JP2005266685A - 光学素子およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 多層膜からなる反射防止膜の生産効率、密着性および耐久性を向上できる製造方法を提供する。
【解決手段】 蒸着により5層の反射防止膜16を成膜する際に、第1の層を成膜する蒸着材料(SiO2)11aの蒸着を停止するシャッター23を閉じる前に、第2の層を成膜する蒸着材料(ZrO2)12aの蒸着を開始させるシャッター24を開けて、各層を連続で成膜する。各層を成膜する工程の間のインターバルを省略できると共に、層間の界面が明確でなくなるので、密着性および耐久性の優れた多層の反射防止膜16を備えたレンズを製造できる。
【選択図】 図1
【解決手段】 蒸着により5層の反射防止膜16を成膜する際に、第1の層を成膜する蒸着材料(SiO2)11aの蒸着を停止するシャッター23を閉じる前に、第2の層を成膜する蒸着材料(ZrO2)12aの蒸着を開始させるシャッター24を開けて、各層を連続で成膜する。各層を成膜する工程の間のインターバルを省略できると共に、層間の界面が明確でなくなるので、密着性および耐久性の優れた多層の反射防止膜16を備えたレンズを製造できる。
【選択図】 図1
Description
本発明は、蒸着により基材上に多層膜を形成する光学素子の製造に関するものである。
眼鏡レンズや液晶のカバーレンズ等のプラスチックレンズには、光の反射を抑制し、光の透過性を高めるために、その表面に反射防止膜が形成される。この反射防止膜は、屈折率の異なる金属酸化物を交互に蒸着により成膜した多層膜で構成することができる。低屈折率の材料としては、SiO2があり、中屈折率の材料としては、Y2O3、Al2O3あるいはそれらの混合物、高屈折率の材料としては、ZrO2、TiO2、Ta2O5あるいはそれらの混合物がある。
高薄一弘、「生産現場における光学薄膜の設計・作製・評価技術」、株式会社技術情報協会、p.69 2001年1月22日第1刷発行
多層膜蒸着材料(組成)が異なる多層膜を蒸着により成膜する場合には、非特許文献1に記載されているように、それぞれの層を構成する組成の蒸着源を用意し、チェンバー内の圧力や基材温度の条件が満足されると、ある層を形成する蒸着源のシャッターを開いて、蒸着物資を基材に堆積させ成膜し、蒸着膜が所望の厚さになると、蒸着源のシャッターを閉じるという工程を繰り返す。したがって、第1の層を成膜するときは、チェンバー内の圧力や基材温度の条件が満足されると、第1の層を形成する第1の蒸着源のシャッターを開いて、第1の層の蒸着物資を基材に堆積させる。その後、第1の蒸着膜が所望の厚さになると、第1の蒸着源のシャッターを閉じる。そして、再び、チェンバー内の圧力や基材温度の条件が満足されると、第2の層を形成する第2の蒸着源のシャッターを開いて、第2の層の蒸着物資を基材に堆積させ成膜する。その後、第2の蒸着膜が所望の厚さになると、第2の蒸着源のシャッターを閉じる。これに第1の層と同じ組成の層を重ねる場合は、再度、チェンバー内の圧力や基材温度の条件が満足されると、第1の層を形成する第1の蒸着源のシャッターを開いて、第1の層の蒸着物資を基材に堆積させ、その後、第1の蒸着膜が所望の厚さになると、第1の蒸着源のシャッターを閉じる。そして、所望の多層膜が形成されるまで、これらの工程を繰り返す。
したがって、光学部品の反射防止膜を多層膜で形成する製造方法では、多層膜を製造する過程にかなりの時間を費やしている。中空状のシリカゾルと有機系の材料を用いて、ディッピングなどの方法により反射防止膜を製造する方法も開発されてはいるが、多層膜を用いた反射防止膜は、反射防止膜を構成する組成を比較的自由に選択できるので、レンズ基材の屈折率に合致した反射防止膜を形成したり、密着性の高い反射防止膜を形成できるなどの点で優れており、製造時間を短縮することによるメリットは大きい。
そこで、本発明においては、多層膜を蒸着により製造する際に、その製造に要する時間を大幅に短縮することができる多層膜の製造方法を提供することを目的としている。また、光学素子用の基材上に反射防止膜などを多層膜で製造する時間を短縮することができる光学素子の製造方法を提供することを目的としている。
本発明において提供する光学素子の製造方法は、第1の組成物を含む第1の層を蒸着により成膜する第1の工程と、第2の組成物を含む第2の層を蒸着により、第1の層の上に成膜する第2の工程とを有し、第1の工程及び第2の工程を少なくとも一回以上繰り返し積層することによって基材上に多層膜を形成する光学素子の製造方法であって、第1の工程から第2の工程に移行する際、または/および、第2の工程から第1の工程に移行する際に、第1の組成物および第2の組成物を含む中間層を蒸着により成膜する遷移工程とを備えている。
従来、多層膜を蒸着により成膜する場合は、上述したように、各々の層を順次成膜する間に必ず数10秒から数分のインターバルがある。例えば、電子ビーム蒸着の場合には、層と層との成膜工程の間に、チェンバー内の前の組成の蒸気(残留ガス)を一掃し、さらに、電子ビームなどにより次の組成の蒸着材料を溶かすための時間が必要となる。スパッタリング蒸着の場合には、残留ガスを除去し、再度放電するための時間が必要になる。プラズマ蒸着の場合には、残留ガスを除去し、次の層の組成の蒸気を供給し、さらに、再度放電するための時間が必要になる。
異なる層を成膜する間のインターバルは、層間の材料が混合しないようにするためにごく普通に行われているプロセスであるが、反射防止膜、特に、眼鏡レンズの反射防止膜程度の光学的性能を求める場合には、層間の材料の混合はある程度許容できることに本願の発明者らは注目した。そして、層間の材料の混合がある程度許容できるのであれば、組成物が混合した雰囲気で蒸着プロセスを継続しながら組成物を変えて多層膜を製造することが可能となり、残留ガスを除去するようなインターバルのプロセスを省略し、成膜時間を短縮することが可能となる。
本発明の遷移工程では、残留ガスを除去したり、放電を発停する時間が必要なく、チェンバー中の蒸着ガスが無理なく入れ替わる程度の時間があれば良く、数秒あるいはそれ以下で第1の工程から第2の工程、あるいは第2の工程から第1の工程に遷移できる。したがって、その程度の時間で蒸着される膜厚による性能の低下は殆ど見られない。また、この間、放電のための電圧を下げたり、電子ビームのパワーを小さくすることにより、遷移工程中に成膜される中間層の厚みを制御することも可能である。
この多層膜の製造方法を用いて光学素子を製造すると、製造時間を短縮できるだけではなく、様々な予想し難い効果を得ることができる。まず、放電を伴う蒸着方法、例えば、スパッタリング蒸着やプラズマ蒸着においては、従来は、各層を成膜する毎に放電を発停していたのに対し、本発明の製造方法においては、多層膜を製造するプロセスの最初から最後まで放電を継続することが可能となる。多層膜を幾つかのグループに分けて製造することも可能であり、その場合は、グループ毎に放電を継続することが可能となる。いずれの場合も、放電を開始する際に要する電力を削減でき、また、放電開始時の不安定な状態で成膜する機会がなくなるか、または少なくなるので、多層膜の品質はかえって向上する。
また本発明では、第1の組成物がSiO2であり、前記第2の組成物がTiO2、Nb2O3、Ta2O5、ZrO2から選ばれる一種類または複数種類である光学素子の製造方法を提供する。本発明によれば、光の反射を十分に抑制し、光の透過性を高める光学素子を得ることができる。
また、本発明の製造方法により、基材上に蒸着により形成された多層膜を有する光学素子であって、第1の組成物を含む第1の層と、第2の組成物を含む第2の層と、第1の組成物および第2の組成物を含む中間層の各層を少なくとも1層以上備えている光学素子が製造される。従来の製造方法であると、層間の界面は明確になるが、その一方で、インターバルの間、界面が蒸着物の無い環境に晒されるために蒸着物以外の物質が界面に付着する可能性がある。また、界面が明確であるということは、蒸着により成膜される層は組成が異なるために構造的な差異が界面で発生し、密着性が低下する要因になると考えられる。
これに対し、本願の発明により製造された光学素子においては、各層の成膜の終了部分と、次の成膜の開始部分とをオーバーラップさせ、各層を連続で成膜することにより、各層の間に各々の蒸着組成物が混合した中間層が形成されるので、明確な界面が生成されない。したがって、界面が組成物以外により汚染されることにより光学的性能が低下することを防止できる。また、界面の汚染や膜応力の差に起因した剥がれを防止でき、密着性の高い光学素子を提供できる。さらに、膜を連続して形成することにより、多層膜全体の緻密性が増加することに起因するのか、または、界面が不明瞭になることに起因するのかは明確ではないが、本願の製造方法により膜の成長過程が変化していると考えられ、その結果が、多層膜の水分の透過が低減し、耐環境性が向上するという効果として表れることも見出された。
したがって、本発明の光学素子の製造方法により、生産性が高く、光学的性質および密着性などの機械的性質が共に優れた光学素子を提供できる。このため、本発明の光学素子の製造方法は、高耐久性が要求される眼鏡レンズの製造に好適であり、本発明の光学素子の製造方法により眼鏡レンズを製造できる。
また、本発明の光学素子およびその製造方法は、プラスチックまたはガラス製の眼鏡レンズに限らず、カメラなどのその他の用途のレンズ、プリズム、光ファイバー、フィルタ、CRT、液晶等のディスプレィのカバーガラスなどの多種多様な光学部品に適用できる。
図1に、本発明の蒸着装置の概要を示してある。この蒸着装置1は、内部を1×10-3mPa(1×10-5mbar)程度あるいはそれ以下の蒸着を開始するのに適した圧力に維持できる真空室10と、その真空室10の下方に配置された複数の蒸着源11および12と、蒸着源11および12から蒸着材料を発散させる電子銃(電子ビーム)21および22と、発散した蒸着材料を基材(ワーク)15に到達させるか到達させないかを制御するためのシャッター23と24と、真空室10の上方に配置されたドーム状の基材支持台13と、この基材支持台13にセットされた複数の基材(ワーク)15を加熱する複数の基材加熱用ヒータ14とを備えている。
(実施例)
実施例においては、基材15として、プラスチックレンズ(チオウレタン系樹脂レンズ)の表面にディップ法によりハードコートを形成したものを用い、蒸着源11に第1の組成物11aとしてSiO2をセットし、蒸着源12に第2の組成物12aとしてZrO2をセットし、SiO2の第1の層と、ZrO2の第2の層とが基材15の側から交互に積層された5層構造の反射防止膜16を蒸着により成膜した。レンズ基材15に近い方の側から、SiO2、ZrO2、SiO2、ZrO2およびSiO2の各層のターゲットの膜厚はおよそ28/37/19/64/95nmとした。
実施例においては、基材15として、プラスチックレンズ(チオウレタン系樹脂レンズ)の表面にディップ法によりハードコートを形成したものを用い、蒸着源11に第1の組成物11aとしてSiO2をセットし、蒸着源12に第2の組成物12aとしてZrO2をセットし、SiO2の第1の層と、ZrO2の第2の層とが基材15の側から交互に積層された5層構造の反射防止膜16を蒸着により成膜した。レンズ基材15に近い方の側から、SiO2、ZrO2、SiO2、ZrO2およびSiO2の各層のターゲットの膜厚はおよそ28/37/19/64/95nmとした。
図2に、実施例において、反射防止膜16を成膜するプロセスをタイミングチャートで示してある。また、図3に、このプロセスにより成膜された反射防止膜16の構成を拡大して示してある。
まず、時刻t1までに真空室10の圧力を1×10-3mPaあるいはそれ以下に整え、電子ビーム21に90mAの電流を加え、時刻t1に、蒸着源11の側のシャッター23を開き、基材15の上にSiO2の第1の層31の成膜を開始する(第1の工程)。そして、所望の厚み(28nm)の第1の層31が成膜される前の時刻t2の前までに電子ビーム22に290mAの電流を加え、時刻t2に、蒸着源12のシャッター24を開き、ZrO2の第2の層32の成膜を開始する(遷移工程)。この遷移工程においては、蒸着源11のシャッター23と、蒸着源12のシャッター24とが共に開いた状態にあり、基材15上に、第1の組成であるSiO2と第2の組成であるZrO2とが混在した中間層35が形成される。所望の厚みの第1の層31が成膜される時刻t3になると、蒸着源11のシャッター23が閉じられ、その後電子ビーム21の電流を停止する。これにより、ZrO2単独の第2の層32の成膜が開始される(第2の工程)。2つの組成物が混在した条件で成膜する遷移工程の時間は、約1秒であり、その間に成膜される中間層35の厚みは10nmあるいはそれ以下と想定される。
同様に、所望の厚み(37nm)の第2の層32が成膜される前の時刻t4の前に、蒸着源11の電子ビーム21に80mAの電流を加え、時刻t4にシャッター23を開き、SiO2の第1の層31の成膜を開始する(遷移工程)。これにより、SiO2とZrO2とを含む中間層が形成される。所望の厚みの第2の層32が成膜される時刻t5になると、蒸着源12のシャッター24を閉じた後電子ビーム22の電流を停止する。これにより、SiO2単独の第1の層31の成膜が開始される(第1の工程)。所望の厚み(19nm)の第1の層31が成膜される前の時刻t6の前に、蒸着源12の電子ビーム22に290mAの電流を加え、時刻t6にシャッター24を開き、ZrO2の第2の層32の成膜を開始する(遷移工程)。これにより、SiO2とZrO2とを含む中間層が形成される。所望の厚みの第1の層31が成膜される時刻t7になると、蒸着源11のシャッター23を閉じた後電子ビーム21の電流を停止する。これにより、ZrO2単独の第2の層32の成膜が開始される(第2の工程)。
さらに、所望の厚み(64nm)の第2の層32が成膜される前の時刻t8の前に、蒸着源11の電子ビーム21に120mAの電流を加え、時刻t8にシャッター23を開きSiO2の第1の層31の成膜を開始する(遷移工程)。これにより、SiO2とZrO2とを含む中間層が形成される。所望の厚みの第2の層32が成膜される時刻t9になると、蒸着源12のシャッター24を閉じた後電子ビーム22の電流を停止する。これにより、SiO2単独の第1の層31の成膜が開始される(第1の工程)。所望の厚み(95nm)の第1の層31が成膜される時刻t10になると、蒸着源11のシャッター21を閉じた後電子ビーム21の電流を停止する。このようにして、厚みが10nm程度あるいはそれ以下の薄い中間層35を挟んで、SiO2の第1の層31と、ZrO2第2の層32と交互に積層された5層(中間層を含まず)構成の反射防止膜16が形成される。
蒸着装置1には、10個の基材15を同時にセットすることが可能であり、上記の製造方法により試料(サンプル)No.1〜10を作製した。
図4に、これらのサンプルNo.1〜10に対して、製造直後と、加速試験後の密着性試験と外観検査を行い、評価した結果を示してある。加速試験は、サンプルの耐久性を評価するために、恒温恒湿槽内に、60℃、100%の環境に、7日間放置した。密着性試験は、ワーク(サンプル)の反射防止膜に1mm間隔の(基材に達する)キズを、縦横それぞれ11本(1mm角のマスが100個できるように)カッターナイフで形成し、その上にセロハンテープ(商標登録)を貼り付け急激に剥がすことによって、剥離するマスの数で密着性の評価を行った。図4には、たとえば、100マス中10マスが剥がれたとすると90/100と表記している。外観検査は、レンズ表面のゆがみ(ひずみ)を目視で評価した。レンズの反射光がひずんで波打ったように観測された場合には、ひずみが有り、良好でないと評価した。
(比較例)
比較例として、実施例と同じ圧力と、電流値で、同じ膜厚をターゲットとして、同じ基材の上に、SiO2の第1の層と、ZrO2第2の層とが交互に積層された5層構成の反射防止膜が形成されたワークを製造した。ただし、蒸着源11を電子ビーム21で加熱して蒸着により第1の層の膜厚が確保できた後に、電子ビーム21を止め、さらに残留ガスを排出した後に、再び、真空室10の圧力を1×10-3mPaあるいはそれ以下に整えてから、蒸着源12を電子ビーム22で加熱して蒸着により第2の層を形成するというプロセスを採用した。したがって、蒸着源11のシャッター23と、蒸着源12のシャッター24とが共に開いた状態である遷移工程は設けておらず、第1の層を成膜するプロセスと、第2の層を成膜するプロセスとの間には、30秒から2分程度のインターバルを費やしている。
比較例として、実施例と同じ圧力と、電流値で、同じ膜厚をターゲットとして、同じ基材の上に、SiO2の第1の層と、ZrO2第2の層とが交互に積層された5層構成の反射防止膜が形成されたワークを製造した。ただし、蒸着源11を電子ビーム21で加熱して蒸着により第1の層の膜厚が確保できた後に、電子ビーム21を止め、さらに残留ガスを排出した後に、再び、真空室10の圧力を1×10-3mPaあるいはそれ以下に整えてから、蒸着源12を電子ビーム22で加熱して蒸着により第2の層を形成するというプロセスを採用した。したがって、蒸着源11のシャッター23と、蒸着源12のシャッター24とが共に開いた状態である遷移工程は設けておらず、第1の層を成膜するプロセスと、第2の層を成膜するプロセスとの間には、30秒から2分程度のインターバルを費やしている。
蒸着装置1には、10個の基材15を同時にセットすることが可能なので、比較例においても、上記の製造方法によりサンプル(試料)No.11〜20を作製し、実施例と同様に、製造直後と、加速試験後の密着性試験と外観検査を行い、評価した結果を図4に示してある。
(比較結果)
上述した密着性と外観検査と共に、実施例のサンプルNo.1〜10と、比較例のサンプルNo.11〜20の製造直後の透過率を比較したところ、すべてのサンプルが同等の透過性能(反射特性)を示すことがわかった。したがって、実施例の製造方法により製造されたレンズのサンプルNo.1〜10と、比較例の製造方法により製造されたレンズのサンプルNo.11〜20の光学的性質は、ほぼ変わりないと考えられる。
上述した密着性と外観検査と共に、実施例のサンプルNo.1〜10と、比較例のサンプルNo.11〜20の製造直後の透過率を比較したところ、すべてのサンプルが同等の透過性能(反射特性)を示すことがわかった。したがって、実施例の製造方法により製造されたレンズのサンプルNo.1〜10と、比較例の製造方法により製造されたレンズのサンプルNo.11〜20の光学的性質は、ほぼ変わりないと考えられる。
5層の多層膜により反射防止膜を製造する時間は、比較例の製造方法においては30秒から数分程度のインターバルが少なくとも4回必要になり、実施例の製造方法においてはインターバルが不要となる。したがって、実施例の製造方法を採用することにより、数分から10分程度、反射防止膜の製造に必要なトータルの時間を短縮することができる。
製造された反射防止膜の耐久性については、実施例により製造されたサンプルNo.1〜10の密着性は、製造直後と加速試験後において、全く剥離が発生しておらず全て良好であった。これに対し、比較例の製造方法により製造されたサンプルNo.11〜20においては、製造直後の密着性試験はほぼ良好であると言えるものの、加速試験後においては、ほぼ全てのサンプルで数個から10数個の剥がれが発生しており、密着性が低下していると考えられる。
外観検査においては、実施例により製造されたサンプルNo.1〜10は、製造直後と加速試験後において、ひずみは観察されず、多層膜の状態は安定していると言える。これに対し、比較例の製造方法により製造されたサンプルNo.11〜20においては、製造直後の多層膜の状態は良好なのに対し、加速試験後においては、7つのサンプルにおいてひずみが観測されており、多層膜の内部や界面において、水分の透過が原因と思われる膨れなどの変形が発生していると考えられる。
以上の結果より、多層の反射防止膜を製造する際に、各層をオーバーラップさせる本発明にかかる実施例の製造方法により、光学的には従来品と同等のレンズを短時間で製造することができ、さらに、密着性および耐環境性においては、従来品を大きく上回る性能を備えたレンズを提供できることが分かる。密着性および耐環境性が向上する要因としては、オーバーラップさせながら、連続して複数の膜を成膜することで、多層膜の各々の界面が不明瞭になることから、界面の汚染や膜応力の差等に起因した剥がれが発生し難くなること、多層膜全体の緻密性が増加し、また界面が不明瞭になることで水分の透過が低減することなどが考えられる。
なお、上記の実施例においては、遷移工程において、第1または第2の工程と同じ電流で電子ビーム21および22を駆動しているが、電子ビームをオーバーラップさせる際に蒸着条件を変えるようにしても良い。オーバーラップする遷移工程においては、SiO2を蒸発させる電子ビーム21の電流を第1の工程(例えば120mA)よりも低い値(例えば、80mA)に落とし、同様に、ZrO2を蒸発させる電子ビーム22の電流を、第2の工程(例えば290mA)よりも低い値(例えば200mA)に落とすことにより、中間層の厚みを制御することができる。
さらに、本発明の製造方法は、上記の電子ビームによる蒸着に限らず、スパッタリングやプラズマを用いた蒸着による成膜にも適用できる。スパッタリングは、ターゲットといわれる板状材料(焼結体)と基材の間にArガスの放電を発生させArの衝突によってターゲットから構成材料をはじき出して基材上に薄膜を形成する方法を採用できる。その際、酸化が不足する場合はO2ガスを導入するリアクティブスパッタ方式が知られているが、本発明の製造方法であれば、ターゲットの切り替えをオーバーラップして行うだけではなく、真空室内の雰囲気もオーバーラップさせることができるので、各層の成膜条件に合った環境になるのを待ったり、ガスの状態が安定するのを待つことなく、多層膜を連続して成膜することができる。
原料を含むガスを真空容器内に導入しプラズマを発生させ、プラズマのエネルギーによってガスが分解して薄膜を形成するプラズマ蒸着に本発明の製造方法を提供する場合は、ガスを交換するための手間が不要となり、ガスを流入させながら、さらに、放電を止めずに持続しながら多層膜を連続成膜することが可能となる。遷移工程においては、放電電圧を低くコントロールしたり、原料ガスの流量を低くコントロールするなどの方法により、中間層の厚みをコントロールすることが可能である。
反射防止膜を構成する多層膜の例は、上記に限定されるものではない。SiO2の薄膜と、TiO2、Nb2O3、Ta2O5、ZrO2の1つまたは複数が積層された構造などを採用することができる。また、光学素子の基材としては、上記のプラスチック製の基材に限らずガラス製の基材であっても良い。さらに、本例では、眼鏡用のプラスチックレンズに反射防止膜を成膜する例を説明しているが、これに限らず、本発明は、カメラレンズなどの他の用途のレンズにも適用でき、液晶のカバーガラスなどの他の光学素子にも適用可能である。
本発明は、プラスチックレンズ光の反射を抑制し、光の透過性を高めるために、眼鏡レンズや液晶のカバーレンズ等に利用できるが、これに限らない。
1 蒸着装置、10 真空室、11、12 蒸着源、11a 第1の組成物、12a 第2の組成物、15 基材、16 反射防止膜、21、22 電子銃、23、24 シャッター。
Claims (10)
- 第1の組成物を含む第1の層を蒸着により成膜する第1の工程と、
第2の組成物を含む第2の層を蒸着により、前記第1の層の上に成膜する第2の工程とを有し、前記第1の工程及び前記第2の工程を少なくとも一回以上繰り返し積層することによって基材上に多層膜を形成する光学素子の製造方法であって、
前記第1の工程から前記第2の工程に移行する際、または/および、前記第2の工程から前記第1の工程に移行する際に、前記第1の組成物および前記第2の組成物を含む中間層を蒸着により成膜する遷移工程とを備えている光学素子の製造方法。 - 請求項1において、前記第1の組成物がSiO2であり、前記第2の組成物がTiO2、Nb2O3、Ta2O5、ZrO2から選ばれる一種類または複数種類である光学素子の製造方法。
- 請求項1または2において、前記多層膜は反射防止膜である光学素子の製造方法。
- 請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記第1の工程、前記遷移工程および前記第2の工程では、プラズマ蒸着により成膜し、前記第1の工程、前記遷移工程、および前記第2の工程にわたり放電を連続する、光学素子の製造方法。
- 請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記光学素子は眼鏡レンズである光学素子の製造方法。
- 請求項5に記載の光学素子の製造方法により眼鏡レンズを製造する工程を有する眼鏡の製造方法。
- 基材上に蒸着により形成された多層膜を有する光学素子であって、
第1の組成物を含む第1の層と、
第2の組成物を含む第2の層と、
前記第1の組成物および前記第2の組成物を含む中間層の各層をそれぞれ少なくとも一層以上備えている光学素子。 - 請求項7において、前記第1の組成物がSiO2であり、前記第2の組成物がTiO2、Nb2O3、Ta2O5、ZrO2から選ばれる一種類または複数種類である光学素子。
- 請求項7または8において、前記多層膜は反射防止膜である光学素子。
- 請求項7ないし9のいずれかにおいて、前記光学素子は眼鏡レンズである光学素子。
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