JP2006043776A - 円筒部品およびその製造方法 - Google Patents

円筒部品およびその製造方法

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Abstract

【課題】
燃料噴射弁のノズルボディなどの流体通路を形成する円筒部材を、生産性良く製造し、信頼性の高いものとする。
【解決手段】
燃料噴射弁のノズルボディ2などの流体通路を形成する円筒部材を、マルテンサイト系ステンレス鋼板を用いて絞り加工により成形する。また、マルテンサイト系ステンレス鋼板の絞り加工の際、中間材を焼鈍し、さらに、絞り加工後、耳除去を行ない、さらに、絞り加工し製品を得る製法とした。
【選択図】図1

Description

本発明は、燃料噴射弁、そのノズルボディに関するものであり、さらにノズルボディ等の流体通路を有する円筒部品の製造方法に関する。
燃料噴射弁のノズルボディは、耐食性、耐摩耗性が要求され、従来より、この要求に合った素材しとして、マルテンサイト系ステンレス鋼が用いられている。従来のマルテンサイト系ステンレス鋼のノズルボディは、切削加工、あるいは、鍛造加工などにより製造されていた。
特開平5―164016号公報においては、燃料噴射弁を構成する部品(バルブアッシーを保持するケース、コイルアッシーを支持する部品)の絞り加工化が提案されているが、ノズルボディについては、提案されていない。
また、燃料噴射弁以外の流体通路を形成するような、円筒部材についても、マルテンサイト系ステンレスを絞り加工で成形したものはない。
マルテンサイト系ステンレス鋼の円筒部材を製造する方法としては、棒材から切削、または、コイル材を鍛造により概略形状とし、その後切削により仕上げ加工するなどの方法とされていた。従来より、板材から絞り加工を行ない、円筒部材を製造する方法はあるが、マルテンサイト系ステンレス鋼においては大量生産に至った例はない。
特開平5―164016号公報
燃料噴射弁に使用されているマルテンサイト系ステンレス鋼のノズルボディを切削で加工する場合、棒材から切削するために材料歩留まりが悪い。また、C%が大のため、材料硬度が高く、材料のせん断力が大のため、切削抵抗が大きく、切削刃具の寿命が短い。また、加工時間が長くなるため、生産性が良くない。さらに、ノズルボディ内部は、燃料通路部となるため、バリ、切削時に発生する切粉がノズルボディ内に残存すると、弁体との接触面に入り込み、弁体の作動不良、燃料漏れなど引き起こし製品の信頼性を損ねることになる。このため、切削により製造されるノズルボディは、切削加工後、多くのバリ取り工程を費やし、さらに、バリ取り後には十分な洗浄工程が必要となる。したがって、コスト高となる。
一方、ノズルボディを鍛造成形する場合には、材料歩留まり、生産性などは切削にくらべ向上するが、材料硬度が高いため、焼き付きなどが生じやすく、他鋼材に対し金型寿命が小となる。また、加工応力が大となるため、加工に用いる金型の変形量が大となり、加工精度が良くない。さらに、加工時に、燃料通路部や弁体との嵌合部となる部分に焼き付きなどが発生した場合、切削バリや切粉による不具合と同様の問題を引き起こす場合がある。
さらにノズルボディの切削、鍛造成形する場合には、ノズルボディの構造が次に述べるような態様では加工の困難性が伴う。
すなわち、先ずは、ノズルボディの内径に対し、内部流路長さが2倍以上になるノズルボディの場合である。このような構造のノズルボディについて切削加工する場合には、刃具の剛性を高くすることが困難であるため、加工精度が著しく劣化する。一方、鍛造による製法では、ノズルボディの内径部を成形するパンチの長さを長くする必要があり、そのため、パンチの曲がり変形量が増大し、寸法精度の劣化が顕著である。曲がり変形量抑制の手段として、穴成形を数回に分けて製造する方法があるが、この場合、内径部のパンチによる加工面にマッチング部が生じ、このマッチング部が微少な段差となるため、製造中にゴミが付着しやすく、切削バリや切粉による不具合と同様の問題を引き起こす場合がある。
次にノズルボディ内径に1段以上の段が形成される場合である。燃料流れを乱さないため、段形状は、滑らかにする必要がある。流れを乱すと、燃料の噴射流量精度や噴霧形状なのが安定しないなどの問題を引き起こす。このため、切削加工においては、あらかじめ、概略形状に加工した後、形状を滑らかにするため、数回に分けて加工するなどの手段がとられる。このため、加工時間が長くなり、コストアップとなる。
一方、鍛造による加工の場合、1回の成形による加工は困難であり、上記したように、内径部のパンチによる加工面にマッチング部が生じ問題を引き起こす。
さらに、ノズルボディの先端に弁体が当接する弁座を一体的に形成する場合、切削では、袋穴となるため、加工時の切削くずの排出性が著しく悪く、刃具に寿命低下や、寸法精度の悪化を引き起こす。鍛造の場合は、一体的に形成することは、容易であるが、厚み寸法が薄くなると極端に加工応力が増大し、製品設計上自由度がなくなる。
マルテンサイト系ステンレス鋼を用いたノズルボディは、多くの場合、加工後焼き入れ処理され、耐食性、耐摩耗性向上が図られる。切削の場合、加工による寸法には、バラツキが生じ、また、表面あらさもよくないため、通常、焼き入れ処理後、研削加工を施さなければならない。このため、加工時間が長くなる。また、研削設備は高価であり、設備費が大となり、コスト高となる。鍛造によれば、金型寸法の管理を徹底すれば、寸法精度は確保できる場合もあるが、加工時に材料が大きく塑性流動するため、焼き入れ時の熱応力により変形が大となり、寸法精度の低下を招きやすい。この場合、特に、ノズルボディ内の軸方向の長さが大となった時、顕著である。このため、切削と同じように、焼き入れ処理後、研削加工など施さなければならない。
燃料噴射弁以外の流体通路を形成する円筒部材においても、燃料噴射弁と同様の問題がある。また、流体が高圧あるいは、流速の大である場合、流路にキャビテーション損傷が生じることがある。特に、流路に段差が設けられているような場合、絞り部となり、発生頻度が大となる傾向にある。とくに、段差部の形状が滑らかになっていないと、キャビテーションは顕著に現われ、製品として不具合を生じる。
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、燃料噴射弁のノズルボディの構造上からくる製造加工の諸問題を解消し、それによって生産性を向上させ、コスト低減を図り、信頼性の高い燃料噴射弁、ノズルボディおよびそれに類する流体通路を有する円筒部材を提供することにある。
(1)本発明は、上記課題を解決するために、基本的には、燃料噴射弁のノズルボディの素材をマルテンサイト系ステンレス鋼とし、かつ絞り加工することにより成形したものを提案する。
マルテンサイト系ステンレス鋼は、通常の鉄鋼鋼板にくらべ、塑性変形による伸びが小であり、絞り加工が困難であるとされている。そのため、従来は、ステンレス鋼板のなかでは、マルテンサイト系ステンレス鋼よりもオーステナイト系およびフェライト系ステンレス鋼を絞り加工する検討が盛んに行なわれている。しかしながら、本発明者らは、燃料噴射弁のノズルボディを、絞り加工されたマルテンサイト系ステンレス鋼により成形すれば、既述した今までの諸々の課題を解決し得るとの知見を得て、そのように構成したものである。
さらに、ノズルボディ等の流体通路を有する円筒部品について、マルテンサイト系の絞り加工品を採用する場合であっても、量産性の向上を図れる製造方法についても提案する。この製造方法を述べる前に燃料噴射弁のノズルボディとしてマルテンサイト系ステンレス鋼の絞り加工品を導入した場合の利点について述べる。
<1>ノズルボディの絞り加工により、あらかじめ、完成前成形品が概略円筒形状成形に可能であるため、材料歩留まりが向上し、切削量が低減でき、そのため、バリ発生量も低減できる。さらに、バリの発生量を少なくできるため、バリによる不具合も低減でき製品の信頼性を向上できる。
<2>鍛造と比較しても、絞り加工によれば、加工応力を低減できるため、寸法精度が良好となり、後工程で切削した場合でも、切削量を低減できる。また、鍛造の加工は、内径部へのパンチの加圧となるため、弁体が備えられる内径側に主に焼き付きが発生するが、絞り加工の場合、外径側への金型による加圧で加工されるため、主に外径側に焼き付きが発生し易くなる。上述したように、内径側の焼き付きは、弁体の運動の妨げになるため、製品の信頼性を損ねる場合がある。絞り加工によれば、このような問題が解消されるため、信頼性の向上が図れる。
(2)さらに、ノズルボディの内径に対し、2倍以上の燃料通路長さを持つノズルボディに関し、マルテンサイト系ステンレス鋼を絞り加工して成形したものを提案する。
上記構成によれば、燃料通路を細長構造にしたノズルボディであっても、従来の切削加工で生じるような課題を解消できる。すなわち、切削加工の場合には、刃具の剛性を高くすることが困難であるため、ノズルボディを細長構造にすると加工精度の劣化という課題が生じる。これに対して、絞り加工の場合には、このような問題が生じないので、加工精度を顕著に高めることができる。また、鍛造加工と比較しても、絞り加工の際は、流路長さをノズルボディ内径の2倍以上としても、鍛造時に発生するような段差部は発生せず、滑らかな面を成形できる。このため、ゴミなどの付着の問題が解消される。
(3)また、マルテンサイト系ステンレス鋼を絞り加工したノズルボディは、1段以上の段差を形成するボディ構造に最適である。絞り加工では、段差を成形する際、数回の工程により製造されることになるが、上記したように、外径側への加圧による加工であり、内径側に発生する加工応力は小であるため、その時形成される、段差部形状は、内径では滑らかなものとなり、鍛造で現われるマッチング部は発生しない。このことにより、前述した不具合を解消できる。
(4)さらに、マルテンサイト系ステンレス鋼を絞り加工したノズルボディは、ノズルボディの先端に弁体が当接する弁座(シート部)を一体に形成したものに適している。
すなわち、ノズルボディの絞り加工では、ボディを筒状の底付き形状にするため、その効果は大である。特に、底部は、材料の変形がもっとも少なく寸法精度も安定している。切削による加工の場合、底付き形状とすると、切削時に発生する切粉の排出が困難となり、刃具の寿命低下、ひいてはコスト高の問題が発生する。さらに、この底部に弁体のシート部が形成される。シート部は燃料のシールのために設けられ、燃料噴射弁の製品信頼性に大きく関わるものである。その精度(特に真円度)は、1μm以下であり、高精度の加工が要求される。通常はノズルボディを円筒部材に加工した後、シート部の加工が行なわれる。その工程は、所定の形状に加工された円筒部材の底面に概略シート部形状を切削加工し、焼き入れ処理を施し、研削加工するものである。必要精度は、研削加工により得ることとなるが、切削工程時の加工精度が悪いと、研削後の精度も得られない問題が発生する。これは、研削加工は、切削加工などに比べ、加工時間が長いため、加工時間短縮のためには、極力研削量を少なくする必要があるためである。また、研削力は、切削力にくらべ、小さいため、切削精度が悪く例えば素材の凹凸が大であると、この凹凸に沿った形状にしか研削できないためである。
一方、鍛造による加工でも底部は形成できるが、塑性流動をおこしているため、加工硬化した状態となり、切削抵抗が大となり、切削精度が悪化し、上記の問題を引き起こす。
(5)また、マルテンサイト系ステンレス鋼を絞り加工したノズルボディは、ノズルボディの内径部を絞り加工した表面状態とすることができる。絞り加工により成形される、製品の寸法は、内径成形の金型(オガタ)と外径成形の金型(メガタ)の寸法設定により決定され、金型寸法の管理を行なえば、寸法精度の確保は容易である。さらに、鍛造に比べ、塑性流動量が少なく、加工応力が小さいため、金型の変形が小(特に曲がり変形)となり、寸法精度の向上が図れる。また、焼き入れ処理を施した場合、鍛造にたいし、変形量の低減は顕著に現われる。
(6)ノズルボディは、炭素含有量が0.3〜0.4重量%のマルテンサイト系ステンレス鋼であり、板厚が0.5〜2.0mmの絞り加工品とすることで、良好な絞り加工品を得ることができた。
(7)また、本発明は、ノズルボディに限らずこれに類する流体通路を形成する円筒部品において、マルテンサイト系ステンレス鋼を絞り加工した成形品を提案する。燃料噴射弁以外のこのような円筒部材においても、ノズルボディのような効果がある。さらに、絞り段差部などを滑らかに、成形できるため、キャビテーションの発生を抑制でき製品の信頼性を向上できる。
(8)さらに、本発明では、流体通路を有するノズル部品などの円筒部品について、マルテンサイト径ステンレス鋼を絞り加工した成形品で構成するため、次のような製造方法と提案する。
マルテンサイト系ステンレス鋼板を絞り加工すると、従来は、次のような点に改善すべき点があった。
すなわち、材料の伸びが小のため、絞り加工中に製品が破断あるいは、表面に亀裂が生じる。また、圧延により製造された鋼板は、圧延方向により、材料の異方性が生じ、絞り加工を行なうと、製品の絞り形状の開放端側(スカート部)に、いわゆる耳と称せられる形状部が生じる。さらに、所定の製品寸法を得るためには、数回の絞り加工工程が必要となるが、数回の絞り工程を行なうに従い、製品の絞り形状の開放端側(スカート部)には、残留圧縮応力が増大して、耳部の発生量も増加していく。このため、圧縮応力の増大のため、製品が、金型から開放される時、瞬間的に応力が開放され、耳部形状により応力集中部から縦割れを起こすことがある。これらの事情により、マルテンサイト系ステンレス鋼の絞り加工は困難なものとされていた。
本発明においては、マルテンサイト系ステンレス鋼板の円筒部品を成形する場合に、まず、圧延加工により製造された素材を用いる。このような素材は、安価に平坦度、表面あらさが良好な素材を入手できる。表面あらさが悪いと絞り時に亀裂など発生しやすい。このため、ダル仕上げ、ブライト仕上げの鋼板が好ましい。
所定の製品形状を得るためには数回の絞り工程を行なうがマルテンサイト系ステンレス鋼の材料伸びは、30%以下であり、絞り比(ブランク径/絞り径)が、2.5を超えると表面に亀裂が生じる。通常この程度の絞り比では、冷間圧延鋼板(SPCC材)、オーステナイト系ステンレス鋼板、フェライト系ステンレス鋼板などでは、このような問題は生じない。特に、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼においては、絞り加工性を改善した材料が多く開発、実用化されている。表面の亀裂を防止する手段として、本発明では、絞り比2.5以下において、絞り加工の中間材を一回以上焼鈍し、加工ひずみを除去した後、再度絞り加工を行なうことにより、絞り比2.5を超える円筒部材を得ることができる。プレス装置での絞り加工の効率を考慮すると、焼鈍は、出来るだけ少ない回数が好ましく、そのためには、焼鈍は必要最小限とする必要があり、絞り比1.9〜3.7の間で焼鈍を行なうのが効率が良い。
工程を重ねるたびに、焼鈍工程を行なえば、亀裂が生じることなく、大きな絞り比の円筒部品(円筒部材)を得ることができるが、生産性が悪くなる。2.5以下で1回以上焼鈍した中間材は、焼鈍後、絞り加工を行なうと、絞り比3.7をこえると開放端側耳部を起点とし縦割れが生じる。これは、絞り形状の開放端側(スカート部)では、板厚が増加し圧縮応力が支配的となり、絞り加工を重ねるたびに、その圧縮応力が増大し、また、開放端側には、圧延材料の特徴である、異方性により耳が発生し、この耳部の形状により応力集中するためである。この問題を解決するためにも、焼鈍工程を行なえば、加工による残留応力を除去でき、加工可能であるが、生産性が悪くなる問題が生じる。このため、本発明では、絞り比3.7以下で耳部を除去し、応力集中の起点を除去することとした。
この後、絞り加工を行なうことにより、絞り比3.7を超える円筒部材を製造することが可能となった。耳部は、絞り加工工程度に、発生するため、各工程毎に除去作業を行なうことも考えられるが、生産性が低下する。耳除去工程は必要最小限の回数であることが望ましく、絞り比3.2〜3.7の間で行なうのが効率的である。さらに、耳除去工程は、焼鈍にたいしプレス装置内、金型内で作業が可能である。方法としては、シミートリミング、ピンチトリミングなどの方法がある。以上により、生産性を確保した状態で、マルテンサイト系ステンレス鋼の絞り加工が可能となった。
なお、上記製造法では、絞り−焼鈍−絞り−耳除去の順番でマルテンサイト系ステンレス鋼の円筒部材(ノズルボディなど)を製造するが、絞り−焼鈍−耳除去−絞り、或いは絞り−耳除去−焼鈍−絞りの順で上記円筒部材を製造することも可能である。
本発明によれば、バリ、ゴミの発生を抑制し、なめらかな流路を形成し、信頼性の高い燃料噴射弁、および、キャビテーション発生を抑制する流体通路を形成するノズルボディなどの円筒部材を得ることができ、それを、低コストで、生産性良く、製造できる。
本発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1は、絞り加工により製造されたノズルボディを備える、燃料噴射弁の縦断面図である。燃料噴射弁1は、ハウジング100に弁体6を駆動するための電磁コイル5および戻しばね101を内蔵する。ハウジング101は、電磁コイル5が励磁されると磁気回路の一部となる。ハウジング101の先端に、絞り加工により成形されたノズルボディ2が装着されている。ノズルボディ2の先端には、燃料噴射用のオリフィスプレート3と燃料に旋回力を与えるスワラー4が接合されている。
ノズルボディ2には、電磁コイル5への印加電流により軸方向に往復運動可能な弁体6が組み込まれている。ノズルボディ2とオリフィスプレート3とスワラー4と弁体6により構成されるバルブアッシー7の拡大図を図2に示す。オリフィスプレート3には、燃料流量を計量する役割を持つオリフィス3aとシート部3bとが形成されている。シート部3bには、弁体6の先端に設けられたボール6aが閉弁時に戻しばねの力で当接し、燃料をシールする。
スワラー4は燃料に旋回力を与え、弁体6に設けられたボール6aをガイドする役割を持つ。スワラー4により旋回力を与えられた燃料は、シート部3b、オリフィス3aを通過し、噴霧される。スワラー4により旋回力を与えられた燃料は微粒化され、燃料噴射弁の高性能化を図れる。
弁体6は、先端のボール6aがスワラー4の内径部4aにガイドされ、ボール6aと反対側に位置する弁体ガイド6b(可動コア)がノズルボディ2の内径2aにガイドされ、往復運動が可能となっている。
ノズルボディ2は、マルテンサイト系ステンレス鋼を絞り加工することにより細長のスリーブ形に成形される。このノズルボディ2は、内周が燃料通路2′となり、弁体6がこのノズルボディ2内に往復動作可能に組み込まれている。ノズルボディ2は、複数回の絞り加工により、先端から途中までの内径W1とその途中から後端までの内径W2を、テーパ状の段差2bを介してW1<W2に設定してある。そして、弁体6と一体をなす可動コア6aがノズルボディ2の後端2a内周にガイドされるように組み込まれている。可動コア6aは、電磁コイル5の励磁によりハウジング5と共に磁気回路の一部をなす。ノズルボディ2の内部燃料通路2′の長さは、ノズルボディ内径の2倍以上である。
燃料噴射弁1の主性能の1つである、燃料流量精度の確保には、弁体6のスムーズな往復運動が必要である。スムーズな往復運動を得るには、ボール6aとスワラー4の内径部4aとの隙間と、可動コア(弁体ガイド部)6bとノズルボディ2の後端2a内径との隙間寸法の適正化が重要である。このため、それぞれの単品寸法精度の確保が必要となる。たとえば、隙間寸法は、10〜50μm程度に設定され、それぞれ単品寸法は組合せ時にそれを満足する寸法が要求される。さらに、ガイド部は直線的に設置されないと弁体6に曲がりが生じ、往復運動が阻害されるため、同軸度が必要である。燃料は、ノズルボディ2と弁体6間の隙間を通り噴射されるが、その間にバリ、ゴミなどが存在すると、燃料の流れにより、シート部3aに運ばれボール6aとシート部3a間にかみ込み、シート漏れの不具合を引き起こす場合がある。シート漏れが生じると、場合によっては、エンジンの破損などの不具合が発生する。このため、ノズルボディ2の製造過程において、特に内径側は、バリ、ゴミなど厳重に管理される。また、本燃料噴射弁1は筒内噴射用の燃料噴射弁として用いられるものであり、ノズルボディ2の長さが従来タイプの燃料噴射弁に比べ、長いのが特徴的である。
弁体6のガイド部は、弁体6の往復運動の精度向上のため、寸法が大であるのが望ましく、そのため、ノズルボディは、全体的に細身であるが、その後端だけ段形状により内径を大きくしている。これは、エンジンのシリンダヘッド部に装着する際の自由度をえるために、提案された形状である。このように、長く、段形状のノズルボディ2を製造する場合、従来の切削加工、鍛造加工によれば、コスト高となり、また、バリ、ゴミなどの管理が困難で、信頼性の低下を招く。絞り加工によれば、ノズルボディ2の燃料通路部を形成する、内周面2bは滑らかな、表面状態に成形可能であり、上記のような問題がなくなる。
次に、ノズルボディ2の製造方法を説明する。
図3にその概略工程を示す。素材は、マルテンサイト系ステンレス鋼で板厚は1.0
mmである。本素材は、圧延により製造された、素材であり、表面はブライト仕上げである。まず、素材より、ブランク8を製作する。ブランク製作は、通常打ち抜き加工により製作するのが生産性が良く、好ましい。ブランク8の外径寸法はφ32mmである。
次に、絞り金型により、中間材A9を製作する。次に中間材B10を製作する。この内径はφ13.2mmである。この時、絞り比(ブランク径/絞り径)は2.4である。
つぎに、焼鈍を行なう。本実施例においては、740℃で行なった。この時点で、焼鈍工程を行なわないで中間材C11を製作すると、表面には亀裂が生じる。これは、材料伸びが限界に達してしまうからである。焼鈍を行なった後、絞り工程を行なうと、問題なく中間材C11が製作可能となる。
次に、中間材D12を製作する。この時、内径はφ9mmで、絞り比は3.6である。次に、耳部12aの除去を行ない中間材E13を製作する。耳除去の方法としては、金型で行なう方法と、切削で行なう方法が上げられるが、生産性の低下防ぐには、金型による方法が好ましい。本実施例では、金型内でピンチトリミングにより、耳除去を行なった。耳除去工程を行なわないと、中間材F14を製作すると端末部14aより、加工後、金型から取出す際に縦割れが生じる。耳除去工程を行なうと、問題なく中間材F14を製作できる。これは、絞り加工により、端末部14aには、圧縮の応力が働いており、加工後、金型から開放された時、瞬間的に応力が開放され、耳部形状により応力が集中し、縦割れが生じるものである。
図4に中間材D12においての、耳発生を模式した拡大図を示す。耳部12aは、素材製造時の圧延加工により生じる異方性により、生じるものであり、製法上、抑制は困難である。耳部12aは、端末部12bに4個所発生する。図5に耳除去作業を行なわず加工し、縦割れをおこした場合を模式した、拡大図を示す。縦割れ14bは、耳部14cの谷部14dを起点とし発生する。谷部14dは端末部14aに4個所あるが、すべての個所に発生するとは限らない。耳除去工程を行なうことにより、応力集中する起点をなくすことができるため、縦割れを防止できる。さらに、中間材F14の成形の際、端末部14a付近をしごき加工することで、内径精度が飛躍的に向上できる。
本実施例においては、内径精度のばらつきは、10μm以下とすることができた。つぎに、中間材G15を製作する。この工程以降は、先端部の段差部の成形である。次に、中間材H16を製作する。次に、中間材I17を製作する。中間材I17において、ノズルボディ2の概略形状となり、絞り加工が完了する。絞り加工では、段差部15a,16a,17aの成形において、内径側には金型の規制がなく、外径側の金型の形状により、成形形状が決定されるため、滑らかな形状に成形できる。絞り加工により成形された中間材I17は、ノズルボディ2の最終形状をえるため、一部切削される。内径の精度、表面状態は、良好なため、底面部17b,端末部17cの切削加工により、バルブボディ2の形状が得られる。また、弁座2cを一体的に形成した場合、底面部17bは切削する必要はない。
弁座2cを一体的に形成した場合のバルブアッシーの拡大図を図6に示す。このノズルボディ2は、この後、一部、あるいは、全体を焼き入れ処理し、製品に組み込まれる。
本実施例による、ノズルボディ2は、絞り加工であるが、鍛造加工によるものと比較して塑性流動の均一性をより良好に図れ、さらに、途中工程で、焼鈍を行なっているため、これによる残留応力の低減化を図れるので、焼き入れ変形が少ない。発明者による実験結果では、内径寸法で10μm程度で、サンプルによるバラツキはほとんどない。しかしながら、より高精度のノズルボディ2を得ようとする場合、焼き入れ処理後、内径部など一部研削加工などすることもある。この時、絞り加工したことによる特徴として、図7に示すように内径寸法は、端末部18の寸法φDに対し、その奥部19の寸法φdは若干寸法が大(10〜40μm)であり、研削時に、砥石の端面に対し逃げている形状となるため、砥石の寿命など有利である。これは、絞り加工により端末部18は、他部分に比べ、板厚が増加していために、生じる現象である。
本実施例で用いた、絞り加工の金型を図8〜図13に示す。図8は中間材A9を製作する金型20である。
ノズルボディ2の内径を形成する雄型21は、下プレート22に固定される。加工の際、ブランク8のしわ発生を防ぐしわ抑え23はプレス装置に内蔵されたクッションピン
24上にセットされる。クッションピン24は、クッションシリンダの圧力を伝達する。
ノズルボディ2の外径側を成形する雌型25は、上プレート26に固定され、雌型25の開放端側には、成形の際、材料に応力を負荷させるのに重要であるR部25aが形成されている。図9に、金型20を用い中間材Aを成形している状態を示す。
ブランク8は、しわ抑え23と雌型25で挟み込まれ適切なしわ抑え力が与えられた状態で、雄型21と雌型25の隙間により円筒形状に成形される。図10に円筒形状になった中間材A9を中間材B10に再絞り加工する金型27を示す。
内径を形成する雄型28は下プレート29に固定される。加工の際、中間材A9のしわ発生を防ぐしわ抑え30は、プレス装置に内蔵されたクッションシリンダの圧力を伝達するクッションピン31上にセットされる。外径側を成形する雌型32は、上プレート33に固定され、雌型32の開放端側には、成形の際、材料に応力を負荷させるのに重要であるR部32aが形成されている。また、クッション力をタイミングよく伝達するために、雌型32には、突き下げピン34がセットされている。図11に、金型27を用い中間材B10を成形している状態を示す。中間材A9は、しわ抑え30と雌型32で挟み込まれ適切なしわ抑え力が与えられた状態で、雄型28と雌型32の隙間により円筒形状に成形される。この様な金型構成を有する金型により、この後、中間材C11、中間材D12、中間材F14が成形される。
図12に円筒形状になった中間材F14に段形状を与える金型35を示す。内径を形成する雄型36は下プレート37に固定される。加工後、中間材G15の排出するためのノックアウトプレート38は、プレス装置に内蔵されたクッションシリンダの圧力を伝達するクッションピン39上にセットされる。外径側を成形する雌型40は、上プレート41に固定され、メガタ40の開放端側には、成形の際、材料に応力を負荷させるのに重要であるR部40aが形成されている。また、本成形では、しわ抑え力は不要であるが、クッション力(ノックアウト力)をタイミングよく伝達するために、雌型40には、突き下げピン41がセットされている。雄型36は、先端部36aを成形する内径に相対した寸法と、中間材F14の内径寸法にマッチした寸法部を持つ段付き形状36bにするのが好ましい。段付き形状部36bは中間材F14の内径寸法とほぼ同じ寸法とすることで、加工時製品の動きがなくなり、加工後の同軸度の向上が図れる。
図13に、金型35を用い中間材G15を成形している状態を示す。中間材F14は、しわ抑え38と雌型40で挟み込まれ適切なシワオサエ力が与えられた状態で、雄型36と雌型40の隙間により段付き円筒形状に成形される。この時、雌型40のR部40aにより材料には応力が伝わり、段差部15aの成形には雄型36の段差部36cの接触は必要ない。このことにより、内径の形状が滑らかなものとなる。
この様な金型構成を有する金型によりこの後、中間材H16、中間材I17が成形される。
本実施例のノズルボディにおいては、炭素含有量が0.3〜0.4重量%のマルテンサイト系ステンレス鋼であり、板厚が0.5〜2.0mmとすることで良好な絞り加工品を得ることができた。
以上のような実施例によれば、安価で、信頼性の高いマルテンサイト系ステンレス鋼の円筒部材を製造することが可能であり、安価で信頼性の高い燃料噴射弁がえることができる。
さらに、本発明による円筒部材を流体通路部に用いることにより、高圧下、流速大においてもキャビテーションの発生のない流体通路を提供することができる。
本発明の一実施例に係る燃料噴射弁の縦断面図。 上記実施例に用いるバルブアッシーの拡大図。 上記実施例に用いるノズルボディを製造するための概略工程を示す図。 図3の工程においてノズルボディの中間部材に耳部形状が発生した状態を示す拡大図。 図3の工程においてノズルボディの中間部材に縦割れが発生した状態を示す拡大図。 本発明の第2の実施例に係る燃料噴射弁のバルブアッシーの縦断面図。 図3の工程により製造されたノズルボディの縦断面図。 本実施例のノズルボディ製造に用いる絞り加工金型の縦断面図。 図8の金型により加工をしている状態を示す縦断面図。 本実施例のノズルボディ製造に用いる絞り加工金型の縦断面図。 図10の金型により加工をしている状態を示す縦断面図。 絞り加工金型の縦断面図。 図12の金型により加工をしている状態を示す縦断面図。
符号の説明
1…燃料噴射弁、2…ノズルボディ、3…オリフィスプレート、4…スワラー、5…電磁コイル、6…弁体、8…ブランク材、10…中間材B、12a…耳部、14…中間材F、100…ハウジング、101…戻しばね。

Claims (5)

  1. 内部に流体通路が形成される円筒部品において、マルテンサイト系ステンレス鋼を絞り加工することにより成形されていることを特徴とする円筒部品。
  2. マルテンサイト系ステンレス鋼を絞り加工することにより円筒部品を成形する製造方法であって、圧延加工により製造された素材を用い、絞り加工により円筒形状の中間材を製作し、前記中間材に1回以上焼鈍を行ない、その後、絞り加工を行ない、前記中間材の開口部に形成された耳部(耳部とは素材の異方性により発生する)を除去し、その後、絞り加工を行なうことにより所定の寸法を得ることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼の円筒部品の製造方法。
  3. マルテンサイト系ステンレス鋼を絞り加工することにより円筒部品を成形する製造方法であって、圧延加工により製造された素材を用い、絞り加工により円筒形状の中間材を製作し、その後、前記中間材に1回以上焼鈍を行なう工程と、絞り加工を行なう工程と、前記中間材の開口部に形成された耳部(耳部とは素材の異方性により発生する)を除去する工程とを有することを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼の円筒部品の製造方法。
  4. マルテンサイト系ステンレス鋼を絞り加工することにより円筒部品を成形する製造方法であって、圧延加工により製造された素材を用い、1回以上の絞り加工により円筒形状の中間材を製作し、前記円筒形状の中間材は絞り比(ブランク径/絞り径)2.5以下で1回以上焼鈍を行ない、その後、1回以上の絞り加工を行ない、絞り比3.7以下で前記中間の開口部に形成された耳部(素材の異方性により発生する)を除去し、その後、1回以上の絞り加工を行なうことにより所定の寸法を得ることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼の円筒部品の製造方法。
  5. マルテンサイト系ステンレス鋼を絞り加工することにより円筒部品を成形する製造方法であって、圧延加工により製造された素材を用い、1回以上の絞り加工により円筒形状の中間材を製作し、前記円筒形状の中間材は絞り比(ブランク径/絞り径)1.9〜2.5で1回以上焼鈍を行ない、その後、1回以上の絞り加工を行ない、絞り比3.2〜3.7で前記中間の開口部に形成された耳部(素材の異方性により発生する)を除去し、その後、1回以上の絞り加工を行なうことにより所定の寸法を得ることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼の円筒部材の製造方法。
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