JP2005272991A - 耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板 - Google Patents
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Abstract
【課題】 主として自動車用部品を用途とし、伸び特性と穴拡げ性などのプレス成形性に優れ、窒化処理によって耐磨耗性に優れた十分な厚みの表層窒化層を実現することができる窒化処理用鋼板を提供する。
【解決手段】 質量%で、C:0.001〜0.005%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.1〜1.0%、Cr:0.5〜1.5%、P:0.05%以下、S:0.03%以下、N:0.005%以下、を含有し、更に、sol.Al:0.001%以上、及び、Ti:0.001%以上を含有するとともに、sol.Al+Ti+V+Nbが0.06%以下であり、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。
【選択図】 図1
【解決手段】 質量%で、C:0.001〜0.005%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.1〜1.0%、Cr:0.5〜1.5%、P:0.05%以下、S:0.03%以下、N:0.005%以下、を含有し、更に、sol.Al:0.001%以上、及び、Ti:0.001%以上を含有するとともに、sol.Al+Ti+V+Nbが0.06%以下であり、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。
【選択図】 図1
Description
本発明は、自動車部品、自転車、その他回転を伴う各種部品、又は、衝撃負荷の加わり易い各種機械部品などの製造に採用される窒化処理技術の分野に属し、特に、自動車用のトランスミッション等の部品に代表されるように、軟窒化処理によりその特性が付与される部品への適用を念頭において、熱処理前のプレス成形性と、窒化後の優れた耐磨耗性について考慮した窒化処理用鋼板に関するものである。
鋼の表面硬化法の一手法として知られる窒化法は、一般に成形加工して得られた鋼製部品を、NH3等の窒素含有ガスの雰囲気中でAc1以下の温度域に加熱し、表層部に活性窒素を拡散させ、安定な窒化物を形成することにより、表層部を硬化させる手法である。
しかし、その表層部の硬化機構はよく判っていないのが現状であり、例えば、窒素原子が鋼中のAl、Cr、Ti、V、Moなどの間で窒化物を形成し、これらが転位(すべり)との何らかの干渉効果を持つことによるという説や、鋼中における窒化物自身の歪みに起因するという説など、幾つかの硬化機構説がある。
このような窒化法による鋼表層部の硬化処理方法として、例えば、特許文献1及び特許文献2などでは、C:0.1〜0.5%の鋼中にAlやCrの窒化物形成元素を添加した鋼を所定温度条件で窒化処理した軟窒化低合金鋼が提案されているが、いずれも、鋼中のC含有量が高く、窒化処理時に窒化物を形成する元素を多く添加するために、鋼材の加工性に劣り、用途が、主に、切削加工による工具、構造用部品に限られるという欠点があった。
これに対し、プレス加工成形が可能な自動車や機械部品用鋼として、深絞り性及び窒化処理に優れた軟窒化用の極低C−IF(Interstitial Free)鋼板の製造方法が、特許文献3などで提案されている。しかし、このような従来の窒化用鋼板では、窒化処理した後の表面性状が不均一となり、十分な強度を得ることが困難であるなどの課題があった。
これに対し、特許文献4〜6などでは、添加元素としてのCuに注目し、鋼板製造時に、鋼中にCuを固溶させることにより十分な加工性を確保でき、かつ、窒化処理時には、鋼中のCu析出により、強度向上とともに、表面硬化が可能となる窒化処理用熱延鋼板が提案されている。
これらの方法のうち、特許文献6で提案する方法では、自動車用部品を用途とし、窒化処理前のプレス成形時に要求される鋼板の伸びフランジ性や穴広げ性を確保し、かつ、鋼板の窒化処理後に、表面から板厚方向に硬度を低下させた表面耐磨耗性にすぐれた鋼板が提案されている。
しかしながら、より耐磨耗性を向上させるためには、最表面からより内部までを硬化させることが理想である。十分な厚みの硬化層を形成するためには、窒素を鋼表面から板厚方向へ充分に拡散させる必要があり、窒化処理条件として、処理時間を増加させるか、加熱温度を上昇させなければならない。
しかしながら、窒化処理時の処理時間増加及び加熱温度上昇は、窒化処理鋼の製造における生産性向上及び製造コスト低減の観点からは好ましくない。
このような従来技術の現状から、窒化処理前のプレス成形性に優れ、より低温又は短時間での窒化処理条件においても、窒素の鋼中への拡散量を確保でき、表面から深さ方向に十分に厚い硬化層を有し、表面耐磨耗性に優れた窒化処理用鋼板の開発が望まれていた。
上記従来技術においては、生産性及びコストを低下させることなく、窒化処理によって十分な厚みの硬化層を製造することは容易ではないという課題があった。
本発明は、伸びフランジ性や穴広げ性に優れるという特徴を有し、かつ、通常の窒化処理によって、従来よりも厚い表層硬化層を形成して、優れた耐磨耗性を有する窒化処理用鋼材を提供しようとするものである。
本発明者は、上記課題を解決するため、ビッカース硬度(Hv)で515以上を有する硬化層が、最表面から0.25mm以上の深さ領域に存在する鋼板を開発することを目的として、鋼板組成と硬化層との相関について鋭意検討した。
なお、ビッカース硬度測定における荷重は100gを採用した。また、窒化処理後の鋼板最表層には、十μm程度の鉄窒化層が一般に形成されるが、これを含んだ鋼板表面を最表面と定義し、表面硬化層の深さは、この最表面からの深さで特定した。
本発明者は、窒化処理により、このような優れた特性を実現するため、具体的には、鋼板組成と、窒化処理によって生じる窒化物やその生成領域を詳細に検討し、その結果、鋼板表層部に、十分な深さ(厚み)の硬化層を形成するためには、Cr添加を主体とし、この時、特定の元素を極力低減することが極めて有効であるとの知見を得た。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨とするところは、以下の通りである。
(1) 質量%で、
C :0.001〜0.005%、
Si:0.01〜0.5%、
Mn:0.1〜1.0%、
Cr:0.5〜1.5%、
P :0.05%以下、
S :0.03%以下、
N :0.005%以下
を含有し、更に、
sol.Al:0.001%以上、及び、Ti:0.001%以上
を含有するとともに、
sol.Al+Ti+V+Nbが0.06%以下であり、
残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。
C :0.001〜0.005%、
Si:0.01〜0.5%、
Mn:0.1〜1.0%、
Cr:0.5〜1.5%、
P :0.05%以下、
S :0.03%以下、
N :0.005%以下
を含有し、更に、
sol.Al:0.001%以上、及び、Ti:0.001%以上
を含有するとともに、
sol.Al+Ti+V+Nbが0.06%以下であり、
残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。
(2) 前記sol.Al及びTiが、質量%で、
sol.Al:0.03%以下、及び、
Ti:0.03%以下
であることを特徴とする前記(1)に記載の耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。
sol.Al:0.03%以下、及び、
Ti:0.03%以下
であることを特徴とする前記(1)に記載の耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。
(3) 前記V及びNbが、質量%で、
V:0.03%以下、及び、
Nb:0.03%以下
であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。
V:0.03%以下、及び、
Nb:0.03%以下
であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。
(4) 更に、質量%で、
Cu:0.8〜2.0%、及び、
Ni:0.5×(Cu)〜1.5%
を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。
Cu:0.8〜2.0%、及び、
Ni:0.5×(Cu)〜1.5%
を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。
本発明によれば、従来に比べ、生産性及びコストを低下させることなく、窒化熱処理前の加工性に優れ、かつ、窒化熱処理後の表面特性として優れた十分な厚みの硬化層を有し、耐磨耗性に優れた部品の製造に最適な鋼板を提供することができる。
本発明者は、従来から知られているAl、Cr、Ti、V、Moなどの窒化物の微細分散技術を複合的に活用するだけでは、近年の厳しい部品ニーズに対して技術的限界があることに直面し、プレス加工性に優れた鋼板が、窒化処理により、表層から十分な領域まで硬化し、部品として要求される耐磨耗性を確保し得る諸条件を鋭意検討した。
特に、窒化処理によって、鋼中に、どのような窒化物がどのように分布するかを詳細に検討し、同一の窒化処理条件において、表層からより深く窒化させるに適した鋼材成分を検討した。
また、上記検討に加え、本発明者は、窒化による硬化原理、更に、窒素Nの拡散原理等について研究し、その結果、窒化用鋼としてCr添加鋼が非常に優れており、また、この時、CrよりもNとの親和力が強い元素を極力低減することが有効であるとの知見を得た。
更に、鋼材部品自体の強度を制御する目的で、炭窒化物や、他の析出物挙動を検討した結果、適量のCu添加によって、表面硬度の制御とは独立に、鋼板内部の強度設計も可能であるとの知見を得た。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、鋼板の成分組成は、以下の理由で限定した。なお、%は質量%を意味する。
Cは、0.001〜0.005%とする。炭素の過剰添加は、鋼板の延性、即ち、加工性の低下をもたらすため、上限を0.005%とした。一方、炭素が0.001%未満の鋼の製造は、脱炭等の製造コストが高く、非現実的となるので、下限を0.001%とした。
Siは、固溶強化機構により母材強度を向上させるので、0.01%以上を添加する。一方、過剰な添加による加工性の低下を防ぐために、上限を0.5%とした。
Mnは、鋼中のSと反応し、MnSを形成することにより、鋼を製造する時の高温での割れや、中心偏析を抑制する役割を果たすので、0.1%以上の添加が必要である。また、固溶強化能力も高いので、目的鋼種に合わせて適宜添加するが、1.0%を超えると、延性の低下の程度が大きくなるので、1.0%を上限とする。
Pは、優れた固溶強化元素の一つであるが、本発明では積極的に活用すべき元素ではない。そのため、延性の劣化を考慮して0.05%を上限とする。
Sも、含有量が多いほど、加工性を低下させ、耐食性等の観点から悪影響を及ぼすことが判ってきているので、不必要な元素であるが、溶解の段階で混入してしまうので、0.03%を上限とした。
Nは、炭素と同様に、鋼板の延性、即ち、加工性の低下をもたらす。特に、本発明においては、不要な固溶Nと析出物を形成し低減させる役割を有するTi含有量を少なくしているため、Nは少ない方が好ましい。それ故、Nの上限を0.005%とする。より好ましくは、0.003%以下である。
Crは、本発明において所要の特性を確保する上で、中心的な役割を担う元素である。即ち、本発明においては、窒化処理によって高密度に形成された微細な窒化析出物が転位の移動を抑制し、硬度を上昇させる。従って、Crの下限を0.5%とした。好ましくは0.8%以上である。
しかし、Cr添加量が多すぎると、窒化処理によって表層部の硬度は高くなるものの、Nの内部への拡散が抑制され、内部における硬化が遅れ、最表面から十分に厚い硬化層を形成することができなくなるので、上限を1.5%とした。好ましくは1.2%以下である。
Alは、脱酸剤として有効な元素であり、脱酸剤として機能させるためには適量添加する必要がある。十分にその機能を確保するために、sol.Al(固溶Al)で、0.001%以上添加する。好ましくは0.003%以上である。
Tiは、鋼中の不要なCやN、Sと析出物を形成し、固溶C及び固溶Nを低減して、延性の向上に寄与するために必要な元素である。従って、Tiは0.001%以上添加する。好ましくは0.003%以上である。
Al、Ti、V、Nbは、Nとの親和力がCrよりも強いため、この4元素が固溶状態で存在すると、窒化処理中に、Crに優先してNと結合して、Nの内部への拡散を抑制する。それ故、窒化処理で、鋼板表層部に適正な硬化層を形成するためには、これら4元素の鋼中における固溶総量が重要な因子となる。
Al以外は、現状の分析技術で固溶量を正確に定義できないので、Ti、V及びNbについては全含有量を援用し、総量「sol.Al+Ti+V+Nb」を0.06%以下に規制する。好ましくは、0.04%以下とする。
更に、これらの4元素の上限を、単独で規定することがより好ましい。
Alは、脱酸材として有効な元素であるが、その上限を、sol.Alで、好ましくは0.03%、より好ましくは0.01%とする。
Tiは、不要なCやN、Sと析出物を形成し、固溶C及び固溶Nを低減して、延性向上に寄与する有効な元素であるが、その上限を、好ましくは0.03%、より好ましくは、0.01%とする。
Vは、Nとの親和力が非常に強い元素であり、0.03%を超えて存在すると、表層の硬化には寄与するが、Nの内部拡散を遅らせて、より厚い硬化層の形成を妨げる。そして、Crを窒化物形成元素として使用し、窒化処理によって、より厚い硬化層を形成する本発明において、Vは、むしろ、悪影響を及ぼす元素である。それ故、Vの含有量は、好ましくは0.03%以下、より好ましくは0.01%以下とする。
Nbは、Tiと同様に、鋼中の不要なCやN、Sと析出物を形成し、固溶C及び固溶Nを低減して、延性向上に寄与する元素である。しかし、Nbは、Tiを上記析出物形成用元素として使用する本発明においては、特に、必要ない元素である。
そして、Crを窒化物形成元素として使用し、窒化処理によって、より厚い硬化層を形成する本発明においては、むしろ、悪影響を及ぼす元素である。それ故、Nbの含有量は、好ましくは0.03%以下、より好ましくは0.01%以下とする。
本発明の鋼板は、上記成分を基本成分とし、かつ、その含有量が上記範囲に規定されることにより、窒化処理前においては、延性や穴広げ性などのプレス成形性に優れ、かつ、窒化処理後には、表面から十分な厚み領域に、後述する微細窒化物が高密度に析出して、硬化するものである。
また、本発明の鋼板は、上記課題とする鋼特性を阻害しない範囲で、他の特性を向上するなどの目的で、必要に応じ、以下の成分を含有することができる。
Cuは、窒化熱処理時に、鋼中にCu粒子を析出し、強度を向上させる作用をなす元素として知られている(特許文献6、参照)。しかし、表層部の微細窒化物形成領域においては、析出Cu粒子は、硬化に殆んど影響を及ぼさないことが判明した。
即ち、上記領域では、熱処理中に析出したCu粒子を核生成サイトとして、窒化物が優先的に成長し、この窒化物によって、硬化に寄与する析出物の総個数又は密度がほぼ決まるので、窒化物と常にペアを形成しているCu粒子は、上記領域において硬化に殆んど寄与しない。
従って、本発明では、Cuを、表層部の硬度向上のために添加する必要はなく、Cr等の微細窒化物が形成されない表層より内部(中心部側)において、Cu析出による強度向上効果を得ようとする場合、必要に応じて、Cuを所要量添加する。
この鋼内部(中心部側)において、Cu析出による強度向上効果を充分得るためには、Cuの下限を0.8%とするのが好ましい。一方、過度の添加は、その効果が飽和するし、また、コスト面も考慮し、Cuの上限を2.0%、好ましくは1.5%とする。
Niは、鋼表層での硬化層形成にとって、本来必要のない元素であるが、Cuを添加する場合には、熱間圧延時に生じるCu起因の脆化割れを回避するため、Cu添加量に応じて添加することが好ましい。
この作用効果を充分得るためには、質量比で、Cu添加量の0.5倍以上添加する必要がある。従って、Ni添加量の下限を0.5×[Cu]とするのが好ましい。なお、[Cu]はCu添加量(質量%)を示す。一方、Niが1.5%を超えると、延性の低下を招くので、Niの上限を1.5%とする。
以上のような理由で、本発明においては、更に、鋼板強度を向上するために、Cuを0.8〜2.0%の範囲で添加するとともに、その際、Cu起因の熱延脆化割れを回避するために、Niを0.5×(Cu)〜1.5%の範囲で添加する。
また、上記で規定する以外のその他の元素については、本発明の目的を達成する上では不可避的不純物として取り扱うが、好ましくは、以下のように含有量を規制する。
例えば、原料としてスクラップを部分使用した時に混入するSnなどのような微量混入元素は、特に、本発明鋼板の材料特性を左右せず、本発明の効果を左右しない。しかし、Mo、Zr等のように、Nとの親和力が大きい元素は、窒化処理によって容易に窒化物を形成し、極表層部を硬化させるなど、鋼材特性に悪影響を及ぼすので、これらの元素の混入は、各々を、0.01%以下に規制することが好ましい。
ところで、本発明のポイントは、窒化処理後の鋼板の表層硬化特性を設計するにあたり、一定の窒化処理によって、表層からより深い領域まで有効に硬化させるためには、板状Cr窒化析出物を析出させることが好ましいということである。この点が、本発明者が見出した知見である。
窒化処理用の鋼材として、特定範囲量のCrを添加する必要があるが、Nの鋼材内部への拡散を検討した結果、CrよりもNとの親和力の大きな元素、即ち、Al、Ti、V、Nbの存在は、Nの内部拡散を遅らせ、硬化層を最表層近傍に留める効果があることが判明した。即ち、これらの4元素は、Crよりも優先的にNと結合し析出を開始するので、これらの4元素が枯渇するまで、Nの内部拡散が抑制されるのである。
鋼中に、Crに加えて、固溶したAl、Ti、V、Nbが規定量以上存在する場合は、表層部は著しく硬化されるものの、表層から十分な厚みの硬化層を形成するためには、高温でかつ長時間の窒化処理が必要となる。このような高温・長時間の窒化処理は、生産性を下げ、又は、コスト高を招くので、Crに加えて、固溶したAl、Ti、V、Nbが規定量以上存在する鋼は、窒化処理用鋼として好ましくない。
本発明の鋼板の窒化処理方法は、表層部に、目的とするCr窒化物を形成することができれば、どのような方法でもよいが、品質や製造コストの観点からは、CO+NH3を利用したガス窒化処理方法が有効であり,その方法を、一例として説明する。
まず、所定の成分組成の連続鋳造スラブを、1050〜1250℃に加熱した後、粗圧延し、次いで、仕上圧延する。組織制御の観点から、仕上圧延は、Ar3変態点以上のオーステナイト域で実施することが望ましい。
仕上圧延後の巻き取りは、700℃以下で実施する。但し、鋼板がCuを0.8%以上含有している時、巻き取り後、ゆっくり冷却すると、鋼板内部でCuの析出が起こり、この析出は、析出硬化作用を奏して、その後の加工性を劣化せしめるので、Cu0.8%以上の場合のみ、400℃以下の温度域まで、100/℃以上の速度で急速冷却することが望ましい。
なお、Cuが0.8%未満の鋼板、又は、Cuを含有しない成分系の鋼板の場合は、上記急速冷却の必要はない。
本発明の鋼板は、穴広げ性に優れた部品として使われることを主目的として構成されているので、熱延鋼板の状態で提供されることが多いが、場合によっては、熱間圧延に引き続いて冷間圧延を施し、更に、再結晶熱処理を施して、冷延鋼板として提供しても問題はない。
この場合、本発明の鋼板は、極低炭素鋼での材質設計となっているので、焼鈍温度は、再結晶温度以上の温度域で実施する必要があるが、変態点を越えると、延性やr値などに代表される鋼板材質が劣化し、プレス加工性が悪くなるので、焼鈍温度は、900℃を上限とする。
更に、再結晶熱処理工程に続く過時効条件も、引張強度で490MPa以下として鋼板の加工性を確保するためには、350℃以下としなくてはならない。
本発明の鋼板は、プレス成形によって部品形状に加工した後、窒化処理により、優れた耐磨耗性を発現する。この窒化処理条件の一例として、550〜620℃の温度範囲での3〜5時間程度のガス窒化処理(雰囲気:CO2+H2+N2+NH3)を挙げることができる。この窒化処理によって、表面から内部にNを拡散させ、板状Cr窒化物を高密度に析出、分布させる。
一般に、高温、長時間で窒化処理するほど、Nの内部拡散量は増加し、硬化層は厚くなるが、一方で、表層部において、窒化物のサイズの増大や個数密度の減少が生じ、硬度が低下する場合がある。鋼板が含有する元素濃度と、窒化時に侵入するN濃度との兼ね合いで、鋼板の硬化特性が決定されることになる。しかし、コストの観点から、一般には、低温、短時間での窒化処理が好まれる。
本発明の鋼板は、より低温、短時間の窒化処理によって、表層から十分な深さまで優れた硬度特性が得られるものである。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
本発明の実施例を、比較例と共に説明する。
本発明の実施例を、比較例と共に説明する。
表1に示す成分組成を有する材料を種々溶解した。表中の値は化学分析値であり、単位は質量%である。上記成分組成のインゴットを溶製後、1200℃で1時間の加熱を施し、熱延条件として、仕上げ温度を930℃とし、Cu添加の鋼種G、U及びV以外の鋼種は、580℃で巻き取り、厚さ2mmの熱延鋼板を作製した。Cu添加の鋼種G、U及びVは、380℃まで水冷し、そこから放冷した。
次に、それぞれの熱延板より、JIS Z 2201に記載の5号試験片を加工して、JIS Z 2241に記載の試験方法に則って、引張試験を行なった。そこで得られた降伏応力と引張強度を、表2に示す。また、加工性の指標として、全伸びの特性と、穴広げ性試験の結果を、表2に示す。
穴広げ性試験は、直径10mmの打ち抜き穴を、バリを外側にして60°円錐ポンチにて押し広げ、クラックが板厚を貫通した時点での穴径(d)と初期穴径(d0)との比(d/d0)を求めた。
本発明の鋼板では、いずれも、d/d0で2.5を超える特性が得られ、また、35%を超える全伸びも得られていて、本発明の鋼板は、優れた加工性を有していることが解かる。
成分組成が本発明で規定する成分組成を外れる比較鋼のうち、鋼種I、J、K、L、Q、U及びVは、全伸びや穴広げ値が不十分で、加工性という観点で、特性が満足されていない。しかし、鋼種A、B、H、N、P、R、S及びTの比較鋼は、加工性を満足している。
次に、本発明の鋼板と、加工性が良好な比較鋼に対し、窒化処理を施し、窒化処理鋼板としての特性を調べた。
窒化処理は、CO2+H2+N2+NH3のガス雰囲気中で、580℃×3時間、実施した。また、一部の鋼については、他の条件でも窒化処理を行った。ここでは、コストの観点から、より低温、短時間の窒化処理とした。
窒化処理済みの鋼板の特性評価は、表面から目的の深さまで、機械研磨にて取り除き、深さ方向の100g荷重のビッカース硬度試験を実施して行なった。表3に、この評価結果として、最表面から0.05mm、0.25mm及び0.8mmにおける硬度を、軟窒化処理条件と併せて示した。
表に示すように、全ての鋼種において、表面に近いほど硬度は大きく、内部に行くほど硬度が低下している。ここでの評価としては、最表面から0.25mmにおいて十分な硬度(515Hv)を示すものを、本発明が目的とする十分な厚みの硬化層を有する鋼とした。
鋼種A及びBは、表層においても、十分な硬度に到達していない。これは、Cr含有量が不足しているためと考えられる。実際に、Cr微細窒化物の生成量が少ないことが、TEMやアトムプローブによって確かめられた。一方で、鋼種Hは、表層部の硬度は高いが、0.25mm深さの硬度は不足し目標値に達していない。これは、Cr含有量が多すぎ、表層においてCr析出反応が進み、内部拡散が遅れたためと考えられる。
この鋼種においては、窒化処理時間を長くする、又は、窒化処理温度を高温とする(例えば、600℃×4hr)ことにより、0.25mm深さの硬度を515Hvの目標値に到達せしめることは可能であるが、窒化処理のコストが上昇するので、本発明の範囲外のものとなる。
次に、図1に、580℃×3時間の窒化処理後の0.25mm深さにおける硬度のCr添加量依存性を示す。ここでは、鋼種A、B、C、D、E、F、G及びHの結果に加え、加工性が不十分であった鋼種Iの結果も示した。目標値515Hvを満たしている鋼種のCr含有量の範囲は0.5〜1.5%であることが解かる。特に、Cr含有量0.8〜1.2%の範囲において、上記硬度特性が非常に優れている。
鋼種Nは、sol.Alを0.11%、鋼種Pは、Tiを0.26%、鋼種Rは、Vを0.23%、鋼種Tは、Nbを0.08%含有する。これらの鋼種は、Crを、本発明で規定するCr量の範囲内で、0.8〜1.2%含有するが、0.25mm深さの硬度は、515Hvに満たなかった。その分、0.05mm深さの硬度が高くなっているが、これは、表層部に、優先的にCr以外の窒素物が生成し、Nの内部拡散が遅れたものと考えられる。
鋼種Tは、sol.Al+Ti+V+Nbを0.1%程度含有するものである。この鋼種も、0.05mm深さの表層部における硬度が非常に高いが、0.25mm深さの硬度は低く、十分な厚みの硬化層が形成されていない。これも、表層部に、これらの元素の窒化物がCr窒化物に優先し生成したため、Nの内部拡散が遅れたためと考えられる。
ここで、図2に、580℃×3時間の窒化処理を施した後の0.25mm深さにおける硬度の“sol.Al+Ti+V+Nb”含有量依存性を示す。この図には、Crが0.5〜1.5%の範囲内にある鋼種の結果を示した。“sol.Al+Ti+V+Nb”含有量が多いほど、0.25mm深さの硬度が低くなっている。そして、“sol.Al+Ti+V+Nb”含有量が0.06%以下の範囲で、上記硬度が、目標値515Hvを上回っている。
鋼種Mは、sol.Alを0.033%、鋼種Oは、Tiを0.032%含有する本発明の範囲内のものである。ともに、0.25mm深さの硬度は目標値に達しているが、同じCr含有量の他の鋼種に比較し、0.25mm深さの硬度は、若干低い値を示している。これは、Al又はTiが、Crに優先しNと結合したためと考えられる。sol.Alのより好ましい上限は0.03%、Tiのより好ましい上限は0.03%である。
一方で、上記窒化処理条件下で、0.8mm深さの硬度は、ほとんど上昇しておらず、ほぼ鋼本来の硬度を示している。しかし、Cu添加の鋼種Gにおいては、0.05mm及び0.25mm深さの硬度は変わらないものの、0.8mm深さの硬度は、Cu無添加の鋼種に対し、2倍程度の硬度に増大している。
これは、Cr窒化物が析出している領域では、Cu析出物は窒化物と対になるため硬度に寄与せず、Cr窒化物が析出していない内部において、窒化処理中にCuが単独で析出して、硬度が増加したである。
このように、Cuを0.8%以上添加することによって、鋼板内部の硬度を、Cu析出物によって増加させることが可能であり、鋼板全体の強度を上げることができる。
前述したように、本発明によれば、従来に比べ、生産性及びコストを低下させることなく、窒化熱処理前の加工性に優れ、かつ、窒化熱処理後の表面特性として優れた十分な厚みの硬化層を有し、耐磨耗性に優れた部品の製造に最適な鋼板を提供することができる。
本発明により、自動車用又は機械構造用の部品などを製造する際に、プレス加工性を良好に維持しつつ、耐磨耗性に優れた良好な品質の製品を高生産性かつ低コストで製造することができるので、本発明は、産業上に与える貢献は非常に多大なものであり、その利用可能性が大きいものである。
Claims (4)
- 質量%で、
C :0.001〜0.005%、
Si:0.01〜0.5%、
Mn:0.1〜1.0%、
Cr:0.5〜1.5%、
P :0.05%以下、
S :0.03%以下、
N :0.005%以下
を含有し、更に、
sol.Al:0.001%以上、及び、Ti:0.001%以上
を含有するとともに、
sol.Al+Ti+V+Nbが0.06%以下であり、
残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。 - 前記sol.Al及びTiが、質量%で、
sol.Al:0.03%以下、及び、
Ti:0.03%以下
であることを特徴とする請求項1に記載の耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。 - 前記V及びNbが、質量%で、
V:0.03%以下、及び、
Nb:0.03%以下
であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。 - 更に、質量%で、
Cu:0.8〜2.0%、及び、
Ni:0.5×(Cu)〜1.5%
を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに1項に記載の耐磨耗性及びプレス加工性に優れた窒化処理用鋼板。
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