しかしながら、特許文献7〜13のRFID技術に使われるフェライトや磁性体として、特許文献1〜6のフェライト焼結体を用いると、タイヤ内の空気圧や温度の測定が困難であった。この原因は、特許文献1〜6のフェライト焼結体を用いたフェライトコイルから十分な誘導起電圧が発生しないので、タイヤの空気圧や温度を測定する指令信号が圧力センサーや温度センサーに十分伝達されないためであった。また、特許文献13のループアンテナ装置用のフェライトコイルの材質として特許文献1〜6のフェライト焼結体を用いると、車両の施開錠が困難であった。このように、タイヤ内の空気圧や温度の測定、施開錠が困難であるのは、特許文献1〜6のフェライト焼結体を用いたフェライトコイルから十分な誘導起電圧が発生しないためであった。このため、大きな誘導起電圧を発生させることができるフェライトコイル用のRFID用フェライトコアが求められていた。また、RFID用フェライトコアには、車両の安全性向上のため高くかつばらつきの機械的強度を有することが求められていた。しかし、従来のフェライト焼結体はこれらの要求を満足するものではなかった。
特許文献1〜6のフェライト焼結体を用いて作製したフェライトコイルは、フェライトコイルに磁場を印加した際に発生する誘導起電圧を印加した磁場で割ることにより求められる導線の1巻当たりの感度が低くなる場合があったため、フェライトコイルに用いるフェライト焼結体を大きくして導線の巻数を増やさなければならず、小型化が困難であるという問題があった。また、フェライトコイルを小型化すると誘導起電圧が小さくなるという問題があった。このような機械的強度の低下や誘導起電圧の低下は次の原因によって生じていた。誘導起電圧、感度が大きく安定したフェライトコイルを得るためには、コア損失が小さく、透磁率が高くかつばらつきがなく、キュリー温度が高いフェライトコアが必要である。コア損失の小さなフェライトコアを得るためには、フェライトコアに含まれるスピネル型の結晶相(例えば、NiFe2O4、ZnFe2O4、FeFe2O4のいずれか1種、またはこれらのうち2種以上の固溶体)からなる結晶の結晶構造を規則化することが必要である。この規則化によって、化学組成(例えばFe、Ni、Znの含有量)が同じでも、小さいコア損失、高くかつ安定した透磁率、高いキュリー温度を有するフェライトコアが得られる。従来のフェライト焼結体からなるフェライトコアは、結晶構造の規則化が不十分である場合があったので、コア損失が大きく、透磁率とキュリー温度が低い場合があった。このため、従来のフェライト焼結体からなるフェライトコアは、RFID用フェライトコアとして用いた場合、誘導起電圧が低くなる場合があった。
また、フェライト焼結体の機械的強度を向上させるためには、スピネル型の結晶相からなる結晶の結晶構造を規則化して内部応力を小さくし、さらに、結晶粒子径のばらつきを一定の範囲内に制御することが必要である。この制御によって、化学組成(例えばFe、Ni、Znの含有量)が同じ場合でも、透磁率と機械的強度が高く安定したフェライト焼結体とすることができる。
しかし、従来のフェライ焼結体は、結晶構造の規則化が不十分であったり、結晶粒子径を制御していない場合があったりしたので、大きな機械的強度を安定して得ることができなかった。
さらに、タイヤは高温で強い機械的振動にさらされる場合があるため、RFID用のフェライトコアを成すフェライト焼結体は、小さいコア損失、高いキュリー温度、高い透磁率を有するのみならず、場合によっては小さな絶対値の透磁率の相対温度係数、高緻密性を有することが求められていた。さらには、フェライトコアに導線を巻回した後に樹脂で封止して使用する場合、封止によってフェライトコアに圧縮応力が発生するため、圧縮応力が印加された状態でのインダクタンスの変化を小さくすることが求められていた。しかしながら、従来技術に開示されているフェライトコアを成す焼結体は、このような要求を満足させることはできなかった。
特許文献1のフェライト焼結体は、炭素含有量を96ppm未満にすることにより機械的強度を高く向上できるとされているものの、フェライト焼結体を構成する結晶粒子径分布が制御されていなかった。また、平均結晶粒子径を1〜30μmとすることが好ましいとされているものの、結晶粒子径分布が変動すると、透磁率やキュリー温度が低くなる恐れがあった。さらに、仮焼後の粉砕を充分行うことが示唆されていないため、仮焼後の粉体の粒径が大きいと、焼成して得られる焼結体中の結晶の結晶構造が充分規則化しないため、コア損失が大きかったり、透磁率やキュリー温度が低かったり、機械的強度が小さかったりする場合があった。
特許文献2のフェライト材料は結晶粒子径分布を規定しているものの、フェライト材料の製造過程において、仮焼前の粉体の粒径が大きく、仮焼後の粉体の粉砕粒径が大きいため、結晶構造が規則化していないためコア損失が大きくなる場合があった。
特許文献3〜5のフェライト焼結体は、平均結晶粒子径を均一に制御しているものの、仮焼前の粒径や仮焼後の粉体の粉砕粒径を制御していないため、焼結体を構成する結晶の結晶構造が充分規則化していないため、コア損失が大きく、透磁率、キュリー温度、機械的強度が低いものであった。
特許文献6のフェライト焼結体からなる低損失酸化物磁性材料は、焼成前の仮焼(予焼)温度と仮焼後の粉体の粒径を規定することによって、フェライト焼結体の電力損失(コア損失)を小さくできるが、次のような原因によってコア損失が大きくなる場合があった。フェライト焼結体を作製する工程において、仮焼前の粉体の粒径が大きい場合、仮焼粉の合成、すなわちスピネル型構造を有し、結晶構造が十分に規則化した結晶粒子からなる粉体の合成が不十分となる。合成が不十分となる原因は、仮焼の過程でFe2O3、NiO、ZnO、CuOの各粉末が反応して、スピネル型構造からなる結晶粒子が十分に合成されないため、Fe2O3、NiO、ZnO、CuOの各粉末が未反応のまま仮焼粉に多く残留するからである。未反応の粉末を多く含む仮焼粉を用いて焼結体を作製すると、スピネル型構造の結晶相からなる結晶の規則化が焼成中に十分行われない。このため、仮焼前の粉体の粒径が大きい場合、結晶構造が十分規則化していない結晶が焼結体中に多く残留するので、コア損失が大きくなるという問題があった。また、仮焼粉の合成を十分に行っても、仮焼粉の粉砕を十分に行わないと、未焼成体に含まれる粉体の粒径が大きくなるため、結晶構造が十分規則化した焼結体が得られず、コア損失が大きくなるという問題があった。これは、仮焼時にFe2O3、NiO、ZnO、CuOの各粉末が反応して、スピネル型構造からなる結晶粒子が生成する。しかしながら、仮焼粉を構成する結晶粒子の組成は、それぞれが厳密には全く同じではないと推測される。詳細には、焼結体の個々の結晶の格子定数が極わずかに異なることから考えて、未焼成体を構成する各結晶粒子の組成は、各結晶粒子の組成のばらつきによって相違すると思われる。この組成のばらつきが大きいほど、スピネル型構造の結晶に含まれる格子欠陥が焼結体中に多く生成し、結晶構造が不規則となる。この格子欠陥を抑制することは、スピネル型構造の結晶相からなる結晶の規則化に繋がる。仮焼粉の粉砕を十分に行わないと、未焼成体に含まれる各結晶粒子の組成がばらつき、このばらつきが緩和されないまま焼成されるので、焼結体に含まれる個々の結晶の組成がばらつき、結晶構造が十分に規則化していない焼結体が得られるからである。このため、特許文献6の低損失酸化物磁性材料は、コア損失が大きくなる場合があった。
上述のように、特許文献1〜6のフェライト焼結体やフェライト材料は、小さいコア損失、高い透磁率、高いキュリー温度を有していないので、このようなフェライト焼結体やフェライトコアを用いて作製したフェライトコイルは、磁場を印加した際に発生する導線一巻当たりの誘導起電圧が低くなるという問題があった。
以上のように、特許文献1〜6のフェライト焼結体やフェライト材料からなるフェライトコアは、大きな誘導起電圧、感度、優れた機械的特性が要求されるRFID用フェライトコアには適用が困難であった。
また、特許文献7のRFIDの設置構造に用いられる磁性体、特許文献8の検知方法に開示された磁性体、特許文献9のアンテナに用いられるフェライト磁性体、特許文献10の監視装置に用いられる磁性体、特許文献11の取付け構造に用いられるフェライト磁性体、特許文献12の減圧警報装置に用いられる磁性体、特許文献13のアンテナ装置に開示されたNi−Zn系フェライト磁性体のいずれの磁性体も、磁性体コアの組成、結晶粒子径分布、結晶構造を制御することが何ら示唆されていないため、コア損失が大きかったり、透磁率が大きかったり、キュリー温度が低かったりした。このためRFID用フェライトコアとしての適用は困難であった。
本発明は小さなコア損失、高くかつばらつきの小さい透磁率、高いキュリー温度を有するRFID用フェライトコアを提供することを目的とする。また、このRFID用フェライトコアを用いた、大きな誘導起電圧と感度を有するフェライトコイルを提供することを目的とする。
本発明のRFID用フェライトコアは、金属元素として少なくともFeをFe2O3換算で48.6〜53.9mol%、NiをNiO換算で12.3〜35.2mol%、ZnをZnO換算で16.4〜37.0mol%含有し、NiFe2O4、ZnFe2O4およびFeFe2O4のうち2種以上の固溶体からなる結晶相を含有する酸化物焼結体からなり、Cu−Kα線を用いたX線回折による回折角2θが34.6〜36.4°における前記結晶相の回折ピークの半値幅が0.4°以下であることを特徴とする。
また、平均結晶粒子径Dが2〜15μm、全結晶粒子数に対する0.5D〜3Dの範囲の結晶粒子数の割合が60%以上であることを特徴とする。
また、前記酸化物焼結体100質量部に対して、CuをCuO換算で9質量部以下含有することを特徴とする。
また、前記酸化物焼結体100質量部に対してZrをZrO2換算で0.001〜0.6質量部含有し、前記Zrが前記酸化物焼結体中に均一に分散し、焼結体中の粒界相の厚みが20nm以下であることを特徴とする。
また、前記酸化物焼結体の表面における平均結晶粒子径と内部の平均結晶粒子径との差が10μm以下であることを特徴とする。
また、透磁率が400以上であることを特徴とする。
また、−50〜150℃の透磁率の相対温度係数が−2×10−6〜2×10−6/℃であることを特徴とする。
また、密度が5.0g/cm3以上であることを特徴とする。
また、3点曲げ強度が140MPa以上であることを特徴とする。
また、1mm2当たり50MPaの圧縮応力下におけるインダクタンスの変化率が±10%以内であることを特徴とする。
また、IF法による破壊靱性値が0.8MPa・m1/2以上であることを特徴とする。
本発明のフェライトコイルは、上記のいずれかのRFID用フェライトコアに導線を巻回し、磁場を印加することによって誘導起電圧を発生させ、前記誘導起電圧を前記磁場で割ることにより求められる前記導線の1巻当たりの感度を、さらに前記フェライトコアの前記導線が巻かれた部分の断面積で割った値が1mV/(μT・mm2)以上であることを特徴とする。
本発明のRFID用フェライトコアの製造方法は、少なくともFe酸化物からなる粉末、Ni酸化物からなる粉末およびZn酸化物からなる粉末を含有し、前記Fe酸化物の含有量がFe2O3換算で48.6〜53.9mol%、前記Ni酸化物の含有量がNiO換算で12.3〜35.2mol%、前記Zn酸化物の含有量がZnO換算で16.4〜37.0mol%であり、前記Fe酸化物、Ni酸化物、Zn酸化物のうち少なくとも1種の比表面積が5m2/gを超える粉末を混合、粉砕して、比表面積が5m2/gを超える1次粉砕粉末を作製する1次粉砕工程と、前記1次粉砕粉末を仮焼して仮焼粉を作製する仮焼工程と、前記仮焼粉を粉砕して比表面積が5m2/gを超える2次粉砕粉末を作製する2次粉砕工程と、前記2次粉末と有機結合剤を混合、造粒して得られる造粒体を成形してRFID用フェライトコア前駆体である成形体を作製する成形工程と、前記成形体に含まれる有機結合剤を脱脂して炭素量300ppm以下の脱脂体を作製する脱脂工程と、前記脱脂体を焼成炉を用いて1050〜1300℃で焼成して焼結体からなるRFID用フェライトコアを作製する焼成工程とを含むことを特徴とする。
本発明によれば、金属元素として少なくともFeをFe2O3換算で48.6〜53.9mol%、NiをNiO換算で12.3〜35.2mol%、ZnをZnO換算で16.4〜37.0mol%含有し、NiFe2O4、ZnFe2O4およびFeFe2O4のうち2種以上の固溶体からなる結晶相を有する酸化物焼結体からなり、Cu−Kα線を用いたX線回折による回折角2θが34.6〜36.4°における前記結晶相の回折ピークの半値幅が0.4°以下であることから、結晶構造を規則化できるので、コア損失の小さなフェライトコアとすることができる。
また、平均結晶粒子径Dが2〜15μm、全結晶粒子数に対する0.5D〜3Dの範囲の結晶粒子数の割合が60%以上であることから、小さく安定したコア損失、高く安定した透磁率、キュリー温度を有することができる。
また、前記酸化物焼結体100質量部に対して、CuをCuO換算で9質量部以下含有することから、表面の電気抵抗を高く保持することができるので、コア損失が小さいフェライトコアとすることができる。また、Cuは粒成長抑制効果もあるためCuをCuO換算で9質量部以下含有させることにより、0.5D〜3Dの範囲の結晶粒子の割合を95%以上に向上させることができ、透磁率のばらつきをより低減させることができる。
また、前記RFID用フェライトコアがCuを含有する場合、前記酸化物焼結体100質量部に対してZrをZrO2換算で0.001〜0.6質量部含有し、前記Zrが前記酸化物焼結体中に均一に分散し、焼結体中の粒界相の厚みを20nm以下とすることにより、機械的強度を向上できるとともに、磁壁移動が容易となり、かつ反磁性の影響を受けにくくなるため、コア損失をさらに低くすることができる。
さらに、表面における平均結晶粒子径と内部の平均結晶粒子径との差が10μm以下とすることから、内部応力を低減させることができるため、機械的強度を高めることができる。
また、透磁率が400以上であることから、大きな誘導起電圧と感度を有することができ、−50〜150℃の透磁率の相対温度係数が−2×10−6〜2×10−6/℃であることから、この温度範囲で温度が変化しても大きな起電圧と感度が安定したフェライトコイルを得ることができる。さらに、密度が5.0g/cm3以上であることから、機械的強度に優れ、誘導起電圧を大きくすることができる。
さらに、3点曲げ強度が140MPa以上であることから、このフェライトコアに導線を巻回して作製したフェライトコイルを車両のタイヤに内蔵した場合、機械的振動が負荷されても破壊されず機械的信頼性を向上させることができる。また、1mm2当たり50MPaの圧縮応力下におけるインダクタンスの変化率が±10%以内であることから、このフェライトコアに導線を巻回し、樹脂封止して作製したフェライトコイルに一定の磁場を印加した場合、誘導起電圧のばらつきを特に低減できるものとなる。また、IF法による破壊靱性値が0.8MPa・m1/2以上であることから、機械的信頼性を向上させることができる。
これら本発明のRFID用フェライトコアの製造方法は、少なくともFe酸化物からなる粉末、Ni酸化物からなる粉末およびZn酸化物からなる粉末を上述の範囲で含有し、Fe酸化物、Ni酸化物、Zn酸化物のうち少なくとも1種の比表面積が5m2/gを超える粉末を混合、粉砕して、比表面積が5m2/gを超える1次粉砕粉末を作製する1次粉砕工程と、前記1次粉砕粉末を仮焼して仮焼粉を作製する仮焼工程と、前記仮焼粉を粉砕して比表面積が5m2/gを超える2次粉砕粉末を作製する2次粉砕工程と、前記2次粉末と有機結合剤を混合、造粒して得られる造粒体を成形して成形体を作製する成形工程と、前記成形体に含まれる有機結合剤を脱脂して炭素量300ppm以下の脱脂体を作製する脱脂工程と、前記脱脂体を焼成炉を用いて1050〜1300℃で焼成してRFID用フェライトコアを作製する焼成工程とを含むことから、脱脂体中の炭素が焼成中に酸素と反応して酸素欠陥などの格子欠陥を生成することが抑制され、機械的強度が向上し、焼結体中の炭素量が少なくなるため、焼結体の表面抵抗率を高くすることができ、コア損失を向上させることができる。
また、これらRFID用フェライトコアに導線を巻回したRFID用フェライトコイルは、小さく安定したコア損失、高くかつばらつきの小さい透磁率、高いキュリー温度を有するため、車両のタイヤの圧力センサーや温度センサーに用いられた際、振動や負荷がかかっても起動スイッチを正常に作動させることができる。
以下本発明について詳述する。
本発明のRFID用フェライトコアについて説明する。
図1(a)〜(d)は、本発明のRFID用フェライトコアの種々の実施形態を示す斜視図であり、本発明のRFID用フェライトコア14は、柱状、筒状、リング状、凹状、等のコア形状の酸化物焼結体からなる。例えば、図1(a)は高さ1mm×幅1.44mm×長さ11mmの柱状、図1(b)は外径2mm×内径1.47mm×長さ11mmの筒状、図1(c)は外径6.5mm×内径3mm×厚み2.5mmのリング状、また、図1(d)は高さ1mm×幅1.44mm×長さ8mmの胴部と、前記胴部の両端の各々に設けた1.2×1.7×長さ1.5mmの端部とからなり、胴部と端部とが一体的に焼結されている。
本発明のRFID用フェライトコア14は、金属元素として少なくともFeをFe2O3換算で48.6〜53.9mol%、NiをNiO換算で12.3〜35.2mol%、ZnをZnO換算で16.4〜37.0mol%含有し、NiFe2O4、ZnFe2O4およびFeFe2O4のうち2種以上の固溶体からなる結晶相を有する酸化物焼結体からなり、Cu−Kα線を用いたX線回折による回折角2θが34.6〜36.4°における前記結晶相の回折ピークの半値幅が0.4°以下であることを特徴とする。
これによって、小さく安定したコア損失、高く安定した透磁率、キュリー温度を有するRFID用フェライトコア14を得ることができる。
コア損失の低下を抑制するための1つの条件が、RFID用フェライトコア14の電気抵抗、特に表面抵抗率を高く保持することである。金属元素として少なくともFe、Ni及びZnを含有する酸化物焼結体からなり、FeをFe2O3換算で48.6〜53.9mol%、NiをNiO換算で12.3〜35.2mol%、ZnをZnO換算で16.4〜37.0mol%含有させることで、表面抵抗率100MΩ以上、透磁率200以上、キュリー温度120℃以上のフェライトコアを得ることができる。一方、Fe、Ni、Znがこの組成の範囲外となると、表面抵抗率を100MΩ以上に保持したまま、透磁率を200以上、キュリー温度を120℃以上にできない恐れがある。より好ましくは、Fe2O3換算での含有量の下限が49.7mol%、上限が51.9mol%、NiO換算での含有量の下限が14mol%、上限が33mol%、ZnO換算での含有量の下限が18mol%、上限が35mol%である。
また、NiFe2O4、ZnFe2O4およびFeFe2O4のうち2種以上の固溶体からなる結晶相を含み、Cu−Kα線を用いたX線回折による回折角2θが34.6〜36.4°にある結晶相の回折ピークの半値幅を2θで0.4°以下とすることにより、結晶構造を規則化することができるため、コア損失が小さく、透磁率が高く、且つそのばらつきを小さくすることができる。
ここで、図2に本発明のRFID用フェライトコア14のCu−Kα線によるX線回折パターンの一例を示す。図2は、NiFe2O4、ZnFe2O4およびFeFe2O4の固溶体からなるX線回折パターンである。このX線回折パターンで最もピーク強度が大きい、2θが34.6〜36.4°にあるピーク(P)の強度(ピーク(P)の先端部のピーク強度)をPIとするとき、PI/2のピーク強度の所に、横軸2θ方向に平行線を引き、この平行線がピーク(P)と交わる2つの交点間の距離が半値幅であり、この半値幅が0.4°以下である。
前記半値幅を0.4°以下とすることで、表面抵抗率を高いものとしてコア損失の小さなRFID用フェライトコア14とすることができる。前記スピネル型構造の結晶の結晶構造が規則化すると半値幅が小さくなる。結晶構造が規則化するということは、格子欠陥が少なく、結晶格子を構成する原子が規則的に配列し、結晶格子が規則的配列していることを意味する。このような結晶構造を有するRFID用フェライトコア14は、表面抵抗率が高くなり、コア損失を低くすることができる。また、このRFID用フェライトコア14に導線を巻回してフェライトコイルとし、このフェライトコイルに磁場を印加することによって誘導起電圧を発生させる場合、RFID用フェライトコア14のコア損失が小さい程、印加した磁場(電磁界エネルギー)の損失が少ないので、大きな誘導起電圧を有するフェライトコイルを得ることができる。コア損失を抑制するための方法が、フェライトコア14の表面抵抗率を高くすることである。表面抵抗率が高いとコア損失が低くなるのは、表面抵抗率を高くすると、RFID用フェライトコア14の電気的絶縁性が高まるので、渦電流の増加に伴って発生する、電磁界エネルギーの熱エネルギー等への変換によるエネルギーの損失が抑制されるためと考えられる。
一方、結晶中の格子欠陥が多いと、電荷のキャリアである電子、ホールが多数生成し、このキャリアが電気伝導を引き起こすため電気抵抗、特に表面抵抗率が低下する。また、結晶格子を構成する原子が規則的に配列していないと、個々の結晶格子が電気的中性を保つことができない。このため、個々の結晶が電気的中性を保とうとして、結晶格子間の間で電子やホールの授受が行われたり、酸素イオンがホッピングしたりすることによって、電気抵抗、特に表面抵抗率が低下する。格子欠陥の増加や結晶構造の不規則化が、電気抵抗の中でも特に表面抵抗率を低下させる理由は、RFID用フェライトコア14の表面では結晶格子が自由空間に面しているので、表面が電磁界エネルギーを受けると、表面においてキャリアが容易に移動するからと考えられる。
本発明のRFID用フェライトコア14は、その製造方法はその詳細を後述するように、出発原料粉末、仮焼前の原料粉末、仮焼後の粉末各々の比表面積を5m2/gよりも大きくし、脱脂体の炭素量を300ppm以下とし、1050〜1300℃で焼成することにより作製することができる。
より好ましくは、Feの含有量がFe2O3換算で49.7〜51.9mol%、Niの含有量がNiO換算で15〜20mol%、Znの含有量がZnO換算で30〜35mol%、結晶相としてNiFe2O4、ZnFe2O4およびFeFe2O4の固溶体を含有し、前記半値幅が0.3°以下である。
なお、Fe、Zn、Niの含有量はICP発光分光分析により測定することが、また、結晶相は、Cu−Kα線を用いたX線回折法により同定することができる。さらに、前記半値幅は、次の方法で測定することができる。
RFID用フェライトコア14の表面部を、Cu−Kα線を用いたX線回折法により測定する。このX線回折の結果得られる回折角2θが34.6〜36.4°における回折ピークは、ZnFe2O4、FeFe2O4およびNiFe2O4のうち2種以上が固溶した結晶相の回折ピークと見なすことができる。より具体的には、前記半値幅の測定対象となる回折ピークは、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カードNo.22−1012のZnFe2O4の(311)面、JCPDSカードNo.19−629のFeFe2O4の(311)面、およびJCPDSカードNo.10−325のNiFe2O4の(311)面の少なくとも2種以上が重なった回折ピークと考えられる。これらのJCPDSカードによれば、前記半値幅の測定対象となるピークの面間隔は2.51〜2.54Å程度であり、回折角2θはCu−Kα線を用いた場合、35.2〜35.6°程度である。半値幅は上述した方法、すなわち図2に示すように、最もピーク強度が大きい2θが34.6〜36.4°にあるピーク(P)の強度(ピーク(P)の先端部のピーク強度)をPIとするとき、PI/2のピーク強度のところに、横軸2θ方向に平行線を引き、この平行線がピーク(P)と交わる2つの交点間の距離を半値幅として求めることができる。
本発明において、前記固溶体の回折ピークの半値幅の測定対象を、回折角2θが34.6〜36.3°にある回折ピークとする理由は、X線回折装置の測定誤差などによって、前記固溶体の本来の回折角(35.2〜35.6°程度)と、実際の前記固溶体の回折角とが異なる場合があるからである。したがって、ZnFe2O4の(311)面、FeFe2O4の(311)面、NiFe2O4の(311)面のうち少なくとも2種が重なった回折ピークの回折角が34.6〜36.4°の範囲外でも、このピークの半値幅が0.4°以下であれば、このRFID用フェライトコアは、本発明のRFID用フェライトコア14の技術的思想の範囲に含まれる。
また、小さなコア損失、高くかつばらつきの小さい透磁率、高いキュリー温度を有するRFID用フェライトコアとするためには、平均結晶粒子径Dが1〜30μm、全結晶粒子数に対する0.5D〜3Dの範囲の結晶粒子数の割合が60%以上であることが好ましい。
特に、平均結晶粒子径Dが2〜15μm、全結晶粒子数に対する0.5D〜3Dの範囲の結晶粒子数の割合が60%以上であることがさらに好ましい。これにより、コア損失をさらに小さくでき、透磁率を200以上、キュリー温度を120℃以上に保持できるとともに、透磁率のばらつきを小さくすることができるので、RFID用フェライトコア14に導線を巻回して得られるフェライトコイル30に磁場を印加した際の誘導起電圧と感度を向上させることができる。これは、コア損失をさらに小さくするための1つの条件が磁壁移動を容易にすることである。結晶粒界は磁壁移動を阻害するので、結晶粒界が多いとコア損失が大きくなる。また、平均結晶粒子径Dが同じ場合でも、結晶粒子径のばらつきが大きいと透磁率のばらつきが大きくなる。平均結晶粒子径Dが2μm未満であると結晶粒界の面積が増加するため磁壁移動しにくくなり、コア損失を著しく小さくすることができない。平均結晶粒子径Dが15μmを超えると異常粒成長した粗大粒が増加してヒステリシス損失が増加するため、コア損失を著しく小さくすることができない。全結晶粒子数に対する0.5D〜3Dの範囲の結晶粒子数の割合が60%を超えると、異常粒成長した結晶が局所的に発生したり、結晶粒界の面積が増加したり、結晶粒子径のばらつきが大きくなるためコア損失を著しく小さくすることができず、また、透磁率のばらつきを小さくすることができない。より好ましくは、平均結晶粒子径Dの下限が3μm、上限が9μm、前記割合が85%以上であり、これによりコア損失を特に小さくし、透磁率のばらつきをさらに小さくすることができる。特に好ましくは、前記割合が92%以上であり、これにより透磁率のばらつきを特に小さくすることができる。
なお、このようなRFID用フェライトコア14の結晶粒子の大きさを上述の範囲に制御するための製造方法については後述する。
ここで、RFID用フェライトコア14の結晶粒子の大きさは例えば次のように測定する。RFID用フェライトコア14の表面を走査型電子顕微鏡で観察して結晶写真を撮り、各々の結晶粒子の内接円と外接円の直径の平均値を求めて各々の結晶粒子径とする。各々の結晶粒子径を平均して平均結晶粒子径D、および全結晶粒子数に対する0.5D〜3Dの範囲の結晶粒子の数の割合を求める。また、結晶粒子の境界が不鮮明なため結晶粒子径が明確に測定できない場合は、化学的エッチングまたは熱処理によるエッチングによって粒界相を表面から除去後に結晶粒子径を測定しても良い。ただし、結晶粒子径の測定において、結晶粒子径が0.2μm以下の結晶粒子は、透磁率に及ぼす影響が小さく、また測定も困難のため結晶粒子径の計算の対象外とする。
また、本発明のRFID用フェライトコア14は、前記酸化物焼結体100質量部に対して、CuをCuO換算で9質量部以下含有することが好ましい。CuOを含有させることにより、Cuが前記固溶体にさらに固溶し、これによって電気的にさらに安定な結晶相が生成するので、表面抵抗率を高くでき、コア損失を小さくすることができる。また。Cuは粒成長抑制効果もあるためCuをCuO換算で9質量部以下含有させることにより、0.5D〜3Dの範囲の結晶粒子を特に95%以上に向上させることができ、透磁率のばらつきを特に低減させることができる。CuをCuO換算で9質量部を越えて含有させると、RFID用フェライトコア14の表面抵抗率を著しく向上できないため好ましくない。特に、CuO換算での含有量の下限は3.7質量部、上限は7.9質量部であることが好ましい。
また、前記RFID用フェライトコア14が、前記酸化物焼結体100質量部に対して、CuをCuO換算で9質量部以下含有する場合、前記酸化物焼結体100質量部に対してZrをZrO2換算で0.001〜0.6質量部含有し、前記Zrが酸化物焼結体中に均一に分散し、焼結体中の粒界相の厚みが20nm以下であることにより、機械的強度を向上できると共に、コア損失をさらに小さくできるため好ましい。ZrをZrO2換算で0.001〜0.6質量部含有するのは、0.001質量部未満では、機械的強度を著しく向上させることができないからであり、0.6質量部を超えると電気抵抗を著しく大きくすることができないのでコア損失を著しく小さくできないからである。ZrをZrO2換算で0.001〜0.6質量部含有させると、機械的強度を著しく向上させると共に、コア損失を小さくすることができる。また、前記Zrを前記酸化物焼結体中に均一に分散させることによって、磁壁が移動するためのポテンシャルエネルギーを小さすることができ、その結果磁壁が容易に移動できるので、ヒステリシス損失が小さくなり、コア損失を小さくすることができる。また、前記粒界相が20nmを超えると、磁壁が移動するためのポテンシャルエネルギーをさらに小さくすることができるので、コア損失を著しく小さくすることができる。
ここで、粒界相の厚みとは、結晶間の粒界の厚みのことであり、焼結体中の粒界の厚みの最大値を示すものであり、透過電子顕微鏡(TEM)を用い、例えば倍率50000倍で任意の10箇所を測定し、その最大値を粒界相の厚みとして求めればよい。
さらに、コア損失が著しく小さいフェライトRFID用フェライトコアを得るためには、ZrO2換算でのZrの含有量の下限は0.01質量部、上限は0.4質量部が望ましい。
なお、Zrが焼結体中に均一に分散している状態とは、焼結体の面中の任意のエリア、例えば3.7μm×2.8μmの長方形を10エリア選択し、エネルギー分散型X線マイクロアナライザーを用いて、各エリア毎に電子ビームを10ポイント照射し、すべてのエリアでZrが8ポイント以上検出される状態を言う。
さらに、RFID用フェライトコア14の表面における平均結晶粒子径と内部の平均結晶粒子径との差が10μm以下とすることが好ましい。これにより、表面と内部との結晶粒子径の違いによって発生する結晶粒子間の応力テンソルを小さくすることができるため、RFID用フェライトコア14の内部応力を低減させることができるため、より機械的強度が高く、車両のタイヤ等に装着しても割れたり、欠けたりしにくいRFID用フェライトコア14を得ることができる。より好ましくは、表面における平均結晶粒子径と中心部の平均結晶粒子径との差が5μm以下である。
前記平均結晶粒子径の差は例えば次のように測定する。RFID用フェライトコア14の内部を鏡面研磨した面と、表面とを、各々走査電子顕微鏡により観察し、内部(中心部)と表面の平均結晶粒子径の差を求める。ここで、内部(中心部)の平均結晶粒子径の測定位置は、RFID用フェライトコアの肉厚方向のほぼ中心とする。なお、平均結晶粒子径の差の測定においても結晶粒子径が0.2μm以下の結晶は、透磁率に与える影響が小さく、測定も困難であるので平均結晶粒子径の差の計算の対象外とする。
また、本発明のRFID用フェライトコア14は、透磁率が400以上であることが好ましく、大きな誘導起電圧と感度を得ることができる。特に、透磁率が500以上であることが好ましい。
なお、この透磁率は、外径130mm、内径80mm、厚み3mmのトロイダルリングに線径0.2mmの被膜導線を全周にわたって均一に7回巻回し、LCRメータにおいて周波数100KHzで測定する。
また、本発明のRFID用フェライトコア14は、−50〜150℃の透磁率の相対温度係数が−2×10−6〜2×10−6/℃であることが好ましい。これにより、特に−50〜150℃の範囲で温度が変化しても大きな誘導起電圧と感度が安定したフェライトコイルを得ることができる。
なお、この相対温度係数は、外径130mm、内径80mm、厚み3mmのトロイダルリングに線径0.2mmの被膜導線を全周にわたって均一に7回巻回し、LCRメータに接続された恒温槽内の測定治具に接続した後、100kHzで測定され、基準温度を20℃とし−50〜150℃の透磁率を測定して算出するものであり、−50℃での透磁率をμ−50、150℃での透磁率をμ150とする時、基準温度を150℃とした−50〜150℃の相対温度係数(1/℃)は、(μ−50−μ150)/(μ150 2×(−50−150))により求められる。
また、本発明のRFID用フェライトコア14は、密度が5.0g/cm3以上であることが好ましい。これにより、さらに機械的強度に優れ、誘導起電圧の大きなフェライトコアを得ることができる。RFID用フェライトコア14は、後述するように導線22を巻回してフェライトコイルとした場合、所望によりRFID用フェライトコア14に導線22を巻回してから樹脂で封止する。この樹脂封止の際に、RFID用フェライトコア14の密度が5.0g/cm3未満であるとRFID用フェライトコア14内部に樹脂封止した樹脂が浸透し易いため、誘導起電圧を著しく向上させることができないからである。また、密度が5.0g/cm3未満では機械的強度を著しく向上させることができない。特に、密度が5.2g/cm3以上であることが好ましい。なお、密度はアルキメデス法にて見掛け密度を測定する。
また、本発明のRFID用フェライトコア14は、3点曲げ強度が140MPa以上であることが好ましい。これにより、自動車のタイヤに内蔵されるフェライトコイル30に機械的振動が負荷された場合の機械的信頼性をさらに向上させることができるからである。特に、3点曲げ強度が160MPa以上であることが好ましい。
なお、この3点曲げ強度は、JIS R1601にて測定するか、もしくは幅W(mm)、厚さT(mm)の角柱試料を支点距離L(mm)で支持し、支点距離L(mm)の長手方向の中心にクロスヘッド速度0.5mm/分で荷重を加え、試料が破壊したときの最大荷重P(N)を測定し、3PL/2WT2により求める。
また、本発明のRFID用フェライトコア14は、1mm2当たり50MPaの圧縮応力下におけるインダクタンスの変化率が±10%以内であることが好ましい。これにより、樹脂封止したフェライトコイル30に一定の磁場を印加した場合、誘導起電圧のばらつきを特に低減できる。インダクタンスLの変化率が±10%を越えると、透磁率が変化するため、誘導起電圧のばらつきを著しく低減させることができないからである。特に、インダクタンスLの変化率が±2%以内であることが好ましい。
なお、このインダクタンスの変化率は、例えば幅3mm、厚み3mm、長さ15mmの角柱試料を固定台に固定し、フリーの面に対してプッシュプルゲージにて一軸加圧を掛け荷重毎にインダクタンスを測定し変化率を算出する。
また、本発明のRFID用フェライトコア14のIF法(indentation−fracture method)による破壊靱性値を0.8MPa・m1/2以上とすることにより、特に機械的信頼性を向上させることができる。IF法とは、測定対象物の表面にビッカース圧痕を導入することで発生する圧痕および亀裂の長さから破壊靱性値を測定する方法である。IF法による破壊靱性値を0.8MPa・m1/2以上とすることにより、機械的信頼性が向上する理由は次の通りである。
RFID用フェライトコア14を車両のタイヤに装着してタイヤ内の圧力な温度を測定する場合、RFID用フェライトコア14には機械的振動が非常に長時間に負荷される。この機械的振動によって、RFID用フェライトコア14にクラックが入ったり、割れたりしないためには、少なくともIF法による破壊靱性が0.8MPa・m1/2以上必要なためである。
上述のRFID用フェライトコア14のコア損失、表面抵抗率は次のように測定する。
コア損失は、フェライト焼結体をトロイダルコア1とし、トロイダルコア1に、図3に示すように線径0.2mmの被膜銅線を用いて一次側巻き線3を10ターン、二次側巻き線4を10ターン巻き付けて、一次側巻き線3に電源5を、二次側巻き線4に磁束計6をそれぞれ接続し、50kHz、150mTの条件でコア損失を測定する。
表面抵抗率はフェライトコアの左右両端に端子を接触させて25℃での表面抵抗率を測定するか、またはJIS C2141の規格に準拠して測定する。
次いで、本発明のRFID用フェライトコア14の製造方法について説明する。
本発明のRFID用フェライトコアの製造方法は、少なくともFe酸化物からなる粉末、Ni酸化物からなる粉末およびZn酸化物からなる粉末を含有し、前記Fe酸化物の含有量がFe2O3換算で48.6〜53.9mol%、前記Ni酸化物の含有量がNiO換算で12.3〜35.2mol%、前記Zn酸化物の含有量がZnO換算で16.4〜37.0mol%であり、前記Fe酸化物、Ni酸化物、Zn酸化物のうち少なくとも1種の比表面積が5m2/gを超える粉末を混合、粉砕して、比表面積が5m2/gを超える1次粉砕粉末を作製する1次粉砕工程と、前記1次粉砕粉末を仮焼して仮焼粉を作製する仮焼工程と、前記仮焼粉を粉砕して比表面積が5m2/gを超える2次粉砕粉末を作製する2次粉砕工程と、前記2次粉砕粉末と有機結合剤を混合、造粒して得られる造粒体を成形して成形体を作製する成形工程と、前記成形体に含まれる有機結合剤を脱脂して炭素量300ppm以下の脱脂体を作製する脱脂工程と、前記脱脂体を焼成炉を用いて1050〜1300℃で焼成して焼結体からなるRFID用フェライトコアを作製する焼成工程とを含む。本発明のRFID用フェライトコア14の製造方法は、具体的には次の通りである。
先ず、1次粉砕工程として、少なくともFe酸化物からなる粉末、Ni酸化物からなる粉末およびZn酸化物からなる粉末を含有し、Fe酸化物の含有量がFe2O3換算で48.6〜53.9mol%、Ni酸化物の含有量がNiO換算で12.3〜35.2mol%、Zn酸化物の含有量がZnO換算で16.4〜37.0mol%であり、Fe酸化物、Ni酸化物、Zn酸化物のうち少なくとも1種の比表面積が5m2/gを超える粉末を混合、粉砕して、比表面積が5m2/gを超える1次粉砕粉末を作製する。
各金属酸化物の粉末を上述の範囲とすることにより、表面抵抗率、透磁率、キュリー温度を高いものとすることができる。また、振動ミル等で混合粉砕を行い、比表面積が5m2/gを超える1次粉砕粉末Aを作製することによって、数ナノメーター〜数十ナノメーターの領域で均一に混合・分散し、比表面積が5m2/gを超える1次粉砕粉末を得ることができるため、得られる焼結体に含まれる前記スピネル型構造の結晶の規則化を促進させて、前記半値幅の小さな焼結体とすることができる。より好ましくは、1次粉砕粉末Aが1μm以上の粒径の粒子を5体積%以下含有する。なお、Fe2O3、ZnO、NiOの粉体の比表面積はBET法により測定する。
また、上述の範囲でCuOを出発原料もしくは仮焼粉100質量部に対して9質量部以下添加することにより、焼結性を向上させることができる。
次いで、仮焼工程および2次粉砕工程として、前記1次粉砕粉末を仮焼して仮焼粉を作製する仮焼工程と、前記仮焼粉を粉砕して比表面積が5m2/gを超える2次粉砕粉末を作製する2次粉砕工程を経る。
仮焼工程によって前記1次粉砕粉末に含まれるFe酸化物からなる粉末、Ni酸化物からなる粉末およびZn酸化物を十分に化学的に反応させることができるため、前記スピネル型構造の結晶を主結晶とする粉末を含む仮焼粉を作製できる。また、2次粉砕工程によって、第1に2次粉砕粉末の焼結活性を向上させ、得られる焼結体の結晶粒子径ばらつきを低減できる。第2にスピネル型構造以外の酸化物(例えばNiO、Fe2O3)の含有量が低減して、焼結体中の局所的な組成の不均一が抑制されるので、焼結体中の結晶のほとんどを、結晶構造が規則化したスピネル型構造の結晶相を有する結晶とすることができる。これによって、前記半値幅が小さな焼結体を作製することができ、この焼結体からなるRFID用フェライトコア14は、コア損失が小さく、透磁率が大きくなる。
具体的には、得られた1次粉砕粉末を250℃/時間以下で昇温し、700〜900℃で2〜10時間保持した後、100℃/時間以下で降温して仮焼し、得られた仮焼粉と水とを混合しボールミルで湿式粉砕し、2次スラリーを作製する。この2次スラリーに含まれる2次粉砕粉末Bの比表面積は5m2/gを超える値とする。なお、2次スラリー中に含まれる2次粉砕粉末の比表面積は、2次スラリーを乾燥後にBET法により測定する。
Zrを焼結体中に均一に分散させる方法は次の通りである。Fe酸化物からなる粉末、Ni酸化物からなる粉末、Zn酸化物からなる粉末およびCuO粉末と、平均粒径が0.4μm以下のZrの酸化物とを前述した組成範囲になるように調合する。次いで比表面積が5m2/gを超える1次粉砕粉末となるまでボールミルやビーズミル等で粉砕混合してZrを均一に分散した後、上記の条件で仮焼する。ここで、平均粒径が0.4μmを超えるZrの酸化物を用いると、Zrが均一に分散した焼結体が得られない。
1次粉砕粉末、2次粉砕粉末の比表面積が5m2/gを超えることで、Feを主成分としたスピネル構造のフェライト結晶(NiFe2O4、ZnFe2O4およびFeFe2O4のうち2種以上の固溶体)の結晶化が促進され、スピネル構造以外の酸化物(例えばNiO、Fe2O3)の含有量が低減して局所的な組成の不均一状態がなくなる。その結果、スピネル型構造の結晶の組成が定比組成から大きくずれることが抑制されるので、前記固溶体の結晶構造が規則化して前記半値幅が小さくなって透磁率が向上し、かつ結晶粒子径が上述の範囲に制御されたRFID用フェライトコア14を得ることができる。
また、仮焼条件として、昇温速度を250℃/時間以下で昇温し、700〜900℃で2〜10時間保持することで、焼結性の高い比表面積の大きな粉末を用いて、さらにスピネル構造のフェライト結晶へ結晶化を促進させ、透磁率を高めることができる。特に、仮焼条件を昇温速度を150℃/時間以下で昇温することにより透磁率を400以上にすることができる。
また、粒界相の厚みを20nm以下とするには、上述の仮焼における昇温速度を20℃/時間以下にする。これは、スピネル型構造のフェライト結晶の結晶化が開始する温度から完全に終了する温度までの昇温速度を特に遅くすることで、例えばCuOやNiOからなる粒界相の生成を抑制し、粒界相の厚みを20nm以下と薄くすることができるからである。
また、仮焼前の粉末の比表面積を6m2/g以上とし、1μm以上の粒径の粒子を4体積%以下とすることによって、得られるRFID用コア14の密度を5.0g/cm3以上とすることができる。
そして、成形工程として、前記2次粉砕粉末と有機結合剤を混合、造粒して得られる造粒体を成形して成形体を作製する。
具体的には、2次スラリーと、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール重合体等の有機結合剤とを混合し、得られた造粒用スラリーを噴霧乾燥法等の方法で造粒し、得られた造粒体をRFID用フェライトコア14の前駆体である所定形状、例えば柱状、筒状もしくはリング状に成形して成形体を作製する。
また、成形体の相対密度を50%以上となるように成形することにより、1mm2当たり50MPaの圧縮応力におけるインダクタンスの変化率を±10%以内とすることができる。
その後、脱脂工程として、成形体に含まれる有機結合剤を脱脂して炭素量300ppm以下の脱脂体を作製する。脱脂体中の炭素が焼成中に酸素と反応して酸素欠陥などの格子欠陥を生成することが抑制されるため、機械的強度が向上する。また、得られる焼結体中の炭素量を少なくすることができ、焼結体の表面抵抗率を高くすることができ、コア損失を小さくすることができる。
最後に、焼成工程として、脱脂体を焼成炉を用いて1050〜1300℃で焼成して焼結体からなるRFID用フェライトコアを作製する。
焼成温度を1050℃以上とすることにより、1050℃付近でフェライト成形体の焼成収縮がほぼ終了し、その後、前記固溶体を主結晶相とする結晶の粒成長および結晶構造の規則化が始まる。このため、結晶粒成長および結晶規則化が促進される温度である1050〜1300℃での焼成時間を制御することにより、得られる焼結体中の前記固溶体の結晶構造が規則化すると共に、平均結晶粒子径Dが2〜15μm、全結晶粒子数に対する0.5D〜3Dの範囲の結晶粒子数の割合が60%以上とすることができ、その結果透磁率を大きく制御できる。
さらに、焼成条件において1200〜1300℃で2〜5時間保持することにより、−50〜150℃における透磁率の相対温度係数を−2×10−6〜2×10−6/℃の範囲に制御できる。
また、昇温速度を50〜100℃/時間で昇温し、1050〜1300℃で1〜10時間保持後、降温速度200℃/時間以下で降温することにより、焼結体の表面から内部までを均一に焼結・粒成長させることができるのみならず、降温時に焼結体の格子歪を緩和させることができるので内部応力が特に減少し、これにより3点曲げ強度が140MPa以上のRFID用フェライトコア14を製造することができる。
さらに、750〜1050℃を50〜200℃/時間で昇温するのは、この昇温の間にフェライト成形体の焼成収縮が概ね終了するため、この間の昇温速度を制御することにより、械的強度を向上させることが可能となるからである。特に50〜100℃/時間で昇温した焼成条件とすることにより、焼結体の表面から内部までを均一に焼結・粒成長させることができるので、RFID用フェライトコア14の表面における平均結晶粒子径と内部の平均結晶粒子径との差が10μm以下の前記RFID用フェライトコアとすることができる。これにより、内部応力が少なく、機械的強度に優れたRFID用フェライトコア14を製造することができる。
上述の製造方法によって得られたRFID用コア14は、小さく安定したコア損失、高くかつばらつきの小さい透磁率、高いキュリー温度を有するフェライトコアを製造することができ、その理由は次の通りである。
上述の製造方法により、Cu−Kα線を用いたX線回折による回折角2θが34.6〜36.4°における前記結晶相の回折ピークの半値幅が0.4°以下であるRFID用フェライトコア14を製造することができる。また、キュリー温度が120℃以上と高く、透磁率が200以上でばらつきが小さいものとなる。
このようにして得られたRFID用フェライトコア14を用いてフェライトコイルを作製するには、図4(a)〜(d)に示すように、例えば銅線の外周表面に絶縁層としてエナメルや樹脂をコーティングした線径が0.02〜0.2mmの導線22を巻回することによって得られる。誘導起電圧を大きくするためには、導線22はRFID用フェライトコア14に例えば左から右へ右から左へ折り返す様にRFID用フェライトコア14から大きくはみ出ないように巻回するか、もしくは導線22間に隙間がないように密に巻回するのが好ましい。
また、本発明のRFID用フェライトコイル30は、磁場を印加することにより誘導起電圧を発生させた際に、その誘導起電圧を磁場で割ることにより求められる導線22の1巻当たりの感度を、さらに前記フェライトコアの前記導線が巻かれた部分の断面積で割った値Sが1mV/(μT・mm2)以上であるものである。この理由は、前記値Sが1mV/(μT・mm2)未満では、例えば車両のタイヤの圧力センサーや温度センサーの起動スイッチを正常に作動させることができないからである。好ましくは前記値Sが2mV/(μT・mm2)以上である。また、図4(b)のようにRFID用フェライトコア14が筒状の場合、前記断面積はフェライトコアの空洞部を除いて計算する。また、図4に示すように、本発明のフェライトコイル30は、例えばRFID用フェライトコア14(図4(a)では例えば1.2mm×1.2mm×20mm)の長手方向の外周に導線を巻回して作製される。
また、このRFID用フェライトコイル30を車両のタイヤの空気圧や温度の報知、キーレスエントリー等のRFID用装置や部材に搭載するためには、図4に示すようなフェライトコイル30の導線22の端部を圧力センサー、温度センサー、キー内の送信アンテナ等へ繋げ、誘導起電圧がタイヤの圧力や温度、車両のドアの施開錠をするためのトリガーとする。
本発明のフェライトコイル30の誘導起電圧および感度は例えば次のように測定する。幅1.44mm、厚み1mm、長さ11mmの角柱RFID用フェライトコア14の長手方向の中心から左右に各4mmずつの幅計8mmの部分に線径0.2mmの導線を34回巻回した後、150〜200mm長さの測定用導線22をRFID用フェライトコア14の両端から引き出してフェライトコイル30とする。このフェライトコイル30を100〜130kHz程度のパルスジェネレーターに接続されたヘルムホルツコイルの中心に置いて、ヘルムホルツコイルに一定磁界を発生させ、フェライトコイル30の両端の導線22をオシロスコープに接続して、このオシロスコープにより角柱RFID用フェライトコア14に誘起した誘導起電圧を測定する。感度は、この誘導起電圧を印加した磁場の強さで割ることにより求められる。
出発原料として、BET法による比表面積が5.5m2/gのFe2O3、BET法による比表面積が1〜2m2/gのZnO、NiOおよびCuO、平均粒径が0.3μmのZrO2の各粉体からなる原料粉体を振動ミルで混合粉砕をした。得られた粉体A1を表1に示す条件で仮焼し、得られた仮焼粉と純水とを混合しボールミルで湿式粉砕を行った。仮焼粉の粉砕により得られた粉体B1の比表面積は表2の通りとなった。粉体B1にバインダーとしてポリビニルアルコールを粉体B1100質量部に対して3質量部添加して噴霧乾燥法により造粒し、得られた造粒体を金型でプレス成形して柱状、筒状もしくはリング状の所定形状に成形した。得られた成形体を表2に示す温度で3時間保持して脱脂し、750〜1050℃を表2に示す昇温速度で昇温した後、さらに表2に示すような保持条件、降温速度で焼成し、RFID用フェライトコア14である試料No.1〜12を作製した。得られた試料の組成は、表1に示す通りである。なお、成形体の相対密度は、(成形体密度/理論密度)×100(%)により求めた。脱脂体の炭素量は、炭素分析装置(堀場製作所製EMIA−511型)を用いて測定した。
得られた試料をCu−Kα線を用いたX線回折法により、回折角2θが34.6〜36.4°における結晶相の回折ピークの半値幅を測定した。このピークはJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カードNo.22−1012のZnFe2O4、同No.19−629のFeFe2O4および同No.10−325のNiFe2O4の固溶体であった。半値幅は、具体的には、図1に示すようにX線回折の結果、最もピーク強度が大きい2θが34.6〜36.4°にあるピーク(P)の強度(ピーク(P)の先端部のピーク強度)をPIとするとき、PI/2のピーク強度のところに、横軸2θ方向に平行線を引き、この平行線がピーク(P)と交わる2つの交点間の距離を半値幅として求めた。
試料の結晶粒子の大きさは次のように測定した。試料の表面を走査型電子顕微鏡(日立製作所製S−800)で観察して結晶写真を撮り、各々の結晶粒子の内接円と外接円の直径の平均値を求めて各々の結晶粒子径とした。各々の結晶粒子径を平均して平均結晶粒子径D、および全結晶粒子数に対する0.5D〜3Dの範囲の結晶粒子の数の割合を求めた。ただし、結晶粒子径の測定において、結晶粒子径が0.2μm以下の結晶粒子は、透磁率に及ぼす影響が小さかったため結晶粒子径の計算の対象外とした。
試料の表面と内部の平均結晶粒子径の差ΔDは次のように測定した。試料内部を鏡面研磨した面を熱処理によりエッチングして結晶の形が見えるようにした面と、表面とを、各々走査電子顕微鏡(日立製作所製S−800)により観察し、内部と表面の平均結晶粒子径の差(表面の平均結晶粒子径から内部の平均結晶粒子径を引いた値)を求めた。なお、平均結晶粒子径の差の測定においても結晶粒子径が0.2μm以下の結晶は、透磁率に与える影響が小さかったため平均結晶粒子径の差の計算の対象外とした。
粒界相の厚みは、透過電子顕微鏡(TEM)を用い、倍率100000倍で任意の10箇所を測定し、その最大値を粒界相の厚みとして求めた。
Zrの分散性については、焼結体中任意のエリア3.7μm×2.8μmを10エリア選択し、エネルギー分散型X線マイクロアナライザーにより、各エリア毎に電子ビームを10ポイント、全エリアで合計100ポイント照射し、Zrが検出されたポイントを表1に比率で示した。ここでは、その比率が80%以上のものを均一に分散しているものとし、80%未満のものを均一には分散していないものとした。
試料のコア損失は、フェライト焼結体をトロイダルコア1とし、トロイダルコア1に図3に示すように線径0.2mmの被膜銅線を用いて一次側巻き線3を10ターン、二次側巻き線4を10ターン巻き付けて、一次側巻き線3に電源5を、二次側巻き線4に磁束計6をそれぞれ接続し、50kHz、150mT、80℃の条件で測定した。
さらに、試料の各特性を次のように測定した。透磁率は、各試料No.の試料をそれぞれ30個作製し、外径13mm、内径8mm、厚み3mmのトロイダルリングに線径0.2mmの被膜導線を全周にわたって均一に7回巻回し、LCRメータにおいて周波数100KHzで測定し、30個の平均値を求めた。相対温度係数は、外径13mm、内径8mm、厚み3mmのトロイダルリングに線径0.2mmの被膜導線を全周にわたって均一に7回巻回し、LCRメータに接続された恒温槽内の測定治具に接続した後、基準温度を150℃とし−50〜150℃の透磁率を測定して算出した。密度はアルキメデス法にて見掛け密度を測定した。また、表面抵抗率は外径10mm、厚み3mmのフェライトコアの左右両端に端子を接触させて25℃での表面抵抗率を測定した。インダクタンスの変化率は、幅3mm、厚み3mm、長さ15mmの角柱試料を固定台に固定し、フリーの面に対してプッシュプルゲージにて一軸加圧を掛け荷重毎にインダクタンスを測定し変化率を算出した。3点曲げ強度はJIS R1601に従って測定した。IF法による破壊靱性値を破壊靱性値はJIS R1607−1995に準拠して測定した。
また、試料No.1〜12のRFID用フェライトコア14の各々について、RFID用フェライトコア14を各30個作製し、これらの30個の試料の透磁率の最大値と最小値の差を求めた。
フェライトコイル14の誘導起電圧および感度は次の様に測定した。幅1.44mm、厚み1.0mm、長さ11mmの角柱RFID用フェライトコア14の長手方向の中心から左右に各4mmずつの幅計8mmの部分に線径0.2mmの導線を34回巻回した後、150〜200mmの測定用の導線22をフェライトコアの長手方向の両端から引き出しフェライトコイルとした。このフェライトコイル30を120kHzのパルスジェネレーターに接続されたヘルムホルツコイルの中心に置いて、ヘルムホルツコイルに一定磁界を発生させ、フェライトコイル30の両端の導線22をオシロスコープに接続して、このオシロスコープにより角柱RFID用フェライトコア14に誘起した誘導起電圧を測定した。導線22の一巻き当たりの感度は、この誘導起電圧を印加した磁場の強さで割り、さらに巻線回数で割ることにより求めた。
結果は、表3、4に示す通りである。この結果より、本発明のRFID用フェライトコア14は、コア損失が250kW/m3以下、キュリー温度が120℃以上、30個の平均透磁率が200以上となった。特に試料No.2〜5、7〜12は平均透磁率が400以上と高くなった。また、透磁率の最大値と最小値の差Δμが4以下と小さくなった。また、試料No.1〜11は−50〜150℃の相対温度係数が−2×10−6〜2×10−6/℃と絶対値が小さくなった。また、本発明の試料No.1〜12は密度が5.2g/cm3以上と大きく、3点曲げ強度が140MPa以上と大きく、インダクタンスの変化率が±10%以内と小さくなった。また、試料No.1〜12の試料の透磁率の最大値と最小値の差が4以下と小さくなった。また、試料No.7〜10は、曲げ強度が170MPa以上と特に大きくなった。
また、表4に示すように、本発明のフェライトコアを用いて作製した試料No.1〜12のフェライトコイル30は、誘導起電圧が20mV以上となった。また、発生した誘導起電圧を印加した磁場の強さで割った導線一巻き当たりの感度を、さらにフェライトコアの断面積で割った値S1は、1mV/(μT・mm2)以上となった。
次に、比較例として次の試料を作製し、実施例と同様に評価した。第1に、Fe2O3、NiOおよびZnO換算でのFe、NiおよびNiの含有量が本発明の範囲外の試料No.16〜20を作製した。第2に、半値幅が本発明の範囲外である試料No.13〜15のフェライトコアを、粉体A1の比表面積を5m2/g以下または粉体B1の比表面積を5m2/g以下として作製した。これらの比較例の試料の作製条件は、表1、2に示した以外は実施例と同様である。
その結果、比較例である試料No.13〜20のフェライトコアは、コア損失が300kW/m3よりも大きくなったり、平均透磁率が200未満となったり、キュリー温度が120℃未満となったりした。また、透磁率の最大値と最小値の差が20以上と大きくなった。また、試料No.19のように−50〜150℃の相対温度係数が32×10−6/℃と大きかったり、試料No.16のように密度が5.0g/cm3未満となったり、試料No.13、14、20のように3点曲げ強度が140MPa未満となったり、試料No.16、17のようにインダクタンスの変化率が±10%の範囲外となった。また、比較例のフェライトコアに導線を巻回してフェライトコイルを作製し、実施例と同様にして誘導起電圧と感度を測定したところ、表2の試料No.13〜20のフェライトコイルのように誘導起電圧が20mV未満となったり、S1が1mV/(μT・mm2)未満と小さくなったりした。
さらに、比較例として、特許文献8の組成のNi−Zn系フェライトコア(Fe
2O
3を48.0〜50.0mol%、NiOを14.0〜24.0mol%、ZnOを28.0〜36.0mol%含有する組成)からなる試料を次のように作製した。出発原料として各々の比表面積が1〜2m
2/gのFe
2O
3、ZnO、NiOの粉体を振動ミルで混合粉砕をした。得られた粉体を1000℃で2時間保持して仮焼し、得られた仮焼粉と純水とを混合しボールミルで湿式粉砕した。粉砕後の仮焼粉の比表面積は1〜2m
2/gとなった。粉砕後得られた粉に実施例と同様にバインダーを添加して噴霧乾燥法により造粒し、得られた造粒体を金型でプレス成形して所定形状に成形した。得られた成形体を750〜1050℃を300℃/時間で昇温し、さらに1150℃で3時間保持して焼成した。その結果、平均結晶粒子径Zが3〜30μm、全結晶粒子数に対する0.5Z〜3Zの範囲の結晶粒子数の割合が50%以下となった。この試料は透磁率が200未満であったり、同じ組成でも透磁率の最大値と最小値の差が20を越えたりしていた。