以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施態様につき、詳細に説明を加える。
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる光記録媒体10の略斜視図であり、図2は、図1のAで示された部分の略拡大図である。
図1に示されるように、本実施態様にかかる光記録媒体10は、約120mmの外径と、1.2mmの厚さを有する円板状に形成されており、図2に示されるように、支持基板11と、第一の防水層12と、第一の透明中間層13と、記録層14と、第二の透明中間層15と、第二の防水層16と、光透過層17とを備えている。
支持基板11は、光記録媒体10に求められる機械的強度を確保するための支持体として、機能する。
支持基板11を形成するための材料は、光記録媒体10の支持体として機能することができれば、とくに限定されるものではない。支持基板11は、たとえば、ガラス、セラミックス、樹脂などによって、形成することができる。これらのうち、成形の容易性の観点から、樹脂が好ましく使用される。このような樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、加工性、光学特性などの点から、ポリカーボネート樹脂がとくに好ましく、本実施態様においては、支持基板11は、ポリカーボネート樹脂によって形成されている。本実施態様においては、レーザビームLは、支持基板11とは反対側に位置する光入射面17aを介して、照射されるから、支持基板11が、光透過性を有していることは必要でない。
本実施態様においては、支持基板11は、約1.1mmの厚さを有している。
図2に示されるように、支持基板11の表面上には、第一の防水層12が形成されている。
第一の防水層12は、光記録媒体10の外部から支持基板11を介して、後述する記録層14へ水分が侵入するのを防止する役割を果たす。
本実施態様において、第一の防水層12を形成するための材料は、記録層14への水分の侵入を防止することができれば、とくに限定されるものではなく、Ni、Ge、Nb、Mo、In、W、Bi、La、Si、Zn、Al、Ta、Ti、Co、Zr、Pb、Ag、Zn、Sn、Ca、Ce、V、Cu、Fe、Mgよりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む酸化物、窒化物、硫化物、フッ化物、あるいは、これらの複合物からなる誘電体材料や、また、ポリスチレン、ポリオレフィンおよび塩化ビニリデンなどの防水性(低吸水性)を有する樹脂材料を用いて第一の防水層12を形成することが好ましく、たとえば、ZnS・SiO2からなる誘電体を主成分とする材料によって、第一の防水層12を形成することが、とくに好ましい。
ここに、本明細書において、ある元素を主成分として含むとは、当該元素の含有量が50原子%ないし100原子%であることを意味し、ZnS・SiO2は、ZnSとSiO2の混合物を意味する。
第一の防水層12は、たとえば、第一の防水層12の構成元素を用いた気相成長法によって、支持基板11の表面上に形成することができる。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
第一の防水層12は、誘電体材料を主成分として含むように形成される場合には、20nmないし150nmの厚さを有するように形成されることが好ましく、30nmないし120nmの厚さを有するように形成されることが、より好ましい。
第一の防水層12の厚さが、20nm未満のときには、第一の防水層12に求められる防水特性を満たすことができず、150nmを越える場合には、成膜時間が長くなり、生産性が悪化するおそれがある。
図2に示されるように、第一の防水層12の表面上には、第一の透明中間層13が形成されている。
第一の透明中間層13は、第一の防水層12と記録層14とを離間させる役割を果たす。記録層14に含まれる物質と、第一の防水層12に含まれる物質が反応を起こして不具合が生じる場合に、記録層14と第一の防水層12を離間させることで、不具合を防止することができる。
第一の透明中間層13を形成するための材料は、とくに限定されるものではないが、紫外線硬化性アクリル樹脂を用いることが好ましい。
第一の透明中間層13は、2μmないし50μmの厚さを有するように形成されることが好ましく、さらに好ましくは、5μmないし30μmの厚さを有するように、形成される。
図2に示されるように、第一の透明中間層13の表面には、交互に、グルーブ13aおよびランド13bが形成されている。第一の透明中間層13の表面に形成されたグルーブ13aおよび/またはランド13bは、記録層14に、データを記録する場合およびデータを再生する場合において、レーザビームLのガイドトラックとして、機能する。
グルーブ13aの深さは、とくに限定されるものではないが、10nmないし40nmに設定することが好ましく、グルーブ13aのピッチは、とくに限定されるものではないが、0.2μmないし0.4μmに設定することが好ましい。
図2に示されるように、第一の透明中間層13の表面上には、記録層14が形成されている。
記録層14は、データを記録する記録層であり、単一の記録膜によって構成されている。
本実施態様において、記録層14は、Ni、Cu、Si、Ti、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、W、Pb、Bi、ZnおよびLaからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素と、SまたはOの元素とを含んでいる。
記録層14は、8nmないし60nmの厚さを有していることが好ましく、10nmないし45nmの厚さを有していることが、より好ましい。
記録層14の厚さが8nm未満のときは、記録層14に記録したデータを再生したときの再生信号のC/N比が不十分となり、一方、記録層14の厚さが60nmを越えるときには、成膜時間が長くなり、生産性が悪化するおそれがあるため、好ましくない。
こうして、本実施態様によれば、記録層14が、Ni、Cu、Si、Ti、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、W、Pb、Bi、ZnおよびLaからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素と、SまたはOの元素とを含み、無機材料を用いた単一の記録膜によって構成されているから、日光等の照射によって、記録層14の特性が変質したり、記録層14に記録されたデータが劣化するのを防止でき、また、光記録媒体の製造コストの削減を図ることも可能となる。
図2に示されるように、記録層14の表面上には、第二の透明中間層15が形成されている。
第二の透明中間層15は、記録層14と後述する第二の防水層16とを離間させる役割を果たす。第一の透明中間層13によって、記録層14と第一の防水層12を離間させるのと同様に、記録層14に含まれる物質と、第二の防水層16に含まれる物質が反応を起こして不具合が生じる場合に、記録層14と第二の防水層16を離間させることで、不具合を防止することができる。
第二の透明中間層15は、第一の透明中間層13と同様に、紫外線硬化性アクリル樹脂を用いることが好ましい。
第二の透明中間層15は、3μmないし150μmの厚さを有するように形成されることが好ましく、さらに好ましくは、5μmないし95μmの厚さを有するように、形成される。
図2に示されるように、第二の透明中間層15の表面上には、第二の防水層16が形成されている。
第二の防水層16は、光記録媒体10の外部から光透過層17を介して、記録層14へ水分が侵入するのを防止する役割を果たす。
第二の防水層16を形成するための材料は、記録層14への水分の侵入を防止することができれば、とくに限定されるものではなく、第一の防水層12と同様の材料を用いて、第二の防水層16を形成することができる。
第二の防水層16および第二の防水層12は、互いに同じ誘電体材料あるいは樹脂材料によって形成されていてもよいが、異なる誘電体材料あるいは樹脂材料によって形成されていてもよい。
第二の防水層16は、誘電体材料を主成分として形成される場合には、20nmないし150nmの厚さを有するように形成されることが好ましく、さらに好ましくは、30nmないし120nmの厚さを有するように、形成される。
第二の防水層16の厚さが、20nm未満のときには、第二の防水層16に求められる防水特性を満たすことができず、150nmを越える場合には、成膜時間が長くなり、生産性が悪化するおそれがある。
第二の防水層16は、記録層14にデータが記録されるとき、あるいは、記録層14に記録されたデータが再生されるときに、レーザビームLが透過する層となるため、十分な光透過性を有していることが必要である。
図2に示されるように、第二の防水層16の表面上には、光透過層17が形成される。
光透過層17は、レーザビームを透過させる層であり、その一方の表面によって、光入射面17aが構成されている。
光透過層17を形成するための材料は、とくに限定されるものではないが、アクリル系やエポキシ系などの紫外線硬化性アクリル樹脂を用いることが好ましい。
光透過層17は、データを記録し、再生する場合に、レーザビームLが通過するため、十分に高い光透過性を有している必要がある。
光透過層17は、第二の防水層16が記録層14に離間して形成されている場合には、1μmないし15μmの厚さを有するように形成されることが好ましく、3μmないし12μmの厚さを有するように形成されることが、より好ましい。
以上のような構成を有する光記録媒体10は、次のようにして、製造される。
まず、支持基板11を射出成形によって形成する。
次いで、支持基板11の表面上に、第一の防水層12の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、第一の防水層12を形成する。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
次いで、第一の防水層12の表面上に、紫外線硬化性アクリル樹脂をスピンコーティング法によって、塗布して、塗膜を形成し、塗膜の表面に、スタンパを被せた状態で、スタンパを介して、紫外線を照射することによって、表面に、グルーブ13aおよびランド13bが形成された第一の透明中間層13を形成する。
次いで、第一の透明中間層13の表面上に、記録層14を形成する。ここでは、記録層14が、Ni、Cu、Si、Ti、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、W、Pb、Bi、ZnおよびLaからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素の単体のうち、ZnまたはLaの金属元素の単体を含むように形成される場合を例に挙げて説明する。
第一の透明中間層13の表面上に、ZnS・SiO2またはLa・Si・O・Nを主成分として含むターゲットと、Mg、AlおよびTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を主成分として含むターゲットを用いて、スパッタリング法により、記録層14を形成する。
こうして、ZnS・SiO2またはLa・Si・O・Nとを主成分として含むターゲットと、Mg、AlおよびTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を主成分として含むターゲットとを用いて、スパッタリング法により、記録層14を形成したときには、記録層14の成膜過程で、Mg、AlおよびTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素が、還元材として作用し、この結果、記録層14中に、ZnまたはLaの金属元素が、単体の形で存在することになる。
具体的には、たとえば、ターゲットとして、ZnS・SiO2を主成分として含むターゲットと、Mgを主成分として含むターゲットを用いた場合には、Mgが、ZnS・SiO2に含まれるZnSに対する還元剤として作用し、その結果として、記録層14中に、Znが均等に分散される。このとき、還元剤として用いられたMgは、ZnSから分離、あるいは、ZnSに含まれるSの一部と結合して、MgSが形成される。したがって、Znが、単体の形で、記録層14に含まれることになる。
本実施態様において、記録層14が、ZnS・SiO2を主成分として含む場合に、記録層14のZnSとSiO2のモル比としては、40:60ないし80:20とすることが好ましく、65:35ないし75:25とすることが、さらに好ましい。
ZnSのモル比が40%以上であるときは、記録層14のレーザビームに対する反射率と光透過率とを、ともに、向上させることができ、また、ZnSのモル比が80%以下であるときは、応力によって、記録層14にクラックが発生することを、確実に、防止することができる。さらに、ZnSとSiO2のモル比を65:35ないし75:25に設定すれば、記録層14にクラックが発生することを、より効果的に防止しつつ、記録層14のレーザビームに対する反射率と光透過率とを、より一層向上させることが可能になる。
また、本実施態様において、記録層14が、スパッタリングのターゲットとして、La・Si・O・Nを主成分として含む場合には、La・Si・O・Nを構成するSiO2、Si3N4およびLa2O3において、SiO2と、Si3N4およびLa2O3の和とのモル比が10:90ないし50:50であることが好ましく、SiO2、Si3N4およびLa2O3のモル比が30:50:20であることがより好ましい。
SiO2のモル比が10%未満である場合には、記録層14にクラックが入りやすくなり、SiO2のモル比が50%を越える場合には、屈折率の低下により、記録層14の反射率が低下するからであり、また、Si3N4およびLa2O3の和のモル比が50%ないし90%であると、高い屈折率が得られるとともに、クラックの発生を防止することができるからである。これらを考慮すれば、スパッタリングのターゲットとして、SiO2、Si3N4およびLa2O3のモル比を30:50:20とすることがより好ましい。
さらに、本実施態様において、記録層14が、Mgを含むときには、Mgの含有量は、18.5原子%ないし42原子%であることが好ましく、20原子%ないし37原子%であることが、さらに好ましく、Alを含むときには、Alの含有量は、11原子%ないし70原子%であることが好ましく、18原子%ないし56原子%であることが、さらに好ましく、また、Tiを含むときには、Tiの含有量は、8原子%ないし38原子%であることが好ましく、10原子%ないし36原子%であることが、さらに好ましい。
次いで、記録層14の表面上に、紫外線硬化性アクリル樹脂をスピンコーティング法によって、塗布して、塗膜を形成し、紫外線を照射することによって、第二の透明中間層15を形成する。
次いで、第二の透明中間層15の表面上に、第二の防水層16の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、第二の防水層16を形成する。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
そして、第二の防水層16の表面上に、紫外線硬化性アクリル樹脂をスピンコーティング法によって、塗布して、塗膜を形成し、塗膜に紫外線を照射することによって、光透過層17を形成する。
こうして、光記録媒体10が作製される。
このように、本実施態様によれば、支持基板11と記録層14との間に、第一の防水層12が設けられ、また、光透過層17と記録層14との間に、第二の防水層16が設けられているから、光記録媒体10の外部から、支持基板11あるいは光透過層17を介して、記録層14への水分の侵入を防止することができるので、水分による記録層14の浸食を回避することでき、したがって、長期間の保存に対する光記録媒体の信頼性を、より一層、高めることが可能となる。
以上のように構成された本実施態様にかかる光記録媒体10に、次のようにして、データが記録される。
本実施態様において、光記録媒体10にデータを記録するにあたっては、光透過層17の光入射面17aを介して、380nmないし450nmの波長λを有するレーザビームLが照射され、記録層14に、レーザビームLのフォーカスが合わせられる。
図3は、光記録媒体10の記録層14に、データを記録する際に、レーザビームLの強度を制御するレーザパワー制御信号のパルス列パターンを示すダイアグラムである。
図3に示されるように、光記録媒体10の記録層14に、データを記録するのに用いるレーザパワー制御信号のパルス列パターンは、記録パワーPwに対応するレベル、中間パワーPmに対応するレベルおよび基底パワーPbに対応するレベルの3つのレベルの間で、レベルが変調されたパルスによって構成されている。記録パワーPw、中間パワーPmおよび基底パワーPbのパワーは、Pw>Pm≧Pbの関係を満たしており、これに対応して、パルス列パターンの3つのレベルも、決定されている。
記録層14に、データを記録するにあたっては、図3に示されるパルス列パターンを有するレーザパワー制御信号に従って、パワーが変調されたレーザビームLが、光透過層17、第二の防水層16および第二の透明中間層15を介して、記録層14に照射される。
こうして記録層14に、レーザビームLが照射されると、記録層14の相状態が変化して、記録層14に、データが記録される。以下、具体的な記録のメカニズムについて、記録層14が、ZnまたはLaの金属元素の単体と、SまたはOの元素を含んでいる場合を例に挙げて説明する。
すなわち、パワーが記録パワーPwに設定されたレーザビームLが照射されると、記録層14が加熱され、加熱された記録層14の領域において、記録層14に含まれる非晶質状態の単体のZnまたはLaの金属元素が、SまたはOと反応して、結晶状態のZnSまたはLa2O3となり、さらに、結晶状態のZnSまたはLa2O3の周辺に存在する非晶質状態のZnSまたはLa2O3が、結晶状態のZnSまたはLa2O3を核として、結晶成長する。
こうして、結晶状態のZnSまたはLa2O3が生成された領域は、それ以外の領域と、390nmないし450nmの波長λを有するレーザビームLに対する反射率が大きく異なるので、これを利用して、データを記録することが可能となる。
したがって、記録層14に記録されたデータを再生したときには、良好な信号特性を有する再生信号を得ることが可能となる。
ここに、レーザビームLの記録パワーPwのパワーは、レーザビームLを照射することによって、記録層14に含まれるZnまたはLaの金属元素と、SまたはOの元素とが、確実に、結合し、ZnSまたはLa2O3が結晶が生成されるパワーに設定される。
また、中間パワーPmおよび基底パワーPbのパワーについては、記録層14に含まれるZnまたはLaの金属元素と、SまたはOの元素とが、結合することがない低いパワーに設定される。
とくに、基底パワーPbのレベルは、記録パワーPwのレーザビームLが照射されて、加熱された領域が、レーザビームLのレベルが基底パワーPbに切り換えられることによって、速やかに冷却されるように、きわめて低いレベルに設定される。
以上のようにして、光記録媒体10の記録層14に、データが記録される。
以上のように、本実施態様によれば、記録層14が、ZnまたはLaの金属元素と、SまたはOの元素とを含み、無機材料を用いた単一の記録膜によって構成されているから、日光等の照射によって、記録層14の特性が変質したり、記録層14に記録されたデータが劣化するのを防止でき、また、光記録媒体の製造コストの削減を図ることも可能となる。
また、本実施態様によれば、支持基板11と記録層14との間に、第一の防水層12が設けられ、また、光透過層17と記録層14との間に、第二の防水層16が設けられているから、光記録媒体10の外部から、支持基板11あるいは光透過層17を介して、記録層14への水分の侵入を防止することができるので、水分による記録層14の浸食を回避することでき、したがって、長期間の保存に対する光記録媒体の信頼性を高めることが可能となる。
さらに、本実施態様においては、ZnまたはLaの金属元素と、SまたはOの元素とが、結合されて、ZnSあるいはLa2O3の結晶が生成され、記録層14にデータが記録されるように構成されているから、レーザビームに対する記録層14の反射率において、記録マークが形成された領域と、それ以外の領域との反射率差を大きくすることができ、したがって、良好な信号特性を有する再生信号を得ることも可能となる。
図4は、本発明の別の好ましい実施態様にかかる光記録ディスクの略斜視図であり、図5は、図4のBで示された部分の略拡大断面図である。
図5に示されるように、本実施態様にかかる光記録ディスク100は、支持基板11と、支持基板11の表面上に形成された第一の防水層21と、第一の防水層21の表面上に形成された記録層14と、記録層14の表面上に形成された第二の防水層22と、第二の防水層22の表面上に形成された光透過層17とを備えている。
本実施態様においては、図5に示されるように、第一の防水層21が、グルーブ11aおよび11bが形成された支持基板11の表面上に形成され、第二の防水層22が記録層14の表面上に形成され、第一の防水層21および第二の防水層22は、記録層14に隣接して形成されている。
第一の防水層21および第二の防水層22は、図1および図2に示される第一の防水層12および第二の防水層16と同様に、光記録媒体10の外部から、支持基板11、あるいは光透過層17を介して、記録層14に水分が侵入するのを防止する役割を果たす。
第一の防水層21および第二の防水層22が、記録層14に隣接して形成される場合には、支持基板11または光透過層17を介して、水分が記録層14に侵入するのを防止することができるのに加え、光記録媒体100の側面を介して、記録層14に水分が侵入することを効果的に防止することもでき、したがって、本実施態様によれば、長期間の保存に対する光記録媒体の信頼性を、さらに高めることが可能となる。
図6は、本発明の別の好ましい実施態様にかかる光記録ディスクの略斜視図であり、図7は、図6のCで示された部分の略拡大断面図である。
図7に示されるように、本実施態様にかかる光記録ディスク200は、支持基板11と、支持基板11の表面上に形成された第一の防水層31と、第一の防水層31の表面上に形成された記録層14と、記録層14の表面上に形成された第二の防水層32と、第二の防水層32の表面上に形成された光透過層17とを備えている。
本実施態様においては、図7に示されるように、第一の防水層31が、グルーブ11aおよび11bが形成された支持基板11の表面上に形成され、第二の防水層32が記録層14の表面上に形成され、第一の防水層31および第二の防水層32は、記録層14に隣接して形成されている。
第一の防水層31および第二の防水層32は、光記録媒体10の外部から、支持基板11、あるいは光透過層17を介して、記録層14に水分が侵入するのを防止する役割を果たすとともに、記録層の一部としても機能する。
本実施態様において、第一の防水層31および第二の防水層32を形成するために用いられる材料は、記録層14への水分の侵入を防止することができ、かつ、記録層14が結晶化するのに伴って、記録層14の結晶化した領域に隣接する領域が結晶化する誘電体材料であれば、とくに限定されるものではなく、たとえば、酸化物、硫化物、窒化物またはこれらの組み合わせを主成分とする誘電体材料によって、第一の防水層31および第二の防水層32を形成することができる。
より具体的には、第一の防水層31および第二の防水層32が、Ni、Ge、Nb、Mo、In、W、Bi、La、Si、Zn、Al、Ta、Ti、Co、Zr、Pb、Ag、Zn、Sn、Ca、Ce、V、Cu、Fe、Mgよりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む酸化物、窒化物、硫化物、フッ化物、あるいは、これらの複合物からなる誘電体材料を主成分として含んでいることが好ましく、たとえば、隣接する記録層14に含まれる金属元素と、元素SまたはOとを主成分とする誘電体、または、ZnS・SiO2を主成分として含んでいることが、とくに好ましい。
本実施態様において、第二の防水層32は、記録層14にデータが記録されるとき、あるいは、記録層14に記録されたデータが再生されるときに、レーザビームLが透過する層となるため、十分な光透過性を有していることが必要である。
第一の防水層31および第二の防水層32は、互いに同じ誘電体材料によって形成されていてもよいが、異なる誘電体材料によって形成されていてもよい。
第一の防水層31は、支持基板11の表面上に、第一の防水層31の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、形成することができ、第二の防水層32は、記録層14の表面上に、第二の防水層32構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、形成することができる。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
以上のような構成を有する光記録媒体200は、次のようにして、データが記録される。
図8は、データが記録される前の光記録媒体200の略断面図であり、図9は、データが記録された後の光記録媒体200の略断面図である。
本実施態様において、光記録媒体200にデータを記録するにあたっては、図1および図2に示される光記録媒体10と同様にして、パワーが変調されたレーザビームLが、光透過層17および第二の防水層32を介して、記録層14に照射される。
こうして記録層14に、レーザビームLが照射されると、記録層14が加熱され、図1および図2に示される光記録媒体10と同様に、加熱された記録層14の領域において、記録層14に含まれる非晶質状態の単体のZnまたはLaの金属元素が、SまたはOと反応して、結晶状態のZnSまたはLa2O3となり、さらに、結晶状態のZnSまたはLa2O3の周辺に存在する非晶質状態のZnSまたはLa2O3が、結晶状態のZnSまたはLa2O3を核として、結晶成長する。
こうして、図9に示されるように、ZnまたはLaの金属元素と、SまたはOの元素との化合物であるZnSあるいはLa2O3が結晶化した記録マークMが形成される。
さらに、本実施態様においては、記録層14にレーザビームLが照射されて、記録層14に記録マークMが形成されたときに、第一の防水層31および第一の防水層31に含まれる誘電体材料が結晶化して、図9に示されるように、第一の防水層31および第一の防水層31中に、記録マークMに隣接して、結晶化領域M’が形成される。
レーザビームLを照射して、記録層14に記録マークMを形成したときに、記録層14に隣接する第一の防水層31および第二の防水層32に含まれる誘電体層材料が結晶化する理由は、必ずしも明らかではないが、レーザビームLが記録層14に照射されて、結晶状態のZnSまたはLa2O3を核として、周辺に存在する非晶質状態のZnSまたはLa2O3が結晶成長する結晶化反応が、第一の防水層31および第二の防水層32にも伝達し、この結果、記録層14との界面から、第一の防水層31および第二の防水層32の内部に向かって、誘電体材料の結晶化が進み、第一の防水層31および第二の防水層32中に結晶化領域M’が形成されたのではないかと推測される。
このように、本実施態様においては、記録層14に記録マークMが形成されるのに併せて、記録マークMに隣接する第一の防水層31および第二の防水層32の領域に、結晶化領域M’が形成されるように構成されているから、記録マークMおよび結晶化領域M’が形成された領域の反射率と、その他の領域の反射率との差が、全体として大きくなり、したがって、さらに良好な信号特性を有する再生信号を得ることが可能となる。
したがって、本実施態様によれば、製造コストを削減を図りつつ、長期間の保存に対する光記録媒体の信頼性を高めることができ、より一層、良好な信号特性を有する再生信号を得ることが可能となる。
以下、本発明の効果をより明瞭なものとするため、実施例を掲げる。
データの記録された光記録ディスクサンプル#2および#3を、温度80℃、相対湿度85%の環境下において、50時間にわたり、保持して、保存試験を実行した。
次いで、同じ光記録媒体評価装置を用いて、保存試験後の光記録ディスクサンプル#2および#3に記録したデータを再生し、同じスペクトラムアナライザーを用いて、再生信号のC/N比を、測定した。
測定結果は、表3に示されている。ここに、表3には、実施例2で測定した光記録ディスクサンプル#2および#3につき、記録したデータを再生したときのC/N比が、それぞれ、「保存試験前」の値として示されている。
表3に示されるように、光記録ディスクサンプル#2においては、保存試験前および保存試験後に、記録層に記録したデータを再生したときの再生信号のC/N比が、それぞれ、56.6dB、56.1dBであり、光記録ディスクサンプル#2は、保存試験後であっても、記録層に記録されたデータを再生したときの再生信号のC/N比が、ほとんど変わらなかったのに対し、光記録ディスクサンプル#3においては、保存試験後に、記録層に記録したデータを再生したときの再生信号のC/N比が、測定できず、したがって、光記録ディスクサンプル#2においては、光記録ディスクサンプル#3に比べて、長期間の保存に対して、高い信頼性を有することが認められた。
以上の実施例において、オージェ分光分析装置、光学式膜厚測定装置および透過電子顕微鏡を用いて、記録層の状態を確認したところ、記録用のパワーに設定されたレーザビームが照射された記録層の領域で、金属元素Mの単体の存在と、金属元素Mとの化合物の結晶成長が認められた。
本実施例においては、以下の分析と判断により、金属元素Mの存在が認められた状態を、記録層に金属元素Mが含まれるとする。また、以下の分析と判断により、金属元素Mと元素Xの化合物の結晶成長が認められた状態を、金属元素Mの単体と結合して、前記金属元素Mとの化合物の結晶を生成する元素Xが、記録層に含まれるものとする。
具体的な手法としては、同一条件で光記録ディスクサンプルを三つ作成し、三つの光記録ディスクサンプルの記録層の一部に、実施例1でデータを記録したのと同じようにして、データを記録した。
次いで、データが記録された三つの光記録ディスクサンプルのうちの一つにつき、光透過層を、カッターで切り込みを入れて剥がすとともに、第二の防水層を除去し、記録層を露出させ、露出した記録層の表面に、20nmの厚さを有する誘電体膜(記録層がZnSを主成分として含む場合は、例えば、Al2O3)と、100nmの厚さを有する金属膜(例えばAl)とを、スパッタリング法により、順次、形成した。金属膜と誘電体膜には、分析に影響しないように記録層に含まれる金属元素M以外の材料を使用する必要がある。ここに、金属膜を形成したのは、オージェ分光分析装置を用いた測定の際に、光記録ディスクサンプルが帯電するのを防止するためである。次いで、誘電体膜および金属膜を形成した光記録ディスクサンプルの金属膜表面を、局部的にスパッタリングし、記録層の表面の一部が露出するように、約2mmの孔を形成した。
次いで、データが記録された光記録ディスクサンプルにおいて、記録層のデータが記録された領域と、記録層のデータ未記録の領域につき、オージェ分光分析装置を用いて、エネルギースペクトルを測定した。ここに、エネルギースペクトルの測定に際しては、アルバック・ファイ株式会社製のオージェ分光分析装置「SAM680」を用い、測定条件を、加速電圧5kV、Tilt30deg、試料電流10nA、Arイオンビームスパッタエッチング加速電圧2kVに設定して、測定した。
こうして、記録層のデータが記録された領域と、記録層のデータ未記録の領域につき、エネルギースペクトルを測定した結果、データが未記録の領域では、金属のエネルギースペクトルと、化合物のエネルギースペクトルが混在していると思われるスペクトルが存在し、一方、データが記録された領域では、化合物のエネルギースペクトルのみが認められた。このスペクトルの変化から、記録層に金属元素Mが含まれると判断した。
次いで、先の三つの光記録ディスクサンプルのうちの他の一つの光記録ディスクサンプルにカッターで切れ込みを入れて、光透過層、第二の防水層および記録層を切り離し、切り離した光透過層、第二の防水層および記録層を、紫外線硬化樹脂を用いて、光透過層をスライドガラスに接するようにして、スライドガラス上に接着させた。
こうして形成した光記録ディスクサンプルにおいて、記録層のデータが記録された領域と、記録層のデータ未記録領域につき、光学式膜厚測定装置を用いて、405nmの波長を有するレーザビームに対する光吸収率を測定した。ここに、光吸収率の測定に際しては、steag ETA−OPTIK株式会社製の光学式膜厚測定装置「ETA−RT」(商品名)を用いた。
こうして、記録層のデータが記録された領域と、記録層のデータ未記録の領域につき、405nmの波長を有するレーザビームに対する光吸収率を測定した結果、データが未記録の領域では、34%の光吸収率を有し、一方、データが記録された領域では、27%の光吸収率を有することが認められた。光吸収率の減少は、金属元素Mの自由電子が光を多く吸収し、元素Xと化合物を作ることで、金属元素Mの自由電子が少なくなり、光の吸収が減ったため、光吸収率が小さくなったと考えられる。オージェ分光分析によるエネルギースペクトルの変化と同様に、このように光吸収率の減少により記録膜に金属元素Mの単体が含まれていたと判断した。
このように、オージェ分光分析装置によるエネルギースペクトルの測定によって、データが未記録の領域において、金属のエネルギースペクトルと、化合物のエネルギースペクトルとが混在し、一方、データが記録された領域において、化合物のエネルギースペクトルのみが確認できたという結果が得られ、また、光学式膜厚測定装置による光吸収率の測定によって、データが記録された領域において、データが未記録の領域に比べて、光吸収率が低下したという結果が得られたため、これらの結果から、記録層に金属元素Mの単体の存在と、記録用のレーザビームを照射した記録層の領域では、金属元素Mの単体が元素Xと結合して、化合物の結晶が生成されたと判断した。
次いで、データが記録された三つの光記録ディスクサンプルのうちの残りの1つの光記録ディスクサンプルにつき、透過電子顕微鏡装置を用いて、記録マークの電子回折パターンを測定した。このとき透過電子顕微鏡は、日本電子株式会社製の「JEM-3010」(商品名)を用い、加速電圧は300kVに設定した。
ここでは、光記録ディスクサンプルを、ミクロトームを用いて切削し、透過電子顕微鏡用のサンプルを作成した。切断された断面において、記録層の電子回折パターンを測定した結果、データが未記録の領域では、ZnSのブロードな回折リングが認められ、一方、データが記録された領域では、ZnSの回折スポットが認められた。これらの結果から、記録用のレーザビームを照射した記録層の領域では、ZnSの結晶化が生成されたと判断した。
本発明は、以上の実施態様に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
たとえば、図4および図5に示される実施態様にかかる光記録媒体100においては、支持基板11と、支持基板11の表面上に形成された第一の防水層21と、第一の防水層21の表面上に形成された記録層14と、記録層14の表面上に形成された第二の防水層22と、第二の防水層22の表面上に形成された光透過層17とを備え、第一の防水層21および第二の防水層22が、いずれも、記録層14に隣接して形成されているが、第一の防水層21と記録層14との間、あるいは、第二の防水層22と記録層14との間に、他の層が介在していてもよい。
また、図6および図7に示される実施態様にかかる光記録媒体200においては、支持基板11と、支持基板11の表面上に形成された第一の防水層31と、第一の防水層31の表面上に形成された記録層14と、記録層14の表面上に形成された第二の防水層32と、第二の防水層32の表面上に形成された光透過層17とを備え、第一の防水層31および第二の防水層32が、いずれも、記録層14に隣接して形成され、記録層14の記録マークMに接する領域に、結晶化領域M’が形成されるように構成されているが、第一の防水層31および第二の防水層32のいずれかが記録層14に隣接し、記録層14に隣接して形成される防水層のみに、結晶化領域M’が形成されるように構成されてもよい。
また、図1および図2、図4および図5、ならびに、図6および図7に示される実施態様にかかる光記録媒体10、100、200においては、第一の防水層12、21、31が、いずれも、支持基板11と記録層14との間に形成されているが、第一の防水層12、21、31は、支持基板11の記録層14側とは反対側の主面上に形成されてもよい。
また、図1および図2、図4および図5、ならびに、図6および図7に示される実施態様にかかる光記録媒体10、100、200においては、支持基板11の表面上に、第一の防水層12、21、31が形成されているが、支持基板11を、防水性(吸水性)を有する樹脂であるポリスチレン、ポリオフィレンなどを用いて形成し、支持基板11が防水層として機能するように構成してもよい。この場合には、支持基板11の表面上に形成される第一の防水層12、21、31を省略することが可能となる。
また、図1および図2、図4および図5、ならびに、図6および図7に示される実施態様にかかる光記録媒体10、100、200においては、支持基板11の表面上に、第一の防水層12、21、31が形成されているが、第一の防水層12、21、31を、金属元素を主成分として含むように形成し、第一の防水層12、21、31が反射層の機能を併せ持つように形成してもよい。
また、前記実施態様においては、ZnS・SiO2またはLa・Si・O・Nを主成分として含むターゲットと、Mg、AlおよびTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を主成分として含むターゲットとを用いて、スパッタリング法により、記録層14を形成するようにしているが、成膜の結果、記録層14に、ZnまたはLaの金属元素Mと、記録用のレーザビームが照射されることにより、金属元素Mと結合して、金属元素Mとの化合物の結晶を生成するSまたはOの元素とを含ませることができればよく、ZnSを主成分とするターゲットと、Mg、AlおよびTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を主成分として含むターゲットとを用いて、スパッタリング法により、記録層14を形成してもよい。
また、図1および図2、図4および図5、ならびに、図6および図7に示される実施態様にかかる光記録媒体10、100、200においては、光透過層17を備えているが、光透過層17に代えて、または、光透過層17の表面上に、ハードコート組成物を主成分として含むハードコート層を設けてもよいし、さらに、潤滑性や防汚性の機能を付与するために、ハードコート層に潤滑剤を含ませてもよいし、ハードコート層の表面上に、潤滑剤を主成分として含む潤滑層を、別途、設けるようにしてもよい。
さらに、図1および図2、図4および図5、ならびに、図6および図7に示される実施態様にかかる光記録媒体10、100、200においては、レーザビームLは、光透過層17を介して、記録層14に照射されるように構成されているが、本発明は、約0.6mmの厚さを有する光透過性基板と、約0.6mmの厚さを有するダミー基板と、光透過性基板とダミー基板との間に、記録層を備えたDVD型の光記録媒体に適用することも可能である。