パルス光源による材料のアブレーションは、レーザの発明以来研究されてきた。1980年代初期における紫外線(UV)エキシマレーザの照射によるポリマーのエッチングは、レーザを用いた微細加工方法の更なる研究開発につながり、それは、レーザを使用することで孔開け、切削、または複製可能な非常に小さな形状によって拍車がかけられている。表題が“短パルスレーザを用いた精密孔開け法(Precise drilling with short pulsed lasers)”(X. チェン(Chen)および F.トモオ(Tomoo), 製造業におけるハイパワーレーザ(High Power Lasers in Manufacturing), SPIE会報 Vol. 3888, 2000)の最近の論文は、微細加工の鍵となるいくつかの考察を概説している。対象となる最近の他の特許として以下のものが含まれる。
米国特許第6,260,957号明細書“ヒータチップインクフィルタ付インクジェット式プリントヘッド(Ink jet printhead with heater chip ink filter)”は、微細加工およびレーザ孔開けによって形成されるインクジェット式プリントヘッドのヒータチップ用のシリコンインクフィルターを記載している。ヒータチップは、プリントヘッドの複数のノズル用にそのような複数のフィルターを内蔵していてもよい。フィルターは微細加工によって形成されたインク入口領域を構成するビアと、レーザ孔開けによって作成されたビアの出口側に作成された複数の孔とを有する。微細加工およびレーザ孔開けの前に保護層がヒータチップ基板上に設けられるのが好ましい。
米国特許第6,089,698号明細書“ノズル・ノズルを形成する方法および装置(Nozzles and methods of and apparatus for forming nozzles)”は、前もってプリンタの本体に結合されたノズル板に、レーザアブレーションによって形成されたインクジェット式プリンタ用のノズルを記載している。レーザビームがノズル板の前方の一点に集光されるので、出口の方へ向かって先細になるノズルが形成される。第1および第2のビームマスクが、集光レンズに関して異なった形状のノズル入口と出口にそれぞれ共役関係となるよう、集光レンズの前方に設けられる。ノズルは、インクメニスカスを制御し、吐出された液滴がノズル壁から横向きの反動を受けないようにする中央ランドを有する。
米国特許第6,023,041号明細書“光吸収被膜と消耗品である銅を用いて出口ビアの再被膜と径変動を抑制する方法(Method for using photoabsorptive coatings and consumable copper to control exit via redeposit as well as diameter variance)”は、積層基板の露出した底面上に高分子の光吸収層を塗布することによって積層基板内に貫通孔を形成する方法を記載している。貫通孔は、基板の上端から基板を貫いて基板の底部まで基板内にレーザ孔開けされる。基板の底面上に形成された光吸収層は、その後取り除かれる。
欧州特許第EP0867294号明細書“インクジェット式プリントヘッドのノズル板(Ink jet printhead nozzle plates)”は、ノズル層と接着剤層とを含む複合ストリップからインクジェット式プリントヘッドのノズル板を作成する方法を記載している。複合ストリップに流路形状をレーザアブレーションで形成する前に、接着剤層が高分子犠牲層で覆われる。接着剤層と犠牲層との間の接着性を高めるための方法も示されている。犠牲層を含む複合ストリップが一旦作成されると、被膜された複合ストリップはその後レーザアブレーションされて、ノズル板を形成するためにストリップに流路形状が形成される。流路形状を形成した後、犠牲層が除去される。個々のインクジェットプリントヘッドのノズル板は、レーザを用いてノズル板を単体化することによって複合ストリップから分離される。
米国特許第5,548,894号明細書“レーザカットによって一部が形成されたインクジェット孔を有するインクジェットヘッドおよびその製造方法(Ink jet head having ink−jet holes partially formed by laser−cutting, and method of manufacturing the same)”は、複数のインク室を有するインク室部材と、インク室部材の前端面に固定され各インク室に連通するインクジェット孔を有するノズル板とを備えたインクジェットヘッドを製造する方法であって、ノズル板用のブランクが射出成形によって形成されて、複数のブラインドホールがブランクの対向する面のうちの一方に形成され、各ブラインドホールは断面積が上記ブランクの対向する面のうちの一方から他方の面に向かって小さくなる可変領域部を有しており、複数のブラインドホールと協働するオリフィス孔を有するノズル板を作成するようにブランクがレーザカットされることにより、インクジェット孔が形成される、インクジェットヘッドの製造方法について記載している。各ブラインドホールの開放端の大きさは、インク室のインクジェット孔と連通する端部の大きさよりも小さいほうが好ましい。
超高速レーザは、持続時間がおよそ10-11秒(10ピコ秒)から10-14秒(10フェムト秒)の強いレーザパルスを生成する。短パルスレーザは、持続時間がおよそ10-10秒(100ピコ秒)から10-11秒(10ピコ秒)の強いレーザパルスを生成する。医療、化学および通信分野において超高速および短パルスレーザが多種多様に用いられる可能性があることに加えて、短パルスレーザはまた、広範囲にわたる材料を切削または孔開け加工するのに有用である。この点に関して、サブミクロンの範囲の孔のサイズは、これらレーザによって容易に孔開けされる。硬質材料も高アスペクト比の孔が開けられる。この点に関する用途として、タービンブレードの冷却水路、インクジェットプリンタのノズルおよびプリント回路基板のビアホールが含まれる。
厳しい仕様を満たした再現可能な孔の形状を作成することは、製造業用途にとって品質制御上しばしば重要である。そのような用途を切削加工において満たすのにレーザシステムは適している。理由は、適切なプログラミングによって、特別注文の2次元(2D)および3次元(3D)構造が容易に設計され、そのような設計をリアルタイムでレーザの数値制御に変換することができるからである。しかしながら、これらの構造に必要な形状寸法が小さくなるにつれて、製品仕様を常に満たし、迅速で費用効率の良い方法で高品質の微細加工製品を大量生産することは難しくなる。
インクジェットプリンタの品質の鍵となる要素は、インクジェット式ノズルの設計、組立て技術および動作である。ノズル設計により、上述した材料に切削される必要な孔の数が決まる。各ノズル孔は成形された断面および出口孔を有している。出口孔はインクジェットプリンタのノズルからのインク吐出を制御するのに重要である。インクのむらのある吐出は印刷の質を悪くする。したがって、出口孔の欠陥は印刷の品質に悪影響を与える。
インクジェット式プリンタの製造業者は、インクジェット式ノズルの孔が特定の加工物形状に合致することを求める。孔の計測単位(例えば入口直径、出口直径、出口孔深さおよびテーパー角度)および孔の形状(例えば、テーパー状の円筒形出口孔)は、製品の品質および最終的なアプリケーションの作動に重要である。さらに、インクジェット式ノズルの製造は、レーザ切断ツールの動作、材料制御および検査の方法を設けて再現可能なサイズおよび形状を達成し、大量生産されたノズル間で一貫性を確保する必要がある。
インクジェット式ノズルのレーザ孔開けは他の孔開け方法よりも数多くの利点および利益をもたらすが、最終製品における欠陥は依然として問題である。ピコ秒レーザを用いたレーザ孔開けシステム等、現在のレーザ孔開けシステムは依然として最終製品においてバリやノッチ等の欠陥を生ずる。出口孔のサイズと平滑度の測面はインクジェット式ノズルの性能が受け入れ可能かどうかにとって重要であるので、これらの欠陥は出口孔において特に有害である。バリまたはノッチはインクの高速吐出を制限する原因となり、1ドットあたりのインクの位置および量を変動させるので、バリおよびノッチは印刷の質を下げる。短パルスで低エネルギーのレーザを利用した現在の多くのレーザ孔開け技術は、従来のトレパニング(例えば円形パターンを切ってコアを除去し、孔を残す方法)を用いて出口孔を形成している。このトレパニング方法は、予測不可能なノッチやバリがさもなければ円筒形となるはずの出口孔に形成される原因となる。
本発明は詳細な説明および添付の図面から十分に理解されよう。
以下の好ましい実施形態の記載は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物または用途を制限することは何ら意図されていない。
概略すると、本発明の一実施形態は、レーザ孔開け装置を用いて出口孔の半径Bよりも小さい半径Aで加工物に孔を抜き、レーザを出口孔の直径に向かって移動させ、出口孔の直径周りを旋回させることによって、要求された形状仕様に合う再現可能な出口孔を作る方法を提供する。別の実施形態において、本発明を概略すると、孔から最終的に除去される塊の総量Yよりも少ない最初の塊Xが孔から除去され、その後、残った塊Y−Xが除去される。全ての切断実行時に、その要求仕様は、(切取端縁を切る際にレーザが辿る)理想的な外周線と実際の切取端縁が所定のしきい値(または公差が外周線に沿って修正される場合にはしきい関数)の範囲内でほぼ一致するように意図されているので、出口孔または他の孔の性能において受け入れ可能な品質が十分に実現される。
上記2つの実施形態は、「ツナ缶効果」、すなわち出口孔の単一のバリまたはノッチの原因を取り巻く2つの異なった理論の解決を反映している。1つの理論は、レーザビームが最初に出口孔外周線位置で材料を「孔抜きする」地点でノッチまたはバリが生じることである。孔抜きが外周線上に位置しない地点(例えば出口孔の完成後の直径よりも小さい地点)で行われるよう制御される限り、概略した第1実施形態の孔抜きがこの理論を解決して、ノッチがなくなる。第2の理論は、レーザビームが出口孔を孔開けし、出口孔領域の区画から材料を次第に除去してゆき、アブレーションされる材料の塊が最後に出口孔に凸凹した破断やノッチを引き起こす際にバリやノッチが生じることである。最終仕上げ工程より前に材料の一部が出口孔から除去される限り、概略した第2実施形態がこの理論を解決して、出口孔が最終直径で完成される際には、塊の量が既に低減されているのでノッチのサイズが最小限に抑えられるかまたはノッチが全くない。両実施形態において、切断ビームで切り込まれる際に加工物から材料のアブレーション速度を測定することを利用して、任意の時点における材料除去速度が求められる。切断ビームが加工物に下孔を切り入れる際には、材料のアブレーション速度およびレーザのスポットサイズが切取端縁の歪みをしきい値(切取端縁の不完全度に関する所定の公差)未満まで最小限に抑えるように、抜き孔の位置は、外周線から距離を置いた除去される材料部分内に設定されなければならない。切断ビームが加工物を次第に切り込んでゆく際には、材料のアブレーション速度およびレーザのスポットサイズが切取端縁の歪みを所定のしきい値未満まで最小限に抑えるように、外周線から十分に離れたレーザビーム経路が設定されなければならない。切断ビームが加工物を次第に切り込んでゆく際には、材料のアブレーション速度およびレーザのスポットサイズが切取端縁の歪みを所定のしきい値未満まで最小限に抑えるように、切断ビームを外周線に対するビームの位置の関数としてビーム経路に沿って移動させるビーム進行速度関数が効果的に求められなければならない。
ここで本実施形態における具体的な詳細に移る。図1は、図示のように配置されるレーザ105と、ビーム107と、第1のミラー108と、第2のミラー117と、第3のミラー121と、第4のミラー122と、シャッタ110と、減衰器115と、ビーム拡大器120と、回転式半波長板125と、走査ミラー130と、走査レンズ140と加工物155とを含むレーザ孔開け装置100の概略図を示す。一実施形態において、レーザ105はピコ秒レーザ装置である。
動作時には、レーザ105は、レーザ105と加工物155との間の光路に沿ってビーム107を放出する。ビーム107は、光路に沿って伝搬し、第1のミラー108に入射する。第1のミラー108は、光路に沿ってビーム107の向きを変更し、ビームはシャッタ110に入射する。シャッタ110は、加工物材料を選択的に照射するよう開閉する。ビーム107はシャッタ110を出て、光路に沿って減衰器115まで伝搬する。減衰器115は、アブレーションパラメータを精密に制御するために、レーザ105のエネルギーを減衰させる。ビーム107は減衰器115を出て、光路に沿って伝搬し、第2のミラー117に入射する。第2のミラー117は、光路に沿ってビーム107の向きを変更し、ビームはビーム拡大器120に入射する。
ビーム拡大器120はビーム107の大きさを拡大して、走査レンズ140の瞳径と合致させる。ビーム107は、ビーム拡大器120を出て光路に沿って伝搬し、第3のミラー121に入射する。第3のミラー121は、光路に沿ってビーム107の向きを変更し、ビーム107は、第4のミラー122に入射する。第4のミラー122は、光路に沿ってビーム107の向きを変更し、ビーム107は、回転式半波長板125に入射する。回転式半波長板125はビーム107の偏向状態を変える。回転式半波長板125を出ると、ビーム107は光路に沿って伝搬し、走査ミラー130に入射する。
走査ミラー130は、加工物155に孔を開けるために制御コンピュータ(図示されていないが明らかである)によってリアルタイムで実行中の切削アルゴリズムを用いて、所定のパターンで動く。走査ミラー130は、光路に沿ってビーム107の向きを変更し、ビーム107は走査レンズ140に入射する。走査レンズ140は、加工物155上のビーム107のスポットサイズを決定する。ビーム107は走査レンズ140を出て、光路に沿って伝搬し、加工物155に入射する。ビーム107は、所定の切削アルゴリズムに従うパターンで加工物155をアブレーションする。切削アルゴリズムは、コンピュータ(図示せず)を用いて規定され、レーザ孔開け装置100と通信する。コンピュータは、切削アルゴリズムで指定されたパラメータに従って、信号をシャッタ110および走査ミラー130に送信する。
図2は、加工物155と、外径260と、出口孔直径280と出口孔深さ290とを含む加工物形状200を、断面図として示す。
加工物形状200は、レーザ孔開け装置100を用いて孔開けされるインクジェット式ノズルの円錐形の孔の断面である。しかしながら、加工物形状200は一実施形態として与えられているのであって、本発明はこの形状で使用することに限定されない。
外径260、出口孔直径280、出口孔深さ290などの加工物形状200の具体的なパラメータは、インクジェット式カートリッジ製造業者の要求に応じて指定される寸法である。
ここで従来技術を考察する。図3および図4は、従来のトレパニング技術を用いてインクジェット式ノズルの出口孔を完成する従来技術の方法を示している。図3は図4で説明するトレパニング技術を用いて作られ、レーザビーム経路310と外周線320を有する出口孔300を示す。外周線320は出口孔300の中心点から測定された半径によって規定される。
明確にするため、レーザビーム経路310と外周線320との間の距離は20μmに及ぶ大きさであってもよい。レーザビーム経路310と外周線320との間の実際の距離は、所定の加工物形状に合うように、レーザビーム107のスポットサイズおよびアブレーション速度(特定の時間内にレーザビーム107によって除去される材料の量)に従って設定される。
図4は、従来のトレパニング技術を用いたインクジェット式ノズルの出口孔を完成する方法400を示す。該方法は次のステップを含む。
レーザビームの横速度を低減するステップ410において、レーザビーム107の横速度(角速度のスカラー成分)が、成形孔を切削するのに用いられる速度から円筒形の出口孔300を完成するのに用いられるより遅い速度まで50ないし90%低減される。速度がより遅いほど、円筒形の孔の形状がより精密になる傾向がある。一実施形態においては、ノズル孔および円筒形出口孔300は、図2に示されるように、加工物形状200にしたがって成形される。
出口孔外周線をトレパニングするステップ420において、レーザビーム107は、レーザビーム径路310より内側の材料を分離させるのに十分な材料がアブレーションされるまで、外周線320で繰り返し旋回される。この結果、出口孔300は所定の加工物形状に合う半径を有する。
図5は、上記先行技術方法によるインクジェット式ノズル孔を孔開けした実際の結果とノッチを示すために、ノッチ発生問題を有したインクジェト式ノズル孔の写真から得られた画像を示す。出口孔502のノッチ501に留意されたい。
ここで本発明にかかる実施形態の説明に移ると、どのような形状が加工物155に孔開けされるかを規定する切削アルゴリズムに重要な改善点が組み込まれている。
好ましい実施形態の説明の冒頭の概略で述べたように、本発明は、レーザ孔開け装置を用いて要求された形状仕様を満たす再現可能な出口孔を作る際の考慮点を提供している。これらの考慮点は、「ツナ缶効果」、すなわち仕上げの際の出口孔における単一のバリまたはノッチの原因を取り巻く2つの異なった理論に基づく。
第1の考慮点によれば、レーザビーム107が最初に出口孔外周線位置で材料を「孔抜き」する(ビーム107が加工物155の全深さに到達し、最初に貫通するときの)地点で起こる出口孔のノッチまたはバリが解消される。孔抜きは、外周線上に位置しない一点(例えば、出口孔の完成後の直径よりも小さい一点)で行われるように制御されるので、ノッチが除去される。
第2の考慮点によれば、レーザビーム107が出口孔を孔開けし、出口孔領域の区画から材料を徐々に取り除いてゆき、アブレーションされる材料の塊が最後に出口孔で凸凹した破断やノッチを引き起こす際に生成されるバリまたはノッチが除去される。この第2の方法は、最終仕上げ工程より前に出口孔から材料の一部を除去することを伴うので、出口孔が最終直径で完成する際には、塊の量が既に削減されており、ノッチのサイズが最小限に抑制されるかまたはノッチが全くない。
図6および図7は、さらに詳細に、孔抜き螺旋移動技術を用いてインクジェット式ノズルの出口孔を完成する方法を示している。図6は、図7で説明する孔抜き螺旋移動技術によって作られ、始点610とレーザビーム経路620と外周線630を有する出口孔600を示す。
明確にするため、レーザビーム経路620と外周線630との間の距離は20μmに及ぶ大きさであってもよい。レーザビーム経路620と外周線630との実際の距離は、所定の加工物形状に合うように、レーザビーム107のスポットサイズとアブレーション速度(特定時間内でレーザビーム107によって除去される材料の量)に従って設定される。
図7は、孔抜き螺旋移動技術を用いてインクジェット式ノズルの出口孔を完成する方法700を示す。
出口孔600の中心で加工物を孔抜きするステップ710において、レーザビーム107は加工物155を孔抜きするまで出口孔600の中心に集光される。
出口孔外周線まで外側に螺旋移動させるステップ720において、レーザビーム107は、0.1秒/回転ないし1秒/回転の速度で、中心点の始点610から出口孔外周線630までレーザビーム経路620に沿って徐々に螺旋状に移動させられる。レーザビーム107が螺旋移動するにつれて、加工物155材料がアブレーションされて、レーザビーム経路620より内側の材料が分離し、レーザビーム107が外周線630に到達するまで出口孔600が広がってゆく。
出口孔外周線で旋回させるステップ730において、レーザビーム107は0.1秒/回転ないし1秒/回転の速度で外周線630で旋回させられ、円形の外周線630を有する出口孔600が出来あがる。
ビーム107の位置を基準とする、外周線630を形成する点の軌道上の各位置に対するビーム107の詳細な瞬間進行速度は、外周線630回りの進行に関して決められる。したがって、ステップ720,730は、切断ビーム107を外周線630に対するビーム107の位置の関数としての、ビーム経路に沿って移動させるビーム進行速度関数に従って進む。その結果、切断ビーム107がノズル板本体に徐々に切り込んでゆく際に、材料のアブレーション速度およびスポットサイズが出口孔600の端縁の歪みを所定のしきい値未満まで最小限に抑制する。そのような関数は加工物115の個別の設計向けにまず実験的に決定され、その後その関数はビーム107を制御するコンピュータの制御プログラムで表されるかビーム107を動作する技術者に教示される。他の実施形態においては、上記関数は電気制御回路または機械カムの設計に盛り込まれる。
方法700によれば、有害な孔抜きが外周線630より内側の離れた地点で生じるので、レーザビーム107の孔抜きによって発生する最終出口孔600のバリやノッチが解消される。
別の実施形態において、図8および図9は孔抜き低速旋回技術を用いてインクジェット式ノズルの出口孔を完成させる方法を示している。図8は、図9で説明する孔抜き低速旋回技術を用いて作られ、始点810とレーザビーム経路820と外周線830を有する出口孔800を示す。
明確にするため、レーザビーム経路820と外周線830との間の距離は20μmに及ぶ大きさであってもよい。レーザビーム経路820と外周線830との間の実際の距離は、所定の加工物形状に合うように、レーザビーム107のスポットサイズとアブレーション速度、(特定時間内にレーザビーム107によって取り除かれる材料の量または切断サイクルにおける時間の関数として)にしたがって設定される。
図9は、孔抜き低速旋回技術を用いてインクジェット式ノズルの出口孔を完成させる方法900を示す。
出口孔外周線より内側で加工物を孔抜きするステップ910において、レーザビーム107は出口孔800の外周線830内の一点に位置する始点810上に集光し、加工物155を孔抜きする。
レーザビームを出口孔外周線上の点まで移動させるステップ920において、レーザビーム107は始点810から外周線830の一点まで動かされる。
減速した速度でレーザを出口孔外周線で旋回させるステップ930において、レーザビーム107は、レーザビーム経路820より内側の材料を分離させるのに十分な材料がアブレーションされるまで0.1秒/回転ないし1秒/回転の速度で、外周線830でゆっくりと旋回される。この結果、出口孔800は、しきい値によって規定された所定の公差の範囲内で所定の加工物形状に合う半径を有する。レーザビーム径路820はレーザビーム107が出口孔外周線830で360度を成すまで続く。
方法900によれば、有害なレーザビーム107の孔抜きが外周線830より内側の離れた地点で生じるので、孔抜きによって発生する最終出口孔800のバリやノッチが解消される。
さらに別の実施形態を示すと、図10および図11は2パストレパニング技術を用いてインクジェット式ノズルの出口孔を完成させる方法を示す。図10は、図11で説明する2パストレパニング技術を用いて作られ、レーザビーム経路1010とレーザビーム経路1020と外周線1030を有する出口孔1000を示す。
図11は、2パストレパニング技術を用いてインクジェット式ノズルの出口孔を完成させる方法1100を示す。上記方法は次のステップを含む。
出口孔外周線より短い周囲長でトレパニングするステップ1110において、レーザビーム107は、レーザビーム経路1010より内側の材料を分離させるのに十分な材料がアブレーションされるまで、0.1秒/回転ないし1秒/回転の速度でレーザビーム経路1010で繰り返し旋回される。
出口孔外周線でトレパニングするステップ1120において、レーザビーム107は、レーザビーム経路1020内の材料を分離させるのに十分な材料がアブレーションされるまで0.1秒/回転ないし1秒/回転の速度で外周線1030で繰り返し旋回される。この結果、出口孔1000は所定の加工物形状に合う半径を有する。
方法1100によると、最終仕上げ工程の前に材料の一部が出口孔1000から除去されるので、出口孔1000にノッチまたはバリを発生させる出口孔1000材料の塊によって生じる最終出口孔1000のバリまたはノッチが解消される。その結果、出口孔1000が最終直径で完成される際には、塊の量が低減されて、ノッチの大きさが最小限に抑えられるかまたはノッチが全くない。
上記の各方法は、エッチング可能な材料層をノズル板本体のビーム出口面に固定し、ノズル板本体を貫いてノズル板本体とエッチング可能な材料との間の界面まで切り抜くように連続した切り込みを制御し、切断ビームがビーム経路を完全に通過し終えた後、エッチング可能な材料をエッチ除去することによって、別の実施形態においてさらに補強される(本明細書で背景技術を論じる際に参照した米国特許第6,023,041号明細書および欧州特許第EP0867294号明細書の記述を参照のこと)。
インクジェットヘッドのノズル板は、図12および図13でさらに詳説するように、本発明のレーザ孔開け装置を用いて形成されてもよい。
図12に示すように、インクジェット式プリンタ1240は圧力生成器を介して記録媒体1242上に記録可能なインクジェットヘッド1241を有する。インクジェットヘッド1241から吐出されたインク液滴はコピー用紙等の記録媒体1242上に付着されて、記録媒体1242上への記録を行うことができる。インクジェットヘッド1241はキャリッジ軸1243に沿って往復移動することができるキャリッジ1244上に取り付けられている。より具体的には、インクジェットヘッド1241は、キャリッジ軸1243に平行な主走査方向Xに往復移動可能に構成されている。記録媒体1242は、ローラ1245によって副走査方向Yに適宜送られる。インクジェットヘッド1241および記録媒体1242はローラー1245によって相対的に動かされる。
ここで図13に移ると、インクジェットヘッド1241がさらに詳細に示されている。圧力生成器1304は、圧電性の装置、熱による装置および/または等価の装置であることが好ましい。本実施形態では、圧力生成器1304は、上部電極1301と圧電素子1302と下部電極1303とを備えた圧電性装置に相当している。ノズル板1314(加工物155の例)はノズル基板1312と撥水層1313を備えている。ノズル基板1312は、金属、樹脂および/または等価な材料でできている。撥水層は、フッ素樹脂またはシリコン樹脂でできている。本実施形態では、ノズル基板1312はステンレス鋼でできていて、50μmの厚みを有し、撥水層はフッ素樹脂でできていて、0.1μmの厚みを有する。インクジェットのインクが、インク供給路1309と圧力室1305とインク通路1311とノズル1310に充填されている。圧力生成器1304が圧力室部品1306を押圧すると、インク液滴1320がノズル1310から吐出される。
本発明の結果、ノズル板にバリや異物(カーボン等)のない非常に優れたノズルが形成される。また、ノズル出口径の精度は20μm±1.5μm(20μm直径のノズル出口の外周と切取端縁との間の公差にとって好ましい所定の受け入れ可能なしきい値)である。
以上から、本発明によると、レーザを用いてインクジェット式ノズルの出口孔を切削する際に格別に価値のあるレーザ切断ツールを用いて加工物から一部を除去する装置および方法が提供されることが理解されよう。本発明は現時点で好ましい形態において説明されてきたが、特許請求の範囲で述べられた本発明の精神から逸脱することなしに本発明に対して何らかの変更を行い得ることが理解されよう。
本発明の説明は本質的に例示に過ぎず、ゆえに本発明の主旨から逸脱しない種々の変形は本発明の範囲内にあることが意図されている。そのような変形は本発明の精神および範囲から逸脱しないものと見なされるべきである。