JP2005177833A - ダイカスト方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】広く特性の部分的な変化を実現可能であるとともにその部分間の密着力に優れ、かつ製造コストの高騰化を生じないアルミダイカスト品を得る。
【解決手段】第1溶湯M1及び第2溶湯M2は主要となる成分がアルミニウムである。第1工程において、小キャビティ内に第1溶湯M1を注湯する。第2工程において、小キャビティ内で第1溶湯M1の流動性が低くなった時点で小キャビティを拡大して大キャビティC2とし、大キャビティC2内に第1溶湯M1とはケイ素の含有量が異なる第2溶湯M2を酸素とともに霧状に注湯しつつ第2溶湯M2に圧力を加える。第3工程において、大キャビティC2内で第1溶湯M1及び第2溶湯M2を固化してアルミダイカスト品を得る。
【選択図】図5
【解決手段】第1溶湯M1及び第2溶湯M2は主要となる成分がアルミニウムである。第1工程において、小キャビティ内に第1溶湯M1を注湯する。第2工程において、小キャビティ内で第1溶湯M1の流動性が低くなった時点で小キャビティを拡大して大キャビティC2とし、大キャビティC2内に第1溶湯M1とはケイ素の含有量が異なる第2溶湯M2を酸素とともに霧状に注湯しつつ第2溶湯M2に圧力を加える。第3工程において、大キャビティC2内で第1溶湯M1及び第2溶湯M2を固化してアルミダイカスト品を得る。
【選択図】図5
Description
本発明はダイカスト方法に関する。
一般的なアルミダイカスト品は単一種類のアルミニウム合金を溶融した溶湯によって形成された母材からなる。このようなアルミダイカスト品はおよそ以下のように製造される(例えば、非特許文献1参照。)。すなわち、まず圧入口と連通するキャビティを形成するダイカスト用金型を用意する。次いで、そのキャビティ内に溶湯を注湯しつつその溶湯に圧力を加える。そして、そのキャビティ内で溶湯を固化させ、母材とする。こうして得られるアルミダイカスト品は、圧縮機のハウジング、ピストン等、ある程度の強度を有しつつ軽量性が要求される多くの部品に採用される。
また、溶湯による母材とは成分が異なる母材がインサート部材としてインサートされたアルミダイカスト品も知られている。このようなアルミダイカスト品はおよそ以下のように製造される(例えば、非特許文献2参照。)。この場合もまず圧入口と連通するキャビティを形成するダイカスト用金型を用意する。次いで、そのキャビティ内にインサート部材をインサートした後、そのキャビティ内に溶湯を注湯しつつその溶湯に圧力を加える。そして、そのキャビティ内で溶湯を固化させ、母材とする。こうして得られるアルミダイカスト品も多くの部品に採用される。
菅野友信・植原寅蔵著「ダイカスト技術入門−第2版−」日刊工業新聞社、1997年12月18日、P.1−4
高橋清・新居和嘉・宮田清蔵・柳田博明監修「工業材料大辞典」工業調査会、1997年10月20日、P.105
しかし、単一種類の溶湯のみによって形成された一般的なアルミダイカスト品は、その溶湯によって形成される母材が単一種類であるため、その成分による強度、耐摩耗性、熱伝導性、線熱膨張係数、加工性等、物理的又は機械的な特性が限られたものとなってしまっており、部分的に異なる物理的又は機械的な特性を発揮することができない。そのような部分的な特性の変更を行おうとする場合には、そのアルミダイカスト品に他の成分からなる部材を接合したり、メッキや塗膜等の表面処理を施したりする必要があり、この場合には、母材とこれらとの間の密着力に懸念を生じてしまう。また、この場合には、製造時の工程増加が避けられず、製造コストの高騰化を生じてしまう。
この点、溶湯による母材とは成分が異なるインサート部材をインサートしたアルミダイカスト品であれば、溶湯からなる母材とインサート部材からなる母材とによって部分的に異なる物理的又は機械的な特性が発揮されることとなる。また、この場合には、インサート部材をキャビティ内に設ける手間はあるものの、さほどの製造工程の増加を生じず、製造コストの高騰化もさほど生じない。しかしながら、発明者らの試験結果によれば、こうして得られたアルミダイカスト品では、母材とインサート部材との間の密着力が必ずしも十分なものではない。
なお、特開2000−280277号には、例えばマグネシウムの溶湯及び未固化の樹脂を用い、これらを二層かつ一体に成形するための金型及び方法が開示されている。しかしながら、この技術は、マグネシウム及び樹脂等、主要となる成分が異なる異種材料を母材とするものであり、異種材料間の大きく異なる特性差を利用しているに過ぎない。このため、主要となる成分がアルミニウムで共通する同種材料を母材とするアルミダイカスト品を製造しようとする場合には、同種材料間の特性差が異種材料間程大きくなく、そのままこの技術を採用することができない。
また、実全昭61−55188号公報に記載されているように、第1混合粉によって形成された第1母材と、第1母材と一体に形成され、第1混合粉とは成分が異なる第2混合粉によって形成された第2母材とからなる焼結品を用いることも考えられる。この焼結品は、第1混合粉からなる第1圧粉体と、第2混合粉からなる第2圧粉体とを冷間静水圧(CIP)成形法により一体に成形して複合圧粉体を得た後、第1圧粉体及び第2圧粉体に跨る口金をもつダイスを使用して複合圧粉体を熱間押出加工することにより得られる。こうして得られる焼結品は、第1母材と第2母材との成分が異なりながら、これらが一体に形成されているため、第1母材と第2母材との離反を生じることなく、部分的な特性の変更を実現することができる。しかしながら、このような焼結品は、複雑な形状に成形し難いとともに、製造時に材料を粉末にする必要があり、製造コストの面ではアルミダイカスト品等の鋳造品に比して不利である。
さらに、特開平10−288079号公報、特開平10−323747号公報に記載されているように、単一の溶湯を用いつつ、ろ過材によってその溶湯中の硬質粒子を部分的に凝集させてなるアルミダイカスト品を用いることも考えられる。こうして得られるアルミダイカスト品によっても部分的な特性の変更を実現することができる。しかしながら、このアルミダイカスト品は硬質粒子の凝集による部分的な耐摩耗性の向上しか実現することができず、他の特性の部分的な変化を実現することができない。
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、広く特性の部分的な変化を実現可能であるとともにその部分間の密着力に優れ、かつ製造コストの高騰化を生じないアルミダイカスト品を得ることを解決すべき課題としている。
発明者らは、上記課題解決のために鋭意研究を行った。この結果、インサート部材をもつアルミダイカスト品は、広く特性の部分的な変化の実現には有効であることを確認した。しかし、従来のインサート部材をもつアルミダイカスト品では、予め成形して常温まで冷却したインサート部材を用い、しかもそのキャビティ内のインサート部材がほぼ常温のままで溶湯を注湯しており、このために母材とインサート部材との間の密着力が必ずしも十分なものではなかったことを確認した。発明者らは、その原因の一つが常温まで冷却されたインサート部材の表面に強固な酸化膜が存在すること、また他の原因がキャビティ内のインサート部材がほぼ常温のままで溶湯を注湯してもそのような酸化膜を破壊することができないことにあることを発見したのである。
また、キャビティ内に溶湯を注湯する際、キャビティ内を真空とし、この状態でその溶湯を酸素とともに霧状に注湯すれば、気孔のないアルミダイカスト品を製造できることが知られている(PF法(無孔性ダイカスト法))。特に、溶湯がアルミニウム系金属の場合、小粒の溶湯がキャビティ内で爆発的に酸化して多量の熱を発生させる反応はテルミット反応(Thermite process)と呼ばれる。発明者らは、このテルミット反応の熱を本発明の課題解決のために利用できることを発見したのである。こうして、本発明を完成させるに至った。
すなわち、第1発明のダイカスト方法は、第1溶湯及び第2溶湯は主要となる成分がアルミニウムであり、小キャビティ内に第1溶湯を注湯する第1工程と、
該小キャビティ内で該第1溶湯の流動性が低くなった時点で該小キャビティを拡大して大キャビティとし、該大キャビティ内に該第1溶湯とはケイ素の含有量が異なる該第2溶湯を酸素とともに霧状に注湯しつつ該第2溶湯に圧力を加える第2工程と、
該大キャビティ内で該第1溶湯及び該第2溶湯を固化してアルミダイカスト品を得る第3工程とを備えたことを特徴とする。
該小キャビティ内で該第1溶湯の流動性が低くなった時点で該小キャビティを拡大して大キャビティとし、該大キャビティ内に該第1溶湯とはケイ素の含有量が異なる該第2溶湯を酸素とともに霧状に注湯しつつ該第2溶湯に圧力を加える第2工程と、
該大キャビティ内で該第1溶湯及び該第2溶湯を固化してアルミダイカスト品を得る第3工程とを備えたことを特徴とする。
このダイカスト方法では、主要となる成分がアルミニウムである第1溶湯及び第2溶湯を用い、まず第1工程において、小キャビティ内に第1溶湯を注湯しつつ第1溶湯に圧力を加える。そして、第2工程において、小キャビティ内で第1溶湯の流動性が低くなった時点で小キャビティを拡大して大キャビティとし、大キャビティ内に第1溶湯とはケイ素の含有量が異なる第2溶湯を注湯しつつ第2溶湯に圧力を加える。この際、第1溶湯の外郭は固化により酸化膜を形成し得るが、第2溶湯を酸素とともに霧状に注湯しているため、小粒の第2溶湯が大キャビティ内で爆発的に酸化して多量の熱を発生させ、この熱によってその酸化膜が極めて効果的に破壊される。この際、大キャビティ内を真空等の負圧とし、この状態で第2溶湯を酸素とともに霧状に注湯することが好ましい。これにより、気孔のないアルミダイカスト品を製造できる。この後、第3工程において、大キャビティ内で第1溶湯及び第2溶湯を固化してアルミダイカスト品を得る。
こうして得られるアルミダイカスト品では、第1溶湯からなる第1母材と第2溶湯からなる第2母材との成分はアルミニウムで共通する同種材料であるが、それぞれケイ素の含有量が異なっている。そして、複数の母材はお互いが冶金学的に一体に形成されている。このため、このアルミダイカスト品は、各母材によって部分的な強度、耐摩耗性、熱伝導性、線熱膨張係数、加工性の変更等、広く特性の部分的な変化を実現することができる。より具体的には、ケイ素の含有量が多い母材では高硬度、低線熱膨張係数の特性を発揮し、ケイ素の含有量が少ない母材では低硬度、高線熱膨張係数の特性を発揮する。
冶金学的に一体に形成されているとは、ある含有量のケイ素をもつアルミニウム合金のケイ素の配置を偏在させて各母材としたものとは異なり、ケイ素の含有量が異なる母材間の境界に酸化膜が存在しない部分が存在することを意味する。このため、このアルミダイカスト品は、異なる金属組織の複数の母材が優れた密着力の下で存在することとなる。このアルミダイカスト品では、その境界に全く酸化膜がない場合と、酸化膜が残っているものの、その酸化膜が連続しておらず、部分的に破壊されている場合とがある。もちろん、その境界にはろう材や溶接材が存在しない。さらに、このアルミダイカスト品は、さほどの製造工程の増加を生じず、かつ焼結品に比して形状の制限がなく、焼結品のように製造時に材料を粉末にする必要がないため、製造コストの面で有利である。
したがって、このダイカスト方法によれば、広く特性の部分的な変化を実現可能であるとともにその部分間の密着力に優れ、かつ製造コストの高騰化を生じないアルミダイカスト品を製造することができる。こうして得られるアルミダイカスト品は、より局部的な強度向上、機械加工の容易性等が要求される例えばCO2圧縮機のハウジング、ピストン等に用いられることにより、そのCO2圧縮機の軽量化、小型化及びコストダウンを実現することができる。
複数の母材は全て溶湯によって形成され得る。この場合、溶湯以外のものを組み合わせた場合と比較して結合しやすい。
アルミダイカスト品は、母材が2種類に限定されないが、母材が2種類である場合には、3種類以上である場合に比べて成形がしやすい。
小キャビティ内で第1溶湯の流動性が低くなった時点とは、第1溶湯が内部は溶融状態であり、外殻は固化状態となった時点をいう。この時点で第2工程を行えば、第2工程で第2溶湯によって第1溶湯の外郭を再溶融することができる。第1溶湯の外郭は固化により酸化膜を形成し得るが、その酸化膜は第2工程の第2溶湯によって破壊される。
先に注湯する溶湯を後から注湯する溶湯に対して200°C程度高い温度で溶融することが好ましい。これにより、キャビティを形成するダイカスト用金型で先に注湯した溶湯が冷えても、後に注湯される溶湯まで極端に冷やされることがなく、優れたアルミダイカスト品を確実に製造することができる。
第1発明のダイカスト方法は、第1工程において、第1溶湯に圧力を加えることもできる。この場合、第1溶湯によって形成される第1母材が精度良く成形され、物理的又は機械的な特性の相違を局部的に発揮可能なアルミダイカスト品を製造することができる。なお、第1発明のダイカスト方法は、第1工程において第1溶湯を重力によって注湯することもできる。この場合、比較的簡易なダイカスト用金型を用いることができるため、製造コストの低廉化を実現できる。
第1発明のダイカスト方法は、第1溶湯がケイ素を含有する第1アルミニウム合金であり、第2溶湯は、第1アルミニウム合金よりもケイ素の含有量が少なく、第1アルミニウム合金より低い温度で溶融される第2アルミニウム合金である場合、効果的である。こうして得られるアルミダイカスト品は、第1母材がケイ素を多く含有する第1アルミニウム合金であり、第2母材がケイ素を少なく含有する第2アルミニウム合金であることから、第1母材では高硬度、低線熱膨張係数の特性を発揮し、第2母材では低硬度、高線熱膨張係数の特性を発揮する。
第1発明のダイカスト方法は、例えば、第1アルミニウム合金がケイ素を16.0〜18.0質量%含有し、第2アルミニウム合金がケイ素を9.6〜12.0質量%含有している。発明者らはこのようなダイカスト方法によりアルミダイカスト品を製造し、その効果を確認した。この場合、第1アルミニウム合金を800〜850°Cで溶融して溶湯とし、第2アルミニウム合金を650〜700°Cで溶融して溶湯とすることが好ましい。
また、第2発明のダイカスト方法は、キャビティ内に金属製のインサート部材をインサートする第1工程と、
該インサート部材を加熱しつつ、該キャビティ内に該インサート部材とは成分が異なり、主要となる成分がアルミニウムである溶湯を酸素とともに霧状に注湯しつつ該溶湯に圧力を加える第2工程と、
該キャビティ内で該溶湯を固化してアルミダイカスト品を得る第3工程とを備えたことを特徴とする。
該インサート部材を加熱しつつ、該キャビティ内に該インサート部材とは成分が異なり、主要となる成分がアルミニウムである溶湯を酸素とともに霧状に注湯しつつ該溶湯に圧力を加える第2工程と、
該キャビティ内で該溶湯を固化してアルミダイカスト品を得る第3工程とを備えたことを特徴とする。
このダイカスト方法では、まず第1工程において、キャビティ内に金属製のインサート部材をインサートする。そして、第2工程において、インサート部材を加熱しつつ、キャビティ内にインサート部材とは成分が異なり、主要となる成分がアルミニウムである溶湯を酸素とともに霧状に注湯しつつ溶湯に圧力を加える。この際、溶湯を酸素とともに霧状に注湯しているため、小粒の溶湯がキャビティ内で爆発的に酸化して多量の熱を発生させ、この熱によってインサート部材の酸化膜が極めて効果的に破壊される。また、インサート部材は、加熱されるため、一旦形成された酸化膜が破壊され易い。この際、キャビティ内を真空等の負圧とし、この状態で溶湯を酸素とともに霧状に注湯することが好ましい。これにより、気孔のないアルミダイカスト品を製造できる。この後、第3工程において、キャビティ内で溶湯を固化してアルミダイカスト品を得る。
こうして得られるアルミダイカスト品は、インサート部材によって第1母材が形成され、溶湯によって第2母材が形成される。このアルミダイカスト品は、第1母材と第2母材との成分が異なることから、部分的な強度、耐摩耗性、熱伝導性、線熱膨張係数、加工性の変更等、広く特性の部分的な変化を実現することができる。また、このアルミダイカスト品では、主要となる成分がアルミニウムである溶湯によって第2母材が形成されることにより金属組織が同一となり、第1母材と第2母材との境界は金属組織は異なるものの酸化膜が存在しない部分が存在していることとなる。このため、このアルミダイカスト品は、異なる金属組織の第1母材及び第2母材が優れた密着力の下で存在することとなる。このアルミダイカスト品では、その境界に全く酸化膜がない場合と、酸化膜が残っているものの、その酸化膜が連続しておらず、部分的に破壊されている場合とがある。もちろん、その境界にはろう材や溶接材が存在しない。さらに、このアルミダイカスト品は、さほどの製造工程の増加を生じず、かつ焼結品に比して形状の制限がなく、焼結品のように製造時に材料を粉末にする必要がないため、製造コストの面で有利である。
したがって、このダイカスト方法によっても、広く特性の部分的な変化を実現可能であるとともにその部分間の密着力に優れ、かつ製造コストの高騰化を生じないアルミダイカスト品を製造することができる。こうして得られるアルミダイカスト品も、より局部的な強度向上、機械加工の容易性等が要求される例えばCO2圧縮機のハウジング、ピストン等に用いられることにより、そのCO2圧縮機の軽量化、小型化及びコストダウンを実現することができる。
第2発明のダイカスト方法は、第2工程において、溶湯によってインサート部材の少なくとも表面を再溶融することが好ましい。これにより、インサート部材の酸化膜が破壊される。
第2発明のダイカスト方法は、インサート部材がケイ素を含有する第1アルミニウム合金製であり、溶湯は、第1アルミニウム合金よりもケイ素の含有量が少ない第2アルミニウム合金である場合、効果的である。こうして得られるアルミダイカスト品は、第1母材がケイ素を多く含有する第1アルミニウム合金であり、第2母材がケイ素を少なく含有する第2アルミニウム合金であることから、第1母材では高硬度、低線熱膨張係数の特性を発揮し、第2母材では低硬度、高線熱膨張係数の特性を発揮する。
第2発明のダイカスト方法は、例えば、第1アルミニウム合金がケイ素を16.0〜18.0質量%含有し、第2アルミニウム合金がケイ素を9.6〜12.0質量%含有している。発明者らはこのようなダイカスト方法によりアルミダイカスト品を製造し、その効果を確認した。
以下、本発明を具体化した実施例1〜2を図面を参照しつつ説明する。
まず、図1〜4に示すダイカスト用金型を用意する。このダイカスト用金型では、固定型1と可動型2とが互いに離れる水平方向に移動可能に設けられており、固定型1の図中の左面には第1金型3が固定され、可動型2の図中の右面には第2金型本体4が固定されている。固定型1と可動型2との水平方向の移動により、第1金型3及び第2金型本体4は水平方向に型開き可能に構成されている。
可動型2には第1金型3に向かうスライド穴2aが形成され、第2金型本体4にはスライド穴2aと連続して第1金型3に向かうスライド穴4aが形成されている。これらスライド穴2a、4aには、図1〜3に示すように、第1スライド型5aがピン6aにより水平移動可能に設けられているとともに、図4に示すように、第2スライド型5bがピン6bにより水平移動可能に設けられている。
図1に示すように、第1金型3の左面及び第1スライド型5aは小キャビティC1を形成している。第1金型3には小キャビティC1内に突出する固定ピン3cが固定されている。
また、図2〜4に示すように、第1スライド型5aがスライド穴2a、4a内を左方向に移動し、第2スライド型5bがスライド穴2a内に位置することにより、第1金型3の左面及び第2スライド型5bは、小キャビティC1より大きい大キャビティC2を形成する。第2金型本体4、第1スライド型5a及び第2スライド型5bが第2金型である。第1金型3、第2金型本体4、第1スライド型5a及び第2スライド型5bはNi−Cr−Mo合金からなる。
第1金型3には小キャビティC1と水平に連通する第1圧入口3aが形成されており、第1圧入口3aは小キャビティC1の下方に連通している。また、第2金型本体4には、図5に示すように、小キャビティC1から離反し、大キャビティC2と上下に連通する連通溝4bが第1金型3の第2金型本体4側の面とともに細く形成されているとともに、この連通溝4bの下端と連通する第2圧入口4cが第1金型3の第2金型本体4側の面とともに形成されている。
図1〜5に示すように、第1圧入口3aには第1インジェクション7が設けられている。第1インジェクション7は、第1圧入口3aと連通する第1射出スリーブ7aと、この第1射出スリーブ7a内を摺動するプランジャ7bと、プランジャ7bをロッドによって前進及び後退させるシリンダ7cとからなる。また、第2圧入口4cには第2インジェクション8が設けられている。第2インジェクション8は、第2圧入口4cと連通する第2射出スリーブ8aと、この第2射出スリーブ8a内を摺動するプランジャ8bと、プランジャ8bをロッドによって前進及び後退させるシリンダ8cとからなる。第2射出スリーブ8aは第2圧入口4cとプランジャ8bとの間に給気管8dを有しており、給気管8dは開閉弁8eを介して図示しない酸素ボンベに接続されている。
以上のダイカスト用金型を用い、まず第1工程において、図1に示すように、第1スライド型5aをスライド穴4a内に位置させ、小キャビティC1を第1金型3の第1圧入口3aと連通させる。この状態において、第1インジェクション7の第1射出スリーブ7a内に第1溶湯M1を一定量入れ、図2に示すように、シリンダ7cによってプランジャ7bを前進させる。この第1溶湯M1は、Cuが4.0〜5.0質量%、Siが16.0〜18.0質量%、Mgが0.45〜0.65質量%、Znが1.5質量%以下、Feが1.3質量%以下、Mnが0.5質量%以下、Niが0.3質量%以下、Snが0.3質量%以下、Alが残部のADC14(第1アルミニウム合金)であり、800〜850°Cで溶融されている。こうして、小キャビティC1内に第1溶湯M1を注湯しつつ第1溶湯M1に圧力を加える。
そして、第2工程において、図3に示すように、小キャビティC1内で第1溶湯M1の流動性が低くなった時点で、第1スライド型5aを左方向に移動させ、図4に示すように、第2スライド型5bをスライド穴2a内に位置させる。この小キャビティC1内で第1溶湯M1の流動性が低くなった時点とは、第1溶湯M1が内部は溶融状態であり、外殻は固化状態となった時点である。こうして、小キャビティC1を拡大して大キャビティC2とする。また、図3及び図4に示すように、大キャビティC2を第1金型3の第2圧入口3bと連通させる。この際、図3に示すように、第1溶湯M1からなる部分は固定ピン3cによって大キャビティC2内に保持されている。そして、大キャビティC2と連通する図示しないポンプを作動させることにより、大キャビティC2内を真空とし、この状態において、第2インジェクション8の第2射出スリーブ8a内に第2溶湯M2を一定量入れるとともに、開閉弁8eを開いて給気管8dにより第2圧入口4cとプランジャ8bとの間に酸素を一定量入れる。そして、図4に示すように、シリンダ8cによってプランジャ8bを前進させる。第2溶湯M2は、Cuが1.5〜3.5質量%、Siが9.6〜12.0質量%、Mgが0.3質量%以下、Znが1.0質量%以下、Feが1.3質量%以下、Mnが0.5質量%以下、Niが0.5質量%以下、Snが0.2質量%以下、Alが残部のADC12(第2アルミニウム合金)であり、650〜700°Cで溶融されている。こうして、大キャビティC2内に第2溶湯M2を注湯しつつ第2溶湯M2に圧力を加える。
この際、第1溶湯M1の外郭は固化により酸化膜を形成し得るが、図5に示すように、第2溶湯M2が第2圧入口4cを経て内径の細い連通溝4bによって酸素とともに霧状に注湯されるため、小粒の第2溶湯M2が大キャビティC2内で爆発的に酸化して多量の熱を発生させる(テルミット反応)。この熱によってその酸化膜が再溶融され、極めて効果的に破壊される。
また、第1溶湯M1を第2溶湯M2に対して200°C程度高い温度で溶融しているため、ダイカスト用金型で第1溶湯M1が冷えても、第2溶湯M2まで極端に冷やされることがない。また、第2圧入口4cが大キャビティC2の下方に連通し、第2溶湯M2が霧状に大キャビティC2内に注湯されるため、第2溶湯M2が第1溶湯M1からなる部分に強く当たらず、第1溶湯M1からなる部分の形状を維持する。さらに、大キャビティC2内を真空とした状態で第2溶湯M2を酸素とともに霧状に注湯しているため、後述するアルミダイカスト品Pに気孔を生じない。
この後、第3工程において、大キャビティC2内で第1溶湯M1及び第2溶湯M2を固化してアルミダイカスト品Pを得る。こうして、図6(A)に示すように、実施例1のアルミダイカスト品Pを製造することができる。このアルミダイカスト品Pは、図6(B)に示すように、第1溶湯M1からなる第1母材M1と、第1母材M1とは酸化膜が存在しない部分のある境界によって一体に形成され、第2溶湯M2からなる第2母材M2とからなる。
このアルミダイカスト品Pは、第1母材M1と第2母材M2との成分が異なることから、部分的な強度、耐摩耗性、熱伝導性、線熱膨張係数、加工性の変更等、広く特性の部分的な変化を実現することができる。より具体的には、ADC14からなる第1母材M1は、引張強さ320MPa、0.2%耐力250MPa、伸び1%未満、硬さ108HB(10/500)、衝撃強さ3.8kJ/m2、ヤング率81.2GPa、密度2.73g/cm2、熱伝導率134W/m・K、線熱膨張係数18×10-6/K、導電率37%(IACS)等の特性を発揮する。一方、ADC12からなる第2母材M2は、引張強さ310MPa、0.2%耐力150MPa、伸び3.5%、硬さ86HB(10/500)、衝撃強さ8.1kJ/m2、密度2.68g/cm2、熱伝導率96W/m・K、線熱膨張係数21×10-6/K、導電率23%(IACS)等の特性を発揮する。
また、このアルミダイカスト品Pでは、第1母材M1が第1溶湯M1によって形成されていることからその成分に基づいて同一の金属組織となり、第2母材M2が第2溶湯M2によって形成されていることからその成分に基づいて同一の金属組織となり、第1母材M1と第2母材M2との境界は金属組織は異なるものの酸化膜が存在しない部分が存在していることとなる。特に、このアルミダイカスト品Pは、テルミット反応の熱によってその酸化膜が再溶融され、極めて効果的に破壊されている。このため、このアルミダイカスト品Pは、異なる金属組織の第1母材M1及び第2母材M2が優れた密着力の下で存在することとなる。このため、このアルミダイカスト品Pは優れた耐久性を発揮することができる。
さらに、このアルミダイカスト品Pは、さほどの製造工程の増加を生じず、かつ焼結品に比して形状の制限がなく、焼結品のように製造時に材料を粉末にする必要がないため、製造コストの面で有利である。
したがって、このダイカスト方法によれば、広く特性の部分的な変化を実現可能であるとともにその部分間の密着力に優れ、かつ製造コストの高騰化を生じないダイカストP品を製造することができる。このアルミダイカスト品Pは、CO2圧縮機のハウジング、ピストン等に用いられることにより、そのCO2圧縮機の軽量化、小型化及びコストダウンを実現することができる。
まず、図7に示すダイカスト用金型を用意する。このダイカスト用金型では、固定型9と可動型10とが互いに離れる水平方向に移動可能に設けられており、固定型9の図中の左面には第1金型11が固定され、可動型10の図中の右面には実施例1の第2金型本体4と同様の第2金型4が固定されている。固定型9と可動型10との水平方向の移動により、第1金型11及び第2金型4は水平方向に型開き可能に構成されている。
第2金型4にはキャビティCが形成されている。第1金型11にはキャビティC内に突出する固定ピン11aが固定されている。可動型10には固定ピン11a近傍に位置する高周波コイル10aが設けられている。可動型10、第1金型11及び第2金型4はNi−Cr−Mo合金からなる。
第2金型4には、キャビティCと上下に連通する連通溝4bが第1金型11の第2金型4側の面とともに細く形成されているとともに、この連通溝4bの下端と連通する圧入口4cが第1金型11の第2金型4側の面とともに形成されている。
圧入口4cにはインジェクション12が設けられている。インジェクション12は、圧入口4cと連通する射出スリーブ12aと、この射出スリーブ12a内を摺動するプランジャ12bと、プランジャ12bをロッドによって前進及び後退させるシリンダ12cとからなる。射出スリーブ12aは圧入口4cとプランジャ12bとの間に給気管12dを有しており、給気管12dは開閉弁12eを介して図示しない酸素ボンベに接続されている。
以上のダイカスト用金型を用い、まず第1工程において、固定ピン11aによってインサート部材M3を保持し、キャビティC内にインサート部材M3をインサートする。このインサート部材M3は、ADC14(第1アルミニウム合金)である。
そして、第2工程において、キャビティCと連通する図示しないポンプを作動させることにより、キャビティC内を真空としつつ、高周波コイル10aによってインサート部材M3を加熱する。この状態において、インジェクション12の射出スリーブ12a内に溶湯M4を一定量入れるとともに、圧入口4cとプランジャ12bとの間に酸素を供給した後、シリンダ12cによってプランジャ12bを前進させる。溶湯M4は、ADC12(第2アルミニウム合金)であり、650〜700°Cで溶融されている。こうして、キャビティC内に溶湯M4を注湯しつつ溶湯M4に圧力を加える。
この際、溶湯M4が圧入口4cを経て内径の細い連通溝4bによって酸素とともに霧状に注湯されるため、小粒の溶湯M4がキャビティC内で爆発的に酸化して多量の熱を発生させる(テルミット反応)。この熱によってインサート部材M3の酸化膜が再溶融され、極めて効果的に破壊される。また、インサート部材M3は、加熱されているため、一旦形成された酸化膜が破壊され易い。さらに、キャビティC内を真空とした状態で溶湯M4を酸素とともに霧状に注湯しているため、アルミダイカスト品Pに気孔を生じない。
この後、第3工程において、キャビティC内でインサート部材M3及び溶湯M4を固化してアルミダイカスト品Pを得る。こうして、図6に示すように、実施例1と同様のアルミダイカスト品Pを製造することができる。他の作用効果は実施例1と同様である。
上記実施例1、2と同様のダイカスト方法により、ベーン型圧縮機のベーンを製造することも可能である。この場合、ベーンの先端部分を高硬度の母材とし、他の部分を低硬度の母材とする。
また、上記実施例1、2と同様のダイカスト方法により、ピストン型圧縮機のピストンが摺動するシリンダブロックを製造することも可能である。この場合、シリンダブロックの摺動部分を高硬度の母材とし、他の部分を低硬度の母材とする。
さらに、上記実施例1、2と同様のダイカスト方法により、ヒートシンク部品を製造することも可能である。この場合、受熱部分を高熱伝導性の母材とする。
また、上記実施例1、2と同様のダイカスト方法により、種々の圧縮機の軸受部分を製造することも可能である。この場合、回転部分を鉄系材料からなる駆動軸に近い線熱膨張係数の母材とする。
M1…第1溶湯、第1母材
M2…第2溶湯、第2母材
M3…インサート部材
M4…溶湯
C1…小キャビティ
C2…大キャビティ
C…キャビティ
P…アルミダイカスト品
M2…第2溶湯、第2母材
M3…インサート部材
M4…溶湯
C1…小キャビティ
C2…大キャビティ
C…キャビティ
P…アルミダイカスト品
Claims (9)
- 第1溶湯及び第2溶湯は主要となる成分がアルミニウムであり、小キャビティ内に第1溶湯を注湯する第1工程と、
該小キャビティ内で該第1溶湯の流動性が低くなった時点で該小キャビティを拡大して大キャビティとし、該大キャビティ内に該第1溶湯とはケイ素の含有量が異なる該第2溶湯を酸素とともに霧状に注湯しつつ該第2溶湯に圧力を加える第2工程と、
該大キャビティ内で該第1溶湯及び該第2溶湯を固化してアルミダイカスト品を得る第3工程とを備えたことを特徴とするダイカスト方法。 - 前記第1溶湯が内部は溶融状態であり、外殻は固化状態となった時点で前記第2工程を行い、該第2工程で前記第2溶湯によって該第1溶湯の該外郭を再溶融することを特徴とする請求項1記載のダイカスト方法。
- 前記第1工程において、前記第1溶湯に圧力を加えることを特徴とする請求項1又は2記載のダイカスト方法。
- 前記第1溶湯はケイ素を含有する第1アルミニウム合金であり、前記第2溶湯は、該第1溶湯よりもケイ素の含有量が少なく、該第1アルミニウム合金より低い温度で溶融される第2アルミニウム合金であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のダイカスト方法。
- 前記第1アルミニウム合金はケイ素を16.0〜18.0質量%含有し、前記第2アルミニウム合金はケイ素を9.6〜12.0質量%含有していることを特徴とする請求項4記載のダイカスト方法。
- キャビティ内に金属製のインサート部材をインサートする第1工程と、
該インサート部材を加熱しつつ、該キャビティ内に該インサート部材とは成分が異なり、主要となる成分がアルミニウムである溶湯を酸素とともに霧状に注湯しつつ該溶湯に圧力を加える第2工程と、
該キャビティ内で該溶湯を固化してアルミダイカスト品を得る第3工程とを備えたことを特徴とするダイカスト方法。 - 前記第2工程において、前記溶湯によって前記インサート部材の少なくとも表面を再溶融することを特徴とする請求項6記載のダイカスト方法。
- 前記インサート部材はケイ素を含有する第1アルミニウム合金製であり、前記溶湯は、該第1アルミニウム合金よりもケイ素の含有量が少ない第2アルミニウム合金であることを特徴とする請求項6又は7記載のダイカスト方法。
- 前記第1アルミニウム合金はケイ素を16.0〜18.0質量%含有し、前記第2アルミニウム合金はケイ素を9.6〜12.0質量%含有していることを特徴とする請求項8記載のダイカスト方法。
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Cited By (1)
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CN115194128A (zh) * | 2021-04-12 | 2022-10-18 | 张靖 | 一种管状金属包复材料挤压铸造直接复合成形设备与工艺 |
-
2003
- 2003-12-22 JP JP2003424381A patent/JP2005177833A/ja active Pending
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CN115194128A (zh) * | 2021-04-12 | 2022-10-18 | 张靖 | 一种管状金属包复材料挤压铸造直接复合成形设备与工艺 |
CN115194128B (zh) * | 2021-04-12 | 2024-01-23 | 张靖 | 一种管状金属包复材料挤压铸造直接复合成形设备与工艺 |
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