図1は、本発明における積層体の好ましい実施形態を示す。図示の実施形態では、積層体は、その重さに比して強度および剛性を高くする必要のあるゴルフクラブのシャフト、釣竿あるいはテニスラケット等に好適な管状体10として形成してある。
本実施形態の管状体10は、強化繊維に合成樹脂を含浸した複数のプリプレグシートを芯金8に巻回することで形成された中空薄肉構造を有し、この一部に後述する編成シート層が配置されている。このようなプリプレグシートの強化材は、本実施形態で用いている炭素繊維の他、例えばガラス、ボロン、アラミド、アルミナ等の有機、無機繊維で形成し、含浸する合成樹脂についても、エポキシ等の熱硬化性合成樹脂の他、熱可塑性合成樹脂を用いることができる。
図2は、ゴルフクラブのシャフトに適した管状体10を形成する際に、芯金8に対して巻回されるプリプレグシートの配置例を示す。本実施形態では、芯金8に対して長さが例えば約1200mmの領域に、後述する各プリプレグシートが巻回される。また、芯金8は、そのシャフトを形成する管状体10先端の径が例えば約5.0mm、管状体10の後端の径が例えば約14.9mmとなるように形成してあり、全体に滑らかなテーパ状に形成されている。なお、先端に近接する中間部位の傾斜角度を変更させ、この剛性分布を変化させることも可能である。
芯金8の先端領域には、補強層となるプリプレグシート12が巻回され、順にシャフトの全長にわたって本体層を形成する本体層用プリプレグシート14,16,18,20,22が巻回される。更に、この管状体10の先端領域と後端領域とにおいて補強層となる補強用プリプレグシート24,26が本体層用プリプレグシート20,22間に介挿され、最も外層側の先端領域に、最外側の補強層となる補強用プリプレグシート28が巻回される。なお、図示しない織布シート等を適宜位置に部分的に用いることも可能であり、このような織布シートを設けることにより、ヘッド取付部の強度向上や、高剛性化によるキックポイントの調整をすることができる。
先端領域において補強層を形成するプリプレグシート12は、弾性率24〜30tonf/mm2 (235〜294N/mm2 )の炭素繊維13を軸方向に引揃えたものであり、樹脂含浸率が30wt%、繊維の目付け量が125g/m2 、厚さが0.114mmで構成されており、軸方向両端において芯金8に対して1プライ以上3プライ以下される大きさに裁断され、中間部にかけ徐々にプライ数が少なくなるように設定し、隣接層との急激な剛性差を生じないように積層されている。このプリプレグシート12に対しては、別途、ガラスの織布を裏打ちしても良い。
本体層の最内層となるプリプレグシート14は、弾性率24〜30tonf/mm2 (235〜294N/mm2 )の炭素繊維15を周方向に引揃え、樹脂含浸率を30〜40wt%、繊維の目付け量を19〜37g/m2 、厚さを0.025〜0.050mmとした周方向プリプレグシートで形成してあり、軸方向両端において芯金8に対して各1プライ以上1.1プライ以下巻回される大きさに裁断されている。
この周方向プリプレグシート14上には、弾性率24〜30tonf/mm2 (235〜294N/mm2 )の炭素繊維17a,17bを軸方向に対して互いに交差する斜方向に引揃えた編成シート16が巻回される。この編成シート16は、炭素繊維17a,17bを、管状体10のねじり強度を増大するために、例えば管状体10の軸方向に対する角度が±45°(±15°)の範囲で互いに交差状に配向させると共に、後述するように編糸30で一体的に編成された布状の強化材34(図5参照)を備えている。この編成シート16は、樹脂含浸率が40±15wt%で、繊維の目付け量が98〜200g/m2 、厚さが0.100〜0.250mmで構成されている。この場合、編成シート16の厚さは、0.260mm以下であれば良く、編成される各シートの厚さは0.120mmか、それ以下にするのが良い。この理由は、薄肉厚により巻回が容易となり、又、シート間のせん断応力を緩和するためである。また、樹脂含浸率は、隣接するプリプレグシート14,18よりも大きいことが好ましく、このように樹脂含浸率を多くする理由は編糸間の隙間に十分な樹脂を含浸させ、層間の密着性を高めるためである。この編成シート16は、周方向の外径、剛性を安定させるため、芯金8上に1プライされる大きさに裁断される。
この編成シート16上に巻回される本体層用プリプレグシート18は、弾性率24〜30tonf/mm2 (235〜294N/mm2 )の炭素繊維19を軸方向に引揃えた軸方向プリプレグシートで形成してあり、樹脂含浸率が25〜33wt%、繊維の目付け量が125〜150g/m2 、厚さが0.100〜0.150mmで構成されている。そして、軸方向両端において芯金8に対して各1〜2プライされる大きさに裁断されている。
この軸方向プリプレグシート18上に巻回される本体層用プリプレグシート20は、炭素繊維21を周方向に引き揃えて、上述の周方向プリプレグシート14と同様に形成され、軸方向両端において芯金8に対して各1プライ以上、1.1プライ以下巻回される大きさに裁断されている。また、この周方向プリプレグシート11の先端領域および後端領域に巻回される補強用プリプレグシート24,26はその長さおよび巻回数を調節することにより、先端領域および後端領域における管状体10の剛性を所要の大きさに調節することができる。本実施形態では、これらの補強用プリプレグシート24,26を、弾性率10〜30tonf/mm2 (98〜294N/mm2 )の炭素繊維25,27を軸方向に引き揃えて形成してあり、樹脂含浸率が24〜30wt%、繊維の目付け量が75〜100g/m2 、厚さが0.060〜0.100mmで構成されている。
これらの補強用プリプレグシート24,26および周方向プリプレグ20上に巻回するプリプレグシート22は、炭素繊維23を軸方向に引き揃え、上述の軸方向プリプレグシート18とほぼ同様に形成しあるが、樹脂含浸率はこれよりも多い30〜35wt%にしてあり、芯金8上に1〜2プライされる大きさに裁断されている。そして、この軸方向プリプレグシート22上には、先端領域において補強層となる補強用プリプレグシート28が巻回される。このプリプレグシート28は、上述の最内層側の補強用プリプレグシート12および本体層用プリプレグシート20,22間に介挿される補強用プリプレグシート24,26と同一の構成であり、芯金8の先端部に対して、ヘッドのシャフト取付孔内径に一致する外径になるプライ数巻回されるように裁断されている。符号25,27,29は、それぞれ補強用プリプレグシート24,26,29の炭素繊維を示す。
上記のように構成された各プリプレグシートは、芯金8に対して、1枚づつ個別に巻回しても良いし、あるいは各プリプレグシート同士を任意にあらかじめ張り付けておき、これを巻回しても良い。例えば、プリプレグシート14は、編成シート16にあらかじめ張り付けておいても良いし、プリプレグシート20は、プリプレグシート18にあらかじめ張り付けておいても良い。また、補強用プリプレグシート12,24,26,28についても、これに隣接する本体層用プリプレグシートにあらかじめ張り付けて、これらの本体層用プリプレグシートと共に巻回し、あるいは、個別に巻回してもよい。
このように形成したプリプレグシートは芯金8に巻回した後、常法、すなわち、加熱工程、冷却工程、脱芯、研磨、塗装等の工程を経て、図1に示すような管状体10が形成される。そして、ゴルフクラブを形成する場合は、管状体10の先端部にクラブヘッドを嵌入し、基端部にグリップを取着して完成する。
図3に拡大して示すように、各プリプレグシートを巻回して形成された管状体10の本体層は、その内周側から、プリプレグシート14で形成された最内層の周方向繊維層14Lと、編成シート16で形成された編成シート層である斜方向繊維層16Lと、プリプレグシート18で形成された軸方向繊維層18Lと、プリプレグシート20で形成された周方向繊維層20Lと、プリプレグシート22で形成された軸方向繊維層22Lとを順に積層した積層構造を備える。
本実施形態の編成シート16は、炭素繊維17a,17bに交差させて編糸30を編み込んで編成することにより、一体構造に形成した強化材34(図5)に樹脂を含浸させてある。このため、斜方向繊維層16L内における炭素繊維17a,17b、および、斜方向繊維層16Lとこれに隣接する周方向繊維層14Lおよび軸方向繊維層18Lとのたわんだ際の剥離あるいは破損などが生じ難くなる。この編成シート16の薄肉構造に加え、繊維層間の剥離あるいは破損が防止されるため、この管状体10の比強度、比剛性が高くなり、設計自由度を高くすることができる。
このように編成シート16の炭素繊維17a,17bを一体的に編成する編糸30は、例えばポリエステル糸、ナイロン糸、ポリアクリル糸、レーヨン糸等の非弾性糸、あるいは、例えばポリウレタン糸等の弾性糸を用いることができる。編糸30をこのような合成繊維で形成する場合は、モノフィラメント糸あるいはマルチフィラメント糸等のフィラメント糸を用いることが好ましい。また、このような合成繊維の編糸だけでなく、綿糸等の天然繊維を単独であるいは合成繊維と組合せて用いることもできる。
特に、編糸30をポリエステル糸あるいはナイロン糸等で形成した場合は、吸湿性が高いため、含浸性がよく、含浸させる樹脂との密着性を向上させることができる。また、炭素繊維17a,17bと交差した状態に編糸30が突出することにより、周囲の樹脂との接触面積が増大する。また、隣接する周方向繊維層14Lあるいは軸方向繊維層18Lの繊維が、斜方向繊維層16Lを形成する編成シート16のうち、最も近接した側の炭素繊維17aあるいは炭素繊維17bの引き揃え方向と交差する方向に引き揃えられていることにより、作用する力の方向が異なるとしても、編糸30が炭素繊維17aあるいは炭素繊維17bの結合力を増大し、たわんだ際の層間剥離が生じ難くなり、破損が防止される。特に、編糸30の吸湿性が高い場合は、隣接する周方向繊維層14Lあるいは軸方向繊維層18Lとの一体性が増大する。
図4に詳細に示すように、本実施形態では、周方向、斜方向および軸方向の炭素繊維15,17a,17b,19よりも編糸30を大径に形成してある。これにより、編糸30が炭素繊維15,17a,17b,19を局部的に押圧するのを防し、これらの炭素繊維15,17a,17b,19の強度が低下しにくくしている。例えば炭素繊維15,17a,17b,19の外径が5〜10μmの場合には、編糸30の外径はこれよりも大きい8〜15mmとするのが好ましい。
図4および図5に示すように、本実施形態では、編糸30は、編成シート16のそれぞれの炭素繊維17a,17bと交差する方向に、長さ2〜10mmのループを連続的に形成したループ連鎖32を形成する。これらのループ連鎖32は、ほぼ5〜20mmの間隔でほぼ平行に延びる。炭素繊維17a,17bが各ループで保持されるため、芯金8に巻回する際、あるいは、管状体10に曲げ、捩じり等が作用した際に、これらの炭素繊維17a,17bが蛇行し難くくなる。なお、隣接するループ連鎖32間の間隔を5mmよりも小さくすると、編成シート16にしたがって管状体10の重量が増大すると共に、編成シート16の剛性が必要以上に上がって、逆に、ループ連鎖32間の間隔が20mmよりも大きくなると、これらのループ連鎖32間で炭素繊維17a,17bがずれ易くなる。
管状体10に対し、このようなループ連鎖32を周方向又は軸方向に配向させると、管状体の曲げやねじれ等の補強ができ、比強度、比剛性を向上させることができる。
いずれの場合も、編糸30により、炭素繊維17a,17bが一体的に編成され、ループ連鎖32の各ループで保持されているため、これらの炭素繊維17a,17bが蛇行しにくく、これにより隣接する周方向プリプレグ14の炭素繊維15あるいは軸方向プリプレグ18の炭素繊維19の蛇行も防止され、全体の強度が安定する。特に、ゴルフクラブのシャフトは、ヘッドの負荷によって捩じり方向の力が作用するが、斜方向繊維層16Lの剥離あるいは破損が防止されることにより、ゴルフクラブのシャフトを形成した際に、強度の向上が図れ、破損を抑制することが可能になる。更に、このような斜方向繊維層16Lの内周側に、周方向繊維層14Lを配置し、外周側に、軸方向繊維層18Lと周方向繊維層20Lと軸方向繊維層22Lとを配置した多層構造体として形成されていることにより、捩じり方向の大きな力に耐えることができるだけでなく、大きな曲げを可能としつつ、軸方向の大きな引張り力にも耐えることができる。また、繊維の配向方向が異なる繊維層の多層構造において、編成により、変形時の層間に生じる応力集中の歪をおさえて、層間の剥離等が防止でき、強度の向上が図れる。
図6は、このような編成シート16を形成する手順の一例を概略的に示す。
図6の(A)に示すように、炭素繊維17a,17bを交差させて形成した布状の強化材34の一側から、先に形成したループ30aを通して針36を刺し入れ、先端に形成したフック状の針先に給糸側の編糸30を引掛ける。この後、図6の(B)に示すように、針36を強化材34の一側に引き戻し、先に形成したループ30aを引き絞りつつ、図6の(C)に示すように新しいループ30bを形成する。そして、強化材34あるいは針36を移動して、上記の図6の(A)に示す工程を繰返す。針36に設けられたべら35が開閉することにより、フック状の針先に編糸30を給糸あるいは抜出すことができる。
なお、編成シート16の強化材34は、このようにべら針36を用いて編成する他、ひげ針を用いて編成することも、可能であり、更に、環縫ミシン等の好適な縫製機械を用いて、例えば環縫系のステッチで縫製することも可能である。
いずれの場合も、炭素繊維17a,17bからなる強化材34を編成した後、この強化材34を一対の樹脂製シート間に挟んで加圧することにより、このような炭素繊維17a,17bからなる強化材34に樹脂を含浸させたプリプレグシートとして編成シート16が形成される。
また、編成シート16は、上述の実施形態のように、編成シート16を形成する布状の強化材34の全面にわたってほぼ均等に炭素繊維17a,17bを分散配置したものに限らず、図7に示すように、斜方向の炭素繊維17a,17b間に隙間38が形成されていてもよい。各隙間38にもループ連鎖32が延在することにより、炭素繊維間の隙間を埋め、樹脂層の強度が増大し、積層体の強度を増大する。
更に、上述のように、2方向の炭素繊維17a,17bを縫製することに代え、例えば3軸織物状の布状強化材にこの強化繊維と交差する方向にループが連続するループ連鎖32を形成してもよく、また、ループ連鎖32は、一方向に限らず例えばキルト状に互いに交差させて形成してもよい。更に、斜方向の炭素繊維17a,17bに限らず、軸方向プリプレグシートあるいは周方向プリプレグシートの一方向に引き揃えられた強化繊維を編成あるいは縫製してもよい。
図8から図10はゴルフクラブのクラブヘッド50に用いた積層体の実施形態を示す。本実施形態では、積層体は、プリプレグシートを積層し、硬化させて形成した板状のプレート部材10Aとして形成してあり、クラブヘッド40のクラウン部の一部を形成する。
図8に示すクラブヘッド40は、チタン、チタン合金あるいはステンレス合金等の金属材から鋳造あるいは鍛造により中空の一体構造に形成されたヘッド本体42を備える。このヘッド本体42は、ボールを打球するフェース部44からバック部46を後方に突出させ、ヒール部48側のクラウン部50から、トウ部52とは反対側の後方に傾斜させた状態でシャフト54を突出させる構造を備えている。このシャフト54は上述の実施形態における管状体10で形成することも可能である。
また、フェース部44には、スコアライン44aの他にも、例えば石等の硬質の異物との衝突で僅かな凹み等が形成された場合であっても、このような凹みが目立たないように、微小な筋目状の溝あるいは突条を微小間隔で多数形成した粗面加工を施してもよい。符号56は、ソール部を示す。なお、ヘッド本体42は、このような一体構造に形成することに代え、例えばフェース部44に別部材のフェース部材(図示しない)を設ける等、各部を別部材で形成し、これらの複数の部材を互いに接合して形成してもよい。
このヘッド本体42はクラウン部50のヒール部48側に、シャフト止着部58(図8の(B)参照)を形成し、このシャフト止着部58から突出するシャフト54の部分には、例えば比較的柔軟な樹脂材料で形成したソケット58aを装着してある。このソケット58aは、シャフト54の撓みを阻害することなく、シャフト54とヘッド本体42との間に形成される図示しない間隙内に異物が浸入するのを防止すると共に、例えばシャフト止着部58とシャフト54との間にシャフトの有効長を長くする間隙が形成されている場合に、シャフト54がヘッド本体42に接触して損傷するのを防止する。
このように形成したヘッド本体42は、そのクラウン部50に大きな開口部60を形成し、この開口部60の全周部に、プレート部材10Aの周縁部を支える載置部62がヘッド本体42と一体構造に形成されている。この載置部62は、フェース部44およびシャフト止着部58に沿いかつクラウン部50の一部を形成する縁部64との間に、プレート部材10Aの厚さにほぼ等しい段差を形成し、プレート部材10Aを載置したときに、このプレート部材10Aと縁部64との間に段部が形成されることなく、滑らかな連続した表面を形成する。
また、載置部62は、縁部64に隣接する部分を除き、ヘッド本体42のヒール部48側、バック部46側およびトウ部52側で、クラウン部50とソール部30との間に延在する周壁部から折り返した状態に連続し、したがってこれらの周壁部との間に段差は形成してない。この載置部62により、クラウン部50を大きく開口させても、ヘッド本体42の充分な剛性を維持することができる。
このような載置部62とフェース部44との間に配置される縁部64は、シャフト止着部58の近部からトウ部52側まで、フェース部44の上縁部に沿ってほぼ等しい幅寸法に形成してあり、打球の際に、フェース部44を確実に支える。一方、打球時にフェース部44を支え、ボールから受ける力をヘッド本体42からシャフト54に伝達することができるものであれば、縁部64を図示のような幅狭の帯状形状に形成することに代え、適宜の幅および形状に形成することができる。例えば、このような縁部64を開口部60の全周にわたって形成してもよい。
そして、縁部64と共にクラウン部50の外殻を形成するプレート部材10Aは、載置部62で支えられ、例えば接着剤で載置部62に接着され、開口部60を閉じる。このプレート部材10Aを接着する場合は、収縮率が小さな接着剤を用いることが好ましい。収縮率がこのような小さいな接着剤を用いることで、プレート部材10Aとヘッド本体42との間の僅かな隙間に充填された接着剤が硬化する際に凹みを形成することを防止できる。また、線膨張率がこのように小さな接着剤を用いることにより、プレート部材10Aとヘッド本体42との間の接着剤層の体積変化に起因するプレート部材10Aの高さの変化が抑制され、プレート部材10Aとヘッド本体42との間に段差を生じ難くすることができる。特に、プレート部材10Aがガラス繊維強化樹脂製の層を含む場合は、その線膨張率が大きいことから、その板厚方向すなわち厚みの変化が生じ易いため、接着剤の体積変化を少なくすることが有益である。そして、硬さが上述の値以上の接着剤を用いることにより、接着硬化後のプレート部材10Aとヘッド本体42との境界部の研磨工程で、硬さ不足に起因する境界部の削れによる凹みの発生を防止し、この境界部を滑らかに仕上げることができる。なお、接着剤の硬さは、硬度の大きいヘッド本体42とこれよりも小さいプレート部材10Aとの間の大きさとすることにより、ゴルフクラブヘッド14の表面を滑らかに仕上げやすくなる。
このプレート部材10Aは、載置部62の外縁部に沿う外形形状を有し、中央部を外周部よりも僅かに上方に突出させて全体的に湾曲した形状に、予め形成される。本実施形態では、プレート部材10Aは、フェース部44側に位置する直線状の前縁部66と、この前縁部66から角度をなしてバック部46側に延び、ヒール部48側に位置する短縁部50と、この短縁部50からバック部46側を介してトウ部52側まで大きく後方に湾曲して延びる湾曲縁部52とを有する。このプレート部材10Aを載置部62に載置し、前縁部66と短縁部50とを縁部64の対向する縁部に付き当てると、湾曲縁部52は、ヘッド本体42の側壁部と整合し(図4および図5参照)、バック部46側およびトウ部52側でクラウン部50の外形形状を形成する。また、縁部64とプレート部材10Aとのそれぞれの表面が同一面内に配置される。これにより、クラウン部50の全体が縁部64とプレート部材10Aとで滑らかな曲面状に形成される。
このようなプレート部材10Aは、ヘッド本体42の金属材よりも比強度の大きな繊維強化樹脂で積層構造に形成してあり、クラウン部50を軽量化し、このクラブヘッド40の低重心化を図っている。更に、金属材に比べて低剛性化しやすいため、クラウン部50をたわみやすく形成することができる。しかも、たわみ時の変形による層間の剥離を防止することができる。
図9および図10に示すように、本実施形態のプレート部材10Aは、上述と同様な編成シート76を両側から挟んで一対のプリプレグシート74,78を積層し、加熱成形することで、斜方向繊維層76Lの両側に平行繊維層74L,78Lを一体化した積層体に形成されている。
編成シート76は、互いに交差する方向に配向させた炭素繊維77a,77bを編糸80で編成して強化材74を形成し、この強化材74を一対の樹脂製シート間に挟んで加圧することにより、このような強化材74に樹脂を含浸させたプリプレグシートとして形成してあり、炭素繊維77a,77bはフェース部44すなわち前縁部66に対して例えば±45°(±15°)の方向に配向してある。また、編糸80は、前縁部66にほぼ平行又は直交する方向にループ連鎖82を形成するのが好ましい。ループ連鎖82がこのように延設されることにより、打球時のたわみによるフェース部44の向きが、打球方向からズレにくくすることができる。
この編成シート76に積層するプリプレグシート74,78は、図9に示すように、それぞれの炭素繊維75,79を前縁部66に直交する方向に配置することで、打球時の反発性の向上を図ることができる。これに代え、プリプレグシート74,78の炭素繊維75,79の一方あるいは双方を前縁部66に平行に配向させてもよい。トウ・ヒール方向に沿って均一にたわむことができるため、打球時のたわみにより、打球方向に対するフェース部44のズレを抑制することができる。
なお、炭素繊維77a,77bは、前縁部66に直交する方向に対して対称方向に傾斜するものであれば、上述のように±45°(±15°)以外であっても、適宜の方向に傾斜させることが可能である。いずれの場合も、炭素繊維77a,77bと交差した状態に編糸80が突出することにより、周囲の樹脂との接触面積が増大し、更に、編糸80が炭素繊維77a,77bの結合力を増大するため、たわんだ際の層間剥離が生じ難くなり、破損が防止される。そして、比強度、比剛性の向上した積層体でプレート部材10Aを形成したことにより、クラブヘッド40の低重心化を図ることができる。