JP2005298916A - 耐水素脆化特性に優れた高強度pc鋼棒およびその製造方法 - Google Patents

耐水素脆化特性に優れた高強度pc鋼棒およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 耐水素疲労特性と耐遅れ破壊特性の良好な強度が1450Mpa以上の高強度PC鋼棒を提供する。
【解決手段】 本発明鋼棒は、質量%で、C:0.2〜0.6%、Si:0.05〜3%、Mn:0.3〜2%、Al:0.002〜0.1%、必要に応じて、Ni0.05〜3%、Cr:0.05〜2%、Mo:0.05〜2%、V:0.02〜1%、Nb:0.005〜0.1%、Ti:0.003〜0.1%、B:0.003〜0.005%の1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、引張強さが1450Mpa以上、表層の残留応力が−100〜−1200MPaであることを特徴とする。また、その製造方法は、PC鋼棒を焼入れ焼戻し処理した後、液体中に浸漬または鋼表面に液体の膜を形成し、0.1〜10GW/cm2のピークパワー密度を持つレーザにて、投入熱量0.3J/mm2以上のレーザ照射を行うことを特徴とする。
【選択図】 図2

Description

本発明は、ポール、パイルおよび建築、橋梁等のプレストレストコンクリート構造物の補強材として広く使われているPC鋼棒に関わるものであり、特に強度が1450MPa以上で且つ耐水素疲労特性と耐遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒に関するものである。
ポール、パイルおよび建築、橋梁等のプレストレストコンクリート構造物の補強材として広く使われているPC鋼材は、通常、JIS G 3536に規定されているPC鋼線及びPC鋼撚線、JIS G 3109に規定されているPC鋼棒が使われている。PC鋼線に用いられる材料はJIS G 3502に適合したピアノ線材であり、パテンティング処理をした後、伸線加工することにより製造される。
一方、PC鋼棒は、例えば特許文献1に記載されているように、C量が0.25〜0.35%の中炭素鋼を用いて焼入れ・焼戻し処理をすることによって製造されている。非特許文献1に記載されているように、強度が1275MPa以上(130kgf/mm)を超えるような高強度PC鋼棒は、PC鋼線に比べて耐遅れ破壊特性(応力腐食破壊)が劣っているという課題があった。
一方、本発明者らが実際のPC鋼棒の破断状況を詳細に解析した結果、遅れ破壊以外に水素疲労による破壊例もかなりあることが明確になった。即ち、プレストレストコンクリート構造物に用いられるPC鋼棒には所定の静的荷重以外に変動荷重が負荷され、PC鋼棒が腐食すると鋼棒中に水素が侵入する。変動荷重が負荷され、水素が侵入する環境下では、遅れ破壊以外に水素に起因する疲労破壊の影響も重要であることを見出した。
PC鋼棒の耐遅れ破壊特性を向上させる従来の知見として、例えば、特許文献2ではP、S含有量を低減することが有効であり、また、特許文献1ではSi、Mn含有量を規制するとともに焼入れ処理後、焼戻し工程中で曲げ加工または引き抜き加工を施す技術が提案されている。更に、特許文献3〜5においてもPC鋼棒の耐遅れ破壊特性を改善する技術が提案されている。
特公平05−041684号公報 特公平05−059967号公報 特開平09−078191号公報 特開平11−229090号公報 特開2003−129178号公報 「プレストレストコンクリート設計施工規準・同解説」(日本建築学会編集、丸善、昭和62年1月25日 第3版発行)の43〜45頁
しかしながら、上記従来の技術をもってしても、耐水素脆化特性を大幅に向上させることには限界があった。
そこで、本発明は、上記の如き実状に鑑み、耐水素疲労特性と耐遅れ破壊特性の良好な強度が1450MPa以上の高強度PC鋼棒を実現することを目的とするものである。
本発明者らは、まず焼入れ・焼戻し処理によって製造した種々の強度レベルのPC鋼棒を用いて、水素による疲労破壊を詳細に解析した。ここで、疲労試験は下記の条件で行った。(a)まず、PC鋼棒の引張強さの0.7倍を最小応力とした部分片振り引張疲労試験(平滑疲労試験片)を行い、10サイクルの疲れ限度を求める。(b)電解水素チャージにより種々のレベルの拡散性水素量を含有させた後、疲労試験中に試料から大気中に水素が抜けることを防止するためにCdめっきを施し、次いで部分片振り疲労試験を行い、疲労破壊までの疲労寿命(繰返し数)を求める。ここで、最小応力は引張強さの0.7倍、最大応力は「引張強さの0.7倍+(a)で求めた疲れ限度の0.9倍」の一定の応力振幅である。
図1に引張強さが1535MPaのPC鋼棒の疲労寿命と拡散性水素量について解析した一例を示す。横軸の繰返し数で例えば、1.E+04は1×10を表す。試料中に含まれる拡散性水素量が少なくなるほど疲労寿命が長くなり、拡散性水素量がある値以下では繰返し数が10サイクルでも疲労破壊が発生しなくなる。10サイクルで疲労破壊しない水素量の上限を「疲労限界拡散性水素量」と定義する。疲労限界拡散性水素量が高いほどPC鋼棒の耐水素疲労破壊特性は良好であり、鋼材の成分、熱処理等の製造条件によって決まる鋼材固有の値である。なお、試料中の拡散性水素量はガスクロマトグラフで容易に測定することができる。
また、PC鋼棒の耐遅れ破壊特性の評価は、遅れ破壊が発生しない「遅れ破壊限界拡散性水素量」を求めることにより評価した。この方法は、電解水素チャージにより種々のレベルの拡散性水素量を試料に含有させた後、遅れ破壊試験中に試料から大気中に水素が抜けることを防止するためにCdめっきを施し、その後、大気中で所定の荷重を負荷し、遅れ破壊が発生しなくなる拡散性水素量を評価するものである。本発明での遅れ破壊試験片形状は、切欠きを付けない平滑試験片を用いており、遅れ破壊試験の荷重は最大引張荷重の0.9倍である。試料中に含まれる拡散性水素量が少なくなるほど遅れ破壊に至るまでの時間が長くなり、拡散性水素量がある値以下では遅れ破壊が発生しなくなる。6000分(100時間)で遅れ破壊しない水素量の上限を「遅れ破壊限界拡散性水素量」と定義する。遅れ破壊限界拡散性水素量が高いほど鋼材の耐遅れ破壊特性は良好であり、鋼材の成分、熱処理等の製造条件によって決まる鋼材固有の値である。
そこで、高強度PC鋼の疲労限界拡散性水素量および遅れ破壊限界拡散性水素量を増加させる手段、即ち耐水素疲労破壊特性と耐遅れ破壊特性を両立させるべく、種々検討を重ねた。この結果、PC鋼棒の表層に圧縮残留応力を付与させることが疲労および遅れ破壊限界拡散性水素量を向上に対して有効であることを見出した。更に、PC鋼棒への圧縮残留応力の付与方法として、レーザ処理が極めて有効であると言う全く新たな知見を見出した。即ち、同一の圧縮残留応力であっても、従来のショットピーニング法よりもレーザ処理を施したPC鋼棒の耐水素疲労特性と耐遅れ破壊特性は格段に優れることを明確にした。
以上の検討結果に基づき、鋼材組成と圧縮残留応力および圧縮残留応力の付与方法を最適に選択すれば、耐水素疲労破壊特性と耐遅れ破壊特性の優れた高強度PC鋼棒を実現できると言う結論に達し、本発明をなしたものである。
本発明は以上の知見に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは、次の通りである。
(1) 質量%で、C:0.2〜0.6%、Si:0.05〜3%、Mn:0.3〜2%、Al:0.002〜0.1%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、引張強さが1450MPa以上、表層の残留応力が−100〜−1200MPaであることを特徴とする、耐水素脆化特性に優れた高強度PC鋼棒。
(2) さらに、質量%で、Ni:0.05〜3%、Cr:0.05〜2%、Mo:0.05〜2%、V:0.02〜1%、Nb:0.005〜0.1%、Ti:0.003〜0.1%、B:0.0003〜0.005%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)に記載の耐水素脆化特性に優れた高強度PC鋼棒。
(3) 質量%で、C:0.2〜0.6%、Si:0.05〜3%、Mn:0.3〜2%、Al:0.002〜0.1%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなるPC鋼棒を焼入れ焼戻し処理した後、液体中に浸漬または鋼表面に液体の膜を形成し、0.1〜10GW/cmのピークパワー密度を持つレーザにて、投入熱量0.3J/mm以上のレーザ照射を行うことを特徴とする、耐水素脆化特性に優れた高強度PC鋼棒の製造方法。
(4) 前記PC鋼棒が、質量%で、Ni:0.05〜3%、Cr:0.05〜2%、Mo:0.05〜2%、V:0.02〜1%、Nb:0.005〜0.1%、Ti:0.003〜0.1%、B:0.0003〜0.005%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記(3)に記載の耐水素脆化特性に優れた高強度PC鋼棒の製造方法。
本発明は、引張強さが1450MPa以上の高強度PC鋼棒にレーザ処理による圧縮残留応力を付与することによって、高強度PC鋼棒の耐水素脆化特性を大幅に向上させたものであり、産業上の効果は極めて顕著である。
以下に本発明を実施するための最良の形態について説明する。
まず、本発明の対象とする鋼の成分の限定理由について述べる。
Cは、PC鋼棒の強度を確保する上で必須の元素であるが、0.2%未満では所要の強度が得られず、一方0.6%を越えると延性が低下するため、0.2〜0.6%の範囲に制限した。
Siは、リラクゼーション特性を向上させるとともに固溶体硬化作用によって強度を高める作用がある。0.05%未満では前記作用が発揮できず、一方、3%を超えても添加量に見合う効果が期待できないため、0.05〜3%の範囲に制限した。
Mnは、脱酸、脱硫のために必要であるばかりでなく、マルテンサイト組織を得るための焼入性を高めるために有効な元素であるが、0.3%未満では上記の効果が得られず、一方2%を越えて添加しても添加量に見合う効果が得られないため、0.3〜2%の範囲に制限した。
Alは、脱酸および熱処理時においてAlNを形成することによりオーステナイト粒の粗大化を防止する効果がある。また、Bを添加する場合、Nを固定し焼入性および耐水素脆化特性の向上に有効な固溶Bを確保する効果も有している。0.002%未満では上記の効果が発揮されず、0.1%を越えても効果が飽和するため0.002〜0.1%の範囲に限定した。
以上が本発明の対象とする鋼の基本成分であるが、本発明においては、更にこの鋼にNi:0.05〜3%、Cr:0.05〜2%、Mo:0.05〜2%、V:0.02〜1%、Nb:0.005〜0.1%、Ti:0.003〜0.1%、B:0.0003〜0.005%の1種または2種以上を含有せしめることができる。
Niは、高強度化に伴って劣化する延性を向上させるとともに熱処理時の焼入性を向上させて引張強さを増加させるために添加されるが、0.05%未満ではその効果が少なく、一方3%を越えても添加量にみあう効果が発揮できないため、0.05〜3%の範囲に制限した。
Crは、焼入性の向上および焼戻し処理時の軟化抵抗を増加させるために有効な元素であるが、0.05%未満ではその効果が十分に発揮できず、一方2%を超えて添加しても効果が飽和するため、0.05〜2%の範囲に限定した。
Moは、強い焼戻し軟化抵抗を有し熱処理後の引張強さを高めるために有効な元素である。更に、Moは耐水素脆化特性を向上させる効果がある。0.05%未満では上記効果が少なく、一方、2%を越えて添加しても製造コストの点で添加量に見合う効果を得ることが困難であるため、0.05〜2%に制限した。
Vは、焼入れ処理時において炭窒化物を生成することによりオーステナイト粒を微細化させるとともにリラクゼーション値を増加させる効果があり、更に耐水素脆化特性を向上させる効果も有しているが、0.02%未満では前記作用の効果が得られず、一方1%を越えても効果が飽和するため0.02〜1%に限定した。
NbもVと同様に炭窒化物を生成することによりオーステナイト粒を微細化させるために有効な元素である。0.005%未満では上記効果が不十分であり、一方0.1%を越えるとこの効果が飽和するため0.005〜0.1%に制限した。
Tiは、脱酸およびTiNを形成することによりオーステナイト粒の粗大化を防止する効果とともにNを固定し耐水素脆化特性の向上に有効な固溶Bを確保する効果を有しているが、0.003%未満ではこれらの効果が発揮されず、0.1%を越えても効果が飽和するため0.003〜0.1%の範囲に限定した。
Bは、耐水素脆化特性を向上させる効果があり、更にオーステナイト粒界に偏析することにより焼入性を著しく高める効果も有しているが、Bが0.0003%未満では前記の効果が発揮されず、0.005%を超えても効果が飽和するため0.0003〜0.005%に制限した。
P、Sについては特に制限しないものの、PC鋼棒の耐水素脆化特性を向上させる観点から、それぞれ0.015%以下が好ましい範囲である。また、NはAl、V、Nb、Tiの窒化物を生成することによりオーステナイト粒の細粒化効果があるが、0.015%を越えると延性が低下するため、0.003〜0.015%が好ましい範囲である。
次にPC鋼棒表層の圧縮残留応力の限定理由について説明する。
下記に説明するレーザ処理による圧縮残留応力が−100MPa未満では、高強度PC鋼棒の耐水素疲労特性と耐遅れ破壊特性の向上効果が少なく、一方、−1200MPaを超えるような圧縮残留応力をレーザ処理で付与することが困難なため、圧縮残留応力の範囲を−100〜−1200MPaの範囲に制限した。高強度PC鋼棒の水素脆化による破壊を極力低下させる点で、好ましい圧縮残留応力の範囲は、−300〜−1200MPaである。なお、本発明の残留応力は、PC鋼棒の軸方向の残留応力について限定したものであり、また、残留応力の測定方法はX線法によるものである。
疲労限界拡散性水素量および遅れ破壊限界拡散性水素量は、特に限定しないが、高強度PC鋼棒の水素脆化による破壊を極力低下させる点で、好ましい疲労限界拡散性水素量の下限は1.0ppm、好ましい遅れ破壊限界拡散性水素量の下限は3.0ppmである。
拡散性水素量は、前述したようにガスクロマトグラフによる昇温水素分析法で測定することができる。本発明では、昇温速度が100℃/時間であり、室温から400℃までに試料から放出される水素量を拡散性水素量と定義している。
本発明の高強度PC鋼棒は、焼入れ・焼戻し処理によって所定の強度を得るものであり、焼戻しマルテンサイトが主体の組織である。その他の組織として、フェライト、ベイナイト、パーライトの1種又は2種以上を面積率で10%以下を含有しても良い。フェライト、ベイナイト、パーライトの面積率は、試料の横断面のd/4部(dは高強度鋼の線径)2mm以上を光学顕微鏡(500倍)で観察することによって、測定できる。
次に、本発明の製造方法の限定理由について説明する。
本発明では、焼入れ・焼戻し処理を行い、その後、PC鋼棒にレーザ処理を行うものである。この内、焼入れ・焼戻し処理条件は、従来の方法で良いため、特に限定しないが、耐水素脆化特性を向上させる好ましい条件は下記の通りである。
焼入れ処理の加熱温度は、900〜1000℃の範囲にし、その後、水冷または油冷を行いマルテンサイト組織にする。焼戻しは、400〜700℃の温度範囲で行う。耐水素脆化特性向上の点でより好ましい温度範囲は、500〜700℃である。また、加熱と焼戻しは、炉加熱よりも処理時間の短い高周波加熱の方が、耐水素脆化特性が良好なため、高周波加熱による焼入れ・焼戻しが好ましい熱処理方法である。
焼入れ・焼戻し処理後のレーザ処理の条件について説明する。図2は、本発明で用いたレーザ処理装置の概要構成である。PC鋼棒Aを液体Bに浸漬し、外部からレーザ照射装置Cを用いてレーザ処理を行う。ここで、PC鋼棒1は連続的に回転しながら移動し、レーザ装置は固定である。液体Bは、水、食塩水などの水溶液、アルコールなどの有機溶剤、あるいはこれらの混合物であり、レーザの波長に対し透明な液体が好ましい条件である。ここで、必ずしもPC鋼棒を液体中に浸漬させる必要はなく、PC鋼棒表面に液体の膜を形成し、その上からレーザ照射を行ってもよい。例えば、液体をレーザ照射部に噴きかければ、上記の状態を実現できる。レーザはパルスレーザを用いる。レーザのピークパワー密度が0.1GW/cm未満では、高い圧縮残留応力をPC鋼棒に付与することができず、一方、10GW/cmを超えるピークパワー密度でレーザ処理を行っても圧縮残留応力の付与効果が飽和するため、0.1〜10GW/cmの範囲に限定した。また、PC鋼棒の単位面積当たり(mm)の投入熱量が、0.3J/mm未満では、高い圧縮残留応力をPC鋼棒表面に付与することが困難であるため、投入熱量の下限を0.3J/mmに制限した。
レーザ処理による圧縮残留応力付与は、ショットピーニングによる圧縮残留応力付与よりも、耐水素脆化特性(耐水素疲労特性と耐遅れ破壊特性)が優れているが、この理由は、表面粗さがショットピーニングよりも小さいことに起因すると推定される。
以下、実施例により本発明の効果をさらに具体的に説明する。
表1に示す化学成分を有する供試材を通常の熱間圧延条件で圧延した。その後、930〜980℃の高周波加熱による焼入れ処理を行い、高周波加熱による500〜700℃の焼戻しを施してPC鋼棒を製造した。ミクロ組織は、いずれも焼戻しマルテンサイトが面積率で95〜100%であり、残部はフェライト、ベイナイト、パーライトの1種又は2種以上であった。焼入れ・焼戻し処理後に、PC鋼棒を水に浸漬し、レーザ処理を行った。
上記試料を用いて、機械的性質、残留応力、労限界拡散性水素量および遅れ破壊限界拡散性水素量を測定した。結果を表2に示す。表2の試験No.1〜23が本発明例で、試験No.24〜37が比較例である。同表に見られるように本発明例は、いずれも耐水素疲労特性と耐遅れ破壊特性に優れた1450MPa以上の高強度PC鋼棒が実現されている。
これに対して、比較例であるNo.25、27、30、33は、いずれも従来の焼入れ・焼戻し処理だけでPC鋼棒を製造したものである。PC鋼棒の表層に圧縮残留応力が付与されていないため、疲労限界拡散性水素量および遅れ破壊限界拡散性水素量が低く、耐水素脆化特性が劣っている。
比較例であるNo.24、26、31、32、34は、レーザ処理条件が不適切な例である。即ち、No.24はレーザ照射のピークパワー密度と投入熱量が低いために、また、No.31、34は、いずれもレーザ照射のピークパワー密度が低いために、PC鋼棒の圧縮残留応力値が低く、耐水素脆化特性の向上が少なかった例である。更に、No.26、32は、いずれも投入熱量が低いために圧縮残留応力が低く、疲労限界拡散性水素量および遅れ破壊限界拡散性水素量の向上効果が少なかった例である。
比較例であるNo.28、29、35は、いずれもショットピーニング法でPC鋼棒表層に圧縮残留応力を与えた例である。いずれも、高い圧縮残留応力になっているが、疲労限界拡散性水素量、遅れ破壊限界拡散性水素量の向上効果は、本発明例に比べ低い例である。
比較例であるNo.36、37は、いずれもC含有量が低すぎるために、目的とする1450MPa以上の高強度PC鋼棒が実現できなかった例である。
Figure 2005298916
Figure 2005298916
拡散性水素量と疲労寿命(破断までの繰返し数)の関係について解析した一例を示す図である。 本発明の製造方法で用いたレーザ処理によるPC鋼棒への圧縮残留応力の付与を行うための概要構成を示す図面である。
符号の説明
A PC鋼棒
B 液体
C レーザー照射装置

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C :0.2〜0.6%、
    Si:0.05〜3%、
    Mn:0.3〜2%、
    Al:0.002〜0.1%
    を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、引張強さが1450MPa以上、表層の残留応力が−100〜−1200MPaであることを特徴とする、耐水素脆化特性に優れた高強度PC鋼棒。
  2. さらに、質量%で、
    Ni:0.05〜3%、
    Cr:0.05〜2%、
    Mo:0.05〜2%、
    V :0.02〜1%、
    Nb:0.005〜0.1%、
    Ti:0.003〜0.1%、
    B :0.0003〜0.005%
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の耐水素脆化特性に優れた高強度PC鋼棒。
  3. 質量%で、
    C :0.2〜0.6%、
    Si:0.05〜3%、
    Mn:0.3〜2%、
    Al:0.002〜0.1%
    を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなるPC鋼棒を焼入れ焼戻し処理した後、液体中に浸漬または鋼表面に液体の膜を形成し、0.1〜10GW/cmのピークパワー密度を持つレーザにて、投入熱量0.3J/mm以上のレーザ照射を行うことを特徴とする、耐水素脆化特性に優れた高強度PC鋼棒の製造方法。
  4. 前記PC鋼棒が、質量%で、
    Ni:0.05〜3%、
    Cr:0.05〜2%、
    Mo:0.05〜2%、
    V :0.02〜1%、
    Nb:0.005〜0.1%、
    Ti:0.003〜0.1%、
    B :0.0003〜0.005%
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項3に記載の耐水素脆化特性に優れた高強度PC鋼棒の製造方法。
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