JP2005180498A - トロイダル型無段変速機 - Google Patents

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Abstract

【課題】 外周縁部に出力歯車10を一体に設け、しかも優れた耐久性を有する出力側ディスク4Aを、低コストで得る。
【解決手段】 外周縁部に出力歯車10を形成した出力側ディスク4Aに浸炭処理又は浸炭窒化処理を施した後、調質を施す。次いで、この出力側ディスク4Aの軸方向両側面4a、4a及び上記出力歯車10部分に高周波焼き入れ処理を施して、各部の硬度を適正にする。これら軸方向両側面4a、4a部分の残留オーステナイト量を確保して、異物が混入したトラクションオイルの使用時にも、これら各面4a、4aの耐久性を向上させる。且つ、上記出力歯車10部分の硬度が過度に高くなる事を防止して、この出力歯車10部分の靱性を確保する。
【選択図】 図5

Description

この発明は、例えば自動車の自動変速機用の変速ユニットとして、或は各種産業機械用の変速機として、それぞれ利用できるトロイダル型無段変速機の改良に関する。
自動車用自動変速機としてトロイダル型無段変速機を使用する事が研究され、一部で実施されている。このトロイダル型無段変速機は、例えば特許文献1に記載されている様な構成を有する。図1〜2は、このトロイダル型無段変速機の基本構成を略示している。この図1〜2に示した構造では、入力軸1と同心に入力側ディスク2を支持し、この入力軸1と同心に配置された出力軸3の端部に出力側ディスク4を固定している。又、トロイダル型無段変速機を納めたケーシング(図示省略)の内側に、上記入力軸1並びに出力軸3に対し捻れの位置にある枢軸5、5を中心として揺動するトラニオン6、6を設けている。
上記各トラニオン6、6は、長さ方向(図1〜2の表裏方向)両端面に上記枢軸5、5を、各トラニオン6、6毎に互いに同心に、各トラニオン6、6毎に1対ずつ設けている。これら各枢軸5、5の中心軸は、上記各ディスク2、4の中心軸と交差する事はないが、これら各ディスク2、4の中心軸の方向に対し直角若しくはほぼ直角方向である、捩れの位置に存在する。又、上記各トラニオン6、6の中心部には支持軸7、7の基半部を支持し、上記枢軸5、5を中心として各トラニオン6、6を揺動させる事により、上記各支持軸7、7の傾斜角度の調節を自在としている。各トラニオン6、6に支持された支持軸7、7の先半部周囲には、それぞれパワーローラ8、8を回転自在に支持している。そして、これら各パワーローラ8、8を、上記入力側、出力側両ディスク2、4の側面2a、4a同士の間に挟持している。
上記入力側、出力側両ディスク2、4の互いに対向する側面2a、4aは、それぞれ断面が、上記枢軸5を中心とする円弧若しくはこの様な円弧に近い曲線を回転させて得られる、断面円弧状の凹面をなしている。そして、球状凸面に形成された各パワーローラ8、8の周面8a、8aを、上記側面2a、4aに当接させている。又、上記入力軸1と入力側ディスク2との間には、ローディングカム装置9を設け、このローディングカム装置9によって上記入力側ディスク2を、出力側ディスク4に向け押圧しつつ、回転駆動自在としている。
上述の様に構成されるトロイダル型無段変速機の使用時、入力軸1の回転に伴って上記ローディングカム装置9が上記入力側ディスク2を、上記複数のパワーローラ8、8に押圧しつつ回転させる。そして、この入力側ディスク2の回転が、上記複数のパワーローラ8、8を介して出力側ディスク4に伝達され、この出力側ディスク4に固定の出力軸3が回転する。
入力軸1と出力軸3との回転速度を変える場合で、先ず入力軸1と出力軸3との間で減速を行なう場合には、枢軸5、5を中心として前記各トラニオン6、6を揺動させ、上記各パワーローラ8、8の周面8a、8aが図1に示す様に、入力側ディスク2の側面2aの中心寄り部分と出力側ディスク4の側面4aの外周寄り部分とにそれぞれ当接する様に、前記各支持軸7、7を傾斜させる。反対に、増速を行なう場合には、上記各トラニオン6、6を揺動させ、上記各パワーローラ8、8の周面8a、8aが図2に示す様に、入力側ディスク2の側面2aの外周寄り部分と出力側ディスク4の側面4aの中心寄り部分とに、それぞれ当接する様に、上記各支持軸7、7を傾斜させる。これら各支持軸7、7の傾斜角度を図1と図2との中間にすれば、入力軸1と出力軸3との間で、中間の変速比を得られる。これら図1〜2に示したトロイダル型無段変速機は、入力側ディスク2と出力側ディスク4とを1個ずつ設けた、所謂シングルキャビティ型と呼ばれるものである。これに対して、入力側ディスクと出力側ディスクとを2個ずつ、動力の伝達方向に関して互いに並列に設けた構造も、特許文献2〜6等、多くの文献に記載されて従来から知られている。
上述の様に構成し作用するトロイダル型無段変速機の運転時に、上記両ディスク2、4の側面2a、4aと上記各パワーローラ8、8の周面8a、8aとの転がり接触部(トラクション部)には、トラクションオイルの油膜を介在させる。このトラクションオイルは、このトラクション部で動力の伝達を行なわせる役目の他、各転がり軸受等の可動部を潤滑する役目を有する為、構成各部材から離脱したバリや摩耗粉等の硬質金属製の異物が混入する事が避けられない。この様な異物の存在は、上記トラクション部を構成する上記各面2a、4a、8aの転がり疲れ寿命を低下させる原因となる。この為、異物が混入したトラクションオイルを使用した場合にも上記各面2a、4a、8aの転がり疲れ寿命を確保する為に従来から、上記両ディスク2、4及び上記各パワーローラ8、8の表面の残留オーステナイト量を高くする事が行なわれている。そして、この残留オーステナイト量を高くする為に、従来からトロイダル型無段変速機以外の分野で広く行なわれていた熱処理である、浸炭処理や浸炭窒化処理を、上記各部材2、4、8の表面処理にもそのまま利用していた。これら各部材にこの様な熱処理を施す事に就いては、例えば、特許文献7、8等に記載されている。
何れの構造を有するトロイダル型無段変速機の場合にも、入力側ディスクからパワーローラを介して出力側ディスクに伝達された動力を取り出す為には、この出力側ディスクと共に回転する出力歯車を設け、この出力歯車と回転伝達機構の歯車とを噛合させる構造を採用する場合が多い。この場合に、この出力歯車と上記出力ディスク4とを別体にすると、これら出力歯車と上記出力ディスク4とを組み合わせた構造体の軸方向長さが大きくなる為、トロイダル型無段変速機の小型・軽量化を考えた場合には改良が望まれる。この為、前記特許文献2〜6に記載された構造の場合には、出力側ディスクの外周縁部に環状の出力側歯車を、溶接により(特許文献3)又は外嵌並びに接着により(特許文献5)固定したり、出力側ディスク自体に直接形成したり(特許文献2、4、6)している。このうち、特許文献3、5に記載されている様に、別体の出力側ディスクと出力歯車とを結合固定する構造の場合には、硬度を初めとする各部の性状を適正にする事が容易である反面、製造工程が煩雑化し、コストが嵩み易い。又、別体の歯車をディスクに外嵌する結果、トロイダル型無段変速機の変速比を確保すべく、出力側ディスクの軸方向側面でパワーローラの周面と転がり接触する部分の直径を確保しようとした場合には、全体としての外径が大きくなり、トロイダル型無段変速機の大型化、重量増大の原因となる。上記歯車の径方向の厚さを小さくして、大型化、重量増大を防止しようとすると、熱処理変形を修正する為に余分な工程が必要になる等、製造工程が更に煩雑になる。これに対して、特許文献2、4、6に記載されている様に、出力側ディスク自体に直接出力歯車を形成する構造の場合には、小型・軽量化を図りつつ、製造工程の簡略化によりコスト低減を図り易い。
図3〜4は、この様に出力側ディスク自体に直接出力歯車を形成した構造のうち、特許文献6に記載された構造を示している。このうちの図3は、シングルキャビティ型のトロイダル型無段変速機で、出力側ディスク4の外周縁に出力歯車10を直接形成している。又、図4は、ダブルキャビティ型のトロイダル型無段変速機で、出力側ディスク4Aの外周縁に出力歯車10を直接形成している。この出力側ディスク4Aは、両側面4a、4aを、パワーローラ8、8の周面8a、8a(図1〜3参照)と転がり接触させる為の断面円弧状の凹面としている。この様な出力側ディスク4Aは、入力軸1Aの中間部周囲に、この入力軸1Aに対する相対回転を自在に支持している。又、この入力軸1Aの両端部に1対の入力側ディスク2、2を、この入力軸1Aと同期した回転を自在に、断面円弧形とした側面2a、2aを上記出力側ディスク4Aの各側面4a、4aに対向させた状態で、それぞれ支持している。これら図3、4に記載した様なトロイダル型無段変速機の構造及び作用は、上記特許文献6に記載されており、本発明の要旨とは関係しない為、詳しい説明は省略する。
上述の図3、4に示した様な、外周縁部に出力歯車10を直接形成した出力側ディスク4、4Aにしても、各パワーローラ8、8の周面8a、8aと転がり接触する面は、転がり疲れ寿命を確保する為に、表面の残留オーステナイト量を高くすると共に、硬度を高くする必要がある。これに対して、上記出力歯車10部分は、靱性を確保する為に、上記転がり接触する面程硬くする事は好ましくない。この様な要求に応じて、特許文献4には、外周縁部に出力歯車を直接形成した出力側ディスクを造る為に、次の様な方法が記載されている。
(1) ディスクと歯車とを一体成型してから、浸炭処理又は浸炭窒化処理後に歯車面を加工し、次いで浸炭クエンチ処理又は浸炭窒化クエンチ処理を行なった後、最後に仕上加工を施す。
(2) 上記(1) で、歯車部分に防炭処理を行なってから、最初の浸炭処理又は浸炭窒化処理を行なう。
(3) 前加工後に歯車部分に半防炭処理を施し、浸炭クエンチ処理又は浸炭窒化クエンチ処理を施してから、最後に仕上加工を施す。
(4) 前加工後に歯車部分とパワーローラと転がり接触する軸方向側面とに、互いに異なる条件で高周波焼き入れを施してから、最後に仕上加工を施す。
この様な特許文献4に記載された製造方法のうち、(1) の製造方法の場合には、浸炭処理又は浸炭窒化処理後、表面が硬化した状態で歯車面を加工する為、この歯車面の加工が面倒になり、加工コストが嵩む。又、(2)(3)の製造方法の場合には、歯車部分に防炭処理を施す為、この歯車部分の加工が容易になる代わりに、次の様な問題を生じる。即ち、防炭処理は、防炭剤の塗布状態を均一にする事が難しく、安定した効果が得にくい。又、防炭剤が過ってパワーローラと転がり接触する軸方向側面部分に付着した場合、当該部分の硬度が不十分となり、この部分の転がり疲れ寿命が低下する。又、(4) の製造方法の様に、前加工後に歯車部分とパワーローラと転がり接触する軸方向側面とを異なる条件で高周波焼き入れする場合には、短時間で処理が行なえると言った利点がある反面、上記軸方向側面の残留オーステナイト量が不十分となり、ディスクの耐久性を十分に確保できない可能性がある。
特開2003−222216号公報 特開平8−159229号公報 特開平11−63139号公報 特開平11−141637号公報 特開2002−139118号公報 特開2003−301908号公報 特開平9−79337号公報 特開平10−103440号公報
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、異物が混入したトラクションオイルを使用した場合でも十分な転がり疲れ寿命を確保でき、しかも低コストで造れるディスクを備えたトロイダル型無段変速機を実現すべく発明したものである。
本発明の対象となるトロイダル型無段変速機は何れも、それぞれが鋼製である第一、第二両ディスクの、それぞれが断面円弧状の凹面である軸方向側面に、それぞれが鋼製である複数のパワーローラの部分球面状の周面を、トラクションオイルの油膜を介して転がり接触させる事により、両ディスク同士の間で動力を伝達する構造を有する。そして、これら両ディスクのうちの少なくとも一方のディスクの外周縁部に、動力伝達用の歯車を直接形成している。
特に、請求項1に記載したトロイダル型無段変速機に於いては、上記歯車を形成したディスクは、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に調質を施してから、上記各パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面部分及び上記歯車部分に高周波焼き入れを施す事により造られたものである。
又、請求項2に記載したトロイダル型無段変速機に於いては、上記歯車を形成したディスクは、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に放冷を行なってから、上記各パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面部分及び上記歯車部分に高周波焼き入れを施す事により造られたものである。
又、請求項3に記載したトロイダル型無段変速機に於いては、上記歯車を形成したディスクは、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に放冷を行ない、更に調質を施してから、上記各パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面部分及び上記歯車部分に高周波焼き入れを施す事により造られたものである。尚、上記放冷とは、焼き入れの為の急冷とは異なり、上記浸炭処理又は浸炭窒化処理の温度を徐々に低下させる為、炉中若しくは大気中にそのまま放置する工程(徐冷)を言う。
又、請求項4に記載したトロイダル型無段変速機に於いては、上記歯車を形成したディスクは、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に、この歯車部分を含む、上記各パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面に比べて硬度を必要としない部分に部分焼き戻しを施してから、この軸方向側面及び上記歯車部分に高周波焼き入れを施したものである。
又、請求項5に記載したトロイダル型無段変速機に於いては、上記歯車を形成したディスクは、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に放冷を行なってから、この歯車部分を含む、上記各パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面に比べて硬度を必要としない部分に部分焼き戻しを施すのに続き、この軸方向側面及び上記歯車部分に高周波焼き入れを施したものである。
更に、請求項6に記載したトロイダル型無段変速機に於いては、上記歯車を形成したディスクは、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に、この歯車部分を含む、上記各パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面に比べて硬度を必要としない部分に部分焼き戻しを施してから、上記歯車部分に高周波焼き入れを施したものである。
上述の様に本発明のトロイダル型無段変速機とその製造方法の場合には、異物が混入したトラクションオイルを使用した場合でも十分な転がり疲れ寿命を確保でき、しかも外周縁に動力伝達の為の歯車を備えたディスクを組み込んだトロイダル型無段変速機を、低コストで実現できる。
先ず、ディスクに浸炭処理又は浸炭窒化処理を施す事により、このディスクの表面に硬化層を形成している為、このディスクの表面の残留オーステナイト量を高くして、微小な異物存在下での上記部材の転がり疲れ寿命確保を図れる。
又、上記ディスクの外周縁部の歯車部分の加工作業を、この外周縁部の硬度が低い状態で行なえるので、この歯車部分の加工作業が容易で、この歯車部分の加工に伴って上記ディスク、延いてはこのディスクを組み込んだトロイダル型無段変速機のコストが嵩む事を防止できる。しかも、上記歯車部分の靱性を確保して、この歯車部分に欠けや亀裂等の損傷を発生しにくくできる。
即ち、何れの場合も、この歯車部分の基本的な形状は、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理前に加工する為、この加工作業を容易に行なえる。好ましくは歯車部分の仕上加工を、この浸炭処理又は浸炭窒化処理に伴う歪みも含めて除去する為に、この浸炭処理又は浸炭窒化処理後に行なうが、この場合でも、仕上加工を極端に硬い状態で施す必要はない。この為、加工作業が容易で、コストが嵩む原因とはなりにくい。
パワーローラの外周面と転がり接触する、ディスクの軸方向片側面部分の残留オーステナイト量は、異物が混入したトラクションオイルを使用した状態での、この軸方向片側面部分の耐久性を確保する面から、20〜45容量%の範囲に規制する事が好ましい。この部分の残留オーステナイト量がこれよりも少ないと、上記トラクションオイル中の異物の量が多い場合に、上記部分の耐久性確保が難しくなる。反対に、この部分の残留オーステナイト量が多過ぎると、寸法精度確保が難しくなる等の問題を生じる可能性がある。何れの請求項に記載した発明の場合も、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に高周波焼き入れを施す。従って、何れの請求項に記載した発明を実施する場合にも、好ましくは、この高周波焼き入れを施した後の状態で、上記範囲の残留オーステナイト量を確保できる様に、上記浸炭処理又は浸炭窒化処理の際の表面炭素濃度及び表面窒素濃度を選定する。
又、この浸炭処理又は浸炭窒化処理に基づいてディスクの表面に拡散している炭素及び/又は窒素が、少なくとも後に行なう高周波焼き入れにより、十分な硬化層深さが得られる様な深さにまで拡散する様に、熱処理条件(処理温度、処理時間、カーボンポテンシャル値やアンモニア流量等の熱処理雰囲気)を選択する。尚、浸炭処理に比べて浸炭窒化処理を施した方が、表面部分に生成される炭化物の粒径が小さくなる傾向があり、この炭化物の粒径が小さい程、割れや欠けの原因となる粗大な共晶炭化物が析出しにくいといった利点がある。従って、浸炭処理よりも浸炭窒化処理を施す事が好ましい。又、浸炭処理又は浸炭窒化処理後に行なう高周波焼き入れは、加熱時間がずぶ焼き入れと比較して遥かに短く(例えば10秒程度)、炭化物が母相に固溶する時間を確保できない。この為、高周波焼き入れを施す事に伴って、残留オーステナイト量が少なくなる傾向があり、場合によっては、高周波焼き入れ後に、上記範囲の残留オーステナイト量を確保できない可能性がある。その為、析出炭化物を比較的小さくできる浸炭窒化処理を施した方が、高周波焼き入れ後の残留オーステナイト量が高くなる傾向がある為、好ましい。
又、浸炭処理又は浸炭窒化処理完了後に、請求項1に記載した発明の様に、調質を行なう事が好ましい。この理由は、外周縁部分に形成した歯車部分に、遅れ破壊等に基づく損傷が発生するのを防止する為である。即ち、浸炭処理又は浸炭窒化処理後の冷却条件によっては、上記歯車部分の様に、あまり硬度を必要とせず、必要以上に硬度が高くなると、却って遅れ破壊が懸念される部位までもが、パワーローラの周面と転がり接触する為に特に高い硬度を要求される軸方向側面と同程度にまで硬化される場合がある。特に、上記歯車部分全体が必要以上に硬化されると、衝撃荷重が付加された場合に歯の折損が起きる可能性がある。請求項1に記載した発明の場合には、この様な破損を防止する為に、浸炭処理又は浸炭窒化処理後に調質を行ない、上記歯車部分及び軸方向側面を含む、ディスク全体の硬度を低下させておく。調質の結果、このディスク全体の硬度が低下するので、高周波焼き入れにより、必要とする硬度を確保する。調質及び高周波焼き入れの条件は、必要とされる硬度を勘案して決める。この場合、上記歯車部分と上記軸方向側面とは、必要とされる硬度が異なるので、高周波焼き入れの条件を互いに異ならせる。
又、上記歯車部分に、遅れ破壊等に基づく損傷が発生するのを防止する事は、請求項2に記載した発明の様に、浸炭処理又は浸炭窒化処理後の冷却を放冷とする事でも実現できる。この放冷は、例えば浸炭処理又は浸炭窒化処理後にディスクを加熱炉中に放置し、この加熱炉内の温度を徐々に低下させる事で実施する。この様に、浸炭処理又は浸炭窒化処理後の冷却速度を低下させれば(遅くすれば)、上記ディスクに焼き入れが行なわれず、高い硬度が不要な部分まで必要以上に硬化される事がなくなる。この場合に於いて、冷却速度を適正に制御する事により、ディスク表面の硬度を適正に規制できれば、調質を行なわずに、冷却後、直ちに高周波焼き入れを行なっても良い。但し、浸炭処理又は浸炭窒化処理等の熱処理後に冷却する場合、冷却場所が炉内であっても炉外であっても、場所によるばらつきが現れる事がある。この場合には、請求項3に記載した発明の様に、放冷後に調質を施せば、確実に硬度を調整する事ができる。
又、上記歯車部分に、遅れ破壊等に基づく損傷が発生するのを防止する事は、調質の代わりに、請求項4に記載した発明の様に、浸炭処理又は浸炭窒化処理後に硬度を必要としない部位に部分焼き戻しを施す事でも実現できる。この場合に行なう部分焼き戻しは、高周波誘導加熱による方法、火炎による方法、レーザー加熱による方法等が採用可能である。何れの方法を採用した場合でも、この様にすれば、上記硬度を必要としない部位の硬度を低下させる為に要する時間を短縮できる。この場合に、請求項5に記載した発明の様に、浸炭処理又は浸炭窒化処理後に放冷を行なってから、上記硬度を必要としない部分に部分焼き戻しを施せば、より確実に硬度調整を行なえる。何れの場合でも、部分焼き戻し後、軸方向側面及び歯車部分に高周波焼き入れを施して、各部の硬度を必要な値とする。
これら軸方向側面及び歯車部分を硬化させる為に行なう、上記高周波焼き入れの条件は、これら各部の表面硬度及び有効硬化層深さを適正にする面から規制する。又、高周波焼き入れ後には、焼き戻しを行なう。
又、上記歯車部分に、遅れ破壊等に基づく損傷が発生するのを防止する事は、請求項6に記載した発明の様に、浸炭処理又は浸炭窒化処理後に焼き入れを行ない、歯車部分等の、パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面に比べて硬度を必要としない部位に部分焼き戻しを行なう事でも実現できる。この部位のうちの歯車部分には、焼き戻し後に高周波焼き入れを施し、必要とする硬度を確保する。この様な請求項6に記載した発明を実施する場合には、上記浸炭処理又は浸炭窒化処理工程で、上記軸方向側面部分に、必要とされる表面硬度と硬度分布とを付与する事が必要となる。その上で、上記歯車部分等の硬度を必要としない部位にのみ部分焼き戻しを行なって硬度を低下させ、歯車部分のみを高周波焼き入れして、この歯車部分に必要な硬度を付与する。この様にしても、長寿命なディスクを低コストで得る事ができる。
更に、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項7に記載した発明の様に、ディスクを構成する鋼材として、Cを0.5〜1.2重量%含む炭素鋼を使用すれば、このディスクのより一層の低コスト化を図れる。請求項1〜5に記載した発明の場合、浸炭処理又は浸炭窒化処理後に高周波焼き入れを行なう。この場合、高周波焼き入れ後に適正な硬度分布を得る為には、浸炭処理又は浸炭窒化処理を完了した時点で、完成後のディスクの軸方向側面に必要とする硬化層深さに応じた、炭素濃度分布及び窒素濃度分布としておく事が必要である。鋼材中に含有される炭素量を0.5重量%以上とすれば、浸炭処理や浸炭窒化処理を施さなくても、高周波焼き入れのみでも、完成後のディスクの軸方向側面に必要とされる有効硬化層深さを得る事が可能となる。従って、鋼材としてCの含有量が0.5重量%以上のものを使用すれば、浸炭処理及び浸炭窒化処理は、上記軸方向側面に必要とされる残留オーステナイト量及びその深さとなる最低限の炭素濃度及び/又は窒素濃度が得られる条件で行なえば良い事になる。この結果、浸炭処理又は浸炭窒化処理に要する時間を大幅に短縮する事が可能になる。
但し、Cの含有量が1.2重量%を上回ると、素材中の炭化物の粒経が大きくなり、高周波焼き入れにより、十分な硬度と残留オーステナイト量を得る事が困難になる。従って、Cの含有量は、1.2重量%以下とする。
尚、ディスクを構成する鋼材としてCを0.5〜1.2重量%含む炭素鋼を使用する事を請求項6に記載した発明に適用した場合にも、浸炭処理又は浸炭窒化処理に要する時間を大幅に短縮できる。
図5は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施例1を示している。本実施例の場合、次の第一〜第四工程で、軸方向両側面4a、4aを、パワーローラの周面を転がり接触させる断面円弧状の凹面とすると共に、外周縁に出力歯車10を形成した出力側ディスク4Aを得る。
第一工程
炭素鋼製の素材に切削加工又は鍛造加工を施す事により、図5(A)に示す様な形状の第一中間素材11を得る。この状態で、外周縁部に形成する出力歯車10の歯切加工を施しておく。
第二工程
上記第一中間素材11に浸炭処理又は浸炭窒化処理を施して、図5(B)に示す様に、表面全体に硬化層12を形成した、第二中間素材13を得る。好ましくは、この様な第二工程の完了時の状態で、後に行なう高周波焼き入れ後に、所定の有効硬化層深さが得られる程度に、炭素濃度及び/又は窒素濃度の勾配を得ておく。又、やはり好ましくは、上記第二工程の完了時の状態で、高周波焼き入れ後の残留オーステナイト量が20〜45容量%となる様な、表面炭素濃度及び/又は窒素濃度を得ておく。尚、上記素材中の炭素濃度が0.5重量%以上であれば、浸炭処理又は浸炭窒化処理に要する時間を短縮できる。
第三工程
請求項1に記載した発明を実施する場合には、この第三工程で、遅れ破壊等が懸念される部位の硬度を抵下させる為に、調質を行なう事で、第三中間素材(図示せず)を得る。この調質は、上記出力歯車10の靱性を確保する為にも必要である。即ち、この出力歯車10が全面に亙って焼き入れ硬化されていると、衝撃荷重が付加された場合に歯の折損が発生する可能性がある為、上記出力歯車10部分の硬度も低下させて、靱性を確保する。上記調質の温度は、この様な点に留意して決定する。尚、調質の為の焼き戻しの温度によっては、焼き戻し脆性が発現する事がある点を考慮して、調質は450℃以上で行なう事が望ましい。但し、調質温度が高過ぎると、炭化物の球状化が進行して、高周波焼き入れ性が低下する可能性がある為、調質温度は700℃以下に抑える事が好ましい。
又、請求項2に記載した発明を実施する場合には、この第三工程で、浸炭処理又は浸炭窒化処理後の冷却を、放冷(徐冷)で行なう。この浸炭処理又は浸炭窒化処理後の冷却速度を低下させると、第三中間素材が焼き入れ硬化されない。放冷する事による効果、即ち、焼き入れ硬化させずに靱性を確保する為には、浸炭処理又は浸炭窒化処理後の第三中間素材を炉内に放置し、十分に冷却時間を確保する事が好ましい。
更に、請求項3に記載した発明を実施する場合には、この第三工程で、放冷後、更に調質を施す事で、第三中間素材の硬度調整をより確実に行なう。
第四工程
この第四工程では、上記第三中間素材の軸方向両側面部分と、外周縁部の出力歯車10部分とに高周波焼き入れを施し、これら各部分に適正な硬度を付与して、図5(C)に示す様な、完成品である出力側ディスク4Aを得る。上記高周波焼き入れは、少なくとも前記軸方向両側面4a、4a部分と上記出力歯車10部分に就いて行なう。これら軸方向両側面4a、4a部分と出力歯車10部分とでは、求められる硬化層深さが異なる為、高周波焼き入れの為の誘導加熱の条件も、互いに異ならせる。焼き入れは油で行なっても良いし、水で行なっても良い。又、高周波焼き入れは、必要に応じて上記軸方向両側面4a、4a部分及び出力歯車10部分以外の部分にも行なう事もできる。何れの部分に関しても、高周波焼き入れ後には焼き戻しを行なってから、必要とする仕上加工を施して、上記出力側ディスク4Aとする。
図6は、請求項4及び請求項5に対応する、本発明の実施例2を示している。本実施例の場合も、次の第一〜第四工程で、軸方向両側面4a、4aを、パワーローラの周面を転がり接触させる断面円弧状の凹面とすると共に、外周縁に出力歯車10を形成した出力側ディスク4Aを得る。
第一、第二工程
図6の(A)(B)に示したこれら両工程は、上述した実施例1と同様の手順で行なう為、重複する説明は省略する。
第三工程
この第三工程では、図6の(C)に斜格子で示す様に、出力歯車10部分に、部分焼き戻しを施す。この部分焼き戻しは、例えば高周波誘導加熱による方法、火炎による方法、レーザー加熱による方法等により行なう。上記出力歯車10部分の歯車部の部分焼き戻しは少なくとも歯全周に亙って行なう事が好ましい。又、部分焼き戻し時の加熱温度は、上述の実施例1の第三工程で述べた条件に準じて決定する。尚、上記出力歯車10部分以外でも、上記軸方向両側面4a、4a以外の部分に、必要に応じて 部分焼き戻しを施す事もできる。
第四工程
図6の(D)に示した、この第四工程も、上述した実施例1と同様と同様の手順で行なう為、重複する説明は省略する。
図7は、請求項6に対応する、本発明の実施例3を示している。本実施例の場合も、次の第一〜第四工程で、軸方向両側面4a、4aを、パワーローラの周面を転がり接触させる断面円弧状の凹面とすると共に、外周縁に出力歯車10を形成した出力側ディスク4Aを得る。
第一工程
図7の(A)に示した、この第一工程は、前述した実施例1と同様の手順で行なう為、重複する説明は省略する。
第二工程
図7の(B)に示した、この第二工程では、浸炭処理又は浸炭窒化処理を行ない、その後焼き入れを行なう。この第二工程により得られる第二中間素材13の軸方向両側面4a、4aの表面硬度及び有効硬化層深さは、完成品に見合う値とする。尚、この完成品に見合う、表面硬度及び有効硬化層深さの値とは、上記浸炭処理又は浸炭窒化処理の後に行なわれる仕上加工等の加工取代を勘案(加工取代を除去した状態で表れる部分の硬度、加工取代を除いた状態での深さ)した値である。
第三工程
図7の(C)に示した第三工程は、前述した実施例2の第三工程と同様の手順で行なう為、重複する説明は省略する。
第四工程
図7の(D)に示した第四工程では、斜格子で示す様に、外周縁部に形成したの出力歯車10部分にのみ、高周波焼き入れを施した後、焼き戻しを施す。更に、仕上加工等の後加工を行なう事により、所定の形状、寸法を有する出力側ディスク4Aを得る。
尚、本発明は、トロイダル型無段変速機であれば、図示の様なハーフトロイダル型のものに限らず、フルトロイダル型にも適用可能である。
本発明の対象となるトロイダル型無段変速機の基本的構成を、最大減速時の状態で示す側面図。 同じく最大増速時の状態で示す側面図。 出力側ディスクの外周縁に直接出力歯車を形成したトロイダル型無段変速機の第1例を示す断面図。 同第2例を示す断面図。 実施例1を、製造工程順に示す、出力側ディスクの断面図。 実施例2を、製造工程順に示す、出力側ディスクの断面図。 実施例3を、製造工程順に示す、出力側ディスクの断面図。
符号の説明
1、1A 入力軸
2 入力側ディスク
2a 側面
3 出力軸
4、4A 出力側ディスク
4a 側面
5 枢軸
6 トラニオン
7 支持軸
8 パワーローラ
8a 周面
9 ローディングカム装置
10 出力歯車
11 第一中間素材
12 硬化層
13 第二中間素材

Claims (7)

  1. それぞれが鋼製である第一、第二両ディスクの、それぞれが断面円弧状の凹面である軸方向側面に、それぞれが鋼製である複数のパワーローラの部分球面状の周面を、トラクションオイルの油膜を介して転がり接触させる事により、両ディスク同士の間で動力を伝達する構造を有し、これら両ディスクのうちの少なくとも一方のディスクの外周縁部に動力伝達用の歯車を直接形成したトロイダル型無段変速機に於いて、この歯車を形成したディスクは、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に調質を施してから、上記歯車部分及び上記各パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面部分に高周波焼き入れを施す事により造られたものである事を特徴とするトロイダル型無段変速機。
  2. それぞれが鋼製である第一、第二両ディスクの、それぞれが断面円弧状の凹面である軸方向側面に、それぞれが鋼製である複数のパワーローラの部分球面状の周面を、トラクションオイルの油膜を介して転がり接触させる事により、両ディスク同士の間で動力を伝達する構造を有し、これら両ディスクのうちの少なくとも一方のディスクの外周縁部に動力伝達用の歯車を直接形成したトロイダル型無段変速機に於いて、この歯車を形成したディスクは、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に放冷を行なってから、上記歯車部分及び上記各パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面部分に高周波焼き入れを施す事により造られたものである事を特徴とするトロイダル型無段変速機。
  3. それぞれが鋼製である第一、第二両ディスクの、それぞれが断面円弧状の凹面である軸方向側面に、それぞれが鋼製である複数のパワーローラの部分球面状の周面を、トラクションオイルの油膜を介して転がり接触させる事により、両ディスク同士の間で動力を伝達する構造を有し、これら両ディスクのうちの少なくとも一方のディスクの外周縁部に動力伝達用の歯車を直接形成したトロイダル型無段変速機に於いて、この歯車を形成したディスクは、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に放冷を行ない、更に調質を施してから、上記歯車部分及び上記各パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面部分に高周波焼き入れを施す事により造られたものである事を特徴とするトロイダル型無段変速機。
  4. それぞれが鋼製である第一、第二両ディスクの、それぞれが断面円弧状の凹面である軸方向側面に、それぞれが鋼製である複数のパワーローラの部分球面状の周面を、トラクションオイルの油膜を介して転がり接触させる事により、両ディスク同士の間で動力を伝達する構造を有し、これら両ディスクのうちの少なくとも一方のディスクの外周縁部に動力伝達用の歯車を直接形成したトロイダル型無段変速機に於いて、この歯車を形成したディスクは、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に、この歯車部分を含む、上記各パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面に比べて硬度を必要としない部分に部分焼き戻しを施してから、この軸方向側面及び上記歯車部分に高周波焼き入れを施したものである事を特徴とするトロイダル型無投変速機。
  5. それぞれが鋼製である第一、第二両ディスクの、それぞれが断面円弧状の凹面である軸方向側面に、それぞれが鋼製である複数のパワーローラの部分球面状の周面を、トラクションオイルの油膜を介して転がり接触させる事により、両ディスク同士の間で動力を伝達する構造を有し、これら両ディスクのうちの少なくとも一方のディスクの外周縁部に動力伝達用の歯車を直接形成したトロイダル型無段変速機に於いて、この歯車を形成したディスクは、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に放冷を行なってから、この歯車部分を含む、上記各パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面に比べて硬度を必要としない部分に部分焼き戻しを施すのに続き、この軸方向側面及び上記歯車部分に高周波焼き入れを施したものである事を特徴とするトロイダル型無投変速機。
  6. それぞれが鋼製である第一、第二両ディスクの、それぞれが断面円弧状の凹面である軸方向側面に、それぞれが鋼製である複数のパワーローラの部分球面状の周面を、トラクションオイルの油膜を介して転がり接触させる事により、両ディスク同士の間で動力を伝達する構造を有し、これら両ディスクのうちの少なくとも一方のディスクの外周縁部に動力伝達用の歯車を直接形成したトロイダル型無段変速機に於いて、この歯車を形成したディスクは、表面硬化の為の浸炭処理又は浸炭窒化処理後に焼き入れを行なってから、この歯車部分を含む、上記各パワーローラの周面と転がり接触する軸方向側面に比べて硬度を必要としない部分に部分焼き戻しを施した後、上記歯車部分に高周波焼き入れを施したものである事を特徴とするトロイダル型無投変速機。
  7. 歯車を形成したディスクを構成する鋼材は、Cを0.5〜1.2重量%含む炭素鋼である、請求項1〜6の何れかに記載したトロイダル型無段変速機。
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