回転陽極型X線管は、周知のように、軸受部を有する回転体及び固定体で円板状のX線ターゲットを回転自在に支え、真空容器外に配置したステータの電磁コイルを付勢してX線ターゲットを高速度で回転させながら、陰極から放出されて加速された電子をX線ターゲット面上に照射してX線を放射させるようになっている。軸受部は、ボールベアリングのような転がり軸受や、軸受面にらせん溝を形成するとともにガリウム(Ga),又はガリウム-インジウム-錫(Ga−In−Sn)合金のような液体金属潤滑剤を軸受隙間に満たした動圧式すべり軸受を用いて構成される。後者のすべり軸受を用いた例は、例えば特公昭60−21463号、特開昭60−97536号、特開昭62−287555号、特開平2−227947号、USP5068885号、特開平2−244545号、USP5077776号、特開平2−227948号、特開平5−13028号、或いは特開2001−325908号の各公報等に開示されている。
液体金属潤滑剤を用いた動圧式すべり軸受を有する回転陽極型X線管は、動作中に3000rpm乃至9000rpm程度の高速度で回転体が回転するとともに、不特定の方向に回転軸が変化する場合が少なくない。その際、回転陽極型X線管の管軸がどのような方向になっても、前記らせん溝を有する動圧式すべり軸受部に常に過不足なく液体金属潤滑剤が供給されるとともに液体金属潤滑剤が真空空間内に漏出するのを防止する必要がある。
従来知られている回転陽極型X線管においては、例えば特開平5−13028号公報に開示されているように、柱状固定体の中心部に形成した細長い穴で液体金属潤滑剤の貯蔵室を構成し、この液体金属潤滑剤の貯蔵室から軸受部に向って放射状に伸びた潤滑剤通路を介して動圧式すべり軸受に液体金属潤滑剤を供給した例がある。この構成では、潤滑剤貯蔵室から軸受部への潤滑剤通路の長さが不所望に長くなり、回転陽極型X線管の姿勢如何ではすべり軸受の特定部分への液体金属潤滑剤の供給が行われにくい場合があるとともに、内部で出てきた気体が排気され難いという問題がある。
この回転機構の構造では潤滑剤貯蔵室が固定体の内部に設けられており、各動圧式すべり軸受は真空空間と直接には通じておらず、液体金属潤滑剤に気体が含まれていて高温度になって膨張した場合には内部の液体金属潤滑剤で閉じられて高圧力になって回転体が静止したときに液体金属潤滑剤が噴出することがある。これを避ける為に回転機構を特別な処理をして組立てる必要があった。例えば、特開平6−176720号公報には、回転機構の組立を真空環境下で行う必要があり、液体金属潤滑剤の充填量は、真空容器内空間に最も近いらせん溝すべり軸受部の端部から他の軸受部側の液体金属潤滑剤が流動し得る内部空間の70%を上限とする必要があることが開示されている。これは、真空容器内空間に最も近いらせん溝すべり軸受部によって気体通路が閉ざされる為に内部の気体が膨張するのを許容する空間を大きくする必要があることを示している。
液体金属潤滑剤が真空容器の内部空間に漏出するのを防止する為に他の工夫が成されている。例えば、特開平4―363845号公報には、すべり軸受部が真空容器の内部空間に通じる終端付近に容積の大きい空洞が設けられ、この空間において液体金属潤滑剤に含まれていた気体を分離し、この空洞から真空容器の内部空間に至る途中に液体金属潤滑剤の通過を抑制するための潤滑剤漏出防止手段を設けることが開示されている。また、前記潤滑剤漏出防止手段は液体金属潤滑剤で濡れない表面材料を有して構成されていることや、回転体の内周壁に形成されたポンプ用らせん溝を有していることも開示されている。これらの工夫が必要なのは、真空容器の内部空間に通じる経路に最も近い位置に設けられたすべり軸受が前記回転体を実質的に軸支する動圧式すべり軸受であることが原因している。又、これらの工夫は液体金属潤滑剤がこの動圧式すべり軸受よりも真空空間に近い部分でのみ行われているので液体金属潤滑剤の漏出に対して非可逆的である。
液体金属潤滑剤が真空容器の内部空間に漏出するのを防止する為に他の工夫が成されている。例えば、特開平4−144046号公報には、回転体の開口部近傍に固定体の径小部を設け、この径小部及びこれを包囲する開口部閉塞体の間に液体金属潤滑剤をすべり軸受部の方向に押しやるポンプが構成されている例が開示されている。又、特開2002−245958号公報にも同様の回転機構が記載されている。しかしながら、これらの工夫では、真空容器の内部空間に通じる経路に最も近い位置に設けられたすべり軸受及び放射状に設けられた潤滑剤通路内の液体金属潤滑剤によって液体金属潤滑剤の移動及び気体の移動が制限されている為に、回転機構の内部において多量の気体が含まれている場合にはこの気体の膨張によって回転機構の内部が高圧力になり、この高圧力によって最も外側のすべり軸受より外側に多量の液体金属潤滑剤が押出されることがある。この液体金属潤滑剤の体積が一定値以上になればそれを超えた分の液体金属潤滑剤は開口部閉塞体の外部に押出される。更に、特開平4−144046号公報に記載されているような、最も外側のすべり軸受よりも外側に設けられた放射状の通路が気体のみを通過するようになっている場合には、最も外側のすべり軸受から一旦押出された液体金属潤滑剤は回転機構内の元のすべり軸受まで戻ることができず、回転機構全体としては液体金属潤滑剤の非可逆的な通路が構成されているにすぎない。特開2002−245958号公報に記載された例のように最も外側のすべり軸受より外側に回転機構の内部に通じる通路が無い場合も同様である。逆に、特開平4−144046号公報に記載されているような、最も外側のすべり軸受よりも外側に設けられた前記放射状の通路が液体金属潤滑剤を通過するようになっている場合には、この通路から多量の液体金属潤滑剤が漏出することがある。いずれにしても、これらの工夫は、回転機構の内部が高真空に維持されている場合にのみ有効であり、製造時に前記のような特殊な工程や特殊な設備が必要であると考えられる。
このような工夫をしても液体金属潤滑剤が真空容器の内部空間に漏出する可能性があり、これを防止する為に他の努力が成されている。例えば、特開平5−13029号公報には、すべり軸受部から真空容器の内側空間に通じる開口を包囲してジャケットが回転体又は固定体の少なくとも一方に取り付けられ、前記ジャケットの内側に空洞が形成されている例が開示されている。同様に、特開平6−325706号公報には、動圧すべり軸受間隙と真空容器の内側空間とを繋ぐ空間的通路の壁面を液体金属潤滑剤で濡れない面とし、この潤滑剤で濡れない面で構成される空間的通路の途中に、この通路を通って漏出する潤滑剤を補足する少なくとも1つのトラップ空洞が設けられた例が開示されている。これらの例では、すべり軸受部から真空容器の内側空間に通じる開口を出てきた液体金属を前記ジャケット内の空洞又は前記トラップ空洞内に閉じ込めて前記真空容器の内側空間に液体金属潤滑剤が到達しないことを期待している。
又、特開平2−244545号公報には、軸受を真空領域に連通させる開口領域が形成される面に金又はその他の貴金属の物質を含みかつ、液体金属潤滑剤によって濡らされるようになっており、前記開口領域から漏出した液体金属潤滑剤を付着させて前記真空領域に到達しないようにすることが開示されている。更に、USP5654999号公報には、液体金属平面軸受と分離して設けられたロータの内側部分に少なくとも1個の環状の溝を設け、この溝は液体金属潤滑剤を前記ロータの回転中の遠心力によって液体金属潤滑剤を前記軸受ギャップから前記ロータの前記環状溝内に流れ込ませてその中に保持するようにした例が開示されている。これらはいずれも軸受部から出てしまった液体金属潤滑剤が前記真空空間に至らないようにする為の工夫である。これらでは、液体金属潤滑剤が保持されることを期待されている部位が真空空間に直接通じている為に安全とは言えない。
上記のような工夫をしても、前記軸受部から前記真空空間に至る経路に漏出する液体金属潤滑剤の漏出を最小限に抑制する必要があり、これらのX線管の製造工程において特別な工程が必要であった。例えば特開平5−290734号公報には、すべり軸受部から真空容器の内部空間に通じる隙間の少なくとも一部が、回転体を回転させない状態での液体金属潤滑剤の喫水線よりも上方にある姿勢で排気する工程を含む必要があることが開示されている。又、特開平8−111194号公報や特開2002−245958号公報には、回転陽極型X線管の管軸の方向を鉛直方向にして排気する工程と、水平方向にして排気することが必要である旨の開示がある。更に、USP5668849号公報には製造途中におけるこのような姿勢の変更を繰り返す必要がある旨の開示もある。これを実現する為には排気工程中に回転陽極型X線管の姿勢を変えられる排気設備が必要であり、設備費が高価となる。
このように、回転陽極型X線管の製造工程に特別な制限が必要であった主な原因は、上記それぞれの工夫は軸受部分から漏出してしまった液体金属潤滑剤が前記真空空間に到達するのを防止することであって、軸受部から漏出すること自体に対する解決策を得ることではなかったことによると考えられる。
特公昭60−21463号公報
特開昭60−97536号公報
特開昭62−287555号公報
特開平2−227947号公報
特開平2−244545号公報
特開平2−227948号公報
特開平4−144046号公報
特開平4−363845号公報
特開平5−12997号公報
特開平5−13028号公報
特開平5−13029号公報
特開平5−290734号公報
特開平5−290771号公報
特開平6−13007号公報
特開平6−176720号公報
特開平6−325706号公報
特開平8−111194号公報
特開平9−35633号公報
特開平11−213927号公報
特開2001−189143号公報
特開2001−325908号公報
特開2002−184334号公報
特開2002−245958号公報
USP5068885号公報
USP5077775号公報
USP5077776号公報
USP5189688号公報
USP5195119号公報
USP5298293号公報
USP5384819号公報
USP5583907号公報
USP5654999号公報
USP5668849号公報
USP6477232B2号公報
USP6477236B1号公報
USP6546078B2号公報
解決しようとする課題は、液体金属を潤滑剤とするすべり軸受を用いた回転陽極型X線管において軸受部分に気体が含まれていてもその排気に際して液体金属潤滑剤を漏出させない構造の回転機構を採用して、この回転陽極型X線管を製造するにあたって回転陽極型X線管の組立工程や排気工程において付加的な工程や特別な設備を必要とせずに容易に短時間で且つ安定して製造できるとともに、製造された回転陽極型X線管の信頼性が高くできるように改善した回転陽極型X線管及び回転陽極型X線管装置を提供することである。
本発明は、液体金属を潤滑剤とするすべり軸受を用いた回転陽極型X線管の回転機構内において、回転軸に沿った方向及び回転軸に直角な方向に回転体を実質的に軸支するすべり軸受の他に、液体金属潤滑剤をこれらのすべり軸受に供給するとともに、液体金属潤滑剤が軸受部分から出てゆくこと自体を防止する為の補助的なすべり軸受を設けている。この補助的なすべり軸受はいかなる状況下でも一定以上の大きさの軸受隙間が確保されるとともに、通常には液体金属潤滑剤で満たされていない隙間があり、一部分のみに液体金属潤滑剤が保たれている。この補助的なすべり軸受内の液体金属潤滑剤はその量が動作条件によって増減するようになっており、回転体が回転しているときに液体金属潤滑剤を押し出そうとする圧力が増加すると液体金属潤滑剤の量が増加してこの圧力に対抗できる大きさの反対方向の圧力を生じるようになっている。回転体が静止している時には補助的なすべり軸受内の液体金属潤滑剤の量が少なく、その移動が容易に行われて液体金属潤滑剤の内部に含まれていた気体が高圧力化しない状態で外部に排気できるように成っている。
先ず、すべり軸受構造の工夫について述べる。液体金属を潤滑剤とする動圧式すべり軸受の両側にこのすべり軸受と全周囲で連通した環状リザーバを設け、各々の環状リザーバをこのすべり軸受を通らないとともに径方向に屈曲した部分を含まないようにして設けられた多数の潤滑剤通路で連結しており、これらに独立した多数の閉じた循環路の機能を持たせている。この環状リザーバは、固定体の表面から径方向に深く削り取られた環状の深溝と、固定体の表面と微小な隙間をもって対向した回転体の表面とで囲まれてこの内部に液体金属潤滑剤が供給されて成り立っている。本発明に於ける環状リザーバは、この中には液体金属潤滑剤が占めていない空間も含まれており、液体金属潤滑剤と気体との置換も容易に行えるようになったものであり、この分野で従来用いられていた所謂リザーバの概念に限定されるものではない。上記の閉じた循環路は、液体金属潤滑剤を全周囲ですべり軸受に供給し易くするのと、液体金属潤滑剤に含まれる気体を閉じた循環路内で分離するのに役立っている。この環状リザーバと潤滑剤通路は十分に大きな断面を持っており、この中での毛細管効果は無視できる程度であり、液体金属潤滑剤の移動や気体との置換は容易に行えるようになっている。前記の環状リザーバや潤滑剤通路を含む回転機構の中には液体金属潤滑剤で満たされていない空間が設けてあり、この部分における気体の移動を邪魔されないようになっている。回転体が水平の姿勢で静止している場合には、どこかの場所で気体が生じてもこの気体の圧力がある程度高まればこの気体は一部の液体金属潤滑剤を押しやり又は液体金属潤滑剤と置換されて前記環状リザーバに到達してこの気体が上方に浮上する。この際に、前記環状リザーバ内には気体の浮上を阻止する構造物が存在せず、回転機構の上方に位置して形成されたこのような空間は回転機構を縦断して分布するようにできている。
上記のような軸受構造では、軸受部分で気体の分離が容易に行えるが、前記端部開口に近い位置に多量の液体金属潤滑剤を内蔵した環状リザーバが設けられているので、ここからの液体金属潤滑剤の漏出を防止する必要がある。これは、以下のようにして達成されている。前記回転体の終端部には真空空間に通じる端部開口がある。この端部開口に最も近い位置にある環状リザーバよりも前記端部開口に向う側に、表面張力で液体金属潤滑剤の通過を阻止する環状禁止帯が設けられている。この環状禁止帯よりも更に前記端部開口に向う側に補助的なすべり軸受が設けられている。環状禁止帯は、回転体と固定体の間で微小な隙間を保って対向しており液体金属潤滑剤で濡れない一対の面から成っている。前記補助的なすべり軸受は、回転体と固定体の間で微小な隙間を保って対向しており液体金属潤滑剤で濡れた一対の表面と、少なくとも一方の表面に設けられたらせん溝と、この中に存在する液体金属潤滑剤から成り立っている。この液体金属潤滑剤は前記環状リザーバを含む他の部分にある液体金属潤滑剤とは前記環状禁止帯で通常は分離されている。回転体が静止しているときに、回転機構内の前記空間の圧力がある程度高くなると、この分離された液体金属潤滑剤を外方向に押しやり、このときに液体金属潤滑剤の環の一部分が切断されて前記の空間と外部空間とを結ぶ気体通路が臨時に生じて外部に気体が排出される。この場合、補助的なすべり軸受内に在る液体金属潤滑剤の量が少ないのでおの軸受の外部にはみ出すことは無い。
予期しない理由によって液体金属潤滑剤が前記補助的なすべり軸受よりも真空空間に通じる経路に移動した場合には、この液体金属潤滑剤は帰還手段によって前記補助的なすべり軸受に戻されるようになっている。前記補助的なすべり軸受内の液体金属潤滑剤が増加すれば前記の環状禁止帯を経由して前記環状リザーバに戻される。更に予期しない理由によって帰還されずに前記真空空間に通じる経路を更に進行した液体金属潤滑剤は回転体内に設けられた閉空間内に閉じ込めるようになっている。以上に述べた工夫をしているので、回転機構内や液体金属潤滑剤内に気体が含まれていても液体金属潤滑剤の漏出に関して特別の配慮が不要となり、気体を容易に排気できるので前記の課題は解決されている。本発明において採用されているより具体的な課題解決手段は以下のとおりである。
本発明の一つは、真空空間を画定する真空容器と、この真空容器の一部分に機械的に支持されるとともに前記真空容器内に突出して又は前記真空容器を貫通して設けられた概略円柱状で中心軸を有する固定体と、この固定体の外周に微小な軸受隙間を保って同軸的に勘合された概略円筒状部分を含み且つ一部分にX線ターゲットが同軸的に取り付けられた回転体と、これら固定体と回転体との勘合部に設けられたらせん溝とこの中に充填された液体金属潤滑剤を有する動圧式すべり軸受とを具備する回転陽極型X線管において、前記固定体の表面と前記回転体の終端部の表面とが対向した位置に前記真空空間に連通した環状の隙間である端部開口があり、前記動圧式すべり軸受には前記中心軸に沿った方向に圧力を生じる一対のスラスト軸受と前記中心軸に直角な方向に圧力を生じる3個のラジアル軸受とが含まれており、これらの3個のラジアル軸受には補助的なラジアル軸受が含まれており、この補助的なラジアル軸受は、ラジアル軸受用のらせん溝が設けられた表面部分とこの表面部分に隙間を有して対向した表面部分とを含み、これらの表面部分の隙間内には液体金属潤滑剤が通常に占めている領域と液体金属潤滑剤が通常には占めていない領域とがあり、これらの領域の容積比率は経時的に一定でないことを特徴とする回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記回転体が前記一対のスラスト軸受と、前記補助的なラジアル軸受を除く2個のラジアル軸受とで実質的に軸支されており、回転特性は実質的にこれらの動圧式すべり軸受で決められており、前記補助的なラジアル軸受は回転特性には実質的に関与せずに他の動圧式すべり軸受への液体金属潤滑剤の供給と、回転機構の内部から回転機構の外部に向って液体金属潤滑剤が漏出するのを防止する役割を負っている。前記補助的なラジアル軸受内には通常には液体金属潤滑剤で満たされていない部分が大きな割合を占めており、発生する圧力は通常は大きくない。前記回転体が回転しているときに前記補助的なラジアル軸受内に液体金属潤滑剤が押込まれると、この押込む圧力に対抗する圧力を生じる方向にらせん溝が設けられていて、この領域に液体金属潤滑剤が侵入すると反対方向の圧力がバランスしてそれ以上液体金属潤滑剤の境界が移動しなくなる。このようにして液体金属潤滑剤が押し出されるのが防止される。前記回転体が静止しているときには前記補助的なラジアル軸受内に液体金属潤滑剤が占めない空間が大きな割合を占めているので液体金属潤滑剤が内部の気体の膨張等で移動させられても前記補助的なラジアル軸受のらせん溝が設けられた領域から押し出される前に自ら破断して気体通路ができ、気体は排気される。このようにして前記補助的なラジアル軸受が液体金属潤滑剤の分布を自動的に適正化する。
本発明の一つは、真空空間を画定する真空容器と、この真空容器の一部分に機械的に支持されるとともに前記真空容器内に突出して又は前記真空容器を貫通して設けられた概略円柱状で中心軸を有する固定体と、この固定体の外周に微小な軸受隙間を保って同軸的に勘合された概略円筒状部分を含み且つ一部分にX線ターゲットが同軸的に取り付けられた回転体と、これら固定体と回転体との勘合部に設けられたらせん溝とこの中に充填された液体金属潤滑剤を有する動圧式すべり軸受とを具備する回転陽極型X線管において、前記固定体の表面と前記回転体の終端部の表面とが対向した位置に前記真空空間に連通した環状の隙間である端部開口があり、前記動圧式すべり軸受には前記中心軸に沿った方向に圧力を生じる3個のスラスト軸受と前記中心軸に直角な方向に圧力を生じる2個のラジアル軸受とが含まれており、これらの3個のスラスト軸受には補助的なスラスト軸受が含まれており、この補助的なスラスト軸受は、スラスト軸受用のらせん溝が設けられた表面部分とこの表面部分に隙間を有して対向した表面部分とを含み、これらの表面部分の隙間内には液体金属潤滑剤が通常に占めている領域と液体金属潤滑剤が通常には占めていない領域とがあり、これらの領域の容積比率は経時的に一定でないことを特徴とする回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記回転体が前記2個のラジアル軸受と、前記補助的なスラスト軸受を除く2個のスラスト軸受とで実質的に軸支されており、回転特性は実質的にこれらの動圧式すべり軸受で決められており、前記補助的なスラスト軸受は回転特性には実質的に関与せずに他の動圧式すべり軸受への液体金属潤滑剤の供給と、回転機構の内部から回転機構の外部に向って液体金属潤滑剤が漏出するのを防止する役割を負っている。前記補助的なスラスト軸受内には通常には液体金属潤滑剤で満たされていない部分が大きな割合を占めており、発生する圧力は通常は大きくない。前記回転体が回転しているときに前記補助的なスラスト軸受内に液体金属潤滑剤が押込まれると、この押込む圧力に対抗する圧力を生じる方向にらせん溝が設けられていて、この領域に液体金属潤滑剤が侵入すると反対方向の圧力がバランスしてそれ以上液体金属潤滑剤の境界が移動しなくなる。このようにして液体金属潤滑剤が押し出されるのが防止される。前記回転体が静止しているときには前記補助的なスラスト軸受内に液体金属潤滑剤が占めない空間が大きな割合を占めているので液体金属潤滑剤が内部の気体の膨張等で移動させられても前記補助的なスラスト軸受のらせん溝が設けられた領域から押し出される前に自ら破断して気体通路ができ、気体は排気される。このようにして前記補助的なスラスト軸受が液体金属潤滑剤の分布を自動的に適正化する。
本発明の一つは、前記補助的なラジアル軸受又は前記補助的なスラスト軸受に隣接し、これらの補助的な軸受と、前記回転体を実質的に軸支する他の動圧式すべり軸受のいずれかとによって前記中心軸に沿った方向に挟まれた位置において、前記固定体の表面部分と、これと微小な隙間を保って対向している前記回転体の表面部分とに液体金属潤滑剤で濡れない環状の表面部分を含んで成る環状禁止帯が形成されていることを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記補助的なラジアル軸受又は前記補助的なスラスト軸受に隣接して且つ前記回転体を実質的に軸支する動圧式すべり軸受との間に前記環状禁止帯が設けられている為、液体金属潤滑剤に過大な圧力が印加されていないときは、前記回転体を実質的に軸支する動圧式すべり軸受と前記補助的なラジアル軸受又は前記補助的なスラスト軸受とが分離されており、前記補助的なラジアル軸受又は前記補助的なスラスト軸受が独立して作動するようになっている。従って、前記回転体が静止しているときに、前記補助的なラジアル軸受又は前記補助的なスラスト軸受内に通常に存在する液体金属潤滑剤の量を容易に制限することができる。
本発明の一つは、前記回転体を実質的に軸支する動圧式すべり軸受のいずれかと前記環状禁止帯とに前記中心軸に沿った方向に挟まれた位置における前記固定体の部分に、前記環状禁止帯を構成する互いに対向する表面間の隙間寸法よりも大きな寸法の開口幅を有する開口部と、この開口部の開口幅寸法よりも大きな寸法の深さを有する環状深溝が前記環状禁止帯に隣接して設けられたことを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記環状深溝は、前記回転体を実質的に軸支する動圧式すべり軸受内に液体金属潤滑剤を供給するとともに、液体金属潤滑剤に混在する気体を分離するのに役立っている。前記環状深溝内には液体金属潤滑剤で満たされていない空間があり、この部分に気体が溜まるとこの気体は前記環状禁止帯を通過して前記補助的なラジアル軸受又は前記補助的なスラスト軸受内に溜まっている少量の液体金属潤滑剤でできた壁が破られて、この気体が外部に排気される。前記のように、前記環状深溝は環状リザーバを構成しており、回転機構の内部にある他の環状リザーバと前記多数の潤滑剤通路で連結されており、前記補助的なラジアル軸受又は前記補助的なスラスト軸受から前記環状禁止帯を通過して前記環状深溝に戻された液体金属潤滑剤は、回転機構の内部にある、前記回転体を実質的に軸支する動圧式すべり軸受のいずれにも到達できるようになっている。換言すると、前記補助的なラジアル軸受又は前記補助的なスラスト軸受から前記回転体を実質的に軸支する動圧式すべり軸受のいずれにも至る液体金属潤滑剤の可逆的な通路が構成されていることになる。
本発明の一つは、前記補助的なラジアル軸受用又は前記補助的なスラスト軸受用のらせん溝が設けられた領域に於ける前記固定体の表面部分と、この表面部分に隙間を有して対向した前記回転体の表面部分との隙間部分の容積は、前記環状禁止帯を構成する前記固定体の表面部分と、これに隙間を有して対向する前記回転体の表面部分とで挟まれてできる隙間部分の容積よりも大きいことを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記環状禁止帯の両側から液体金属潤滑剤に圧力がかかり、前記環状禁止帯に液体金属潤滑剤が満たされた後に液体金属潤滑剤に印加される圧力が低下してこの中の液体金属潤滑剤の全てが前記補助的なラジアル軸受内又は前記補助的なスラスト軸受内に移動した場合でもこれらの補助的な軸受からはみ出すことが無く、液体金属潤滑剤の漏出がより確実に防止できる。
本発明の一つは、前記補助的なラジアル軸受用又は前記補助的なスラスト軸受用のらせん溝が設けられた領域に於ける前記固定体又は前記回転体の表面部分の面積は前記環状禁止帯を構成する前記固定体の表面部分の面積よりも大きいことを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記環状禁止帯の両側から液体金属潤滑剤に圧力がかかり、前記環状禁止帯に液体金属潤滑剤が満たされた後に液体金属潤滑剤に印加される圧力が低下してこの中の液体金属潤滑剤の全てが前記補助的なラジアル軸受内又は前記補助的なスラスト軸受内に移動した場合でもこれらの補助的な軸受からはみ出さないようにし易い。例えば、前記回転体の表面と前記固定体の表面との隙間が実質的に同じであっても上記のように液体金属潤滑剤の漏出が防止できる。
本発明の一つは、前記補助的なラジアル軸受又は前記補助的なスラスト軸受を構成する前記固定体の表面部分の直径は前記環状禁止帯を構成する前記固定体の表面部分の直径と実質的に同一であることを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では単純な構造で前記のような液体金属潤滑剤の漏出防止を実現し易い。
本発明の一つは、真空空間を画定する真空容器と、この真空容器の一部分に機械的に支持されるとともに前記真空容器内に突出して又は前記真空容器を貫通して設けられた概略円柱状で中心軸を有する固定体と、この固定体の外周に微小な軸受隙間を保って同軸的に勘合された概略円筒状部分を含み且つ一部分にX線ターゲットが同軸的に取り付けられた回転体と、これら固定体と回転体との勘合部に設けられたらせん溝とこの中に充填された液体金属潤滑剤を有する動圧式すべり軸受とを具備する回転陽極型X線管において、前記固定体の表面と前記回転体の終端部の表面とが対向した位置に前記真空空間に連通した環状の隙間である端部開口があり、前記動圧式すべり軸受には前記中心軸に沿った方向に前記回転体を実質的に軸支する一対のスラスト軸受と前記中心軸に直角な方向に前記回転体を実質的に軸支する第1及び第2の2個のラジアル軸受と補助的な第3のラジアル軸受とが含まれており、この第3のラジアル軸受は前記端部開口に最も近い位置に配置されており、この第3のラジアル軸受よりも前記端部開口に近い位置に移動した液体金属潤滑剤をこの第3のラジアル軸受内に遠心力を利用して帰還させる帰還手段が設けられたことを特徴とする回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、予期しない原因で液体金属潤滑剤が前記第3のラジアル軸受よりも前記端部開口に近い位置に移動した場合でも、前記帰還手段によって前記第3のラジアル軸受内に戻され、液体金属潤滑剤が前記真空空間に到達しないので放電などの不都合が発生するのが防止される。
本発明の一つは、前記第3のラジアル軸受よりも前記端部開口に近い位置に、前記固定体の外表面部分及びびこれと微小な隙間を保って対向する前記回転体の内表面部分の直径が前記第3のラジアル軸受の表面部分の直径より小さくなっている径小部分が設けられており、前記帰還手段は、前記回転体の内径小部分の内面部分と前記第3のラジアル軸受の軸受隙間の近傍とに開口しており、液体金属潤滑剤が通過できる帰還孔を含んでいることを特徴とする上記の発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、簡単な構造で前記帰還手段が実現されている。
本発明の一つは、前記固定体の径小部分の外表面部分、又は前記回転体の内径小部分の内表面部分の少なくともどちらか一方に、前記帰還孔の開口部へ向かって液体金属潤滑剤を導入する導入手段が設けられたことを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記第3のラジアル軸受よりも前記端部開口に近い位置まで液体金属潤滑剤が移動した場合にこの液体金属潤滑剤が前記導入手段によって前記帰還孔の開口部に導かれるようになっており、液体金属潤滑剤が効率良く前記第3のラジアル軸受に戻される。
本発明の一つは、前記帰還孔は、液体金属潤滑剤で濡れない内表面を有しており、前記回転体が静止しているときには液体金属潤滑剤がこの内部を通過するのを表面張力によって阻止し、前記回転体が回転しているときには液体金属潤滑剤を前記内径小部分から前記第3のラジアル軸受の軸受隙間に向う方向に遠心力によって移動させるような一方通行通路になっていることを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、液体金属潤滑剤が前記帰還孔を逆流して漏出するのが防止される。
本発明の一つは、前記帰還孔は、前記回転体の前記内径小部分の前記中心軸方向に沿って又は周方向に沿って又はその両方向に沿って分布したそれぞれの位置に開口し、前記中心軸の周りに配列した複数個の穴を含んでいることを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、簡単な構造で前記帰還路が実現できる。
本発明の一つは、真空空間を画定する真空容器と、この真空容器の一部分に機械的に支持されるとともに前記真空容器内に突出して又は前記真空容器を貫通して設けられた概略円柱状で中心軸を有する固定体と、この固定体の外周に微小な軸受隙間を保って同軸的に勘合された概略円筒状部分を含み且つ一部分にX線ターゲットが同軸的に取り付けられた回転体と、これら固定体と回転体との勘合部に設けられたらせん溝とこの中に充填された液体金属潤滑剤を有する動圧式すべり軸受とを具備する回転陽極型X線管において、前記固定体の表面と前記回転体の終端部の表面とが対向した位置に前記真空空間に連通した環状の隙間である端部開口があり、前記回転体は、前記X線ターゲットが取り付けられた第1の回転体部材と、これに隙間を保って同軸的に取り付けられた第2の回転体部材と、これに隙間を保って同軸的に取り付けられており前記動圧式すべり軸受を構成する第3の回転体部材とを含んでおり、これらの第1乃至第3の回転体部材のそれぞれの表面は結合されて実質的に閉じた空間を形成しており、この閉じた空間内に液体金属潤滑剤を投入する投入手段が前記第2の回転体部材に設けられていることを特徴とする回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記端部開口を通過した液体金属潤滑剤を前記実質的に閉じた空間内に閉じ込められるので液体金属潤滑剤が前記真空空間に漏出するのがより確実に防止される。このような回転体の構造を採用すると、前記第2の回転体部材と前記第3の回転体部材の隙間に液体金属潤滑剤の下記案内手段の一部分を挿入して液体金属潤滑剤を都合よく前記投入手段に導くことができる効果がある。
本発明の一つは、前記端部開口から前記真空空間へ向う経路に出てきた液体金属潤滑剤を前記第2の回転体部材に設けられた前記投入手段の近傍に導く案内手段が前記固定体又は前記回転体の少なくとも一方に設けられたことを特徴とする上記の発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記端部開口を通過した液体金属潤滑剤が確実に前記回転体の前記閉じた空間内に導かれる為に液体金属潤滑剤が前記真空空間内に飛散することなく前記閉じた空間内に投入される。
本発明の一つは、前記案内手段は、一端部分が前記固定体に接続されており、他端部分が前記第2の回転体部材と前記第3の回転体部材との隙間に挿入されている環状カバーで構成されていることを特徴とする上記の発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記案内手段が簡単な構造で実現できる。
本発明の一つは、前記第2の回転体部材に設けられた投入手段は、液体金属潤滑剤で濡れない面を有していて液体金属潤滑剤の通過が通常には表面張力が作用して阻止され、遠心力が作用した場合にのみ液体金属潤滑剤の通過が許容される一方通行通路から成ることを特徴とする上記の発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記回転体の閉じた空間内に投入された液体金属潤滑剤が再度出てくるのが防止され、液体金属潤滑剤が前記真空空間に到達するのが防止される。
本発明の一つは、前記閉じた空間を形成する結合された表面は、液体金属潤滑剤がこの表面の素材と実質的に反応して固化するのに十分な高温度になる部分を含むことを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記回転体内の閉じた空間内に投入された液体金属潤滑剤が固化されるために再度出て来ることがなく、液体金属潤滑剤が前記真空空間に到達するのがより確実に防止される。
本発明の一つは、前記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管と、この回転陽極型X線管を収納する収納容器と、前記回転陽極型X線管を前記収納容器に固定する保持機構と、前記回転陽極型X線管の前記真空容器の外から前記回転陽極型X線管内の前記回転体に回転トルクを与えるステータと、前記回転陽極型X線管内で電子を放出する陰極に負の高電圧を供給する為の高電圧端子とを具備したことを特徴とする回転陽極型X線管装置である。この回転陽極型X線管装置では前記したように組立工程や排気工程が簡略化できるだけでなく、液体金属潤滑剤が前記真空空間に到達するのが防止され、信頼性が高い回転陽極型X線管装置を実現できる。
本発明の一つは、真空空間を画定する真空容器と、この真空容器の一部分に機械的に支持されるとともに前記真空容器内に突出して又は前記真空容器を貫通して設けられた概略円柱状で中心軸を有する固定体と、この固定体の外周に微小な軸受隙間を保って同軸的に勘合された概略円筒状部分を含み且つ一部分にX線ターゲットが同軸的に取り付けられた回転体と、これら固定体と回転体との勘合部に設けられたらせん溝とこの中に充填された液体金属潤滑剤を有する動圧式すべり軸受とを具備する回転陽極型X線管の製造方法において、前記X線ターゲットが取り付けられた第1の回転体部材と、これに隙間を保って同軸的に取り付けられた第2の回転体部材と、これに隙間を保って同軸的に取り付けられており前記動圧式すべり軸受を構成する第3の回転体部材とを結合して前記回転体を組立てるとともに、これらの第1乃至第3の回転体部材のそれぞれの表面を結合して実質的に閉じた空間を形成する工程と、この閉じた空間内に液体金属潤滑剤を投入する投入手段を前記第2の回転体部材に設ける工程とを含むことを特徴とする回転陽極型X線管の製造方法である。この製造方法を採用すると、回転陽極型X線管の組立工程や排気工程が簡略化でき、液体金属潤滑剤が前記真空空間に到達しない回転陽極型X線管を容易に実現できる。
本発明を採用すると、液体金属を潤滑剤とした動圧式すべり軸受を用いた、陽極熱容量が極めて大きくて、大きな遠心力に耐えられる回転陽極型X線管装置を、特別な工程や特殊な製造設備を必要とせずに容易に安定して量産することができる。具体的には、液体金属潤滑剤に含まれる気体が回転機構の内部において分離されるとともに、回転機構の内部と回転機構の入口とに通じる液体金属潤滑剤の可逆的な通路が形成されていて、気体のみを外部に排気して液体金属潤滑剤を内部の軸受部分に戻すことができる回転機構を採用しているために、回転陽極型X線管の組立工程においても排気工程においても特殊な工程や特殊な設備を用いる必要がなく工程の簡略化ができるようになっている。更に、予期しない原因で液体金属潤滑剤が軸受部分を通過した場合には自動的に軸受部分の内部に帰還させられるようになっており、更に予期しない理由で液体金属潤滑剤が前記真空空間への経路により近づいた場合には、この液体金属潤滑剤は回転機構内に設けられている、閉じられた空間内に非可逆的に閉じ込められるようになっている。このように、液体金属潤滑剤が前記真空空間に到達しないので、実使用時においても、使用中に軸受部分で発生した気体は自動的に排気され、信頼性が高い長寿命の回転陽極型X線管及びこれを用いた回転陽極型X線管装置を提供することができる。
本発明に係わる回転陽極型X線管は、液体金属を潤滑剤とした動圧式すべり軸受から成る第1及び第2のラジアル軸受と2個のスラスト軸受とを含んでおり、これらのすべり軸受がそれぞれ回転陽極の回転中心軸に直角の方向及び回転中心軸に沿った方向に軸受力を発生して回転陽極を回転自在に支承する回転機構を含んでいる。前記各すべり軸受はその軸受隙間の全周囲で連通した環状リザーバにそれぞれの両端部で隣接しており、これら環状リザーバは、すべり軸受の直下において、すべり軸受と平行して周方向に多数が並んで設けられた潤滑剤通路によって最短距離で直結されている。結果として、前記すべり軸受と環状リザーバと潤滑剤通路とで閉じた潤滑剤流路がすべり軸受の軸受隙間全体で形成されて、液体金属潤滑剤があらゆる周方向位置からすべり軸受内に流入又はすべり軸受から流出できるようになっている。回転体が移動して軸受隙間が増減した場合にも液体金属潤滑剤の量は自動的に適正化される。液体金属潤滑剤及びこれに混入している気体は環状リザーバ内で前記すべり軸受の軸受隙間に沿って周回移動することができ、これらは容易に分離される。同様に、潤滑剤通路の断面が大きく、毛細管効果が無視できるようになっており、液体金属潤滑剤や気体が容易に移動できる。環状深溝内や潤滑剤通路内には液体金属潤滑剤で満たされない空間を含むようになっており、液体金属潤滑剤に含まれていた気体は、容易に移動して液体金属潤滑剤から分離されて前記空間に合流し、膨張して圧力が低下した状態で以下に述べるようにして回転機構の外に排気されるようになっている。
前記環状リザーバは、前記回転機構の固定部分である固定体の表面から深く環状に削り取られてできた狭い幅で深い溝をもつ環状の深溝と、前記固定体の表面と微小な隙間を保って対向した表面を有する回転体の表面とで囲まれた環状の領域を含んでいる。前記環状の深溝は、環状の底面と、この底面と繋がった両側の環状の側面を含んでいる。この環状の側面に開口して管軸方向に伸びた多数の長穴が前記環状の側面の外側の辺に沿って分布するように設けられている。これらの各長穴は、同一すべり軸受に隣接した他の環状深溝の環状側面にもそれぞれ開口しており、且つ、径方向に屈曲した部分を含んでいない。これらの多数の長穴とその両側の環状深溝は、前記回転体の表面で囲まれており、且つ前記すべり軸受の軸受隙間に全周囲で通じた領域を形成している。この中に、この領域の容積の85%程度に相当する体積の液体金属潤滑剤が充填されている。前記環状深溝と前記回転体表面とで囲まれた領域は環状リザーバを構成しており、前記長穴は潤滑剤通路を構成している。
上記のように構成されたすべり軸受は回転体の中心軸に沿った方向に複数個が設けられており、これらが前記環状リザーバを介して直列に接続されている。結果として、回転軸を水平方向にした場合には、回転機構の最奥部にあるすべり軸受とも水平方向に連結され、鉛直上方に位置するいくつかの潤滑剤通路は回転機構の最奥部まで水平に繋がった回転機構内空間を形成できる。このように構成されている為に、回転軸を水平方向にした場合には、液体金属潤滑剤又はその境界壁を構成している部材のどこかの場所から出てきた気体は液体金属潤滑剤の喫水線からみて深部に入ることなく鉛直上方に浮上できる通路ができている。いずれかの環状リザーバに到達した気体は浮力で浮上して上記回転機構内空間に合流する。このように、発生した気体の圧力が異常に高くならなくても液体金属潤滑剤と分離できて大きな容積の上記回転機構内空間に繋がる。この回転機構内空間に溜まった気体は、以下に述べるようにして真空容器内の真空空間に移動して排気される。
前記回転体の終端部と前記固定体とは、微小な隙間を保って対向した表面を含んでおり、この部分の環状の隙間を端部開口と称する。前記回転体及び前記固定体は、この端部開口に最も近い環状リザーバから前記端部開口の方向に伸びた延長部分を含んでおり、その径は実質的に前記第1及び第2のラジアル軸受と同じである。この延長部分で、前記環状リザーバに隣接して前記端部開口の方向に伸びた領域に液体金属潤滑剤で濡れない対向面からなる環状禁止帯が設けられている。これは、前記回転体と前記固定体のそれぞれの、微小な隙間を保って対向した帯状表面に例えば酸化チタン等の表面を有するように構成されている。この部分の隙間は実質的にラジアル荷重を受け持つ前記第1及び第2のラジアル軸受の軸受隙間よりもわずかに大きくなっており、対向する前記回転体の表面とは機械的に接触しないようにできている。この環状禁止帯には、液体金属潤滑剤に生じる表面張力によって液体金属潤滑剤が通常は進入しないようになっている。
前記環状禁止帯に隣接して前記環状リザーバと反対側の前記延長部分に補助的な第3のラジアル軸受が形成されている。このすべり軸受は前記第1及び第2のラジアル軸受よりも対向面との隙間が大きくなっており、対向する面が接触しないようになっているのが好ましい。この第3のラジアル軸受よりも前記端部開口に近い側に径小部分がある。この径小部分では、前記固定体が肩部を有して段差的に外径を小さくしており、前記回転体の表面が前記固定体の表面と微小な隙間を保って対向している。この径小部分のうちで前記回転体の終端部と対向した環状の隙間は前記端部開口であり、前記真空容器が画定する真空空間に連通している。
前記回転体のラジアル荷重は実質的に前記第1及び第2のラジアル軸受によって支承されており、前記第3のラジアル軸受は補助的な軸受力を発生するにすぎない。前記第3のラジアル軸受は、主に、この中に過剰に進入した液体金属潤滑剤を前記環状リザーバの方向に押しやる役割と後述する臨時の気体通路を形成する役割を担っているが、常に少量の液体金属潤滑剤をその隙間に含んでおり、ある程度の軸受力を発揮する。これは、第3のラジアル軸受の軸受面を常時液体金属潤滑剤で濡れた状態に保つのに役立っている。第3のラジアル軸受には方向が反対になった2組のらせん溝が設けられている。これらは、回転体が正規の回転方向に回転している場合に液体金属潤滑剤を前記環状リザーバの方向に押しやる圧力を生じる第1の軸受溝と、液体金属潤滑剤を前記端部開口の方向に押しやる圧力を生じる第2の軸受溝とである。第1の軸受溝は第2の軸受溝よりも広い面積を占めており、液体金属潤滑剤が新たに供給されない場合には第2の軸受溝の領域と第1の軸受溝の領域の一部分に液体金属潤滑剤が溜まっている。
前記回転体が静止しているときには、前述のように回転機構内の液体金属潤滑剤は前記環状禁止帯で遮断されて第3のラジアル軸受への移動が禁止される。従って、前記回転機構内空間は、前記環状禁止帯にも繋がっており、前記第3のラジアル軸受内の液体金属潤滑剤で閉じられている。前記第3のラジアル軸受には液体金属潤滑剤が付着しているが、軸受隙間が大きい為に、前記回転体が静止しているときには液体金属潤滑剤が横方向に容易に移動できるようになっている。また、軸受溝の深さと幅が大きくなっており、且つ液体金属潤滑剤が少ない領域が広いので液体金属潤滑剤が中心軸に沿った方向に移動すると破断されて臨時に気体の通路ができ易くなっている。前記回転機構内空間の圧力がある程度高くなると第3のラジアル軸受の軸受隙間にある少量の液体金属潤滑剤が前記第1の軸受溝の領域内で前記肩部の方向に押しやられ、破断部分が生じて前記回転機構内空間にある気体は前記端部開口を経由して真空容器内空間に移動する。前記回転機構内空間の圧力が低下すれば液体金属潤滑剤の状態は復元する。
回転体が高速度で回転しているときには、前記環状リザーバ内の液体金属潤滑剤は、接触している前記回転体表面の回転によって回転させられ、液体金属潤滑剤に働く遠心力で前記第3のラジアル軸受の方向に押しやられて前記環状禁止帯を通過して前記第3のラジアル軸受を構成する前記第1の軸受溝の広い部分にまで押し込まれる。このとき、第3のラジアル軸受では前記第1の軸受溝で生じる圧力が前記第2の軸受溝で生じる圧力に勝り、結果としてスパイラルポンプとして作用して前記遠心力に対向する圧力を生じるので液体金属潤滑剤が前記肩部の方向に漏出するのが防がれる。このスパイラルポンプとしての作用は、回転陽極型X線管自体が公転させられて液体金属潤滑剤に生じる遠心力による押し出し力が追加されても液体金属潤滑剤の漏出を防止できる大きさになっている。前記環状リザーバにおける気体の膨張等で圧力が高まった場合も同様である。このような液体金属潤滑剤を押し出そうとする力が減少すると、押込まれていた液体金属潤滑剤は前記環状禁止帯を経由して前記環状深溝に戻され、元の状態に戻る。前記環状深溝内に戻った液体金属潤滑剤は前記第2のラジアル軸受に供給され、又は前記潤滑剤通路を通って他の軸受部分の内部に移動する。換言すると、前記第3のラジアル軸受から前記環状禁止帯及び前記環状リザーバを介して、前記回転体を実質的に軸支する動圧式すべり軸受のいずれにも至る液体金属潤滑剤の可逆的な通路が構成されていることになる。予期しない理由により液体金属潤滑剤が前記第3のラジアル軸受を通過して前記肩部に到達した場合にはこの部分で液体金属潤滑剤が遠心力を受けて前記第3のラジアル軸受に戻されて前述のように振舞う。
回転体が高速度で回転しているときには、前述のように、環状リザーバ内の液体金属潤滑剤は遠心分離作用で回転体の表面近くに押しやられて前記深溝の底面近くに液体金属潤滑剤が存在しない空間が生じる。この空間は、前記環状深溝の底面近くに設けられた微小気体通路又はフィルタによって隣にある環状深溝の底面近くの空間及び回転機構の外部と連結されている。従って、回転体が回転しているときのみに外部と連通して内部にある気体のみを外部に放出できるようになっている。このようにして回転体が高速度で回転している場合にも回転機構内の気体は自動的に排気される。
前記第3のラジアル軸受内の液体金属潤滑剤の量は液体金属潤滑剤に印加される圧力によって増減するが、前記のように、液体金属潤滑剤は前記第3のラジアル軸受を通過して前記端部開口に向って移動しないようになっている。予期できない原因で前記第3のラジアル軸受を通過した液体金属潤滑剤は前記径小部分に到達したときに前記導入手段によって前記回転体に設けられた帰還孔に遠心力で導入され、更に遠心力で前記帰還孔を通過させられて前記第3のラジアル軸受内に戻される。このようにして液体金属潤滑剤が前記端部開口を通過するのが防止される。さらに予期しない理由で液体金属潤滑剤が前記端部開口を通過した場合でも、液体金属潤滑剤は前記真空空間に至る経路の途中に設けられた環状カバーから成る案内手段によって進路が制限されていて、前記回転体内に設けられた実質的に閉じた空間の中に導入されて閉じ込められるようになっている。
以上に述べたように、回転体が静止しているときにも、回転しているときにも軸受特性に実質的に影響を与えず、又液体金属潤滑剤が気体の膨張等によって外部に噴出させられること無く、回転機構内の気体が正常に外部に排気される。この際、液体金属潤滑剤が前記真空空間内に到達することが無く、安定な動作が保証される。又、実使用中においても液体金属潤滑剤が漏出されない状態で絶えず自動的に排気されるので信頼性が良い回転陽極型X線管を提供することができる。以下に、実施例を用いて本発明の実施形態及び作用についてより具体的且つ詳細に説明する。
図1、図2、図3を参照して本発明の回転陽極型X線管の構成について説明する。これらの図において、同じ部分は同じ番号を付して表している。図1は、本発明に係わる回転陽極型X線管の要部を表す断面図であって、1は内部の真空空間1aを高真空に保つ真空容器であり、2は真空容器1内に在って電子を放出する陰極であり、3は陰極2から放出された電子が入射してX線を放出するX線ターゲットであり、4はX線ターゲット3から放出されたX線を真空容器1の外部に取り出す為のX線照射窓である。図1において、10はX線ターゲット3を回転自在に支承する回転機構であり、20は回転機構10の内X線ターゲット3を回転する為の回転体であり、30は回転体20に勘合されて回転体20を回転自在に支承する固定体であり、40は真空容器1の外から回転体20に回転力を付与するステータである。
回転体20は、X線ターゲット3を同軸的に取り付けたターゲット支持体21と、ターゲット支持体21に同軸的に接合された第1の回転体部材22と、第1の回転体部材22に同軸的に取り付けられた第2の回転体部材23と、第2の回転体部材23に同軸的に取り付けられた第3の回転体部材24と、第2の回転体部材23に同軸的に取り付けられた第4の回転体部材25とを含んでいる。モリブデン合金でできたターゲット支持体21の先端部にX線ターゲット3が陽極固定ネジ5によって固定されており、ターゲット支持体21の他端部は第1の回転体部材22の一端部22aに溶接等により接続されており、第1の回転体部材22の他端部22bは第2の回転体部材23の一端部23aにネジ等で接続されており、第2の回転体部材23の他端部23bは第3の回転体部材24の一部分24aに図示しないネジ等により接続されている。更に、ターゲット支持体21にはX線ターゲット3からの輻射熱を遮蔽する為の遮蔽筒6が同軸的に取り付けられている。
第1の回転体部材22の外側にロータ26が第1の回転体部材22と同軸的に設けられており、第1の回転体部材22の一端部22aの近傍で溶接等によって接合されている。第3の回転体部材24の図示上端部は回転体径小部24bを形成しており、その図示上端部分には回転蓋27がネジ等によって接続されており、図示下端部には回転環状体28がネジ等によって接続されている。ロータ26は銅等のように電気伝導率の大きな材質でできており、ロータ26の図示下半分は図示上半分よりも径が大きくなっている。ステータ40の回転磁界によりロータ26の図示下半分は回転体20に大きな回転トルクを与えるようになっている。第1の回転体部材22は、純鉄等の磁性材料でできており、ロータ26との上記接合部以外で隙間を保って実質的に平行に構成されており、上記回転磁界の通路を形成している。第2の回転体部材23は50重量%の鉄と50重量%のニッケルの合金(TNF)等の熱伝導率が小さな材質でできており、第1の回転体部材22及び第3の回転体部材24とは前記それぞれの接続部分以外で隙間を保っている。第3の回転体部材24及び回転蓋27は鉄合金工具鋼SKD11(JIS規格)等のすべり軸受に適した材質でできており、第1の回転体部材22及び第2の回転体部材23との間に前記接続部分以外で隙間を保って非接触に構成されている。X線ターゲット3の熱はターゲット支持体21と第1の回転体部材22と第2の回転体部材23とを経由してすべり軸受が形成された第3の回転体部材24に伝導されるようになっている。
固定体30には、図示中央部に固定胴体部分31が、固定胴体部分31の図示上端部に上方肩部31aと固定体径小部分31bが、固定胴体部分31の図示下端部に陽極固定部分31cとが形成されている。上方肩部31aには円板状の仕切板36が固定されており、固定体径小部分31bには、上方肩部31aと中心軸C−C’に沿った方向に離れて対向するように軸受円板32が同軸的に取り付けられている。軸受円板32は固定胴体部分31に対して相対的に回転できないが、固定胴体部分31の中心軸C−C’に対して小さな角度で傾斜できるように固定体径小部分31bに取り付けられている。陽極固定部分31cの図示下端部は図示しない絶縁体を介して、絶縁油を収容した図示しない回転陽極型X線管の収納容器に固定されて回転陽極型X線管装置を構成している。固定胴体部分31と軸受円板32とはSKD11等のすべり軸受に適した材質でできている。
次に図1の主要部を拡大して表示した断面図である図2、及び図2において固定体30を非断面表示した図3を用いてより詳しく説明する。軸受円板32の図示上面及び図示下面にはヘリンボーンパターンのらせん溝GA1及びGA2が設けられており、軸受円板32の図示上面は回転蓋27の周辺部分の図示下面と20μm程度の隙間を保って対向しており、軸受円板32の図示下面は第3の回転体部材24の一部分が環状に内部に突出した回転体突出部24cの図示上面と20μm程度の隙間を保って対向している。それぞれのらせん溝GA1、GA2内及びそれぞれの隙間には、動作時に液体であるガリウム-インジウム-錫(Ga−In−Sn)合金から成る液体金属潤滑剤LMが満たされており、それぞれが反対方向の中心軸C−C’に沿った方向に動圧を発生する2個のスラスト軸受BA1,BA2を形成している。図4と図5以外では見やすくする為に液体金属潤滑剤LMは図示していない。回転体突出部24cの図示下面と仕切板36の図示上面とは1mm程度の大きな隙間を形成しており、液体金属潤滑剤LMが供給されている。
回転体突出部24cの最小径部の内面と固定体径小部分31bの外表面とは1mm程度の大きな隙間DA2があり、ここに液体金属潤滑剤LMが供給されている。固定体径小部分31bの図示上端部表面と回転蓋27の中央部分の表面とは最小0.5mm程度の隙間DS2を保って対向しておりこの隙間DS2には液体金属潤滑剤LMが供給されている。これら2個の隙間DS1,DS2は、軸受円板32に設けられた穴からなる潤滑剤通路RR3によって連通している。軸受円板32の中心軸C−C’に平行な円筒状外面とこれに対向した回転蓋27の円筒状内表面とは1mm程度の隙間DA1を保って対向しており液体金属潤滑剤LMが供給たされていて上記2個のスラスト軸受BA1,BA2に連通している。
回転体突出部24cの周辺部分に、軸受円板32に近づくにつれて中心軸C−C’からの距離が大きくなるように傾斜した多数の穴から成る潤滑剤通路RR4が設けられている。潤滑剤通路RR4は傾斜している為に、回転した場合に遠心力によって隙間DA1の方向に液体金属潤滑剤LMを押し込むように作用し、液体金属潤滑剤LMをスラスト軸受BA1,BA2を通って循環させようとする。この作用の大きさは前記傾き角度を変えることによって適正化できる。回転体20の回転速度が小さく、前記スラスト軸受BA1,BA2内の液体金属潤滑剤LMの保持作用が前記遠心力による液体金属潤滑剤LMの循環作用よりも小さい場合には、液体金属潤滑剤LMは前記隙間を循環する。回転体20の回転速度が大きく、前記スラスト軸受BA1,BA2内の液体金属潤滑剤LMの保持作用が大きい場合には、スラスト軸受BA1,BA2内の液体金属潤滑剤LMはスラスト軸受BA1,BA2の中に閉じ込められる。前記2個のスラスト軸受BA1,BA2内の液体金属潤滑剤LMが不足した場合や軸受隙間の大きさが変化した場合には前記循環作用により軸受隙間内の液体金属潤滑剤LMの量は適正に補充又は排出されるようになっている。
固定胴体部分31は概略円柱状の形状であり、この円筒状の外周表面には2組のヘリンボーン状の軸受溝GR1,GR2が設けられており、20〜30μmの軸受隙間を保って第3の回転体部材24の内表面と対向しており、軸受溝GR1,GR2及び前記軸受隙間には液体金属潤滑剤LMが供給されており、径方向に動圧を発生する第1及び第2のラジアル軸受BR1,BR2を構成している。第1及び第2のラジアル軸受BR1,BR2の間及びそれぞれの端部に位置して環状で深い溝から成る環状深溝DR1,DR2,DR3が固定胴体部分31に形成されている。環状深溝DR1,DR2,DR3の各ラジアル軸受BR1,BR2に隣接する境界面はテーパー状になっており、環状深溝DR1,DR2,DR3の深さは各ラジアル軸受BR1,BR2に近づくにつれて連続的に浅くなっており、この中に供給された液体金属潤滑剤LMがラジアル軸受BR1,BR2の隙間に供給されやすくなっている。環状深溝DR1,DR2,DR3は第3の回転体部材24の円筒状内表面で覆われて、これらは内部に液体金属潤滑剤LMが充填されて環状リザーバを構成している。
環状深溝DR1,DR2,DR3の各環状側壁の浅い位置に開口し、各ラジアル軸受BR1,BR2に実質的に平行であって、環状深溝DR1の環状側壁と環状深溝DR2の環状側壁とを結合する16個程度の潤滑剤通路RR1、及び環状深溝DR2の環状側壁と環状深溝DR3の環状側壁とを結合する16個程度の潤滑剤通路RR2とが固定胴体部分31の周辺部分に環状に配列されている。これらの潤滑剤通路RR1,RR2のいくつかを、液体金属潤滑剤LMで濡れない表面を有する小孔を含む、例えばフィルタ状であって気体は通過させるが液体金属潤滑剤LMは実質的に通過させないようになった気体通路に置換えても良い。潤滑剤通路RR1、RR2は、直径が2〜4mm程度の長孔であり、毛細管効果は無視されるので内表面は液体金属潤滑剤LMで濡れていても濡れていなくても良いが、液体金属潤滑剤LMから分離された気体、又は液体金属潤滑剤LMに含まれた気体、又は液体金属潤滑剤LMが通過できるようになっている。
固定胴体部分31の図示下方部に各ラジアル軸受BR1,BR2から径を実質的に同一に保って伸びた固定体延長部分31dがあり、その終端にステップ状に半径が小さくなった下方径小部分31eがあり、下方径小部分31eは前記陽極固定部分31cに伸びている。図3において、図示最下方に位置する環状深溝DR3の図示下方壁DR3Wよりも図示下方に位置する固定体延長部分31dの表面における所定幅、例えば5mm、の帯状部分及びこれに0.1mm程度の微小な隙間を保って対向する第3の回転体部材24の表面における所定幅、例えば5mm、の帯状部分は前記のような液体金属潤滑剤LMで濡れない面と成っており、液体金属潤滑剤LMの表面張力によりその通過を妨げるように作用する環状禁止帯PR1を構成している。この部分の隙間は、各ラジアル軸受BR1,BR2の隙間よりも大きくなっており、機械的に接触することがないが、回転体20が静止しているときの液体金属潤滑剤LMの漏出を防止するのに十分な表面張力が有効に働く大きさと成っている。
図3において、環状禁止帯PR1の図示下方に位置する固定体延長部分31dの表面にらせん溝GR3があり、この表面は第3の回転体部材24の表面と微小な隙間を保って対向しており、この中に液体金属潤滑剤LMが充填されており、第3のラジアル軸受BR3を構成している。らせん溝GR3のうち図示上方に位置する軸受溝GR3aは図示下方に位置する軸受溝GR3bよりも狭い範囲にできている。従って、回転体20が回転しているときに新たなる液体金属潤滑剤LMの追加供給が無い場合にはらせん溝GR3の図示上方に位置する軸受溝GR3aと軸受溝GR3bの一部分から成る領域BR3aのみに液体金属潤滑剤LMが補足されている。この様子は図4に示している。図3において、第3のラジアル軸受BR3内に液体金属潤滑剤LMが追加されると、らせん溝GR3の図示下方の軸受溝GR3bでのポンプ作用の増加によって図示上方に押し出す力を生じる。このようにして液体金属潤滑剤LMが環状禁止帯PR1を通過して漏出するのは阻止される。このような作用をより有効にするにはらせん溝GR3の図示下方に位置する軸受溝GR3bでのポンプ作用をより大きくすることが好ましい。これを実現するには、例えば、らせん溝GR3の図示下方に位置する軸受溝GR3bの図示下方部分の隙間を狭くすれば良い。
図2に示すように、環状深溝DR1,DR2,DR3の環状側壁において各環状底面に近い位置に開口し、各ラジアル軸受BR1,BR2に実質的に平行であって、環状深溝DR1の環状側壁と環状深溝DR2の環状側壁とを結合する16個程度の気体通路RG1及び環状深溝DR2の環状側壁と環状深溝DR3の環状側壁とを結合する16個程度の気体通路RG2とが固定胴体部分31に環状に配列されている。また、固定体延長部分31dの終端で下方径小部分31eと繋がった隅部31fに開口し、固定体延長部分31dに最も近い位置にある環状深溝DR3の環状側壁DR3Wにおいてその環状底面に近い位置に開口した16個程度の気体通路RG3が設けられている。気体通路RG1,RG2,RG3は液体金属潤滑剤LMで濡れない表面を持つ極細い管又は海綿状の物体でできており、液体金属潤滑剤LMは実質的に通過させないが気体は通過するようになっている。これらは、比較的大きな穴をあけてこの中に狭いスリットを有する棒状の物体を挿入しても実現できる。
図2において、第3の回転体部材24の図示下端部には、固定胴体部分31の表面と0.1mm程度の隙間を保って対向した表面を有する回転環状体28が図示しないネジ等によって取り付けられている。回転環状体28の内径小部の内表面には、0.1mm程度の深さがあり、1mm程度のピッチをもって中心軸C−C’に沿った方向に分離した環状の溝でできた分離環状溝28aが設けてある。これは、各々中心軸C−C’に沿った方向のらせん溝であっても良い。回転環状体28と第3の回転体部材24との接続によって生じる回転体隅部28bと回転環状体28の分離環状溝28aとを繋ぐ多数の穴から成る帰還孔28cが中心軸C−C’の周りに環状に配列して設けられている。分離環状溝28aは液体金属潤滑剤LMを帰還孔28cに導く導入手段となっている。回転環状体28の内径小部の図示下端部は回転体の終端部28eであり、この内表面と前記下方径小部分31eの外表面との間の環状の隙間は前記の端部開口を成している。
回転環状体28は液体金属潤滑剤LMで濡れない材質でできており、又は、帰還孔28cの内表面及び固定胴体部分31に対向する回転環状体28の表面は液体金属潤滑剤LMで濡れない面となっている。これらの表面に隙間を保って対向する固定胴体部分31の下方径小部分31eの表面も濡れない表面が形成されている。これらの隙間は前記スラスト軸受BA1,BA2及び第1及び第2のラジアル軸受BR1,BR2の隙間よりも大きい為に互いに対向する面はどのような状態においても機械的に接触することがないようになっている。
図1に示すように、固定体30の陽極固定部分31cの近傍に環状カバー33が取り付けられており、環状カバー33の内表面及び外表面は、回転環状体28及び第3の回転体部材24の外表面と、第4の回転体部材25と第2の回転体部材23の内面に隙間を保って対向して設けられている。陽極固定部分31cの近傍で環状カバー33よりも図示下方において環状体34が固定体30に溶接等により気密に接続されており、周辺部が封止リング35を介して真空容器1の絶縁体部分に気密に接続され、内部が排気されて真空空間1aを形成する。
回転機構10への液体金属潤滑剤LMの封入方法について図2を参照して説明する。先ず、固定体30の固定胴体部分31を第3の回転体部材24内に中心軸C−C’が一致するように挿入し、固定体径小部分31bの図示上端部が回転体突出部24cの中央穴の図示下方に位置させ、且つ図示最下方に位置する環状深溝DR3の図示下方壁DR3Wが回転体下端24dよりも図示上方に位置させた状態で仮固定する。この際、軸受溝GR1,GR2の部分を液体金属潤滑剤LMで予め濡らしておくことが好ましい。この状態では、図示上部に回転体突出部24cの中央穴が空芯の状態になっているので、この穴から液体金属潤滑剤LMを大気中で滴下して挿入する。充填する液体金属潤滑剤LMの量は、第3の回転体部材24と固定体30で囲まれた空間の80%以上、100%未満が適当であるが、特に85%程度が好ましい。固定胴体部分31には環状深溝DR1,DR2,DR3と、これらを連結する多数の潤滑剤通路RR1、RR2が設けられており、多数の大きな断面を有する気体通路としても作動するので挿入された液体金属潤滑剤LMよりも内部にある気体は重力加速度により容易に置換される。後述するように、軸受隙間その他の部分に気体が残っていても、液体金属潤滑剤LM自体に気体が含まれていても、排気工程中にこれらの気体は液体金属潤滑剤LMに邪魔されることなく容易に排気される。このような理由で、特開平9−35633号公報や特開平5−12997号公報に開示されているような真空容器内での作業等の特別な工程も組立の為の真空容器等の特別な設備を必要としない。
前記のように、図3において図示最下方に位置する環状禁止帯PR1は液体金属潤滑剤LMで濡れない面と成っているので、挿入された液体金属潤滑剤LMはこの隙間に進入できないで図示最下方に位置する環状深溝DR3に溜まってゆく。更に挿入された液体金属潤滑剤LMは環状に連結された多数の潤滑剤通路RR2内の気体と置換されながら潤滑剤通路RR2内に満たされる。同様にして、図示上方に位置する環状深溝DR2内、潤滑剤通路RR1内、環状深溝DR1内が順次液体金属潤滑剤LMで満たされる。この際、液体金属潤滑剤LMの気体通路RG1,RG2,RG3内への進入は表面張力によって阻止される。
予め定められた量の液体金属潤滑剤LMが挿入された後に、回転環状体28を、第3の回転体部材24内に図示下方から押し上げて図示しないネジ等によって固定する。この際、固定体30の上方肩部31aに取り付けられた仕切板36の図示上方表面が回転体突出部24cの図示下方表面に近接するまで固定胴体部分31を相対的に移動することになる。この状態では、固定体径小部分31bの上端部分は回転体突出部24cを貫通して上方に位置している。この部分に、軸受円板32を挿入して止め金等で中心軸C−C’に沿った方向に移動せず、固定胴体部分31と相対的に回転しないように取り付ける。次に、回転蓋27を第3の回転体部材24に取り付けてネジ締めする。
次に回転陽極型X線管の組立方法について図1を参照して説明する。上記のようにして組立てた第3の回転体部材24の一部分24aを第2の回転体部材23の他端部23bにネジ等によって固定する。X線ターゲット3、遮蔽筒6、ターゲット支持体21、ロータ26を取り付けた第1の回転体部材22の他端部22bと、前記のようにして組立たれた第2の回転体部材23の一端部23aとをネジ等によって固定する。次に、環状カバー33を陽極固定部分31cに装着し、第4の回転体部材25を第2の回転体部材23の一端部23aに固定する。陽極固定部分31cの近傍で環状カバー33よりも図示下方において環状体34を固定体30に溶接等により気密に接続し、封止リング35を介して周辺部を真空容器1に気密に接続し、内部を排気して回転陽極型X線管に組立てる。以下にこのようにして組立てられた回転陽極型X線管を排気する方法について説明する。
本実施例の回転陽極型X線管を排気するにあたっては、排気工程の全工程において回転陽極型X線管の管軸の方向を変化させる必要はないが、陽極の中心軸C−C’すなわち回転陽極型X線管の管軸C−C’を水平方向にしておくことが好ましい。管軸C−C’を水平方向にした場合の回転機構10内における液体金属潤滑剤LMの分布の様子を断面図で図4及び図5に示している。図4は回転体20が静止している場合であり、図5は回転体20が高速度で回転している場合を表している。
先ず、図4を参照して回転体20が静止している場合について述べる。各すべり軸受BA1,BA2,BR1,BR2は各軸受隙間及び各軸受溝に液体金属潤滑剤LMで満たされている。第3のラジアル軸受BR3は前記のように一部分の領域BR3aのみに液体金属潤滑剤LMで満たされており、他の部分BR3bでは液体金属潤滑剤LMが不足している。液体金属潤滑剤LMは回転体20と固定体30とで囲まれてできる領域の容積の85%程度であり、潤滑剤通路RR1,RR2の少なくとも各1個は、液体金属潤滑剤LMの喫水線LLよりも鉛直上方に位置するように固定体30の周辺に配列されているので、図示上方にある潤滑剤通路RR1,RR2の少なくとも各1個は液体金属潤滑剤LMで満たされないものが存在する。気体通路RG1、RG2,RG3は環状深溝DR1,DR2,DR3から成る環状リザーバ内の液体金属潤滑剤LMで閉じられており、領域BR3aを境界として、環状禁止帯PR1の隙間及び、環状深溝DR1,DR2,DR3、扁平隙間DS1,DS2、潤滑剤通路RR4,環状隙間DA1内の前記喫水線LLより鉛直上方に位置する部分は連結された回転機構内空間VA1を形成している。
第3のラジアル軸受BR3内の領域BR3bより図示左側は真空容器1の内部空間1aに連通しており気体が通過できるようになっている。真空容器1の内部空間1aが図示しない排気管を介して図示しない真空ポンプで排気された場合、真空容器1の内部空間1aと回転機構内空間VA1との間で圧力差を生じ、第3のラジアル軸受BR3の領域BR3aに保持されていた液体金属潤滑剤LMは領域BR3bの方向に広げられ破断して臨時の気体通路を形成し、真空容器1の内部空間1aと回転機構内空間VA1との間は排気経路として結合されて回転機構内空間VA1内は徐々に排気される。液体金属潤滑剤LMと気体とが概略分離されており、且つ液体金属潤滑剤LMの移動が容易になっており、液体金属潤滑剤LM内に含まれる気体の分離が容易に行われるので、気体の急激な膨張等で液体金属潤滑剤LMを弾き飛ばすような不都合は生じないようになっている。液体金属潤滑剤LMの内部又は前記回転機構内空間VA1内で液体金属潤滑剤LMによって部分的に封じ込められた気体の膨張によって液体金属潤滑剤LMが潤滑剤通路RR1,RR2内又は環状深溝DR1,DR2,DR3内で移動させられて回転機構内空間VA1に合流した場合、回転機構内空間VA1の容積が大きいので、気体は圧力が低くなり前記のようにして前記気体通路を通過して真空容器1の内部空間1aに移動する。液体金属潤滑剤LMの一部が移動されられたとしても他の液体金属潤滑剤LMがいずれかの潤滑剤通路RR1,RR2を通過して喫水線のレベルは実質的に変化しない。
回転機構内空間VA1が高真空に排気されるまで常温に保たれている為に軸受表面が実質的に酸化されることが無く、特開平4−363844号公報に開示されているような液体金属潤滑剤LMとの反応層を予め真空中で作成しておく等の特別な処理を必要としない。高真空に到達した状態で、ステータ40に通電して回転体20を低速度で回転させると、環状深溝DR1,DR2,DR3から成る環状リザーバから前記各軸受隙間内に液体金属潤滑剤LMが吸引され、軸受面全体がよく濡れるとともに環状深溝DR1、DR2、DR3や潤滑剤通路RR1,RR2内の液体金属潤滑剤LMが循環することによって液体金属潤滑剤LMに含まれている気体が分離されて前記の気体通路を通って排気される。
上記のようにして軸受面が完全に濡れており且つ回転機構内空間VA1が十分に高真空になった状態で、真空容器1の外部から高周波加熱又は電気炉などにより、回転機構10内の温度を徐々に高めてゆくと液体金属潤滑剤LM内に閉じ込められていた気体や軸受を構成する材質に吸着されていた気体が放出され、前記と同様にして真空容器1の内部空間1aを経由して図示しない真空ポンプで排気される。この際、液体金属潤滑剤LMの量は各動圧式すべり軸受BA1、BA2、BR1、BR2が正常に作動するのに必要な量よりもはるかに多く、且つ液体金属潤滑剤LMが循環するので排気工程に於ける液体金属潤滑剤LM自体の酸化等は問題とならない程度である。
各軸受面が液体金属潤滑剤LMで完全に濡れた場合には、気体は軸受隙間を通って移動することが困難になるが、本発明では各すべり軸受をバイパスする多数の潤滑剤通路RR1,RR2を含んでおり、その内の少なくとも各1個の潤滑剤通路RR1,RR2は気体が自由に移動できる状態になっており、すべり軸受内の液体金属潤滑剤LMに過大な圧力を与えることなく排気される。又、後述するように、回転体20が回転しているときには、図5に示すように気体通路RG1,RG2,RG3の開口を覆っていた液体金属潤滑剤LMが除けられて連通した通路が生じ、回転機構の内部が容易に排気される。従って、例えば特開平5−290734号公報に開示されているような、排気工程中に軸受隙間を強制的に変化させる工程等が不要である。このように、本発明に係わる回転陽極型X線管は特別な装置や特別な操作等を必要とせずに容易に短時間に製造することができる。
次に、完成した回転陽極型X線管の管軸C−C’が水平方向にある場合の動作について説明する。スラスト軸受BA1は液体金属潤滑剤LMが供給されている扁平隙間DS2及び環状隙間DA1に両側から連通しており液体金属潤滑剤LMの授受が行われる。液体金属潤滑剤LMが供給されている扁平隙間DS2は液体金属潤滑剤LMが供給されている扁平隙間DS1に潤滑剤通路RR3と環状隙間DA2を通じて連通されており、扁平隙間DS1は潤滑剤通路RR4によって環状隙間DA1に連通しているので、スラスト軸受BA1は他の動圧式すべり軸受を通過しないで閉じた循環路を構成している。潤滑剤通路RR4は回転体突出部24c内に管軸C−C’から傾斜して設けられており、潤滑剤通路RR4内にある液体金属潤滑剤LMは遠心力を受けて環状隙間DA1に向かう圧力を受ける。前述のように、環状隙間DA1内及びスラスト軸受BA1内に液体金属潤滑剤LMが満たされていてスラスト軸受BA1に十分な圧力が生じているときには潤滑剤通路RR4内にある液体金属潤滑剤LMは液体金属潤滑剤LM内に圧力の増加をもたらすだけで、スラスト軸受BA1の動作に殆ど影響を与えない。環状隙間DA1内に液体金属潤滑剤LMで満たされていない空間が生じれば潤滑剤通路RR4内にある液体金属潤滑剤LMは遠心力を受けて環状隙間DA1を満たすように移動する。回転体20に中心軸C−C’に沿った方向の外力が加わり、スラスト軸受BA1の隙間が変化した場合には前記の循環路を通って液体金属潤滑剤LMが移動することによってスラスト軸受BA1内の液体金属潤滑剤LMの量は適正化される。
同様に、スラスト軸受BA2の外側は液体金属潤滑剤LMが供給されている環状隙間DA1に、スラスト軸受BA2の内側は環状隙間DA2を通じて扁平隙間DS1に連通しており、環状隙間DA1は潤滑剤通路RR4を通じて扁平隙間DS1に連通しているので、スラスト軸受BA2は他の動圧式すべり軸受を通過しないで閉じた循環路を構成している。スラスト軸受BA2内の液体金属潤滑剤LMの授受は前述のスラスト軸受BA1内の液体金属潤滑剤LMと同様に行われ、それぞれの動作が独立に行われる。
回転体20の回転中心軸の角度が微小にずれた場合に軸受円板32は固定体30の中心軸C−C’に対して傾くことができるので、スラスト軸受BA1及びスラスト軸受BA2のそれぞれの隙間は径方向に傾斜する必要が無く、安定な動作が保証される。この効果は、第1及び第2のラジアル軸受BR1,BR2の間隔が相対的に短い場合や、第1及び第2のラジアル軸受BR1,BR2の軸受面間の隙間が相対的に大きい場合や、スラスト軸受BA1、BA2の直径が相対的に大きい場合等に顕著に現れる。更に、スラスト軸受BA1、BA2のそれぞれの軸受面間の隙間を従来よりも狭くしても対向する軸受表面が常に平行に保たれるので安定して大きな軸受圧力を生じるようになっている。従って、スラスト軸受BA1、BA2のそれぞれの軸受隙間を従来よりも狭くできるので、回転体20の管軸C−C’方向の移動量をより小さく制限することができる。
次に、第1のラジアル軸受BR1の動作について図4と図5を参照して説明する。第1のラジアル軸受BR1の両端には液体金属潤滑剤LMが供給された深さが4mm程度で幅が2mm程度の環状深溝DR1と環状深溝DR2とがあり、これらは多数の潤滑剤通路RR1によって連結されており、閉じた循環路を形成している。管軸C−C’が水平方向で回転体20が静止している場合、液体金属潤滑剤LMの量は、図4で示すように液体金属潤滑剤LMで満たされない空間VA1を生じるように定められているとともに、潤滑剤通路RR1の少なくとも一部分は貫通した通気路を形成している。
管軸C−C’が水平方向で回転体20が高速度で回転している場合における液体金属潤滑剤LMの分布の様子を図5に示している。回転体20が回転中には、第1のラジアル軸受BR1の軸受溝内及び軸受隙間内には環状深溝DR1と環状深溝DR2から吸引されて液体金属潤滑剤LMを押込む力が生じる。この軸受隙間には大きな軸受力が発生しており、液体金属潤滑剤LMは実質的にすべり軸受内に補足されて管軸方向には実質的に移動できなくなっている。回転体20が回転中に、これに径方向の外力が印加されて軸受隙間の大きさが変化した場合又は対向する軸受面が固定体表面に対して傾斜した場合には環状深溝DR1と環状深溝DR2から液体金属潤滑剤LMが流入又は流出してラジアル軸受BR1内の液体金属潤滑剤LMの過不足が起こらない。この場合、これらが閉じた循環路を形成している為に他の動圧式すべり軸受の特性に実質的に影響を与えないので安定な動作を得られる。この状況は、ラジアル軸受BR2についても同様に作用し、又管軸C−C’の方向の如何にかかわらず、同様である。
環状深溝DR1,DR2,DR3に30μm程度の微小な隙間を保って対向する第3の回転体部材24の内面が高速に回転している場合には環状深溝DR1,DR2,DR3内の液体金属潤滑剤LMは、回転して遠心力によって内部に圧力を生じ、外周部分に貼り付けられるとともに、ラジアル軸受BR1、BR2内、潤滑剤通路RR1,RR2,RR4内、環状禁止帯PR1内等に押込む力を受ける。このようにして潤滑剤通路RR1,RR2は実質的に封鎖され、気体が通過しにくくなるが、実質的に液体金属潤滑剤LMが無くなっている、環状深溝DR1,DR2,DR3の底部は気体通路RG1,RG2で結合されており全体的に結合された回転機構内空間VA2を形成する。回転機構内空間VA2は気体通路RG3によって前記端部開口と連通しているので、回転機構10内の気体は、回転体20が回転している場合にも自動的に排気される。前述のように、前記排気工程でもこれと同様の作用がある。
前述のように、回転体20の奥の部分、例えば扁平隙間DS2内に突発的に気体が出現してその膨張等により部分的な高圧力が生じた場合には、一部の液体金属潤滑剤LMと気体がすべり軸受以外の通路、例えば潤滑剤通路RR3,扁平隙間DS1を通過して、環状深溝DR1の中に流れ込むが、これらの部分の容積は十分に大きいので途中で液体金属潤滑剤LMと気体とが分離して、結合された空間VA2で気体の圧力は低下し、気体通路RG3を通過して真空容器1内の真空空間1aに移動し、真空容器1内の図示しないゲッター等で除去される。このような現象は排気工程やその直後や実使用開始直後等に発生しやすい。
前述のように、回転体20が高速度で回転しているときには環状深溝DR3内にある液体金属潤滑剤LMは遠心力を受けて環状禁止帯PR1の方向に押しやられ、ここでの表面張力に打ち勝って第3のラジアル軸受BR3内に送り込まれる。送り込まれた液体金属潤滑剤LMは第3のラジアル軸受の領域BR3bに押しやられるが、この部分での液体金属潤滑剤LMを環状深溝DR3の方向に押しやるポンプ作用が勝るようになっているために、領域BR3bのどこかで境界面ができて平衡する。本発明の回転陽極型X線管をCTスキャナに適用した場合のように管軸C−C’から距離を隔てた装置の中心軸を回転中心として高速度で公転させられる場合には、回転陽極型X線管全体に大きな遠心力を受け、当然に液体金属潤滑剤LMにも強い遠心力が作用し、液体金属潤滑剤LMを第3のラジアル軸受BR3内に押込む力は大きくなるが、前記境界面が領域BR3b内で移動することによって両方の力が平衡する。このようにして、実使用時においても液体金属潤滑剤LMは第3のラジアル軸受BR3から外に漏出しないようになっている。これまで、管軸C−C’を水平にした場合について述べたが、回転機構内空間VA1,VA2が十分に高真空になった後は管軸C−C’の方向は任意に設定できる。
予期し得ない理由により液体金属潤滑剤LMが第3のラジアル軸受BR3を通過して回転体隅部28bと回転体径小隅部31dを経由して分離環状溝28aに到達した場合には、この液体金属潤滑剤LMは回転体20の回転時の遠心力で分離環状溝28aの内面に押し付けられる。押し付けられた液体金属潤滑剤LMは、分離環状溝28aと回転体隅部28bに開口した多数の穴でできた帰還孔28c内に前記遠心力で押しやられて回転体隅部28bに押し戻され、その量がある程度以上に達した場合には、近傍にある第3のラジアル軸受BR3によって前記のように環状深溝DR3内に戻される。帰還孔28cは液体金属潤滑剤LMで濡れない内面から成る多数の小孔で構成されており、通常は液体金属潤滑剤LMが入らないようになっており、強い遠心力を受けた場合のみ移動できるようになっている。従って、液体金属潤滑剤LMは帰還孔28c内を一方通行することになる。帰還孔28cは分離環状溝28aの中心軸C−C’に沿った方向での異なる位置にも前記と同様に設けられており、液体金属潤滑剤LMが上記のように帰還される確率が極めて高くなっている。
更に予期しない理由により液体金属潤滑剤LMが回転体の終端部28eを通過した場合には、環状カバー33によって通路が制限されているので、漏出してきた液体金属潤滑剤LMは、第3の回転体部材24と第2の回転体部材23との隙間の、環状カバー33の環状カバー先端部33aに導かれ、この近傍に空けられた第2の回転体部材23の小孔23cを通って遠心力によって第2の回転体部材23と第1の回転体部材22と第3の回転体部材24とで囲まれて閉じた空間に閉じ込められる。小孔23cは液体金属潤滑剤LMを前記閉じた空間に投入する為の投入手段となっており、環状カバー33は液体金属潤滑剤LMを前記投入手段の近傍に導く案内手段となっている。第1の回転体部材22は高温度になる為に、この中に入った液体金属潤滑剤LMは周囲の材質と反応して固着される。前記小孔23cに入らなかった液体金属潤滑剤LMは第4の回転体部材25によって真空容器1の真空空間1aに移動するのが防止される。このように、本実施例の回転陽極型X線管では事実上液体金属潤滑剤LMが真空容器1内の真空空間1aに漏出することが無いようになっている。