JP2005217187A - 希土類磁石の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 十分に優れた耐食性を有する希土類磁石を得るための希土類磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】 上記課題を解決する本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類元素を含有する磁石素体の表面に、ガス中に分散された誘電体材料を含有するエアロゾルを吹き付けるエアロゾル吹付工程を経て、その磁石素体の表面上に誘電体材料を含有する保護層を形成するものである。
【選択図】 なし
【解決手段】 上記課題を解決する本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類元素を含有する磁石素体の表面に、ガス中に分散された誘電体材料を含有するエアロゾルを吹き付けるエアロゾル吹付工程を経て、その磁石素体の表面上に誘電体材料を含有する保護層を形成するものである。
【選択図】 なし
Description
本発明は、希土類磁石の製造方法、特に表面上に保護層を設けた希土類磁石の製造方法に関するものである。
近年、25MGOe以上の高エネルギー積を示す永久磁石として、いわゆるR−Fe−B系磁石(RはNdなどの希土類元素を示す。)が開発されており、例えば特許文献1では焼結により形成されるR−Fe−B系磁石が、また特許文献2では、高速急冷により形成されるものが開示されている。しかしながら、R−Fe−B系磁石は、主成分として比較的容易に酸化される希土類元素及び鉄を含有するため、その耐食性が比較的低く、そのことに起因して、製造時及び使用時に磁石としての性能が劣化すること、及び/又は、製造された磁石の信頼性が比較的低いこと等の課題があった。このようなR−Fe−B系磁石の耐食性を改善することを目的として、これまでに、例えば、特許文献3〜9に記載されているように、種々の保護膜をその磁石素体表面に形成する提案がなされている。
より具体的には、例えば特許文献3においては、希土類・ボロン・鉄を主成分とする永久磁石の耐酸化性の改善を意図して、R(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)8原子%〜30原子%、B2原子%〜28原子%、Fe42原子%〜90原子%を主成分とし主相が正方晶相からなる永久磁石体表面に、耐酸化めっき層を被覆してなる永久磁石が提案されている。この特許文献3には、Ni、Cu、Zn等の耐酸化性を有する金属または合金のめっき、あるいはこれらの複合めっきが開示されている。
また、特許文献10には、希土類・ボロン・鉄を主成分とする永久磁石の耐食性改善を意図して、磁石素体の表面に形成された金属層の表面に、湿式酸化法を用い、クロメート被膜を形成した旨が記載されている。
さらに特許文献11には、希土類・ボロン・鉄を主成分とする永久磁石の耐酸化性改善を意図して、磁石素体の表面に、イオンプレーティング法などを用いて、Al2O3、Cr2O3などの金属酸化物からなる保護層を設けたものが開示されている。
特開昭59−46008号公報
特開昭60−9852号公報
特開昭60−54406号公報
特開昭60−63901号公報
特開昭60−63902号公報
特開昭61−130453号公報
特開昭61−166115号公報
特開昭61−166116号公報
特開昭61−270308号公報
特開平7−302705号公報
特開昭61−150201号公報
しかしながら、本発明者らは、上記特許文献1〜11に記載のものを始めとする従来の希土類元素を含有する希土類磁石について詳細に検討を行ったところ、このような従来の希土類磁石は、十分な耐食性を有していないことを見出した。すなわち、例えば、特許文献3に記載されている上述の耐酸化めっき層を備える希土類磁石、特許文献10に記載されているクロメート被膜を設けた希土類磁石あるいは特許文献11に記載されている金属酸化物からなる層を設けた希土類磁石に対して、JIS−C−0023に規定されている塩水噴霧試験を行うと、その希土類磁石の磁石素体に腐食が認められることを本発明者らは見出した。
ここで、「塩水噴霧試験」とは、例えば35℃程度の温度条件下、5±1質量%NaCl水溶液(pH=6.5〜7.2)を、微細な湿った濃い霧状態で24時間試料に接触させ、試料の腐食状態を確認することによって行われる。塩水噴霧試験によって磁石素体に腐食が認められる要因としては、保護層(耐酸化めっき層)におけるピンホールの生成などが考えられる。希土類磁石の保護層にピンホールが生成すると、そのピンホールから雰囲気中の腐食要因物質が侵入し、磁石素体を腐食させる因子となる。特に希土類磁石は、僅かな腐食要因物質の存在に起因して極めて容易に腐食するので、塩水噴霧試験によって磁石素体に腐食が認められるような従来の希土類磁石は、実際の使用環境においても、必ずしも耐食性に十分優れているものとはいえない。
また、特許文献10においては、塩水噴霧試験に対して所定の耐性を示す旨の記載はあるものの、実際の使用環境においては必ずしも優れた耐食性を示さないことが明らかになった。
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、十分に優れた耐食性を有する希土類磁石を得るための希土類磁石の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類元素を含有する磁石素体の表面に、ガス中に分散された誘電体材料を含むエアロゾルを吹き付けるエアロゾル吹付工程を経て、その磁石素体の表面上に誘電体材料を含有する保護層を形成することを特徴とする。
本明細書において、「エアロゾル」とは、ガス中に浮遊して又は無視できる沈降速度を有して存在する固体粒子をいう。
かかる製造方法により得られる希土類磁石は、磁石素体と、その磁石素体の表面上に形成されてなる誘電体材料を含有する保護層とを備えたものとなる。本発明者らは、この希土類磁石が十分に優れた耐食性を有する要因を、現在のところ以下のように考えている。ただし、要因はこれらに限定されない。
すなわち、本発明に係るエアロゾル吹付工程においては、誘電体材料からなるエアロゾルを磁石素体の表面に吹き付けることにより、そのエアロゾルを比較的高速で基板に衝突させて、更に微細な誘電体粒子を生じさせる。又は、エアロゾルを基板に衝突させて、その衝撃により変形させる。これらにより、上述の更に微細な誘電体粒子及び/又はエアロゾルには、活性な状態にある新生面が生じると推定される。このような新生面を有するエアロゾル同士は互いに接触することにより、特に新生面の部分同士で十分に強く接合する。また、このような新生面を有するエアロゾルが磁石素体の表面に接することにより、そのエアロゾルは、特に新生面の部分で磁石素体に十分に強く密着すると考えられる。その結果、得られる希土類磁石は、エアロゾル同士の十分に強い接合により得られる緻密性の十分に高い保護層が、磁石素体の表面上に十分強く密着してなるので、ピンホール、又は保護層と磁石素体との剥離などに起因する腐食が十分に抑制されると考えられる。
また、従来の希土類磁石の製造方法において、誘電体材料を含有し、緻密で剥離し難くクラック等も生じ難い保護層を形成しようとすると、スパッタ法等の気相成長法では、高価でメンテナンスコストがかかる成膜装置を用いる減圧条件下で保護層の成膜を行う必要があった。また、ゾルゲル法等の液相成長法では、保護層の緻密性、難剥離性、難クラック性等を確保するために、保護層を形成する装置の調整が非常に困難であった。その結果、これらの従来の希土類磁石の製造方法を用いると、量産性が十分でない傾向にあり、さらには希土類磁石の製造コストも比較的高くなる傾向にあった。本発明の希土類磁石の製造方法によると、比較的保護層を成膜する条件の調整が容易であり、しかも大気圧条件下で保護層を形成することができるため、量産性に優れる傾向にあり、さらには、希土類磁石の製造コストを低減できる傾向にある。
さらに、従来の希土類磁石の製造方法においては、誘電体材料を含有する緻密で剥離し難い保護層を形成しようとすると、磁石素体を加熱等して、表面を活性状態とし、保護層を形成する必要があった。しかしながら、磁石素体を加熱すると、得られる希土類磁石の磁気特性(保磁力、残留磁束密度など)が低下する傾向にある。また、保護層中に熱応力が蓄積され、保護層におけるクラック発生の原因となり得る。このため、磁石素体が本来有する比較的高い磁気特性の維持と、耐食性の向上とを同時に達成するのは困難な傾向にあった。本発明の希土類磁石の製造方法によると、上述の要因等により、磁石素体を加熱しなくても、十分に緻密で、磁石素体と十分に強く密着した保護層を得ることができると推定される。したがって、磁石素体が本来有する比較的高い磁気特性を確保しつつ、しかも耐食性の向上した希土類磁石を形成できる。
また、本発明により得られた希土類磁石は、エアロゾル同士の強固な接合に起因して、その使用中においても、保護層にクラックやピンホールが生じ難い。したがって、そのような観点からも、耐食性に一層優れた希土類磁石であるといえる。
本発明の希土類磁石の製造方法は、エアロゾル吹付工程において、エアロゾルの吹付速度が、50〜600m/秒であると好ましい。ここでエアロゾルの「吹付速度」とは、吹き付けられたエアロゾルが磁石素体に衝突する直前の速度をいう。このエアロゾルの吹付速度が、上記範囲内にあると、得られる希土類磁石の耐食性がより向上する傾向にある。すなわち、エアロゾルの吹付速度が50m/秒より小さいと、エアロゾルの破砕及び/又は変形が生じ難く、新生面が現れ難い傾向にあるため、上述したようなエアロゾル同士の接合若しくは保護層と磁石素体との強い密着性が成し遂げられないので、十分な耐食性が得られない傾向にあると考えられる。また、エアロゾルの吹付速度が450m/秒より大きいと、一旦形成した保護層が、エアロゾルの衝突により破砕される傾向にあり、緻密で難剥離性を有する保護層を得難くなるため、十分な耐食性が得られない傾向にあると推定される。
さらに、エアロゾルの吹付速度をかかる範囲に調整することにより、磁石素体や形成中の保護層へのエアロゾルの衝突に伴い熱エネルギーが発生しても、その熱エネルギーが磁石素体の磁気特性に影響を与えることは抑制される傾向にある。
本発明の希土類磁石の製造方法は、エアロゾル吹付工程において、磁石素体の表面に形成された変質層を除去するように、エアロゾルを所定の第1条件で磁石素体の表面に吹き付けた後、磁石素体の表面上に保護層を形成するように、エアロゾルを所定の第1条件とは異なる所定の第2条件で磁石素体の表面に吹き付けると好ましい。
希土類元素を含有する磁石素体は、通常、その磁石素体の加工時又は加工後の保存時などに生じた変質層をその表面に有している。この変質層は、加工又は保存雰囲気が大気である場合は通常酸化層であり、特に磁石素体中の希土類元素リッチ相が酸化することによって生じたものである。このような変質層の上から誘電体材料を含有する保護層を形成しようとすると、それらの間の密着性が、磁石素体が本来含有する材料自体とエアロゾルの誘電体材料との間の密着性に比較して低くなる傾向にある。上述した本発明の好ましい希土類磁石の製造方法によると、保護層を形成する前に、上記変質層を除去するので、得られる希土類磁石の磁石素体と保護層との間の密着性はさらに向上し、耐食性に一層優れる傾向にある。
なお、「変質層」とは、磁石素体が晒される環境などの影響により、磁石素体の表面付近の構成材料が変質してなる層をいい、上述した酸化層の他、磁石素体が晒される環境によっては、硫化層若しくは窒化層などとして形成されている場合もあり、いわゆる不動態層として形成されている場合もある。
より好ましくは、上記第1条件が、磁石素体の表面に形成された変質層を除去するように設定された所定の第1エアロゾル吹付速度を含み、第2条件が、磁石素体の表面上に保護層を形成するように設定された所定の第2エアロゾル吹付速度を含む。ここで、第1及び第2「エアロゾル吹付速度」とは、上述した「エアロゾルの吹付速度」と同様のものである。
この場合、変質層の除去後に保護層を形成するには、上記第1エアロゾル吹付速度が、上記第2エアロゾル吹付速度よりも大きくなるように設定すればよい。こうすることにより、より大きなエアロゾル吹付速度によるより高い衝突エネルギーを用いて変質層を粉砕・剥離して磁石素体から除去し、より小さなエアロゾル吹付速度によるより低い衝突エネルギーを用いて、磁石素体上に保護層を形成することができる。同様の観点から、第1エアロゾル吹付速度が、450〜600m/秒であり、第2エアロゾル吹付速度が、50〜450m/秒であると更に好ましい。第2エアロゾル吹付速度は、150〜400m/秒であると更に好ましい。
また、上記第1条件が、磁石素体の表面に形成された変質層を除去するように設定された、磁石素体の表面に対する所定の第1エアロゾル吹付角度を含み、第2条件が、磁石素体の表面上に保護層を形成するように設定された、磁石素体の表面に対する所定の第2エアロゾル吹付角度を含んでもよい。ここで磁石素体の表面に対する「吹付角度」とは、エアロゾルの磁石素体表面への入射角度をいい、より詳しくは、磁石素体の表面に垂直な面であって、エアロゾルの入射軸を面上に有する面における入射角度をいう。また、その吹付角度が90°以外の場合は、鋭角側の角度を指すものとする。すなわち、エアロゾル吹付角度は常に90°以下の角度を有することとなる。
この場合、変質層の除去後に保護層を形成するには、第1エアロゾル吹付角度が、第2エアロゾル吹付角度よりも小さくなるように設定するとよい。こうすることにより、まず小さな吹付角度でエアロゾルを磁石素体の表面に衝突させ、変質層を削るようにして、より効率的かつ確実に剥離できる。次いで、吹付角度をより大きく設定して、エアロゾルを磁石素体に叩きつけるように衝突させることで、保護層を一層有効に形成することができる。
第1エアロゾル吹付角度は、変質層を剥離可能な所定の角度の範囲内で連続的に変化してもよい。また、第2エアロゾル吹付角度は、保護層を形成できる所定の角度の範囲内で連続的に変化してもよい。さらに、第1エアロゾル吹付角度から第2エアロゾル吹付角度へ連続的に変化させることにより、変質層の剥離処理と保護層の形成処理とを連続して行ってもよい。いずれの方法を用いても、上記と同様の作用によって、保護層を一層有効に形成することができる。
上記吹付角度の変更の手段は任意に選定することができる。例えば、エアロゾルを吹き付けるノズルの位置、あるいは角度を、共にあるいは単独で変化させてもよい。また、磁石素体の角度を変化させてもよく、エアロゾルの入射方向に回転面を向けるよう、磁石素体を回転させてもよい。さらに、これらの手段のうち2以上の手段を組み合わせて同時に用いてもよい。いずれの方法を用いても、上記の吹付角度の変化を起こさせることが可能であり、保護層を一層有効に形成することができる。
エアロゾル吹付工程において用いられエアロゾルの一次粒子は、0.1〜5.0μmの平均粒径を有すると、上述のエアロゾル同士の接合及び磁石素体との密着性の観点から好ましい。
またエアロゾルが、Al2O3、SiO2、SiC、Si3N4、TiO2、TiC、TiN、MgO、ZrO2、ZnO、HfO2及びFe2O3からなる群より選ばれる1種以上の誘電体材料を含有すると好ましい。かかる誘電体材料を含有するエアロゾルを用いると、磁石素体へのダメージを与えることなく保護層を形成することができる傾向にあるので、磁石素体の磁気特性の低下や耐食性の向上阻害を防止できる傾向にある。しかも、その保護層は緻密性に一層優れ、しかも剥離し難くクラックも生じ難い傾向にあるので、耐食性を更に向上できる傾向にある。
本発明によれば、十分に優れた耐食性を有する希土類磁石を得るための希土類磁石の製造方法を提供することを目的とする。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
まず、本発明の好適な実施形態の希土類磁石の製造方法により得られる希土類磁石について説明する。
図1は、本実施形態に係る希土類磁石を示す概略斜視図であり、図2は図1の希土類磁石をI−I線により切断した際に現れる断面を模式的に表した図である。図1、2から明らかなとおり、この実施形態の希土類磁石100は磁石素体10と、その磁石素体10の表面の全体を被覆して形成される保護層20とから構成されるものである。
磁石素体10は、R、鉄(Fe)及びホウ素(B)を含有するものである。Rは1種以上の希土類元素を示すものであり、具体的には、長周期型周期表の3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイドからなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。ここで、ランタノイドは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)を指す。
上述した元素の磁石素体10中の組成は、該磁石素体10を焼結法により製造する場合、以下に説明するようなものであると好ましい。
Rとしては、上述したもののうち、Nd、Pr、Ho、Tbのうち1種以上の元素を含むと好ましく、さらに、La、Sm、Ce、Gd、Er、Eu、Tm、Yb、Yのうち1種以上の元素を含んでも好ましい。
磁石素体10中のRの含有割合は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して、8〜40原子%であると好ましい。Rの含有割合が8原子%未満では、結晶構造がα−鉄と同一構造の立方晶組織となるため、高い保磁力(iHc)を有する希土類磁石100が得られない傾向にある。また、Rの含有割合が30原子%を超えると、Rリッチな非磁性相が多くなり、希土類磁石100の残留磁束密度(Br)が低下する傾向にある。
磁石素体10中のFeの含有割合は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して、42〜90原子%であると好ましい。Feの含有割合が42原子%未満であると希土類磁石100のBrが低下する傾向にあり、90原子%を超えると希土類磁石100のiHcが低下する傾向にある。
磁石素体10中のBの含有割合は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して、2〜28原子%であると好ましい。Bの含有割合が2原子%未満であると結晶構造が菱面体組織となるため、希土類磁石100のiHcが不十分となる傾向にあり、28原子%を超えるとBリッチな非磁性相が多くなるため、希土類磁石100のBrが低下する傾向にある。
また、Feの一部をコバルト(Co)で置換して磁石素体10を構成してもよい。このような構成にすることにより、希土類磁石100の磁気特性を損なうことなく温度特性を改善できる傾向にある。この場合、置換後のFeとCoの含有割合は、原子基準でCo/(Fe+Co)が0.5以下であると好ましい。これよりもCoの置換量が多いと希土類磁石100の磁気特性が低下してしまう傾向にある。
さらに、Bの一部を炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)及び銅(Cu)からなる群より選ばれる1種以上の元素で置換して磁石素体10を構成してもよい。かかる構成にすることにより、希土類磁石100の生産性が向上し、その生産コストを削減できる傾向にある。この場合、これらC、P、S及び/若しくはCuの含有量は、磁石素体10を構成する全原子の量(数)に対して4原子%以下であると好ましい。C、P、S及び/若しくはCuの含有量が4原子%よりも多いと、希土類磁石100の磁気特性が劣化する傾向にある。
また、希土類磁石100の保磁力の向上、生産性の向上及び低コスト化の観点から、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)及び/又はハフニウム(Hf)等のうちの1種以上の元素を添加して、磁石素体10を構成してもよい。この場合、上記元素の添加量は磁石素体10を構成する全原子の量に対して10原子%以下とすると好ましい。これらの元素の添加量が10原子%を超えると希土類磁石100の磁気特性が低下する傾向にある。
磁石素体10中には、不可避的不純物として、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び/又はカルシウム(Ca)等が、磁石素体10を構成する全原子の量に対して3原子%以下の範囲内で含有されていてもよい。
磁石素体10は、図3に示すように、実質的に正方晶系の結晶構造を有する主相50と、希土類元素を比較的多く含む希土類リッチ相60と、ホウ素を比較的多く含むホウ素リッチ相70とを含有して形成されている。磁性相である主相50の粒径は1〜100μm程度であると好ましい。希土類リッチ相60及びホウ素リッチ相70は非磁性相であり、主に主相50の粒界に存在している。これら非磁性相60、70は、磁石素体10中に通常、0.5体積%〜50体積%程度含有されている。
保護層20は、磁石素体10の表面上に形成されたものであり、その構成材料としては、本発明の希土類磁石の製造方法に用いることができる誘電体材料であれば、特に限定されない。保護層20の構成材料としては、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化クロム(CrO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化ケイ素(SiO2)などの酸化物、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、炭化ホウ素(B4C)、炭化ケイ素(SiC)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化クロム(CrC2)、炭化タングステン(WC)、炭化モリブデン(MoC2)及び炭化タンタル(TaC)などの炭化物、窒化ホウ素(BN)、窒化チタン(TiN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化ニオブ(NbN)及び窒化タンタル(TaN)などの窒化物、ホウ素(B)、ホウ化アルミニウム(AlB2)、ホウ化ケイ素(SiB)、ホウ化チタン(TiB2)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化バナジウム(VB)、ホウ化ニオブ(NbB)、ホウ化タンタル(TaB2)、ホウ化クロム(CrB)、ホウ化モリブデン(MoB)及びホウ化タングステン(W2B)などのホウ化物、並びにこれらの混合物や多元系の固溶体、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸リチウム(Li2TiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5)、PZT及びPLZTなどの圧電性・焦電性セラミックス、サイアロン及びサーメットなどの高靭性セラミックス、水酸アパタイト及び燐酸カルシウムなどの生体適合性セラミックス及びフッ化セリウムなどが挙げられる。また、セラミック超微粒子以外でも、シリコン(Si)若しくはゲルマニウム(Ge)などのへき開性の強い脆性材料も、保護層20の構成材料として用いることができる。それらのなかでも、磁石素体10とより強く密着した一層緻密な保護層20を得る観点から、Al2O3、SiO2、SiC、Si3N4、TiO2、TiC、TiN、MgO、ZrO2、ZnO、HfO2、Fe2O3、B4C、ダイヤモンド及びダイヤモンドライクカーボンからなる群より選ばれる1種以上を保護層20の構成材料として用いると、より好ましい。このような保護層20を備えることにより、希土類磁石100は、一段と優れた耐食性を示すことができる。
保護層20は結晶質であってもよく、非晶質であってもよく、それらの状態が混在した状態であってもよい。
本実施形態の希土類磁石100においては、耐食性の向上の観点及び十分な磁気特性の確保の観点から、その保護層20の膜厚が0.1〜20μmであると好ましく、更に生産コスト等の観点から0.3〜10μmであると、より好ましい。
次に、本実施形態の好適な希土類磁石100の製造方法について説明する。本実施形態の好適な希土類磁石100の製造方法においては、まず磁石素体10を用意した後、その表面上に保護層20を形成することにより、希土類磁石100が得られる。
磁石素体10は、例えば以下に述べるような焼結法により製造されることによって用意される。まず、上述した元素を含有する所望の組成物を鋳造し、インゴットを得る。続いて、得られたインゴットを、スタンプミル等を用いて粒径10〜100μm程度に粗粉砕し、次いで、ボールミル等を用いて0.5〜5μm程度の粒径に微粉砕して粉末を得る。
次に、得られた粉末を、好ましくは磁場中にて成形して成形体を得る。この場合、磁場中の磁場強度は10kOe以上であると好ましく、成形圧力は1〜5トン/cm2程度であると好ましい。
続いて、得られた成形体を、1000〜1200℃で0.5〜5時間程度焼結し、急冷する。なお、焼結雰囲気は、Arガス等の不活性ガス雰囲気であると好ましい。そして、好ましくは不活性ガス雰囲気中で、500〜900℃にて1〜5時間熱処理(時効処理)を行うことにより上述したような磁石素体10が得られる。
また、磁石素体10は、上述した以外にも、例えば公知の超急冷法、温間脆性加工法、鋳造法、メカニカルアロイング法によっても用意され得る。さらに、磁石素体10は、市販のものを用意してもよい。
次に、得られた磁石素体10の表面上に保護層20が形成される。図4に本実施形態に係る希土類磁石の保護層を形成するための装置(以下、「保護層形成装置」という。)80の部分断面模式図を示す。図4に示す保護層形成装置80において、エアロゾル形成用のガスが封入されているガス貯蔵器(ボンベ)81は、ガス輸送管821を経由してエアロゾル形成器83に連結される。さらにエアロゾル形成器83は、混合体輸送管822を介して、処理室84内に設置されており上方に開口部を有するノズル85に連結されている。また、そのノズル85の開口部に対向した位置には、そのノズル85の開口部から所定の間隔をあけて、上下、前後左右に移動可能で、しかも、角度変更機構と面回転機構を有する磁石素体ホルダ87が設置されている。磁石素体ホルダ87のノズル85の開口部側には、磁石素体10が配置されている。また、処理室84は排気ポンプ88に接続している。
図5は上述のエアロゾル形成器83の断面模式図である。エアロゾル形成器83は、容器91内に誘電体材料を含有する微粒子92を堆積させた状態で収容している。この微粒子92を構成する誘電体材料としては、上述した保護層の構成材料となるものが用いられ、その一次粒子の平均粒径(以下、「平均一次粒子径」という。)は、エアロゾルとしての挙動を可能とする観点及び一段と高い耐食性を示す保護層を形成する観点から0.1〜5.0μmであると好ましい。この平均粒径が0.1μmを下回ると、粒子サイズの制御が困難になる傾向にあり、5.0μmよりも大きくなると、エアロゾルとしての挙動を示し難くなり、保護層との耐食性も低下する傾向にある。なお、微粒子92は、あらかじめ真空乾燥等により十分に吸着水分を除去したものを用いると好ましい。
エアロゾル形成器83内においては、ガス輸送管821に接続されたガス導入部材93が、堆積した微粒子92に埋没するように設置されている。容器91の上部にはガス及び微粒子の混合体96を導出するための混合体導出部材94が配置され、これが混合体輸送管822に接続されている。さらに容器91には機械的振動作用を与える振動部材95が接続されている。なお、図中の矢印は混合体96の流動方向を示す。
次に、磁石素体10の表面上への保護層20の形成方法を、より詳しく説明する。
まず、ガス貯蔵器81を開栓し、ガス輸送管821を通じて、エアロゾル形成器83にガス導入部材93からエアロゾル形成用のガスを導入する(ガス導入工程)。エアロゾル形成用のガスとしては、磁石素体10又は微粒子92を腐食することなく、保護層20を形成できるものであれば特に限定されることなく用いられる。具体的には、He、Ne及びAr等の希ガス又はN2などの不活性ガスを用いてもよく、O2又は乾燥空気などを用いてもよい。また、エアロゾル形成用のガスの流量は、微粒子92が、少なくとも磁石素体10に吹き付けられる際に、エアロゾルとしての挙動を示すような流量であればよい。
エアロゾル形成器83内に導入されたガスは、容器91内に堆積していた微粒子92を巻き上げ、その微粒子92と共に混合体96を形成する(混合体形成工程)。この際、振動部材95の機械的振動作用により微粒子92は、次々とガス導入部材93の開口部近傍に供給されるため、安定的に混合体96を形成できる。混合体96中の微粒子のうち、凝集して二次粒子を形成しているものは、その質量が比較的大きいため高く舞い上がることができない。これに対して、質量の小さい一次粒子あるいはそれに準じた比較的小さな粒子は、容器91内のより上方まで舞い上がることができる。そのため、混合体導出部材94は上下方向に移動可能なものであると、その上下方向の位置をスライドさせて適当に設定することにより分級器として機能し、所望の粒径の微粒子92を選択して導出させることができるので好ましい。
形成されたガス及び微粒子の混合体96は、混合体導出部材94から導出され、混合体輸送管822を経由してノズル85より噴射され、磁石素体10に向けて高速で吹き付けられる(エアロゾル吹付工程)。この際、混合体96中の微粒子92はエアロゾルとして挙動する。混合体96(微粒子92)の吹付速度は、ノズル85の形状、混合体輸送管822の長さ、内径、ガス貯蔵器(ボンベ)81内のガス圧及び/又は排気ポンプ88の排気量などにより制御される。これらの制御により、例えばエアロゾル形成器83の内圧を数万Paに設定し、さらに処理室84の内圧を数百Paに設定し、これらの間に差圧を設けることにより、混合体96の吹付速度は、亜音速から超音速の領域まで加速可能となる。
混合体(エアロゾル)の吹付速度は50〜600m/秒であると好ましい。エアロゾルの吹付速度がこの範囲内でないと、十分な耐食性が得られない傾向にある。これは、吹付速度が50m/秒より遅いと、エアロゾルが磁石素体に衝突した際に、エアロゾルの破砕及び/又は変形が生じ難く、新生面が現れ難い傾向にあり、エアロゾル同士の接合若しくは保護層と磁石素体との強い密着性が成し遂げられないためと考えられる。また、エアロゾルの吹付速度が450m/秒より大きいと、一旦形成した保護層が、エアロゾルの衝突により破砕される傾向にあり、緻密で難剥離性を有する保護層を得難くなるためと推測される。
このようにして十分に加速されて所定の運動エネルギーを得た混合体96中の微粒子92は、磁石素体10に衝突し、その衝撃のエネルギーで細かく破砕され、これら微細断片粒子が基板に接着したり、また互いが接着・接合して、緻密な保護層20を形成し、希土類磁石100が完成する。保護層20の膜厚は、混合体96の吹付速度、吹付時間などを制御することにより調整することができる。
また、磁石素体10は、保護層20を形成している間に磁石素体ホルダ87により前後左右に運動させてもよく、それに代えて若しくはそれに加えて、ノズル85を前後左右に運動させてもよい。この運動により、保護層20を磁石素体10の一面全体に均一に形成することができる。
エアロゾル吹付工程において、保護層20を形成する前に、磁石素体10の表面上に形成された変質層12(図6参照)を除去すると好ましい。より詳細には、例えば、図6(a)に示すように、表面に変質層12が形成されている磁石素体10の表面に、微粒子(エアロゾル)92を含有する混合体96を吹き付けて衝突させることにより変質層12を除去する。この際、変質層12は、図6(b)に示すように、磁石素体10の表面から全て除去されると好ましいが、保護層20の磁石素体10への密着性や希土類磁石100の磁気特性に影響を与えない程度に除去されていればよい。続いて、図6(c)に示すように、変質層12が除去された磁石素体10の表面に、上記変質層12除去時の条件(第1条件)とは異なる条件(第2条件)で、混合体96を衝突させる。こうして図6(d)に示すように、磁石素体10の表面上に保護層20が形成される。
上記変質層12は、主に希土類リッチ相の部分が酸化、窒化等により変質されて生じるものである。この希土類リッチ相が変質すると磁石素体10は磁石として機能し難くなる傾向にあるため好ましくない。上記操作により、かかる変質層12が剥離除去されるので、得られる希土類磁石100の磁石素体10と保護層20との間の密着性はさらに向上し、耐食性に一層優れる傾向にあると共に、磁気特性が向上する傾向にある。
上記変質層12の除去と保護層20の形成とを制御する方法としては、例えば微粒子(エアロゾル)92の吹付速度(第1エアロゾル吹付速度)を、保護層20形成の際の吹付速度(第2エアロゾル吹付速度)とは異なるように設定する方法を採用することができる。具体的には、第1エアロゾル吹付速度を第2エアロゾル吹付速度よりも大きくする方法を用いることができる。これにより、微粒子92はより大きな運動エネルギーを備えた状態で磁石素体10の表面に衝突することとなるので、変質層12を剥離除去することができる。
同様の観点から、第1エアロゾル吹付速度が、450〜600m/秒であり、第2エアロゾル吹付速度が、50〜450m/秒であると更に好ましい。さらには、第2エアロゾル吹付速度は、150〜400m/秒であると特に好ましい。
また、上述の吹付速度の調整に代えて若しくは加えて、磁石素体10の表面に形成された変質層12を除去するように設定された第1エアロゾル吹付角度θ1(図6(a)参照)を、磁石素体10の表面上に保護層20を形成するように設定された第2エアロゾル吹付角度θ2(図6(c)参照)とは異なるように設定する方法を採用することもできる。 より詳細には、θ1をθ2よりも小さくして微粒子(エアロゾル)92の吹き付けを行う方法を用いるとよい。この操作により、まず小さな吹付角度θ1でエアロゾル92を磁石素体10の表面に矢印方向に衝突させ、変質層12を削るようにして、より効率的かつ確実に剥離できる。次いで、吹付角度θ2をθ1よりも大きく設定して、エアロゾル92を磁石素体10に矢印方向に叩きつけるように衝突させることで、保護層20を一層有効に形成することができる。
θ1は、変質層12を剥離可能な所定の角度の範囲内で連続的に変化してもよい。また、θ2は、保護層20を形成できる所定の角度の範囲内で連続的に変化してもよい。さらに、θ1からθ2へ吹付角度を連続的に変化させることにより、変質層12の剥離処理と保護層20の形成処理とを連続して行ってもよい。かかる操作を行うことにより、保護層20を一層有効に形成することができる。
吹付角度を変化させる手段については任意に選定することができる。例えば、エアロゾル92を吹き付けるノズル85の磁石素体10に対する位置及び/又は角度を変化させてもよい。また、ノズル85からのエアロゾル92の吹付方向に対する磁石素体10の角度を変化させてもよく、エアロゾル85を吹き付けられる磁石素体10の表面に垂直な軸回りに磁石素体10を回転させてもよい。さらに、これらの手段のうち2以上の手段を組み合わせて同時に用いてもよい。これらの手段を採用することにより、保護層20を有効に形成することができる。
このようにして得られた希土類磁石100は、すでに従来の焼成法により保護層20を形成したものと同程度の硬度を有しているため、その後の加熱操作などによる焼結を行わなくても、十分に耐食性に優れた希土類磁石となる。なお、本実施形態において、上記焼結を行ってもよい。
本実施形態の希土類磁石の製造方法は、上述したようにエアロゾルを用いるので、エアロゾル同士の十分に強い接合により緻密性の十分に高い保護層20が得られると推定される。さらに、エアロゾルを用いることにより得られる保護層20は、磁石素体10の表面上に十分強く密着してなると考えられる。その結果、保護層20を備えた希土類磁石100は、ピンホール、又は保護層20と磁石素体10との剥離などに起因する腐食が十分に抑制されると推察される。
また、希土類磁石の用途は、ラインプリンター、自動車用スターター及びモーター、特殊モーター、サーボモーター、磁気記録装置用ディスク駆動、リニアアクチュエーター、ボイスコイルモーター、装置用モーター、工業用モーター、スピーカー及び核磁気共鳴診断用磁石などである。特に自動車用モーター等のオイルが飛沫するような環境で使用する場合においては、保護層が耐酸化性を有しているのみでは、十分に耐食性に優れた希土類磁石を得ることが困難である。かかる観点においても、本実施形態により得られた希土類磁石100は、硫化物、水分、塩水などの種々の腐食要因物質に対する耐性を有しているので、十分に優れた耐食性を備えたものである。
以上、本発明の希土類磁石の製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、保護層20は、磁石素体10に直接積層されなくてもよく、磁石素体10を用意した後に、1層以上の機能層をその磁石素体10の表面上に形成して、その後に、上述の保護層20を最も外側にある機能層の表面上に形成してもよい。機能層は、磁石素体10と保護層20との間の密着性を高める機能、磁石素体10と保護層20との間の過剰な反応を防止する機能、磁石素体10の表面粗さを制御する機能などを有するものが好ましい。その構成材料としては、例えば、Al、Cr、Si、Ti及びNi等の金属、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられ、その形成方法としては、従来公知の気相成長法(蒸着法、スパッタ法等)、若しくは液相成長法(ゾルゲル法、MOD法等)などを採用することができる。
さらに、保護層と同様の構成材料を含有する機能層を、保護層と磁石素体との間に備えてもよい。
また、本発明の別の実施形態の希土類磁石の製造方法において、エアロゾル吹付工程の前に、誘電体材料を含有する微粒子の二次粒子を解砕する解砕工程を含んでもよい。この微粒子の二次粒子の解砕処理は、例えば上述したエアロゾル形成器83の後段であって処理室84の前段に、衝撃板若しくはマイクロ波発生器等を備えた従来公知の粉体解砕器を設けることにより実施することができる。誘電体材料を含有する微粒子は、一次粒子が凝集してなる二次粒子の状態で存在する場合もあり、そのような二次粒子は、一次粒子と比較してエアロゾルとしての挙動を示し難い傾向にある。その結果、微粒子中の二次粒子の含有割合が高くなるほど、保護層の緻密性の低下、保護層と磁石素体との密着性の低下に伴い、得られる希土類磁石の耐食性が低下する傾向にある。また、希土類磁石の耐食性を十分に優れたものにしようとすると、保護層20を形成する時間が長くなったり、あるいはその二次粒子をエアロゾルとして挙動させるのに必要なガス流量が増加するため、希土類磁石の製造コストが増加する傾向にある。したがって、解砕工程を設けて二次粒子を一次粒子に解砕することにより、製造コストを抑制できる傾向にある。
さらに別の実施形態の希土類磁石の製造方法において、エアロゾル吹付工程の前に、誘電体材料を含有する微粒子を分級する分級工程を含んでもよい。この微粒子の分級処理は、例えば上述したエアロゾル形成器83の後段であって処理室84の前段に、篩等を備えた従来公知の粉体分級器を設けることにより実施することができる。なお、上述の解砕工程を備える希土類磁石の製造方法においては、この分級工程は、解砕工程の後に設けられると好ましい。分級工程を経ることにより、所定の粒径以上の微粒子が磁石素体の表面に吹き付けられることなく除去されるので、得られる希土類磁石は一層耐食性及び磁気特性に優れたものとなる傾向にある。
また、別の実施形態の希土類磁石の製造方法において、変質層が除去された状態の磁石素体に保護層を設けてもよい。この場合、上述したような変質層の除去工程を経る必要はない。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
粉末冶金法によって作製した14Nd−1Dy−7B−78Fe(数字は原子比)の組成を有する焼結体を、アルゴンガス雰囲気中、600℃で2時間、熱処理した後、56×40×8(mm)の大きさに加工し、さらにバレル研磨処理により面取りを行って磁石素体を得た。
粉末冶金法によって作製した14Nd−1Dy−7B−78Fe(数字は原子比)の組成を有する焼結体を、アルゴンガス雰囲気中、600℃で2時間、熱処理した後、56×40×8(mm)の大きさに加工し、さらにバレル研磨処理により面取りを行って磁石素体を得た。
次いで、この磁石素体を、アルカリ性脱脂液で洗浄した後、硝酸溶液により表面の活性化を行い、その後十分に水洗した。続いて、その磁石素体を、上述した保護層形成装置としてのエアロゾル法成膜装置の処理室内にある磁石素体ホルダ上に、ノズルと対向するように載置・固定した。なお、処理室内は乾燥空気雰囲気、大気圧に設定した。なお、保護層形成装置としては、図4に示したものと同様の構成を備える装置を用いた。
次に、ガス貯蔵器からの乾燥空気を、SiO2微粒子(平均粒径2μm)を堆積させたエアロゾル形成器内に導入した(ガス導入工程)。この際、SiO2微粒子(エアロゾル)の衝突速度が500m/秒となるように調整した。続いて、エアロゾル形成器内に導入された乾燥空気によりSiO2を巻き上げ、乾燥空気及びSiO2微粒子の混合体を形成した(混合体形成工程)。
その後、エアロゾルとしてのSiO2微粒子を含有する混合体を、500m/秒の衝突速度で磁石素体の表面に吹き付けた(エアロゾル吹付工程)。このエアロゾルの吹付処理は10分間行われた。これにより磁石素体表面の褐色部分がなくなり、金属光沢が現れた。
続いて、混合体の衝突速度を250m/秒に調整して、磁石素体表面に2μmの膜厚を有する保護層を形成するよう所定時間吹き付けて、実施例1に係る希土類磁石を得た。この際、磁石素体に直接熱を加えなかったものの、エアロゾルの衝突エネルギー(運動エネルギー)により、保護層形成中の磁石素体の温度が100℃程度に上昇していた。
(実施例2)
エアロゾル吹付工程において、混合体を500m/秒の衝突速度で磁石素体の表面に吹き付ける処理を省略した以外は実施例1と同様にして、2μmの膜厚を有する保護層を備えた実施例2に係る希土類磁石を得た。
エアロゾル吹付工程において、混合体を500m/秒の衝突速度で磁石素体の表面に吹き付ける処理を省略した以外は実施例1と同様にして、2μmの膜厚を有する保護層を備えた実施例2に係る希土類磁石を得た。
(比較例1)
エアロゾル吹付工程に代えて、以下に詳述するイオンプレーティング法を用いて保護層を形成するイオンプレーティング工程を経た以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る希土類磁石を得た。
エアロゾル吹付工程に代えて、以下に詳述するイオンプレーティング法を用いて保護層を形成するイオンプレーティング工程を経た以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る希土類磁石を得た。
比較例1のイオンプレーティング工程において、まず、磁石素体を、真空度1×10−3Paの真空容器内に入れ、その容器内を5PaのAr雰囲気にし、磁石素体に対して電圧400Vで10分間のイオンボンバードメントを行った。次いで、3〜5mmφ粒状のSiからなるターゲット材を加熱することによりSiを分子状にし、これに熱電子を衝突させてイオン化させた。このとき、真空容器内の雰囲気を、O2ガス分圧4×10−2Paの酸素雰囲気とした。そして、イオン化されたSiを加速電圧によって磁石素体に導き、磁石素体の表面上に保護層としてのSiO2薄膜を形成し、比較例1に係る希土類磁石を得た。イオンプレーティングの条件は、イオン化電圧50V、イオン化電流5A、バイアス電圧600Vとした。得られた希土類磁石の保護層の膜厚は2μmであった。
<希土類磁石の評価>
得られた実施例1、実施例2及び比較例1の希土類磁石について、水蒸気雰囲気、120℃、0.2×106Paにおける24時間の加湿高温試験及びJIS−C−0023による24時間の塩水噴霧試験を行い、耐食性を評価した。加湿高温試験及び塩水噴霧試験については、外観を肉眼で検査し、発錆の有無で合否を判定した。また、実施例1及び実施例2の希土類磁石について、JIS−K5600−5−6のクロスカット法(碁盤目試験)による密着性評価試験を行った。なお、比較例1の希土類磁石については、目視等により、保護層の剥離が容易に認められ、その密着性の低下が明らかに確認できたので、上記密着性評価試験は行わなかった。
得られた実施例1、実施例2及び比較例1の希土類磁石について、水蒸気雰囲気、120℃、0.2×106Paにおける24時間の加湿高温試験及びJIS−C−0023による24時間の塩水噴霧試験を行い、耐食性を評価した。加湿高温試験及び塩水噴霧試験については、外観を肉眼で検査し、発錆の有無で合否を判定した。また、実施例1及び実施例2の希土類磁石について、JIS−K5600−5−6のクロスカット法(碁盤目試験)による密着性評価試験を行った。なお、比較例1の希土類磁石については、目視等により、保護層の剥離が容易に認められ、その密着性の低下が明らかに確認できたので、上記密着性評価試験は行わなかった。
その結果、加湿高温試験においては、実施例1及び実施例2に係る希土類磁石については発錆が認められなかったが、比較例1に係る希土類磁石については明らかに保護層が剥離した部分が認められ、その部分からの発錆が認められた。また、塩水噴霧試験においては、実施例1及び実施例2の希土類磁石については発錆が認められなかったが、比較例1の希土類磁石は発錆が認められた。
比較例1の希土類磁石は、目視等により保護層の剥離が認められ、その保護層領域に磁石素体が露出する程の孔の存在が認められた。これは、成膜中に真空容器内壁に形成されたSiO2膜がチャージアップ等により破壊され、磁石素体表面に付着してマスクとなったためと考えられる。また、誘電体材料を含有する保護層とイオン化のための熱電子源との間でチャージアップが生じたことも考えられる。
密着性評価試験において、実施例1に係る希土類磁石については、保護層がJIS−K5600−5−6の碁盤目試験において剥離が認められず、10点であったのに対し、実施例2に係る希土類磁石については、上記碁盤目試験において6点であり、実施例1に係る希土類磁石と比較すると密着性の低下が認められた。さらに、密着性評価試験を行なった後、実施例2に係る希土類磁石の剥離した部分を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた断面観察により確認した。その結果、磁石素体表面と保護層との界面における若干の剥離が認められた。
10…磁石素体、12…変質層、20…保護層、100…希土類磁石、80…保護層形成装置。
Claims (10)
- 希土類元素を含有する磁石素体の表面に、ガス中に分散された誘電体材料を含むエアロゾルを吹き付けるエアロゾル吹付工程を経て、前記磁石素体の表面上に前記誘電体材料を含有する保護層を形成することを特徴とする希土類磁石の製造方法。
- 前記エアロゾル吹付工程において、前記エアロゾルの吹付速度が、50〜600m/秒であることを特徴とする請求項1記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記エアロゾル吹付工程において、前記磁石素体の表面に形成された変質層を除去するように、前記エアロゾルを所定の第1条件で前記磁石素体の表面に吹き付けた後、
前記磁石素体の表面上に保護層を形成するように、前記エアロゾルを前記所定の第1条件とは異なる所定の第2条件で前記磁石素体の表面に吹き付けることを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類磁石の製造方法。 - 前記エアロゾル吹付工程において、前記第1条件が、前記磁石素体の表面に形成された前記変質層を除去するように設定された所定の第1エアロゾル吹付速度を含み、前記第2条件が、前記磁石素体の表面上に前記保護層を形成するように設定された所定の第2エアロゾル吹付速度を含むことを特徴とする請求項3記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記エアロゾル吹付工程において、前記第1エアロゾル吹付速度が、前記第2エアロゾル吹付速度よりも大きいことを特徴とする請求項4記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記エアロゾル吹付工程において、前記第1エアロゾル吹付速度が、450〜600m/秒であり、前記第2エアロゾル吹付速度が、50〜450m/秒であることを特徴とする請求項5記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記エアロゾル吹付工程において、前記第1条件が、前記磁石素体の表面に形成された前記変質層を除去するように設定された、前記磁石素体の表面に対する所定の第1エアロゾル吹付角度を含み、前記第2条件が、前記磁石素体の表面上に前記保護層を形成するように設定された、前記磁石素体の表面に対する所定の第2エアロゾル吹付角度を含むことを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記エアロゾル吹付工程において、前記第1エアロゾル吹付角度が、前記第2エアロゾル吹付角度よりも小さいことを特徴とする請求項7記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記エアロゾル吹付工程において用いられる前記エアロゾルの一次粒子が、0.1〜5.0μmの平均粒径を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記エアロゾル吹付工程において用いられる前記エアロゾルが、Al2O3、SiO2、SiC、Si3N4、TiO2、TiC、TiN、MgO、ZrO2、ZnO、HfO2及びFe2O3からなる群より選ばれる1種以上の誘電体材料を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
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