JP2005075264A - スタビリティコントロール装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 車輪と路面との接触部の滑りを、時間的遅れを生じさせず迅速に検知し、車両の走行安定性確保を、より高次元で図れる構造を実現する。
【解決手段】 各車輪を懸架装置に支持する為の転がり軸受ユニットに、静止輪と回転輪との間に加わるアキシアル荷重を測定する為のセンサを組み込む。走行速度及び横方向の加速度から、上記接触部に滑りが発生していない状態で、この接触部で生じると考えられる、標準グリップ力を算出する。又、上記センサの検出信号に基づいて、上記接触部で実際に発生している実グリップ力を求める。そして、この実グリップ力と上記標準グリップ力との偏差が大きい場合に、走行安定性確保の為の制御を開始させる。上記接触部で滑りが発生した事を、懸架装置のばねの伸縮の影響を受けずに検知できて、上記課題を解決できる。
【選択図】 図1

Description

この発明は、車両(自動車)の走行安定性を確保する為のスタビリティコントロール装置の改良に関し、制御の応答性を向上させて、より高度の走行安定性を確保すべく発明したものである。
車両の走行時に何れか又は総ての車輪のグリップが低下若しくは喪失すると、車両の走行安定性が損なわれて、事故の原因となる。この為従来から、車両のスタビリティ(stability =standing ability=走行安定性)を確保する為に各種構造のスタビリティコントロール装置が考えられ、その一部は実用化されている。この様なスタビリティコントロール装置は、何れか又は総ての車輪のグリップが低下若しくは喪失した場合に、アクセルペダルの踏み込み量に関係なくエンジンの出力を低下させると共に、ブレーキペダル操作の有無に関係なく各車輪に付属したブレーキ装置のうちの少なくとも1個のブレーキ装置により当該車輪に制動力を付与する事で、スタビリティを確保するものである。
図3〜6は、この様なスタビリティコントロール装置のうち、非特許文献1に記載されたものの構造及び機能を表している。このスタビリティコントロール装置では、図3に示す様に、車両に設けた前後左右4個の車輪1FL、1FR、1RL、1RRの回転速度を、それぞれ回転速度センサ2FL、2FR、2RL、2RRにより検出自在としている。又、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRに付属のブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RRに導入する油圧を、ブレーキペダル4の操作に基づいて制御する他、このブレーキペダル4の操作とは関係なく、互いに独立して調節自在としている。この為に、このブレーキペダル4の踏み込みに伴って圧油を送り出すマスタシリンダ5と、上記各ブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RRに付属のホイルシリンダとの間に、油圧制御ユニット6を設けている。そして、マイクロコンピュータを内蔵した制御器7からの信号に基づいて上記油圧制御ユニット6が、上記各ブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RRに導入する油圧を制御する様にしている。尚、各符号のうち「FL」は左前輪に、「FR」は右前輪に、「RL」は左後輪に、「RR」は右後輪に、それぞれ対応する。
上記制御器7には、上記各回転速度センサ2FL、2FR、2RL、2RRの検出信号の他、舵角センサ9の検出信号と、加速度センサ10の検出信号と、ヨーレートセンサ11の検出信号とを入力している。このうちの舵角センサ9は、ステアリングホイール8の操作に基づいて操舵輪(左右1対の前輪)に付与する舵角の大きさと付与する速度とを検出する。又、上記加速度センサ10は、車体に対し幅方向(左右方向)に加わる加速度を検出する為に、この車体に設けている。又、上記ヨーレートセンサ11は、この車体に加わる旋回モーメントを検出する為に、この車体に設けている。
この様な各センサ2FL、2FR、2RL、2RR、9、10、11の検出信号を受け入れた上記制御器7は、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRと路面との接触面で車両の走行安定性を阻害する滑りが発生しない場合に、上記ステアリングホイール8の操作に基づいて車体が運動すると考えられる標準状態を算出する。そして、この標準状態と、上記加速度センサ10或は上記ヨーレートセンサ11の検出信号に基づいて求められる、実際に車体が運動している実状態との間に差が生じた場合に、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRと路面との接触面で、車両の走行安定性を阻害する滑りが発生していると判定する。そして、この場合に上記制御器7は、図6に示す様に、図示しないエンジンの出力を低下させたり、前記各ブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RRに導入する油圧を制御する。この様にして行なわれる、スタビリティコントロール装置による制御が必要な典型的な状態として、車両の向きが上記ステアリングホイール8の操作量以上に変化するオーバーステア(スピン)の場合と、同じく操作量に見合うだけ変化しないアンダーステア(ドリフトアウト)とがある。又、何れの状態を修正する制御にしても、各種方法が知られている。
先ず、このうちの第1例の制御方法に就いて、図4〜6により説明する。この場合に上記制御器7は、上記各回転速度センサ2FL、2FR、2RL、2RRの検出信号から、或は図示しないトランスミッションに組み込んだ車速センサの検出信号から、車体速度(車両の走行速度)を算出する。そして、この車体速度と、上記加速度センサ10が検出した、車両の横方向に加わる加速度(横G)とに基づいて、上記標準状態に対応してこの車両に加わる標準旋回角速度ω1 を算出する。又、上記制御器7は、上記ヨーレートセンサ11の検出信号から、実際に上記車両に加わる実旋回角速度(スピン角速度)ω2 を算出する。次いで、上記制御器7は、この実旋回角速度ω2 と上記標準旋回角速度ω1 とから、上記車両の滑り角速度dβ/dt(=ω2 −ω1 )を求め、更にこの滑り角速度から、この車両の滑り角度β(=∫dβ/dt)を求める。
そして、この滑り角度βが、この車両の走行安定性を損なう程大きいと判断した場合に上記制御器7は、この走行安定性を確保すべく、前記エンジン及び前記各ブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RRの制御を行なう。例えば、図5(A)に示す様に、右方への進路変更時にオーバーステアが発生した場合、具体的には、左前の車輪1FLに付属のブレーキ装置3FLに、比較的大きな制動力を発生させる。他の車輪1FR、1RL、1RRに付属のブレーキ装置3FR、3RL、3RRには、制動力を発生させないか、発生させた場合でも比較的小さな制動力のみを発生させる。この結果、上記左前の車輪1FLから車体12に、図5(A)に矢印イで示す方向の力が作用し、この力に基づいてこの車体12に、矢印ロで示す方向の修正旋回モーメントが加わる。この修正旋回モーメントの方向は、オーバーステア時に上記車体12を旋回させる方向{図5(A)の矢印ハ方向}と逆方向に加わるので、オーバーステアの状態が解消され、車両(車体12)は、前記ステアリングホイール8の操作に基づいて車輪1FL、1FRに付与された舵角に応じた分だけ進路変更する。
反対に、図5(B)に示す様に、右方への進路変更時にアンダーステアが発生した場合、具体的には、左後の車輪1RLに付属のブレーキ装置3RLが発生する制動力を零若しくは小さくする。他の車輪1FR、1FL、1RRに付属のブレーキ装置3FR、3FL、3RRには、比較的大きな制動力を発生させる。この結果、上記車体12の左後部が前方に移動しようとする力が、他の部分が前方に移動しようとする力よりも大きくなり、上記車体12に、図5(B)に矢印ニで示す方向の修正旋回モーメントが加わる。この修正旋回モーメントの方向は、上記車体12をより大きく旋回させる方向に加わるので、アンダーステアの状態が解消され、車両(車体12)は、前記ステアリングホイール8の操作に基づいて車輪1FL、1FRに付与された舵角に応じた分だけ進路変更する。
尚、オーバーステア、アンダーステアの何れの場合でも、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRに付属の前記各回転速度センサ2FL、2FR、2RL、2RRの検出信号に基づいて制御されるアンチロックブレーキシステム(ABS)の制御信号から分かる、制動時の滑り率や、前記ヨーレートセンサ11の検出信号に基づいて、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRと路面との接触面の摩擦抵抗(路面μ値)を推定する。そして、前記各ブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RRに導入する油圧の値を、互いに独立した状態で微調節する。又、図6に示す様に、これら各ブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RRに導入する油圧を調節すると同時に、エンジンの一部のシリンダへの燃料の供給を低減若しくは停止する事により、このエンジンの出力を低下させて、駆動輪から上記車体12に、それ以上オーバステア或はアンダーステアに繋がる力が加わらない様にする。
次に、図7に示した第2例の制御方法では、前記制御器7は、上述の第1例の場合と同様にして求めた車体速度と、前記舵角センサ9の検出信号とから、前記標準状態に対応して前記車両に加わる標準ヨーレートを算出する。又、上記制御器7は、前記ヨーレートセンサ11の検出信号から、実際に上記車両に加わる実ヨーレートを算出する。次いで、上記制御器7は、この実ヨーレートと上記標準ヨーレートとの偏差(ヨーレート偏差)及びその方向を求め、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRと路面との接触面の滑り量を求める。そして、この滑りを解消すべく、上述の第1例の場合と同様にして、上記各ブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RRに導入する油圧の制御及び上記エンジンの出力制御を行なって、オーバステア或はアンダーステアの状態を解消する。尚、第1例の方法が特にオーバステアの修正に好適であるのに対して、第2例の方法は、特にアンダーステアの修正に好適である。
上述の様な、従来から知られているスタビリティコントロール装置の場合、滑り易い路面での走行安定性確保に大きな効果を発揮するが、この走行安定性をより向上させるべく、制御の応答性を向上させる余地が残されている。即ち、従来から知られている各種スタビリティコントロール装置は何れも、各車輪と路面との接触面部分で滑りが発生した事を、車体側に設けた加速度センサやヨーレートセンサが検出する、この車体の挙動により検知する様に構成している。上記接触面部分に加わる力或はこの接触面部分で生じる滑りを直接検知するものではない。従って、初期状態とは言え、車両が不安定な状態になってからその事実を検知し、この不安定状態を修正する制御しか行なえない。
しかも、上記各車輪と車体との間には懸架装置のばねが存在し、これら各車輪の動きが車体に伝わるまでの間に時間的遅れが生じる事は避けられない。この時間的遅れは、上記ばねの弾性、所謂ばね上荷重となる車体並びに乗員数等に応じて変化する積載量により異なる。一般的に、このばね上荷重に基づく上記ばねの共振周波数は1〜2Hz程度の低い値である為、急激な転舵等が行なわれた場合に上記時間的遅れは、数10〜数100ms程度になる。そして、ヨーレートセンサによる車体のヨーレートの検出信号は、この制御開始の為のトリガー信号としての役目も持つ為、上記時間的遅れの分、上記不安定状態を修正する為の制御開始が遅れる。
この様な従来技術に対して本発明者は、各車輪を懸架装置に回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニット部分に設けたセンサにより、上記各車輪と路面との間に作用するグリップ力に関連して変化する状態値を測定し、このグリップ力に基づいて上記不安定状態を修正する為の制御を行なう様にすれば、上述の様な制御開始の遅れを解消できると考えた。上記グリップ力に関連して変化する状態値を測定するセンサを備えた車輪支持用転がり軸受ユニットとして従来から、例えば特許文献1、2に記載されたものが知られている。
図8は、このうちの特許文献1に記載された、加速度センサ付車輪支持用転がり軸受ユニットの1例を示している。この従来構造の場合、懸架装置に支持固定された状態で回転しない外輪13の内周面に形成した1対の外輪軌道14、14と、車輪を結合固定した状態で回転するハブ15の外周面に設けた1対の内輪軌道16、16との間に、それぞれ複数の転動体17、17を設けて、上記外輪13の内側での上記ハブ15の回転を自在としている。又、上記外輪13の開口端部を塞いだカバー18の内側に、加速度センサ19と、この加速度センサ19の出力を増幅する為のアンプ20とを支持している。
上述の様に構成する加速度センサ付車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、長期間に亙る使用に伴なって上記各外輪軌道14、14や上記各内輪軌道16、16の表面、更には上記各転動体17、17の転動面が剥離し、転がり軸受としての寿命に達すると、上記加速度センサ19が、上記各転動体17、17の転動に基づいて上記外輪13部分で発生或はこの外輪13に伝わる異常振動を検出する。この様に上記特許文献1に記載された従来技術は、車輪支持用転がり軸受ユニットの寿命を知る為に利用する事を意図したもので、上記特許文献1には、上記加速度センサ付車輪支持用転がり軸受ユニットを利用して、優れた応答性を有するスタビリティコントロール装置を得る事を示唆する記述は存在しない。
又、前記特許文献2には、図9に示す様な、車輪支持用転がり軸受ユニットの荷重測定装置が記載されている。この従来構造の場合、回転しない外輪13aの外周面に設けた固定側フランジ21の内側面複数個所で、この固定側フランジ21を懸架装置のナックル22に結合する為のボルト23を螺合する為のねじ孔24を囲む部分に、それぞれ荷重センサ25を添設している。上記外輪13aを上記ナックル22に支持固定した状態でこれら各荷重センサ25は、このナックル22の外側面と上記固定側フランジ21の内側面との間で挟持される。
この様な従来から知られている車輪支持用転がり軸受ユニットの荷重測定装置の場合、図示しない車輪を結合固定したハブ15aと上記ナックル22との間にアキシアル荷重が加わると、このナックル22の外側面と上記固定側フランジ21の内側面とが、上記各荷重センサ25を、軸方向両面から強く押し付け合う。従って、これら各荷重センサ25の測定値を合計する事で、上記車輪と上記ナックル22との間に加わるアキシアル荷重を求める事ができる。この様な特許文献2に記載された従来技術の場合、第2頁右下欄下から第6〜4行等の記載から明らかな通り、上記アキシアル荷重に基づいて操舵及びロードホールディング性を向上させる事を意図してはいる。但し、スタビリティを向上させる面から、より具体的な構造に就いては記載されていない。又、図示はしないが、特許文献3には、一部の剛性を低くした外輪相当部材の振動周波数から転動体の公転速度を求め、更に、転がり軸受に加わるアキシアル荷重を測定する方法が記載されている。
更に、未公知ではあるが、特願2003−171715号、同−172483号には、図10〜12に示す様な構造で、車輪に加わるラジアル荷重或はアキシアル荷重を測定する、転がり軸受ユニットの荷重測定装置が開示されている。この先発明に係る転がり軸受ユニットの荷重測定装置は、回転輪であるハブ15の外周面に設けた、それぞれが回転側軌道である複列アンギュラ型の内輪軌道16、16と、静止輪である外輪13の内周面に設けた、それぞれが静止側軌道である複列アンギュラ型の外輪軌道14、14との間に転動体(玉)17a、17bを、複列(2列)に分けて、各列毎にそれぞれ複数個ずつ、保持器26a、26bにより保持した状態で転動自在に設けている。そして、上記外輪13の内径側に上記ハブ15を、回転自在に支持している。この状態で上記両列の転動体17a、17bには、互いに逆方向で、且つ、同じ大きさの接触角αa 、αb (図11)が付与されて、背面組み合わせ型の、複列アンギュラ型玉軸受を構成する。上記各列の転動体17a、17bには、使用時に加わるアキシアル荷重によって喪失する事がない程度に、十分な予圧を付与している。
上述の様な転がり軸受ユニットを構成する上記外輪13の軸方向中間部で上記複列の外輪軌道14、14の間部分に支持孔27を、この外輪13を径方向に貫通する状態で形成している。そして、この支持孔27にセンサユニット28を、上記外輪13の径方向外方から内方に挿通し、このセンサユニット28の先端部に設けた検出部29を、上記外輪13の内周面から突出させている。この検出部29には、1対の公転速度検出用センサ30a、30bと、1個の回転速度検出用センサ31とを設けている。
このうちの各公転速度検出用センサ30a、30bは、上記複列に配置された転動体17a、17bの公転速度を測定する為のもので、上記検出部29のうち、上記ハブ15の軸方向(図10〜11の左右方向)に関する両側面に、それぞれの検出面を配置している。本例の場合、上記両公転速度検出用センサ30a、30bは、上記複列に配置された各転動体17a、17bの公転速度を、前記各保持器26a、26bの回転速度として検出する。この為に本例の場合には、これら各保持器26a、26bを構成するリム部32、32を、互いに対向する側に配置している。そして、これら各リム部32、32の互いに対向する面に、それぞれが円輪状である公転速度検出用エンコーダ33a、33bを、全周に亙り添着支持している。これら各エンコーダ33a、33bの被検出面の特性は、円周方向に関して交互に且つ等間隔で変化させて、上記各保持器26a、26bの回転速度を上記両公転速度検出用センサ30a、30bにより検出自在としている。図示の例の場合には、これら両公転速度検出用エンコーダ33a、33bとして、図12に示す様に、被検出面である軸方向側面にS極とN極とを交互に且つ等間隔で配置した、円輪状の永久磁石を使用している。
一方、上記回転速度検出用センサ31は、前記ハブ15の回転速度を測定する為のもので、上記検出部29の先端面、即ち、上記外輪13の径方向内端面に、その検出面を配置している。又、上記ハブ15の中間部で前記複列の内輪軌道16、16同士の間に、円筒状の回転速度検出用エンコーダ34を外嵌固定している。上記回転速度検出用センサ31の検出面は、この回転速度検出用エンコーダ34の被検出面である、外周面に対向させている。この回転速度検出用エンコーダ34の被検出面の特性は、円周方向に関して交互に且つ等間隔で変化させて、上記ハブ15の回転速度を上記回転速度検出用センサ31により検出自在としている。
上述の様な先発明に係る転がり軸受ユニットの荷重測定装置の場合、上記各センサ30a、30b、31の検出信号は、図示しない演算器に入力する。そして、この演算器が、これら各センサ30a、30b、31から送り込まれる検出信号に基づいて、上記外輪13と上記ハブ15との間に加わるアキシアル荷重を算出する。例えば上記演算器は、上記両公転速度検出用センサ30a、30bが検出する両列の転動体17a、17bの公転速度の差を求め、この差と、上記回転速度検出用センサ31が検出する上記ハブ15の回転速度との比に基づいて、上記アキシアル荷重を算出する。この様に構成する事により、前記両列の転動体17a、17bに付与されている予圧、並びに、転がり軸受ユニットに加わるラジアル荷重の影響を少なく抑えて、上記アキシアル荷重を精度良く求められる。この点に就いて、図13〜15を参照しつつ説明する。
図13は、前述の図10に示した車輪支持用の転がり軸受ユニットを模式化し、荷重の作用状態を示したものである。複列の内輪軌道16、16と複列の外輪軌道14、14との間に複列に配置された転動体17a、17bには予圧F0 、F0 を付与している。又、使用時に上記転がり軸受ユニットには、車体の重量等により、ラジアル荷重Fr が加わる。更に、旋回走行時に加わる遠心力等により、アキシアル荷重Fa が加わる。これら予圧F0 、F0 、ラジアル荷重Fr 、アキシアル荷重Fa は、何れも上記各転動体17a、17bの接触角αa 、αb に影響を及ぼす。そして、この接触角αa 、αb が変化すると、これら各転動体17a、17bの公転速度nc (nca、ncb)が変化する。これら各転動体17a、17bのピッチ円直径をDとし、これら各転動体17a、17bの直径をdとし、上記各内輪軌道16、16を設けたハブ15の回転速度をni とし、上記各外輪軌道14、14を設けた外輪13の回転速度をno とすると、上記公転速度nc は、次の(1)式で表される。
c ={1−(d・cosα/D)・(ni /2)}+{1+(d・cosα/D)・(no /2)} −−− (1)
この(1)式から明らかな通り、上記各転動体17a、17bの公転速度nc は、これら各転動体17a、17bの接触角α(αa 、αb )の変化に応じて変化するが、前述した様にこの接触角αは、上記アキシアル荷重Fa に応じて変化する。従って上記公転速度nc は、このアキシアル荷重Fa に応じて変化する。本例の場合、上記ハブ15が回転し、上記外輪13が回転しない為、具体的には、上記アキシアル荷重Fa を支承する図13の右側の列を構成する転動体17b、17bの公転速度ncbが速くなり、このアキシアル荷重Fa を支承しない、図13の左側の列を構成する転動体17a、17aの公転速度ncaが遅くなる。図14は、この様にハブ15が回転する場合に於ける、上記アキシアル荷重Fa の変化に伴う両列の転動体17a、17bの公転速度の変化の状態を表している。又、図14の横軸は上記アキシアル荷重Fa の大きさを、縦軸は上記公転速度nc と上記ハブ15の回転速度ni との比「nc /ni 」を、それぞれ表している。尚、この比「nc /ni 」を表す図14の縦軸の値は、図14の下に行く程大きくなり、同じく上に行く程小さくなる。
この様な図14に記載した2本の線a、bのうち、実線aは、上記アキシアル荷重Fa を支承しない図13の左側の列を構成する転動体17a、17aの公転速度ncaに関する比「nca/ni 」を、破線bは上記アキシアル荷重Fa を支承する図13の右側の列を構成する転動体17b、17bの公転速度ncbに関する比「ncb/ni 」を、それぞれ表している。尚、上記図14の実線a及び破線bは、上記両列の転動体17a、17bに適正な(中程度の)予圧F0 を付すると共に、ラジアル荷重Fr を付与しない(Fr =0)場合での、上記アキシアル荷重Fa の大きさと、上記公転速度nc (nca、ncb)と上記ハブ15の回転速度ni との比「nc /ni 」との関係を示している。
上述の様な図14に記載した実線a及び破線bから明らかな通り、各転動体17a、17bに予圧F0 を付与した複列アンギュラ型玉軸受にアキシアル荷重を負荷すると、両列の転動体17a、17bの公転速度が、このアキシアル荷重の大きさに応じて(ほぼ比例して)変化する。従って、他の要件、即ち、このアキシアル荷重に対するクロストーク成分となる予圧F0 やラジアル荷重Fr を考慮しなければ(或は予圧F0 やラジアル荷重Fr が一定であるとすれば)、何れか一方の列の転動体17a、17a(又は17b、17b)の公転速度nca(ncb)を測定する事で、上記アキシアル荷重を求められる。但し、実際の場合には、上記複列アンギュラ型玉軸受に付与される予圧F0 には、製造誤差に基づくばらつきがあるし、ラジアル荷重Fr は、乗員数や積載量の相違により違いが生じる。
図15は、この様な予圧F0 のばらつきやラジアル荷重Fr の大きさが、上記アキシアル荷重Fa の大きさと、このアキシアル荷重Fa を支承しない図13の左側の列を構成する転動体17a、17aの公転速度ncaに関する比「nca/ni 」との関係に及ぼす影響に就いて示している。図15(A)(B)にそれぞれ記載した実線イ、破線ロ、鎖線ハは、それぞれ上記図14の実線aに対応するものである。又、図15(A)は、上記予圧F0 の値が、上記アキシアル荷重Fa の大きさと上記比「nca/ni 」との関係に及ぼす影響を示している。尚、この比「nca/ni 」の大きさを表す図15(A)の縦軸の値も、この図15(A)の下に行く程大きくなり、同じく上に行く程小さくなる。又、ラジアル荷重Fr は付与していない(Fr =0)。この様な図15(A)のうち、実線イは上記予圧F0 が小さい場合を、破線ロは同じく中程度の場合を、鎖線ハは同じく大きい場合を、それぞれ表している。一方、図15(B)は、上記ラジアル荷重Fr の値が、上記アキシアル荷重Fa の大きさと上記比「nca/ni 」との関係に及ぼす影響を示している。尚、この比「nca/ni 」の大きさを表す図15(B)の縦軸の値も、この図15(B)の下に行く程大きくなり、同じく上に行く程小さくなる。又、予圧F0 の値は中程度としている。この様な図15(B)のうち、実線イは上記ラジアル荷重Fr が大きい場合{Fr =4900N(500kgf )}を、破線ロは同じく中程度{Fr =3920N(400kgf)}の場合を、鎖線ハは同じく小さい場合{Fr =2940N(300 kgf)}を、それぞれ表している。
この様な図15の記載から明らかな通り、予圧F0 やラジアル荷重Fr の値が異なると、アキシアル荷重Fa が同じ場合であっても、上記公転速度ncaと上記ハブ1bの回転速度ni との比「nca/ni 」の値が異なる。しかも、この比「nca/ni 」が、上記予圧F0 やラジアル荷重Fr の値の変動に基づいてずれ動く量は相当に大きくなり、各種車両用走行安定装置を高精度に制御する場合に、無視できない事が考えられる。アキシアル荷重Fa を支承する図13の右側の列を構成する転動体17b、17bの公転速度ncbにより、このアキシアル荷重Fa を測定する場合でも同様である。これに対して先発明の場合には、前記1対の公転速度検出用センサ30a、30bにより、接触角αa 、αb の方向が互いに異なる(逆である)1対の列の転動体17a、17bの公転速度nca、ncbをそれぞれ検出する事により、上記予圧F0 やラジアル荷重Fr の値の変動の影響を少なく抑えつつ、転がり軸受ユニットに負荷されるアキシアル荷重Fa を測定する様にしている。即ち、先発明の荷重測定装置の場合には、上記両公転速度検出用センサ30a、30bにより、接触角αa 、αb の大きさが同じで方向が互いに異なる1対の列の転動体17a、17bの公転速度nca、ncbをそれぞれ検出して、図示しない演算器(制御器)が、これら両公転速度nca、ncbに基づいて、上記アキシアル荷重Fa を求める。
この様に、これら両公転速度nca、ncbに基づいてこのアキシアル荷重Fa を求めるには、次の(1) 〜(4) のうちの何れかの方法を採用する。
(1) 一方の列の転動体17a、17aの公転速度ncaと他方の列の転動体17b、17bの公転速度ncbとの比「ncb/nca」に基づいて、前記外輪13と前記ハブ15との間に加わるアキシアル荷重Fa を算出する。
(2) 一方の列の転動体17a、17aの公転速度ncaと他方の列の転動体17b、17bの公転速度ncbとの差「ncb−nca」に基づいて、上記外輪13と上記ハブ15との間に加わるアキシアル荷重Fa を算出する。
(3) 一方の列の転動体17a、17aの公転速度ncaと他方の列の転動体17b、17bの公転速度ncbとの差「ncb−nca」と、上記ハブ15の回転速度ni との比「(ncb−nca)/ni 」に基づいて、上記外輪13と上記ハブ15との間に加わるアキシアル荷重Fa を算出する。
(4) 一方の列の転動体17a、17aの公転速度ncaを表す信号と他方の列の転動体17b、17bの公転速度ncbを表す信号とを合成して得られる合成信号に基づいて、上記外輪13と上記ハブ15との間に加わるアキシアル荷重を算出する。
これら(1) 〜(4) のうちの何れかの方法を採用すれば、前記予圧F0 やラジアル荷重Fr の値の変動の影響を少なく抑えつつ、転がり軸受ユニットに負荷されるアキシアル荷重Fa を測定できる。
尚、上述の説明は、上記外輪13と上記ハブ15との間に加わるアキシアル荷重Fa を算出する場合に就いて行なったが、同様の構成で、これら外輪13とハブ15との間に加わるラジアル荷重Fr を算出する事もできる。この場合には、両列の転動体17a、17bの公転速度nca、ncbを足し合わせる。図14から明らかな通り、上記アキシアル荷重Fa を支承する列を構成する転動体17b、17bの公転速度ncbが速くなる程度△ncbと、このアキシアル荷重Fa を支承しない列を構成する転動体17a、17aの公転速度nca遅くなる程度△ncaとは、ほぼ等しく、正負は逆である(|△ncb|≒|△nca|、△ncb+△nca≒0)。従って、上記両列の転動体17a、17bの公転速度nca、ncbを足し合わせれば、上記アキシアル荷重Fa の影響をほぼ排除できる。即ち、上記両列の公転速度nca、ncbの和に基づいて上記ラジアル荷重Fr を求める事により、上記アキシアル荷重Fa の影響を軽微に抑え、このラジアル荷重Fr を正確に求められる。
又、上記アキシアル荷重Fa の影響を抑えて上記ラジアル荷重Fr を正確に算出する事は、上記両列の公転速度nca、ncbを掛け合せる(積を求める)事でも行なえる。即ち、上記アキシアル荷重Fa の増減により上記両列の公転速度nca、ncbはほぼ同じだけ増大又は減少するので、これら両列の公転速度nca、ncbを掛け合せる事で、上記アキシアル荷重Fa の増減による影響を低減できる。具体的には、上記両列の公転速度nca、ncbの積(nca×ncb)と、上記ハブ15の回転速度ni の二乗との比{(nca×ncb)/ni 2}に基づいて、ラジアル荷重Fr を算出する。
以上に述べた、先発明に係る転がり軸受ユニットの荷重測定装置は、比較的低コストで造れて、しかも、転がり軸受ユニットを構成するアキシアル荷重Fa 或はラジアル荷重Fr を正確に求められるものである。但し、上記先発明を記載した明細書及び図面中には、求めたアキシアル荷重Fa 或はラジアル荷重Fr をスタビリティ向上の為に利用する場合の具体的構造に就いては、特に記載されていない。
実用新案登録第2543369号公報 特開平3−209016号公報 特公昭62−3365号公報 青山元男、「レッドバッジシリーズ/245/スーパー図解/クリマの最新メカがわかる本」、(株)三推社/(株)講談社、平成13年12月20日
本発明は、上述の様に事情に鑑みて、上述した先発明の転がり軸受ユニットの荷重測定装置を利用する等により、走行安定性をより向上させるべく、制御の応答性を向上させる事ができるスタビリティコントロール装置を実現すべく発明したものである。
本発明のスタビリティコントロール装置は、車体に対して各車輪を回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットのそれぞれに、当該車輪支持用転がり軸受ユニットにより支持された車輪と路面との接触面に作用する、車輪の滑りを阻止する方向に加わるグリップ力に基づいて出力を変化させるグリップ検知手段を設けている。そして、このグリップ検知手段の検出信号を入力した制御器が、車両の走行安定性を確保する為の制御を行なう。
上述の様に構成する本発明のスタビリティコントロール装置によれば、車輪と路面との接触面に実際に作用しているグリップ力に基づいて、車両の走行安定性を確保する為の制御を行なえる。この為、この制御を、車体と車輪との間に設けた、懸架装置用のばねの伸縮に基づく時間的遅れの影響を受ける事なく、上記グリップ力が不足した瞬間から開始させられる。この結果、制御の応答性を高めて、車両の走行安定性をより向上させる事ができる。
本発明を実施する場合に好ましくは、制御器は、標準グリップ力と実グリップ力とを比較して、これら両グリップ力が閾値を越えて異なった場合に車両の安定性を確保する為の制御を行なう。
この為に上記制御器に、次の(a) 〜(c) の機能を持たせる。
(a) 各車輪と路面との接触面で車両の走行安定性を阻害する滑りが発生しない場合に、これら各車輪毎の接触面に加わると考えられる標準グリップ力に関連して変化する値を算出する機能。
この機能を果たす為に上記制御器は、速度センサが検出した車両の走行速度を表す速度信号と、車体に取り付けた加速度センサが検出したこの車両に加わる加速度を表す信号(請求項2に係る発明の場合)、或は、舵角センサが検出したステアリングホイールの操作に基づいて操舵輪に付与される舵角を表す信号(請求項3に係る発明の場合)とにより、標準グリップ力に関連して変化する値を算出する。
(b) 各車輪支持用転がり軸受ユニットに組み付けたグリップ検知手段の検出信号から求められる、実際に上記各車輪毎の接触面に加わっている実グリップ力に関連して変化する値と上記標準グリップ力に関連して変化する値とを比較する機能。
(c) これら実グリップ力に関連して変化する値と標準グリップ力に関連して変化する値とが予め設定した閾値を越えて異なった場合に、車両の安定性を確保する為の制御を行なう機能。
この様な構成を採用する事により、何れか又は総ての車輪のグリップが低下若しくは喪失した事を迅速且つ確実に検知して、上記車両の安定性を確保する為の制御を効果的に行なえる。
上記請求項2、3に係る好ましい構造を実施する場合、上記(b) の機能を果たす為に必要なグリップ検知手段として好ましくは、請求項4に係る発明の様に、上記各車輪支持用転がり軸受ユニットの静止輪に支持されて、この静止輪に加わる加速度を検出する加速度センサを使用する。この場合に上記制御器は、上記(c) の機能を果たす為に、上記各車輪と路面との接触面に、例えば操舵角と車速とから求められる標準グリップ力が作用している場合に上記静止輪に加わると考えられる標準加速度と、上記加速度センサが検出する、実際にこの静止輪に加わっている実加速度とを比較する。そして、この実加速度と上記標準加速度とが予め設定した閾値を越えて異なった場合に、上記車両の安定性を確保する為の制御を行なう。
或は、上記請求項2、3に係る好ましい構造を実施する場合、上記(b) の機能を果たす為に必要なグリップ検知手段として好ましくは、請求項5に係る発明の様に、上記各車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転輪と静止輪との間に加わる荷重を検出する荷重検知手段を使用する。この場合に上記制御器は、上記(c) の機能を果たす為に、上記各車輪と路面との接触面に標準グリップ力が作用している場合に上記回転輪と静止輪との間に加わると考えられる標準荷重と、上記荷重検知手段が検出する、実際にこれら回転輪と静止輪との間に加わっている実荷重とを比較する。そして、この実荷重と上記標準荷重とが予め設定した閾値を越えて異なった場合に、上記車両の安定性を確保する為の制御を行なう。
この様な請求項5に係る発明を実施する場合に好ましくは、請求項6に係る発明の様に、車輪支持用転がり軸受ユニットとして、互いに同心に配置された静止輪と回転輪との互いに対向する部分にそれぞれ2列以上ずつ形成された静止側軌道と回転側軌道との間にそれぞれ複数個ずつ、少なくとも1対の列同士の間で接触角の方向を互いに逆にして転動自在に設けられた転動体を備えたものを使用する。そして、荷重検知手段が、接触角の方向が互いに異なる1対の列の転動体の公転速度をそれぞれ検出する為の、少なくとも1対の公転速度検出用センサと、これら各公転速度検出用センサから送り込まれる検出信号に基づいて上記静止輪と上記回転輪との間に加わるアキシアル荷重を算出する演算器とを備えたものとする。
更に、制御器が、車両の走行安定性を確保する為の制御を行なう際に好ましくは、請求項7に係る発明の様に、アクセルペダルの踏み込み量に関係なくエンジンの出力を低下させるエンジン出力制御と、ブレーキペダル操作の有無に関係なく各車輪に付属したブレーキ装置のうちの少なくとも1個のブレーキにより当該車輪に制動力を付与するブレーキ制御と、パワーステアリング装置のアシスト力を調整する制御と、ステアリング装置のギヤ比を調整する制御と、自動変速機の変速比を調整する制御とのうちの少なくとも1種類の制御を行なう。尚、走行安定性を確保する為には、上記アシスト力を低減したり、ギヤ比を大きくする事で、急な操舵が行なわれにくくする。又、自動変速機の変速比に関しては、増速側に変速して、駆動輪に伝達するトルクを低くする。この場合に使用する自動変速機としては、変速のレスポンスが早い、トロイダル型無段変速機が有利である。
図1は、本発明の実施例1である、請求項1、2、5、6、7に対応するスタビリティコントロール装置の機能を示すフローチャートである。この様な図1と前述の図3、5、6、9、10、11とを参照しつつ、上記実施例1の構造及び作用に就いて説明する。本実施例の場合、制御器7(図3)は、車両に設けた前後左右4個の車輪1FL、1FR、1RL、1RR(図3)に付属させた各回転速度センサ2FL、2FR、2RL、2RR(図3)の検出信号から、或は図示しないトランスミッションに組み込んだ車速センサの検出信号から、車体速度(車両の走行速度)を算出する。そして、この車体速度と、加速度センサ10(図3)が検出した、車両の横方向に加わる加速度(横G)とに基づいて、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRと路面との接触面で車両の走行安定性を阻害する滑りが発生しない標準状態に対応して、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRと路面との接触面に加わる標準グリップ力を算出する。この標準グリップ力は、これら各車輪1FL、1FR、1RL、1RRの軸方向に加わるアキシアル荷重として求める事が、後の処理(実グリップ力との比較)を容易にする面から、有利である。
又、上記制御器7は、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRを回転自在に支持する為、これら各車輪1FL、1FR、1RL、1RRと懸架装置との間に設けた、前述の図9或は図10、11に示す様な転がり軸受ユニットの荷重測定装置からの信号に基づいて、実際に上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRに加わる実グリップ力を算出する。例えば、上記図10、11に示した転がり軸受ユニットの荷重測定装置で、回転輪であるハブ15と静止輪である外輪13との間に作用するアキシアル荷重は、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRと路面との接触面でこれら各車輪1FL、1FR、1RL、1RRの軸方向{車体12(図5)の幅方向}に加わるグリップ力に対応(比例)する。従って、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRに付属の荷重測定装置からの信号に基づいて、実際に上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRに加わる実グリップ力を、容易、迅速、且つ正確に算出できる。尚、上記実グリップ力を、上記外輪13に加わる加速度を検出する加速度センサ19(図8)からの信号に基づいて算出しても良い。
上記制御器7は、上述の様にして標準グリップ力と実グリップ力とを算出した後、これら標準グリップ力と実グリップ力との偏差(グリップ力偏差)を求める。そして、このグリップ力偏差が、車両の走行安定性を損なう程大きいと判断した場合に上記制御器7は、この走行安定性を確保すべく、前記エンジン及び上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRに付属の各ブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RR(図3)の制御を行なう。本実施例は、オーバーステア時に車両の安定性確保を図る場合に有効な制御である。従って、例えば、前述の図5(A)に示す様に、右方への進路変更時にオーバーステアが発生した場合に、左前の車輪1FLに付属のブレーキ装置3FLに、比較的大きな制動力を発生させ、他の車輪1FR、1RL、1RRに付属のブレーキ装置3FR、3RL、3RRには、制動力を発生させないか、発生させた場合でも比較的小さな制動力のみを発生させる。この結果、上記左前の車輪1FLから車体12に、図5(A)に矢印ロで示す方向の修正旋回モーメントを加えて、オーバーステアの状態を解消する。
尚、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRに付属の前記各回転速度センサ2FL、2FR、2RL、2RRの検出信号に基づいて制御されるアンチロックブレーキシステム(ABS)の制御信号から分かる、制動時の滑り率、或は別途車体12に設けたヨーレートセンサ11(図3)の検出信号に基づいて、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRと路面との接触面の摩擦抵抗(路面μ値)を推定する。そして、上記各ブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RRに導入する油圧の値を、互いに独立した状態で微調節する。又、図6に示す様に、これら各ブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RRに導入する油圧を調節すると同時に、エンジンの一部のシリンダへの燃料の供給を低減若しくは停止する事により、このエンジンの出力を低下させて、駆動輪から上記車体12に、それ以上オーバステアに繋がる力が加わらない様にする。更には、舵角センサと速度センサとの信号に基づく計算値と、ヨーレートセンサの信号に基づく計算値とから上記摩擦抵抗を推定し、この摩擦抵抗に基づき得られるグリップ力と、その時点での実グリップ力とを比較して、車両の安定性が失われない様にする、フィードフォワード制御も可能になる。
図2は、本発明の実施例2である、請求項1、3、5、6、7に対応するスタビリティコントロール装置の機能を示すフローチャートである。この様な図1と前述の図3、5、6、9、10、11とを参照しつつ、上記実施例2の構造及び作用に就いて説明する。本実施例の場合、制御器7(図3)は、車両に設けた前後左右4個の車輪1FL、1FR、1RL、1RR(図3)に付属させた各回転速度センサ2FL、2FR、2RL、2RR(図3)の検出信号から、或は図示しないトランスミッションに組み込んだ車速センサの検出信号から、車体速度(車両の走行速度)を算出する。そして、この車体速度と、舵角センサ9(図3)が検出した、ステアリングホイール8(図3)の操作に基づいて操舵輪(左右1対の前輪)に付与する舵角の大きさと付与する速度とに基づき、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRと路面との接触面で車両の走行安定性を阻害する滑りが発生しない標準状態に対応して、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRと路面との接触面に加わる標準グリップ力を、例えばこれら各車輪1FL、1FR、1RL、1RRの軸方向に加わるアキシアル荷重として算出する。又、上記制御器7は、上述した実施例1と同様にして、実際に上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRに加わる実グリップ力を算出する。
上記制御器7は、上述の様にして標準グリップ力と実グリップ力とを算出した後、これら標準グリップ力と実グリップ力との偏差(グリップ力偏差)を求める。そして、このグリップ力偏差が、車両の走行安定性を損なう程大きいと判断した場合に上記制御器7は、この走行安定性を確保すべく、前記エンジン及び上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRに付属の各ブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RR(図3)の制御を行なう。本実施例は、アンダーステア時に車両の安定性確保を図る場合に有効な制御である。従って、例えば、前述の図5(B)に示す様に、右方への進路変更時にアンダーステアが発生した場合に、左後の車輪1RLに付属のブレーキ装置3RLが発生する制動力を零若しくは小さくし、他の車輪1FR、1FL、1RRに付属のブレーキ装置3FR、3FL、3RRには、比較的大きな制動力を発生させて、車体12に、図5(B)に矢印ニで示す方向の修正旋回モーメントを加えて、アンダーステアの状態が解消する。
本実施例の場合も、制動時の滑り率、或は別途車体12に設けたヨーレートセンサ11(図3)の検出信号に基づいて、上記各車輪1FL、1FR、1RL、1RRと路面との接触面の摩擦抵抗(路面μ値)を推定して、上記各ブレーキ装置3FL、3FR、3RL、3RRに導入する油圧の値を、互いに独立した状態で微調節すると共に、例えば図6に示す様に、エンジンの出力も調節する。
本発明の実施例1の機能を説明する為のフローチャート。 同実施例2の機能を説明する為のフローチャート。 従来から知られているスタビリティコントロール装置の1例を示す略平面図。 このスタビリティコントロール装置の機能の第1例を示すフローチャート。 このスタビリティコントロール装置の作動状態の2例を説明する為の、車両の略平面図。 このスタビリティコントロール装置の作動時に於ける各部の制御状態を示す線図。 このスタビリティコントロール装置の機能の第2例を示すフローチャート。 従来から知られている加速度センサ付車輪支持用転がり軸受ユニットの1例を示す断面図。 従来から知られている荷重センサ付車輪支持用転がり軸受ユニットの1例を示す断面図。 先発明に係る荷重測定装置付車輪支持用転がり軸受ユニットの1例を示す断面図。 図10のA部拡大図。 転動体と保持器とエンコーダと回転検出センサとを取り出して図10の上方から見た模式図。 各列の転動体の公転速度に基づいて荷重測定を行なえる理由を説明する為の模式図。 アキシアル荷重と各列の転動体の公転速度との関係を示す線図。 予圧及びラジアル荷重とアキシアル荷重を支承しない転動体の公転速度との関係を示す線図。
符号の説明
FL、1FR、1RL、1RR 車輪
FL、2FR、2RL、2RR 回転速度センサ
FL、3FR、3RL、3RR ブレーキ装置
4 ブレーキペダル
5 マスタシリンダ
6 油圧制御ユニット
7 制御器
8 ステアリングホイール
9 舵角センサ
10 加速度センサ
11 ヨーレートセンサ
12 車体
13、13a 外輪
14 外輪軌道
15、15a ハブ
16 内輪軌道
17、17a、17b 転動体
18 カバー
19 加速度センサ
20 アンプ
21 固定側フランジ
22 ナックル
23 ボルト
24 ねじ孔
25 荷重センサ
26a、26b 保持器
27 支持孔
28 センサユニット
29 検出部
30a、30b 公転速度検出用センサ
31 回転速度検出用センサ
32 リム部
33a、33b 公転速度検出用エンコーダ
34 回転速度検出用エンコーダ

Claims (7)

  1. 車体に対して各車輪を回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットのそれぞれに、当該車輪支持用転がり軸受ユニットにより支持された車輪と路面との接触面に作用する、車輪の滑りを阻止する方向に加わるグリップ力に基づいて出力を変化させるグリップ検知手段を設け、このグリップ検知手段の検出信号を入力した制御器が、車両の走行安定性を確保する為の制御を行なうスタビリティコントロール装置。
  2. 制御器は、速度センサが検出した車両の走行速度を表す速度信号と、車体に取り付けた加速度センサが検出したこの車両に加わる加速度を表す信号とにより、各車輪と路面との接触面で車両の走行安定性を阻害する滑りが発生しない場合に、これら各車輪毎の接触面に加わると考えられる標準グリップ力に関連して変化する値を算出する機能と、各車輪支持用転がり軸受ユニットに組み付けたグリップ検知手段の検出信号から求められる、実際に上記各車輪毎の接触面に加わっている実グリップ力に関連して変化する値と上記標準グリップ力に関連して変化する値とを比較する機能と、これら実グリップ力に関連して変化する値と標準グリップ力に関連して変化する値とが予め設定した閾値を越えて異なった場合に車両の安定性を確保する為の制御を行なう機能とを有する、請求項1に記載したスタビリティコントロール装置。
  3. 制御器は、速度センサが検出した車両の走行速度を表す速度信号と、舵角センサが検出したステアリングホイールの操作に基づいて操舵輪に付与される舵角を表す信号とにより、各車輪と路面との接触面で車両の走行安定性を阻害する滑りが発生しない場合に、これら各車輪毎の接触面に加わると考えられる標準グリップ力に関連して変化する値を算出する機能と、各車輪支持用転がり軸受ユニットに組み付けたグリップ検知手段の検出信号から求められる、実際に上記各車輪毎の接触面に加わっている実グリップ力に関連して変化する値と上記標準グリップ力に関連して変化する値とを比較する機能と、これら実グリップ力に関連して変化する値と標準グリップ力に関連して変化する値とが予め設定した閾値を越えて異なった場合に車両の安定性を確保する為の制御を行なう機能とを有する、請求項1に記載したスタビリティコントロール装置。
  4. グリップ検知手段は、車輪支持用転がり軸受ユニットの静止輪に支持されて、この静止輪に加わる加速度を検出する加速度センサであり、制御器は、各車輪と路面との接触面に標準グリップ力が作用している場合に上記静止輪に加わると考えられる標準加速度と、上記加速度センサが検出する、実際にこの静止輪に加わっている実加速度とを比較し、この実加速度と上記標準加速度とが予め設定した閾値を越えて異なった場合に車両の安定性を確保する為の制御を行なう機能を有する、請求項2〜3の何れかに記載したスタビリティコントロール装置。
  5. グリップ検知手段は、車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転輪と静止輪との間に加わる荷重を検出する荷重検知手段であり、制御器は、各車輪と路面との接触面に標準グリップ力が作用している場合に上記回転輪と静止輪との間に加わると考えられる標準荷重と、上記荷重検知手段が検出する、実際にこれら回転輪と静止輪との間に加わっている実荷重とを比較し、この実荷重と上記標準荷重とが予め設定した閾値を越えて異なった場合に車両の安定性を確保する為の制御を行なう機能を有する、請求項2〜3の何れかに記載したスタビリティコントロール装置。
  6. 車輪支持用転がり軸受ユニットが、互いに同心に配置された静止輪と回転輪との互いに対向する部分にそれぞれ2列以上ずつ形成された静止側軌道と回転側軌道との間にそれぞれ複数個ずつ、少なくとも1対の列同士の間で接触角の方向を互いに逆にして転動自在に設けられた転動体を備えたものであり、荷重検知手段が、接触角の方向が互いに異なる1対の列の転動体の公転速度をそれぞれ検出する為の、少なくとも1対の公転速度検出用センサと、これら各公転速度検出用センサから送り込まれる検出信号に基づいて上記静止輪と上記回転輪との間に加わるアキシアル荷重を算出する演算器とを備えたものである、請求項5に記載したスタビリティコントロール装置。
  7. 制御器は、車両の走行安定性を確保する為の制御を行なう際に、アクセルペダルの踏み込み量に関係なくエンジンの出力を低下させるエンジン出力制御と、ブレーキペダル操作の有無に関係なく、各車輪に付属したブレーキ装置のうちの少なくとも1個のブレーキ装置により当該車輪に制動力を付与するブレーキ制御と、パワーステアリング装置のアシスト力を調整する制御と、ステアリング装置のギヤ比を調整する制御と、自動変速機の変速比を調整する制御とのうちの少なくとも1種類の制御を行なう、請求項1〜6の何れかに記載したスタビリティコントロール装置。
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