この発明は、プリント基板などに電子部品などを実装するときなどに適用して好適な無鉛はんだに関する。
詳しくは、Sn−Zn系無鉛はんだあるいはSn−Zn−Bi系無鉛はんだに特定の金属を微量に添加することで、カーケンダルボイドの生成を抑えて接合界面における接合強度を高めるようにした無鉛はんだに関する。
プリント基板などに形成された導電層(電極であるランド)にチップ部品(ICチップ、抵抗、コンデンサなど)などの電子部品を無鉛はんだ付けする場合、その無鉛はんだとしては地球環境を護るため鉛Pbを含まない無鉛はんだ(鉛フリー無鉛はんだ)の使用が義務付けられている。鉛を含まない無鉛はんだとしては、錫−亜鉛系の共晶無鉛はんだ(Sn−Zn系無鉛はんだ)や、Sn−Zn−Bi系無鉛はんだなどが知られている。
Sn−Zn系無鉛はんだにも、組成比や組成金属が相違した多様な無鉛はんだが知られている。例えば、特許文献1に記載された無鉛はんだは、低融点を確保すると共に引っ張り強度(ピール強度)を強くするためニッケルNiを添加したSn−Zn系無鉛はんだが開示されている。
特許文献2に記載された無鉛はんだも、Sn−Zn系無鉛はんだであって、チタンTiやニッケルNiを少量添加すると共に、ソルダーペースト状に調製できるようにした技術が開示されている。
また、特許文献3には、Sn−Zn系にチタンTiを添加した無鉛はんだが開示されている。この特許文献3での接合対象は、ガラス、セラミックスなどの酸化物材料にメッキされた部分を接合するためのものであって、その接合強度を改善したものである。
特開平9−94688号公報
特開2000−15478号公報
特開2000−326088号公報
特許文献1は、無鉛はんだ付けされる電子部品への熱損傷を改善するため、特に融点温度を下げることができる多元共晶無鉛はんだが提案されている。例えば、CPUを搭載したICチップの耐熱仕様は200℃であることから、このICチップの電極母材との接合に使用される無鉛はんだとしては低融点はんだが使用される。低融点はんだとしては、Sn−Zn系無鉛はんだなどが知られている。
特許文献1には、このSn−Zn系無鉛はんだに添加する金属が例示されている。例示されているニッケルNiの場合の添加量は0.01〜1.0重量%である。
特許文献2はソルダーペーストが可能な多元共晶無鉛はんだが提案されている。Sn−Zn系無鉛はんだに添加する金属としてチタンTiやニッケルNiが例示されており、その添加量は0.5重量%以下となっている。
特許文献3は、上述したようにガラスなどの酸化物材料のメッキ層を接合するときの接合強度を高めるための技術が開示されている。Sn−Zn系無鉛はんだに添加すべき金属として、0.001〜3.0重量%のチタンTiが例示されている。
ところで、このようなSn−Zn系無鉛はんだにあって、最近の研究では導電層の電極母材(電極材料)である銅Cuと無鉛はんだとの接合界面を電子顕微鏡で観察すると、当該接合界面に銅Cuと亜鉛Znの金属間酸化物(Cu6Zn5、Cu3Znなど)が生成され、この金属間酸化物が熱(電流を流すことによって発生する熱など)によって、その膜厚が肥大化することが判明している。金属間酸化物が肥大化して膜厚が厚くなると、それに伴って接合界面での剥離が進行し、接合強度が劣化して無鉛はんだ接合の信頼性が低下することが指摘されている。
さらには、錫Snや亜鉛Znの拡散速度が、銅Cuの拡散速度より速く、しかも錫Snや亜鉛Znの拡散方向が導電層側への一方向であるために、接合界面特に無鉛はんだ側の接合界面側にカーケンダルボイド(空孔)が生成されることも判明している。カーケンダルボイドが生成されると、このカーケンダルボイドを含む接合界面での接合強度が低下し、無鉛はんだ付けの信頼性が低下することが判明している。
上述した特許文献1〜特許文献3の何れも、これら金属間酸化物の肥大や、カーケンダルボイドの生成などの対策のために開示されたものではなく、また開示された数値に対するデータが存在しないものも散見する。換言すれば、無鉛はんだ付けの信頼性が低下しないような次善策を講じた無鉛はんだは開示されていない。
そこで、この発明はこのような従来の課題を解決したものであって、特に低融点無鉛はんだであるSn−Zn系無鉛はんだや、Sn−Zn−Bi系無鉛はんだに特殊な金属を微量に添加することで、カーケンダルボイドの生成を抑制し、以て接合強度が強く、信頼性の高い無鉛はんだを提案するものである。
上述の課題を解決するため、請求項1に記載したこの発明に係る無鉛はんだは、電極母材との接合に使用される無鉛はんだであって、当該無鉛はんだとしてSn−Zn系無鉛はんだが使用されると共に、当該Sn−Zn系無鉛はんだに、ゲルマニウムGeまたはニオブNbの何れかの金属が添加されてなることを特徴とする。
また、請求項6に記載したこの発明に係る無鉛はんだは、電極母材との接合に使用される無鉛はんだであって、当該無鉛はんだとしてSn−Zn−Bi系無鉛はんだが使用されると共に、当該Sn−Zn−Bi系無鉛はんだに、ゲルマニウムGeまたはニオブNbの何れかの金属が添加されてなることを特徴とする。
この発明では、電極母材との接合用として使用される低融点のSn−Zn系無鉛はんだに、ゲルマニウムGeまたはニオブNbののうちの何れか1つの金属または双方の金属を添加する。これら金属を微量添加することによって、カーケンダルボイドの生成が抑制されると共に、導電層と無鉛はんだ本体との間に生成される金属間化合物の膜厚の肥大化を阻止できる。
主としてカーケンダルボイドが生成されると接合強度が低下するので、カーケンダルボイドの生成が抑制され、さらに金属間化合物層の膜厚肥大化が阻止されることによって接合強度が増す。さらに、電極に対する無鉛はんだの塗れ性(ぬれ性)も改善されると共に微量金属を添加することによってピール強度(引っ張り強度)も改善されることが判明した。
ビスマスBiを添加した低融点のSn−Zn−Bi系無鉛はんだや、Sn−Zn−Bi−In系無鉛はんだに、ゲルマニウムGeまたはニオブNbのうちの何れか若しくは双方の金属を添加することによっても、無鉛はんだの融点温度を下げられると当時に、カーケンダルボイドの生成を抑制して上述したような接合強度やピール強度を改善することができる。
この発明では、電極母材との接合に使用される低融点のSn−Zn系無鉛はんだまたはSn−Zn−Bi系無鉛はんだなどに、ゲルマニウムGeまたはニオブNbの何れか一方の金属またはその双方を添加することによって、少なくともカーケンダルボイドが生成しにくくなる無鉛はんだを提案したものである。
これによれば、カーケンダルボイドの生成が抑制されるため、無鉛はんだとの接合界面における接合強度が高まる。金属間化合物の膜厚の成長も妨げられるため、これによっても接合界面での接合強度が改善される。そして、ぬれ性やピール強度も従来よりは改善されるので、これらを総合すると、従来のSn−Zn系無鉛はんだやSn−Zn−Bi系無鉛はんだなどより接合強度の高い無鉛はんだを実現できる。
続いて、この発明に係る無鉛はんだの好ましい実施例を図面などを参照して詳細に説明する。
この発明では、電極母材との接合に使用されるSn−Zn系無鉛はんだあるいはSn−Zn−Bi系無鉛はんだなどの鉛フリーの低融点共晶無鉛はんだを対象とする。このSn−Zn系無鉛はんだ、Sn−Zn−Bi系無鉛はんだなどに特定の金属、すなわちゲルマニウムGeまたはニオブNbの何れか一方の金属または双方の金属を微量に添加して、新たなSn−Zn系無鉛はんだ(若しくはSn−Zn−Bi系無鉛はんだなど)を生成する。
添加金属の添加量は、錫Snや亜鉛Znの含有量(重量%)に比し、極めて微量であって、0.001重量%〜0.5重量%の範囲内である。以下にその実験データを参照しながら説明する。
図1はプリント基板10に実装される電子部品14との関係を示す断面図である。図1において、プリント基板10の上面には所定パターンの導電層12が被着形成されている。導電層12のうち特定の部分が電子部品14との接合電極部(ランド部)となる。図1はこのランド部を示す。導電層12の組成金属(電極母材)は銅Cuや鉄Feが使用される。図1の例は銅Cuが使用されている。導電層12にはペースト状の無鉛はんだ20が塗布されているものとする。
実装される電子部品14として、この例ではチップ状の抵抗体を示す。この電子部品14の両端には電極16が設けられており、これら一対の電極16がペース状無鉛はんだ20を介して載置される。電極16の母材も銅Cuである。
電子部品14を実装したプリント基板10は無鉛はんだ浴をもったリフロー炉(図示せず)内を通過することによって、はんだ付けされる。リフロー炉を通過することによって図1のように無鉛はんだ20が電極16と導電層(ランド)12との両電極間に溶着して電子部品14が固定される。
導電層12と無鉛はんだ20との間の接合界面を断面すると、図2のように導電層12と無鉛はんだ20との間に金属間化合物22が成長していることが判る。その上層が無鉛はんだ(Sn−Zn系無鉛はんだ)20の層であり、金属間化合物22は2種類の金属間化合物として生成されていることがわかる。実験によると、その上層の金属間化合物はCu6Zn5であり、下層の金属間化合物はCu3Znであった。金属間化合物22の膜厚はこの上層と下層の厚みを加えたものである。
また、上層と下層の金属間化合物層間あるいは下層の金属間化合物層内にカーケンダルボイド24が生成される。カーケンダルボイド24の成長が大きいと、接合界面の接合強度が劣化する。また、カーケンダルボイド24の生成によっても金属間化合物の膜厚が厚くなる。膜厚が厚くなる(肥大化)に伴って接合界面での強度が低下することが知られている。
従来のSn−Zn系無鉛はんだと、この発明に係る無鉛はんだ20とは、金属間化合物の平均膜厚(μm)、ぬれ性およびピール強度(引っ張り強度)の3点を用いて比較検討した。
ここに、金属間化合物の平均膜厚とは、導電層12と無鉛はんだ20層との間に生成される金属間化合物層22内に成長するカーケンダルボイドを膜厚に換算した値(平均的な膜厚(μm))である。カーケンダルボイドの面積を膜厚に換算するときは、画像処理装置などを利用して、所定面積内に生成されたカーケンダルボイドの面積を算出し、算出された面積から膜厚に換算(平均値)することで、従来例と比較検討する。
例えば、5mm角で厚さ0.1mmの銅板に、本発明で検討した微量添加元素を含むSn−Zn系無鉛はんだの丸板状のペレットを作製し、溶融凝固させたこの試料(ペレット)を所定の温度を保持しながら、所定時間にわたりエージングする。
カーケンダルボイドの生成の大きさの解析は、まず、試料の接合の断面が観察できるように、鏡面研磨し、接合界面を電子顕微鏡で観察し、断面写真を撮影して画像解析ソフトを用いて存在する全てのカーケンダルボイドの面積を求める。平均膜厚は、接合界面を撮影した電子顕微鏡写真の倍率に対応したスケールから、接合界面の長さを求め、求めたボイドの総面積を接合界面の長さで割った値を平均の膜厚(μm)とした。
試料として用いた丸板状の無鉛はんだペレットは、φ4mm径程度で、長さ100mm程度の無鉛はんだ棒を溶融させた状態で型に流し込み、その後ローラで厚みが0.2mm程度となるように圧延する。そのあとで丸板状に打ち抜いて作製した。
このような試料は電気炉でも作製できるが、ここでは、実装とほぼ同じ条件で溶融させながら作製した。この溶融状態を目視観察する装置(その場観察装置)としては、山陽精工製で型番が「SMT Scope SA−5000」を用いた。
試料を作製した温度条件は、実際のリフロー炉とほぼ同条件の温度プロファイル(2段階制御)を用いた。最初の温度プロファイルは予備加熱であって、150℃、90秒間の予備加熱を行い、次の温度プロファイルは本加熱であって、230℃を5秒程本加熱を行った。窒素雰囲気中にて評価試料を作製した。
カーケンダルボイドの生成を調べる温度保持装置としては、温度を一定に制御できる乾燥機を用い、温度と時間を可変しながら試料を作製した。温度は、室温の他に80℃〜160℃の範囲で可変した。温度保持時間は最大2000時間までである。実験では、160℃の温度条件下で500時間加熱して調べた。
微量に添加する添加元素(添加金属)として多くの元素を用いたが、結論としては添加元素としてゲルマニウムGeとニオブNbを使用したときのカーケンダルボイドの生成が著しく低減していることを見いだした。
ぬれ性は、評価試料として球状の無鉛はんだが使用される。その径をhとする。窒素雰囲気中で試料を加熱する。予備加熱は150℃90秒間であり、予備加熱に続く本加熱は230℃で15秒間である。本加熱後の試料の厚みtを測定し、そのときのぬれ広がり性評価Wとして下記の評価式を使用した。
W=(h−t)/h(%)
ぬれ性の評価はパーセント表示となっている。低融点無鉛はんだ(母材)としてはSn−9Zn系無鉛はんだを使用した。添加元素はゲルマニウムGeとニオブNbである。数値が高いほどぬれ性がよく、無鉛はんだの接合強度が大きくなる。
また、ピール強度は、サンプル基板にリード部品(例えばQFP)をはんだ付けして測定した。短冊状の無鉛はんだ(試料)を使用してはんだ付けしてから、サンプル基板に対してリード部品を所定角度方向(45°)から引っ張る。そのときの剥離強度(Kgf/mm2)をピール強度として求める。
試料の大きさは、幅が0.4mm、長さが30mm、厚さが0.2mmの短冊状はんだであり、はんだ付けするリフロー炉は、150℃90秒間の予備加熱後に、230℃15秒間の本加熱を行ったときの実験データである。窒素雰囲気下で測定が行われる。
続いて、上述したカーケンダルボイド、ぬれ性評価およびピール強度について、添加元素とその添加量を変えたときの実施例を以下に、順次説明する。
実施例1は、Sn−Zn系の低融点無鉛はんだを対象とし、添加する金属はゲルマニウムGeである。ゲルマニウムGeを添加したときの無鉛はんだの特性を、従来のSn−Zn系無鉛はんだと比較しながら説明する。Sn−Zn系無鉛はんだとしては、亜鉛Znの添加量が9重量%に選定されたSn−9Zn系無鉛はんだを使用した。
図3はカーケンダルボイド24の平均成長膜厚(μm)の実測データであって、ゲルマニウムGeを0.001重量%(無鉛はんだ全体の重量%は100である)添加したとき、0.01重量%添加したとき、0.05重量%添加したとき、0.1重量%添加したときおよび0.5重量%添加したときのそれぞれの実測値を示す。比較対照として従来のSn−9Zn系無鉛はんだを用いたときの実測値を示す。
この実測データから明らかなように、ゲルマニウムGeを添加することによってカーケンダルボイド24の平均成長膜厚が著しく低下していることが判る。従来は6μm以上成長するのに対して、ゲルマニウムGeを添加することによって、その膜厚が0.6μm以下まで抑制される。
ゲルマニウムGe添加量と改善効果については多少のばらつきが見られる。特に、ゲルマニウムGe添加量が0.01重量%のときと、0.01重量%、0.1重量%および0.5重量%のときはカーケンダルボイド24が殆ど生成されないのに対して、添加量が0.1重量%のときは金属間化合物層の成長を確認できる。
ゲルマニウムGeの添加量が0.5重量%以上、例えば1.0重量%を添加して実験を試みたが、このような添加量になると、最早このゲルマニウムGeを含有したはんだ合金を生成することができず、添加元素が析出してしまった。そのため、本発明では添加量の上限を0.5重量%としたものである。また、0.001重量%以下としたのは、元素添加による効果を見いだすことができなかったことと、0.001重量%以下を正確に計って添加することが以外と困難であるためである。
したがって、ゲルマニウムGeの添加量とカーケンダルボイド抑制の改善効果との間には自ずと限界があるものと推定できる。カーケンダルボイドが殆ど成長しない状態を基準にすると、ゲルマニウムGe添加量は、上述したようにその下限が0.001重量%であり、その上限が0.5重量%と考えられる。
なお、図3の実測データによると、ゲルマニウムGeを添加した添加量とカーケンダルボイドの成長との間には相互関連が全くなさそうであるが、このばらつきは、添加量のばらつき、無鉛はんだ付け時のリフロー温度や、リフロー時間などのばらつき、さらには無鉛はんだ層の厚みなどによって影響されているものと考えられる。
図4はピール強度の実測データである。ピール強度の測定は、無鉛はんだ付けを行ったときを基準にして、この例では168時間経過後、336時間経過後および672時間経過後にそれぞれ測定を試みた。その結果が図4である。このときのSn−Zn系無鉛はんだは、(Sn−9Zn−0.01Ge系無鉛はんだ)を使用した。つまりゲルマニウムGeを0.01重量%添加したときの実測データである。
比較例として示した従来のSn−9Zn系無鉛はんだのピール強度からも明らかなように、ゲルマニウムGeを添加することによって、何れの測定時間であってもピール強度が大幅に改善されていることが判る。
従来のSn−9Zn系無鉛はんだでは、何れの時間での測定でも0.6Kgf/mm2が最大値を示すのに対し、(Sn−9Zn−0.01Ge無鉛はんだ)の場合には、何れの時間帯でもほぼ0.7〜1.0Kgf/mm2近くの数値を示している。したがってゲルマニウムGeを微量に添加することで接合強度が改善されることが実証できた。経時変化も比較的少ないことが判る。
なお、上述した添加量以外の添加量であっても、ほぼ同様な実測データが得られたので、ピール強度の点からしても0.001〜0.5重量%の範囲内でゲルマニウムGeを添加すればよいことが判明した。添加量の上限値および下限値は上述したと同様の理由に基づく。
図5はぬれ性評価のための実測データである。ぬれ性はパーセント表示であって、それぞれのゲルマニウムGe添加量での実測データを示す。この発明による無鉛はんだは、(Sn−9Zn系無鉛はんだ)を使用した場合であり、ゲルマニウムGeの添加量としては、図3で説明した値と同じである。比較例としてSn−9Zn系無鉛はんだを示す。
ゲルマニウムGe添加量が0.001重量%および0.05重量%では63%から68%に改善され、0.5重量%のときは70%まで改善されていることが判る。特に0.1重量%の添加量のときはほぼ72%まで改善されることが判る。
したがってぬれ性に関しても、ゲルマニウムGe添加量としては、0.001〜0.5重量%の範囲内が好適である。添加量の上限値および下限値は上述したと同様の理由に基づく。
以上のように、Sn−Zn系無鉛はんだにおいて、ゲルマニウムGeを微量ではあるが、これを添加することによって、カーケンダルボイドの生成を大幅に抑えられると共に、金属間化合物の平均膜厚が薄くなるために発生する熱による金属間化合物層の膜厚成長を抑制できると共に、ピール強度やぬれ性の何れも大幅に改善できる。
なお、上述した実施例では、Sn−Zn系低融点無鉛はんだとして、Sn−9Zn系無鉛はんだを例示したが、このうち亜鉛Znは、7〜9重量%の範囲内の含有量であれば、上述したと同じような効果が得られることが判明した。
実施例2は、Sn−9Zn系無鉛はんだを対象とし、添加する金属はニオブNbである。ニオブNbを添加したときの無鉛はんだの特性を、従来のSn−9Zn系無鉛はんだと比較しながら説明する。
図3はカーケンダルボイド24の平均成長膜厚の実測データであって、ニオブNbを0.001重量%(無鉛はんだ全体の重量%は100である)添加したとき、0.01重量%添加したとき、0.05重量%添加したとき、0.1重量%添加したときおよび0.5重量%添加したときの各実測値を示す。比較対照として従来のSn−9Zn系無鉛はんだを用いたときの実測値を示す。
この実測値から明らかなように、ニオブNbを添加することによってカーケンダルボイドの平均成長膜厚が著しく低下していることが判る。従来は6μm以上成長するのに対して、ニオブNbを添加することによって、その膜厚を1/10以下(0.6μm以下)まで抑制される。
ニオブNb添加量と改善効果については多少のばらつきが見られる。特に、ニオブNb添加量が0.01重量%および0.5重量%のときはカーケンダルボイドから換算した平均膜厚がゼロである。つまり添加量が0.01重量%および0.5重量%のときはカーケンダルボイドが殆ど生成されないのに対して、添加量が0.001重量%、0.01重量%および0.1重量%のときは、それぞれカーケンダルボイドが多少生成され、それに伴ってカーケンダルボイドより換算した平均膜厚も僅かに表出していることが確認できる。
ニオブNbの添加量が0.5重量%以上、例えば1.0重量%を添加して実験を試みたが、このような添加量になると、最早ニオブNbを含有したはんだ合金を生成することができず、添加元素が析出してしまった。そのため、本発明では添加量の上限を0.5重量%としたものである。また、0.001重量%以下としたのは、元素添加による効果を見いだすことができなかったことと、0.001重量%以下を正確に計って添加することが以外と困難であるためである。
したがって、ニオブNbの添加量とカーケンダルボイド抑制の改善効果との間には自ずと限界があるものと推定できる。カーケンダルボイドが殆ど成長しない状態を基準にすると、ニオブNbの添加量は、上述したようにその下限が0.001重量%であり、その上限が0.5重量%と考えられる。
なお、図3の実測データによると、ニオブNbを添加した添加量とカーケンダルボイドの成長との間には相互関連が全くなさそうであるが、このばらつきは、添加量のばらつき、無鉛はんだ付け時のリフロー温度や、リフロー時間などのばらつき、さらには無鉛はんだ層の厚みなどによって影響されているものと考えられる。
図4はピール強度の実測値である。ピール強度の測定は、無鉛はんだ付けを行ったときを基準にして、この例では168時間経過後、336時間経過後および672時間経過後にそれぞれ測定を試みた。その結果が図4である。このときのSn−Zn系無鉛はんだは、(Sn−9Zn−0.01Ge無鉛はんだ)を使用した。つまりニオブNbを0.01重量%添加したときの実測値である。
比較例として示した従来のSn−9Zn系無鉛はんだのピール強度からも明らかなように、ニオブNbを添加することによって、何れの測定時間であってもピール強度が大幅に改善されていることが判る。
従来のSn−9Zn系無鉛はんだでは、何れの時間での測定でも0.6Kgf/mm2が最大値を示すのに対し、(Sn−9Zn−0.01Ge無鉛はんだ)の場合には、何れの時間帯でも0.76〜1.0Kgf/mm2近くの数値を示している。したがってニオブNbを微量に添加することで接合強度が改善されることが実証できた。経時変化も少ない。
なお、上述した添加量以外の添加量であっても、ほぼ同様な実測値が得られたので、ピール強度の点からしても0.001〜0.5重量%の範囲内でニオブNbを添加すればよいことが判る。ニオブNbの添加量としては、0.001〜0.5重量%の範囲内が好適である。添加量の上限値および下限値は上述したと同様の理由に基づく。
図5はぬれ性評価のための実測値(%)である。それぞれのニオブNb添加量での実測値を示す。この発明による無鉛はんだは、(Sn−9Zn系無鉛はんだ)を使用した場合であり、ニオブNbの添加量としては、図3で説明した値と同じである。比較例としてSn−9Zn系無鉛はんだを示す。
ニオブNb添加量が0.001重量%では63%から67%に改善され、0.01重量%では68%に改善され0.5重量%に至っては71%まで改善されることが判る。さらに0.1重量%では70%まで改善され、0.5重量%であっても68%に改善されていることが判る。
したがってぬれ性に関しても、ニオブNb添加量としては、0.001〜0.5重量%の範囲内が好適であることが判る。添加量の上限値および下限値は上述したと同様の理由に基づく。
以上のように、Sn−Zn系無鉛はんだにおいて、ニオブNbを微量ではあるが、これを添加することによって、カーケンダルボイドの生成を大幅に抑えられると共に、導電層12と無鉛はんだとの間に生成される金属間化合物層の膜厚成長を抑制できると共に、ピール強度やぬれ性の何れも大幅に改善できる。
なお、上述した実施例では、Sn−Zn系低融点無鉛はんだとして、Sn−9Zn系無鉛はんだを例示したが、このうち亜鉛Znは、7〜9重量%の範囲内の含有量であれば、上述したと同じような効果が得られることが判明した。
上述したように特定の金属をSn−Zn系無鉛はんだに添加すると、カーケンダルボイドの生成を抑制し、これに伴ってピール強度が改善され、またぬれ性をも改善できることが判った。
この改善効果は、単一の金属のみを添加するときのみに効果が現れるのではなく、上述した2種類の金属(ゲルマニウムGeおよびニオブNb)を同時に添加しても同じような効果が得られるであろうことは、容易に推測できる。ゲルマニウムGeやニオブNbの何れかの金属またはその双方を添加することによって、カーケンダルボイドの生成を抑え、しかも金属間化合物層の平均成長を抑制できると共に、ピール強度やぬれ性の何れも大幅に改善できる。そのときの添加量も上述したような値に設定できることも容易に推測できる。
Sn−Zn系無鉛はんだにビスマスBiを添加すると、Sn−Zn系無鉛はんだの共晶温度199℃より低い低融点の無鉛はんだを造ることができる。この(Sn−Zn−Bi系無鉛はんだ)にもこの発明を応用することができる。ここに、亜鉛Znの添加量は7〜9重量%であり、ビスマスBiの添加量は塗れ性、接合の信頼性の観点からも1〜3重量%が好適である。
そして、例えば亜鉛Znの添加量を9重量%とし、ビスマスBiの添加量を1重量%とした低融点の(Sn−9Zn−Bi系無鉛はんだ)や、亜鉛Znの添加量を8重量%とし、ビスマスBiの添加量を3重量%とした低融点の(Sn−8Zn−3Bi系無鉛はんだ)に、この発明を適用して好適である。
この場合においても、上述した添加金属が使用される。ゲルマニウムGeを使用するときは、その添加量が0.001〜0.5重量%であり、ニオブNbを添加するときもその添加量は0.001〜0.5重量%の範囲内で使用される。
ゲルマニウムGeとニオブNbの双方を同時に添加金属として使用することもできる。そのときの添加量も上述した範囲内に選ぶことができる。添加量の数値的限界は上述したと同じ理由である。
Sn−Zn系無鉛はんだにビスマスBiを添加し、さらにインジウムInを添加すると、Sn−Pb共晶温度183℃に近い低融点無鉛はんだを造ることができる。この(Sn−Zn−Bi−In系無鉛はんだ)にもこの発明を応用することができる。ここに、亜鉛Znの添加量は7〜9重量%であり、ビスマスBiの添加量は、1〜3重量%が好適であり、インジウムInの添加量は、1〜10重量%が好適である。
この場合においても、上述した添加金属が使用される。ゲルマニウムGeを使用するときは、その添加量が0.001〜0.5重量%であり、ニオブNbを添加するときもその添加量は0.001〜0.5重量%の範囲内で使用される。
ゲルマニウムGeとニオブNbの双方を同時に添加金属として使用することもできる。そのときの添加量も上述した範囲内に選ぶことができる。
実施例4および実施例5に示すように、4元あるいは5元構成の共晶無鉛はんだに、この発明を適用する場合でも、上述したとおなじような無鉛はんだ特性が得られることは容易に推測できる。つまり、ゲルマニウムGeやニオブNbの何れかの金属またはその双方を添加することによって、カーケンダルボイドの生成を大幅に抑えられると共に、導電層12と無鉛はんだとの間に発生する熱による金属間化合物層の膜厚成長を抑制できると共に、ピール強度やぬれ性の何れも大幅に改善できる。そのときの添加金属の添加量として上述したような値に設定できることも容易に推測できる。
この発明は、プリント基板に形成された導電層と電子部品などを接合するときのペースト状無鉛はんだ(クリーム状無鉛はんだ)に適用して好適である。
この発明の説明に供するプリント基板と電子部品との無鉛はんだ付け状態を示す断面図である。
その接合界面での模式的な断面図である。
添加元素による平均成長膜厚の実測値を示す図である。
ピール強度の実測値を示す図である。
ぬれ性を示す実測値を示す図である。
符号の説明
10・・・プリント基板、12・・・導電層(ランド)、14・・・電子部品、16・・・電極、20・・・Sn−Zn系無鉛はんだ、22・・・金属間化合物、24・・・カーケンダルボイド