も少ないことが確認された。これに対して比較例1ではバナジウム含有率が12質量%未満であり、かつ炭素含有率が3質量%未満であり、バナジウム炭化物の含有量が少ないため、特に耐摩耗性に劣っており、相手材の摩耗量も多かった。比較例2では炭素含有率が5質量%超であり、比較例3ではバナジウム含有率が25質量%超でありかつ炭素含有率が5質量%超であるため、ともに炭化物の平均粒径が2μmを超えており、相手攻撃性が比較的高かった。また比較例2及び3では皮膜が脆く、クラックが生じた。
実施例7
外径が122 mmであり、幅が3 mmであり、外周中央部に深さ0.05 mmの溝が形成されたマルテンサイト系ステンレス鋼製のピストンリングを作製した。このピストンリングの溝部に実施例1と同様にして、グリッドブラスト処理を施すことにより粗面化した。粗面化したピストンリングを50本重ね合わせ、それらの粗面に、実施例2と同じ組成のアトマイズ粉末を用いて、実施例1と同じ条件のHVOF溶射を行い、500μmの皮膜を形成した。得られた各ピストンリングは、外周面をBF(Barrel Face)形状に研削し、さらにカーボランダム砥粒を用いたラッピング研磨を行って溶射皮膜の表面粗さ(10点平均粗さ)を0.35μmに仕上げた。皮膜組織の走査電子顕微鏡写真を図2に示す。図2から、灰色の金属マトリックス中に、暗黒色の極めて微細な等軸状バナジウム炭化物粒子(粒径:約1μm)が比較的均一に分散していることが観察される。
比較例4
Cr2C3-NiCr系アトマイズ粉末を用いた以外は実施例7と同様にして、ピストンリングを作製した。
実施例7及び比較例4のピストンリングについて、ディーゼルエンジンによる実機評価を行った。実機試験用エンジンとして、排気量が12 Lであり、直噴(DI)ターボインタークーラー付きであり、クールドEGR方式のものを用いた。運転条件を2,300 rpm全負荷とし、摩耗、腐食ともに厳しい条件で評価した。その結果、実施例7では、比較例4に比べ、リング摩耗量、ライナ摩耗量が共に1/2〜2/3に改善されることが分かった。
ピン−ドラム式摩耗試験機の概略図である。 実施例7のピストンリングに形成された溶射皮膜組織の走査電子顕微鏡写真(×1000)である。
符号の説明
1・・・支点
2・・・アーム
3・・・重錘
4・・・テストピース材
5・・・バランサ
6・・・ヒータ
7・・・ドラム型シリンダライナ材
8・・・潤滑油

Claims (7)

  1. 少なくとも外周摺動面に溶射皮膜を被覆したピストンリングにおいて、前記溶射皮膜は金属マトリックス中に平均粒径2μm以下の等軸状炭化物粒子が分散した複合組織からなることを特徴とするピストンリング。
  2. 請求項1に記載のピストンリングにおいて、前記等軸状炭化物粒子はバナジウム炭化物からなることを特徴とするピストンリング。
  3. 請求項1又は2に記載のピストンリングにおいて、前記金属マトリックスはコバルト系金属からなることを特徴とするピストンリング。
  4. 請求項3に記載のピストンリングにおいて、前記コバルト系金属マトリックスはコバルト金属からなるか、Ni、Cr及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種を含むコバルト合金からなることを特徴とするピストンリング。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のピストンリングからなることを特徴とするディーゼルエンジン用ピストンリング。
  6. コバルト系金属、バナジウム及び炭素からなるCo-V-C系アトマイズ粉末を、ピストンリングの少なくとも外周摺動面に高速フレーム溶射するピストンリングの製造方法であって、前記Co-V-C系アトマイズ粉末中の炭素含有率が3〜5質量%であり、バナジウム含有率が12〜25質量%であることを特徴とするピストンリングの製造方法。
  7. 請求項6に記載のピストンリングの製造方法において、前記コバルト系金属はコバルト金属からなるか、Ni、Cr及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種を含むコバルト合金からなることを特徴とするピストンリングの製造方法。
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