本発明は膨潤、染色、架橋、延伸または水洗処理工程から選ばれる少なくとも1つの工程において、ポリマーフィルムを溶液中に浸漬するとともに、曲率が3%以上のクラウンロールを用いてTD方向に延伸する処理を有する偏光フィルムの製造方法である。このとき、クラウンロールの曲率は3%以上35%以下であるとより好ましい。
前記曲率(R)は図1に示すように、D1をクラウンロール端部の直径[mm]、D2をクラウンロール中央部の直径[mm]、Lをロール長さ[mm]としたとき下記式により求めることができる。
R[%]=((D2−D1)/L)×100
本発明によるクラウンロールの曲率は3%以上であれば本発明の効果は得られるが、TD方向への延伸による効果およびフィルム搬送時の走行性の点から、35%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。さらには、5%以上25%以下であることがより好ましく、7%以上22%以下であることが特に好ましい。この曲率が3%未満であると、シワや折れを抑制する効果は得られるが、TD方向への延伸による効果が不十分なものとなる可能性がある。35%を超えると、走行性が悪くなるため蛇行しやすくなるとともに、ロール中央部分の延伸が強くなり、フィルム面内の均一な延伸効果が得られにくい。ただし、この曲率は、搬送するフィルムの厚さや硬さに応じて適宜調整することが好ましい。
また、このときのTD方向への延伸倍率としては、膨潤処理工程中またはその他の溶液処理工程中のように、架橋処理工程前の、フィルムが膨潤しやすい状態でクラウンロールによる延伸を行う場合、フィルムの材質にもよるため一概に言えるものではないが、例えばポリビニルアルコールフィルムの場合、膨潤により約10%程度幅が広がる。したがって、前記延伸倍率の範囲としては、1.13倍以上1.40倍以下であることが好ましく、1.16倍以上1.35倍以下であることがより好ましいこととなる。このTD方向への延伸が1.13倍未満であるとTD方向への延伸が不十分なため面内を均一とする効果が得られにくく、1.40倍を超えるクラウンロールを用いた場合、逆に面内の光学特性ばらつきが大きくなる可能性が高まるため好ましくない。
架橋処理工程後のようにフィルムが膨潤しにくい状態で、クラウンロールによるTD方向への延伸を行う場合、このときのTD方向への延伸倍率としては、1.03倍以上1.26倍以下であることが好ましく、1.06倍以上1.21倍以下であることがより好ましい。このTD方向への延伸が1.03倍未満であるとTD方向への延伸が不十分なため面内を均一とする効果が得られにくく、1.26倍を超えるクラウンロールを用いた場合、逆に面内の光学特性ばらつきが大きくなる可能性が高まるため好ましくない。
前記偏光フィルムとしては、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム等のポリマーフィルムからなる原反フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質で染色してMD方向に一軸延伸したものが一般的である。このような偏光フィルムの厚さは特に限定されるものではないが、一般的に、5〜40μm程度である。この偏光フィルムの片面または両面に透明保護層を積層することにより偏光板となる。
前記ポリマーフィルムとしては、特に限定されることなく各種のものを使用できる。例えば、PVA系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系フィルムや、これらの部分ケン化フィルム、セルロース系フィルム等の親水性高分子フィルムに、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等があげられる。これらの中でも、ヨウ素による染色性に優れることから、PVA系フィルムを用いることが好ましい。このポリマーフィルムの厚さとしては、5〜100μm程度のものが好ましく用いられる。
前記ポリマーフィルムの材料であるポリマーの重合度は、一般に500〜10,000であり、100〜6000の範囲であることが好ましく、1400〜4000の範囲にあることがより好ましい。さらに、ケン化フィルムの場合、そのケン化度は、例えば、水への溶解性の点から、75モル%以上が好ましく、より好ましくは98モル%以上であり、98.3〜99.8モル%の範囲にあることがより好ましい。
前記ポリマーフィルムとしてPVA系フィルムを用いる場合、PVA系フィルムの製法としては、水または有機溶媒に溶解した原液を流延成膜する流延法、キャスト法、押出法等任意の方法で成膜されたものを適宜使用することができる。このときの位相差値は、5nm〜100nmのものが好ましく用いられる。また、面内均一な偏光フィルムを得るために、PVA系フィルム面内の位相差バラツキはできるだけ小さい方が好ましく、原反フィルムとしてのPVA系フィルムの面内位相差バラツキは、測定波長1000nmにおいて10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。
本発明による偏光フィルムは、偏光フィルム単体で測定したときの単体透過率が43.0%以上であることが好ましく、43.0〜45.0%の範囲にあることがより好ましい。なお、この単体透過率は、後述の実施例に示す方法等によって測定できる。
前記偏光フィルムの製造方法としては、一般に乾式延伸法と湿式延伸法が用いられるが、本発明では、湿式延伸法を用いる。湿式延伸法による偏光フィルムの製造工程としては、その条件に応じて適宜な方法を用いることができるが、例えば、原反フィルムとしての前記ポリマーフィルムを、膨潤、染色、架橋、延伸、水洗および、乾燥処理工程からなる一連の製造工程によって製造する方法が一般的である。乾燥処理工程を除くこれら各処理工程では、各種溶液からなる浴中に浸漬しながら各処理を行う。このときの各処理工程における膨潤、染色、架橋、延伸、水洗および乾燥の各処理の順番、回数および実施の有無は特に限定されるものではなく、いくつかの処理を一処理工程中で同時に行っても良く、いくつかの処理を行わなくても良い。例えば、延伸処理は染色処理後に行ってもよいし、膨潤や染色処理と同時に延伸処理してもよく、また延伸処理してから染色処理してもよい。また、MD方向への延伸処理としては、限定されることなく適宜な方法を用いることができるが、例えばロール延伸の場合、ロール間の周速差によって延伸を行う方法が用いられる。さらに、各処理には適宜ホウ酸やホウ砂あるいはヨウ化カリウム等の添加剤を加えても良い。したがって、本発明による偏光フィルムは、必要に応じてホウ酸や硫酸亜鉛、塩化亜鉛、ヨウ化カリウム等を含んでいてもよい。さらには、これらのいくつかの処理中で、MD方向もしくはTD方向に従来公知の方法により適宜延伸しても良く、各処理ごとに水洗処理を行っても良い。
本発明によるTD方向への延伸は、外周表面が両端部から中央部に向かうにしたがって直径が大きくなるテーパークラウン形状やラジアルクラウン形状等のクラウンロールを用いる。ただし、これらのクラウンロールと対で用いる場合には、逆クラウン形状のような中央部に向かうにしたがって直径が小さくなるクラウンロールを用いても良い。このクラウンロールの材質は、用いる溶液に侵されるものでなく、搬送するフィルムに悪影響を及ぼすものでなければ特に限定されるものではないが、ステンレス等の金属、シリコン、およびニトリルブタジエンゴム等の合成ゴム系の材質が好ましく用いられる。また、クラウンロール表面には滑り止め等を目的とした溝や模様等の加工を適宜施しても良い。例えば、スパイラル形状のスリット状の溝を、1〜10mm間隔、0.1〜3mm深さで施すことや、金属のクラウンロールを用いる場合には、ローレット加工を施すことも有効である。クラウンロールの長さとしては、少なくともフィルムの幅以上であることが好ましく、フィルムの幅よりも8〜60%程度長いものがより好ましく用いられる。
このクラウンロールを用いたTD方向への延伸は、各処理工程時に、限定されることなく実施でき、膨潤、染色、架橋、延伸、水洗および、乾燥処理工程の他、どの工程で行ってもよい。また、回数も限定されるものではなく、複数回行っても良い。しかしながら本発明のようにムラのない偏光フィルムを得るためには、まだポリマーフィルムの柔軟性が高い架橋処理工程前に、本発明のTD方向への延伸を行うことが効果的であり、染色処理工程前に行うことがより好ましく、膨潤処理工程で行うことが特に好ましい。架橋処理後に本発明によるTD方向への延伸を行うことは、架橋処理によりポリマーフィルムが硬化しているためTD方向に拡張する効果は得られにくいが、しわや折れ曲がりを防止するためには有効である。さらに、このクラウンロールの各処理工程中における設置位置としては、適宜、効率的にTD方向への延伸を行うことのできる位置に設置すればよく、限定されるものではないが、溶液中に設置されたガイドロールとして設けることが、前記ポリマーフィルムの特性上、溶液浸漬時に延伸が容易になるため効果的である。
前記膨潤処理工程としては、例えば、水で満たした膨潤浴に浸漬する。これによりポリマーフィルムが水洗され、ポリマーフィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるとともに、ポリマーフィルムを膨潤させることで染色ムラ等の不均一性を防止する効果が期待できる。この膨潤浴中には、グリセリンやヨウ化カリウム等を適宜加えてもよく、添加する濃度は、グリセリンは5重量%以下、ヨウ化カリウムは10重量%以下であることが好ましい。膨潤浴の温度は、20〜45℃の範囲であることが好ましく、25〜40℃であることがより好ましい。膨潤浴への浸漬時間は、2〜300秒間であることが好ましく、10〜180秒間であることがより好ましく、60〜150秒間であることが特に好ましい。また、この膨潤浴中でポリマーフィルムを延伸してもよく、そのときの延伸倍率は、MD方向に1.1〜3.5倍程度である。
前記染色処理工程としては、例えば、二色性物質の溶液中に前記ポリマーフィルムをヨウ素等の二色性物質を含む染色浴に浸漬することによって、上記二色性物質をポリマーフィルムに吸着させる。
前記二色性物質としては、従来公知の物質が使用でき、例えば、ヨウ素や有機染料等があげられる。有機染料としては、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、エロー3G、エローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラック、等が使用できる。
これらの二色性物質は、一種類でも良いし、二種類以上を併用して用いても良い。前記有機染料を用いる場合は、例えば、可視光領域のニュートラル化を図る点から、二種類以上を組み合わせることが好ましい。具体例としては、コンゴーレッドとスプラブルーG、スプラオレンジGLとダイレクトスカイブルーまたは、ダイレクトスカイブルーとファーストブラックとの組み合わせが挙げられる。
前記染色浴の溶液としては、前記二色性物質を溶媒に溶解した溶液が使用できる。前記溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒がさらに添加されても良い。二色性物質の濃度としては、0.010〜10重量%の範囲にあることが好ましく、0.020〜7重量%の範囲にあることがより好ましく、0.025〜5重量%であることが特に好ましい。
また、前記二色性物質としてヨウ素を使用する場合、染色効率をより一層向上できることから、さらにヨウ化物を添加することが好ましい。このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらヨウ化物の添加割合は、前記染色浴において、0.010〜10重量%であることが好ましく、0.10〜5重量%であることがより好ましい。これらのなかでも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましく、ヨウ素とヨウ化カリウムの割合(重量比)は、1:5〜1:100の範囲にあることが好ましく、1:6〜1:80の範囲にあることがより好ましく、1:7〜1:70の範囲にあることが特に好ましい。
前記染色浴へのポリマーフィルムの浸漬時間は、これに特に限定されるものではないが、1〜20分の範囲であることが好ましく、2〜10分であることがより好ましい。また、染色浴の温度は、5〜42℃の範囲にあることが好ましく、10〜35℃の範囲にあることがより好ましい。また、この染色浴中でポリマーフィルムを延伸してもよく、そのときの総延伸倍率は、MD方向に1.1〜3.5倍程度である。
また、染色処理としては、前述のような染色浴に浸漬する方法以外に、例えば、二色性物質を含む水溶液を前記ポリマーフィルムに塗布または噴霧する方法であってもよく、また、前記ポリマーフィルム製膜時に二色性物質をあらかじめ混ぜておいても良い。
前記架橋処理工程としては、例えば、架橋剤を含む浴中にポリマーフィルムを浸漬して架橋する。上記架橋剤としては、従来公知の物質が使用できる。例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒド等が挙げられる。これらは一種類でも良いし、二種類以上を併用しても良い。二種類以上を併用する場合には、例えば、ホウ酸とホウ砂の組み合わせが好ましく、また、その添加割合(モル比)は、4:6〜9:1の範囲にあることが好ましく、5.5:4.5〜7:3の範囲がより好ましく、6:4であることが最も好ましい。
前記架橋浴の溶液としては、前記架橋剤を溶媒に溶解した溶液が使用できる。前記溶媒としては、例えば水が使用できるが、さらに、水と相溶性のある有機溶媒を含んでも良い。前記溶液における架橋剤の濃度は、これに限定されるものではないが、1〜10重量%の範囲にあることが好ましく、2〜6重量%であることがより好ましい。
前記架橋浴中には、偏光フィルムの面内の均一な特性が得られる点から、よう化物を添加してもよい。このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンが挙げられ、この含有量は0.05〜15重量%、より好ましくは0.5〜8重量%である。なかでも、ホウ酸とヨウ化カリウムの組み合わせが好ましく、ホウ酸とヨウ化カリウムの割合(重量比)は、1:0.1〜1:3.5の範囲にあることが好ましく、1:0.5〜1:2.5の範囲にあることがより好ましい。
前記架橋浴の温度は、通常20〜70℃の範囲であり、ポリマーフィルムの浸漬時間は通常1秒〜15分の範囲であり、好ましくは、5秒〜10分である。さらに、架橋処理も染色処理と同様に、架橋剤含有溶液を塗布または噴霧する方法を用いても良く、この架橋浴中でポリマーフィルムをMD方向に延伸してもよく、そのときの総延伸倍率は1.1〜3.5倍程度である。
前記延伸処理工程における延伸浴の溶液としては、これに特に限定されるわけではないが、例えば、各種金属塩や、ヨウ素、ホウ素または亜鉛の化合物を添加した溶液を用いることができる。この溶液の溶媒としては、水、エタノールあるいは各種有機溶媒が適宜用いられる。なかでも、ホウ酸および/またはヨウ化カリウムをそれぞれ2〜18重量%程度添加した溶液を用いることが好ましい。このホウ酸とヨウ化カリウムを同時に用いる場合には、その含有割合(重量比)は、1:0.1〜1:4程度、より好ましくは、1:0.5〜1:3程度の割合で用いることが好ましい。
前記延伸浴の温度は、例えば、40〜67℃の範囲であることが好ましく、50〜62℃であることがより好ましい。この延伸処理工程を経た後の、MD方向への総延伸倍率としては、3〜7倍程度となる。
前記水洗処理工程としては、例えば、水洗浴の水溶液中にポリマーフィルムを浸漬することにより、これより前の処理で付着したホウ酸等の不要残存物を洗い流すことができる。上記水溶液には、ヨウ化物を添加してもよく、例えば、ヨウ化ナトリウムやヨウ化カリウムが好ましく用いられる。水洗浴にヨウ化カリウムを添加した場合、その濃度は通常0.1〜10重量%であり、3〜8重量%であることが好ましい。さらに、水洗浴の温度は、10〜60℃であることが好ましく、15〜40℃であることがより好ましい。また、水洗処理の回数は特に限定されることなく複数回実施してもよく、各水洗浴中の添加物の種類や濃度を変えても良い。
なお、ポリマーフィルムを各処理浴から引き上げる際には、液だれの発生を防止するために、従来公知であるピンチロール等の液切れロールを用いても良いし、エアーナイフによって液を削ぎ落とす等の方法により、余分な水分を取り除いても良い。
前記乾燥処理工程としては、自然乾燥、風乾、加熱乾燥等、適宜な方法を用いることができるが、通常、加熱乾燥が好ましく用いられる。加熱乾燥では、例えば、加熱温度が20〜80℃程度であり、乾燥時間は1〜10分間程度であることが好ましい。
以上のような処理工程を経て作製された偏光フィルムの最終的な延伸倍率(総延伸倍率)は、上記処理前のポリマーフィルムに対して、3.0〜7.0倍であることが好ましく、5.5〜6.2倍の範囲にあることがより好ましい。総延伸倍率が3.0倍未満では、高偏光度の偏光フィルムを得ることが難しく、7.0倍を超えると、フィルムは破断しやすくなる。
また、本発明による製造方法を用いれば、上記製造方法に限定されることなく、他の製造方法を用いて偏光フィルムを製造しても良い。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリマーフィルムに二色性物質を練りこみ、製膜、延伸したようなものでも良いし、一軸方向に配向した液晶をホストとして、そこに二色性染料をゲストにしたようなOタイプのもの(米国特許5,523,863号、特表平3−503322号公報)、二色性のライオトロピック液晶等を用いたEタイプのもの(米国特許6,049,428号)が挙げられる。
このようにして作製された偏光フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、5〜40μmであることが好ましい。厚さが5μm以上であれば機械的強度が低下することはなく、また40μm以下であれば光学特性が低下せず、画像表示装置に適用しても薄型化を実現できる。
本発明による偏光フィルムには、実用に際して各種光学層を積層して用いることができる。その光学層については、要求される光学特性を満たすものであれば特に限定されるものではないが、例えば、偏光フィルムの片面または両面に、偏光フィルムの保護を目的とした透明保護層、前記透明保護層の偏光フィルムと接着する面と反対の面、あるいは偏光フィルム自体の片面または両面に対して、ハードコート処理や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした表面処理を施したり、視角補償等を目的とした配向液晶層や、他のフィルムを積層するための粘着層を積層する方法があげられる。さらに、光学層として、偏光変換素子、反射板や半透過板、位相差板(1/2や1/4等の波長板(λ板)を含む)、視角補償フィルム、輝度向上フィルムなどの画像表示装置等の形成に用いられる光学フィルムを1層または2層以上積層したものもあげられる。特に上記偏光フィルムと透明保護層を積層した偏光板に、反射板または半透過反射板が積層されてなる反射型偏光板または半透過型偏光板、位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板、視角補償層または視角補償フィルムが積層されてなる広視野角偏光板、あるいは輝度向上フィルムが積層されてなる偏光板が好ましい。また、前記光学層あるいは前記光学フィルムを透明保護層と積層するタイミングは、偏光フィルムと貼りあわせた後でも良いし、偏光フィルムと貼りあわせる前でも良い。
前記偏光フィルムの片面または両面に設けられる透明保護層を形成する材料としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、等方性などに優れるものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーがあげられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、または前記ポリマーのブレンド物なども前記透明保護層を形成するポリマーの例としてあげられる。透明保護層は、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型、紫外線硬化型の樹脂の硬化層として形成することもできる。これらの中でも本発明による偏光フィルムと貼り合わせる透明保護層としては、表面をアルカリなどでケン化処理したトリアセチルセルロースフィルムが好ましい。
また、透明保護層としては、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルム、例えば、(A)側鎖に置換および/または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、(B)側鎖に置換および/または非置換フェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が挙げられ、具体例としてはイソブテンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体とアクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂組成物のフィルムが挙げられる。フィルムは樹脂組成物の混合押出し品などからなるフィルムを用いることができる。
透明保護層の厚さは特に限定されるものではないが、一般には500μm以下であり、1〜300μmが好ましい。特に5〜200μmとするのがより好ましい。また、偏光特性や耐久性および接着特性向上等の点より、透明保護層表面をアルカリなどでケン化処理することが好ましい。
また、透明保護層はできるだけ色付きがないことが好ましい。したがって、Rth=[(nx+ny)/2−nz]・d(ただし、nx、nyはフィルム平面内の主屈折率、nzはフィルム厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚さである)で表されるフィルム厚み方向の位相差値が−90nm〜+75nmである透明保護層が好ましく用いられ、これを使用することにより、透明保護層に起因する偏光板の着色(光学的な着色)をほぼ解消することができる。さらに、Rthは、−80〜+60nmであることがより好ましく、−70nm〜+45nmの範囲であると特に好ましい。
前記透明保護層を偏光フィルムの両面に積層する場合、その片面ごとにそれぞれ異なる特性をもつものを用いてもよい。その特性としては、これに限定されるものではないが、例えば、厚み、材質、光透過率、引張り弾性率あるいは光学層の有無等が挙げられる。
ハードコート処理としては、偏光フィルムあるいは、偏光フィルムと透明保護層を積層した偏光板表面の傷つき防止などを目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を透明保護層の表面に付加する方式などにて形成することができる。反射防止処理は偏光板表面での外光の反射防止を目的に施されるものであり、従来に準じた反射防止膜などの形成により達成することができる。また、スティッキング防止処理は隣接層との密着防止を目的に施される。
また、アンチグレア処理は偏光板の表面で外光が反射して、偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に施されるものであり、例えば、サンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて透明保護層の表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。前記表面微細凹凸構造の形成に含有させる微粒子としては、例えば平均粒径が0.5〜50μmのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等からなり、導電性を有することもある無機系微粒子、架橋または未架橋のポリマー等からなる有機系微粒子などの透明微粒子が用いられる。表面微細凹凸構造を形成する場合、微粒子の使用量は、表面微細凹凸構造を形成する透明樹脂100重量部に対して一般的に2〜70重量部程度であり、5〜50重量部が好ましい。アンチグレア層は、偏光板透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)をかねるものであってもよい。
なお、前記反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層等の光学層は、透明保護層そのものに設けることができるほか、別途、透明保護層とは別体のものとして設けることもできる。
前記偏光フィルムと透明保護層を接着剤層を介して接着する場合、その接着処理は特に限定されるものではないが、例えば、ビニルポリマーからなる接着剤、あるいは、ホウ酸やホウ砂、グルタルアルデヒドやメラミン、シュウ酸などのビニルアルコール系ポリマーの水溶性架橋剤から少なくともなる接着剤などを介して行うことができる。この接着層は、水溶液の塗布乾燥層などとして形成しうるが、その水溶液の調製に際しては、必要に応じて、他の添加剤や、酸等の触媒も配合することができる。特に偏光フィルムとしてポリビニルアルコール系のポリマーフィルムを用いる場合には、ポリビニルアルコールからなる接着剤を用いることが、接着性の点から好ましい。また、この接着層の厚さとしては、その接着効果と厚みのバランスにより決定されるが、5nm以上500nm以下であることが好ましく、10nm以上300nm以下であることがより好ましい。
反射型偏光板は、偏光板に反射層を設けたもので、視認側(表示側)からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置などを形成するためのものであり、バックライト等の光源の内臓を省略できて、液晶表示装置の薄型化を図りやすいなどの利点を有する。反射型偏光板の形成は、必要に応じ透明保護層等を介して偏光板の片面に金属等からなる反射層を付設する方式などの適宜な方式にて行うことができる。
反射型偏光板の具体例としては、必要に応じ、マット処理した透明保護層の片面に、アルミニウム等の反射性金属からなる箔や蒸着膜を付設して反射層を形成したものなどがあげられる。また、前記透明保護層に微粒子を含有させて表面微細凹凸構造とし、その上に微細凹凸構造の反射層を有するものなどもあげられる。前記した微細凹凸構造の反射層は、入射光を乱反射により拡散させて指向性やギラギラした見栄えを防止し、明暗のムラを抑制しうる利点などを有する。また微粒子含有の透明保護層は、入射光およびその反射光がそれを透過する際に拡散されて、明暗ムラをより抑制しうる利点なども有している。透明保護層の表面微細凹凸構造を反映させた微細凹凸構造の反射層の形成は、例えば真空蒸着方式、イオンプレーティング方式、スパッタリング方式等の蒸着方式やメッキ方式などの適宜な方式で、金属を透明保護層の表面に直接付設する方法などにより行うことができる。
反射板は、前記偏光板の透明保護層に直接付与する方式に代えて、その透明フィルムに準じた適宜なフィルムに反射層を設けてなる反射シートなどとして用いることもできる。なお、反射層は通常、金属からなるので、その反射面が透明保護層や偏光板等で被覆された状態の使用形態が、酸化による反射率の低下防止、ひいては初期反射率の長期持続の点や、保護層の別途付設回避の点などにより好ましい。
なお、半透過型偏光板は、上記において反射層で光を反射し、かつ透過するハーフミラー等の半透過型の反射層とすることにより得ることができる。半透過型偏光板は通常、液晶セルの裏側に設けられ、液晶表示装置などを比較的明るい雰囲気で使用する場合には、視認側(表示側)からの入射光を反射させて画像を表示し、比較的暗い雰囲気においては、半透過型偏光板のバックサイドに内蔵されているバックライト等の内蔵光源を使用して画像を表示するタイプの液晶表示装置などを形成できる。すなわち、半透過型偏光板は、明るい雰囲気下では、バックライト等の光源使用のエネルギーを節約でき、比較的明るい雰囲気下においても内蔵光源を用いて使用できるタイプの液晶表示装置などの形成に有用である。
偏光板にさらに位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板について説明する。直線偏光を楕円偏光または円偏光に変えたり、楕円偏光または円偏光を直線偏光に変えたり、あるいは直線偏光の偏光方向を変える場合に、位相差板などが用いられる。特に、直線偏光を円偏光に変えたり、円偏光を直線偏光に変えたりする位相差板としては、いわゆる1/4波長板(λ/4板ともいう)が用いられる。1/2波長板(λ/2板ともいう)は、通常、直線偏光の偏光方向を変える場合に用いられる。
楕円偏光板はスーパーツイストネマチック(STN)型液晶表示装置の液晶層の複屈折により生じた着色(青または黄)を補償(防止)して、前記着色のない白黒表示する場合などに有効に用いられる。さらに、三次元の屈折率を制御したものは、液晶表示装置の画面を斜め方向から見た際に生じる着色も補償(防止)することができて好ましい。円偏光板は、例えば画像がカラー表示になる反射型液晶表示装置の画像の色調を整える場合などに有効に用いられ、また、反射防止の機能も有する。
位相差板としては、高分子素材を一軸または二軸延伸処理してなる複屈折性フィルム、液晶モノマーを配向させた後、架橋、重合させた配向フィルム、液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムにて支持したものなどがあげられる。延伸処理は、例えばロール延伸法、長間隙沿延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法などにより行うことができる。延伸倍率は、一軸延伸の場合には1.1〜3倍程度が一般的である。位相差板の厚さも特に制限されないが、一般的には10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
前記高分子素材としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルビニルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリアリルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、セルロース系重合体、またはこれらの二元系、三元系各種共重合体、グラフト共重合体、ブレンド物などがあげられる。これら高分子素材は延伸等により配向物(延伸フィルム)となる。
前記液晶モノマーとしては、リオトロピック性、サーモトロピック性のいずれのものも用いることができるが、作業性の点からサーモトロピック性のものが好適であり、例えば、アクリロイル基、ビニル基やエポキシ基等の官能基を導入したビフェニル誘導体、フェニルベンゾエート誘導体、スチルベン誘導体などを基本骨格としたもの等が挙げられる。このような液晶モノマーは、例えば、熱や光による方法、基板上をラビングする方法、配向補助剤を添加する方法等、適宜公知の方法を用いて配向させ、その後、この配向を維持した状態で、光、熱、電子線等により架橋および重合させることにより配向を固定化する方法が好ましく用いられる。
前記液晶ポリマーとしては、例えば、液晶配向性を付与する共役性の直線状原子団(メソゲン)がポリマーの主鎖や側鎖に導入された主鎖型や側鎖型の各種のものなどがあげられる。主鎖型の液晶性ポリマーの具体例としては、屈曲性を付与するスペーサ部でメソゲン基を結合した構造の、例えばネマチック配向性のポリエステル系液晶性ポリマー、ディスコティックポリマーやコレステリックポリマーなどがあげられる。側鎖型の液晶性ポリマーの具体例としては、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートまたはポリマロネートを主鎖骨格とし、側鎖として共役性の原子団からなるスペーサ部を介してネマチック配向付与性のパラ置換環状化合物単位からなるメソゲン部を有するものなどがあげられる。これら液晶ポリマーは、例えば、ガラス板上に形成したポリイミドやポリビニルアルコール等の薄膜の表面をラビング処理したもの、酸化ケイ素を斜方蒸着したものなどの配向処理面上に液晶性ポリマーの溶液を展開して熱処理することにより行われる。
位相差板は、例えば各種波長板や液晶層の複屈折による着色や視角等の補償を目的としたものなどの使用目的に応じた適宜な位相差を有するものであってよく、2種以上の位相差板を積層して位相差等の光学特性を制御したものなどであってもよい。
また上記の楕円偏光板や反射型楕円偏光板は、偏光板または反射型偏光板と位相差板を適宜な組み合わせで積層したものである。かかる楕円偏光板等は、(反射型)偏光板と位相差板の組み合わせとなるようにそれらを液晶表示装置の製造過程で順次別個に積層することによっても形成しうるが、前記のごとくあらかじめ楕円偏光板等の光学フィルムとしたものは、品質の安定性や積層作業性等に優れて、液晶表示装置などの製造効率を向上させうる利点がある。
視角補償フィルムは、液晶表示装置の画面を、画面に垂直でなくやや斜めの方向から見た場合でも、画像が比較的鮮明に見えるように視野角を広げるためのフィルムである。このような視角補償位相差板としては、例えば位相差板、液晶ポリマー等の配向フィルムや透明基材上に液晶ポリマー等の配向層を支持したものなどからなる。通常の位相差板は、その面方向に一軸延伸された複屈折を有するポリマーフィルムが用いられるのに対し、視角補償フィルムとして用いられる位相差板には、面方向に二軸に延伸された複屈折を有するポリマーフィルムとか、面方向に一軸に延伸され、厚さ方向にも延伸された、厚さ方向の屈折率を制御した複屈折を有するポリマーや傾斜配向フィルムのような二方向延伸フィルムなどが用いられる。傾斜配向フィルムとしては、例えばポリマーフィルムに熱収縮フィルムを接着して加熱によるその収縮力の作用下にポリマーフィルムを延伸処理または/および収縮処理したものや、液晶ポリマーを斜め配向させたものなどが挙げられる。位相差板の素材原料ポリマーは、先の位相差板で説明したポリマーと同様のものが用いられ、液晶セルによる位相差に基づく視認角の変化による着色等の防止や良視認の視野角の拡大などを目的とした適宜なものを用いうる。
また、良視認の広い視野角を達成する点などより、液晶ポリマーの配向層、特にディスコティック液晶ポリマーの傾斜配向層からなる光学的異方性層をトリアセチルセルロースフィルムにて支持した光学補償位相差板が好ましく用いうる。
偏光変換素子としては、例えば、異方性反射型偏光素子や異方性散乱型偏光素子等があげられる。異方性反射型偏光素子としては、コレステリック液晶層、特にコレステリック液晶ポリマーの配向フィルムや、その配向液晶層をフィルム基材上に支持したもののように、左回りまたは右回りのいずれか一方の円偏光を反射して他の光は透過する特性を示すものと、その反射帯域のうちのいずれかの任意の波長における0.25倍の位相差を有する位相差板との複合体、あるいは、誘電体の多層薄膜や屈折率異方性が相違する薄膜フィルムの多層積層体のように、所定偏光軸の直線偏光を透過して他の光は反射する特性を示すものが好ましい。前者の例としては、日東電工製のPCFシリーズ等を挙げることができ、後者の例としては、3M社製のDBEFシリーズ等を挙げることができる。また、異方性反射型偏光素子として、反射型グリッド偏光子も好ましく用いうる。その例としては、Moxtek製のMicro Wires等を挙げることができる。一方、異方性散乱型偏光素子としては、例えば、3M社製のDRPF等を挙げられる。
偏光板と輝度向上フィルムを貼りあわせた偏光板は、通常液晶セルの裏側サイドに設けられて使用される。輝度向上フィルムは、液晶表示装置などのバックライトや裏側からの反射などにより自然光が入射すると所定偏光軸の直線偏光または所定方向の円偏光を反射し、他の光は透過する特性を示すもので、輝度向上フィルムを偏光板と積層した偏光板は、バックライト等の光源からの光を入射させて所定偏光状態の透過光を得るとともに、前記所定偏光状態以外の光は透過せずに反射される。この輝度向上フィルム面で反射した光をさらにその後ろ側に設けられた反射層等を介し反転させて輝度向上フィルムに再入射させ、その一部または全部を所定偏光状態の光として透過させて輝度向上フィルムを透過する光の増量を図るとともに、偏光フィルムに吸収させにくい偏光を供給して、液晶画像表示等に利用しうる光量の増大を図ることにより輝度を向上させうるものである。すなわち、輝度向上フィルムを使用せずに、バックライトなどで液晶セルの裏側から偏光フィルムを通して光を入射した場合には、偏光フィルムの偏光軸に一致していない偏光方向を有する光は、ほとんど偏光フィルムに吸収されてしまい、偏光フィルムを透過してこない。すなわち、用いた偏光フィルムの特性によっても異なるが、およそ50%の光が偏光フィルムに吸収されてしまい、その分、液晶画像表示等に利用しうる光量が減少し、画像が暗くなる。輝度向上フィルムは、偏光フィルムに吸収されるような偏光方向を有する光を偏光フィルムに入射させずに、輝度向上フィルムでいったん反射させ、さらにその後ろ側に設けられた反射層等を介して反転させて輝度向上フィルムに再入射させることを繰り返し、この両者間で反射、反転している光の偏光方向が偏光市を通過しうるような偏光方向になった偏光のみを透過させて偏光フィルムに供給するので、バックライトなどの光を効率的に液晶表示装置の画像の表示に使用でき、画面を明るくすることができる。
輝度向上フィルムと上記反射層等の間に拡散板を設けることもできる。輝度向上フィルムによって反射した偏光状態の光は上記反射層等に向かうが、設置された拡散板は通過する光を均一に拡散すると同時に偏光状態を解消し、非偏光状態とする。すなわち元の自然光状態にもどす。この非偏光状態すなわち自然光状態の光が反射層等に向かい、反射層等を介して反射して、拡散板を再び通過して輝度向上フィルムに再入射することを繰り返す。元の自然光状態に戻す拡散板を設けることにより、表示画面の明るさを維持しつつ、同時に表示画面の明るさのムラを少なくし、均一の明るい画面を提供することができる。元の自然光状態に戻す拡散板を設けることにより、初回の入射光は反射の繰り返し回数が程よく増加し、拡散板の拡散機能とあいまって均一の明るい表示画面を提供することができたものと考えられる。
前記輝度向上フィルムとしては、例えば誘電体の多層薄膜や屈折率異方性が相違する薄膜フィルムの多層積層体の如き、所定偏光軸の直線偏光を透過して他の光は反射する特性を示すもの、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持したものの如き、左回りまたは右回りのいずれか一方の円偏光を反射して他の光は透過する特性を示すものなどの適宜なものを用いうる。
したがって、前記した所定偏光軸の直線偏光を透過させるタイプの輝度向上フィルムでは、その透過光をそのまま偏光板に偏光軸をそろえて入射させることにより、偏光板による吸収ロスを抑制しつつ、効率よく透過させることができる。一方、コレステリック液晶層の如く円偏光を透過するタイプの輝度向上フィルムでは、そのまま偏光フィルムに入射させることもできるが、吸収ロスを抑制する点よりその円偏光を位相差板を介し直線偏光化して偏光板に入射させることが好ましい。なお、その位相差板として1/4波長板を用いることにより、円偏光を直線偏光に変換することができる。
可視光域等の広い波長範囲で1/4波長板として機能する位相差板は、例えば波長550nmの単色光に対して1/4波長板として機能する位相差層と他の位相差特性を示す位相差層、例えば1/2波長板として機能する位相差層とを重畳する方式などにより得ることができる。したがって、偏光板と輝度向上フィルムの間に配置する位相差板は、1層または2層以上の位相差層からなるものであってよい。
なお、コレステリック液晶層についても、反射波長が相違するものの組み合わせにして2層または3層以上重畳した配置構造とすることにより、可視光領域等の広い波長範囲で円偏光を反射するものを得ることができ、それに基づいて広い波長範囲の透過円偏光を得ることができる。
また、本発明の偏光板は、上記の偏光分離型偏光板の如く、偏光板と2層または3層以上の光学層とを積層したものからなっていてもよい。したがって、上記の反射型偏光板や半透過型偏光板と位相差板を組み合わせた反射型楕円偏光板や半透過型楕円偏光板などであってもよい。
偏光板に前記光学層を積層した光学フィルムは、液晶表示装置等の製造過程で順次別個に積層する方式にても形成することができるが、あらかじめ積層して光学フィルムとしたものは、品質の安定性や組立作業等に優れていて液晶表示装置などの製造工程を向上させうる利点がある。積層には粘着層等の適宜な接着手段を用いうる。前記の偏光板と他の光学層の接着に際し、それらの光学軸は目的とする位相差特性などに応じて適宜な配置角度とすることができる。
本発明による偏光フィルムや、前記の積層光学部材には、液晶セル等の他部材と接着するための粘着層を設けることもできる。その粘着層は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ゴム系等の従来に準じた適宜な粘着剤にて形成することができる。この粘着剤としては、吸湿による発泡現象や剥がれ現象の防止、熱膨張差等による光学特性の低下や液晶セルの反り防止、ひいては高品質で耐久性に優れる画像表示装置の形成性等の点により、吸湿率が低くて耐熱性に優れる粘着層であることが好ましく、さらには、偏光フィルム等の光学特性の変化を防止する点より、硬化や乾燥の際に高温のプロセスを要しないものであり、長時間の硬化処理や乾燥時間を要しないものが好ましい。このような観点より、本発明では、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
また、微粒子を含有して光拡散性を示す粘着層などとすることもできる。粘着層は必要に応じて必要な面に設ければよく、例えば、本発明のような偏光フィルムと透明保護層からなる偏光板について言及するならば、必要に応じて、保護層の片面または両面に粘着層を設ければよい。
粘着剤の厚さは、特に限定されるものではないが、5〜35μmが好ましく、より好ましくは15〜25μmであるのがより好ましい。粘着層の厚さをこの範囲にすることによって、偏光フィルムおよび偏光板の寸法挙動に伴う応力を緩和することもできる。
前記粘着層が表面に露出する場合には、その粘着層を実用に供するまでの間の汚染防止等を目的としてセパレータにて仮着カバーをすることが好ましい。セパレータは、上記の透明保護層等に準じた適宜なフィルムに、必要に応じてシリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤による剥離コートを設ける方式などにより形成することができる。
なお、上記の偏光板や光学部材を形成する透明保護層、光学層や粘着層などの各層は、例えば、サリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などの適宜な方式により紫外線吸収能を持たせたものであってもよい。
本発明による偏光フィルムは液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、プラズマディスプレイ(PD)および電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)等の画像表示装置の形成に好ましく用いることができる。
本発明の偏光フィルムは、液晶表示装置等の各種装置の形成などに好ましく用いることができ、例えば、偏光フィルムあるいは偏光板を液晶セルの片側あるいは両側に配置してなる反射型や半透過型、あるいは透過・反射両用型等の液晶表示装置に用いることができる。液晶セル基板は、プラスチック基板、ガラス基板のいずれでも良い。液晶表示装置を形成する液晶セルは任意であり、例えば薄膜トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型のもの、ツイストネマチック型やスーパーツイストネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型のものなど適宜なタイプの液晶セルを用いたものであって良い。
また、液晶セルの両側に偏光板や光学部材を設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えばプリズムアレイシートやレンズアレイシート、光拡散板やバックライト等の適宜な部品を適宜な位置に1層または2層以上配置することができる。
次いで、有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置)について説明する。一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。ここで、有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体等、種々の組み合わせを持った構成が知られている。
有機EL表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、有機発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物質を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性に伴う強い非線形性を示す。
有機EL表示装置においては、有機発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常、酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
このような構成の有機EL表示装置において、有機発光層は、厚さ10nm程度と極めて薄い膜で形成されている。このため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差フィルムを設けることができる。
位相差フィルムおよび偏光フィルムは、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、位相差フィルムを1/4波長板で構成し、かつ偏光板と位相差フィルムとの偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は位相差フィルムにより一般に楕円偏光となるが、特に位相差フィルムが1/4波長板でしかも偏光板と位相差フィルムとの偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。
この円偏光は、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、位相差フィルムで再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、偏光板の偏光方向と直交しているので、偏光板を透過できない。その結果、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
PDは、パネル内に封入された希ガス、とくにネオンを主体としたガス中で放電を発生させ、その際に発生する真空紫外線により、パネルのセルに塗られたR、G、Bの蛍光体を発生させることにより、画像表示が可能となる。
上記のような画像表示装置市場では、価格低減のため、光学フィルム原反の打ち抜き、そして選別、貼り合わせまでの処理工程を一貫して行うインハウス製造が求められている。光学フィルムの後加工(切断)からセルへの貼り合わせまでを一貫生産するインハウス製造法では、その不良エリアを即座に測定する必要がある。本発明において、カットされた偏光板がそのままディスプレイに使用される場合、チップカットされた偏光フィルムの大きさは任意であるが、一般には縦が10cm〜130cm、横が10cm〜130cmのものが用いられる。特にディスプレイの大きさにおいて上限はないが、現状作ることのできる透明保護フィルムや、PVAフィルム等の偏光フィルム用の基材幅に依存する。したがって、従来はチップカット後に検査工程が必要であり、検査工程において不良品を除外していたが、本発明では偏光フィルムの面内均一性を高めたため、チップカット後に検査工程やそのための運送工程、梱包工程、開梱工程を経ることなく、液晶表示素子やEL表示素子等の画像表示素子に貼り合わせる工程を1ラインで行うことができる。