JP2005066701A - ボールエンドミル - Google Patents
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Abstract
【解決手段】軸線O回りに回転されるエンドミル本体1の先端部に、軸線O回りの回転軌跡が略半球状をなす少なくとも一対の切刃7が、エンドミル本体1先端において軸線Oを挟んで互いに反対側に形成され、軸線O方向先端視において、軸線Oを中心として一対の切刃7に内接する心厚円Cの直径δ(mm)を切刃7の外径D(mm)に対してδ=0.03×D1/2〜0.06×D1/2の範囲内とするとともに、これらの一対の切刃7が心厚円Cとの接点を越えて互いに行き違う切刃7の行き違い量H(mm)をH=0.05×D1/2−0.04〜0.09×D1/2の範囲内とする。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンドミル本体先端部に軸線回りの回転軌跡が半球状をなす少なくとも一対の切刃が形成されたボールエンドミルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種のボールエンドミルとしては、例えば特許文献1に、先端の半球状部(エンドミル本体先端部)に軸心(軸線)に対して対称的に一対のボール刃(切刃)が設けられた非鉄金属用ボールエンドミルであって、半球状部の中心部で一対のボール刃が存在しない円形領域(心厚円)の直径寸法は0.02〜0.08mmの範囲内で、該中心部における一対のボール刃の重なり寸法(切刃の行き違い量)は0〜0.08mmの範囲内で、該一対のボール刃の刃直角すくい角は10°〜20°の範囲内としたものが提案されている。
【0003】
そして、特許文献1によれば、このようなボールエンドミルでは、上記円形領域の直径寸法が小さいために切削作用が得られない領域が極僅かであり、かつボール刃の刃直角すくい角が大きいため、切れ味が向上して優れた切削性能が得られる一方、一対のボール刃の重なり寸法が上記範囲内であるため、円形領域の収縮に係わらずボール刃の機械的強度が著しく低下するおそれはなく、アルミ等の軟質材に対しては実用上十分な強度を確保できるとされている。
【0004】
【特許文献1】
特開2000−334614号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この特許文献1記載のボールエンドミルでは、切刃の外径(切刃が軸線回りになす半球の直径)に関わらず心厚円の直径が一定の範囲内であるため、切刃の外径が大きい場合には相対的に心厚円の直径が小さくなりすぎてエンドミル本体先端の軸線周辺の強度が損なわれ、このような切刃外径の大きなボールエンドミルが多用される比較的負荷の大きい加工ではこのエンドミル本体先端が欠損するおそれがある一方、逆に切刃の外径が小さい場合には相対的に心厚円の直径が大きくなりすぎて良好な切れ味を得ることが困難となるおそれがあった。
【0006】
また、上記ボールエンドミルでは切刃の行き違い量も切刃外径に関わらず一定であるため、切刃の外径が大きい場合には相対的に行き違い量が小さくなり、これに伴い切刃によって生成された切屑を排出するためのチップポケットも小さくなって切屑排出性が損なわれるおそれがある一方、切刃外径が小さい場合には相対的に切刃の行き違い量が大きくなりすぎてチップポケットも大きくなり、これに伴いエンドミル本体先端の剛性確保が困難となってやはりその欠損を招いたりするおそれがある。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、切刃の外径に関わりなくエンドミル本体先端の耐欠損性と切刃の切れ味および切屑排出性とを両立することが可能なボールエンドミルを提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明におけるボールエンドミルは、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に、上記軸線回りの回転軌跡が略半球状をなす少なくとも一対の切刃が、上記エンドミル本体先端において上記軸線を挟んで互いに反対側に形成されてなるボールエンドミルであって、上記軸線方向先端視において、該軸線を中心として上記一対の切刃に内接する心厚円の直径δ(mm)を該切刃の外径D(mm)に対してδ=0.03×D1/2〜0.06×D1/2の範囲内とするとともに、これらの一対の切刃が上記心厚円との接点を越えて互いに行き違う切刃の行き違い量H(mm)をH=0.05×D1/2−0.04〜0.09×D1/2の範囲内としたことを特徴とする。
【0009】
従って、このようなボールエンドミルにおいては、上記心厚円の直径δおよび切刃の行き違い量Hが、いずれも切刃の外径Dの平方根に基づく範囲内に設定されるため、切刃外径Dが例えば10mmを越えるような比較的大径のボールエンドミルでは、その上記心厚円の直径を大きくしてエンドミル本体先端における切刃強度を確保しつつも、該心厚円直径が必要以上に大きくなりすぎるのを防いで切刃の切れ味が鈍化するのを防ぐとともに、切刃の行き違い量Hも大きくなるのに伴いチップポケット容量を確保して良好な切屑排出性を得、ただしこの行き違い量についても必要以上に大きくなるのは防いでエンドミル本体先端の剛性を維持することができる。
【0010】
また、これに対して例えば切刃外径Dが2mmを下回るような小径のボールエンドミルでは、心厚円直径を小さくして切刃をエンドミル本体の最先端の軸線近傍により近づけることにより鋭い切れ味を確保しつつも、必要最小限の心厚円直径は残すことが可能となる一方、こうして心厚円直径が小さくなることによるエンドミル本体先端の剛性不足を、切刃の行き違い量をやはり必要最小限で小さく抑えることにより、必要なチップポケット容量は維持したままチップポケットによってエンドミル本体先端が大きく切り欠かれるのを防ぐことで、避けることができる。
【0011】
ここで、さらに上記切刃の行き違い量H(mm)は上記心厚円の直径δ(mm)に対してH=2×δ以下の範囲内とされるのが望ましい。すなわち、切刃の外径Dが比較的小さく、これに伴い心厚円の直径δも小さくされる小径のボールエンドミルにおいては、上述のようにエンドミル本体先端の軸線近傍における切刃の切れ味が良いために排出性の良い切屑が生成されるのでチップポケットをあまり大きくとる必要がなく、行き違い量Hをより小さな範囲に抑えることによってこのエンドミル本体先端の剛性を確実に確保して切刃強度を維持することができる。
ただし、これとは逆に外径Dが大きくて心厚円直径δも大きくされる大径のボールエンドミルでは、エンドミル本体先端の剛性や切刃強度は確保されるものの切刃の切れ味が鈍く、切屑が毟れ状に生成されてその排出性が悪いので、行き違い量Hは例えばδ−0.03(mm)以上程度に大きくしてチップポケットを大きく確保することが望ましい。
【0012】
さらに、このようなボールエンドミルにおいては、上記エンドミル本体の先端にギャッシュが形成されて、このギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面と上記エンドミル本体先端の逃げ面との交差稜線部に上記切刃が形成されることになるが、この切刃と、上記ギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面と上記逃げ面との交差稜線部とが交差するギャッシュコーナ部は、上記軸線方向先端視において曲率半径R(mm)が0.03(mm)以上で上記切刃の外径D(mm)に対してR=0.08×D1/2以下の範囲内とされた凹曲線状とされるのが望ましく、また切刃と、上記ギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面と上記逃げ面との交差稜線部とは、上記軸線方向先端視において80°〜120°の範囲内の交差角αで交差する方向に形成されるのが望ましい。
【0013】
すなわち、上記ギャッシュコーナ部の曲率半径Rや上記交差角αが小さすぎると、このギャッシュコーナ部に応力が集中しやすくなって、特に小径のボールエンドミルではエンドミル本体に損傷が生じるおそれがある。また、逆に交差角αが大きすぎても、ギャッシュが大きくなりすぎてエンドミル本体先端が大きく切り欠かれてその剛性を確保することが困難となるおそれがあり、曲率半径Rが大きすぎると、ギャッシュに十分なチップポケット容量を確保することができなくなって良好な切屑排出性が損なわれるとともに、切刃の回転軌跡がなす半球の精度が損なわれるおそれも生じる。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1ないし図3は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態においてエンドミル本体1は、超硬合金等の硬質材料によって形成されて、その先端側に切刃部2が形成されるとともに後端部は略円柱軸状のシャンク部3とされ、このシャンク部3が工作機械の回転軸に把持されることにより中心軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転させられ、例えば金型等の加工に使用される。ここで、本実施形態では、上記切刃部2の外周に、該切刃部2の先端から後端側に向けてエンドミル回転方向Tの後方側に向かうように捩れる一対の切屑排出溝4,4が軸線Oを挟んで互いに反対側に対称に形成されており、これらの切屑排出溝4,4のエンドミル回転方向T側を向く壁面の辺稜部に外周刃5がそれぞれ形成されている。
【0015】
一方、切刃部2の先端すなわちエンドミル本体1の先端部には、上記切屑排出溝4,4に連通するチップポケット6がそれぞれ形成されており、各チップポケット6のエンドミル回転方向T側を向く壁面の辺稜部には、軸線O回りの回転軌跡が半球状をなす略1/4円弧状の切刃7が、やはり軸線Oを挟んで互いに反対側に対称に、かつエンドミル本体1先端の軸線O近傍から外周側に向かうに従い、やはり軸線O回りにエンドミル回転方向Tの後方側に捩れるように延びて、上記切刃5に連なるようにそれぞれ形成されている。従って、このように捩れて形成されることにより、本実施形態では上記切刃7,7は、軸線O方向先端視において図2に示すように緩やかに湾曲する概略S字状を呈することとなる。また、この切刃7のエンドミル回転方向T後方側に連なる切刃部2の先端外周面は、本実施形態ではこのエンドミル回転方向T後方側に向かうに従い多段に後退する逃げ面8とされている。
【0016】
ここで、両チップポケット6のエンドミル本体1先端における軸線O近傍部分はギャッシュ9とされ、従ってこの軸線O近傍において各切刃7は上記ギャッシュ9のエンドミル回転方向T側を向く壁面と上記逃げ面8との交差稜線部に形成されることとなる。これらのギャッシュ9,9は、本実施形態では図3に示すように軸線O方向先端視において、該軸線Oを含む仮想平面Pに対して該仮想平面Pと交差することなく互いに反対側に位置し、かつこの仮想平面Pに沿って軸線Oを僅かに越え互いに行き違うように形成されている。従って、このエンドミル本体1先端における軸線Oの近傍における切刃7,7も、軸線O方向先端視において互いに平行かつ仮想平面Pに対しても平行に外周側から該軸線Oを越えて行き違うように延びた後、ギャッシュ9のエンドミル回転方向T後方側を向く壁面と他方の切刃7に連なる逃げ面8(第1逃げ面8a)との交差稜線部10に交差することとなる。
【0017】
このように切刃7,7が形成されることにより、エンドミル本体1先端の軸線O近傍には、一対の切刃7,7の間に、ギャッシュ9が形成されずに両切刃7,7に連なる逃げ面8,8がそのまま延びる心厚部11が残されることとなり、この心厚部11上において軸線O方向先端視に該軸線Oを中心として両切刃7,7に内接する円が心厚円Cとされ、従って切刃7,7は外周側からこの心厚円Cとの接点を越えて該接点における上記エンドミル回転方向Tの接線方向に互いに行き違うこととなる。また、該心厚部11においては、上記逃げ面8,8同士がチゼル12を介して互いに鈍角に交差させられ、本実施形態ではこのチゼル12は、軸線O方向先端視においては該軸線Oを通って両切刃7,7に鈍角に交差する直線状に、また上記仮想平面Pに直交する側面視には略凸円弧状に形成されている。
【0018】
そして、この心厚円Cの直径δ(mm)は、切刃7が軸線O回りの回転軌跡においてなす上記半球の直径、すなわち切刃7の外径D(mm)に対して、δ=0.03×D1/2〜0.06×D1/2の範囲内とされるとともに、上記一対の切刃7,7が上述のようにこの心厚円Cとの接点を越えて互いに行き違う切刃7の行き違い量H(mm)はH=0.05×D1/2−0.04〜0.09×D1/2の範囲内とされている。さらに、本実施形態では、この切刃7の行き違い量H(mm)は、上記心厚円の直径δ(mm)に対して2×δ以下とされ、望ましくはδ−0.03(mm)以上とされている。ただし、この行き違い量Hは、図3に示すように軸線O方向先端視において、上記一対の切刃7,7の上記第1逃げ面8aとこれに連なる第2逃げ面8bとの交差稜線Lと上記ギャッシュ9との交点Qにおける上記交差稜線部10の接線S同士の間隔を、上記心厚円Cと切刃7との接線方向に測った長さとされている。
【0019】
さらに、本実施形態では、この切刃7と上記交差稜線部10とが交差するギャッシュ9の隅のギャッシュコーナ部13が、軸線O方向先端視において曲率半径R(mm)が0.03(mm)以上で上記切刃7の外径D(mm)に対して0.08×D1/2以下の範囲内とされた凹曲線状とされていて、切刃7と交差稜線部10(ギャッシュ9と第1逃げ面8aとの交差稜線部)とは軸線O方向先端視においてこのギャッシュコーナ部13がなす凹曲線の両端に滑らかに接して連なる直線状とされている。さらにまた、こうしてギャッシュコーナ部13を介して連なる切刃7と上記交差稜線10とは、やはり軸線O方向先端視において80°〜120°の範囲内の交差角αで交差する方向に形成されている。
【0020】
従って、このように構成されたボールエンドミルでは、まずエンドミル本体1先端の軸線O近傍に、この軸線O近傍にまで延びる切刃7,7の逃げ面8,8同士がチゼル12を介して交差する心厚部11が残されており、これにより特に切削速度が0となることでより高い負荷が作用するこの軸線O近傍におけるエンドミル本体1の剛性や切刃7の強度を確保して、例えば比較的負荷の大きい鋼材や硬質合金材料の高速加工を行う場合や、切削の進行によって摩耗が増大した場合などにおいても、この先端の軸線O近傍においてエンドミル本体1に欠損が生じたりするのを防ぐことができる。また、これら軸線O近傍に延びる一対の切刃7,7が互いにこの軸線Oを中心とする心厚円Cとの接点を越えて行き違うように形成されており、これに伴い該切刃7に連なってチップポケット6に連通するギャッシュ9も互いに行き違うように大きく確保されているので、良好な切屑排出性を得ることができる。
【0021】
そして、上記構成のボールエンドミルでは、上記心厚部11における心厚円Cの直径δ(mm)と、切刃7,7の行き違い量H(mm)とが、いずれも切刃7の外径D(mm)に対してそれぞれδ=0.03×D1/2〜0.06×D1/2の範囲内およびH=0.05×D1/2−0.04〜0.09×D1/2の範囲内とされており、すなわちこの外径Dの平方根に基づいて設定されている。このため、例えば切刃7の外径Dが10mmを越えるような比較的大径のボールエンドミルにおいては、外径Dが大きくなるのに伴い上記心厚円Cの直径δも増大して心厚部11が厚くなり、従ってエンドミル本体1先端における剛性の向上を図って切刃7の強度を確保し、このような大径のボールエンドミルによる加工において作用しがちな大きな負荷に対しても、切刃7の欠損やエンドミル本体1先端の破損等を防ぐことができる。ただし、その一方で、この外径Dの増大に伴う心厚円Cの直径δの増大は外径Dの平方根に基づくものであるので、例えば直径δが外径Dに比例して大きくなったりするのと比べては、大径のボールエンドミルでも心厚円Cが必要以上に大きくなるのを避けることができ、これにより切刃7の切れ味が鈍化してしまうのを防いで加工精度の劣化を防止することが可能となる。
【0022】
また、切刃7,7の行き違い量Hについても、大径のボールエンドミルではその切刃外径Dが大きくなるのに従い行き違い量Hは増大し、従ってギャッシュ9,9が行き違う大きさも大きくなってこのギャッシュ9に連なるチップポケット6に大きな容量を確保することが可能となり、大径ボールエンドミルで生成される大量の切屑に対してもこれを確実に収容して円滑に排出することが可能となる。ただし、この行き違い量Hも外径Dの平方根に基づいて増大するので、必要以上に行き違い量Hが大きくなることはなく、従ってギャッシュ9やチップポケット6が大きくなりすぎて心厚円Cの直径δが増大したにも拘わらず却ってエンドミル本体1先端の剛性が損なわれたりするのを防ぐことが可能となる。
【0023】
一方、逆に例えば切刃7の外径Dが2mmを下回るような小径のボールエンドミルにおいては、外径Dが小さくなるに従い心厚円Cの直径δも小さくなって切刃7がよりエンドミル本体1先端の軸線O近傍に近づくので、エンドミル本体1先端において切刃7が形成されずに切削に関与しない部分を少なくするとともに、この軸線O近傍に至るまで切刃7に鋭い切れ味を与えることができ、高い加工精度を得ることが可能となる。これは、特にこのような小径のボールエンドミルが多用される金型等の精密加工において効果的である。
【0024】
また、こうして切刃7の外径Dが小さくなるのに従い、切刃7,7の行き違い量Hも小さく抑えられるので、上述のように心厚円Cの直径δが小さくなることに伴うエンドミル本体1先端の剛性の不足を補うことができ、すなわち行き違い量Hが小さくなるのに伴ってギャッシュ9やチップポケット6によりエンドミル本体1先端が切り欠かれる部分を小さく抑えて剛性を確保するとともに、心厚部11の上記仮想平面Pに沿った方向の幅も小さく抑えることができるため、エンドミル本体1先端のこの心厚部11の破損等を防止することが可能となる。
【0025】
ただし、このような小径のボールエンドミルにおいては、これら心厚円Cの直径δや切刃7,7の行き違い量Hが上述のように切刃7の外径Dの平方根に基づいて設定されることにより、例えばやはりこれらが外径Dに比例して小さくなるような場合に比べ、大径の場合とは逆に必要以上に小さくなってしまうのを避けることができる。従って、小径のボールエンドミルでも心厚円Cには最小限必要な直径δを確保しておくことができるので、行き違い量Hが抑えられることとも相俟ってより確実にエンドミル本体1先端の剛性確保を図ることができる一方、この行き違い量Hも必要以上に小さくなりすぎることがないので、小径であってもギャッシュ9やチップポケット6には切屑排出に十分な容量を確保することが可能となる。すなわち、上記構成のボールエンドミルによれば、このように大径から小径に至るまで、切刃7の外径Dに関わりなくエンドミル本体1先端の耐欠損性と切刃7の切れ味および切屑排出性とを両立することができ、円滑かつ高精度の加工を行うことが可能となる。
【0026】
ところで、切刃7の外径Dが比較的小さい上記小径のボールエンドミルでは、上述のように心厚円Cの直径δが最小限必要な範囲で小さくされて切刃7に良好な切れ味が与えられるのに伴い、切屑も一定形状の排出性の良いものが生成されるので、ギャッシュ9やチップポケット6にはそれほど大きな容量を確保する必要はなく、むしろ行き違い量Hを極力小さく抑えてエンドミル本体1先端の剛性および切刃7の強度を確実に確保するのがより望ましい。一方、切刃7の外径Dが大きい大径のボールエンドミルでは、逆にこれらエンドミル本体1先端の剛性や切刃7の強度は確保しやすい反面、外径Dの平方根に基づくとはいえ心厚円Cの直径δが大きくなるのに伴い、エンドミル本体1先端の切削を行わない部分が大きくなり、この部分によって毟れ状の排出され難い切屑が生成されるため、行き違い量Hが小さくなりすぎてギャッシュ9やチップポケット6容量が削減されるのは望まれない傾向となる。
【0027】
そこで、これに対して本実施形態では、上述のように心厚円Cの直径δと切刃7,7の行き違い量Hとが切刃7の外径Dの平方根に基づく範囲内に設定されるのに加え、さらにこれら心厚円Cの直径δ(mm)と切刃7,7の行き違い量H(mm)との関係も、Hが2×δ以下となるように設定され、また望ましくはHがδ−0.03(mm)以上となるようにされている。従って、このように心厚円Cの直径δに対する行き違い量Hの上下限が設定されることにより、上記小径のボールエンドミルにおいては、この行き違い量Hが必要以上に大きくなるのをさらに確実に避けることができ、一層の剛性や切刃強度の確保を図ることができる一方、大径のボールエンドミルにあっては必要な行き違い量Hを確保して上述のような毟れ状の切屑に対しても良好な排出性を得ることが可能となる。
【0028】
さらに、本実施形態では、上記ギャッシュ9のエンドミル回転方向T側を向く壁面と逃げ面8との交差稜線部に形成されることとなる切刃7と、このギャッシュ9のエンドミル回転方向T後方側を向く壁面と逃げ面8(第1逃げ面8a)との交差稜線部10とが、軸線O方向先端視において凹曲線状をなすギャッシュコーナ部13を介して交差するように形成されており、従ってこのギャッシュコーナ部13に切削時の応力が集中したりするのを抑制することができて、このような応力集中によるエンドミル本体1の損傷を防止することができる。また、特に外径Dが小さい場合において、最も剛性・強度が弱くなるエンドミル本体1最先端のチゼル12部分から軸線O方向後端側に向けて、該軸線Oに直交する断面における心厚を漸次大きくすることができるので、エンドミル本体1先端の強度の向上を図ることも可能となる。
【0029】
なお、このギャッシュコーナ部13が軸線O方向先端視においてなす凹曲線の曲率半径R(mm)は、小さすぎると上述のような効果を得ることができなくなるおそれがある一方、逆に大きすぎるとギャッシュ9のチップポケット容量が小さくなって却って切屑排出性を損ねるおそれが生じるとともに、切刃7が軸線O回りの回転軌跡においてなす半球の精度、いわゆるボールエンドミルにおける切刃のアール精度が悪化し易くなるので、本実施形態のように0.03mm以上で、上記切刃7の外径D(mm)に対して0.08×D1/2以下の範囲内とされるのが望ましい。ただし、本実施形態ではこのように切刃7とギャッシュ9の上記交差稜線部10とが交差する隅部に、軸線O方向先端視に凹曲線状をなすギャッシュコーナ部13を形成しているが、場合によっては図4に示すようにこのギャッシュコーナ部13を凹曲線状に形成せずに切刃7と交差稜線部10とが角度をもって交差するように形成してもよい。
【0030】
また、本実施形態では、こうしてギャッシュコーナ部13を介して交差する切刃7と、ギャッシュ9のエンドミル回転方向T後方側を向く壁面と逃げ面8との交差稜線10とが、やはり軸線O方向先端視において80°〜120°の範囲内の交差角α、すなわちギャッシュ9の開角で交差する方向に形成されているが、これは、この交差角αが小さすぎると、上記エンドミル回転方向T後方側を向く壁面が切刃7側に対向するように向けられることとなることにより、エンドミル本体1先端のチップポケットも小さくなり、切屑の流出を遮ってその円滑な排出を阻害するおそれがあるからである。その一方で、この交差角αが大きすぎると、ギャッシュ9が軸線O方向先端視に大きく開いた形状となってエンドミル本体1先端が大きく切り欠かれ、その剛性を確保することができなくなるおそれがあるので、この交差角αは本実施形態のように80°〜120°の範囲内に設定されるのが望ましい。
【0031】
また、本実施形態では、エンドミル本体1先端部(切刃部2)に軸線O回りの回転軌跡が半球状をなす一対の切刃7,7が形成された、2枚刃のボールエンドミルについて説明したが、刃数が2枚よりも多い、例えば図5に示すような4枚刃のボールエンドミル等に本発明を適用することも可能である。なお、この図5に示すボールエンドミルでは、軸線Oを挟んで互いに反対側に位置する一対の切刃7,7がエンドミル本体1先端の軸線O近傍から外周側に延びるように形成される一方、残りの2枚の切刃14,14はこれらの切刃7,7よりも外周側に離間した位置から外周側に延びるように形成され、これらの切刃7,7,14,14の回転軌跡が1つの半球状を呈するようにされている。
【0032】
【実施例】
次に、本発明の実施例を挙げて、本発明の効果についてより具体的に説明する。本実施例ではまず、図1ないし図3に示した上記実施形態に基づき、その切刃7の外径D(mm)、心厚円Cの直径δ(mm)、および切刃7,7の行き違い量H(mm)が異なる6種のボールエンドミルを用いて切削試験を行った。その結果を、それぞれのボールエンドミルについて、上記各寸法および行き違い量H(mm)と芯厚円Cの直径δ(mm)との比H/δとともに表1に実施例1−1、1−2、…3−2として示す。また、これに対する比較例として、各実施例のボールエンドミルと等しい切刃7の外径D(mm)であって、心厚円Cの直径δ(mm)や切刃の行き違い量H(mm)が異なる5種のボールエンドミルでも同様の切削条件の下で切削試験を行った。その結果についても表1に比較例1−1、2−1、…3−2として合わせて示す。
【0033】
【表1】
【0034】
なお、これらの実施例および比較例のボールエンドミルは、いずれも超微粒超硬合金よりなるエンドミル本体の表面に(Al,Ti)Nコーティングを施したものであって、外周刃5も含めた切刃部2の長さ(刃長)はそれぞれ外径Dの2倍であった。また、切削試験に用いた被削材はSKD61(52HRC)であって、切削試験ではこの被削材に、実施例1−1、1−2、比較例1−1では回転速度10000rpm、送り速度1800mm/min、切込み深さ半径方向0.4mm、軸方向0.2mmで、実施例2−1、2−2、比較例2−1、2−2では回転速度10000rpm、送り速度2000mm/min、切込み深さ半径方向0.5mm、軸方向0.3mmで、実施例3−1、3−2、比較例3−1、3−2では回転速度10000rpm、送り速度2300mm/min、切込み深さ半径方向1.0mm、軸方向0.5mmで、ダウンカットおよびエアブローにより側面加工を行った。
【0035】
この表1の結果より、切刃の外径Dに対する心厚円の直径δや切刃の行き違い量Hが本発明に係わるボールエンドミルの範囲外であった比較例では、この範囲より心厚円Cの直径δが小さくされたり切刃の行き違い量Hが大きくされたりした比較例1−1、2−2、3−1にあっては、切刃の先端部(エンドミル本体1の先端)に欠損が生じて切削試験を中止せざるを得なかった。またその一方で、逆にこの範囲より心厚円Cの直径δが大きくされたり切刃の行き違い量Hが小さくされた比較例2−1、3−2にあっては、加工面の特に底部における仕上面が不良となった。
【0036】
ところが、これらの比較例に対して、本発明に係わる実施例のボールエンドミルでは、切刃7の外径Dの大小に関わらず切刃7に欠損が生じたりすることはなく、また円滑な切屑排出によって切削抵抗も低く抑えられるとともに、優れた加工精度および仕上面を得ることができた。特に、切刃7,7の行き違い量Hが心厚円Cの直径δに対して2×δよりも大きくされた(H/δが2よりも大きくされた)実施例1−2、3−1では、それぞれの切削試験の送り速度よりもさらに高送りで切削を試みたときには切刃7にチッピングが認められたのに対し、この行き違い量Hが心厚円Cの直径δに対して2×δ以下とされた(H/δが2以下とされた)実施例1−1、2−1、2−2、3−2のボールエンドミルでは、このようなチッピングは認められず、より高能率の切削加工が可能であった。
【0037】
次に、切刃7の外径D(mm)が3mmおよび5mmで、それぞれ心厚円Cの直径δ(mm)および切刃7,7の行き違い量H(mm)が互いに等しく、かつ本発明に係わるボールエンドミルの範囲内であって、軸線O方向先端視における切刃7と上記交差稜線部10との交差角α(°)やギャッシュコーナ部13の曲率半径R(mm)が異なるボールエンドミルを用いて同様に切削試験を行った。その結果を、それぞれのボールエンドミルについて上記各寸法とともに、切刃7の外径D(mm)が3mmのものを実施例4−1〜4−6として、また外径D(mm)が5mmのものを実施例5−1、5−2として、表2に示す。なお、切削条件は、実施例4−1〜4−6では回転速度10000rpm、送り速度2000mm/min、切込み深さ半径方向0.5mm、軸方向0.3mmであり、実施例5−1、5−2では回転速度10000rpm、送り速度2300mm/min、切込み深さ半径方向1.0mm、軸方向0.5mmであり、その他の条件は表1の切削試験と同様であった。
【0038】
【表2】
【0039】
しかるに、これら実施例4−1〜4−6、5−1、5−2のボールエンドミルは、上述のようにその心厚円Cの直径δ(mm)および切刃7,7の行き違い量H(mm)はそれぞれ本発明の範囲内であり、通常の切削加工においては一般的な上記切削条件では表2に示したように良好な結果を得ることができたが、このうち曲率半径R(mm)が切刃7の外径D(mm)に対して0.08×D1/2を上回る大きさとされた実施例4−5、5−2では、実用上は問題ないものの他の実施例に比べて若干の加工面精度の悪化が認められた。また、逆に曲率半径R(mm)が0.03mmを下回る実施例4−6や、交差角α(°)が80°未満、あるいは120°を上回るようにされた実施例4−3、4−4では、上記切削条件では良好な結果が得られたものの、これよりも送り速度を上げて高送り切削を行うと切刃7にチッピングが生じるようになった。ところが、これらに対して、交差角α(°)が80°〜120°の範囲内、曲率半径R(mm)が0.03mm以上で切刃7の外径D(mm)に対して0.08×D1/2以下の範囲内とされた実施例4−1、4−2、および実施例5−1のボールエンドミルでは、加工面精度の悪化は認められず、また上記切削条件より送り速度を上げても切刃7にチッピングが発生することはなかった。
【0040】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、切刃の外径の大小に関わらずエンドミル本体先端の剛性を確保することによりその軸線近傍の切刃に高い切刃強度を与えて優れた耐欠損性を得るとともに、該切刃の切れ味および切屑排出性を良好にして円滑かつ高精度の加工を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す側面図である。
【図2】図1に示す実施形態の切刃部2を軸線O方向先端視に見た拡大正面図である。
【図3】図2における軸線O近傍の拡大正面図である。
【図4】図1ないし図3に示した実施形態の変形例を示す軸線O近傍の拡大正面図である。
【図5】図1ないし図3に示した実施形態の他の変形例を示す切刃部2を軸線O方向先端視に見た拡大正面図である。
【符号の説明】
1 エンドミル本体1
2 切刃部
6 チップポケット
7 切刃
8 逃げ面
9 ギャッシュ
10 ギャッシュ9のエンドミル回転方向T後方側を向く壁面と逃げ面8との交差稜線部
11 心厚部
12 チゼル
13 ギャッシュコーナ部
O エンドミル本体1の軸線
T エンドミル回転方向
C 心厚円
D 切刃7の外径
δ 心厚円Cの直径
H 切刃7の行き違い量
R ギャッシュコーナ部13の曲率半径
α 切刃7と交差稜線部10との交差角
Claims (4)
- 軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に、上記軸線回りの回転軌跡が略半球状をなす少なくとも一対の切刃が、上記エンドミル本体先端において上記軸線を挟んで互いに反対側に形成されてなるボールエンドミルであって、上記軸線方向先端視において、該軸線を中心として上記一対の切刃に内接する心厚円の直径δ(mm)が該切刃の外径D(mm)に対してδ=0.03×D1/2〜0.06×D1/2の範囲内とされるとともに、これらの一対の切刃が上記心厚円との接点を越えて互いに行き違う切刃の行き違い量H(mm)がH=0.05×D1/2−0.04〜0.09×D1/2の範囲内とされていることを特徴とするボールエンドミル。
- 上記切刃の行き違い量H(mm)が上記心厚円の直径δ(mm)に対して2×δ以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載のボールエンドミル。
- 上記エンドミル本体の先端部にはギャッシュが形成されていて、このギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面と上記エンドミル本体先端部の逃げ面との交差稜線部に上記切刃が形成されるとともに、この切刃と、上記ギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面と上記逃げ面との交差稜線部とが交差するギャッシュコーナ部は、上記軸線方向先端視において曲率半径R(mm)が0.03mm以上で上記切刃の外径D(mm)に対して0.08×D1/2以下の範囲内とされた凹曲線状とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のボールエンドミル。
- 上記エンドミル本体の先端部にはギャッシュが形成されていて、このギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面と上記エンドミル本体先端部の逃げ面との交差稜線部に上記切刃が形成されるとともに、この切刃と、上記ギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面と上記逃げ面との交差稜線部とが、上記軸線方向先端視において80°〜120°の範囲内の交差角αで交差する方向に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のボールエンドミル。
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