JP2005106790A - 走査型プローブ顕微鏡および分子構造変化観測方法 - Google Patents

走査型プローブ顕微鏡および分子構造変化観測方法 Download PDF

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Abstract

【課題】生化学反応に起因して起こる生体分子一個の構造変化を実時間で観測し得る走査型プローブ顕微鏡を提供する。
【解決手段】走査型プローブ顕微鏡100は、原子間力顕微鏡機構と、倒立型顕微鏡を利用したケージド解除光導入機構とを有している。ケージド解除光導入機構は、倒立型顕微鏡を利用して構成されており、顕微鏡筐体101、接眼レンズ102、観察用照明光源103、ダイクロイックミラー105、CCDカメラ106、テレビモニター107と、ケージド解除光を射出するケージド解除用光源ユニット120とを有している。ケージド解除用光源ユニット120は、ケージド解除光を発するケージド解除用光源121と、光ファイバー122と、レンズユニット123と、ケージド解除光の通過を制御するシャッター124とを有している。
【選択図】 図1

Description

本発明は、走査型プローブ顕微鏡、特に生物分子の分子レベルの反応すなわち形態や構造の変化の観測に好適な走査型プローブ顕微鏡に関する。本発明は、また、そのような走査型プローブ顕微鏡を利用した分子構造変化観測方法に関する。
走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、探針を機械的に走査して試料表面の情報を得る装置の総称であり、走査型トンネリング顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)、走査型磁気力顕微鏡(MFM)、走査型電気容量顕微鏡(SCaM)、走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)、走査型熱顕微鏡(SThM)などを含んでいる。
最近では試料表面にダイヤモンド製の探針を押しつけ圧痕をつけその圧痕のつき具合を解析して試料の固さなどを調べるナノインデンテータなども走査型プローブ顕微鏡の一つと位置づけられており、前述の各種の顕微鏡とともに広く普及している。
走査型プローブ顕微鏡は、探針と試料とを相対的にXY方向にラスター走査し、所望の試料領域の表面情報を探針を介して得てモニターTV上にマッピング表示することができる。
走査型プローブ顕微鏡の中でも特に原子間力顕微鏡は最も広く使用されている。原子間力顕微鏡は、探針をその自由端に持つカンチレバーと、カンチレバーの変位を検出する光学式変位センサーと、探針と試料とを相対的に走査する走査機構とを備えている。その光学式変位センサーには、簡単な構成で高い変位検出感度を有する光てこ式の光学式変位センサーが最も広く使われている。
市販されている原子間力顕微鏡においては、光てこ式の光学式変位センサーは、カンチレバー上に直径10〜30μm程度の光束を照射し、レバーの反りに応じた反射光の反射方向の変化を二分割または四分割光ディテクタなどで検知することにより、カンチレバーの自由端にある探針の動きを反映した電気信号を出力する。
原子間力顕微鏡は、走査機構により試料に対して探針をXY方向に走査しながら、光学式変位センサーの出力を一定に保つように走査機構により試料に対する探針のZ方向位置を制御することにより、試料表面の凹凸の状態をマッピングすると共に、これをコンピュータのモニタ上に表示する。
原子間力顕微鏡は、液体中の生きた生物試料の動く様子を光学顕微鏡より高い解像度で観察できる可能性があるとして注目されている。
生物試料の動く様子を観察できる装置に光学顕微鏡がある。しかし、光学顕微鏡は、回折限界のため光の波長以下の解像度で試料を観察することができない。
ナノメートルオーダーの高い解像度を実現できる装置として電子顕微鏡がある。しかし、電子顕微鏡は、測定対象物を液体中に配置できないため、液体中の生きた生物試料を観察することはできない。
これに対して原子間力顕微鏡は、ナノメートルオーダーの高い解像度を期待でき、試料が液体中にあっても観察可能である。しかも、光学顕微鏡と組み合わせ易いことも注目されている理由の一つである。
また、ケージド化合物を用いた光学顕微鏡観察法が知られている。この観察法は、ケージド化合物存在下で試料を光学的に観察しながらケージドを適宜解除することにより、試料の特定の反応を実時間で観察することを可能にしている。
ケージド化合物とは、「かご」のなかに閉じ込められた分子を、外部刺激により「かご」から開放できる分子の総称である。ケージド化合物としては、もともと生理活性や蛍光特性をもつ分子Aに光感受性をもつ分子Bを結合させてAの生理活性あるいは蛍光発光能力を抑制しておき、光刺激によりAとBとの結合を切りAを開放できる分子がよく使われている。
ケージド化合物を用いた光学顕微鏡観察法においては、このようなケージド化合物を含む液体中の試料を光学的に観察しながら紫外光等のケージド解除光を照射して光刺激を与えることによりケージド化合物のケージドを解除する。これにより、ケージド解除により開放された分子と観測対象の生体分子等の試料との反応を実時間で観察し得る。すなわち、試料とケージド解除により開放された分子との反応における反応前・反応時・反応後のそれぞれの状態を時系列的に観察し得る。
ケージド解除光の照射の際、ケージド解除光を照射する範囲や強さや時間などを制御することにより、試料と反応し得る物質を生成させる位置や量やタイミング等を任意に変化させることもできる。ケージド解除光の照射後、試料の応答を蛍光標識を用いて追跡する。この分析を行なう光学顕微鏡では、試料の目的の位置を視野に入れて、保護基を解除する光の焦点を結ばせることも可能である。このため、ケージド解除光の照射位置を確認した上で目的の部位に照射する。
特許第3268797号 特開平8−404420号公報 特開2001−330425号公報 「細胞の分子生物学第3版」教育社
原子間力顕微鏡は、走査速度が十分に向上されれば、液中の生体分子一個の形態変化をナノメートルオーダーの解像度で捉え得る。更には、タンパク質や核酸等の生体分子と反応する分子を液中に混在させることにより、生化学反応に伴ってタンパク質や核酸等の生体分子がその構造形態を変えて行く様子を直接観察し得る。
生体分子すなわち試料の動的な振る舞いを観察するためには、試料は基板に強く固定してはならず、部分固定する。あるいは、基板に固定した分子に動的な挙動を観察すべき試料を結合させる。
しかし、試料は、たとえ基板に部分固定されていても、絶えずブラウン運動をしており、反応の有無に関わらず常に動的状態にある。従って、ブラウン運動による動的状態の変化と反応による構造形態の変化とを区別して認識する必要があるが、それらを実際に区別して認識することは難しい。また、それらの区別ができていることを証明することは難しい。
ケージド化合物を用いた光学顕微鏡観察法では、紫外線照射により、ケージド化合物の解除のタイミングを制御できるので反応の前後の差を明確にできるが、光学顕微鏡は分子一個の構造や形態を画像化するには空間分解能が不十分なため、分子一個の構造や形態の変化を画像化することは不可能である。
本発明の主な目的は、生化学反応や機械的または電気的刺激による分子一個の構造や形態の変化を実時間で観測し得る走査型プローブ顕微鏡と分子構造変化観測方法を提供することである。
本発明は、ひとつには、走査型プローブ顕微鏡に向けられている。本発明の走査型プローブ顕微鏡は、カンチレバーと、液中に存在するカンチレバーと試料を相対走査する走査機構と、液中または試料中に存在するケージド化合物に解除光を照射する照射機構とを有している。
本発明の別の走査型プローブ顕微鏡は、カンチレバーと、液中に存在するカンチレバーと試料を相対走査する走査機構と、カンチレバーと試料との間の相互作用によるカンチレバーの変位を光学的に検出する検出機構と、液中または試料中に存在するケージド化合物に解除光を照射する照射機構と、検出機構に解除光が届かないようにする光学素子と、試料またはカンチレバーまたはカンチレバーの自由端に保持された探針の内、少なくとも一つを観察する光学顕微鏡とを有している。
本発明は、ひとつには、分子構造変化観測方法に向けられている。本発明の分子構造変化観測方法は、液中の試料をカンチレバーで走査しながら液中または試料中に存在するケージド化合物の保護基を解除する光を照射する工程を有している。
本発明によれば、生体組織や細胞やタンパク質分子等の生物分子の生化学反応に起因して起こる形態変化を実時間で観測し得る走査型プローブ顕微鏡と分子構造変化観測方法とが提供される。これにより、生物分子の形態変化を、その生化学反応との直接の結果として他の条件から分離して観察・測定できるようになる。
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施形態の走査型プローブ顕微鏡について図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態の走査型プローブ顕微鏡の全体構成を示している。
図1において、走査型プローブ顕微鏡100は、大まかに、原子間力顕微鏡機構と、倒立型顕微鏡を利用したケージド解除光導入機構とで構成されている。
ケージド解除光導入機構は、市販されている倒立型顕微鏡を利用して構成されており、顕微鏡筐体101、接眼レンズ102、観察用照明光源103、ダイクロイックミラー105、CCDカメラ106、テレビモニター107と、ケージド解除光を射出するケージド解除用光源ユニット120とを有している。
ケージド解除用光源ユニット120は、ケージド解除光を発するケージド解除用光源121と、ケージド解除光を伝達する光ファイバー122と、ケージド解除光のビームの広がりを適切に抑えるレンズユニット123と、ケージド解除光の通過を制御するシャッター124とを有している。
ケージド解除光導入機構は更に、ケージド解除用光源ユニット120から射出されるケージド解除光のビームをダイクロイックミラー105に導くためのミラー125を有している。
ケージドの解除が紫外光を用いて行なわれる場合、ケージド解除用光源121は、例えば、紫外光光源としてよく使用される水銀ランプで構成される。あるいは、ケージド解除用光源121は、イットリウムYAGレーザーを含み、その波長1024nmの三倍波を作り355nmの紫外光を発するように構成された光源で構成されてもよい。
シャッター124はコンピュータ118から供給される制御信号に従って開閉する。シャッター124は、例えば、ケージド解除用光源ユニット120からケージド解除光がパルス的に射出されるように、間欠的に開くようにその開閉が制御される。
また、ケージド解除用光源121がイットリウムYAGレーザーを用いた光源で構成されている場合、イットリウムYAGレーザーを制御することにより、ケージド解除用光源ユニット120は、数ナノ秒のパルス幅を持つパルス状のケージド解除光を射出し得る。最近では、半導体レーザー光源により紫外領域のレーザー光を射出し、高速にON-OFFを繰り返すことができる。
原子間力顕微鏡機構は、顕微鏡筐体101に固定される板状構造部材108と、原子間力を検出するためのカンチレバー114と、試料を保持すると共に走査するための走査機構1200を含む試料位置調整機構109と、カンチレバーの変位を検出するための光てこ式光学センサー113とを含んでいる。
顕微鏡筐体101には、通常のステ一ジの代わりに、低熱膨張材(例えば、インバー)で作られた板状構造部材108が取り付けられ固定されている。試料位置調整機構109と光てこ式光学センサー113は、それぞれ、倒立型顕微鏡の顕微鏡筐体に固定される板状構造部材108の上下に直に配置されている。
光てこ式光学センサー113は、板状構造部材108の下側に配置されており、板状構造部材108によって支持されている。光てこ式光学センサー113は、対物レンズ115とダイクロイックミラー116を含んでおり、対物レンズ115は、倒立型顕微鏡観察を行うための対物レンズの機能と、光てこ式光学センサー113の集光レンズの機能とを併せ持っている。ダイクロイックミラー116は、光てこ式光学センサー113のセンサー光とケージド解除のための光とを分離し、ケージド解除光が光てこ式光学センサー113に入らないように機能する。
試料位置調整機構109は走査機構1200を含んでおり、走査機構1200には、試料が固定された試料台ガラス111が取り付けられる。試料位置調整機構109は、これに取り付けられた試料台ガラス111がカンチレバー114と向き合うように、板状構造部材108の上に置かれる。
試料位置調整機構109は、その自重によって板状構造部材108の上に安定して載置されるが、バイトンゴム製等の輪ゴムなどを用いて板状構造部材108に一層強く固定されてもよい。
原子間力顕微鏡機構は更に、コントローラ117とコンピュータ118とモニターTV119とを含んでいる。走査機構1200と光てこ式光学センサー113は、コントローラ117とコンピュータ118に接続されており、これらによって制御される。
走査型プローブ顕微鏡100では、倒立型顕微鏡においてステージが置かれる位置に、厚く剛性の高い板状構造部材108が配置され、これが倒立型顕微鏡の顕微鏡筐体101に固定されている。また、板状構造部材108は原子間力顕微鏡の構造上の中心部材を成しており、その上下に、走査機構1200を含む試料位置調整機構109と、光てこ式光学センサー113とが配置されている。従って、走査型プローブ顕微鏡100は、生物試料の観察への適用に満足な高速走査を実現するに十分な程、高い剛性を有し、振動ノイズに強い構造となっている。その結果、AFM観察を高速で安定して行うことができる。
また、板状構造部材108の直上と直下に試料位置調整機構109と光てこ式光学センサー113とが配置されているため、原子間力顕微鏡機構はコンパクトに構成されている。その結果、この原子間力顕微鏡機構は、AFM測定時に、装置周りの雰囲気による熱ドリフトが非常に少ない構造となっている。
次に、原子間力顕微鏡機構について図2を参照しながら詳しく説明する。図2は、図1の走査型プローブ顕微鏡100の主要部分の構成を示している。図2において、図1と共通する部材は、同一の参照符号で示されている。
光てこ式光学センサー113は、その主要な光学要素を収容するユニットボックス201を有しており、このユニットボックス201は板状構造部材108にねじ止めにより固定されている。
光てこ式光学センサー113は、ユニットボックス201に収容される主要な光学要素として、対物レンズ115、対物レンズ支持台204、Zステージ203、ダイクロイックミラー116、四分の一波長板205、偏光ビームスプリッタ206、コリメータレンズ207、半導体レーザー208、レーザー位置調整ステージ209、位置検出フォトダイオード210、フォトダイオード位置調整ステージ211を有している。
ダイクロイックミラー116は、二つの三角プリズムを張り合わせて作られており、菱形様形状を有している。このため、ダイクロイックミラー116の端面は光軸に対して3〜4度程度傾いている。これにより、ダイクロイックミラー116の端面での反射で生じた迷光が光てこ式光学センサー113に与える悪影響が低減されている。
半導体レーザー208から発せられたレーザー光は、コリメータレンズ207で平行光にされ、偏光ビームスプリッタ206によって特定の直線偏光成分の光のみが反射される。反射された直線偏光のレーザー光は、四分の一波長板205によって円偏光に変換された後、ダイクロイックミラー116で反射され、対物レンズ115により集光され、カンチレバー114の背面に照射される。対物レンズ115は例えば20倍の倍率を有しており、レーザー光のスポット径は2μm程度まで絞られる。高速なAFM観察のために形状の小さなカンチレバーを使用しても、レーザー光のスポット径はそのカンチレバーの背面の幅よりも狭い。これにより光てこ式光学センサーのセンサー光のほとんどはカンチレバー背面で反射され、カンチレバー114の上方に配置される試料に到達する光は少ない。
カンチレバー114の背面で反射されたレーザー光は、対物レンズ115を通り、ダイクロイックミラー116で反射された後、この円偏光は四分の一波長板205では直線偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ206を直進して、位置検出フォトダイオード210に照射される。試料との相互作用によるカンチレバー114の先端の変位は、位置検出フォトダイオード210上のレーザー光スポットを移動させる。位置検出フォトダイオード210は、このレーザー光スポットの移動を反映した電気信号をプリアンプ回路221に出力する。
ユニットボックス201は下側に開口202を有しており、その下方にはダイクロイックミラー105が配置されている。ダイクロイックミラー105は、ケージド解除用光源ユニット120からのケージド解除光を開口202を介して対物レンズ115ヘと導き、ケージド解除光は、試料もしくはカンチレバー114付近の液中または試料中にあるケージド物質のケージドを解除する。ダイクロイックミラー105は、ダイクロイックミラー116と同様に、菱形様ミラープリズムで構成されており、これにより、その端面での反射で生じた迷光が光学顕微鏡観察像に与える悪影響が低減されている。
対物レンズ115の上方には透明板228が配置されており、透明板228は透明板228の周辺部を保持する透明板保持部材216を介して板状構造部材108に保持されている。透明板228にはカンチレバー114が接着により固定されている。カンチレバー114は、その探針が、下向きに保持された試料台ガラス111および試料と対峙するように、上向きに配置される。
原子間力顕微鏡の測定モードの一つに、カンチレバーを振動させながら行うACモードAFM測定法がある。原子間力顕微鏡機構は、このACモードAFM測定法の実施のために、カンチレバー114を振動させるための励振用圧電体219を更に有している。励振用圧電体219は透明板保持部材216に接着により固定されている。
励振用圧電体219には、カンチレバー114の共振周波数付近の周波数を持つ交流電圧が発振回路222から印加され、励振用圧電体219は、この交流電圧の印加に応じて振動する。この振動は、透明板保持部材216、透明板228を伝わって、カンチレバー114に達し、カンチレバー114は、その周波数の振動により共振を起こし、Z方向に大きく振動する。
試料位置調整機構109は走査機構1200とその支持機構を含んでいる。走査機構1200は、特開2001−330425号公報(特許文献3)に開示されたものと同じである。支持機構は、走査機構1200を支持する走査機構支持台212と、これを板状構造部材108に対して三点支持する三本のマイクロメータヘッド213(図2には二本のみが描かれている)と、走査機構支持台212に設けられた粗動機構218とを有している。粗動機構218は、マイクロメータを利用した機構で、走査機構支持台212に対して走査機構1200を移動し得る。
走査機構1200は、走査機構支持台212に対して、三つの当て付け部材217(図2には二個だけ描かれている)により三点支持されており、自重により軽い力や振動では動かないようになっている。粗動機構218により、走査機構支持台212に対して走査機構1200を移動させることにより試料のXY方向の移動が行なわれる。また、三本のマイクロメータヘッド213の調整により、走査機構支持台212の高さ位置を変えることにより、試料のZ方向の移動が行なわれる。
走査機構1200は、Z方向の走査を担うZ走査用アクチュエータとX方向の走査を担うX走査用アクチュエータとY方向の走査を担うY走査用アクチュエータとを有しており、更に、Z走査用アクチュエータの下端に固定された円錐台型の試料保持部材229を有している。試料保持部材229の下端には、試料を保持した試料台ガラス111がシリコーングリースを介して固定される。この固定は、シリコーングリースを試料保持部材229と試料台ガラス111とに塗りそれらを軽く押さえ付けることで行なわれる。また、別の試料を観察するための試料台ガラス111の交換の際には、試料台ガラス111は、これを試料保持部材229の接着面方向(横方向)に滑らせることで、簡単に取り外され得る。
試料保持部材229への試料台ガラス111の取り付けや取り外しは、試料位置調整機構109を走査型プローブ顕微鏡100から外された状態で行われる。
図2において、試料、試料台ガラス111、カンチレバー114などは液227の中に保持されている。液227は、表面張力により試料やカンチレバー114近傍をおおい、蒸発するまでその領域に留まっている。
原子間力顕微鏡機構は、生きた生物試料を観察する時の必須の要件である液体中観察が可能であり、従って、走査型プローブ顕微鏡100は、試料が液体中に置かれていても、光学顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察が可能である。
原子間力顕微鏡機構は、コントローラ117とコンピュータ118とモニターTV119と組み合わされている。これらは、原子間力顕微鏡機構の制御駆動や信号処理を行ない、最終的に試料の凹凸情報をモニターTV上に表示し、これにより、使用者は試料の表面情報に関する知見を得ることができる。
コントローラ117は、例えば、半導体レーザー駆動回路220、プリアンプ回路221、発振回路222、AC/DC変換回路223、フィードバック回路224、走査制御回路225、アクチュエータ駆動回路226を含んでいる。
走査型プローブ顕微鏡100においては、生体分子の観測に先立って、カンチレバー114に対する光てこ式光学センサー113のセンサー光の照射位置を調整のために、カンチレバー周辺が観察される。その際には、観察用光源103からの光を対物レンズ115に導入するために、図示されていないが、ミラー125は光路から取り除かれ、ダイクロイックミラー105もセンサー光の波長を通すミラープリズムに切り替えられる。
続いて、走査機構1200について図3と図4を参照しながら説明する。図3は、走査機構の斜視図であり、図4は、図3の走査機構を矢印Cの方向から見た側面図である。なお、走査はカンチレバーを駆動して試料と相対走査させてもよい。
走査機構1200は、ベースプレートである走査機構保持台1201と、これに固定された第1のアクチュエータ保持部1206と、このアクチュエータ保持部1206に取り付けられたY軸に沿って伸縮可能なY走査用アクチュエータ1202と、Y走査用アクチュエータ1202の他端に取り付けられたブロック1208と、ブロック1208に固定された第2のアクチュエータ保持部1209と、このアクチュエータ保持部1209に取り付けられたX軸に沿って伸縮可能なX走査用アクチュエータ1203と、X走査用アクチュエータ1203の他端に取り付けられたアクチュエータ連結部1211と、アクチュエータ連結部1211に固定されたZ軸に沿って伸縮可能な二本のアクチュエータ1204、1205とを有している。
二本のアクチュエータ1204、1205とアクチュエータ連結部1211は、Z走査用アクチュエータを構成している。Z走査用アクチュエータを構成するアクチュエータ1204の自由端側1226には、試料保持部229が取り付けられる。第1のアクチュエータ保持部1206はねじ1207によって走査機構保持台1201に固定されており、第2のアクチュエータ保持部1209はねじ1210によってブロック1208に固定されている。
図4に示されるように、Y走査用アクチュエータ1202の駆動に従ってY軸に沿って移動されるブロック1208は、走査機構保持台1201と第1の抑え板1212との間に位置しており、微小球1216、1222、1224、1225、1215(図3参照)によって挟み込まれている。走査機構保持台1201と抑え板1212は、互いに平行に固定されるように、ねじ1213、1214によって間隔が調整されている。これにより、ブロック1208は、Y軸に沿った動きに関しては大きな制約を受けないが、Z軸に沿った動きが制限される。
X走査用アクチュエータ1203の駆動に従ってX軸に沿って移動されるアクチュエータ連結部1211は、ブロック1208と第2の抑え板1217との間に位置しており、微小球1219、1220により上から、また微小球1221により下から支えられて、Z軸に沿った動きが制限されている。ブロック1208と抑え板1217は、互いに平行に固定されるように、ねじ1218、1227によって間隔が調整されている。これにより、アクチュエータ連結部1211は、X軸に沿った動きに関しては大きな制約を受けないが、Z軸に沿った動きが規制される。
このように走査機構1200では、抑え板1212とねじ1213、1214と微小球1216、1215、1222、1224、1225を含む微小球の転がりあるいは滑り案内によって、Y走査用アクチュエータ1202のたわみと振動が抑えられており、また、抑え板1217とねじ1218、1227と微小球1219、1220を含む微小球の転がりあるいは滑り案内によって、X走査用アクチュエータ1203のたわみと振動が抑えられている。
従って、走査機構1200は、生物試料の観察への適用に満足な高速走査を実現し得るに十分な程、高い機械的剛性を有し、発生する振動が少ない。
以下、本実施形態の走査型プローブ顕微鏡100の動作、すなわち本実施形態における分子構造変化観測方法について図5を参照しながら説明する。図5は、カンチレバー周辺を模式的に示している。図5において、図2と共通する部材は同一の参照符号で示されている。
図5に示されるように、透明板228の上に保持された液227は、試料台ガラス111やカンチレバー114を取り囲んでおり、その中には、ケージド化合物230が含まれている。ケージド化合物230は、例えば、生体分子である試料Sと反応する低分子化合物(例えば、ATP、Ca2+、Gluなど)に光感受性分子を結合させて生化学的・生理的機能の発現をさせないように(以下、ケージド化と言う)した物質である。このようなケージド化合物230は、短時間の光刺激に対してケージドを解除して、活性を持つ化合物を瞬時に生成する。
走査型プローブ顕微鏡100は、走査機構1200により試料台ガラス111に保持された試料Sを移動させることによって、カンチレバー114の自由端部に位置する探針114aに対して試料SをXY方向に走査する。このXY走査の間、光てこ式光学センサー113は、センサー光Lsをカンチレバー114の自由端部に照射して、カンチレバー114の自由端部すなわち探針114aの変位を監視する。更に、コントローラ117は、光てこ式光学センサー113の検出信号を一定に保つように、走査機構1200により試料台ガラス111に保持された試料Sを移動させて、探針114aに対する試料SのZ方向位置を制御する。コンピュータ118は、これらの一連の制御の信号、XY走査信号とZ制御信号とに基づいて、試料Sの表面形状の情報を取得(以下、マッピングと言う)し、その像をモニターTV119に表示すると共に適宜記録する。
走査型プローブ顕微鏡100は、更に、このようにして試料Sの表面の形状を取得しながら、ケージド解除用光源ユニット120によりケージド解除光Lcを探針114aの近傍領域に照射する。ケージド解除光Lcの照射を受けたケージド化合物230は、ケージドを解除して、瞬時に活性を持つ化合物を生成する。このように生成された活性を持つ化合物は、試料である生体分子Sと反応する。
走査型プローブ顕微鏡100は、ケージド解除により生成された活性を持つ化合物と、試料である生体分子Sとの生化学反応が進行する間も、例えば生体分子である試料Sの表面形状のマッピングを続ける。従って、活性を持つ化合物と生体分子Sとの反応の経過が実時間で観察される。このようにして、その反応における反応前・反応時・反応後のそれぞれの状態の像が取得され得る。
走査型プローブ顕微鏡100では、ケージド解除光の照射によって、観測対象の生体分子と反応し得る活性を持つ化合物の生成のタイミングを制御している。これにより、活性を持つ化合物と生体分子の反応のタイミングを実質的に制御できる。その結果、その反応の前後における生体分子の像を得ることができる。従って、ブラウン運動による生体分子の動的状態の変化と反応による生体分子の構造形態の変化とを明確に区別して認識することができる。すなわち、生体分子の反応に起因して起きる分子構造形態の変化を観測することができる。
次に、本実施形態の走査型プローブ顕微鏡100をケージドATPとケージドCa2+を脳の輸送タンパク質のひとつであるミオシンVの分子構造変化観測に適用した具体例について述べる。
ミオシンファミリーはモータータンパク質であり、ATP加水分解で生ずるエネルギーを力学的エネルギーに変換するが、その変換がいかなる機構によって起こるかは長い間研究されているが、未解明のままである。ミオシンのATP分解反応サイクル中に起こるであろう大きな構造変化が力学的作用として働くという考え方は古くから唱えられているが、それを直視することができずにいるため、はっきりした証拠は未だに得られていない。
一具体例においては、高速走査型プローブ顕微鏡100を用いて、ミオシンVをバッファー溶液中でマイカに部分吸着させた系にケージドATPを混在させ、そこにケージド解除光を当てる前後における生体分子Sの像を連続的に取得した。図6は、そのようにして得られた、ケージド解除光の照射前(I)と照射直後(II)と照射後しばらく(数秒)経過した後(III)の生体分子Sの像を示している。また、図7は、その反応による生体分子Sの構造形態の変化を模式的に示している。
また、ミオシンVは、カルシウム非存在下でその頚部にカルモジュリン分子を4分子結合している。カルシウムを加えるとカルシウムはカルモジュリンに結合し、カルモジュリンは頚部から解離する。
別の具体例においては、高速走査型プローブ顕微鏡100を用いて、ケージドCa2+を用いて、解除光を当てる前後における生体分子Sの像を連続的に取得した。図8は、そのようにして得られた、ケージド解除光の照射前(I)と照射後(II)の生体分子Sの像を示している。また、図9は、その反応による生体分子Sの構造形態の変化を模式的に示している。
これらの具体例から分かるように、本実施形態における走査型プローブ顕微鏡100あるいは分子構造変化観測方法は、生化学反応と生体分子の構造形態とを同期させて観察でき、その構造形態が変化する原因を反応に直結できるという点で極めて優れている。
従って、本発明に従う走査型プローブ顕微鏡と分子構造変化観測方法は、その普及と共に今後多用されて行くものと予想される。例えば、本発明は、生物学の研究や、創薬や治療のための実験や検証等に利用され得る。
以上のような反応は、pHやイオンの存在など、環境や触媒の存在によっても影響を受ける。反応を起こさせるための条件を時間制御すると、条件が満足される前と後の現象を捉えて比較することができる。反応に必要な物質、分子を液中にケージド化合物の状態で存在させ、ケージド解除光を照射する時間を制御することによってケージド化合物の状態から活性の状態に変化するタイミングと長さを制御する。液中ではケージド化合物は試料の近傍にも常に存在し、ケージドが解除されると、その瞬間に、または、短時間の内に反応が起こり、反応前後の差を捉えやすい。この時間はケージド化合物の濃度や他の条件に影響される。また、反応を瞬時に開始できるため、目的の反応のみの結果を反応直後から経時的に観察、測定、目的分子または結合分子の追跡が可能となる。
上述した実施形態では、ケージド化合物のケージドを解除するためのケージド解除光を、カンチレバーの変位を検出するための光てこ式光学センサーと共用する対物レンズを介して下方から照射しているが、ケージド解除光の照射形態は、これに限定されない。ケージド解除光は、側方から照射されてもよく、また試料台ガラス111を通して上方から照射されてもよい。
ケージド化合物はインジェクションにより組織内や細胞内に導入されてもよい。また、細胞膜や膜タンパク質の研究テーマではパッチクランプ法を応用して、キャピラリー内にケージド化合物を導入してもよい。探針の先端に核膜消失に寄与するタンパク質や物質、イオンなどをケージド化して修飾し、核膜に接触または近傍に導入してケージド解除光を照射する。これによって、細胞分裂時の核膜消失の機序を解明するための実験を行なうことが可能となる。逆に、探針の先端にRNA(リボ核酸)を吸着するためのRNA結合タンパク質をケージド化して修飾し、探針を核内に挿入してケージド解除光を照射する。これによって、核内のRNAを取り出す量を制御することが可能となる。
ケージド解除の前後で目的分子上で、または、所定の場所でフォースカーブを測定してもよい。
カンチレバーや探針を分子または官能基で修飾し、その分子との反応を走査しながら検知するために、カンチレバー自由端の変位を検出するために四分割ダイオード等の二次元センサーを用いてもよい。カンチレバーや探針を例えばケージド化したタンパク質分子を修飾して、修飾したタンパク質分子と特異結合する別のタンパク質や物質との結合を検出する実験が行なわれている。この結合力検出または所定の結合力検出をした時点で解除光を照射する。結合力測定は継続しているので、結合がなくなっているか、または、結合力が強くなっているかの変化を知ることが可能となる。
ケージド解除光には、紫外光の他にも、可視域や赤外域の光が用いられてもよい。可視域や赤外域の光は、紫外光に比べてエネルギーが低いが、2フォトン効果やマルチフォトン効果を利用することにより、ケージド解除に十分なエネルギーを得ることが可能である。これらの波長帯では細胞やタンパク質など生体に対する毒性が少ないので紫外線をそのまま照射するよりアーティファクトが少ない観測結果を期待できる。
この実施形態では、倒立型顕微鏡を用いて説明したが、これに限る必要はなく、正立型光学顕微鏡としてもよい。カンチレバーと照明または励起光学系および観察光学系の配置も実施可能な範囲で選択することができる。例えば、図5において、試料台ガラス111の上方から観察してもよい。また、照明や励起光学系では透過型、落射型を用いてもよいし、カンチレバーの探針がある側から、および、探針がない側から照明光や励起光を導入してもよい。また、図10に示すように、ケージド解除のためのエネルギーを供給する方法としてエバネッセント場の利用がある。試料が置かれた、または、固定された基板の試料とは反対側で光やレーザー光を全反射させる。このとき、試料がある基板表面近傍にエバネッセント場が発生する。このエバネッセント場に存在する蛍光物質から蛍光を出させる実験が行なわれている。全反射させる光を紫外域の光やレーザー光とすることによって、試料が存在する基板表面近傍のみの場所でケージド解除を行なうことができる。これらの光学顕微鏡は、解除光の照射の他、励起光の照射や観察を行なう装置とすることができる。
更に、光学顕微鏡は走査型共焦点顕微鏡とすることができる。共焦点顕微鏡の走査方法としては、ピンホールと共役な位置に合焦した光を二次元あるいは三次元に走査する方法、ピンホールやスリットを形成したディスクを回転する方法、複数のフォトンを蛍光物質に作用する2フォトンまたはマルチフォトン励起による方法等がある。共焦点顕微鏡に用いる共焦点光学系の効果は蛍光を励起させる領域を時間に加えて空間的にも限定し、かつ、指定できることである。つまり、励起させる領域は、細胞の表面の一部であったり、細胞内部のオルガネラや核内である。その空間的広がりは1ミクロン以下から大きくは非共焦点による照射領域まで目的に応じて調整する。「細胞の分子生物学第3版」教育社(非特許文献1)に開示されている実験では、細胞分裂期に紡錘体を形成し、その中央部に染色体の列を保持している複数の微小管に対して、片方の微小管のみに対して微小管を横切る面内に光を照射することができる。光は紫外線を用いてケージド解除を行なうことができる。また、微小管を標識する蛍光物質を用いて微小管が分解と成長をする様子が観測できる。このとき、カンチレバーは染色体が微小管上を移動する力や、染色体を運ぶタンパク質分子の移動する力を検出する。なお、走査型共焦点顕微鏡はその対物レンズとして対物レンズ115を用いて図5の下方に構成してもよいし、別の対物レンズを用いて上方に構成してもよい。
共焦点光学系の光照射空間限定の効果は、カンチレバー自由端の変位検出用のレーザー光学系に影響する確率を軽減できる。照明光・励起光側のピンホールを通過した光は試料近傍において結像系の光学系よりも限定された空間で光ビームを形成する。この光ビームがカンチレバーに当たって光が散乱して変位検出の検出器に導かれて影響を及ぼすことがなければ、その範囲で試料の広がりの内でカンチレバーにできるだけ近い部位を走査できる。条件が許せば共焦点光学系の走査中にカンチレバーによる散乱がある部位とない部位を繰り返しても構わない。このとき、共焦点光学系であれば結像系の光学系より散乱を受ける範囲は相対的に広くなる。走査型共焦点顕微鏡は、光学顕微鏡と同様に解除光の照射の他、励起光の照射や観察を行なう装置とすることができる。
走査型共焦点顕微鏡を含む光学顕微鏡による解除光・励起光・照明光の照射は、走査型プローブ顕微鏡による観測データにとって許される程度の極短い時間であれば、カンチレバーの自由端変位検出に影響しても構わない。一方、グレーティング法や特開平8−404420号公報(特許文献2)に開示されている方法により、解除光・励起光・照明光・観察光・カンチレバー自由端変位検出光などの内の使用する光を波長分別することで空間的・時間的な制約は解消される。
図5におけるカンチレバー114は、特許第3268797号(特許文献1)に開示されている近接場光学顕微鏡用のカンチレバーと装置に置き換えられてもよい。これにより、走査型プローブ顕微鏡の一つである走査型近接場光学顕微鏡はケージド解除機能を有する装置になる。ケージド化合物の導入やケージド解除の時間や空間の制御や制限はカンチレバー114を用いた場合と同様である。
そこで、以下では、反応性の物質、例えば、金属イオン、高分子イオン、タンパク質、等を空間的に一箇所に局在させておき、解放するための信号、例えば、電圧、電流、光、流れを入力することで、原子間力顕微鏡の観察対象となる細胞、分子などの試料に変化をもたらす誘因とする例を挙げる。
図11は、試料Sと反応する物質を試料周辺の溶液内への供給するためのひとつの構成を示している。
図11に示されるように、まず、試料に変化をもたらす物質300がかろうじて通り抜けられるだけの穴の開いた先端を持つ細管(キャピラリ)301に特定の濃度で変化をもたらす物質300を閉じ込めて置く。
試料Sおよびカンチレバー114を含む溶液中に、キャピラリ301の先端部分と、対向電極302とを配置する。
キャピラリ301内部には電極303があり、この電極303には電源304の一方の電極が接続される。電源304の他方の電極は対向電極302に接続される。電源304は対向電極302とキャピラリ内の電極303の間の電位差を制御する。キャピラリ内に存在するイオン性の物質は、キャピラリ内外に電位差をかけることにより、キャピラリ先端の細孔からイオン電流として試料の存在する液体領域227に移動する。
試料Sに変化をもたらす物質300は、それ自身がイオン性を持つ物質であっても、イオン性の物質の流れに応じて移動する中性の物質であっても構わない。
電源304の作用する前後の画像を取り込み比較することにより物質300による試料Sへの影響を観察できる。
電源304は、記載していない原子間力顕微鏡の測定および画像取り込みを制御するコントローラと接続され、画像取り込みの特定のタイミングに合わせて電位差を作ることを行っても構わない。更に、電源304は電流制御の機能を持つものでも構わない。
また、キャピラリ301の先端の空間を仕切る構造は、細孔であることに限らず、反応性の物質300およびイオン電流の元となるイオンのブラウン運動による透過をイオン電流による移動に比べて著しく制限するものであればよく、例えば、多孔質の高分子膜、セラミクス、ゲル状物質、イオンチャネル等であっても構わない。
図11では、キャピラリ301の先端は、溶液227の中に配置されているが、試料Sが細胞であれば細胞内に挿入されてもよく、その場合、反応性の物質300が供給される位置を細胞内に限定することができる。
図12は、試料Sと反応する物質を試料周辺の溶液内への供給するための別の構成を示している。
図12に示されるように、キャピラリ301の周りに管状の圧電体310を設け、キャピラリ301内の容積を変動させる機能を付与している。圧電体310は、圧電体電源311からの信号供給に応じて振動し、キャピラリ301内の容積を変動させる。これにより、反応性の物質300がキャピラリ301の先端から強制的に吐出される。
図12の構成において、容積を変動させることに伴う振動の影響が有る場合には、キャピラリ301の先端部と容積変動を起こす部分とを柔軟な素材の管でつないで振動がキャピラリ301の先端部に伝わらないようにしてもよい。
図12において、管状の圧電体310の代わりにヒーターを設け、ヒーターによる加熱により、キャピラリ301内の溶液(反応性の物質300)を気化させることにより、あるいは、キャピラリ301自身を膨張・収縮させてキャピラリ内の容積を変動させることにより、反応性の物質300をキャピラリ301の先端から強制的に吐出させてもよい。
図11と図12の構成において、ケージド解除光Lcを照射する機構が組み合わされてもよい。図13は、その一例として、図11の構成に対してケージド解除用の光Lcを照射する機構が組み合わされた構成を示している。
図13において、ケージド解除光Lcは、ダイクロイックミラー105を透過し、対物レンズ115を介して、カンチレバー114付近の液中に照射される。
この構成においては、反応性の物質300をケージド試薬とし、ケージド試薬の導入のタイミングとケージド解除光Lcを照射するタイミングを同期させることにより、少量のケージド試薬でも試料Sの反応を見ることが可能になる。
図14は、試料Sと反応する物質を試料周辺の溶液内への供給するための別の構成を示している。この構成では、金コロイド等のナノ粒子の表面にケージド化合物を付与しておき、レーザトラップを用いて探針近傍位置にナノ粒子を集め、ケージド解除光の照射によりケージド化合物を解除する。
図14に示されるように、ダイクロイックミラー105の下方に、ケージド解除光Lcを透過しトラップ光Ltを反射するダイクロイックミラー330が配置されている。なお、ダイクロイックミラー105は、ケージド解除光Lcに加えてトラップ光Ltをも透過する。
このような構成により、ケージド解除光Lcとトラップ光Ltは、ダイクロイックミラー330で結合され、ダイクロイックミラー105と対物レンズ115を介して、カンチレバー114付近の液中に照射される。従って、トラップ光Ltとケージド解除光Lcは同じ位置に照射される。
この手法においては、表面にケージド化合物を付与した金コロイド等のナノ粒子322をあらかじめ溶液227中に導入しておく。トラップ光Ltとケージド解除用のUV光Lcとを、図15に示されるように、カンチレバー114の探針114a近傍に、集光位置を一致させて、溶液227中に照射する。トラップ光Ltの照射に応じて、溶液227中のナノ粒子322はトラップ光Ltのスポット320に集まる。トラップ光Ltのスポット320にはケージド解除光Lcも照射されているため、トラップ光Ltのスポット320に集まったナノ粒子322の表面に付与されたケージド化合物が解除される。
ケージド解除光Lcをコロイド粒子の位置に合わせる方法としては、光軸の角度を変える方法のほか、視野位置を限定する方法でも行なうことができる。これは絞りや、デフォーマブルミラーのようなものを使って行なうことができる。
図16は、試料Sと反応する荷電性の分子を試料周辺の溶液内への供給するための別の構成を示している。この構成では、キャピラリの代わりに、導電性の針を使用する。
図16に示されるように、まず、導電性の針400の先端部に、試料Sと反応する荷電性の分子401を付着させ、荷電性の分子401が付着した状態の導電性の針400の先端部を溶液227中に配置する。また、溶液227中には対向電極403を配置しておく。
電源402により針400と対向電極403との間に所定の電圧を印加すると、導電性の針400の先端部に付着している荷電性の分子401は、針400の先端部から解放され、溶液227中に放出され、試料Sに生化学的変化をもたらす。
図16では、針400の先端部は、溶液227の中に配置されているが、試料Sが細胞であれば細胞内に挿入されてもよく、その場合、荷電性の分子401が解放される位置を細胞内に限定することができる。
これまで、図面を参照しながら本発明の実施の形態を述べたが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において様々な変形や変更が施されてもよい。
試料への時間的または空間的に限られた範囲での刺激や作用はケージド解除法のみではなく、キャピラリーから作用物質を少量だけ吐出したり、荷電粒子を用いる方法がある。生体内で起きている反応により近い作用状態を実験で再現する形態であればよい。
本発明の第一実施形態の走査型プローブ顕微鏡の全体構成を示している。 図1の走査型プローブ顕微鏡の主要部分の構成を示している。 図1と図2に示された走査機構の斜視図である。 図3の走査機構を矢印Cの方向から見た側面図である。 図1の走査型プローブ顕微鏡における分子構造変化観測時のカンチレバー周辺を模式的に示している。 ケージドATPからATPが生成される前後におけるミオシンVの構造形態の変化を示しており、ケージド解除光の照射前(I)と照射直後(II)と照射後しばらく経過した後(III)のミオシンVの像を示している。 図6の反応によるミオシンVの構造形態の変化を模式的に示している。 ケージドCa2+からCa2+を生成する前後におけるミオシンVの構造形態の変化を示しており、ケージド解除光の照射前(I)と照射後(II)のミオシンVの像を示している。 図8の反応によるミオシンVの構造形態の変化を模式的に示している。 全反射によるエバネッセント場の発生を模式的に示している。 試料Sと反応する物質を試料周辺の溶液内への供給するためのひとつの構成を示している。 試料Sと反応する物質を試料周辺の溶液内への供給するための別の構成を示している。 図11の構成に対してケージド解除光を照射する機構が組み合わされた構成を示している。 試料Sと反応する物質を試料周辺の溶液内への供給するための別の構成を示している。 図14の構成におけるトラップ光とケージド解除光の照射スポットとカンチレバーとを含むモニター画像を示している。 試料Sと反応する物質を試料周辺の溶液内への供給するための別の構成を示している。
符号の説明
100…走査型プローブ顕微鏡、101…顕微鏡筐体、105…ダイクロイックミラー、108…板状構造部材、109…試料位置調整機構、111…試料台ガラス、113…光てこ式光学センサー、114…カンチレバー、115…対物レンズ、117…コントローラ、118…コンピュータ、119…モニターTV、120…ケージド解除用光源ユニット、121…ケージド解除用光源、122…光ファイバー、123…レンズユニット、124…シャッター、125…ミラー、1200…走査機構。

Claims (14)

  1. カンチレバーと、
    液中に存在するカンチレバーと試料を相対走査する走査機構と、
    液中または試料中に存在するケージド化合物に解除光を照射する照射機構とを有している、走査型プローブ顕微鏡。
  2. カンチレバーと試料との間の相互作用によるカンチレバーの変位を光学的に検出する検出機構と、検出機構に用いる検出光とケージド化合物に照射する解除光とを分離する光学機構を有している、請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
  3. 検出機構に解除光が届かないようにする光学素子を有している、請求項2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
  4. 解除光が紫外線である、請求項1ないし請求項3のいずれかひとつに記載の走査型プローブ顕微鏡。
  5. カンチレバー、または、カンチレバーの自由端に保持された探針に官能基又は分子を修飾した、請求項1ないし請求項4のいずれかひとつに記載の走査型プローブ顕微鏡。
  6. カンチレバーと、
    液中または試料中に存在するカンチレバーと試料を相対走査する走査機構と、
    カンチレバーと試料との間の相互作用によるカンチレバーの変位を光学的に検出する検出機構と、
    液中に存在するケージド化合物に解除光を照射する照射機構と、
    検出機構に解除光が届かないようにする光学素子と、
    試料またはカンチレバーまたはカンチレバーの自由端に保持された探針の内、少なくとも一つを観察する光学顕微鏡とを有している、走査型プローブ顕微鏡。
  7. 光学顕微鏡の対物レンズを介して光学顕微鏡の視野の一部または全部に解除光を照射する、請求項6に記載の走査型プローブ顕微鏡。
  8. 解除光が紫外線である、請求項6または請求項7に記載の走査型プローブ顕微鏡。
  9. 解除光を照射する時間を制御する、請求項1ないし請求項8のいずれかひとつに記載の走査型プローブ顕微鏡。
  10. 液中の試料をカンチレバーで走査しながら液中または試料中に存在するケージド化合物に解除光を照射する、分子構造変化観測方法。
  11. 保護基を解除する光が紫外線である、請求項10に記載の分子構造変化観測方法。
  12. 試料またはカンチレバーまたはカンチレバーの自由端に保持された探針の内、少なくとも一つを観察する、請求項10または請求項11に記載の分子構造変化観測方法。
  13. 解除光を照射する時間を制御する、請求項10ないし請求項12のいずれかひとつに記載の分子構造変化観測方法。
  14. カンチレバーと、
    液中に存在するカンチレバーと試料とを相対走査する走査機構と、
    液中または試料中に、時間的または空間的に限られた範囲で作用する作用機構とを有している、走査型プローブ顕微鏡。
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