JP2005073630A - 酵素の反応性を改変する方法および反応性を改変した修飾酵素 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、メディエーターを用いて酵素を修飾することにより、酵素特性の改変を行うものである。また、本発明は、メディエーターを用いてピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を修飾することにより、酵素特性の改変を行うものである。
【解決手段】タンパク質レベルでの改変方法に着目し、酵素タンパク質を構成するアミノ酸を他の化合物で修飾することにより酵素特性を改善できるのではないかと考えた。種々検討を実施した結果、酵素のアミノ基をフェロセンカルボキシアルデヒドを用いて修飾することにより、フェリシアン化物イオンを電子のメディエーターとして使用する測定系において、反応性、特にpH条件が中性付近である反応条件下での反応性が顕著に向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。


Description

本発明は、メディエーターを用いて酵素を修飾することにより、酵素特性の改変を行うものである。また、本発明は、メディエーターを用いてピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を修飾することにより、酵素特性の改変を行うものである。
酵素は、古くから食品業界や化学業界等、数多くの産業において生体触媒として利用されてきた。そして、自然界から得られる天然型の酵素は、その産業上の求めにより、安定性や基質特異性等が向上するよう人為的な改変が加えられてきた。産業用途上不十分な特性を改変する努力は、酵素の種類に限定されるものではない。酵素特性改変の手段としては、例えば、タンパク質レベルでの改変手段として、タンパク質を構成する特定のアミノ酸を他の化合物で修飾する方法がある。また、遺伝子レベルでの改変手段としては、酵素をコードする遺伝子DNAの塩基配列を改変することにより、アミノ酸の置換、付加、欠失を行う方法がある。
ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性グルコース脱水素酵素(以下PQQGDHとも記載)は、D−グルコースを酸化してD−グルコノ−1,5−ラクトンを生成する反応を触媒する点、及び反応系の溶存酸素の影響を受けず、補酵素添加を必要としない酵素特性を有する点より、血糖の生化学診断薬はもちろん血糖センサー等幅広い用途が期待されてきた。しかしながら、一般的に血糖センサーで電子のメディエーターとして使用されるフェリシアン化物イオンに対して、特にpH条件が一般的な測定条件である中性付近において反応性が低いという問題点があった。これまで遺伝子レベルでの改変手段を用いて種々の特性改良が実施されてきたが、酵素特性の改変効果は限定的なものであり、フェリシアン化物イオンに対する反応性の改善効果を示すものは確認されていない。(例えば、特許文献1〜4参照。)。
特開2001−346587号公報 特開2000−350588号公報 特開2000−312588号公報 特開2001−197888号公報
なお、フェロセン及びフェロセン誘導体を用いて酵素を修飾した例はあるが、我々が見出したような酵素自身の特性が改変されたという記載はない。まして、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を修飾することにより酵素特性を改変したという報告はない(例えば、特許文献5参照。)。
特開平6−90754号公報
そこで、我々はタンパク質レベルでの改変方法に着目し、酵素タンパク質を構成するアミノ酸を他の化合物で修飾することにより酵素特性を改善できるのではないかと考えた。種々検討を実施した結果、酵素のアミノ基をフェロセンカルボキシアルデヒドを用いて修飾することにより、フェリシアン化物イオンを電子のメディエーターとして使用する測定系において、反応性、特にpH条件が中性付近である反応条件下での反応性が顕著に向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
項1.
メディエーターで修飾することにより、酵素の特性を改変する方法
項2.
酵素が、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素である、項1に記載の方法
項3.
酵素の特性が反応性である、項1あるいは2記載の方法
項4.
中性付近での反応性が向上した、項1〜3のいずれか1項に記載の方法
項5.
メディエーターがフェロセンまたはフェロセン誘導体である、項1〜4のいずれか1項に記載の方法
項6.
項1〜5のいずれか1項に記載の方法により、特性が改変された酵素
項7.
項1〜5のいずれか1項に記載の方法により、特性が改変されたグルコース脱水素酵素を含むグルコースアッセイキット
項8.
項1〜5のいずれか1項に記載の方法により、特性が改変されたグルコース脱水素酵素を含むグルコースセンサー
上述した本発明において、実施例から明らかなように、メディエーターを用いてピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を修飾することにより、酵素特性の改変を行うものである。
本発明でいう酵素とは生体内において種々の化学反応を触媒する蛋白質を指し、由来や構造に関しては特に限定するものではない。また、触媒としての本質が失なわれない範囲で、少なくとも1つのアミノ酸を付加、欠失、挿入される等の改変が行なわれたものであっても良い。
本発明でいうピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素とは、ピロロキノリンキノンを補酵素として配位し、D−グルコースを酸化してD−グルコノ−1,5−ラクトンを生成するという反応を触媒する酵素であり、由来や構造に関しては特に限定するものではない。また、触媒としての本質が失なわれない範囲で、少なくとも1つのアミノ酸を付加、欠失、挿入される等の改変が行なわれたものであっても良い。
本発明でいうメディエーターとは、特に限定されないが、フェロセン、フェロセン誘導体、p−ベンゾキノン、フェナジンメトサルフェート(PMS)、フェリシアン化カリウム、1−メトキシ−PMS、があげられ、特にフェロセン、フェロセン誘導体が好ましい。フェロセン誘導体としては、特に限定されるものではないが、例えばフェロセンカルボキシアルデヒド、フェロセンモノカルボン酸、フェロセン酢酸、1,1’−ジメチルフェロセン、ヒドロキシエチルフェロセン、フェロセン1,1’−ジカルボン酸、1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)フェロセン、クロロフェロセン、メチルトリメチルアミノフェロセンが挙げられる。
本発明でいう「酵素特性」とは、特に限定されないが、実用上考慮すべき特性として、反応性、安定性、Km値、基質特異性、至適pH、至適温度からなる群より選ばれる、少なくとも一つが、代表的なものとして挙げられる。
本発明でいう「酵素特性の向上」とは、本発明を実施した場合に、適当な方法で特性を評価した結果が、本発明を実施していない場合と比べて優位なことをいう。
特性評価の方法については、当業者における常識の範囲内であり、かつ、両者の差が明らかになる条件であれば任意に設定してよいし、目的に応じて、さらに好ましい条件を選択することもできる。代表的な酵素特性については、次のような方法で評価することが好ましい。
本発明における反応性とは、一定条件における酵素の触媒能の程度を示す。酵素タンパク質量を基準にして考えた場合の比活性や酵素1分子を基準として考えた場合の分子活性と同義で用いる。また、反応性の向上とは一定条件における酵素の触媒能の向上を意味する。反応性は、活性測定を行ったときの測定感度等種々の公知の方法で評価することができる。
本発明における安定性とは、一定状態における保存後の酵素活性の残存割合で評価される。例えば、本発明を実施した場合の活性残存率が、本発明を実施していない場合と比べて高い場合、安定性が向上したと判断される。通常、安定性は低下するより向上するほうが、使用形態(キットやセンサーなど)を考えた場合、好ましい。
本発明においては、0.1%TritonX−100、0.1%BSAを含むPIPES―NaOH緩衝液(pH6.5)中で35℃、7日間保存を行うことが好ましい。なお、保存における、酵素の濃度は、特に限定されないが、酵素の使用目的に応じて、その酵素が本来の性能を保持できる範囲に設定されていればよい。PQQGDHの場合、好ましくは0.1〜10 IU/MLの範囲内、より好ましくは2〜5 IU/MLの範囲内である。
本発明におけるある物質に対するKm値(ミカエリス定数)は、酵素の基質となりうる物質との親和性に関連する指標の1つであり、公知の方法で測定することができる。例えばPQQGDHのグルコースに対するKm値は、実施例2に記載の方法においてグルコースの濃度をいくつかの水準で変更した各基質濃度におけるPQQGDH活性をそれぞれ測定し、ラインウィーバー バークの式(Lineweaver−Burk equation)よりKm値を算出した。
本発明における比活性とは、単位重量の酵素分子あたりの活性であり、より詳しくは精製酵素1mgあたりの酵素活性の単位である。
本発明における基質特異性とは、酵素の基質に対する選択性の幅のことである。「基質特異性が改変された」という場合、ある基質と他の1つ以上の基質に対する反応性の相対比が、改変の前後で異なることをいう。
本発明の、メディエーターで修飾することにより酵素の特性を改変する方法は、特に限定されないが、以下に示すような手順で行なうことが可能である。
精製した未修飾のホロ型ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を、フェロセン誘導体で反応しやすくするために、適当なアルカリバッファー、例えばピロリン酸溶液、リン酸溶液で、アルカリ溶液条件にする。ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素溶液に対して、メディエーター、特にフェロセン誘導体、例えばフェロセンカルボキシアルデヒドを添加し、さらに反応を固定するため還元剤、例えば水素化ホウ酸ナトリウムを添加し、酵素とシッフ塩を形成させる。反応後、適当な中性条件のバッファー、例えばリン酸溶液で透析することにより、未反応のメディエーターや還元剤を除く。このようにしてメディエーターで修飾されたピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を得ることが出来る。
なお、精製した未修飾のホロ型ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素は公知の方法で取得すればよい。
メディエーターで修飾することにより、酵素の特性が改変される理由としては、次のような推論が可能である。
フェロセン誘導体を例として考えた場合、アミノ基修飾により、活性中心も含めた酵素表面にフェロセン誘導体が結合する。未修飾のPQQGDHの場合は、基質の酸化により伝達される電子が、酵素のPQQから直接メディエーターのフェリシアン化物に伝達されなくてはならず、電位差が大きいため、電子が伝達されにくく、反応性が低い。一方、フェロセン誘導体で修飾することにより、PQQとメディエーターのフェリシアン化物との間に、中間電位のフェロセン誘導体を経ることが可能になり、電子の流れがスムーズになり、反応性が向上する。また、基質特異性については、修飾により活性中心を含めた酵素表面がメディエーターで覆われるため、基質結合などにおける立体的な制約がより厳密になる可能性が考えられる。このために、フェロセン修飾により反応性や基質特異性の向上が生じたと考えられる。
上記の推論より、本発明において、修飾は酵素表面において直接行なわれることが好ましい。より好ましくは活性中心付近において行なわれることが好ましい。あるいは別の見方では、本発明において、修飾は酵素表面から修飾するメディエーター分子の大きさを超えない距離以内で行なわれることが望ましい。したがって、酵素およびメディエーター以外に由来するスペーサーを介して修飾を行なった場合や、糖鎖などの側鎖を持つ酵素の場合にその側鎖に修飾を行った場合は、活性中心とメディエーター間で距離があるため、電子が伝達されにくく反応性が低いと考えられるので、この様な方法は選択しないことが好ましい。また、酵素およびメディエーター以外に由来するスペーサーを介して修飾を行なう場合は、工程が増えることにより操作が煩雑となる、修飾酵素を得る全工程の収率が低下する、などの問題点があると考えられるので、この様な方法は選択しないことが好ましい。
さらに、本願発明の酵素の特性を改変する方法において、例えば、尿素処理により立体構造をほどいた上で、中性条件下でフェロセン誘導体を反応させた場合(例えば、特許文献5を参照。)では、立体構造内部のアミノ基を修飾するために、酵素活性に必要なアミノ酸残基までも修飾する可能性が高く、修飾後に活性を有する立体構造を形成できず、酵素失活を引き起こす。すなわち、フェロセン誘導体反応後に活性を有する修飾酵素を得る可能性は低い。
1つの好ましい方法として、修飾後に酵素失活を引き起こすことのないように、立体構造を保ったままフェロセン誘導体を反応させる方法が挙げられる。すなわちフェロセン誘導体が反応しやすいアルカリ条件下(弱アルカリ、pH10付近)にすることで、酵素の立体構造を保ったまま反応させる。
反応させる酵素濃度は、50mg/ml以下が望ましい。酵素濃度が濃すぎると不溶化の原因となる。また、修飾させるフェロセン誘導体としては、フェロセンカルボキシアルデヒド、フェロセンモノカルボン酸、フェロセン酢酸、1,1’−ジメチルフェロセン、ヒドロキシエチルフェロセン、フェロセン1,1’−ジカルボン酸、1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)フェロセン、クロロフェロセン、メチルトリメチルアミノフェロセンが挙げられるが、特にフェロセンカルボキシアルデヒドを用いることが望ましい。反応に添加するフェロセン誘導体は、反応する酵素の酵素濃度とアミノ基数から判断して、アミノ基を充分修飾する量であればよい。例えば、配列番号1記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素の場合、10mg/mlの酵素濃度は約0.1mM相当であり、また反応対象のリジン残基が全455アミノ酸中33残基存在する。10mg/mlの酵素濃度を例とすると、少なくとも1.5mM(0.1×455/33≒1.5)のフェロセン誘導体、望ましくはそれ以上、出来れば5mM濃度のフェロセン誘導体、を反応させればよい。その際、バッファー条件としては、pH10付近のアルカリ条件が望ましく、ピロリン酸バッファーが例として挙げられる。バッファー濃度は、充分な緩衝能を示すバッファー濃度でなくてはならず、10mM〜100mMが望ましい。
反応条件は、厳格に規定しなくてもよく、反応温度は室温、一般的には15℃〜30℃であればよく、反応時間は、5〜30分、望ましくは5分以上15分以下、で充分である。
修飾反応後、反応を固定化するために、還元剤を添加する必要性があるが、一般的には反応に使用したフェロセン誘導体と等量の還元剤を添加する。固定化の反応は速やかに終了するため、特に規定する必要性もないが、1分程度で充分である。
固定化反応後、未反応のフェロセン誘導体や還元剤を除去する必要性があるが、中性条件のバッファー、例えばpH7.0のリン酸バッファーやPIPESバッファーを用いて透析を行えばよい。その際、温度条件は低温、特に10℃以下が望ましい。
この条件においてもなお、活性中心も含めた酵素表面のアミノ基すべてが外部に提示されているが、変性を加えないマイルドな条件であるので、できるだけ酵素失活を引き起こさず好ましいと考えられる。さらにこの条件では、アミノ基の電位の高いリジン残基のアミノ基が優先的に修飾されると考えられるので、高収率で特性が改変された酵素を得ることができ好ましいと考えられる。なお、修飾反応の程度のコントロールは、メディエーターと酵素それぞれの濃度およびその比率、バッファー(種類、反応pH、濃度など)、還元剤(種類、反応pH、濃度など)、および各工程の温度、時間などを適宜選択できる。
グルコースアッセイキット
本発明はまた、本発明に従う修飾されたピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を含むグルコースアッセイキットを特徴とする。本発明のグルコースアッセイキットは、本発明に従うグルコース脱水素酵素を少なくとも1回のアッセイに十分な量で含む。典型的には、キットは、本発明のグルコース脱水素酵素に加えて、アッセイに必要な緩衝液、メディエーター、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明に従う修飾されたピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素は種々の形態で、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。
グルコースセンサー
本発明はまた、本発明に従う修飾されたピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を用いるグルコースセンサーを特徴とする。電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上に本発明の酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。好ましくは本発明のグルコース脱水素酵素はホロ化した形態で電極上に固定化するが、アポ酵素の形態で固定化し、ピロロキノリンキノンを別の層としてまたは溶液中で提供することもできる。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のグルコース脱水素酵素をカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
グルコース濃度の測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、PQQおよび配位金属、およびメディエーターを加えて一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明のグルコース脱水素酵素を固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
以下、フェロセンカルボキシアルデヒドを用いてピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を修飾した実施例により、本発明を具体的に説明する。言うまでもなく本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>修飾ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素の取得

アシネトバクター バウマンニ(Acinetobacter baumannii) NCIMB11517株由来のホロ型ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素の精製標品約10mg/ml(10mM PIPES,pH7.0)を、100mM ピロリン酸溶液(pH10.0)で4倍体積量に希釈後、100mM フェロセンカルボキシアルデヒド(50% エタノールで溶解)を1/20体積量添加した。室温で10分間ゆるやかに攪拌後、終濃度約5mMとなるように水素化ホウ酸ナトリウムを粉末添加し、反応を完了した。その後、50mM リン酸溶液(pH7.0)で透析を実施した。より具体的には、酵素溶液の100倍体積量のバッファー中で、8時間ないし16時間間隔で3度バッファーを交換した。このようにして未反応のフェロセンカルボキシアルデヒドを除去した後、修飾ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を回収した。

<式1>本反応を化学式で記載する。
Fe(C5H5)(C5H4)−CHO + H2N−Protein
⇔ Fe(C5H5)(C5H4)−CH=N−Protein + H2O
Fe(C5H5)(C5H4)−CH=N−Protein +2H
→Fe(C5H5)(C5H4)−CH2−NH−Protein
(注)H2N−Proteinとは酵素タンパクのアミノ基を指す。

なお、本反応に使用したピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列を配列表の配列番号1に、DNA配列を配列表の配列番号2に示す。

<実施例2>修飾ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素の
酵素特性確認
修飾ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素の比活性、Km値を確認した。以下に活性測定法、各特性確認法、及びその結果を示す。

ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素活性の測定方法
・ 測定原理
PQQGDH
D−グルコース+フェリシアン化物イオン→
D−グルコノ−1,5−ラクトン + フェロシアン化物イオン
フェリシアン化物イオンの還元により生じたフェロシアン化物イオンの存在は、分光光度法により波長420nmでの吸光度の減少を測定することで確認した。
・ 単位の定義
1単位は、以下に記載の条件下で1分間当たり1ミリモルのD−グルコースを酸化させるピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素の酵素量をいう。
(3)方法
試薬
A.D−グルコース溶液:1M(1.8g D−グルコース(分子量180.16)/10mlH2O)
B.PIPES−NaOH緩衝液, pH6.5:50mM(60mLの水中に懸濁した1.51gのPIPES(分子量302.36)を、5N NaOHに溶解し、2.2mlの10% Triton X−100を加える。5N NaOHを用いて25℃でpHを6.5±0.05に調整し、水を加えて100mlとした。)
C.フェリシアン化カリウム溶液:50mM(0.165g フェリシアン化カリウム(分子量329.25)/ 10ml H2O)
D.蒸留水
E.酵素希釈液:1mM CaCl, 0.1% Triton X−100, 0.1% BSAを含む50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5)

手順
・ 遮光ビンに以下の反応混合物を調製し、氷上で貯蔵した(用事調製)
0.9ml D−グルコース溶液 (A)
25.5ml PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5) (B)
2.0ml フェリシアン化カリウム溶液 (C)
1.0ml 蒸留水 (D)
Figure 2005073630
・ 3.0mlの反応混合液を試験管(プラスチック製)に入れ、37℃で5分間予備加温した。
・ 0.1mlの酵素溶液を加え、穏やかに混合した。
・ 420nmでの水に対する吸光度の減少を37℃に維持しながら分光光度計で4〜5分間記録し、曲線の初期直線部分からの1分間当たりのΔODを計算した(ODテスト)
同時に、酵素溶液に代えて酵素希釈液(E)加えることを除いては同一の方法を繰り返し、ブランク(ΔODブランク)を測定した。
酵素溶液は、アッセイの直前に氷冷した酵素希釈液(E)で1.0U/ml程度に希釈した(該酵素の接着性のためにプラスチックチューブの使用が好ましい)
計算
活性を以下の式を用いて計算する:
体積活性(U/ml)={ΔOD/min(ΔODテスト− ΔODブランク)×Vt×df}/(1.04×1.0×Vs)
重量活性(U/mg)=(U/ml)×1/C
Vt:総体積(3.1ml)
Vs:サンプル体積(0.1ml)
1.04:フェリシアン化カリウムのミリモル分子吸光係数
1.0:光路長(cm)
df:希釈係数
C:溶液中の酵素濃度(c mg/ml)
比活性の測定
単位液量あたりのタンパク含量をBradford法プロテインアッセイキット(Biorad社製)を用いて測定した。上記活性測定法により単位液量あたりの活性値を測定し、単位液量あたりの活性値を単位液量あたりのタンパク含量で割ることで、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素の比活性を求めた。
なお、pH4.0条件での比活性の測定においては、上記(B)試薬をAcetate緩衝液,pH4.0に変更して、実施した。
(結果)修飾PQQGDHでの比活性向上、特に中性条件での比活性向上が確認された。
Figure 2005073630
Km値の測定
上記活性測定法において、反応試薬中のグルコース濃度を0.1mMから1.7mMへと段階的に変化させ、各基質濃度とその時の酵素活性値より、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素のKm値を測定した。
(結果)修飾PQQGDHと未修飾PQQGDHとで基質に対するKm値の差は認められなかった。
Figure 2005073630
<実施例3>アミノ基の修飾率確認
修飾ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素の修飾率を、アミノ基を定量することにより測定した。
単位液量あたりのタンパク含量を、塩基性アミノ酸を利用しないLowry法プロテインアッセイキット(Piece社製)を用いて測定した。一方、単位液量あたりのアミノ基定量は次の通り実施した。0.5ml 酵素希釈溶液(1.0mg/ml程度に希釈したもの)に対して、等量の4% NaHCO3(pH8.5)と同じく等量の0.1% TNBS(2,4,6−trinitrobenzenesulfonic acid)を添加し、40℃、2時間遮光して反応した。2時間後、0.5mlの10% SDSと0.25mlの1N HClを添加して反応を停止し、344nmの吸光度を測定することにより、アミノ基量を測定した。
単位液量あたりのタンパク含量とアミノ基量から、未修飾PQQGDH、修飾PQQGDH各々の単位タンパク量あたりのアミノ基量を求めることができ、その比より修飾PQQGDHのアミノ基の修飾率を求めることが出来る。

結果:アミノ基の修飾を確認した。上述したPQQGDHの特性変化が本発明で主張する酵素修飾によるものであることを裏づけるものである。
Figure 2005073630
本発明の酵素の特性を改変する方法は、その反応性などの酵素特性に優れ、かつ、簡便性、収率などの経済性にも優れるため、体外診断用医薬品などの用途分野に利用することができ、産業界に寄与することが大である。

Claims (8)

  1. メディエーターで修飾することにより、酵素の特性を改変する方法
  2. 酵素が、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素である、請求項1に記載の方法
  3. 酵素の特性が反応性である、請求項1あるいは2記載の方法
  4. 中性付近での反応性が向上した、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法
  5. メディエーターがフェロセンまたはフェロセン誘導体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により、特性が改変された酵素
  7. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により、特性が改変されたグルコース脱水素酵素を含むグルコースアッセイキット
  8. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により、特性が改変されたグルコース脱水素酵素を含むグルコースセンサー
JP2003309896A 2003-09-02 2003-09-02 酵素の反応性を改変する方法および反応性を改変した修飾酵素 Pending JP2005073630A (ja)

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2006095758A1 (ja) * 2005-03-11 2006-09-14 Toyo Boseki Kabushiki Kaisha Pqqgdhの基質阻害を回避する方法
WO2018062542A1 (ja) * 2016-09-30 2018-04-05 有限会社アルティザイム・インターナショナル 電子メディエーター修飾酵素並びにそれを用いた酵素電極、分光学的分析キット及び酵素試験紙

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JPWO2018062542A1 (ja) * 2016-09-30 2019-08-29 有限会社アルティザイム・インターナショナル 電子メディエーター修飾酵素並びにそれを用いた酵素電極、分光学的分析キット及び酵素試験紙

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