JP2005103626A - 離型剤塗布方法と液体塗布装置 - Google Patents

離型剤塗布方法と液体塗布装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 いわゆるガス巻込みを抑制できる技術を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明者らは、金型4に離型剤6aと水6bを別々に、しかしながら同時にスプレーすることによって、金型4に離型剤6aを塗布することを試みた。すると、この場合に得られた成形品には、金型4に離型剤6aのみをスプレーすることによって金型4に離型剤6aを塗布した場合に得られる成形品よりもガス巻込みが少なくなることがわかった。そして、この知見をもとに本発明を創作するに至った。
本発明によって提供される一つの技術は、金型4に油性離型剤6aを塗布する方法である。この方法は、金型4の所定領域に油性離型剤6aをスプレーする工程と、油性離型剤6aのスプレー工程と同時に油性離型剤6aのスプレー領域と実質的に同一領域に向けて水6bをスプレーする工程とを備える。
【選択図】 図3

Description

本発明は、鋳造や射出成形等に用いられる成形型に離型剤を塗布する技術に関する。
例えばダイカストマシンを用いて鋳造する場合、金型から鋳物を離型させ易くするために、溶湯を流し込む前の金型のキャビティ面に離型剤が塗布される(特許文献1には金型に離型剤を塗布することが開示されている)。離型剤としては、油を主成分とする油性離型剤や油と水のエマルジョン離型剤等がよく用いられる。いずれの離型剤を用いる場合であっても、単一のノズルから離型剤を金型にスプレーすることによって離型剤を金型に塗布する方法が採用されている。
実開昭63−180150号公報
鋳造や射出成形等を行なう場合、成形型内の空気や離型剤が蒸発して発生したガスが溶湯や樹脂等に巻込まれた状態で成形型内に封じられることがある。ガスを巻込んだ状態で溶湯や樹脂が固化すると、ガスを巻込んだ部分が空洞になってしまい、成形品の品質が悪くなる。
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、いわゆるガス巻込みを抑制できる技術を提供することを目的とする。
本発明者らは、成形型に離型剤と水を別々に、しかしながら同時にスプレーすることによって、成形型に離型剤を塗布することを試みた。すると、この場合に得られた成形品には、成形型に離型剤のみをスプレーすることによって成形型に離型剤を塗布した場合に得られる成形品よりもガス巻込みが少なくなることがわかった。そして、この知見をもとに本発明を創作するに至った。
本発明によって提供される一つの技術は、成形型に液体の離型剤を塗布する方法である。この方法は、成形型の所定領域に離型剤をスプレーする工程と、離型剤のスプレー工程と同時に離型剤のスプレー領域と実質的に同一領域に向けて水をスプレーする工程とを備える。
本方法によって離型剤を塗布した場合に得られる成形品は、離型剤のみをスプレーすることによって成形型に離型剤を塗布した場合に得られる成形品よりもガス巻込みが少なく、高品質である。
本方法によると、離型剤とともに水をスプレーするために、離型剤のスプレー中に成形型を効果的に冷却できる。これにより、成形型に付着した離型剤が蒸発し難くなり、ガス巻込みが起こり難くなったと考えられる。例えば離型剤のみを成形型にスプレーする従来の方法でも、離型剤をスプレーする前に成形型を充分に冷やしておけば、離型剤の蒸発量を少なくすることができ、ガス巻込みを抑制できるかもしれない。しかしながら、この場合、成形型を冷却するために多くの時間が必要になる。本方法では、離型剤の塗布前に成形型を冷却しておく時間を長くしなくてもガス巻込みを防止できる。
上記した離型剤は油性離型剤であってもよい。
この油性離型剤は、純油性の離型剤のみを意味するのではない。例えば、固体潤滑剤が混合された油性離型剤を用いてもよい。
また、上記した離型剤はエマルジョン離型剤であってもよい。
エマルジョン離型剤は、一般的に、成形型の温度が低くなるにつれて成形型への付着性がよくなる。本方法では、エマルジョン離型剤と水を同時にスプレーすることによって、離型剤スプレー工程中に成形型を効果的に冷却することができる。このために、エマルジョン離型剤を成形型にうまく塗布することができる。
エマルジョン離型剤のみを成形型にスプレーする従来の方法でも、エマルジョン離型剤をスプレーする前に成形型を充分に冷やしておけば、エマルジョン離型剤を成形型にうまく塗布することができるが、この場合、成形型を冷却するために多くの時間が必要になる。本方法では、エマルジョン離型剤の塗布前に成形型を冷却しておく時間を長くしなくても、エマルジョン離型剤を成形型にうまく塗布することができる。
なお、特許請求の範囲におけるエマルジョン離型剤は、純エマルジョンの離型剤のみを意味するのではなく、固体潤滑剤が混合されたエマルジョン離型剤も含むものとする。
なお、本発明の技術思想は、例えば無機離型剤(水溶性無機化合物)を塗布する場合にも用いることができる。即ち、無機離型剤と水を成形型の所定領域に同時にスプレーするようにしてもよい。
上記した各方法を実施し得る装置も本発明の創作物である。この装置は、成形型に液体を塗布する装置である。この装置は、成形型の所定領域に第1液体をスプレーする第1液体スプレー手段と、第1液体スプレー手段が第1液体をスプレーしているのと同時に、第1スプレー手段によるスプレー領域と実質的に同一領域に向けて第1液体と異なる第2液体をスプレーする第2液体スプレー手段とを備える。
この装置では、第1液体として油性離型剤を用いるとともに第2液体として水を用いてもよい。また、第1液体としてエマルジョン離型剤を用いるとともに第2液体として水を用いてもよい。この装置によると、成形型の所定領域に離型剤と水を同時にスプレーすることができる。この装置を用いて離型剤を塗布すると、ガス巻込みを抑制することができる。
なお、本装置は、離型剤と水を同時にスプレーする以外の用途にも用いることができる。例えば、第1液体として油性離型剤を用い、第2液体として無機離型剤を用いてもよい。また、例えば、第1液体としてエマルジョン離型剤を用い、第2液体として油性離型剤又は無機離型剤を用いてもよい。このように種類が異なる離型剤を同時にスプレーすると、成形型における離型抵抗を小さくできることが期待できる。
上記した装置において、第1液体スプレー手段が第1液体を噴出する第1ノズルを有しており、第2液体スプレー手段が第1ノズルの近傍に第1ノズルと平行に配置されているとともに第2液体を噴出する第2ノズルを有していてもよい。この場合、第1液体スプレー手段と第2液体スプレー手段は、第1ノズルと第2ノズルが成形型の所定面に対してほぼ垂直となっている状態で、その所定面に第1液体と第2液体をスプレーすることが好ましい。
このようにすると、成形型の所定面を効果的に冷却できる。
なお、上記の「近傍」とは、第1ノズルから噴出された第1液体のスプレー領域と、第2ノズルから噴出された第2液体のスプレー領域とが重複するように、第1ノズルと第2ノズルを近くに配置することを意味する。
上記した所定面は、成形品において重要視される面に対応する成形型の面を意味する。例えば、広い面と狭い面が組み合わさって成形品の外観が構成される場合、広い面に対応する成形型の面を上記の所定面としてもよい。また、成形品における意匠面に対応する成形型の面を上記の所定面としてもよい。
なお、上記した各方法及び各装置は、ガス巻込みを抑制するため以外の用途に用いられてもよい。その例を以下に示す。
例えば、所定の離型剤Aを成形型に塗布する場合、離型剤Aのみを成形型にスプレーする従来方法では、成形型の表面温度がT℃以下でなければ、離型剤Aが成形型にうまく付着しないとする。本発明者らは、離型剤Aと水を同時にスプレーする本発明に係る方法の場合、成形型の表面温度がT℃より大きくても、離型剤Aが成形型にうまく付着することを見出した。これにより、離型剤を塗布する前に、成形型の表面温度をそれほど下げないでも離型剤の塗布工程を実施できるようになった。従来は、成形型を充分に冷却する必要があるために、成形型のヒートショックが大きかった。本発明によると、従来方法によるよりも成形型のヒートショックを抑制することができる。
ここでは、下記の実施例に記載する技術の主要な特徴をまとめておく。
(形態1)ダイカストマシンは、金型が開かれて成形品が取出されると、金型に対して水のみをスプレーする。これにより金型が冷却される。
(形態2)ダイカストマシンは、水をスプレーして金型を冷却すると、金型に空気を吹付ける。これにより金型に付着した水を乾燥させる。このとき、金型表面(成形面)の温度は、金型内部の熱によって上昇する。
(形態3)ダイカストマシンは、金型に空気が吹付けられると、油性離型剤(又はエマルジョン離型剤)と水を別々で、しかしながら同時に金型にスプレーすることによって金型に離型剤を塗布する。
(形態4)ダイカストマシンは、金型付近に配置されて金型付近の音を入力するマイクを備える。そして、離型剤と水をスプレーしているときにマイクに入力される音を監視し、所定の音がマイクに入力されると離型剤と水をスプレーすることを終了する。
(形態5)ダイカストマシンは、離型剤及び/又は水を噴出するとともに空気を噴出することによって、離型剤及び/又は水をスプレーする(微細化させて吹付ける)。
(形態6)離型剤の粒径は、水の粒径よりも小さい方が好ましい。離型剤の粒径は、0.1μm〜50μmであるとよい。水の粒径は、0.1μm〜50μmであるとよい。
(第1実施例) 図面を参照して本実施例に係るダイカストマシンについて説明する。図1は、ダイカストマシン10を模式的に示した図である。
ダイカストマシン10は、金型4と噴霧装置20と制御装置40と離型剤貯蔵タンク50と水貯蔵タンク52と空気供給装置54等から構成される。図1では、各構成要素を極めて簡略化して示している。また図1では、一方の金型4しか示しておらず、他方の金型を図示省略している。なお、金型4に溶湯を注入する装置や金型4から成形品(鋳物)を離型させる装置等は図示省略している。
噴霧装置20と離型剤貯蔵タンク50の間には離型剤経路70が配置されている。離型剤経路70は、離型剤貯蔵タンク50内の離型剤6aを噴霧装置20まで案内する。本実施例で用いる離型剤6aは油性離型剤である。噴霧装置20と水貯蔵タンク52の間には水経路72が配置されている。水経路72は、水貯蔵タンク52内の水6bを噴霧装置20まで案内する。噴霧装置20と空気供給装置54との間には、空気経路74が配置されている。空気経路74は、空気供給装置54で圧縮された空気を噴霧装置20まで案内する。
離型剤経路70には電磁弁60が設けられている。電磁弁60は、信号線80を介して制御装置40に接続されている。水経路72には電磁弁62が設けられている。電磁弁62は、信号線82を介して制御装置40に接続されている。空気経路74には電磁弁64が設けられている。電磁弁64は、信号線84を介して制御装置40に接続されている。各電磁弁62,64,66は、制御装置40によって開閉制御される。
なお、噴霧装置20は、図1の上下方向に移動することができる。噴霧装置20は、上下動することによって、金型4に近接したり、金型4から離反したりする。噴霧装置20を上下動させる機構は図示省略している。
噴霧装置20の構造について説明する。図2に、噴霧装置20の断面図が示されている。噴霧装置20はハウジング22を有している。ハウジング22は、離型剤用ノズル70aと水用ノズル72aと円筒部材24を収容している。離型剤用ノズル70aは円筒形状である。離型剤用ノズル70aは、離型剤経路70(図1参照)と連通している。離型剤用ノズル70aからは矢印D1方向に油性離型剤6aが噴出する。水用ノズル72aは円筒形状である。水用ノズル72aは水経路72(図1参照)と連通している。水用ノズル72aからは矢印D2方向に水6bが噴出する。円筒部材24は、離型剤用ノズル70aと水用ノズル72aを取り囲むように配置されている。円筒部材24の外周面とハウジング22の内周面との間には隙間74aが設けられている。この隙間74aは、空気経路74(図1参照)と連通している。空気経路74を通過してきた空気は、矢印D3で示すように噴霧装置20内を流れて外部に噴出する。本実施例に係る噴霧装置20は、離型剤6aや水6bを各ノズル70a,72aから噴出させながら空気を噴出させることによって、離型剤6aや水6bを微細化する。
図2に示される噴霧装置20は、離型剤用ノズル70aと水用ノズル72aが平行に配置されている。そして、両ノズル70a,72aが近接して配置されている。このため、図3(a)に示されるように、油性離型剤6aと水6bがほぼ同じ位置から噴霧される。以下では、図3(a)に示される噴霧装置20を「タイプ1の噴霧装置」と呼ぶことにする。なお、図3では、金型4の形状を極めて簡略化して示している。
タイプ1の噴霧装置20は、各電磁弁60,62,64(図1参照)が全て開かれると、油性離型剤6aと水6bを同時に噴霧することができる。また、電磁弁60,64が開かれると油性離型剤6aのみを噴霧することができ、電磁弁62,64が開かれると水6bのみを噴霧することができる。また、電磁弁64のみが開かれると、空気のみを噴出させることもできる。
本実施例に係るダイカストマシン10は、上記したタイプ1の噴霧装置以外に、図3(b)に示される噴霧装置20や図3(c)に示される噴霧装置20も使用できる。図3(b)に示される噴霧装置20は、油性離型剤6aと水6bを異なる位置から噴霧できるものである。以下では、図3(b)に示される噴霧装置20を「タイプ2の噴霧装置」と呼ぶことにする。タイプ2の噴霧装置20は、油性離型剤6aを噴霧する離型剤噴霧装置20aと、水6bを噴霧する水噴霧装置20bを有する。タイプ2の噴霧装置20を用いると、油性離型剤6aと水6bを別々の場所から同時に噴霧することができる。但し、離型剤6aと水6bが金型4の同じ領域に噴霧されるように、離型剤噴霧装置20aと水噴霧装置20bの角度が調整されている。タイプ2の噴霧装置20は、離型剤6aのみを噴霧することができるとともに、水6bのみを噴霧することもできる。また、離型剤噴霧装置20aと水噴霧装置20bの双方から空気のみを噴霧することができる。
また、図3(c)に示される噴霧装置20は、タイプ1の噴霧装置20を2つ有するものである(図3(c)では符号20a,20bで示される)。以下では、図3(c)に示される噴霧装置20のことを「タイプ3の噴霧装置」と呼ぶことにする。噴霧装置20aによる油性離型剤6a(及び/又は水6b)の噴霧領域と、噴霧装置20bによる油性離型剤6a(及び/又は水6b)の噴霧領域は同じである。
ここでは、本実施例に係るダイカストマシン10を用いて実施される鋳物製造過程を説明する。図4に、鋳物製造過程における各工程のフローチャートが示されている。ここでは、金型4を開いて鋳物を取出してから次の鋳物が成形されるまでの各工程について説明する。
(冷却工程)
鋳物を取出すと、まず、金型4の成形面の近くまで噴霧装置20を移動させる。そして、制御装置40によって、電磁弁62と電磁弁64が開放される。これにより、噴霧装置20から水6bのみがスプレーされて金型4が冷却される。上記したタイプ1〜3の噴霧装置20のいずれを用いても、金型4の成形面の全面に水がスプレーされる。
(ブロー工程)
冷却工程が終了するとブロー工程を実施する。ブロー工程では、冷却工程において金型4に付着した水を乾燥させる。制御装置40は、電磁弁64のみを開放し、電磁弁60,62は閉じる。これにより、噴霧装置20から空気だけが噴出して金型4の表面が乾かされる。
(離型剤塗布工程)
本実施例では、実験条件を変えて離型剤塗布工程を実施している。図5に具体的な実験条件が示されている。図5の実験条件における「噴霧装置形状」とは、噴霧装置20が上記したタイプ1〜3のいずれであるのかを示している。「噴霧物質」とは、離型剤塗布工程において油性離型剤6aのみを噴霧したのか、あるいは、油性離型剤6aと水6bを同時に噴霧したのかを示している。「塗布時間」とは、油性離型剤6aを金型4にスプレーし続ける時間である。「距離」とは、噴霧装置20と、金型4の「噴霧装置20に最も近い面」との間の距離である。図3(a)〜(c)には、各タイプの噴霧装置20を用いた場合の距離L1〜L3が示されている。また、図5の下方には、共通する実験条件が記載されている。本実施例では、油性離型剤6aの粒径をかなり小さくし、水6bの粒径の方が大きくなるようにしている。このようにすると、油性離型剤6aを金型4にうまく塗布することができるとともに冷却効果が高くなる。なお、本実施例では、油性離型剤と水を同時にスプレーする場合と、油性離型剤のみをスプレーする場合とで、スプレー量(時間当りの流速)が同じになるように設定している。
例えば、実験番号1の条件で離型剤塗布工程を実施する場合、タイプ1の噴霧装置20を用いて油性離型剤6aと水6bを同時にスプレーする。このとき、油性離型剤6aと水6bを金型4に噴霧し続ける時間は5秒であり、噴霧装置20と金型4との間の距離L1は200mmである。
(注湯・成形工程)
油性離型剤6aを塗布すると、金型4を閉めて溶湯を流し込む。流し込まれた溶湯が固化すると、金型4を開いて成形品を取出す。
図5の最右欄には、金型4に油性離型剤6aをスプレーし始めたときの金型4の表面温度(成形面温度)と、金型4に油性離型剤6aをスプレーし終えたときの金型4の表面温度が示されている。即ち、離型剤塗布工程の開始時における金型4の表面温度(離型剤塗布前温度)と、離型剤塗布工程の終了時における金型4の表面温度(離型剤塗布後温度)が示されている。実験結果におけるΔTは、離型剤塗布前温度と離型剤塗布後温度の差である。各実験結果からわかる知見を以下に記述する。
(1)実験番号1〜4を比較すると、離型剤塗布前温度が350〜400℃付近のときに冷却効果が最も高いことがわかる。
(2)実験番号4と5(又は実験番号8と9)を比較すると、油性離型剤6aと水6bを同時にスプレーした方が、油性離型剤6aのみをスプレーするよりも冷却効果が高いことがわかる。
(3)実験番号1と6と8を比較すると、タイプ1の噴霧装置20が最も効果的に冷却できることがわかる。次いでタイプ3の噴霧装置20の冷却効果が高いことがわかる。タイプ2の噴霧装置20の冷却効果が最も低いことがわかる。
(4)実験番号7と8を比較すると、塗布時間が長い方が冷却効果が高いことがわかる。
図6(a)には実験条件8を用いて成形された鋳物8が示されている。図6(b)には実験条件9を用いて成形された鋳物9が示されている。図6(b)をみると、鋳物9には巣9aが形成されていることがわかる。この巣9aは、ガス巻込みが原因となって出来てしまう。これに対し、図6(a)の鋳物8は、巣がほとんで出来ていない。
実験条件9のときは、離型剤塗布工程の終了時における金型4の表面温度が実験条件8のときよりも高い(図5参照)。従って、実験条件9の場合は、油性離型剤6aの蒸発量が多いことが原因となってガス巻込み現象が起こり、鋳物9に巣9aが出来てしまったと考えられる。実験条件8の場合は、離型剤塗布工程において金型4を充分に冷却することができ、油性離型剤6aの蒸発量が少ないために、ガス巻込みが抑制されていると考えられる。
図7は、鋳物製造過程における金型4の表面温度の時間変化を示している。図7の縦軸に示された範囲M1は、油性離型剤6aと水6bを同時にスプレーする場合に、油性離型剤6aが金型4に付着する温度領域を示している。M1の上限は約360℃である。これに対し、油性離型剤6aのみをスプレーする場合に、油性離型剤6aが金型4に付着する温度領域の上限は約330℃である。即ち、油性離型剤6aと水6bを同時にスプレーする場合は、油性離型剤6aのみをスプレーする場合よりも、金型4が高温でも油性離型剤6aが付着する。実線のグラフは、離型剤塗布工程において離型剤6aと水6bを同時に塗布した場合(以下では第1実験という)のグラフである。破線のグラフは、離型剤塗布工程において離型剤6aのみを塗布した場合(以下では第2実験という)のグラフである。第1実験と第2実験は、冷却工程の時間に差を設けてある。即ち、第2実験の場合は、第1実験の場合よりも、離型剤塗布前における金型4の表面温度が小さくなければならないために、充分に冷却する必要がある。第1実験と第2実験におけるブロー工程の時間は同じである。また、第1実験と第2実験における離型剤塗布工程の時間も同じである。ブロー工程及び離型剤塗布工程後は、金型4の内部の熱によって、金型4の表面温度が上昇している。なお、第1実験の離型剤塗布工程における油性離型剤6aのスプレー量と水6bのスプレー量の和と、第2実験の離型剤塗布工程における油性離型剤6aのスプレー量とが同じになるように設定している。
このグラフを見るとよくわかるように、金型4の表面温度の最下点は、第2実験の場合の方が第1実験の場合よりも低くなる。従って、第2実験の場合の方が金型4のヒートショックが大きくなる。
時間t1は第1実験における注湯タイミングであり、時間t2は第2実験における注湯タイミングである。これから明かなように、離型剤塗布工程において油性離型剤6aと水6bを同時にスプレーした方が、油性離型剤6aのみをスプレーするよりも成形サイクルを短縮することができる。仮に、第2実験において冷却工程を第1実験と同じ時間にすると、金型4の表面が高温の状態で離型剤塗布工程が実施されることになる。この場合、ガス巻込みが発生する可能性が高くなってしまう。
なお、一般的に、エマルジョン離型剤は金型4に付着し難いという性質を持っている。従って、エマルジョン離型剤を用いる場合は、大量のエマルジョン離型剤を金型4にスプレーする必要がある。このため、金型4から垂れ落ちるエマルジョン離型剤4を回収する装置が必要である。本実施例のように油性離型剤6aを用いるようにすれば、回収装置を設置する必要がない。また、エマルジョン離型剤を用いる場合に必要となる希釈装置も必要ない。
(第1実施例の変形例)
上記した第1実施例は、次のように変形して実施されてもよい。金型4が、例えば、図
1に示されるように、深い部分4aと浅い部分4bから構成されているとする。この場合、深い部分4aと噴霧装置20の間の距離は、浅い部分4bと噴霧装置20の間の距離よりも大きくなる。従って、冷却工程において、深い部分4aは浅い部分4bより冷却され難い。このような場合、離型剤塗布工程の開始時において充分に冷却されている浅い部分4bには油性離型剤6aのみをスプレーするようにし、あまり冷却されていない深い部分4aには油性離型剤6aと水6bを同時にスプレーするようにしてもよい。
なお、同じ深さであっても冷却され易い部分と冷却され難い部分がある金型(例えば金型の場所によって冷却工程における水の付着量に差がある場合)にも本変形例の技術は適用できる。
(第2実施例) ここでは、第1実施例と異なる点を中心に説明する。本実施例では、油性離型剤を用いずに油と水のエマルジョン離型剤を用いる。従って、離型剤貯蔵タンク50(図1参照)には、エマルジョン離型剤(符号は第1実施例と同じ6aを用いる)が貯蔵されている。その他の構成は第1実施例と同様である。
本実施例に係るダイカストマシン10を用いて実施される鋳物製造過程における各工程について説明する。
(冷却工程)
冷却工程は、第1実施例とほぼ同様に実施される。但し、第1実施例の場合よりも冷却時間(水6bのみをスプレーする時間)を長くして金型4を充分に冷却する。これは、エマルジョン離型剤は、油性離型剤よりも高温域での付着性がよくないからである。
(ブロー工程)
冷却工程が終了するとブロー工程を実施する。このブロー工程は第1実施例のブロー工程と同様である。
(離型剤塗布工程)
本実施例の離型剤塗布工程は、エマルジョン離型剤6aと水6bを金型4に同時にスプレーすることによって実施される。
(注湯・成形工程)
エマルジョン離型剤6aを塗布すると、金型4を閉めて溶湯を流し込む。そして、流し込まれた溶湯が固化すると、金型4を開いて成形品を取出す。
図8に、本実施例に係る鋳物製造過程における金型4の表面温度の時間変化を示す。図8の縦軸に示された範囲M2は、エマルジョン離型剤6aが金型4に付着し易い温度領域を示している。特に、一般的なエマルジョン離型剤6aは、金型4の表面温度が低くなればなるほど付着性がよくなる。実線のグラフは、離型剤塗布工程においてエマルジョン離型剤6aと水6bを同時に塗布した場合(以下では第1実験という)のグラフである。破線のグラフは、離型剤塗布工程においてエマルジョン離型剤6aのみを塗布した場合(以下では第2実験という)のグラフである。第1実験と第2実験は、離型剤塗布工程の終了時における金型4の表面温度が同じになるように冷却工程の時間に差を設けてある。第1実験と第2実験におけるブロー工程の時間は同じである。また、第1実験と第2実験における離型剤塗布工程の時間も同じである。なお、第1実験の離型剤塗布工程におけるエマルジョン離型剤6aと水6bをあわせた塗布量と、第2実験の離型剤塗布工程におけるエマルジョン離型剤6aの塗布量は同じになるように設定している。
時間t1は第1実験における注湯タイミングであり、時間t2は第2実験における注湯タイミングである。これから明かなように、エマルジョン離型剤6aと水6bを同時に塗布するようにした方が、成形サイクルを短縮することができる。仮に、第2実験において冷却工程を第1実験と同じ時間にすると、金型4の表面温度が高い状態で離型剤塗布工程を実施することになってしまう。この場合、第1実験の場合よりもエマルジョン離型剤6aが金型4にうまく付着しない。
なお、もし、第2実験の離型剤塗布工程において第1実験の場合と同等の冷却効果を得るためには、第1実験の場合よりも大量のエマルジョン離型剤を塗布する必要があり、コスト的によくない。
(第2実施例の変形例)
上記した第2実施例は、上記した第1実施例の変形例のように変形して実施されてもよい。即ち、金型4が、深い部分4aと浅い部分4bが存在している場合に、浅い部分4bにはエマルジョン離型剤6aのみを塗布するようにし、深い部分4aにはエマルジョン離型剤6aと水6bを同時に塗布するようにしてもよい。表面温度が低い部分4bにはエマルジョン離型剤6aのみを塗布し、表面温度が高い部分4bにはエマルジョン離型剤6aと水6bを同時に塗布して冷却効果を高めるようにする。
(第3実施例)
本実施例では、第1実施例と異なる点を中心に説明する。本実施例では、図1の符号90で示される音分析装置90を用いる。音分析装置90は、金型4の近くに設置される。音分析装置90は、音を入力するマイクを有しており、入力された音の周波数解析を行なう。本実施例では、音分析装置90の解析結果に基づいて、離型剤塗布工程の終了時を特定する。なお、音分析装置90は、図示省略の信号線を介して制御装置40と接続されている。制御装置40には、音分析装置90で分析された情報が送られる。
通常、液体(本実施例では水)は、核沸騰状態を経てから膜沸騰状態に移行する。また、液体は、その沸点よりも極めて高温の物質(例えば金型4)に接するとライデンフロスト現象が起こる。本発明者らは、離型剤塗布工程中に金型4に付着した水の沸騰状態が異なると、発生する音が異なることを見出した。
図9に、金型4の表面において水の沸騰状態が変化する際の、音分析装置90による解析結果を示す。図9(a),(b)の横軸は時間であり縦軸は音圧である。図9(a)は、核沸騰状態(範囲A)から膜沸騰状態(範囲B)に変化したときの音分析結果である。図9(b)は、ライデンフロスト現象(範囲C)から核沸騰状態(範囲D)に変化したときの音分析結果である。図9から明かなように、金型4における水の沸騰状態が異なると分析結果が異なる。
本実施例では、金型表面温度が約300〜350℃のときに、離型剤塗布工程(油性離型剤6aと水6bの同時塗布)が実施される。金型4に接した水6bは、ライデンフロスト現象を起こし、次いで核沸騰状態になり、その後に膜沸騰状態になる。本発明者らは、油性離型剤6aが金型4に最もなじんでいる状態は、水6bが核沸騰状態から膜沸騰状態に移行する間であることを見出した。
本実施例に係る制御装置40は、音分析装置90から送られてくる分析結果を監視し、水6bの核沸騰状態が終了したことを特定する。そして、制御装置40は、水6bの核沸騰状態が終了したことを特定すると離型剤塗布工程を終了する。即ち、電磁弁60,62,64を閉じる。
本実施例によると、油性離型剤6aが金型4によくなじんで塗布されたことを容易に特定することができる。そして、油性離型剤6aが金型4に最もうまく塗布されているときに離型剤塗布工程を終了する。このため、油性離型剤6aを過剰に塗布してしまったり、油性離型剤6aの塗布量が少なくなったりすることがない。
なお、本実施例の技術思想は、エマルジョン離型剤や無機離型剤を塗布する場合にも用いることができる。
また、金型付近の音から離型剤の塗布状態を判断する本技術は、離型剤のみをスプレーすることによって金型に離型剤を塗布する場合にも用いることができる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
実施例に係るダイカストマシンの概略図である。 噴霧装置の断面図である。 噴霧装置をタイプ別に示した図である。 鋳物製造過程における各工程のフローチャートを示す。 実験条件毎の実験結果を示す。 成形された鋳物の写真を対比して示す。 鋳物製造過程における金型の表面温度の時間変化を示す。 鋳物製造過程における金型の表面温度の時間変化を示す(第2実施例)。 金型で水が沸騰することによって発生する音圧の時間変化を示す。
符号の説明
4・・金型
6a・・離型剤
6b・・水
10・・ダイカストマシン
20・・噴霧装置
40・・制御装置
50・・離型剤貯蔵タンク
52・・水貯蔵タンク
54・・空気供給装置

Claims (5)

  1. 成形型に液体の離型剤を塗布する方法であり、
    成形型の所定領域に離型剤をスプレーする工程と、
    離型剤のスプレー工程と同時に、離型剤のスプレー領域と実質的に同一領域に向けて水をスプレーする工程とを備える離型剤塗布方法。
  2. 前記離型剤が油性離型剤であることを特徴とする請求項1の離型剤塗布方法。
  3. 前記離型剤がエマルジョン離型剤であることを特徴とする請求項1の離型剤塗布方法。
  4. 成形型に液体を塗布する装置であり、
    成形型の所定領域に第1液体をスプレーする第1液体スプレー手段と、
    第1液体スプレー手段が第1液体をスプレーしているのと同時に、第1スプレー手段によるスプレー領域と実質的に同一領域に向けて第1液体と異なる第2液体をスプレーする第2液体スプレー手段とを備える液体塗布装置。
  5. 前記第1液体スプレー手段は、前記第1液体を噴出する第1ノズルを有しており、
    前記第2液体スプレー手段は、第1ノズルの近傍に第1ノズルと平行に配置されているとともに前記第2液体を噴出する第2ノズルを有しており、
    前記第1液体スプレー手段と前記第2液体スプレー手段は、第1ノズルと第2ノズルが成形型の所定面に対してほぼ垂直となっている状態で、その所定面に前記第1液体と前記第2液体をスプレーすることを特徴とする請求項4の液体塗布装置。
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