JP2005218332A - ウイルス遺伝子の検出方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 本発明は、分離・精製等の前処理を必要とせず、簡易で高感度に検出し得るウイルスの検出方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 ウイルス浮遊液からウイルス遺伝子を検出する方法であって、導電性中空糸膜をウイルス浮遊液に浸漬し、当該ウイルス浮遊液中のウイルスを前記導電性中空糸膜に捕捉する捕捉工程と、前記捕捉されたウイルスの被膜を溶解し、ウイルス遺伝子を遊離する溶解工程と、前記溶解工程後、前記導電性中空糸膜に、電気的処理または物理的処理の少なくとも一方を行い、前記ウイルス遺伝子を分離する遺伝子分離工程と、分離した遺伝子をLAMP法を用いて増幅する増幅工程と、を備えたウイルス遺伝子の検出方法により上記課題を解決する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、ウイルス遺伝子の検出方法に関し、特に簡易に高感度でウイルス遺伝子を検出し得るウイルス遺伝子の検出方法に関する。
輸血用血液や血液製剤の安全性を確保するため、献血血液に対して、通常、微生物検査が行なわれる。このような検査としては、血液中のウイルス抗原やウイルス関連抗体の有無を調べる血清学的検査が主に行われている。1999年から、血清学的検査で陰性となった血液に対して、2次検査として核酸増幅検査(Nucleic acid Amplification Testing:NAT)が行われている。NATとは、ウイルス遺伝子の一部の核酸を取り出し(抽出)、その核酸を増やし(増幅)、増えた核酸を検出することでウイルス遺伝子の有無を確認する検査法のことである。NATを使用したウイルス検査法は、ウイルスの持つ遺伝子を数万倍以上に増幅して検出するため、従来の血清学的な検査法に比べ、極めて感度の高い検査法である。この検査で再度陰性になった献血血液が、輸血用血液や血液製剤の原料などとして使用される。
このようなNATの導入により、献血血液を原料とした輸血用血液や血液製剤等の安全性は以前よりも向上してきたが、輸血後の感染症発生率は依然として0%に達していない。通常、NATを用いた2次検査では1人から例えば約4μlといった微少量の血液を採取し、約50人分を1つにまとめて分析を行っている。このため、感染直後のようにウイルス量が極端に少ない場合などには、検査に回した血液約4μl中にウイルスが含まれない確率が高い。その場合、献血によって集められた血液中にウイルスが存在していても検出されずに輸血感染する恐れがある。
特開2002−262866号公報
このような背景から、本発明者らは血液中に含まれるウイルス数が極端に少ない場合でも、簡便かつ短時間にウイルスを検出できる検査法の開発を行なってきた。特許文献1(特開2002−262866号公報)には、導電性中空糸膜を用いたウイルスの検出方法が開示されている。
導電性中空糸膜は捕捉能力と導電性を併せ持つため、この膜を用いて試料を吸引するだけで、試料中に存在するウイルスを膜に捕捉でき、さらに遺伝子の電気的特性を利用することでウイルスから遺伝子の分離を簡便かつ迅速に行うことができる。したがって、この膜を用いることで現行のNATでは検出できない低濃度のウイルスでも試料の吸引量を増やすことで膜にウイルスを濃縮することができるため、原理的にウイルスの検出が可能になる。
現在、核酸増幅法としては、Polymerase Chain Reaction(PCR)法が広く普及している。しかしながら、かかる方法では試料中に含まれる夾雑物により遺伝子の増幅反応を阻害してしまう場合がある。したがって、PCR法を用いた場合には、増幅反応の前に分離・精製等の煩雑な前処理を行う必要がある。
そこで、本発明は、分離・精製等の前処理を必要とせず、簡易に高感度で検出し得るウイルスの検出方法を提供することを目的としている。
上記課題を解決するために、本発明は、ウイルス浮遊液からウイルス遺伝子を検出する方法であって、導電性中空糸膜をウイルス浮遊液に浸漬し、当該ウイルス浮遊液中のウイルスを前記導電性中空糸膜に捕捉する捕捉工程と、前記捕捉されたウイルスの被膜を溶解し、ウイルス遺伝子を遊離する溶解工程と、前記溶解工程後、前記導電性中空糸膜に、電気的処理または物理的処理の少なくとも一方を行い、前記ウイルス遺伝子を分離する遺伝子分離工程と、分離した遺伝子をLAMP法を用いて増幅する増幅工程と、を備えたウイルス遺伝子の検出方法を提供するものである。
前記電気的処理は、前記導電性中空糸膜が陰極となるように当該導電性中空糸膜に通電して電気泳動を行わせる電気泳動工程を含んでもよい。
前記電気泳動工程は、前記陰極領域と、陽極領域との間に半透膜を配置して、前記ウイルス遺伝子を陰極領域の緩衝液中に泳動させるものであることが好ましい。
前記増幅工程は、前記電気泳動工程により得られた緩衝液から前記ウイルス遺伝子を単離又は精製せずに使用して前記ウイルス遺伝子の増幅を行うことができる。
前記緩衝液の量が、前記ウイルス浮遊液の同量以下、特に1/10以下、好ましくは1/100以下であることが好ましい。
前記ウイルス浮遊液中のウイルス遺伝子の濃度が、500PFU/ml未満、例えば50PFU/ml以上500PFU/ml未満、さらには5PFU/ml以上500PFU/ml未満であることができる。
前記物理的処理は、前記吸引工程で吸引したウイルス浮遊液を、前記導電性中空糸膜を介して逆に押出す工程を含むものであることができる。
また、前記電気処理と物理的処理は同時に行われてもよい。
本発明によれば、導電性中空糸膜を用いたウイルス遺伝子の抽出法を用い、また、LAMP法を用いているので、ウイルス遺伝子の濃縮を行うことができ、ウイルス遺伝子の検出感度を飛躍的に上げることが可能となる。しかも、ウイルス遺伝子を濃縮した後の溶液をそのまま単離・精製等の操作をすることなく、LAMP法による増幅工程に用いることが可能となるので、さらに検出時間を短縮することが可能となり、簡便性に優れる。また、従来長時間かかったウイルス遺伝子の検出を短時間で行うことが可能となる。
本発明のウイルス遺伝子の検出方法は、ウイルス浮遊液からウイルス遺伝子を検出する方法であって、(1)導電性中空糸膜をウイルス浮遊液に浸漬し、当該ウイルス浮遊液中のウイルスを前記導電性中空糸膜に捕捉する捕捉工程と、(2)上記捕捉されたウイルスの被膜を溶解し、ウイルス遺伝子を遊離する溶解工程と、(3)上記溶解工程後、前記導電性中空糸膜に、電気的処理または物理的処理の少なくとも一方を行い、上記ウイルス遺伝子を分離する遺伝子分離工程と、(4)分離した遺伝子をLAMP法を用いて増幅する増幅工程と、を含むものである。
以下、各工程について順次説明する。
まず、上記(1)〜(3)の工程について、当該工程に好適に用いられるウイルス遺伝子の抽出装置の一例を挙げながら説明する。
図1は、導電性中空糸膜にウイルスを捕捉する捕捉装置の模式図であり、図2は、図1の一部拡大図、図3は、導電性中空糸膜によるウイルス遺伝子分離の概略図導電性中空糸膜に捕捉されたウイルス遺伝子を取り出す遺伝子取出装置の模式図である。
本発明に用いられるウイルス遺伝子の抽出装置は、導電性中空糸膜にウイルスを捕捉する捕捉装置10(図1参照)と、導電性中空糸膜に捕捉されたウイルス遺伝子を取り出す遺伝子取出装置40(図4参照)と、を備えて構成されている。
図1及び図2に示す捕捉装置10は、ウイルス浮遊液20を収容する容器11と、容器11に浸漬されて、ウイルス浮遊液20中のウイルスを捕捉する導電性中空糸膜モジュール12と、導電性中空糸膜モジュール12に接続されたシリコンチューブ13と、シリコンチューブ13を介して導電性中空糸膜モジュール12に接続され、導電性中空糸膜モジュール12を介してウイルス浮遊液20を吸引可能なポンプ14と、吸引された溶液を回収する回収容器15と、を備えて構成されている。
容器11は、導電性中空糸膜モジュール12及びウイルス浮遊液20を収容可能であれば、特に限定されるものではなく、その形状やサイズ等は、ウイルス遺伝子の抽出の規模等により適宜決定することができる。
導電性中空糸膜モジュール12は、例えば長さ約2cmに切断された導電性中空糸膜の一端に、通電用のリード線を低融点ハンダで固定し、これに溶液吸引用ノズルを接続し、エポキシ樹脂で固定した構造を備えている。この導電性中空糸膜モジュール12は、溶液を吸引する際に、溶液が導電性中空糸膜を介して吸引されるように、もう一端がエポキシ樹脂により封じられている。なお、この処理により、導電性中空糸膜の有効長は、約1cmとなった。
本例では導電性中空糸膜として、一般の簡易浄水器等で使用されているポリプロピレン製中空糸膜の表面に金属(例えば、金:Au)を無電解メッキ法により被覆したものを使用する。
なお、本例では導電性中空糸膜の形状は、円筒状(例えば、外径約1.8mm、内径約1.2mm)とした。この導電性中空糸は、膜の外側から数十μm程度まで、ポリプロピレン繊維に金属が被覆されており、これより内側は、中空糸膜本来のポリプロピレン層とした。このポリプロピレン層及び金属層は、スポンジ状のポア(例えば、ポアサイズ約0.1μm)を有している。また、この導電性中空糸膜の抵抗値は、約0.2〜1.0Ω/cmとした。
遺伝子取出装置40は、電気泳動槽41と、電気泳動槽41内を2つの領域に分割する半透膜42と、電気泳動槽41の半透膜42で分割された一方に配置された陽極43と、電気泳動槽41の半透膜42で分割された他方に配置された陰極44と、陽極43及び陰極44に接続された通電装置45と、捕捉装置10にてポンプ14で吸引した溶液を、導電性中空糸膜モジュール12を介して逆に押し出す機構46と、を備えて構成されている。
陽極43としては、例えば、白金線を使用することができる。また、陰極44は、前述した捕捉装置10で遊離されたウイルス遺伝子が捕捉されている導電性中空糸膜モジュール12から構成した。
捕捉装置10にてポンプ14で吸引した溶液を、導電性中空糸膜モジュール12を介して逆に押し出す機構46は、導電性中空糸膜モジュール12に、前述したシリコンチューブ13、ポンプ14、回収容器15を接続したものであり、ポンプ14を逆に作動させることにより、前記溶液を逆に押し出すよう構成している。
このようなウイルス遺伝子の抽出装置を用いて、以下の方法でウイルス遺伝子の抽出を行う。
(捕捉工程)
先ず、ウイルス浮遊液20を例えば約1ml入れた容器11に、シリコンチューブ13を介してポンプ(ペリスタポンプ)14に接続された導電性中空糸膜モジュール12を浸し、例えば平均速度約0.6ml/minで、ウイルス浮遊液20の吸引を行う。この操作により、ウイルス浮遊液20中のウイルスは導電性中空糸膜に捕捉される。
ここで本発明に用いられるウイルスとしては、特に限定するものではないが、捕捉性の観点から、中空糸膜モジュールの孔径以上の大きさを有するものが好ましく用いられる。
具体的には、B型肝炎ウイルスと同様なDNAウイルスがとして、単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus type 1 : HSV)が挙げられる。このウイルスは、危険性が比較的低く、培養が容易である。カプシド(タンパクの殻)配列が正20面体を形成し、その中心に核酸(DNA)を有する正20面体ヌクレオカプシド構造を成している。さらにその外側に脂質と糖タンパクから構成されているエンベロープで覆われている。大きさは、外径約150〜200nmである。
また、ウイルス浮遊液20中のウイルス遺伝子の濃度は、本発明の目的を達成し得る限り特に限定するものではない。ウイルス遺伝子の濃度としては、例えば、500PFU/ml未満、好ましくは50PFU/ml以上500PFU/ml未満、さらには5PFU/ml以上500PFU/ml未満が挙げられる。このようなウイルス遺伝子の濃度でも、本発明によれば検出が可能である。
(溶解工程)
次に、ウイルスを捕捉した導電性中空糸膜モジュール12をウイルス溶解液に約10秒間浸し、化学的にウイルス被膜(エンベロープ及びカプシド)を溶解する。このようなウイルス溶解液として、公知のものが使用でき、例えば1%SDSと10mM NaOHの混合溶液が挙げられる。このようにして、導電性中空糸膜モジュール12に捕捉されたウイルス遺伝子(核酸)を遊離させる。
(遺伝子分離工程)
次いで、この遊離されたウイルス遺伝子(核酸)が捕捉されている導電性中空糸膜モジュール12が陰極44となり、白金線陽極43となるように、これらを電気泳動槽41にセットする。次に、ウイルスを濃縮する際に導電性中空糸膜モジュール12を介して吸引した溶液を逆に押出すと同時に、陽極43及び陰極44に電界を印加して電気泳動を行う。この時の電界強度としては、例えば2V/cm〜4V/cm、印加時間としては、例えば5分、10分、15分等が挙げられる。
ここで、前述したように、電気泳動槽41内の、導電性中空糸膜モジュール12が配置された陰極領域と、白金線が配置された陽極領域との間には、半透膜42が存在するため、抽出されたウイルス遺伝子(核酸)は、陰極領域のみに存在する。
本発明では、ウイルス遺伝子が取り出される陰極領域の緩衝液の量は、特に限定するものではないが、検出感度をより向上させ得るという観点からは、使用するウイルス浮遊液の同量以下、特に1/10以下、さらに好ましくは1/100以下であってもよい。
(増幅工程)
電気泳動後、陰極領域の溶液約100μlのうち2μlを用い、この中に含まれる遺伝子の525塩基対(base pairs : bp)の部位をLAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)によって増幅する。その後、例えばゲル電気泳動法によって分画し、遺伝子抽出の有無を視覚的に確認する。
なお、LAMP法は、栄研化学(株)社が開発した核酸増幅法である。LAMP法は、標的遺伝子の6箇所の領域に対して4種類のプライマを設定して、鎖置換反応を利用し一定温度で反応させることを特徴とする。反応はサンプルとなる遺伝子、プライマ、鎖置換型DNA合成酵素、基質等を同一の反応チューブに混合し、一定温度(65℃付近)で保温することにより、遺伝子の増幅から検出までを1ステップの工程で行うことができる。増幅効率が高く、DNAを15分〜1時間で109〜1010倍に増幅することが可能である。その極めて高い特異性から、増幅産物の有無で目的とする標的遺伝子配列の有無を判定することができる。また、増幅副産物であるMg227(白色沈殿物質)の白濁の有無によっても標的遺伝子配列の有無を判別できる。
また、LAMP法を用いることにより、上記工程により得られたウイルスを含む緩衝液からウイルス遺伝子を単離又は精製せずに、ウイルス遺伝子の増幅反応を行うことができる。
[実験材料]
(1)導電性中空糸膜
本実施例では、外径1.8mm、内径1.2mmの円筒形の導電性中空糸膜を用いた。導電性中空糸膜は、ポリプロピレン製多孔質中空糸膜に金属Auを無電解メッキ法にて化学的に被覆したものであり、ポリプロピレン層と金属層の2層構造になっている。金属層は膜表層から10〜15%(数十μm)の範囲であり、膜の細孔径は100nmである。
(2)Herpes simplex virus-1(HSV-1)
HSV-1 (HSV-HF RK-14) は神奈川県立衛生短期大学から分与を受けた。
[実験手法]
(1)試料調製
HSV-1を滅菌水で5,000,000〜0 PFU/mlに調整した。また、HSV-1と血清を混合し、血液保存液を添加したものを以下のように調整して模擬血清試料とした。血清は、ヒトの血液試料の代わりにウシ血清(Calf Serum:CS)で模擬し、血液保存液には、現在多用されているACD-A(acid-citrate-dextrose)液およびCPD(citrate-phosphate-dextrose)液を用いた。
各血液保存液の組成について、下記表1に示す。
表1 ACD−A及びCPDの組成
ACD-A(acid-citrate-dextrose) 100ml
酸性クエン酸ナトリウム 2.200g
グルコース 2.200g
クエン酸 0.800g
CPD(citrate-phosphate-dextrose) 100ml
酸性クエン酸ナトリウム 2.200g
クエン酸 0.327g
グルコース 2.320g
リン酸二水素ナトリウム二水和物 0.251g
まず、HSV-1の濃度が5,000〜0 PFU/mlになるように、各濃度のHSV-1と血清を9:1の割合で混合した。次に、HSV-1を含む血清10mlに対して、ACD-A液とCPD液をそれぞれ1.5ml、1.4mlの割合で添加した。
(2)実験手法
<遺伝子分離>
図3に示した導電性中空糸膜を介してHSV-1を含む試料を吸引し、HSV-1を膜に捕捉した。続いて、膜をアルカリSDS溶液(1%SDS、0.2M NaOH)に5秒間浸し、化学的にウイルス被膜を溶解した。半透膜で囲まれた遺伝子分離用緩衝液(1% Glycerin、1×TAE buffer)中に導電性中空糸膜を配置し、白金電極を陽極とし、導電性中空糸膜を陰極として3.5 V/cm、5分間の条件で電界を印加した。DNAはその電気的特性により負に帯電しやすいため、陽極側に引き寄せられ、遺伝子分離用緩衝液中に遺伝子が分離される。
<核酸増幅>
遺伝子分離用緩衝液から2μlを採取し、LAMP法を用いて遺伝子の増幅を行った。エンドポイント濁度測定装置LA-100(テラメックス(株))を用いて、63℃、60分間の増幅反応後、80℃、2分で酵素を失活させた。なお、増幅方法については、栄研化学(株)社製DNA増幅試薬キットに付属の使用説明書に従って行った。
LAMP法に使用したプライマの配列は下記のとおりであり、これらのプライマは、単純ヘルペスウイルスUL41遺伝子の6領域と結合する。
・HSV1-FIP-03
GGTGTGATAGAGGTTGGCGCA-CGCCTACATTAACTCGGGTC
・HSV1-BIP-03
CGTGTACACCACGGACACTGAC-GATCGTGGGAATGTAGCAGG
・HSV1-F3-03
GTTCTGTATTCGCGTTCTCCG
・HSV1-B3-03
GGAACTGGGGGTAGCTCAT
なお、プライマの設計については、プライマ設計支援ソフトウェアPrimer Explorer(富士通株式会社提供)を用いて行った。
このプライマにより、単純ヘルペスウイルスUL41遺伝子の下記の配列を増幅した。
AACACGGTCGCGTA
<判定方法>
増幅産物の内の2μlをTAE buffer中の2%アガロースゲルで10 V/cm、50分の電気泳動を行った後,Ethidium Bromide(EtBr)を含むTAE bufferで10分間染色した.泳動後の増幅産物は,紫外線照射下で観察し,CCDカメラで撮影を行った.また,LA-100を用いて増幅副産物として産生するMg227(白色沈殿物質)の有無による簡易検出も行った。
[結果および考察]
(1)LAMP法の感度および増幅時間
本発明の検出方法に新たにLAMP法を導入したことにより、まずLAMP法の遺伝子増幅の限界を確認する必要がある。
そこで、図4に示したような5,000,000〜0 PFU/mlの各濃度のHSV-1を94℃で15分間煮沸し、ウイルス被膜を熱によって破壊することで、HSV-1のDNAを取り出した。煮沸によって得られたHSV-1のDNAを含む溶液をLAMP法の増幅反応液に2μl添加し、63℃、60分の増幅反応後、アガロースゲル電気泳動を行った。
なお、電気泳動によって、アガロースゲルのウェルから尾を引いたようなバンドが確認できれば、遺伝子が増幅されたことを示している。
図4に示すように増幅限界はHSV-1濃度 500 PFU/mlまでであった。この検出限界は、一般的に広く用いられているPCR法と同程度といえる。なお、増幅時間はPCR法が3〜4時間かかるのに対し、LAMP法は1時間であった。これより、核酸増幅にLAMP法を用いることで検査時間の短縮が可能であると考えられる。
(2)HSV-1を用いた基礎的検討
LAMP法を利用した導電性中空糸膜によるウイルス検査法を用いてウイルスの検出が可能か否かを確認した。
HSV-1濃度が、5,000〜0 PFU/ml(図5参照)になるように調製した試料を1ml吸引し、遺伝子分離用緩衝液1mlに遺伝子の分離を行った。
その結果、図5のようにHSV-1濃度500 PFU/ml以上の試料からHSV-1の検出が可能であった。この結果から、本法を用いてウイルスの検出が可能であることが確認できた。
なお、ここで、ポジティブコントロールは、LAMP法による遺伝子増幅反応が正常に行われたかを確認する目的で使用するものである。ここでは、ウイルス(HSV-1)を含む試料溶液を上記と同様の条件で加熱することによってウイルス被膜を破壊して得られたHSV-1遺伝子(DNA)を用いた。遺伝子バンドの出現により正常に増幅反応が行われていることが確認できる。
また、ネガティブコントロールは、LAMP法に使用した試薬自体にコンタミネーションが生じていないか(例:ウイルス遺伝子が含まれていないか)を確認する目的で使用するものである。ここでは、試料溶液を希釈する際に使用した滅菌蒸留水をネガティブコントロールとして用いた。遺伝子バンドが出現しなければ、コンタミネーションが生じていないことが確認できる。なお、以下の実験でも同様のものを使用する。
(3)HSV-1 DNAの濃縮
(2)の実験条件ではHSV-1のDNAを遺伝子分離用緩衝液1mlに分離した。LAMP法に必要なサンプル量は2μlであるため、分離した遺伝子の多くが無駄になる。そこで、遺伝子分離用緩衝液の量を100μlに減少させ、同様の実験を行なった。
その結果、図6に示すように、50PFU/mlからHSV-1の検出が可能になった。
なお、LAMP法に直接HSV-1のDNAを適用した場合の検出限界は500 PFU/mlであり、遺伝子分離用緩衝液の量を100μlに減少させることで検出限界が容易に10倍向上した。この結果は、試料を1ml吸引し、遺伝子分離用緩衝液100μlに遺伝子の分離を行ったことで、HSV-1 DNAが10倍に濃縮され、LAMP法に適用する遺伝子量が増加したためと考えられる。このことから以後の実験では、遺伝子分離用の緩衝液量は100μlとした。
(4)HSV-1の濃縮
(3)において検出限界が50 PFU/mlに改善されたが,血液1ml中にわずか50個程度のウイルスが存在していても輸血時に感染する可能性がある。
そこで、試料の吸引量を増やして膜に捕捉するウイルスを増加させ、ウイルスの濃縮を行なった。
吸引量を先の10倍である10mlとして同様の実験を行った。
その結果、図7に示すように、検出限界は吸引量1mlの場合に比べ10倍向上し、5 PFU/mlとなった。これは、試料の吸引量増加によって膜にウイルスが濃縮されることで、検出限界が向上したものと考えられる。ここでは試料の吸引量10 mlまでの結果しか示していないが、試料の吸引量を増やすことで、さらに低濃度のウイルスも検出できる可能性があることを示している。現行のNATによる2次検査では500〜1,000 個/mlが検出限界であるのに対し(千代田晨他、Jap J Transfus Med Vol.47, No.647(6), pp.845-848,2002参照)、本法は同等以上の検出感度を持っているといえる。
(5)模擬血清試料を用いた基礎的検討
臨床材料を模擬して、血清と血液保存液を混合した模擬血清試料を用い実験を行なった。通常、血清などの血液成分が核酸増幅に混入すると増幅反応が阻害される恐れが高い。
LAMP法に、HSV-1 DNAと血清を混合し、各血液保存液を添加したものを直接適用(導電性中空糸膜によるウイルス抽出をせずに適用)した際は、図8に示すようにHSV-1 DNAを増幅することができなかった。
しかし、LAMP法を利用した導電性中空糸膜によるウイルス検査法を用いることで、検出限界は 図9、10に示すように試料の吸引量が10 mlで、共に5 PFU/mlまで血液成分等の影響を受けることなくHSV-1が検出できた。
これは、試料の吸引時に膜の細孔径(100 nm)を越えるウイルスは膜に捕捉されるが、核酸増幅の阻害となる血清および血液保存液は膜の細孔径よりも小さいため、試料の吸引時には膜を通過する。そのため遺伝子分離工程には、血清および血液保存液はほとんど混入せず、その後のLAMP法による核酸増幅には影響を与えなかったものと考えられる。模擬血清試料中からも感度良くウイルスを検出できたことから、導電性中空糸膜を利用したウイルス検査法は臨床の場でも十分使用可能であることが示唆された。
(6)検査時間
検査時間は、ウイルスの捕捉と遺伝子分離に20分、核酸増幅に60分、検出および判定に60分を要し、合計で2時間20分となった。なお、増幅副産物であるMg227(白色沈殿物質)の濁度を指標とした簡易な検出法を用いることで、1時間20分に短縮できた。
現行のNAT(例えば、関口定実他、臨床検査,43,pp255−263,1999に記載の方法)では、試料の採取から判定までに5〜6時間かかる。これに対し、本検査法を用いて実際の血液試料を検査する場合は、遠心分離(捕捉前工程に行う献血血液(全血)から血清成分を分離するための操作)による30分間の前処理が必要になるものの、それを考慮しても約1時間50分で行うことができる。よって、現行のNATと比べて検査時間を半分以下に短縮することができる。
[比較試験例]
比較試験例として、PCR法を用いた増幅反応を行った。
導電性中空糸膜によるウイルス抽出後の緩衝液(遺伝子分離用緩衝液)をそのまま用いてPCR法により増幅した以外は、上記と同様に試験を行った。結果を図11に示す。図11に示すように、HSV-1の濃度がいずれの場合においても遺伝子バンドは検出されなかった。したがって、PCR法では、導電性中空糸膜によるウイルス抽出後の緩衝液をそのまま用いても増幅不可能であることがわかった。なお、供試試料としては、HSV-1を含む血清にACD-A液を加えたものを用いた。
[結論]
LAMP法を利用した導電性中空糸膜によるウイルス遺伝子の検出方法を構築し、これを用いてウイルスを検出できるか否かを確認した後、検出感度と検査時間の基礎的検討を行った。その結果、本検査法を用いてウイルス遺伝子の検出が可能であることが確認された。また、吸引量1ml、遺伝子分離用緩衝液100μlとした場合、試料中のHSV-1濃度50 PFU/ml以上で検出可能であった。さらに吸引量を10mlに増加することで、5 PFU/ml以上の濃度でも検出可能となった。なお、検査時間は遠心分離による前処理を考慮しても、2時間50分で行え、増幅副産物の濁度を指標とすれば、さらに1時間の短縮ができた。
また、従来のPCR法を用いた場合、中空糸膜分離後の溶液をそのまま用いて遺伝子増幅を行うことはできなかったが、LAMP法によれば、中空糸膜分離後の溶液を精製することなくそのまま用いて遺伝子増幅を行うことが可能であった。したがって、煩雑な精製操作をせずに遺伝子増幅を行うことが可能となるので、ウイルス遺伝子の検出を簡便にしかも短時間で行うことが可能となる。
以上のように、本法は現行のNATと同等以上の検出感度を持ち、その上、検査時間が半分以下であったことから、本法を用いることで感染の伝播防止と、感染者への迅速な対応に大きく寄与するものと考えられる。
図1は、導電性中空糸膜にウイルスを捕捉する捕捉装置の模式図である。 図2は、図1の一部拡大図である。 図3は、導電性中空糸膜によるウイルス遺伝子分離の概略図導電性中空糸膜に捕捉されたウイルス遺伝子を取り出す遺伝子取出装置の模式図である。 図4は、LAMP法の感度を測定した結果を示す図である。 図5は、HSV−1の検出結果(ウイルス浮遊液1mlに対し、遺伝子分離用緩衝液1mlの場合)を示す図である。 図6は、HSV−1の検出結果(ウイルス浮遊液1mlに対し、遺伝子分離用緩衝液100μl)を示す図である。 図7は、HSV−1の検出結果(ウイルス浮遊液10mlに対し、遺伝子分離用緩衝液100μl)を示す図である。 図8は、LAMP法に、直接血清を含む溶液を適用した場合の検出結果を示す図である。 図9は、ACD−A含有ウシ血清中のHSV−1の検出を行った結果を示す図である。 図10は、CPD含有ウシ血清中のHSV−1の検出を行った結果を示す図である。 図11は、PCR法を適用した場合の検出結果を示す図である。
符号の説明
10・・・捕捉装置、11・・・容器、12・・・導電性中空糸膜モジュール、13・・・シリコンチューブ、14・・・ポンプ、15・・・回収容器、20・・・ウイルス浮遊液、40・・・遺伝子取出装置、41・・・電気泳動槽、42・・・半透膜、43・・・陽極、44・・・陰極、45・・・通電装置

Claims (8)

  1. ウイルス浮遊液からウイルス遺伝子を検出する方法であって、
    導電性中空糸膜をウイルス浮遊液に浸漬し、当該ウイルス浮遊液中のウイルスを前記導電性中空糸膜に捕捉する捕捉工程と、
    前記捕捉されたウイルスの被膜を溶解し、ウイルス遺伝子を遊離する溶解工程と、
    前記溶解工程後、前記導電性中空糸膜に、電気的処理または物理的処理の少なくとも一方を行い、前記ウイルス遺伝子を分離する遺伝子分離工程と、
    分離した遺伝子をLAMP法を用いて増幅する増幅工程と、
    を備えたウイルス遺伝子の検出方法。
  2. 前記電気的処理は、前記導電性中空糸膜が陰極となるように当該導電性中空糸膜に通電して電気泳動を行わせる電気泳動工程を含む、請求項1に記載のウイルス遺伝子の検出方法。
  3. 前記電気泳動工程は、前記陰極領域と、陽極領域との間に半透膜を配置して、前記ウイルス遺伝子を陰極領域の緩衝液中に泳動させる、請求項2に記載のウイルス遺伝子の検出方法。
  4. 前記増幅工程が、前記電気泳動工程により得られた緩衝液から前記ウイルス遺伝子を単離又は精製せずに使用して前記ウイルス遺伝子の増幅を行う、請求項3に記載のウイルス遺伝子の検出方法。
  5. 前記緩衝液の量が、前記ウイルス浮遊液の同量以下である、請求項3又は請求項4のいずれかに記載の検出方法。
  6. 前記緩衝液の量が、前記ウイルス浮遊液の1/10以下である、請求項5に記載の検出方法。
  7. 前記ウイルス浮遊液中のウイルス遺伝子の濃度が、500PFU/ml未満である、請求項5又は請求項6に記載の検出方法。
  8. 前記ウイルス浮遊液中のウイルス遺伝子の濃度が、5PFU/ml以上500PFU/ml未満である、請求項7に記載の検出方法。

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