JP2005237689A - コロナウイルスを不活化させる方法および装置 - Google Patents

コロナウイルスを不活化させる方法および装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 本発明の目的は、人体に対して他の悪影響を与えることなく正負両イオンの作用によりコロナウイルスを不活化させる方法および装置を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、コロナウイルスに正イオンと負イオンとを作用させることにより、コロナウイルスを不活化させる方法であって、空気中の1011TCID50/m3未満の濃度のコロナウイルスに対して、空気中の正負両イオンの合計濃度として所定濃度の正負両イオンを作用させることを特徴とする正負両イオンによりコロナウイルスを不活化させる方法に係る。
【選択図】 図3

Description

本発明は、正負両イオンの作用によりコロナウイルスを不活化させる方法および装置に関するものである。さらに本発明は、該方法および装置を利用した空気調節装置(例えば、空気清浄機、空気調和機、除湿機、加湿器、電気ヒータ、石油ストーブ、ガスヒータ、クーラーボックス、及び冷蔵庫等)に関するものである。
近年、住環境の変化に伴い、人体に有害な空気中の浮遊ウイルスを取り除き、健康で快適な生活を送りたいという要望が強くなっている。この要望に応えるため、各種のフィルタを備えた空気調節装置が開発されている(特許文献1〜4)。
しかしながら、このような空気調節装置は、空間の空気を吸引してフィルタにより有害な浮遊ウイルスを吸着若しくは分解する方式であるため、長期にわたる使用によりフィルタの交換等のメンテナンスが不可欠であり、しかもフィルタの特性が充分でないため満足のいく性能が得られない場合がある。
一方、イオン発生装置を用いて正負イオンにより各種の細菌を殺菌する方法が提案されているが、かかる方法においては正負イオンを発生させるのに高電圧を印加する必要があり、このため人体に有害なオゾンを副生する可能性があるという問題がある。
また、このような細菌やウイルスの中でも特にコロナウイルスは、SARS(新型肺炎)を起こす可能性があるため、これを有効に除去し、人体の安全を確保することが望まれている。
しかしながら、現在のところ上記の不都合や困難を伴うことなくコロナウイルスを不活化させる有効な方法は知られていない。
特開平6−154298号公報 特開平7−807号公報 特開平8−173843号公報 特開2000−111106号公報
本発明は、このような状況に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、人体に対して他の悪影響を与えることなく正負両イオンの作用によりコロナウイルスを不活化させる方法および装置を提供することにある。
本発明は、コロナウイルスに正イオンと負イオンとを作用させることにより、コロナウイルスを不活化させる方法であって、空気中の1011TCID50/m3未満の濃度のコロナウイルスに対して、空気中の正負両イオンの合計濃度として以下の式(I)で特定される濃度の正負両イオンを作用させることを特徴とする正負両イオンによりコロナウイルスを不活化させる方法に係る。
A=2×B×10X ・・・(I)
(上記式中、Aは正負両イオンの合計濃度(個/m3)、Bはコロナウイルス濃度(TCID50/m3)、Xは以下の関係を満たす任意の数であって、
Bが109TCID50/m3以上1011TCID50/m3未満の場合、Xは−4〜2の数、
Bが106TCID50/m3以上109TCID50/m3未満の場合、Xは−1〜5の数、
Bが103TCID50/m3以上106TCID50/m3未満の場合、Xは2〜8の数、
Bが103TCID50/m3未満の場合、Xは4〜10の数であり、
上記Bのコロナウイルス濃度は、正負両イオンを作用させることにより不活化させる対象となるコロナウイルスの濃度である。)
また、上記正イオンはH3+(H2O)n(nは0または自然数)であり、負イオンはO2 -(H2O)m(mは0または自然数)とすることが好ましい。なお、ここで、正イオンとして記載したH3+(H2O)n(nは0または自然数)は、表記方法を変更するとH+(H2O)n(nは自然数)と記述することが可能であり、同等のイオンを示すものである。
また、本発明の方法は、正イオンと負イオンとが、化学反応することによって過酸化水素H22、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHの少なくとも1種を生成することが好ましい。
また、本発明の方法は、相対湿度が10%〜90%の条件下で実行させることができる。
一方、本発明の装置は、コロナウイルスに正イオンと負イオンとを作用させることにより、コロナウイルスを不活化させる装置であって、空気中の1011Tcid50/m3未満の濃度のコロナウイルスに対して、空気中の正負両イオンの合計濃度として上記の式(I)で特定される濃度の正負両イオンを発生させることができる、正負両イオンによりコロナウイルスを不活化させる装置に関する。
また、上記装置は、空気調節機構を備えたものとすることができる。
ここで、上記装置により発生される正イオンはH3+(H2O)n(nは0または自然数)であり、負イオンはO2 -(H2O)m(mは0または自然数)であることが好ましい。
また、正イオンと負イオンとが、化学反応することによって過酸化水素H22、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHの少なくとも1種を生成することが好ましい。
本発明のコロナウイルスを不活化させる方法は、上記の通りの構成を有するものであるため、人体に対して他の悪影響を与えることなく正負両イオンの作用によりコロナウイルスを極めて有効に不活化させるものである。
特に、作用させる正負両イオンの合計濃度を、空気中のコロナウイルスの濃度と相関させて調節したものであるため、人体に対する悪影響を最小にしつつコロナウイルスを極めて有効に不活化させることを可能としている。
また、本発明のコロナウイルスを不活化させる装置は、作用させる正負両イオンの合計濃度を、空気中のコロナウイルスの濃度と相関させて発生させるものであるため、人体に対する悪影響を最小にしつつコロナウイルスを極めて有効に不活化させることができる。
<コロナウイルスを不活化させる方法>
本発明に係るコロナウイルスを不活化させる方法は、空気中の所定濃度のコロナウイルスに対して所定濃度の正負両イオンを作用させることにより達成されるものである。これらの正負両イオンは、正イオンもしくは負イオンそれぞれ単独ではコロナウイルスに対して格別の効果は示されない。しかし、これらのイオンが共存すると後述のような化学反応によって活性物質が発生しこれによりコロナウイルスを不活化させることが可能となる。
ここで、コロナウイルスを不活化させるとは、コロナウイルスの感染力が正負両イオンを作用させる前後において50%、好ましくは90%以上減少することをいうものとする。
また、コロナウイルスに正イオンと負イオンとを作用させるとは、正イオンと負イオンとがコロナウイルスに接触することのみに限られるものではなく、たとえば後述のような化学反応によって発生する活性物質がコロナウイルス上で発生したり、これらの活性物質がコロナウイルスと接触することも含む。
<コロナウイルス>
コロナウイルスとは、RNAを遺伝物質とする高等ウイルスであって、アデノウイルス同様に風邪を引き起こすことが知られていたが、最近SARS(新型肺炎)を起こすことで知られるものである。
たとえば、ヒトコロナウイルス、ネココロナウイルス、イヌコロナウイルス、トリコロナウイルス等が知られている。
<正負両イオンの濃度>
本発明においてコロナウイルスに対して作用させる正負両イオンの濃度は、空気中の1011TCID50/m3未満の濃度のコロナウイルスに対して、空気中の正負両イオンの合計濃度として以下の式(I)で特定される濃度である。
A=2×B×10X ・・・(I)
上記式中、Aは正負両イオンの合計濃度(個/m3)、Bはコロナウイルス濃度(TCID50/m3)、Xは以下の関係を満たす任意の数であって、
Bが109TCID50/m3以上1011TCID50/m3未満の場合、Xは−4〜2の数、
Bが106TCID50/m3以上109TCID50/m3未満の場合、Xは−1〜5の数、
Bが103TCID50/m3以上106TCID50/m3未満の場合、Xは2〜8の数、
Bが103TCID50/m3未満の場合、Xは4〜10の数である。
なお、上記Bのコロナウイルス濃度は、正負両イオンを作用させることにより不活化させる対象となるコロナウイルスの濃度である。
このように本発明の正負両イオンの濃度は、空気中のコロナウイルスの濃度と相関させて調節するものであるため、人体に対する悪影響を最小にしつつコロナウイルスを極めて有効に不活化させることを可能としている。すなわち、空気中にコロナウイルスが高濃度に存在する場合は、比較的正負両イオンの濃度が低濃度であってもコロナウイルスと正負両イオンとの間で高い確率で衝突ないし接触が生じるものと考えられる。これに対して、空気中のコロナウイルスの濃度が低い場合には、ウイルス濃度に対するイオン濃度の比率を高めなければ高い確率で衝突ないし接触を生じることができないと推測される。
上記式(I)は、このような考えに基づき、多数の実験を繰り返すことによって導き出されたものであって、空気中のコロナウイルスの濃度が低くなる程、ウイルス濃度に対するイオン濃度の比率を高めた正負両イオンを作用させるように相関させたものである。
このような式(I)で表される相関関係は、従来の固定観念、すなわちウイルスの濃度が高まれば作用させるイオン濃度も高めなければならないという固定観念を覆す全く新規な着想によるものである。これは、低濃度の正負両イオンによっても十分に不活化させることができるというコロナウイルスの特有の性質に起因したものであると考えられる。これにより、放電により正負両イオンを発生させるのに必要な印加電圧も低く押さえることができ、以って発生するオゾン量を低減させ人体に対する悪影響を最小にしつつ極めて有効にコロナウイルスを不活化させることが可能となった。
ここで、正負両イオンの濃度に相関するコロナウイルスの濃度は、TCID50という濃度によって規定される。TCID50とは、50%Tissue Culture Infectious Doseの略語であって、宿主細胞の50%を感染させるウイルス濃度を表したものであり、ウイルス感染力価とも呼ばれるものである。
なお、本発明において正負両イオンはその合計濃度として表されているが、正負両イオンの含有割合はこれら両イオンが含有されている限り特に限定されるものではない。しかし、正負両イオンがほぼ同数の割合で存在していることが特に好ましい。後述の化学反応により、活性物質を効率良く生成することができるからである。
また、本発明におけるイオン濃度とは、臨界移動度を1cm2/V・秒以上の小イオンの濃度を意味しており、該小イオンの濃度測定には、空気イオンイオンカウンター(たとえばダン科学製空気イオンカウンタ(品番83−1001B))を用いて行なうことができる。
<正負両イオンの発生方法>
本発明に係る正負両イオンは、主としてイオン発生素子の放電現象により発生するものであり、通常、正負の電圧を交互に印加させることにより正負両イオンを同時に発生させ空気中に送出することによって、これをコロナウイルスに対して作用させるものである。
しかしながら、本発明の正負両イオンの発生方法はこれのみに限られることはなく、正負いずれか一方の電圧のみを印加し正負いずれか一方のみのイオンを先に送出させた後、次に逆の電圧を印加しすでに送出されたイオンとは逆の電荷をもったイオンを送出させることもできる。なお、これらの正負両イオンの発生、送出に必要な印加電圧は、電極の構造にもよるが3.0〜5.5kV、好ましくは3.2〜5.5kVの範囲とすることができる。
<イオン発生素子>
上記イオン発生素子は、正イオンと負イオンとを発生させるものであり、また後述のような電気的衝撃により直接的にコロナウイルスを不活化させることができるものともなり得る。このようなイオン発生素子は、その付設箇所は特に限定されないものの、通常はコロナウイルスを不活化させる装置の風路に付設されていることが好ましい。
これは、イオン発生素子により発生させられる正負両イオンは短時間で消失するため、これらの正負両イオンを効率良く空気中に拡散させることができるようにするためである。なお、イオン発生素子の設置個数は、1個であっても、2個以上であっても差し支えない。
このようなイオン発生素子としては、放電機構により正負両イオンを発生する従来公知のイオン発生素子が用いられる。特に、コロナウイルスに対して正イオンと負イオンとを上記のような空気中濃度となるように、正イオンと負イオンとを空気中に送出できるものであることが好ましい。
ここでいう放電機構とは、絶縁体を電極で挟み込んだ構造を持ち、片側に交流の高電圧を印加させるとともに、もう一方の電極は接地させ、高電圧を印加させることにより接地電極に接している空気層にプラズマ放電を形成し、空気中の水分子や酸素分子を電離または解離することにより正負両イオンを生成するような機構をいう。
このような放電機構において、たとえば電極の形状を電圧印加側は板状またはメッシュ状とし、接地側電極をメッシュ状とした場合、高電圧を印加すると接地側電極のメッシュ端面部で電界が集中して沿面放電が起こりプラズマ領域が形成される。このプラズマ領域に空気を流し込むと正負両イオンが生成するだけでなくプラズマによる電気的衝撃が得られる。
このような放電機構を有する素子としては、例えば沿面放電素子、コロナ放電素子、プラズマ放電素子等を挙げることができるがこれらのみに限られるものではない。また、放電素子の電極の形状や材質においても、上述のようなもののみに限られるものではなく、針型などを含め、あらゆる形状、材質のものを選択することができる。
このようなイオン発生素子としてより具体的には、図1に示すように誘電体1003を板形状の電極1002とメッシュ形状の電極1004で挟み込み、電源1001により板形状の電極に正極と負極の電圧を交互に印加することによって、メッシュ形状電極のメッシュ端面で電界が集中してプラズマ放電が起こりプラズマ領域1005が形成され正負両イオンが生成されるような構造のものが特に好ましい。
なお、これらの正負両イオンの発生、送出に必要な印加電圧は、イオン発生素子の構造にもよるが電極間のピークトゥーピーク(peak to peak)電圧として2〜10kV、好ましくは3〜7kVの範囲とすることができる。
<正負イオンの同定>
上記のイオン発生素子の放電現象により発生した正負両イオンの組成は、主として正イオンとしてはプラズマ放電により空気中の水分子が電離して水素イオンH+が生成し、これが溶媒和エネルギにより空気中の水分子とクラスタリングすることによりH3+(H2O)n(nは0または自然数)を形成したものである。
水分子がクラスタリングしていることは、図2(a)において最小に観測されるピークが分子量19の位置にあり、後のピークはこの分子量19に対して水の分子量に相当する18を順次足した位置に現れることから明らかである。すなわち、この結果は分子量1の水素イオンH+に分子量18の水分子が一体となって水和していることを示している。
一方、負イオンとしてはプラズマ放電により空気中の酸素分子または水分子が電離して酸素イオンO2 -が生成し、これが溶媒和エネルギにより空気中の水分子とクラスタリングすることによりO2 -(HO)m(mは0または自然数)を形成したものである。
水分子がクラスタリングしていることは、図2(b)において最小に観測されるピークが分子量32の位置にあり、後のピークはこの分子量32に対して水の分子量に相当する18を順次足した位置に現れることから明らかである。すなわち、この結果は分子量32の酸素イオンO2 -に分子量18の水分子が一体となって水和していることを示している。
そして、空間に送出されたこれらの正負両イオンは空気中に浮遊しているコロナウイルスを取り囲み、コロナウイルスの表面で正負両イオンが以下のような化学反応(1)〜(2)によって活性物質である過酸化水素H22、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHを生成する。
3+ + O2 - → ・OH + H22 ・・・(1)
3+ + O2 - → HO2 + H2O ・・・(2)
そして、このように正負両イオンが作用して生成した過酸化水素H22、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHは、コロナウイルスの表面タンパク質を変性ないし破壊してコロナウイルスの感染力を喪失させることができ、これにより効率的に空気中のコロナウイルスの不活化を実行することができる。
なお、上記の説明においては、正イオンとしてH+、負イオンとしてO2 -をそれぞれ中心に述べてきたが、本発明における正負イオンはこれらのみに限られるものではない。たとえば、正イオンとしてはN2 +、O2 +等を、負イオンとしてはNO3 -、CO3 2-等をそれぞれ例示することができる。
<相対湿度>
本発明のコロナウイルスを不活化させる方法は、特に相対湿度が10%〜90%、好ましくは40%〜70%の条件下で実行することが好適である。前述の通り正負両イオンの発生は、空気中の水分子の存在と関係するからである。
すなわち、相対湿度が10%未満の場合は、発生イオンは空気中の水分子によるクラスターイオンが十分に生成されないものとなり、また90%を超える場合はイオンを生成するための放電エネルギが低下することとなり、いずれも好ましくない。
<その他の方法等>
本発明のコロナウイルスを不活化させる方法は、コロナウイルスの表面タンパク質を電気的衝撃および/または化学反応により変性ないし破壊させることにより実行することもできる。
このようにコロナウイルスの表面タンパク質は、正負両イオンを発生させる際の電圧印加によるプラズマ放電自体によっても変性ないし破壊され、以ってこのような電気的衝撃によってもコロナウイルスの感染力は喪失し、不活化させることができる。このようにして本発明においては、上記の作用が相乗的に奏されることによりコロナウイルスの不活化を推進させることができるものとも考えられる。
<コロナウイルスを不活化させる装置>
本発明のコロナウイルスを不活化させる装置は、コロナウイルスに正イオンと負イオンとを作用させることにより、コロナウイルスを不活化させる装置であって、空気中の1011Tcid50/m3未満の濃度のコロナウイルスに対して、空気中の正負両イオンの合計濃度として前述の式(I)で特定される濃度の正負両イオンを発生させるものである。
そして、上記装置は、空気調節機構を備えていることが好ましい。ここでいう空気調節機構とは、例えば空気清浄機、空気調和機、除湿機、加湿器、電気ヒータ、石油ストーブ、ガスヒータ、クーラーボックス、及び冷蔵庫等の空気調節装置が備えている通常の空気を調節する機構であって、したがって、本発明のコロナウイルスを不活化させる装置はこれらの空気調節装置としての機能を兼備したものとすることができる。
なお、上記正イオンはH3+(H2O)n(nは0または自然数)であり、負イオンはO2 -(H2O)m(mは0または自然数)とすることが好ましい。また、これらの正イオンと負イオンとが、化学反応することによって過酸化水素H22、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHの少なくとも1種を生成することが好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。
<実施例1>
本実施例は、コロナウイルスとしてネココロナウイルス(Feline infectious peritonitis virus(FIPV;79−1146株)、社団法人北里研究所より入手)を用いるとともに、標的宿主細胞としてfcwf4細胞(ネコ腎細胞(fcwf4 p86株);社団法人北里研究所より入手)を用いることによって、正負両イオンの作用によりコロナウイルスを不活化させる方法を確認したものである。以下図3〜図4を用いて説明する。
<コロナウイルスを不活化させる方法を実行するための装置>
図3は、本実施例で用いたコロナウイルスを不活化させる方法を実行するための装置を示している。容積1m3の装置1には、ウイルス噴霧器2とウイルス採取器3が付設されているとともに、イオン発生素子4を備えた送風機5が付設されている。イオン発生素子4は、正イオン6(H3+(H2O)n)と負イオン7(O2 -(H2O)m)とを発生するものである。なお、装置1内の温度は20℃であり、相対湿度は55%であった。
<上記装置におけるコロナウイルスに対する正負両イオンの作用方法>
まず、培養後超低温保存してあった上記ネココロナウイルスの分散液(108.28TCID50/ml)をウイルス噴霧器2から装置1内に30分かけて合計10ml噴霧した。したがって、装置1内のコロナウイルス濃度は109.28TCID50/m3となった。なお、上記分散液の分散媒としては、細胞増殖用培地である10%FBS含有イーグルMEM(Gibco;Invitrogen Corp.,CA,USA)を使用した。
また、上記ウイルスの噴霧と同時に送風機5を作動させ、イオン発生素子4により正負両イオンを発生させた。正負両イオンの装置1内の空気中濃度は、正負両イオンの合計濃度として200〜400個/cm3(正イオン:100〜200個/cm3、負イオン:100〜200個/cm3)とした(濃度を範囲として表しているのは、非常に低濃度であることからイオン発生素子4を間欠的に作動させたため、一定濃度とすることが困難であったためである)。これにより、該装置1内において、コロナウイルスに正イオンと負イオンとを作用させることができた。
続いて、送風機5を作動させたまま(正負両イオンの発生を継続させたまま)ウイルスの噴霧のみを停止し、10分間を1採取ユニットとして連続5ユニット(採取ユニット1〜採取ユニット5)、ウイルス採取器3によりネココロナウイルスを採取した。すなわち、最初の採取ユニット(採取ユニット1)には、噴霧停止後10分間連続的に採取したものが含まれており、次の採取ユニット(採取ユニット2)には、続く10分間に亘って連続的に採取したものが含まれており、以後順次同様の操作をすることにより計5ユニットを採取した。また、各ユニットの採取容量は、10分間で100リットルとした。なお、採取液の分散媒としては、上記と同じ細胞増殖用培地を使用した。
<コロナウイルスのTCID50測定>
まず、上記fcwf4細胞の培養液を担持した96穴ウェル(12ウェル×8ウェル)に、上記のようにしてウイルス採取器3で採取したネココロナウイルスを接種させた。該接種方法は、以下の通りとした。
まず、上記で採取した各採取ユニット毎にネココロナウイルスの採取液を原液、10倍希釈、102倍希釈、103倍希釈、104倍希釈、105倍希釈、106倍希釈、107倍希釈と10倍づつ希釈倍率を変えたもの8種類を調製した。そして、上記96穴ウェルの各1行(8ウェル)に対して、同一希釈倍率のものを各8ウェルづつ接種した。
また、上記96穴ウェルの各1列(12ウェル)には、各採取ユニット(噴霧しなかった原液も含む)の希釈倍率違いのもの8種類が1ウェルづつ並ぶように配置させた(12ウェル中8ウェルを使用)。
なお、96穴ウェルは、各採取ユニット毎に1枚使用した(接種しなかったウェルについてはそのままの状態で放置させた)。また、ウイルス噴霧器2により噴霧しなかった原液についても96穴ウェルを1枚使用し、上記と同じ希釈倍率のものを同様にして接種した。
そして、該接種後1時間接触感染させた後、上記採取液を各ウェルから除去した。
続いて、上記ウェル内のfcwf4細胞に対して維持培地として1%BSA含有イーグルMEM(Gibco)を0.1ml加えて37℃、5%CO2の条件下で96時間培養し、24時間毎に細胞変性効果(CPE;Cytopathic effect)あるいは代謝阻害を観察することによりfcwf4細胞への感染の有無を調べ、その結果に基づきTCID50を求めた。
該TCID50の求め方は常法に従って行ない、具体的には以下のようにして行なった。すなわち、まず上記96穴ウェルの各行(8ウェル)について、感染ウェル数と非感染ウェル数を調べた。
続いて、希釈倍率の高いもの側(107倍希釈のもの側)から感染ウェル数を順次積算した。次に、希釈倍率の低いもの側(原液側)から非感染ウェル数を順次積算した。
続いて、各希釈倍率毎に感染ウェル数の積算値と非感染ウェル数の積算値を合計した。次いで、各希釈倍率毎に感染ウェル数の積算値を上記合計値で除して、その百分率(%)を求めた。
そして、その百分率が50%となる希釈倍率を比例計算により求めることによって、その希釈倍率をTCID50とした。さらに、吸引した空気の体積(100リットル)および回収液量(10ml)と培養細胞接種量(1ml)との比率から1m3当りのTCID50値を比例計算により算出し、TCID50/m3とした。
その結果を図4に示す。なお、図4においては、比較のため、上記イオン発生素子4を作動させないこと(すなわちコロナウイルスに対して正負両イオンを作用させないこと)を除き、他は全て上記と同様にしてTCID50/m3を求めた結果を併記している。
図4より明らかなように、たとえば採取ユニット5(40〜50分)においては、ネココロナウイルスの感染力が99%減少しており、正負両イオンの作用によりコロナウイルスを不活化できることを確認した。なお、コロナウイルスの感染力の減少率は、正負両イオンを作用させた場合のTCID50(上記の場合102.68TCID50/m3)を、正負両イオンを作用させない場合のTCID50(上記の場合104.88TCID50/m3)で除することにより得られる数値と1との差を%で表したものである。
また、上記採取ユニット5のみに限らず、いずれの採取ユニットにおいてもコロナウイルスの感染力は、正負両イオンの作用により90%以上減少しており、正負両イオンの作用によりコロナウイルスを不活化できることを確認できた。
また、本実施例における装置1内の正負両イオンの合計濃度は、平均300個/cm3(3×108個/m3)であり、正負両イオンを作用させることにより不活化させる対象となるコロナウイルスの濃度は、採取ユニット1(0〜10分)の場合、106.00TCID50/m3であり、上記式(I)におけるXは2.17となり、上記式(I)を満たす。
同様にして、採取ユニット2(10〜20分)の場合のコロナウイルスの濃度は106.11TCID50/m3であり、Xは2.07となり、また採取ユニット3(20〜30分)の場合のコロナウイルスの濃度は105.29TCID50/m3であり、Xは2.88となり、また採取ユニット4(30〜40分)の場合のコロナウイルスの濃度は104.67TCID50/m3であり、Xは3.51となり、また採取ユニット5(40〜50分)の場合のコロナウイルスの濃度は102.68TCID50/m3であり、Xは5.50となるため、いずれも上記式(I)を満たす。
<実施例2>
実施例1において、装置1内の正負両イオンの合計濃度を14000個/cm3(正イオン:7000個/cm3、負イオン:7000個/cm3)とすることを除き、他は全て実施例1と同様にして正負両イオンの作用によりコロナウイルスを不活化させる方法を確認した。その結果を図5に示す。比較のため、図4と同様正負両イオンを作用させない場合の結果を併記した。なお、本実施例においては、採取ユニットを連続4ユニット(採取ユニット1〜採取ユニット4)とした。
図5より明らかなように、たとえば採取ユニット4(30〜40分)においては、ネココロナウイルスの感染力が99.8%減少しており、正負両イオンの作用によりコロナウイルスを不活化できることを確認した。なお、コロナウイルスの感染力の減少は、正負両イオンを作用させた場合のTCID50/m3を、正負両イオンを作用させない場合のTCID50/m3で除することにより得られる数値と1との差を%で表したものである。
また、本実施例における装置1内の正負両イオンの合計濃度は、14000個/cm3(1.4×1010個/m3)であり、正負両イオンを作用させることにより不活化させる対象となるコロナウイルスの濃度は、採取ユニット1(0〜10分)の場合は106.38TCID50/m3であり、上記式(I)におけるXは3.47となり、上記式(I)を満たす。
同様にして、採取ユニット2(10〜20分)の場合のコロナウイルスの濃度は104.53TCID50/m3であり、Xは5.32となり、また採取ユニット3(20〜30分)の場合のコロナウイルスの濃度は104.30TCID50/m3であり、Xは5.55となり、また採取ユニット4(30〜40分)の場合のコロナウイルスの濃度は102.79TCID50/m3であり、Xは7.06となるため、いずれも上記式(I)を満たす。
<実施例3>
本実施例は、コロナウイルスとして実施例1で用いたのと同じネココロナウイルスを用いるとともに、標的宿主細胞としても実施例1で用いたのと同じfcwf4細胞を用いることによって、正負両イオンの作用によりコロナウイルスを不活化させる方法を確認したものである。以下図6を用いて説明する。
<コロナウイルスを不活化させる方法を実行するための装置>
図6は、本実施例で用いたコロナウイルスを不活化させる方法を実行するための装置を示している。直径55mm×長さ200mmのアクリル製円筒容器8には、ウイルス噴霧器2とウイルス採取器3が付設されているとともに、イオン発生素子4が付設されている。イオン発生素子4は、正イオン6(H3+(H2O)n)と負イオン7(O2 -(H2O)m)とを発生するものである。なお、アクリル製円筒容器8内の温度は20℃であり、相対湿度は70%であった。
本実施例においては、このアクリル製円筒容器8全体を透明塩化ビニル製の一辺30cmの立方体容器に入れ、さらにこれを透明塩化ビニル製の1000mm×500mm×500mmの立方体容器に入れることにより用いた。
そして、ウイルス噴霧器2からネココロナウイルスの分散液(108.24TCID50/ml)を毎分約0.1mlで30分間噴霧した。上記分散液の分散媒としては、実施例1で用いたのと同じものを使用した。
また、この噴霧と同時にウイルス採取器3により実施例1と同様にしてネココロナウイルスの採取を開始し、毎分10リットルで30分間アクリル製円筒容器8内の空気をウイルスとともに捕集した。上記採取液の分散媒としては、PBS(−)を使用した。
なお、上記の捕集は、アクリル製円筒容器8内の正負両イオンの合計濃度が20万個/cm3となるようにイオン発生素子4を作動させた状態(すなわちコロナウイルスに正負両イオンを作用させた状態)とイオン発生素子4を作動させない状態(すなわちコロナウイルスに正負両イオンを作用させない状態)との2条件により実行した。
そして、このようにして採取したコロナウイルスについて、実施例1に準じてTCID50/m3を求めた。その結果、イオン発生素子4を作動させた状態のTCID50は105.51TCID50/m3であり、イオン発生素子4を作動させない状態のTCID50は106.69TCID50/m3であった。すなわち、実施例1と同様にしてコロナウイルスの感染力の減少を求めると、92%減少していた。したがって、正負両イオンの作用によりコロナウイルスを不活化できることを確認した。
なお、本実施例におけるアクリル製円筒容器8内の正負両イオンの合計濃度は20万個/cm3(2×1011個/m3)であり、正負両イオンを作用させることにより不活化させる対象となるコロナウイルスの濃度は106.69TCID50/m3となるので、上記式(I)におけるXは4.31であり、上記式(I)を満たす。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
イオン発生素子の構造の一例を示す概略図である。 イオン発生素子から生成される正イオンと負イオンの質量スペクトルを示した図である。 コロナウイルスを不活化させる方法を実行するための装置の一例を示す概略図である。 正負両イオンを作用させる場合と作用させない場合とのコロナウイルスのTCID50/m3を比較した図である。 正負両イオンを作用させる場合と作用させない場合とのコロナウイルスのTCID50/m3を比較した別の図である。 コロナウイルスを不活化させる方法を実行するための装置の一例を示す別の概略図である。
符号の説明
1 装置、2 ウイルス噴霧器、3 ウイルス採取器、4 イオン発生素子、5 送風機、6 正イオン、7 負イオン、8 アクリル製円筒容器、1001 電源、1002,1004 電極、1003 誘電体、1005 プラズマ領域。

Claims (8)

  1. コロナウイルスに正イオンと負イオンとを作用させることにより、コロナウイルスを不活化させる方法であって、
    空気中の1011TCID50/m3未満の濃度のコロナウイルスに対して、空気中の正負両イオンの合計濃度として以下の式(I)で特定される濃度の正負両イオンを作用させることを特徴とする正負両イオンによりコロナウイルスを不活化させる方法。
    A=2×B×10X ・・・(I)
    (前記式中、Aは正負両イオンの合計濃度(個/m3)、Bはコロナウイルス濃度(TCID50/m3)、Xは以下の関係を満たす任意の数であって、
    Bが109TCID50/m3以上1011TCID50/m3未満の場合、Xは−4〜2の数、
    Bが106TCID50/m3以上109TCID50/m3未満の場合、Xは−1〜5の数、
    Bが103TCID50/m3以上106TCID50/m3未満の場合、Xは2〜8の数、
    Bが103TCID50/m3未満の場合、Xは4〜10の数であり、
    前記Bのコロナウイルス濃度は、正負両イオンを作用させることにより不活化させる対象となるコロナウイルスの濃度である。)
  2. 正イオンはH3+(H2O)n(nは0または自然数)であり、負イオンはO2 -(H2O)m(mは0または自然数)であることを特徴とする請求項1に記載のコロナウイルスを不活化させる方法。
  3. 正イオンと負イオンとが、化学反応することによって過酸化水素H22、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHの少なくとも1種を生成することを特徴とする請求項1または2に記載のコロナウイルスを不活化させる方法。
  4. 相対湿度が10%〜90%の条件下で実行されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコロナウイルスを不活化させる方法。
  5. コロナウイルスに正イオンと負イオンとを作用させることにより、コロナウイルスを不活化させる装置であって、
    空気中の1011Tcid50/m3未満の濃度のコロナウイルスに対して、空気中の正負両イオンの合計濃度として請求項1記載の式(I)で特定される濃度の正負両イオンを発生させることを特徴とする正負両イオンによりコロナウイルスを不活化させる装置。
  6. 空気調節機構を備えたことを特徴とする請求項5に記載のコロナウイルスを不活化させる装置。
  7. 正イオンはH3+(H2O)n(nは0または自然数)であり、負イオンはO2 -(H2O)m(mは0または自然数)であることを特徴とする請求項5または6に記載のコロナウイルスを不活化させる装置。
  8. 正イオンと負イオンとが、化学反応することによって過酸化水素H22、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHの少なくとも1種を生成することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のコロナウイルスを不活化させる装置。
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