JP2006028586A - スラグフューミング法で得られる銅合金とマットの再利用方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグをスラグフューミングする際に、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストと安定的に土壌環境基準を満足するスラグとを得るとともに、同時に形成される鉄、鉛、ヒ素その他の不純物金属を含む銅合金とマットを、該銅融体の銅源として再利用する方法を提供する。
【解決手段】亜鉛と鉛とともに硫黄を含み、ヒ素又はヒ素とアンチモンを含有するスラグを、スラグフューミング炉中において、銅融体と共存させて還元吹錬する際に、スラグフューミング中に形成される銅合金とマットを所定の手段で処理して、前記銅融体の銅源として繰返し使用することを特徴とする銅合金とマットの再利用方法などで提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、スラグフューミング法で得られる銅合金とマットの再利用方法に関し、さらに詳しくは、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグをスラグフューミングする際に、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストと安定的に土壌環境基準を満足するスラグとを得るとともに、同時に形成される鉄、鉛、ヒ素その他の不純物金属を含む銅合金とマットを、該銅融体の銅源として再利用する方法に関する。
亜鉛及び/又は鉛製錬において、Imperial Smelting Processと呼ばれる亜鉛と鉛を同時に製錬する熔鉱炉法が広く用いられている。前記熔鉱炉で発生するスラグの処理方法としては、一般に、熔鉱炉の前床にスラグを導いて含銅粗鉛と炉鉄を粗分離した後、これを水砕しセメント原料用等の製品スラグとする方法が行われている。また、前記スラグは、一般に亜鉛含有量が高く、鉛とともに、スパイスの成分であるヒ素、アンチモンその他の金属を含むので、スラグ中の亜鉛、鉛、ヒ素、アンチモン等の金属をより低い水準にまで除去するために、前記粗分離後のスラグをスラグフューミングに付し、その後水砕して製品化する方法が行われている。
前記スラグフューミングとは、熔融状態のスラグを加熱還元することによって、スラグに含まれる亜鉛、鉛、ヒ素、アンチモン等の金属を揮発除去するものである。これによって、スラグから亜鉛と鉛を回収するとともに不純物金属を除去することができ、清浄化されたスラグが得られる。ここで、スラグフューミング処理は、ガス吹き込み用のランス、又は炉下部に羽口を備えた加熱炉を用いて、スラグを還元吹錬することで行われる。例えば、ガス吹き込み用のランスを備えたスラグフューミング炉の操業では、該炉内に装入した熔融状態のスラグにランスを浸漬してランス先端から重油、天然ガス、微粉炭等の炭素質燃料と空気を噴出させることにより還元吹錬を行って、スラグ中の金属を還元し揮発させる処理を行う。ここで、処理後のスラグは炉下部から抜き出され、また、揮発された金属は炉頂部への移動の途中で空気を加えて酸化され、亜鉛と鉛を含むダストとして回収される。
しかしながら、一般のスラグフューミング処理では、回収の主目的元素である亜鉛と鉛とともに、低沸点で蒸気圧の高いヒ素、アンチモン等のV族元素も揮発するので、これらが回収した亜鉛と鉛ダスト中に濃縮する。これらV族元素を含むダストを、亜鉛と鉛を回収するために、前記熔鉱炉法の焼結工程に繰返した場合には、焼結工程でV族元素が揮発して排ガス処理系統への負荷を増加させるという問題があった。さらに、焼結塊として熔鉱炉内へ装入されると、V族元素が高融点金属化合物であるスパイスを生成させ熔鉱炉操業を困難にさせるという問題があった。
また、前記スラグフューミング処理の操業の変動により、鉛又はヒ素といった有害元素がスラグ中に残留した場合には、上記処理後のスラグの溶出試験において、土壌環境基準(環境庁告示第46号による溶出試験でのPb、As溶出量:各0.01mg/L以下)を満足することができないという問題がおこるので、安定的に土壌環境基準を満足する方法が望まれていた。
この対応策として、スラグの改質方法が提案されており、代表的なものとしては、熔鉱炉産出のスラグを前床に導いて含銅粗鉛と炉鉄を粗分離した後、電気炉で加熱して含銅粗鉛と炉鉄を沈降分離して、その後スラグフューミング炉で処理する2段処理(例えば、特許文献1参照。)が挙げられる。しかしながら、この方法では、スラグの亜鉛、鉛及びヒ素の含有量が低下し、かつスラグの土壌環境基準は満足されるが、ヒ素とアンチモンが亜鉛と鉛とともに揮発する点については根本的な解決策は得られないという問題があった。
特開平11−269567号公報(第1頁、第2頁)
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグをスラグフューミングする際に、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストと安定的に土壌環境基準を満足するスラグとを得るとともに、同時に形成される鉄、鉛、ヒ素その他の不純物金属を含む銅合金とマットを、該銅融体の銅源として再利用する方法を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するために、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛と鉛とともに硫黄を含み、かつヒ素又はヒ素とアンチモンを含有するスラグのスラグフューミング方法について、鋭意研究を重ねた結果、特定の条件でスラグ融体と銅融体を共存させて還元吹錬を行うことによって、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストと、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグとが得られること、及びスラグフューミング炉内で生成される銅合金及びマット中の銅分を、特定の手段で上記銅融体の銅源として繰返し使用することで再利用することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の第1の発明によれば、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛と鉛とともに硫黄を含み、ヒ素又はヒ素とアンチモンを含有するスラグを、スラグフューミング炉中において、銅融体と共存させて還元吹錬する際に、
下記(イ)〜(ニ)から選ばれるいずれかの手段を採用することにより、スラグフューミング中に形成される銅合金とマット中に含有する銅分を前記銅融体の銅源として繰返し使用することを特徴とする銅合金とマットの再利用方法が提供される。
(イ)前記スラグフューミング炉から還元生成スラグを抜き出し分離するとき、スラグフューミング炉内に銅合金とマットを留めて銅融体として使用する方法。
(ロ)前記スラグフューミング炉から還元生成スラグを抜き出し分離するとき、スラグフューミング炉内に銅合金とマットを留めて、該銅合金とマットにフラックスを添加して酸化処理に付し、酸化生成スラグと新たなCu−Pb−As系銅合金(A)を形成させた後、該銅合金(A)を銅融体として使用する方法。
(ハ)前記スラグフューミング炉からマットを抜き出し別の炉に装入し、該マットにフラックスを添加して酸化処理に付し、酸化生成スラグと新たにCu−Pb−As系銅合金(B)を形成させた後、該銅合金(B)を銅融体として使用する方法。
(ニ)前記スラグフューミング炉から銅合金とマットを抜き出し別の炉に装入し、該銅合金とマットにフラックスを添加して酸化処理に付し、酸化生成スラグと新たにCu−Pb−As系銅合金(C)を形成させた後、該銅合金(C)を銅融体として使用する方法。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、スラグ融体と銅融体を1200〜1500℃の温度下に共存させて還元吹錬に付し、亜鉛と鉛を含むダスト、土壌環境基準を満足する還元生成スラグ、銅合金及びマットを形成することを特徴とする請求項1に記載の銅合金とマットの再利用方法が提供される。
本発明のスラグフューミング方法は、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグのスラグフューミング方法において、溶錬炉への繰返しに好適なヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストと、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグとを低処理コストで得ることができるスラグフューミング方法であり、その工業的価値は極めて大きい。
以下、本発明のスラグフューミング方法を詳細に説明する。
本発明のスラグフューミング方法は、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛と鉛とともに硫黄を含み、ヒ素又はヒ素とアンチモンを含有するスラグを、スラグフューミング炉中において、銅融体と共存させて還元吹錬する際に、下記(イ)〜(ニ)から選ばれるいずれかの手段を採用することにより、スラグフューミング中に形成される銅合金とマット中に含有する銅分を前記銅融体の銅源として繰返し使用することを特徴とする。
(イ)前記スラグフューミング炉から還元生成スラグを抜き出し分離するとき、スラグフューミング炉内に銅合金とマットを留めて銅融体として使用する方法。
(ロ)前記スラグフューミング炉から還元生成スラグを抜き出し分離するとき、スラグフューミング炉内に銅合金とマットを留めて、これにフラックスを添加して酸化処理に付し、酸化生成スラグと新たなCu−Pb−As系銅合金(A)を形成させた後、該銅合金(A)を銅融体として使用する方法。
(ハ)前記スラグフューミング炉からマットを抜き出し別の炉に装入し、これにフラックスを添加して酸化処理に付し、酸化生成スラグと新たにCu−Pb−As系銅合金(B)を形成させた後、該銅合金(B)を銅融体として使用する方法。
(ニ)前記スラグフューミング炉から銅合金とマットを抜き出し別の炉に装入し、これにフラックスを添加して酸化処理に付し、酸化生成スラグと新たにCu−Pb−As系銅合金(C)を形成させた後、該銅合金(C)を銅融体として使用する方法。
本発明において、還元吹錬に際して、スラグ融体と銅融体を共存させて該銅融体とスラグ中に含有されるヒ素又はヒ素及びアンチモンとを反応させてCu−Fe−Pb−As系銅合金の均一融体を形成することに重要な意義を有する。これによって、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストと、安定的に土壌環境基準を満足するスラグとを得ることが達成できる。すなわち、ヒ素とアンチモンを、それらを安定的に含有するCu−Fe−Pb−As系銅合金中に分配させることで揮発を抑制して、ダストとスラグへのヒ素とアンチモンの分布を低減する。
上記還元吹錬は、例えば、以下のように行うことができる。
ガス吹き込み用のランスを備えたスラグフューミング炉を用いて、炉内に装入したスラグ融体と銅融体の混合物にランスを浸漬してランス先端から重油、天然ガス、微粉炭等と酸素含有ガスを噴出するガス吹錬を行い、これらを混合撹拌するとともに、融体内を還元性雰囲気として、亜鉛、鉛、ヒ素、アンチモン等を金属状態へ還元する。ここで、金属化された亜鉛の大部分と鉛の一部を揮発させてダストとして回収する。
一方、金属化されたヒ素とアンチモンは、蒸気圧が高いという性質の一方で鉄及び銅との親和力が強いという性質を有している。したがって、銅融体が共存するとヒ素とアンチモンは銅と反応する。この反応によって、ヒ素が銅中に溶融あるいは固溶すれば、銅中のヒ素の活量はヒ素濃度が低い場合には著しく小さいので、その蒸気圧は低くなり、ヒ素は揮発することなく銅合金を形成しCu−Fe−Pb−As系銅合金の均一融体に含まれることになる。アンチモンに関しても、ヒ素と同様の挙動を示し、該均一融体に含有される。
また、さらに原料スラグ中に硫黄が存在すると、銅と反応してCu−Fe−Pb−As−S系組成のマットを形成し、マット中にもヒ素とアンチモンが含有される。しかしながら、マット中へのヒ素とアンチモンの分配量はCu−Fe−Pb−As系均一融体と比べて低いので、マットの生成は銅融体として必要な銅量の増加につながるので望ましくない。
上記還元吹錬で用いるスラグとしては、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される、亜鉛及び鉛とともに硫黄を含み、かつヒ素又はヒ素及びアンチモンを含有する還元性雰囲気で形成されたスラグを用いる。このスラグは、亜鉛及び/又は鉛製錬の原料とフラックスの調合によって、1200〜1350℃のスラグ温度で操業できるように調製された、比較的低融点のFeO−SiO−Al−CaO−ZnO−PbO系のスラグ組成のものである。
また、上記スラグは、ヒ素とアンチモンをスパイス相としてスラグ中に混濁した状態で含む。すなわち、スパイスとはヒ素とアンチモンを含む高融点の金属間化合物であるが、例えば、Imperial Smelting Processと呼ばれる亜鉛と鉛を同時に製錬する熔鉱炉法においては、還元性雰囲気のスラグ中の局部的な強還元性によって生成された金属鉄と、ヒ素又はアンチモンが反応してスパイスを形成する。このスパイス中のヒ素とアンチモンは、著しく活量が低下しており、極めて安定化した状態にあることが知られている。そのため、ヒ素とアンチモンは、スラグ温度がそれらの金属の沸点以上である1200〜1350℃であるにもかかわらず、鉄スパイス相としてスラグ中に混濁した状態で存在する。
また、上記スラグは、前記熔鉱炉法においては、硫黄をマットとしてスラグ中に混濁した状態で含む。すなわち、熔鉱炉への装入原料としては、焼結工程で硫黄を酸化除去した焼結塊を用いるが、硫黄の一部が焼結塊に残留し熔鉱炉内でマットを形成しスラグ中に混濁した状態で存在する。
上記還元吹錬で用いる銅融体の銅源としては、特に限定されるものではなく、還元吹錬に際して、還元性雰囲気下1200〜1500℃の温度で鉄と均一融体を形成することができる金属又は酸化物状態の銅含有物を用いるが、例えば、銅スクラップ、銅製錬工程から得られる粗銅(銅品位98〜99重量%)等の中間物を熔融して用いることが好ましい。
上記還元吹錬で用いる雰囲気は、特に限定されるものではなく、上記スラグの通常のスラグフュ‐ミング方法で採用される亜鉛、鉛、ヒ素及びアンチモンを金属状態へ還元することができる還元性雰囲気を用いる。
上記還元吹錬の融体温度は、1200〜1500℃であり、1200〜1400℃が好ましい。すなわち、銅融体とスラグ中に含有されるヒ素、アンチモン等を含むスパイスとを反応させてCu−Fe−Pb−As系銅合金の均一融体を形成するためには、上記温度範囲が適切である。融体温度が1200℃未満では、スラグの粘性が高すぎたり、あるいは固化するといった問題が生じる。一方、融体温度が1500℃を超えると、耐火物の損傷量が多くなり、あるいは必要とする熱エネルギーが大きくなるという問題が生ずる。
図1を用いて、前記銅合金の均一融体の生成について、より詳しく説明する。図1は、銅−鉄二元系状態図を示す。ここで、図1より、1350℃では、銅中に鉄が約15%まで熔融し、均一融体となることが分かる。例えば、鉄スパイスが金属状の銅と共存したときには、鉄スパイスは銅中に熔融し一部の鉛とともに銅主体のCu−Fe−Pb−As系銅合金の均一融体を生成することになる。また、高銅品位領域では、均一融体を形成する銅に対する鉄の溶解量は温度によって変化し、温度が高いほど溶解量は増加する。したがって、還元吹錬の融体温度は、高温で行うほど少ない銅量でもスパイスの吸収処理を効率的に行うことができるというメリットを有する。
上記還元吹錬で処理スラグ量に対する銅の使用量は、特に限定されるものではなく、銅がスラグ中のスパイスと反応して1200〜1500℃の温度範囲において前記銅合金の均一融体を形成することができる条件が選ばれる。例えば、1200〜1500℃の温度範囲において均一融体中への鉄の溶解量は、その温度により銅に対して5〜50重量%に変化する。したがって、必要とされる銅量は、用いる温度とスラグに含有されるスパイス中の鉄量に応じて求められる。
ここで、銅の使用量はこの必要とされる銅量以上にすることが望ましい。具体的には、スラグに含まれるスパイス中の鉄量に応じて銅量を変化させるか、あるいは銅量を一定にして処理するスラグ量を変化させることによって、前記銅合金の均一融体を安定的に形成することができる。また、均一融体の形成において、銅スパイス相の生成が懸念されるが、鉄の溶解量に基づいて選ばれるような過剰の銅量の添加条件では銅スパイス相の生成はおきないので、事実上は上記のように鉄の溶解量に基づいて調製される。
一般に、銅とスラグ中のスパイスとの反応はスラグ融体と銅融体の接触度合に依存するので、1バッチあたりのスラグ量に対する銅量が多いほど好ましい。したがって、1バッチあたりのスラグ量に対する銅量としては、上記の銅に対する鉄の溶解量から求められる1バッチあたりの銅量以上を用いて、銅に対する鉄の溶解量が好ましくは5〜50重量%、より好ましくは5〜35重量%の濃度範囲で飽和に到るまで、銅融体を繰返し使用して複数バッチの新規スラグを処理する方法が好ましい。
本発明において、前記銅合金とマット中の銅分を、上記(イ)〜(ニ)から選ばれるいずれかの手段を採用して、銅融体の銅源として再使用することが重要である。これによって、銅合金及びマット中の銅分を銅融体として有効に活用し使用銅量を最少にして銅源コストを低減することができる。
上記(イ)の手段においては、スラグフューミング炉から還元吹錬後の還元生成スラグを抜き出し分離する際、この炉内に銅合金とマットをそのまま留め銅融体として用いて、新たなスラグを装入して還元吹錬する。この際、銅合金の繰返し使用の上限は、特に限定されるものではなく、ヒ素あるいは鉄が固溶しなくなる、あるいは均一融体を形成できなくなるまで行うことができる。この際、スラグ中のヒ素含有率は通常0.n重量%以下と低いので、事実上はヒ素量よりも鉄量が銅融体の繰返し使用を制限する要因となる。
また、マットの繰返し使用の上限は、特に限定されるものではなく、マットのS濃度が35重量%を超えるまでである。さらに、前記銅融体中の鉄が飽和した場合でも、銅を継ぎ足すことで、その銅融体を継続して用いることができる。
上記(ロ)の手段においては、スラグフューミング炉から還元吹錬後の還元生成スラグを抜き出し分離する際、この炉内に銅合金とマットを留める。これにフラックスを添加して酸化処理に付し、銅合金とマットを酸化して、酸化生成スラグと新たなCu−Pb−As系銅合金(A)を形成し、この銅合金(A)を銅融体として用いて、新たなスラグを装入して還元吹錬する。この方法によれば、銅合金とマットを炉外へ抜き出さず、熔体の移送なしにマットを低減あるいは消滅させることができ、操業の効率化による処理コストの低減が図れる。
上記酸化処理は、特に限定されるものではなく、銅合金とマット中の鉄と硫黄を優先的に酸化することができる方式を用いることができるが、これらに所定量のフラックスを添加して加熱熔融しながら、空気、酸素富化空気、純酸素などの酸素含有ガスを熔体中に吹き込む、あるいは吹き付ける方式が好ましい。この処理によって、まず、マット中の鉄硫化物が優先的に酸化物となり、フラックスと反応してスラグとなる。さらに酸化を続けると、鉄を含まない銅硫化物(Cu−Pb−As−S)が生成し、さらには硫黄が除去されてCu−Pb−As系銅合金(A)となる。ここで、酸化処理の終点を、マットの消滅とする場合には酸化後の銅合金中の鉄品位を0.2重量%以下とすることが好ましい。ただし、鉄を過剰に酸化すると、銅の一部も酸化され、スラグ中への銅ロスとなることから、酸化後の銅合金中の鉄品位を0.04重量%以上になるように、酸化の程度を選択することが好ましい。
上記フラックスとしては、特に限定されるものではなく、酸化して生成するFeOあるいはFeと流動性を有するスラグを形成することができるものが選ばれる。例えば、一般にファイアライト(2FeO・SiO)スラグを生成するSiO、あるいはカルシウムフェライト(CaO−Fe)スラグを生成するCaOを用いることができ、またスラグフューミング炉のスラグも用いることができる。
上記(ハ)の手段においては、スラグフューミング炉からマットを抜き出し別の加熱炉に装入する。これにフラックスを添加して酸化処理に付し、酸化生成スラグと新たにCu−Pb−As系銅合金(B)を形成し、このCu−Pb−As系銅合金(B)をスラグフューミング炉の銅融体として用いる。ここで、前記酸化処理は、処理対照物がマットのみであること以外は上記(ロ)の手段の場合と同様に行われる。この処理によって、まず、マット中の鉄硫化物が優先的に酸化物となり、フラックスと反応してスラグとなる。さらに酸化を続けると、鉄を含まない銅硫化物(Cu−Pb−As−S)が生成し、さらには硫黄が除去されてCu−Pb−As系銅合金(B)となる。
上記(ニ)の手段においては、スラグフューミング炉から銅合金とマットを抜き出し別の加熱炉に装入する。これにフラックスを添加して酸化処理に付し、酸化生成スラグと新たにCu−Pb−As系均一融体(C)を形成し、このCu−Pb−As系均一融体(C)をスラグフューミング炉の銅融体として用いる。ここで、前記酸化処理は、上記(ロ)の手段の場合と同様に行われる。この処理によって、まず、マット中の鉄硫化物が優先的に酸化物となり、フラックスと反応してスラグとなる。さらに酸化を続けると、鉄を含まない銅硫化物(Cu−Pb−As−S)が生成し、さらには硫黄が除去されてCu−Pb−As系銅合金(C)となる。
上記(ハ)又は(ニ)の方法において、別の加熱炉を用いることの代わりに、例えば酸化雰囲気である銅製錬の転炉工程を利用して、銅を回収するとともに、鉄をスラグとして除去し、かつ鉛、ヒ素及びアンチモンをダストとして処理することができる。また、飽和された最終の銅合金の酸化処理は、例えば上記のように銅製錬の転炉工程に投入することで処理することができる。このように、既存プロセス工程で処理すれば、コストの上昇も少なくてすむ。
なお、スラグフューミング炉で生成されるスラグ、銅合金及びマットは、比重差で分離し、スラグフューミング炉の傾転あるいはタッピングにより容易に回収することができる。
以下に、本発明の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例で用いた金属の分析はICP発光分析法で行った。
また、実施例で用いた原料スラグは、熔鉱炉から産出したスラグを用いた。表1にその化学組成を示す。
Figure 2006028586
また、実施例で用いたスラグの還元吹錬方法は、下記の通りである。
[スラグの還元吹錬方法]
図2のスラグフューミング装置を用いた。スラグフューミング装置は、外熱式の電気炉9によって加熱され、温度制御用熱電対6と雰囲気担保用窒素吹き込み管1によって温度と電気炉内雰囲気が制御される。まず、反応に用いるアルミナるつぼ7に原料調合物を装入し、るつぼ保持用レンガ8の上に設置したセラミック外るつぼ5の中にアルミナるつぼ7を装入する。次に、加熱されて熔融状態の融体に撹拌窒素用吹き込み管3により窒素を吹きこみ、測温用熱電対4で反応温度を測定しながらの還元吹錬を行う。なお、発生するダストは、ダスト回収用セラミック管2を通じて回収する。
(実施例1)
上記原料スラグの還元吹錬を行い、得られたマットを用いて(イ)の手段を行った。
(1)還元吹錬
アルミナるつぼ内に、上記スラグ2000g、金属銅(銅品位99.99重量%)400g、及び炉内への混入酸素による酸化分を考慮したコークス(全炭素87.5重量%)40gを入れた。次に、上記[スラグの還元吹錬方法]にしたがって、窒素雰囲気下において1350℃に加熱し、熔融後30分保持した後、窒素ガスで浴内を50分撹拌し、撹拌終了後30分保持した。その後、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットをサンプリングし化学組成を分析した。また、揮発したダストを回収し化学組成を分析した。結果を表2に示す。また、還元生成スラグに対し、環境庁告示第46号による溶出試験を行い鉛とヒ素の溶出量を測定した。結果を表3に示す。なお、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットの生成量は、各々、1750g、310g及び210gであった。また、150gのダストを捕集できたが、ダスト回収用セラミック管等に回収できないダストが残留した。
(2)(イ)の手段
前記還元吹錬で得られた還元生成銅合金のほぼ全量305gとマットのほぼ全量209gをアルミナるつぼ内に留めて、還元生成スラグをアルミナるつぼから排出し、新たな原料スラグ2000gと金属銅(銅品位99.99重量%)40g及び炉内混入酸素による酸化分を考慮した40gのコークスを入れ、上記の還元吹錬と同様の条件で還元吹錬操作を行い、ダスト、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットを形成した。なお、全装入銅量を400gに調合した。その後、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットをサンプリングし化学組成を分析した。また、揮発したダストを回収し化学組成を分析した。結果を表2に示す。また、還元生成スラグに対し、環境庁告示第46号による溶出試験を行い鉛とヒ素の溶出量を測定した。結果を表3に示す。ここで、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットの生成量は、各々、1780g、250g及び305gであった。また、150gのダストを捕集できたが、ダスト回収用セラミック管等に回収できないダストが残留した。
Figure 2006028586
表1、2より、還元吹錬及びマットを繰返し使用した還元吹錬で、ヒ素は還元生成銅合金とマット中に濃縮し、ダストとスラグに分配しないことが分かる。また、マットを繰り返すことで、マット中のS濃度が上昇し、マット量の増加が小さいことが分かる。
Figure 2006028586
表3より、いずれの還元生成スラグの鉛とヒ素の溶出量は極めて低く、安定的に土壌環境基準を満足できることが分かる。
(実施例2)
上記原料スラグの還元吹錬を行い、得られた銅合金とマットを用いて(ロ)の手段を行った。
(1)還元吹錬
実施例1と同様に行い、ダスト、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットを形成した。
(2)(ロ)の手段
前記還元生成スラグをアルミナるつぼから排出した後、前記還元生成銅合金310g及びマット210gの酸化処理を行った。まず、還元生成銅合金及びマットにフラックスとしてSiOを42g添加した。なお、SiO添加量は、還元生成銅合金及びマットに含有される鉄分を酸化して2FeO・SiOスラグを形成するために必要な量とした。次に、還元生成銅合金及びマットからなる熔体中にアルミナ管を通じて酸素を送り込み、マットが消滅するまで酸化を行い、酸化生成スラグと酸化生成銅合金を形成した。その後、熔体温度を1350℃として、60分間保持した後冷却し、サンプリングして、これらの化学組成を分析した。結果を表4に示す。また、酸化生成スラグに対し、環境庁告示第46号による溶出試験を行い鉛とヒ素の溶出量を測定した。結果を表5に示す。なお、酸化生成スラグ及び酸化生成銅合金の生成量は、各々145g及び380gであった。
さらに、上記スラグ2000gを新たに装入し、これに上記酸化生成銅合金のほぼ全量375g、金属銅(銅品位99.99重量%)25g及び炉内混入酸素による酸化分を考慮した40gのコークスを入れ、上記還元吹錬と同様の条件で還元吹錬操作を行ったところ、ダスト、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットを形成することができた。すなわち、上記(ロ)の手段で得られた酸化生成銅合金は還元吹錬に際しての銅融体の銅源として繰返し使用できることを示している。
Figure 2006028586
表4より、(ロ)の手段でヒ素とアンチモンは酸化生成銅合金中に濃縮できること、また酸化生成銅合金はFe含有量が非常に低く、還元吹錬に際しての銅融体の銅源として好適であることが分かる。
Figure 2006028586
表5より、(ロ)の手段で得た酸化生成スラグの鉛とヒ素の溶出量は極めて低く、安定的に土壌環境基準を満足できることが分かる。
(実施例3)
上記原料スラグの還元吹錬を行い、得られたマットを用いて(ハ)の手段を行った。
(1)還元吹錬
実施例1と同様に行い、ダスト、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットを形成した。
(2)(ハ)の手段
前記マットを別のアルミナるつぼに装入し、マットの酸化処理を行った。まず、マット200gにフラックスとしてSiOを27g添加し、1350℃で熔融した。なお、SiO添加量は、還元生成銅合金及びマットに含有される鉄分を酸化して2FeO・SiOスラグを形成するために必要な量とした。次に、熔体中にアルミナ管を通じて酸素を送り込み、マットが消滅するまで酸化を行い、酸化生成スラグと酸化生成銅合金を形成した。その後、熔体温度を1350℃として、60分間保持した後冷却し、サンプリングして、これらの化学組成を分析した。結果を表6に示す。また、酸化生成スラグに対し、環境庁告示第46号による溶出試験を行い、鉛とヒ素の溶出量を測定した。結果を表7に示す。なお、酸化生成スラグ及び酸化生成銅合金の生成量は、各々90g及び95gであった。
さらに、上記スラグ2000gを新たに装入し、これに上記酸化生成銅合金のほぼ全量90g、金属銅(銅品位99.99重量%)320g及び炉内混入酸素による酸化分を考慮した40gのコークスを入れ、上記還元吹錬と同様の条件で還元吹錬操作を行った。なお、全装入銅量を400gに調合した。その後、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットをサンプリングし化学組成を分析した。また、揮発したダストを回収し化学組成を分析した。結果を表8に示す。また、還元生成スラグに対し、環境庁告示第46号による溶出試験を行い、鉛とヒ素の溶出量を測定した。結果を表7に示す。なお、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットの生成量は、各々、1780g、310g及び205gであった。
Figure 2006028586
表6より、(ハ)の手段でヒ素とアンチモンは酸化生成銅合金中に濃縮できること、また酸化生成銅合金はFe含有量が非常に低く、還元吹錬に際しての銅融体の銅源として好適であることが分かる。
Figure 2006028586
表7より、(ハ)の手段で得た酸化生成スラグ及び還元生成スラグの鉛とヒ素の溶出量は極めて低く、安定的に土壌環境基準を満足できることが分かる。
Figure 2006028586
表8より、還元吹錬で得たマットを酸化処理して得た酸化生成銅合金を銅源として繰返し使用しても、ヒ素は還元生成銅合金とマット中に濃縮し、ダスト及び還元生成スラグに分配しないことが分かる。
(実施例4)
上記原料スラグの還元吹錬を行い、得られた銅合金とマットを用いて(ニ)の手段を行った。
(1)還元吹錬
実施例1と同様に行い、ダスト、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットを形成した。
(2)(ニ)の手段
前記還元生成銅合金とマットを別のアルミナるつぼに装入し、還元生成銅合金とマットの酸化処理を行った。まず、還元生成銅合金300gとマット200gにフラックスとしてSiO40gを添加し、1350℃で熔融した。なお、SiO添加量は、還元生成銅合金及びマットに含有される鉄分を酸化して2FeO・SiOスラグを形成するために必要な量とした。次に、熔体中にアルミナ管を通じて酸素を送り込み、マットが消滅するまで酸化を行い、酸化生成スラグと酸化生成銅合金を形成した。その後、熔体温度を1350℃として、60分間保持した後冷却し、サンプリングして、これらの化学組成を分析した。結果を表9に示す。また、酸化生成スラグに対し、環境庁告示第46号による溶出試験を行い鉛とヒ素の溶出量を測定した。結果を表10に示す。なお、酸化生成スラグ及び酸化生成銅合金の生成量は、各々130g及び380gであった。
さらに、上記スラグ2000gを新たに装入し、これに上記酸化生成銅合金のほぼ全量370g、金属銅(銅品位99.99重量%)55g及び炉内混入酸素による酸化分を考慮した40gのコークスを入れ、上記還元吹錬と同様の条件で還元吹錬操作を行った。なお、全装入銅量を400gに調合した。その後、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットをサンプリングし化学組成を分析した。また、揮発したダストを回収し化学組成を分析した。結果を表11に示す。また、還元生成スラグに対し、環境庁告示第46号による溶出試験を行い鉛とヒ素の溶出量を測定した。結果を表10に示す。なお、還元生成スラグ、還元生成銅合金及びマットの生成量は、各々、1780g、320g及び210gであった。
Figure 2006028586
表9より、(ニ)の手段でヒ素とアンチモンは酸化生成銅合金中に濃縮できること、また酸化生成銅合金はFe含有量が非常に低く、還元吹錬に際しての銅融体の銅源として好適であることが分かる。
Figure 2006028586
表10より、(ニ)の手段で得た酸化生成スラグ及び還元生成スラグの鉛とヒ素の溶出量は極めて低く、安定的に土壌環境基準を満足できることが分かる。
Figure 2006028586
表11より、還元吹錬で得た還元生成銅合金とマットを酸化処理して得た酸化生成銅合金を銅源として繰返し使用しても、ヒ素は還元生成銅合金とマット中に濃縮し、ダスト及び還元生成スラグに分配しないことが分かる。
以上より明らかなように、本発明のスラグフューミング方法は、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグ、特に亜鉛と鉛とともに硫黄を含み、かつヒ素又はヒ素及びアンチモンを含有するスラグに好適に用いられる。ここで、ヒ素及びアンチモン含有量が少なく溶錬炉への繰り返しに好適な亜鉛と鉛を含むダストを得る方法として、また、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグを得る方法として、さらに、低処理コストの方法として有用である。
銅−鉄二元系状態図である。 実施例に用いたスラグフューミング装置の概念図である。
符号の説明
1 雰囲気担保用窒素吹き込み管
2 ダスト回収用セラミック管
3 撹拌窒素用吹き込み管
4 測温用熱電対
5 セラミック外るつぼ
6 温度制御用熱電対
7 アルミナるつぼ
8 るつぼ保持用レンガ
9 電気炉

Claims (2)

  1. 亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛と鉛とともに硫黄を含み、ヒ素又はヒ素とアンチモンを含有するスラグを、スラグフューミング炉中において、銅融体と共存させて還元吹錬する際に、
    下記(イ)〜(ニ)から選ばれるいずれかの手段を採用することにより、スラグフューミング中に形成される銅合金とマット中に含有する銅分を前記銅融体の銅源として繰返し使用することを特徴とする銅合金とマットの再利用方法。
    (イ)前記スラグフューミング炉から還元生成スラグを抜き出し分離するとき、スラグフューミング炉内に銅合金とマットを留めて銅融体として使用する方法。
    (ロ)前記スラグフューミング炉から還元生成スラグを抜き出し分離するとき、スラグフューミング炉内に銅合金とマットを留めて、該銅合金とマットにフラックスを添加して酸化処理に付し、酸化生成スラグと新たなCu−Pb−As系銅合金(A)を形成させた後、該銅合金(A)を銅融体として使用する方法。
    (ハ)前記スラグフューミング炉からマットを抜き出し別の炉に装入し、該マットにフラックスを添加して酸化処理に付し、酸化生成スラグと新たにCu−Pb−As系銅合金(B)を形成させた後、該銅合金(B)を銅融体として使用する方法。
    (ニ)前記スラグフューミング炉から銅合金とマットを抜き出し別の炉に装入し、該銅合金とマットにフラックスを添加して酸化処理に付し、酸化生成スラグと新たにCu−Pb−As系銅合金(C)を形成させた後、該銅合金(C)を銅融体として使用する方法。
  2. スラグ融体と銅融体を1200〜1500℃の温度下に共存させて還元吹錬に付し、亜鉛と鉛を含むダスト、土壌環境基準を満足する還元生成スラグ、銅合金及びマットを形成することを特徴とする請求項1に記載の銅合金とマットの再利用方法。
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