しかしながら、従来の技術は、以下に示す問題点を有している。
従来の技術において、例えばコンプレッサにより加圧供給される空気である、未反応の酸化剤ガスの圧力は、反応済みの酸化剤ガスの圧力よりも高くなっている。この様な圧力差が生じた状態では、未反応の酸化剤ガスを加湿するためには、反応済みの酸化剤ガスに含まれる水分は、圧力の高い方へ向って多孔体を通過する必要があり、水分が多孔体を通過しにくくなっている。即ち、従来の技術では、未反応のガスを効率的に加湿することが困難である。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、ガスを効率的に加湿することが可能な加湿装置及び方法、並びにその様な加湿装置を備える燃料電池システムを提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る加湿装置は、水分を透過させることが可能な多孔質部材と、前記多孔質部材の一面に第1のガスを流すために形成された第1の流路と、前記多孔質部材における前記一面と対向する面に、第2のガスを流すために形成された第2の流路と、前記多孔質部材の含水状態に応じて、前記第1のガスの圧力が前記第2のガスの圧力よりも高くなるように前記第1及び第2のガスのうち少なくとも一方の圧力を調整する圧力調整手段とを具備し、前記第1のガスに含まれる水分が、前記多孔質部材を介して前記第2のガスに供給されることで、前記第2のガスが加湿されるように構成されていることを特徴とする。
本発明に係る加湿装置によれば、その動作時には、第1及び第2のガスは、多孔質部材における相互に対向する面に形成された第1及び第2の流路を通って流れると共に、第1のガス中の水分は、多孔質部材を介して第2のガスに供給され、第2のガスが加湿される。
ここで、本発明に係る「多孔質部材」とは、例えば、黒鉛又はカーボン等を原料し、水を透過させることが可能な孔が無数に形成された部材を指す。この多孔質部材の一面には、第1のガスを流すための第1の流路が、また、この第1の流路が形成される面と、ちょうどこの多孔質部材を挟んだ対向面には、第2のガスを流すための第2の流路が形成されている。
ここで、本発明に係る「第1の流路」及び「第2の流路」とは、係る面に形成される限りにおいて、その形状は限定されない。例えば、係る面上で、蛇行する一本の流路であってもよいし、複数の流路が平行して形成された構成を有していてもよい。
この第1の流路を流れる第1のガスに含まれる水分は、多孔質部材中を、所謂「毛細管現象」或いは「毛管吸引力」と称される様な現象或いは力により、徐々に第2の流路に向って浸透する。本発明に係る多孔質部材とは、このように水分を浸透させることがものを広く含む趣旨である。また、本発明に係る多孔質部材は、気体に関しては良好な隔離性を有するものであって、第1のガスと第2のガスとが多孔質部材を介して相互に混合される可能性は無視できる程度に小さいものとする。
第1のガスに含まれる水分を第2のガスへ供給することによって第2のガスを加湿するためには、第1のガスが第2のガスよりも湿潤である必要がある。従って、本発明に係る第1のガスとは、予め実験的、経験的、又はシミュレーション等によって、所定の期間、特定の条件下、又は常時、係る湿潤な状態となることが予測されている、又は判明しているガスを表す趣旨である。この様な趣旨が満たされる範囲内において、本発明に係る「第1のガス」及び「第2のガス」は、相互に全く異なるガスであってもよいし、同種のガスであってもよい。例えば、第1の流路と第2の流路が相互に連通し、一方向から同種のガスが供給されてもよい。
ここで特に、係る多孔質部材を介して水分を供給する際に、第1のガス(即ち、水分の供給源である方のガス)の圧力が、第2のガス(即ち、水分の供給先である方のガス)の圧力よりも小さい場合には、水分は圧力の低い方から高い方へと移動する必要があり、多孔質部材中を通過しにくくなる。この様な圧力の大小関係が、一時的にでも起こる可能性が無視できない場合は、多孔質部材の湿潤度が低下し、第2のガスの加湿性が低下する場合がある。ここで、「加湿性」とは、湿潤しやすさを定性的に規定する概念である。即ち、「加湿性が低下している状態」とは、相対的に加湿されにくい状態を指す。加湿性が低下した状態が続いた場合には、第2のガスは乾燥し易い。
然るに、本発明に係る加湿装置は、多孔質部材の含水状態に応じて、前記第1のガスの圧力が前記第2のガスの圧力よりも高くなるように前記第1及び第2のガスのうち少なくとも一方の圧力を調整する圧力調整手段を備えている。
ここで「多孔質部材の含水状態」とは、多孔質部材が、第2のガスに対し十分に水分を供給可能な状態にあるか否かの概念によって定性的又は定量的に規定されるものであって、例えば、湿度、含水量、又は含水率等の厳密な物理量に限定されるものではない。例えば、多孔質部材が乾燥し易い状況が予め実験的、経験的、又はシミュレーション等によって予測されている場合等には、予め係るシチュエーションにおいて、圧力調整手段によって圧力が調整されるように設定されていてもよい。また、湿度や含水量等の経時変化によって、多孔質部材の含水状態が判断され得る場合には、その様な経時変化に基づいて係る含水状態が規定されてもよい。
このように、圧力調整手段は、第2のガスの加湿性を高める目的から第1及び第2のガスのうち少なくとも一方の圧力を調整する。このように圧力が調整された際には、第1のガスの圧力が第2のガスの圧力よりも高くなるため、第1のガス中の水分は、多孔質部材中を浸透し易くなる。従って、第2のガスの加湿性が改善される。また、本出願人が実験によって見出したところによれば、この様な多孔質部材中における水分の浸透し易い状態は、係る圧力の調整が行われる期間よりも遥かに長い期間持続する。これは、多孔質部材中に一旦水分の通路が形成されると、水分の透過性が向上することによるものと推察される。即ち、本発明に係る加湿装置によれば、比較的に短時間、係る圧力の調整を実行することによって、第2のガスの加湿性を高い状態で比較的長時間維持することが可能となる。従って、第2のガスを効率的に加湿することが可能となるのである。
本発明に係る加湿装置の一の態様では、前記第1及び第2のガスは、共通の供給源から供給されるガスであり、前記共通の供給源から供給されるガスを圧送する第1の圧送手段と、前記第1の圧送手段から前記第2の流路へと繋がる第1の圧送路と、前記多孔質部材を介さずに前記第1及び第2の流路を相互に連通させる連通管とを更に具備し、前記圧送されるガスは、少なくとも前記圧力が調整されていない期間において、前記第1の圧送路、前記第2の流路、及び前記連通管を順次介して前記第1の流路へ供給される。
ここで述べられる「共通の供給源」とは、例えば、ボンベやタンク等の何らかの貯蔵手段であってもよいし、第1及び第2のガスが空気である場合には、単に大気と連通する空間であってもよい。また、「圧送手段」とは、ガスを圧縮して送出可能な手段を総称し、例えば、コンプレッサ、ポンプ、或いはファン等に相当する。但し、圧送手段は係る概念が担保される限りにおいてこれらに限定されない。
この態様によれば、その動作時には、第1の圧送手段によって圧送されるガスは、少なくとも圧力調整手段が圧力を調整していない期間は、第1の圧送路、第2の流路、及び連通管を順次介して第1の流路へ供給される。即ち、第1及び第2のガスとは、第1及び第2の流路内に存在するガスと等価である。
尚、共通の供給源から供給されるからと言って、第1及び第2のガスの化学的な組成は厳密に等しくなくてもよい。即ち、第2の流路から連通管及び第1の流路を通過する過程で何らかの化学的又は物理的な変化が生じた結果、第1及び第2のガスが相互に異なる組成を有していてもよい。
この態様によれば、ガスが共通の供給源から供給されると共に、第1及び第2の流路が相互に連通しているから、単一のガス内で水分の授受を行うことが可能となり、効率的に第2のガスを加湿することが可能となる。
第1及び第2のガスが共通の供給源から供給される、本発明に係る加湿装置の一の態様では、前記圧力調整手段は、前記連通管内における前記共通の供給源から供給されるガスの通過量を制限することが可能な制限手段を更に具備し、前記圧力を調整する際には、前記制限手段により前記通過量を制限する。
ここで、「通過量を制限する」とは、通過量が低減される場合を含み、好適には連通管内部の気体の流通が遮断されることを指す。従って、「制限手段」とは、この様な制限を可能とする、例えば、電磁開閉弁等に相当する概念である。このように制限手段によって連通管内のガスの通過量が制限された場合には、第1のガスの圧力を第2のガスの圧力よりも上昇させることが簡便にして可能となると共に、第1の流路から第2の流路へのガスの逆流を防止することが可能である。
第1及び第2のガスが共通の供給源から供給される、本発明に係る加湿装置の他の態様では、前記圧力調整手段は、前記第1の圧送路から分岐して前記第1のガス流路へと繋がる第2の圧送路と、前記圧送されるガスの経路を、前記第1の圧送路を介して前記第2のガス流路へ向かう第1の経路と、前記第1及び第2の圧送路を介して第1のガス流路へ向かう第2の経路との間で切換えることが可能な切換え手段とを更に具備し、前記圧力を調整する際には、前記圧送されるガスの経路が前記第2の経路となるように前記切換え手段を制御する。
この態様によれば、圧力調整手段は、第1のガスの圧力を調整する際に、ガスが第2の経路を流通するように切換え手段を制御するため、ガスは第2の流路を介さずに第1の流路へ供給される。従って、必然的に第1の流路内の第1のガスの圧力は第2のガスの圧力よりも高まることとなって、第2のガスを加湿することが簡便にして可能となる。
尚、ここで述べられる「切換え手段」とは、共通の供給源から供給されるガスの供給経路を切替えることが可能である限りにおいて何ら限定されないが、例えば、第2の圧送路に何らかの制御弁を設けることによって、容易に実現可能である。
第1及び第2のガスが共通の供給源から供給される、本発明に係る加湿装置の他の態様では、前記圧力調整手段は、前記共通の供給源から供給されるガスを圧送する、前記第1の圧送手段とは異なる第2の圧送手段と、前記第2の圧送手段から前記第1の流路へと繋がる第3の圧送路とを更に具備し、前記圧力を調整する際には、前記共通の供給源から供給されるガスが前記第3の圧送路を介して前記第1の流路に供給されるように前記第2の圧送手段を制御する。
この態様によれば、圧力が調整される際には、共通の供給源から供給されるガスは、第2の圧送手段によって、第3の圧送路を介して第1の流路に供給される。
ここで、「第2の圧送手段」とは、前述の第1の圧送手段と同等の構成を有していても、また、異なっていてもよい。第1の圧送手段は、第2の流路を介して第1の流路へガスを供給するのに対し、第2の圧送手段は、単に第1のガスの圧力を所定の期間(即ち、第2のガスの加湿性を向上させる必要がある期間)だけ上昇させられればよいのであり、その意味では、第2の圧送手段の規模は、第1の圧送手段のそれよりも小さくすることも可能である。また、第2の圧送手段にガスを供給するための配管は、第1の圧送手段にガスを供給するための配管と同一である必要はない。即ち、共通の供給源から供給される限りにおいて、夫々の圧送手段にガスを供給する経路は異なっていてもよい。
従って、この態様によれば、簡素な構成によって、第1のガスの圧力を第2のガスの圧力よりも高めることが可能となって、効率的に第2のガスを加湿することが可能となる。
第1及び第2のガスが共通の供給源から供給される、本発明に係る加湿装置の他の態様では、前記圧力調整手段は、前記第2のガスの圧力を低減させる低減手段を更に具備し、前記圧力を調整する際には、前記低減手段によって前記第2のガスの圧力を低減させる。
この態様によれば、低減手段によって第2のガスの圧力を低減させることによって、相対的に第1のガスの圧力を第2のガスの圧力よりも高くすることが可能である。この様な低減手段の態様は、第2のガスの圧力を低減可能な限りにおいて、何ら限定されるものではなく、例えば、単に第2の流路を大気開放することが可能な開閉弁であってもよい。また、ポンプ等の吸引手段により、積極的に第2のガスの圧力を低減させてもよい。即ち、この態様によれば、圧力調整手段の構成は高い自由度を有しており、効率的に第2のガスを加湿することが可能となる。
本発明に係る加湿装置の他の態様では、前記第1のガス流路に水分を供給する水分供給手段を更に具備する。
第1のガスが十分な水分を含有していない状態においては、圧力調整手段によって、第1のガスの圧力を高めたとしても多孔質部材を介して第2のガスに移動する水分量は少ない。この様な場合には、第2のガスの加湿性を高める必要が生じても適切な対応が難しいことがある。
この態様によれば、水分供給手段によって第1のガスに水分が供給されるので、第1のガスを常に湿潤な状態に保持することが可能となり、第2のガスを適切に加湿することが可能である。尚、水分供給手段の態様は、何ら限定されるものではなく、例えば、タンクのように一定量の水を貯蔵可能なものから、開閉弁を介して第1の流路中に水分が供給されるものであってもよいし、更に、多孔質部材中への浸透性を高める目的から、ノズルやインジェクタを介して霧状の水分が供給されてもよい。
本発明に係る加湿装置の他の態様では、前記圧力調整手段は、前記圧力を調整する際には、前記圧力を調整する期間を相互に連続しない複数の時間帯域に分割する。
この態様によれば、圧力調整手段は、第2のガスの加湿性を高める際に、第1のガスの圧力を第2のガスの圧力よりも高くする動作を断続的に実行する。このように断続的に圧力を制御した場合には、第1又は第2のガスの圧力を一定値に維持する場合と比較して多孔質部材の加湿量が向上する。従って、第2のガスの加湿性が更に改善され、一層効率的に第2のガスを加湿することが可能となる。
本発明に係る加湿装置の他の態様では、前記多孔質部材の含水状態を検出する含水状態検出手段を更に具備し、前記圧力調整手段は、前記含水状態検出手段によって検出された前記多孔質部材の含水状態に応じて前記圧力を調整する。
本発明に係る「含水状態検出手段」とは、多孔質部材の含水状態を表す何らかの値、例えば、湿度等を直接的に測定又は取得するものであってもよいが、最終的に多孔質部材の含水状態を検出可能である限りにおいて、その形態は限定されない。例えば、第1の流路及び第2の流路の湿度を測定し、その測定結果に基づいて多孔質部材の含水状態を予測するようなものであってもよい。この態様によれば、多孔質部材の含水状態を比較的明確に検出することが可能であるから、一層効率的に第2のガスを加湿することが可能である。
上述した課題を解決するため、本発明に係る燃料電池システムは、燃料ガスが供給されるアノード電極と、酸化剤ガスが供給されるカソード電極と、前記アノード電極とカソード電極との間に挟持される電解質膜と、前記カソード電極に対面するように設けられ、前記対面する側に前記カソード電極に対して前記酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路を備えたセパレータとを具備してなる燃料電池と、上記した第1及び第2のガスが共通の供給源から供給される加湿装置とを具備し、前記セパレータは、前記多孔質部材を含んでなり、前記酸化剤ガス流路は、前記第1の流路を含んでなり、前記第1及び第2のガスは夫々前記酸化剤ガスであることを特徴とする。
本発明に係る「燃料電池」とは、アノード電極の水素とカソード電極の酸素とを電気化学的に反応させることによって起電力を得る態様を有するものを総称し、典型的には、固体高分子型燃料電池の一セル又はそれらが積層されてなるスタックを指す。
ここで述べられる「燃料ガス」とは、燃料電池内で起電力生成のための電気化学反応に供される水素を含んだガスであり、典型的には水素ガスである。但し、燃料ガスの態様は、最終的にアノード電極に水素を供給可能な限りにおいて何ら限定されない。また、燃料ガスは、ボンベ等の貯蔵手段から直接供給されてもよいし、原材料となるガスから何らかの改質処理を経た結果として供給されてもよい。また、「酸化剤ガス」とは、燃料ガスに含まれる燃料との間で係る電気化学反応を起こすことによって起電力を生成することが可能な、酸素を含むガスであり、その代表例としては、空気である。このように酸化剤ガスを空気とした場合には、その供給源を特別に設ける必要が生じないから効率的であるが、酸化剤ガスは、最終的にカソード電極に酸素を供給可能な限りにおいて空気に限定されない。
本発明に係る「セパレータ」とは、カソード電極側のセパレータであり、カソード電極と対面する側に酸化剤ガスの流路が形成されている。この酸化剤ガス流路は、例えば、蛇行する一本の流路、又は複数の直線状の部分流路が並列したものである。この酸化剤ガス流路の少なくとも一部は、本発明に係る第1の流路を構成している。従って、係るセパレータの一部は多孔質部材で形成されている。多孔質部材における第1の流路が形成される面と対向する面には、第2の流路が形成されるが、係る面が、セパレータにおける酸化剤流路が形成される面と対向する面に含まれている必要はないため、第2の流路は、セパレータ内に埋め込まれていてもよい。
本発明に係る燃料電池において、燃料ガスに含まれる水素は、アノード電極の一構成要素たる触媒層によって、プロトン(水素イオン)と電子とに分離し、電子は第1の拡散層及び外部経路を通って、また、プロトンは電解質膜を透過して、夫々カソード電極に到達する。また、カソード電極の一構成要素たる触媒層では、酸化剤ガスに含まれる酸素が、アノード電極から供給される電子を受け取って酸素イオンとなると共に、電解質膜を透過してきたプロトンと電気化学的に反応して起電力を生成する。この起電力を生成する際には、カソード電極にて副次的に水が生成される。
この水は通常、セパレータに形成された酸化剤ガス流路の出口から排出されるが、本発明に係る燃料電池システムによれば、酸化剤ガス流路の少なくとも一部が第1の流路を構成するため、この生成水の一部は多孔質部材を介して第2の流路へ供給される。
一方、第2の流路を流れる酸化剤ガスは、係る電気化学反応に供される前の言わば未反応の酸化剤ガスである。燃料電池においては、電解質膜が乾燥し過ぎると起電力の低下が生じるため、電極に供給される未反応ガスは、適度に湿潤している必要がある。ここで、本発明に係る燃料電池システムによれば、燃料電池の電気化学反応によって生じた水を、未反応の酸化剤ガスの加湿に利用することが可能であるから、効率的に酸化剤ガスを加湿することが可能である。
尚、第2の流路に供給された水は、係る電気化学反応によって暖められたセパレータによって気化する際に、気化熱によってセパレータを冷却することも可能である。また、セパレータに、燃料電池を冷却するための冷媒流路(冷却水流路)が形成されている場合には、第2の流路は係る冷媒流路の一部として形成されていてもよい。
本発明に係る燃料電池システムの一の態様では、前記燃料電池の電池残量を検出する電池残量検出手段を更に具備し、前記圧力調整手段は、前記電池残量検出手段によって検出された前記電池残量が所定値以上であるとされた場合に、前記圧力を調整する。
燃料電池において、係る圧力の調整が行われる際には、発電を停止させる必要がある。従って、燃料電池の電池残量が少ない場合に、係る圧力の調整が実行されると、最悪の場合には、所謂「ガス欠」が生じることがあって好ましくない。この態様によれば、燃料電池の電池残量が所定値以上の場合に、圧力調整手段が圧力を調整するから、適切に酸化剤ガスを加湿することが可能である。尚、ここで述べられる「所定値」とは、電池残量検出手段によって検出された電池残量の値に対応づけて予め設定された値であり、予め経験的、実験的、又はシミュレーション等によって取得されている。
また、このように電池残量の少ない場合には、燃料電池を高負荷運転し、電池残量を増加させる処理が行われてもよい。このように高負荷運転を行った場合には、燃料電池のカソード電極で副次的に発生する水分の量も増加するから、第1のガスの含水量が増加して、第2のガスの加湿性が改善されるので好適である。
上述した課題を解決するため、本発明に係る加湿方法は、水分を透過させることが可能な多孔質部材と、前記多孔質部材の一面に第1のガスを流すために形成された第1の流路と、前記多孔質部材における前記一面と対向する面に、第2のガスを流すために形成された第2の流路とを具備する物体に対し、前記第1のガスに含まれる水分を、前記多孔質部材を介して前記第2のガスに供給することで、前記第2のガスを加湿する加湿工程と、前記多孔質部材の含水状態に応じて、前記第1のガスの圧力が前記第2のガスの圧力よりも高くなるように前記第1及び第2のガスのうち少なくとも一方の圧力を調整する圧力調整工程とを具備することを特徴とする。
本発明に係る加湿方法によれば、加湿工程が行われる際には、多孔質部材の含水状態に応じて、圧力調整工程によって、第1のガスの圧力が第2のガスの圧力よりも大きくなるように第1及び第2のガスの圧力のうち少なくとも一方が調整されるので、効率的に第2のガスを加湿することが可能である。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態により明らかにされる。
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの構成について説明する。ここに、図1は、燃料電池システム10のブロック図である。
図1において、燃料電池システム10は、燃料電池セル100、水素ガス供給部200、水素ガス排出部300、空気供給部400、空気排出部500、湿度センサ600、充電部700、圧力調整部800、及び制御部900を備える。
燃料電池セル100は、本発明に係る「燃料電池」の一例たる固体高分子型燃料電池の一セルである。ここで、図2を参照して燃料電池セル100の詳細構成について説明する。ここに、図2は、燃料電池セル100の模式断面図である。
燃料電池セル100は、膜電極接合体110、並びに、膜電極接合体110を挟持するセパレータ120及びセパレータ130を備える。
膜電極接合体110は、紙面に垂直な方向に面的に広がるプロトン交換膜(図示略)を、アノード電極及びカソード電極(いずれも図示略)で挟持したものである。アノード電極及びカソード電極は、夫々、カーボン担体に白金触媒を担持した触媒層、及びセパレータから供給されるガスを夫々拡散させるための拡散層を備える。
セパレータ120は、膜電極接合体110のアノード電極と対面するように形成されている。セパレータ120におけるこの対面する側には、本発明に係る「燃料ガス」の一例たる水素ガスの流路となる水素ガス流路121が形成されている。この水素ガス流路121は、紙面奥行き方向に並行して形成される複数の直線状の部分流路からなる。尚、本発明において、水素ガス流路の形状は何ら限定されるものではなく、これら部分流路の端部を相互に繋いで、蛇行する一本の流路として形成されていてもよい。
セパレータ130は、膜電極接合体110のカソード電極と対面するように形成されている。セパレータ130は、多孔質部131と緻密部132からなり、カソード電極側に多孔質部131を対面させた状態で設置されている。多孔質部131は、例えば、黒鉛やカーボン材料からなり、製造過程で無数の微小な孔が形成されることにより、水分を透過させる性質を有する、本発明に係る「多孔質部材」の一例である。また、緻密部132は、水分及び気体の透過性を有さず、高い隔離性と物理的強度を燃料電池セル100に付与している。緻密部131を構成する材料は、多孔質部131と同じく黒鉛やカーボン材料であってもよく、また、カーボンと樹脂の複合材料、アルミニウム、又はステンレス鋼等であってもよい。尚、前述のセパレータ120は、緻密部のみで形成されている。
多孔質部131におけるカソード電極と対面する側には、本発明に係る「第1のガス」及び「酸化剤ガス」の一例たる空気の流路となる空気流路133が形成されている。空気流路133は、本発明に係る「第1の流路」の一例であり、水素ガス流路121と同様、複数の直線状の部分流路が並行するように形成されたものである。また、その延在方向は、水素ガス流路121と同じ向きとなっている。尚、空気流路133も、水素ガス流路121と同様、係る面内を蛇行する一本の流路として形成されていてもよい。また、水素ガス流路121及び空気流路133の延在方向は、夫々直交する方向であってもよい。
多孔質部131における、空気流路133の形成される面の反対側、即ち、緻密部132と対面する側には、本発明係る「第2の流路」の一例たる冷却流路134が形成されている。冷却流路134は、本発明に係る「第2のガス」の一例たる空気を通過させると共に、この空気の気化熱によりセパレータ130を冷却することが可能なように構成されている。冷却流路134は、水素ガス流路121及び空気流路133と同様、直線状の部分流路が並行するように形成された流路であるが、これらと同様、蛇行する一本の流路であってもよい。
尚、多孔質部131は、カソード電極と対面する面の全域に形成されていなくともよい。例えば、空気流路133の一部を含むように形成されていてもよい。この際、空気流路133内を流通する空気の含水率に何らかの分布が有る場合には、含水率の高い部分に相当する空気流路を含むように多孔質部131が形成されていてもよい。即ち、空気流路133及び冷却流路134の夫々少なくとも一部が多孔質部131を介して繋がっている限りにおいて、多孔質部131の形状は自由に決定されてよい。
尚、燃料電池セル100は、複数個積層されることによって、燃料電池スタックを構成してもよい。燃料電池スタックを構成する場合には、セパレータ120と、隣接する燃料電池セル100のセパレータ130とが夫々相互に対面するように積層される。即ち、燃料電池スタックが形成される場合には、隣り合う膜電極接合体110は、セパレータ120及びセパレータ130によって、相互に隔てられる。この際、セパレータ120とセパレータ130との接触面に夫々の燃料電池セル100を冷却するための冷却水流路が形成されていてもよい。また、このように冷却水流路は、複数の直線状の部分流路が並行するように形成されていてもよいし、蛇行する一本の流路であってもよい。また、冷却流路134は、係る冷却水流路と同一の面内に形成されていてもよい。更に、燃料電池スタックが形成される場合には、セパレータ120とセパレータ130とは相互に一体に形成されていてもよい。
図1に戻って、水素ガス供給部200は、燃料電池セル100のセパレータ120に水素ガスを供給可能に構成されている。水素ガス排出部300は、燃料電池セル100において使用された水素ガスをセパレータ120から排出可能に構成されている。尚、水素ガス供給部200及び水素ガス排出部300の詳細構成については後述する。
空気供給部400は、燃料電池セル100のセパレータ130に空気を供給可能に構成されている。空気排出部500は、燃料電池セル100において使用された空気をセパレータ130から排出可能に構成されている。尚、空気供給部400及び空気排出部500の詳細構成については後述する。
湿度センサ600は、燃料電池セル100のセパレータ130における多孔質部131に設置されており、多孔質部131の湿度を測定可能に構成された、本発明に係る「含水状態検出手段」の一例である。
充電部700は、例えば、蓄電池であり、燃料電池セル100で発生した起電力を蓄積することが可能に構成されている。また、この充電部700は、燃料電池セル100の電池残量を後述する制御部900の制御により測定可能に構成された、本発明に係る「電池残量検出手段」の一例である。
圧力調整部800は、本発明に係る「圧力調整手段」の一例を構成しており、燃料電池セル100における空気流路133の圧力を調整可能に構成されている。尚、圧力調整部800の詳細構成については後述する。
制御部900は、燃料電池システム10の動作を制御するユニットであり、CPU(Central Processing Unit)910、及びメモリ920を備える。CPU910は、燃料電池システム10における各部を上位に制御して、後述する加湿補助処理を実行可能に構成されている。メモリ920は、RAM(Random Access Memory)等の書き換え可能な記憶媒体と、ROM(Read Only Memory)等の読み出し専用の記憶媒体とを統括したものとして表される。メモリ920には、後述する加湿補助処理における、圧力調整の基準時間T0、湿度の基準値G0、及び電池残量の基準値R0等が予め記憶されている。
次に、図1及び図2に、更に図3を加えて、燃料電池システム10の詳細構成について説明する。ここに、図3は、燃料電池システム10のガス系統図である。尚、図3において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。尚、図3においては、図面の煩雑化を防ぐ目的から、図1に示した各部は適宜省略されており、夫々内部の構成要素が適宜示されている。また、図3において、燃料電池セル100は、図2における矢線A方向から見た断面構成が示されている。
図3において、水素ガスタンク210、バルブ220、及び水素ガス供給路230は、夫々水素ガス供給部200(図3においては不図示)の一構成要素である。
水素ガスタンク210は、水素ガスを数百気圧の高圧で貯蔵するタンクである。水素ガス供給路230は、水素ガスタンク210から供給される水素ガスが燃料電池セル100のセパレータ120に形成された水素ガス流路121へ供給されるように構成されている。また、バルブ220は、水素ガス供給路220上に設けられており、制御部900(不図示)による制御に従って開放又は閉鎖状態に制御される。
水素ガス排出路310及びバルブ320は、夫々水素ガス排出部300(不図示)の一構成要素である。水素ガス排出路310は、水素ガス流路121の終端部と接続されており、燃料電池セル100において使用された水素ガスを排出することが可能に構成されている。また、水素ガス排出路310上には、バルブ320が設けられており、制御部900の制御に従って、開放又は閉鎖状態に制御される。
コンプレッサ410、バルブ420、空気供給路430、バルブ440、連通路450、及びバルブ460は、夫々空気供給部400(不図示)の一構成要素である。
コンプレッサ410は、図示略の空気供給源と接続されており、空気供給路430に圧縮空気を送出可能に構成された、本発明に係る「第1の圧送手段」の一例である。空気供給路430は、コンプレッサ410から送出される圧縮空気を燃料電池セル100のカソード電極側のセパレータであるセパレータ130に設けられた冷却流路134に供給可能に構成された、本発明に係る「第1の圧送路」の一例である。バルブ420及びバルブ440は、夫々制御部900による制御に従って、開放又は閉鎖状態に制御される。連通路450は、冷却流路134と空気流路133とを繋ぐ、本発明に係る「連通管」の一例であり、冷却流路134を通過した空気が空気流路133に供給されるように構成されている。バルブ460は、制御部900による制御に従って、開放又は閉鎖状態に制御される。
空気排出路510及びバルブ520は、夫々空気排出部500の(不図示)一構成要素である。空気排出路510は、空気流路133の終端部と接続されており、燃料電池セル100で使用された空気を排出することが可能に構成されている。バルブ520は、制御部900による制御に従って、開放又は閉鎖状態に制御される。
分岐路810及びバルブ820は、夫々圧力調整部800(不図示)の一構成要素である。分岐路810は、空気供給路430において、バルブ440の燃料電池セル100側とは異なる側から、空気排出路510におけるバルブ520の燃料電池セル100側までを繋ぐ、本発明に係る「第2の圧送路」の一例である。バルブ820は制御部900の制御に従って、開放又は閉鎖状態に制御される、本発明に係る「切換え手段」の一例である。
<実施形態の動作>
次に、図1及び図4を参照して、上記構成を有する燃料電池システム10の動作について説明する。ここに、図4は、燃料電池システム10における空気の流通経路を示す図である。
図4(a)には、燃料電池セル100の発電時の様子が示されている。
燃料電池セル100を発電させる際、CPU910は、バルブ220、320を開放して、セパレータ120に形成された水素ガス流路121に水素ガスを供給する。続いて、CPU910は、バルブ820を閉鎖する。尚、発電前において、通常、バルブ820は閉鎖されている。次に、CPU910は、コンプレッサ410を動作させ、空気の圧縮を開始すると共に、バルブ420、440、460、及び520を順次開放し、空気供給路430、冷却流路134、連通路450を順次介して、セパレータ130に形成された空気流路133に圧縮された空気を供給する。
水素ガス流路121に供給される水素ガスは、係る流路内を進行する過程で、アノード電極側の拡散層内を拡散し、触媒層に到達する。また、空気流路133に供給される空気は、係る流路内を進行する過程で、カソード電極側の拡散層内を拡散し、触媒層に到達する。
アノード電極側の拡散層に水素ガスが供給されると、係る水素ガスを構成する水素分子が触媒層によって、下記化学式(1)に示す如き反応により電子とプロトンに分離される。係る電子は、アノード電極から図示略の外部回路を通ってカソード電極に到達すると共に、係るプロトンは、プロトン交換膜を介してカソード電極に移動する。
H2 → 2H++2e− ・・・・・化学式(1)
一方、カソード電極では、下記化学式(2)に示す如き反応が生じる。即ち、カソード電極側の拡散層に供給される空気内の酸素分子が、外部回路を通ってきた電子を受け取って酸素イオンとなると共に、更に水素イオンと結合して水を生成する。
2H++2e−+(1/2)O2→H2O ・・・・・化学式(2)
燃料電池セル100内では、この様な電気化学反応によって起電力が生じる。この起電力は、所定の負荷(不図示)を介して取り出される。燃料電池セル100においては、このようにして発電が行われている。係る発電に供された水素ガス及び空気は、夫々水素ガス排出路310及び空気排出路510を介して排出される。この際、空気流路133内を流れる反応済みの空気は、上記理由から水分を含んでいる。
一方、膜電極接合体110を構成するプロトン交換膜は、適度に湿潤していないと性能が劣化する。従って、カソード電極に供給される空気はある程度湿潤している必要がある。そこで、燃料電池セル100では、発電の際に生成された水を、空気流路133から多孔質部131を介して冷却流路134に供給している。その際、多孔質部131内において、水分は毛細管現象又はそれと類似する様な現象によって冷却流路134側へ徐々に浸透する。また、セパレータ130は、係る電気化学反応により発熱しており、冷却流路134に供給された水分はこの熱によって気化する。この気化の際、気化熱によってセパレータ130は冷却されると共に、気化した水分は、冷却流路を通過する乾燥した空気を加湿し、再び空気流路133に還元される。燃料電池セル100では、このようにして、発電する際に生じた水分がカソード電極へ供給される空気の加湿に利用されている。
図4(a)において、空気の流通経路は太線で示されている。即ち、空気は、空気供給路430、冷却流路134、連通路450、空気流路133、及び空気排出路510の順次通過する経路で燃料電池システム10内を流通する。従って、この経路内の空気の圧力は上記した順に小さくなる。詰まり、発電時において、空気流路133内の圧力は、冷却流路134内の圧力よりも小さくなっている。
この状態では、多孔質部131を浸透する水分は圧力差に逆行する向きで浸透する必要があり、水分の透過性が低下する結果、多孔質部131内の含水量は徐々に低下する。多孔質部131の含水量が低下すると、冷却流路134内に供給される水分量も低下し、本発明に係る「第2のガスの加湿性が低下」した状態となる。
そこで、本実施形態においては、CPU910が加湿補助処理に基づいて、図4(b)に示す如くに圧力を調整する。図4(b)は、圧力調整時の空気の流通経路を示したものである。
即ち、CPU910は、バルブ440、460、及び520を閉鎖すると共に、バルブ820を開放する。このようにバルブを制御することによって、空気の流通経路は、空気供給路430の一部、分岐路810、空気排出路510の一部、空気流路133、及び連通路450の一部に流通する。ここで、この経路には、コンプレッサ410から供給される空気の出口がないために、図中太線で示す経路内の圧力は徐々に上昇する。この圧力の上昇によって、空気流路133内の圧力を冷却流路内の圧力よりも高めることが可能となる。この様なCPU910の制御は、本発明に係る「圧力調整工程」の一例である。
ここで、図5を参照して、本実施形態に係る加湿補助処理の詳細について説明する。ここに、図5は、加湿補助処理のフローチャートである。
図5において、CPU910は、湿度センサ600から、現時点における多孔質部131の湿度Gを取得する(ステップS110)。本実施形態において、CPU910は、所定のクロックに同期して燃料電池の動作中は絶えず多孔質部131の湿度Gを測定している。
次に、CPU910は、取得した多孔質部131の湿度Gが、基準値G0よりも小さいか否かを判別する(ステップS120)。ここで、湿度の基準値とは、冷却流路134に水分を十分に供給することができないと判断し得る値であり、予め実験的、経験的、又はシミュレーション等によって取得され、メモリ920に格納されている。
現時点における多孔質部131の湿度Gが、基準値G0以上であった場合には(ステップS120:NO)、CPU910は、処理をステップS110に戻し、多孔質部131の湿度Gを監視し続ける。一方、湿度Gが基準値G0よりも小さかった場合には、CPU910は、充電部700から現時点における電池残量Rを取得する(ステップS130)。次に、CPU910は、電池残量Rを、電池残量の基準値R0と比較する(ステップS140)。ここで、電池残量の基準値R0とは、燃料電池セル100が停止する停止する可能性があると判断し得る電池残量の値であり、予め実験的、経験的、又はシミュレーション等によって取得され、メモリ920に格納されている。
電池残量Rが基準値R0に満たなかった場合(ステップS140:NO)、CPU910は、充電部700を稼動させ、燃料電池セル100を充電する(ステップS160)。具体的には、燃料電池セル100の発電量を増やし、余剰の電力を蓄電する。また、この発電量の増加に伴って、燃料電池セル100のカソード電極において生成される水分量も増加するので、多孔質部131への水分の供給量も増え、結果的には冷却流路134内を通過する空気の加湿性は改善される。従って、CPU910は、燃料電池セル100の充電を実行した後は、処理を再び、ステップS110に戻して、多孔質部131の湿度Gの監視を行う。
電池残量Rが基準値R0以上であった場合には(ステップS140:YES)、CPU910は、圧力調整部800を始めとする各部を動作させ、燃料電池システム10内の圧力を調整する(ステップS150)。即ち、図4(b)に示す如き各バルブの制御を実行する。
次に、CPU910は、圧量調整の実行時間(即ち、バルブ820を開放している時間)Tが、基準値T0以上であるか否かを判別する(ステップS170)。ここで、圧力調整の実行時間の基準値T0とは、係る圧力の調整によって、多孔質部131が十分に湿潤したと判断し得る値であり、予め実験的、経験的、又はシミュレーション等によって与えられ、メモリ920に格納されている。
ここで、図6を参照して、本実施形態に係る圧力の調整時間について説明する。ここに、図6は、圧力を調整する時間と、多孔質部131の加湿量との相関図である。尚、図6において、横軸は時間であり、縦軸は右側が多孔質部131の加湿量、左側が圧力である。
図6(a)から明らかなように、空気流路133の圧力を冷却流路134の圧力よりも高めることによって、多孔質部131の加湿量は上昇するが、一旦加湿量が上昇すると、圧力調整の時間の基準値T0を過ぎて空気流路133及び冷却流路134の圧力関係が元に戻っても、多孔質部131は湿潤な状態を保持する。これは、多孔質部131に、水分の通り道が形成される結果、多孔質部131内の水分の通り易さが改善されるためと考えられる。即ち、本実施形態において、多孔質部131の加湿量を上昇させるために必要とされる時間は、比較的に短時間でよい。従って、燃料電池システム10によれば、非常に効率的に冷却流路134内の空気の加湿性を向上させることが可能となるのである。
尚、圧力を調整する時間は、図6(b)に示すが如く断続的に制御されてもよい。このように、圧力の調整を断続的に実行すると、一定の圧力を維持する場合よりも多孔質部131の加湿量は増加する。このように、空気流路133内の空気を脈動させることによって、多孔質部131の加湿量を一層改善することも可能であり、上述した時間の基準値T0とは、この様な断続的な圧力制御に要する総合的な時間に設定されていてもよい。
図5に戻って、圧力の調整時間Tが基準値T0に満たない場合には(ステップS170:NO)、CPU910は圧力を調整し続けると共に、基準値T0以上となった場合には(ステップS170:YES)、圧力の調整を終了して(ステップS180)、処理をステップS110に戻す。尚、圧力の調整を終了するとは、燃料電池システム10内の各バルブを再び繋ぎ替えて、通常の発電状態に戻すことを指す。
以上説明したように、燃料電池システム10は、効率的に冷却流路134内のガスの加湿性を高める(即ち、多孔質部131の加湿量を増やす)ことによって、当該ガスを適切に加湿することが可能なのである。
<第2実施形態>
空気流路133内の圧力を冷却流路134内の圧力よりも高める構成は、上述の第1実施形態に限定されない。ここで、図7を参照して、本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムについて説明する。ここに、図7は、燃料電池システム20における空気の流通経路を示す図である。尚、図7において、図4と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
図7(a)は、発電時の空気の流通経路を示す図である。
燃料電池システム20は、圧力調整部800が、分岐路810及びバルブ820を備える代わりに、コンプレッサ830、補助空気供給路840、及びバルブ850を備える点においてのみ第1実施形態と異なる。
コンプレッサ830は、本発明に係る「第2の圧送手段」の一例であり、図示せぬ空気の供給源から取得した空気を圧縮することが可能である。尚、図7(a)においては明記されていないが、コンプレッサ410とコンプレッサ830とは、共に空気を圧縮するために設けられるのであり、従って、空気の取得経路は異なっていても、大気中から空気を取得する限りにおいては、本発明に係る「共通の供給源から供給される」範疇である。
補助空気供給路840は、コンプレッサ830と空気排路510におけるバルブ520よりも燃料電池セル100側とを接続する、本発明に係る「第3の圧送路」の一例である。バルブ850は、補助空気供給路840に設けられており、CPU910の制御に従って、開放又は閉鎖状態に制御される。
発電時において、燃料電池システム20内の空気の流通経路は、燃料電池システム10と変わらない。即ち、コンプレッサ410から供給される圧縮された空気は、空気供給路430、冷却流路134、連通路450、空気流路133、及び空気排出路510を順次通過する。この際、CPU910は、バルブ850を閉鎖している。
一方、圧力を調整する際には、CPU910は、図7(b)に示すように、バルブ850を開放すると共に、コンプレッサ830を稼動させ、圧縮された空気を補助空気供給路840に供給する。その他のバルブの開閉動作は、燃料電池システム10と変わらない。この様な制御を行うことによって、燃料電池システム20内では、空気流路133内の圧力の方が冷却流路134内の圧力よりも上昇し、多孔質部131の加湿量が上昇する。
また、燃料電池システム20は、図7(c)に示す如き構成を採ることも可能である。即ち、補助空気供給路840とコンプレッサ830との間に水タンク860を備えることによって、圧力の調整時には、コンプレッサ830によって圧縮された空気と共に、水分を適量空気流路133に補充する。即ち、水タンク860は、本発明に係る「水分供給手段」の一例である。このように、水分が補充されることによって、圧力が調整されることによる多孔質部131の加湿量向上の効果と共に、多孔質部131に供給可能な水分の絶対量を増やすことが可能となる。従って、一層、多孔質部131の加湿量を向上させることが可能となる。また、このように水分を補充する際に、ノズルやインジェクタ等の噴霧手段を使用して、水分を霧状に供給してもよい。こうすることにより、多孔質部131への水分の浸透性を高めることが可能となって、多孔質部131の加湿量が一層向上する。尚、このように圧力を調整する際に空気流路133に水分を補充する構成は、上述の第1実施形態に係る燃料電池システム10においても簡便に実現可能である。
<第3実施形態>
更に、本発明に係る圧力の調整は、第1の流路たる空気流路133の圧力を上昇させる態様に限定されない。ここで、図8を参照して、本発明の第3実施形態に係る燃料電池システムについて説明する。ここに、図8は、燃料電池システム30における空気の流通経路を示す図である。尚、図8において、図4と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
図8(a)は、発電時の空気の流通経路を示す図である。
燃料電池システム30は、圧力調整部800が、分岐路810及びバルブ820を備える代わりに、減圧路870、バルブ880及び減圧ポンプ890を備える点においてのみ第1実施形態と異なる。
減圧路870は、空気供給路430におけるバルブ440よりも燃料電池セル100側
において、空気供給路430から分岐し、減圧ポンプ890に繋がっている。減圧路870上には、バルブ880が設けられており、制御部900の制御に従って、開放又は閉鎖状態に制御される。減圧路870、バルブ880及び減圧ポンプ890は、本発明に係る「低減手段」の一例である。
発電時において、燃料電池システム30内の空気の流通経路は、燃料電池システム10と変わらない。即ち、コンプレッサ410から供給される圧縮された空気は、空気供給路430、冷却流路134、連通路450、空気流路133、及び空気排出路510を順次通過する。この際、CPU910は、バルブ880を閉鎖している。
一方、圧力を調整する際には、CPU910は、図8(b)に示すように、バルブ880を開放すると共に、減圧ポンプ890を稼動させ、減圧路870を介して冷却流路134内の空気を吸引し、冷却流路134内を減圧する。その他のバルブの開閉動作は、燃料電池システム10と変わらない。この様な制御を行うことによって、燃料電池システム20内では、空気流路134内の圧力の方が冷却流路133内の圧力よりも減少する。詰まり、相対的に空気流路134内の圧力の方が高くなって、上述の実施形態と同様、多孔質部131の加湿量が上昇する。
尚、低減手段の態様は、減圧ポンプ890等を使用して積極的に減圧するものに限定されない。例えば、減圧路870は、バルブ880を介して大気と連通するように構成されていてもよい。この場合には、圧力を調整する際に、バルブ880を開放するだけで冷却流路134内は大気圧近くまで減圧されるので、特に機械的な減圧手段を必要としないので経済的である。
尚、本発明に係る加湿補助処理は、一燃料電池セル100のみならず、燃料電池スタックについても適用可能である。この際は、上述した燃料電池システムが複数積層されることによって、燃料電池スタックを構成されるが、例えば、制御部900、水素ガスタンク210、及びコンプレッサ410等、複数の燃料電池セル100について共有可能な要素は、燃料電池スタック全体で共有されていてもよい。ここで、図9を参照して、燃料電池スタックの構成例を説明する。ここに、図9は、燃料電池スタック40の斜視図である。
図9において、燃料電池スタック40は、複数の燃料電池セル100が積層された構造を有するスタック41とスタック42とが、並列に配置された構成を有する。スタック41及び42は、夫々同一の構成を有しており、通常は、制御部900の制御によって同時に駆動され、発電している。尚、制御部900は、個々のスタックについて共通である。
ここで、燃料電池セル100においては、圧力の調整が実行されている期間内は発電が停止するので、同時に異なるスタック内の燃料電池セル100に対して圧力の調整を実行すると、燃料電池スタック40全体の発電量が低下する可能性がある。従って、制御部900は、上述した加湿補助処理を基本的には燃料電池セル100毎に実行するが、異なるスタック(ここでは、スタック41及び42)に属する燃料電池セル100については、同時に圧力の調整を行わないように、個々の燃料電池システムを制御している。尚、発電量が予め十分確保されている場合には、このように、燃料電池スタック40を複数のスタックに分割して制御しなくてもよい。いずれにしても、本発明に係る効果は十分に担保される。
また、燃料電池スタック40においては、個々の燃料電池セル100における多孔質部131の加湿量向上のため、図10に示す如き態様を採ることも可能である。ここに、図10は、多孔質部131の加湿量を向上させ得る燃料電池スタック40の斜視図である。
図10において、燃料電池スタック40は、個々の燃料電池セル100の側面部分に、振動子43を適宜備える。この振動子43は、制御部900によって制御可能に構成されており、制御部900が圧力を調整する際に稼働し、個々の燃料電池セル100における多孔質部131に振動を付与する。係る振動は、例えば、機械的な振動であっても、電磁的な振動であってもよく、またその際の振動周波数も何ら限定されない。このように何らかの振動が付与された場合には、多孔質部131内を水分が浸透しやすくなって、一層効率的に多孔質部131の加湿量を向上させ、冷却流路134内の空気の加湿性を向上させることが可能となる。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う加湿装置及び方法、並びに燃料電池システムもまた、本発明の技術的範囲に含まれるものである。
10…燃料電池システム、100…燃料電池セル、130…セパレータ、131…多孔質部、132…緻密部、133…空気流路、134…冷却流路、410…コンプレッサ、420…バルブ、430…空気供給路、440…バルブ、450…連通路、460…バルブ、510…空気排出路、520…バルブ、810…分岐路、820…バルブ。