特許文献1〜4に記載のように、電極層、抵抗層および補強層などを形成することによって、大記録容量化(即ち、磁性層の薄膜化および非磁性支持体の薄手化)に伴う課題を解決する手法は、種々提案されている。しかし、上述の文献が開示する技術により、磁気記録媒体中に新たな層を設けると、媒体の表裏面の内部応力のバランスが崩れることがある。内部応力のバランスが崩れると、いわゆる「カッピング」が磁気記録媒体において生じる。ここで、「カッピング」とは、磁気記録媒体が幅方向で湾曲することをいう。カッピングの度合が大きくなると、磁気記録媒体を実用に供することができない。今後、磁気記録媒体の記録密度は更に高くなり、それに伴って磁性層および非磁性支持体も薄くなっていくことが予想される。これらの動向から見て、DLC膜の形成を補助するための層、および非磁性支持体を補強するための層を設けることは避けられない。したがって、そのような層の形成に伴うカッピングの発生を防止することは、重要な課題である。
本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、磁気記録媒体を、非磁性支持体の両方の表面にそれぞれ複数の薄膜から成る多層膜を有するように構成したとしても、カッピングの発生が抑制されて、カッピング量が小さい磁気記録媒体を得ることを課題とする。
上記課題を解決するために種々検討した結果、非磁性支持体の両方の表面に形成された多層膜の単位幅あたりのモジュラス強度のバランスが、磁気記録媒体全体のカッピングに大きく影響することを見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、非磁性支持体の一方の表面に磁性層を含む第1多層膜を有し、他方の表面に第2多層膜を有して成る磁気記録媒体であって、第1多層膜の長手方向のヤング率および厚さをE1およびt1、第2多層膜の長手方向のヤング率および厚さをE2およびt2とし、第1多層膜の単位幅あたりのモジュラス強度F1をF1=E1×t1、第2多層膜の単位幅あたりのモジュラス強度F2をF2=E2×t2としたときに、0.05≦F1/F2≦2を満たす磁気記録媒体である。
磁気記録媒体のカッピングは、非磁性支持体の内部応力およびこの支持体の両面に形成される多層膜の内部応力のバランスで決定されるところ、非磁性支持体に形成される各層の内部応力を測定することは煩雑である、または困難である。本発明は、そのような測定を要することなく、非磁性支持体の両面に形成された多層膜全体のヤング率に多層膜全体の厚さを乗じて求められる単位幅あたりのモジュラス強度Fに着目した点に特徴を有する。さらに、本発明は、磁性層を含む多層膜(第1多層膜)の単位幅あたりのモジュラス強度F1とバックコート層を含む多層膜(第2多層膜)の単位幅あたりのモジュラス強度F2の比F1/F2が特定範囲内にあると、カッピング量が小さくなることを見出した点に特徴を有する。
上記において「多層膜」という用語は、2以上の層から成る膜を称するために使用される。「長手方向」とは、磁気記録媒体を走行させるときの走行方向に相当する。また、本明細書において、「カッピング量」は、湾曲した磁気記録媒体を平板上に静置して、平板面から湾曲頂点までの高さを測定し、この測定値を磁気テ−プの幅で除し、さらに100を乗じて求められる値であり、「%」で表される。また、「−(マイナス)」の符号は、磁性層の露出表面または磁性層の上に形成された層の露出表面が凸となるように湾曲していることを、「+(プラス)」の符号は、当該露出表面が凹となるように湾曲していることを表す。
本発明の磁気記録媒体において、第1多層膜は、そのヤング率E1が50〜100GPaの範囲内にあることが好ましく、その厚さT1は10〜300nmの範囲内にあることが好ましい。また、第2多層膜は、そのヤング率E2が10〜50GPaの範囲内にあることが好ましく、その厚さt2は400〜1500nmの範囲内にあることが好ましい。これらの条件が満たされることにより、磁性層を薄膜化し、および/または非磁性支持体を薄手化しても、非磁性支持体の両面に形成される多層膜のバランスをより良好に保つことができる。
本発明の磁気記録媒体において、第1多層膜は、磁性層、下地層および保護層を含んでいることが好ましい。下地層は、磁性層の下地層として、または保護層の下地層として設けられる。即ち、下地層は、磁性層または保護層を良好に形成することを目的として設けられる層であり、具体的には、磁性層の結晶性を向上させるために、および/またはDLC膜から成る保護層をプラズマCVD法で形成するときに、保護層が形成される面の電気抵抗を低減させるために設けられる層である。
本発明の磁気記録媒体において、第2多層膜は、バックコート層および補強層を含んで成ることが好ましい。補強層は、非磁性支持体を薄手化した場合に、媒体全体の剛性を確保するために設けられる層であり、バックコート層(通常、これは樹脂等から成る)よりも大きいヤング率を有する層である。
本発明の磁気記録媒体において、第1多層膜が上述のように下地層を含み、第2多層膜が上述のように補強層を含む場合には、下地層と補強層は同じ種類の内部応力を有していることが好ましい。「同じ種類の内部応力を有している」とは、磁気記録媒体において、下地層が非磁性支持体を引っ張る内部応力(即ち、引張応力)を有している場合に、補強層も引張応力を有し、下地層が非磁性支持体を収縮させる内部応力(即ち、圧縮応力)を有している場合に、補強層も圧縮応力を有していることをいう。より具体的には、非磁性支持体に下地層のみを形成して成る積層体と、非磁性支持体に補強層のみを形成して成る積層体において生じるカッピング量を比較したときに、両者のカッピング量の符号(プラスまたはマイナス)が同じになることをいう。下地層および補強層が互いに別の応力を有している(例えば、下地層が引張応力を有し、補強層が非磁性支持体を圧縮応力を有している)場合、これらの2つの層は互いに別の方向へ引っ張り合う。そのような場合には、0.05≦F1/F2≦2の条件を満たしてもカッピングを低減することが困難となることがある。下地層および補強層は、ともに引張応力を有することが好ましい。これは、既存の磁性層およびバックコート層が引張応力を有している場合が多いために、下地層および補強層も同様の応力を有していると、カッピングを制御しやすいことによる。
本発明の磁気記録媒体において、前述のように、下地層および補強層がともに形成されう場合には、下地層および補強層は実質的に同一の材料から成ること好ましい。同じ材料で2つの層を形成することにより、2つの層の内部応力の種類を容易に同じものとすることができる。ここで、「実質的に」という用語は、後述するように2つの層を蒸着法によって形成する場合には、同じ蒸着源を用いても、蒸着条件によっては、酸素等の含有量が異なることがあり、完全に同一の組成を有しないこともあることを考慮して使用している。
本発明の磁気記録媒体において、下地層を設ける場合、下地層は、非磁性支持体と金属薄膜磁性層との間に位置することが好ましい。そのような構成とすることにより、磁気記録媒体の磁性層と記録および再生に使用する磁気ヘッドとの間の距離を小さくして、スペーシングロスが生じることを抑制できる。
本発明の磁気記録媒体において、下地層を設ける場合、下地層は体積抵抗率が5μΩcm以下である、金属、半金属もしくは合金、またはそれらの混合物から成ることが好ましい。混合物は、例えば、2以上の異なる金属の混合物、金属と半金属の混合物、および金属と合金の混合物等である。かかる材料で下地層を形成することにより、プラズマCVD法でDLC膜を形成する場合に、DLC膜を形成すべき層の表面(例えば、磁性層の露出表面)の電気抵抗をより低減することができる。したがって、このような低体積低効率の材料から成る下地層を設けることにより、DLC膜を成膜レートおよび膜質を低下させずに形成することが可能となる。即ち、低体積低効率の材料から成る下地層は、電極層または抵抗層と称してもよいものである。
下地層の厚さは5〜200nmであることが好ましい。5nmよりも小さいと、下地層として良好な磁性層または保護層を形成する役割を果たすことが困難となり、特に、保護層を形成する際の電極層としての役割を果たすことが困難となる。200nmよりも大きいと、第1多層膜の単位幅あたりのモジュラス強度F1が大きくなりすぎることがある。
本発明の磁気記録媒体において、補強層を設ける場合、補強層は、非磁性支持体とバックコート層との間に位置することが好ましい。これは、磁気記録媒体の磁性層が位置する側の表面とは反対側の表面(即ち、裏面)の走行性を安定化させるために、裏面の最上層をバックコート層とすることが好ましいことによる。
本発明の磁気記録媒体において、補強層を設ける場合、補強層は、そのヤング率が20GPa以上であることが好ましい。そのようなヤング率は、金属、半金属および合金、またはそれらの混合物で補強層を形成することにより達成される。そのような補強層を有する第2多層膜を形成することによって、非磁性支持体を薄手化した場合においても、磁気記録媒体全体の強度を向上させることができる。さらに、補強層の厚さは、50〜500nmであることが好ましい。50nmよりも小さいと、補強層としての役割を果たすことが困難となり、500nmよりも大きいと、第2多層膜のF2が大きくなりすぎることがある。
本発明の磁気記録媒体において、下地層および/または補強層を設ける場合、下地層および/または補強層は、磁性層の磁性に悪影響を及ばさないよう、非磁性体から成ることが好ましい。ここで、「下地層および/または補強層」という表現における、「および/または」という用語は、下地層のみを有する形態、補強層のみを有する形態、下地層および補強層の両者を有する形態の磁気記録媒体を指すために用いられる。以下の説明においても同様である。
本発明の磁気記録媒体において、下地層および/または補強層を設ける場合、下地層および/または補強層は、Cuを主成分として含む層であることが好ましい。ここで、「Cuを主成分として含む層」とは、Cuを50原子%以上含む層をいい、Cuが合金として含まれる形態を包含する。Cuは、体積抵抗率が低く機械強度が高いことから、下地層および補強層を構成するのに好都合である。
本発明の磁気記録媒体において、下地層および/または補強層を設ける場合、下地層および/または補強層は真空蒸着法によって形成することが好ましい。真空蒸着法は高い成膜レートで薄膜を形成することを可能にするため、下地層および/または補強層を形成する方法として好ましく用いられる。
本発明の磁気記録媒体において、保護層を設ける場合、保護層はダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜であることが好ましい。DLC膜は適度な硬度を有し、磁気ヘッドを損傷することなく磁気記録媒体の損傷を抑制し得ることから、保護層として特に好ましい炭素膜である。保護層をDLC膜とする場合には、保護層は化学気相成長法(CVD法)によって形成することが好ましい。さらに、保護層の上には、潤滑剤層を形成することが好ましい。潤滑剤層が存在することにより、磁気記録媒体の磁気ヘッドと接する側の表面の走行性が向上する。
本発明の磁気記録媒体において、磁性層はCoを含んで成ることが好ましい。Coで磁性層を形成した磁気記録媒体によれば、高出力および高CNRを確保できることによる。本発明の磁気記録媒体において、磁性層はまた、真空蒸着法またはスパッタ法により形成されることが好ましい。それらの方法によれば、高密度記録に適した、柱状結晶が斜め方向に成長した構造の膜を容易に得ることができるからである。また、磁性層の厚さを5〜120nmとすることにより、高密度記録に適した磁気記録媒体を得ることができる。
本発明の磁気記録媒体は、その全体の厚さが3〜8μmであることが好ましい。全体の厚さを3μm未満となるような厚さを有する非磁性支持体の表面には、下地層および磁性層を形成することが困難である。また、8μmを越えると、磁気記録媒体全体に占める非磁性支持体の割合が大きくなり、高密度記録媒体としては不利である。
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の両面に形成される第1多層膜および第2多層膜の単位幅当たりの引張強度をそれぞれF1およびF2としたときに、0.05≦F1/F2≦2の関係を満たすことを特徴とする。この特徴を有することにより、本発明の磁気記録媒体は、磁性層を薄くするために下地層を設ける場合、または非磁性支持体を薄くするために補強層を設ける場合にも、そのカッピング量が小さくなる。したがって、本発明によれば、高い信頼性を有する、大記録容量の磁気記録媒体(例えばデータストレージテープ)を実現できる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
以下の説明を含む本明細書において、磁気記録媒体を構成する各層または膜の「表面」とは、各層または膜が形成されたときに露出している面、即ち、各層または膜の非磁性支持体から遠い側の面を意味する。また、各層の「表面に」というときは、特に断りのない限り当該表面に接する位置をいう。さらにまた、以下の説明を含む本明細書において、磁気記録媒体の構成に関して、磁気記録媒体を構成する各層または膜の「上」というときは、特に断りのない限り、各層または膜の非磁性支持体から遠い側の表面に接していることを意味する。したがって、例えば、「磁性層の上に」というときは、「磁性層の非磁性支持体から遠い側の表面に隣接する位置に」を意味する。
上述のように、本発明の磁気記録媒体は、第1多層膜および第2多層膜の単位幅当たりのモジュラス強度をF1およびF2としたときに、0.05≦F1/F2≦2であることを特徴とする。F1およびF2がこの関係を満たさない場合には、例えば、記録密度を向上させるために、磁性層の下に下地層が位置する構成または非磁性支持体とバックコート層との間に補強層が位置する構成を採用したときに、カッピング量を実用可能なほど十分に小さくすることができない。第1多層膜は、磁性層を含む2以上の層であり、第2多層膜は、バックコート層を含む2以上の層である。
第1多層膜の単位幅当たりのモジュラス強度をF1は、第1多層膜の長手方向のヤング率E1に第1多層膜の厚さt1を乗じることにより求めれられる。即ち、F1=E1×t1で表すことができる。同様に、第2多層膜の単位幅当たりのモジュラス強度F2は、第2多層膜の長手方向のヤング率をE2、厚さをt2としたときに、F2=E2×t2で表すことができる。
第1多層膜のヤング率E1は、第1多層膜を有する磁気記録媒体および第1多層膜を有しない磁気記録媒体(即ち、第1多層膜を有する磁気記録媒体から第1多層膜だけを取り除いたもの)の長手方向のヤング率(以下、単に「ヤング率」というときは長手方向のヤング率を指すものとする)をそれぞれ測定することによって求められる。第1多層膜を有する磁気記録媒体のヤング率および厚さをExおよびtx、第1多層膜を有しない磁気記録媒体のヤング率および厚さをEyおよびtyとすれば、Ex、EyおよびE1ならびにtx、tyおよびt1は次の関係:
Ex=Ey・[ty/tx]+E1・[t1/tx]
を満たす。これから、さらに、
Ex・tx=Ey・ty+E1・t1
の関係が導かれる。したがって、ExおよびEyならびにtxおよびtyを測定により求めれば、上式よりE1×t1を求めることができる。同様に、第2多層膜を有する磁気記録媒体および第2多層膜を有しない磁気記録媒体(即ち、第2多層膜を有する磁気記録媒体から第2多層膜だけを取り除いたもの)のヤング率および厚さを測定すれば、E2×t2を求めることができる。
例えば、ヤング率は、試料を長手方向に所定の標線間距離(引っ張り長さ)で引っ張ったときの試料の断面に作用する荷重(応力)および試料の伸び、ならびに試料の幅方向の断面積から算出することができる。具体的には、式E=(W・L)/(A・△l)(式中、Eはヤング率(Pa)、Wは弾性限内の荷重(N)、Lは引っ張り試験前の標線間距離(m)、Aは試料の引っ張り試験前の断面積(m2)、△lは荷重Wにおける標線間伸び(m)を示す)に基づいて算出できる。あるいは、引っ張り試験を同様に実施し、式F=(W・L)/(d・Δl)(式中、Fは単位幅あたりのモジュラス強度(N/m)、Wは弾性限内の荷重(N)、Lは引っ張り試験前の標線間距離(m)、dは試料の幅(m)、△lは荷重Wにおける標線間伸び(m)を示す)に基づいて、試料の単位幅あたりのモジュラス強度を決定することもできる。この式によれば、試料の厚さを求めることなく、上式におけるEx・txおよびEy・tyを求めることができる。
第1多層膜を有しない磁気録媒体は、磁気記録媒体の第1多層膜を酸または有機溶媒を用いてエッチングすることにより得られる。そして、エッチング前後の磁気記録媒体のヤング率および厚さを測定すれば第1多層膜の幅方向のモジュラス強度を求めることができる。あるいは、磁気記録媒体の製造過程において、第1多層膜を形成する前の非磁性支持体のヤング率および厚さを測定することによっても、第1多層膜のヤング率を求めることが可能である。第2多層膜の幅方向のモジュラス強度も同様に、第2多層膜をエッチングしてエッチング前後の磁気記録媒体のヤング率および厚さを測定することにより、あるいは第2多層膜を形成する前後の非磁性支持体のヤング率および厚さを測定することによって求めることができる。
試料に作用する荷重と試料の伸びは、引っ張り試験装置(例えばオリエンテック社製のRTM−25)を用い、引っ張り長さ(標線間距離)を200mm、引っ張り速度を10mm/分に設定した引っ張り試験を実施して測定する。また、試料の幅方向の断面積を求める必要がある場合、それは、試料の幅と厚さから求めることができる。例えば磁気テープのような薄い試料の厚さは、試料を10枚重ねた状態にてマイクロメータを用いて測定することにより求めることができる。
第1多層膜の厚さt1を求める必要がある場合には、第1多層膜を有する磁気記録媒体の厚さと第1多層膜を有しない磁気記録媒体の厚さの差から求めることができる。同様の方法により、第2多層膜の厚さt2を求めることができる。
本発明の磁気記録媒体は、第1多層膜および第2多層膜の単位幅あたりのモジュラス強度F1およびF2が上記の関係を満たす限りにおいて、第1多層膜および第2多層膜の具体的な構成および非磁性支持体の構成は、任意のものとすることができる。以下、本発明の磁気録媒体の具体的な構成の一例を、図1を参照して説明する。
図1に本発明の磁気記録媒体の一例として、磁気テープの断面を模式的に示す。図1の磁気テープ10は、非磁性支持体1の一方の表面に、下地層2a、磁性層2b、保護層3および潤滑剤層4がこの順に形成されて、第1多層膜2を構成し、高分子フィルム1の他方の表面に補強層5aおよびバックコート層5bが形成されて、第2多層膜5を構成している。
非磁性支持体1は、高分子フィルムであることが好ましい。高分子フィルムは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニルおよびポリカーボネート等から1または複数の材料を適宜選択して形成される。非磁性支持体の厚さが薄すぎると強度が弱くなりすぎ、厚すぎると媒体全体の厚さが大きくなりすぎて記録容量の大容量化に不利である。非磁性支持体の厚さは、具体的には2〜7μmであることが好ましい。用途等に応じた強度を確保できる限りにおいて、さらに薄い非磁性支持体を使用してよいことはいうまでもなく、また、大容量化が特に求められない場合には、厚い非磁性支持体を使用してもよい。
非磁性支持体の下地層が形成される面(即ち、磁性層が形成される側の面)には、磁気記録媒体の第1多層膜側の表面の走行性を向上させるために、SiO2、TiO2、Al2O3またはZrO2等の無機物質、あるいはポリスルホン等の有機物質から成る微粒子が、例えば1μm2につき3〜150個、分散し、固着していることが好ましい。微粒子は、非磁性支持体の表面に、例えば高さ5〜25nmの表面突起を形成するような形状および寸法を有することが好ましい。一般に、突起の高さが5nm未満では良好な走行性を確保することが難しい。突起の高さが25nmを超えると再生出力のスペーシング損が大きくなり、磁気記録媒体として使用することができない。
非磁性支持体の表面突起は、例えば、前記微粒子と高分子樹脂(例えば、非磁性支持体が高分子フィルムである場合には、高分子フィルムを形成する樹脂と同じ樹脂)とを混合し、この混合物を高分子フィルムにコーテイングすることによって形成できる。あるいは、微粒子を含む高分子材料でフィルムを製造することによっても、表面に突起を有する非磁性支持体を得ることができる。表面突起を有する非磁性支持体は、特開平9−164644号公報および特開平10−261215号公報等に開示されている。
図示した形態において、下地層2aは、補強層2bを含む第2多層膜5の単位幅あたりのモジュラス強度とのバランスをとるために、あるいは保護層をCVD法により炭素膜として形成する場合に、電極として作用させるために形成される。したがって、下地層は、金属、半金属または合金を含んで成ることが好ましく、下地層2aを電極として作用させる場合には、体積抵抗率が5μΩcm以下である金属、半金属または合金から成ることが特に好ましい。下地層2aを構成する材料はまた、非磁性体であることが好ましい。具体的には、下地層2は、Ti、Cr、Mn、Fe、Al、Cu、Zn、Sn、Ni、Ag、Pb、W、Mg、Mo、Si、Au、Zr、Pt、Ta、V、NbおよびCoから選択される1または複数の元素を主成分として50原子%以上含んで成ることが好ましい。下地層は、これらの金属を1または複数含む合金で形成されてよい。Fe、NiおよびCoは磁性体であるから、これらを使用する場合には、酸化して非磁性体にした状態で形成することが好ましい。尤も、記録波長が短く、磁性層の表面の浅い部分に信号が記録される場合には、下地層の磁性を考慮する必要はなく、Fe、NiまたはCoを酸化させずに下地層中に存在させてもよい。
コスト、付着速度、および体積抵抗率および機械強度(特にヤング率)を考慮すると、下地層2aは、Cu、Al、あるいはCuまたはAlを主成分として好ましくは50原子%以上含むCu系合金またはAl系合金を用いて形成することが好ましく、前述したように、特にCuまたはCu系合金が好ましい。Cu系合金を用いる場合、当該合金には、耐食性および機械的強度を向上させるために添加する添加物として、Al、Ni、Cr、Be、Co、Zr、Sn、Mn、Fe、Si、MgまたはZn等、一般的に使用されているものを任意に添加できる。
下地層2aは単層膜の形態であってもよく、あるいは多層膜の形態であってもよい。下地層2aの厚さは、前述したとおり、5〜200nmであることが好ましく、5〜150nmであることがより好ましい。
下地層2aを上記において例示した金属等で形成する場合、下地層2aは、スパッタ法、真空蒸着法、またはイオンプレーティング法等によって形成される。特に好ましい成膜方法は、真空蒸着法である。
本発明の磁気記録媒体において、磁性層2bは一般に強磁性金属薄膜であり、好ましくはコバルト薄膜である。他に使用できる強磁性金属としては、Fe、Ni、ならびにCo−Ni、Co−Fe、Co−Cr、Co−Cu、Co−Pt、Co−Pd、Co−Sn、Co−Au、Fe−Cr、Fe−Co−Ni、Fe−Cu、Ni−Cr、Fe−Co−Cr、Co−Ni−Cr、Co−Pt−Cr、Co−Pt−PdおよびFe−Co−Ni−Cr等の合金がある。磁性層2bは、酸素を含んでいてよく、酸素はこれらの金属または合金の酸化物の形態で含まれていてよい。磁性層は、単層構造であってもよく、または多層構造であってもよい。
磁性層2bは、好ましくは、連続的に金属蒸気の入射角を変化させる斜方蒸着法またはスパッタ法等によって形成され、より好ましくは、強磁性金属と化学反応するガス雰囲気下(例えば酸素雰囲気下)にて実施する反応性蒸着法または反応性スパッタ法により形成される。斜方蒸着またはスパッタを酸素雰囲気下で実施すると、磁性層は酸素を含むものとなる。あるいは、磁性層は垂直磁化膜である。垂直磁化膜は、例えばCo―CrまたはCoを必要に応じて酸素雰囲気中で傾斜蒸着またはスパッタさせることにより形成される。
磁性層2bの厚さは、例えば、5〜200nmとすることができる。MRヘッド技術を利用して高記録密度化を図る場合には、磁性層2bの厚さは5〜120nmとすることが好ましい。そのように磁性層2bの厚さが小さい場合には、磁性層表面の電気抵抗が増大し、CVD法により良好な炭素膜を形成することが困難であるため、電極として作用する下地層2bを設けることが特に望まれる。
下地層2aは、前述のように2層構成であってよい。その場合、下地層は、非磁性支持体に接する側の層を電極層として機能する層とし、磁性層と接する側の層を、磁性層を構成する粒子サイズの均一化と微細化の制御を可能にし、あるいは磁性層と電極層として形成される側の層と磁性層との付着力を向上させるために形成する。具体的には、磁性層と接する側の層は、金属または金属酸化物で形成され、より具体的には、酸化コバルトから成る膜であることが好ましい。下地層を2層構成とする場合、磁性層と接する側の層の厚さは、3〜50nmとすることが好ましい。
保護層3は、磁性層がダメージを受けることを防止し、磁気記録媒体の耐摩耗性および耐食性を向上させるために形成される。保護層は、例えば、スパッタリングまたはプラズマCVD等の方法で得られる、アモルファス状、グラファイト状もしくはダイヤモンド状の炭素から成るカーボン系膜、あるいはそれらの炭素を混合および/または積層して形成したカーボン系膜である。保護層の厚さは一般に1〜50nmである。
上記のカーボン系膜のうち、ダイヤモンド状の炭素から成る膜は、保護層として特に好ましい炭素膜である。DLC膜は、例えば、非磁性支持体上に形成された磁性層を対向電極とするプラズマCVDにより形成される。磁性層を放電電極の対向電極とするプラズマCVDは、緻密な膜が効率良く形成されることを可能にするため、保護層の形成方法として有用である。プラズマCVDの際に、下地層2aが電極として機能し得ることは先に説明したとおりである。
潤滑剤層4は、磁気記録媒体の磁気ヘッドと接する側の表面の走行性を向上させるために設けられる。潤滑剤層を形成する潤滑剤は、磁気記録媒体用の潤滑剤として汎用されているものから任意に選択できる。潤滑剤は、例えば、パーフルオロポリエーテル等のフッ素系潤滑剤または炭化水素系潤滑剤であることが好ましい。潤滑剤層は、潤滑剤以外の成分として、例えば極圧剤および/または防錆剤等を含んでよい。潤滑剤層は、例えば、潤滑剤を適当な溶媒に溶解または分散させた塗布液を保護層(保護層が形成されていない場合には磁性層)の上に塗布した後、溶媒を蒸発させることによって形成できる。潤滑剤層の厚さは一般に0.5〜50nmである。
補強層5aは、薄い非磁性支持体1を使用する場合に媒体全体の剛性を確保するために、あるいは下地層2aを形成する場合に、第1多層膜2の単位幅あたりのモジュラス強度とのバランスをとるために設けられる。補強層5aは、好ましくは20GPa以上のヤング率を有し、より好ましくは30〜200GPaのヤング率を有する。そのようなヤング率を有する補強層5aは、金属、半金属、または合金を含んで成る層であり、補強層5aを構成するのに適した金属等は、先に下地層2aを構成するのに適した金属等として例示したものと同じである。また、補強層5aは、好ましくは50〜500nmの厚さを有し、より好ましくは60〜400nmの厚さを有する。
図示した形態のように、下地層2aと補強層5aの両方を含む場合には、両者は同じ材料で形成することが好ましい。2つの層を同じ材料で形成する場合には、両者の内部応力の種類が同じものとなって、カッピング量をより有効に低減することができ、また、同じ成膜装置を使用して2つの層を形成できるために、生産コストの面でも有利である。
バックコート層5bは、補強層5aの表面に形成されて、磁気記録媒体の磁気ヘッドと接しない側の表面の走行性を確保する。バックコート層5bは、ポリウレタン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂(例えばバイロン)、カーボン、および炭酸カルシウム等から選択される1種または複数種の材料を、適当な溶媒(例えば、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒)に溶解および/または分散させた塗布液を調製し、この塗布液を補強層5aの表面に塗布した後、乾燥して溶媒を蒸発させる湿式塗布法により形成できる。このようにしてバックコート層を形成する場合、その厚さは100〜1000nmとすることが好ましい。
図示した形態は本発明の一例であり、本発明の磁気記録媒体には、これ以外の他の形態も含まれる。例えば、下地層は、保護層と磁性層との間に位置してよく、あるいは2つの下地層が磁性層を挟んでいてよい。下地層および補強層は、F1/F2が0.05〜2の範囲内にある限りにおいて、金属および半金属以外の材料(例えば、先に例示した金属等の酸化物、窒化物もしくは炭化物、または樹脂)から成るものであってよい。また、バックコート層は、図1に示す潤滑剤層4と同様の構成を有する潤滑剤層として形成してよい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。実施例において、各試料の第1多層膜および第2多層膜の長手方向のヤング率E1およびE2はいずれも、磁気テープを作製した後、ヤング率を測定しようとする多層膜をエッチングし、エッチング前後の試料の長手方向のヤング率および厚さから求めた。ヤング率の測定に使用した引張試験装置はオリエンテック社製のRTM−25(商品名)であり、引張長さは200mm、引張速度は10mm/分とした。また、各試料の厚さは、試料を10枚重ねた状態でマイクロメーター(三豊社製)により測定した厚さから算出した。第1多層膜および第2多層膜の厚さt1およびt2は、各多層膜を有する試料の厚さと各多層膜を取り除いた試料の厚さから算出した。
(試料1)
図1に示す態様のテープ状磁気記録媒体を以下の手順に従って作製した。まず、高分子支持体1として、厚さ7μm、幅150mm、長さ1000mのPETフィルムを使用した。このフィルムの磁性層を形成する側の表面には、SiO2から成る直径11nmの微粒子が1μm2当り65個分散し、固着していた。
この微粒子が固着している表面に、Cuから成る下地層2aを蒸着法により形成した。蒸着は、圧力が約2×10−2Paである空気雰囲気中にて、冷却回転支持体に沿って非磁性支持体1を走行させながら成膜した。下地層の膜厚は走行速度により制御し、ここでは、走行速度を100m/分として、厚さ10nmの下地層を形成した。
次に、下地層2aの表面に、磁性層2bをCoを蒸着源として斜方反応性蒸着法により形成した。蒸着は、圧力が約2×10−2Paである酸素雰囲気中にて、冷却回転支持体に沿って非磁性支持体1を走行させながら、入射角70度から45度までの金属蒸気流の成分が蒸着されるように成膜した。磁性層の膜厚は走行速度により制御し、ここでは、走行速度を200m/分として、厚さ10nmの磁性金属薄膜を形成した。
次に、非磁性支持体1の磁性層2bが形成された面とは反対側の面に、Cuから成る補強層5aを、下地層2aと同様にして、厚さが300nmとなるように形成した。次に、磁性層2bの表面に、保護膜3としてダイヤモンド状炭素膜をプラズマCVD法により形成した。保護膜3の膜厚は、走行速度により制御し、ここでは、走行速度を50m/sとして、厚さ10nmの保護膜を形成した。さらに、フッ素を含有する有機化合物を潤滑剤として使用して、保護膜3の表面に、厚さが約5nmである潤滑剤層4を形成した。潤滑剤層4は、フッ素系潤滑剤を溶媒に溶解して調製した塗布液を塗布した後、乾燥することにより形成した。
次に、補強層5aの表面に、カーボンブラックを添加したポリウレタン樹脂から成る、厚さ500nmのバックコート層5bを形成した。バックコート層はカーボンブラックおよびポリウレタン樹脂をメチルエチルケトンに溶解して調製した塗布液を塗布した後、乾燥してメチルエチルケトンを蒸発させることにより形成した。このようにして作製した磁気記録媒体を所定の幅(1/2インチ)にスリットし磁気テープとした。
(試料2〜9)
記録層およびバックコート層を、それぞれ表1に示す厚さの層として形成し、下地層および補強層を、それぞれ表1に示す材料を使用して蒸着法により表1に示す厚さとなるように形成したこと以外は、試料1と同様にして、磁気テープを得た。試料5および6は、下地層を形成せずに、磁性層の上に直接保護層を形成して作製した。
各試料は、低湿度環境下(15%RH)においてカッピングが−10%〜+10%の範囲内にあるように(即ち、ほぼフラットとなるように)、各膜の成膜条件を調整して作製した。作製した各サンプルについて、60℃30%RHの雰囲気中に100時間保存した後のサンプルのカッピング量を測定した。カッピング量は、湾曲した磁気記録媒体を平板上に静置して湾曲頂点の平板面からの高さを測定し、この値を磁気テ−プの幅で除し、これに100を乗じて求めた。カッピング量は、磁性層側表面が凸の状態にあるときを負(マイナス)とし、磁性層側表面が凹の状態にあるときを正(プラス)とした。カッピング量が−10%〜+10%の範囲にあるものは、カッピング量の欄に「Flat」と記載している。
試料1〜9のテープ状磁気記録媒体の各々について得られた試験結果を表2に示す。
表2から明らかなように、0.05≦F1/F2≦2である試料1〜6において、60℃30%RHの雰囲気中に100時間保存した後のサンプルのカッピング量は−10%〜+10%であった。これは、試料1〜6においては、非磁性支持体の両面に形成された多層膜の単位幅あたりのモジュラス強度のバランスが良いことによって、カッピング発生が抑制されたことによると考えられる。また、試料5および6は、カッピング量は小さかったものの、磁性層の上に形成された保護層の膜質は、それぞれ試料1および3と比較して劣っていた。このことから、Cuから成る下地層は、特に磁性層の厚さが小さい場合には、良好な保護膜の形成に寄与することがわかった。
実施例では非磁性支持体としてPETフィルムを用いたが、PENフィルムおよびポリアミドフィルム等、他の高分子フィルムを用いても同様の効果が得られる。また、磁性層を形成する強磁性金属としてCoを用いたが、CoCr合金等、蒸着等によって、柱状構造を有し且つ磁気異方性を有する磁性金属薄膜を形成することができるいずれの金属を使用した場合でも、同様の効果が得られる。さらにまた、成膜方法は、蒸着法およびスパッタ法のいずれであってもよい。さらに、第1および第2多層膜は0.05≦F1/F2≦2となる限りにおいて、3層以上の形態であってもよい。その場合、例えば、下地層と磁性層との間、または補強層と非磁性支持体との間に中間層を設けてもよい。
1...非磁性支持体、2...第1多層膜、2a...下地層、2b...磁性層、3...保護層、4...潤滑剤膜、5...第2多層膜、5a...補強層、5b...バックコート層、10...磁気記録媒体。