JP2006011144A - 発熱部材、定着装置、及び、画像形成装置 - Google Patents

発熱部材、定着装置、及び、画像形成装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 電磁誘導加熱方式の定着工程において、小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や装置が突発的に駆動停止した場合等であっても、過昇温が確実に抑止される発熱部材、定着装置、及び、画像形成装置を提供する。
【解決手段】 トナー像を記録媒体に定着する定着装置に設置されるとともに電磁誘導によって加熱される発熱部材22であって、定着温度の目標値近傍にキューリー点を有する導電層22bを備える。その導電層22bは、体積固有抵抗率が7.0×10-6Ωcm以下になるように形成される。
【選択図】 図3

Description

この発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の画像形成装置と、そこに設置される発熱部材及び定着装置とに関し、特に、電磁誘導加熱方式の定着工程に用いる発熱部材、定着装置、及び、画像形成装置に関するものである。
従来から、複写機、プリンタ等の画像形成装置において、装置の立ち上がり時間を低減して省エネルギー化することを目的として、電磁誘導加熱方式の定着装置を用いたものが多く用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1等において、電磁誘導加熱方式の定着装置は、支持ローラ(発熱ローラ)、定着補助ローラ(定着ローラ)、支持ローラと定着補助ローラとによって張架された定着ベルト、支持ローラに定着ベルトを介して対向する誘導加熱部、定着補助ローラに定着ベルトを介して対向する加圧ローラ、等で構成される。誘導加熱部は、幅方向(記録媒体の搬送方向に直交する方向である。)に延設されたコイル部(励磁コイル)や、コイル部に対向するコア等で構成される。
そして、定着ベルトは、誘導加熱部との対向位置で加熱される。加熱された定着ベルトは、定着補助ローラ及び加圧ローラの位置に搬送される記録媒体上のトナー像を加熱して定着する。詳しくは、コイル部に高周波の交番電流を流すことで、コイル部の周囲に磁界が形成されて、支持ローラ表面近傍に渦電流が生じる。支持ローラに渦電流が生じると、支持ローラ自身の電気抵抗によってジュール熱が発生する。このジュール熱によって、支持ローラに巻装された定着ベルトが加熱される。
このような電磁誘導加熱方式の定着装置は、少ないエネルギー消費で短い立ち上げ時間にて、定着ベルトの表面温度(定着温度)を所望の温度まで昇温できるものとして知られている。
一方、特許文献2等には、電磁誘導加熱方式を用いた定着装置であって、基層と発熱層とを備えた定着ベルトを用いる技術が開示されている。ここで、定着ベルトの基層は、比透磁率が2以上となるように形成されている。また、定着ベルトの発熱層は、比透磁率が2以下であり、層厚が電磁誘導によって励磁されたときの浸透深さよりも小さくなるように形成されている。この技術は、定着ベルトにおける発熱効率を向上することを目的としたものである。
また、特許文献3等には、電磁誘導加熱方式を用いた定着装置であって、キューリー点を有する磁性層でなる発熱部材(定着部材)を用いる技術が開示されている。ここで、発熱部材の磁性層は、その温度がキューリー点以上となったときの発熱量が通常温度で励磁されたときの発熱量の1/2となるように形成されている。この技術は、定着部材における過昇温を抑止することを目的としたものである。
また、特許文献4等には、電磁誘導加熱方式を用いた定着装置であって、誘導加熱部のコア部(磁性体コア)のキューリー点を幅方向で調整する技術が開示されている。詳しくは、幅方向両端部におけるコア部のキューリー点が、幅方向中央部のキューリー点に比べて小さくなるように形成している。この技術は、小サイズの記録媒体を通紙した場合に定着ベルトの幅方向両端部に生じる昇温を抑止することを目的としたものである。
特開2003−215956号公報 特開2003−7438号公報 特開2000−35724号公報 特開2000−162912号公報
上述した従来の定着装置は、小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や、紙詰まり等により装置が突発的に駆動停止した場合に、定着ベルトの一部又は全部が過昇温することがあった。
詳しくは、次の通りである。
一般的な画像形成装置は、幅方向のサイズが異なる数種類の記録媒体に対して、画像形成ができるように構成されている。ここで、幅方向サイズの異なる記録媒体とは、JIS寸法のA列やB列における種々の定形サイズの記録媒体の他に、不定形サイズの記録媒体も含まれる。また、同一サイズ(例えば、A4サイズである。)の記録媒体であっても、長手方向を搬送方向にした場合と、短手方向(長手方向に直交する方向である。)を搬送方向にした場合とでは、幅方向サイズの異なる記録媒体を扱っていることになる。
このような幅方向サイズの異なる記録媒体を定着装置で定着する場合には、記録媒体の幅方向サイズに応じて、定着ベルトの幅方向の熱分布が変動して、温度ムラが生じてしまう場合があった。例えば、幅方向サイズの小さな記録媒体を通紙して定着する場合には、その記録媒体の幅方向サイズに対応する定着ベルトの位置(通紙領域である。)では熱が多く奪われて、その他の位置(非通紙領域である。)に比べて定着温度が低くなる。このような現象は、幅方向サイズの小さな記録媒体を連続的に通紙するような場合に、特に顕著になる。
したがって、定着ベルトの幅方向中央部の定着温度を基準として定着ベルトの幅方向全域の定着温度を制御しようとすると、定着ベルトの幅方向中央部の定着温度は所望の温度に制御できるものの、幅方向両端部の定着温度が上昇(過昇温)してしまうことになる。このように、定着ベルトの幅方向両端部の定着温度が上昇した状態で、幅方向サイズの大きな記録媒体を定着すると、温度上昇位置に対応した記録媒体上にホットオフセットが発生してしまう。さらに、幅方向両端部の定着温度が定着ベルトの耐熱温度を超えた場合には、定着ベルトに熱的破損が生じることも考えられる。
これに対して、定着ベルトの幅方向両端部の定着温度を基準として定着ベルトの幅方向全域の定着温度を制御しようとすると、定着ベルトの幅方向両端部の定着温度は所望の温度に制御できるものの、幅方向中央部の定着温度が下降してしまうことになる。このように、定着ベルトの幅方向中央部の定着温度が下降した状態で記録媒体を定着すると、温度下降位置に対応した記録媒体上にコールドオフセットが発生してしまう。
また、画像形成装置内の搬送経路中に紙詰まり(ジャム)が発生した場合等には、定着装置における駆動が突発的に停止される。このような場合には、誘導加熱部への通電が遮断されるまでの僅かな時間に、誘導加熱部に対向する定着ベルトの部分が瞬時に過昇温してしまう。これによって、定着ベルトや誘導加熱部のコイル部等の構成部材に熱的破損が生じることも考えられる。
一方、上述の特許文献2等の技術は、定着ベルトにおける基層及び発熱層の比透磁率や層厚を適正化することで、定着ベルトにおける発熱効率を向上させるものである。したがって、上述の定着ベルトの過昇温を抑止する効果は期待できない。
また、上述の特許文献3等の技術は、定着部材の磁性層に所定のキューリー点を設定している。しかし、磁性層の温度がキューリー点以上となったときの発熱量が通常に励磁されたときの発熱量の1/2となるように形成している。しかも、磁性層の温度がキューリー点以上となったときにも、加熱ローラの厚さ全体に渡って電流が流れるように構成しているために、上述の定着ベルトの過昇温を確実に抑止する効果は期待できない。
また、上述の特許文献4等の技術は、誘導加熱部のコア部のキューリー点を幅方向で調整している。しかし、誘導加熱部によって加熱される定着部材の過昇温は、コア部に過昇温が生じる前に発生するために、上述の定着ベルトの過昇温を直接的に抑止する効果は期待できない。
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、電磁誘導加熱方式の定着工程において、小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や装置が突発的に駆動停止した場合等であっても、過昇温が確実に抑止される発熱部材、定着装置、及び、画像形成装置を提供することにある。
この発明の請求項1記載の発明にかかる発熱部材は、トナー像を記録媒体に定着する定着装置に設置されるとともに電磁誘導によって加熱される発熱部材であって、定着温度の目標値近傍にキューリー点を有する導電層を備え、前記導電層は、体積固有抵抗率が7.0×10-6Ωcm以下になるように形成されたものである。
また、請求項2記載の発明にかかる発熱部材は、上記請求項1に記載の発明において、前記導電層は、その温度が前記キューリー点を超えた場合に電磁誘導によって励磁されたときの渦電流の浸透深さがその層厚よりも小さくなるように形成されたものである。
また、請求項3記載の発明にかかる発熱部材は、上記請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記導電層は、前記キューリー点が100〜350℃の範囲内になるように形成されたものである。
また、請求項4記載の発明にかかる発熱部材は、上記請求項1〜請求項3のいずれかに記載の発明において、前記導電層を励磁する交番電流の周波数を10k〜1MHzの範囲内としたものである。
また、請求項5記載の発明にかかる発熱部材は、上記請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発明において、前記導電層は、ニッケルからなるものである。
また、この発明の請求項6記載の発明にかかる定着装置は、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の発熱部材と、前記発熱部材を電磁誘導によって加熱する誘導加熱部と、を備えたものである。
また、請求項7記載の発明にかかる定着装置は、上記請求項6に記載の発明において、前記誘導加熱部のコイル部に印加される交番電流の周波数を10k〜1MHzの範囲内にしたものである。
また、請求項8記載の発明にかかる定着装置は、上記請求項6又は請求項7に記載の発明において、前記発熱部材を、トナー像を溶融する定着部材としたものである。
また、請求項9記載の発明にかかる定着装置は、上記請求項8に記載の発明において、前記定着部材は、定着ベルトであって、前記誘導加熱部は、前記定着ベルトの外周面に対向するように配設されたものである。
また、請求項10記載の発明にかかる定着装置は、上記請求項9に記載の発明において、前記定着ベルトは、支持ローラと定着補助ローラとに張架され、前記定着補助ローラは、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに対して前記定着ベルトを介して当接するように配設されたものである。
また、請求項11記載の発明にかかる定着装置は、上記請求項10に記載の発明において、前記支持ローラは、前記誘導加熱部に対して前記定着ベルトを介して対向するように配設されたものである。
また、請求項12記載の発明にかかる定着装置は、上記請求項8に記載の発明において、前記定着部材は、定着ベルトであって、前記誘導加熱部は、前記定着ベルトの外周面及び内周面に対向するように配設されたものである。
また、請求項13記載の発明にかかる定着装置は、上記請求項12に記載の発明において、前記定着ベルトは、支持ローラと定着補助ローラとに張架され、前記定着補助ローラは、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに対して前記定着ベルトを介して当接するように配設され、前記誘導加熱部は、前記支持ローラを介して前記定着ベルトの内周面に対向するように配設されたものである。
また、請求項14記載の発明にかかる定着装置は、上記請求項8に記載の発明において、前記定着部材は、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに当接する定着ローラであって、前記誘導加熱部は、前記定着ローラの外周面又は/及び内周面に対向するものである。
また、請求項15記載の発明にかかる定着装置は、上記請求項6〜請求項14のいずれかに記載の発明において、前記発熱部材を、トナー像を溶融する定着部材を加熱する加熱部材とするものである。
また、請求項16記載の発明にかかる定着装置は、上記請求項15に記載の発明において、前記定着部材は、定着ベルトであって、前記加熱部材は、定着補助ローラとともに前記定着ベルトを張架する支持ローラであって、前記支持ローラは、前記定着ベルトの外周面に対向する前記誘導加熱部に対して当該定着ベルトを介して対向するように配設され、前記定着補助ローラは、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに対して前記定着ベルトを介して当接するように配設されたものである。
また、請求項17記載の発明にかかる定着装置は、上記請求項15に記載の発明において、前記定着部材は、定着ベルトであって、前記加熱部材は、定着補助ローラとともに前記定着ベルトを張架する支持ローラであって、前記誘導加熱部は、前記定着ベルトの外周面に対向するとともに、前記支持ローラを介して前記定着ベルトの内周面に対向するように配設され、前記定着補助ローラは、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに対して前記定着ベルトを介して当接するように配設されたものである。
また、この請求項18記載の発明にかかる画像形成装置は、請求項6〜請求項17のいずれかに記載の定着装置を備えたものである。
本発明は、電磁誘導加熱方式の定着装置に用いられる発熱部材において、導電層が定着温度近傍にキューリー点を有するとともに、導電層の体積固有抵抗率が適正化されている。これにより、導電層がキューリー点に達した場合に、導電層におけるジュール熱の発生が制限される。したがって、小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や装置が突発的に駆動停止した場合等であっても、過昇温が確実に抑止される発熱部材、定着装置、及び、画像形成装置を提供することができる。
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
実施の形態1.
図1〜図3にて、この発明の実施の形態1について詳細に説明する。
まず、図1にて、画像形成装置全体の構成・動作について説明する。
図1において、1は画像形成装置としてのレーザープリンタの装置本体、3は画像情報に基いた露光光Lを感光体ドラム18上に照射する露光部、4は装置本体1に着脱自在に設置される作像部としてのプロセスカートリッジ、7は感光体ドラム18上に形成されたトナー像を記録媒体Pに転写する転写部、10は出力画像が載置される排紙トレイ、11、12は転写紙等の記録媒体Pが収納された給紙部、13は記録媒体Pを転写部7に搬送するレジストローラ、15は手差し給紙部、18は像担持体としての感光体ドラム、20は記録媒体P上の未定着画像を定着する定着装置を示す。
図1を参照して、画像形成装置における、通常の画像形成時の動作について説明する。
まず、露光部3から、画像情報に基づいたレーザ光等の露光光Lが、プロセスカートリッジ4の感光体ドラム18上に向けて発せられる。感光体ドラム18は図中の反時計方向に回転しており、所定の電子写真プロセス(帯電工程、露光工程、現像工程)を経て、感光体ドラム18上に画像情報に対応したトナー像が形成される。
その後、感光体ドラム18上に形成されたトナー像は、転写部7で、レジストローラ13により搬送された記録媒体P上に転写される。
一方、転写部7に搬送される記録媒体Pは、次のように動作する。
まず、画像形成装置本体1の複数の給紙部11、12、15のうち、1つの給紙部が自動又は手動で選択される(例えば、最上段の給紙部11が選択されたものとする。)。そして、給紙部11に収納された記録媒体Pの最上方の1枚が、搬送経路Kの位置に向けて搬送される。その後、記録媒体Pは、搬送経路Kを通過してレジストローラ13の位置に達する。そして、レジストローラ13の位置に達した記録媒体Pは、感光体ドラム18上に形成されたトナー像と位置合わせをするためにタイミングを合わせて、転写部7に向けて搬送される。
そして、転写工程後の記録媒体Pは、転写部7の位置を通過した後に、搬送経路を経て定着装置20に達する。定着装置20に達した記録媒体Pは、定着ベルトと加圧ローラとの間に送入されて、定着ベルトから受ける熱と加圧ローラから受ける圧力とによってトナー像が定着される。トナー像が定着された記録媒体Pは、定着ベルトと加圧ローラとの間から送出された後に、出力画像として画像形成装置本体1から排出されて、排紙トレイ10上に載置される。
こうして、一連の画像形成プロセスが完了する。
次に、図2にて、画像形成装置本体1における定着装置20の構成・動作について詳述する。
図2に示すように、定着装置20は、主として、定着補助ローラ21、定着ベルト22、支持ローラ23、誘導加熱部24、加圧ローラ30、サーミスタ38、ガイド板35、分離板36等で構成される。
ここで、定着補助ローラ21は、ステンレス鋼等からなる芯金の表面に、シリコーンゴム等の弾性層を形成したものである。定着補助ローラ21の弾性層は、肉厚が3〜10mmで、アスカー硬度が10〜50度となるように形成されている。定着補助ローラ21は、不図示の駆動部によって図2の反時計方向に回転駆動される。
加熱部材(発熱部材)としての支持ローラ23は、ニッケル等の磁性導電性材料からなる導電層(円筒部)を備えている。支持ローラ23の円筒部は、その肉厚(層厚)が0.37〜1mm程度となるように形成されている。支持ローラ23は、図2の反時計方向に回転する。
ここで、発熱部材としての支持ローラ23の材料(導電層の材料である。)は、常温環境(20℃)における体積固有抵抗率が7.0×10-6Ωcm以下となる磁性導電性材料が選定されている。現実的には体積固有抵抗率が最も低い銀の値を考慮して、常温環境における体積固有抵抗率が1.5×10-6〜7.0×10-6Ωcmの範囲となる磁性導電性材料が選定されている。したがって、ニッケルの他には、コバルトやそれらの合金を選定することもできる。
また、支持ローラ23の材料は、キューリー点が定着ベルト22の定着温度の目標値(例えば、180℃である。)の近傍になるような材料が選定されている。具体的には、キューリー点が100〜350℃の範囲内になる材料が選定されている。
さらに、支持ローラ23は、支持ローラ23の温度がキューリー点を超えた場合(磁性を失って比透磁率が1になる場合である。)に、電磁誘導によって励磁されたときの渦電流の浸透深さδが、支持ローラ23の肉厚よりも小さくなるように形成されている。
なお、浸透深さδは次式で求まる。
δ=503・〔ρ/(μf)〕1/2
上式において、ρは材料の体積固有抵抗率であり、μは材料の比透磁率であり、fは材料を励磁する交番電流の周波数である。
本実施の形態1では、支持ローラ23をニッケルにて形成しているために、その温度がキューリー点以下であるときの比透磁率μは200となり、その温度がキューリー点を超えたときの比透磁率μは1となる。また、本実施の形態1では、周波数fを10k〜1MHzとしている。
以上説明した構成により、支持ローラ23は、電磁誘導によって過昇温されることなく加熱されることになる。
すなわち、誘導加熱部24によって加熱された支持ローラ23の温度がキューリー点に達しない場合には、支持ローラ23の比透磁率は1よりも大きくて磁性を有しているために、渦電流の生じる浸透深さが小さくなる。すなわち、支持ローラ23の表面近傍に渦電流が発生して、その領域における抵抗が大きくなって、その抵抗に比例して大きなジュール熱が発生する。
これに対して、誘導加熱部24によって加熱された支持ローラ23の温度がキューリー点を超えた場合には、支持ローラ23の比透磁率は1になって磁性を失うために、渦電流の生じる浸透深さが大きくなって抵抗が小さくなる。これにより、その抵抗に比例してジュール熱の発生量が低下して、過昇温が抑止される。
なお、本実施の形態1では、支持ローラ23を導電層のみの構成としたが、支持ローラ23の導電層上に弾性層等を設けることもできる。その場合にも、支持ローラ23の導電層を、本実施の形態1と同様の構成とすることで、本実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、本実施の形態1において、支持ローラ23の材料によっては、支持ローラ23の内部にフェライト等の強磁性体からなる内部コアを設置することもできる。その場合、内部コアは、定着ベルト22を介してコイル部25に対向することになる。
以下、定着ベルト22について詳述する。
図2を参照して、発熱部材としての定着ベルト22(定着部材)は、支持ローラ23と定着補助ローラ21とに張架・支持されている。
図3(A)に示すように、定着ベルト22は、基材22a上に導電層22b(発熱層)、弾性層22c、離型層22dが順次形成された、多層構造のエンドレスベルトである。基材22aは、絶縁性の耐熱樹脂材料からなり、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PES(ポリエーテルスルフォン)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、フッ素樹脂等を用いることができる。基材22aの層厚は、熱容量及び強度の点から、30〜200μmに形成されている。
定着ベルト22の導電層22bは、ニッケル等の磁性導電性材料からなり、その層厚が0.36mmを超えるように形成されている。導電層22bは基材22a上に、メッキ、スパッタ、真空蒸着等によって形成される。
ここで、導電層22bの材料は、常温環境(20℃)における体積固有抵抗率が7.0×10-6Ωcm以下となる磁性導電性材料が選定されている。現実的には体積固有抵抗率が最も低い銀の値を考慮して、常温環境における体積固有抵抗率が1.5×10-6〜7.0×10-6Ωcmの範囲となる磁性導電性材料が選定されている。したがって、ニッケルの他には、コバルトやそれらの合金を選定することもできる。
また、導電層22bの材料は、キューリー点が定着ベルト22の定着温度の目標値の近傍になるような材料が選定されている。具体的には、キューリー点が100〜350℃の範囲内になる材料が選定されている。
さらに、導電層22bは、導電層22bの温度がキューリー点を超えた場合に、電磁誘導によって励磁されたときの渦電流の浸透深さδが、導電層22bの層厚よりも小さくなるように形成されている。
本実施の形態1では、導電層22bをニッケルにて形成しているために、その温度がキューリー点以下であるときの比透磁率μは200となり、その温度がキューリー点を超えたときの比透磁率μは1となる。また、本実施の形態1では、周波数fを10k〜1MHzとしている。
以上説明した構成により、定着ベルト22の導電層22bは、電磁誘導によって過昇温されることなく加熱されることになる。
すなわち、誘導加熱部24によって加熱された導電層22bの温度がキューリー点に達しない場合には、渦電流の生じる浸透深さが小さくなる。すなわち、導電層22bの表面近傍に渦電流が発生して、大きなジュール熱が発生する。
これに対して、導電層22bの温度がキューリー点を超えた場合には、渦電流の生じる浸透深さが大きくなって、ジュール熱の発生量が低下することにより過昇温が抑止される。
定着ベルト22の弾性層22cは、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等からなり、層厚が50〜500μmでアスカー硬度が5〜50度となるように形成されている。これにより、出力画像において、光沢ムラのない均一な画質を得ることができる。
定着ベルト22の離型層22dは、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂、これらの樹脂の混合物、又は、これらの樹脂を耐熱性樹脂に分散させたものである。離型層22dの層厚は、5〜50μm(好ましくは、10〜30μmである。)に形成されている。これにより、定着ベルト22上のトナー離型性が担保されるとともに、定着ベルト22の柔軟性が確保される。
なお、定着ベルト22の各層22a〜22dの間に、プライマ層等を設けることもできる。
なお、本実施の形態1では、発熱部材としての定着ベルト22を4層構造体(図3(A)の構造体である。)としたが、図3(B)〜(D)の多層構造体とすることもできる。
図3(B)の定着ベルト22は、導電層22b、弾性層22c、離型層22dからなる。ここで、導電層22bは、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPS、フッ素樹脂等の樹脂材料に、磁性導電性粒子を分散したものを用いることもできる。その場合、樹脂材料に対して磁性導電性粒子を20〜90重量%の範囲内で添加する。具体的には、ワニス状態の樹脂材料中に、ロールミル、サンドミル、遠心脱泡装置等の分散装置を用いて磁性導電性粒子を分散する。これを溶剤により適当な粘度に調整して、金型により所望の層厚に成形する。
図3(C)の定着ベルト22は、複数の導電層22bを基材22a中に設けて、その上に弾性層22c、離型層22dを順次形成している。
図3(D)の定着ベルト22は、基材22a上に複数の導電層22bを備えた弾性層22cを形成して、さらに表面層として離型層22dを形成している。
これらの場合にも、導電層22bを本実施の形態1と同様の構成とすることで、本実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
図2を参照して、誘導加熱部24は、コイル部25、コア26、コイルガイド27等で構成される。
ここで、コイル部25は、支持ローラ23に巻装された定着ベルト22の外周部を覆うように、細線を束ねたリッツ線を巻回して幅方向(図2の紙面垂直方向である。)に延設したものである。コイルガイド27は、耐熱性の高い樹脂材料等からなり、コイル部25を保持する。コア26は、フェライト等の強磁性体からなり、センターコア26aやサイドコア26bが設けられている。コア26は、幅方向に延設されたコイル部25に対向するように設置されている。コイル部25は、不図示の高周波電源部に接続されていて、高周波電源部から10k〜1MHz(好ましくは、10k〜300kHzである。)の交番電流が印加される。
加圧ローラ30は、アルミニウム、銅等からなる円筒部材上にフッ素ゴム、シリコーンゴム等の弾性層が形成されたものである。加圧ローラ30の弾性層は、肉厚が1〜5mmで、アスカー硬度が20〜50度となるように形成されている。加圧ローラ30は、定着ベルト22を介して定着補助ローラ21に圧接している。そして、定着ベルト22と加圧ローラ30との当接部(定着ニップ部である。)に、記録媒体Pが搬送される。
定着ベルト22と加圧ローラ30との当接部の入口側には、記録媒体Pの搬送を案内するガイド板35が配設されている。
定着ベルト22と加圧ローラ30との当接部の出口側には、記録媒体Pの搬送を案内するとともに記録媒体Pが定着ベルト22から分離するのを促進する分離板36が配設されている。
定着ベルト22の外周面上であって定着ニップ部の上流側には、熱応答性の高い感温素子としてのサーミスタ38が当接されている。そして、サーミスタ38によって、定着ベルト22上の表面温度(定着温度)が検知されて、誘導加熱部24の出力が調整される。
このように構成された定着装置20は、次のように動作する。
定着補助ローラ21の回転駆動によって、定着ベルト22は図2中の矢印方向に周回するとともに、支持ローラ23も反時計方向に回転して、加圧ローラ30も矢印方向に回転する。定着ベルト22は、誘導加熱部24との対向位置で加熱される。
詳しくは、高周波電源部からコイル部25に10kHz〜1MHzの高周波交番電流を流すことで、コイル部25の周囲(定着ベルト22及び支持ローラ23の一部を含む範囲である。)に磁力線が双方向に交互に切り替わるように形成される。このように交番磁界が形成されることで、支持ローラ23及び導電層22bの温度がキューリー点以下である場合に、支持ローラ23表面と定着ベルト22の導電層22bとに渦電流が生じて、支持ローラ23及び導電層22bの電気抵抗によってジュール熱が発生して、支持ローラ23及び導電層22bが加熱される。こうして、定着ベルト22は、発熱した支持ローラ23から受ける熱と、自身の導電層22bの発熱と、によって加熱される。
その後、誘導加熱部24によって発熱した定着ベルト22表面は、加圧ローラ30との当接部に達する。そして、搬送される記録媒体P上のトナー像Tを加熱して溶融する。
詳しくは、先に説明した作像プロセスを経てトナー像Tを担持した記録媒体Pが、ガイド板35に案内されながら定着ベルト22と加圧ローラ30との間に送入される(矢印Yの搬送方向の移動である。)。そして、定着ベルト22から受ける熱と加圧ローラ30から受ける圧力とによってトナー像Tが記録媒体Pに定着されて、記録媒体Pは定着ベルト22と加圧ローラ30との間から送出される。
加圧ローラ30の位置を通過した定着ベルト22表面は、その後に再び誘導加熱部24との対向位置に達する。このような一連の動作が連続的に繰り返されて、画像形成プロセスにおける定着工程が完了する。
このような定着工程において、支持ローラ23及び導電層22bの温度がキューリー点を超えた場合には、先に説明したように、支持ローラ23及び導電層22bの発熱が適宜に制限されることになる。
以上説明したように、本実施の形態1では、電磁誘導加熱方式の定着装置20に用いられる支持ローラ23及び定着ベルト22の導電層において、キューリー点を定着温度近傍に設定し、導電層の体積固有抵抗率及び層厚を適正化している。これにより、導電層22b、23がキューリー点に達した場合に、導電層22b、23におけるジュール熱の発生が制限される。したがって、小サイズの記録媒体Pを連続的に通紙した場合や、装置本体1が突発的に駆動停止した場合等であっても、定着ベルト22の過昇温を確実に抑止することができる。
なお、本実施の形態1では、導電層22bを有する定着ベルト22と、導電層を有する支持ローラ23と、を発熱部材として用いた。これに対して、定着ベルト22及び支持ローラ23のうちいずれか一方のみを発熱部材として用いることもできる。その場合も、発熱部材として用いた一方の部材に、本実施の形態1と同様の導電層を設けることで、本実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、本実施の形態1では、定着ベルト22を介して支持ローラ23に対向する位置に、誘導加熱部24を配設した。これに対して、支持ローラ23から定着補助ローラ21に至る定着ベルト22の外周面に対向する位置に、誘導加熱部24を配設することもできる。この場合、支持ローラ23は発熱部材として機能せずに、導電層22bを有する定着ベルト22が発熱部材として機能することになる。また、誘導加熱部材24と定着ベルト22との距離を一定に保つために、定着ベルト22の内周面に位置決め部材を当接させることになる。このような定着装置に対しても、定着ベルト22の導電層22bの体積固有抵抗率、層厚、キューリー点を適正化することで、本実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
実施の形態2.
図4にて、この発明の実施の形態2について詳細に説明する。
図4は実施の形態2における画像形成装置の要部を示す断面図である。本実施の形態2の画像形成装置は、タンデム型のカラー画像形成装置である点と、発熱部材として定着ローラ31を用いている点とが、前記実施の形態1のものとは相違する。
本実施の形態2における画像形成装置は、タンデム型のカラー画像形成装置である。図4に示すように、作像部には、複数の感光体ドラム18BK、18Y、18M、18Cが転写ベルト8上に並設されている。図示は省略するが、複数の感光体ドラム18BK、18Y、18M、18Cの外周には、帯電部、露光部、現像部、クリーニング部、除電部が配設されている(図1のプロセスカートリッジ4を参照できる。)。そして、各感光体ドラム18BK、18Y、18M、18C上で、各色(ブラック、イエロー、マゼンタ、シアン)のトナー像が形成される。
転写部7は、記録媒体Pを搬送する転写ベルト8、各感光体ドラム18BK、18Y、18M、18Cに対して転写ベルト8を介して対向するバイアスローラ9、転写ベルト8表面を清掃するクリーニングローラ14、等で構成される。
転写ベルト8は、矢印方向から搬送される記録媒体Pを、各感光体ドラム18Y、18M、18C、18BKとの対向位置に順次搬送する。このとき、バイアスローラ9に印加される転写バイアスによって、記録媒体P上に各色のトナー像が重ねて転写される。こうして、記録媒体P上にフルカラーのトナー像が形成される。その後、フルカラーのトナー像が形成された記録媒体Pは、転写ベルト8から分離されて、定着装置20に向けて搬送されることになる。
一方、本実施の形態2の定着装置20は、主として、発熱部材としての定着ローラ31(定着部材)、加圧ローラ30、誘導加熱部24等で構成される。
定着ローラ31は、ニッケルからなる導電層22b、シリコーンゴム等からなる弾性層、フッ素化合物等からなる離型層、等で構成される。定着ローラ31は、加圧ローラ30の加圧力に抗するだけの機械的強度をもつ。
定着ローラ31の導電層22bは、前記実施の形態1と同様に、体積固有抵抗率が7.0×10-6Ωcm以下となる磁性導電性材料としてのニッケルからなり、その層厚が0.36mmを超えるように形成されている。さらに、定着ローラ31の導電層22bは、キューリー点が定着ベルト22の定着温度の目標値近傍になるように形成されている。
また、誘導加熱部24は、前記実施の形態1と同様に、コイル部25、コア26等からなる。そして、コイル部25に10k〜1MHzの交番電流が供給されることで、コイル部25の周囲(定着ローラ31の一部を含む範囲である。)に磁力線が形成されて、電磁誘導により定着ローラ31が加熱される。このようにして、加熱された定着ローラ31は、矢印方向から搬送される記録媒体P上のトナー像を加熱・溶融して記録媒体Pに定着する。
本実施の形態2においても、定着ローラ31の導電層22bの温度がキューリー点を超えた場合には、前記実施の形態1と同様に、導電層22bの発熱が適宜に制限されることになる。
以上説明したように、本実施の形態2では、電磁誘導加熱方式の定着装置20に用いられる定着ローラ31の導電層22bにおいて、キューリー点を定着温度近傍に設定し、導電層22bの体積固有抵抗率及び層厚を適正化している。これにより、導電層22bがキューリー点に達した場合に、導電層22bにおけるジュール熱の発生が制限される。したがって、小サイズの記録媒体Pを連続的に通紙した場合や、装置本体1が突発的に駆動停止した場合等であっても、定着ローラ31の過昇温を確実に抑止することができる。
なお、本実施の形態2では、定着装置20において、誘導加熱部24を定着ローラ31の外周面に対向させた。これに対して、誘導加熱部を定着ローラ31の内周面に対向させることもできる。すなわち、定着ローラ31の内部にコイル部25を設置して、電磁誘導により定着ローラ31を加熱することができる。このような定着装置20に対しても、定着ローラ31の導電層22bの体積固有抵抗率、層厚、キューリー点を適正化することで、本実施の形態2と同様の効果を得ることができる。
また、本実施の形態2では、誘導加熱部24に対向する定着部材として定着ローラ31を用いたが、誘導加熱部24に対向する定着部材として円状の定着ベルト22を用いることもできる。この場合、定着ベルト22を円状に保持する保持部材を、定着ベルト22の内周面に当接させることになる。さらに、定着ベルト22と加圧ローラ30との適正な定着ニップを形成するために、定着ベルト22の内周面であって加圧ローラ30に対向する位置に加圧部材を当接させることになる。このような定着装置20に対しても、定着ベルト22の導電層22bの体積固有抵抗率、層厚、キューリー点を適正化することで、本実施の形態2と同様の効果を得ることができる。
実施の形態3.
図5にて、この発明の実施の形態3について詳細に説明する。
図5は実施の形態3における定着装置を示す断面図である。本実施の形態3の定着装置は、誘導加熱部24の構成が前記実施の形態1のものとは相違する。
本実施の形態3における定着装置20は、主として、発熱部材としての定着ベルト22(定着部材)、発熱部材としての支持ローラ23、加圧ローラ30、誘導加熱部24等で構成される。誘導加熱部24以外の構成部材は、前記実施の形態1のものと同等である。
図5に示すように、本実施の形態3の誘導加熱部24は、発熱部材としての定着ベルト22及び支持ローラ23を挟むように略ループ状に配設されたコイル部25からなる。すなわち、誘導加熱部24のコイル部25は、定着ベルト22及び支持ローラ23の外周面に対向するとともに、定着ベルト22及び支持ローラ23の内周面に対向するように配設されている。
このように構成された定着装置20において、ループ状のコイル部25に10k〜1MHzの交番電流が供給されることで、定着ベルト22及び支持ローラ23を挟むコイル部25の間に磁力線が形成されて、電磁誘導により定着ベルト22及び支持ローラ23が加熱される。
本実施の形態3においても、定着ベルト22及び支持ローラ23の導電層の温度がキューリー点を超えた場合には、前記実施の形態1と同様に、導電層の発熱が適宜に制限されることになる。
以上説明したように、本実施の形態3の構成によれば、前記各実施の形態と同様に、発熱部材の導電層がキューリー点に達した場合に、導電層におけるジュール熱の発生が制限される。したがって、小サイズの記録媒体Pを連続的に通紙した場合や、装置本体1が突発的に駆動停止した場合等であっても、定着ローラ31の過昇温を確実に抑止することができる。
なお、本実施の形態3では、定着ベルト22及び支持ローラ23の外周面及び内周面に対向するように、ループ状の誘導加熱部24を配設した。これに対して、支持ローラ23から定着補助ローラに至る定着ベルト22の外周面及び内周面に対向する位置に、ループ状の誘導加熱部24を配設することもできる。さらに、図4のような定着ローラ31の外周面及び内周面に対向する位置に、ループ状の誘導加熱部24を配設することもできる。これらのような定着装置に対しても、発熱部材の導電層の体積固有抵抗率、層厚、キューリー点を適正化することで、本実施の形態3と同様の効果を得ることができる。
実施例.
図6にて、上記各実施の形態で述べた効果を確認するための実施例と比較例とについて説明する。
図6に示す実施例は、前記実施の形態1の定着ベルト22を用いて、交番電流の周波数fを130kHzとして、過昇温の有無について評価した。具体的に、実施例の定着ベルト22は、導電層22bの材料がニッケルであって、層厚(厚さ)が1.0mmに形成されている。導電層22bの常温における体積固有抵抗率は6.9×10-6Ωcmである。また、導電層22bの温度がキューリー点以下のとき(磁性時である。)、比透磁率が200となって浸透深さが0.03mmになる。これに対して、導電層22bの温度がキューリー点を超えたとき(非磁性時である。)、比透磁率が1となって浸透深さが0.36mmになる。
実施例においては、導電層22bの層厚を1.0mmとして、非磁性時の浸透深さ0.36mmよりも大きく形成している。これにより、導電層22bがキューリー点を超えたときに、導電層22bの表面から離れた内部に渦電流が発生することになり、導電層22bの発熱が抑えられる。図6の「過昇温防止」における「○」は、導電層22bがキューリー点を超えたときに、過昇温が生じなかった結果を示すものである。
図6に示す比較例1は、実施例の導電層22bの層厚を0.2mmとしたときの、過昇温の有無について評価した。比較例1の導電層22bは、層厚以外の条件は実施例のものと同等である。
比較例1においては、導電層22bの層厚を0.2mmとして、非磁性時の浸透深さ0.36mmよりも小さく形成している。このような場合には、導電層22bがキューリー点を超えたときに、導電層22bの発熱を充分に抑えられない。図6の「過昇温防止」における「×」は、導電層22bがキューリー点を超えたときに、過昇温が生じた結果を示すものである。
図6に示す比較例2は、実施例の導電層22bの材料として、磁性導電性材料のニッケルに替わって、非磁性材料のアルミニウムを用いた。具体的に、比較例2の導電層22bは、材料がアルミニウムであって、層厚が0.8mmに形成されている。導電層22bの常温における体積固有抵抗率は2.7×10-6Ωcmである。また、導電層22bの浸透深さは0.23mmになる。
比較例2においては、導電層22bの層厚が浸透深さよりも大きく形成されているものの、非磁性材料であるために、電磁誘導による発熱が生じなかった。
図6に示す比較例3は、実施例の導電層22bの材料として、磁性導電性材料のニッケルに替わって、非磁性材料のSUS304を用いた。具体的に、比較例3の導電層22bは、材料がSUS304であって、層厚が1.5mmに形成されている。導電層22bの常温における体積固有抵抗率は7.0×10-5Ωcmである。また、導電層22bの浸透深さは1.18mmになる。
比較例3においては、導電層22bの層厚が浸透深さよりも大きく形成されているものの、体積固有抵抗率が大きいために、過昇温が生じてしまった。
実施例と比較例3とを比べて、電磁誘導加熱定着方式に用いる発熱部材の導電層22bにおいて、その体積固有抵抗率が双方の値の中間をとって1.0×10-5Ωcm程度よりも小さいこと、好ましくは7.0×10-6Ωcm以下であることが過昇温を防止する条件になることがわかる。
また、実施例と比較例2とを比べて、電磁誘導加熱定着方式に用いる発熱部材の導電層22bにおいて、その材料が定着温度近傍にキューリー点を有しうる磁性導電性材料であることが過昇温を防止する条件になることがわかる。
また、実施例と比較例1とから、電磁誘導加熱定着方式に用いる発熱部材の導電層22bにおいて、その層厚が非磁性時の浸透深さよりも大きいことが過昇温を防止する条件になることがわかる。
なお、図6に示した材料に限定されることなく、その他の材料を導電層22bに用いた場合にも、上述の条件を満足するときには、過昇温の防止に大きな効果があることが確認された。
なお、本発明が上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、上記各実施の形態の中で示唆した以外にも、上記各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、上記構成部材の数、位置、形状等は上記各実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。
この発明の実施の形態1における画像形成装置を示す全体構成図である。 図1の画像形成装置における定着装置を示す断面図である。 図2の定着装置における定着ベルトを示す断面図である。 この発明の実施の形態2における画像形成装置の要部を示す構成図である。 この発明の実施の形態3における定着装置を示す構成図である。 この発明の効果を確認する実施例と比較例とを示す表図である。
符号の説明
1 画像形成装置本体(装置本体)、 3 露光部、
4 プロセスカートリッジ(作像部)、 7 転写部、
8 転写ベルト、 9 バイアスローラ、
18、18BK、18Y、18M、18C 感光体ドラム、
20 定着装置、 21 定着補助ローラ、
22 定着ベルト(発熱部材、定着部材)、 22a 基材、
22b 導電層(発熱層)、 22c 弾性層、 22d 離型層、
23 支持ローラ(加熱部材)、 24 誘導加熱部、
25 コイル部、 26 コア、 30 加圧ローラ、
31 定着ローラ(発熱部材、定着部材)、 P 記録媒体、 T トナー像。

Claims (18)

  1. トナー像を記録媒体に定着する定着装置に設置されるとともに電磁誘導によって加熱される発熱部材であって、
    定着温度の目標値近傍にキューリー点を有する導電層を備え、
    前記導電層は、体積固有抵抗率が7.0×10-6Ωcm以下になるように形成されたことを特徴とする発熱部材。
  2. 前記導電層は、その温度が前記キューリー点を超えた場合に電磁誘導によって励磁されたときの渦電流の浸透深さがその層厚よりも小さくなるように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の発熱部材。
  3. 前記導電層は、前記キューリー点が100〜350℃の範囲内になるように形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発熱部材。
  4. 前記導電層を励磁する交番電流の周波数は10k〜1MHzの範囲内であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の発熱部材。
  5. 前記導電層は、ニッケルからなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発熱部材。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれかに記載の発熱部材と、前記発熱部材を電磁誘導によって加熱する誘導加熱部と、を備えたことを特徴とする定着装置。
  7. 前記誘導加熱部のコイル部に印加される交番電流の周波数は10k〜1MHzの範囲内であることを特徴とする請求項6に記載の定着装置。
  8. 前記発熱部材は、トナー像を溶融する定着部材であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の定着装置。
  9. 前記定着部材は、定着ベルトであって、
    前記誘導加熱部は、前記定着ベルトの外周面に対向するように配設されたことを特徴とする請求項8に記載の定着装置。
  10. 前記定着ベルトは、支持ローラと定着補助ローラとに張架され、
    前記定着補助ローラは、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに対して前記定着ベルトを介して当接するように配設されたことを特徴とする請求項9に記載の定着装置。
  11. 前記支持ローラは、前記誘導加熱部に対して前記定着ベルトを介して対向するように配設されたことを特徴とする請求項10に記載の定着装置。
  12. 前記定着部材は、定着ベルトであって、
    前記誘導加熱部は、前記定着ベルトの外周面及び内周面に対向するように配設されたことを特徴とする請求項8に記載の定着装置。
  13. 前記定着ベルトは、支持ローラと定着補助ローラとに張架され、
    前記定着補助ローラは、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに対して前記定着ベルトを介して当接するように配設され、
    前記誘導加熱部は、前記支持ローラを介して前記定着ベルトの内周面に対向するように配設されたことを特徴とする請求項12に記載の定着装置。
  14. 前記定着部材は、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに当接する定着ローラであって、
    前記誘導加熱部は、前記定着ローラの外周面又は/及び内周面に対向することを特徴とする請求項8に記載の定着装置。
  15. 前記発熱部材は、トナー像を溶融する定着部材を加熱する加熱部材であることを特徴とする請求項6〜請求項14のいずれかに記載の定着装置。
  16. 前記定着部材は、定着ベルトであって、
    前記加熱部材は、定着補助ローラとともに前記定着ベルトを張架する支持ローラであって、
    前記支持ローラは、前記定着ベルトの外周面に対向する前記誘導加熱部に対して当該定着ベルトを介して対向するように配設され、
    前記定着補助ローラは、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに対して前記定着ベルトを介して当接するように配設されたことを特徴とする請求項15に記載の定着装置。
  17. 前記定着部材は、定着ベルトであって、
    前記加熱部材は、定着補助ローラとともに前記定着ベルトを張架する支持ローラであって、
    前記誘導加熱部は、前記定着ベルトの外周面に対向するとともに、前記支持ローラを介して前記定着ベルトの内周面に対向するように配設され、
    前記定着補助ローラは、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに対して前記定着ベルトを介して当接するように配設されたことを特徴とする請求項15に記載の定着装置。
  18. 請求項6〜請求項17のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
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