JP2005263633A - 新規神経栄養因子 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 栄養因子様作用を有するポリペプチドを見出し、ニューデシンと命名した。該ポリペプチドを含有する神経栄養剤及び該プリペプチドをコードする核酸は、アルツハイマーやパーキンソン氏病等の神経変性疾患の治療、診断に有用である。
【選択図】 なし
Description
最初に発見された神経栄養因子は神経成長因子(NGF)である。その後引き続き、脳神経由来成長因子(BDNF)、ニュートロフィン-3(NT-3)、ニュートロフィン-4/5(NT-4/5)などがその活性を基に同定されてきた。これらの因子は、構造的及び機能的に関連しており栄養因子ファミリーを形成していることが知られている(非特許文献1)。また、これらの因子はアルツハイマー病やパーキンソン氏病などの神経変性疾患と関与する細胞とも関連していることからこれらの治療に有用である(非特許文献2)。最近ではこれらの因子と鬱病との関連も報告されている(非特許文献3)。その他神経のアポトーシスの抑制因子として、またシナプス可塑性(synaptic plasticity)の長期増強(LIP)因子としても重要であるとされる。なおインスリン様成長因子(IGFs)、繊維成長因子(FGFs)、上皮成長因子(EGFs)などの分泌タンパクも神経栄養因子様活性を有していることが知られている(非特許文献4)。
Adv.Exp.Med.Biol 2002年、第513巻、p. 303-334 Neuropathol.Appl.Neurobiol 2003年、第3巻、p. 211-230 J.Neurosci 2003年、第23巻、p349-357 Prog.Neurobiol 2003年、第69巻、p. 341-374
更に該遺伝子を基に作成した組換えタンパク質を用いて研究を進め、当該遺伝子がコードする分泌ペプチドは神経栄養因子様活性のみならず神経突起伸展活性を有していることを確認した。
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
[1]
(1)配列表の配列番号1の28位のThrから172位のPheまでのアミノ酸配列;あるいは
(2)配列表の配列番号1の28位のThrから172位のPheまでのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
を少なくとも有するポリペプチドを含む神経栄養剤。
[2]
(1)配列表の配列番号2の25位のValから171位のPheまでのアミノ酸配列;あるいは
(2)配列表の配列番号2の25位のValから171位のPheまでのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
を少なくとも有するポリペプチドを含む神経栄養剤。
[3]
(1)配列表の配列番号1の1位のMetから172位のPheまでのアミノ酸配列;あるいは
(2)配列表の配列番号1の1位のMetから172位のPheまでのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
を少なくとも有するポリペプチドを含む、[1]記載の神経栄養剤。
[4]
(1)配列表の配列番号2の1位のMetから171位のPheまでのアミノ酸配列;あるいは
(2)配列表の配列番号2の1位のMetから171位のPheまでのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
を少なくとも有するポリペプチドを含む、[2]記載の神経栄養剤。
[5]
神経変性疾患の治療剤として使用する、[1]から[4]のいずれかに記載の神経栄養剤。
[6]
軸索伸展作用を有する、[1]から[4]のいずれかに記載の神経栄養剤。
[7]
[1]から[4]のいずれかに記載のポリペプチドを特異的に認識する抗体を含む、神経変性疾患の診断薬。
[8]
[1]から[4]のいずれかに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを特異的に認識するプライマーを含む、神経変性疾患の診断薬。
[9]
(1)配列表の配列番号3に示す塩基配列からなるDNA;あるいは
(2)配列表の配列番号3に示す塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
からなるポリヌクレオチドを特異的に認識するプライマーを含む、[8]記載の神経変性疾患の診断薬。
[10]
配列表の配列番号3に示す塩基配列からなるDNAの連続した5から60塩基と同一配列を有するオリゴヌクレオチドを含む、[8]または[9]記載の神経変性疾患の診断薬。
[11]
[1]から[4]のいずれかに記載のポリペプチドを用いた、神経栄養因子様作用を有する化合物のスクリーニング方法。
また別の態様として「配列表の配列番号1の1位のMetから172位のPheまでのアミノ酸配列」または「配列表の配列番号2の1位のMetから171位のPheまでのアミノ酸配列」を少なくとも有するポリペプチドを含むものである。
また「配列表の配列番号1の28位のThrから172位のPheまでのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチド」、「配列表の配列番号1の1位のMetから172位のPheまでのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチド」、「配列表の配列番号2の25位のValから171位のPheまでのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」、「配列表の配列番号2の1位のMetから171位のPheまでのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」のような変異型ポリペプチドも包含される。これらのポリペプチドも、神経栄養因子様作用を有する。
1若しくは数個のアミノ酸とは、部位特異的変異誘発法などにより欠失、置換または付加することができる程度の数のアミノ酸であり、20個以下、好ましくは10個以下のアミノ酸残基を意味している。さらに、欠失、置換または付加によっても神経栄養因子様活性もしくは神経突起伸展活性を有するポリペプチドが好ましく、上記のアミノ酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリペプチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリペプチド、さらに好ましくは、95%以上の相同性を有するポリペプチドを挙げることができる。
また、本発明には、神経栄養因子としての上記のポリペプチドの使用も包含される。
また、本神経栄養因子の発現が脳で減少していることや、本神経栄養因子をコードする遺伝子の多型を調べることにより、アルツハイマー病、パーキンソン氏病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患の検出に利用することができる。すなわち、本神経栄養因子や本神経栄養因子をコードするポリヌクレオチドは、神経変性疾患の検出や予後の予測に利用できる。
本発明の「神経変性疾患の診断薬」は、本発明の神経栄養因子を特異的に認識する抗体、または本発明の神経栄養因子をコードするポリヌクレオチド若しくは該ポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを特異的に認識するプライマーを含むことを特徴とする。本発明の診断薬を用いることにより、簡単に神経変性疾患を検出することができる。例えば、抗体を用いた免疫学的検出方法によって、神経変性疾患の診断を行なうことができる。
また、本発明のポリヌクレオチドには、「配列表の配列番号3または4に示す塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA」からなるポリヌクレオチドも包含される。
胚由来のマウス組織、脳由来のヒト組織よりtotal RNAを抽出した後、cDNAを調製する。cDNA調製法としては例えば、DNAマイクロアレイと最新PCR法(2003年)(秀潤社)等に記載された方法あるいはZAP-cDNA Synthesis Kits(ストラテジーン社製)等の市販のキットを用いる方法が挙げられる。このようにして調製したcDNAをテンプレートとしてプライマーを用いたPCR(polymerase chain reaction)反応により増幅することができる。このときのプライマーの設計や反応条件などは分子細胞生物学基礎実験法(南江堂1994年)等の記載に常法に従う。プライマーはデータベースなどの配列情報を基にして全長cDNAを含むポリヌクレオチドが得られるように設計することが好ましい。
得られた全長cDNAを適当な発現ベクターのプロモーターの制御下に組み込み、タンパク質を発現するための発現ベクターとする。適切な発現ベクターとしては、例えば、細菌についてはpRSET、pET、pGEMEX、pKK233-2など、酵母についてはpYES2、昆虫細胞についてはpVL1392、pVL1393、pFastBac1、pBacPAK9、動物細胞についてはpEF-BOS、pSRa、pDR2などが挙げられる。この発現ベクターを適当な宿主細胞に導入して、形質転換体を作製する。宿主細胞としては、細菌、酵母、昆虫細胞、または動物細胞が挙げられる。大腸菌、酵母では、強力なプロモーターの下流にタンパク質をコードする遺伝子を挿入した発現ベクターで形質転換しこれら形質転換体を培養することによりタンパク質を産生できる。昆虫細胞、動物細胞では、タンパク質の遺伝子を強力なプロモーターの下流に挿入し、効果的な選択マーカーと共に細胞に導入し薬剤に対する耐性により細胞を選択し、高発現の細胞株を樹立し得る。また、タンパク質前駆体の遺伝子をバキュロウイルスなどの感染用ウイルスに組み込み、この組換えウイルスを細胞に感染させることにより発現し得る。これら形質転換体を培養することにより、タンパク質が産生され得る。
得られたタンパク質の精製は、当業者に周知の方法、例えば、アフィニティーカラム、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、疎水クルマトグラフィーなどを組み合わせて行なうことができる( J. Biol. Chem., 271: 21514-21521, 1996)。その他に本発明のポリペプチドは公知の方法に準じてin vitro転写・翻訳系を用いても生産することができる(Journal of Biomolecular NMR,6,129-134,1995)。また本発明のポリペプチドは、そのアミノ酸配列を基にFmoc法やtBoc法などの化学合成法や市販されているペプチド合成機器により化学合成することができる。
アミノ酸配列は、任意のアミノ酸配列を欠失させ、所望のアミノ酸、もしくはアミノ酸配列を導入することによって置換される。アミノ酸配列の置換処理には、プロテインエンジニアリングとして知られる方法が広く利用できるが、例えば、Site-diredted deletion(部位指定削除)法(Nucl. Acids Res., 11, 1645, 1983)、Site-specific mutagenesis(部位特異的変異)法(Zoller, M. J. et al., Methods in Enzymol., 100, 468, 1983、Kunkel. T.A. et al., Methods in Enzymol., 154, 367-382, 1987)、PCR突然変異生成法、制限酵素処理と合成遺伝子の利用による方法等がある。
部位特異的変異法であれば、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Edition(2001)(Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の部位特異的変異誘発法やPCR法などの方法を用い、本発明のDNA配列に変異を導入する。
これら方法により変異が導入されたDNA配列は、適当なベクターおよび宿主系を用いて、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Edition(2001)(Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の方法により、遺伝子工学的に発現させればよい。例えば、Mutan TM -SuperExpress Km、Mutan TM -K(宝酒造社製)、Quik Change Site- Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製)といったキットが使用できる。
本発明のポリペプチドに対する抗体は、以下の方法により作製される。
(1)ポリクローナル抗体の作製
本発明のポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて通常のペプチド合成機で合成した合成ペプチドや、本神経栄養因子を発現するベクターで形質転換した細菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞、などにより産生されたタンパク質を通常のタンパク化学的方法で精製し、これらを免疫原とする。この免疫原を用いて、Antibodies:A Laboratory Manual,(1989)(Cold Spring Harbor Laboratory Press)などに記載の方法に従って、適切な方法で動物を免疫することにより、抗原となるタンパク質を特異的に認識するポリクローナル抗体を容易に作製し、精製することができる。マウス、ラット、ハムスター、ウサギなどの動物を免疫し、その血清由来のポリクローナル抗体を作製すればよい。
前述の免疫原で免疫したマウスやハムスターの脾臓またはリンパ節からリンパ球を取りだし、ミエローマ細胞と融合させてKohlerとMilsteinの方法[Nature, 256, 495-497(1975)]またはその改良法であるUedaらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 79:4386-4390, (1982)]に従ってハイブリドーマを作製した後、該ハイブリドーマから単クローン抗体を産生させ得る。例えば以下の工程により本レセプターのモノクルーナル抗体を得ることができる:
(a) タンパク質によるマウスの免疫、
(b) 免疫マウスの脾臓の除去および脾臓細胞の分離、
(c) 分離された脾臓細胞とマウスミエローマ細胞との融合促進剤(例えばポリエチレングリコール)の存在下での上記のKohlerらに記載の方法による融合、
(d) 未融合ミエローマ細胞が成長しない選択培地で得られたハイブリドーマ細胞の培養、
(e) 酵素結合免疫吸着検定 (ELISA)、ウェスタンブロットなどの方法による所望の抗体を生産するハイブリドーマ細胞の選択および限定希釈法等によるクローニング、
(f) モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ細胞を培養し、モノクルーナル抗体を収穫する。
本発明のポリペプチドを含む神経栄養剤は、例えば治療薬として該ポリペプチド単独で投与することも可能ではあるが、通常は薬理学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内等の非経口投与をあげることができる。投与形態としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤などが挙げられる。
経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等があげられる。例えば、乳剤およびシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖などの糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造できる。カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトールなどの賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造できる。
調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填される。このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトやラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなどの哺乳動物に対して投与することができる。該物質またはその塩の1回の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、例えば体重60kgの患者においては、一般に一日につき約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgであり、非経口的に投与、例えば、注射剤の場合は、例えば体重60kgの患者においては、一般に一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与する。他の動物の場合も、体重kg当たりに換算した量を投与することができる。投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重などにより異なる。
本発明者はマウス胎児に発現する新規の分泌タンパクをコードするcDNAを同定した。具体的にはまずPSORT(Prediction of Protein Sorting Signals and Localization Sites in Amino acid Sequences)( HYPERLINK http://www.psort.ims.u.ac-jp) http://www.psort.ims.u.ac-jp)と呼ばれる細胞内のタンパク質局在部位を予測する公開プログラムを用いて、データベース(GENBANK)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/index.html)に登録された機能未知のマウスcDNAを分析することにより本発明の因子を見出した。このcDNA配列(GenBank Accession No.AK004329)を基にプライマー5'-TCCCGCCTGCTCCTCGCTGT-3'(配列番号7)及び5'-CCCTAGAACCGGCTGCTTCTC-3'(配列番号8)を設計した。次に胎生18.5日の胎児よりtotal RNAを抽出して、これをテンプレートにしてcDNAを作製し上記プライマーをもちいて常法に従ってPCR法を行った。このPCR産物をABI Prism TM dRhodamine Terminator Cycle Sequenceing Ready Reaction Kit(Applied Biosystems社)とABI Prism TM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社)を用いて全長cDNAの塩基配列を決定した。
(結果)得られたPCR産物を基に全長マウスニューデシンcDNAの塩基配列を確定した。その結果、マウスニューデシンcDNAは全長516bpからなることを同定した(配列番号4)。推定されるアミノ酸残基は171残基からなり(配列番号2)、開始メチオニンからプロリンまでの24残基はシグナル配列と推定される。よって成熟形は25位のバリンから171位のフェニルアラニンまでのアミノ酸配列を有するポリペプチドであると推定される。本発明者はこのタンパク質をニューデシン(neuron-derived neutrotrophic secreted protein)と名付けた。
次に同じデータベース(GENBANK)においてマウスニューデシンcDNA配列によりホモロジー検索を行った結果、ヒトニューデシンと推定されるヒトcDNA(GenBank Accession No.AF173937)を見出した。このcDNA配列を基にプライマー5'-TTGCGCTGCGCGCT CACCAT-3'(配列番号5)および 5'-GGAACATCAGAACTCATCCTTG-3'(配列番号6)を設計した。また成体脳(市販品)よりtotal RNAを抽出した。その後実施例1と同様の手順により全長cDNAの塩基配列を決定した。
(結果)得られたPCR産物を基に全長ヒトニューデシンcDNAの塩基配列を確定した結果、ヒトニューデシンcDNAは全長519bpからなることを同定した(配列番号3)。推定されるアミノ酸残基は172残基からなり(配列番号1)、開始メチオニンからプロリンまでの27残基はシグナル配列と推定される。よって成熟形は28位のスレオニンから172位のフェニルアラニンに示すアミノ酸配列を有するポリペプチドであると推定される。ちなみにヒト及びマウスの前駆体同士の比較では91%の高いホモロジーを示した(図1)。またヒトニューデシンについての遺伝子座をデータベースであるEnsemble ( http://www.ensembl.org/)を用いて調べたところ第1染色体上のp33の位置に存在していることがわかった。
Eタッグ(GAPVPYPDPLEPR)とHis6 タッグ(HHHHHH)をコードする75塩基のDNA断片を3'末端に結合させたマウスニューデシンのcDNAを転写ベクターであるpBacPAK9(クローンテック)に組み込んで発現ベクターとして構築した。このタッグが付加したニューデシンcDNAを有するバキュロウィルスの組換え体はpBacPAK9の組換え体とBsu36I処理した表現ベクターのBacPAK6(クローンテック)を含有するSf9細胞にコトランスフェクションさせることにより得られた。このバキュロウィルスの組換え体に感染させたハイファイブセルを10%の仔牛血清(ギブコ)入りのTC-100昆虫培地(ギブコ)で27℃で96時間培養した。バキュロウィルスの組換え体に感染したハイファイブセルの培養液と細胞溶解液について還元下でSDSポリアクリルアミド電気泳動(12.5%)を行った後ニトロセルロース膜(Hybond-ECL, アマシャムファルマシアバイオテック)に転写した。膜上のEタッグを有するタンパクは Biochem. Biophys. Res. Commun. 243, 148-152.(1998) の方法に従ってEタッグを認識する抗体(アマシャムファルマシアバイオテック)を用いて検出した。またマウスニューデシンの組換えタンパク質はNi-NTAアガロース(キアゲン)を用いたアフィニティクロマトグフラフィーにより培養液から精製した。精製後、BSAを含むPBS(50μg/ml)で平衡化したバイオゲルP-6DG(バイオラッド)を用いたゲルろ過により脱塩操作を行った。
(結果)ウエスタンブロットを行った結果21kDaのメジャーバンドが培養液の方で検出された。これはニューデシンが分泌タンパクであることを示唆するものである(図2A)。また分子量についてはマウスニューデシンの組換えタンパク質の分子量の理論値(21.6kDa)と一致していた。さらにNi-NTAアガロースを用いたアフィニティクロマトグフラフィーにより培養液からのニューデシンの組換えタンパク質を精製して調べた結果21.6kDaにメジャーバンドを示していた(図2B)。
in situ ハイブリダイゼーション用切片を用意するため、マウスの胚や脳をドライアイスで凍結してから低温保持装置により16μmに切断し、ポリL-リジンをコートしたスライドガラス上で解凍標本にしてハイブリダイズするまで-85℃に保存した。35Sで標識したマウスのニューデシンRNAプローブのアンチセンス体はT7 RNA ポロメラーゼ とウリジン 5'-a-[35S]チオホスフェート (〜30 TBq/mmol)により作製した。上記切片についてラベルをしたプローブを用いてin situ ハイブリダイゼーションを実施し、J. Neurosci. Res. 37, 445-452(1994) に記載の方法に従って1:1で希釈した乳濁液(コダックNTB3)中に浸し3週間露光した。ヘマトキシリン-イオシンとクレシルバイオレットによる対比染色をマウスの胚及び脳の切片それぞれについて行った。染色終了後、銀粒子を限外顕微鏡もしくは明視野顕微鏡により確認した。
(結果)マウスの胎児におけるニューデシンmRNAの発現を35Sで標識したニューデシンRNAのアンチセンスプローブにより調べた。発達脳と脊髄で特にニューデシンmRNAの発現が見られた(図3)。またマウス脳の出生後発育のあらゆる段階(P1〜P49)でニューデシンmRNAの発現を調べた。脳の前頭部についてはin situ ハイブリダイゼーションを行った。その結果調べた全ての発達段階においてニューデシンmRNAの発現が見られた(図4)。脳におけるニューデシンmRNAの細胞への分布はマイクロオートラジオグラフィーで検出した(図5)。脳のニッスル染色においてはグリア細胞(暗い部分)は小さな強く染色された細胞として現れるのに対し、神経細胞(明るい部分)は一般的に大きいためにあまり強く染まらないことがMethods Neurosci. 1, 101-114.(1989) などの報告により知られている。図5の結果から大脳皮質ではニューデシンmRNAは多くの神経細胞で発現しているがグリア細胞では発現していないことがわかる。
J. Neurosci. Res. 43, 503-510.(1996)の方法に従ってマウスの胎児の大脳皮質より採取した細胞を培養した。細胞は35ミリプレートに1.3×105セル/cm2以上の密度となるように播種した。培地はDF培地(DMEM培地:Ham's F12=1:1)に0.2%の炭酸ナトリウム、 0.1%グルコース、 0.029%L-グルタミン、 0.238% ヘペスを添加したものを用いた。細胞は10%の仔牛血清を添加して37°Cで培養した。培養5日後からは10%のウマ血清を含んだDMEM培地で培養した。10%のウマ血清を含む培養培地で培養したものを対照群におき、培養8日後の細胞に0.1%BSAとニューデシンを添加した後に60μmolのPD98059(カルバイオケム社)もしくは40μmolのLY294002(カルバイオケム社)を添加もしくは非添加状態で4日間培養した。その後4%のパラフォルムアルデヒドで30分間固定してから12日間放置した。生存している神経細胞を微小管結合タンパク2に対する抗体を用いた免疫染色法により検出した。
(結果)
マウスのニューデシンは胎児及び出生後の脳神経に豊富に発現していた。このことはニューデシンは脳における神経栄養因子であることを示唆している。また、初代培養神経細胞に対する神経栄養因子様活性を調べた。このとき精製した組換えタンパク質と胎児の大脳皮質から調整した神経細胞を用いて行った。無血清培地で4日間培養したところ神経細胞は大きく縮退したのに対しニューデシンを添加した場合は生存率が上昇した(図6)。また初代培養神経細胞に対するニューデシンの神経栄養因子様活性に対するPD9805及びLY294002の影響を調べた結果、両化合物は有意にその活性を阻害した(図9)。
アストロサイトの培養細胞を Glia. 12, p336-342 (1994)の方法に従ってマウス胎児の大脳皮質より調整した。その後10%の不働化した仔牛血清を添加したDMEM培地で5%CO2中において37℃で培養した。Neurosci. Lett. 249, p163-166.(1998) 記載の方法で、グリア繊維性酸性タンパクを認識する抗体(シグマ社)を用いた免疫染色法により検出した結果アストロサイトの純度は90%以上であった。培養したアストロサイトをポリL-リジン(20μg/ml)でコートした96穴プレートに1×104 細胞/セルとなるようにまき、5%CO2中において37℃で24時間培養、さらに0.1%BSAを添加したDMEM培地で48時間培養した。さらに0.1%BSAと0〜100pg/mlのマウスニューデシンの組換えタンパク質を添加して12時間培養後、マイトジェン活性を5-ブロモ2'-デオキシウリジン標識検出キットIII(ロシュモリキュラーバイオケミカル)により測定した。
(結果)
初代培養したマウスのアストロサイトにおいてマイトジェン活性を調べた。ニューデシンにこの細胞に対するマイトジェン活性は見られなかった。
37℃、10%の仔牛血清及び5%のウマ血清を添加したDMEM培地でラット褐色細胞腫由来のPC12細胞を培養した。細胞はポリL-リジンでコートした24穴プレートに0.2×105細胞/cm2以下の密度となるようにまいた。48時間後培養液を0.1%BSAを添加したDMEM培地に交換した。さらに24時間後に0.1%BSAとマウスニューデシンの組換えタンパク質を添加したDMEM培地に交換し60μmolのPD98059もしくは40μmolのLY294002の添加もしくは非添加状態で72時間培養した。
(結果)神経栄養因子は神経系においてシナプス伝達とシナプス変性の制御に関っていることが知られている(Prog. Neurobiol. 69, 341-374.(2003))。そこで、これらの活性を調べるために通常用いられる手法 (Adv. Cell. Neurobiol. 3, 373-414.(1982))であるPC12細胞におけるニューデシンの神経突起伸展活性を調べた。結果は明らかにニューデシンはPC12細胞の神経突起伸展を増加させた。一方PD9805及びLY294002は神経突起伸展活性を阻害した(図7)。
(1)マウス由来大脳皮質細胞
マウス由来大脳皮質細胞を35ミリプレートに1.3×105セル/cm2以下となるようにまいた。このときの培地はDF培地に0.2%の炭酸ナトリウム、0.1%グルコース、0.029%L-グルタミン、 0.238% ヘペスを添加したものを用いた。これに10%の仔牛血清を添加して37℃で細胞を培養した。培養5日後より10%のウマ血清を含んだDMEM培地で培養した。培養8日後に0.1%BSA及び100pg/mlのマウスニューデシンを添加後60μmolのPD98059もしくは40μmolのLY294002の添加もしくは非添加状態で30分間培養した。その後リン酸化されたERK1/2もしくはリン酸化されたAktをそれぞれのリン酸化体を認識するウサギ抗体を用いたウエスタンブロット法により検出した。
(2)ラット褐色細胞腫由来のPC12細胞
ラット褐色細胞腫由来のPC12細胞については37℃で10%の仔牛血清及び5%のウマ血清を添加したDMEM培地で培養した。細胞はポリL-リジンでコートした35ミリプレートに1.0×105セル/cm2以下の密度となるようにまいた。48時間後培地を0.1%BSAを添加したDMEM培地に交換して培養し、さらに24時間後に0.1%BSAとマウスニューデシンを添加後60μmolのPD98059もしくは40μmolのLY294002の添加もしくは非添加状態で30分間培養した。その後リン酸化されたERK1/2もしくAktを認識するウサギの抗体を用いてウエスタンブロット法により検出した。
(結果)
MAPキナーゼ及びPI-3キナーゼ経路は培養神経細胞やPC12細胞において重要な役割を担っていることが知られている( Annu. Rev. Biochem. 72, 609-642.(2003) )。そのため本発明者はニューデシンのERK1/2及びAktのリン酸化活性を培養神経細胞及びPC12細胞において調べた。方法としてはリン酸化されたERK1/2及びAktを認識する抗体を用いたウエスタンブロット法を用いた。ニューデシンは明らかに培養神経細胞(図8A)やPC12細胞(図8B)においてERK1/2及びAktのリン酸化を誘導していた。またPD98059及びLY294002はそれぞれMAPキナーゼ及びPI-3キナーゼに対する特異的な阻害剤として知られていることから( J. Neurosci. 23, 5149-5160.(2003))ニューデシンのERK1/2及びAktのリン酸化に対するPD98059及びLY294002の効果を調べた。予想どおり両化合物は培養神経細胞(図8A)やPC12細胞(図8B)においてERK1/2及びAktのリン酸化を阻害した。以上の結果はニューデシンの生物活性も現在までに知られている神経栄養因子(NGF、BDNF、NT、NT4/5)やIGFs、FGFs等( J. Neurosci. Res. 72, 436-443.(2003)等)と同様MAPキナーゼ及びPI-3キナーゼ経路を介していることを示唆している。またニューデシンもTrkレセプター(Annu.Rev.Biochem. 72,609-642,2003)のような 細胞表面のレセプターを活性化している可能性が高いことを示唆する。
配列番号:2は、マウスニューデシンの推定アミノ酸配列である。
配列番号:3は、ヒトニューデシンのcDNA配列である。
配列番号:4は、マウスニューデシンのcDNA配列である。
配列番号:5は、ヒトニューデシン遺伝子のセンスプライマー配列である。
配列番号:6は、ヒトニューデシン遺伝子のアンチセンスプライマー配列である。
配列番号:7は、マウスニューデシン遺伝子のセンスプライマー配列である。
配列番号:8は、マウスニューデシン遺伝子のアンチセンスプライマー配列である。
Claims (11)
- (1)配列表の配列番号1の28位のThrから172位のPheまでのアミノ酸配列;あるいは
(2)配列表の配列番号1の28位のThrから172位のPheまでのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
を少なくとも有するポリペプチドを含む神経栄養剤。 - (1)配列表の配列番号2の25位のValから171位のPheまでのアミノ酸配列;あるいは
(2)配列表の配列番号2の25位のValから171位のPheまでのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
を少なくとも有するポリペプチドを含む神経栄養剤。 - (1)配列表の配列番号1の1位のMetから172位のPheまでのアミノ酸配列;あるいは
(2)配列表の配列番号1の1位のMetから172位のPheまでのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
を少なくとも有するポリペプチドを含む、請求項1記載の神経栄養剤。 - (1)配列表の配列番号2の1位のMetから171位のPheまでのアミノ酸配列;あるいは
(2)配列表の配列番号2の1位のMetから171位のPheまでのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
を少なくとも有するポリペプチドを含む、請求項2記載の神経栄養剤。 - 神経変性疾患の治療剤として使用する、請求項1から4のいずれかに記載の神経栄養剤。
- 軸索伸展作用を有する、請求項1から4のいずれかに記載の神経栄養剤。
- 請求項1から4のいずれかに記載のポリペプチドを特異的に認識する抗体を含む、神経変性疾患の診断薬。
- 請求項1から4のいずれかに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、、または該ポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを特異的に認識するプライマーを含む、神経変性疾患の診断薬。
- (1)配列表の配列番号3に示す塩基配列からなるDNA;あるいは
(2)配列表の配列番号3に示す塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
からなるポリヌクレオチドを特異的に認識するプライマーを含む、請求項8記載の神経変性疾患の診断薬。 - 配列表の配列番号3に示す塩基配列からなるDNAの連続した5から60塩基と同一配列を有するオリゴヌクレオチドを含む、請求項8または9記載の神経変性疾患の診断薬。
- 請求項1から4のいずれかに記載のポリペプチドを用いた、神経栄養因子様作用を有する化合物のスクリーニング方法。
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