JP2006057507A - ピストンリング及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 金属マトリックス中に平均粒径2μm以下の等軸状炭化物粒子が分散した複合組織からなる溶射皮膜を、少なくとも外周摺動面に設けたピストンリング。
【選択図】 図2
Description
(1) 構造
本発明のピストンリングは少なくとも外周摺動面に溶射皮膜が形成されている。溶射皮膜は、基材の外周に溝を削設して溶射材を埋設することにより形成されるインレイド型でもよいし、外周面全面に溶射材を堆積することにより形成されるフルフェイス型でもよい。ピストンリングの外周形状は特に制限されず、外周研磨等で作製可能な形状であればバレルフェース形状、偏心バレルフェース形状、テーパ形状等のいかなる形状であってもよい。外周面を除いた少なくとも側面に無電解メッキ皮膜を形成してもよい。
基材は金属系の材料であれば特に制限はなく、ピストンリングに用いる通常の材料であってよい。好ましい例としては、鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、高級鋳鉄、チタン合金等が挙げられる。マルテンサイト系ステンレス鋼としては、SUS440A、SUS440B、SUS440C、SUS440F等が挙げられる。
溶射皮膜は、金属マトリックス中に平均粒径2μm以下の等軸状炭化物粒子が均一に分散した複合組織からなる。ここで平均粒径とは、顕微鏡観察により50個以上の炭化物粒子について測定した粒径を平均することにより求めたものである。金属マトリックスとしてはコバルト系金属が好ましい。コバルト系金属としてはコバルト金属又はコバルト合金が使用できる。コバルト合金が含む他の金属としてはNi、Cr、Mo、W、Fe、Si等が挙げらるが、Ni、Cr及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。コバルト合金のコバルト含有率は合金全体を100質量%として40質量%以上であるのが好ましい。マトリックスとしてコバルト系金属を用いることにより、ニッケル系合金を用いる場合に比べて耐熱性及び耐食性に優れた溶射被膜が得られる。
(1) 前処理
溶射皮膜を形成する前にピストンリングを専用治具にセットし、外周を粗面化するための下地処理を施す。下地処理としてはブラスト処理(ショットブラスト等)、研磨処理等の公知の方法を用いてよく、ブラスト処理を用いるのが好ましい。下地処理後の表面粗さ(Rz)は10点平均粗さで5μm以上が好ましく、10〜30μmがより好ましい。表面粗さ(Rz)が5μmより小さいと溶射皮膜の密着性が低下する。下地処理を施すことにより、溶融粒子が母材の凸部に衝突した際に、凸部が局部溶融を起こして合金化しやすくなり、また機械的にも溶融粒子の凝固収縮応力によるアンカー効果が生じて皮膜の接着が強固となる。さらに、溶射直前にピストンリングを約100℃に予熱した後、フレームによりピストンリングの表面をクリーニングするのが好ましい。これによりピストンリングの表面が活性化し、溶射後に母材と皮膜との間に相互拡散層が形成され、母材と皮膜が強固に接合する。
(a) 溶射粉末
溶射粉末としては、3〜5質量%の含有率の炭素及び12〜25質量%の含有率のバナジウムが、上記コバルト系金属中に分散した粉末(Co-V-C系粉末)が好ましい。このような組成のCo-V-C系粉末を使用することにより、溶射皮膜中のバナジウム炭化物の平均粒径を2μm以下に微細化できる。さらに上記組成のCo-V-C系粉末から析出するバナジウム炭化物は等軸状粒子であるので、Cr2C3-NiCr系アトマイズ粉末から析出したクロム炭化物からなる樹枝状や非等軸状の粒子と異なり、溶射皮膜の耐摩耗性及び耐スカッフ性を向上させるとともに、相手攻撃性を低下させることができる。
溶射は高速フレーム溶射法によるのが好ましい。高速フレーム溶射法は溶射粉末を高速で溶射できるので、溶射粉末中の微細なバナジウム炭化物が粗大化することなく当初のサイズをほぼ維持できる。プラズマ溶射のように原料を溶融させる方法は、溶射粉末中の微細なバナジウム炭化物が粗大化するので好ましくない。高速フレーム溶射法としては、高速酸素火炎(HVOF:High Velocity Oxygen Fuel)溶射法又は高速空気火炎(HVAF:High Velocity Air Fuel)溶射法がより好ましい。フレーム速度は高速であるほどよく、例えば、1200 m/秒以上が好ましい。溶射粉末の粒子速度は500 m/秒以上が好ましい。高速フレーム溶射により溶射皮膜を通常50〜700μmの厚さに形成し、好ましくは100〜600μmの厚さに形成する。50μm未満では耐摩耗性が不足し、700μmを超えると剥離しやすくなる。
(i) 溶射用アトマイズ粉末の調製
コバルト金属又はコバルト合金、並びにバナジウム又はバナジウム炭化物及びカーボン粉末を用いて、表1に示す組成の原料混合物を調製した。各原料混合物を、溶解、脱酸したのち、ガスアトマイズ法により粉末を作製した。得られた粉末を分級して200メッシュ以下の溶射用アトマイズ粉末を調製した。
5 mm×5 mm×20 mmのマルテンサイト系ステンレス鋼材の先端部を10 Rに加工し、溶射被膜の密着性をよくするために粒径#20のアルミナ粒子によるグリッドブラスト処理を行って粗面化した。上記各溶射用アトマイズ粉末を用いて、酸素を燃焼ガスとするHVOF溶射機[ダイヤモンドジェットガン(SULZER METCO社製)]により、鋼材の粗面に溶射皮膜を形成した。溶射条件はフレーム速度を1400 m/秒とし、粒子速度を600 m/秒とした。皮膜の厚さは300μmとした。溶射後の被膜を研磨し、ラッピング仕上げを行って表面粗さ(10点平均粗さ)を0.3μmに調節することにより摩耗試験用テストピースを作製した。炭化物の平均粒径は、溶射皮膜の走査電子顕微鏡写真中の50個の炭化物粒子について測定した粒径を平均することにより求めた。
溶射皮膜を形成したテストピースの耐摩耗性と相手攻撃性を評価した。摩耗試験は、FC250の鋳鉄からなるφ80 mm×300 mmのドラム型のシリンダライナ材を相手材として、図1に示すピン−ドラム式の摩耗試験機を用いて行った。試験機は、回転可能なドラム型シリンダライナ材7と、シリンダライナ材7の外周面に摺接するテストピース4を押圧するアーム2と、アーム2の一端に取り付けられた重錘3と、アーム2の他端に取り付けられたバランサ5と、テストピース4とバランサ5との間でアーム2を支えている支点1とからなる。シリンダライナ材7は駆動装置(図示せず)によって所定の速度で回転すると共に、ヒータ6を内蔵して所望の温度に調節し、テストピース4の湾曲面と摺接する。その際、シリンダライナ材7とテストピース4とが摺接する部位に潤滑油8を注油する。アーム2がテストピース4をシリンダライナ材7方向へ押圧する力(テストピース4とシリンダライナ材7との接触面圧となる)は、重錘3の質量を変えることにより変化させることができる。
表1に示す組成の各原料混合物を用いた以外は実施例1と同様にして、摩耗試験用テストピースを作製した。得られたテストピースを用いて実施例1と同様にして、摩耗試験を行った。結果を表1に示す。
外径が122 mmであり、幅が3 mmであり、外周中央部に深さ0.05 mmの溝が形成されたマルテンサイト系ステンレス鋼製のピストンリングを作製した。このピストンリングの溝部に実施例1と同様にして、グリッドブラスト処理を施すことにより粗面化した。粗面化したピストンリングを50本重ね合わせ、それらの粗面に、実施例2と同じ組成のアトマイズ粉末を用いて、実施例1と同じ条件のHVOF溶射を行い、500μmの皮膜を形成した。得られた各ピストンリングは、外周面をBF(Barrel Face)形状に研削し、さらにカーボランダム砥粒を用いたラッピング研磨を行って溶射皮膜の表面粗さ(10点平均粗さ)を0.35μmに仕上げた。皮膜組織の走査電子顕微鏡写真を図2に示す。図2から、灰色の金属マトリックス中に、暗黒色の極めて微細な等軸状バナジウム炭化物粒子(粒径:約1μm)が比較的均一に分散していることが観察される。
Cr2C3-NiCr系アトマイズ粉末を用いた以外は実施例7と同様にして、ピストンリングを作製した。
2・・・アーム
3・・・重錘
4・・・テストピース材
5・・・バランサ
6・・・ヒータ
7・・・ドラム型シリンダライナ材
8・・・潤滑油
Claims (7)
- 少なくとも外周摺動面に溶射皮膜を被覆したピストンリングにおいて、前記溶射皮膜は金属マトリックス中に平均粒径2μm以下の等軸状炭化物粒子が分散した複合組織からなることを特徴とするピストンリング。
- 請求項1に記載のピストンリングにおいて、前記等軸状炭化物粒子はバナジウム炭化物からなることを特徴とするピストンリング。
- 請求項1又は2に記載のピストンリングにおいて、前記金属マトリックスはコバルト系金属からなることを特徴とするピストンリング。
- 請求項3に記載のピストンリングにおいて、前記コバルト系金属マトリックスはコバルト金属からなるか、Ni、Cr及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種を含むコバルト合金からなることを特徴とするピストンリング。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のピストンリングからなることを特徴とするディーゼルエンジン用ピストンリング。
- コバルト系金属、バナジウム及び炭素からなるCo-V-C系アトマイズ粉末を、ピストンリングの少なくとも外周摺動面に高速フレーム溶射するピストンリングの製造方法であって、前記Co-V-C系アトマイズ粉末中の炭素含有率が3〜5質量%であり、バナジウム含有率が12〜25質量%であることを特徴とするピストンリングの製造方法。
- 請求項6に記載のピストンリングの製造方法において、前記コバルト系金属はコバルト金属からなるか、Ni、Cr及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種を含むコバルト合金からなることを特徴とするピストンリングの製造方法。
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