JP2005282668A - 硬質被膜で締結摺動面を被覆した締結治具部材、締結治具部材を装着した締結物体及び締結治具部材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 本発明は、締結治具部材の締結部の少なくとも1方の締結摺動面の全面または一部分を、炭素を含む硬質被膜、炭素及び水素を含む硬質被膜、及びそれらの硬質被膜を形成する炭素の一部を硼素で置換した硬質被膜である。本発明においては、この硬質被膜は複数に分割して被覆した締結治具部材とすることができる。本発明の締結治具部材の製造方法により、硬質被膜で全面被覆、または硬質被膜は複数に分割することができ、且つダイヤモンド状またはグラファイト状の炭素被膜を形成することができる。
【選択図】 図1
Description
スパッタ法は、特に、締結治具部材に炭素のみを含む硬質被膜を被覆する場合に好ましい。固体炭素、ダイヤモンド、及び炭素とダイヤモンドとを混合したもののターゲットを使用したスパッタ装置は、十分な量のアルゴンイオンが得られる放電を維持するために、真空容器を1〜10−2Paのアルゴンガス圧力範囲とする。しかしながら、アルゴンガス以外の活性な不純物ガス分圧(10−4Pa以下)は可能な限り低くする。スパッタ法に使用した高周波電源は、周波数が13.56MHzであり、最大出力が100W〜15kWの範囲とする。締結治具部材の締結部の締結摺動面は、被覆効率を上げるために100〜300℃に加熱することが好ましい。締結治具部材と硬質被膜との付着力を向上させる場合には、2〜500nmのSiまたはTiをスパッタ法により合成した後に上記方法により、硬質被膜を被覆する。
パルスプラズマCVD法は、炭素と水素とを含むガスを用いて硬質被膜を被覆する場合、真空容器中に0.1〜10Pa好ましくは0.1〜6Paの低圧力の炭素と水素を含むガスを流入させ、且つ1〜100kHzの高周波で4kV〜50kVの直流電圧を印加してプラズマを発生させる。この炭素と水素が混ざったプラズマ雰囲気中で、陰極に取り付けた被覆する物体の表面が、炭素と水素を含む主に共有結合からなる硬質被膜で被覆される。
スパッタ法及びプラズマ法による硬質被膜の厚みは、一般的に0.1〜1μmといわれている。被覆条件を変えることによってこの硬質被膜は、さらに厚く被覆することができる。本発明に用いる硬質被膜の厚みは、実用的には0.1〜3μm程度である。厚さ0.1〜3μm程度の被膜は、ボルト、ナット、ワッシャー、及びネジ付テーパーピンなどの加工精度から見れば、一般交差の範囲にある。したがって、締結用ボルト、ナット、ワッシャー及びネジ付テーパーピンを製作した後に、それらの締結摺動面に、本発明に用いる硬質被膜を被覆しても、締結用ボルト、ナット、ワッシャー及びネジ付テーパーピンは、そのまま使用できる程度の寸法範囲にあるので、締結摺動面はスパッタ法及びプラズマ法により、ダイヤモンド状炭素(DLC)、セグメント化したDLC、炭窒化硼素(BCN)、及びセグメント化したBCNを被覆することができる。
従来の被膜被覆方法は、被覆対象物の表面にほぼ均一且つ全面的に被膜を被覆する方法であった。しかしながら、本発明の被膜被覆方法は、被覆対象物の表面に微細に分割(セグメント化)して硬質被膜(ダイヤモンド状またはグラファイト状または非晶質の炭素、及び炭窒化硼素)を被覆する方法である。
図1及び図2に示す締結治具部材1であるネジ付テーパーピン1−1のテーパー部1−3またはネジ部1−2を、図4に示すスパッタPVD装置10を用いてダイヤモンド状の炭素被膜2で被覆した。このスパッタPVD装置10は、ターゲット11、アルゴンガスボンベ13、高周波電源14、パルス電源21、油回転真空ポンプ16、油拡散真空ポンプ17、シャッタ18、加熱ヒータ用電源15などを備える。スパッタPVD装置10は、ターゲット11に対向して被覆物ホルダー上に対象被覆物12が設置される。この被覆物は、加熱ヒータ19によって加熱することができる。スパッタPVD法による被覆条件を以下に示す。
被覆対象物12のバイアス電圧 −4〜−50kV
アルゴンガス圧力 1×10−2Pa
不純物の圧力 10−4Pa以下
被覆対象物の温度 100〜300℃
被覆時間 15分
被膜の厚み 1μm
図1及び図2に示す締結治具部材1であるネジ付テーパーピン1−1のテーパー部1−3またはネジ部1−2を、図5に示すプラズマCVD装置30を用いてダイヤモンド状の炭素被膜2で被覆した。このプラズマCVD装置30は、プラズマ雰囲気32の基となるガス吹き出し板31、対象被覆物33、原料ガス容器34、パルス電源35、油回転真空ポンプ36、油拡散真空ポンプ37、シャッタ38、被覆対象物の加熱ヒータ39、加熱ヒータ用電源40などを備える。プラズマCVD装置30は、プラズマ雰囲気32の基となるガス吹き出し板31に対向して被覆物ホルダー上に対象被覆物33が設置される。この対象被覆物は、加熱ヒータ39によって加熱することができる。プラズマCVD法による被覆条件を以下に示す。
プラズマ発生電圧 −8〜−15kV
プラズマ形成ガスの圧力 3〜7Pa
(C2H2アセチレン、CH4メタン)
不純物の圧力 10−4Pa以下
被覆対象物の温度 100〜300℃
被覆時間 30分
被膜の厚み 1μm
本発明の硬質被膜のDLCはダイヤモンド状物質であるので電気的絶縁性を有する。電気的絶縁を目的とした例としては、車両または電車などのブレーキ用エア−タンクの検査穴及び点検穴などを封止するブッシュがある。図6の(A)にこのブッシュを示す。このブッシュ41は、オネジ42とメネジ44を備え、且つブッシュの中央部を貫通してエアータンクに通じる貫通孔46を備える。これらのオネジ及びメネジは用途によって適宜その大きさを決定される。このブッシュのオネジ42とメネジ44との全面に本発明のDLC43、45が全面的に被覆されることによって、エアータンク側と、ブレーキ側とが電気的に絶縁されることにより、双方に電気的雑音を伝達することが遮断でき且つエアータンクの検査点検の際に取り外し及びその後の取付を確実且つ容易にすることができる。
本発明の締結治具部材は、締結力により接触するネジ山の接触面側のみに被覆硬質被膜を被覆することができる。図8に締結治具部材のネジ山拡大部分を示す。本実施例においては、締結治具部材であるボルト及びナットを締結する際に、硬質被膜を締結力により接触するネジ山の接触面側のみに、硬質被膜2のDLCを被覆した。このように硬質被膜を被覆することによって、本発明の締結治具部材は、締付する際にはボルト3またはナット4のネジ山の弾性変形により硬質被膜を被覆したネジ山面だけで接触し且つ滑らかに摺動して締結される。さらに、締付終了後の性的な締結時には、ボルト3またはナット4のネジ山の弾性変形によって硬質被膜2のDLCを被覆したネジ山面と被覆していないネジ山面の双方が接触して、締結治具部材が緩むことを防止できる。
本発明の締結治具部材及びその製造方法に適用される硬質被膜は、ダイヤモンド状炭素(DLC)、炭窒化硼素(BCN)、及びセグメント化したDLCとBCNのいずれかの被膜である。締結治具部材の締結部が、例えばボルトとナットとワッシャーとである場合、ボルトとナットとワッシャーとの全ての全面を上記のいずれかの硬質被膜で被覆することも可能であり、また、ボルトとナットとワッシャーとの締結摺動面の両面またはいずれか一方の締結摺動面のみを上記のいずれかの硬質被膜で被覆することも可能である。すなわち、ボルトとナットとワッシャーとを組み合わせた締結治具部材を提供する製品とする場合、ナットとボルトとの双方のネジ部を被覆して、さらにナットとワッシャーとの双方の締結摺動面を被覆してもよく、またはナットとボルトとのいずれか一方のネジ部を被覆して、さらにナットとワッシャーとのいずれか一方の締結摺動面を被覆してもよい。上述するように本発明にしたがうボルトとナットとワッシャーとを組み合わせ締結治具部材に硬質被膜を被覆することによって、従来のボルトとナットとワッシャーとを組み合わせた締結物体製品に比較して、締結物体の締結摺動面を硬くて滑らかな面とすることができ、それによってこの締結摺動面の摩擦抵抗を減少することができる。したがって、本発明の硬質被膜を締結摺動面に被覆した締結治具部材は、強い締め付け力と、安定した締め付けトルクとで管理を行うことができる。さらに、セグメント形状のDLC膜を被覆すると、ボルトの回転時は上述のように摩擦抵抗が低く、ボルトの締付トルクが大きくなると、図2の被覆摺動面1−4が弾性変形して相手材と接触することにより固定され、高く安定な締付トルクが得られる。
本発明の締結治具部材は、締結後に締結物体が緩むことがない確実性が求められる場所に使用することができる。例えば、宇宙空間、深海、高所、離島、またはメンテナンス用の足場などを設置しにくい場所または締結後にメンテナンスのしにくい場所に、本発明の締結治具部材は使用される。また、締結物体が停止することなく連続使用するために、ほとんど定期点検をすることができず且つ締結物体が緩むことが許せない場所に、本発明の締結治具部材は使用される。
本発明の硬質被膜の主要成分は炭素である。炭素は、生体を構成する元素であり、且つ通常の食事においても摂取するものであり、生体との適合性も優れていて且つ生体への毒性も認められていない。このことから、本発明の締結治具部材は、医療環境においても使用することができる。例えば、歯科医療の現場における人工歯根(インプラント)では、顎の骨に金属製のボルト状または板状の構造物(インプラント)を埋め込んで顎の骨と適切に固定した後に、この人工歯根(インプラント)の上に人工義歯を装着するという技法がある。ここで使用される人工歯根(インプラント)には、テーパー穴とメネジが設けられる。また、人工義歯は、人工歯根へ取り付けるためにオネジと、このオネジの上部にはテーパー部が設けられている。この人工義歯のオネジとテーパ−部が、人工歯根(インプラント)のメネジとテーパー穴にねじ込まれて、人工義歯は顎の骨に固定される。しかし、この人工歯根のテーパー穴と人工義歯テーパー部との締結において、互いの締結摺動面の摩擦による締結力の実質的な低下が問題となる。最近の人工歯根は生体との適合性を考慮して、人工歯根は金属チタンを母材にし、ハイドロキシアパタイトなどの骨との適合を考慮した物質が表面に塗付されたものが主流である。人工歯根の母材となる金属チタンの摩擦係数は0.4〜0.5であり、したがって、人工義歯側のオネジ部とそれに続くテーパー部とに本発明にしたがうDLC被膜またはセグメント化したDLC被膜を被覆することによって、金属チタン母材から成る人工歯根とDLC被膜を備えた人工義歯との互いの締結摺動面の摩擦抵抗を減少することがでる。それによって、人工歯根とDLC被膜を備えた人工義歯との間の締結力を実質的に増加することができ、人工歯根と人工義歯との締結部の隙間代を減少することが可能になる。人工歯根と人工義歯との締結部の隙間代を減少することができる。この隙間での口内常在菌の存在及びその繁殖を低減でき、歯間異常の低減を可能にする。さらに、人工歯根と人工義歯とにテーパーが備わることによって、狭い口内でのボルトとナットのみによる困難な締結作業を簡素化できる。
車両、発動機、建設機械、工作機械、精密機械などにおいても、締結部にネジ付テーパーピンを用いて穴の中心を位置出しして、強く締結する構造が多々存在する。これらの装置においても、上述する人工歯根と人工義歯との締結と同様に、ネジ付テーパーピンの軸部(ネジ部を含んでもよい)、ナットの座面、ワッシャーとナットの締結摺動面などに、本発明に使用する硬質被膜を被覆することができる。これらの装置の締結部品を回転しながら締結していくときに、これらの締結摺動面の摩擦抵抗が少なければ、回転抵抗が減少して締結力を増加することができる。この場合においては、ネジ付テーパーピンに被覆された硬質被膜の硬さにより、テーパー穴の周面が擦られて、テーパー穴を適切な周面に成形することもでき、テーパー部とテーパー穴とのアタリ面が増加してより堅固な締結をすることができる。
1−1…ネジ付テーパーピン
1−2…ネジ部
1−3…テーパー部
1−4…被覆面、被覆摺動面
1−5…溝
2…硬質被膜、セグメント硬質被膜
3…ボルト
4…ナット
5…ネジ山の拡大部分
10…スパッタPVD装置
11…ターゲット
12…対象被覆物
13…アルゴンガスボンベ
14…高周波電源
15…加熱ヒータ用電源
16…油回転真空ポンプ
17…油拡散真空ポンプ
18…シャッタ
19…加熱ヒータ
20…冷却水
21…パルス電源
30…プラズマCVD装置
31…ガス吹き出し板
32…プラズマ雰囲気32
33…対象被覆物
34…原料ガス容器
35…パルス電源
36…油回転真空ポンプ
37…油拡散真空ポンプ
38…シャッタ
39…加熱ヒータ
40…加熱ヒータ用電源
41…ブッシュ
42…オネジ
43…DLC被膜
44…メネジ
45…DLC被膜
46…貫通孔
47…ソケット
48…メネジ
49…DLC被膜
50…接続部品
51…オネジ部品
52…袋ナット
53…オネジ
54…メネジ
56…接続管
57…カシメ部
Claims (14)
- 締結治具部材に備わる互いの締結部の少なくとも1方の締結摺動面の全面または一部分を、被膜の厚みが0.01〜3μmの範囲にある炭素を含む硬質被膜で被覆することを特徴とする締結治具部材。
- 炭素を含む前記硬質被膜で複数に区分化して被覆することを特徴とする請求項1に記載の締結治具部材。
- 炭素を含む前記硬質被膜が、炭素と水素とを含む硬質被膜であることを特徴とする請求項1及び2に記載の締結治具部材。
- 炭素と水素とを含む前記硬質被膜が、炭素を40以上〜99atm%未満、及び水素を1以上〜40%未満含むことを特徴とする請求項1または2に記載の締結治具部材。
- 前記硬質被膜が、非晶質被膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の締結治具部材。
- 前記硬質被膜が、ダイヤモンド状及びグラファイト状の少なくとも一つの被膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の締結治具部材。
- 前記硬質被膜が、前記炭素の一部を硼素及び窒素で置換した炭窒化硼素の被膜であり、
前記炭素の一部と置換される硼素と窒素の合計置換量が、10〜80%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の締結治具部材。 - 前記締結治具部材が、ボルト、ナット、ワッシャー及びネジ付テーパーピンのいずれか一つであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の締結治具部材。
- 前記締結治具部材であるボルト及びナットを締結する際に、前記硬質被膜を締結力により接触するネジ山の接触面側のみに被覆することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の締結治具部材。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載の締結治具部材を装着したことを特徴とする締結物体。
- 固体炭素ターゲットを用いて物理的気相成長法により、締結治具部材の締結摺動面の全面または一部分に炭素を含む硬質被膜で被覆する工程、及び
前記硬質被膜を複数に区分化して分割する工程
を含むことを特徴とする締結治具部材の製造方法。 - 炭素と水素とのガスを用いて化学的気相成長法により、締結治具部材の締結摺動面の全面または一部分に炭素と水素とを含む硬質被膜で被覆する工程、及び
前記硬質被膜を複数に区分化して分割する工程
を含むことを特徴とする締結治具部材の製造方法。 - 締結治具部材の締結摺動面を被覆する前記工程が、ダイヤモンド状及びグラファイト状の少なくとも一つの硬質被膜を形成する工程であることを特徴とする請求項11または12に記載の製造方法。
- 締結治具部材の締結摺動面を被覆する前記工程に続き、前記硬質被膜を形成する炭素の一部を、硼素及び窒素で置換した炭窒化硼素の硬質被膜を被覆する工程を含み、且つ
前記炭素の一部と置換される硼素と窒素の合計置換量が、10〜80%であることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
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