太陽電池はクリーンな石油代替エネルギー源として小規模な家庭用から大規模な発電システムまでの広い分野でその実用化が期待されている。これらは使用原料の種類によって結晶系、アモルファス系、化合物系などに分類され、なかでも現在市場に流通しているものの多くは結晶系シリコン太陽電池である。この結晶系シリコン太陽電池はさらに単結晶型と多結晶型に分類されている。単結晶シリコン太陽電池は基板の品質が良いために変換効率の高効率化が容易であるという長所を有する反面、基板の製造コストが高いという短所を有する。
これに対して多結晶シリコン太陽電池は従来から市場に流通してきたが、近年、環境問題への関心が高まる中でその需要は増加しており、より低コストで高い変換効率が求められている。こうした要求に対処するためには多結晶シリコン基板の低コスト化、高品質化が必要であり、高純度のシリコンインゴットを歩留良く製造することが求められている。
多結晶シリコン太陽電池に用いる多結晶シリコン基板は一般にキャスティング法と呼ばれる方法で製造される。このキャスティング法は、離型材を塗布した黒鉛などからなる鋳型内に高温で加熱溶解させたシリコン融液を注湯して鋳型底部より一方向凝固させたり、シリコン原料を鋳型内に入れて一旦溶解した後、再び底部より一方向凝固させたりして、シリコンインゴットを形成する方法である。このシリコンインゴットの端部を除去し、所望の大きさに切断して切り出し、切り出したシリコンインゴットを所望の厚みにスライスして太陽電池を形成するための多結晶シリコン基板を得る。
このような多結晶シリコンインゴットを作製するための一般的なシリコン鋳造装置を図図5に示す。
上部には原料シリコン12を溶融するための溶解るつぼ10が保持るつぼ11に保持されて配置され、溶解るつぼ10と保持るつぼ11の底部にはシリコン融液を出湯するための出湯口13が設けられる。また、溶解るつぼ10、保持るつぼ11の上部と側部にはそれぞれ加熱手段14、15が配置され、溶解るつぼ10、保持るつぼ11の下部にはシリコン融液4が注ぎ込まれる鋳型1が配置され、その外側に鋳型断熱材3が設けられる。さらに、鋳型1の下部には冷却板9が設けられ、鋳型1の上部にはシリコン融液4の凝固を制御するための鋳型加熱手段8が配置される。
例えば高純度石英などからなる溶解るつぼ10内に入れられたシリコン原料は、抵抗加熱式のヒーターや誘導加熱式のコイルなどからなる、上部および側部の加熱手段14、15によって加熱溶融され、シリコン融液となって底部の出湯口13から下部にある鋳型1内に注湯される。
鋳型1は例えば黒鉛などからなり、例えば、一つの底部材1aと4つの側部材1bを組み合わせた分割、組み立て可能な分割鋳型などで構成される。離型材層2は、シリコンの窒化物である窒化シリコン(Si
3N
4)、シリコンの炭化物である炭化シリコン(SiC)、シリコンの酸化物である酸化珪素(SiO
2)などの粉末が用いられ、これらの粉末を適当なバインダーと溶剤とから構成される溶液中に混合して攪拌してスラリーとし、鋳型内壁に塗布もしくはスプレーなどの手段でコーティングすることが公知の技術として知られている(例えば、非特許文献1参照)。鋳型断熱材3は抜熱を抑制するものであり耐熱性、断熱性などを考慮して主成分としてカーボンを含む材質のものが用いられる。鋳型加熱手段8は、抵抗加熱式のヒーターや誘導加熱式のコイルなどが用いられる。鋳型1の側壁部をグラファイト質成形体などからなる鋳型断熱材3で覆い、冷却板9によって鋳型1内に注湯されたシリコン融液4を下部から冷却することによって、鋳型1の上方のみからシリコン融液を加熱するだけで、シリコン融液を下部から上部へ向けて一方向凝固させて、多結晶シリコンインゴットを得ることができる(例えば、特許文献1参照)。なお、これらはすべて真空容器(図示せず)内に配置される。
特開平9−263489号公報
15th Photovoltaic Specialists Conf. (1981)、 P576〜P580、 "A NEW DIRECTIONAL SOLIDIFICATION TECHNIQUE FOR POLYCRYSTALLINE SOLAR GRADE SILICON"
図5に示される一般的なシリコン鋳造装置では、鋳型1の上部の鋳型加熱手段8の輻射を直接受けるので、鋳型1に設けられた離型材層2の温度が高温になりやすい。離型材層2が加熱されると、鋳型1が置かれた高温・低圧力の条件下において離型材層2の昇華分解が進むため、離型材層2の厚みが薄くなる。その結果、シリコン融液4と鋳型1とが接触しやすくなるという問題がある。
また、凝固開始前のシリコン融液4の液面位置5に対して、その近傍に位置する離型材層に対して、シリコン融液4が毛細管現象によりしみ上がり、濡れた状態となっている。このしみ上がり部6が加熱された場合、この部分において、シリコン融液の表面張力が減少し濡れ性がさらに増大するため、しみ上がり部6のシリコン融液が離型材層2に浸透しやすくなる。その結果、シリコン融液4と鋳型1が接触しやすくなる。
このように、シリコン融液4と鋳型1とが接触した状態でシリコン融液4を凝固させると、鋳型1と多結晶シリコンインゴットとが融着した状態となる。そのため多結晶シリコンインゴットを鋳型1から脱型する際に、シリコンと鋳型1との熱膨張係数の違いから、シリコンインゴットの割れを生じる結果となる。また、離型材層中の離型材がシリコン融液4の中に混入し、異物不良の原因になるという問題も生ずる。
なお、鋳型1として、分割可能な黒鉛製の鋳型を用いた場合であっても、一体構造である石英製の鋳型を用いた場合であっても、鋳型1がその上部の鋳型加熱手段8の輻射を直接受けた場合、同様の問題が発生していた。特に、分割可能な黒鉛型の鋳型の場合は、何度も繰り返して利用することを念頭に作製されているが、シリコン融液が鋳型と接触して融着すると、鋳型の消耗が激しくなり、再利用が困難となるので、鋳型の使用回数が減少し、コストが高くなってしまうという問題もあった。
本発明はこのような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に鋳型とシリコン融液との接触を防止することによって、シリコンインゴットの割れを防止し、離型材層の融液内への混入を防ぐシリコン鋳造用装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の請求項1にかかるシリコン鋳造用装置は、上部に開口部を有し、その内表面に離型材層を有する鋳型と、前記鋳型の上方にこの鋳型内部のシリコン融液を加熱するための鋳型加熱手段と、を備え、前記鋳型加熱手段と前記鋳型との間に、前記鋳型加熱手段から前記離型材層への輻射熱を遮るべく熱遮蔽板を介在させてなる。
このようにしたので、鋳型の離型材層に対する加熱が抑制され、離型材層が熱による昇華分解を受けて薄くなったり、シリコン融液が離型材層にしみこみやすくなったりする現象を抑えることができる。その結果、シリコン融液と鋳型とが接触することを防止することができる。
本発明の請求項2にかかるシリコン鋳造用装置は、請求項1に記載のシリコン鋳造用装置において、前記鋳型はその側面外周を鋳型断熱材で覆われてなり、前記熱遮蔽板はこの鋳型断熱材の上端に連なるように接続されてなる。
このようにしたので、シリコン融液を鋳型の内部に保持した際に、鋳型の横部からの抜熱を抑制することができると同時に、鋳型の外側に対する鋳型加熱手段からの輻射熱を遮ることができるので、鋳型の外側からの伝熱による離型材層の加熱を抑えることができる。その結果、シリコン融液を下部から一方向凝固しやすくし、かつシリコン融液と鋳型とが接触することを防止することができる。
本発明の請求項3にかかるシリコン鋳造用装置は、請求項2に記載のシリコン鋳造用装置において、前記熱遮蔽板および前記鋳型断熱材は、同一の材料で構成されてなるようにしたので、一体的に同一材料で作製できることから、極めて容易に本発明の構成を得ることができる。
本発明の請求項4にかかるシリコン鋳造用装置は、請求項1から3のいずれかに記載のシリコン鋳造用装置において、前記熱遮蔽板および/または鋳型断熱材を構成する材料は、主成分がカーボンであり、その表面をカーボンの粉体でコーティングされてなるようにしたので、シリコン融液がこの材料に付着しても、劣化しにくい。
本発明の請求項5にかかるシリコン鋳造用装置は、請求項4に記載のシリコン鋳造用装置において、前記材料のかさ密度は、0.05g/cm3以上0.50g/cm3以下としてなるようにしたので、鋳型加熱手段からの輻射を最適に遮蔽することができ、鋳型内部のシリコン融液に対する加熱を保ちつつ、鋳型内面の離型材層に対する加熱を抑えることができる。
本発明の請求項6にかかるシリコン鋳造用装置は、請求項1から5のいずれかに記載のシリコン鋳造用装置において、前記熱遮蔽板は、前記鋳型の開口部端縁から上部に向かって垂直に延在させた仮想線から内側に突き出すように配置されてなる。
このように構成したので、鋳型の開口部端縁からその下部にかけての離型材層に対する鋳型加熱手段からの輻射を集中的に遮蔽することが可能となる。
本発明の請求項7にかかるシリコン鋳造用装置は、請求項6に記載のシリコン鋳造用装置において、前記熱遮蔽板は、前記仮想線から内側に突き出した部分の長さを15mm以上50mm以下としてなるようにしたので、鋳型加熱手段から鋳型内部のシリコン融液に対する輻射を保つ効果と、鋳型内面の離型材層に対する輻射を抑制する効果とのバランスを最適に保つことができる。
以上のように、本発明の請求項1にかかるシリコン鋳造用装置によれば、鋳型の離型材層に対する加熱が抑制され、離型材層が熱による昇華分解を受けて薄くなったり、シリコン融液が離型材層にしみこみやすくなったりする現象を抑えることができ、シリコン融液と鋳型とが接触することを防止することができる。その結果、鋳型がシリコンインゴットと融着することによって発生するシリコンインゴットの割れを防止したり、離型材層中の離型材がシリコン融液の中に混入し、異物不良の原因になるという問題も抑制することができる。
また、本発明の請求項2にかかるシリコン鋳造用装置によれば、シリコン融液を鋳型の内部に保持した際に、鋳型の横部からの抜熱を抑制することができると同時に、鋳型の外側に対する鋳型加熱手段からの輻射熱を遮ることができるので、鋳型の外側からの伝熱による離型材層の加熱を抑えることができる。その結果、シリコン融液を下部から一方向凝固しやすくし、かつシリコン融液と鋳型とが接触することを防止することができるので、鋳型がシリコンインゴットと融着することによって発生するシリコンインゴットの割れを防止したり、離型材層中の離型材がシリコン融液の中に混入し、異物不良の原因になるという問題も抑制することができると同時に、効率的に一方向凝固させた多結晶シリコンインゴットを得ることができる。
さらに、本発明の請求項3にかかるシリコン鋳造用装置によれば、一体的に同一材料で作製できることから、例えば、一体成形法などを用いて、極めて容易に本発明の構成を得ることができ、作製のための手間を省いて、低コスト化することが可能となる。
そして、本発明の請求項4にかかるシリコン鋳造用装置によれば、シリコン融液がこの材料に付着しても劣化しにくいので、例えば、るつぼからシリコン融液を出湯する際などに、シリコン融液が飛散して、熱遮蔽板や鋳型断熱材に付着したとしても、これらがシリコン融液を含み、もろくなってシリコン融液へ混入することを抑制することができる。
また、本発明の請求項5にかかるシリコン鋳造用装置によれば、鋳型加熱手段からの輻射を最適に遮蔽することができ、鋳型内部のシリコン融液に対する加熱を保ちつつ、鋳型内面の離型材層に対する加熱を抑えることができるので、一方向凝固させた多結晶シリコンインゴットを得るという目的に対して、何ら悪影響を与えることなく、シリコンインゴットの割れを防止し、離型材がシリコン融液の中に混入し、異物不良を起こすという問題を防止することができる。
さらに、本発明の請求項6にかかるシリコン鋳造用装置によれば、鋳型の開口部端縁からその下部にかけての離型材層に対する鋳型加熱手段からの輻射を集中的に遮蔽することが可能となり、最も鋳型加熱手段からの輻射を受けやすい当該箇所の加熱を防ぐことができる。その結果、シリコンインゴットの割れを防止し、離型材がシリコン融液の中に混入し、異物不良を起こすという問題を防止するという本発明の効果を最適に奏するようになる。
そして、本発明の請求項7にかかるシリコン鋳造用装置によれば、鋳型加熱手段から鋳型内部のシリコン融液に対する輻射を保つ効果と、鋳型内面の離型材層に対する輻射を抑制する効果とのバランスを最適に保つことができる。その結果、一方向凝固させた多結晶シリコンインゴットを得るという目的に対して、何ら悪影響を与えることなく、シリコンインゴットの割れを防止し、離型材がシリコン融液の中に混入し、異物不良を起こすという問題を防止するという本発明の効果を最適に奏するようになる。
以下、各請求項に関わる発明を添付図面に基づき詳細に説明する。
本発明にかかる鋳造装置の構成図を図1に示す。上部には原料シリコン12を溶融するための溶解るつぼ10が保持るつぼ11に保持されて配置され、溶解るつぼ10と保持るつぼ11の底部にはシリコン融液を出湯するための出湯口13が設けられる。また、溶解るつぼ10、保持るつぼ11の側部と上部にはそれぞれ加熱装置14、15が配置され、溶解るつぼ10、保持るつぼ11の下部にはシリコン融液4が注ぎ込まれる鋳型1が配置され、その外側に鋳型断熱材3が設けられる。さらに、鋳型1の下部には冷却板9が設けられ、鋳型1の上部にはシリコン融液4の凝固を制御するための鋳型加熱手段8が配置される。
例えば、高純度石英などからなる溶解るつぼ10内に入れられたシリコン原料は、抵抗加熱式のヒーターや誘導加熱式のコイルなどからなる、上部加熱手段14および側部加熱手段15によって加熱溶融され、シリコン融液となって底部の出湯口13から下部にある鋳型1内に注湯される。このシリコン融液4の入った鋳型は、例えばカーボンや炭素繊維強化炭素材料などからなり、一つの底部材1aと4つの側部材1bを組み合わせた分割、組み立て可能な分割鋳型などで構成される。なお、底部材1aと側部材1bは、ボルト(不図示)などで固定することによって分割可能に組み立てられたり、底部材1aと側部材1bが丁度嵌まる枠部材(不図示)で固定することによって分割可能に組み立てられる。
鋳型1の内表面には、底部材1aや側部材1bを何回も繰り返して使用することができるように離型材層2が塗布されている。このような離型材層2としては、窒化シリコン(Si3N4)の粉体とポリビニルアルコール水溶液で混ぜ合わせて鋳型1の内面に塗布する。窒化シリコンとポリビニルアルコール水溶液などで混合することによって、粉体である窒化シリコンがスラリー状となり、黒鉛製の鋳型1に塗布しやすくなる。
窒化シリコンの粉体としては、0.4〜0.6μm程度の平均粒径を有するものが用いられ、このような窒化シリコンと濃度が5〜15重量%程度のポリビニルアルコール水溶液に混合してスラリー状とし、へらや刷毛などで鋳型1の内表面に塗布する。その状態で自然乾燥又はホットプレートに載せて乾燥させて脱脂処理した後、鋳型1内にシリコン融液4を注湯する。
鋳型1の内表面への離型材層2の塗布は、窒化シリコンと二酸化シリコンの粉体を混合したものを、プラズマ溶射機を用いて塗布することも可能である。通常、粉体とポリビニルアルコールなどの有機バインダー水溶液を混合してスラリー状にした離型材を塗布するような場合、その後の加熱で有機バインダーの熱分解性生成物がシリコン融液中に混入することを防止するために脱バインダー(脱脂)処理が行われる。プラズマ溶射では、溶射温度は32000°Kに及ぶプラズマ気流中の10000℃前後の温度帯を使用して溶射粒子の噴射させて塗布するため、従来使用していた脱バインダー工程を省略することができる。
鋳型1の側面を鋳型断熱材3によって断熱するとともに、上部からは鋳型加熱手段8によって加熱し、下部には冷却板9を接触もしくは近づけることによって下部から抜熱し、一方向凝固を実現させる。シリコン融液4は、表面からの抜熱が大きいため、シリコン融液4の表面が先に凝固してしまい、液体のシリコン融液が内部に取り残されると、後で取り残されたシリコン融液が凝固して膨張し、シリコンインゴットの表面があたかも噴火したような状態となりシリコンインゴットに割れが生じる。この問題を防止するため、シリコン融液4の表面を凝固させないように、シリコン融液4の上部に位置する鋳型加熱手段8によりシリコン融液4の表面を加熱する必要がある。このような状態で、鋳型1の下部の冷却板9を接触もしくは近づけることによって、下部から抜熱を行えば、シリコン融液4を一方向凝固させることができる。
鋳型加熱手段8としては、抵抗加熱式のヒータや誘導加熱式のコイルなどを用いることができる。また、冷却板9としては、例えば、ステンレス(SUS)などの金属板を用いることができ、内部に水などの冷媒を循環させるなどして、鋳型1の内部のシリコン融液4から効果的に抜熱できるように構成されている。鋳型断熱材3としては、グラファイトフェルトなどの主成分をカーボンとする材質が望ましく、特にその表面をカーボンの粉体でコーティング処理を行ったものを用いれば、シリコン融液が付着したときに、劣化するという問題を減少させることができるので望ましい。
凝固後に、シリコンインゴットを冷却し、鋳型断熱材3を取り外し、最後に鋳型1からシリコンインゴットを取り出すことにより多結晶シリコンインゴットが完成する。
ここで、本発明にかかるシリコン鋳造用装置では、図1に示すように、この鋳型1の側面外周を覆う鋳型断熱材3の上端に熱遮蔽板7が設けられた構成になっている。この熱遮蔽板7は、鋳型1の内表面に設けられた離型材層2と鋳型加熱手段8との間に介在されるように配置され、この熱遮蔽板7によって、鋳型加熱手段8からの輻射熱が遮蔽される。これによって、鋳型加熱手段8から離型材層2に対する直接輻射によって加熱される比率が減少するので、離型材層2の温度が上がりすぎることを防止できる。したがって、シリコン鋳造用装置内の環境、すなわち高温・低圧下において、離型材層2が熱による昇華分解を受けて薄くなりにくい。
さらに、凝固開始前のシリコン融液4の液面位置5に対して、その近傍に位置する離型材層に対して、シリコン融液4が毛細管現象によりしみ上がり、濡れた状態となっている。このしみ上がり部6に該当する離型材層2の部分の温度が上がりすぎないので、この部分において、シリコン融液の表面張力が減少し濡れ性がさらに増大する現象を抑制できる。その結果、しみ上がり部6のシリコン融液が離型材層2に浸透しやすくなることを防ぐことができる。
このように、熱遮蔽板7を設けることによって、シリコン融液4と鋳型1とを接触しにくくすることができるので、鋳型1と多結晶シリコンインゴットとが融着することを防止し、シリコンインゴットの割れを少なくすることができる。また、離型材層2中の離型材がシリコン融液4の中に混入しにくくすることができ、異物不良をも少なくすることができる。
シリコン融液の密度は約2.55g/cm3、シリコンインゴットの密度は約2.33g/cm3であり、液体から固体へ移行するときに約9%の体積膨張が生じる。そのためシリコン融液4の液面位置5は凝固体積に伴い上昇する。シリコン融液4と鋳型1が最も接触しやすいのは、高温、低圧力条件下で離型材層2の厚みが薄くなった状態で、かつ、毛細管現象によりシリコン融液がしみこんだ、しみ上がり部6が加熱され、シリコン融液の表面張力が減少し濡れ性が増加して、しみ上がり部6のシリコン融液が離型材層2に浸透しやすくなるときである。そのため、鋳型加熱手段8の輻射を熱遮蔽板7で遮ることにより、このしみ上がり部6の温度上昇を防ぐことが一番好ましい。
この熱遮蔽板7の材質としては、グラファイトフェルトなどの主成分をカーボンとする材質が望ましく、特にその表面をカーボンの粉体でコーティング処理を行ったものを用いれば、シリコン融液が付着したときに、劣化するという問題を減少させることができるので、望ましい。このように、熱遮蔽板7の表面がカーボンの粉体でコーティングされていれば、溶解るつぼ10の出湯口13からシリコン融液が注湯される際に、シリコン融液が周囲に飛び跳ねて熱遮蔽板7に付着しても、劣化することがない。またシリコン融液が付着して、もろくなった熱遮蔽板7の材料がシリコン融液へ混入することを抑制することができる。
さらに、このような材質を用いる場合、かさ密度は、0.05g/cm3以上0.50g/cm3以下とすることが望ましい。かさ密度が0.05g/cm3より小さいと、鋳型加熱手段8の輻射熱を十分に遮ることが難しく、離型材層2が高温になってしまう。また、0.50g/cm3より大きいと、密度が高すぎて、鋳型加熱手段8からの輻射を必要以上に遮ってしまい、シリコン融液4に十分な熱量を供給することができず、その表面が凝固して一方向凝固できなくなってしまう恐れがある。かさ密度については、炭素繊維フェルト1本毎の編み込み方を変えることによって調整することができる。
また、この材質を用いる場合、熱遮蔽板7の厚みは3mm〜40mmの範囲とすることが望ましい。この範囲よりも小さいときは、輻射熱を遮蔽する効果に乏しく、この範囲よりも大きいときは、鋳型加熱手段8からの輻射を必要以上に遮ってしまい、シリコン融液4に十分な熱量を供給することができず、その表面が凝固して一方向凝固できなくなってしまう恐れがあるからである。
また、本発明においては、図1に示すように、鋳型1の側面外周を覆う鋳型断熱材3の上端と熱遮蔽板7とが連なっていることが望ましい。この部分に隙間があると、シリコン融液4を鋳型1の内部に保持した際に、鋳型1の横部から若干の抜熱があり、シリコン融液4の温度を下げてしまう可能性があるからである。
さらに、このように鋳型1の側面外周を覆う鋳型断熱材3の上端と熱遮蔽板7とが連なった構成とするためには、熱遮蔽板7および鋳型断熱材3を、同一の材料で構成することが望ましい。別々の部材によって作製してから組み立てるよりも、一体的に同一材料で作製すれば、例えば、一体成形によって作製することができ、極めて容易に本発明の構成を得ることができる。
次に、本発明にかかる熱遮蔽板7の配置方法について図2を用いて説明する。図2は、鋳型部の構成を示す要部模式図である。部材の符号は図1と全く同じである。本発明においては、熱遮蔽板7は、鋳型1の開口部端縁から上部に向かって垂直に延在させた仮想線Lよりも鋳型1の内側に向かって突き出すように配置されることが望ましい。これによって、鋳型1の開口部端縁からその下部にかけての離型材層2に対する鋳型加熱手段8からの輻射を集中的に遮蔽することが可能となるので、鋳型加熱手段8からの輻射を最も受けやすい当該箇所の加熱を防ぐことができる。その結果、シリコンインゴットの割れを防止するとともに、離型材層2がシリコン融液4の中に混入し、異物不良を起こすという問題を防止する本発明の効果を最適に奏するようになる。
そして、仮想線Lよりも鋳型1の内側に向かって突き出した部分の長さdは、15mm以上50mm以下とすることが望ましい。その理由としては、この部分の長さが15mmより短いと、輻射を十分に遮ることができなく、離型材層2が高温になってしまう。また、50mmより長いと、鋳型加熱手段8の輻射を必要以上に遮ってしまうため、シリコン融液4の表面が凝固して一方向凝固ができなくなったり、例えば、鋳型断熱材3に熱遮蔽板7を片持ち状態で固定している場合や一体的に形成されている場合には、熱遮蔽板7の部分が自重に耐えられず、シリコン融液4内に落下し、異物不良の原因になってしまう恐れがあるからである。上述の最適な範囲とすることで、鋳型加熱手段8から鋳型1内部のシリコン融液4に対する輻射を保つ効果と、鋳型1内面の離型材層2に対する輻射を抑制する効果とのバランスを最適に保つことができる。
図3に、本発明のシリコン鋳造用装置の部材配置の一例を示す要部斜視図を示す。部材の符号については図1と同じであるが、見やすくするため、鋳型断熱材3と冷却板9を省略している。図3に示す例では、鋳型1としては、底部材1aや側部材1bを組立/分割可能な直方体の形状のものを用いている。また、鋳型加熱手段8として、ドーナツリング形状のヒータを用い、熱遮蔽板7としては、鋳型1の側部材1bが組み立てられてなる四角形の開口部に対応した四角形の枠状の形状を有している。このように、熱遮蔽板7の形状を鋳型1の開口部の形状に対応させれば、鋳型1の内表面に設けた離型材層2を効率良く鋳型加熱手段8の輻射熱から遮蔽できるので望ましい。
また、図4に本発明にかかる熱遮蔽板と鋳型断熱材の他の実施形態を示す。
図4(a)は、熱遮蔽板7aと鋳型断熱材3を別の部材により構成し、鋳型断熱材3の上端に対して熱遮蔽板7aが連なるように接続した例であり、図1の場合とは熱遮蔽板と鋳型断熱材とが異なる部材を用いている点が異なる。このように熱遮蔽板7aと鋳型断熱材3とを別の部材により構成する場合、例えば、熱遮蔽板7aを本発明の請求項4に記載したようなシリコン融液に対して劣化しにくい材料によって構成すれば、仮に鋳型断熱材3がシリコン融液に対して化学的安定性に欠ける材料であったとしても、熱遮蔽板7aによって、保護することができる。そのため、鋳型断熱材3として用いられる材料の選択の幅が広がるので、多結晶シリコンインゴットを一方向凝固させるのに最適な組合せの材料を選択したり、低コスト化のため安価な材料を選択したりするなど、目的に応じて自由に材料を選択できる。
また、図4(b)は、図4(a)において、鋳型断熱材3の上端と熱遮蔽板7bとを固定せずに構成した例である。なお、これらの部材は離間して配置させても、当接して配置させても良い。このように構成すれば、熱遮蔽板7bを自在に位置決めすることができるので、例えば、図2の仮想線Lに対して内側に突き出す量を自在に調整することができ、本発明の請求項7に記載した構成を容易に得ることができる。これによって、例えば、シリコン鋳造用装置を立ち上げたときなど、周囲の環境などの諸条件の影響を受けるため、最適値と設計値とのずれが生ずることがあるが、そのような場合に、装置を最適となるように調整することができるという特徴を有する。
次に、図4(c)は、熱遮蔽板7cを鋳型1の端縁に載置し鋳型断熱材3を用いないで構成した例を示す。例えば、鋳型1の材質として熱伝導性の低い材料を用いた場合や鋳型1の側面の厚みを厚くした場合、さらには鋳型1に設けられた離型材層2の厚みを厚くした場合に、このように鋳型断熱材3を用いなくても、シリコンインゴットを鋳造することができる。この場合、図4(c)に示すように熱遮断板7cを鋳型1の端縁部に載置すれば、本発明の効果を得ることができる。
なお、本発明の実施形態は上述の例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはもちろんである。
例えば、図3では熱遮蔽板7として、鋳型1の側部材1bが組み立てられてなる四角形の開口部に対応した四角形の枠状の形状のものを用いたが、これに限るものではなく、鋳型1として石英などによって一体的に作製された円筒状の開口部を有する鋳型を用いた場合、この開口部に対応させて、ドーナツリング状の形状の熱遮蔽板7を用いても構わない。
さらに、図3では鋳型加熱手段8としてドーナツリング状のヒータを用いたが、これに限るものではなく、球状、四角形状などであっても構わない。本発明の要旨は、この鋳型加熱手段8と鋳型1との間に熱遮蔽板7を介在させて、鋳型加熱手段8から鋳型1の内表面に設けられた離型材層2への輻射熱を遮蔽することであり、このように構成されている限り、これらの鋳型加熱手段8や熱遮蔽板7の形状を変えても本発明の効果を奏することは言うまでもない。
以下、本発明の実施例について説明する。
高純度黒鉛からなる厚み2mmの側部材1bを4枚と厚み5mmの底部材1aを1枚とを準備した。これらの部材に、平均粒径0.5μmの窒化シリコン粉末と平均粒径20μmの二酸化珪素粉末を秤量して8.7%のポリビニルアルコール水溶液で攪拌混合してスラリー状にした離型材を刷毛で塗布してホットプレートに載せて乾燥し、離型材層2を得た。その後、離型材層2を内側になるように、これらの部材同士を組み合わせて、内寸330mm×330mm、深さ320mmとした図1に示す鋳型1を作製した。
この鋳型1の外周を覆うように、図1に示す形状のグラファイトフェルトにカーボン粉末をコーティングした材質からなる熱遮蔽板7と鋳型断熱材3とが一体成型された部材を配置した。なお、熱遮蔽板7の厚さは10mmとした。
これらの鋳型1・鋳型断熱材3・熱遮蔽板7は、シリコン鋳造用装置の内部の冷却板9上の所定位置にセットした。また、鋳型加熱手段8として、図3に示す外径360mm、内径220mmのドーナツリング形状の黒鉛ヒータを所定位置に配置し、このヒータと鋳型1の内表面に設けた離型材層2との間に熱遮蔽板7が介在されて、輻射熱を遮る本発明の構成となるように配置した。
その後、装置の内部を80Torrに減圧したアルゴン雰囲気とし、黒鉛ヒータの鋳型加熱手段8を使って1000℃に加熱した状態で鋳型1の内部にシリコン融液75kgを注湯して8時間かけて徐々に凝固させた。冷却後固化した多結晶シリコンインゴットを鋳型1から取り出し、シリコンインゴットと鋳型の融着の有無について調べた。また、脱型したシリコンインゴットを切断、スライスし、でき上がったウエハを約2000枚について目視検査を行い、異物の有無を確認した。また、凝固中のシリコン融液4の表面凝固の有無についても確認した。
なお、図2で説明した熱遮蔽板7が鋳型1の開口部端縁から上部に向かって垂直に延在させた仮想線Lよりも鋳型1の内側に向かって突き出した部分の長さdを変えた試料を作製した。さらに、炭素繊維フェルト1本毎の編み込み方を変えることによって熱遮蔽板7(と鋳型断熱材3)のかさ密度を変えたものを作製し、上述の評価を行った。さらに、熱遮蔽板7を設けない本発明の範囲外の試料についても作製し、上述の評価を行った。
これらの結果を表1に示す。表1の評価結果において、記号で示したが内容は以下の通りである。
(シリコンと鋳型の融着)
◎:全く観察されなかった、○:わずかに認められた、△:認められたが許容範囲にある、×:顕著に認められ不可
(異物不良数)
◎:極めて良好(0〜39枚)、○:良好(40〜79枚)、△:許容範囲(80〜99枚)、×:不可(100枚以上)
(融液中の表面凝固)
◎:全く観察されなかった、○:わずかに認められた、△:認められたが許容範囲にある、×:顕著に認められ不可
なお、熱遮蔽板7を設けなかった本発明の範囲外の試料1〜5については、鋳型断熱材3のかさ密度を記載した。
熱遮蔽板7を設けなかった本発明の範囲外の試料1〜5は、シリコンと鋳型との融着が顕著に観察されるとともに、離型材が破損してシリコン融液中に落下したため、異物不良数も多かった。
これに対して、本発明の範囲となる試料6〜30は、試料1〜5に対して、より改善した結果が得られ、本発明の構成による効果があることがわかった。
特に、仮想線Lから突き出した部分の長さdが15〜50mmの範囲内であり、熱遮蔽板7のかさ密度が0.05〜0.50g/cm3の範囲にある試料においては、いずれの評価項目も○以上の良好な結果となった。
仮想線Lから突き出した部分の長さdが1mmである試料(試料6〜10)については、離型材層2への輻射熱の遮蔽が不十分であるが、熱遮蔽板7の存在によって、鋳型1の開口部近傍への熱の輻射を妨げる効果が得られ、熱遮蔽板7がない場合(試料1〜5)と比べて、離型材層2の温度が下がったため、結果が改善したものと思われる。
以上の結果より、本発明の効果を確認することができた。